JP5035268B2 - 高張力冷延鋼板 - Google Patents
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Description
本発明は、主として自動車の車体部品等の使途に好適な、引張強さ590MPa以上を有する高張力冷延鋼板に係り、特に高張力冷延鋼板の強度−延性バランスの向上に関する。なお、本発明における「鋼板」とは、鋼板、鋼帯を含むものとする。
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求されている。自動車の燃費改善対策としては、車体重量の軽減が極めて重要な課題となっている。また、衝突時に乗員を安全に保護するという観点から、自動車車体の強化が要望されている。このため、自動車車体の軽量化と強化とを同時に達成する方策の検討が積極的に進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では自動車車体用部品への高張力鋼板の適用が進められている。
自動車車体の軽量化と強化を同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では自動車車体用部品への高張力鋼板の適用が進められている。
しかし、鋼板を素材とする自動車の車体用部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される高張力鋼板には、優れたプレス成形性を有することが要求される。一般に、鋼板を高強度化すると伸びが低下しプレス成形性が劣化するため、高強度と優れた成形性とを兼備させることは難しいとされていた。
このような要求に対し、高強度と優れた成形性とを兼備させた、プレス成形性の良好な高張力鋼板が提案されている。プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例として、複合組織型高張力鋼板が挙げられる。この複合組織型高張力鋼板は、軟質のフェライトと硬質のマルテンサイトとが複合された複合組織を有し、特に連続焼鈍後、ガスジェット冷却で製造された複合組織型鋼板は、降伏応力が低く、高い強度−延性バランスを有するとともに、高い焼付硬化性を有する鋼板である。
このような要求に対し、高強度と優れた成形性とを兼備させた、プレス成形性の良好な高張力鋼板が提案されている。プレス成形性の良好な高張力鋼板の代表例として、複合組織型高張力鋼板が挙げられる。この複合組織型高張力鋼板は、軟質のフェライトと硬質のマルテンサイトとが複合された複合組織を有し、特に連続焼鈍後、ガスジェット冷却で製造された複合組織型鋼板は、降伏応力が低く、高い強度−延性バランスを有するとともに、高い焼付硬化性を有する鋼板である。
しかし、この種の複合組織型高張力鋼板は、降伏比YR(YR(%)=(降伏強さYS)/(引張強さTS)×100 )が70%以下と低く形状凍結性には優れるものの、安定して得られる強度−延性バランスTS×El(引張強さ×全伸び(単に伸びともいう))は19000MPa・%程度が限界であった。したがって、通常条件の成形では慨ね良好な加工性を示すが、厳しい条件下での成形には問題を残していた。
また、特許文献1には、C:0.12〜0.70%、Si:0.4〜1.8%、Mn:0.2 〜2.5 %、Al:0.01〜0.07%、N:0.02%以下を含み、残部がFeおよび不可避的不純物からなる鋼板に条件を制御した連続焼鈍を施すことを特徴とする延性に優れた高強度鋼板の製造方法が提案されている。
特許文献1に記載された技術で製造された鋼板は、フェライト、ベイナイトと残留オーステナイト等からなる複合組織を有する、いわゆる変態誘起塑性(TRIP)を利用した鋼板である。特許文献1に記載された技術では、TRIP効果に加え、AlNの析出を利用して微細なフェライト相を存在させて強度−延性バランス(TS×El)が20000MPa・%を超えるほど顕著に強度−延性バランスを向上させている反面、同一強度のフェライト+マルテンサイト複合組織型鋼板と比較するとSiの含有量が大幅に高くなる。このため、TRIP鋼は塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や表面の美麗性に難点がある。
特許文献1に記載された技術で製造された鋼板は、フェライト、ベイナイトと残留オーステナイト等からなる複合組織を有する、いわゆる変態誘起塑性(TRIP)を利用した鋼板である。特許文献1に記載された技術では、TRIP効果に加え、AlNの析出を利用して微細なフェライト相を存在させて強度−延性バランス(TS×El)が20000MPa・%を超えるほど顕著に強度−延性バランスを向上させている反面、同一強度のフェライト+マルテンサイト複合組織型鋼板と比較するとSiの含有量が大幅に高くなる。このため、TRIP鋼は塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や表面の美麗性に難点がある。
したがって、TRIP鋼で所望の塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や美麗性を確保するためには、長時間の酸洗処理等を施す必要があり、製造コストの大幅な上昇を招くという問題があった。
また、近年、良好な成形性と、成形後の高強度とを同時に満足できる鋼板として、プレス成形前は軟質でプレス成形し易く、プレス成形後は塗装焼付処理により硬化して部品強度を高めることができる塗装焼付硬化型鋼板(BH鋼板) が開発されている。
また、近年、良好な成形性と、成形後の高強度とを同時に満足できる鋼板として、プレス成形前は軟質でプレス成形し易く、プレス成形後は塗装焼付処理により硬化して部品強度を高めることができる塗装焼付硬化型鋼板(BH鋼板) が開発されている。
このようなBH鋼板の例として、例えば、特許文献2には、C:0.05〜0.30%、Si:0.4〜2.0%、Mn:0.7 〜3.0 %、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN/Alが0.3 以上で、固溶状態のNを0.0010%以上含有する組成と、フェライト相とベイナイト相と残留オーステナイト相とを含む複合組織を有する歪時効硬化特性に優れた高張力冷延鋼板が提案されている。特許文献2に記載された技術では、適量のNを含有し、焼鈍条件を制御することにより、冷延製品で適量の固溶N量および残留オーステナイトを確保でき、延性および歪時効硬化特性が向上するとしている。
しかしながら、特許文献2に記載された技術では、残留オーステナイトを多量生成し、さらに安定化するためにSiを0.4 %以上と多く含有し、そのままでは塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や表面の美麗性に問題を残していた。特許文献2に記載された技術では、所望の塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や美麗性を確保するためには長時間の酸洗処理等を施す必要があり、大幅な製造コストの上昇が避けられない。
このように、上記した従来技術では、フェライト、ベイナイトおよび残留オーステナイトからなる複合組織を形成し延性および強度−延性バランスを顕著に向上させるために、多量のSiを含有させることを必須の要件としていた。これは、Fe3Cの生成を抑制する作用を有しているSiを多量に含有することにより、焼鈍時に残留オーステナイトの生成と安定化に必要な量のCをオーステナイト中に効果的に濃化させることができるためである。
しかしながら、Si含有量を0.4 %以上と多くした鋼板は、延性および強度−延性バランスが向上するが、塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や表面の美麗性が低下する。このため、優れた塗装性、耐食性、表面処理性(めっき性)や美麗性を確保するためには、長時間の酸洗処理等を施す必要があり、大幅な製造コストの上昇が避けられない。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、比較的少ないSi含有量でありながら、引張強さ:590MPa以上を有し、かつ強度−延性バランス(TS×El)が19000MPa・%以上となる、強度−延性バランスに優れた高張力冷延鋼板を提案することを目的とする。なお、本発明は、軽度の曲げ加工やロールフォーミングによりパイプに成形されるような比較的軽加工に供されるものから、比較的厳しい絞り成形に供されるものまで、広範囲の用途に適合可能な高張力冷延鋼板を提案することを目的としている。
本発明は、上記した従来技術の問題を有利に解決し、比較的少ないSi含有量でありながら、引張強さ:590MPa以上を有し、かつ強度−延性バランス(TS×El)が19000MPa・%以上となる、強度−延性バランスに優れた高張力冷延鋼板を提案することを目的とする。なお、本発明は、軽度の曲げ加工やロールフォーミングによりパイプに成形されるような比較的軽加工に供されるものから、比較的厳しい絞り成形に供されるものまで、広範囲の用途に適合可能な高張力冷延鋼板を提案することを目的としている。
本発明者らは、上記した課題を達成するため、組成および製造条件を種々変更して鋼板を製造し、多くの材質評価実験を行った。その結果、高延性が要求される分野では従来あまり積極的に利用されることがなかったNを利用することによりSi含有量を微量としても、強度−延性バランスの向上が図れることを知見した。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
まず、本発明の基礎となった実験結果について説明する。
質量%で、C:0.081 %、Si:0.01%、Mn:1.52%、P:0.009 %、S:0.002 %、Al:0.008 %を基本成分とし、これにNを0.0023〜0.0182%の範囲で変化させた組成のシートバーを、1250℃に加熱し均熱したのち、仕上圧延終了温度が900 ℃となるように3パスの圧延を行い板厚4.0mm の熱延板とした。なお、仕上圧延終了後、コイル巻取処理に相当する、600 ℃で1h保温する熱処理を施した。ついで、得られた熱延板に、圧下率80%の冷間圧延を施して板厚0.8mm の冷延板とした。
これらの冷延板に、Ac1変態点(概ね670 ℃)以上における平均加熱速度を2℃/s として、焼鈍温度:850 ℃まで加熱し、その温度で40s 保持した後、種々の冷却停止温度Tsまでの平均冷却速度が50℃/s となるようにガス冷却を行い、その冷却停止温度Tsにて120s保持した後、室温までガス冷却する焼鈍処理を施した。なお、これら冷延板のAc3変態点は概ね825 ℃であった。
得られた冷延鋼板について、引張試験を実施し、引張特性(降伏強さYS、引張強さTS、伸びEl)を求めた。引張試験は、長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS 5号引張試験片を用い、JIS Z 2241の規定に準拠して行った。また、得られた冷延鋼板の固溶N量、残留オーステナイト量を求めた。固溶N量は、鋼中の全N量から、析出N(電解抽出による溶解法でもとめる)を差し引いた値とした。残留オーステナイト量は鋼板の板厚の1/4 付近の面について、MoのKα線を用いてX線回析法により、オーステナイト相の( 211)面および( 220)面とフェライト相の( 200)面、( 220)面のピーク強度から残留オーステナイト相の体積率を算出した。
得られた結果を図1〜図4に示す。図1、図2は、残留オーステナイト量、強度−延性バランス(TS×El)と固溶N量の関係を示す。また、図3、図4は、残留オーステナイト量、TS×Elと{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−Ts}の関係を示す。ここで、Tsは冷却停止温度である。
図1、図2から、Si:0.01%の条件下においても、固溶N量の増加により3体積%以上の残留オーステナイト量を確保することができ、その結果としてTS×Elも19000MPa・%以上の優れた値を示すことがわかる。
図1、図2から、Si:0.01%の条件下においても、固溶N量の増加により3体積%以上の残留オーステナイト量を確保することができ、その結果としてTS×Elも19000MPa・%以上の優れた値を示すことがわかる。
また、図3、図4から、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−Ts}が70〜270 の範囲となるように、焼鈍後冷却の冷却停止温度Tsを調整することにより、すなわち、冷却停止温度Tsを、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }−{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}の範囲とすることにより、同様に3体積%以上の残留オーステナイト相が確保でき、TS×Elが19000MPa・%以上の高TS×Elが得られることがわかる。
以上のように、Al、N含有量を調整した組成の鋼スラブに、熱間圧延条件、および冷間圧延後の焼鈍条件を加熱、均熱、冷却条件を含め適正化することにより、組織がフェライト、マルテンサイトと残留オーステナイトからなる複合組織となり、鋼板のプレス成形性が顕著に向上することを知見した。この原因の詳細については、現在までのところ不明な点が多いが、本発明者らは、本発明が対象とする組成の範囲では、(1)NがCに比べ析出物を生成しにくいこと、(2)適量の固溶Nの存在によりCがオーステナイト中に濃化しやすいこと、あるいは(3)NがCに比べ拡散速度が速いことから、適正な焼鈍条件を選択することにより、より効果的にNおよびCをオーステナイト中に濃化することができ、Si含有量が微量のままでも適正量の残留オーステナイトが生成し、強度−延性バランスが顕著に向上するものと考えている。
本発明は、上記した知見に基づき、さらに検討を加えて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎのとおりである。
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.4 %未満、Mn:1.0 〜3.0 %、P:0.08%以下、S:0.01%以下を含み、Al、Nを、Al:0.02%以下、N:0.0080〜0.0250%の範囲内でかつN含有量とAl含有量との比、N/Alが0.5 以上となるように含有し、さらに固溶状態のNを0.005 %以上含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積率で、60〜94%のフェライト相と、3〜30%のマルテンサイト相と、3.0 %以上の残留オーステナイト相とを含む組織と、を有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.05〜1.5 %、Mo:0.05〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.005 〜1.5 %、Ni:0.005 〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を次(1)式
N/(Al+Nb+Ti+V+B)≧0.5 …………(1)
(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(1)質量%で、C:0.03〜0.20%、Si:0.4 %未満、Mn:1.0 〜3.0 %、P:0.08%以下、S:0.01%以下を含み、Al、Nを、Al:0.02%以下、N:0.0080〜0.0250%の範囲内でかつN含有量とAl含有量との比、N/Alが0.5 以上となるように含有し、さらに固溶状態のNを0.005 %以上含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積率で、60〜94%のフェライト相と、3〜30%のマルテンサイト相と、3.0 %以上の残留オーステナイト相とを含む組織と、を有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(2)(1)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.05〜1.5 %、Mo:0.05〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(3)(1)または(2)において、前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.005 〜1.5 %、Ni:0.005 〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
(4)(1)ないし(3)のいずれかにおいて、前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を次(1)式
N/(Al+Nb+Ti+V+B)≧0.5 …………(1)
(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量(質量%))
を満足するように含有することを特徴とする高張力冷延鋼板。
本発明によれば、Si含有量が微量であっても延性の向上に必要な残留オーステナイト相を生成することが可能となり、表面の美麗性を維持したまま強度−延性バランスに優れた高張力冷延鋼板を容易に製造でき、産業上格段の効果を奏する。なお、 本発明によれば、優れたプレス成形性と十分な部品としての強度を確保でき、自動車車体の軽量化に大きく寄与できるという効果もある。
まず、本発明の冷延鋼板の組成限定理由について説明する。なお、以下、組成における質量%は、単に%と記す。
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼板強度を増加し、またオーステナイト相へ濃化することによりオーステナイト相を安定化させる元素であり、所望の強度と所望の残留オーステナイト(γ)量を確保するために、本発明では0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接性を著しく劣化させる。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定した。なお、極めて高い強度−延性バランスと溶接性の両立という観点からは、0.07〜0.15%とするのが好ましい。
C:0.03〜0.20%
Cは、鋼板強度を増加し、またオーステナイト相へ濃化することによりオーステナイト相を安定化させる元素であり、所望の強度と所望の残留オーステナイト(γ)量を確保するために、本発明では0.03%以上の含有を必要とする。一方、0.20%を超える含有は、溶接性を著しく劣化させる。このため、Cは0.03〜0.20%の範囲に限定した。なお、極めて高い強度−延性バランスと溶接性の両立という観点からは、0.07〜0.15%とするのが好ましい。
Si:0.4 %未満
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる強化元素であり、さらにSiは、オーステナイトがベイナイトへ変態する際に炭化物の生成を抑制し、未変態オーステナイトの安定性を向上させる効果を有するため適宜添加してもよい。このような効果は、0.1 %以上の含有で顕著となるが、0.4 %以上の含有は、表面性状、化成処理性、めっき性、耐食性等の表面美麗性に悪影響を与えるうえ、これらの悪影響を除去するためには、長時間の鋼板表面の酸洗処理等を必要とし、大きなコストアップが避けられない。このようなことから、本発明では、Siは0.4 %未満に限定した。なお、好ましくは0.3 %以下である。本発明では、Si含有量が0.4 %未満であっても未変態オーステナイトの安定性を高く保つことができ、適正量の残留オーステナイト(γ)量を確保できる。なお、より優れた表面美麗性が求められる用途ではSiは0.3 %以下に限定することが好ましい。
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる強化元素であり、さらにSiは、オーステナイトがベイナイトへ変態する際に炭化物の生成を抑制し、未変態オーステナイトの安定性を向上させる効果を有するため適宜添加してもよい。このような効果は、0.1 %以上の含有で顕著となるが、0.4 %以上の含有は、表面性状、化成処理性、めっき性、耐食性等の表面美麗性に悪影響を与えるうえ、これらの悪影響を除去するためには、長時間の鋼板表面の酸洗処理等を必要とし、大きなコストアップが避けられない。このようなことから、本発明では、Siは0.4 %未満に限定した。なお、好ましくは0.3 %以下である。本発明では、Si含有量が0.4 %未満であっても未変態オーステナイトの安定性を高く保つことができ、適正量の残留オーステナイト(γ)量を確保できる。なお、より優れた表面美麗性が求められる用途ではSiは0.3 %以下に限定することが好ましい。
Mn:1.0 〜3.0 %
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、少なくとも含有するS量に応じた量含有させることが好ましい。また、Mnは、オーステナイト相に濃化し焼入れ性を向上させ、鋼板強度の増加に大きく寄与するとともに、オーステナイト相に濃縮し残留オーステナイトを安定化する作用も有する。このような効果は1.0 %以上の含有で認められる。一方、3.0 %を超えて含有すると、上記した効果が飽和するうえ、スポット溶接性が顕著に劣化する。このため、Mnは1.0 〜3.0 %に限定した。なお、より良好な耐食性と成形性が要求される用途では2.5 %以下に限定することが望ましい。
Mnは、Sによる熱間割れを防止する有効な元素であり、少なくとも含有するS量に応じた量含有させることが好ましい。また、Mnは、オーステナイト相に濃化し焼入れ性を向上させ、鋼板強度の増加に大きく寄与するとともに、オーステナイト相に濃縮し残留オーステナイトを安定化する作用も有する。このような効果は1.0 %以上の含有で認められる。一方、3.0 %を超えて含有すると、上記した効果が飽和するうえ、スポット溶接性が顕著に劣化する。このため、Mnは1.0 〜3.0 %に限定した。なお、より良好な耐食性と成形性が要求される用途では2.5 %以下に限定することが望ましい。
P:0.08%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有させることができる。このような効果は0.005 %以上の含有で顕著となるが、0.08%を超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Pは0.08%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合や、優れた溶接性が要求される場合には、0.05%以下とすることが好ましい。
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有させることができる。このような効果は0.005 %以上の含有で顕著となるが、0.08%を超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Pは0.08%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合や、優れた溶接性が要求される場合には、0.05%以下とすることが好ましい。
S:0.01%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減することが好ましい。0.01%以下に低減することにより、伸びフランジ成形性への悪影響が無視できることから、本発明ではSは0.01%以下に限定した。なお、より優れた伸びフランジ成形性を要求される場合や、優れた溶接性を要求される場合には、Sは0.005 %以下とするのが好ましい。
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であり、できるだけ低減することが好ましい。0.01%以下に低減することにより、伸びフランジ成形性への悪影響が無視できることから、本発明ではSは0.01%以下に限定した。なお、より優れた伸びフランジ成形性を要求される場合や、優れた溶接性を要求される場合には、Sは0.005 %以下とするのが好ましい。
Al:0.02%以下
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また、組織を微細化する作用も有しており、0.005 %以上含有することが好ましい。本発明では、固溶状態のNを残留オーステナイトの安定化元素や強化元素としても利用するが、適正範囲のAlを添加したアルミキルド鋼のほうが、Alを添加しないリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。一方、多量のAl含有は、表面性状の悪化や、固溶Nの顕著な低下を招いて優れた強度−延性バランスを確保することが困難となるため、本発明では、Alの上限は従来より低い0.02%に限定した。なお、材質の安定性という観点からは、0.005 〜0.015%の範囲に限定することが好ましい。Al含有量の低減は結晶粒の粗大化につながる懸念があるが、他の合金元素を最適量に調整するとともに、焼鈍条件を最適な範囲として防止することができる。
Alは、脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また、組織を微細化する作用も有しており、0.005 %以上含有することが好ましい。本発明では、固溶状態のNを残留オーステナイトの安定化元素や強化元素としても利用するが、適正範囲のAlを添加したアルミキルド鋼のほうが、Alを添加しないリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。一方、多量のAl含有は、表面性状の悪化や、固溶Nの顕著な低下を招いて優れた強度−延性バランスを確保することが困難となるため、本発明では、Alの上限は従来より低い0.02%に限定した。なお、材質の安定性という観点からは、0.005 〜0.015%の範囲に限定することが好ましい。Al含有量の低減は結晶粒の粗大化につながる懸念があるが、他の合金元素を最適量に調整するとともに、焼鈍条件を最適な範囲として防止することができる。
N:0.0080〜0.0250%
Nは、優れた強度−延性バランスを発現させるうえで本発明では重要な元素である。Nは、未変態オーステナイト中へ濃化して残留オーステナイト相を安定化する作用を有し、冷延鋼板の特性として、高強度でかつ高い強度−延性バランスの安定確保に寄与する。さらに、詳細は不明であるが、NはCのオーステナイト中への濃化を促進する効果も有していると思われる。また、Nは鋼の変態点を降下させる効果もあり、とくに薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延をしたくないという状況では有用となる。このような効果は、概ね0.0080%以上の含有により、安定して得られる。一方、0.0250%を超えて含有すると、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどの発生も顕著となる。このため、Nは0.0080〜0.0250%の範囲に限定した。なお、製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上という観点から、0.0120〜0.0180%の範囲に限定することが好ましい。なお、本発明の範囲内の含有であればNは溶接性等への悪影響は全くない。
Nは、優れた強度−延性バランスを発現させるうえで本発明では重要な元素である。Nは、未変態オーステナイト中へ濃化して残留オーステナイト相を安定化する作用を有し、冷延鋼板の特性として、高強度でかつ高い強度−延性バランスの安定確保に寄与する。さらに、詳細は不明であるが、NはCのオーステナイト中への濃化を促進する効果も有していると思われる。また、Nは鋼の変態点を降下させる効果もあり、とくに薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延をしたくないという状況では有用となる。このような効果は、概ね0.0080%以上の含有により、安定して得られる。一方、0.0250%を超えて含有すると、鋼板の内部欠陥発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどの発生も顕著となる。このため、Nは0.0080〜0.0250%の範囲に限定した。なお、製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留り向上という観点から、0.0120〜0.0180%の範囲に限定することが好ましい。なお、本発明の範囲内の含有であればNは溶接性等への悪影響は全くない。
N/Alの比:0.5 以上
未変態オーステナイト中へ濃化して残留オーステナイト相を安定化する作用あるいはCのオーステナイト中への濃化を促進する作用を有するNを所定量の固溶状態で確保するために、本発明ではNを強力に固定する効果を有するAlの含有量を制限することが望ましい。幅広く成分の組み合わせを変化させた鋼板に固溶状態で残存するNと、N含有量(質量%)とAl含有量(質量%)の比であるN/Al比との関係を調査した結果、本発明鋼の鋼組成の範囲ではN/Alの値を0.5 以上とすることで安定して固溶N量を0.005 %以上にでき、目標とする強度−延性バランスが発揮されることを確認した。このため、N/Alの比は0.5 以上とする。
未変態オーステナイト中へ濃化して残留オーステナイト相を安定化する作用あるいはCのオーステナイト中への濃化を促進する作用を有するNを所定量の固溶状態で確保するために、本発明ではNを強力に固定する効果を有するAlの含有量を制限することが望ましい。幅広く成分の組み合わせを変化させた鋼板に固溶状態で残存するNと、N含有量(質量%)とAl含有量(質量%)の比であるN/Al比との関係を調査した結果、本発明鋼の鋼組成の範囲ではN/Alの値を0.5 以上とすることで安定して固溶N量を0.005 %以上にでき、目標とする強度−延性バランスが発揮されることを確認した。このため、N/Alの比は0.5 以上とする。
固溶状態のN:0.005 %以上
オーステナイトの安定化が図られ、さらに強度−延性バランスの向上に十分な量の残留オーステナイトを確保するためには、固溶状態のN(以下、固溶Nともいう)は慨ね0.005 %以上とする必要がある。
なお、固溶N量は、鋼中の全N量から、析出N量を差し引いた値とする。析出Nの分析法について種々の方法を検討したが、定電位電解法を用いた電解抽出による溶解法を適用する方法が最も良く実際の材質の変化と対応しており、定電位電解法を用いた電解抽出による溶解法にて抽出した残渣を化学分析して残渣中のN量を求め、これを析出N量とした。なお、電解液としては、アセチルアセトン系を用いることが好ましい。
オーステナイトの安定化が図られ、さらに強度−延性バランスの向上に十分な量の残留オーステナイトを確保するためには、固溶状態のN(以下、固溶Nともいう)は慨ね0.005 %以上とする必要がある。
なお、固溶N量は、鋼中の全N量から、析出N量を差し引いた値とする。析出Nの分析法について種々の方法を検討したが、定電位電解法を用いた電解抽出による溶解法を適用する方法が最も良く実際の材質の変化と対応しており、定電位電解法を用いた電解抽出による溶解法にて抽出した残渣を化学分析して残渣中のN量を求め、これを析出N量とした。なお、電解液としては、アセチルアセトン系を用いることが好ましい。
また、さらに大きな強度−延性バランスが必要な場合は固溶Nを0.0080%以上とすることが好ましい。
Cr:0.05〜1.5 %、Mo:0.05〜1.5 %のうちの1種または2種
Cr、Moは、いずれも焼入れ性を向上させ鋼板の強度を増加させるとともに、残留オーステナイトの分布状態を微細分散とし、強度−延性バランスを向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ含有できる。このような効果はCr、Moをそれぞれ0.05%以上含有することにより認められる。一方、Cr、Moをそれぞれ1.5 %を超えて含有すると、延性が低下する。このため、Cr、Moはいずれも0.05〜1.5 %の範囲に限定することが好ましい。
Cr:0.05〜1.5 %、Mo:0.05〜1.5 %のうちの1種または2種
Cr、Moは、いずれも焼入れ性を向上させ鋼板の強度を増加させるとともに、残留オーステナイトの分布状態を微細分散とし、強度−延性バランスを向上させる効果を有する元素であり、必要に応じ含有できる。このような効果はCr、Moをそれぞれ0.05%以上含有することにより認められる。一方、Cr、Moをそれぞれ1.5 %を超えて含有すると、延性が低下する。このため、Cr、Moはいずれも0.05〜1.5 %の範囲に限定することが好ましい。
Cu:0.005 〜1.5 %、Ni:0.005 〜1.5 %のうちの1種または2種
Cu、Niは、いずれも鋼を強化する作用を有し、所望の強度に応じて0.005 %以上含有することが好ましい。一方、CuおよびNiをそれぞれ1.5 %を超えて含有すると、伸びが低下し、強度−延性バランスが劣化する傾向がある。このため、Cu、Niはそれぞれ0.005〜1.5%の範囲に限定することが好ましい。
Cu、Niは、いずれも鋼を強化する作用を有し、所望の強度に応じて0.005 %以上含有することが好ましい。一方、CuおよびNiをそれぞれ1.5 %を超えて含有すると、伸びが低下し、強度−延性バランスが劣化する傾向がある。このため、Cu、Niはそれぞれ0.005〜1.5%の範囲に限定することが好ましい。
Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を、次(1)式を満足するように含有することが望ましい。
N/(Al+Nb+Ti+V+B)≧0.5 ………(1)
(ここで、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量(質量%))
Nb、Ti、V、Bは、いずれも化合物を形成して鋼を析出強化する作用があり、必要に応じ選択して1種または2種以上を含有することができる。とくに、これらの元素はNとの結合力が強く窒化物を形成し易いため、Al含有量とN含有量との関係で前記(1)式を満足するように含有することが好ましい。単独あるいは複合して含有するNb、Ti、V、Bの含有量が、前記(1)式を満足しない場合には、強度−延性バランスが劣化する傾向となる。このため、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を前記(1)式を満足するように調整することが好ましい。なお、上記した効果を得るためには、Nb:0.001 %以上、Ti:0.001 %以上、V:0.001 %以上、B:0.0001%以上含有することが好ましく、単独または複合して含有してもよい。
N/(Al+Nb+Ti+V+B)≧0.5 ………(1)
(ここで、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量(質量%))
Nb、Ti、V、Bは、いずれも化合物を形成して鋼を析出強化する作用があり、必要に応じ選択して1種または2種以上を含有することができる。とくに、これらの元素はNとの結合力が強く窒化物を形成し易いため、Al含有量とN含有量との関係で前記(1)式を満足するように含有することが好ましい。単独あるいは複合して含有するNb、Ti、V、Bの含有量が、前記(1)式を満足しない場合には、強度−延性バランスが劣化する傾向となる。このため、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を前記(1)式を満足するように調整することが好ましい。なお、上記した効果を得るためには、Nb:0.001 %以上、Ti:0.001 %以上、V:0.001 %以上、B:0.0001%以上含有することが好ましく、単独または複合して含有してもよい。
なお、本発明では、上記した成分以外については、特に限定しないが、Ca、Zr、REM 等を通常の鋼組成の範囲内であれば含有させてもなんら問題ない。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これら不可避的不純物元素は、例えば、Sb:0.01%以下、Sn:0. 1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0. 1%以下が許容できる。
上記した成分以外の残部は、Feおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、これら不可避的不純物元素は、例えば、Sb:0.01%以下、Sn:0. 1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0. 1%以下が許容できる。
次に、本発明鋼板の組織限定理由について説明する。
本発明の冷延鋼板は、組織全体に対する体積率で、主相として、60〜94%のフェライト相と、第二相として、組織全体に対する体積率で、3〜30%のマルテンサイト相と、3.0 %以上の残留オーステナイト相とを含む組織を有する。
高度な加工性が要求される自動車用鋼板として必要な高い延性を確保するためには、主相であるフェライト相は、60%以上含有する必要がある。一方、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は94%以下の含有とする必要がある。このようなことから、フェライト相は組織全体に対する体積率で60〜94%に限定した。なお、さらなる良好な延性が必要とされる用途では、フェライト相は70%以上とすることが好ましい。
本発明の冷延鋼板は、組織全体に対する体積率で、主相として、60〜94%のフェライト相と、第二相として、組織全体に対する体積率で、3〜30%のマルテンサイト相と、3.0 %以上の残留オーステナイト相とを含む組織を有する。
高度な加工性が要求される自動車用鋼板として必要な高い延性を確保するためには、主相であるフェライト相は、60%以上含有する必要がある。一方、複合組織の利点を利用するため、フェライト相は94%以下の含有とする必要がある。このようなことから、フェライト相は組織全体に対する体積率で60〜94%に限定した。なお、さらなる良好な延性が必要とされる用途では、フェライト相は70%以上とすることが好ましい。
また、第二相として、組織全体に対する体積率で、マルテンサイト相が3%未満では、高い強度−延性バランスを確保することができない。一方、マルテンサイト相が30%を超えると、延性の劣化が著しくなる。このため、マルテンサイト相は組織全体に対する体積率で3〜30%とした。なお、さらに良好な強度−延性バランスが要求される場合は、マルテンサイト相は5%以上とすることが好ましい。
また、さらに本発明の冷延鋼板では、高い強度−延性バランスを確保するために、第二相として、マルテンサイト相に加えてさらに、組織全体に対する体積率で、3.0 %以上の残留オーステナイト相を含有する。これにより、強度−延性バランス(TS×El)を、微量のSiの含有量が少ない鋼としては非常に高い、19000MPa・%以上とすることができる。残留オーステナイト相の上限は特に限定しないが、実質的には15%程度が上限と考えられる。本発明においては多量の固溶Nを含有するため、適正な焼鈍条件との組み合わせによりSiの含有量が微量であっても、NやCが容易にオーステナイト中に濃化し、残留オーステナイトの安定化に寄与すると考えられる。
なお、上記した主相、第二相以外には、若干量(体積率で30%以下)のベイナイト相、パーライト相の含有が許容できる。
また、本発明の冷延鋼板は、表面に電気めっきあるいは溶融めっきを施しても何ら問題はない。電気めっきの種類としては、電気亜鉛めっき、電気錫めっき、電気クロムめっき、電気ニッケルめっき等、溶融めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化亜鉛めっき等、いずれも好ましく適用することができる。
また、本発明の冷延鋼板は、表面に電気めっきあるいは溶融めっきを施しても何ら問題はない。電気めっきの種類としては、電気亜鉛めっき、電気錫めっき、電気クロムめっき、電気ニッケルめっき等、溶融めっきとしては、溶融亜鉛めっき、合金化亜鉛めっき等、いずれも好ましく適用することができる。
つぎに、本発明の冷延鋼板の好ましい製造方法について説明する。
本発明で使用する鋼スラブの組成は、固溶状態のNを除き、上記した鋼板組成と同じ組成を好適組成とする。
上記した好適組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の公知の溶製法により溶製したのち、成分のマクロな偏析を防止すべく連続鋳造法で鋼スラブとすることが好ましい。なお、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等の公知の鋳造方法で鋼スラブとしてもよいことはいうまでもない。
本発明で使用する鋼スラブの組成は、固溶状態のNを除き、上記した鋼板組成と同じ組成を好適組成とする。
上記した好適組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の公知の溶製法により溶製したのち、成分のマクロな偏析を防止すべく連続鋳造法で鋼スラブとすることが好ましい。なお、造塊−分塊圧延法、薄スラブ連鋳法等の公知の鋳造方法で鋼スラブとしてもよいことはいうまでもない。
スラブ加熱温度:1000℃以上
得られた鋼スラブは、加熱され、熱間圧延工程により熱延板とされる。
初期状態として固溶状態のNを確保するという観点から、鋼スラブを1000℃以上のスラブ加熱温度に加熱することが好ましい。なお、スラブ加熱温度の上限は特に規定されないが、酸化重量の増加にともなうロスの増大などから1280℃以下とすることが望ましい。熱間圧延工程では、鋼スラブは、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する方法に加えて、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入した後圧延する、あるいは僅かの保熱を行ったのち直に圧延する直送圧延・直接圧延等の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。とくに固溶状態のNを有効に確保するには直送圧延は有効な技術の一つである。
得られた鋼スラブは、加熱され、熱間圧延工程により熱延板とされる。
初期状態として固溶状態のNを確保するという観点から、鋼スラブを1000℃以上のスラブ加熱温度に加熱することが好ましい。なお、スラブ加熱温度の上限は特に規定されないが、酸化重量の増加にともなうロスの増大などから1280℃以下とすることが望ましい。熱間圧延工程では、鋼スラブは、いったん室温まで冷却し、その後再加熱する方法に加えて、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入した後圧延する、あるいは僅かの保熱を行ったのち直に圧延する直送圧延・直接圧延等の省エネルギープロセスも問題なく適用できる。とくに固溶状態のNを有効に確保するには直送圧延は有効な技術の一つである。
仕上圧延出側温度:800 ℃以上
熱間圧延工程では、加熱された鋼スラブを、粗圧延してシートバーとし、ついで該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し熱延板とすることが好ましい。仕上圧延出側温度を800 ℃以上とすることで、均一微細な熱延母材組織を得ることができる。しかし、仕上圧延出側温度が800 ℃を下回ると、鋼板の組織が不均一になり、冷延、焼鈍後にも組織の不均一性が消えずに残留し、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。また、圧延温度が低い場合に加工組織の残留を回避すべく高い巻取温度を採用しても、粗大粒が発生し、同様の不具合を生じる。このようなことから、仕上圧延出側温度は800 ℃以上に限定した。なお、機械的特性をさらに向上させるためには、820 ℃以上とすることがより好ましい。また、特に仕上圧延出側温度の上限は限定する必要がないが、過度に高い温度で圧延した場合はスケール疵などの発生原因となる恐れがあり、概ね1000℃程度までとすることが好ましい。
熱間圧延工程では、加熱された鋼スラブを、粗圧延してシートバーとし、ついで該シートバーに仕上圧延出側温度:800 ℃以上とする仕上圧延を施し熱延板とすることが好ましい。仕上圧延出側温度を800 ℃以上とすることで、均一微細な熱延母材組織を得ることができる。しかし、仕上圧延出側温度が800 ℃を下回ると、鋼板の組織が不均一になり、冷延、焼鈍後にも組織の不均一性が消えずに残留し、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。また、圧延温度が低い場合に加工組織の残留を回避すべく高い巻取温度を採用しても、粗大粒が発生し、同様の不具合を生じる。このようなことから、仕上圧延出側温度は800 ℃以上に限定した。なお、機械的特性をさらに向上させるためには、820 ℃以上とすることがより好ましい。また、特に仕上圧延出側温度の上限は限定する必要がないが、過度に高い温度で圧延した場合はスケール疵などの発生原因となる恐れがあり、概ね1000℃程度までとすることが好ましい。
巻取温度:750 ℃以下
巻取温度を低くすると、鋼板強度は増加する傾向にある。本発明が目標とする590MPa以上の引張強さを確保するためには、巻取温度は750 ℃以下とすることが好ましい。一方、巻取温度が、200 ℃を下まわると鋼板の形状が顕著に乱れだし、実際の使用にあたり不具合を生ずる危険性が増大する。また、材質の均一性も低下する傾向にあり望ましくないため、200 ℃以上とすることが好ましい。なお、さらに高い材質均一性が要求される場合は300 ℃以上とすることが望ましい。
巻取温度を低くすると、鋼板強度は増加する傾向にある。本発明が目標とする590MPa以上の引張強さを確保するためには、巻取温度は750 ℃以下とすることが好ましい。一方、巻取温度が、200 ℃を下まわると鋼板の形状が顕著に乱れだし、実際の使用にあたり不具合を生ずる危険性が増大する。また、材質の均一性も低下する傾向にあり望ましくないため、200 ℃以上とすることが好ましい。なお、さらに高い材質均一性が要求される場合は300 ℃以上とすることが望ましい。
ついで、熱延板に、冷間圧延を施し冷延板とする冷間圧延工程を施す。なお、冷間圧延前の熱延板には、通常行われているように表面のスケールを取り除くため酸洗を行うことが好ましい。酸洗は通常法に準じて行えばよい。なお、極めて薄いスケールの状態であれば直接冷間圧延することも可能である。冷間圧延は所望の寸法形状の冷延鋼板とすることができればよく、圧下率等特に限定する必要はないが、表面の平坦度や組織の均一性の観点から40%以上の圧下率とすることが好ましい。
ついで、冷延板は、焼鈍工程を施される。本発明において焼鈍工程の条件としては、焼鈍温度への加熱と、焼鈍温度から冷却停止温度までの冷却と、所定温度域での滞留とが重要である。
Ac1 変態点以上における平均加熱速度:0.5 〜3℃/s
残留オーステナイト相を含む複合組織を得るためには、オーステナイト相安定化に必要な量のC、Nをオーステナイト相中に濃化する必要がある。焼鈍温度がフェライト+オーステナイトの二相域の場合には、C、Nは、熱力学的に、オーステナイト相へ優先的に分配される。このため、加熱時に Ac1変態点以上での加熱速度を遅くして二相域での滞留時間を十分に確保することにより、オーステナイト相の安定化のために必要なC、Nを容易に濃化することができる。なお、このとき、NはCに比べ拡散速度が速いため、オーステナイト相への濃化の観点からは有利と考えられる。
Ac1 変態点以上における平均加熱速度:0.5 〜3℃/s
残留オーステナイト相を含む複合組織を得るためには、オーステナイト相安定化に必要な量のC、Nをオーステナイト相中に濃化する必要がある。焼鈍温度がフェライト+オーステナイトの二相域の場合には、C、Nは、熱力学的に、オーステナイト相へ優先的に分配される。このため、加熱時に Ac1変態点以上での加熱速度を遅くして二相域での滞留時間を十分に確保することにより、オーステナイト相の安定化のために必要なC、Nを容易に濃化することができる。なお、このとき、NはCに比べ拡散速度が速いため、オーステナイト相への濃化の観点からは有利と考えられる。
冷延板の加熱時の、Ac1 変態点以上における平均加熱速度が、3℃/s を超えると、二相域での滞留時間が短くオーステナイト相安定化に必要な量のC、Nをオーステナイト相中に濃化することができない。一方、0.5 ℃/s 未満では、生産性が著しく低下する。このようなことから、焼鈍時の Ac1変態点以上における平均加熱速度を0.5 〜3℃/s とすることが好ましい。なお、 Ac1変態点は、熱膨張量−温度曲線図、あるいは比熱−温度曲線図、加熱後に急冷した試料のミクロ組織を直接観察する方法等から求めることができる。また、ここで Ac1変態点以上の平均加熱速度とは Ac1変態点から焼鈍温度までの平均加熱速度を意味する。
焼鈍温度:( Ac3変態点−50℃)〜( Ac3変態点+ 100℃)
焼鈍温度が、(Ac3 変態点−50)℃未満では、オーステナイト相へのC、Nの濃化が十分に行われず、残留オーステナイト相の生成が不十分となり優れた強度−延性バランスが得られない。オーステナイト相の安定化の観点からは、焼鈍温度はAc3 変態点までのフェライト−オーステナイト二相域で行うことが望ましいが、本発明では加熱時の加熱速度を3℃/s 以下とし、オーステナイト相へのC、Nの濃化が十分進行するため、優れた強度−延性バランスを確保する観点から、焼鈍温度の上限は(Ac3 変態点+ 100)℃まで許容できる。このようなことから、焼鈍温度は、(Ac3 変態点−50℃)〜(Ac3 変態点+ 100℃)とすることが好ましい。ここでAc3 変態点はAc1 変態点と同様に求めることができる。
焼鈍温度が、(Ac3 変態点−50)℃未満では、オーステナイト相へのC、Nの濃化が十分に行われず、残留オーステナイト相の生成が不十分となり優れた強度−延性バランスが得られない。オーステナイト相の安定化の観点からは、焼鈍温度はAc3 変態点までのフェライト−オーステナイト二相域で行うことが望ましいが、本発明では加熱時の加熱速度を3℃/s 以下とし、オーステナイト相へのC、Nの濃化が十分進行するため、優れた強度−延性バランスを確保する観点から、焼鈍温度の上限は(Ac3 変態点+ 100)℃まで許容できる。このようなことから、焼鈍温度は、(Ac3 変態点−50℃)〜(Ac3 変態点+ 100℃)とすることが好ましい。ここでAc3 変態点はAc1 変態点と同様に求めることができる。
なお上記した焼鈍温度での保持時間が、10s未満では、オーステナイト相へのC、Nの濃化が十分に行われない場合があり、残留オーステナイト相の生成が不十分となり優れた強度−延性バランスが得られない場合がある。一方、保持時間が、120 sを超えて長時間となると、結晶粒が粗大化し、強度−延性バランスが低下する傾向にある。このようなことから、上記した焼鈍温度での保持時間は10〜120 sとすることが好ましい。
平均冷却速度:30〜100 ℃/s
上記した焼鈍温度に加熱後、冷延板は焼鈍温度から冷却停止温度Tsまで30〜100 ℃/sの平均冷却速度で冷却されることが好ましい。平均冷却速度が30℃/s未満では、オーステナイト相の安定化が図れず、優れた強度−延性バランスが得られない。これは、本発明の組成範囲ではSi含有量が少ないため、冷却速度が遅い範囲ではCやNを含む析出物が析出し、オーステナイト相中へのCやNの濃化が十分行われないためと考えられる。一方、平均冷却速度が100 ℃/s を超えると、硬質なベイナイトが多量生成し、優れた強度−延性バランスが得られない。このようなことから、冷却停止温度までの平均冷却速度は30〜100 ℃/sとすることが好ましい。
上記した焼鈍温度に加熱後、冷延板は焼鈍温度から冷却停止温度Tsまで30〜100 ℃/sの平均冷却速度で冷却されることが好ましい。平均冷却速度が30℃/s未満では、オーステナイト相の安定化が図れず、優れた強度−延性バランスが得られない。これは、本発明の組成範囲ではSi含有量が少ないため、冷却速度が遅い範囲ではCやNを含む析出物が析出し、オーステナイト相中へのCやNの濃化が十分行われないためと考えられる。一方、平均冷却速度が100 ℃/s を超えると、硬質なベイナイトが多量生成し、優れた強度−延性バランスが得られない。このようなことから、冷却停止温度までの平均冷却速度は30〜100 ℃/sとすることが好ましい。
冷却停止温度Ts:次(2)式を満足する温度
{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }≦Ts≦{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃ ………(2)
(ここで、Ts:冷却停止温度(℃)、C、N、Mn、Si:各元素の含有量(質量%))
冷却停止温度Tsは、(2)式を満足する温度とすることが好ましい。冷却停止温度Tsが、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃を超える温度では、CやNを含む析出物が多量に発生し、良好な強度−延性バランスを得るに十分な量の残留オーステナイト相を生成することができない。一方、冷却停止温度Tsが、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }℃未満の温度では、マルテンサイト相の分率が多量となり過ぎ、また、C、Nの拡散速度が極度に低下し、冷却停止後の保持時に残留オーステナイト相へのC、Nの濃化が図れないため、強度−延性バランスが顕著に低下する。このため、冷却停止温度Tsは{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }〜{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃の範囲に限定することが好ましい。
{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }≦Ts≦{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃ ………(2)
(ここで、Ts:冷却停止温度(℃)、C、N、Mn、Si:各元素の含有量(質量%))
冷却停止温度Tsは、(2)式を満足する温度とすることが好ましい。冷却停止温度Tsが、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃を超える温度では、CやNを含む析出物が多量に発生し、良好な強度−延性バランスを得るに十分な量の残留オーステナイト相を生成することができない。一方、冷却停止温度Tsが、{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }℃未満の温度では、マルテンサイト相の分率が多量となり過ぎ、また、C、Nの拡散速度が極度に低下し、冷却停止後の保持時に残留オーステナイト相へのC、Nの濃化が図れないため、強度−延性バランスが顕著に低下する。このため、冷却停止温度Tsは{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }〜{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃の範囲に限定することが好ましい。
従来の、Siを多量に含有する残留オーステナイトを含むTRIP鋼では、フェライト、オーステナイト二相域で焼鈍、冷却後にMs点を超えるベイナイト生成温度域にて(おおよそ350 〜500 ℃の間)保持することにより、ベイナイト変態と同時にオーステナイト相へCが濃化するとともに、Siがセメンタイト(Fe3C)の析出を抑制するため、残留オーステナイト相が効果的に生成されるようになる。しかし、本発明ではSiをほとんど含有しないため、同様の処理を行った場合、CやNを含む析出物が多量に発生し、十分な量の残留オーステナイト相を生成することができない。このため、本発明ではこれらの析出物が生成しにくい温度域である{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃以下まで一気に冷却することが好ましい。ここで、冷却停止温度TsがC、N、Mn、Si含有量の関数として表されるのは、詳細は明らかでないが、CやNの析出やマルテンサイト相の生成がこれらの元素の含有量と関連しているためと考えられる。
{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−270 }〜{( 500−303 C−300 N−31Mn−15Si)−70}℃の温度範囲での滞留時間:50s以上
これらの温度範囲での滞留時間が50s未満では、CやNの拡散によるオーステナイト相の安定化、過度のマルテンサイト相生成の抑制等が不十分であり、良好な強度−延性バランスが得られない。滞留時間の上限は生産性の観点から決定されるが、600s程度とすることがより好ましい。なお、滞留時間の確保は、前記急冷に引き続いて除加熱あるいは緩冷却等により行ってもよい。
これらの温度範囲での滞留時間が50s未満では、CやNの拡散によるオーステナイト相の安定化、過度のマルテンサイト相生成の抑制等が不十分であり、良好な強度−延性バランスが得られない。滞留時間の上限は生産性の観点から決定されるが、600s程度とすることがより好ましい。なお、滞留時間の確保は、前記急冷に引き続いて除加熱あるいは緩冷却等により行ってもよい。
上記した温度範囲での滞留後、室温まで空冷することが好ましい。
(実施例1)
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブに表2に示す条件の熱延工程を施し、板厚4.0mm の熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗処理および、圧下率:80%の冷間圧延を施す冷延工程を施し、板厚0.8mm の冷延鋼帯(冷延板)とした。ついで、これら冷延鋼帯(冷延板)に連続焼鈍ラインにて表2に示す条件の焼鈍工程を施した。得られた冷延鋼帯(冷延板)に、さらに伸び率:0.5 %の調質圧延を施した。
表1に示す組成の溶鋼を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブに表2に示す条件の熱延工程を施し、板厚4.0mm の熱延鋼帯(熱延板)とした。引き続き、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗処理および、圧下率:80%の冷間圧延を施す冷延工程を施し、板厚0.8mm の冷延鋼帯(冷延板)とした。ついで、これら冷延鋼帯(冷延板)に連続焼鈍ラインにて表2に示す条件の焼鈍工程を施した。得られた冷延鋼帯(冷延板)に、さらに伸び率:0.5 %の調質圧延を施した。
なお、Ac1 変態点、Ac3 変態点は、数種の鋼組成について加熱速度3℃/s で熱膨張量−温度曲線図から実測した。
得られた冷延鋼帯から試験片となる鋼板を採取し、組織観察、引張試験を実施し、また固溶N量を測定した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られた冷延鋼帯から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡を用いて、倍率1000倍で微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相としてのフェライト相と第2相としてのマルテンサイト相等の組織の種類と、それらの組織分率を求めた。なお、微視組織の観察は、同一倍率で2視野とし、各視野での組織分率の値を平均してその組織の平均値とした。
得られた冷延鋼帯から試験片となる鋼板を採取し、組織観察、引張試験を実施し、また固溶N量を測定した。試験方法は次の通りとした。
(1)組織観察
得られた冷延鋼帯から試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡を用いて、倍率1000倍で微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相としてのフェライト相と第2相としてのマルテンサイト相等の組織の種類と、それらの組織分率を求めた。なお、微視組織の観察は、同一倍率で2視野とし、各視野での組織分率の値を平均してその組織の平均値とした。
なお、残留オーステナイト量はMoのKα線を用いてX線回析法により求めた。鋼板の板厚1/4付近の面を測定面とする試験片を使用し、オーステナイト相の( 211)および( 220)面とフェライト相の( 200)、( 220)面のピ−ク強度から残留オーステナイト相の体積率を算出した。
(2)引張試験
得られた冷延鋼帯から長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(降伏応力YS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YR)を求めた。
(2)引張試験
得られた冷延鋼帯から長軸を圧延方向に直交する方向としたJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、引張特性(降伏応力YS、引張強さTS、伸びEl、降伏比YR)を求めた。
なお、固溶N量は、化学分析により得た全N量から定電位電解法を用いて得られた析出N量を差し引いた値とした。
得られた結果を表3に示す。
得られた結果を表3に示す。
本発明例は、いずれも、引張強さTS590MPa以上の高強度を有し、かつ強度−延性バランス(TS×El)が19000MPa以上と、強度−延性バランスに優れるうえ、表面の美麗性にも優れていた。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、強度−延性バランス(TS×El)が低い値となっている。
Claims (4)
- 質量%で
C:0.03〜0.20%、 Si:0.4 %未満、
Mn:1.0 〜3.0 %、 P:0.08%以下、
S:0.01%以下
を含み、Al、Nを、Al:0.02%以下、N:0.0080〜0.0250%の範囲内でかつN含有量とAl含有量との比、N/Alが0.5 以上となるように含有し、さらに固溶状態のNを0.005 %以上含み、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、体積率で、60〜94%のフェライト相と、3〜30%のマルテンサイト相と、3.0 %以上の残留オーステナイト相とを含む組織と、を有することを特徴とする高張力冷延鋼板。 - 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cr:0.05〜1.5 %、Mo:0.05〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1に記載の高張力冷延鋼板。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Cu:0.005 〜1.5 %、Ni:0.005 〜1.5 %のうちの1種または2種を含有することを特徴とする請求項1または2に記載の高張力冷延鋼板。
- 前記組成に加えてさらに、質量%で、Nb、Ti、V、Bのうちの1種または2種以上を下記(1)式を満足するように含有することを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の高張力冷延鋼板。
記
N/(Al+Nb+Ti+V+B)≧0.5 …………(1)
ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量(質量%)
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