JP6115735B2 - 鋼の連続鋳造方法 - Google Patents

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Description

本発明は、鋼の連続鋳造方法に関し、具体的には、中心偏析が軽微で、水素誘起割れ(HIC)が起こり難い連続鋳造鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法に関するものである。
鋼の凝固過程では、炭素、燐、硫黄、マンガンなどの溶質元素が、凝固時の再分配によって未凝固の液相側に濃化され、その結果、デンドライト樹間には、ミクロ偏析が形成される。連続鋳造機で鋳造され、凝固しつつある連続鋳造鋳片(以降、単に「鋳片」ともいう)では、凝固収縮や熱収縮、連続鋳造機のロール間で発生する凝固シェルのバルジングなどによって、厚み中心部に空隙が形成されたり、負圧が生じたりすると、この部分に溶鋼が吸引される。しかし、凝固末期の未凝固層には十分な量の溶鋼が存在していないため、上述した溶質元素が濃縮したデンドライト樹間の溶鋼が鋳片の厚み中心部に流入して凝固する。このようにして形成された偏析スポットは、溶質元素の濃度が溶鋼の初期濃度に比べ格段に高い値となる。この現象は、一般に「マクロ偏析」と呼ばれており、その存在部位から「中心偏析」とも呼ばれている。
上記鋳片の中心偏析は、原油や天然ガスなどの輸送用ラインパイプ材の品質を著しく悪化させることが知られている。というのは、中心偏析部にMnSやNb炭化物等が生成すると、腐食反応により鋼内部に侵入した水素が上記MnSやNb炭化物等の周りに拡散・集積し、その内圧によって割れが発生する。また、中心偏析部は、高い濃度の溶質元素により硬質化しているので、上記割れはさらに周囲に伝播・拡張する。これが水素誘起割れ(HIC:Hydrogen Induced Cracking)である。従って、鋳片厚さ中心部の中心偏析を低減することは、鋼製品の品質向上を図る上で、極めて重要である。
これに対処するべく、従来から、連続鋳造工程から圧延工程に至るまでの間で、鋳片の中心偏析を低減する、あるいは、無害化する技術が多数提案されている。例えば、特許文献1や特許文献2には、連続鋳造機内において、未凝固層を有する凝固末期の鋳片を、鋳片支持ロールによって凝固収縮量と熱収縮量との和に相当する程度の圧下量で徐々に圧下しながら鋳造する、「軽圧下」あるいは「軽圧下法」と呼ばれる技術が提案されている。この軽圧下技術は、鋳造方向に並んだ複数対のロールを用いて鋳片を引き抜く際、凝固収縮量と熱収縮量の和に見合った圧下量で鋳片を徐々に圧下して未凝固層の体積を減少させ、鋳片中心部における空隙あるいは負圧部の形成を防止すると同時に、デンドライト樹間への濃化溶鋼の流動を防止し、鋳片の中心偏析を軽減する技術である。
また、厚み中心部のデンドライト組織の形態と、中心偏析との間には、密接な関係があることから、例えば、特許文献3には、連続鋳造機の二次冷却帯の鋳込み方向における特定の位置の比水量を0.5L/kg以上に設定することで、凝固組織の微細化、等軸晶化を促進し、偏析を低減する技術が提案されている。
特開平08−132203号公報 特開平08−192256号公報 特開平08−224650号公報
しかしながら、上記従来技術には、以下の問題点があった。例えば、特許文献1や特許文献2に開示の技術は、軽圧下することにより偏析度をある程度低減することはできるが、近年のラインパイプ材に要求される偏析レベルの厳格化に対応するには十分ではない。また、特許文献3に開示の技術は、軽圧下に加えて二次冷却を強化し、凝固組織の微細化を図っているため、より偏析が改善されることが期待された。しかし、発明者らの研究によれば、HICは、ある特定の偏析度以上の偏析スポットが特定のサイズ以上になった場合に発生することが明らかになっているが、特許文献3には、デンドライト組織の微細化や、偏析低減に関する具体的な開示がないため、そのまま採用することができない。また、軽圧下を行う前に2次冷却を強め過ぎると、完全凝固した短辺部の温度が低下し過ぎて、鋳片の変形抵抗が増大し、圧下を付与することが困難となるため、却って偏析が悪化してしまうおそれもある。
本発明は、従来技術が抱える上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、鋳片の厚み中心部における中心偏析を軽減し、耐水素誘起割れ性(耐HIC性)に優れる、ラインパイプ材に用いて好適な連続鋳造鋳片を得ることができる鋼の連続鋳造方法を提案することにある。
発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討を重ねた。その結果、鋳片中心部の偏析を改善するためには、鋳片に適正量のバルジングを起こさせるとともに、2次冷却帯初期の比水量や軽圧下帯の圧下勾配を適正範囲に調整して、鋳片に実績圧下速度で0.3〜1.0mm/minの軽圧下を付与する必要があること、また、鋳片中心部におけるHICの発生を防止するには、上記に加えてさらに、Mn偏析度が1.333以上で長軸径が500μm超えの偏析スポットを無くしてやる必要があり、そのためには、2次冷却帯における比水量を増加し、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下とすることが重要であることを見出し、本発明を開発するに至った。
すなわち、本発明は、連続鋳造機の鋳型通過後の鋳片に、鋳片厚さ方向にバルジングを起こさせた後、軽圧下帯で圧下を付与する鋼の連続鋳造方法において、上記バルジング量を3〜10mm、軽圧下帯における圧下勾配を0.3〜1.0mm/min、かつ、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量を0.15L/kg以上とし、さらに、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量と幅切り量を調整して、軽圧下帯直前位置における鋳片厚み変動量の平均値を0.1mm以下、軽圧下開始位置での完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度を1050℃以上とすることで、鋳片の実績圧下速度を0.3〜1.0mm/minとし、鋳片厚さ中心部(最終凝固部)から鋳片厚さ方向に10mmまでの間におけるデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下とし、上記鋳片厚み中心部に最終凝固段階で発生した空隙に、その周りの固液共存域の濃化溶鋼が流入した部分であって、Mn偏析度が1.333以上である偏析スポットの長軸径を500μm以下とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法を提案する。
本発明によれば、鋳片に適正量のバルジングを起こさせ、鋳型直下における2次冷却帯の比水量を制御し、軽圧下帯直前位置におけるスラブ厚み変動量を低減した上で、適正な圧下速度で軽圧下を付与するので、凝固末期における固液共存域の濃化溶鋼の流動を抑止し、鋳片厚み中心部のマクロ偏析を大幅に軽減することができる。また、本発明によれば、上記に加えて、2次冷却帯における比水量を調整し、デンドライト1次アーム間隔を低減することで、HICの発生原因となるMn偏析度が1.333以上、長軸径が500μm以上の偏析スポットの発生を抑止するので、HICの発生を確実に防止することが可能となる。
湾曲型連続鋳造機の概要を示す模式図である。 鋳片の最終凝固位置を説明する図である。 鋳片厚み変動量を説明する図である。 偏析スポットおよび偏析スポットの長軸径を説明する図である。 偏析スポットのMn偏析度および長軸径がHICの発生有無に及ぼす影響を示すグラフである。 デンドライト1次アーム間隔とMn偏析度1.333以上の偏析スポットの長軸径との関係を示すグラフである。
図1は、連続鋳造機の一形式である湾曲型連続鋳造機の概要を示したものである。連続鋳造機1には、溶鋼2を注入して凝固させ、鋳片の外殻形状を形成するための鋳型3が設置され、この鋳型の上方には、図示のない取鍋から供給される溶鋼2を鋳型3に中継供給するためのタンディッシュ4が設置されている。タンディッシュ4の底部には、溶鋼の流量を調整するための図示のないスライディングノズルが設置され、このスライディングノズルの下面には浸漬ノズル5が設置されている。
鋳型3の下方には、サポートロール、ガイドロールおよびピンチロール等、複数対の鋳片支持ロール6が配設され、鋳込み方向に隣り合う鋳片支持ロール6の間隔には、水スプレーノズルやエアーミストノズルなどのスプレーノズル7を設置した2次冷却帯が設けられており、2次冷却帯のスプレーノズル7から噴霧される冷却水(「2次冷却水」ともいう)によって鋳片8は引き抜かれながら冷却される。鋳片8の凝固完了位置8b付近と、その上流側には、鋳片を挟んで対向した複数対の鋳片支持ロール群から構成され、鋳片厚さ方向のロール間隔(この間隔を「ロール開度」という)を鋳込み方向下流に向かって順次狭くなるように設定して鋳片に軽圧下を付与する軽圧下帯9が設けられている。因みに、鋳込み方向下流に向かって順次狭くなるように設定したロール開度の状態を「圧下勾配」と称している。
なお、近年の連続鋳造機では、図1に示すように、上記複数対の鋳片支持ロール群を、複数のロール対を備えた複数のセグメント10で構成する方式のもの主流であり、軽圧下帯9も複数のセグメント10aから構成されており、軽圧下の付与は、相対するロール開度を、セグメントの入側よりも出側を小さく設定することで行われる。
また、鋳造方向最終の鋳片支持ロールの下流側には、完全に凝固した鋳片8を搬送するための複数の搬送ロール11が設置されており、この搬送ロールの上方には、鋳片8を所定の長さに切断する図示のない鋳片切断機が配置されている。なお、図中の8bは鋳片中心部の溶鋼の未凝固部を、12は連続鋳造機の下部矯正位置を示している。
ところで、連続鋳造機の軽圧下セグメント(以下、単に「セグメント」ともいう)に掛かる荷重は、主に鋳片のサイズや設定した圧下勾配、セグメント内にある鋳片の液相の割合(液相率)により決定される。マクロ偏析の原因となる、凝固末期での溶鋼流動を防止するには、凝固収縮量や熱収縮量に見合った量の軽圧下を鋳片に付与する必要があるが、設定した圧下勾配が大きい場合や、セグメント内での鋳片内部の液相率が少ない場合、あるいは、鋳片サイズが大きい等の場合には、セグメントに掛かる荷重は大きくなる。セグメントに掛かる荷重が大きくなると、セグメント内の鋳片厚さ方向のロール間隔は、ロールやセグメントフレームの撓みにより拡大する。そのため、鋳片サイズや圧下勾配の設定は同じでも、セグメントに掛かる荷重が増加すると、その荷重に応じてロール開度も変化するため、鋳片に付与される圧下速度(実績値)も設定値から変化してしまう。また、セグメントに掛かる過大な負荷は、セグメントの寿命の短命化を招くという問題もある。
そこで、発明者らは、厚さ250mm×幅2100mmのサイズの鋳片(スラブ)を、鋳片の引抜速度(鋳込速度)や軽圧下帯における圧下勾配(設定値)を種々に変更し、様々な条件で鋳造した。その際、軽圧下前に鋳片にバルジングを起こさせ、幅方向中央部の厚さを増大させる、いわゆるIB(Intentional Bulging)法を採用し、IB量を2〜13mmの範囲で種々に変化させた。また、上記鋳造時には、予め伝熱計算によって求めた鋳片鋳込み方向で最も遅く凝固が完了する位置、すなわち、最終凝固位置(図1の8b)が存在するセグメントにおける鋳片厚さ方向のロール開度の変化を非接触のセンサーで測定し、鋳片に加わる実際の圧下速度を調査した。なお、鋳片の最終凝固位置は、鋳片幅方向によって異なり、一般には図2に示すようにW型を示すが、本発明の上記最終凝固位置は、鋳片幅方向で最も遅く凝固が完了する位置のことをいう。
その結果、IB量が3mm以下では、IB量が小さ過ぎて、セグメントを構成するロールが、完全凝固している鋳片の短辺側をも圧下するため、セグメント荷重が過大となり、鋳片に軽圧下をほとんど付与することができなかった。一方、IB量が10mmを超えると、鋳片内部に割れ(内部割れ)が発生した。したがって、IB法を採用する場合には、IB量は3〜10mmに設定する必要があることがわかった。
また、鋳片の引抜速度(鋳造速度)と上記非接触センサーで測定したロール開度の変化量から求めた、実際に鋳片に付与された圧下速度(実績値)と偏析形態との関係について調査した。その結果、圧下速度(実績値)が0.3mm/min未満では鋳片の厚さ中心部にV偏析が発生し、一方、1.0mm/minを超えると鋳片の厚さ中心部に逆V字偏析が発生するようになること、従って、V偏析や逆V偏析を防止するためには、凝固末期の鋳片に付与する圧下速度は0.3〜1.0mm/minの範囲に制御する必要があることがわかった。
上記のように、IB量と鋳片に加えられる圧下速度を適正範囲に制御することで、鋳片中心部の偏析は大きく改善されるが、これらだけでは、昨今、要求されている偏析レベルには対応できない。そこで、発明者らはさらに研究を重ねた結果、偏析レベルをさらに改善するには、軽圧下帯直前におけるスラブ厚み変動量を低減することが重要であることが明らかとなった。ここで、上記鋳片厚み変動量とは、軽圧下帯の直前位置において、図3に示した、ロール間で膨張した鋳片表面とロールパスラインとの間の距離(絶対値)を、鋳込み方向に100mm以下のピッチで50〜150点程度測定したときの平均値のことをいう。ここで、上記ロールパスラインとは、図3に示したように、鋳造方向に隣り合う2つのロールの共通接線のことである。
上記軽圧下帯直前でのスラブ厚みの変動は、主に非定常バルジングによって生じることが知られている。ここで、上記非定常バルジングとは、鋳片が鋳込み方向に配設されたロール間を通過する際には、鋳片は静鉄圧によってロール間で膨らんだまま下流のロールに移動するが、上記膨らみが、下流のロール圧下によっても元の形に戻らなくなる現象のことをいう。一般に、メニスカスから近い位置では、膨らみが元に戻る「定常バルジング」であるが、上記定常バルジングは、鋳込み長の増加すなわち下流側にいくに従い、非定常バルジングに徐々に推移していくと考えられている。
発明者らは、実機の連続鋳造機において、最終凝固部が位置する軽圧下帯セグメントの直前のセグメント間、もしくは、その前のセグメント間と、鋳型直下から軽圧下帯までの鋳造方向の複数個所に、水柱を経由した超音波式の距離計を設置し、非定常バルジングの発生位置を調査した。その結果、従来の予想とは異なり、鋳型直下から2.5mの位置で、非定常バルジングは既に発生しており、この時点での非定常バルジング量によって、軽圧下帯直前における非定常バルジング量が決定されることが判明した。この結果から、鋳型直下から鋳込長さ2.5mまでの間において十分なシェル厚を確保することが、非定常バルジングを抑制するためには重要であると考えられる。
そこで、鋳型直下から鋳込長さ2.5mまでの2次冷却帯における比水量と、軽圧下帯直前の非定常バルジング量との関係を調査した。その結果、鋳型直下から鋳込長さ2.5mまでの2次冷却帯における比水量を0.15L/kg以上とすることで、軽圧下帯直前のスラブ厚み変動量を0.1mm以下に低減できることがわかった。そして、後述するが、スラブ厚み変動量を0.1mm以下に制御することは、HICの発生起点となる鋳片厚み中心部の偏析スポットを低減するためには必須である。
上記のように、IB量と圧下速度を適正範囲に制御することに加えて、鋳型直下から鋳込長さ2.5mまでの2次冷却帯の比水量を適正化することによって、鋳片中心部の中心偏析はさらに低減される。しかし、上記の制御だけでは、鋳片厚み中心部におけるHICの発生を防止するには未だ不十分である。
そこで、発明者らは、さらに、実機の連続鋳造機で鋳造した厚さ250mmの鋳片を熱間圧延した厚さ20.6mmの厚板から採取したサンプルを用いて、NACE STANDARD TM−0284に準拠し、pH3.0(HS飽和時)、温度25℃のNACE試験溶液(5%NaCl、0.5%CHCOOH、HS:2480ppm(HS飽和時))中に96hr浸漬するHIC試験を実施し、偏析形態、具体的には、偏析スポットのMn偏析度および長軸径と、HICの発生有無の関係を調査した。
ここで、上記偏析スポットとは、図4に示したように、鋳片厚み中心部の最終凝固段階で発生したスポット部(空隙)に、その周りの固液共存域の濃化溶鋼が流入した部分のことあり、流入した濃化溶鋼が凝固することで偏析スポットの偏析度はさらに高まる。また、上記Mn偏析度とは、EPMAで分析した偏析スポットのMn濃度の、鋳片厚み中心部から十分に離れた位置、例えば、10mm以上離れた位置のMn濃度に対す比のことをいう。また、上記偏析スポットの長軸径とは、鋳片幅方向断面で見た、Mn偏析度が1.333以上の偏析スポットの幅方向の大きさのことをいう。
上記の結果を図5に示した。この図から、鋳片厚み中心位置でHICが発生した箇所の偏析形態は、Mn偏析度が1.333以上のスポット状であり、かつ、その偏析スポットの長軸径が500μm以上で、上記以外の偏析スポットではHICが発生していないこと、すなわち、Mn偏析度が1.333以上、かつ、長軸径が500μm以上の偏析スポットでHICが発生すること、したがって、HICの発生を防止するためには、Mn偏析度が1.333以上、かつ、長軸径が500μm以上の偏析スポット(以降、この条件を満たす偏析スポットを「重偏析スポット」ともいう)を無くすことが必要であることがわかった。
当然ながら、極端に偏析度が高い場合には、長軸径が500μm以下でもHICが発生するが、IB量および軽圧下の圧下速度および軽圧下帯直前位置でのスラブ厚み変動量を前述した適正範囲に制御した条件では、そのような極端な偏析度の偏析スポットの発生は皆無であった。
次いで、発明者らは、Mn偏析度が1.333以上で長軸径が500μm以上の偏析スポット(重偏析スポット)の発生を防止するため、実機の連続鋳造機において、2次冷却帯の比水量を種々に変化させて、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔を変える実験を行い、デンドライト1次アーム間隔とMn偏析度1.333以上の偏析スポットの長軸径との関係を調査し、その結果を図6に示した。
ここで、上記デンドライト1次アーム間隔とは、鋳片幅方向断面で凝固が最も遅く完了した幅方向位置(基本的には幅中央部)の鋳片厚み中心部を腐食して組織を現出させ、該組織を、幅方向に50mm以上、厚さ方向に厚み中心部(最終凝固位置)から上面側に10mmに亘って、投影機で5倍に拡大して撮像した後、画像処理して、少なくとも30本のデンドライトの1次アーム間隔を測定したときの平均値のことをいう。
図6から、鋳片への軽圧下の付与や軽圧下帯直前のスラブ厚み変動量の制限だけでは、Mn偏析度1.333以上の偏析スポットの長軸径は500μmを超えてしまい、HICの発生を防止することはできないこと、また、Mn偏析度1.333以上の偏析スポットの長軸径を500μm以下とする、すなわち、重偏析スポットを無くすには、最適な圧下速度の付与と軽圧下帯直前でのスラブ厚み変動量の制限に加えて、厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下に制御することが必須である。
上記の結果から、HICの発生を防止するためには、軽圧下の付与やスラブ厚み変動量の抑制に加えて、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下に制御する必要があることはわかった。
また、図6から、鋳片への軽圧下の付与やスラブ厚み変動量の制限を行わずに、デンドライト1次アーム間隔を制御しようとした場合、凝固の最終段階で発生する偏析スポットのサイズが同じでも、スポット部の周りの濃化溶鋼の濃度が、軽圧下の付与やスラブ厚み変動量の制限を行った場合に比べて高くなるため、Mn偏析度1.333以上の偏析スポットの長軸径は500μmを超えてしまうことがわかる。なお、このような場合でも、極端にデンドライト1次アーム間隔を短くすれば、長軸径を500μm以下とすることができると予測されるが、それは現実的には実現不可能なことである。
次に、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下に制御する方法について説明する。
デンドライトの1次アームの間隔は、主に溶鋼中の成分と、デンドライトの成長方向(鋳片厚さ方向)の温度勾配と、鋳片厚さ方向の凝固速度によって決定されるが、鋼の成分は、製品に要求される機械特性等から決められ、凝固速度は、鋳片厚さ方向の温度勾配と、鋳片の引抜速度によって決定される。したがって、連続鋳造時に制御可能なパラメーターは、厚み中心部における鋳片厚さ方向の温度勾配である。
鋳片厚さ方向の温度勾配は、主に2次冷却帯の比水量で決定される。上記温度勾配を大きくして効率的に未凝固部を冷却するには、熱抵抗となる凝固シェルの厚さが薄い鋳型直下から比水量を増加させることが有効であり、デンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下にする有効な手段となる。しかし、前述したように、HICを引き起こす重偏析スポットの発生を防止するには、鋳片への最適な軽圧下の付与が必須であるが、鋳型直下から継続的に比水量を増やして冷却すると、完全凝固した鋳片短辺部の温度低下が過大となり、該部分の変形抵抗が増大して軽圧下セグメントに掛かる荷重も増大するため、適正量の軽圧下付与が困難となる。
そこで、発明者らは、実機の連続鋳造機を用いて、2次冷却帯の比水量と幅切り量を種々に変えた実験を行い、伝熱計算により求めた軽圧下開始直前位置での完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度と、実際に鋳片に付与された圧下速度(実績値)との関係を調査した。なお、この際、IB量は5mm、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量は0.20L/kgに設定し、圧下速度を0.6mm/minに制御した。その結果、鋳片短辺の断面平均温度が1050℃を下回ると、軽圧下セグメントに掛かる荷重が過大となり、鋳片に設定通りの軽圧下を付与することが困難となり、例えデンドライト1次アーム間隔が1.6mm以下となっても、圧下不足のため偏析度が1.333以上で長軸径が500μmを超える重析スポットが発生することが判明した。なお、軽圧下セグメントに掛かる荷重を低減するには、IB量を増加することも考えられるが、前述したように、IB量を増加し過ぎると、内部割れの可能性が高まるので好ましくない。
また、鋳型直下から強冷却するときの他の問題点として、軽圧下付与の効果は、厚み中心部の固相率が0.3未満(液相率が0.7超え)の位置から圧下を付与しないと十分に得られない。しかし、該位置から軽圧下を付与する場合、鋳片の凝固完了位置は、軽圧下帯の範囲内に位置することになる。そのため、凝固シェル厚が薄い鋳型直下から2次冷却帯の比水量を上げると、凝固完了位置が軽圧下帯より手前になってしまうため、軽圧下を付与することができず、HICを引き起こす偏析スポットが発生してしまう。また、現在、主流の連続鋳造機は、垂直曲げ型や湾曲型の連鋳機であり、鋳型直下から2次冷却帯の比水量を増加すると、矯正帯での鋳片表面温度の低下を招き、鋳片表面に割れを発生させるおそれがある。そのため、デンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下に制御するための、2次冷却帯における強冷却は、鋳型直下からではなく、軽圧下開始位置付近から凝固完了位置までの間において行うのが望ましい。
メニスカスから19〜21mの位置にあるNo.7セグメント、メニスカスから21〜23mの位置にあるNo.8セグメント、メニスカスから23〜25mの位置にあるNo.9セグメントの3つの軽圧下セグメントから構成される軽圧下帯を有し、下部矯正位置(図1の符号12)がメニスカスから20mの位置にある連続鋳造機で低炭素アルミキルド鋼を連続鋳造し、厚さ250mm×幅2100mmのサイズの連続鋳造鋳片を、引抜速度(鋳込速度)1.1m/minで製造した。
上記連続鋳造においては、IB量、軽圧下帯における圧下勾配、鋳型直下から鋳込長2.5mまでの比水量、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量および二次冷却帯における幅切量を、表1に示すように種々に変化させて鋳造し、軽圧下帯直前位置でのスラブ厚み変動量(鋳片厚み変動量)、軽圧下開始位置における完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度、および、鋳片に付与された実績圧下速度を測定した。
ここで、上記スラブ厚み変動量は、軽圧下帯最初のセグメントであるNo.7セグメント入側のフレームに、水柱を経由した超音波式の距離計を設置して測定した。
また、軽圧下開始位置における完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度は、伝熱計算により算出した。
また、鋳片に付与された実績圧下速度は、鋳片幅方向の最終凝固位置を伝熱計算によって求めたとき、最終凝固位置が最も下流側の最終凝固位置が存在するセグメントにおけるロール開度の変位を非接触のセンサーによって測定し、その結果から算出した。なお、最終凝固位置は、鋳込み長30mの位置で鋳片に縦波の超音波を透過し、その伝播時間から鋳片厚み中心部の温度を求め、その結果を元に伝熱計算によって推定した。
Figure 0006115735
さらに、鋳造して得たスラブについて、偏析や内部割れの有無、Mn偏析度が1.333以上で長軸径が500μm以上の偏析スポットの個数およびデンドライト1次アーム間隔を以下の方法で測定した。
<偏析、割れの評価>
偏析の評価は、鋳片鋳込み方向の断面からサンプルを切り出し、ピクリン酸で腐食し、V偏析や逆V偏析の有無、内部割れの有無を目視で観察した。
<偏析スポットの個数および長軸径の大きさ>
鋳片の幅方向断面から、幅が25mmで中心部に中心偏析部を有し、長さが約880mm(幅中心から片側の3重点(短辺側と長辺側の凝固殻が成長して出会った点)までの長さ)のサンプルを採取し、これ小分割し、EPMAを用いて電子ビーム径100μmでMn濃度を全面に亘って面分析し、Mn偏析度の分布を求め、上記Mn偏析度が1.333以上のMnスポットが鋳片幅方向に500μm以上に亘って繋がっている箇所(重偏析スポット)の数をカウントした。ここで、上記MnスポットのMn偏析度とは、厚み中心部から10mm離れた位置におけるMn濃度Aに対するMnスポットのMn濃度Bの比(B/A)である。
<デンドライト1次アーム間隔>
鋳片の幅方向断面で、凝固が最も遅く完了した幅方向位置(基本的には板幅中央部)の厚み中心部を腐食して組織を現出させ、該組織を、幅方向に50mm以上、厚さ方向に厚さ中心部(最終凝固部)から上面側に10mmに亘って、投影機で5倍に拡大して撮像した後、画像処理して、少なくとも30本のデンドライト1次アームの間隔を測定し、その平均値をその鋳片のデンドライト1次アーム間隔とした。
さらに、上記鋳片を20.6mmの厚板に熱間圧延後、鋳造方向長さL:100mm×幅方向長さW:20mm×板厚tの試験片を全板幅の1/2から切り出し、NACE STANDARD TM−0284に準拠し、pH3.0(HS飽和時)、温度25℃のNACE試験溶液(5%NaCl、0.5%CHCOOH、HS:2480ppm(HS飽和時))中に96hr浸漬するHIC試験を行った後、超音波探傷でCスキャンし、割れが発生した面積率(CAR;Crack Area Ratio)を測定し、全幅より採取したサンプルのうちで、最も高いCARをその鋳片の代表値とした。また、幅方向で1箇所でもCARが2%以上のサンプルがある場合は不合格とした。
表1に上記測定の結果を併記した。
ここで、No.1の発明は、実際に鋳片に付与される圧下速度が0.3〜1.0mm/minになるように、予めセグメントの荷重と変位を数値計算し、その結果からIB量を5mm、圧下勾配を0.70mm/minに設定し、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量を0.19L/kgとした例であり、また、No.2の発明例は、同様にして、IB量を7mm、圧下勾配を0.60mm/minに設定し、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量を0.15L/kgとした例である。
また、上記発明例1,2においては、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量および幅切り量は、軽圧下開始位置での完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度が1050℃以上となり、かつ、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔が1.6mm以下となる鋳片厚み中心部の固液共存域における鋳片厚さ方向(凝固方向)の温度勾配が得られる量に設定した。具体的には、No.1では、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量を1.21L/kg、幅切量を50mm、No.2では、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量を1.32L/kg、幅切量を100mmに設定した。なお、鋳片厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔が1.6mm以下になる厚み中心部の固液共存域での温度勾配は、例えば、下記のKurz−Fisherの式;
Figure 0006115735
ここで、λ:デンドライト1次アーム間隔(m)
ΔT:固液共存温度範囲(K)
D:溶質の液相中拡散係数(m/s)
Γ:Gibbs−Thomson係数(m/K)
k:溶質の平衡分配係数(−)
R:凝固速度(m/s)
G:固液共存域での温度勾配(K/m)
等、公知のデンドライト1次アーム間隔算出式より算出することができる。
その結果、No.1および2の発明例は、適切なIB量と圧下勾配で、かつ、軽圧下開始位置での鋳片短辺部の断面平均温度が1050℃以上であったため、鋳片に付与された実績圧下速度は0.3〜1.0mm/minの範囲に入っており、またスラブ厚み変動量も0.1mm以下であった。その結果、V偏析も逆V偏析も観察されず、また、厚み中心部のデンドライト1次アーム間隔は1.6mm以下で、Mn偏析度が1.333以上で長軸径が500μm以上の重偏析スポットも鋳片全幅において皆無であった。また、HICも全幅において発生はなく、全て合格となった。また、表面割れや内部割れも発生していなかった。
これに対して、No.3の比較例1は、No.1の発明例において、IB量を2mmに設定した例であり、IB量が少な過ぎたため、セグメントに掛かる荷重が過大になり、ロール開度が拡がって実測の圧下速度が小さくなり、V偏析が観察された。また、デンドライト1次アーム間隔は1.6mm以下であったものの、Mn偏析度が1.333以上で長軸径が500μm以上の重偏析スポットが多数存在したため、HICが発生し、CARは最大で8.4%にも達したため不合格となった。
また、No.4の比較例2は、No.1の発明例において、IB量を7mmに、圧下勾配を1.30mm/minに設定した例であり、IB量は十分であったが、圧下勾配が大き過ぎたため、鋳片に付与された圧下速度が過大となり、逆V偏析が観察された。また、デンドライト1次アーム間隔は1.6mm以下であったものの、重偏析スポットが多数存在したため、HICが発生し、CARは最大で6.2%にも達したため不合格となった。
また、No.5の比較例3は、No.1の発明例において、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量を0.08L/kgに設定した例である。この例では、上記の比水量が少な過ぎたため、軽圧下帯直前のスラブ厚み変動量が0.1mm以上となり、デンドライト1次アーム間隔は1.6mm以下であったものの、重偏析スポットが多数存在してHICが発生し、CARは最大で7.1%にも達したため不合格となった。
また、No.6の比較例4は、No.1の発明例において、厚み中心部の1次アーム間隔が1.6mm以上になるように、2次冷却帯の比水量を調整した例である、この例では、IB量や鋳片に付与される圧下速度を適正範囲に設定しているため、V偏析も逆V偏析も観察されなかったが、1次アーム間隔が1.6mm以上であったために、重偏析スポットが発生してHICが発生し、CARは2.3%で、不合格となった。
また、No.7,8の比較例5,6は、No.1の発明例において、軽圧下開始位置での短辺部の断面平均温度が1050℃以下になるように2次冷却帯の比水量を調整した例である。この例では、IB量を適正範囲に設定し、厚み中心部の1次アーム間隔が1.6mm以下になるようにしているが、軽圧下開始位置での短辺部の断面平均温度が低いため、軽圧下セグメントに掛かる荷重が過大となり、0.3mm/min以上の軽圧下を付与することができなかったため、重偏析スポットが発生してHICが発生し、CARは2%以上で、不合格となった。
また、No.9の比較例7では、No.1の発明例において、IB量を10mm超えに増大して、鋳片に付与される実績圧下速度を0.3mm/min以上になるようにし、かつ、軽圧下開始位置での完全凝固した短辺部の断面平均温度は発明の範囲外になるよう、2次冷却帯の比水量を調整した例である。この例では、軽圧下開始位置での短辺部の断面平均温度が発明の範囲よりも下回っているが、IB量を大きくしたため、軽圧下セグメントの荷重が低減し、発明の範囲内の軽圧下を付与することができた。しかし、内部割れが多数発生したため、不良材となった。ただし、1次アーム間隔が1.6mm以下で、重偏析スポットの発生もなく、HIC試験は合格となった。
1:連続鋳造機
2:溶鋼
3:鋳型
4:タンディッシュ
5:浸漬ノズル
6:鋳片支持ロール
7:スプレーノズル
8:鋳片
8a:鋳片内の未凝固部
8b:凝固完了位置
9:軽圧下帯
10:セグメント
10a:軽圧下セグメント
11:搬送ロール
12:下部矯正位置

Claims (1)

  1. 連続鋳造機の鋳型通過後の鋳片に、鋳片厚さ方向にバルジングを起こさせた後、軽圧下帯で圧下を付与する鋼の連続鋳造方法において、
    上記バルジング量を3〜10mm、軽圧下帯における圧下勾配を0.3〜1.0mm/min、かつ、鋳型直下から鋳込み長2.5mまでの2次冷却帯の比水量を0.15L/kg以上とし、さらに、鋳型直下から鋳込み長2.5mより下流側の2次冷却帯の比水量と幅切り量を調整して、軽圧下帯直前位置における鋳片厚み変動量の平均値を0.1mm以下、軽圧下開始位置での完全凝固した鋳片短辺部の断面平均温度を1050℃以上とすることで、鋳片の実績圧下速度を0.3〜1.0mm/minとし、
    鋳片厚さ中心部(最終凝固部)から鋳片厚さ方向に10mmまでの間におけるデンドライト1次アーム間隔を1.6mm以下とし、
    上記鋳片厚み中心部に最終凝固段階で発生した空隙に、その周りの固液共存域の濃化溶鋼が流入した部分であって、Mn偏析度が1.333以上である偏析スポットの長軸径を500μm以下とすることを特徴とする鋼の連続鋳造方法。
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