しかしながら、脱イオン水、沸騰水、あるいは酸性水による洗浄を行う特許文献1に記載の従来技術では、不純物が有機物質からなる場合、有機物質の水への溶解度が低いことから、不純物の除去を十分に行うことが困難であり、運転中の電池特性の低下を更に十分に防止するという観点からは改善の余地が残っていた。またこの技術の場合、高分子電解質型燃料電池の運転を停止させた上で、高分子電解質型燃料電池を燃料電池システムから取り外して洗浄せねばならず、手間がかかるという課題があった。さらにこの技術の場合には、洗浄に要する装置も大がかりとなる傾向にあるという課題があった。
また、特許文献2に記載の負荷電流を変動させる従来技術は、イオン化している不純物の除去に対して効果が認められる可能性があるが、イオン化していない有機物質からなる不純物の除去に対して適用することは極めて困難であり、改善の余地があった。
更に、特許文献3に記載の水溶性の有機溶媒を主体とする洗浄液によって電極触媒層等を洗浄する従来技術は、電極触媒層等を直接、洗浄液に完全浸漬するので、電極触媒層に有機溶媒が多量に残留する可能性が高く有機物質からなる不純物の除去を十分に行うことが困難であった。また、この技術の場合、高分子電解質膜を使用した場合には、有機溶媒によってMEAの触媒層の構成物質(高分子電解質)や高分子電解質膜自体が溶解することによるこれらの損傷を招き、高分子電解質型燃料電池の耐久性の低下につながるおそれもあった。更に、この技術では、洗浄を行う際に、燃料電池の運転を停止した上で高分子電解質型燃料電池から電極触媒層等を取り外さねばならず、複雑な構造を有する高分子電解質型燃料電池においては実用化の観点から現実的な方法とはいえなかった。
本発明は以上の課題を鑑みてなされたものであり、製造中、運転中、停止中又は保存中において燃料電池中に有機物質が混入する可能性がある場合であっても、燃料電池の損傷を十分に抑制しつつ当該燃料電池の電池性能の低下を容易且つ十分に防止することのできる、燃料電池システム及び燃料電池システムの運転方法を提供することを目的とする。
本発明者らは、上記目的を達成するべく鋭意研究を重ねた結果、有機物質を燃料電池中に導入することは燃料電池の出力を低下させるおそれがあるという当業者の一般的な認識があったにも拘らず、特定の分子構造を有する有機物質をあえて使用してこれを燃料電池中に導入することが、燃料電池の出力を低下させる不純物となる有機物質の除去等、上述した本発明の目的を達成する上で極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、上記課題を解決するために、本発明は、高分子電解質型燃料電池と、
高分子電解質型燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系統と、
高分子電解質型燃料電池に供給される酸化剤ガスに、分子内に不飽和結合を有する有機
物質及び酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質から
なる群より選択される少なくとも1 種からなる洗浄物質を添加する洗浄物質添加装置と、
洗浄物質添加装置を制御して洗浄物質の添加を調節する制御装置と、
を少なくとも備えている、燃料電池システムを提供する。
上述のように、本発明の燃料電池システムは、上述の分子構造を有する有機物質からなる洗浄物質を、当該洗浄物質の添加量及び添加タイミング等の添加条件を制御しながら酸化剤ガス中に混入させることにより高分子電解質型燃料電池内に適量導入できる構成を有している。
本発明における高分子電解質型燃料電池への洗浄物質の導入は、運転中(発電中)においても可能である。そのため、本発明においては、先に述べた運転の停止、燃料電池の燃料電池システムからの取り出し、及び、燃料電池の分解などの手間を省くことができ、容易かつ十分に燃料電池を洗浄し、その電池特性の回復を行うことができる。
本発明においては、洗浄物質の使用量は少量で足りるため、高分子電解質型燃料電池へ洗浄物質を導入しても先に述べたMEAの触媒層の構成物質(高分子電解質)の溶解、及び、高分子電解質膜の溶解を十分に防止することができる。すなわち、本発明においては、燃料電池を洗浄に際し、燃料電池の損傷を十分に抑制しつつその電池特性の回復を行うことができるため、燃料電池の電池性能の低下を十分に防止することができる。
本発明において、分子内に不飽和結合を有する有機物質及び酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質からなる群より選択される少なくとも1種からなる洗浄物質を用いることにより、燃料電池の出力特性を低下させること無く、むしろ、燃料電池中の有機物質(製造中、運転中、停止中又は保存中において燃料電池中に混入する有機物質)を容易かつ十分に除去し、その特性を回復できるという効果が得られていることに対する詳細な理由については明確に解明されていないが、本発明者らは以下のように考えている。
すなわち、本発明において使用される、分子内に不飽和結合を有する有機物質又は酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質からなる洗浄物質は、燃料電池中に混入する有機物質(製造中、運転中、停止中又は保存中において燃料電池中に混入する有機物質)に対する親和性が高く、これらの有機物質を自身の中に容易に溶解させて取り込むことができるという特性を有していると本発明者らは考えている。
更に、本発明において使用される洗浄物質は、その不飽和結合の部位(酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質の場合には、酸化剤ガスとの酸化反応の進行により生成する不飽和結合の部位)が、ガス拡散電極の触媒層中の貴金属等の触媒表面に対して適度な結合力(触媒毒となるような強固な結合力よりも弱く、不純物である有機物質を自身の中に取り込む間は触媒表面に付着していることが可能な程度の結合力)を有していると本発明者らは考えている。そして、燃料電池中に導入される洗浄物質は、先ず上記結合力により触媒層中の貴金属等の触媒表面に結合して自身の中に不純物となる有機物質を溶解させ、次いで、酸化剤ガスの流れにより触媒表面から不純物となる有機物質を伴って解離するため、高分子電解質型燃料電池内の不純物となる有機物質を高分子電解質型燃料電池の外部へ効果的に除去することができていると本発明者らは考えている。
ここで、本発明の効果をより確実に得る観点から、洗浄物質は分子内に不飽和結合を有する有機物質であることが好ましい。酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質からなる洗浄物質を使用するよりも、初めから不飽和結合を有する有機物質からなる洗浄物質を使用することで、より容易かつ確実に洗浄の効果を得ることができる。
また、本発明においては、洗浄物質添加装置は、洗浄物質が充填されており該洗浄物質
を外部に放出するための開口部を有する洗浄物質容器と、開口部と酸化剤ガス供給系統と
の間に介在する流量制御具とを有しており、制御装置は、流量制御具を制御して酸化剤ガ
スへの洗浄物質の添加量及び添加タイミングを調節するように構成されていてもよい。洗浄物質添加装置及び制御装置の構成を上記の構成とすることにより、先に述べた本発明の効果をより容易かつ確実に得ることができる。
更に、本発明においては、洗浄物質容器は、前記流量制御具と着脱可能に構成されていてもよい。このような構成とすると、洗浄物質の添加が必要な時のみに洗浄物質容器を装着すればよいので、洗浄物質添加装置をコンパクトに構成することができる。また、洗浄物質容器の交換によって洗浄物質の添加を長期間に亘って継続することができる。
また、先に述べた本発明の効果をより容易かつ確実に得る観点から、本発明においては、洗浄物質となる有機物質は、炭素数が1乃至1 0 の有機物質であることが好ましい。
更に、先に述べた本発明の効果をより容易かつ確実に得る観点から、本発明においては、洗浄物質となる有機物質は、25 ℃ における蒸気圧が10−1Pa以上108Pa以下であることが好ましい。
また、本発明において、洗浄物質となる有機物質は、エチレン、アセチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキセン、ヘキサジエン、オクテン、ヘプテン、ノネン、デセン、ベンセン、ナフタレン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンセン、ブチルベンゼン、スチレン、メタナール、エタナール、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、オクタナール、ヘプタナール、ノナナール、デカナール、ベンズアルデヒド、ジメチルケトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン、ジプロピルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、アセトフェノン、酢酸、エタン酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、ナフトエ酸、クレゾール、フェノール、キシレノール、ナフトール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガーロル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、プロピルフェニルエーテル、ブチルフェニルエーテル、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、ジペンチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルペンチルエーテル及びプロピルペンチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種の有機物質であるとよい。
上述した炭素数の条件、25℃における蒸気圧の条件、及び、上記化合物の群の条件のうちの少なくとも一つを満たす有機物質(洗浄物質)は、酸化剤ガス流路及び高分子電解質型燃料電池内の温度(0℃〜300℃)の運転条件下において気体の状態となり易いので、洗浄物質は酸化剤ガスに速やかに拡散混合して、より効率的な洗浄効果が得られる。また、このような気体の状態となりやすい洗浄物質を選択的に使用することにより、高分子電解質型燃料電池内における洗浄物質の凝縮の進行が十分に防止され、高分子電解質膜等の高分子電解質型燃料電池の構成材料の損傷をさらに確実に防止することができる。
更に、本発明においては、制御装置は、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が予め設定された設定濃度値で略一定になるように洗浄物質添加装置を制御する構成を有していてもよい。これによって、高分子電解質型燃料電池内における洗浄物質の濃度を一定に維持することができるので、より効率的な洗浄効果が得られるとともに、高分子電解質型燃料電池内における洗浄物質の凝縮が抑制され、高分子電解質膜等高分子電解質型燃料電池の構成材料の損傷をさらに確実に抑制することができる。
ここで、本発明において、「予め設定された設定濃度値」とは、燃料電池システム中において高分子電解質型燃料電池に要求される最低限の出力(負荷要求出力)に応じて予め決定される値であり、当該設定濃度値で洗浄物質を添加した際に、高分子電解質型燃料電池の出力が上記最低限の出力(負荷要求出力)以上の値となるように予め設定される値である。
また、本発明においては、制御装置は、洗浄物質添加装置を制御して、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を、高分子電解質型燃料電池の出力が予め設定される基準出力値以上に回復するのに必要な添加期間継続することが好ましい。
これにより、電極の触媒層中の不純物をより十分に除去することができ、高分子電解質型燃料電池の出力が上記最低限の出力(負荷要求出力)よりも低くなる前の段階で、その出力を必要な出力値にまでより確実に回復させることができる。
ここで、本発明において、「予め設定される添加終了基準値」とは、燃料電池システム中において高分子電解質型燃料電池に要求される最低限の出力に応じて予め決定される値であり、上記最低限の出力以上の値である。
更に、本発明においては、制御装置は、洗浄物質添加装置を制御して、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を、高分子電解質型燃料電池の出力が低下した後、再び上昇し始めるまで継続する構成を有していてもよい。この場合にも、高分子電解質型燃料電池の出力を必要な出力値にまでより確実に回復させることができる。
更にこの場合、本発明の効果をより確実に得る観点から、制御装置は、高分子電解質型燃料電池の出力が予め設定される添加開始基準値以下に低下した後に酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を開始し、高分子電解質型燃料電池の出力が再び上昇して予め設定される添加終了基準値以上に回復するまで洗浄物質の添加を継続する構成を有していることが好ましい。
ここで、本発明において、「予め設定される添加開始基準値」及び「予め設定される添加終了基準値」とは、それぞれ、燃料電池システム中において高分子電解質型燃料電池に要求される最低限の出力に応じて予め決定される値であり、それぞれ上記最低限の出力以上の値である。また、添加開始基準値と添加終了基準値とは同一であってもよく異なっていてもよい。なお、添加終了基準値は、洗浄物質の添加が開始される直前の高分子電解質型燃料電池の出力(出力電圧など)を基準に設定されていてもよい。
また、本発明においては、制御装置は、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を、添加期間よりも短い期間において2回以上繰り返すように制御する構成を有していてもよい。これによって、洗浄物質の添加時間及び添加量がさらに軽減されるので、高分子電解質膜等高分子電解質型燃料電池の構成材料の損傷をさらに確実に抑制することができる。
そして、この場合、上記の効果をより確実に得る観点から、添加期間よりも短い期間の添加は、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加開始後、高分子電解質型燃料電池の出力電圧が、該添加開始直前の出力電圧の95%になるまでの期間の添加であることが好ましい。
なお、ここでいう「出力電圧」とは、燃料電池システムに搭載される高分子電解質型燃料電池が1つの単セルからなる場合には1つの単セルの出力電圧をいい、高分子電解質型燃料電池が複数の単セルを積層させたスタックの構成を有する場合には、平均セル電圧[=(スタックの全出力電圧)/(スタックを構成する単セルの数)]をいう。
更に、本発明においては、制御装置は、高分子電解質型燃料電池のエージング動作時において、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を行うように洗浄物質添加装置を制御するとよい。これによって、高分子電解質型燃料電池の出力の立ち上がりが促進され、高分子電解質型燃料電池の起動所要時間を短縮することができる。
また、本発明は、高分子電解質型燃料電池と、高分子電解質型燃料電池に酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給系統と、を少なくとも備える燃料電池システムの運転方法であって、高分子電解質型燃料電池の運転中において、高分子電解質型燃料電池に供給される酸化剤ガスに、分子内に不飽和結合を有する有機物質及び酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質からなる群より選択される少なくとも1種からなる洗浄物質を添加する、燃料電池システムの運転方法を提供する。
このような構成の運転方法により燃料電池システムを運転すれば、先に述べた本発明の燃料電池システムで説明した効果を得ることができる。なお、本発明の燃料電池システムの運転方法を適用可能な構成を有する燃料電池システムとしては、先に述べた本発明の燃料電池システムが好ましく挙げられる。
本発明によれば、洗浄物質を用いることにより、燃料電池システムの運転を継続させながら高分子電解質型燃料電池内の有機物質を十分に洗浄し除去することができ、容易に高分子電解質型燃料電池の性能を回復させることができる。そのため、本発明によれば、製造中、運転中、停止中又は保存中において燃料電池中に有機物質が混入する可能性がある場合であっても、燃料電池の損傷を十分に抑制しつつ当該燃料電池の電池性能の低下を容易且つ十分に防止することのできる、燃料電池システム及び燃料電池システムの運転方法を提供することができる。
以下、図面を参照しながら本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。なお、以下の説明では、同一または相当部分には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
図1は、本発明の燃料電池システムの好適な一実施形態の概略構成を示す系統図である。
図1に示す燃料電池システム200は、主として、高分子電解質型燃料電池1と、酸化剤ガス供給装置2及び酸化剤ガス流路8によって構成される酸化剤ガス供給系統と、還元剤ガス供給装置3及び還元剤ガス流路9によって構成される還元剤ガス供給系統と、洗浄物質添加装置4と、制御装置5と、冷却水供給装置6と、電気出力装置7とを備えて構成されている。
酸化剤ガス供給装置2は、酸化剤ガスを酸化剤ガス流路8に供給可能なように構成されている。この燃料電池システム200においては、酸化剤ガスには空気を用いている。そして、酸化剤ガス供給装置2は、主として、吸入口が大気開放されているブロワ(図示せず)と、その流量を調整することができる流量調整具(図示せず)と、吸入される空気、あるいは吸入された空気を加湿する加湿装置(図示せず)とを備えて構成されている。なお、酸化剤ガス供給装置2には他にシロッコファンなどのファン類を用いることも可能である。
酸化剤ガス流路8は、酸化剤ガス供給装置2と高分子電解質型燃料電池1とを接続するように設置されている。この燃料電池システム200においては、ガス配管用の鋼管を用いている。
還元剤ガス供給装置3は、還元剤ガスを還元剤ガス流路9に供給するように構成されている。この燃料電池システム200においては、還元剤ガスには天然ガス(原料ガス)を改質したガスを用いている。そして、還元剤ガス供給装置3は、主として、天然ガス供給インフラから供給される天然ガスを還元剤ガス流路9に送出するように設置されているプランジャーポンプ(図示せず)と、その送出量を調整することができる流量調整具(図示せず)と、送出されてくる天然ガスを水素リッチな還元剤ガスに改質するように構成されている改質器(図示せず)とから構成されている。なお、還元剤としては水素ガス、メタノールなどのアルコール改質ガスを用いることもできる。
還元剤ガス流路9は、還元剤ガス供給装置3と高分子電解質型燃料電池1とを接続するように設置されている。この燃料電池システム200においては、ガス配管用の鋼管を用いている。
洗浄物質添加装置4は、洗浄物質を酸化剤ガスに添加可能なように構成されている。ここでは、洗浄物質容器4Aと、流量制御具4Bとを備え、洗浄物質容器4Aが、流量制御具4Bを介して、酸化剤ガス流路8に接続されるように構成されている。
洗浄物質容器4Aは、洗浄物質が充填されており該洗浄物質を外部に放出するための開口部を有する容器であり、より具体的には、洗浄物質が加圧充填されているボンベ等の洗浄物質が密閉貯蔵されている容器である。そして、この燃料電池システム200の場合には、洗浄物質容器4Aは、流量制御具4Bに着脱可能なように構成されている。これによって、洗浄物質の補充を随時行うことができるので、洗浄物質容器4Aをコンパクトにすることができる。また、洗浄物質の添加が必要な時のみに洗浄物質容器4Aを装着すればよいので、燃料電池システム200の構成をシンプルにすることができる。
流量制御具4Bは、流量調整弁等である。そして、洗浄物質容器4Aの洗浄物質の酸化剤ガス流路8への流路を開閉すると共にその流量を調節できるように構成されている。
これによって、洗浄物質容器4Aの洗浄物質を酸化剤ガス流路8内へ流量調整をしながら供給し、及びその供給を停止することができる。なお、流量制御具4Bは、単独の流量弁ではなく複数の弁から構成することもできる。例えば、流量調整機能を担う流量調整弁と流路の開閉機能を担う電磁弁とから構成することもできる。
ここで、洗浄物質としては、分子内に不飽和結合を有する有機物質及び酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質からなる群より選択される少なくとも1種からなるものを用いる。
先にも述べたように、この洗浄物質はその不飽和結合の部位(酸化剤ガスによって酸化されて分子内に不飽和結合が形成されうる有機物質の場合には、酸化剤ガスとの酸化反応の進行により生成する不飽和結合の部位)が、ガス拡散電極の触媒層中の貴金属等の触媒表面に対して適度な結合力(触媒毒となるような強固な結合力よりも弱く、不純物である有機物質を自身の中に取り込む間は触媒表面に付着していることが可能な程度の結合力)を有していると考えられる。そして、燃料電池中に導入される洗浄物質は、先ず上記結合力により触媒層中の貴金属等の触媒表面に結合して自身の中に不純物となる有機物質を溶解させ、次いで、酸化剤ガスの流れにより触媒表面から不純物となる有機物質を伴って解離するため、高分子電解質型燃料電池内の不純物となる有機物質を高分子電解質型燃料電池1の外部へ効果的に除去することができる。
また、洗浄物質となる有機物質は、その25℃における蒸気圧が10-1Pa以上108Pa以下であることが好ましい。更に、洗浄物質となる有機物質は、その炭素数が1乃至10であることが好ましい。上述した炭素数の条件、及び、25℃における蒸気圧の条件のうちの少なくとも一つを満たす有機物質(洗浄物質)は、酸化剤ガス流路8及び高分子電解質型燃料電池1内の温度(0℃〜300℃)の運転条件下において気体の状態となり易い。また、このような気体の状態となりやすい洗浄物質は、酸化剤ガスに速やかに拡散混合するので、より効率的な洗浄効果が得られるようになる。更に、このような気体の状態となりやすい洗浄物質を選択的に使用することにより、高分子電解質型燃料電池1内における洗浄物質の凝縮の進行が十分に防止され、高分子電解質膜等の高分子電解質型燃料電池1の構成材料の損傷をさらに確実に防止することができる。
先に述べた炭素数の条件、及び、25℃における蒸気圧の条件のうちの少なくとも一つを満たす有機物質(洗浄物質)のうち好適なものとしては、分子内に不飽和結合を有する有機物質が好ましく挙げられ、より具体的には、エチレン、アセチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキセン、ヘキサジエン、オクテン、ヘプテン、ノネン、デセン、ベンセン、ナフタレン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンセン、ブチルベンゼン、スチレン、メタナール、エタナール、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、オクタナール、ヘプタナール、ノナナール、デカナール、ベンズアルデヒド、ジメチルケトン、ジエチルケトン、エチルメチルケトン、ジプロピルケトン、メチルプロピルケトン、エチルプロピルケトン、アセトフェノン、酢酸、エタン酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、ナフトエ酸、クレゾール、フェノール、キシレノール、ナフトール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガーロル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、プロピルフェニルエーテル及びブチルフェニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
また、上記分子内に不飽和結合を有する有機物質の他に酸化剤ガス中の酸素などの酸化剤によって酸化されることにより分子内に不飽和結合を有する物質に化学変化する有機物質も好ましく挙げられ、より具体的には、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ジメチルエーテル、ジエチルエーテル、メチルエチルエーテル、ジプロピルエーテル、メチルプロピルエーテル、エチルプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチルブチルエーテル、エチルブチルエーテル、プロピルブチルエーテル、ジペンチルエーテル、メチルペンチルエーテル、エチルペンチルエーテル及びプロピルペンチルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
本発明の効果をより確実に得る観点から、洗浄物質は、分子内に不飽和結合を有する有機物質の方がより好ましい。より具体的には、洗浄物質は、エチレン、アセチレン、プロピレン、ブテン、ブタジエン、ペンテン、ペンタジエン、ヘキセン、ヘキサジエン、オクテン、ヘプテン、ノネン、デセン、ベンセン、ナフタレン、トルエン、キシレン、メシチレン、エチルベンセン、ブチルベンゼン、スチレン、メタナール、エタナール、プロパナール、ブタナール、ペンタナール、ヘキサナール、オクタナール、ヘプタナール、ノナナール、デカナール、ベンズアルデヒド、酢酸、エタン酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、アクリル酸、クロトン酸、マレイン酸、フマル酸、安息香酸、フタル酸、サリチル酸、ナフトエ酸、クレゾール、フェノール、キシレノール、ナフトール、カテコール、レソルシノール、ヒドロキノン、フロログルシノール、ピロガーロル、メチルフェニルエーテル、エチルフェニルエーテル、プロピルフェニルエーテル及びブチルフェニルエーテルからなる群より選択される少なくとも1種が好ましく挙げられる。
冷却水供給装置6は、高分子電解質型燃料電池1に冷却水を供給するように構成されている。これによって、高分子電解質型燃料電池1は、発電(電気化学反応の進行)に適する温度に調節される。
電気出力装置7は、インバータ、変圧器等を有し、入力される電気を出力側が要求する電圧、電流等に調整するように構成されている。燃料電池システム200においては、高分子電解質型燃料電池1の電気端子に接続されて、高分子電解質型燃料電池1の電気出力を調節するように構成されている。
制御装置5は、燃料電池システム200の動作を制御するように構成されている。制御装置5は、マイコン等の演算器で構成されている。そして、CPU等からなる演算制御部と、メモリ等からなる記憶部とキーボード等の入力部とを有して構成されている(何れも図示せず)。特に、燃料電池システム200においては、演算制御部は、高分子電解質型燃料電池1の出力を電気出力装置7より取得して、洗浄物質の添加の開始及び停止を制御するように構成されている。また、演算制御部は、酸化剤ガス供給装置2より酸化剤ガス流量を取得して、洗浄物質添加装置4,さらに具体的には流量制御具4Bを制御して、洗浄物質の添加量を制御するように構成されている。記憶部は、高分子電解質型燃料電池1の出力を記憶するように構成されている。
ここで、本明細書においては、制御装置とは、単独の制御装置だけでなく、複数の制御装置が協働して制御を実行する制御装置群をも意味する。よって、制御装置5は、単独の制御装置から構成される必要はなく、複数の制御装置が分散配置されていて、それらが協働して燃料電池システム200の動作を制御するように構成されていてもよい。
高分子電解質型燃料電池1は、一般的な高分子電解質型燃料電池であって、自家発電装置用の定置型のみならず、自動車の動力源用の移動型であってもよい。燃料電池システム200においては、定置型の高分子電解質型燃料電池1を用いている。
図2は、図1に係る高分子電解質型燃料電池の構造を示す分解斜視図である。
図2に示すように、高分子電解質型燃料電池1(正確には高分子電解質型燃料電池スタック)は、セル100が多段数(例えば100段)積層された構成を有している。
なお、図示しないが、両端の最外層に集電板、絶縁板、エンドプレートを取り付け、セル100は両端から締結して構成されている。両端の集電板にはそれぞれ電気端子が設けられ、電気端子は電気出力装置7に接続されている。
セル100は、主として、アノード(ガス拡散電極)とカソード(ガス拡散電極)との間に高分子電解質膜が配置されたMEA10Aを含む構成を有している。この燃料電池システム200の場合、より具体的には、セル100は、MEA10Aが一対のゴム製のガスケット10Bで挟まれた構成の構造体がカソードセパレータ15(以下、必要に応じて「セパレータ15」という)及びアノードセパレータ20(以下、必要に応じて「セパレータ20」という)の間に配置された構成を有している。なお、セル100としてはMEA10A及びガスケット10Bを一体化したMEA−ガスケット接合体を用いてもよい。
セパレータ15及びセパレータ20には、カーボン粉末材料を冷間プレス成形したカーボン板に、フェノール樹脂が含浸され硬化された樹脂含浸カーボン板を用いてもよい。また、セパレータ15及びセパレータ20には、SUS等の金属材料からなるものを用いてもよい。
そして、ガスケット10B及びセパレータ15及びセパレータ20の周縁部には、酸化剤ガス、還元剤ガス及び冷却水の供給側のマニフォルド孔30A、40A及び45A並びにそれらの排出側のマニフォルド孔30B、40B及び45Bが形成されている。
そして、カソードセパレータ15の内側の主面には、酸化剤ガス供給マニフォルド孔30A及び酸化剤ガス排出マニフォルド孔30B間を結ぶようにして酸化剤ガス流路溝30が形成され(図2にはその外延を簡略化して示す)ている。また、アノードセパレータ20の内側の主面には、還元剤ガス供給マニフォルド孔40A及び還元剤ガス排出マニフォルド孔40B間を結ぶようにして還元剤ガス流路溝40が形成されている。酸化剤ガス流路溝30は、カソードセパレータ15がMEAのガス拡散電極(カソード)の外側の主面と密着するように配置される際に、該ガス拡散電極の外側の主面とともに酸化剤ガス流路を画成するものである。同様に、還元剤ガス流路溝40は、アノードセパレータ20がMEAのガス拡散電極(アノード)の外側の主面と密着するように配置される際に、該ガス拡散電極の外側の主面とともに酸化剤ガス流路を画成するものである。
ここで、本発明において、ガス拡散電極とは、電極触媒を含む触媒層を少なくとも有する構成を有する電極をいう。このガス拡散電極は、ガス拡散電極としての機能を発揮可能な範囲で必要に応じて、触媒層に反応ガスを効率よく供給するためのガス拡散層を触媒層の外側に更に配置させた積層体の構成を有していてもよく、更に、ガス拡散層と触媒層との間の位置及び触媒層と高分子電解質膜との間の位置のうちの少なくとも一方の位置に他の層が形成された構成を有する積層体の構成を有していてもよい。
また、セパレータ15及びセパレータ20の外側の主面、すなわち背面には、酸化剤ガス流路溝30あるいは還元剤ガス流路溝40と同様にして、冷却水供給マニフォルド孔45A及び冷却水排出マニフォルド孔45B間を結ぶようにして冷却水流路溝(図示せず)が形成されている。
これによって、セル100が積層された高分子電解質型燃料電池1においては、これらマニフォルド孔30A,40A,45A、30B,40B,45Bが積層されて、酸化剤ガス、還元剤ガス及び冷却水の供給側及び排出側のマニフォルドをそれぞれ形成している。そして、酸化剤ガス、還元剤ガス及び冷却水はそれぞれの供給側のマニフォルドから、セパレータに形成された流路溝30,40,45に分岐して流通し、それぞれの排出側のマニフォルドから高分子電解質型燃料電池1の外部に排出される。そして、その過程で、酸化剤ガスと還元剤ガスとは、それぞれ酸化剤ガス流路溝30あるいは還元剤ガス流路溝40においてMEA10Aに曝露され、電気化学反応を起こす。また、セパレータ15,20の背面、すなわち隣接するセル100の間には、冷却水が流通するので、冷却水の伝熱能力により高分子電解質型燃料電池1を電気化学反応に適した所定の温度に保つことができる。なお、図2に示した各マニフォルドの形状及び形成位置並びに各流路の形状及び形成位置等の設計条件は一例を示すものであり、本発明の燃料電池システムに搭載される燃料電池の構成はこれに限定されるものではない。各マニフォルドは各セパレータの周辺部に任意に設けられ、それに伴い、ガス及び冷却水の供給側および排出側の形状及び形成位置、各流路の形状及び形成位置等の設計条件は変更することができる。
MEA10Aは、例えば、以下の手順で作製することができる。即ち、先ず高分子電解質膜の中心部の両面に、カソード用の電極触媒粉末を含む触媒層形成用塗工液が塗工されたガス拡散電極と、アノード用の電極触媒粉末を含む触媒層形成用塗工液が塗工されたガス拡散電極とを作製する。次に、これらのガス拡散電極をそれぞれの塗工面が内側に向くように対向させ、更に、対向配置された2つの塗工面の間に高分子電解質膜を挟むように配置させた積層体とする。次に、この積層体をホットプレス(例えば110℃、1MPa、30分の条件)することによってガス拡散電極と高分子電解質膜とを接合することによりMEA10Aが完成する。
高分子電解質膜としては、水素イオンを選択的に透過するイオン交換機能を有する膜が好適に挙げられる。更にこのような膜としては、−CF2−を主鎖骨格として、スルホン酸基が側鎖の末端に導入された構造を有する高分子電解質膜が好適に挙げられる。このような構造を有する膜としては、例えば、パーフルオロカーボンスルホン酸膜{例えば、DUPONT社製 Nafion112(登録商標)}が好適に挙げられる。
ガス拡散層には、例えば、カーボンペーパー{例えば、TORAY社製 商品名(TGP-H-090),厚さ:270μm}を使用することができる。なお、カーボンペーパーをガス拡散層として採用する場合、カーボンペーパーには撥水処理を施したものを使用する。撥水処理は、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)の水性ディスパージョンにカーボンペーパーを浸漬し、次いで、乾燥させることにより行われる。また、カーボンペーパーの代わりに、カーボンクロス、あるいは、カーボン繊維、カーボン粉末、有機バインダー等からなるカーボンフェルトをガス拡散層として用いてもよい。
カソード用の電極触媒粉末には、例えば、ケッチェンブラックEC(AKZO Chemie社製,商品名)に、例えば、平均粒径約3nmの白金粒子を25wt%担持した触媒粉末を用いてもよい。
アノード用の電極触媒粉末には、例えば、ケッチェンブラックEC(AKZO Chemie社製,商品名)に、例えば、平均粒径約3nmの白金−ルテニウム合金粒子(例えば、質量比でPt:Ru=1:1)を25wt%担持した触媒粉末を用いてもよい。
ガス拡散電極は、例えば、以下の手順で形成することができる。即ち、上述した電極触媒粉末を、イソプロパノールに分散し、次いで、パーフルオロカーボンスルホン酸粉末のエチルアルコール分散液(例えば、旭硝子社製商品名「Flemion FSS−1」)と混合することによりペースト状の液体(触媒層形成用の塗工液)を調製する。次に、スクリーン印刷法等の公知の塗工技術により、ペーストをガス拡散層の一方の主面に塗工することにより、ガス拡散電極を形成する。ペーストの印刷方法に関しては転写技術や射出技術を用いることもできる。
次に、燃料電池システム200の運転方法(本発明の燃料電池システムの運転方法の第1実施形態)について説明する。なお、洗浄物質添加装置4を含めた燃料電池システム200の動作は制御装置5によって制御されることにより遂行される。
先ず、流量制御具4Bを閉止させた状態で高分子電解質型燃料電池1を運転させる。
高分子電解質型燃料電池の出力の低下が顕著になってきた場合等使用者が洗浄を必要と判断した場合において、流量制御具4Bに洗浄物質容器4Aを装着する。
そして、制御装置5の入力部(図示せず)から所定の洗浄指令を入力する。すると、制御装置5は、電気出力装置7から高分子電解質型燃料電池1の出力電圧を取得する。そして、高分子電解質型燃料電池1の制御電圧(すなわち高分子電解質型燃料電池の電気負荷側が要求する負荷要求電圧)と出力電圧との電圧差が許容電圧差以上となる場合に、洗浄物質添加装置4,さらに具体的には流量制御具4Bを制御して、酸化剤ガスに洗浄物質を添加する。ここで、制御電圧(負荷要求電圧)及び許容電圧差は、予め制御装置5の記憶部に記憶されている。あるいは、燃料電池システム200の使用者が、制御装置5の入力部から制御電圧を入力することによって、許容電圧差が設定されるように構成されていてもよい。許容電圧差の設定は、制御電圧(負荷要求電圧)の一定割合を演算して、あるいは制御電圧−許容電圧差の対応表から選択するようにして設定することができる。
更に、あらかじめ洗浄物質容器4Aを洗浄物質が充填された状態で装着しておき、出力電圧が制御電圧(負荷要求電圧)の許容電圧差以上となった場合、自動で洗浄物質を供給するよう構成してもよい。制御方法としては出力電圧が一定の運転を行い許容電圧差を判断する方法や、制御電圧(負荷要求電圧)ごとの許容電圧差を決めておき洗浄物質の供給を行う方法などを採用してもよい。
また、制御装置5は、酸化剤ガス供給装置2より酸化剤ガス流量を取得し、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が予め設定された設定濃度値で略一定になるように、流量制御具4Bを調整する。ここで、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度は、予め制御装置5の記憶部に記憶されている。あるいは、燃料電池システム200の使用者が、制御装置5の入力部から酸化剤ガス中における洗浄物質の濃度を入力することによって設定するように構成されていてもよい。
本発明において、洗浄物質の添加直後は、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧は時間の経過とともに低下するが、添加を継続すると、しばらくして出力電圧の降下の進行は底を打ち、やがて出力電圧はゆるやかな上昇傾向に転じる(後述する実施例1の燃料電池システムの運転時における高分子電解質型燃料電池の平均セル電圧の経時変化のプロフィールを示す図3を参照)。
ここで、洗浄物質の添加量は、当該洗浄物質を添加することによる出力電圧の変動が起きても、その変動する出力電圧の値が常に負荷要求電圧よりも低い値とならないように予め決定されている。
制御装置5は、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を高分子電解質型燃料電池の出力が予め設定される添加終了基準値E2以上に回復するのに必要な添加期間継続するように洗浄物質添加装置4の量制御具4Bを制御する。添加終了時には、流量制御具4Bを閉止して添加を終了する。
このようにして、洗浄物質は酸化剤ガスに運ばれて、高分子電解質型燃料電池1内の有機物からなる不純物を溶解すると共に、酸化剤ガスにより容易に押し流されて、不純物と共に高分子電解質型燃料電池1の外部に運び出される。これによって、高分子電解質型燃料電池1の運転を継続させながら、洗浄物質による洗浄及び洗浄物質の除去を容易且つ十分に行うことができる。そのため、製造中、運転中、停止中又は保存中において高分子電解質型燃料電池1中に有機物質が混入する可能性がある場合であっても、高分子電解質型燃料電池1の損傷を十分に抑制しつつ、高分子電解質型燃料電池1の性能を容易かつ十分に回復させることができる。すなわち、高分子電解質型燃料電池1の電池性能の低下を容易且つ十分に防止することができる。
次に、燃料電池システム200の別の運転方法(本発明の燃料電池システムの運転方法の第2実施形態)について説明する。
第2実施形態の運転方法は、洗浄物質の添加終了時点の運転方法のみが第1実施形態の運転方法と異なる実施形態である。そのため、以下に説明する動作以外の他の動作は第1実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
第1実施形態の運転方法では制御装置5が高分子電解質型燃料電池の出力が予め設定される添加終了基準値E2以上に回復するのに必要な添加期間経過後に洗浄物質の添加を停止するのに対し、第2実施形態の運転方法においては、制御装置5が洗浄物質の添加開始後、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧が再び上昇し始めることが明らかな上昇傾向を示す開始時点で洗浄物質の添加を停止するように流量制御具4Bを制御する。
後述する実施例1の燃料電池システムの運転時における高分子電解質型燃料電池の平均セル電圧の経時変化のプロフィールを示す図3を用いてより具体的に説明すると、高分子電解質型燃料電池の出力が予め設定される添加開始基準値E1以下に低下した後(この場合は添加開始基準値E1に到達した時点)に酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を開始し、高分子電解質型燃料電池の出力が再び上昇して予め設定される添加終了基準値E2以上に回復するまで洗浄物質の添加を継続する。この場合には、洗浄物質の添加は予め設定される添加終了基準値E2に到達した時点(図3中の矢印で示した時点)で終了させる。
これによって、洗浄物質の添加時間を第1実施形態の運転方法よりも短縮することができる。そのため、高分子電解質型燃料電池1の構成部材の損傷を第1実施形態の運転方法に比べ更に十分に抑制することができる。
なお、洗浄物質の添加終了は、予め設定される添加終了基準値E2を用いること以外に、例えば、制御装置5により、出力電圧が一旦低下した後、再び一定値上昇したことを検出することによって検出してもよい。
次に、燃料電池システム200の更に別の運転方法(本発明の燃料電池システムの運転方法の第3実施形態)について説明する。
第3実施形態の運転方法は、洗浄物質の添加終了時点の運転方法のみが第1実施形態の運転方法と異なる実施形態である。そのため、以下に説明する動作以外の他の動作は第1実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
第3実施形態の運転方法は、上述のように洗浄物質の添加終了時点の運転方法が第1実施形態と異なる。更に、第3実施形態の運転方法は、短期間、すなわち先に述べた添加期間よりも短い期間において酸化剤ガスへの洗浄物質の添加を2回以上繰り返すように制御する実施の形態である。すなわち、燃料電池システム200の動作において、制御装置5は、洗浄物質の添加開始後、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧が、洗浄物質の添加直前の出力電圧に対して一定の割合にまで低下する時点(上昇傾向が現れない時点)で洗浄物質の添加を停止する。
そして、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧が回復した後に、再度、同様の洗浄物質の短期間添加を繰り返し、かかる洗浄物質の短期間添加を2回以上、繰り返すように流量制御具4Bを制御する。これによって、洗浄物質の添加時間の累計は、第2実施形態の洗浄物質の添加時間よりも短くすることができる。そのため、高分子電解質膜の損傷を第2実施形態の運転方法に比べ更に十分に抑制することができる。
この添加期間よりも短い期間の添加は、酸化剤ガスへの洗浄物質の添加開始後、高分子電解質型燃料電池の出力電圧が、該添加開始直前の出力電圧の95%になるまでの期間の添加であってもよい。
次に、燃料電池システム200の更に別の運転方法(本発明の燃料電池システムの運転方法の第4実施形態)について説明する。
第4実施形態は、高分子電解質型燃料電池1のエージング動作時に酸化剤ガスに洗浄物質を添加する実施形態である。そのため、以下に説明するエージング動作時に酸化剤ガスに洗浄物質を添加する動作以外の他の動作は第1実施形態と同様であるのでその説明は省略する。
ここで、エージング動作(エージング処理)とは、燃料電池システム200の起動時において、MEAの高分子電解質膜中の含水量を十分なイオン伝導率を実現するために必要な量以上に調節するために行う動作(処理)をいう。このエージング動作は例えば、高出力の発電を円滑に行うために行われる動作(処理)である。
すなわち、第4実施形態の運転方法においては、制御装置5は、高分子電解質型燃料電池1のエージング動作において、酸化剤ガスに洗浄物質を添加するように、洗浄物質添加装置4を制御する。これによって、高分子電解質型燃料電池1の出力の立ち上がりが促進され、高分子電解質型燃料電池1の起動所要時間(設定電圧での発電状態に到達するまでの所要時間)を短縮、すなわち高分子電解質型燃料電池1の性能回復を促進することができる。これは、MEA等高分子電解質型燃料電池の構成部材に付着している不純物が除去されるので、高分子電解質膜の含水が促進されるものと推察される。
以上、本発明の実施形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
例えば、上述の各実施形態において示した洗浄物質の添加のタイミング、添加量、添加時間(期間)、添加開始基準値及び添加終了基準値は、それぞれ好ましい例示の一つであってこれらに限定されるものではなく、洗浄物質の添加のタイミング、添加量、添加時間(期間)、添加開始基準値及び添加終了基準値は、燃料電池システム200の運転条件、運転時間、負荷要求値等によって適宜、決めることができる。
以下、実施例及び比較例を挙げて本発明について更に詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されない。
(実施例1)
第1実施形態の燃料電池システム200と同様の構成を有する燃料電池システムを構成した。この燃料電池システムを用いて以下に説明する運転を行った。
冷却水供給装置6によって、高分子電解質型燃料電池1の冷却水供給マニフォルド孔45A(正確には冷却水供給マニフォルド)に通水するように冷却水を供給した。冷却水の供給は、高分子電解質型燃料電池1が75℃となるように制御した。
酸化剤ガス供給装置2によって、高分子電解質型燃料電池1の酸化剤ガス供給マニフォルド孔30A(正確には酸化剤ガス供給マニフォルド)に酸化剤ガスが流通するように酸化剤ガスを供給した。酸化剤ガスの供給は、酸化剤ガスの利用率が45%、露点が68℃となるように制御した。
還元剤ガス供給装置3によって、高分子電解質型燃料電池1の還元剤ガス供給マニフォルド孔40A(正確には還元剤ガス供給マニフォルド)に還元剤ガスが流通するように還元剤ガスを供給した。還元剤ガスの供給は、還元剤ガスの利用率が80%、露点が73℃となるように制御した。
高分子電解質型燃料電池1の電気負荷は一定とし、より具体的には、高分子電解質型燃料電池1の電気出力が平均セル電圧0.7V以上、電流密度0.3A/cm2となるような電気負荷とした。
そして、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質(トルエン)を酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が5ppmとなるように添加し、洗浄物質の添加を100時間継続した。
図3は、実施例1の燃料電池システムの運転時における高分子電解質型燃料電池の平均セル電圧の経時変化のプロフィールを示すグラフである。図3に示すように、洗浄物質添加終了後には高分子電解質型燃料電池1の平均セル電圧は上昇し、洗浄物質添加直前の平均セル電圧よりも高くなった。高分子電解質型燃料電池1の性能が回復されたことが確認された。
(比較例1)
実施例1の燃料電池システムと同様の構成を有する燃料電池システムにおいて、洗浄物質の添加を実施しないこと以外の運転条件は実施例1と同じ運転条件として運転を行った。
図4は、比較例1の燃料電池システムにおける高分子電解質型燃料電池と洗浄物質添加終了後の実施例1の燃料電池システムにおける高分子電解質型燃料電池との平均セル電圧の経時変化のプロフィールを示すグラフである。図4に示すように、比較例1の燃料電池システムと比較し、実施例1の燃料電池システムにおける高分子電解質型燃料電池の平均セル電圧は10mV程度高くなっていた。
さらに、連続運転時間が3000時間を越えた高分子電解質型燃料電池1に対して、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が5ppmとなるように添加量を制御しながら、100時間洗浄物質の添加を継続し、添加を停止して、高分子電解質型燃料電池1の運転を継続させた。すると、洗浄物質の添加直前の平均セル電圧と比較して、洗浄物質の添加終了後の平均セル電圧は35mV程度上回る回復を示した。
以上の実施例1及び比較例1の結果から、実施例1の燃料電池システム及びその運転方法においては、酸化剤ガスに洗浄物質を添加することによって、高分子電解質型燃料電池1の性能を十分に回復させることができることが確認された。これは、酸化剤ガス中への洗浄物質の添加により、MEAに付着していた不純物が洗浄され、電極層の濡れ性や反応場、電子やイオンの導電性が回復したものと推察される。
(実施例2)
実施例1と同様に、第1実施形態の燃料電池システム200と同様の構成を有する燃料電池システムを構成した。この燃料電池システムを用いて以下に説明する運転を行った。
先ず、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質を添加するまでの運転条件は、実施例1と同一の条件で高分子電解質型燃料電池1を運転した。
次に、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質(トルエン)を添加した。制御装置5によって、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が5ppmとなるように洗浄物質添加装置4を制御した。すると、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧が低下し、やがで、電圧降下は止み、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧は再上昇傾向を示し始めた。
そして、高分子電解質型燃料電池1の出力電圧の再上昇が確認された時点で、制御装置5によって、流量制御具4Bが閉止され、洗浄物質の添加は停止された。すると、高分子電解質型燃料電池の出力電圧は、添加直前と比べて平均セル電圧にして9mV程度上回る回復を示した。洗浄物質の添加時間は、30時間程度であった。
これにより、実施例2の運転方法は、洗浄物質の添加の時間を実施例1の運転方法に比べて短くすることが可能であり、高分子電解質膜の損傷を抑制しつつ、十分に高分子電解質型燃料電池の性能を回復させることができることが確認された。
(実施例3)
実施例1と同様に、第1実施形態の燃料電池システム200と同様の構成を有する燃料電池システムを構成した。この燃料電池システムを用いて以下に説明する運転を行った。
先ず、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質を添加するまでの運転条件は、実施例1と同一の条件で高分子電解質型燃料電池1を運転した。
次に、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質(トルエン)を添加した。制御装置5によって、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が5ppmとなるように洗浄物質添加装置4を制御した。
そして、高分子電解質型燃料電池1の平均セル電圧が、かかる添加直前の平均セル電圧の95%に相当する電圧値にまで低下した時点で、制御装置5によって、流量制御具4Bが閉止され、洗浄物質の添加は停止された。かかる洗浄物質の添加の継続時間は1時間程度であった。
添加終了後、高分子電解質型燃料電池1の平均セル電圧は、添加直前の平均セル電圧と比較して、2mV程度上回る回復を示した。
そして、上述の洗浄物質の短期間の添加の繰り返し動作を5回繰り返した。洗浄物質の短期間の添加の動作を5回繰り返した後の最終的な高分子電解質型燃料電池1の出力電圧平均セル電圧は、最初の洗浄物質の添加直前に比べて平均セル電圧にして8mV程度上回る回復を示した。洗浄物質の添加時間の累計は5時間程度であり、実施例1及び実施例2と比較して、洗浄物質の添加時間を短縮することができることが確認された。
これによって、洗浄物質の短期間の添加を繰り返すことによって、高分子電解質膜への損傷を十分に抑制しつつ、高分子電解質型燃料電池1の性能を容易かつ十分に回復させることができることがわかった。
ここで、高分子電解質型燃料電池1においては、酸化剤ガス側において水が生成される。したがって、この生成水、すなわち酸化剤ガス排出マニフォルドから排出される水に含まれる高分子電解質膜の成分を検出することによって、高分子電解質膜の損傷の程度を推定することができる。そこで、酸化剤ガス排出マニフォルドから排出される水における、高分子電解質膜の成分、ここではフッ化物イオンを測定したところ、洗浄物質の添加前と比較して、洗浄物質の添加中におけるフッ化物イオン量の上昇は確認されなかった。
他方、比較のため、実施例2において、酸化剤ガス排出マニフォルドから排出される水における、フッ素イオンを測定したところ、洗浄物質の添加前と比較して、添加中にはフッ化物イオンの量は1%程度の上昇が認められた。
これにより、高分子電解質膜の損傷を防止しつつ高分子電解質型燃料電池の出力の低下を防止することをより長期にわたって行うことを意図した場合には実施例2の運転方法よりも実施例3の運転方法の方が有効であることが確認された。一方、実施例2の運転方法は、添加直前の平均セル電圧に対する回復電圧の度合いを比較すればわかるように、1回の洗浄で十分な洗浄効果を得ることを意図した場合には有効であることが確認された。
(実施例4)
実施例1と同様に、第1実施形態の燃料電池システム200と同様の構成を有する燃料電池システムを構成した。この燃料電池システムを用いて以下に説明する運転を行った。
先ず、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質を添加するまでの運転条件は、実施例1と同一の条件で高分子電解質型燃料電池1を運転した。
この際、洗浄物質添加装置4によって、酸化剤ガス流路8を流通する酸化剤ガスに洗浄物質(トルエン)を添加した。制御装置5によって、酸化剤ガス中の洗浄物質の濃度が5ppmとなるように洗浄物質添加装置4を制御した。洗浄物質の添加を1時間継続した。
図5は、実施例4の燃料電池システムにおける高分子電解質型燃料電池の平均セル電圧の経時変化のプロフィールを示すグラフである。図5に示すように、洗浄物質を添加しない場合の高分子電解質型燃料電池1の出力電圧(図中、比較例4)と比較し、本実施例の出力電圧は4分の1程度の時間で出力電圧の上昇が収束しており、高分子電解質型燃料電池1のエージング動作、すなわち起動時間を短縮することができた。