<第1の実施の形態>
以下、本発明に係る第1の実施の形態を図1乃至図5に沿って説明する。図1は第1の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図で、(a)はローモード時の伝達経路を示す図、(b)はハイモード時の伝達経路を示す図、(c)はオーバードライブ時の伝達経路を示す図、図2は第1の実施の形態に係る無段変速機の速度線図、図3は第1の実施の形態に係る無段変速機の制御を示すブロック図、図4は第1の実施の形態に係る無段変速機の制御を示すフローチャート、図5は第1の実施の形態に係る無段変速機の変速マップである。なお、図1(a)〜(c)において、太線部分はトルク伝達する伝達経路を示すものである。
第1の実施の形態に係る無断変速機(IVT)11は、図1に示すように、ミッションケース5内における一軸上にあって、入力側から出力側へ順に、入力軸2と、トロイダル式無段変速装置(バリエータ)10と、プラネタリギヤ機構20と、反転ギヤ機構30と、オーバードライブ係合要素(迂回路形成係合要素)ODと、ロー・ハイ切換機構40と、出力軸3とを備えて構成されている。
無段変速装置10は、図1(a)乃至(c)に示すように、フルトロイダル式無段変速装置からなり、入力軸2上に連結された入力ディスク11Aと、後述のフロントキャリヤCを介して入力軸2に連結された入力ディスク11Bと、中空軸(スリーブ軸)16に連結された出力ディスク12と、2個の入力ディスク11A,11B及び1個の出力ディスク12の間に挟持されるパワーローラ14A,14Bと、を有する。入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12は、それぞれ対向するように円形の一部を形成する円弧状の凹溝11a,12aを有しており、2列のパワーローラを挟んでダブルキャビティ13A,13Bを構成して、入力ディスク同士のスラスト力を打消す構成からなる。
パワーローラ14A,14Bは、環状のダブルキャビティ13A,13Bにおける周方向の略々均等な位置に複数個(例えば1つのキャビティに3個)配置されており、不図示の球面軸受、レバー等からなるリンク機構を油圧制御により押圧駆動される。また、入力ディスク11A,11Bは、例えばL字状のブロックと該ブロック上に設置された油圧ピストンとにより閉ループ的に押圧され、パワーローラ14A,14Bを挟持すると共に、その挟持圧が油圧により制御される。そして、上記リンク機構の押圧制御を入力ディスク11A,11Bの挟持圧とにより、パワーローラ14A,14Bが自律的に傾斜することで、入力ディスク11A,11Bと出力ディスク12との接触半径が変更されて、無段に連続して変速する。なお、本バリエータ10にあっては、入力ディスク11A,11Bに対して出力ディスク12が反転するので、速度比は−(マイナス)になる。
プラネタリギヤ機構20は、大まかにステップピニオン部21とプラネタリギヤ部22とを有して構成されている。そのうちのステップピニオン部21は、2個のピニオンP1,P2(第1のピニオン、第2のピニオン)を有する第1のキャリヤC1(C2)と、ピニオンP1に噛合する第1のサンギヤS1と、ピニオンP2に噛合する第2のサンギヤS2とを有している。それらピニオンP1,P2は、共通のピニオンシャフトに回転自在に軸支される一体構造からなり、いわゆるステップピニオンを形成している。これらピニオンP1,P2を軸支する第1のキャリヤC1は、上記プラネタリギヤ部22の第1のリングギヤR3に連結していると共に、入力軸2に連結されており、更に、後側の入力ディスク11Bに連結されている。つまり入力ディスク11A,11B、第1のキャリヤC1、第1のリングギヤR3には、エンジン(不図示)等の回転がそのまま伝達される。なお、本無段変速機1は、詳しくは後述するようにギヤニュートラル状態を得ることができるので、トルクコンバータ等を設ける必要はなく、入力軸2に直接エンジン等を接続することができる。
上記第1のサンギヤS1は、上記中空軸16を介して出力ディスク12に接続されており、入力軸2の回転がバリエータ10により無段変速されたバリエータ出力回転Voutが伝達される。上記第2のサンギヤS2は、上記プラネタリギヤ部22の第3のサンギヤS3に接続されていると共に、ロー・ハイ切換機構40のハイクラッチHに接続されており、該ハイクラッチHを介して出力軸3に接続される。
なお、本無段変速機11においては、第1及び第2のピニオンP1,P2の歯数をZP1,ZP2、第1及び第2のサンギヤS1,S2の歯数をZS1,ZS2としたときの歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP2/ZS2)を1以上として、ハイモード時の出力回転OutH(即ち第2のサンギヤS2の回転)とバリエータ出力回転Vout(即ち第1のサンギヤS1の回転)とが異なるように構成され、バリエータ出力回転Voutが増速されて出力回転OutHとなるが(図2参照)、反対にバリエータ出力回転が減速されて出力回転となるように構成してもよく、更には、上記歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP2/ZS2)を同じに構成し、出力回転とバリエータ出力回転とが同じになるようにしてもよい。
一方、上記プラネタリギヤ部22は、上記第1のリングギヤR3と、ピニオンP3を軸支する第2のキャリヤ(ローモード出力ギヤ)C3と、第3のサンギヤS3とを有するシングルピニオンプラネタリギヤからなる。該第1のリングギヤR3は、上述のように第1のキャリヤC1を介して入力軸2に接続されており、該第3のサンギヤS3は、上記第2のサンギヤS2に連結されている。上記第2のキャリヤC3は、第1の接続部材50を介して後述の反転ギヤ機構30の第3のキャリヤC4に接続されている。
上記オーバードライブ係合要素ODは、第1の接続部材50の外周側に配置されて該第1の接続部材に接続されたブレーキ(以下、「オーバードライブブレーキ」とする)で構成されている。該オーバードライブブレーキODは、該第1の接続部材50の回転をミッションケース5に対して固定自在となっており、つまり第2のキャリヤC3と第3のキャリヤC4との回転を固定し得るようになっている。
反転ギヤ機構30は、第2のリングギヤR4と、互いに噛合する2個のピニオン(第4及び第5のピニオンP4,P5)を軸支する第3のキャリヤC4と、第4のサンギヤS4とを有するダブルピニオンプラネタリギヤ31からなる。該第3のキャリヤC4は、上記第1の接続部材50に接続されて、上記第2のキャリヤC3に接続されていると共に、第2のリングギヤR4に噛合する第4のピニオンP4と、第4のサンギヤS4に噛合する第5のピニオンP5とを軸支している。該第2のリングギヤR4は、ミッションケース5に接続されており、常時回転が固定されている。そして、該第4のサンギヤS4は、第2の接続部材51に接続されており、該第2の接続部材51がロー・ハイ切換機構40のロークラッチLに接続されて、つまり第4のサンギヤS4は、第2の接続部材51及びロークラッチLを介して出力軸3に接続される。
なお、本無段変速機11は、主に自動車等に用いられ、出力軸3がディファレンシャル装置(不図示)を介して駆動車輪に接続されており、バリエータ10等により反転された出力軸3の回転は、該ディファレンシャル装置によって再度反転されるように構成されている。
ついで、上記無段変速機11の作用について図1及び図2に沿って説明する。
例えば無段変速機11を搭載した車輌の発進時又は後進時においては、不図示のシフトレバーの操作に応じて、後述するロー・ハイ変速マップ141に基づきロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40を制御し、また、同じく後述するオーバードライブ変速マップ142に基づき無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを制御して、ハイクラッチH及びオーバードライブブレーキODが解放されると共にロークラッチLが係合され、無段変速機11はローモード状態にされる。すると、図1(a)及び図2に示すように、エンジン出力軸に連結している入力軸2の回転が、バリエータ10の入力ディスク11A,11B、ステップピニオン部21の第1のキャリヤC1、及びプラネタリギヤ部22の第1のリングギヤR3に伝達される。このうち入力ディスク11A,11Bに入力された入力軸2の回転はバリエータ10で変速され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。
第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、ステップピニオン部21において、入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとが(1次的な)トルク循環により合成され、ギヤ比に基づき、バリエータ出力回転Voutより僅かな増速回転として第2のサンギヤS2から出力され、第3のサンギヤS3に入力される。すると、プラネタリギヤ部22においては、第1のリングギヤR3に入力される入力軸2の回転と第3のサンギヤS3の上記増速回転とが(2次的な)トルク循環により合成されて、第2のキャリヤC3より出力される。この第2のキャリヤC3の出力回転(プラネタリギヤ機構20の出力回転)は、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転となる。
この第2のキャリヤC3の出力回転は、第1の接続部材50を介して反転ギヤ機構30のダブルピニオンプラネタリギヤ31の第3のキャリヤC4に入力される。該第3のキャリヤC4に入力された回転は、ケース5に固定された第2のリングギヤR4を介して反転され、第4のサンギヤS4より出力される。そして、この第4のサンギヤS4の出力回転OutLは、ローモード状態の出力回転として、第2の接続部材51及びロークラッチLを介して出力軸3に出力される。
以上のような伝達経路を形成するローモード時においては、バリエータ出力回転Vout(バリエータ10の変速比)が、図2中の一点鎖線で示すギヤニュートラル状態GNである際に、第2のキャリヤC3の回転がニュートラル状態となり、反転ギヤ機構30において反転された回転、つまりローモード時の出力回転OutLがニュートラル状態となる。上述したように、この状態においては、エンジン回転数(入力軸2の回転)と出力軸3の回転とが無関係となるので、例えば走行レンジに切換える際にバリエータ10の変速比をギヤニュートラル状態GNに合せた後にロークラッチLを係合することで、回転数差を吸収することが不要であり、トルクコンバータ等の回転数差を吸収する装置を設ける必要がない。
ここで、例えば不図示のシフトレバーがリバース(R)レンジであって、このギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を大きくしていくと(図2中のバリエータ出力回転Voutを下方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、正転回転側に増速していき、ディファレンシャル装置で反転されて、つまり後進側に増速されていく。
また反対に、例えば不図示のシフトレバーがドライブ(D)レンジであって、ギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を小さくしていくと(図2中のバリエータ出力回転Voutを上方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、反転回転側に増速していき、ディファレンシャル装置で反転されて、つまり前進側に増速されていく。
つづいて、上述のローモード状態で出力軸3の出力回転OutLが増速されていき(バリエータ10の変速比が小さくされていき)、図2中の破線で示すシンクチェンジSCの変速比に達して例えば車速やアクセル開度に応じて変速判断がなされると、後述するロー・ハイ変速マップ141に基づきロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40を制御し、また、同じく後述するオーバードライブ変速マップ142に基づき無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを制御して、ロークラッチL及びオーバードライブブレーキODが解放されると共にハイクラッチHが係合され、無段変速機11はハイモード状態にされる。
すると、図1(b)及び図2に示すように、このハイモード状態においても同様に、入力軸2の回転がバリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びステップピニオン部21の第1のキャリヤC1に伝達され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、ステップピニオン部21において、入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとがトルク循環により合成され、ギヤ比に基づき、バリエータ出力回転Voutより僅かな増速回転として第2のサンギヤS2から出力される。そして、この第2のサンギヤS2の出力回転OutHは、ハイモード状態の出力回転として、ハイクラッチHを介して出力軸3に出力される。
上記シンクチェンジSC時におけるローモード状態とハイモード状態との切換えにおいては、バリエータ10の変速比(バリエータ出力回転Vout)が最も小さくなる同じ変速比で切換えが行われるように各ギヤのギヤ比が設定されている。つまりローモード状態においては、バリエータ10の変速比が小さく変速されていくと出力回転OutLが増速され、シンクチェンジSCを境に、ハイモード状態においては、反対にバリエータ10の変速比が大きく変速されていくと出力回転OutHが増速されていく。
なお、上記ハイモード時においては、第2のサンギヤS2の出力回転OutHが第3のサンギヤS3に入力され、また、入力軸2の回転が第1のリングギヤR3に入力されるため、第2のキャリヤC3及び第3のキャリヤC4がローモード時と同様に回転されるが、ロークラッチLが解放されているので、第4のサンギヤS4が空転する。そのため、プラネタリギヤ部22及び反転ギヤ機構30のダブルピニオンプラネタリギヤ31において、トルク伝達は行われない。
ついで、例えば上述のハイモード状態で後述する制御部Uにおいて、後述するオーバードライブ変速マップ142に基づき無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブモードを判定すると、後述するロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40を制御し、また、同様に後述するオーバードライブ変速マップ142に基づき無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを制御して、更に、変速制御手段100がバリエータ10を制御して、ロークラッチLの解放とハイクラッチHの係合とが維持されつつ、バリエータ10の変速比が上記ギヤニュートラルGNと同じ変速比に制御されると共にオーバードライブブレーキODが係止されて、無段変速機11はオーバードライブモード状態にされる。
すると、図1(c)及び図2に示すように、入力軸2の回転がステップピニオン部21の第1のキャリヤC1を介してプラネタリギヤ部22の第1のリングギヤR3に伝達され、オーバードライブブレーキODの係止により第1の接続部材50及び第2のキャリヤC3の回転が固定される。そして、プラネタリギヤ部22により変速段を形成し、第3のサンギヤS3よりオーバードライブモード状態としての出力回転OutODが出力され、ハイクラッチHを介して出力軸3に出力される。これにより、伝達経路としてバリエータ10でトルク伝達を行わない、つまりバリエータ10を迂回する伝達経路が形成される。
また、上記オーバードライブモード時においては、入力ディスク11A,11Bに入力軸2の回転が入力されるが、バリエータ10を挟持せずにパワーローラ14A,14Bを押圧しないため、パワーローラ14A,14Bが空転状態とされる。また、第3のサンギヤS3の回転が第2のサンギヤS2に入力され、第1及び第2のピニオンP1,P2を介して第1のサンギヤS1及び出力ディスク12が連れ回るが、空転状態とされる。そのため、バリエータ10及びステップピニオン部21においては、トルク伝達は行われない。また、第3のキャリヤC4の回転も第1の接続部材50の係止により固定され、第2のリングギヤR4も固定されているため、第4のサンギヤS4も回転が固定されるが、反転ギヤ機構30のダブルピニオンプラネタリギヤ31においても、トルク伝達は行われない。
つづいて、本無段変速機の変速制御装置2001について図3及び図5に沿って説明する。図3に示すように、変速制御装置2001は、制御部(ECU)Uを備えており、該制御部Uに、無段変速機1と出力軸回転数センサ(車速センサ)92とアクセル開度センサ93と不図示のエンジンとが接続されて構成されている。さらに、制御部(ECU)Uは、変速制御手段100と、高温時変速制御変更手段110と、非無段モード走行可能状態検出手段(非無段走行可能状態検出手段)120と、高温状態検出手段130と、変速マップ140と、を備えて構成されている。
上記高温状態検出手段130は、出力軸3の回転数を検出する(即ち車輌の車速を検出する)出力軸回転数センサ(車速センサ)92や不図示のアクセルの開度を検出するアクセル開度センサ93等の検出結果に基づき、高車速・高要求トルク等の高負荷が継続する時間を計時する高負荷時間計時手段133と、該高負荷時間計時手段133の検出結果に基づいてバリエータ10の油温が上昇する状態か否かを判定する油温上昇判定手段132と、油温センサ91からの信号に基づきバリエータ10の実油温を検出する実油温検出手段131(広義としての実油温検出手段)と、を有して構成されており、実油温検出手段131によりバリエータ10の実油温が所定温度以上であることが検出された場合、又は油温上昇判定手段132によりバリエータ10の油温が所定温度以上に達すると判定された場合に、バリエータ10の油温が高温状態となることを検出する。
また、上記非無段モード走行可能状態検出手段120は、例えばオーバードライブモードでない際にローモード状態であるかハイモード状態であるかを判定し、ハイモード状態である場合に非無段モード走行(即ちオーバードライブモードの走行)が可能であることを判定する。さらに、上記高温時変速制御変更手段110は、非無段モード走行可能状態検出手段120の判定結果や該高温状態検出手段130の検出結果に基づいて、後述の無段・非無段モード切換手段102にオーバードライブ変速マップ142の変更を指令し、通常走行の場合とバリエータ10が高温状態となる場合とに応じてオーバードライブモードを選択する比率を変更する処理を行う。
一方、上記変速マップ140は、車速やアクセル開度に基づきローモードとハイモードとを判別するためのロー・ハイ変速マップ141と、図5に示すように、同じく車速Vとアクセル開度θdとに基づきオーバードライブモードを判定するためのオーバードライブ変速マップ142とを有している。該オーバードライブ変速マップ142には、通常時マップ(モード切換マップ)143と高油温時マップ(モード切換マップ)144とが備えられており、該通常時マップ143は図5中実線及び破線で示すように、また、高油温時マップ144は図5中太実線及び太破線で示すように設定されて、該高油温時マップ144の方がオーバードライブモードとなる比率が多くされている。
そして、上記変速制御手段100は、上記ロー・ハイ変速マップ141に基づきロー・ハイ切換機構40を切換制御するロー・ハイ切換制御手段101と、上記オーバードライブ変速マップ142に基づきオーバードライブブレーキODの係合・解放を制御すると共に、詳しくは後述するバリエータ10の回転同期制御やオーバードライブ移行回転同期制御等を行う無段・非無段モード切換手段102とを有して構成されている。
ついで、本無段変速機の変速制御装置2001の制御について図3乃至図5に沿って説明する。例えば、不図示の運転席に備えられているイグニッションキーがONにされると、本発明に係る無段変速機の変速制御装置2001の制御が開始(スタート)される(S1)。例えば車輌の発進時や後進時においては、上述したようにロー・ハイ変速マップ141に基づきロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40をローモード状態に制御するため、ローモードで走行し(S2のNO)、変速制御手段100によって通常のバリエータ制御が行われる(S14)。
ここで、例えば車速が増加する等して、変速マップ140内のロー・ハイ切換マップ141に従ってロー・ハイ切換制御手段によりロー・ハイ切換機構40が制御され、ロークラッチLが解放されると共にハイクラッチHが係合されると、ハイモード状態になる(S2のYES)。このハイモード状態で走行中に高温状態検出手段130において、バリエータ10の実油温が油温センサ91を介して実油温検出手段131により検出され、また、上記高負荷時間計時手段133の計時に基づき油温上昇判定手段132が該油温が上昇するか否かを判定した結果、バリエータ10の油温が高温状態となることを検出しない場合は(S3のNO)、ステップS4にそのまま進み、(油温の)通常状態の制御が行われる。
この通常状態の制御におけるハイモード状態の走行中にあって、オーバードライブ変速マップ142の通常マップ143に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づき係合変速点を判定しない場合、つまり図5に示す実線の範囲内に入ったことを検出しない場合は(S4のNO)、オーバードライブモードに移行しないので、解放変速点にならず(S6のNO)、またオーバードライブブレーキODが係合中でないので(S8のNO)、変速制御手段100がハイモード状態における通常のバリエータ10の制御を行って(S14)、リターンする(S16)。
また、通常状態の制御におけるハイモード状態で走行中に、オーバードライブ変速マップ142の通常マップ143に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づき係合変速点を判定し、非無段モード走行可能状態検出手段120により非無段モード走行が可能であることを判定した場合、つまり図5に示す実線の範囲内に入ったことを検出した場合は(S4のYES)、オーバードライブモードに移行する。このオーバードライブモードへ移行する際は、まずオーバードライブ移行回転同期制御(S11)が行われる。
このオーバードライブ移行回転同期制御においては、ロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40を制御してハイクラッチHを係合した状態で、変速制御手段100が、バリエータ10の変速比を上述のギヤニュートラルGNの変速比と同じ位置に(つまりオーバードライブモードの変速比に)制御すると共に、不図示のエンジンの回転数を該バリエータ10の変速比の変更に合せて回転数制御する。そして、上記バリエータ10の変速比及びエンジン回転数がオーバードライブモードと同じ状態となり、第2のキャリヤC3の回転が停止すると(図2参照)、無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを係合して、オーバードライブ段が形成される。このようにオーバードライブ移行回転同期制御を行うことで、オーバードライブブレーキODを係合しても、第2のキャリヤC3の回転が停止しているため、変速ショックは起こらない。
上述のようにオーバードライブ段が形成されると、つまりバリエータ10を迂回した伝達経路が形成されているので、変速制御手段100がバリエータ10の挟持圧を緩める等、バリエータ10を停止制御し(S15)、無段変速機11はオーバードライブモード状態に完全に移行され、リターンする(S16)。
この通常状態の制御におけるオーバードライブモード状態の走行中にあって、車速V及びアクセル開度θdがオーバードライブ変速マップ142の通常時マップ143におけるオーバードライブ係合の範囲内(即ち解放変速点を跨がない範囲内)にある際は、すでにオーバードライブブレーキODが係合中であるので係合変速点は検出せず(S4のNO)、また、解放変速点を判定しないので(S6のNO)、つまりオーバードライブブレーキODが係合中であり(S8のYES)、オーバードライブブレーキODの係合(S13)とバリエータの停止制御(S15)を維持しつつリターンし(S16)、オーバードライブモード状態として上記制御を繰り返す(S1,S2,S3,S4,S6,S8,S13,S15,S16)。
上記オーバードライブモードにおける制御中において、オーバードライブ変速マップ142の通常マップ143に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づき解放変速点を判定し、つまり図5に示す破線の範囲を出た場合は(S6のYES)、再度ハイモード状態に移行する。このハイモード状態への移行においては、まずバリエータ10の回転同期制御が行われ(S10)、即ち、ロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構40を制御してハイクラッチHを係合した状態で、変速制御手段100が、停止中であったバリエータ10の変速比を上述のギヤニュートラルGNの変速比と同じ位置に(つまりオーバードライブモードの変速比に)制御して戻す。
そして、上記バリエータ10の変速比がオーバードライブモードと同じ状態となると、無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを解放し(S12)、無段変速機11はハイモード状態にされる。そして変速制御手段100がハイモード状態における通常のバリエータ10の制御を行って(S14)、リターンし(S16)、ハイモード状態として上述の制御を繰り返す(S1,S2,S3,S4,S6,S8,S14,S16)。
以上のような通常状態の制御における走行中に、例えば登坂路の走行や長時間の高速走行等に起因してバリエータ10に高負荷な状態になり、バリエータ10の実油温が油温センサ91を介して実油温検出手段131により所定温度以上であることが検出されたり、また、上記高負荷時間計時手段133の計時に基づき油温上昇判定手段132が該油温が上昇することを判定したりすると、高温状態検出手段130が、バリエータ10の油温が高温状態となることを検出し(S3のYES)、以降、高油温状態の制御が行われる。
この高油温状態の制御が開始されると、まず、非無段モード走行可能状態検出手段120が非無段モード、つまりオーバードライブモードで走行することが可能である状態であることを検出する。即ち、非無段モード走行可能状態検出手段120は、例えばローモード状態であればオーバードライブモードにするとエンジンストップ等を生じさせる虞があるので、ハイモード状態である際に(即ちS2のYES)オーバードライブモードで走行することが可能である状態であることを検出することになる。この検出により、例えばオーバードライブモードの移行が判断され、実際にオーバードライブモードに移行しても、走行状態に影響を与えることを防ぐことができる。
次に高温時変速制御変更手段110は、非無段モード走行可能状態検出手段120によりオーバードライブモードで走行することが可能である状態であることを検出され、また、上記高温状態検出手段130によりバリエータ10の油温が高温状態となることが検出されたことを受けて、無段・非無段モード切換手段102に対し、参照するオーバードライブ変速マップ142を通常時マップ143より高油温時マップ144(図5参照)に変更するように指令する。すると、図5に示すように、通常時マップ143である図中実線及び破線の範囲より高油温時マップ144である図中太実線及び太破線の範囲のように範囲が拡大され、車速V及びアクセル開度θdに基づき無段・非無段モード切換手段102がオーバードライブブレーキODを係合状態にする比率、つまりオーバードライブモードを選択する比率が上昇する。
このような高油温状態の制御においても、オーバードライブ変速マップ142の高油温時マップ144に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づき係合変速点を判定しない場合は、つまり図5に示す太実線の範囲内に入ったことを検出しない場合は(S5のNO)、オーバードライブモードに移行しないので、解放変速点にならず(S7のNO)、またオーバードライブブレーキODが係合中でないので(S9のNO)、変速制御手段100がハイモード状態における通常のバリエータ10の制御を行って(S14)、リターンし(S16)、高油温時のハイモード状態としての制御を繰り返す(S1,S2,S3,S5,S7,S9,S14,S16)。なお、この状態にあっては、特にアクセル開度θdが低い場合等であり、バリエータ10に高負荷が生じることはない。
上記高油温状態の制御におけるハイモード状態で走行中に、オーバードライブ変速マップ142の高油温時マップ144に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づいて係合変速点を判定し、非無段モード走行可能状態検出手段120により非無段モード走行が可能であることを判定した場合、つまり図5に示す太実線の範囲内に入ったことを検出した場合は(S5のYES)、上述と同様にオーバードライブモードに移行する。このオーバードライブモードへの移行は、通常状態と同様にオーバードライブ移行回転同期制御(S11)によりオーバードライブブレーキODが係止されて(S13)、バリエータ10が停止されて(S15)、無段変速機11はオーバードライブモード状態にされ、リターンする(S16)。
この高油温状態の制御におけるオーバードライブモード状態の走行中にあって、走行状態に特に変化がなければ、すでにオーバードライブブレーキODが係合中であるので係合変速点は検出せず(S5のNO)、また、オーバードライブ変速マップ142の高油温時マップ144に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づき解放変速点を判定しない場合、つまり図5に示す太破線の範囲内を出ない場合は(S7のNO)、オーバードライブブレーキODが係合中であるので(S9のYES)、オーバードライブブレーキODの係合(S13)とバリエータの停止制御(S15)を維持しつつリターンし(S16)、高油温時のオーバードライブモード状態としての制御を繰り返す(S1,S2,S3,S5,S7,S9,S13,S15,S16)。
また、この高油温状態の制御におけるオーバードライブモード状態の走行中にあって、オーバードライブ変速マップ142の高油温時マップ144に基づき、無段・非無段モード切換手段102が車速V及びアクセル開度θdに基づいて解放変速点を判定した場合、つまり図5に示す太破線の範囲を出た場合は(S7のYES)、ハイモード状態に移行する。このハイモード状態への移行は、通常状態と同様にバリエータ10の回転同期制御(S10)によりバリエータ10を制御して、オーバードライブブレーキODの解放が行われ(S12)、無段変速機11はハイモード状態にされる。そして変速制御手段100がハイモード状態における通常のバリエータ10の制御を行って(S14)、リターンし(S16)、再度上述した高油温時のハイモード状態としての制御を繰り返す。
以上のように高油温状態の制御が行われることで、圧倒的に使用時間の長いハイモードにおいて、オーバードライブモードが選択される比率が上昇し、特にバリエータ10の油温が所定温度以上となる場合やバリエータ10の油温が上昇して所定温度以上になることが懸念されるような場合に、バリエータ10を迂回した伝達経路で変速出力される状態の比率が上昇し、つまりバリエータ10を使用する比率を低減されると共に、バリエータ10の油温上昇も抑制される。
そして、上述の高油温状態の制御が行われた後、例えばバリエータ10の油温が低下すると、上記高温状態検出手段130によってバリエータ10の油温が高温状態となることが検出されなくなり、それによって高温時変速制御変更手段110が無段・非無段モード切換手段102に指令し、該無段・非無段モード切換手段102が参照するオーバードライブ変速マップ142を高油温時マップ144から通常時マップ143に切換える。これによって、高油温状態の制御から上述した通常状態の制御に戻される。
以上説明した本発明に係る無段変速機の変速制御装置2001によると、高温状態検出手段130によりバリエータ10の油温が高温状態となることが検出された際に、バリエータ10の油温が高温状態となることが検出されない場合(つまり通常状態)に比して、オーバードライブモードを選択する比率を上昇させるので、バリエータ10の油温が高温状態となる場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができて耐久性を向上させることができ、また、バリエータ10の油温が上昇することも抑制することができる。
また、非無段モード走行可能状態検出手段120によりオーバードライブモードによる走行状態が可能であることが検出された状態で、かつ高温状態検出手段130によりバリエータ10の油温が高温状態となることとが検出された際に、バリエータ10の油温が高温状態となることが検出されない場合に比して、オーバードライブモードを選択する比率を上昇させるので、走行状態に影響を与えることなく、バリエータ10の油温が高温状態となる場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができる。
また、高温状態検出手段130は、バリエータ10の油温が所定温度以上であることを検出するので、バリエータ10の油温が高温状態の場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができ、耐久性を向上させることができる。
また、高温状態検出手段130は、油温上昇判定手段132によりバリエータ10の油温の上昇を、走行状態に基づいて判定するので、予めバリエータ10の油温が高温状態となることを予測して検出することができ、バリエータ10の油温が上昇することを抑制することができる。
また、油温上昇判定手段132は、所定車速以上が所定時間以上継続した走行状態に基づいて、バリエータ10の油温の上昇を判定するので、予めバリエータ10の油温が高温状態となることを予測して検出することができる。
また、オーバードライブ変速マップ142における通常時マップ143と高油温時マップ144との選択を変更指令することで、オーバードライブモードを選択する比率を上昇するように、変速制御手段100に指令することができるので、オーバードライブモードを選択する比率を上昇させることができる。
また、ローモード出力回転OutLとハイモード出力回転OutHとを選択的に切換えて出力軸3に出力するロー・ハイ切換機構40をロー・ハイ切換制御手段101により切換制御するので、ローモード状態とハイモード状態とを切換制御することができ、バリエータ10の変速比に比して大きな変速比を得ることができる。
また、非無段走行可能状態検出手段120は、ハイモード状態に切換制御されている際に、オーバードライブモードによる走行状態が可能であることを検出するので、使用時間の短いローモード状態ではなく、圧倒的に使用時間の長いハイモード状態でオーバードライブモードによる走行状態に制御することができる。また、特にバリエータ10を迂回する伝達経路が比較的高速段であるオーバードライブ段であるので、ローモード状態でのオーバードライブモードへの移行を防止することができ、例えばエンジンストップ等の防止を図ることができる。
また、バリエータ10を迂回する伝達経路を形成する要素がオーバードライブブレーキODであるので、比較的高速段であるオーバードライブ段で、バリエータ10を迂回する伝達経路を形成することができ、特に本無段変速機11及び無段変速機の変速制御装置2001は、比較的高速段で走行することを得意とする車輌に搭載されて好適である。
<第2の実施の形態>
つづいて第1の実施の形態を一部変更した第2の実施の形態について図6乃至図8に沿って説明する。図6は第2の実施の形態に係る無段変速機を示すスケルトン図で、(a)はローモード時の伝達経路を示す図、(b)はハイモード時の伝達経路を示す図、(c)は直結時の伝達経路を示す図、図7は第2の実施の形態に係る無段変速機の速度線図、図8は第2の実施の形態に係る無段変速機の制御を示すブロック図である。なお、図6(a)〜(c)において、太線部分はトルク伝達する伝達経路を示すものである。なお、本第2の実施の形態においては、一部の変更部分を除き、第1の実施の形態と同様な部分に、同符号を付して、その説明を省略する。
本第2の実施の形態に係る無断変速機(IVT)12は、図6に示すように、ミッションケース5内における一軸上にあって、入力側から出力側へ順に、入力軸2と、無段変速装置(バリエータ)10と、プラネタリギヤ機構70と、反転ギヤ機構80と、直結クラッチ(迂回路形成係合要素)DCと、ロー・ハイ切換機構60と、出力軸3とを備えて構成されている。
無段変速装置10は、図6(a)乃至(c)に示すように、フルトロイダル式無段変速装置からなり、入力軸2上に連結された入力ディスク11Aと、後述のフロントキャリヤCを介して入力軸2に連結された入力ディスク11Bと、中空軸(スリーブ軸)16に連結された出力ディスク12と、2個の入力ディスク11A,11B及び1個の出力ディスク12の間に挟持されるパワーローラ14A,14Bと、を有する。入力ディスク11A,11B及び出力ディスク12は、それぞれ対向するように円形の一部を形成する円弧状の凹溝11a,12aを有しており、2列のパワーローラを挟んでダブルキャビティ13A,13Bを構成して、入力ディスク同士のスラスト力を打消す構成からなる。
パワーローラ14A,14Bは、環状のダブルキャビティ13A,13Bにおける周方向の略々均等な位置に複数個(例えば1つのキャビティに3個)配置されており、不図示の球面軸受、レバー等からなるリンク機構を油圧制御により押圧駆動される。また、入力ディスク11A,11Bは、例えばL字状のブロックと該ブロック上に設置された油圧ピストンとにより閉ループ的に押圧され、パワーローラ14A,14Bを挟持すると共に、その挟持圧が油圧により制御される。そして、上記リンク機構の押圧制御を入力ディスク11A,11Bの挟持圧とにより、パワーローラ14A,14Bが自律的に傾斜することで、入力ディスク11A,11Bと出力ディスク12との接触半径が変更されて、無段に連続して変速する。なお、本バリエータ10にあっては、入力ディスク11A,11Bに対して出力ディスク12が反転するので、速度比は−(マイナス)になる。
プラネタリギヤ機構70は、2個のピニオンP1,P2(第1のピニオン、第2のピニオン)と、該ピニオンP1,P2にそれぞれ噛合するピニオンP3(第3のピニオン)と、を有する第1のキャリヤC1(C2)と、ピニオンP1に噛合する第1のサンギヤS1と、ピニオンP2に噛合する第2のサンギヤS2と、ピニオンP3に噛合する第1のリングギヤR2とを有している。これらピニオンP1,P2と、ピニオンP3とを軸支する第1のキャリヤC1は、入力軸2に連結されており、更に、後側の入力ディスク11Bに連結されている。つまり入力ディスク11A,11B、第1のキャリヤC1には、エンジン(不図示)等の回転がそのまま伝達される。上記第1のリングギヤR2は、ロー・ハイ切換機構60のロークラッチLを介して第2のキャリヤC3に接続されている。なお、本無段変速機1は、上述の第1の実施の形態と同様にギヤニュートラル状態を得ることができるので、トルクコンバータ等を設ける必要はなく、入力軸2に直接エンジン等を接続することができる。
上記第1のサンギヤS1は、上記中空軸16を介して出力ディスク12に接続されており、入力軸2の回転がバリエータ10により無段変速されたバリエータ出力回転Voutが伝達される。上記第2のサンギヤS2は、上記反転ギヤ機構80の第3のサンギヤS3に接続される。
なお、本無段変速機12においては、第1、第2、及び第3のピニオンP1,P2,P3の歯数をZP1,ZP2,ZP3、第1及び第2のサンギヤS1,S2の歯数をZS1,ZS2としたときの歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP1/ZP3)×(ZP3/ZP2)×(ZP2/ZS2)を1以上として、ハイモード時の出力回転OutH(即ち第2のキャリヤC3の回転)とバリエータ出力回転Vout(即ち第1のサンギヤS1の回転)とが異なるように構成され、バリエータ出力回転Voutが反転増速されて出力回転OutHとなるが(図7参照)、反対にバリエータ出力回転が減速されて出力回転となるように構成してもよく、更には、上記歯数比(ZS1/ZP1)×(ZP1/ZP3)×(ZP3/ZP2)×(ZP2/ZS2)を同じに構成し、出力回転とバリエータ出力回転とが同じになるようにしてもよい。
反転ギヤ機構80は、第2のリングギヤR3と、互いに噛合する2個のピニオン(第4及び第5のピニオンP4,P5)を軸支する第2のキャリヤC3と、第3のサンギヤS3とを有するダブルピニオンプラネタリギヤからなる。該第3のサンギヤS3は、第2のサンギヤS2と接続されており、また、該第2のリングギヤR3とミッションケース5との間には、ロー・ハイ切換機構60のハイブレーキHが配設されており、該ハイブレーキHにより第2のリングギヤR3の回転を固定自在としている。そして、該第2のキャリヤC3は、第2のリングギヤR3に噛合する第4のピニオンP4と、第3のサンギヤS3に噛合する第5のピニオンP5とを軸支しており、上記ロー・ハイ切換機構60のロークラッチLを介して上記第1のリングギヤR2に接続されていると共に、出力軸3に接続されている。
上記直結クラッチDCは、入力軸2と出力軸3との間に介在するように配設されており、つまり入力軸2と出力軸3との回転を直結し得るようになっている。
ついで、上記無段変速機12の作用について図6及び図7に沿って説明する。
例えば無段変速機12を搭載した車輌の発進時又は後進時においては、ロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ変速マップ141に基づきロー・ハイ切換機構60を制御し、無段・非無段モード切換手段102が直結変速マップ145に基づき直結クラッチDCを制御して、ハイブレーキH及び直結クラッチDCが解放されると共にロークラッチLが係合され、無段変速機12はローモード状態にされる。すると、図6(a)及び図7に示すように、エンジン出力軸に連結している入力軸2の回転が、バリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びプラネタリギヤ機構70の第1のキャリヤC1に伝達される。このうち入力ディスク11A,11Bに入力された入力軸2の回転はバリエータ10で変速され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。
第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、プラネタリギヤ機構70において、入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとがトルク循環により合成され、ギヤ比に基づき、バリエータ出力回転Voutよりも減速回転として第1のリングギヤR2より出力される。この第1のリングギヤR2(第2のキャリヤC3)の出力回転は、バリエータ10の変速比の幅に応じて、減速の逆転回転からニュートラル位置(GNポイント)を介して減速の正転回転までの幅に変速された出力回転となる。そして、この第1のリングギヤR2の出力回転OutLは、ローモード状態の出力回転としてロークラッチL及び第2のキャリヤC3を介して出力軸3に出力される。
以上のような伝達経路を形成するローモード時においては、バリエータ出力回転Vout(バリエータ10の変速比)が、図7中の一点鎖線で示すギヤニュートラル状態GNである際に、第2のキャリヤC3(第1のリングギヤR2)の回転がニュートラル状態となる。つまりローモード時の出力回転OutLがニュートラル状態となる。上述したように、この状態においては、エンジン回転数(入力軸2の回転)と出力軸3の回転とが無関係となるので、例えば走行レンジに切換える際にバリエータ10の変速比をギヤニュートラル状態GNに合せた後にロークラッチLを係合することで、回転数差を吸収することが不要であり、トルクコンバータ等の回転数差を吸収する装置を設ける必要がない。
ここで、例えば不図示のシフトレバーがリバース(R)レンジであって、このギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を大きくしていくと(図7中のバリエータ出力回転Voutを下方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、反転回転側に増速していき、つまり後進側に増速されていく。
また反対に、例えば不図示のシフトレバーがドライブ(D)レンジであって、ギヤニュートラル状態GNより例えば車速やアクセル開度に応じてバリエータ10の変速比を小さくしていくと(図7中のバリエータ出力回転Voutを上方側にシフトしていくと)、出力軸3の出力回転OutLは、正転回転側に増速していき、つまり前進側に増速されていく。
つづいて、上述のローモード状態で出力軸3の出力回転OutLが増速されていき(バリエータ10の変速比が小さくされていき)、例えば車速やアクセル開度に応じてロー・ハイ変速マップ141に基づきハイモードへの変速判断がなされると、ロー・ハイ切換制御手段101がロー・ハイ切換機構60を制御し、無段・非無段モード切換手段102が直結変速マップ145に基づき直結クラッチDCを制御して、ロークラッチL及び直結クラッチDCが解放されると共にハイブレーキHが係合され、無段変速機12はハイモード状態にされる。
すると、図6(b)及び図7に示すように、このハイモード状態においても同様に、入力軸2の回転がバリエータ10の入力ディスク11A,11B、及びプラネタリギヤ機構70の第1のキャリヤC1に伝達され、出力ディスク12よりバリエータ出力回転Voutが出力されて、第1のサンギヤS1に入力される。第1のサンギヤS1にバリエータ出力回転Voutが入力されると、プラネタリギヤ機構70において、入力軸2の回転とバリエータ出力回転Voutとがトルク循環により合成され、ギヤ比に基づき、バリエータ出力回転Voutより僅かな増速回転として第2のサンギヤS2から出力される。該第2のサンギヤS2より出力された増速回転は、第3のサンギヤS3に入力され、ハイブレーキHにより回転が固定されている第2のリングギヤR3を介して第2のキャリヤC3より反転回転として出力され、つまりハイモード状態の出力回転OutHとして、出力軸3に出力される。
ローモード・ハイモード変速点(シンクチェンジ)におけるローモード状態とハイモード状態との切換えにおいては、バリエータ10の変速比(バリエータ出力回転Vout)が最も小さくなる同じ変速比で切換えが行われるように各ギヤのギヤ比が設定されている。つまりローモード状態においては、バリエータ10の変速比が小さく変速されていくと出力回転OutLが増速され、ローモード・ハイモード変速点を境に、ハイモード状態においては、反対にバリエータ10の変速比が大きく変速されていくと出力回転OutHが増速されていく。
なお、上記ローモード時においては、第2のサンギヤS2の出力回転が第3のサンギヤS3に入力されるため、第5のピニオンP5及び第4のピニオンP4が回転されるが、ハイクラッチHが解放されているので、第2のリングギヤR3が空転する。そのため、反転ギヤ機構80の各ギヤにおいて、トルク伝達は行われない。
また、上記ハイモード時においては、第1のキャリヤC1の入力回転と第1のサンギヤS1のバリエータ出力回転Voutに基づき第1のリングギヤR2がローモード時の出力回転OutLで回転するが、ロークラッチLが解放されているので、第1のリングギヤR2は空転状態となる。
ついで、例えば上述のハイモード状態で例えば車速やアクセル開度に応じて無段・非無段モード切換手段102が直結変速マップ145に基づき直結モードを判断すると、変速制御手段100がバリエータ10、ロー・ハイ切換機構60、及び直結クラッチDCを制御して、ロークラッチLの解放とハイクラッチHの係合とが維持されつつ、バリエータ10の変速比が直結段と同じ変速比に制御されると共に直結クラッチDCが係止されて、無段変速機12は直結状態にされる。
すると、図6(c)及び図7に示すように、入力軸2の回転が、直結クラッチDCの係止により出力軸3にそのまま伝達される、いわゆる直結段を形成し、直結状態としての出力回転OutDCが出力される。
なお、上記直結状態においては、入力ディスク11A,11Bに入力軸2の回転が入力されるが、バリエータ10を挟持せずにパワーローラ14A,14Bを押圧しないため、パワーローラ14A,14Bが空転状態とされる。
また、第1のキャリヤC1の回転が第1のピニオンP1を介して第1のサンギヤS1及び出力ディスク12に入力され、第2のピニオンP2を介して第2のサンギヤS2に入力され、第3のピニオンP3を介して第1のリングギヤR2に入力され、連れ回るが、空転状態とされる。更に、第2のキャリヤC3にも入力軸2の回転が入力されるが、ロークラッチLが解放されているため、空転状態とされる。そのため、バリエータ10、プラネタリギヤ機構70及び反転ギヤ機構80においては、トルク伝達は行われない。
本第2の実施の形態に係る無段変速機の変速制御装置2002は、図8に示すように、上記第1の実施の形態に係る無段変速機の変速制御装置2001の構成に比して、オーバードライブブレーキODを直結クラッチDCに変更し、オーバードライブ変速マップ142の通常時マップ143及び高油温時マップ144を直結変速マップ145の通常時マップ(モード切換マップ)146及び高油温時マップ(モード切換マップ)147にそれぞれ変更した構成となっている。
なお、この通常時マップ146及び高油温時マップ147は、上記第1の実施の形態における通常時マップ143及び高油温時マップ144に比して、オーバードライブ段でなく直結段となるために、図5に示す係合・解放の範囲が図中左方側に僅かにずれた位置の範囲となる。
なお、第2の実施の形態に係る無段変速機の変速制御装置2002において、これ以外の構成及び作用は、第1の実施の形態に係る無段変速機の変速制御装置2001と同様であるので、その説明を省略する。
以上のように本発明に係る無段変速機の変速制御装置2002によると、高温状態検出手段130によりバリエータ10の油温が高温状態となることが検出された際に、バリエータ10の油温が高温状態となることが検出されない場合(つまり通常状態)に比して、直結モードを選択する比率を上昇させるので、バリエータ10の油温が高温状態となる場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができて耐久性を向上させることができ、また、バリエータ10の油温が上昇することも抑制することができる。
また、非無段モード走行可能状態検出手段120により直結モードによる走行状態が可能であることが検出された状態で、かつ高温状態検出手段130によりバリエータ10の油温が高温状態となることとが検出された際に、バリエータ10の油温が高温状態となることが検出されない場合に比して、直結モードを選択する比率を上昇させるので、走行状態に影響を与えることなく、バリエータ10の油温が高温状態となる場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができる。
また、高温状態検出手段130は、バリエータ10の油温が所定温度以上であることを検出するので、バリエータ10の油温が高温状態の場合にバリエータ10を使用する比率を低減させることができ、耐久性を向上させることができる。
また、高温状態検出手段130は、油温上昇判定手段132によりバリエータ10の油温の上昇を、走行状態に基づいて判定するので、予めバリエータ10の油温が高温状態となることを予測して検出することができ、バリエータ10の油温が上昇することを抑制することができる。
また、油温上昇判定手段132は、所定車速以上が所定時間以上継続した走行状態に基づいて、バリエータ10の油温の上昇を判定するので、予めバリエータ10の油温が高温状態となることを予測して検出することができる。
また、直結変速マップ145における通常時マップ146と高油温時マップ147との選択を変更指令することで、直結モードを選択する比率を上昇するように、変速制御手段100に指令することができるので、直結モードを選択する比率を上昇させることができる。
また、ローモード出力回転OutLとハイモード出力回転OutHとを選択的に切換えて出力軸3に出力するロー・ハイ切換機構40をロー・ハイ切換制御手段101により切換制御するので、ローモード状態とハイモード状態とを切換制御することができ、バリエータ10の変速比に比して大きな変速比を得ることができる。
また、非無段走行可能状態検出手段120は、ハイモード状態に切換制御されている際に、直結モードによる走行状態が可能であることを検出するので、使用時間の短いローモード状態ではなく、圧倒的に使用時間の長いハイモード状態で直結モードによる走行状態に制御することができる。また、特にバリエータ10を迂回する伝達経路が比較的中高速段である直結段であるので、ローモード状態での直結モードへの移行を防止することができ、例えばエンジンストップ等の防止を図ることができる。
また、バリエータ10を迂回する伝達経路を形成する要素が直結クラッチであるので、比較的中高速段である直結段で、バリエータ10を迂回する伝達経路を形成することができ、特に本無段変速機12及び無段変速機の変速制御装置2002は、比較的中高速段で走行することを得意とする車輌に搭載されて好適である。
なお、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、無段変速装置としてフルトロイダル式無段変速装置を用いたものを一例に説明したが、勿論、ハーフトロイダル式無段変速装置を用いても構わない。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、バリエータを迂回する伝達経路形成する無段変速機の構成の例として、オーバードライブ段を形成するものと直結段を形成するものを説明したが、これらに限らず、バリエータとバリエータを迂回する伝達経路とを備えたものであれば、どのように構成された無段変速機であっても本発明を適用し得る。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、ハイモード状態においてオーバードライブ変速マップ又は直結変速マップにおける高油温時マップの係合(解放)範囲に基づきバリエータを迂回する比率が決定されることになるが、この比率(範囲)はどのように設定してもよく、特にハイモードの際は全部オーバードライブ又は直結にしてしまうように設定してもよい。この際は、車速が上昇してもハイモード状態とされず、変速比が大きくならないため、車輌の最高速等がバリエータ保護のために規制されることになる。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、オーバードライブ変速マップ又は直結変速マップに通常時マップと高油温時マップとの2種類を用意して備えたものを説明したが、これに限らず、バリエータの油温の段階に応じた複数のマップを段階的に用意して備えてもよいことはいうまでもない。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、高負荷を判定する条件に、出力軸回転数とアクセル開度と継続時間とを用いるものであったが、例えば外気温センサや車輌の傾斜センサを設けて外気温や登坂角度等を条件にしたり、エンジンからのトルク出力信号を入力して無段変速機に入力されるトルクの大きさを条件にしたりすることも可能であり、これらに限らず、これ以外にもバリエータの油温が上昇する条件(高負荷となる条件)が判定できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、バリエータの油温を検出するものとして油温センサ91を用いたものを説明したが、これに限らず、例えばバリエータの油温は直接的に検出せずに入力ディスクや出力ディスクの温度を検出してバリエータの油温を間接的に検出してもよく、これらに限らず、バリエータの油温を検出できるものであれば、どのようなものを用いてもよい。
また、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、非無段モード走行可能状態検出手段120によってハイモード状態である際に非無段モード状態(オーバードライブモード、直結モード)の走行が可能であることを検出し、それを受けてバリエータ10の油温が高温状態となる際に高温時変速制御変更手段110が非無段モードを選択する比率を上昇するものを説明したが、例えば車速等に応じて非無段モード状態の走行が可能であることを検出してもよく、つまり非無段モード状態の走行が可能であることを検出できるものであれば、どのような検出を行ってもよい。
更に、以上説明した第1及び第2の実施の形態においては、非無段モード走行可能状態検出手段120によって非無段モード状態の走行が可能であることを検出した際に、バリエータ10の油温が高温状態となる際に高温時変速制御変更手段110が非無段モードを選択する比率を上昇するものを説明したが、特に非無段モード状態の走行が可能であること検出せずに、高温時変速制御変更手段110が非無段モードを選択する比率を上昇するように構成してもよい。このようなものとして、非無段モードが低速域から高速域に対応する変速段(複数の変速段も含む)であるものや、例えばモータ走行可能な車輌やエンジン性能が優れている車輌にあって、非無段モードがどのような走行状態であっても可能であるもの等が考えられる。