以下、本発明の実施の形態につき詳細に説明するが、本発明は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変形を加えて実施することができる。
〔I.トリアリールアミン化合物の製造方法〕
本発明のトリアリールアミン化合物の製造方法(以下適宜「本発明の製造方法」と略称する。)は、下記一般式(1)で示されるアリールアミン化合物と、ハロゲン化アリール化合物とを、水素化物の存在下、又は、金属アルコキシド及び還元剤の共存下で反応させるものである。
<原料アリールアミン化合物>
本発明において原料として用いるアリールアミン化合物(本明細書ではこれを「原料アリールアミン化合物」という場合がある。)は、下記一般式(1)で示されるアリールアミン化合物である。
一般式(1)において、Ar1及びAr2は各々独立に、電子給与性の置換基を有しても良いアリール基を表わす。また、aは、1又は2の整数を表わす。
Ar1、Ar2として用いるアリール基の種類に特に制限はない。例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペリレニル基、ピレニル基、ターフェニル基等が挙げられるが、電気特性的には、フェニル基が好ましい。
Ar1、Ar2のアリール基に置換しても良い電子給与性の置換基としては、Hammett関係式におけるσp値が0.00以下の置換基、又は、σm値が0.30以下の置換基等が挙げられる。これ以上の値を示す置換基を有するアリールアミン化合物は、一般的にはアミンが活性化され、トリアリールアミン化合物が生成する反応が進行し易いとされる。しかし、このような置換基を有するアリールアミン化合物から誘導されるトリアリールアミン化合物は、イオン化ポテンシャルが大きくなり、電子材料、特に正孔輸送材料として実用化するのは困難である。電子材料に有用なトリアリールアミン化合物を製造するという本発明の趣旨に鑑みると、Ar1、Ar2のアリール基は、上記規定の範囲内の値を示す置換基を有するか、或いは置換基を有さないことが望まれる。
Ar
1、Ar
2のアリール基が有していても良い電子給与性の置換基の好ましい具体例を下の表1に挙げる。なお、ここに挙げるσ
m値、σ
p値は、実験化学講座14号、2608頁(元文献:Advance in Linear Free Energy Relationship、1972年、p.28〜32)より抜粋した。
中でも、Ar1、Ar2のアリール基が有していても良い電子給与性の置換基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルキニル基、アルキルアリール基などの炭化水素基が好ましい。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ペリレニル基、ピレニル基などが挙げられる。
アルキル基としては、鎖状アルキル基と環状アルキル基が挙げられるが、何れであっても良い。鎖状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、i−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基)、ペンチル基(n−ペンチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基等)、2−エチルヘキシル基等が挙げられる。環状アルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられる。また、これらの鎖状アルキル基と環状アルキル基が結合したものであっても良い。
アルケニル基、アルキニル基の例としては、上記例示のアルキル基において、炭化水素鎖上の1又は2以上の炭素−炭素結合を二重結合又は三重結合として得られる基が挙げられる。具体的には、ビニル基(エテニル基)、プロペニル基(1−プロペニル基、2−プロペニル基)などが挙げられる。
アリールアルキル基、アリールアルキニル基の例としては、上記例示のアルキル基、アルキニル基が上記例示の1又は2以上のアリール基によって置換された基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基などが挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、上記例示のアリール基が上記例示の1又は2以上のアルキル基によって置換された基が挙げられる。具体的には、トリル基(o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基)、キシリル基(3,4−キシリル基等)などが挙げられる。
なお、これらの炭化水素基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、更に置換基を有していても良い。置換基の種類は、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば特に制限されないが、例としてはヒドロキシル基;アミノ基;複素環基(含硫黄複素環基、含酸素複素環基、含窒素複素環基等);アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;置換シリル基(トリメチルシリル基等);置換アミノ基などが挙げられる。
これらの炭化水素基の中でも、Ar1、Ar2のアリール基の置換基としては、無置換又は置換のアルキル基が好ましい。アルキル基の中では、電気特性の点から、メチル基が最も好ましい。
一方、Ar
1、Ar
2のアリール基の置換基の好ましくない具体例としては、下の表2に示すものが挙げられる(引用同上)。
なお、Hammett則は通常、反応点のp置換、m置換の置換基に対して適用されるものであるが、本明細書では置換基の性質を記述するものとして引用した。
Ar1、Ar2のアリール基が有する置換基の数は特に制限されないが、通常0〜4、好ましくは0〜2の範囲である。また、Ar1、Ar2のアリール基が置換基を介して、又は直接、互いに結合して環構造を形成しても構わない。
Ar1、Ar2の炭素数は、通常6以上、また、通常16以下、好ましくは10以下の範囲である。Ar1、Ar2のアリール基が上述の置換基を有する場合には、その置換基を含めた置換アリール基全体の炭素数が、上記規定の範囲内となることが好ましい。
<ハロゲン化アリール化合物>
本発明において原料として用いるハロゲン化アリール化合物の種類は特に制限されないが、通常は、アリール基にハロゲン原子が結合した化合物である。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ターフェニル基、ピレニル基等が挙げられるが、電気特性的には、フェニル基が好ましい。
これらのアリール基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、更に置換基を有していても良い。置換基の種類は、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば特に制限されないが、例としては、炭化水素基(アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルキル基、アリールアルキニル基、アルキルアリール基等);ヒドロキシル基;アミノ基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;複素環基(含硫黄複素環基、含酸素複素環基、含窒素複素環基等);アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;置換シリル基(トリメチルシリル基等);置換アミノ基などが挙げられる。アリール基が有する置換基の数は、通常0〜4、中でも0〜2の範囲が好ましい。複数の置換基を有する場合は、これらが互いに連結基を介して、又は直接結合して環構造を作成しても構わない。
アリール基の炭素数は、通常6以上、また、通常16以下、好ましくは10以下の範囲である。アリール基が上述の置換基を有する場合には、その置換基を含めた置換アリール基全体の炭素数が、上記規定の範囲内となることが好ましい。
ハロゲン原子の種類は特に制限されない。例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。中でも、臭素原子又はヨウ素原子が好ましく、特に臭素原子が好ましい。
ハロゲン化アリール化合物1分子当たりのハロゲン原子数は特に制限されず、1でも2以上でも良いが、得られるトリアリールアミン化合物の電子材料としての実用性の面からは、1又は2が好ましい。分子当たりのハロゲン原子数が2以上の場合、複数のハロゲン原子は同一であっても良く、互いに異なっていても良いが、化合物の製造の容易さの観点からは、同一であることが好ましい。
但し、以上はあくまでも例示であって、反応に使用するハロゲン化アリール化合物は、製造するトリアリールアミン化合物及び併用する原料アリールアミン化合物の構造を考慮して、適切なものを適宜選択すればよい。
<原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物との関係>
原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物の組み合わせは特に限定されるものではなく、所望のトリアリールアミン化合物の構造に応じて適切な組み合わせを選択すれば良い。好ましい組み合わせの例としては、ジアリールアミン化合物とアリールモノハライドとの組み合わせ、ジアリールアミン化合物とアリールジハライドとの組み合わせ、アリールアミン化合物とアリールモノハライドとの組み合わせ、(ジ)アルキルアミン化合物とアルキルハライドとの組み合わせなどが挙げられる。
また、原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物との使用比率は、原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物の構造や、目的とするトリアリールアミン化合物の構造に応じて、適切な当量比となるように選択する。具体的には、ハロゲン化アリール化合物のハロゲンの数(1分子中に含まれるハロゲン原子数に化合物のモル数を乗じて得られる値)が、原料アリールアミン化合物のN−H結合数(1分子中に含まれるN−H結合の数に化合物のモル数を乗じて得られる値)に対して、通常1倍以上、1.2倍以下の範囲となるように選択することが望ましい。原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物との使用割合が適切な当量比を満たさないと、過剰な原料が反応に関与せずに残ってしまい、コスト面や反応効率の面で好ましくない上に、意図しない副反応等が生じる場合もある。
<水素化物>
本発明に用いられる水素化物は任意であるが、共有結合性の水素化物は除かれる。共有結合性以外の水素化物であればその種類は特に制限されないが、例としては塩型水素化物、金属水素化物等が挙げられる。これらのうち、安定性においては塩型水素化物が好ましく、反応性においては金属水素化物が好ましい。中でも、アルカリ金属の水素化物、アルカリ土類金属の水素化物が好ましく、アルカリ金属の水素化物が特に好ましい。
具体的に、アルカリ金属の水素化物の例としては、水素化リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水素化セシウムなどが挙げられ、アルカリ土類金属の水素化物の例としては、水素化マグネシウム、水素化カルシウムなどが挙げられる。これらの中でも、本発明に用いる水素化物としては、水素化ナトリウム、水素化カリウムが好ましく、水素化ナトリウムが特に好ましい。
水素化物の使用量は、反応に使用する原料(原料アリールアミン化合物、ハロゲン化アリール化合物)や併用する金属触媒等の成分によっても異なり、特に制限するものではないが、一般的には、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モルに対し、通常0.1モル当量以上、中でも0.5モル当量以上、更には0.8モル当量以上、特に1モル当量以上、また、通常2モル当量以下、中でも1.6モル当量以下、更には1.3モル当量以下の範囲である。水素化物の使用量が少な過ぎると、反応が進行し難くなったり、副生成物が増えてトリアリールアミン化合物に着色が見られたりするおそれがある。一方、水素化物の使用量が多過ぎると、生産上非効率となる上に、副生成物が増えてトリアリールアミン化合物に着色が見られるおそれがある。
<金属アルコキシド>
本発明では上述の水素化物の他に、塩基として金属アルコキシドを併用することが好ましい。この場合、水素化物は金属アルコキシドの再生剤としても機能することになる。本反応において、金属アルコキシドは触媒サイクル過程中で発生するハロゲン化水素をトラップし、反応を進行させているものと思われる。このプロセスの進行において、該金属アルコキシドは、消費された後にアルコールとなる。発生したアルコールは、系中に存在する水素化物とすぐ反応して水素ガスを生成し、同時に金属アルコキシドを再生する。金属アルコキシドは比較的高価であるが、このように少量使用するだけで反応が進行する。
従って、金属アルコキシドを併用する場合、水素化物は通常、過剰量必要であり、使用する金属アルコキシドのモル数が、水素化物のモル数より大きいことが好ましい。例えば、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モルに対し、水素化物が1モル当量未満の場合、十分に金属アルコキシド塩基を再生できず、反応効率が低くなるため、最低でも1モル当量以上必要となる。逆に、2モル当量を超える場合、使用量に見合った効果が得られず、且つ水素化物を無害化するための後処理も大変になる。また、反応基質によって副反応を引き起こす場合もあり、収率の観点からも好ましくない。
金属アルコキシドとしては、アルカリ金属を含むものと、その他一般金属を含むものとが挙げられるが、アルカリ金属を含むものが好ましい。その例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムtert−ブトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドが好ましい。中でも、反応速度の向上という観点からは、ナトリウムtert−ブトキシド又はカリウムtert−ブトキシドがより好ましく、コスト面及び反応制御性の面からは、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
金属アルコキシドの使用量は、併用する水素化物の種類によって異なるが、アルカリ金属の水素化物を使用する場合であれば、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モル当量に対し、金属アルコキシドを通常0.01モル当量以上、中でも0.05モル当量以上、更には0.1モル当量以上、また、通常1.2モル当量以下、中でも0.8モル当量以下、更には0.5モル当量以下、特に0.3モル当量以下の範囲で使用することが好ましい。また、アルカリ土類金属の水素化物を使用する場合であれば、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モル当量に対し、金属アルコキシドを通常0.5モル当量以上、中でも0.8モル当量以上、また、通常1.5モル当量以下、中でも1.2モル当量以下の範囲で使用することが好ましい。金属アルコキシドの使用量が少な過ぎると、反応の進行が遅くなりがちで反応時間が長くなる傾向があり、また、金属アルコキシドの使用量が多過ぎると、収率を上昇させる効果が得られず、経済的に不利になる上に、生成物が着色し易くなる場合もあり、更には電気特性の観点からも好ましくない。
反応において発生した水素、特に発生期状態の水素は、反応系を還元雰囲気に維持するために役立っていると推測され、その結果、酸化的な副反応に起因する生成物の着色を最大限に抑えることが出来るものと考えられる。当然、本発明において使用している水素化物も、基本的に強力な還元剤であり、反応終点まで還元雰囲気を維持するのに役立っているものと推測される。
また、後述のようにPd錯体触媒を使用する場合には、反応中に系内でPdの還元が促進されている可能性も示唆される。通常、0価のPd錯体触媒(金属Pd以外)は、反応性が高い可能性がある反面、二価のPdに比べて安定性に懸念があることが多い。本発明では系内が反応終了点まで還元雰囲気であるため、Pd錯体触媒の安定性が維持されるものと推測される。
従って、総合的にみると、金属アルコキシドを併用する際は、金属アルコキシドのモル数(MOmol)を、水素化物のモル数(HOmol)よりも少ない量とすることが、経済的観点及び反応制御の観点から好ましい。この場合、反応終点まで水素化物が系中に存在することになり、還元雰囲気を保つことができる。具体的には、併用する水素化物にもよるが、例えば、アルカリ金属の水素化物を使用する場合、MOmol/HOmolの値は、通常0.01以上、中でも0.05以上、また、通常1未満、中でも0.5以下、更には0.3以下の範囲が好ましい。
<還元剤>
本発明においては、上述の水素化物を使用する代わりに、各種の還元剤を金属アルコキシドと併用しても良い。使用される還元剤の種類は特に制限されず、原料アリールアミン化合物やハロゲン化アリール化合物等と反応して副生成物を生じたりするおそれのないものであれば、任意のものを使用することができる。還元剤としては、前述のように併用する金属アルコキシドを再生する金属水素化物等の水素化物が挙げられるが、これ以外にも、系内を還元雰囲気に保つ一般的な還元剤を使用することができる。水素化物以外の還元剤の例としては、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸カリウム、亜硫酸水素ナトリウム、一酸化炭素、水素ガス等が挙げられるが、中でも亜硫酸塩が好ましい。
水素化物以外の還元剤を使用する場合、その使用量は、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モルに対し、通常0.01モル当量以上、中でも0.1モル当量以上、更には0.8モル当量以上、特に1モル当量以上、また、通常2モル当量以下、中でも1.6モル当量以下、更には1.3モル当量以下の範囲である。還元剤の使用量が少な過ぎると、得られたトリアリールアミン化合物を電子材料に用いた際の電気特性が悪化するおそれがある。一方、還元剤の使用量が多過ぎると、反応を阻害するおそれがある。
なお、水素化物以外の還元剤を使用する場合、金属アルコキシドを再生するのは困難となるので、金属アルコキシドの使用量を、ハロゲン化アリール化合物の環上のハロゲン原子1モルに対して1モル当量以上とすることが好ましい。
<触媒>
本発明において使用される触媒の種類は特に制限されず、反応を促進する触媒であればどのようなものでも構わないが、通常は金属触媒が用いられる。金属触媒の例としては、パラジウム化合物、銅化合物、ニッケル化合物等の金属化合物が挙げられる。これらの中でもパラジウム化合物、銅化合物が好ましく、反応性の点ではパラジウム化合物が特に好ましい。
パラジウム化合物としては、特に限定するものではないが、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物等の四価パラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)等の二価パラジウム化合物類;トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等のパラジウム化合物類などが挙げられる。これらの中でも、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)が好ましく、電気特性を鑑みた場合、酢酸パラジウム(II)が特に好ましい。
銅化合物としては、同様に、塩化銅(I)、塩化銅(II)、臭化銅(I)、沃化銅(I)等が挙げられる。これらの中でも、反応性の点では沃化銅が好ましく、汎用性の点では塩化銅が好ましい。
これらの金属触媒は、反応促進のため、配位子を有することが好ましい。配位子の例としては、ホスフィン化合物由来の配位子、含窒素化合物由来の配位子等が挙げられるが、ホスフィン化合物由来の配位子(以下適宜「ホスフィン配位子」と略称する。)が好ましい。配位子として用いられるホスフィン化合物の種類は特に制限されないが、通常は三級ホスフィン化合物が用いられる。
三級ホスフィン化合物において、リン原子に結合する有機基の例としては、アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、複素環基(含硫黄複素環基、含酸素複素環基、含窒素複素環基等)、縮合多環基、アルコキシ基、アリールオキシ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;カルボン酸エステル基;スルホン酸エステル基;置換シリル基(トリメチルシリル基等);置換アミノ基;アミド基等が挙げられる。有機基の炭素数は通常1以上、また、通常22以下、好ましくは12以下の範囲である。中でも、有機基としては、アリール基又はアルキル基が好ましい。アリール基及びアルキル基の具体例としては、原料アリールアミン化合物について先に例示したものと同様の基が挙げられる。
三級ホスフィン化合物において、リン原子に結合する3つの有機基は、同じであっても良く、互いに異なるものであっても良いが、製造上の容易さの観点から、同じであることが好ましい。即ち、三級ホスフィン化合物としては、トリアリールホスフィン又はトリアルキルホスフィンが好ましい。
これらのうち、生成するトリアリールアミン化合物の電子材料としての性能、例えば電子写真感光体として用いた場合の電気特性を勘案すると、トリアリールホスフィンが好ましい。トリアリールホスフィンの具体例としては、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン等が挙げられる。中でも、工業的に大量に製造可能で安価であるという点から、トリフェニルホスフィンが好ましい。
一方、トリアルキルホスフィンは、反応速度を向上させる観点からは好ましいが、まれに生成されるトリアリールアミン化合物の電子材料としての電気特性に悪影響を及ぼすことがある。好ましいトリアルキルホスフィンの具体例としては、トリ−n−ブチルホスフィン、トリ−t−ブチルホスフィン、トリシクロヘキシルホスフィン等が挙げられる。中でも、電気特性や取扱いの点では、トリシクロヘキシルホスフィンが好ましく、反応性の点では、トリ−n−ブチルホスフィンが好ましい。
触媒の調製は、個々の触媒成分(金属触媒、配位子)を予め混合して前準備しておいても良いが、それぞれ別個に反応系に直接加えても良い。
金属触媒の使用量は、金属種によって異なる。
パラジウム触媒を使用する場合であれば、芳香族ハロゲン化物のハロゲン1モル当量に対し、その使用量は金属単体換算で通常0.00001モル%以上、中でも0.00005モル%以上、更には0.0001モル%以上、また、通常5モル%以下、中でも1モル%以下、更には0.1モル%以下、特に0.01モル%以下の範囲である。特に反応溶液が100Lを越えるスケールでは、安全性の点からみて0.001モル%以下に抑えることが好ましい。パラジウム触媒の使用量が少な過ぎると、使用による効果が顕著に現れず、反応速度が遅くなりかねない。一方、パラジウム触媒の使用量が多過ぎると、使用量に見合って反応性、収率が向上するわけでもなく、経済的に不利になり、却って精製負荷が大きくなるために好ましくない。
また、銅触媒を使用する場合であれば、一般的にパラジウム触媒で挙げた最適値の10倍〜1000倍の触媒量を必要とする。
配位子化合物の使用量は、配位子の種類、安定性にもよるが、一座配位子の場合、金属触媒1モルに対して通常0.1モル以上、中でも0.5モル以上、更には1モル以上、特に1.5モル以上、また、通常6モル以下、中でも4モル以下、更には2.5モル以下の範囲が好ましい。
<溶媒>
原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物との反応は、通常は溶媒の存在下に実施される。反応用の溶媒としては、原料(原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物)を好適に溶解又は分散でき、且つこれらの原料や水素化物、触媒等の反応成分に対して不活性な有機溶媒であれば、任意の有機溶媒を使用することができる。
中でも、原料に対する溶解性の点からは、反応用溶媒として、芳香族系有機溶媒又はエーテル系有機溶媒を用いることが好ましく、芳香族系有機溶媒を用いるのがより好ましい。芳香族系有機溶媒の中では、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等のアルキル置換ベンゼン化合物や、テトラリン等の縮合環系芳香族化合物等が好ましい。一方、エーテル系有機溶媒としては、モノグライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン等が好ましい。
反応用溶媒を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、全原料(原料アリールアミン化合物及びハロゲン化アリール化合物)に対する重量比の値で、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、また、通常1000重量%以下、好ましくは500重量%以下の範囲である。反応用溶媒の割合が少な過ぎると、攪拌効率が低下したり、生成物が晶析してしまうおそれがあるので好ましくなく、逆に反応用溶媒の割合が多過ぎると、反応における触媒効率が低下するという理由からやはり好ましくない。
<合成反応>
反応を行なう手順は特に制限されないが、通常は反応容器中で、水素化物の存在下、又は、金属アルコキシド及び還元剤の共存下、原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物とを接触させて反応させればよい。
個々の成分を加える順序は特に制限されない。例えば、原料アリールアミン化合物とハロゲン化アリール化合物とを溶媒の存在下で混合して反応系溶液を作製し、この反応系溶液に予め調製済みの触媒又は個々の触媒成分(金属化合物、配位化合物等)を加えて反応を開始させればよい。更に、任意の段階において、水素化物、又は、金属アルコキシド及び還元剤を、反応系溶液に加えればよい。
また、合成反応時には、反応を効率的に進める観点から、系中に発生するアルコール等を系外に早期に、強制的に排出することも有効である。排出を行なうには窒素フローを用いると有効である。合成反応を窒素フロー(窒素流通)下で行なう場合、その窒素流通量は、反応容器の体積に対して、1分当たり通常0.0001%以上、好ましくは0.001%以上、また、通常5%以下、好ましくは3%以下の範囲である。利用する窒素は高純度のものが好ましいが、安価製造の為には、液体窒素から発生する窒素を利用しても構わない。
反応時の温度は特に制限されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、また、通常200℃以下、好ましくは160℃以下の範囲である。反応時の温度が低過ぎると、反応の進行が遅くなるという理由から好ましくなく、逆に反応時の温度が高過ぎると、反応の制御が困難になる上、着色生成物が副生するおそれがあるという理由からやはり好ましくない。
反応時の圧力も特に制限されないが、通常1×104Pa以上、好ましくは5×104Pa以上、また、通常1×107Pa以下、好ましくは1×106Pa以下の範囲である。反応時の圧力が低過ぎると、反応が進行し難いという理由から好ましくなく、逆に反応時の温度が高過ぎると、着色生成物が副生し易いという理由からやはり好ましくない。
反応時間は特に制限されないが、反応が終点に達するまで(即ち、ほぼ全ての原料が反応して、残存する原料が実質的に無くなるまで)行えばよい。反応が終点に達したか否かは、高速液体クロマトグラフィー等の手法により確認することができる。反応が終点に達するまでの時間は、使用する原料や触媒成分の種類や量、反応温度や反応圧力等によって異なるため、一概に言うことはできないが、反応が終点に、通常2時間以上、好ましくは3時間以上、また、通常10時間以下、好ましくは8時間以下の範囲である。
反応終了後、必要に応じて反応系溶液に後処理を行なう。例えば、反応系溶液に塩基を加えている場合には、精製水を用いて溶媒分画することにより塩基成分を抽出し、反応系容液を中和するのが好ましい。
反応後(及び後処理後)の反応系溶液から溶媒を除去することにより、粗生成物を得る。溶媒を除去する手法は特に制限されないが、常温又は加熱条件下、また、常圧又は減圧条件下で、必要に応じて反応系溶液に攪拌を加えながら、溶媒を蒸発させればよい。
得られた粗生成物を、濾過やフラッシュカラムクロマトグラフィー等の手法で精製することにより、目的とするアミン化合物を得ることができる。
<トリアリールアミン化合物>
本発明の製造方法によって得られるトリアリールアミン化合物の種類は特に制限されず、使用する原料アリールアミン化合物及びハロゲン化アリール化合物の種類を適切に選択することによって、任意のトリアリールアミン化合物を得ることが可能である。中でも、本発明の効果が顕著に現れるトリアリールアミン化合物としては、下記の一般式(1)又は一般式(2)で表わされる構造のものが挙げられる。
一般式(1)及び一般式(2)中、A〜Iで表わされる環は、それぞれ独立して、置換基を有しても良いベンゼン環を表わす。個々のベンゼン環が有していても良い置換基の種類は特に制限されないが、例としては、原料アリールアミン化合物の説明において例示した各種の置換基が挙げられる。中でも、炭化水素基が好ましい。炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基等が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1以上、また、通常16以下、好ましくは10以下の範囲である。
これらの置換基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、更に他の有機基により置換されていても構わない。この有機基の例としては、例としては、原料アリールアミン化合物の説明において例示した各種の置換基が挙げられる。
個々のベンゼン環が有する置換基の数は、通常0〜4、中でも0〜2の範囲が好ましい。複数の置換基を有する場合は、これらが互いに連結基を介して、又は直接結合して環構造を作成しても構わない。
なお、副反応生成物を鑑みた場合、本発明の効果は特に一般式(2)のトリアリールアミン化合物を製造する際により発揮される。
以下に、本発明の製造方法によって製造され、電子材料用途に用いられるトリアリールアミン化合物の具体例を示すが、本発明の製造方法によって製造されるトリアリールアミン化合物は、これらの例に限定されるものではない。なお、以下の反応式中、「Me」はメチル基を表わす。
これらの中でも、本発明の効果が特に顕著に現れる例としては、ジフェニルベンジジン構造を有するもの(上記の例示化合物(CT−1)(CT−5)等)や、トリフェニルアミン構造を有するもの(上記の例示化合物(CT−8)(CT−9)等)などが挙げられる。
本発明の製造方法により得られたトリアリールアミン化合物(以下、適宜「本発明のトリアリールアミン化合物」と略称する。)は、各種の電気特性に優れている。これは、トリアリールアミン化合物の電気特性に影響を及ぼす不純物の含有率が低いためであると考えられる。よって、煩雑な分離・精製の作業を行なわなくとも、そのまま或いは簡単な精製操作を加えただけで、各種の電子材料として使用することができる。中でも、電荷輸送材料として、電子写真感光体の感光層などに好適に用いることが可能である。
以下、本発明のトリアリールアミン化合物を用いた電子写真感光体及び画像形成装置の詳細について説明する。
[II.電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層が設けられたものであって、上に説明した本発明のトリアリールアミン化合物を、電荷輸送材料として感光層中に含有するものである。
導電性支持体としては、例えばアルミニウム、アルミニウム合金、ステンレス鋼、銅、ニッケル等の金属材料や、金属、カーボン、酸化錫などの導電性粉体を添加して導電性を付与した樹脂材料や、アルミニウム、ニッケル、ITO(酸化インジウム酸化錫合金)等の導電性材料をその表面に蒸着又は塗布した樹脂、ガラス、紙などが主として使用される。形態としては、ドラム状、シート状、ベルト状などのものが用いられる。金属材料の導電性支持体の上に、導電性・表面性などの制御のためや欠陥被覆のため、適当な抵抗値を持つ導電性材料を塗布したものでも良い。
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化処理を施してから用いても良い。陽極酸化処理を施した場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。
例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより陽極酸化被膜が形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100〜300g/l、溶存アルミニウム濃度は2〜15g/l、液温は15〜30℃、電解電圧は10〜20V、電流密度は0.5〜2A/dm2の範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
このようにして形成された陽極酸化被膜に対して、封孔処理を行うことは好ましい。封孔処理は、公知の方法で行なえば良いが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、あるいは主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理を施すのが好ましい。
上記低温封孔処理の場合に使用されるフッ化ニッケル水溶液濃度は、適宜選べるが、3〜6g/lの範囲で使用された場合、より好ましい結果が得られる。また、封孔処理をスムーズに進めるために、処理温度としては、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常40℃以下、好ましくは35℃以下の範囲で、また、フッ化ニッケル水溶液pHは、通常4.5以上、好ましくは5.5以上、また、通常6.5以下、好ましくは6.0以下の範囲で処理するのがよい。pH調節剤としては、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることができる。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1〜3分の範囲で処理することが好ましい。なお、被膜物性を更に改良するためにフッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に添加しておいてもよい。次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。前記高温封孔処理の場合の封孔剤としては、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル−コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることができるが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合の濃度は5〜20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。処理温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは98℃以下の範囲で、また、酢酸ニッケル水溶液のpHは5.0〜6.0の範囲で処理するのが好ましい。ここでpH調節剤としてはアンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることができる。処理時間は10分以上、好ましくは15分以上処理するのが好ましい。なお、この場合も被膜物性を改良するために酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に添加してもよい。更に、塩類を含まない温水や水蒸気で処理するのが好ましい。次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。平均膜厚が厚い場合には、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件を必要とする。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じやすくなる。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
支持体表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。また、安価化のためには切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム支持体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な支持体が得られるので好ましい。
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けても良い。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したものなどが用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。一種類の粒子のみを用いても良いし複数の種類の粒子を混合して用いても良い。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていても良い。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスの何れも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていても良い。
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常1nm以上、特に10nm以上、また、通常100nm以下、特に50nm以下の範囲が好ましい。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二以上を任意の組み合わせで用いてもよい。また、硬化剤とともに硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性・塗布性を示すので好ましい。
下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する無機粒子の添加比は任意に選択すれば良いが、通常は10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。
下引き層の膜厚は任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点から、通常は0.1μm以上、20μm以下の範囲が好ましい。また、下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加しても良い。
導電性支持体上に形成される感光層の型式としては、電荷発生物質と電荷輸送材料とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層型と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送材料がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる積層型とが挙げられるが、何れであってもよい。一般に電荷輸送材料は、単層型でも積層型でも、電荷移動機能としては同等の性能を示すことが知られている。
電荷発生物質としては、例えばセレン及びその合金、硫化カドミウム、その他の無機系光導電材料や、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料などの有機顔料等、各種の光導電材料が使用できる。中でも有機顔料が好ましい。
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、これらの微粒子を、例えばポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテルなどの各種バインダー樹脂で結着した形で使用する。有機顔料の使用比率は、積層型感光体の場合、バインダー樹脂100重量部に対して通常30重量部以上、500重量部以下の範囲で使用され、その膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常1μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲が好適である。また、単層型感光体の場合は、バインダー樹脂100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲で使用される。
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類の各種結晶型が使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型,I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。なお、これらのフタロシアニンの中でも、A型(β型)、B型(α型)及びD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
また、フタロシアニン類の中でも、CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)が、27.3°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニン、9.3°,13.2°,26.2°及び27.1°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニン、9.2,14.1,15.3,19.7,27.1°に主たる回折ピークを有するジヒドロキシシリコンフタロシアニン、8.5°,12.2°,13.8°,16.9°,22.4°,28.4°及び30.1°に主たる回折ピークを示すジクロロスズフタロシアニン、7.5°,9.9°,12.5°,16.3°,18.6°,25.1°及び28.3°に主たる回折ピークを示すヒドロキシカリウムフタロシアニン、並びに、7.4°,16.6°,25.5°及び28.3°に回折ピークを示すクロロガリウムフタロシアニンが好ましい。これらの中でも、27.3°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニンが特に好ましく、この場合、9.5°、24.1°及び27.3°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニンがとりわけ好ましい。
フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いても良いし、いくつかの混合あるいは混晶状態でも良い。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態として、それぞれの構成要素を後から混合して用いても良いし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでも良い。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に摩砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合、具体例としては、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、ポリアゾ類等が挙げられるが、中でも、従来公知の各種のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。
好ましいアゾ顔料の例を以下に示す。
電荷輸送材料としては、上述した本発明のトリアリールアミン化合物を用いる。本発明のトリアリールアミン化合物は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
また、本発明のトリアリールアミン化合物に加えて、公知の他の電荷輸送材料を併用してもよい。他の電荷輸送材料を併用する場合、その種類は特に制限されないが、例えばカルバゾール誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましい。更に具体的には、特開平2−230255号、特開昭63−225660号、特開昭58−198043号、特公昭58−32372号、及び特公平7−21646号の各公報に記載の化合物が好ましく使用される。
感光層の形成に際しては、膜強度確保のために、バインダー樹脂が使用される。この場合、感光層は上記電荷輸送材料等とバインダーポリマーを溶剤に溶解あるいは分散して得られる塗布液を塗布、乾燥して得ることができる。バインダー樹脂としては、例えばブタジエン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリウレタン、セルロースエーテル、フェノキシ樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。このうちポリカーボネート、ポリアリレートが特に好ましい。なお、これらは適当な硬化剤等を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダーは2種類以上をブレンドして用いることもできる。
バインダー樹脂と電荷輸送材料との割合は、単層型・積層型ともに、バインダー樹脂100重量部に対して通常20重量部以上、更に残留電位低減の観点から30部以上が好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性、電荷移動度の観点から、40部以上がより好ましい。また、一方で感光層の熱安定性の観点から、通常は150重量部以下、更に電荷輸送材料とバインダー樹脂の相溶性の観点から好ましくは110重量部以下、更に耐刷性の観点から80重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点からは70重量部以下が最も好ましい。また膜厚は通常5μm以上、通常50μm以下の範囲、長寿命化、画像安定性の観点からは10μm以上、45μm以下の範囲が好ましく、高解像度化の観点からは10μm以上、30μm以下の範囲がより好ましい。
なお、感光層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性などを向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤などの添加物を含有させても良い。
単層型感光体の場合には、上記のような配合比の電荷輸送媒体中に、更に前出の電荷発生物質が分散される。その場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが必要であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下で使用される。感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下・感度の低下などの弊害があることから、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
積層型又は単層型の感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けても良い。
なお、感光体の表面に当たる層には、感光体表面の摩擦抵抗や摩耗を軽減する目的で、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含有させても良い。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含有させても良い。
これらの感光体を構成する各層は、含有させる物質を溶剤に溶解又は分散させて得られた塗布液を、支持体上に浸漬塗布、スプレー塗布、ノズル塗布、バーコート、ロールコート、ブレード塗布等の公知の方法により順次塗布して形成される。
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル、等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。これらは単独で用いても良く、2種以上を任意の組み合わせで併用しても良い。
なお、塗布液又は分散液の作製において、単層型感光層、及び、積層型感光層の電荷輸送層の場合には、固形分濃度を好ましくは10重量%以上、また、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは35重量%以下の範囲とするとともに、粘度を好ましくは50cps以上、また、好ましくは400cps以下の範囲とし、積層型感光層の電荷発生層の場合には、固形分濃度を好ましくは1重量%以上、また、好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以下の範囲とし、粘度を好ましくは0.1cps以上、また、好ましくは10cps以下の範囲とする。
[III.画像形成装置]
次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1,帯電装置2,露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5,クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2,露光装置3,現像装置4,転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置などがよく用いられる。
なお、電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(以下適宜、感光体カートリッジという)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1,帯電装置2,トナーが全て備えられたカートリッジを用いることもある。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LEDなどが挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光などで露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像などの乾式現像方式や、湿式現像方式などの任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジなどの容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄,ステンレス鋼,アルミニウム,ニッケルなどの金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂,ウレタン樹脂,フッ素樹脂などを被覆した樹脂ロールなどからなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂などの樹脂ブレード、ステンレス鋼,アルミニウム,銅,真鍮,リン青銅などの金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌するとともに、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法などを用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト上の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写などの静電転写法、圧力転写法、粘着転写法など、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー,転写ローラ,転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙,媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナーなど、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、殆ど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
定着装置7は、上部定着部材(定着ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73がそなえられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73がそなえられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス,アルミニウムなどの金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シートなどが公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させる為にシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着など、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させても良く、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化するとともに、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としても良い。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程などの工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に詳細に説明する。なお、以下の実施例は本発明を詳細に説明するために示すものであり、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、本明細書において「部」とは、特に断らない限り「重量部」を意味する。
〔ジアリールアミン化合物の製造〕
<製造例1:例示化合物(CT−5)の製造>
室温下、攪拌装置、温度計を装着した500mlの四つ口フラスコを反応器として用い、この中に、原料アリールアミン化合物としてp,p’−ジトリルアミン40.45g(0.205mol)、ハロゲン化アリール化合物として4,4’−ジヨードビフェニル40.60g(0.1mol)、水素化物として水素化ナトリウム10g(0.25mol)、金属アルコキシドとしてナトリウムtert−ブトキシド2.31g(0.024mol)、溶媒として充分に脱酸素したキシレン200mlを順次加え、系内を窒素により置換した後、10分間程攪拌した。一方、酢酸パラジウム5.6mg(0.025mmol)及びトリフェニルホスフィン27mg(0.1mmol)を脱酸素したキシレン2mlに加え、2、3分間程度超音波をかけ、錯体形成させて触媒溶液を調製した。反応器内の窒素フローを続けながら、得られた触媒溶液を手早く反応器に加え、加熱環流し、高速液体クロマトグラフィー(カラム:ジーエルサイエンス(株)社製イナートシルODS−3V、溶媒:アセトニトリル)で一定時間毎に反応液を分析し、4,4’−ジヨードビフェニルが検出されなくなるまで(約3時間)その温度で加熱し続け、反応させた。反応終了後、70℃まで冷却し、水50ml、キシレン250mlを加え、分液した。有機層を70℃の脱塩水で、pHが中性になるまで洗浄し、硫酸マグネシウム10gで乾燥、濾別した。得られた溶液をキシレン溶媒量の半分になるまで減圧濃縮した。室温で30分程攪拌し、結晶の析出を確認してから、さらにメタノール200mlをゆっくり注ぎ、生成物粗体を完全に結晶化させた。析出した結晶を濾別し、フラッシュカラムクロマトグラフィー(シリカゲル300g、展開溶媒:トルエン/ヘキサン=1/2)により分離し、さらにメタノールによる再沈で精製した。真空乾燥した後、上記の例示化合物(CT−5)を白い微結晶として得た(42.49g、収率78%、純度99.5%)。なお、生成物が目的の例示化合物であることは、1H−NMR分析により確認した。また、生成物の純度は、高速液体クロマトグラフィーのチャートの単純面積比率値から算出した。
<製造例2:例示化合物(CT−8)の製造>
p,p’−ジトリルアミンの代わりにp−トルイジン10.7g(0.1mol)を、4,4’−ジヨードビフェニルの代わりにp−ヨードトルエン54.5g(0.25mol)を、トリフェニルホスフィンの代わりにトリシクロヘキシルホスフィン14mg(0.05mmol)をそれぞれ使用した以外は、製造例1と同様の製造方法(反応時間3時間)により、上記の例示化合物(CT−8)を白い結晶として得た(25.3g、収率88%、純度99.3%)。生成物の確認及び純度の算出も、実施例1と同様の手法により行なった。
<製造例3:例示化合物(CT−8)の製造>
トリシクロヘキシルホスフィンの代わりにトリt−ブチルホスフィン10mg(0.05mmol)を、水素化ナトリウムの代わりに水素化カルシウム(0.42mol)をそれぞれ使用するとともに、ナトリウムtert−ブトキシドの使用量を27.7g(0.29mol)とした以外は、製造例2と同様の製造方法により、上記の例示化合物(CT−8)を白い結晶として得た(21.5g、収率75%、純度99.0%)。生成物の確認及び純度の算出は、実施例1と同様の手法により行なった。
<製造例6:例示化合物(CT−5)の製造>
ナトリウムtert−ブトキシドの代わりにナトリウムメチラート1.3g(0.024mol)を使用した以外は、製造例1と同様の製造方法により、上記の例示化合物(CT−5)を白い結晶として得た(45.2g、収率83%、純度99.3%)。生成物の確認及び純度の算出は、実施例1と同様の手法により行なった。
<製造例7:例示化合物(CT−24)、(CT−13)の製造>
p−トルイジンの代わりにアニリン9.3(0.1mol)を使用した以外は、製造例2と同様の製造方法により、上記の例示化合物(CT−24)を白い結晶として得た(25.0g、収率92%、純度98.5%)。生成物の確認及び純度の算出は、実施例1と同様の手法により行なった。
また、得られた例示化合物(CT−24)を用い、特開昭57−11350号公報の製造例に開示された方法に従って、上記の例示化合物(CT−13)を製造した。生成物の確認及び純度の算出は、実施例1と同様の手法により行なった。
<製造例8:例示化合物(CT−9)の製造>
ハロゲン化アリール化合物として4,4’−ジヨードビフェニルの代わりに下記構造式(A)の構造を有する化合物79.04g(0.22mol)を使用した以外は、製造例1と同様の製造方法により、上記の例示化合物(CT−9)を薄黄色の結晶として得た(76.10g、収率80%、純度99.4%)。生成物の確認及び純度の算出は、実施例1と同様の手法により行なった。
<製造例9:例示化合物(CT−18)の製造>
ハロゲン化アリール化合物としてp−ブロモビフェニル51.28g(0.22mol)を使用した以外は、製造例1と同様の製造方法により、上記の例示化合物(CT−18)を白い結晶として得た(収率78%、純度99.1%)。
<比較製造例1:例示化合物(CT−5)の製造>
製造例1において、水素化ナトリウム8.40g(0.21mol)を使用せず、ナトリウムtert−ブトキシドの使用量を23.1g(0.24mol)とした以外は、同様の条件で反応を行なったところ、反応開始後1時間で反応の進行が急激に遅くなり、2時間でほぼ止まってしまい、反応が完結しなかった。
<比較製造例2:例示化合物(CT−8)の製造>
製造例2において、水素化ナトリウム8.40g(0.21mol)を使用せず、ナトリウムtert−ブトキシドの使用量を23.1g(0.24mol)とした以外は、同様の条件反応を行なったところ、15時間かかって反応が終了した。製造例2と同様に反応後の処理を行なうことにより、上記の例示化合物(CT−8)を淡黄白色固体として得た(20.7g、収率72%、純度98.5%)。
<比較製造例3:例示化合物(CT−8)の製造>
比較製造例2において、シクロヘキシルホスフィンに代えてジ(t−ブチル)o−トリルホスフィンを使用した以外は同様の条件で反応を行なったところ、15時間かかって反応が終了した。製造例2と同様に反応後の処理を行なうことにより、上記の例示化合物(CT−8)を淡黄白色固体として得た(18g、収率63%、純度98.0%)。
<比較製造例4:例示化合物(CT−5)の製造>
製造例1において、ナトリウムtert−ブトキシドを使用しない以外は同様に反応を行なったところ、反応の進行は認められるが、比較的進行が遅かった。LCでの反応転化率50%程度の時点(反応開始後15時間後)で、例示化合物(CT−18)由来の副生成物が増えてきたので、反応を中断した。
<比較製造例5:例示化合物(CT−8)の製造>
製造例2において、ナトリウムtert−ブトキシドを使用しない以外は同様に反応を行なったところ、反応の進行は認められるが、比較的進行が遅かった。LCでの反応転化率50%程度の時点(開始後8時間後)で、例示化合物(CT−18)由来の副生成物が増えてきたので、反応を中断した。
<比較製造例6:例示化合物(CT−5)の製造>
製造例1において、酢酸パラジウムを使用しない以外は同様に反応を行なったところ、反応の進行は認められなかった。
<比較製造例7:例示化合物(CT−8)の製造>
製造例2において、酢酸パラジウムを使用しない以外は同様に反応を行なったところ、反応の進行は認められなかった。
<比較製造例8:例示化合物(CT−5)の製造>
製造例1において、ホスフィン化合物を使用しない以外は同様に反応を行なったところ、反応の進行はほとんど認められなかった。
<比較製造例9:例示化合物(CT−5)の製造>
水素化ナトリウムの使用量を4.2g(0.10mol)、ナトリウムtert−ブトキシドの使用量を46.2g(0.48mol)とした以外は、製造例1と同様に反応を行なったところ、反応は完結したが、反応終了までに23時間を要した。製造例1と同様に精製を行なうことにより、上記の例示化合物(CT−5)を淡黄白色固体として得た(34.3g、収率63%、純度96.7%)。
<比較製造例10:例示化合物(CT−5)の製造>
水素化ナトリウムを用いず、ナトリウムtert−ブトキシドの使用量を23.2g(0.24mol)とし、また、トリフェニルホスフィンの代わりにトリt−ブチルホスフィンを使用した以外は、製造例1と同様に反応を行なったところ、反応は完結したが、反応終了までに10時間を要した。製造例1と同様に精製を行なうことにより、上記の例示化合物(CT−5)を淡黄白色固体として得た(44.6g、収率82%、純度98.9%)。
〔電子写真感光体〕
<電子写真感光体の作製>
二軸延伸ポリエチレンテレフタレート樹脂フィルム(厚み75μm)の表面にアルミニウム蒸着層(厚み70nm)を形成した導電性支持体を用い、その導電性支持体のアルミニウム蒸着層上に、以下の下引き層用分散液をバーコーターにより、乾燥後の膜厚が1.25μmとなるように塗布し、乾燥させ下引き層を形成した。
下引き層用分散液は、次のようにして製造した。即ち、平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業社製「TTO55N」)と、前記酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシランとをボールミルにて混合してスラリーを得た。得られたスラリーを乾燥後、更にメタノールで洗浄、乾燥し、得られた疎水性処理酸化チタンをメタノール/1−プロパノールの混合溶媒中でボールミルにより分散させ、疎水化処理酸化チタンの分散スラリーとした。前記分散スラリーと、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒と、ε−カプロラクタム/ビス(4−アミノ−3−メチルフェニル)メタン/ヘキサメチレンジアミン/デカメチレンジカルボン酸/オクタデカメチレンジカルボン酸(組成モル%:75/9.5/3/9.5/3)からなる共重合ポリアミドのペレットとを加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた後、超音波分散処理を行なった。これにより、メタノール/1−プロパノール/トルエンの重量比が7/1/2で、疎水性処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比3/1で含有する固形分濃度18.0重量%の下引き層用分散液を製造した。
別に、A型オキシチタニウムフタロシアニン(CuKa特性X線に対するX線回折スペクトルにおいてブラッグ角(2θ±0.2°)に9.3°、10.6°、26.3°に回折ピークを示す。)10重量部を、4−メトキシ−4−メチルペンタノン−2 150重量部に加え、サンドグラインドミルにて1時間粉砕分散処理を行なった。その後、バインダー樹脂としてのポリビニルブチラール(電気化学工業社製「デンカブチラール#6000C」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部、及び、フェノキシ樹脂(ユニオンカーバイト社製「PKHH」)の5重量%1,2−ジメトキシエタン溶液100重量部を加えて、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、上記の導電性支持体の下引き層上に、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるようにバーコーターにより塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
また、別に、電荷輸送材料として下記表3に示すトリアリールアミン化合物50重量部、バインダー樹脂100重量部、及び、レベリング剤としてシリコーンオイル0.03重量部をテトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて、電荷輸送層用塗布液を調製した。なお、バインダー樹脂としては、以下に示す2,2−ビス(4−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位51モル%と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位49モル%とからなり、p−tert−ブチルフェノールに由来する末端構造を有するポリカーボネート樹脂(粘度平均分子量30000)を用いた。
得られた電荷輸送層用塗布液を、前記電荷発生層上に、乾燥後の膜厚が20μmとなるようにフィルムアプリケーターにより塗布し、乾燥させて電荷輸送層を形成することにより、積層型感光層を有する電子写真感光体(A−1)〜(A−3)、(P−1)〜(P−4)を製造した。
得られた電子写真感光体(A−1)〜(A−3)、(P−1)〜(P−4)の電子写真特性を、感光体評価装置(シンシアー55、ジェンテック社製)を用いて、スタティック方式により、それぞれ以下の手順に従って測定した。
まず、各電子写真感光体に対して、暗所でスコロトロン帯電器により表面電位が約−700Vになるよう放電を行ない、一定速度(125mm/sec)で電子写真感光体を通過させて帯電させ、その帯電圧を測定して初期帯電圧を求めた(以下「V0」ということがある。)。その後、2.5秒間放置したときの電位低下を測定した(以下「DD」ということがある。)。次に、強度1.0μW/cm2の780nm単色光を照射し、感光体表面電位が−550Vから−275Vになるまでに要した半減露光エネルギー(μJ/cm2)を求めた(以下「E1/2」ということがある。)。また、照射10秒後の残留電位を求めた(以下「Vr」ということがある。)。
各電子写真感光体の評価結果を下記表4に示す。
全てのトリアリールアミン化合物は同様の手法で精製されているが、実施例1〜3で使用したトリアリールアミン化合物にはいずれも着色が見られなかったのに対して、比較例1〜4で使用したトリアリールアミン化合物にはいずれも若干の着色がみられた。
また、同じ電荷輸送物質を用いた実施例と比較例とをそれぞれ対照して比較すると(実施例1と比較例3,4、実施例2と比較例1,2)、本発明の製造方法により製造したトリアリールアミン化合物を用いた実施例の電子写真感光体は、それ以外の方法により製造したトリアリールアミン化合物を用いた比較例の電子写真感光体と比較して、いずれも良好な電気特性を示している。
その他、実施例3の電子写真感光体についても、トリアリールアミン化合物の種類が異なるため各比較例の電子写真感光体との単純な比較は出来ないが、DD、E1/2、Vrの値が慨して小さいことから、電気特性が良好であることが分かる。
〔画像形成試験、及び感光体の安定性・耐久性試験〕
<実施例5>
表面を陽極酸化し、封孔処理を施した直径3cm、長さ25.4cmのアルミニウムチューブ上に、上述の電子写真感光体(A−1)と同様に作製した電荷発生層及び電荷輸送層用塗布液を浸漬塗布法により順次塗布、乾燥して、膜厚が電荷発生層0.3μm、電荷輸送層20μmの電子写真感光体ドラムを作製した。この電子写真感光体ドラムを、ヒューレットパッカード社製レーザープリンタ、レーザージェット4(LJ4)改造機に搭載し、画像形成試験を行なったところ、画像欠陥やノイズの無い、良好な画像が得られた。次いで、安定性・耐久性試験として、1万枚連続プリントを行ない、形成画像を目視にて評価したところ、ゴースト、カブリ、黒ポチ等の画像劣化は見られず、安定していた。
<比較例5>
製造例1で製造したトリアリールアミン化合物を電荷輸送材料として使用する代わりに、比較製造例3で製造したトリアリールアミン化合物を電荷輸送材料として使用した以外は、実施例5と同様に電子写真感光体を作製し、画像形成試験及び感光体の安定性・耐久性試験を行なったところ、初期から画像の濃度が薄く、且つ、繰返し画像形成においてカブリが認められた。