JP4265545B2 - 歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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しかし、薄肉の高張力鋼板を使用した自動車部品でも、その役割に応じて課されるパフォーマンスが必要十分に発揮されねばならない。かかるパフォーマンスとしては、例えば曲げ、ねじり変形に対する静的強度、耐疲労性、耐衝撃特性などがある。したがって、自動車部品に適用される高張力鋼板は、成形加工後にかかる特性にも優れることが必要となる。
(イ)形状凍結性が低下する、
(ロ)延性が低下するため成形時に割れやネッキングなどの不具合を生ずる、
といった問題が生じ、自動車車体への高張力鋼板の適用拡大を阻んでいた。
すなわち、部品の軽量化には、単に歪時効により降伏応力のみ上昇するのではなく、さらに変形が進んだときの強度特性の上昇が必要である。言い換えれば、歪時効後の引張強さの上昇が望まれている。
例えば、特許文献1には、C:0.02〜0.15%、Mn:0.8 〜3.5 %、P:0.02〜0.15%、Al:0.10%以下、N:0.005 〜0.025 %を含む鋼を550 ℃以下の温度で巻き取る熱間圧延と、冷延後の焼鈍を制御冷却熱処理とする延性およびスポット溶接性がともに良好な高強度薄鋼板の製造方法が開示されている。特許文献1に記載された技術で製造された鋼板は、フェライトとマルテンサイトを主体とする低温変態生成物相からなる混合組織を有し延性に優れるとともに、積極的に添加されたNによる塗装焼付けの際の歪時効を利用して、高強度を得ようとするものである。
また、特許文献2には、C:0.08〜0.20%、Mn:1.5 〜3.5 %を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織がフェライト量5%以下の均一なベイナイトもしくは一部マルテンサイトを含むベイナイトで構成された焼付硬化性高張力冷延薄鋼板が開示されている。特許文献2に記載された冷延鋼板は、連続焼鈍後の冷却過程で400 〜200 ℃の温度範囲を急冷とし、その後を徐冷とすることにより、組織をベイナイト主体の組織として、従来になかった高い焼付硬化量を得ようとするものである。
例えば、特許文献3には、C:0.02〜0.13%、Si:2.0 %以下、Mn:0.6 〜2.5 %、sol.Al:0.10%以下、N:0.0080〜0.0250%を含む鋼を、1100℃以上に再加熱し、850 〜900 ℃で仕上圧延を終了する熱間圧延を施し、ついで15℃/s以上の冷却速度で150 ℃未満の温度まで冷却し巻取り、フェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織とする、熱延鋼板の製造方法が提案されている。しかしながら特許文献3に記載された技術で製造された鋼板では、歪時効硬化により降伏応力とともに引張強さが増加するものの、150 ℃未満という極めて低い巻取温度で巻き取るため、機械的特性の変動が大きいという問題があった。また、プレス成形−塗装焼付け処理後の降伏応力の増加量のばらつきが大きく、さらに、穴拡げ率(λ)が低く,伸びフランジ加工性が低下しプレス成形性が不足するという問題もあった。
すなわち、本発明者らは、Nを強化元素として用い、Al含有量をN含有量に応じて適正な範囲に制御するとともに、熱延条件や冷延、冷延焼鈍条件を適正化して、微視組織と固溶Nを最適化することにより、従来の固溶強化型のC−Mn系鋼板、析出強化型鋼板に比べて格段に優れた成形性と、上記した従来の鋼板にない歪時効硬化特性と、あるいはさらに部品特性としての優れた耐衝撃特性とを有する鋼板が得られることを見いだしたのである。
(1)質量%で、C:0.15%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含む組織とを有することを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板。
(2)前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群の1群または2群以上を含むことを特徴とする(1)に記載の高張力冷延鋼板。
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
(3) 質量%で、C:0.15%以下、Mn:3.0 %以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、さらに、Mo:0.05〜1.0 %、Cr:0.05〜1.0 %のうちの1種または2種を含有し、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含み、さらにマルテンサイト相を面積率で3%以上含む組織とを有することを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板。
(4)前記組成に加えてさらに、質量%で、下記j群〜m群のうちの1群または2群以上を含むことを特徴とする(3)に記載の高張力冷延鋼板。
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
(5)前記高張力冷延鋼板が板厚3.2 mm以下のものである(1)ないし(4)のいずれかに記載の高張力冷延鋼板。
(6)(1)ないし(5)のいずれかに記載の高張力冷延鋼板に電気めっきまたは溶融めっきを施してなる高張力冷延めっき鋼板。
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちから選ばれた1群または2群以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、仕上圧延後、好ましくは0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度:40℃/s以上で急冷し、巻取温度:750 ℃以下、好ましくは巻取温度:650 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に再結晶温度以上900 ℃以下の温度で保持時間:10〜60sとする焼鈍を行い、ついで500 ℃以下の温度域まで冷却速度:10〜300 ℃/sで冷却する一次冷却と、ついで前記一次冷却の停止温度以下400 ℃以上の温度域での滞留時間を300 s以下とする二次冷却とを行う冷延板焼鈍工程とを、順次施す。また、第2の本発明では、前記冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:1.0 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましい。また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちから選ばれた1群または2群以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、仕上圧延後、好ましくは0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度:40℃/s以上で急冷し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に、(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の温度で保持時間:10〜 120sとする焼鈍を行い、ついで600 〜300 ℃間の平均冷却速度を次(1)または(2)式
B<0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.95……(1)
B≧0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.40……(2)
(ここに、CR:冷却速度(℃/s)、Mn、Mo、Cr、Si、P、Cu、Ni:各元素含有量(質量%))
で定義される臨界冷却速度CR以上として冷却を行う冷延板焼鈍工程とを、順次施し、加工性、耐衝撃特性に優れる冷延鋼板とすることが好ましい。また、第2の本発明では、前記冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:1.0 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましい。また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
本発明鋼板は、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有する組成を有する。
Alは、脱酸剤として作用し鋼の清浄度を向上させるのに有効な元素であり、さらに鋼板の組織を微細化する元素でもあり、本発明では0.001 %以上の含有が望ましい。一方、過剰のAl含有は、鋼板表面性状を悪化させ、さらに本発明の重要な構成要件である固溶状態のNを減少させ、歪時効硬化現象に寄与する固溶Nの不足を生じ、製造条件がばらついた場合本発明の特徴である歪時効硬化特性にばらつきが生じやすくなる。このため、本発明では、Al含有量は0.02%以下と低く限定した。なお、材質安定性の観点からは、Alは0.015 %以下とするのが好ましい。
Nは、固溶強化と歪時効硬化により鋼板の強度を増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。また、Nには鋼の変態点を下げる働きもあり、Nの含有は薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延が忌避される状況下での操業安定化にも有用である。本発明では、適量のNを含有して、製造条件を制御することにより、冷延製品あるいはめっき製品で必要かつ十分な量の固溶状態のNを確保し、それによって固溶強化と歪時効硬化での強度(YS、TS)上昇効果が十分に発揮され、TS440MPa以上、焼付け硬化量(BH量)80MPa 以上、歪時効処理前後での引張強さの増加量ΔTS40MPa 以上という本発明鋼板の機械的性質要件を安定して満足することができる。
冷延製品で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬化が十分に発揮されるには、鋼中に固溶状態のN(固溶Nともいう)が0.0010%以上の量(濃度)で存在する必要がある。
ここで、固溶N量は、鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求めるものとする。なお、析出N量の分析法としては、本発明者らが種々の分析法を比較検討した結果によれば、定電位電解法を用いた電解抽出分析法により求めるのが有効である。なお抽出分析に用いる地鉄を溶解する方法として、酸分解法、ハロゲン法および電解法がある。この中で、電解法は炭化物、窒化物などの極めて不安定な析出物を分解させることなく、安定して地鉄のみを溶解できる。電解液としてはアセチルアセトン系を用いて、定電位にて電解する。本発明では定電位電解法を用いて析出N量を測定した結果が、実際の部品強度ともっともよい対応を示した。
なお、より高いBH量、ΔTSを得るためには、固溶N量は0.0020%以上、さらに高い値を得るためには、0.0030%以上、さらにより高い値を得るためには、0.0050%以上とするのが好ましい。
製品状態で、固溶Nを0.0010%以上安定させて残留させるためには、Nを強力に固定する元素であるAlの量を制限する必要がある。本発明の組成範囲内のN含有量とAl含有量の組合せを広範囲に変えた鋼板について検討した結果、冷延製品およびめっき製品での固溶Nを0.0010%以上とするには、Al量を0.02%以下と低く限定した場合、N/Alを0.3 以上とすることが必要であることがわかった。すなわち、Al含有量は(N含有量)/0.3 以下に制限される。
フェライト相の面積率:50%以上
本発明の冷延鋼板は、高度な加工性が要求される自動車用鋼板等の使途を目的としており、延性を確保するために、フェライト相を面積率で50%以上含む、フェライト相を主相とする組織とする。フェライト相の面積率が50%未満では、高度な加工性が要求される自動車用鋼板として必要な延性を確保することが困難となる。なお、さらに良好な延性が要求される場合は、フェライト相の面積率は75%以上とするのが好ましい。なお、本発明でいうフェライトは、通常の意味のフェライト(ポリゴナルフェライト)のみならず、炭化物を含まないベイニティックフェライト、アシキュラーフェライトをも含むものとする。
フェライト相の平均結晶粒径:10μm以下
本発明では結晶粒径として、断面組織写真からASTMに規定の求積法により算出した値と、断面組織写真からASTMに規定の切断法により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理, 24(1984), 334 参照)のうち、いずれか大きい方を採用する。
TSが440MPaを下回る鋼板では、構造部材的な要素をもつ部材に広く適用することができない。また、さらに適用範囲を拡げるにはTSは500MPa以上とするのが望ましい。
本発明において、「歪時効硬化特性に優れた」とは、上記したように、引張歪5%の予変形後、170 ℃の温度に20min 保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(BH量と記す;BH量=時効処理後の降伏応力−時効処理前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=時効処理後の引張強さ−予変形前の引張強さ)が40MPa 以上であることを意味する。
ところで、本発明の効果は製品板厚が比較的厚い場合でも発揮されうるが、製品板厚が3.2mm を超える場合には、冷延板焼鈍工程で必要十分な冷却速度を確保することができず、連続焼鈍時に歪時効が生じ、製品として目標とする歪時効硬化特性が得にくくなる。したがって、本発明鋼板の板厚は3.2 mm以下とするのが好ましい。
第1の好適態様の鋼板は、前記組成を、前記したAl:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有する組成に加え、さらにC:0.15%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下含有し、あるいはさらに、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
の1群または2群以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含む組織とを有する鋼板である。
C:0.15%以下
Cは、鋼板の強度を増加する元素であり、また本発明の重要な構成要件であるフェライトの平均粒径10μm 以下を達成するため、さらに所望の強度を確保するという観点から、0.005 %以上含有するのが好ましい。なお、より好ましくは、0.03%以上である。一方、0.15%を超えると、鋼板中の炭化物分率が過大となり、延性が顕著に低下し成形性が劣化するうえ、さらにスポット溶接性、アーク溶接性などが顕著に低下する。このような成形性および溶接性の観点からCは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.10%以下、さらに良好な延性が要求される用途では0.08%以下とするのが好ましい。
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく鋼板を高強度化させることができる有用な元素であり、0.1 %以上含有するのが好ましい。一方、Siは、熱間圧延時に変態点を大きく上昇させて品質、形状の確保を困難にしたり、あるいはまた表面性状、化成処理性など鋼板表面の美麗性に悪影響を与える元素であり、本発明では2.0 %以下に限定した。Siが2.0 %以下であれば、併合添加するMnの量を調整することで変態点の顕著な上昇を抑制することができ、良好な表面性状も確保できる。なお、引張強さTS500MPa超級高張力鋼板で、高延性を確保したい場合には、強度と延性のバランスの観点から、Siを0.3 %以上含有するのがより好ましい。
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて添加するのが好ましく、またMnは本発明の重要な構成要件である結晶粒の微細化に対して大きな効果があり、積極的に添加して材質改善に利用するのが好ましい。Sを安定して固定する観点からは、Mnは0.2 %以上含有するのが好ましい。
一方、Mnを3.0 %を超えて多量に含有すると、鋼板の熱間変形抵抗が増加する傾向となるうえ、スポット溶接性、および溶接部の成形性が劣化する傾向となり、さらに、フェライトの生成が抑制されるため、延性が顕著に低下する傾向となる。このため、Mnは3.0 %以下に限定した。なお、より良好な耐食性と成形性が要求される用途では、Mnは2.5 %以下とするのが望ましい。
Pは、鋼の固溶強化元素として有用な元素であり、この観点からは0.001 %以上の含有が望ましいが、過剰に含有すると鋼を脆化させ、さらに鋼板の伸びフランジ加工性を低下させる。また、Pは鋼中で偏析する傾向が強いためそれに起因した溶接部の脆化をもたらす。このため、Pは溶接部靱性の観点から0.02%以下に限定した。
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、さらには耐食性の劣化をもたらす元素であり、本発明ではSは0.02%以下に限定した。なお、特に良好な加工性 (特に、伸びフランジ性、 穴拡げ性)が要求される用途においては、0.015 %以下とするのが好ましい。さらに伸びフランジ性の要求レベルが高い場合は、Sは0.008 %以下とするのが好ましい。また、歪時効硬化特性を安定して高レベルに維持するためには、詳細な機構は不明であるが、Sを0.008 %以下まで低減するのが好ましい。
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
の1群または2群以上を含有するのが好ましい。
上記した組成と組織を有する本発明の冷延鋼板は、引張強さTSが440MPa以上で、歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板である。
つぎに、本発明鋼板の第2の好適態様について説明する。
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちの1群または2群以上を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、前記組織が、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含み、さらにマルテンサイト相を面積率で3%以上含む組織であって、歪時効硬化性特性に優れるとともに、加工性、耐衝撃特性に優れることを特徴とする鋼板である。
C:0.15%以下
Cは、鋼板の強度を増加する元素であり、また、本発明の重要な構成要件であるフェライトの平均粒径10μm 以下を達成するため、さらに所望の強度を確保し、第2相としてマルテンサイト相を形成するという観点から、0.005 %以上含有するのが好ましい。なお、より好ましくは0.03%以上である。一方、0.15%を超えると、鋼板中の炭化物分率が過大となり、延性が顕著に低下し成形性が劣化し、マルテンサイト変態温度が低下するうえ、さらにスポット溶接性、アーク溶接性などが顕著に低下する。このような成形性、溶接性および微視組織調整の観点からCは0.15%以下に限定した。なお、好ましくは0.10%以下、さらに良好な延性が要求される用途では0.08%以下とするのが好ましい。
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて添加するのが好ましく、またMnは本発明の重要な構成要件である結晶粒の微細化に対し大きな効果があり、積極的に添加して材質改善に利用するのが好ましい。また、Mnは焼入れ性を向上する元素であり、第2相としてマルテンサイト相を安定して形成するという観点からは積極的に添加するのが好ましい。Sの固定、およびマルテンサイト相の形成という観点からは、Mnは0.2 %以上含有するのが好ましい。
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、さらには耐食性の劣化をもたらす元素であり、本発明ではSは0.02%以下に限定した。なお、特に良好な加工性(特に伸びフランジ性、穴拡げ性)が要求される用途においては、0.015 %以下とするのが好ましい。さらに伸びフランジ性の要求レベルが高い場合は、Sは0.008 %以下とするのが好ましい。また、歪時効硬化特性を安定して高レベルに維持するためには、詳細な機構は不明であるが、Sを0.008 %以下まで低減するのが好ましい。
Mo、Crは、いずれも鋼板の強度上昇に寄与し、さらに鋼の焼入れ性を向上させ、第2相としてマルテンサイト相を生成しやすくする元素であり、単独または複合して含有する。とくに、Mo、Crはマルテンサイト相を微細に分散する作用を有し、降伏強さを低下させ低降伏比を容易に実現させるという効果を有する。このような効果は、Mo、Crとも0.05%以上の含有で認められる。一方、Moを1.0 %超えて含有すると、加工性、表面処理性が低下するうえ、製造コストが上昇し経済的に不利となる。また、Crを1.0 %超えて含有すると、めっき濡れ性が低下する。このため、Moは0.05〜1.0 %、Crは0.05〜1.0 %に限定するのが好ましい。
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
の1群または2群以上を含有するのが好ましい。
次に、本発明の第2の好適態様の鋼板の組織について説明する。
本発明の第2の好適態様の鋼板の組織は、平均結晶粒径10μm 以下のフェライト相を主相として面積率で50%以上含み、第2相としてマルテンサイト相を面積率で3%以上含む微視組織である。
上記した組成と組織を有する本発明の第2の好適態様の鋼板は、引張強さTSが440MPa以上で、歪時効硬化特性に優れるとともに、加工性、および耐衝撃特性に優れた高張力冷延鋼板となる。
本発明鋼板は、基本的に、上記した範囲内の組成を有する、すなわち、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上である組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度: 750℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に所定の温度で所定の時間保持する焼鈍を行い、ついで所定の冷却速度で冷却を行う冷延板焼鈍工程とを、順次施すことにより製造される。
スラブ加熱温度:1000℃以上
スラブ加熱温度は、初期状態として、必要かつ十分な固溶N量を確保し、製品での固溶N量の目標値(0.0010%以上)を満たすために、1000℃以上とするのが好ましい。なお、酸化重量の増加に伴うロスの増大を避ける観点から、スラブ加熱温度は1280℃以下とするのが好ましい。
ついで、シートバーを仕上圧延して熱延板とする。
なお、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延することが好ましい。接合手段としては、圧接法、レーザ溶接法、電子ビーム溶接法などを用いるのが好ましい。
また、従来のシートバー毎の単発圧延では通板性や噛込み性等の問題により実施が難しかった薄物・広幅に対する潤滑圧延が容易に実施できるようになり、圧延荷重およびロール面圧が低減してロールの寿命が延長する。
仕上圧延出側温度FDTは、鋼板の組織を均一かつ微細とするために、800 ℃以上とする。FDTが800 ℃を下回ると、組織が不均一となり、一部に加工組織が残留したりする。このような加工組織の残留は、巻取温度を高温とすることにより回避できる。しかし、巻取温度を高温にすると、粗大結晶粒が発生し、また固溶N量も大きく低下するため、目標の引張強さであるTS440MPa以上を得ることが困難となる。なお、機械的性質をさらに改善させるには、FDTは820 ℃以上とするのが望ましい。また、圧延温度の上がりすぎによるスケール疵等の発生を防止する観点からは、FDTは1000℃以下とするのが好ましい。仕上圧延後は結晶粒の微細化と固溶N量の確保のため、早期に鋼板を冷却するのが望ましい。
本発明では、仕上圧延終了後直ちに(0.5 秒以内に)冷却を開始し、冷却中の平均冷却速度を40℃/s以上とするのが望ましい。この条件を満足させることにより、AlN が析出する高温域を急冷でき、固溶状態のNを有効に確保できる。この冷却開始時間または冷却速度が、上記条件を満足しない場合には、粒成長が進みすぎて結晶粒径の微細化が達成しにくいうえ、圧延で導入された歪エネルギーによるAlN の析出が進みすぎて固溶N量が欠乏する恐れが増大する。なお、材質・形状の均一性を確保する観点からは、冷却速度は300 ℃/s以下に抑えるのが好ましい。
巻取温度CTの低下につれて、鋼板強度が増加する傾向を示す。目標の引張強さTS440MPa以上を確保するためには、CTは750 ℃以下とするのが好ましい。なお、CTが200 ℃未満では鋼板形状が乱れやすくなり、実操業上、不具合を生じる危険性が高く、材質の均一性が低下する傾向を示す。このため、CTは200 ℃以上とするのが望ましい。なお、より材質の均一性が要求される場合には、CTは300 ℃以上とするのが好ましい。なお、より好ましくは450 ℃以上である。
酸洗の条件は通常公知の条件でよく、とくに限定されない。なお、熱延板のスケールが極めて薄い場合には、酸洗を施すことなく直ちに冷間圧延を行ってもよい。
また、冷間圧延条件は、通常公知の条件でよく、とくに限定されない。なお、組織の均一性確保という観点から冷間圧下率は40%以上とするのが好ましい。
また、冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:1.0 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。冷延板焼鈍工程後に調質圧延またレベラー加工を施すことにより、BH量、ΔTS量といった歪時効硬化特性を安定して向上することができる。調質圧延またはレベラー加工における伸び率は合計で1.0 %以上とするのが好ましい。伸び率が1.0 %未満では歪時効硬化特性の向上が少なく、一方、伸び率が15%を超えると、鋼板の延性が低下する。なお、調質圧延とレベラー加工ではその加工様式が相違するが、本発明者らは、鋼板の歪時効硬化特性に対する効果には大きな相違がないことを確認している。
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
を含有し、 好ましくは、残部Feおよび不可避的不純物からなるスラブを使用し、、上記した熱間圧延工程と、上記した冷間圧延工程を経て冷延板とした後、該冷延板に再結晶温度以上900 ℃以下の温度で保持時間:10〜60sとする焼鈍を行い、ついで500 ℃以下の温度域まで冷却速度:10〜300 ℃/sで冷却する一次冷却と、ついで前記一次冷却の停止温度以下400 ℃以上の温度域での滞留時間を300 s以下とする二次冷却とを行う冷延板焼鈍工程を順次施す。
連続焼鈍温度:再結晶温度以上で900 ℃以下
連続焼鈍の焼鈍温度は再結晶温度以上とすることが好ましい。
連続焼鈍温度での保持時間は、組織の微細化、所望以上の固溶N量を確保する観点から、できるだけ短時間とするのが好ましいが、操業の安定性からは10s以上とするのが望ましい。保持時間が60sを超えると、組織の微細化、固溶N量の確保が困難となる。このため、連続焼鈍温度における保持時間は10〜60sの範囲とするのが好ましい。
連続焼鈍における均熱後の冷却は、組織の微細化、固溶N量の確保の観点から重要であり、本発明では一次冷却として、500 ℃以下の温度域まで10〜300 ℃/sの冷却速度で連続冷却する。冷却速度が10℃/s未満では、均一で微細な組織と所望量以上の固溶Nの確保が困難となる。一方、冷却速度が300 ℃/sを超えると、鋼板の幅方向での材質の均一性が不足する。10〜300 ℃/sの冷却速度で冷却した際の冷却停止温度が、500 ℃超えの温度では、組織の微細化が達成できない。
一次冷却後の二次冷却が、歪時効硬化特性の観点から重要となる。詳細な機構については、現在のところ不明であるが、二次冷却の条件によって、固溶C、N量が変化し歪時効特性に影響しているものと推察される。本発明では、一次冷却に続いて、冷却を継続し、一次冷却の停止温度以下400 ℃以上の温度域での滞留時間を300 s以下とする冷却を行うことが好ましい。本発明では、連続焼鈍後、いわゆる過時効処理を行ってもよいが、過時効処理を行うと歪時効硬化特性が低下する。したがって、本発明では、連続焼鈍炉の過時効帯を通板させる場合には、過時効帯の温度を極めて低い温度として行うことが望ましい。なお、本発明の第1の好適態様では上記した調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちから選ばれた1群または2群以上を含み、好ましくは残部Feおよび不可避的不純物からなるスラブを使用し、上記した熱間圧延工程と、上記した冷間圧延工程を経て冷延板とした後、該冷延板に、(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の温度で保持時間:10〜 120sとする焼鈍を行い、ついで600 〜300 ℃間の平均冷却速度を次(1)または(2)式
B<0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.95……(1)
B≧0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.40……(2)
(ここに、CR:冷却速度(℃/s)、Mn、Mo、Cr、Si、P、Cu、Ni:各元素含有量(質量%))
で定義される臨界冷却速度CR以上として冷却を行う冷延板焼鈍工程とを、順次施す。
本発明の第2の好適態様における冷延板焼鈍工程の限定理由について説明する。
焼鈍温度:(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)
焼鈍は、生産性の観点から連続焼鈍とするのが好ましい。焼鈍処理では、(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の2相域の温度に加熱する。2相域に加熱することにより、オーステナイト(γ)相とフェライト(α)相の2相となりγ相にCが濃化して、冷却中にγ相がマルテンサイト相へ変態し、第2相を形成してα+マルテンサイトの複合組織となる。これにより、延性、加工性が向上し、低降伏比が実現する。
焼鈍保持時間:10〜120 s
焼鈍温度における保持時間は10〜 120sとするのが好ましい。焼鈍温度での保持時間は、組織の微細化、固溶N量を確保する観点から、できるだけ短時間とするのが好ましいが、操業の安定性からは10s以上とするのが望ましい。保持時間が 120sを超えると、組織の微細化、固溶N量の確保が困難となる。
均熱後の冷却:600 〜300 ℃間の平均冷却速度を臨界冷却速度CR以上
焼鈍における均熱後の冷却は、組織の微細化、固溶N量の確保およびマルテンサイト形成の観点から重要であり、本発明では、600 〜300 ℃間の平均冷却速度を、合金元素量に応じた次(1) または(2)式
B<0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.95……(1)
B≧0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.40……(2)
(ここに、CR:冷却速度(℃/s)、Mn、Mo、Cr、Si、P、Cu、Ni:各元素含有量(質量%))
で定義される臨界冷却速度CR以上として冷却を行う。なお、(1)、(2)式では、含有しない元素については0として計算するものとする。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これらスラブを表2に示す条件で加熱し、粗圧延して表2に示す厚さのシートバーとし、ついで表2に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。なお、一部については、仕上圧延で潤滑圧延を行った。
得られた冷延焼鈍板について、固溶N量、微視組織、引張特性、成形性、歪時効硬化特性、耐疲労特性および耐衝撃特性を調査した。
(1)固溶N量の調査
固溶N量は、化学分析により求めた鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求めた。析出N量は、上記した定電位電解法を用いた分析法により求めた。
(2)微視組織
各冷延焼鈍板から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトの組織分率および第2相の種類あるいはさらに組織分率を求めた。
(3)引張特性
各冷延焼鈍板からJIS 5号試験片を圧延方向に採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して歪速度:3×10-3/sで引張試験を実施し、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを求めた。
(4)成形性
成形性の指標としてr値を求めた。
r=ln(w/w0 )/ln(t/t0 )
(ここで、w0 、t0 は試験前の試験片の幅および板厚であり、w、tは試験後の試験片の幅および板厚である。)
から各方向のr値を求め、次式
rmean=(rL +2 rD +rc )/4
により平均r値rmeanを求めた。ここで、rL は、圧延方向(L方向)のr値であり、rD は、圧延方向(L方向)に対し45°方向(D方向)のr値であり、rc は、圧延方向(L方向)に対し90°方向(C方向)のr値である。
(5)歪時効硬化特性
各冷延焼鈍板からJIS 5号試験片を圧延方向に採取し、予変形としてここでは5%の引張予歪を与えて、ついで170 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理を施したのち、歪速度:3×10-3/sで引張試験を実施し、予変形−塗装焼付処理後の引張特性(降伏応力YSBH、引張強さTSBH)を求め、BH量=YSBH−YS5%、ΔTS=TSBH−TSを算出した。なお、YS5%は、製品板を5%予変形したときの変形応力であり、YSBH、TSBHは予変形−塗装焼付処理後の降伏応力、引張強さであり、TSは製品板の引張強さである。
(6)耐疲労特性
各冷延焼鈍板から疲労試験片を圧延方向に採取し、JIS Z 2273の規定に準拠して、最小応力:0MPa とする引張疲労試験を実施し、疲労限(繰り返し数:107 回)σFLを求めた。また、予変形として5%の引張予歪を与えて、ついで170 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理を施したのち、同様の疲労試験を実施し疲労限(σFL)BHを求め、予変形−塗装焼付処理による耐疲労特性の向上代((σFL)BH−σFL)を評価した。
(7)耐衝撃特性
各冷延焼鈍板から衝撃試験片を圧延方向に採取し、「Journal of the Society of Materials Science Japan, 10(1998), p1058」に記載された高速引張試験方法に準拠して、歪速度:2×103 /sで高速引張試験を実施し、応力−歪曲線を測定した。得られた応力−歪曲線を用いて、応力を歪0〜30%の範囲で積分して吸収エネルギーEを求めた。また、予変形として5%の引張予歪を与えて、ついで170 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理を施したのち、同様の衝撃試験を実施し、吸収エネルギーEBHを求め、予変形−塗装焼付処理による耐衝撃特性の向上代EBH/Eを評価した。
これらの結果を表3に示す。
なお、No. 11、No. 13の鋼板表面に、溶融亜鉛めっきを施しためっき鋼板の特性は、めっき前の特性と殆ど変化はなかった。
また、本発明例である鋼板No.1と比較例である鋼板No.5について、時効条件を種々変更して歪時効硬化特性を調査した。その結果を表4に示す。なお、試験方法は、時効温度、時効時間のみを変更し、 他は同様とした。
(実施例2)
表5に示す組成になる鋼を、実施例1と同様の方法でスラブとなし、該スラブを表6に示す条件で加熱し、粗圧延して25mm厚のシートバーとし、ついで表6に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。なお、粗圧延後で仕上圧延入側で相前後するシートバー同士を溶融圧接法で接合して連続圧延した。また、シートバーの幅端部、長さ方向端部を誘導加熱方式のシートバーエッジヒータ、シートバーヒータを使用してシートバーの温度を調節した。
得られた冷延焼鈍板について、実施例1と同様に固溶N量、微視組織、引張特性、成形性、歪時効硬化特性、耐疲労特性および耐衝撃特性を調査した。
(実施例3)
表8に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法でスラブとした。これらスラブを表9に示す条件で加熱し、粗圧延して表9に示す厚さのシートバーとし、ついで表9に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。なお、一部については(鋼板No.5-2、No.5-3)、仕上圧延で潤滑圧延を行った。また一部については、粗圧延後で仕上圧延入側で相前後するシートバー同士を溶融圧接法で接合して連続圧延した。また、シートバーの幅端部、長さ方向端部を誘導加熱方式のシートバーエッジヒータ、シートバーヒータを使用してシートバーの温度を調節した。
得られた冷延焼鈍板について、実施例1と同様の方法で、固溶N量、微視組織、引張特性、成形性、歪時効硬化特性、および耐衝撃特性を調査した。
Claims (14)
- 質量%で、
C:0.15%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.02%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含む組織とを有することを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群の1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の高張力冷延鋼板。
記
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 質量%で、
C:0.15%以下、 Mn:3.0 %以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、さらに、Mo:0.05〜1.0 %、Cr:0.05〜1.0 %のうちの1種または2種を含有し、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態のNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm以下のフェライト相を面積率で50%以上含み、さらにマルテンサイト相を面積率で3%以上含む組織とを有することを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記j群〜m群のうちの1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項3に記載の高張力冷延鋼板。
記
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 前記高張力冷延鋼板が板厚3.2 mm以下のものである請求項1ないし4のいずれかに記載の高張力冷延鋼板。
- 請求項1ないし5のいずれかに記載の高張力冷延鋼板に電気めっきまたは溶融めっきを施してなる高張力冷延めっき鋼板。
- 質量%で、
C:0.15%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.02%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、かつN/Alが0.3 以上であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に再結晶温度以上900 ℃以下の温度で保持時間:10〜60sとする焼鈍を行い、ついで500 ℃以下の温度域まで冷却速度:10〜300 ℃/sで冷却する一次冷却と、ついで前記一次冷却の停止温度以下400 ℃以上の温度域での滞留時間を300 s以下とする二次冷却とを行う冷延板焼鈍工程とを、順次施すことを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板の製造方法。 - 前記鋼スラブが、前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群のうちから選ばれた1群または2群以上を含む組成とすることを特徴とする請求項7に記載の高張力冷延鋼板の製造方法。 記
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 質量%で、
C:0.15%以下、 Mn:3.0 %以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、さらに、Mo:0.05〜1.0 %、Cr:0.05〜1.0 %のうちの1種または2種を含有し、かつN/Alが0.3 以上であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点)の温度で保持時間:10〜120 sとする焼鈍を行い、ついで600 〜300 ℃間の平均冷却速度を下記(1)または(2)式で定義される臨界冷却速度CR以上とする冷却を行う冷延板焼鈍工程とを、順次施すことを特徴とする引張強さ440MPa以上で歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板の製造方法。 記
B<0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.95……(1)
B≧0.0003%の場合
log CR=−1.73〔Mn+2.67Mo+1.3Cr +0.26Si+3.5P+0.05Cu+0.05Ni〕+3.40……(2)
ここに、CR:冷却速度(℃/s)
Mn、Mo、Cr、Si、P、Cu、Ni:各元素含有量(質量%) - 前記鋼スラブが、前記組成に加えてさらに、質量%で、下記j群〜m群のうちから選ばれた1群または2群以上を含む組成とすることを特徴とする請求項9に記載の高張力冷延鋼板の製造方法。 記
j群:Si:0.05〜1.5 %、B:0.0003〜0.01%の1種または2種
k群:Nb:0.01〜0.1 %、Ti:0.01〜0.2 %、V:0.01〜0.2 %の1種または2種以 上
l群:Cu:0.05〜1.5 %、Ni:0.05〜1.5 %の1種または2種
m群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 前記仕上圧延後、0.5 s以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことを特徴とする請求項7ないし10のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
- 前記冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:1.0 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施すことを特徴とする請求項7ないし11のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することを特徴とする請求項7ないし12のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することを特徴とする請求項7ないし13のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
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