JP4337604B2 - 高張力鋼板の歪時効処理方法および高強度構造部材の製造方法 - Google Patents

高張力鋼板の歪時効処理方法および高強度構造部材の製造方法 Download PDF

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Description

本発明は、建築部材、機械構造用部品、自動車の構造用部品など、構造部材として広範囲に適用可能な、歪時効硬化特性に優れる高張力鋼板に係り、とくに歪時効処理後の延性低下を防止できる歪時効処理方法に関する。ここでいう「高張力鋼板」は、引張強さ440MPa以上の鋼板をいうものとする。なお、ここでいう歪時効処理は、構造部材の製造に際し、プレスなどによる成形加工と、その後に強度上昇のために行なう熱処理とを組合わせた処理をも含むものとする。また、ここでいう鋼板には、鋼帯をも含むものとする。
近年、地球環境の保全という観点から、自動車の燃費改善が要求され、車体の軽量化が指向されている。また、同時に、車両衝突時に乗員を安全に保護するという観点から、自動車車体の安全性向上も要求され、車体の強化が求められている。
このため、自動車車体の軽量化と強化を同時に図るために種々の方策の検討が積極的に進められている。自動車車体の軽量化と強化とを同時に満足させるには、部品素材を高強度化することが効果的であると言われており、最近では高張力鋼板が自動車部品に積極的に使用されている。
鋼板を素材とする自動車の車体部品の多くがプレス加工により成形されるため、使用される高張力鋼板には、優れたプレス成形性と、プレス成形後に硬化して部品強度を高めることができるように高い歪時効特性を有することが要求されている。
プレス成形性の良好な鋼板の代表例としては、軟質のフェライトと硬質のマルテンサイトが複合した組織を有する複合組織鋼板が挙げられる。特に、連続焼鈍後、ガスジェット冷却して製造される複合組織鋼板は、降伏応力が低く高延性と焼付け硬化性とを兼ね備えている。しかし、このような複合組織鋼板が有している焼付け硬化性は、最近の自動車部品に要求される強度を満足できるほど大きくないという欠点があった。
プレス成形後に硬化させ部品強度を高める方法としては、200℃未満で塗装焼付する方法がある。この塗装焼付用の鋼板として塗装焼付硬化型鋼板(BH鋼板)が開発されている。
例えば、特許文献1には、C、N、Al含有量に応じてNbを、at%でNb/(固溶C+固溶N)が特定範囲内となるように添加した組成とし、さらに、焼鈍後の冷却速度を適正範囲に調整することにより、鋼板中の固溶C、固溶Nを調整したBH鋼板の製造方法が提案されている。また、特許文献2には、TiとNbの複合添加によって焼付硬化性を向上させた鋼板の製造方法が提案されている。
しかし、特許文献1、特許文献2に記載された鋼板は、深絞り性に優れる材質とするため、鋼板強度が低く、構造用材料として必ずしも十分な特性を具備していないという問題がある。
また、特許文献3には、W、Cr、Moの単独または複合添加によって焼付硬化性を向上した鋼板の製造方法が開示されている。
また、特許文献1〜3に記載されたBH鋼板では、鋼板中の微量な固溶C、固溶Nを利用するため、塗装焼付け処理により材料の降伏強さは上昇するが、引張強さを上昇させるまでに至っていない。このため、BH鋼板を用いた部品では、部品の変形開始応力は高くなるが、部品の変形開始から変形終了までの変形全域にわたり変形に要する応力(成形後引張強さ)までが十分に高くならないという問題があった。
また、特許文献4には、加工時には軟質で、加工後の焼付塗装処理により疲労特性の改善に有効な引張強さが大幅に上昇する熱延鋼板の製造方法が開示されている。特許文献4に記載された技術で製造された熱延鋼板では、C量を0.02〜0.13%とし、Nを0.0080〜0.0250%と多量に添加し、仕上圧延温度および巻取り温度を制御して多量の固溶N量を鋼中に残存させ、鋼板組織をフェライトとマルテンサイトを主体とする複合組織とすることで、成形加工後、170℃で熱処理することにより、100MPa以上の引張強さの増加が見込めるとしている。
また、特許文献5には、鋼成分のうち、特にCを0.01〜0.12wt%、Nを0.0001〜0.01wt%の範囲に制限するとともに、平均結晶粒径を8μm以下に制御することにより、80MPa以上の高BH量を確保するとともに、AI量を45MPa以下に制限することが可能な焼付硬化性および耐室温時効性に優れた熱延鋼板が開示されている。
また、特許文献6には、固溶Nを有効に活用した、引張強さが440MPa以上の高延性高強度冷延鋼板の製造方法が開示されている。特許文献6に記載された技術によれば、成形後に100〜300℃の範囲の温度で熱処理することにより、加工歪が5%の場合に、引張強さが40MPa以上増加するとしている。
特開昭55−141526号公報 特公昭61−45689号公報 特開平5−25549号公報 特公平8−23048号公報 特開平10−183301号公報 特開2001−335887号公報
しかしながら、上記した従来技術に記載された技術で製造された高張力鋼板では、多量の塑性歪を導入した後に熱処理を施すこと(歪時効処理)により、歪時効硬化して強度はある程度確かに増加するが、延性が低下し、このため、これら高張力鋼板は、プレス成形、塗装焼付け後に高延性を要求される部材への適用が難しいという問題があった。このようなことから、高い歪時効硬化が得られ、しかも歪時効硬化後の延性の低下を抑制できる、高張力鋼板の歪時効処理方法、あるいは歪時効硬化特性に優れた高張力鋼板を用いて、延性に優れた高強度構造部材とすることができる、高強度構造部材の製造方法が要望されていた。
本発明は、上記した要望に鑑みてなされたものであり、高い歪時効硬化と歪時効硬化後の高延性とがともに得られる、高張力鋼板の歪時効処理方法、および延性に優れた高強度構造部材の製造方法を提案することを目的とする。
本発明者らは、上記した課題を達成するため、歪時効硬化後の延性に及ぼす、各種要因について鋭意研究を重ねた。まず、本発明者らは、つぎの各点に着目して、検討した。
(イ)従来の固溶N、Cを活用した歪時効硬化の考え方に基づくと、多量の転位を導入、すなわち大きな塑性歪を加え、これらの転位に多量の固溶N、Cを固着、あるいは析出させれば高歪時効特性が得られる。しかし、この場合、大きな塑性歪を加えたため延性が必然的に低くなることに加え、転位が固溶N、C、あるいは転位上に析出した微細炭・窒化物により強固に固着されるため、再加工時の運動(リューダース帯の伝播)が妨げられ、延性がさらに低下する。したがって、この歪時効処理後の延性を向上させるには、予加工により導入された転位上のみでなく、他の母相領域にも微細炭・窒化物を析出させ再加工時の転位の運動を容易にすることが有効であると考えられる。
(ロ)予加工により導入された転位上のみでなく、他の母相領域にも微細炭・窒化物を析出させるには、析出の駆動力を大きくすることが有効と考えられる。この析出の駆動力増大法としては、歪時効処理時の熱処理温度の上昇が効果的と推定される。
(ハ)歪時効処理時の熱処理温度の上昇により析出の駆動力を増大させる場合、その駆動力は固溶CやNと相互作用にある置換型元素の種類や含有量により異なることが予想されるため、それらに応じて適正な温度範囲を設定する必要がある。
(ニ)鋼板のミクロ組織としてマルテンサイト相を多く含む場合、マルテンサイト相が熱処理温度の高温化に伴い軟質化するため、歪時効による強度上昇が見掛け上低くなる恐れがある。したがって、マルテンサイト分率についても適正化の必要がある。
これらの項目について検討した結果、歪時効処理後の鋼板、あるいは成形加工後の構造部材に、高い歪時効硬化と歪時効硬化後の高延性を兼備させるためには、鋼板に十分な量の固溶Nを確保するとともに、鋼板に十分な量の塑性歪を付加したのち、鋼板組成に応じて適正な温度で熱処理を施すことが重要となることに思い至った。
本発明は、上記した考えに基づき、さらに検討を重ねて完成されたものである。すなわち、本発明の要旨はつぎの通りである。
(1)高張力鋼板に歪時効処理を施し歪時効硬化させるにあたり、前記高張力鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.005〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.08%以下、S:0.005%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、固溶状態のNを0.003%以上を含有し、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で10%以下に規制した組織とを有する高張力鋼板とし、前記歪時効処理が、次(1)式
ε(%)=(母材鋼板の均一伸び(%))−5 ………(1)
(ここで、ε:塑性歪(%))
で定義される塑性歪ε%以上の予歪を付与する加工処理を施したのち、次(2)式
10Mn+500Mo+250Cr+170≦T≦10Mn+500Mo+250Cr+400 ………(2)
(ここで、T:熱処理温度(℃)、Mn、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を満足する温度T℃で1〜30min間保持する熱処理を施す処理であることを特徴とする、高張力鋼板の歪時効処理方法。
(2)(1)において、前記高張力鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする歪時効処理方法。
)(1)において、前記高張力鋼板が、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.005〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.08%以下、S:0.005%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、そのシートバーに仕上圧延出側温度:800℃以上とする仕上圧延を施し、巻取り温度:750℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗、および冷間圧延を行い冷延板とする冷延工程と、該冷延板に(Ac1変態点)〜(Ac3変態点+100℃)の温度範囲に加熱したのち、600℃までの平均冷却速度を5℃/s以上とする冷却速度で冷却する冷延板焼鈍工程と、を順次施して製造された鋼板であることを特徴とする歪時効処理方法。
(4)(3)において、前記鋼スラブが、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする歪時効処理方法。
)高張力鋼板を素材鋼板として、該素材鋼板に成形加工を施したのち、熱処理を施して高強度構造部材とするに当たり、前記高張力鋼板を、質量%で、C:0.01〜0.15%、Si:0.005〜1.5%、Mn:0.1〜2.5%、P:0.08%以下、S:0.005%以下、Al:0.02%以下、N:0.0050〜0.0250%を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、固溶状態のNを0.003%以上含有し、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で10%以下に規制した組織とを有する高張力鋼板とし、前記成形加工を、該成形加工の塑性歪が次(3)式
ε(%)=(素材鋼板の均一伸び(%))−5 ………(3)
(ここで、ε:塑性歪(%))
で定義される塑性歪ε%以上となる加工とし、該成形加工後に施す前記熱処理を、次(4)式
10Mn+500Mo+250Cr+170≦T≦10Mn+500Mo+250Cr+400 ………(4)
(ここで、T:熱処理温度(℃)、Mn、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を満足する温度T℃で1〜30min間保持する熱処理とすることを特徴とする、高強度構造部材の製造方法。
(6)(5)において、前記高張力鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする高強度構造部材の製造方法。
本発明によれば、高い歪時効硬化と歪時効硬化後の高延性とがともに得られ、構造部材としての強度と延性を確保でき、産業上格段の効果を奏する。また、本発明によれば、延性に優れた高強度構造部材を容易に製造でき、自動車車体の軽量化に大きく寄与できるという効果もある。
なお、本発明において、「高い歪時効硬化」および「歪時効硬化特性に優れた」とは、{(母材の均一伸びUEl(%))−5}%以上の予歪を付与する加工処理後、{10Mn+500Mo+250Cr+170}の温度から{10Mn+500Mo+250Cr+400}の温度の温度域に1〜30min保持する条件で熱処理したとき、この熱処理前後の変形応力増加量(BH量と記す:BH量=(熱処理後の降伏応力)−(熱処理前の予変形応力))が60MPa以上であり、かつ歪時効処理(前記加工処理+前記熱処理)前後の引張強さ増加量(ΔTSと記す:ΔTS=(熱処理後の引張強さ)−(加工処理前の引張強さ))が40MPa以上あることを意味する。
また、「歪時効硬化後の高延性」および「歪時効処理後の延性に優れた」とは、JIS 5号引張試験片での歪時効処理後の延性として、[(歪時効処理後の全伸びElBH)/{(母材の全伸びEl)−(加工処理による塑性歪量ε)}]が0.50以上であることを意味する。
本発明で使用する高張力鋼板は、引張強さ(TS):440MPa以上を有し、歪時効硬化特性に優れた鋼板である。
まず、本発明で使用する高張力鋼板の組成限定理由について説明する。なお、質量%は単に%と記す。
C:0.01〜0.15%
Cは、固溶して鋼板強度を増加させ、複合組織の形成を促進する元素であり、本発明では所望の引張強さを確保する観点からC含有量は0.01%以上に限定した。一方、0.15%を超える含有は、鋼中の炭化物の分率が増加することに起因して鋼板の延性、さらには成形性を顕著に低下させるとともに、スポット溶接性、アーク溶接性などを顕著に低下させる。このため、Cは0.01〜0.15%の範囲に限定した。なお、成形性、溶接性の観点から好ましくは、0.08%以下である。
Si:0.005〜1.5%
Siは、鋼の延性を顕著に低下させることなく、鋼板を高強度化させることができる有用な強化元素である。このような効果は0.005%以上の含有で発揮される。しかし、1.5%を超える含有は、表面性状、化成処理など表面の美麗性が劣化する。このため、Siは0.005〜1.5%の範囲に限定した。なお、好ましくは0.1%以上である。なお、引張強さが500MPaを超えるような高強度領域で高延性を確保するためには、Siを0.5%以上含有することが、強度と延性のバランスの観点からは望ましい。
Mn:0.1〜2.5%
Mnは、鋼を強化する作用があり、さらにフェライトとマルテンサイトの複合組織が得られる臨界冷却速度を小さくして、フェライトとマルテンサイトの複合組織の形成を促進する作用を有しており、再結晶焼鈍後の冷却速度に応じて0.1%以上含有させるのが好ましい。また、MnはSによる熱間割れを防止する有効な元素であり、S量に応じて含有することが好ましい。また、Mnは結晶粒を微細化する効果がある。引張強さTS500MPa超級の高強度領域が要求される場合には、Mnは0.5%以上、さらに好ましくは1.0%以上含有することが望ましい。Mn含有量をこのレベルまで高めることで、熱延条件の変動に対する鋼板の機械的性質、とくに本発明が目的とする優れた歪時効硬化特性の敏感性が顕著に改善されるという大きな利点がある。一方、Mnを2.5%を超えて過剰に含有すると、詳細な機構は不明であるが鋼板の熱間変形抵抗を増加させる傾向があり、さらに溶接性、溶接部の成形性も劣化する傾向にあり、さらにはフェライトの生成が抑制され、延性が顕著に低下する。このようなことから、Mnは0.1〜2.5%の範囲に限定した。なお、より良好な耐食性と成形性が要求される用途では、Mnは2.0%以下とすることが望ましい。
P:0.08%以下
Pは、鋼を強化する作用があり、所望の強度に応じて必要量含有させることができるが、P含有量が0.08%を超えて含有すると、プレス成形性が劣化する。このため、Pは0.08%以下に限定した。なお、より優れたプレス成形性が要求される場合には、Pは0.05%以下とするのが好ましい。さらに、特にTS:590MPa以上の高強度が要求される用途で、C、Mn等を多量に含有する場合には、溶接性の観点から、Pは0.05%以下とするのが好ましい。
S:0.005%以下
Sは、鋼板中では介在物として存在し、鋼板の延性、成形性、とくに伸びフランジ成形性の劣化をもたらす元素であるため、できるだけ低減するのが好ましい。0.005%以下に低減すると伸びフランジ成形性への悪影響が無視できることから、本発明ではSは0.005%以下に限定した。なお、より優れた伸びフランジ成形性、あるいはTS:590MPa以上を確保するためにC、Mn等を多量に含有し、優れた溶接性を要求される場合には、Sは0.003%以下とするのが好ましい。
Al:0.02%以下
Alは、鋼の脱酸剤として添加され、鋼の清浄度を向上させるのに有用な元素であり、また鋼の組織微細化にも有効に作用する元素である。固溶状態のNを強化元素として利用する場合には、適正範囲のAlを含有したアルミキルド鋼のほうが、Alを含有しないリムド鋼に比して、機械的性質が優れている。なお、Al量が多くなると表面性状の悪化、固溶Nの顕著な低下につながり、極めて大きな時効硬化特性を確保することが困難となる。このようなことから、Alは0.02%以下に限定した。なお、材質の安定性という観点から、Alは0.001〜0.015%の範囲とすることが望ましい。
N:0.0050〜0.0250%、固溶状態のN:0.003%以上
Nは、鋼板強度の増加と、優れた歪時効硬化特性を発現させるうえで重要な元素である。また、Nは鋼の変態点を降下させる効果もあり、薄物で変態点を大きく割り込んだ圧延をしたくないという状況ではその含有は有効で、おおむね0.0050%以上の含有によってこのような効果が安定して得られる。一方、0.0250%を超える含有は、鋼板の内部欠陥の発生率が高くなるとともに、連続鋳造時のスラブ割れなどの発生も顕著となる。このため、Nは0.0050〜0.0250%の範囲に限定した。製造工程全体を考慮した材質の安定性・歩留まり向上という観点からは、0.0070〜0.0170%の範囲とすることがさらに好ましい。なお、Nが上記した範囲内であれば溶接性等にはまったく悪影響はない。
また、鋼板強度が十分に確保され、さらにNによる歪時効硬化が有効に発揮されるには、固溶状態のNは概ね0.003%以上とする必要がある。なお、固溶Nの分析法は、鋼中の全N量から、析出N(電解抽出による溶解法でもとめる)を差し引いた値を固溶Nとする。これは、固溶Nの分析法について種々の方法を検討したが、本発明法で採用した電解抽出による溶解を適用して析出N量を求め、この析出N量を用いて固溶N量を求める方法が最も良く、材質の変化と対応したことに基づく。また、さらに大きな歪時効硬化による降伏応力の増加、および引張強さTSの増加が必要な場合は固溶Nを0.005%以上とすることが有効である。
上記した適正範囲のNと、冷延製品の状態で必要かつ十分な固溶状態のNを確保することにより、目標とする440MPa以上の引張強さと歪時効処理後60MPa以上の変形応力の増加と、歪時効処理後40MPa以上の引張強さの増加が安定して得られる。
N/Alの比:0.3以上
N、Alは、上記した範囲内で含有し、かつN含有量とAl含有量の比であるN/Alが0.3以上になるように調整する。N/Alが0.3未満では、固溶N量:0.003%以上を確保することができず、目標とする歪時効硬化特性を有する鋼板とすることができない。このため、N/Alを0.3以上に限定した。
上記した組成が本発明で使用する高張力鋼板の基本組成であるが、該高張力鋼板には下記のようにCr、Moの1種または2種をさらに含有してもよい。
Cr、Moのうちの1種または2種:合計で2.0%以下
Cr、Moは、フェライト相、マルテンサイト相を含む複合組織の形成、結晶粒径の均一かつ微細化に有効に作用する元素であり、選択して1種または2種を合計で0.01%以上含有することが好ましい。一方、合計で2.0%を超える過剰な含有は、Cr、Moが鋼板の強度を増加させるため、熱間変形抵抗の顕著な増加を招く。また、Cr、Moの過剰な含有は、化成処理性およびより広義の表面処理特性を顕著に悪化させ、さらには、溶接部の硬化に由来する溶接部成形性を顕著に低下させる。このようなことから、Cr、Moのうちの1種または2種を合計で2.0%以下に限定した。
本発明で使用する高張力鋼板では、上記した成分以外の成分については、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上、および/または、Cu:1.0%以下、Ni:1.0%以下のうちから選ばれた1種または2種、および/または、Ca:0.1%以下、Zr:0.1%以下、REM:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上等を、必要に応じ含有させてもなんら問題はない。なお、B、Nb、Ti、Vについては、鋼を析出強化する作用があり所望の強度に応じて上記した範囲内で必要量選択して含有することができるが、これらの元素はNとの化合物を形成し易く、単独添加、または複合添加で、N/(Al+Nb+Ti+V+B)が0.3未満となると、歪時効硬化特性が劣化する傾向があるため、N/(Al+Nb+Ti+V+B)を0.3以上とすることが好ましい。
上記した成分以外の残部はFeおよび不可避的不純物である。不可避的不純物としては、例えばSb、Sn、Zn、Co等が挙げられ、許容範囲は、Sb:0.01%以下、Sn:0.1%以下、Zn:0.01%以下、Co:0.1%以下の範囲である。
次に、本発明で使用する高張力鋼板のミクロ組織について説明する。
本発明で使用する高張力鋼板は、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を、組織全体に対する面積率で10%以下に規制した組織を有する。ここでいう主相とは、組織全体に対する面積率で50%以上を占める相をいうものとする。フェライト相を主相とすることにより、延性が向上する。
なお、本発明で使用する高張力鋼板では、マルテンサイト相を面積率で10%以下に規制する。マルテンサイト相が10%を超えると、高温の歪時効処理時にマルテンサイト相が軟質化して歪時効硬化量が低下する。このため、マルテンサイト相は面積率で10%以下に限定した。なお、歪時効硬化特性の観点からは5%以下とすることが好ましい。なお、低降伏比等の複合組織の利点を利用する観点からは面積率で2%以上10%以下の範囲でマルテンサイト相を有することが好ましい。
また、主相であるフェライト相および上記したマルテンサイト相以外の副相として、パーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相およびこれらの相を混合して含んでもよい。なお、パーライト相、ベイナイト相、残留オーステナイト相は、優れた延性や歪時効硬化特性を確保する観点から、合計で組織全体に対して面積率で40%以下とすることが好ましい。
つぎに、上記した組織を有する高張力鋼板の好ましい製造方法について説明する。
固溶N量以外の、上記した組成の溶鋼を、転炉、電気炉等の通常の溶製方法で溶製し、好ましくは偏析を防止すべく連続鋳造法で鋼スラブとする。なお、連続鋳造法以外に、造塊法、薄スラブ鋳造法をもちいても何ら問題はない。
ついで、鋼スラブに、粗圧延しシートバーとしたのち仕上圧延して熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗、および冷間圧延を行い冷延板とする冷延工程と、該冷延板に焼鈍処理を施す冷延板焼鈍工程と、を順次施して鋼板とされる。
まず、熱間圧延工程について、説明する。
鋳造された鋼スラブを、いったん室温まで冷却し、その後再加熱したのち熱間圧延を施し熱延板とする。なお、室温まで冷却しないで、温片のままで加熱炉に装入したのち圧延する、あるいはわずかの保熱をおこなった後に直ちに圧延する、直送圧延・直接圧延などの省エネルギープロセスも問題なく適用できる。特に固溶状態のNを有効に確保するには直送圧延は有用な技術の一つである。
熱間圧延工程は、つぎのような条件で行なうことが好ましい。
スラブ加熱温度:1000℃以上
スラブ加熱温度は初期状態として固溶状態のNを確保するという観点から1000℃以上とすることが好ましい。加熱温度の上限は特に限定されないが、酸化重量の増加にともなうロスの増大などから1280℃以下とすることが望ましい。
粗圧延は、所定の形状寸法のシートバーとすることができればよく、とくに限定する必要はない。ついで、シートバーは仕上圧延出側温度を800℃以上とする仕上圧延を施され、巻取り温度:750℃以下で巻き取り、熱延板とされる。
仕上圧延出側温度:800℃以上
仕上圧延出側温度を800℃以上とすることで、均一微細な熱延母板組織を得ることができる。仕上圧延出側温度が800℃未満では、鋼板の組織が不均一になり、冷延、焼鈍後にも組織の不均一性が消えずに残留し、プレス成形時に種々の不具合を発生する危険性が増大する。なお、800℃未満の低い圧延温度の場合に加工組織の残留を回避すべく、高い巻取り温度を採用しても、粗大粒の発生にともなう不具合が生じ、また固溶Nの顕著な低下も生じて、目標とする引張強さ:440MPa以上の高強度を得ることが困難となる。このため、仕上圧延出側温度を800℃以上に限定した。なお、好ましくは更なる機械的性質向上の観点から820℃以上である。仕上圧延出側温度の上限はとくに限定されないが、過度に高い温度で圧延した場合にはスケール疵などが多発するため、おおむね1000℃までが適用可能である。
巻取り温度:750℃以下
熱間圧延における巻取り温度を低下させることにより、熱延板の強度は増加する傾向にある。750℃以下の巻取り温度とすることにより、440MPa以上の引張強さを得ることが可能となるため、巻取り温度は750℃以下とすることが好ましい。なお、巻取り温度の下限は、材質上からは厳しく限定はされないが、200℃未満では、鋼板の形状が顕著に乱れだし、実際の使用にあたり不具合を生ずる危険性が増大する。また、材質の均一性も低下する傾向にあり、望ましくない。このため、巻取り温度は200℃以上とすることがより好ましい。高い材質均一性が要求される場合は300℃以上とすることが望ましい。
つぎに、熱延板は,冷延工程を施される。
熱延板は、酸洗を施され、ついで冷間圧延されて冷延板とされる。酸洗は通常法に準じて行うが、極めて薄いスケールの状態であれば直接冷間圧延することも可能である。冷間圧延は、所定の寸法形状の冷延板とすることができればその条件はとくに限定されない。
ついで、冷延板は、冷延焼鈍工程を施される。
冷延板の焼鈍は、(Ac1変態点)〜(Ac変態点+100℃)の温度範囲で行う。
焼鈍温度が、Ac1変態点未満では鉄と窒素などとの化合物が溶解しないため、所望の固溶N量を確保しにくく、高い歪時効硬化量を確保することが期待できなくなる。さらに、未再結晶粒が多くなり、延性等の機械的性質が低下する。一方、(Ac3変態点+100℃)を超えて高くなると、結晶粒が粗大化し、機械的性質、歪時効特性、室温での耐時効性が劣化する。なお、上記した焼鈍温度での均熱時間は、操業安定性の観点からおおむね10s以上とすることが好ましい。一方、均熱時間は、組織の均一性、かつ微細化の観点から、おおむね120s以下とすることが好ましい。
上記した焼鈍温度に加熱均熱したのち、該焼鈍温度から600℃までの平均冷却速度を5℃/s以上とする冷却速度で冷却する。該冷却速度が、5℃/s未満では、固溶Nが析出物として析出し、所望の固溶N量を確保することができなくなる。また、フェライト相に比べ硬質であるため、加工処理により変形が生じにくく、歪時効硬化特性への寄与が少ないと考えられるマルテンサイト中への過度の固溶CやNの濃化を抑制するため、少なくとも600℃までは5℃/s以上で冷却する必要がある。なお、該冷却(加速冷却)はより優れた歪時効硬化特性を得るためには、450℃以下まで行うことが好ましい。
さらに冷却停止後300〜450℃の範囲で10s〜300s程度確保することが好ましい。
ここでの鋼板組織の調整は(1)焼鈍温度、(2)冷却速度、(3)Mn、Mo、Cr、Cu、Ni、Si等の含有量により行うことができ、いずれの方法でマルテンサイト相を10%以下としてもよい。また、冷却停止温度の調整によりさらに精度よくマルテンサイト相分率の調整をおこなうことができる。
また、冷延焼鈍工程に続いて、形状矯正、表面粗度等の調整のために、伸び率10%以下の調質圧延工程を加えてもよい。
なお、本発明で使用する高張力鋼板は、上記した各工程を順次施された冷延焼鈍板とすることが好ましいが、さらに溶融亜鉛めっき等のめっき処理を施すことはなんら問題ない。また、めっき処理後、化成処理性、溶接性、プレス成形性および耐食性等の改善のために特殊な表面処理を施してもよい。
本発明では、好ましくは上記した製造方法で製造され、上記した組成と組織を有する歪時効硬化特性に優れた高張力鋼板に、次(1)式
ε(%)=(母材鋼板の均一伸び(%))−5 ………(1)
(ここで、ε:塑性歪(%))
で定義される塑性歪ε%以上の予歪を付与する加工処理を施したのち、次(2)式
10Mn+500Mo+250Cr+170≦T≦10Mn+500Mo+250Cr+400 ………(2)
(ここで、T:熱処理温度(℃)、Mn、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%))
を満足する温度T℃で1〜30min間保持する熱処理を施す歪時効処理を施す。これにより、高い歪時効硬化と、歪時効硬化後の高い延性が確保できる。
加工処理では、予歪として付与する塑性歪がε%未満では、導入される転位密度が低く、そのため歪時効硬化量が低くなり、所望の歪時効硬化特性が確保できなくなる。付与する塑性歪の上限は、歪付加方法により異なるため、とくに限定しないが、局部変形が開始するまでの塑性歪とすることが好ましい。なお、ここでいう「塑性歪」は、一軸以外の、等二軸あるいは曲げ等の加工処理による塑性歪でもよい。一軸以外の場合には、塑性歪は、一軸相当塑性歪を用いるものとする。なお、一軸相当塑性歪は下記のような方法で求める。
まず、加工処理後の試験片の引張試験を行い、該引張試験における塑性変形開始時の真応力を求める。次に、加工処理前の原板から採取した試験片の引張試験により求めた真応力−真歪曲線から、上記のようにして求めた塑性変形開始時の真応力と原板の真応力が一致する際の原板の歪量(塑性歪量)を求め、その値を一軸相当塑性歪と定義する。このようにして、その加工処理による一軸相当塑性歪を求め、所望の加工において、塑性歪をε%以上の予歪を付与するように調整すればよい。
加工処理後の熱処理は、(2)式を満足するT℃とする。熱処理温度が{10Mn+500Mo+250Cr+170}未満の温度では、転位への固溶Nや固溶Cの固着が主体となり、再加工時の転位の運動が妨げられると推定され、延性の向上が得られない。一方、熱処理温度が{10Mn+500Mo+250Cr+400}を超える温度では、炭・窒化物の粗大化や、マルテンサイト相の過度の軟化が生じると考えられ、歪時効硬化特性が顕著に劣化する。このため、加工処理後の熱処理温度は、{10Mn+500Mo+250Cr+170}〜{10Mn+500Mo+250Cr+400}の範囲内の温度に限定した。なお、Mn、Mo、Crは、いずれもCやNの拡散速度を低下させるという作用があり、転位以外の母相領域に炭・窒化物を微細分散させるためには、これらの元素の含有量の増加に伴い(2)式に従い熱処理温度を高温化する必要があると考えられる。
また、上記した熱処理温度での時間は、1min未満では工業的に時間のコントロールが難しく安定した歪時効硬化特性の確保が難しく、一方、30min超では、生産性が低下し、経済的に不利となる。このため、熱処理時間は1〜30minの範囲に限定した。
このような歪時効処理により、高い歪時効硬化が得られるとともに、歪時効処理後に優れた延性を確保できる。
なお、歪時効硬化特性に優れた高張力鋼板を素材鋼板として、プレス等による成形加工と、その後に強度上昇のために行なう熱処理とを組合わせて、高強度構造部材を製造する際に、上記した歪時効処理と同様に、成形加工を(3)式で定義されるε%以上の塑性歪を付与する加工とし、その後の強度上昇のための熱処理を(4)式を満足する温度T℃で好ましくは1〜30min間保持する熱処理とすることにより、高い強度と高い延性を兼備した高強度構造部材とすることができる。
(実施例1)
表1に示す組成の溶綱を転炉で溶製し、連続鋳造法で鋼スラブとした。ついで、これら鋼スラブに、表2に示す条件の熱間圧延工程を施し、板厚4.0mmの熱延鋼帯(熱延板)とした。ついで、これら熱延鋼帯(熱延板)に酸洗、および圧下率:70%で冷間圧延を施す冷延工程を施し、板厚1.2mmの冷延鋼帯(冷延板)とした。ついで、これら冷延鋼帯(冷延板)に、連続焼鈍ラインにて平均加熱速度5℃/sで表2に示す焼鈍温度に昇温し、表2に示す条件の冷延焼鈍工程を施した。ここで、焼鈍後の冷却時に表2中に示す冷却停止温度にて60s保持した。ついで、得られた鋼帯(冷延焼鈍板)に、さらに伸び率:1.0%の調質圧延を施した。なお、固溶N量は、化学分析により得られた鋼中の全N量から、電解抽出による溶解法で求めた析出N量を差し引いた値とした。なお、Ac変態点、Ac変態点は熱膨張の測定により求めた。
得られた鋼板について、組織、引張特性を調査した。試験方法はつぎの通りとした。
(1)組織調査
得られた鋼板から、試験片を採取し、圧延方向に直交する断面(C断面)について、光学顕微鏡あるいは走査型電子顕微鏡を用いて微視組織を撮像し、画像解析装置を用いて主相であるフェライトの組織分率および第二相の種類と組織分率を求めた。
(2)引張特性
得られた鋼板から、圧延方向に垂直な方向を長手方向とするJIS 5号引張試験片を採取し、JIS Z 2241の規定に準拠して引張試験を行い、降伏応力(YS)、引張強さ(TS)、伸び(El)、降伏比(YR)を求めた。
得られた結果を、表3に示す。
得られた鋼板について、表2に示す条件の加工処理と熱処理とを施し、歪時効硬化特性を調査した。歪時効硬化特性は、各鋼板から圧延方向に垂直な方向を長手方向にする引張試験片(JIS 5号試験片)を採取し、表2に示す条件の加工処理と熱処理とを施したのち、引張試験を行い、歪時効処理後の強度、全伸び(ElBH)を調査した。次式
BH量=(熱処理後の降伏応力)−(熱処理前の予変形応力)
ΔTS=(熱処理後の引張強さ)−(加工処理前の引張強さ)
により、BH量、ΔTSを算出し、歪時効硬化特性を評価した。また、[(歪時効処理後の全伸びElBH)/{(母材の全伸びEL)−(加工処理による塑性歪量ε)}]により歪時効処理後の延性を評価した。この値が0.50以上の場合を「歪時効処理後の延性に優れる」として○とし、それ以外を×とした。
得られた結果を表3に示す。
Figure 0004337604
Figure 0004337604
Figure 0004337604
本発明例は、いずれも60MPa以上のBH量と、40MPa以上のΔTSを有し、歪時効特性に優れるうえ、ElBH/{El−ε}が0.50以上と、歪時効処理後の延性に優れている。これに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、歪時効特性、あるいは歪時効処理後の延性のいずれかが低い値となっている。
(実施例2)
実施例1で示した鋼板No.3(均一伸びUEl:13%)に、成形加工を施し、高強度構造部材でよく用いられる形状であるハット形状部材を作製した。成形加工は、塑性歪13%(ハット形状部材の縦壁部の歪)となる加工とした。
ついで、得られたハット形状部材に(イ)200℃で10min、(ロ)170℃で10minの熱処理をそれぞれ施した。熱処理後該部材を圧潰試験に供した。その結果、(ロ)の熱処理を施した部材では部材中に亀裂が生じたが、(イ)の熱処理を施した部材では亀裂を生じることはなかった。なお、(イ)の熱処理を施された部材は、(3)式で定義される塑性歪をε%以上の加工と、(4)式を満足する温度T℃で熱処理された本発明例であり、(ロ)の熱処理を施された部材は、本発明の範囲を外れる比較例である。
本発明例ではElBHが10%と高いのに対し、本発明の範囲を外れる比較例では、ElBHが6%と延性が低く、衝撃吸収エネルギーが低下する場合があることがわかる。

Claims (6)

  1. 高張力鋼板に歪時効処理を施し歪時効硬化させるにあたり、前記高張力鋼板を、
    質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:0.005〜1.5%、
    Mn:0.1〜2.5%、 P:0.08%以下、
    S:0.005%以下、 Al:0.02%以下、
    N:0.0050〜0.0250%
    を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、固溶状態のNを0.003%以上含有し、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で10%以下に規制した組織とを有する高張力鋼板とし、前記歪時効処理が、下記(1)式で定義される塑性歪ε%以上の予歪を付与する加工処理を施したのち、下記(2)式を満足する温度T℃で1〜30min間保持する熱処理を施す処理であることを特徴とする、高張力鋼板の歪時効処理方法。

    ε(%)=(母材鋼板の均一伸び(%))−5 ………(1)
    10Mn+500Mo+250Cr+170≦T≦10Mn+500Mo+250Cr+400 ………(2)
    ここで、ε:塑性歪(%)
    T:熱処理温度(℃)
    Mn、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%)
  2. 前記高張力鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする請求項1に記載された歪時効処理方法。
  3. 前記高張力鋼板が、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:0.005〜1.5%、
    Mn:0.1〜2.5%、 P:0.08%以下、
    S:0.005%以下、 Al:0.02%以下、
    N:0.0050〜0.0250%
    を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成の鋼スラブを、スラブ加熱温度:1000℃以上に加熱し、粗圧延してシートバーとし、そのシートバーに仕上圧延出側温度:800℃以上とする仕上圧延を施し、巻取り温度:750℃以下で巻き取り熱延板とする熱間圧延工程と、該熱延板に酸洗、および冷間圧延を行い冷延板とする冷延工程と、該冷延板に(Ac変態点)〜(Ac変態点+100℃)の温度範囲に加熱したのち、600℃までの平均冷却速度を5℃/s以上とする冷却速度で冷却する冷延板焼鈍工程と、を順次施して製造された鋼板であることを特徴とする請求項1に記載された歪時効処理方法。
  4. 前記鋼スラブが、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする請求項3に記載された歪時効処理方法。
  5. 高張力鋼板を素材鋼板として、該素材鋼板に成形加工を施したのち、熱処理を施して高強度構造部材とするに当たり、前記高張力鋼板を、質量%で、
    C:0.01〜0.15%、 Si:0.005〜1.5%、
    Mn:0.1〜2.5%、 P:0.08%以下、
    S:0.005%以下、 Al:0.02%以下、
    N:0.0050〜0.0250%
    を含み、かつN、AlをN/Alが0.3以上を満足するように含み、固溶状態のNを0.003%以上を含有し、あるいはさらに、CrおよびMoのうちの1種または2種を合計で2.0%以下含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる組成と、フェライト相を主相とし、マルテンサイト相を組織全体に対する面積率で10%以下に規制した組織とを有する高張力鋼板とし、前記成形加工を、該成形加工の塑性歪が下記(3)式で定義される塑性歪ε%以上となる加工とし、該成形加工後に施す前記熱処理を下記(4)式を満足する温度T℃で1〜30min間保持する熱処理とすることを特徴とする、高強度構造部材の製造方法。

    ε(%)=(素材鋼板の均一伸び(%))−5 ………(3)
    10Mn+500Mo+250Cr+170≦T≦10Mn+500Mo+250Cr+400 ………(4)
    ここで、ε:塑性歪(%)
    T:熱処理温度(℃)
    Mn、Mo、Cr:各元素の含有量(質量%)
  6. 前記高張力鋼板が、前記組成に加えてさらに、質量%で、B:0.005%以下、Nb:0.1%以下、Ti:0.1%以下、V:0.1%以下のうちから選ばれた1種または2種以上を、N/(Al+Nb+Ti+V+B)(ここで、N、Al、Nb、Ti、V、B:各元素の含有量)が0.3以上を満足するように、含有することを特徴とする請求項5に記載された高強度構造部材の製造方法。
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