JP4665302B2 - 高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板およびその製造方法 - Google Patents
高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板およびその製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、主に自動車車体用として好適な高加工性高張力冷延鋼板およびめっき鋼板に係り、とくに引張強さ(TS)440 MPa 以上で概ね780MPa以下の、高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板とそのめっき鋼板、およびその冷延鋼板の製造方法に関する。本発明の高張力冷延鋼板は、比較的厳しい絞り成形に供される用途に適するものである。なお、本発明における鋼板とは、鋼板、鋼帯を含むものとする。
【0002】
また、本発明において、「優れた歪時効硬化特性」とは、引張歪5%の予変形後、170 ℃の温度に20min 保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(BH量と記す;BH量=時効処理後の降伏応力−時効処理前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=時効処理後の引張強さ−予変形前の引張強さ)が40MPa 以上であることを意味する。
【0003】
【従来の技術】
昨今の地球環境問題からの排出ガス規制に関連し、自動車における車体重量の軽減は極めて重要な課題となっている。自動車の車体重量軽減のためには、多量に使用されている鋼板の強度を増加させ、すなわち高張力鋼板を適用して、使用する鋼板の薄肉化を図るのが有効である。
【0004】
しかし、薄肉の高張力鋼板を使用した自動車部品でも、その役割に応じて課されるパフォーマンスが必要十分に発揮されねばならない。かかるパフォーマンスとしては、例えば曲げ、ねじり変形に対する静的強度、耐疲労性、耐衝撃特性などがある。自動車部品に適用される高張力鋼板は、成形加工後にかかる特性にも優れることが必要となる。これらの特性は、成形加工後の鋼板の強度に関係し、薄肉化を達成するためには、使用する高張力鋼板の強度下限を設定する必要がある。
【0005】
一方、自動車部品を作る過程においては、鋼板に対してプレス成形が行われるが、鋼板の強度が高すぎるとプレス成形した場合には、
▲1▼形状凍結性が劣化する、
▲2▼延性が劣化するため成形時に割れやネッキングなどの不具合を生ずる、
▲3▼耐デント性(局部的な圧縮荷重負荷により生ずる凹みに対する耐性)が劣化する、
といった問題が生じ、自動車車体への高張力鋼板の適用拡大を阻んでいた。
【0006】
これを打開するための手法として、例えば外板パネル用の冷延鋼板では、極低炭素鋼を素材とし、最終的に固溶状態で残存するC量を適正範囲に制御した鋼板が知られている。この種鋼板は、プレス成形時には軟質に保たれ、形状凍結性、延性を確保し、プレス成形後に行われる、170 ℃×20分程度の塗装焼付工程で起こる歪時効硬化現象を利用した降伏応力の上昇を得て、耐デント性を確保しようとするものである。この種鋼板では、プレス成形時にはCが鋼中に固溶して軟質であり、一方、プレス成形後には、塗装焼付工程で、プレス成形時に導入された転位に固溶Cが固着して、降伏応力が上昇する。
【0007】
しかし、この種鋼板では、表面欠陥となるストレーッチャーストレインの発生を防止する観点から、歪時効硬化による降伏応力上昇量は低く抑えられている。このため、実際に部品の軽量化に寄与するところは小さいという難点があった。
一方、外観があまり問題にならない用途に対しては、固溶Nを用いて焼付硬化量をさらに増加させた鋼板や、組織をフェライトとマルテンサイトからなる複合組織とすることで焼付硬化性をより一層向上させた鋼板が提案されている。
【0008】
例えば、特開昭60-52528号公報には、C:0.02〜0.15%、Mn:0.8 〜3.5 %、P:0.02〜0.15%、Al:0.10%以下、N:0.005 〜0.025 %を含む鋼を550 ℃以下の温度で巻き取る熱間圧延と、冷延後の焼鈍を制御冷却熱処理とする延性およびスポット溶接性がともに良好な高強度薄鋼板の製造方法が開示されている。特開昭60-52528号公報に記載された技術で製造された鋼板は、フェライトとマルテンサイトを主体とする低温変態生成物相からなる混合組織を有し延性に優れるとともに、積極的に添加されたNによる塗装焼付けの際の歪時効を利用して、高強度を得ようとするものである。
【0009】
しかしながら、特開昭60-52528号公報に記載された技術では、歪時効硬化による降伏応力YSの増加量は大きいが引張強さTSの増加量が少なく、また、降伏応力YSの増加量も大きくばらつくなど機械的性質の変動も大きいため、現状で要望されている自動車部品の軽量化に寄与できるほどの鋼板の薄肉化が期待できない。
【0010】
また、特公平5-24979 号公報には、C:0.08〜0.20%、Mn:1.5 〜3.5 %を含み残部Feおよび不可避的不純物からなる成分組成を有し、組織がフェライト量5%以下の均一なベイナイトもしくは一部マルテンサイトを含むベイナイトで構成された焼付硬化性高張力冷延薄鋼板が開示されている。特公平5-24979 号公報に記載された冷延鋼板は、連続焼鈍後の冷却過程で400 〜200 ℃の温度範囲を急冷とし、その後を徐冷とすることにより、組織をベイナイト主体の組織として、従来になかった高い焼付硬化量を得ようとするものである。
【0011】
しかしながら、特公平5-24979 号公報に記載された鋼板では、塗装焼付け後に降伏強さが上昇し従来になかった高い焼付け硬化量が得られるものの、引張強さまでは上昇させることができず、強度部材に適用した場合、成形後の耐疲労特性、耐衝撃特性の向上が期待できない。このため、耐疲労特性、耐衝撃性等が強く要求される用途への適用ができないという問題が残されていた。
【0012】
さらに、上記した従来の鋼板では、単純な引張試験による塗装焼付処理後の強度評価では優れているものの、実プレス条件にしたがって、塑性変形させたときの強度に大きなばらつきが存在し、信頼性が要求される部品に適用するには必ずしも十分とはいえなかったのである。
また、熱延鋼板ではあるが、例えば、特公平8−23048 号公報には、組織をフェライトとマルンサイトからなる複合組織とすることで焼付硬化性をより一層向上させた鋼板が提案されている。しかしながら、特公平8−23048 号公報に記載された技術で製造された鋼板は、極めて低い巻取温度で製造されたためか、歪時効硬化により引張強さは増加するものの、降伏応力の増加量のばらつきが大きく、また機械的性質の変動も大きいという問題があった。また、板厚が 2.0mm以下の薄物鋼板を製造する場合には、鋼板形状が大きく乱れ、プレス成形が著しく困難となるという問題もあった。また、熱延鋼板では、r値が 1.0以下と低いレベルであり、深絞り性が要求される用途には不適であった。
【0013】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記した従来技術の限界を打破し、比較的高いグレードの成形性が要求される自動車部品用に好適な、高い成形性と、安定した品質特性を有し、複雑な形状の自動車部品への成形が容易であるうえ、さらに自動車部品に成形したのちに自動車部品として十分な強度が得られ自動車車体の軽量化に充分に寄与できる、1.3 以上という高いr値と、優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板と、めっき鋼板およびこれら鋼板を工業的に安価に、かつ形状を乱さずに製造できる製造方法を提供することを目的とする。本発明における歪時効硬化特性は、引張歪5%で予変形後、170 ℃の温度に20min 保持する時効条件で、BH量が80MPa 以上、ΔTSが40MPa 以上を目標とする。
【0014】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記課題を達成するために、組成および製造条件を種々変えて鋼板を製造し、多くの材質評価実験を行った。その結果、高加工性が要求される分野においてNを強化元素として添加し、この強化元素の作用により発現する大きな歪時効硬化現象を有利に活用することにより、成形性の向上と成形後の高強度化とを容易に両立させることができることを知見した。
【0015】
さらに、本発明者らは、Nによる歪時効硬化現象を有利に活用するためには、Nによる歪時効硬化現象を自動車の塗装焼付け条件、あるいはさらに積極的に成形後の熱処理条件と有利に結合させる必要があり、そのために、熱延条件や冷延、冷延焼鈍条件を適正化して、鋼板の微視組織と固溶N量とをある範囲に制御することが有効であることを見いだした。また、Nによる歪時効硬化現象を安定して発現させるためには、組成の面で、特にAl含有量をN含有量に応じて制御することが重要であることも見いだした。また、本発明者らは、鋼板の微視組織を、平均粒径を10μm 以下のフェライト相を面積率で80%以上含む組織とすることにより従来問題であった室温時効劣化の問題もなく、Nを充分に活用できることを見い出した。
【0016】
さらに本発明者らは、冷間圧延後に、箱焼鈍を適用し、高r値の鋼板としたうえで、さらに連続焼鈍を施して、フェライト相中に面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む複合組織とすることにより、適正な固溶N量と、高r値の素地フェライトと高強度のマルテンサイトを有利に複合させ、高r値を有しプレス成形性に優れ、かつ歪時効硬化特性に優れた冷延鋼板が得られることを見いだした。
【0017】
すなわち、本発明者らは、Nを強化元素として用い、Al含有量をN含有量に応じて適正な範囲に制御するとともに、熱延条件や冷延焼鈍条件を適正化して、微視組織と固溶Nを最適化することにより、従来の固溶強化型のC−Mn系鋼板、析出強化型鋼板に比べて、高いr値と高延性を有し格段に優れた成形性と、上記した従来の鋼板にない歪時効硬化特性とを有する鋼板が得られることを見いだしたのである。
【0018】
また、本発明の鋼板は、単純な引張試験による塗装焼付処理後の強度上昇量が従来の鋼板よりも大きいうえ、さらに実プレス条件にしたがって塑性変形させたときの強度のばらつきが小さく、安定した部品強度特性が得られ、信頼性が要求される部品への適用が可能となる。例えば、歪が大きく加わり板厚が減少した部分は、他の部分より硬化代が大きく(板厚)×(強度)という載荷重能力で評価すると均一化する方向であり、部品としての強度は安定するのである。
【0019】
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加え完成されたものである。
すなわち、第1の本発明は、質量%で、C:0.025 〜0.15%、Si:1.0 %以下、Mn:2.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態としてのNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径:10μm 以下のフェライト相を面積率で80%以上含み、さらに第2相として面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む組織とを有し、r値:1.3 以上であることを特徴とする高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板であり、また、第1の本発明では、前記組成に加えてさらに、質量%で、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moのうちの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちの1群または2群以上を含むことが好ましい。
【0020】
また、第1の本発明では、上記した高張力冷延鋼板の表面に電気めっき層または溶融めっき層を有してもよい。
第2の本発明は、質量%で、C:0.025 〜0.15%、Si:1.0 %以下、Mn:2.0 %以下、P:0.08%以下、S:0.02%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上であり、あるいはさらに、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moのうちの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
のうちの1群または2群以上を含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとなし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:650 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼鈍温度:再結晶温度以上800 ℃以下で箱焼鈍を施し、ついで焼鈍温度:Ac1変態点〜(Ac3変態点−20℃)で連続焼鈍を行い、その後500 ℃以下の温度域まで冷却速度:10〜 300℃/sで冷却する冷延板焼鈍工程とを、順次施すことを特徴とするr値が1.3 以上の高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板の製造方法であり、また、第2の本発明では、前記連続焼鈍後の冷却に引き続いて、前記冷却の冷却停止温度以下350 ℃以上の温度域で滞留時間20s以上好ましくは120 s以下の過時効処理を行うことが好ましく、また、第2の本発明では、前記冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施すことが好ましい。
【0021】
また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合することが好ましく、また、第2の本発明では、前記粗圧延と前記仕上圧延の間で、前記シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、前記シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用することが好ましい。
【0022】
【発明の実施の形態】
まず、本発明の高張力冷延鋼板の組成限定理由について説明する。以下、mass%は単に%で示す。
C:0.025 〜0.15%
Cは、鋼板の強度を増加する元素であり、また、本発明の重要な構成要件である組織を均一かつ微細に制御し、マルテンサイト相を十分な量確保するため、0.025 %以上含有する必要がある。一方、0.15%を超えると、鋼板中の炭化物分率が過大となり、延性、さらには成形性が顕著に低下する。さらにより重要な問題として、C含有量が0.15%を超えると、スポット溶接性、アーク溶接性等が顕著に低下する。このようなことから、Cは0.025 〜0.15%の範囲内に限定した。なお、成形性の向上という観点からは、0.08%以下とするのが好ましい。また、特に良好な延性が要求される用途では、0.05%以下とするのがより好ましい。
【0023】
Si:1.0 %以下
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な元素であり、0.005 %以上、より好ましくは0.1 %以上含有するのが好ましい。一方、Siは、熱間圧延時に変態点を大きく上昇させて品質、形状の確保を困難にしたり、あるいはまた表面性状、化成処理など、特に鋼板表面の美麗性に悪影響を与え、さらにめっき性にも悪影響を及ぼす元素であり、本発明では1.0 %以下に限定した。Siが1.0 %以下であれば、上記した悪影響を低く抑えることができる。なお、強度要求レベルが低く、特に表面の美麗性が要求される用途には、Siは0.5 %以下とすることが望ましい。
【0024】
Mn:2.0 %以下
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、含有するS量に応じて添加するのが好ましく、またMnは結晶粒の微細化に対し大きな効果があり、添加して材質改善に利用することが望ましい。さらにMnは、連続焼鈍後の急速冷却時にマルテンサイトを安定して生成させるために極めて有効な元素である。Sを安定して固定するという観点から、Mnは0.2 %以上の含有が望ましい。またMnは鋼板強度を増加させる元素であり、TS500MPa超級の強度が要求される場合には1.2 %以上含有するのが望ましい。なお、より好ましくは1.5 %以上である。
【0025】
Mn含有量をこのレベルまで高めると、熱延条件の変動に対する鋼板の機械的性質、とくに歪時効硬化特性のばらつきが顕著に改善されるという大きな利点がある。しかし、Mnを2.0 %を超えて過度に含有すると、本発明の重要な要件の一つである高r値を得ることが困難となるとともに、延性が顕著に低下するため、Mnは2.0 %以下に限定した。より良好な耐食性と成形性が要求される用途では、1.7 %以下とするのが好ましい。
【0026】
P:0.08%以下
Pは、鋼の固溶強化元素として有用な元素であり、強度増加の観点から0.001 %以上、より好ましくは0.015 %以上含有するのが好ましい。一方、過度に含有すると、鋼を脆化させ、さらに鋼板の伸びフランジ加工性を悪化させる。また、Pは鋼中で偏析する傾向が強いためそれに起因した溶接部の脆化をもたらす。このため、Pは0.08%以下に限定した。なお、伸びフランジ加工性や溶接部靱性がとくに重要視される用途ではPは0.04%以下とするのが好ましい。
【0027】
S:0.02%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性を減少させ、さらには耐食性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減するのが好ましく、本発明ではSは0.02%以下に限定した。とくに、良好な加工性が要求される用途には、Sは0.015 %以下とすることが好ましい。また、とくに優れた伸びフランジ加工性が要求される場合には、Sは0.008 %以下とすることが好ましい。また、詳細な機構は不明であるが、鋼板の歪時効硬化特性を安定して高いレベルに維持するためには、Sを0.008 %以下まで低減するのが有効である。
【0028】
Al:0.02%以下
Alは、脱酸剤として作用し鋼の清浄度を向上させ、さらには鋼板の組織を微細化する元素であり、本発明では0.001 %以上の含有が望ましい。本発明においては、固溶状態のNを強化元素として利用するが、適正範囲のAlを含有したアルミキルド鋼のほうが、Alを添加しない従来のリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。一方、過剰のAl含有は、鋼板の表面性状を悪化させ、さらに固溶状態のNを顕著に低下させて、極めて大きな歪時効硬化量を得ることが困難となる。このようなことから、本発明ではAlは0.02%以下に限定した。なお、材質の安定性という観点からは、Alは0.001 〜0.015 %とするのが好ましい。また、Al含有量の低減は結晶粒の粗大化につながる懸念もあるが、本発明では他の合金元素を最適量に制限することと、焼鈍条件を最適な範囲とすることにより、これを有効に防止している。
【0029】
N:0.0050〜0.0250%
Nは、固溶強化と歪時効硬化により鋼板の強度を増加させる元素であり、本発明において最も重要な元素である。また、本発明では、適量のNを含有して、さらに上記したようにAl含有量を適正値に調整し、さらには熱延条件、焼鈍条件などの製造条件を制御することにより、冷延製品あるいはめっき製品で必要かつ十分な固溶状態のNを確保する。これにより、固溶強化と歪時効硬化による強度(降伏応力および引張り強さ)上昇効果が十分に発揮され、引張強さ440MPa以上、焼付け硬化量(BH量)80MPa 以上、歪時効処理前後での引張強さの増加量ΔTS40MPa 以上、という本発明鋼板の機械的性質の目標値を安定して得ることができる。
【0030】
Nが0.0050%未満では、上記した強度上昇効果が安定して現れにくい。一方、Nが0.0250%を超えると、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなども多発するようになる。このため、Nは0.0050〜0.0250%の範囲に限定した。なお、製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上という観点からは、Nは0.0070〜0.0170%の範囲とするのがより好ましい。なお、本発明の範囲内のN量であれば、溶接性等への悪影響は全くない。
【0031】
固溶状態のN:0.0010%以上
冷延製品で十分な強度が確保され、さらにNによる歪時効硬化が有効に発揮されるには、鋼板中に固溶状態のN(固溶Nともいう)が少なくとも0.0010%以上存在する必要がある。
ここで、固溶N量は、鋼中の全N量から、析出N量を差し引いた値を固溶Nとする。なお、析出N量の分析法としては、本発明者らが種々の方法を比較検討した結果、定電位電解法を用いた電解抽出分析法により求めるのが有効である。なお、抽出分析に用いる地鉄を溶解する方法として、酸分解法、ハロゲン法および電解法がある。この中で、電解法は炭化物、窒化物などの極めて不安定な析出物を分解することなく、安定して地鉄のみを溶解できる。電解液としては、アセチル・アセトン系を用いて、定電位にて電解する。本発明では定電位電解法を用いて析出N量を測定した結果が、実際の材質の変化とよい対応を示した。
【0032】
このようなことから、本発明では、定電位電解法により抽出した残渣を化学分析して残渣中のN量を求め、これを析出N量とする。
なお、さらに高いBH量、ΔTSが必要な場合には、固溶N量を0.0020%以上、さらに高い値を得るためには、0.0030%以上とするのが好ましい。固溶N量の上限値は特に限定しないが、添加した全N量がすべて残留しても機械的性質の低下は小さい。
【0033】
N/Al(N含有量とAl含有量の比):0.3 以上
製品状態で、固溶Nを0.0010%以上安定させて残留させるためには、Nを強力に固定する元素であるAlの量を制限する必要がある。本発明の組成範囲内のN含有量(0.0050〜0.0250%)とAl含有量(0.02%以下)の組合せを広範囲に変えた鋼板について検討した結果、N/Alを0.3 以上とすることにより、冷延製品およびめっき製品での固溶Nを安定して0.0010%以上とすることができることがわかった。このため、N/Alを0.3 以上に限定した。
【0034】
本発明では、上記した組成に加えてさらに、次a群〜d群
a群:Cu、Ni、Cr、Moの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
の1群または2群以上を含有するのが好ましい。
【0035】
a群の元素:Cu、Ni、Cr、Moは、いずれも鋼板の強度上昇に寄与する元素であり、必要に応じ選択して単独または複合して含有できる。このような効果は、Cu、Ni、Cr、Moをそれぞれ0.005 %以上の含有で認められる。しかし、含有量が多すぎると熱間変形抵抗が増加し、あるいは化成処理性や広義の表面処理特性が悪化するうえ、溶接部が硬化し溶接部成形性が劣化する。またr値も低下する傾向がある。このため、a群の元素は合計で1.0 %以下とするのが好ましい。なお、Moは、0.05%以上多量に含有すると顕著にr値を低下させる場合があり、本発明ではMoを含有する場合は0.05%未満に限定するのが好ましい。
【0036】
b群の元素:Nb、Ti、Vは、いずれも結晶粒の微細化・均一化に寄与する元素であり、必要に応じ選択して単独または複合して含有できる。このような効果は、Nb、Ti、Vをそれぞれ0.005 %以上の含有で認められる。しかし、含有量が多すぎると、熱間変形抵抗が増加し、また化成処理性や広義の表面処理特性が悪化する。このため、b群の元素は合計で0.1 %以下とするのが好ましい。
【0037】
c群の元素:Bは、鋼の焼入れ性を向上させる効果を有する元素であり、フェライト相以外の低温変態相の分率を増加させて、鋼の強度を増加させる目的で必要に応じ含有することができる。このような効果は、Bを0.0005%以上の含有で認められる。しかし、量が多すぎると熱間変形能が低下し、BNを生成することで固溶Nを低減させる。このため、Bは0.0030%以下とするが好ましい。
【0038】
d群の元素:Ca、REM は、いずれも介在物の形態制御に役立つ元素であり、特に伸びフランジ成形性の要求がある場合には、単独または複合して含有するのが好ましい。その場合、d群の元素の合計で、0.0010%未満では介在物の形態制御効果が不足し、一方、0.010 %を超えると表面欠陥の発生が目立つようになる。このため、d群の元素を合計で0.0010〜0.010 %の範囲に限定することが好ましく、これにより、表面欠陥の発生を伴うことなく伸びフランジ加工性を改善することができる。
【0039】
つぎに、本発明鋼板の組織について説明する。
フェライト相の面積率:80%以上
本発明の冷延鋼板は、ある程度の加工性が要求される自動車用鋼板を対象としており、延性を確保するために、フェライト相を面積率で80%以上含む組織とする。フェライト相の面積率が80%未満では、加工性が要求される自動車用鋼板として必要な延性を確保することが困難となる。なお、さらに良好な延性が要求される場合は、フェライト相の面積率は85%以上とするのが望ましい。なお、本発明でいうフェライトは、歪みが残留していない状態のいわゆるポリゴナルなフェライトをいうものとする。
【0040】
フェライト相の平均結晶粒径:10μm 以下
本発明では平均結晶粒径として、断面組織写真からASTMに規定された求積法により算出した値と、同じくASTMに規定された切断法により求めた公称粒径(例えば梅本ら:熱処理, 24(1984),334参照)のうち、より大きい方を採用する。
【0041】
本発明の冷延鋼板では、製品段階で所定量の固溶N量を確保しているが、本発明者らの実験・検討によれば、同一量の固溶Nを有する鋼板でも、歪時効硬化特性にばらつきが生じる場合があり、その主たる要因の一つが結晶粒径であることが判明した。平均結晶粒径を少なくとも10μm 以下、望ましくは8μm 以下にすることにより、安定して高いBH量、ΔTSが得られる。詳細な機構は不明であるが、結晶粒界への合金元素の偏析と析出、さらにはこれらに及ぼす加工、熱履歴の影響に関係していると推定される。
【0042】
したがって、歪時効硬化特性の安定化を図るためには、フェライト相の平均結晶粒径を10μm 以下、好ましくは8μm 以下とする必要がある。
以上のように自動車用鋼板としての延性を確保し、かつ歪時効硬化特性の安定化を図るため、本発明では平均結晶粒径10μm 以下のフェライトを面積率で80%以上含む組織とする。
【0043】
マルテンサイト相の面積率:2%以上
本発明の冷延鋼板は、第2相として、マルテンサイト相を面積率で2%以上含有する。マルテンサイト相が2%以上存在することにより、良好な延性と、さらに、大きな歪時効硬化量が得られる。詳細な機構は不明であるが、マルテンサイト相の存在により、時効前の予歪み加工時に極めて有効に歪が内部に蓄積されるためと推定される。さらに、マルテンサイト相の存在は、時効劣化を改善するためにも有効である。なお、良好な強度−延性バランス、低降伏比を得るためには、マルテンサイト相の面積率を5%以上とするのが好ましい。なお、20%を超える多量のマルテンサイト相の存在は延性の低下という問題がある。このため、マルテンサイト相の面積率は、2%以上、好ましくは5%以上、20%以下である。
【0044】
第2相として、上記したマルテンサイト相以外に、パーライト、ベイナイト、残留オーステナイトが存在することはなんら問題はないが、本発明ではフェライト相分率を80%以上マルテンサイト相分率を2%以上とする必要があり、パーライト、ベイナイト、残留オーステナイトの合計の面積率で18%未満に限定される。
【0045】
上記した組成と組織を有する本発明の冷延鋼板は、引張強さ(TS)440 MPa 以上で概ね780MPa以下を有し、さらに母相フェライトの集合組織制御によりr値が1.3 以上の高r値と、優れた歪時効硬化特性を有する冷延鋼板である。TSが440MPaを下回る鋼板では、構造部材的な要素をもつ部材に広く適用することができない。また、さらに適用範囲を拡げるにはTSは500MPa以上とするのが望ましい。また、r値が1.3 未満では、広範囲なプレス成形部品に適用できない。なお、r値の好ましい範囲は1.4 以上である。
【0046】
本発明において「優れた歪時効硬化特性」とは、上記したように、引張歪5%の予変形後、170 ℃の温度に20min 保持する条件で時効処理したとき、この時効処理前後の変形応力増加量(BH量と記す;BH量=時効処理後の降伏応力−時効処理前の予変形応力)が80MPa 以上であり、かつ歪時効処理(前記予変形+前記時効処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す;ΔTS=時効処理後の引張強さ−予変形前の引張強さ)が40MPa 以上であることを意味する。
【0047】
歪時効硬化特性を規定する場合、予歪(予変形)量が重要な因子となる。本発明者らは、自動車用鋼板に適用される変形様式を想定して、歪時効硬化特性に及ぼす予歪量の影響について調査し、その結果、▲1▼前記変形様式における変形応力は、極めて深い絞り加工の場合を除き、概ね1軸相当歪(引張歪)量で整理できること、▲2▼実部品ではこの1軸相当歪量が概ね5%を上回っていること、▲3▼部品強度が、予歪5%の歪時効処理後に得られる強度(YSおよびTS)と良く対応することを突き止めた。この知見をもとに、本発明では、歪時効処理の予変形を引張歪5%に定めた。
【0048】
従来の塗装焼付け処理条件は、170 ℃×20min が標準として採用されている。なお、多量の固溶Nを含む本発明鋼板に5%以上の歪が加わる場合は、より緩やかな(低温側の)処理でも硬化が達成され、言い換えれば時効条件をより幅広くとることが可能である。また、一般に、硬化量を稼ぐには、過度の時効で軟化させない限りにおいて、より高温で、より長時間保持することが有利である。
【0049】
具体的に述べると、本発明鋼板では、予変形後に硬化が顕著となる加熱温度の下限は概ね100 ℃である。一方、加熱温度が300 ℃を超えると硬化が頭打ちとなり、逆にやや軟化する傾向が現れるほか、熱歪やテンパーカラーの発生が目立つようになる。また、保持時間については、加熱温度200 ℃程度のとき概ね30s程度以上とすれば略十分な硬化が達成される。さらに大きな安定した硬化を得るには保持時間60s以上とするのが好ましい。しかし、20min を超える保持では、さらなる硬化を望みえないばかりか、生産効率も著しく低下して実用面では不利である。
【0050】
以上のことから、本発明では、時効処理条件として従来の塗装焼付処理条件の加熱温度である170 ℃、保持時間を20min で評価すると定めた。従来の塗装焼付け型鋼板では十分な硬化が達成されない低温加熱・短時間保持の時効処理条件下でも、本発明鋼板では大きな硬化が安定的に達成される。なお、加熱の仕方はとくに制限されず、通常の塗装焼付けに採用されている炉による雰囲気加熱のほか、たとえば誘導加熱や、無酸化炎、レーザ、プラズマなどによる加熱などのいずれも好ましく用いうる。
【0051】
自動車用の部品強度は外部からの複雑な応力負荷に抗しうる必要があり、それゆえ素材鋼板では小さな歪域での強度特性だけでなく大きな歪域での強度特性も重要となる。本発明者らはこの点に鑑み、自動車部品の素材となすべき本発明鋼板のBH量を80MPa 以上とするとともに、ΔTS量を40MPa 以上とする。なお、より好ましくは、BH量100MPa以上、ΔTS50MPa 以上とする。また、時効処理の際の加熱温度をより高温側に、および/または、保持時間をより長時間側に、設定することにより、BH量、ΔTS量をより大きくすることができる。
【0052】
また、本発明鋼板は、成形後、とくに加熱を行なわず、室温で1週間程度放置しておくだけで、完全時効の40%程度の強度の増加が期待できるという利点がある。
また、本発明鋼板は、成形加工されない状態では、室温で長時間放置されても時効劣化(YSが増加しかつEl(伸び)が減少する現象)は起こらないという、従来の時効性鋼板にない利点も備わっている。なお、実際のプレス成形で不具合を生じないためには、プレス成形前の室温における3か月間の時効で、YSの増加量が30MPa 以下、伸びの低下が2%以下、降伏点伸びの回復が0.2 %以下となることが必要となる。
【0053】
また、本発明では、上記した本発明冷延鋼板の表面に電気めっきまたは溶融めっきを施しても何ら問題はない。これらめっき鋼板も、めっき前と同程度のTS、BH量、ΔTS量を示す。めっきの種類としては、電気亜鉛めっき、溶融亜鉛めっき、合金化溶融亜鉛めっき、電気錫めっき、電気クロムめっき、電気ニッケルめっき等、いずれも好ましく適用しうる。
【0054】
次に、本発明鋼板の製造方法について説明する。
本発明鋼板は、基本的には、上記した範囲の組成を有する鋼スラブを、加熱後粗圧延してシートバーとなし、該シートバーに仕上圧延を施し、仕上圧延終了後冷却して巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に箱焼鈍を施し、ついで連続焼鈍を行う冷延板焼鈍工程とを、順次施すことにより製造される。
【0055】
本発明の製造方法で使用するスラブは、成分のマクロな偏析を防止すべく連続鋳造法で製造することが望ましいが、造塊法、薄スラブ鋳造法で製造してもよい。また、スラブを製造した後、いったん室温まで冷却し、その後再度加熱する従来法に加え、冷却せず温片のままで加熱炉に装入し圧延する直送圧延、あるいはわずかの保熱を行った後に直ちに圧延する直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。とくに、固溶状態のNを有効に確保するには直送圧延は有用な技術の一つである。
【0056】
まず、熱間圧延工程の条件限定理由について説明する。
スラブ加熱温度:1000℃以上
スラブ加熱温度は、熱間圧延の初期状態として、必要かつ十分な固溶N量を確保し、製品での固溶N量を目標値を満足させるために、1000℃以上とするの好ましい。なお、酸化重量の増加にともなうロスの増大などから1280℃以下とすることが望ましい。
【0057】
上記した条件で加熱されたスラブは、粗圧延によりシートバーとされる。なお、粗圧延の条件はとくに規定する必要はなく、常法にしたがって行えばよい。しかし、固溶N量の確保という観点からはできるだけ短時間で行うのが望ましい。ついで、シートバーを仕上げ圧延して熱延板とする。
なお、本発明では、粗圧延と仕上げ圧延の間で、相前後するシートバー同士を接合し、連続圧延することが望ましい。接合手段としては、圧接法でも、レーザー溶接法、電子ビーム溶接法などを用いるのが好ましい。
【0058】
連続圧延することにより、コイル(被処理材)の先端および後端のいわゆる圧延の非定常部がなくなり、安定した熱延条件がコイル(被処理材)全長および全幅に渡って可能となる。これは熱延鋼板のみでなく冷延鋼板の断面の形状および寸法を改善するのに極めて有効である。また圧延後に、ホットランテーブル上で冷却する場合にも常に張力を付与できるため鋼板形状を良好に保つことが可能である。
【0059】
また、連続圧延を行うことでコイル先端を安定して通板できるため、通常のシートバーごとの単発圧延では、通板性および噛込み性の問題で適用できなかった潤滑圧延を適用することができる。これにより圧延荷重を低減することができると同時にロールの面圧をも低減でき、ロールの寿命延長が可能となる。
また、本発明では、粗圧延と仕上圧延の間の仕上げ圧延機入側で、シートバーの幅端部を加熱するシートバーエッジヒータ、シートバーの長さ端部を加熱するシートバーヒータのいずれか一方または両方を使用して、シートバーの幅方向および長手方向の温度分布を均一化することが好ましい。これにより、鋼板内の材質ばらつきをさらに小さくすることができる。シートバーエッジヒータ、シートバーヒータは誘導加熱方式のものとするのが好ましい。
【0060】
使用手順は、まずシートバーエッジヒータにより幅方向の温度差を補償することが望ましい。このときの加熱量は、鋼組成などにもよるが、仕上圧延出側での幅方向温度分布範囲が概ね20℃以下となるように設定するのが好ましい。次いでシートバーヒータにより長手方向の温度差を補償する。このときの加熱量は、長さ端部温度が中央部温度よりも概ね20℃程度高くなるように設定するのが好ましい。
【0061】
仕上圧延出側温度:800 ℃以上
仕上圧延出側温度FDTは、均一微細な熱延母板組織を得るために、800 ℃以上とする。FDTが800 ℃を下回ると、鋼板の組織が不均一になり、一部に加工組織が残留し、冷延焼鈍工程を経たのちにも、組織の不均一性が消滅せず残留する。このため、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。また、加工組織の残留を回避すべく、高い巻取温度を採用すると、粗大結晶粒が発生し、同様の不具合が発生する。また、巻取温度を高温とすることにより、固溶N量の顕著な低下が生ずるため、目標とする440MPa以上の引張強さを得ることが困難となる。このようなことから、仕上圧延出側温度FDTは800 ℃以上とした。さらに機械的性質を向上させるには、FDTを820 ℃以上とすることが望ましい。とくに、FDTの上限は規定しないが、過度に高い場合には、スケール疵などの発生が顕著となる。なお、FDTは概ね1000℃程度までとするのが好ましい。
【0062】
なお、仕上圧延後の冷却は特に厳しく限定しないが、以下の条件が鋼板の長手・幅方向の材質均一性の点で望ましい。すなわち、本発明では、仕上圧延終了後直ちに(0.5 秒以内に)冷却を開始し、冷却中の平均冷却速度を40℃/s以上とするのが望ましい。この条件を満足させることにより、AlN が析出する高温域を急冷でき、固溶状態のNを有効に確保できる。この冷却開始時間または冷却速度が、上記条件を満足しない場合には、粒成長が進みすぎて結晶粒径の微細化が達成しにくいうえ、圧延で導入された歪エネルギーによるAlN の析出が促進される傾向にあり、固溶N量が欠乏する恐れがあり、組織が不均一化する傾向となる。なお、材質・形状の均一性を確保する観点からは、冷却速度は300 ℃/s以下に抑えるのが好ましい。
【0063】
巻取温度:650 ℃以下
巻取温度CTの低下につれて、鋼板強度が増加する傾向にある。目標の引張強さTS440MPa以上を確保するためには、CTは650 ℃以下とするのが好ましい。なお、CTが200 ℃未満では鋼板形状が乱れやすくなり、実操業上、不具合を生じる危険性が高く、材質の均一性が低下する傾向を示す。このため、CTは200 ℃以上とするのが望ましい。なお、より材質の均一性が要求される場合には、CTは300 ℃以上とするのが好ましい。なお、より好ましくは350 ℃以上である。
【0064】
また、本発明では、仕上圧延において、熱間圧延荷重を低減するために、潤滑圧延を行ってもよい。潤滑圧延を行うことにより、熱延板の形状・材質がより均一化されるという効果がある。なお、潤滑圧延の際の摩擦係数は0.25〜0.10の範囲とするのが好ましい。また、潤滑圧延と連続圧延とを組み合わせることによりさらに、熱間圧延の操業が安定する。
【0065】
上記した熱間圧延工程を施された熱延板は、ついで、冷間圧延工程により、酸洗および冷間圧延を施されて冷延板となる。
酸洗の条件は通常公知の条件でよく、とくに限定されない。なお、熱延板のスケールが極めて薄い場合には、酸洗を施すことなく直ちに冷間圧延を行ってもよい。
【0066】
また、冷間圧延条件は、通常公知の条件でよく、とくに限定されない。なお、組織の均一性確保という観点から冷間圧下率は40%以上とするのが好ましい。
つぎに、冷間圧延工程の条件限定理由について説明する。
冷延板は、ついで箱焼鈍、連続焼鈍からなる冷延板焼鈍工程を施される。
箱焼鈍温度:再結晶温度以上800 ℃以下
本発明では、冷延板に箱焼鈍を施し、素地となるフェライト相の集合組織を制御する。このフェライト相の集合組織制御により製品板の高r値化が図れる。この箱焼鈍により、製品板には高r値化に望ましい(111)集合組織が形成されやすくなる。
【0067】
箱焼鈍温度が再結晶温度未満では、再結晶が完了せず、フェライト相の集合組織を調整することができず、高r値化が図れない。一方、800 ℃を超える温度で箱焼鈍すると、鋼板の表面欠陥の発生が顕著となり、初期の目的が達成できなくなる。なお、箱焼鈍は、窒素ガスを主体とし、3〜5%の水素ガスを含む焼鈍雰囲気で行うのが好ましく、この場合、加熱・冷却速度は通常の箱焼鈍の条件でよく、概ね30℃/hr 程度となる。また、焼鈍雰囲気ガスを100 %水素ガスとすることにより、より速い加熱・冷却速度としてもよい。
【0068】
連続焼鈍温度:Ac1変態点以上(Ac3変態点−20℃)以下
連続焼鈍温度がAc1変態点未満では、焼鈍後にマルテンサイト相が形成されず、一方、(Ac3変態点−20℃)を超えると、箱焼鈍で形成した望ましい集合組織が変態により失われるため、高r値を有する製品板が得られない。このため、連続焼鈍温度はAc1変態点以上(Ac3変態点−20℃)以下とするのが好ましい。
【0069】
また、連続焼鈍時間の保持時間は、生産効率、組織の微細化、固溶N量の確保の観点から、できる限り短いほうが好ましい。一方、操業の安定性の観点から、保持時間は10s以上とするのが好ましく、また、組織の微細化と固溶N量の確保という観点からは、120 s以下とすることが好ましい。なお、材質の安定化という観点からは、20s以上とするのがより好ましい。
【0070】
連続焼鈍後の冷却:500 ℃以下の温度域まで10〜 300℃/sの冷却速度で冷却
連続焼鈍における均熱後の冷却は、組織の微細化、マルテンサイトの形成、固溶N量の確保の観点から重要である。本発明では、少なくとも、500 ℃以下の温度域まで10℃/s以上の冷却速度で連続冷却する。冷却速度が10℃/s未満では、必要量のマルテンサイト量と、均一でかつ微細な組織と、十分な量の固溶Nを得ることができない。一方、冷却速度が300 ℃/sを超えると、過飽和な固溶C量が顕著に増加するため鋼板の幅方向での材質の均一性が低下する。連続焼鈍後の10〜 300℃/sの冷却速度での冷却停止温度が500 ℃を超えると、組織の微細化が達成できない。
【0071】
過時効処理条件:連続焼鈍後の冷却に引き続き、該冷却の冷却停止温度以下350 ℃以上の温度域で滞留時間20s以上
連続焼鈍の均熱後の冷却の冷却停止に引き続き、冷却停止温度以下350 ℃以上の温度域で滞留時間20s以上の過時効処理を行っても良い。過時効処理を行うことにより、固溶N量を維持したまま、固溶C量を選択的に低減することができる。滞留温度域が350 ℃未満では、固溶Cの低減に長時間を要し、生産性低下に繋がるため、350 ℃以上の温度域とするのが好ましい。
【0072】
冷却停止温度以下350 ℃以上の温度域で20s以上滞留させることにより、固溶C量を低減でき、より高度の室温での非時効化が達成される。滞留時間をより長くすることにより、更なる改善が望めるが、概ね 120s程度でその効果は飽和する傾向にあるため、滞留時間は120 s以下とするのが好ましい。
大きな歪時効硬化量を得るためには、固溶Cと固溶Nのどちらも利用することが有利であるが、固溶Cを利用すると、室温での時効劣化が顕著となり、鋼板の適用部位が制限されることになる。従って、汎用性のある歪時効硬化型鋼板を製造するには、充分な量の固溶Nを確保した上で過時効処理を行うのが好ましい。
【0073】
なお、本発明の高張力冷延鋼板の表面に溶融めっき層を有する高張力冷延めっき鋼板を製造する場合、箱焼鈍についで行う連続焼鈍を連続溶融めっきラインにて行い、連続焼鈍後の冷却に引き続いて溶融亜鉛めっき、あるいはさらに合金化処理を行い、溶融亜鉛めっき鋼板を製造することもできる。
調質圧延あるいはレベラー加工:伸び率0.2 〜15%
本発明では、冷延焼鈍工程に引き続いて、形状矯正、粗度調整の目的で、調質圧延またはレベラー加工を施してもよい。調質圧延あるいはレベラー加工の伸び率が合計で0.2 %未満では、形状矯正、粗度調整の所期の目的が達成できない。一方、15%を超えると、顕著な延性の低下をもたらす。なお、調質圧延とレベラー加工ではその加工形式が相違するが、その効果は両者で大きな差異がないことを確認している。調質圧延、レベラー加工は、めっき処理後でも有効である。
【0074】
【実施例】
(実施例1)
次に本発明の実施例について説明する。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。これら鋼スラブを表2に示す条件で加熱(一部温片装入あり)し、粗圧延してシートバーとし、ついで表2に示す条件の仕上げ圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。なお、一部のシートバーでは相前後するシートバー同士を溶融圧接法で接合して連続圧延をおこなった。
【0075】
これら熱延板を酸洗および表2に示す条件の冷間圧延からなる冷間圧延工程により冷延板とした。ついで、これら冷延板に表2に示す条件で箱焼鈍とそれに続く連続焼鈍を行った。一部については、冷延焼鈍工程につづいて、調質圧延を施した。なお、箱焼鈍なしの場合も実施した。箱焼鈍の焼鈍温度は全て再結晶温度以上とした。
【0076】
得られた冷延焼鈍板について、固溶N量、微視組織、引張特性、r値測定、歪時効硬化特性、時効特性を調査した。調査方法は下記のとおりである。
(1)固溶N量の調査
固溶N量は、化学分析により求めた鋼中の全N量から析出N量を差し引いて求めた。析出N量は、定電位電解法を用いた分析法により求めた。
(2)微視組織
各冷延焼鈍板から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いてフェライトの組織分率および第2相の種類および組織分率を求めた。
【0077】
また、フェライトの平均結晶粒径は、圧延方向に直交する断面(C断面)についての組織写真からASTMに規定の求積法により算出した値またはASTMに規定の切断法により求めた公称粒径のうち、いずれか大きい方を採用した。
(3)引張特性
各冷延焼鈍板からJIS 5号試験片を圧延方向に採取し、JIS Z 2241の規定に準拠してクロスヘッド速度10mm/min で引張試験を実施し、降伏応力YS、引張強さTS、伸びElを求めた。
(4)歪時効硬化特性
各冷延焼鈍板からJIS 5号試験片を圧延方向に採取し、予変形としてここでは5%の引張予歪を与えて、ついで170 ℃×20min の塗装焼付処理相当の熱処理を施したのち、クロスヘッド速度10mm/min で引張試験を実施し、予変形−塗装焼付処理後の引張特性(降伏応力YSBH、引張強さTSBH)を求め、BH量=YSBH−YS5%、ΔTS=TSBH−TSを算出した。なお、YS5%は、製品板を5%予変形したときの変形応力であり、YSBH、TSBHは予変形−塗装焼付処理後の降伏応力、引張強さであり、TSは製品板の引張強さである。
(5)r値測定
各冷延焼鈍板の圧延方向(L方向)、圧延方向に対し45°方向(D方向)、圧延方向に対し90°方向(C方向)から、JIS 5 号試験片を採取した。これら試験片に15%の単軸引張歪を付与した時の各試験片の幅歪と板厚歪を求め、定義式に従い幅歪と板厚歪の比、
r=ln(w/w0 )/ln(t/t0 )
(ここで、w0 、t0 は試験前の試験片の幅および板厚であり、w、tは試験後の試験片の幅および板厚である。)
から各方向のr値を求めた。なお、詳細は実験精度の向上のため、伸び歪と幅歪を実測し体積一定と過程して上記定義式から算出した。得られた各方向でのr値から、次式
rmean=(rL +2 rD +rc )/4
により平均r値rmeanを求めた。ここで、rL は、圧延方向(L方向)のr値であり、rD は、圧延方向(L方向)に対し45°方向(D方向)のr値であり、rc は、圧延方向(L方向)に対し90°方向(C方向)のr値である。
(6)時効特性
各冷延焼鈍板からJIS 5 号試験片を採取し、該試験片に、50℃×200 の時効処理を施したのち、引張試験を実施した。得られた結果から、時効処理前後の降伏伸び差ΔY-Elを求め、耐時効性を評価した。ΔY-Elが0.3 以下であれば非時効性として耐時効性に優れると評価した。なお、上記した条件でΔY-Elが0.2 以下であれば常温非時効性を有すると評価した。
【0078】
なお、No.17 、No.18 の鋼板表面には、表中の連続焼鈍の後にインラインで溶融亜鉛めっきを施しめっき鋼板とし、同様に各種特性を評価した。
これらの結果を表3に示す。
【0079】
【表1】
【0080】
【表2】
【0081】
【表3】
【0082】
本発明例では、いずれも優れた延性と、格段に高いBH量、ΔTSを呈し、優れた歪時効硬化特性と、平均r値1.3 以上の高いr値と、常温非時効性とを有している。なお、表3に示す鋼板No.17 、No.18 の溶融亜鉛めっき鋼板の特性は、同様に連続焼鈍した冷延鋼板の特性と殆ど差はなかった。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例は、延性が劣化しているか、BH量、ΔTSが少ないか、時効劣化が著しいかで、目標の特性を全て具備することはなく、十分な特性を有する鋼板とはいえない。
【0083】
鋼板No.11 は、C量、N量が本発明範囲を外れ、固溶N量、マルテンサイト量が本発明範囲を低くはずれ、そのため、BH量、ΔTSが低下しΔY-Elが増加している。また、鋼板No.12 は、Al、N/Al、Nが本発明範囲を外れ、固溶N量が本発明範囲を低くはずれ、フェライトの平均結晶粒径が本発明の範囲を高く外れ、そのため、BH量、ΔTSが低下しΔY-Elが増加している。
【0084】
鋼板No.13 は、スラブ加熱温度とFDTが本発明の好適範囲を外れ、固溶N量、マルテンサイト量が本発明範囲を低くはずれ、フェライトの平均結晶粒径が本発明の範囲を高く外れ、そのため、r値、BH量、ΔTSが低下している。また、鋼板No.14 は、熱延後の巻取り温度が本発明範囲を外れ、固溶N量が本発明範囲を低くはずれ、フェライトの平均結晶粒径が本発明の範囲を高く外れ、そのため、r値、BH量、ΔTSが低下している。
【0085】
鋼板No.15 は、連続焼鈍温度が本発明の好適範囲を外れ、マルテンサイトが生成せず、フェライトの平均結晶粒径が本発明の範囲を高く外れ、そのため、BH量、ΔTSが低下しΔY-Elが増加している。また、鋼板No.16 は、箱焼鈍を実施せず、望ましい集合組織が発達しないため、特にr値が低下している。またフェライトの平均粒径、マルテンサイトの面積率も本発明の範囲を外れている。
【0086】
(実施例2)
表4に示す組成になる鋼を、実施例1と同様の方法でスラブとなし、該スラブを表5に示す条件で加熱し、粗圧延して30mm厚のシートバーとし、ついで表5に示す条件の仕上圧延を施す熱間圧延工程により熱延板とした。なお、一部については、粗圧延後で仕上圧延入側で相前後するシートバー同士を溶融圧接法で接合して連続圧延した。また、シートバーの幅端部、長さ方向端部を誘導加熱方式のシートバーエッジヒータ、シートバーヒータを使用してシートバーの温度を調節した。
【0087】
これら熱延板を酸洗および表5に示す条件の冷間圧延からなる冷間圧延工程により1.6 mm厚の冷延板とした。ついで、これら冷延板に表5に示す条件で、箱焼鈍、ついで連続焼鈍炉による連続焼鈍を行った。なお、箱焼鈍の焼鈍温度はいずれも再結晶温度以上とした。
得られた冷延焼鈍板について、実施例1と同様に固溶N量、微視組織、引張特性、r値測定、歪時効硬化特性を調査した。また、各冷延焼鈍板の幅方向および長手方向について、各10箇所で引張特性を調査し、降伏強さ、引張強さ、伸びのばらつきを調査した。なお、ばらつきは測定した個所すべての中での最大値と最小値の差、例えばδYS=(YSの最大値)−(YSの最小値)で表示した。
【0088】
それらの結果を表6に示す。
【0089】
【表4】
【0090】
【表5】
【0091】
【表6】
【0092】
本発明例は、いずれも優れた歪時効硬化特性と高いr値を有し、製造条件の変動にもかかわらず、安定して格段に高いBH量、ΔTS、平均r値を示した。また、本発明例では、連続圧延とシートバーの長手方向、幅方向温度調整を実施することにより、製品鋼板の板厚精度および形状が向上し、材質ばらつきが減少することを確認した。
【0093】
【発明の効果】
本発明によれば、、引張強さ(TS)440 MPa 以上で、予変形−塗装焼付け処理により降伏応力が80MPa 以上および引張強さが40MPa 以上とともに増加する高い歪時効硬化特性と、平均r値1.3 以上と高r値を有する高張力冷延鋼板を、安価にかつ形状を乱さずに製造でき、産業上格段の効果を奏する。さらに本発明の高張力冷延鋼板を自動車部品に適用した場合、塗装焼付け処理などにより降伏応力とともに引張強さも、例えばTS440MPaから540 〜780MPaと強度を1〜1.5 グレード増加し、しかも安定した高い部品特性を得ることができ、使用する鋼板の板厚を、例えば2.0mm 厚から1.6 mm厚と、従来より1グレード低減することを可能とし、自動車車体の軽量化に充分に寄与することができるという効果もある。
また、本発明の冷延鋼板は、溶融亜鉛めっき鋼板等のめっき原板として好適である。
Claims (7)
- 質量%で、
C:0.025 〜0.15% Si:1.0 %以下、
Mn:2.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、かつN/Alが0.3 以上、固溶状態としてのNを0.0010%以上含有し、残部がFeおよび不可避的不純物からなる組成と、平均結晶粒径:10μm 以下のフェライト相を面積率で80%以上含み、さらに第2相として面積率で2%以上のマルテンサイト相を含む組織とを有し、r値:1.3 以上であることを特徴とする高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群のうちの1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の高張力冷延鋼板。
記
a群:Cu、Ni、Cr、Moのうちの1種または2種以上を合計で1.0 %以下
b群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 % - 請求項1または2に記載の高張力冷延鋼板の表面に、電気めっき層または溶融めっき層を有することを特徴とする高張力冷延めっき鋼板。
- 質量%で、
C:0.025 〜0.15% Si:1.0 %以下、
Mn:2.0 %以下、 P:0.08%以下、
S:0.02%以下、 Al:0.02%以下、
N:0.0050〜0.0250%
を含み、かつN/Alが0.3 以上であり、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとなし、該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し、巻取温度:650 ℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗および冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程と、該冷延板に焼鈍温度:再結晶温度以上800 ℃以下で箱焼鈍を施し、ついで焼鈍温度:Ac1変態点〜(Ac3変態点−20℃)で連続焼鈍を行い、その後500 ℃以下の温度域まで冷却速度:10〜 300℃/sで冷却する冷延板焼鈍工程とを、順次施すことを特徴とするr値:1.3 以上の高r値と優れた歪時効硬化特性および常温非時効性を有する高張力冷延鋼板の製造方法。 - 前記連続焼鈍後の冷却に引き続いて、前記冷却の冷却停止温度以下350 ℃以上の温度域で滞留時間20s以上の過時効処理を行うことを特徴とする請求項4に記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
- 前記冷延板焼鈍工程に続いてさらに、伸び率:0.2 〜15%の調質圧延またはレベラー加工を施すことを特徴とする請求項4または5に記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、下記a群〜d群のうちの1群または2群以上を含むことを特徴とする請求項4ないし6のいずれかに記載の高張力冷延鋼板の製造方法。
記
a群:Cu、Ni、Cr、Moのうちの1種または2種以上を合計で1.0 %以下、
b群:Nb、Ti、Vのうちの1種または2種以上を合計で0.1 %以下
c群:Bを0.0030%以下
d群:Ca、REM の1種または2種を合計で0.0010〜0.010 %
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