JP5206351B2 - 鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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さらに、これらの本発明にかかる鋼板では、鋼組織におけるフェライトの面積率が30%以上であることが好ましい。
(A)上述した本発明にかかる鋼板の化学組成を有する溶鋼を、表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上1000℃/min以下として200mm以上300mm以下の厚さのスラブに鋳造する連続鋳造工程;
(B)この連続鋳造工程で得られたスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする熱間圧延工程および冷間圧延工程;ならびに
(C)この冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施し、次いで630℃以上の温度域から100℃以下の温度域まで200℃/s以上の平均冷却速度で急冷し、さらに150℃以上500℃以下の温度域で焼き戻し処理を施す連続焼鈍工程。
はじめに、本発明にかかる鋼板の化学組成を上述のように規定した理由を説明する。
Cは、強度向上に寄与する元素であり、鋼板の引張強度を780MPa以上にするために、0.03%以上含有させる。しかし、0.20%を超えてCを含有させると溶接性が劣化する。このため、C含有量は0.03%以上0.20%以下とする。なお、C含有量は好ましくは0.05%以上であり、このようにすることにより引張強度を980MPa以上にすることが容易になる。
Siは、曲げ性をさほど劣化させることなく強度向上に寄与する元素であり、本発明では0.005%以上含有させる。ただし、2.0%を超えてSiを含有させると、化成処理性が劣化する。このため、Si含有量は、0.005%以上2.0%以下とする。なお、0.7%を超えてSiを含有すると、鋼板表面にSiを含む酸化物が形成され、表面性状が劣化する場合がある。このため、Si含有量は好ましくは0.7%以下である。
Mnは、強度向上に寄与する元素であり、鋼板の引張強度を780MPa以上にするために1.0%以上含有させる。ただし、2.7%を超えてMnを含有させると、転炉における鋼の溶解や精錬が困難になるだけでなく、溶接性が劣化する。このため、Mn含有量は1.0%以上2.7%以下とする。ここで、Mnは不均一組織を助長する元素であるが、後述するように、Biを含有させることによって、このようなMnの悪影響が緩和され、組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制されて、強度向上が達成されるのである。なお、引張強度を980MPa以上にするには、Mnを1.3%以上含有させることが好ましい。
Pは、一般には不可避的に含有される不純物であるが、固溶強化元素でもあり鋼板の強化に有効であるので、積極的に含有させてもかまわない。しかしながら、P含有量が0.1%超となると溶接性が劣化する。このため、P含有量は0.1%以下とする。より確実に鋼板を強化するには、P含有量を0.005%以上とすることが好ましい。
Sは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性及び溶接性の観点からは低いほど好ましい。このため、S含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.005%以下である。さらに好ましくは0.003%以下である。
Alは、鋼を脱酸させるために添加される元素であり、Ti等の炭窒化物形成元素の歩留まりを向上させるのに有効に作用する元素でもあるので、sol.Al含有量は0.005%以上とする。ただし、sol.Al含有量が1.0%を超えると、溶接性が劣化するとともに、酸化物系介在物が増加するために表面性状が劣化する。このため、sol.Al含有量は0.005%以上1.0%以下とする。なお、好ましくは0.02%以上0.2%以下である。
Nは、鋼に不可避的に含有される不純物であり、曲げ性の観点からは低いほど好ましい。そのため、N含有量は0.01%以下とする。好ましくは0.006%以下である。
Biは本発明において重要な元素であり、その含有によって、凝固組織が微細化し、Mnを多量に含有させても、組織が均一となり、曲げ性の劣化が抑制される。したがって、所望の曲げ性を確保するために、Mnを0.0001%以上含有させる。ただし、0.05%を超えてBiを含有させると、熱間加工性が劣化し、熱間圧延が困難になる。このため、Bi含有量は0.0001%以上0.05%以下とする。なお、曲げ性をさらに向上させるには、Biを0.001%以上含有させることが好ましい。
Ti、NbおよびVは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。引張強度980MPa以上を確保するには、Ti、NbおよびVの1種または2種以上を含有させることが有効である。上記効果をより確実に得るには、Ti、NbおよびVの何れかの元素を0.003%以上含有させることが好ましい。ただし、それぞれ0.05%を超えて含有させると、Ti、NbやVを含む介在物が増加するために表面性状が劣化する。このため、Ti、NbおよびVの含有量はそれぞれ0.05%以下とすることが好ましい。
Cr、Mo、CuおよびNiは、いずれも、強度向上に寄与する元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。引張強度980MPa以上を確保するには、Cr、Mo、CuおよびNiの1種または2種以上含有させることが有効である。上記効果をより確実に得るには、Cr、Mo、CuおよびNiのいずれかを0.01%以上含有させることが好ましい。ただし、それぞれ1%を超えて含有させても上記効果が飽和してしまい、経済的に無駄である。また、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。このため、Cr、Mo、CuおよびNiの1種または2種以上を上記の量で含有することが好ましい。
Ca、Mg、REMおよびZrは、いずれも、介在物制御、特に介在物の微細分散化に寄与し、曲げ性をさらに向上させる元素であり、必要に応じて含有させることができる任意元素である。しかし、過剰に含有させると表面性状を劣化させるため、それぞれの元素の含有量を0.01%以下とすることが好ましい。上記効果をより確実に得るには、いずれかの元素を0.001%以上含有させることが好ましい。
Bは、曲げ性向上に寄与するので、必要に応じて含有させることができる任意元素である。ただし、0.01%を超えてBを含有すると、熱延板が硬質となって冷間圧延が困難となる。このため、B含有量は0.01%以下とすることが好ましい。上記効果をより確実に得るには、0.0005%以上含有させることが好ましい。
次に、本発明にかかる鋼板のMn分布の限定理由について説明する。
鋼板のMn分布は、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向、すなわち板幅方向における平均間隔を300μm以下とする。Mn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔を300μm以下とすることにより、凝固偏析が解消され、均一組織が得られ、曲げ加工部に凹凸が発生しにくくなり、曲げ性が向上する。また、Mn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔を300μm以下とすることは、換言すると、熱間圧延に供するスラブにおいて不均一組織のもととなる、スラブ表面からスラブ厚の(1/20)深さ位置におけるデンドライト一次アーム間隔を300μm以下とすることである。通常の連続鋳造方法で、この一次アーム間隔を300μm以下とするには、Biを含有させ、スラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上とすることが有効である。
(残留オーステナイトの面積率:2.0%以下)
鋼板の鋼組織は、残留オーステナイトの面積率を2.0%以下とする(0%の場合も含む)。残留オーステナイトは、切断加工、さらには切断加工後の曲げ加工において、加工誘起変態し、極めて硬質なマルテンサイトとなる。硬質なマルテンサイトの生成はマイクロクラックの発生、切断端面部からの割れを助長し、曲げ性を劣化させる。このため、残留オーステナイトの面積率を2.0%以下とする。
上述した化学組成の溶鋼を転炉や電気炉等の公知の溶製方法で溶製し、スラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上1000℃/min以下として200mm以上300mm以下の厚さのスラブに連続鋳造する。
連続鋳造工程におけるスラブ表面から10mm深さ位置における凝固速度を100℃/min以上1000℃/min以下とする。上記凝固速度が100℃/min未満では、スラブ表面からスラブ厚の(1/20)深さ位置におけるデンドライト一次アーム間隔を300μm以下とすることが困難となり、鋼板の曲げ性を改善することができない場合がある。一方、凝固速度が1000℃/min超では、スラブの表面割れを誘発する場合がある。
スラブ厚は200mm以上300mm以下とする。スラブ厚が200mm未満では、後述する熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることが困難となる。一方、スラブ厚が300mm超では、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔を300μm以下とすることが困難となる。
上記連続鋳造工程により得られたスラブに、熱間圧延を施して熱延鋼板とし、この熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする。
熱間圧延に供するスラブには、1200℃以上1350℃以下の温度域に保持する均質化処理を施すことが好ましい。熱間圧延に供するスラブを1200℃以上の温度域に20分間以上保持することにより、Mnの偏析に起因する不均一組織がさらに解消され、さらに曲げ性を向上させることができる。なお、均質化処理温度は1350℃以下とすることが、スケールロスの抑制、加熱炉損傷の防止および生産性の向上といった観点から好ましい。
仕上温度は800℃以上950℃以下とすることが好ましい。仕上温度を800℃以上とすることにより、熱間圧延時の変形抵抗が小さくなり、操業をより容易に行うことができる。また、仕上温度を950℃以下とすることにより、スケールによる疵をより確実に抑制することができ、良好な表面性状を確保することができる。
巻取温度は400℃以上750℃以下とすることが好ましい。巻取温度を400℃以上とすることにより、硬質なベイナイトやマルテンサイトの生成が抑制され、その後の冷間圧延が困難になる。また、巻取温度を750℃以下とすることにより、鋼板表面の酸化が促進され、良好な表面性状を確保することができる。
熱間圧延工程により得られた熱延鋼板は、通常は酸洗等の常法により脱スケール処理が施され、その後に冷間圧延が施されて冷延鋼板とされる。このときの熱間圧延および冷間圧延における総圧下率を99.0%以上とすることが好ましい。ここで、総圧下率は次式で算出される。
曲げ加工後に発生する表面凹凸は、圧延方向に展伸したMn濃度の圧延方向に対する直角方向の変動だけでなく、Mn濃化部の厚みにも影響される。したがって、Mn濃化帯の厚みを減ずることによって、加工後の表面凹凸をより確実に抑制することができ、その結果曲げ性が改善される。このような効果を得るには、上記総圧下率を99.0%以上とすることが有効である。
上記熱間圧延工程および冷間圧延工程により得られた冷延鋼板に、750℃以上950℃以下の温度域で再結晶焼鈍を施し、次いで630℃以上の温度域から100℃以下の温度域まで200℃/s以上の平均冷却速度で急冷し、さらに150℃以上500℃以下の温度域で焼き戻す連続焼鈍を施す。生産性の観点からは、再結晶焼鈍温度までの昇温速度を1℃/s以上とすることが好ましい。
焼鈍温度は、750℃以上950℃以下とする。焼鈍温度を750℃以上とすることにより、未再結晶の残存が抑制され、均一な組織を確実に得ることができ、さらに曲げ性を向上させることができる。また、焼鈍温度を950℃以下とすることにより、焼鈍炉の損傷を抑制して、生産性を向上させることができる。
急冷開始温度は630℃以上とする。急冷開始温度を630℃以上とすることにより、急冷により十分な量のマルテンサイトを得ることが可能となり、780MPa以上の引張強度を確保することが容易になる。なお、再結晶焼鈍を施した後、急冷開始温度までの冷却条件は特に限定されず、例えば、再結晶焼鈍温度から直接急冷しても良いし、ガスジェット等の冷却方式を用い、再結晶焼鈍温度から急冷開始温度まで徐冷しても良い。
630℃以上の温度域から100℃以下の温度域までの平均冷却速度は、200℃/s以上とする。上記平均冷却速度を200℃/s以上とすることにより、パーライトやベイナイトの生成を抑制し、十分な量のマルテンサイトを得ることが可能となり、780MPa以上の引張強度を確保することが容易になる。ここで、630℃以上の温度域から100℃以下の温度域までの平均冷却速度とは、630℃〜100℃までの温度域における平均冷却速度である。なお、冷却方法は水冷とすることが好ましい。
(焼き戻し処理温度:150℃以上500℃以下)。
(平均凝固速度)
得られたスラブの断面をピクリン酸にてエッチングし、鋳片表皮より内部に10mmの位置にて、5箇所のデンドライト2次アーム間隔λ(μm)を測定し、下記式に基づいて、その値からスラブの液相線温度〜固相線温度内の冷却速度A(℃/min)を算出した。
(EPMA分析)
各種焼鈍板の圧延面を研削およびバフ研磨し、表面から板厚の(1/20)深さ位置の分析面を現出させた分析用サンプルを作製し、EPMAでMn分布を調査した。ビーム径を10μmとし、圧延方向に500μm、圧延方向に対して直角方向に総計8mmの領域を測定し、500μm幅で平均された圧延方向に対して直角方向のMn濃度分布を解析した。得られたMn濃度分布より、極大値をMn濃化部とし、極小値を定常部とし、Mn偏析比とMn濃化部の平均間隔を算出した。
各種焼鈍板に板厚の(1/4)分減厚するための化学研磨を施し、化学研磨後の表面に対しX線回折を施し、得られたプロファイルを解析し、残留オーステナイトの面積率を測定した。
各種焼鈍板の圧延方向および圧延方向に対して直角方向から試験片を採取し、圧延方向断面、圧延方向に対して直角方向断面の組織を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡で撮影し、画像解析によりフェライトの面積率を測定した。
圧延方向に直角方向からJIS5号引張試験片を採取し、引張強度(TS)と全伸び(EL)を測定した。
(曲げ試験)
各種焼鈍板から、曲げ稜線が圧延方向となるように、圧延方向に対して直角方向が長手方向となる曲げ試験片(幅40mm×長さ100mm×板厚1.2mm)を採取した。2.4mmの鋼板を挟んだ180゜曲げ試験を実施し、割れの有無を目視にて確認した。割れが無い試験片に対して、前回より1.2mmだけ薄い1.2mmの鋼板を挟んだ180゜曲げ試験を実施し、同様に割れの有無を確認した。割れが無い場合、さらに、鋼板を挟まない密着曲げを行い、同様に割れの有無を確認した。
各種焼鈍板から、曲げ稜線が圧延方向となるように、圧延方向に対して直角方向が長手方向とする曲げ試験片(幅40mm×長さ60mm×板厚1.2mm)を採取した。その際、最小曲げ半径が1.0t以下の場合、先端に1.2mmの半径を持つ90゜のポンチで押し込み、曲げ試験を実施し、表面の凹凸の有無を目視にて確認した。凹凸が有るものを不良、無いものを良好とした。その外観が良好であり、最小曲げ半径が0.5t以下の場合、先端に0.6mmの半径を持つ90゜のポンチで押し込み、曲げ試験を実施し、表面の凹凸の有無を目視にて確認した。凹凸が無いものを良好とした。
(試験結果の説明)
これらの結果を表4に示す。
供試材No.13は、連続焼鈍工程における冷却条件および焼き戻し条件が本発明で規定する条件から外れていたため、残留オーステナイトの面積率が2.0%超となり、曲げ性が悪かった。
本発明例の鋼板うち、Biの含有量が上述した好ましい範囲である0.001%以上0.05%以下にあり、均質化処理時間が上述した好ましい範囲である1.0時間以上3時間以下にあり、Mn偏析比が1.20以下である鋼板1、4、6〜12、14〜18、21、22は、引張強度が780MPa以上であって、曲げ性に非常に優れた好ましい鋼板である。
Claims (7)
- 質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.005〜2.0%、Mn:1.0〜2.7%、P:0.1%以下、S:0.01%以下、sol.Al:0.005〜1.0%、N:0.01%以下、Bi:0.0001〜0.05%を含有し、残部がFeおよび不純物からなる化学組成を有し、鋼板表面から板厚の(1/20)深さ位置において、残留オーステナイトの面積率が2.0%以下である鋼組織を有し、圧延方向に展伸したMn濃化部の圧延方向に対して直角方向における平均間隔が300μm以下であることを特徴とする鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ti:0.05%以下、Nb:0.05%以下およびV:0.05%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1に記載の鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Cr:1%以下、Mo:1%以下、Cu:1%以下およびNi:1%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1または請求項2に記載の鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、Ca:0.01%以下、Mg:0.01%以下、REM:0.01%以下およびZr:0.01%以下からなる群から選ばれた1種または2種以上を含有する、請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の鋼板。
- 前記化学組成が、前記Feの一部に代えて、質量%で、B:0.01%以下を含有する、請求項1から請求項4までのいずれか1項に記載の鋼板。
- 前記鋼組織におけるフェライトの面積率が30%以上である、請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の鋼板。
- 下記(A)〜(C)の工程を備えることを特徴とする鋼板の製造方法:
(A)請求項1から請求項5までのいずれか1項に記載の化学組成を有する溶鋼を、表面から10mm深さ位置における凝固速度を100〜1000℃/minとして200〜300mm厚のスラブに鋳造する連続鋳造工程;
(B)前記連続鋳造工程で得られたスラブに熱間圧延を施して熱延鋼板とし、前記熱延鋼板に冷間圧延を施して冷延鋼板とする熱間圧延工程および冷間圧延工程;ならびに
(C)前記冷延鋼板に、750〜950℃の温度域で再結晶焼鈍を施し、次いで630℃以上の温度域から100℃以下の温度域まで200℃/s以上の平均冷却速度で急冷し、さらに150〜500℃の温度域で焼き戻し処理を施す連続焼鈍工程。
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