JP5353642B2 - 熱処理用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
自動車に広く使用される薄鋼板は、鋼板の高強度化にともなってプレス成形性が低下することから、上記鋼材の高強度化にともなって、複雑な形状の製品を製造することが困難になってきている。
ここで、プレス成形ではなくロール成形によれば高強度の鋼板についてもある程度加工が可能になる。しかし、長手方向に一様な断面を有する部品にしか適用できないという制約があり、部材形状の自由度が著しく制限される。
また、特許文献3には、SiやAlを鋼板中に多量に含有させることにより、オーステナイト域への加熱時にスケール生成を抑制できる、あるいはスケールが生成しても熱間プレス加工時に容易にスケールを剥離できるとされる熱間プレス加工用鋼板が開示されている。
したがって、熱間プレスに供される熱間プレス用鋼板の表面には、熱間プレス用鋼板をオーステナイト域まで加熱することによりスケールが生成する。このスケールが厚いと、スケールの鋼板への密着性が低下し、熱間プレス時に容易に剥離してしまい、鋼板表面に押し込まれてスケール押し込み疵を生じさせたり、鋼板表面におけるかじりを誘発してかじり疵を生じさせたりする。また、剥離したスケールがプレス金型に堆積して、金型汚染を引き起こす場合がある。さらにまた、スケール剥離を起こさない場合であっても、熱間プレス後に施すショットブラスト等のスケール除去作業に要するコストの増加を招いたりする。
しかしながら、特許文献3に開示された熱間プレス用鋼板は単にSiやAlを多量に含有させたものであるため、熱間プレスに供する際のオーステナイト域への加熱温度が著しく高温となる。このため、熱間プレスの生産性の低下を招いたり、加熱が不十分となって熱間プレス後において目的とする強度が得られなかったりする。さらに、SiやAlを多量に含有させたものであるため、SiやAlの酸化物が鋼中に多量に形成されてしまい、熱間プレスにより得られる鋼材(以下、「熱間プレス鋼材」ともいう。)は靭性に劣る。
(ア)SiおよびAlは、Feよりも酸化しやすい元素であり、鋼板表面にFe2SiO4、FeAl2O4を形成し、その上方に生成するFeO、Fe3O4やFe2O3の生成を抑制する作用を有する。したがって、熱処理の高温加熱時におけるスケール生成を抑制するには、SiおよびAlの含有量を高めることが有効である。
(1)質量%で、C:0.05%以上0.5%以下、Si:0.02%以上0.5%未満、Mn:0.5%以上5.0%以下、P:0.5%以下、S:0.03%以下、Al:0.002%以上0.5%未満、N:0.01%以下およびCr:0.02%以上2.0%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するとともに、下記式(i)および(ii)を満足する濃度分布を有することを特徴とする熱処理用鋼板。
Mnmax/Mnmin≦1.6 (ii)
ここで、(Si+Al+Cr)sは鋼板表面から200nm深さ位置までの表層部におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、(Si+Al+Cr)bは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、Mnmaxは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最大値を、Mnminは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最小値を、それぞれ示す。
(3)前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Mo:2.0%以下、B:0.01%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下およびW:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする上記(1)または(2)に記載の熱処理用鋼板。
(H1)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.2℃/秒以上として冷却するとともに、溶鋼が完全凝固する前に中心偏析低減処理を施してスラブとする連続鋳造工程;
(H2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(H3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;および
(H4)前記酸洗鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。
(C1)上記(1)から(4)のいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.2℃/秒以上として冷却するとともに、溶鋼が完全凝固する前に中心偏析低減処理を施してスラブとする連続鋳造工程;
(C2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(C3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C4)前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(C5)前記冷延鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。
本発明に係る鋼の化学組成について説明する。なお、本明細書において、鋼の化学組成を規定する「%」は質量%を意味する。
熱処理の一態様である熱間成形は、成形に供する鋼材を加熱することで軟質化させ、成形性を向上させることを目的とするものであるが、熱間成形の一態様である熱間プレスにおいては、プレス金型等で急冷して鋼材を焼き入れすることでより高強度の鋼材を得ることができる。また、熱処理の一態様である高周波焼入れは、高周波加熱を行った鋼材を急冷して焼き入れすることでより高強度の鋼材を得るものである。
Siは、焼入れ性を高める作用を有し、さらに、焼入れ後の鋼材の強度を安定して確保するのに非常に有効な元素である。また、熱処理の高温加熱時におけるスケール生成を抑制する作用を有する。Si含有量が0.02%未満では、上記作用による効果を十分に得られない場合がある。したがって、Si含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.1%以上である。一方、Si含有量が0.5%以上では、鋼中に生成する酸化物が多量となり靭性の劣化が著しくなる。また、焼入れ処理に際してオーステナイト変態させるのに必要な加熱温度が著しく高温となる。このため、熱処理に要するコストの上昇を招いたり、加熱不足により焼入れが不十分となったりする場合がある。したがって、Si含有量は0.5%未満とする。好ましくは0.35%以下である。
Mnは、焼入れ性を高める作用を有し、さらに、焼入れ後の鋼材の強度を安定して確保するのに非常に有効な元素である。Mn含有量が0.5%未満では、上記作用による効果を十分に得られない場合がある。したがって、Mn含有量は0.5%以上とする。好ましくは0.8%以上である。一方、Mn含有量が5.0%超では、焼入れ部の靭性劣化を招く場合がある。したがって、Mn含有量は5.0%以下とする。好ましくは3.0%以下である。
Pは、一般に不純物として含有される元素であるが、焼入れ性を高める作用を有し、さらに、焼入れ後の鋼材の強度を安定して確保するのに有効な元素であるので、積極的に含有させてもよい。しかしながら、P含有量が0.5%を超えると靭性の劣化が著しくなる。したがって、P含有量は0.5%以下とする。好ましくは0.1%以下、さらに好ましくは0.03%以下である。一方、P含有量の下限は特に限定する必要はないが、P含有量の過剰な低減は著しいコスト上昇を招くため、P含有量は0.002%以上とすることが好ましい。また、上述した有利な作用効果をより確実に得るには、P含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Sは、不純物として含有される元素であり、靭性を劣化させる作用を有する。S含有量が0.03%を超えると靭性の劣化が著しくなる。したがって、S含有量は0.03%以下とする。好ましくは0.01%以下である。S含有量の下限は特に限定する必要はないが、S含有量の過剰な低減は著しいコスト上昇を招く。このため、S含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0004%以上である。
Alは、熱処理の高温加熱時におけるスケール生成を抑制する作用を有する。Al含有量が0.002%未満では、上記作用による効果を十分に得られない場合がある。したがって、Al含有量は0.002%以上とする。好ましくは0.01%以上である。一方、Al含有量が0.5%以上では、鋼中に生成する酸化物が多量となり靭性の劣化が著しくなる。また、熱処理に際してオーステナイト域への加熱温度が著しく高温となる。したがって、Al含有量は0.5%未満とする。好ましくは0.3%以下である。
Nは、不純物として含有される元素であり、靭性を劣化させる作用を有する。N含有量が0.01%を超えると靭性の劣化が著しくなる。したがって、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.007%以下である。N含有量の下限は特に限定する必要はないが、N含有量の過剰な低減は著しいコスト上昇を招く。このため、N含有量は0.0002%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0008%以上である。
Crは、熱処理の高温加熱時におけるスケール生成を抑制する作用を有する。Cr含有量が0.02%未満では、上記作用による効果を十分に得られない場合がある。したがって、Cr含有量は0.02%以上とする。好ましくは0.1%以上である。一方、Cr含有量が2.0%超では、上記作用による効果は上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコストの増加を招く。したがって、Cr含有量は2.0%以下する。好ましくは1.0%以下である。
Biは、溶鋼の凝固過程において凝固核となり、デンドライトの2次アーム間隔を小さくすることにより、デンドライト2次アーム間隔内に偏析するMn等の偏析を抑制する作用を有する元素である。したがって含有させてもよい。特に熱間プレス用鋼板のように多量のMnを含有させることがよく行われる鋼板については、Mnの偏析に起因する靭性の劣化を抑制するのに効果がある。したがって、斯かる鋼種には含有させることが好ましい。しかしながら、0.2%を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコストの増加を招く。したがって、Bi含有量は0.2%以下とする。好ましくは0.1%以下である。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Bi含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。さらに好ましくは0.0005%以上である。
Cu、Ni、Mo、B、Ti、Nb、VおよびWは、焼入れ性を高める作用を有し、さらに、焼入れ後の鋼材の強度を安定して確保するのに有効な元素であるので、1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、Cu、NiおよびMoについてはそれぞれ2.0%を超えて含有させても、Bについては0.01%を超えて含有させても、Ti、Nb、VおよびWについてはそれぞれ0.2%を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコストの増加を招く。したがって、Cu、NiおよびMoの含有量はそれぞれ2.0%以下、B含有量は0.01%以下、Ti、Nb、VおよびWの含有量はそれぞれ0.2%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Cu:0.01%以上、Ni:0.01%以上、Mo:0.01%以上、B:0.0003%以上、Ti:0.005%以上、Nb:0.005%以上、V:0.005%以上およびW:0.005%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
Ca、Mg、REM(希土類金属)、Zr、NdおよびSbは、鋼中の介在物の形態を微細化する作用を有し、介在物に起因する熱間プレス等の加工時の割れを防止するのに有効な元素であるので、1種または2種以上を含有させてもよい。しかしながら、それぞれ0.1%を超えて含有させても、上記作用による効果は飽和してしまい、いたずらにコストの増加を招く。したがって、それぞれの元素の含有量は0.1%以下とする。なお、上記作用による効果をより確実に得るには、Ca:0.0002%以上、Mg:0.0002%以上、REM:0.0002%以上、Zr:0.0002%以上、Nd:0.0002%以上およびSb:0.0002%以上のいずれかを満足させることが好ましい。
本発明に係る熱処理用鋼板は、下記式(1)および(2)を満足する濃度分布を有する。
Mnmax/Mnmin≦1.6 (2)
ここで、(Si+Al+Cr)sは鋼板表面から200nm深さ位置までの表層部におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、(Si+Al+Cr)bは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、Mnmaxは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最大値を、Mnminは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最小値を、それぞれ示す。
SiおよびAlは、Feよりも酸化しやすい元素であり、鋼板表面にFe2SiO4、FeAl2O4を形成し、その上方に生成するFeO、Fe3O4やFe2O3の生成を抑制する作用を有する。さらにCrは、上記Fe2SiO4、FeAl2O4に加えて鋼板表面にFeCr2O4を形成することにより、FeO、Fe3O4やFe2O3の生成をさらに抑制する作用を有する。ここで、上記作用は、鋼板表面から200nm深さ位置までの表層部におけるSi、AlおよびCrによってもたらされる。
Mnを多量に含有させた鋼板は、通常、溶鋼の凝固過程において著しいMnの偏析が生じて板厚方向にMn濃度のばらつきを生じる。そして、Mn濃度が相対的に低い領域はMn濃度が相対的に高い領域に比して焼入れ性に劣る。このため、板厚方向におけるMn濃度ばらつきの大きな鋼板に焼入れ処理を施すと、Mn濃度が相対的に低い領域はMn濃度が相対的に高い領域に比して強度が低くなり、板厚方向に微視的な強度ばらつきを生じる場合がある。このような微視的な強度ばらつきが生じると靭性の劣化を招く。
本発明は熱処理用鋼板であり、熱処理に際して高温加熱することにより、熱処理前の鋼板が有していた鋼組織の特徴は消滅する。したがって、熱処理に供する前の鋼組織の特徴は特に規定されない。但し、鋼板の平坦調整やブランキング等の加工性の観点からは、フェライトを面積率で30%以上含有することが好ましい。ここでいうフェライトは、ポリゴナルフェライト、ベイニティックフェライト、アシュキラーフェライトなどである。硬質第2相としては、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、オーステナイト、セメンタイト、球状化セメンタイトなど、所望の相や組織とすればよい。
上記濃度分布を実現するには、下記工程(H1)〜(H4)または下記工程(C1)〜(C5)を有する製造方法とすることが好ましい。
(H2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(H3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;および
(H4)前記酸洗鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。
(C2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(C3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C4)前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(C5)前記冷延鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。
本発明に係る連続鋳造工程は、上記化学組成を有する溶鋼を、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.2℃/秒以上として冷却するとともに、溶鋼が完全凝固する前に中心偏析低減処理を施してスラブとするものである。
これらの相乗作用により、Mnmax/Mnmin≦1.6の濃度分布を実現することができる。
上述したように、Biは、溶鋼の凝固過程において凝固核となり、デンドライトの2次アーム間隔を小さくすることにより、デンドライト2次アーム間隔内に偏析するMn等の偏析を抑制する作用を有する。したがって、上記連続鋳造工程によるMnの偏析の抑制とBiによるMnの偏析の抑制との相乗効果により、Mnmax/Mnmin≦1.3の濃度分布が実現される。
熱間圧延工程は、上記連続鋳造工程により得られたスラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、上記加熱炉から抽出した上記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に上記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却するものである。
上記熱間圧延工程と後述する焼鈍工程とを組み合わせることにより、鋼板表層部へのSi、AlおよびCrの濃化が促進され、(Si+Al+Cr)s/(Si+Al+Cr)b≧1.2の濃度分布を実現することができる。
上記熱間圧延工程により得られた熱延鋼板には酸洗を施すが、酸洗は常法で構わない。
(4)冷間圧延工程
上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板には、必要に応じて冷間圧延を施すが、冷間圧延は常法で構わない。
上記酸洗工程により得られた酸洗鋼板または上記冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に施す焼鈍工程は、550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施すものである。
得られた酸洗鋼板の一部を冷間圧延試験機にて冷間圧延を施し、1.5mm厚の冷延鋼板とした。
各製造条件は表2に示したとおりである。
このようにして得られた熱処理用鋼板から、幅150mm×長さ200mmの試験材を2枚採取し、加熱炉で900℃の温度に4分間保持した後、直ちに冷却装置付きの金型にて焼入れを施す熱間プレスを行って熱処理鋼材を得た。
(1)溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度の測定
溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の冷却速度は、得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、5mmピッチでデンドライト2次アーム間隔を測定し、下記式から求めた。上記平均冷却速度は、スラブ表面からスラブ厚方向のスラブ中心部までを5mmピッチで測定した冷却速度を算術平均することにより求めた。
λ=710(A)−0.39
ここで、λ:デンドライト2次アーム間隔(μm)、A:冷却速度(℃/分)である。
得られた熱処理用鋼板について、圧延直角方向からJIS5号引張試験を採取し、JIS Z2241に準じて引張試験を実施し、降伏点(YP)、引張強さ(TS)、伸び(El)を測定した。
得られた熱処理用鋼板について、高周波グロー放電発光表面分析装置(GDS)により、(Si+Al+Cr)s/(Si+Al+Cr)bを求めた。すなわち、鋼板表面から200nm深さ位置までの表層部について深さ方向に分析した際の信号強度の平均を、鋼板表面から板厚の1/4深さ位置について分析した際の信号強度により除すことにより、(Si+Al+Cr)s/(Si+Al+Cr)bを求めた。この測定を各鋼板について3箇所行って平均した。
得られた熱処理用鋼板について、電子線マイクロアナライザー(EPMA)により、Mnmax/Mnminを求めた。すなわち、鋼板断面を板厚方向に線分析した際の信号強度の最大値を最小値で除すことによりMnmax/Mnminを求めた。この測定を各鋼板について3箇所切断した断面について行って平均した。
得られた熱処理鋼材の表面にテープを貼り、テープを剥離して、剥離したスケールの面積を測定した。
得られた熱処理鋼材をマイクロカッターで切断し、その断面硬度をビッカース硬度計で測定した。測定荷重は98N(10kgf)で行った。また、切断箇所は3箇所とし、各切断面について鋼板表面から150μmピッチで9点測定した。平均硬度は9点の平均値を算術計算で求めた。硬度ばらつきは、測定値の最大値と最小値の差により評価した。
得られた熱処理鋼材から、シャルピー試験片を採取し、シャルピー衝撃試験を実施した。
本発明例である供試材No.1〜24は、熱処理におけるスケール生成が抑制されており、熱処理鋼材のスケール剥離面積がいずれも0cm2であり、スケール密着性に優れていた。また、Mnmax/Mnminも1.6以下であり、熱処理鋼材の硬度ばらつきも16Hv以下と小さく良好であった。そのため、衝撃吸収エネルギーも35J/cm2以上であり、靭性に優れていた。
供試材No.25は、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度が0.1℃/秒であり、本発明外であった。そのためMnmax/Mnminが2.0と高く、熱処理鋼材の硬度ばらつきも32Hvと高くなり、衝撃吸収エネルギーが19J/cm2となって、靭性に劣っていた。
Claims (6)
- 質量%で、C:0.05%以上0.5%以下、Si:0.02%以上0.5%未満、Mn:0.5%以上5.0%以下、P:0.5%以下、S:0.03%以下、Al:0.002%以上0.5%未満、N:0.01%以下およびCr:0.02%以上2.0%以下を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有するとともに、下記式(1)および(2)を満足する濃度分布を有することを特徴とする熱処理用鋼板。
(Si+Al+Cr)s/(Si+Al+Cr)b≧1.2 (1)
Mnmax/Mnmin≦1.6 (2)
ここで、(Si+Al+Cr)sは鋼板表面から200nm深さ位置までの表層部におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、(Si+Al+Cr)bは鋼板表面から板厚の1/4深さ位置におけるSi、AlおよびCrの合計質量濃度を、Mnmaxは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最大値を、Mnminは鋼板断面の板厚方向におけるMn濃度の最小値を、それぞれ示す。 - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、Bi:0.0001質量%以上0.2質量%以下を含有するとともに、下記式(3)を満足する濃度分布を有することを特徴とする請求項1記載の熱処理用鋼板。
Mnmax/Mnmin≦1.3 (3) - 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cu:2.0%以下、Ni:2.0%以下、Mo:2.0%以下、B:0.01%以下、Ti:0.2%以下、Nb:0.2%以下、V:0.2%以下およびW:0.2%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の熱処理用鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.1%以下、Mg:0.1%以下、REM:0.1%以下、Zr:0.1%以下、Nd:0.1%以下およびSb:0.1%以下からなる群から選択される1種または2種以上を含有することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の熱処理用鋼板。
- 下記工程(H1)〜(H4)を有することを特徴とする熱処理用鋼板の製造方法:
(H1)請求項1から4のいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.2℃/秒以上として冷却するとともに、溶鋼が完全凝固する前に中心偏析低減処理を施してスラブとする連続鋳造工程;
(H2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(H3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;および
(H4)前記酸洗鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。 - 下記工程(C1)〜(C5)を有することを特徴とする熱処理用鋼板の製造方法:
(C1)請求項1から4のいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、溶鋼の液相線温度から固相線温度までの温度範囲における鋳込み方向に垂直な断面の平均冷却速度を0.2℃/秒以上として冷却するとともに、溶鋼が完全凝固する前に中心偏析低減処理を施してスラブとする連続鋳造工程;
(C2)前記スラブを加熱炉に装入して1200℃以上の温度域に30分間以上保持し、前記加熱炉から抽出した前記スラブに熱間圧延を施し熱延鋼板とし、前記抽出から1分間以上経過した後に前記熱延鋼板を550℃以上の温度域で巻取り、150℃/時以下の冷却速度で300℃以下まで冷却する熱間圧延工程;
(C3)前記熱延鋼板に酸洗処理を施して酸洗鋼板とする酸洗工程;
(C4)前記酸洗鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする冷間圧延工程;および
(C5)前記冷延鋼板に550℃以上の温度域で1.0時間以上保持する焼鈍処理を施す焼鈍工程。
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