JP3812279B2 - 加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主として自動車車体用として好適な高加工性高張力めっき鋼板に係り、とくに降伏比(降伏応力/引張強さ)0.7 以上で、かつ引張強さTS440MPa以上を有し、さらに歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、その具体的な用途として、軽度の曲げ加工やロールフォーミングしてパイプに成形されるような比較的軽加工に供されるものから、比較的厳しい絞り成形に供されるものまで広範囲の用途に適する製品であり、とくに比較的小さな歪しか加わらない部分が多い成形部品への適用に有利である。なお、本発明における鋼板は、鋼板に加えて鋼帯をも含むものとする。
【0002】
また、本発明でいう「歪時効硬化特性に優れる」とは、引張歪2%の予変形後、170 ℃の温度で20min 保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(BH量と記す;BH量=(時効処理後の降伏応力)−(時効処理直前の予変形応力))が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理( 前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=(時効処理後の引張強さ)−(予変形前の引張強さ))が40MPa 以上であることを意味する。
【0003】
【従来の技術】
昨今の地球環境問題から排出ガス規制に関連し、車体重量の低減は極めて重要な課題である。車体重量軽減のためには鋼板の強度を増加させて、すなわち高張力鋼板を適用して、鋼板の板厚を低減することが有効である。
しかし、高張力鋼板を使用する対象となる自動車部品を考えると、必要十分な部品としてのパフォーマンスを確保することが必須である。それらは部品ごとに異なるが、一例としては、曲げ、ねじり変形に対する静的強度、疲労強度、耐衝撃特性などである。これらの特性は成形加工後の特性に関係するものであり、したがって、薄肉化を達成するには、使用する高張力鋼板が、成形加工後にかかる特性に優れることが要求される。
【0004】
一方、部品を作る過程においては、鋼板に対してプレス成形が行われるが、強度の高い鋼板を使用する場合には、
▲1▼鋼板の強度が増加するため、形状凍結性が低下する、
▲2▼鋼板の延性が低下するため、成形時に割れやネッキングなどの不都合を生じる、
▲3▼耐デント特性(局部的な圧縮荷重負荷により生じる凹みに対する抵抗性)が低下する、
などの問題がある。これらは、いずれも自動車車体に対する高張力鋼板の適用を妨げるものであった。
【0005】
これを打開するための手段として、外板パネル用の冷間圧延鋼板においては、例えば極低炭素鋼を素材とし、最終的に固溶状態で残存するC量を適正範囲に制御した鋼板の製造方法が知られている。
この方法は、プレス成形時には軟質でプレス成形時の形状凍結性の低下を生じることなく、プレス成形後に行われる 170℃×20min 程度の塗装焼付け工程で起こる歪時効硬化現象を使い、部品強度として重要な耐デント特性を確保するものである。しかし、この方法では、表面欠陥となるストレチャーストレインの発生を防止するという観点から、歪時効硬化による強度上昇量は小さいものであり、実際の鋼板の薄肉化に寄与するところは小さいという難点があった。
【0006】
一方、外観があまり問題にならない用途に対しては、固溶Nを用いて焼付硬化量をさらに増加させた鋼板や、組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることで焼付硬化性をより一層向上させた鋼板が提案されている。
しかしながら、これら鋼板では、塗装焼付け後に降伏強さが上昇し従来になかった高い焼付硬化量が得られるものの、引張強さまでは上昇させることができず、また、降伏応力YSの増加量も大きくばらつくなど機械的性質の変動も大きいため、自動車部品の軽量化に寄与できるほどの鋼板の薄肉化が期待できない。また、強度部材に適用した場合、成形後の耐疲労特性、耐衝撃特性の向上が期待できない。このため、耐疲労特性、耐衝撃性等が強く要求される用途への適用ができないという問題が残されていた。
【0007】
また、特公平8-23048 号公報には、組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とした熱延鋼板が提案されている。組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることにより、大きな塗装焼付硬化性が得られるとしている。しかし、特公平8-23048 号公報に記載された技術では、歪時効硬化により引張強度は増加するものの、極めて低い巻取り温度を採用しているため、降伏応力の増加量のばらつきが大きく、また機械的性質の変動も大きいという問題があった。さらに板厚 2.0mm以下の薄肉鋼板を製造する場合には、鋼板の形状が大きく乱れるため、プレス成形が著しく困難となるという問題点があった。
【0008】
さらに、上記した従来の鋼板では、単純な引張試験による塗装焼付処理後の強度評価では優れているものの、実プレス条件にしたがって塑性変形させたときの強度に大きなばらつきが存在し、信頼性が要求される部品に適用するには必ずしも十分とはいえなかった。
一方、自動車部品は、適用部位によっては高い耐食性が要求され、このため、溶融亜鉛めっき鋼板、あるいは合金化溶融亜鉛めっき鋼板が必要となる。
【0009】
したがって、自動車車体の軽量化および高強度化をより一層推進するためには、耐食性に優れ、しかも延性、さらには歪時効硬化特性に優れる高張力溶融亜鉛めっき鋼板が必要不可欠な素材となる。
多くの連続溶融亜鉛めっきラインは、焼鈍設備とめっき設備を連続化して設置している。この連続化されためっき工程の存在により、焼鈍後の冷却はめっき温度で中断され、工程を通じた平均冷却速度も必然的に小さくなる。したがって、連続溶融亜鉛めっきラインで製造される鋼板では、冷却速度の大きい冷却条件下で生成するマルテンサイトをめっき後の鋼板中に含有させることは難しくなる。
【0010】
このような要望に対し、例えば、特開平10-310824 号公報、特開平10-310847 号公報には、C:0.01〜0.08%、Si:0.005 〜1.0 %、Mn:0.01〜3.0 %、Al:0.001 〜0.1 %、N:0.0002〜0.01%を含み、さらにW、Cr、Moの1種または2種以上を合計量が0.05〜3.0 %含有し、組織がフェライトあるいはフェライトを主体とする成形後強度上昇熱処理性能を有する合金化溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法が開示されている。ここでいう、成形後強度上昇熱処理性能とは、2%以上の歪が加わる成形加工後、200 〜450 ℃で加熱する熱処理を施して、熱処理前の引張強さに比べ、熱処理後の引張強さが増加する性能をいう。
【0011】
しかしながら、特開平10-310824 号公報、特開平10-310847 号公報に記載された技術で製造された鋼板では、塗装焼付け処理を従来(170 ℃)より高い200 〜450 ℃という温度で行う必要があり、部品製造の生産性が低下し経済的に不利となるという問題があった。
一方、フロントサイドメンバーのような曲げ加工が施される部位では、良好な耐スプリングバック性が要求され、上記した加工性、歪時効硬化特性等に加えて、高い降伏比を有する鋼板が要求される場合がある。これは、比較的少ない歪が付与される部位に適用される鋼板であり、プレス成形加工後にも高い降伏応力と高い引張強さを有し、高い部品強度を安定して確保することが要求される。
【0012】
比較的高い降伏応力を有する高降伏比型高張力鋼板として、Ti、Nb、V等の炭窒化物形成元素を添加し、それらの微細な析出物によって強化する、いわゆる析出強化型鋼板がある。しかし、熱間圧延巻き取り後に、十分保熱される工程を含む熱延鋼板では、析出物を微細に析出させることは可能であるが、冷延鋼板における連続焼鈍工程、あるいは溶融亜鉛めっき鋼板における連続めっきラインでは、均熱時間が短く冷却も速いため十分な析出を進行させることは困難である。したがって、現在まで高い降伏応力を有する高降伏比型高張力冷延鋼板あるいは高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板を製造することは困難であった。とくに、C量が低い領域、あるいは溶接性を考慮してさらにCを低減した場合には、析出物そのものの量が減少するためさらに困難となる。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の問題点を解決し、自動車車体用として、高い部品強度を安定して確保できる、加工性と、歪時効硬化特性に優れる高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板、およびそれらめっき鋼板を安定して製造できる製造方法を提案することを目的とする。
【0014】
【問題を解決するための手段】
本発明者らは、上記した課題を解決するために、溶融亜鉛めっき鋼板の組成、製造方法について鋭意研究した。その結果、従来、高加工性を要求される分野ではあまり積極的に利用されたいなかったNを強化元素として利用し、Nが持つ大きな歪時効硬化現象を有利に活用することにより、プレス成形性の向上とプレス成形後の高強度化とを両立させることができることを知見した。
【0015】
また、Nによる歪時効硬化現象を有利に活用するためには、Nによる歪時効硬化現象を自動車の塗装焼付け条件あるいはさらに積極的にプレス成形後熱処理と有利に結合させる必要があり、そのために、鋼板の微視組織を制御することが極めて有効であることを見いだした。また、Nによる歪時効硬化現象を安定して発現するためには、組成の面では、特にAl含有量を制御することが重要であることも明らかとなった。また、本発明者らは、鋼板の微視組織を、フェライトを主相とし、平均結晶粒径を10μm 以下とすることにより、従来問題であった室温時効劣化の問題もなく、Nを十分に活用できることを見いだした。
【0016】
すなわち、本発明者らは、Nbを含有し、さらにNを強化元素として用い、Al含有量をN含有量に応じ適正な範囲に制御するとともに、熱延条件、溶融亜鉛めっき処理前の熱処理条件を適正化して、微視組織と固溶N量を最適化することにより、従来の固溶強化型のC−Mn系鋼板、析出強化型鋼板にくらべて、格段に優れた成形性と、上記した従来にない大きな塗装焼付硬化量が得られる歪時効硬化特性と、0.7 以上の高降伏比と、を有する高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板が得られることを見いだした。
【0017】
本発明は、上記した知見に基づいて完成されたものである。
すなわち、第1の本発明は、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、前記鋼板が、質量%で、C:0.20%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%、Nb:0.005 〜0.50%を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態としてのNが0.0010%以上含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm 以下のフェライト相を面積率で50%以上含む組織とを有し、降伏比0.7 以上でかつ引張強さ440MPa以上を有することを特徴とする加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板であり、第1の本発明では、前記組成に加えてさらに、質量%で、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で5.0 %以下
b群:Ti、Vの1種または2種を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
から選ばれた1群または2群以上を含むことが好ましい。
【0018】
第2の本発明は、質量%で、C:0.20%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%、Nb:0.005 〜0.50%を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに次a群〜d群
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 %
の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち冷却するめっき工程とを、順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であり、また第2の本発明では、前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことが好ましく、また第2の本発明では、前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことが好ましい。
【0019】
また、第2の本発明では、前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましく、また第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
【0020】
第3の本発明は、質量%で、C:0.20%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%、Nb:0.005 〜0.50%を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに次a群〜d群
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 %
の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち冷却するめっき工程とを、順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であり、また第3の本発明では、前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことが好ましく、また第3の本発明では、前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことが好ましい。
【0021】
また、第3の本発明では、前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましく、また第3の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また第3の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
【0022】
また、第4の本発明は、質量%で、C:0.20%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%、Nb:0.005 〜0.50%を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに次a群〜d群
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 %
の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、470 ℃〜(Ac1変態点)の温度に加熱し前記溶融亜鉛めっき層の合金化を行ったのち冷却する合金化処理工程と、を順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であり、また、第4の本発明では、前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことが好ましく、また、第4の本発明では、前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことが好ましい。
【0023】
また、第4の本発明では、前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましく、また第4の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また第4の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
【0024】
また、第5の本発明は、質量%で、C:0.20%以下、Si:2.0 %以下、Mn:3.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%、Nb:0.005 〜0.50%を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに次a群〜d群
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 %
の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、470 ℃〜(Ac1変態点)の温度に加熱し前記溶融亜鉛めっき層の合金化を行ったのち冷却する合金化処理工程と、を順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法であり、また、第5の本発明では、前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことが好ましく、また、第5の本発明では、前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことが好ましい。
【0025】
また、第5の本発明では、前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましく、また第3の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また第5の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板は、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板である。まず、本発明の高張力溶融亜鉛めっき鋼板の化学成分の限定理由について説明する。なお、質量%は、以下、単に%で記す。
【0027】
C:0.20%以下
Cは、鋼板の高強度化に必須の元素であり、0.010 %以上の含有が望ましいが、0.20%を超えて含有すると、鋼中の炭化物分率が増加し、鋼板の延性、さらにはプレス成形性が顕著に低下する。また、C:0.20%を超える含有は、スポット溶接、あるいはアーク溶接等の溶接性が顕著に低下する。このようなことから、Cは0.20%以下とする。なお、プレス成形性の観点からは0.08%以下が好ましい。。とくに良好な延性が必要となる用途に対しては、0.05%以下とするのがより好ましい。
【0028】
Si:2.0 %以下
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な元素であり、0.1 %以上の含有が望ましいが、2.0 %を超える含有は、表面性状、めっき性など、表面の美麗性が損なわれる。このため、Siは2.0 %以下に限定する。なお、引張強さTSが500MPaを超える高強度鋼板では、強度−延性バランスの観点から、Siは0.3 〜1.5 %の範囲とするのが望ましい。
【0029】
Mn:3.0 %以下
MnはSによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて添加するのが望ましく、またMnは結晶粒の微細化に対し大きな効果があり、積極的に添加して材質改善に利用するのが好ましい。Sを安定して固定するという観点からは、0.2 %程度以上含有するのが望ましい。なお、TS500MPa超級の強度が要求される場合には、1.2 %以上とするのが望ましい。なお、より望ましくは1.5 %以上である。Mn含有量をこのレベルまで高めると、熱延条件の変動に対する鋼板の機械的性質、とくに本発明が目的とする歪時効硬化特性のばらつき(変動)が顕著に改善されるという大きな利点がある。
【0030】
しかし、Mnを3.0 %を超えて過度に含有すると、詳細な機構は不明であるが鋼板の熱間変形抵抗を増加させる傾向があり、さらに、溶接性、溶接部の成形性、めっき性も悪化する傾向となり、またフェライトの生成が顕著に抑制され、延性が顕著に低下する傾向となる。このようなことから、Mnは3.0 %以下に限定する。なお、より良好な耐食性と成形性とが要求される用途では、Mnは0.80%以下とするのが望ましい。
【0031】
また、Mnは変態点を低下させる望ましい効果があるため、Siとともに含有することにより、Si含有による変態点の上昇を相殺することができる。特に板厚が薄い製品の場合には、品質・形状が敏感に変わるため、MnとSiの含有量をバランスさせることが特に必要となる。
P:0.08%以下
Pは鋼の固溶強化元素として有効であるが、過度に含有すると鋼を脆化させ、さらに鋼板の伸びフランジ加工性、めっき性、耐パウダリング性を悪化させる。また、Pは鋼中で偏析する傾向が強いためそれに起因した溶接部の脆化をもたらす。このため、Pは0.08%以下に限定した。なお、伸びフランジ加工性、溶接部靱性が特に重要視される場合は0.04%以下とするのが好ましい。
【0032】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性を減少させ、さらに耐食性の劣化をもたらす元素であり、本発明ではSは0.02%以下とした。なお、特に良好な加工性が要求される用途においては、0.015 %以下とすることが望ましい。特に伸びフランジ加工性はS量に敏感であるため、優れたフランジ加工性が要求される場合はSは0.008 %以下とすることが望ましい。また、詳細な機構は不明であるが、歪時効硬化特性を安定して高いレベルに維持するためには、Sを0.008 %以下まで低減することが有効である。
【0033】
Al:0.02%以下
Alは、鋼の脱酸元素として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また鋼の組織微細化のためにも有用な元素である。本発明においては、Nを強化元素として利用するが、適正量のAlを含有したアルミキルド鋼のほうが、アルミを添加しない従来のリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。
【0034】
Al含有量が過剰に多くなると、表面性状の悪化、固溶Nの顕著な低下につながり、本発明の目的である極めて大きな歪時効硬化特性を確保することが困難となる。このため、本発明ではAlは従来より低い0.02%以下に限定した。なお、材質の安定性という観点では、Alは0.001 〜0.015 %とするのが望ましい。また、Al含有量の低減は結晶粒の粗大化につながる懸念があるが、本発明では他の合金元素を最適量に調整し、さらに、焼鈍条件を最適な範囲とすることにより防止できる。
【0035】
N:0.0050〜0.0250%
Nは、固溶強化と歪時効硬化により鋼板の強度を増加させる元素であり、本発明においては最も重要な添加元素である。また、Nは、鋼の変態点を降下させる作用も有しており、薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延をしたくないという状況下ではその含有は有効である。本発明では、適正範囲のNを含有し、製造条件を制御することにより、めっき製品で必要かつ十分な固溶状態のNを確保し、それによって、固溶強化と歪時効硬化での強度(降伏応力YSおよび引張強さTS)上昇効果が得られ、目標とするTS440MPa以上、焼付硬化量(BH量)80MPa 以上、歪時効処理前後での引張強さの増加量ΔTS40MPa 以上が安定して得られる。
【0036】
N含有量が0.0050%未満では、上記の強度上昇効果が安定して得られにくい。一方、0.0250%を超えて含有すると、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどの発生が顕著となる。このため、Nは0.0050〜0.0250%の範囲に限定した。なお、製造工程全体を考慮した材質の安定姓・歩留り向上という観点からは、Nは0.0070〜0.0170%の範囲が望ましい。なお、本発明の範囲内のN量であれば、溶接性への悪影響は全くない。
【0037】
固溶状態のN:0.0010%以上
めっき鋼板で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬化が有効に発揮されるには、固溶状態のN(固溶Nともいう)は概ね0.0010%以上である必要がある。
なお、ここで固溶N量は、鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求めるものとする。なお、析出N量の分析方法としては、種々の方法を検討したが、定電位電解法を用いた電解抽出分析法により求めるのが有効である。なお、抽出分析に用いる地鉄を溶解する方法として、酸分解法、ハロゲン法および電解法がある。この中で、電解法は炭化物、窒化物などの極めて不安定な析出物を分解することなく、安定して地鉄のみを溶解できる。電解液としては、アセチル・アセトン系を用いて定電位にて電解する。本発明では、定電位電解法を用いて析出N量を測定した結果が、実際の部品強度ともっともよく対応した。
【0038】
このようなことから、本発明では定電位電解法により抽出した残渣を化学分析して残渣中のN量を求め、これを析出N量とする。
なお、より高いBH量、ΔTSが必要な場合には、固溶Nを0.0020%さらには0.0030%以上とするのが有効である。
Nb:0.005 〜0.50%
Nbは、炭化物、窒化物を形成し結晶粒を微細化する作用を有する元素であり、本発明において、重要な元素の一つである。本発明ではNbを0.005 %以上含有させ、結晶粒を顕著に微細化し、これにより、Nによる大きな歪時効硬化現象を発現させる。しかし、Nbが過剰に含有されると、固溶Nを有効に残留させるのが困難となる。そのため、Nbの含有量はその上限が制限される。本発明では、他の合金元素量と勘案して、Nbは0.50%以下とする必要がある。なお、より好ましくは0.010 〜0.20%である。
【0039】
N/Alの比:0.3 以上
製品状態で固溶Nを0.0010%以上安定して残留させるためには、Nを強力に固定する元素であるAlの含有量を制限する必要がある。NとAl含有量の組み合わせを幅広く変化させた鋼塊を準備し、熱間圧延−冷間圧延−めっき処理後に固溶状態で残存するN量について調査した。その結果、本発明鋼板の組成範囲ではN/Alの値を0.3 以上とすることが、安定して固溶N量を0.0010%以上残留させるために必要であり、これにより目標とする歪時効硬化が発揮されることを確認した。このようなことから、本発明では、N含有量とAl含有量の比、N/Alを0.3 以上とする。
【0040】
本発明では、上記した組成に加えてさらに、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で5.0 %以下
b群:Ti、Vの1種または2種を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちから選ばれた1群または2群以上を含有するのが好ましい。なお、a群〜d群のうちの1群のうちの各元素を単独または複合しても、または2群以上の元素を複合して含有しても、それぞれの元素の好ましい効果は相殺されることはない。
【0041】
a群の元素:Cu、Ni、Cr、Moは、いずれも鋼板の強度上昇に寄与する元素であり、必要に応じ選択して単独または複合して含有できる。しかし、含有量が多すぎると熱間変形抵抗が増加し、あるいは化成処理性や広義の表面処理特性が悪化するうえ、溶接部が硬化し溶接部成形性が劣化する。このため、a群の元素は合計で5.0 %以下とするのが好ましい。
【0042】
b群の元素:Ti、Vは、いずれも結晶粒の微細化・均一化に寄与する元素であり、必要に応じ選択して単独または複合して含有できる。しかし、含有量が多すぎると、熱間変形抵抗が増加し、化成処理性や広義の表面処理特性が悪化する。また、含有量が多すぎると、溶接部を硬化させ、溶接部の成形性を悪化させる。このため、b群の元素は合計で0.1 %以下とするのが好ましい。
【0043】
c群の元素:Bは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有する元素であり、鋼の強度を増加させる目的で必要に応じ含有することができる。しかし、量が多すぎると熱間変形能が低下し、BNを生成することで固溶Nを低減させる。このため、Bは0.0030%以下とするが好ましい。
d群の元素:Ca、REM は、いずれも介在物の形態制御に役立つ元素であり、特に伸びフランジ加工性の要求がある場合には、単独または複合して含有するのが好ましい。その場合、d群の元素の合計で、0.0010%未満では介在物の形態制御効果が不足し、一方、0.010 %を超えると表面欠陥の発生が目立つようになる。このため、d群の元素は合計で0.0010〜0.010 %の範囲に限定するのが好ましい。
【0044】
ついで、鋼板の組織について説明する。
フェライト相の面積率:50%以上
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、高度な加工性が要求される自動車用鋼板等の用途を目的としており、延性を確保するために、フェライト相を面積率で50%以上を含む組織とする。フェライト相の面積率が50%未満では、高度な加工性が要求される自動車用鋼板として必要な延性を確保することが困難となる。さらに良好な延性が要求される場合は、フェライト相の組織分率は面積率で75%以上100 %以下とするのが望ましい。
【0045】
フェライト相の平均結晶粒径:10μm (0.01mm)以下
本発明では、結晶粒径として、断面組織写真からASTMに規定された求積法により算出した値と、同じく切断法により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理,vol24(1984),p.334 参照)のうち、いずれか大きい方を採用する。本発明では、製品段階で所定量の固溶Nを確保しているが、同一量の固溶Nを確保しても、歪時効特性にばらつきが生じ、その主たる要因の一つが結晶粒径であることが明らかになった。したがって、安定した歪時効硬化特性を得るためには、フェライト相の平均結晶粒径を少なくとも10μm 以下、望ましくは8μm 以下とする必要がある。この詳細な機構は現在のところ不明であるが、結晶粒界への合金元素の偏析と析出、さらにはこれらに及ぼす加工、熱履歴の影響が関係しているものと推定される。
【0046】
なお、本発明では、フェライト相以外の第2相(残部)は、とくに限定されにいが、パーライト、ベイナイト、マルテンサイト、残留オーステナイト、セメンタイトのうちの1種または2種以上としてもよく、いずれの場合でも十分に大きな歪時効硬化特性を得ることができる。歪時効硬化特性の観点からは、マルテンサイトとするのが有利である。
【0047】
上記した組成と組織を有する本発明の溶融亜鉛めっき鋼板(本発明鋼板)は、引張強さTSが440MPa以上で、歪時効硬化特性に優れためっき鋼板である。
TSが440MPaを下回る鋼板では、構造部材的な要素をもつ部材に広く適用することができない。また、さらに適用範囲を拡げるにはTSは500MPa以上とするのが望ましい。
【0048】
本発明において、「歪時効硬化特性に優れた」とは、上記したように、引張歪2%の予変形後、170 ℃の温度に20min 保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(BH量と記す;BH量=時効処理後の降伏応力−時効処理直前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=(時効処理後の引張強さ)−(予変形前の引張強さ)が40MPa 以上であることを意味する。
【0049】
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量が重要な因子となる。本発明者らは、自動車用鋼板に適用される変形様式を想定して、歪時効硬化特性に及ぼす予歪量の影響について調査し、その結果、▲1▼前記変形様式における変形応力は、極めて深い絞り加工の場合を除き、概ね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、▲2▼実部品ではこの1軸相当歪量が概ね2%を上回っていること、▲3▼部品強度が、予歪2%の歪時効処理後に得られる強度(YSおよびTS)と良く対応することを突き止めた。この知見をもとに、本発明では、歪時効処理の予変形を引張歪2%に定めた。
【0050】
従来の塗装焼付け処理条件は、170 ℃×20min が標準として採用されている。なお、多量の固溶Nを含む本発明鋼板に2%以上の歪が加わる場合は、より緩やかな(低温側の)処理でも硬化が達成され、言い換えれば時効条件をより幅広くとることが可能である。また、一般に、硬化量を稼ぐには、過度の時効で軟化させない限りにおいて、より高温で、より長時間保持することが有利である。
【0051】
具体的に述べると、本発明鋼板では、予変形後に硬化が顕著となる加熱温度の下限は概ね100 ℃である。一方、加熱温度が300 ℃を超えると硬化が頭打ちとなり、逆にやや軟化する傾向が現れるほか、熱歪やテンパーカラーの発生が目立つようになる。また、保持時間については、加熱温度200 ℃程度のとき概ね30s程度以上とすれば略十分な硬化が達成される。さらに大きな安定した硬化を得るには保持時間60s以上とするのが好ましい。しかし、20min を超える保持では、さらなる硬化を望みえないばかりか、生産効率も著しく低下して実用面では不利である。
【0052】
以上のことから、本発明では、時効処理条件として従来の塗装焼付処理条件の加熱温度である170 ℃、保持時間を20min で評価すると定めた。従来の塗装焼付け型鋼板では十分な硬化が達成されない低温加熱・短時間保持の時効処理条件下でも、本発明鋼板では大きな硬化が安定的に達成される。なお、加熱の仕方はとくに制限されず、通常の塗装焼付けに採用されている炉による雰囲気加熱のほか、たとえば誘導加熱や、無酸化炎、レーザ、プラズマなどによる加熱などのいずれも好ましく用いうる。
【0053】
自動車用の部品強度は外部からの複雑な応力負荷に抗しうる必要があり、それゆえ素材鋼板では小さな歪域での強度特性だけでなく大きな歪域での強度特性も重要となる。本発明者らはこの点に鑑み、自動車部品の素材となすべき本発明鋼板のBH量を80MPa 以上とするとともにΔTS量を40MPa 以上とする。なお、より好ましくはBH量100MPa以上、ΔTS50MPa 以上とする。BH量とΔTS量をより大きくするには、時効処理の際の加熱温度をより高温側に、および/または、保持時間をより長時間側に設定すればよい。
【0054】
また、本発明鋼板は、とくに加速時効を行わなくても、成形後に室温に放置するだけで強度増加が期待できる。成形後の室温放置で完全な時効の概ね40%程度の強度増加が見込まれる。一方、本発明鋼板は、成形加工されない状態では、室温で1年程度の長時間放置されても時効劣化(YSが増加しかつEl(伸び)が減少する現象)は起こらないという、従来にない利点が備わっている。
【0055】
ところで、本発明の効果は製品板厚が比較的厚い場合でも発揮されうるが、製品板厚が3.2mm を超える場合には、冷延板焼鈍工程、あるいはめっき処理工程で必要十分な冷却速度を確保することができず、製品として目標とする歪時効硬化特性が得にくくなる。したがって、本発明鋼板の板厚は3.2 mm以下とするのが好ましい。
【0056】
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
本発明鋼板は、基本的には、上記した範囲内の組成を有するスラブを加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延を施して巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を施す熱延板酸洗工程と、あるいはさらに酸洗済熱延板に冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、前記酸洗済熱延板あるいは前記冷延板に加熱を施す加熱処理工程と、溶融亜鉛めっきを施し冷却するめっき工程と、あるいはさらに合金化処理工程とを、順次施すことにより製造される。
【0057】
本発明の製造方法で使用するスラブは、成分のマクロな偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してよい。また、スラブを製造した後、一旦室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法のほか、スラブを冷却しないで、温片のままで加熱炉に挿入する、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直送圧延や直接圧延等の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。特に固溶状態のNを有効に確保するには、直送圧延は有用な技術の一つである。
【0058】
まず、熱間圧延工程条件の限定理由について説明する。
スラブ加熱温度:1100℃以上
スラブ加熱温度は、初期状態として必要かつ十分な固溶状態のNを確保するという観点から、1100℃以上とするのが好ましい。なお、酸化ロスの増大などから、スラブ加熱温度は1280℃以下とすることが望ましい。
【0059】
上記した条件で加熱されたスラブは、ついで粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件はとくに規定する必要はなく、常法にしたがって行えばよい。しかし、固溶N量の確保という観点からはできるだけ短時間での処理とするのが望ましい。
ついで、シートバーを仕上圧延して熱延板とする。
【0060】
なお、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合し、連続的に仕上圧延することが好ましい。接合手段としては、圧接法、レーザ溶接法、電子ビーム溶接法などを用いるのが好ましい。
これにより、仕上圧延およびその後の冷却において形状の乱れを生じやすい非定常部(被処理材の先端部および後端部)の存在割合が減少し、安定した熱延条件がコイル全長および全幅にわたって達成可能である。また圧延後の鋼板をホットランテーブル上で冷却する場合にも常に張力を鋼板に付与できるため鋼板の形状を良好に保つことが可能である。これは熱延鋼板のみでなく冷延鋼板の断面の形状および寸法を改善するのに極めて有効であり、製品の形状・寸法精度および歩留りが向上する。
【0061】
また、従来のシートバー毎の単発圧延では通板性や噛込み性等の問題により実施が難しかった薄物・広幅に対する潤滑圧延が容易に実施できるようになり、圧延荷重およびロール面圧が低減してロールの寿命が延長する。
また、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間で、シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用してエッジ部を加熱し、シートバーの幅方向および長手方向の温度分布を均一化することが好ましい。なお、シートバーエッジヒータによる幅端部の加熱量は、鋼組成その他で変化するが幅方向温度分布範囲が仕上圧延出側での温度差で概ね20℃以下となるような条件が推奨される。また、シートバーヒーターによる鋼板(コイル)の先後端部の加熱量は中央部に対して概ね+20℃の範囲が材質均一化という観点から推奨される。これにより、鋼板内の材質ばらつきをさらに小さくすることができる。シートバーエッジヒータ、シートバーヒータは誘導加熱方式のものとするのが好ましい。
【0062】
また、圧延荷重を低減するために、熱間圧延の一部または全部を潤滑圧延としてもよい。潤滑圧延とすることは、鋼板形状の均一化、材質の均一化の観点からも有効である。この際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とすることが好ましい。
仕上圧延出側温度:800 ℃以上
仕上圧延出側温度FDTを 800℃以上とすることにより、均一微細な熱延板組織を得ることができる。しかし、FDTが 800℃を下回ると、一部に加工組織が残留し、鋼板の組織が不均一になる。この組織の不均一性はさらに冷延、焼鈍を施しても消えずに残留する。このため、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。また、加工組織の残留を回避すべく、高い巻取り温度を採用すると、粗大粒が発生し同様の不具合を生じ、また固溶N量の顕著な低下も生じるため、目標の引張強さである 440MPa 以上の強度を得ることが困難となる。このようなことから、仕上圧延出側温度FDTを 800℃以上とした。さらに機械的性質を向上させるにはFDTを 820℃以上とするのが望ましい。なお、FDTの上限はとくに規制されないが、FDTが過度に高い場合にはスケール疵などが発生する危険性が大きくなる。このため、概ね1000℃程度までとするのが好ましい。
【0063】
仕上圧延後の冷却:仕上圧延圧延終了後、直ちに( 0.5s以内に)冷却を開始、平均冷却速度40℃/s以上の急冷
本発明では、仕上圧延終了後直ちに( 0.5s以内に)冷却を開始し、冷却中の平均冷却速度を40℃/s以上とするのが望ましい。この条件を満足させることにより、結晶粒径が微細化し、固溶N量も十分な量を確保できる。圧延後は熱間圧延歪により、AlN の析出が促進される傾向にあり、AlN が析出するような高温域をできるだけ速く冷却することにより、AlN の析出が防止でき、有効に固溶状態のNを確保することができるためである。なお、材質と形状の均一性を確保する観点から、冷却速度は概ね 300℃/s以下に抑えるのが好ましい。
【0064】
巻取温度: 750℃以下
熱延巻取温度CTを低下させることで鋼板強度は増加する傾向にある。目標の引張強さTS 440MPa 以上を得るには、CTは 750℃以下とするのが好ましい。なお、CTの下限温度は材質上からは厳しく限定されないが、しかし、CTが 200℃を下回ると鋼板形状が乱れやすくなり、実操業にあたり不具合を生じる危険性が増大し、また、材質の均一性も低下する傾向を示す。このため、巻取温度は 200℃以上 750℃以下とするのが望ましい。さらに高い材質の均一性が要求される場合は 300℃以上とするのがより望ましい。
【0065】
上記した熱間圧延工程を施された熱延板は、ついで、酸洗を施される熱延板酸洗工程を施される。
酸洗の条件は通常公知の条件に準じて行うのがよくとくに限定されない。なお、熱延板のスケールが、極めて薄いスケールの状態であれば直接冷間圧延することも可能である。
【0066】
本発明では、めっき原板は、上記した酸洗済熱延板としても、あるいは冷延板としてもよい。
冷延板は上記した酸洗済熱延板に冷間圧延を施す冷間圧延工程を経て得られる。
冷間圧延条件は、通常公知の条件でよく、とくに限定されない。なお、組織の均一性確保という観点から冷間圧下率は20%以上とするのが好ましい。
【0067】
ついで、熱延板あるいは冷延板は、連続亜鉛めっきラインで加熱処理工程を施される。
加熱処理工程における加熱温度は(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度とするのが好ましい。加熱処理の温度がAc1変態点未満では目標の強度が確保できるものの、延性が極めて低く、自動車用鋼板として適用できない。一方、加熱処理の温度が(Ac3変態点+100 ℃)を超えると、窒化物が析出し固溶Nが減少するため、目標の固溶N量を確保できなくなる。なお、特に高い降伏比が要求される場合には、組織の粗大化、固溶Nの析出進行を防止する観点から、加熱処理の温度を 900℃以下とするのがより好ましい。また、加熱処理における保持時間は、組織の微細化、固溶Nの確保という観点からはできる限り短い方が望ましく、概ね90s以下とするのが望ましい。
【0068】
加熱温度で保持、均熱されたのち、鋼板は冷却される。加熱保持後の冷却は、組織の微細化、固溶Nの確保の観点から重要であり、少なくとも 500℃以下の温度域まで1℃/s以上の平均冷却速度で連続して冷却するのが好ましい。通常、溶融亜鉛めっきは500 ℃付近で行われるため、加熱処理工程後の冷却は、上記した冷却速度で亜鉛の融点付近まで冷却すればよい。平均冷却速度が1℃/s未満では、均一かつ微細な組織と十分な量の固溶Nを得ることができない。なお、鋼板の幅方向での均一な材質を確保するためには、平均冷却速度は 300℃/s以下とするのが好ましい。
【0069】
加熱処理工程を施されたのち亜鉛の融点付近まで冷却された熱延板あるいは冷延板は、ついで連続亜鉛めっきラインの亜鉛浴に浸漬され、めっき工程を施される。めっき工程では、亜鉛浴の温度を430 〜600 ℃の温度範囲とし、該温度の溶融亜鉛浴中に冷延板を浸漬して、鋼板表面に溶融亜鉛めっき層を形成する。なお、亜鉛浴は0.10〜0.20%Alを含有するZn浴とするのが好ましい。また、めっき処理後、必要に応じ目付量調整のためワイピングを行ってもよいのはいうまでもない。
【0070】
めっき処理後、鋼板は冷却されるが、めっき処理後300 ℃までの温度域を、1℃/s以上の平均冷却速度で冷却するのが好ましい。平均冷却速度が1℃/s未満では、マルテンサイト相などの硬質な第2相の生成が困難となる。硬質な第2相の形成が必要な場合には1℃/s以上の冷却速度とするのが好ましい。
また、めっき処理後、直ちに合金化処理を行ってもよい。合金化処理は、通常公知の温度範囲である、 450℃〜(Ac1変態点)の範囲の温度に加熱して行うのが好ましい。合金化処理は、めっき処理後冷却したのち、上記した温度まで再加熱してもよく、まためっき処理後冷却することなくそのまま上記した温度まで再加熱してよい。
【0071】
合金化処理における加熱温度が470 ℃未満では、合金化の進行が遅く生産性が低下する。一方、加熱温度がAc1変態点を超えると、めっき層の合金化が進行しすぎてめっき層が脆化する。このため、本発明では、合金化処理の加熱温度は450 ℃〜(Ac1変態点)の範囲の温度とするのが好ましい。
合金化処理後の冷却は、300 ℃までの温度域を、1℃/s以上の平均冷却速度で冷却するのが好ましい。平均冷却速度が1℃/s未満では、硬質な第2相の形成が困難となる。
【0072】
なお、本発明では、めっき性の更なる改善のため、上記した連続亜鉛めっきラインでの加熱処理工程の前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すのが好ましい。
Si、Mnの添加量の多い高張力鋼板は、溶融亜鉛めっき前の焼鈍により、鋼板表面にSi、Mnの表面濃化層を形成しやすく、このためめっき不良が起きやすい。本発明では、このめっき不良の発生を防止するため、溶融亜鉛めっきラインでの加熱処理前に、Ac1変態点以上の温度で連続焼鈍し冷却する焼鈍処理を施し、Si、Mnの濃化層を鋼板表層に形成させ、ついで、酸洗によりこの鋼板表層の成分濃化層を除去し、鋼板表層および直下のSi、Mn濃度を低下させる。焼鈍処理における焼鈍温度がAc1変態点未満では、Si、Mnが表面濃化しにくい。一方、焼鈍温度の上限は、加熱炉の能力、耐久性の問題から1000℃以下とするのが好ましい。なお、連続焼鈍後の冷却中に、過時効処理を行ってもとくに問題はない。
【0073】
さらに、本発明では、めっき処理工程、あるいは合金化処理工程後に、形状矯正、粗度調整という従来の目的だけでなく、鋼板の歪時効硬化特性を安定して高めるために、伸び率: 0.2〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延またはレベラー加工における伸び率は、合計量で規定し、概ね 0.2%以上あれば十分である。一方、伸び率が、15%を超える場合は延性が低下する。なお、調質圧延とレベラー加工ではその加工様式が相違するが、本発明者らは鋼板の歪時効硬化特性に対する硬化は調質圧延でも、レベラー加工でも大きな差異がないことを確認している。
【0074】
【実施例】
表1に示す組成(残部Feおよび不可避的不純物)の鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋳片(スラブ)とした。得られたスラブを加熱し、表2に示す条件の熱間圧延工程を施し熱延板とし、ついで該熱延板に酸洗を施す熱延板酸洗工程を施した。一部は酸洗済熱延板にさらに表2に示す条件の冷間圧延工程を施し冷延板とした。これら熱延板あるいは冷延板に、連続亜鉛めっきラインで表2に示す条件の加熱処理工程と、それに続くめっき処理工程あるいはさらに合金化処理工程を施し、溶融亜鉛めっき鋼板または合金化溶融亜鉛めっき鋼板とした。なお、一部の鋼板には、連続亜鉛めっきラインでの加熱処理工程の前に、連続焼鈍ラインで表2に示す条件の焼鈍処理と、その後に続く酸洗処理を施した。
【0075】
なお各工程後の冷却速度を表2に併記した。
めっき処理は、溶融亜鉛めっき浴に鋼板を浸漬して行い、浸漬した鋼板を引き上げたのちガスワイピングにより目付量を調整した。めっき処理の条件は、
板温度 :470 ℃
めっき浴:0.14%Al−Zn
浴温 :470 ℃
浸漬時間:1s
目付量 :60g/m2
とした。
【0076】
焼鈍処理は、連続焼鈍ラインで実施し、5体積%H2 +N2 雰囲気(露点:−20℃)で、保持時間は60sとした。
酸洗処理は、焼鈍処理で生じた鋼板表層の成分濃化層を除去する目的で、5%HCl 水溶液(液温:60℃)で実施した。なお、浸漬時間は6sとした。
得られためっき鋼板について、組織、固溶N量、引張特性、めっき性、歪時効硬化性を調査した。
【0077】
組織は、鋼板の圧延方向断面(L断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて、微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトおよび第2相の組織分率(体積率)を求めた。
固溶N量は、化学分析により求めた鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求めた。析出N量は、電解抽出を用いた分析法により求めた。ここで、この分析法は、アセチル・アセトンを溶媒として用いて定電位電解により地鉄を溶解して抽出した残渣について化学分析により析出物となっているN量を求める分析方法である。
【0078】
引張特性は、鋼板より圧延直角方向(C方向)に採取したJIS Z 2204に規定のJIS 5号試験片を用いて、歪速度:3×10-3/sで引張試験を行い、降伏強さYS、引張強さTS、伸びElを測定した。
めっき性は、鋼板表面を目視で観察し、不めっき欠陥の存在の有無を判定した。判定の結果は、評価:○を不めっき欠陥が全くないもの(めっき性良好)、評価:△を不めっき欠陥が一部発生したのもの(めっき性やや良好)、評価:×を不めっき欠陥が多数発生したもの(めっき性不良)とした。
【0079】
歪時効硬化特性は、鋼板(製品板)からJIS 5号試験片を圧延直角方向(C方向)に採取し、予変形として2%の引張歪を与えて予変形応力σ2%を測定し、ついで170 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理(時効処理)を施したのち、歪速度:3×10-3/sで引張試験を実施し、予変形−熱処理後の引張特性(降伏応力YSBH、引張強さTS)を求め、BH量=YSBH−σ2%、ΔTS=TSBH−TSを算出した。なお、YSBH、TSBHは予変形−熱処理後の降伏応力、引張強さであり、TSは製品板の引張強さである。
【0080】
それらの結果を表3に示す。
【0081】
【表1】
【0082】
【表2】
【0083】
【表3】
【0084】
【表4】
【0085】
【表5】
【0086】
本発明例は、いずれも延性に優れ、TS:440 MPa 以上でかつ降伏比:70%以上と高降伏比型の優れた引張特性と、BH量:80MPa 以上、ΔTS:40MPa 以上と優れた歪時効硬化特性を有し、しかもめっき性も全く問題なく良好であった。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、降伏比が0.7 未満であり、また、BH量:80MPa 以上、ΔTS:40MPa 以上をともに満足できるほどの優れた歪時効硬化特性を具備していない。
【0087】
【発明の効果】
本発明によれば、高い延性と高い降伏比とを有し、加工性と、歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板あるいは高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板を、安定して製造でき、産業上格段の効果を奏する。なお、本発明のめっき鋼板は、自動車車体用として、高い部品強度を安定して確保できるという効果もある。また、本発明によれば、成形後に熱処理を施すことにより、歪時効硬化現象により、強度が増加し、高強度の鋼板を適用したと同等の十分な部品強度が得られ、部材の薄肉化を容易に達成できるという効果もある。。例えば、おおむね強度レベルで1〜1.5 グレードの高強度鋼板(例えば、TS:440MPa からTS:540 〜780MPa程度)を利用したと同じ効果が期待でき、鋼板板厚を1グレード(例えば 2.0mmから1.6mm 程度)低減できる。
Claims (16)
- 鋼板表面に溶融亜鉛めっき層または合金化溶融亜鉛めっき層を有する溶融亜鉛めっき鋼板であって、
前記鋼板が、質量%で、
C:0.20%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%、 Nb:0.005 〜0.50%
を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態としてのNが0.0010%以上含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径10μm 以下のフェライト相を面積率で50%以上含む組織とを有し、降伏比0.7 以上でかつ引張強さ440MPa以上を有することを特徴とする加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群の1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板。
記
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で5.0 %以下
b群:Ti、Vの1種または2種を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 質量%で、
C:0.20%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%、 Nb:0.005 〜0.50%
を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに下記a群〜d群の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、酸洗済の熱延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記熱延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち冷却するめっき工程とを、順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 % - 質量%で、
C:0.20%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%、 Nb:0.005 〜0.50%
を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに下記a群〜d群の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成したのち冷却するめっき工程とを、順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 % - 前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことを特徴とする請求項3または4に記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことを特徴とする請求項3ないし5のいずれかに記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことを特徴とする請求項3ないし6のいずれかに記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することを特徴とする請求項3ないし7のいずれかに記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することを特徴とする請求項3ないし8のいずれかに記載の高降伏比型高張力溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 質量%で、
C:0.20%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%、 Nb:0.005 〜0.50%
を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに下記a群〜d群の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、470 ℃〜(Ac1変態点)の温度に加熱し前記溶融亜鉛めっき層の合金化を行ったのち冷却する合金化処理工程と、を順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 % - 質量%で、
C:0.20%以下、 Si:2.0 %以下、
Mn:3.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%、 Nb:0.005 〜0.50%
を含み、かつN/Alが0.3 以上含有し、あるいはさらに下記a群〜d群の1群または2群以上を含有し、残部 Fe および不可避的不純物からなる組成を有する鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:750 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗を行う熱延板酸洗工程と、該酸洗済の熱延板に冷間圧延を行い冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100 ℃)の範囲の温度に加熱する加熱処理工程と、430 〜600 ℃の温度範囲で溶融亜鉛めっきを施し、前記冷延板の表面に溶融亜鉛めっき層を形成するめっき工程と、470 ℃〜(Ac1変態点)の温度に加熱し前記溶融亜鉛めっき層の合金化を行ったのち冷却する合金化処理工程と、を順次施すことを特徴とする降伏比0.7 以上、引張強さ440MPa以上を有し加工性および歪時効硬化特性に優れた高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
a群: Cu 、 Ni 、 Cr 、 Mo の1種または2種以上を合計で 5.0 %以下
b群: Ti 、Vの1種または2種を合計で 0.1 %以下
c群:Bを 0.0030 %以下
d群: Ca 、 REM の1種または2種を合計で 0.0010 〜 0.010 % - 前記仕上圧延後、0.5 秒以内に冷却を開始し冷却速度40℃/s以上で急冷し、前記巻き取りを行うことを特徴とする請求項10または11にに記載の高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記加熱処理工程前に、Ac1変態点以上の温度で焼鈍し冷却する焼鈍処理と、ついで鋼板表層の成分濃化層を酸洗により除去する酸洗処理とを、少なくとも1回以上施すことを特徴とする請求項10ないし12のいずれかに記載の高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記めっき工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜10%の調質圧延またはレベラー加工を施すことを特徴とする請求項10ないし13のいずれかに記載の高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することを特徴とする請求項10ないし14のいずれかに記載の高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することを特徴とする請求項10ないし15のいずれかに記載の高降伏比型高張力合金化溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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