JP5790449B2 - 連続鋳造鋳片の品質判定方法 - Google Patents

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Description

本発明は、連続鋳造機で鋳造中の鋳片の品質判定方法に関し、詳しくは、鋳片の厚み中心部に生成される中心偏析の程度を鋳造中に判定する方法に関する。
鋼の凝固過程では、炭素、燐、硫黄などの溶質元素は、凝固時の再分配によって未凝固の液相側に濃化される。これがデンドライト樹間に形成されるミクロ偏析である。連続鋳造機により鋳造されつつある鋳片の凝固収縮や、連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって、鋳片の厚み中心部に空隙が形成されたり負圧が生じたりすると、この部分に溶鋼が吸引されるが、凝固末期の未凝固層には十分な量の溶鋼が存在しないので、上記のミクロ偏析によって濃縮された溶鋼が流動し、鋳片中心部に集積して凝固する。このようにして形成された偏析スポットは、溶質元素の濃度が溶鋼の初期濃度に比べて格段に高濃度となっている。これを一般にマクロ偏析と呼び、その存在部位から中心偏析と呼んでいる。
この中心偏析は、鋼製品の品質を不均一化するのみならず劣化させるので、鋳造工程から圧延工程に至るまでの工程で、中心偏析を改善する多数の技術が提案されている。
例えば、特許文献1には、鋳片のクレーターエンド近傍で、鋼鋳片に0.5〜2.0mm/mの圧下を加えることによって中心偏析を低減する技術が開示されている。
また、特許文献2には、軽圧下中の鋳片のロール間バルジング量を測定するとともに、鋳片に軽圧下を付与するロールセグメントの上流側端部及び下流側端部における軽圧下中の変位を測定し、該変位の測定値からロール間隔を測定し、前記バルジングによる残溶鋼の流動を打ち消すようにバルジング量に応じてセグメントの圧下勾配を求め、求めた圧下勾配になるように、圧下ロール(鋳片に圧下力を付与する鋳片支持ロール)のロール間隔を鋳造中に調整する技術が開示されている。尚、「軽圧下」とは、鋳片に凝固収縮程度の圧下力を付与しながら連続鋳造する技術であり、複数の圧下ロールが鋳造方向に連続して設置された範囲において、鋳造方向下流に向かって順次狭くなるように設定されたロール間隔の状態を「圧下勾配」と呼んでいる。また、「ロールセグメント」とは、複数本の鋳片支持ロールが配置されたフレームを相対させて構成した鋳片支持・案内装置であり、ロールセグメントで構成される連続鋳造機をロールセグメント方式の連続鋳造機と呼んでいる。
特開昭54−107831号公報 特開2009−66652号公報
しかしながら、上記従来技術には以下の問題点がある。
即ち、特許文献1は、鋳造前に、鋳片に0.5〜2.0mm/mの圧下が加わるように圧下ロールの位置を設定した後は、鋳造中に圧下ロールのロール間隔を測定することはなく、あくまでも圧下ロールは所定量の圧下を鋳片に付与しているとしている。つまり、鋳造前の圧下ロールの設定値で鋳片の品質管理を行っており、鋳片引き抜き速度が変動した場合などには、圧下ロールの剛性以上の荷重が圧下ロールに掛かるときがあり、その場合には、圧下ロールが変形したり、設備の損傷を防ぐために圧下ロールが退避したりするが、換言すれば、所定の圧下量が付与されないことが起こるが、この点に関して特許文献1は対応していない。
特許文献2は、鋳片に軽圧下を付与するためのロールセグメントの変動を上流側及び下流側の2箇所でリアルタイムに測定しており、鋳片引き抜き速度の変動などに起因する圧下量の変化を把握することが可能である。しかし、ロールセグメントの剛性が弱く、ロールセグメント自体が上方側に凸に曲がった場合でも、上流側及び下流側の2箇所の測定値で求められる圧下勾配は見掛け上確保されるが、このような場合には、実際には目的とする圧下量が鋳片には付与されない。特許文献2は、この現象を捉えることができず、中心偏析の悪化した鋳片を把握することができない。
本発明は上記事情に鑑みてなされたもので、その目的とするところは、ロールセグメント方式の連続鋳造機を用い、ロールセグメントに圧下勾配を設けて鋳片に圧下力を付与しながら連続鋳造する際に、鋳造中にロールセグメントの変形を監視し、この監視結果からロールセグメントによる所定の圧下量が鋳片に付与されていないと判定されたときには、そのときの鋳片を通常運用から除外し、鋳片の品質を確保することのできる連続鋳造鋳片の品質判定方法を提供することである。
上記課題を解決するための本発明の要旨は以下のとおりである。
[1]複数本の鋳片支持ロールが組み込まれた上フレームと、前記上フレームと同数本の鋳片支持ロールが組み込まれた下フレームとを、鋳造方向に2箇所、鋳片を挟んだ左右に2箇所の合計4本のタイロッドで連結したロールセグメントによって鋳片を支持しながら溶鋼を連続鋳造するにあたり、
鋳造前に前記ロールセグメントの圧下勾配を0.3mm/m以上の任意の値に設定して鋳造を開始し、
鋳造中に、前記ロールセグメントの鋳造方向上流側のタイロッドよりも上流側と、鋳造方向上流側のタイロッドと下流側のタイロッドとの中間部の位置と、鋳造方向下流側のタイロッドよりも下流側との3箇所の位置で、ロールセグメントのフレームの鋳片厚み方向での変位量を鋳造方向上流側から第1、第2、第3の順に番号付けした3つの距離計測センサーによって測定し、それぞれの距離計測センサーによって測定したフレームの変位量に基づいてそれぞれの測定位置における、前記圧下勾配に基づく基準位置からの変化量を求め、
求めたそれぞれの変化量から、第1の距離計測センサーと第2の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL1-2、第1の距離計測センサーと第3の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL1-3、第2の距離計測センサーと第3の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL2-3を算出して求め、圧下勾配SL2-3が圧下勾配SL1-3よりも大きく且つ圧下勾配SL1-3が圧下勾配SL1-2よりも大きいときには、この状態で鋳造された鋳片を通常運用から除外し、該鋳片の内質を検査することを特徴とする、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
[2]鋳造前に前記ロールセグメントの圧下勾配を0.3mm/m以上2.0mm/m以下の範囲の任意の値に設定することを特徴とする、上記[1]に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法。
本発明によれば、鋳造中に、鋳片から受ける荷重によるロールセグメントのフレームの変位を、鋳造方向上流側のタイロッドよりも上流側と、鋳造方向に離れた2つのタイロッドの中間位置と、鋳造下流側のタイロッドよりも下流側の3箇所の位置で測定し、これらの測定値からフレームにおける前記3箇所間の圧下勾配を算出し、圧下勾配SL2-3>圧下勾配SL1-3>圧下勾配SL1-2のときには、つまり、鋳造方向中央部でロールセグメントのフレームが上方側に凸に曲がった場合には、鋳片に目標とする圧下力が付与されていないと判定し、この中心偏析が悪化したと予想される鋳片は通常運用から除外するので、中心偏析が軽微で内質の良好な鋳片だけが次工程で運用され、鋼製品の品質を高位に安定させることが実現され、工業上有益な効果がもたらされる。
連続鋳造機のロールセグメントの1例を示す概略断面図である。 上フレームの領域を3つの領域に分け、且つ、その領域のロールセグメントの変位を測定する距離計測センサーの設置位置を示す平面図である。 本発明を実施する際に用いるスラブ連続鋳造機の1例の側面概略図である。 レーザー距離計による変位量の測定値から算出した、各レーザー距離計が設置されている場所での擬似ロール間隔を示す図である。
以下、本発明を詳細に説明する。先ず、本発明に至った経緯を説明する。
連続鋳造中に鋳片を長辺面側から圧下した場合、圧下される部分、即ち圧下抵抗となる部分は、鋳片厚み方向の中心部まで凝固が完了している部分であり、鋳片厚み方向の中心部に未凝固層が残留している部分は圧下抵抗とならない。
従って、内部に未凝固層が残留している状態の鋳片を圧下した場合には、圧下抵抗となる部分は、鋳片の短辺面側から凝固が進行した鋳片短辺側のみであり、鋳片長辺面全幅に対して圧下抵抗となる範囲の比率は小さい。この比率は、幅の広いスラブ鋳片のように、鋳片短辺長さ(「鋳片厚み」ともいう)に対する鋳片長辺長さ(「鋳片幅」ともいう)の比率が大きな鋳片ほど小さくなる。一方、鋳片厚み中心までの凝固が完了した鋳片を圧下した場合には、鋳片長辺面全幅が圧下抵抗となる。
ところで、連続鋳造中の鋳片を支持するためのロールセグメントは、複数本の鋳片支持ロールが配置されたフレームを相対させて構成されたものであり、図1に、ロールセグメントの1例の概略断面図を示す。尚、図1は、5対の鋳片支持ロール7が1つのロールセグメント16に配置された例を示す図であるが、鋳片支持ロール7は2対以上であれば何対配置されていても構わない。
図1において、ロールセグメント16は、それぞれ5本の鋳片支持ロール7をロールチョック21により固定して保持した1対のフレーム17、フレーム17′からなり、このロールセグメント16においては、フレーム17及びフレーム17′を貫通させて合計4本(鋳造方向上流側の部位の鋳片11を挟んだ両サイド及び下流側の部位の鋳片11を挟んだ両サイド)のタイロッド18が配置され、これらのタイロッド18に設置されているウオームジャッキ19をモーター20にて遠隔駆動させることにより、フレーム17とフレーム17′との間隔の調整、つまり、ロールセグメント16における鋳片支持ロール7のロール間隔の調整が行われるようになっている。
ロールセグメント16に配置される鋳片支持ロール7で鋳片11に圧下力を加える場合には、鋳片支持ロール7のロール間隔を、鋳造方向下流側に向かって順次狭くなるように設定する必要があり(ロール間隔が鋳造方向下流に向かって順次狭くなるように設定された状態を「圧下勾配」と称する)、このロール間隔の設定、つまり圧下勾配の設定も、ウオームジャッキ19を介して遠隔で操作できるように構成されている。図1において、ロールセグメント16の最も上流側の鋳片支持ロール7のロール間隔をD1(mm)、最も下流側の鋳片支持ロール7のロール間隔をD2(mm)、これら鋳片支持ロール7の間隔をL(m)とすると、ロールセグメント16の圧下勾配は、「圧下勾配SL(mm/m)=(D1−D2)/L」で定義される(D1≧D2)。
但し、ロールセグメント16においては、それぞれの鋳片支持ロール7のロール間隔を独立して行うことはできず、全ての鋳片支持ロール7のロール間隔が一括して行われる。鋳造中は、ウオームジャッキ19がセルフロックされ、未凝固層を有する鋳片11のバルジング力に対抗しており、鋳片11が存在しない条件下で、即ち、鋳片支持ロール7に鋳片11からの負荷が作用しない条件下で、ロール間隔の調整が行われるように構成されている。
この構成のロールセグメント16で鋳片11に圧下力を付与すると、4本のタイロッド18に鋳片11を圧下することによる反力(圧下反力)が作用する。4本のタイロッド18に掛かる荷重を測定すれば、ロールセグメント16にはたらく圧下反力を把握することができる。鋳片11が凝固完了していない場合には、前述したように、圧下抵抗が小さく圧下反力は小さいが、厚み中心までの凝固が完了した場合には、鋳片長辺面全幅が圧下抵抗になり、凝固が完了した位置のタイロッド18においては大きな圧下反力が作用する。通常、ロールセグメント16は、過大な負荷による設備破壊を防止する目的で、例えば鋳片長辺面全幅に亘って厚み中心までの凝固が完了したスラブ鋳片を圧下する場合のように、耐荷重を超える負荷がロールセグメント16に掛かった場合には、タイロッド18の上部に配置した皿バネ(図示せず)が過剰な力を吸収するように構成されている。つまり、耐荷重以上になると、皿バネが動き始め(通常は、皿バネが収縮する)、上面側のフレーム17′が鋳片11の厚み方向に移動してロール間隔が拡大し、負荷が軽減されるように構成されている。この場合に、下面側のフレーム17は基礎に固定されており、移動しない。
しかしながら、皿バネは耐荷重以上の荷重が掛からないと動き始めることがないため、耐荷重以下のときのロールセグメント16の動きを皿バネからは把握することができない。そこで、上面側のフレーム17′の鋳片厚み方向の変位量を直接測定するために、フレーム17′の領域を、図2に示すように、鋳造方向上流側のタイロッド18よりも上流側の部位(領域A)と、鋳造方向に離れた2つのタイロッド18で挟まれた部位(領域B)と、鋳造方向下流側のタイロッド18よりも下流側の部位(領域C)との3つの領域に分け、この3つの領域のフレーム17′の変位量をそれぞれ測定するための、レーザー距離計などの距離計測センサーを、それぞれの領域に相対させて1個ずつ合計3個設置した。測定位置は、鋳片11の幅方向中心位置とした。
図2では、領域Aの変位量を測定するための距離計測センサーを第1の距離計測センサー15、領域Bの変位量を測定するための距離計測センサーを第2の距離計測センサー15a、領域Cの変位量を測定する距離計測センサーを第3の距離計測センサー15bとして表示している。図1にも、距離計測センサー15、15a、15bを表示している。
尚、図2では、距離計測センサーをそれぞれの領域に1個ずつ配置しているが、複数個設置しても構わない。但し、それぞれの領域で最も大きな変位を示す位置を測定することが重要であり、従って、測定位置として、領域Aでは、可能な限り鋳造方向上流側端部が好ましく、領域Bでは2つのタイロッド18の中間位置が好ましく、領域Cでは、可能な限り鋳造方向下流側端部が好ましい。1つの領域に複数の距離計測センサーを設置した場合には、最も変位量が大きい測定値をその領域の代表値とすればよい。また、鋳片11の幅方向では同一箇所が好ましい。ここで、距離計測センサーは非接触式である必要はなく、作動トランスのような接触式であっても構わない。
種々の試験操業の結果、ロールセグメント16による鋳片11への圧下量が少ないと、圧下反力が小さくロールセグメント16の動きが小さいことに加え、連続鋳造機のロールセグメント16には或る一定のガタが存在することから、正確にフレーム17′の鋳片厚み方向の変位量を測定できないことが分かった。更なる試験操業の結果、正確にフレーム17′の鋳片厚み方向の変位量を測定するためには、鋳造前に予めロールセグメント16の圧下勾配を0.3mm/m以上に設定する必要のあることが分かった。この場合に、圧下勾配の上限値は特に規定する必要はないが、圧下勾配が2.0mm/mを超えると、高速鋳造では圧下量が過多になって鋳片11の未凝固層が鋳造方向上流側に押し出され、鋳片中心部に溶質濃度が少ない所謂「負偏析」が発生する虞があるので、圧下勾配は2.0mm/m以下に設定することが好ましい。また、圧下勾配が2.0mm/mを超えると、圧下反力が大きくなり、ロールセグメント16の寿命が低下することから、この観点からも、圧下勾配を2.0mm/m以下に設定することが好ましい。
ロールセグメント16の鋳片厚み方向の変位量は、予め設定した圧下勾配による位置を基準位置とし、この基準位置からのズレを変位量として求める。つまり、ロールセグメント16に鋳片11が存在しない状態において測定したフレーム17′の位置を基準位置とし、鋳造中にこの基準位置からのズレを測定する。
フレーム17′に設置されるそれぞれの鋳片支持ロール7の周面先端位置を順に結ぶ線をロール間隔線と定義すると、鋳片11の圧下反力によって鋳片厚み方向に位置の変化したフレーム17′においては、ロール間隔線は、予め設定した圧下勾配に基づくロール間隔線に対して測定された変位量だけ離れた位置に移動する。フレーム17′のロール間隔線と、フレーム17のロール間隔線(固定されていて不動)との距離を擬似ロール間隔と定義すると、各変位測定点における擬似ロール間隔は、測定される変位量と、予め設定した圧下勾配に基づくロール間隔線から求められる擬似ロール間隔との合計値として求めることができる。また、各変位測定点間の距離は既知であるので、各変位測定点における擬似ロール間隔を用いて変位測定点の2点間における圧下勾配が求められる。尚、変位測定点は、鋳片支持ロール7の設置位置と対応していないこともあり、そこで、変位測定点の直下に鋳片支持ロール7が設置されていると仮定し、この仮定した鋳片支持ロール7の間隔を擬似ロール間隔と定義している。
このようにして求められる圧下勾配において、領域Aの第1の距離計測センサー15と領域Bの第2の距離計測センサー15aとの間の圧下勾配を圧下勾配SL1-2、第1の距離計測センサー15と領域Cの第3の距離計測センサー15bとの間の圧下勾配を圧下勾配SL1-3、第2の距離計測センサー15aと第3の距離計測センサー15bとの間の圧下勾配を圧下勾配SL2-3とすると、圧下勾配SL2-3が圧下勾配SL1-3よりも大きく且つ圧下勾配SL1-3が圧下勾配SL1-2よりも大きいときには、この状態で鋳造された鋳片11には適正に圧下力が付与されておらず、この鋳片11の中心偏析が悪化する可能性があることを知見した。
本発明は、上記知見に基づいてなされたものであり、本発明の連続鋳造鋳片の品質判定方法は、鋳造前にロールセグメント16の圧下勾配を0.3mm/m以上の任意の値に設定して鋳造を開始し、鋳造中に、ロールセグメント16の鋳造方向上流側のタイロッド18よりも上流側と、鋳造方向に離れた2つのタイロッド18の中間部の位置と、鋳造方向下流側のタイロッド18よりも下流側との3箇所の位置で、ロールセグメント16のフレーム17′の鋳片厚み方向での変位量を、第1の距離計測センサー15、第2の距離計測センサー15a、及び、第3の距離計測センサー15bによって測定し、それぞれの距離計測センサーによって測定したフレーム17′の変位量に基づいてそれぞれの測定位置における、前記圧下勾配に基づく基準位置からの変化量を求め、求めたそれぞれの変化量から圧下勾配SL1-2、圧下勾配SL1-3、及び圧下勾配SL2-3を算出して求め、圧下勾配SL2-3が圧下勾配SL1-3よりも大きく且つ圧下勾配SL1-3が圧下勾配SL1-2よりも大きいときには、この状態で鋳造された鋳片11を通常運用から除外し、この鋳片11の内質を検査する。
次いで、本発明の具体的な実施方法を、図面を参照して説明する。図3は、本発明を実施する際に用いるスラブ連続鋳造機の1例の側面概略図である。
図3に示すように、スラブ連続鋳造機1には、溶鋼10を注入して凝固させ、鋳片11の外殻形状を形成するための鋳型5が設置され、この鋳型5の上方所定位置には、取鍋(図示せず)から供給される溶鋼10を鋳型5に中継供給するためのタンディッシュ2が設置されている。タンディッシュ2の底部には、溶鋼10の流量を調整するためのスライディングノズル3が設置され、このスライディングノズル3の下面には、浸漬ノズル4が設置されている。一方、鋳型5の下方には、クーリンググリッド6が配置され、このクーリンググリッド6の下流側に、サポートロール、ガイドロール及びピンチロールからなる複数対の鋳片支持ロール7が配置されている。
クーリンググリッド6の範囲、並びに、鋳造方向に隣り合う鋳片支持ロール7の間隙には、水スプレーノズル或いはエアーミストスプレーノズルなどのスプレーノズル(図示せず)が配置された二次冷却帯が構成され、二次冷却帯のスプレーノズルから噴霧される冷却水(「二次冷却水」ともいう)によって鋳片11は引き抜かれながら冷却されるようになっている。また、鋳造方向最終の鋳片支持ロール7の下流側には、鋳造された鋳片11を搬送するための複数の搬送ロール8が設置されており、この搬送ロール8の上方には、鋳造される鋳片11から所定の長さの鋳片11aを切断するための鋳片切断機9が配置されている。サポートロール、ガイドロール及びピンチロールからなる鋳片支持ロール7は、全てロールセグメント構造となっている。尚、クーリンググリッド6を設置せずに、鋳型5の直下に鋳片支持ロール7を配置しても構わない。
ロールセグメントの上面側のフレーム17′の上方には、フレーム17′の領域A、領域B及び領域Cの鋳片厚み方向の変位を測定するために、領域Aには第1の距離計測センサー15が、領域Bには第2の距離計測センサー15aが、領域Cには第3の距離計測センサー15bが、それぞれ、フレーム17′に相対して設置されている。本発明は、鋳片11の中心偏析の度合いを判定することを目的としており、従って、鋳片11の中心偏析に影響を及ぼしている、鋳片11の凝固完了位置14の近傍に配置されるロールセグメントの変位を測定することが好ましい。つまり、図3に示すように、鋳片11の凝固完了位置14を挟んだ上流側及び下流側のロールセグメントで変位を測定することが好ましい。
また、鋳片厚み方向の変位を測定するロールセグメントには、鋳片11を挟んで対向する鋳片支持ロール間の間隔(この間隔を「ロール間隔」と呼ぶ)が鋳造方向下流側に向かって順次狭くなるように、圧下勾配が設定されている。この圧下勾配は、0.3mm/m以上の任意の値であり、前述したように2.0mm/m以下であることが好ましい。ここで、図3に示すロールセグメントの構造は、鋳片支持ロール7が3対であること以外は、図1に示すロールセグメント16と同一構造である。また、図3では、下面側のフレーム及びタイロッドを省略している。
このように構成されるスラブ連続鋳造機1を用い、取鍋からタンディッシュ2に溶鋼10を注入してタンディッシュ2に所定量の溶鋼10を滞留させ、次いで、タンディッシュ2に滞留した溶鋼10を、浸漬ノズル4を介して鋳型5に注入する。鋳型5に注入された溶鋼10は、鋳型5で冷却されて凝固シェル12を形成し、外殻を凝固シェル12とし、内部に未凝固層13を有する鋳片11として、クーリンググリッド6及び鋳片支持ロール7に支持されながらピンチロールによって鋳型5の下方に連続的に引き抜かれる。鋳片11は、クーリンググリッド6及び鋳片支持ロール7を通過する間、二次冷却帯の二次冷却水で冷却され、凝固シェル12の厚みを増大し、凝固完了位置14で内部までの凝固を完了する。その後、凝固完了した鋳片11は、鋳片切断機9によって切断されて鋳片11aとなる。
このようにして鋳片11を鋳造する際に、凝固完了位置14の近傍のロールセグメント(図3では2基のロールセグメント)において、距離計測センサー15、15a、15bを用いてそれぞれのロールセグメントのフレーム17′の変位量を測定する。そして、測定した変位量から、それぞれのロールセグメントにおいて、第1の距離計測センサー15と第2の距離計測センサー15aとの間の圧下勾配SL1-2、第1の距離計測センサー15と第3の距離計測センサー15bとの間の圧下勾配SL1-3、及び、第2の距離計測センサー15aと第3の距離計測センサー15bとの間の圧下勾配SL2-3を算出して求める。
求めた圧下勾配を比較し、何れかのロールセグメントで、圧下勾配SL2-3が圧下勾配SL1-3よりも大きく且つ圧下勾配SL1-3が圧下勾配SL1-2よりも大きいときには、この状態のロールセグメントで鋳造された鋳片11aを通常運用から除外し、鋳片11aの内質を検査する。鋳片11aの内質の検査方法は、鋳片断面のサルファープリント試験及び酸腐食試験、或いは、鋳片断面部位別の成分分析調査などによって行う。
求めた圧下勾配が上記以外の場合には、ロールセグメントによる鋳片11への圧下は適正であると判定し、鋳片11aを予め計画した通常運用とする。
以上説明したように、本発明によれば、鋳造中に、鋳片11から受ける荷重によるロールセグメントのフレーム17′の変位を、鋳造方向上流側のタイロッドよりも上流側と、鋳造方向に離れた2つのタイロッドの中間位置と、鋳造下流側のタイロッドよりも下流側の3箇所の位置で測定し、これらの測定値からフレーム17′における前記3箇所間の圧下勾配を算出し、圧下勾配SL2-3>圧下勾配SL1-3>圧下勾配SL1-2のときには、鋳片11に目標とする圧下力が付与されていないと判定し、この鋳片は通常運用から除外するので、中心偏析が軽微で内質の良好な鋳片だけが次工程で運用され、鋼製品の品質を高位に安定させることが実現される。
1チャージ300トンの低炭素アルミキルド鋼の5チャージを、鋳片厚みが250mm、鋳片幅が2100mmの2ストランドのスラブ鋳片に連続鋳造する際に、鋳型内溶鋼湯面から27〜29m(水平部)に設置されたNo.10セグメントの上フレームの領域Aの変位量を第1のレーザー距離計によって測定し、上フレームの領域Bの変位量を第2のレーザー距離計によって測定し、上フレームの領域Cの変位量を第3のレーザー距離計によって測定し、測定したそれぞれの変位量から、第1のレーザー距離計と第2のレーザー距離計との間の圧下勾配SL1-2、第1のレーザー距離計と第3のレーザー距離計との間の圧下勾配SL1-3、及び、第2のレーザー距離計と第3のレーザー距離計との間の圧下勾配SL2-3を算出して求め、そのときにNo.10セグメントを通過した鋳片の中心偏析との関係を調査した。
第1のレーザー距離計は鋳型内溶鋼湯面から27.2mの位置、第2のレーザー距離計は鋳型内溶鋼湯面から28.1mの位置、第3のレーザー距離計は鋳型内溶鋼湯面から28.9mの位置に設置した。No.10セグメントの鋳片支持ロールのロール径は220mm、ロールピッチは250mmであり、圧下勾配は0.9mm/mとした。
試験鋳造の二次冷却水の比水量は1.61L/kg-steelの一定値とし、鋳片引き抜き速度は、鋳込み開始時の60秒間は0.3m/分、その後、1分間あたり0.2m/分の昇速速度で1.4m/分に増速し、その後は1.4m/分の一定値とした。つまり、鋳造開始から6分30秒間経過した以降は1.4m/分の引き抜き速度で鋳造した。一方、鋳造終了時は、取鍋からタンディッシュへの溶鋼の注入が完了した時点で1.4m/分の引き抜き速度を減速し始め、タンディッシュから鋳型への溶鋼の注入を終了した時点で、一旦、鋳片の引き抜きを停止し、30秒間停止した後に、1分間あたり0.3m/分の昇速速度で1.5m/分に増速し、その後は1.5m/分の一定値とした。
この連続鋳造において、[水準1]:鋳込み長さが32mの部位の鋳片(ダミーバーとの継目部から5m上流側の位置の鋳造開始時の鋳片)、[水準2]:鋳込み長さが80mの時点(定常鋳造時の鋳片)、[水準3]:鋳込み長さが170mの時点(タンディッシュから鋳型への溶鋼注入が終了して鋳片の引き抜きを一旦停止したときに鋳型内溶鋼湯面から12m下流側に存在した鋳造末期の鋳片)の鋳片が、それぞれNo.10セグメントを通過する際のセグメントの変位量を測定し、これらの鋳片の中心偏析と対比した。
図4に、水準1〜3において、レーザー距離計による変位量の測定値から算出した、各レーザー距離計が設置されている場所での擬似ロール間隔を示し、また、表1に、水準1〜3において求められた圧下勾配並びに鋳片偏析の調査結果をまとめて示す。
Figure 0005790449
鋳造開始時の鋳片を測定対象とした水準1では、圧下勾配SL1-2が0.56mm/m、圧下勾配SL1-3が1.00mm/m、圧下勾配SL2-3が1.50mm/mであり、圧下勾配SL2-3>圧下勾配SL1-3>圧下勾配SL1-2の判定式を満たしていた。
定常鋳造時の鋳片を測定対象とした水準2では、圧下勾配SL1-2が1.22mm/m、圧下勾配SL1-3が1.06mm/m、圧下勾配SL2-3が0.88mm/mであり、圧下勾配SL2-3>圧下勾配SL1-3>圧下勾配SL1-2の判定式を満たしていなかった。
鋳造終了時の鋳片を測定対象とした水準3では、圧下勾配SL1-2が0.33mm/m、圧下勾配SL1-3が0.94mm/m、圧下勾配SL2-3が1.63mm/mであり、圧下勾配SL2-3>圧下勾配SL1-3>圧下勾配SL1-2の判定式を満たしていた。
これらの鋳片から試料を採取し、鋳片の偏析を調査した。具体的には、鋳片から検査用の鋳片全幅試料を切り出し、この切り出した試料の鋳片幅方向の1/2幅位置及び1/4幅位置から鋳造方向と平行な断面試料を1mm間隔で採取し、採取した試料を燃焼ガス分析法を用いて炭素分析し、偏析が発生しない鋳片厚み1/4位置の炭素分析値(C0)に対する濃度比(C/C0)を偏析度として偏析を評価した。
水準1では、1/2幅位置での偏析度(C/C0)は1.27、1/4幅位置での偏析度(C/C0)は1.37であり、鋳片偏析の許容範囲を1.25未満と定めた社内基準を超える値であった。水準2では、1/2幅位置での偏析度(C/C0)は1.19、1/4幅位置での偏析度(C/C0)は1.23であり、上記の社内基準以内であり、中心偏析は問題の無いレベルであった。また、水準3では、1/2幅位置での偏析度(C/C0)は1.23、1/4幅位置での偏析度(C/C0)は1.32であり、1/4幅位置での偏析が上記の社内基準を超える値であった。つまり、フレームの変位量から求めた圧下勾配に基づく中心偏析の判定は、実際の鋳片の中心偏析の調査結果と良く一致していた。
このように、本発明を適用することで、鋳片の中心偏析を的確に判定することができることを確認できた。
1 スラブ連続鋳造機
2 タンディッシュ
3 スライディングノズル
4 浸漬ノズル
5 鋳型
6 クーリンググリッド
7 鋳片支持ロール
8 搬送ロール
9 鋳片切断機
10 溶鋼
11 鋳片
12 凝固シェル
13 未凝固層
14 凝固完了位置
15 第1の距離計測センサー
15a 第2の距離計測センサー
15b 第3の距離計測センサー
16 ロールセグメント
17 フレーム
18 タイロッド
19 ウオームジャッキ
20 モーター
21 ロールチョック

Claims (2)

  1. 複数本の鋳片支持ロールが組み込まれた上フレームと、前記上フレームと同数本の鋳片支持ロールが組み込まれた下フレームとを、鋳造方向に2箇所、鋳片を挟んだ左右に2箇所の合計4本のタイロッドで連結したロールセグメントによって鋳片を支持しながら溶鋼を連続鋳造するにあたり、
    鋳片の凝固完了位置を挟んだ上流側及び下流側のロールセグメントでは、鋳造前に前記ロールセグメントの圧下勾配を0.3mm/m以上の任意の値に設定して鋳造を開始し、
    鋳造中に、前記鋳片の凝固完了位置を挟んだ上流側及び下流側のロールセグメントにおいて、前記ロールセグメントの鋳造方向上流側のタイロッドよりも上流側と、鋳造方向上流側のタイロッドと下流側のタイロッドとの中間部の位置と、鋳造方向下流側のタイロッドよりも下流側との3箇所の位置で、ロールセグメントのフレームの鋳片厚み方向での変位量を鋳造方向上流側から第1、第2、第3の順に番号付けした3つの距離計測センサーによって測定し、それぞれの距離計測センサーによって測定したフレームの変位量に基づいてそれぞれの測定位置における、前記圧下勾配に基づく基準位置からの変化量を求め、
    求めたそれぞれの変化量から、第1の距離計測センサーと第2の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL1-2、第1の距離計測センサーと第3の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL1-3、第2の距離計測センサーと第3の距離計測センサーとの間の圧下勾配SL2-3を算出して求め、圧下勾配SL2-3が圧下勾配SL1-3よりも大きく且つ圧下勾配SL1-3が圧下勾配SL1-2よりも大きいときには、この状態で鋳造された鋳片を通常運用から除外し、該鋳片の内質を検査することを特徴とする、連続鋳造鋳片の品質判定方法。
  2. 鋳造前に前記ロールセグメントの圧下勾配を0.3mm/m以上2.0mm/m以下の範囲の任意の値に設定することを特徴とする、請求項1に記載の連続鋳造鋳片の品質判定方法。
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