以下、本発明を実施するための最良の形態について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で任意に変形して実施することができる。
[アミン化合物の製造方法]
本発明のアミン化合物の製造方法は、脱離基を有する有機化合物と、原料アミン化合物と、をパラジウム化合物及びリン化合物存在下で反応させるアミン化合物の製造方法であって、上記リン化合物が、リン原子が有する3つの結合手の少なくとも1つにヘテロ原子が結合し、上記3つの結合手が互いに同一の原子を介して結合することがない構造Aを、分子内に1以上有する、ことを特徴とする。以下、本発明のアミン化合物の製造方法を構成する各要素について説明する。
(リン化合物)
リン化合物は、リン原子が有する3つの結合手の少なくとも1つにヘテロ原子が結合し、上記3つの結合手が互いに同一の原子を介して結合することがない構造Aを、分子内に1以上有する。こうしたリン化合物はリガンド(配位子)として機能すると考えられる。本発明においては、リン原子が有する3つの結合手の少なくとも1つにヘテロ原子が結合する構造Aを採用しているので、このヘテロ原子を介して結合する基(具体的には有機基)に様々な構造を有するものを採用することができる。その結果、リガンドとして採用できる構造の幅が広がり、触媒のチューニングが容易になるため、電気特性に優れ、電子材料に好適に利用されるアミン化合物を、安価で、生産性が高く製造することが可能な優れた製造方法を提供することができる。さらに、リン原子が有する3つの結合手の1つだけではなく、2つさらには3つそれぞれにヘテロ原子が結合することによって、リン化合物の構造によりバリエーションをさらに持たせることができるので、触媒のチューニングがより行いやすくなる。
こうしたリン化合物は、空気中で安定である傾向が強い。すなわち、既存のホスフィン化合物、例えばトリ−tert−ブチルホスフィン等は、空気中で酸化されやすく、また融点が室温付近であるために扱いにくい等の欠点がある。これに対して、後述するように、本発明のリン化合物として好ましく用いることができるホスファイト化合物やホスホロアミダイト化合物等は空気中で安定である。このため、より簡便にアミン化合物を製造することができる。さらに、ホスファイト化合物やホスホロアミダイト化合物等に代表される本発明のリン化合物は、ホスフィン化合物に比べて合成が容易であるため、反応基質によって低収率であった場合においても、触媒のチューニングが容易となる利点がある。
また、トリフェニルホスフィン等の既存のホスフィン化合物は、アミン化合物の製造に際して、用いることができる脱離基を有する有機化合物が制限される。具体的には、リガンドとしてトリフェニルホスフィンを用いた場合には、脱離基を有する有機化合物として、活性の高いヨウ素で置換されたベンゼン類(ヨウ化ベンゼン類)を採用することは可能であるが、活性に劣る臭素で置換されたベンゼン類(臭化ベンゼン類)では反応が進みにくい傾向にある。これに対して、本発明のリン化合物では、脱離基を有する有機化合物としてヨウ素で置換されたベンゼン類(ヨウ化ベンゼン類)及び臭素で置換されたベンゼン類(臭化ベンゼン類)のいずれも好適に用いることができるという利点がある。
そして、本発明のリン化合物が有する構造Aは、リン原子が有する3つの結合手が互いに同一の原子を介して結合することがない。これを、例示をもって説明すれば、リン化合物が、リン原子が有する3つの結合手にそれぞれヘテロ原子が結合し、この3つのヘテロ原子にさらに有機基がそれぞれ結合した構造をとった場合に、これら3つの有機基のそれぞれの末端が、窒素原子等の同一の原子を介して結合する等の複雑な構造を取ることはない。その結果、リン化合物の合成が工業的に行いやすい上、アミン化合物の製造に際して反応時間を短くしやすくなる。
本発明のリン化合物においては、リン原子が有する3つの結合手の少なくとも1つに結合するヘテロ原子が、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子のいずれかであることが好ましく、酸素原子又は窒素原子のいずれかであることがより好ましい。こうしたヘテロ原子を用いることにより、ヘテロ原子を介して様々な有機基をリン原子と結合させることが可能となり、リガンド設計の自由度が高くなる。例えば、ヘテロ原子として酸素を用いれば、リンの水酸化物と、所定の有機基に結合させた水酸基と、の脱水反応によりリン化合物を合成することができるので、様々な有機基を酸素を介してリン原子に結合させることができるようになる。
本発明のリン化合物が有する構造Aは、下記構造式で示されることが好ましい。
構造式(A1)中、X1,X2,X3は、各々独立して、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子のいずれかを表し、n1,n2,n3は0又は1の整数であり、n1,n2,n3がそれぞれ1である場合、X1,X2,X3がとる原子の種類に応じて、X1,X2,X3それぞれが有する、リン原子と結合する結合手以外の結合手の数は変化する。
構造式(A1)中、X1,X2,X3は、各々独立して、窒素原子、酸素原子、及び硫黄原子のいずれかを表すが、酸素原子又は窒素原子のいずれかであることがより好ましい。こうしたヘテロ原子を用いることにより、ヘテロ原子を介して様々な有機基をリン原子と結合させることが可能となり、リガンド設計の自由度が高くなる。
構造式(A1)中、n1,n2,n3は0又は1の整数である。構造Aにおいては、リン原子が有する3つの結合手の少なくとも1つにヘテロ原子が結合しているので、n1,n2,n3の少なくとも1つは1である。そして、n1,n2,n3のうちの少なくとも2つが1であることが好ましく、n1,n2,n3のすべてが1であることがより好ましい。リン原子に結合するヘテロ原子の数が多くなるほど、ヘテロ原子を介して結合させる有機基の自由度が高くなる。
構造式(A1)中、n1,n2,n3がそれぞれ1である場合、X1,X2,X3がとる原子の種類に応じて、X1,X2,X3それぞれが有する、リン原子と結合する結合手以外の結合手の数は変化する。すなわち、X1,X2,X3がそれぞれ独立に酸素原子又は硫黄原子をとる場合には、リン原子と結合する結合手以外の結合手の数は1つであるが、X1,X2,X3がそれぞれ独立に窒素原子をとる場合には、リン原子と結合する結合手以外の結合手の数は2つとなる。
構造式(A1)としてさらに好ましくは以下の構造を挙げることができる。
構造式(A1)として、合成のしやすさや工業生産の面から特に好ましいものとして、以下の構造を挙げることができる。
構造式(A1)として最も好ましいものとして、以下の構造を挙げることができる。
構造式(A1)中のX1,X2,及びX3の有する結合手のうち、リン原子と結合する結合手以外の結合手に結合する基としては、1価の有機残基を挙げることができる。こうした有機残基はヘテロ原子を有していてもよい。有機残基としては、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、及びアルキルアリール基等を好ましく挙げることができる。有機残基としては、反応性と入手し易さの観点から、より好ましくはアルキル基、アリール基を挙げることができる。アルキル基としては、反応性と入手し易さの観点から、炭素数1以上20以下のものを用いることが好ましい。こうしたアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、及びベンジル基等を挙げることができる。これらアルキル基のうち、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びtert−ブチル基を用いる。アリール基としては、反応性と入手し易さの観点から、炭素数6以上30以下のものを用いることが好ましい。こうしたアリール基としては、フェニル基、ナフチル基、アントリル基、フェナンスリル基、ビフェニル基、及びターフェニル基等を挙げることができる。これらアリール基のうち、好ましくはフェニル基を用いる。
構造式(A1)中のX1,X2,及びX3の有する結合手のうち、リン原子と結合する結合手以外の結合手に結合する1価の有機残基は、本発明の要旨の範囲内において、さらに置換基を有していてもよい。こうした置換基としては、例えば、アルキル基、アルコキシ基、アラルキル基、アリール基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基及び構造A等を好ましく挙げることができる。置換基としては、反応性と入手し易さの観点から、より好ましくはアルキル基、構造Aを用いる。アルキル基としては、反応性と入手し易さの観点から、炭素数1以上20以下のものを用いることが好ましい。こうしたアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、tert−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、2−エチルヘキシル基、及びベンジル基等を挙げることができる。これらアルキル基のうち、好ましくはメチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、及びtert−ブチル基を用い、より好ましくはメチル基、ter−ブチル基を用いる。また、置換基として構造Aを用いることにより、本発明のリン化合物が構造Aを分子内に2以上有することとなり、構造Aの多量体を得ることができる。こうした多量体が好ましい点については後述する。
構造式(A1)中のX1,X2,及びX3の有する結合手のうち、リン原子と結合する結合手以外の結合手に結合する1価の有機残基のうち、隣接する有機残基同士については、互いに結合して環構造を形成してもよい。但し、立体構造が複雑になって反応時間がかえって長くなる場合があるので、上述のとおり、X1,X2,及びX3に結合するそれぞれの有機残基が同一の原子を介して互いに結合するような構造は採らないようにする。
本発明のリン化合物は、上記構造Aを分子内に1以上有する。これにより、活性種となる金属錯体の触媒形成がされやすくなる。リン化合物1分子内の構造Aの個数は、本発明の要旨の範囲内において特に制限はないが、リン化合物は、上記構造Aを分子内に1又は2つ有することが好ましい。これは、単量体又は二量体とすることで、活性の高い錯体触媒が形成され、反応活性をより高くすることができるからである。
本発明のリン化合物は、工業生産の観点から、ホスファイト化合物、ホスホロアミダイト化合物、及びトリアミノホスフィン化合物から選ばれる少なくとも1つであることが好ましい。ホスファイト化合物とは、構造Aとして下記(構造イ)を有するものである。ホスホロアミダイト化合物とは、構造Aとして下記(構造ロ)を有するものである。トリアミノホスフィン化合物とは、構造Aとして下記(構造ハ)を有するものである。
本発明のリン化合物として、さらに好ましく用いることができるホスファイト化合物、ホスホロアミダイト化合物、及びトリアミノホスフィン化合物を例示すると以下のとおりとなる。なお、下記化合物中、「Me」はメチル基を、「But」、「tBu」はターシャルブチル基を表す。
本発明のリン化合物の使用量は、後述するパラジウム化合物のリガンドとして用いる場合には、パラジウム化合物1モル当量に対する値で、通常0.01モル当量以上、好ましくは0.1モル当量以上、また、通常10000モル当量以下、好ましくは100モル当量以下、さらに好ましくは10モル当量以下の範囲である。上限を上記範囲内とすれば、反応の進行を良好に確保しやすくなる上に、反応が完結しやすくなる。また、下限を上記範囲とすれば、経済的に有利なものとなる。
(原料アミン化合物)
本発明において原料として用いる原料アミン化合物は特に制限されないが、通常は1級又は2級の原料アミン化合物を用いる。
アミンの窒素原子に結合する有機基の種類は特に制限されないが、炭化水素基が好ましく、例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基等が挙げられる。2級の原料アミン化合物の場合、アミンの窒素原子が有する2つの有機基は、互いに同じでも異なっていてもよい。また、これらの有機基が互いに結合して、環を形成していてもよい。個々の有機基の総炭素数は通常1以上、また、通常20以下、好ましくは15以下の範囲である。
アリール基の例としては、フェニル基、ナフチル基、ビフェニル基、ピレニル基、フルオレニル基、アントリル基等が挙げられる。
アルキル基としては、鎖状アルキル基と環状アルキル基が挙げられるが、いずれであってもよい。鎖状アルキル基の例としては、メチル基、エチル基、プロピル基(n−プロピル基、i−プロピル基)、ブチル基(n−ブチル基、t−ブチル基、イソブチル基、s−ブチル基)、ペンチル基(n−ペンチル基等)、ヘキシル基(n−ヘキシル基等)等が挙げられる。環状アルキル基の例としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。また、これらの鎖状アルキル基と環状アルキル基が結合したものであってもよい。
アルケニル基、アルキニル基の例としては、上記例示のアルキル基において、炭化水素鎖上の1又は2以上の炭素−炭素結合を二重結合又は三重結合として得られる基が挙げられる。具体的には、ビニル基(エテニル基)、プロペニル基(1−プロペニル基、2−プロペニル基)等が挙げられる。
アリールアルキル基の例としては、上記例示のアルキル基が上記例示の1又は2以上のアリール基によって置換された基が挙げられる。具体的には、ベンジル基、フェニルエチル基等が挙げられる。
アルキルアリール基の例としては、上記例示のアリール基が上記例示の1又は2以上のアルキル基によって置換された基が挙げられる。具体的には、トリル基(o−トリル基、m−トリル基、p−トリル基)、キシリル基(3,4−キシリル基等)等が挙げられる。
なお、これらの有機基は、本発明の要旨の範囲において、更に置換基を有していてもよい。置換基の種類は、本発明の要旨の範囲内であれば特に制限されないが、例としては、ハロゲン原子(フッ素原子、塩素原子、臭素原子等);ヒドロキシル基;ニトロ基;シアノ基;カルボニルオキシ基;カルボキシル基;スルホン酸基;アミノ基;アルキル基;アルケニル基;アルキニル基;アリール基;複素環基(含硫黄複素環基、含酸素複素環基、含窒素複素環基等);アルコキシ基;アリールオキシ基;アルキルチオ基;アリールチオ基;カルボン酸エステル基;スルホン酸エステル基;置換シリル基(トリメチルシリル基等);置換アミノ基;アミド基等が挙げられる。なお、上記の有機基がこれらの置換基を有する場合には、その置換基を含めた有機基全体の炭素数が、上記規定の範囲内となることが好ましい。
中でも、製造されるアミン化合物の電気特性を向上させる観点から、原料アミン化合物としては、炭化水素基としてアリール基やアルキルアリール基を有するもの、即ち、アリールアミン化合物が好ましく、特にアニリン誘導体が好ましい。
但し、以上はあくまでも例示であって、反応に使用する原料アミン化合物は、製造するアミン化合物及び併用する脱離基を有する有機化合物の構造を考慮して、適切なものを適宜選択すればよい。
(脱離基を有する有機化合物)
本発明に用いられる脱離基を有する有機化合物の種類は特に制限されないが、好ましくは、ハロゲン原子が炭化水素基に結合したハロゲン化炭化水素(以下、ハロゲン化合物という場合がある。)を用いる。ハロゲン原子の種類は特に制限されない。例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。中でも、臭素原子又はヨウ素原子が好ましい。
ハロゲン化合物1分子当たりのハロゲン原子数は特に制限されず、1でも2以上でもよいが、得られるアミン化合物の電子材料としての実用性の面からは、1〜3が好ましい。分子当たりのハロゲン原子数が2以上の場合、複数のハロゲン原子は同一であってもよく、互いに異なっていてもよいが、化合物の製造の容易さの観点からは、同一であることが好ましい。
炭化水素基の種類は特に制限されず、例えば1価や2価の炭化水素基を挙げることができる。1価の炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基、アリールアルキルアリール基、アルキルアリールアルキル基等が挙げられる。また、2価以上の炭化水素基の例としては、上述の1価の炭化水素基から1以上の水素原子を省いて得られるものが挙げられる。個々の炭化水素基の炭素数は通常1以上、また、通常30以下、好ましくは20以下の範囲である。
アリール基、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリールアルキル基、アルキルアリール基の具体例としては、例えば、原料アミン化合物について先に例示したものと同様の基が挙げられる。また、シクロアルキル基の具体例としては、例えば、原料アミン化合物に用いるアルキル基で説明した環状アルキル基として例示したものを用いることができる。
アルキルアリールアルキル基の具体例としては、例えば、上記例示のアリールアルキル基が更に上記例示の1又は2以上のアルキル基によって置換された基が挙げられる。
アリールアルキルアリール基の具体例としては、例えば、上記例示のアルキルアリール基が更に上記例示の1又は2以上のアリール基によって置換された基が挙げられる。
また、2価の炭化水素基としては、これらの1価の例示基から更に1つの水素原子を省くことにより誘導される2価の基が好ましい。
中でも、製造されるアミン化合物の電気特性を向上させる観点から、1価の炭化水素基としては、アリール基、アリールアルキル基、又はアリールアルキルアリール基が特に好ましく、2価の炭化水素基としては、これらの基から誘導される基が好ましい。
なお、これらの炭化水素基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、更に置換基を有していてもよい。置換基の種類は、本発明の趣旨を逸脱しないものであれば特に制限されないが、例としては、原料アミン化合物について先に例示したものと同様の基が挙げられる。
脱離基を有する有機化合物としては、ヨウ化炭化水素又は臭化炭化水素が好ましく、ヨウ化アリール誘導体又は臭化アリール誘導体がさらに好ましく、ヨウ化ベンゼン類、臭化ベンゼン類が特に好ましい。ヨウ化ベンゼン類としては、ヨードベンゼンが最も好ましく、臭化ベンゼン類としては、ブロモベンゼンが最も好ましい。
但し、以上はあくまでも例示であって、反応に使用する脱離基を有する有機化合物は、製造するアミン化合物及び併用する原料アミン化合物の構造を考慮して、適切なものを適宜選択すればよい。
(原料アミン化合物と脱離基を有する有機化合物との関係)
原料アミン化合物と脱離基を有する有機化合物との組み合わせは特に限定されるものではなく、所望のアミン化合物の構造に応じて適切な組み合わせを選択すればよい。例えば、後に例示するトリアリールアミン化合物を製造する場合、好ましい組み合わせの例としては、ジアリールアミン化合物とアリールモノハライドとの組み合わせ、ジアリールアミン化合物とアリールジハライドとの組み合わせ、アリールアミン化合物とアリールモノハライドとの組み合わせ、(ジ)アルキルアミン化合物とアルキルハライドとの組み合わせ等が挙げられる。また、原料アミン化合物と脱離基を有する有機化合物との配合比も、所望のアミン化合物の構造やその合成量に応じて適切な比率とすればよい。
(パラジウム化合物)
本発明のアミン化合物の製造方法においては、パラジウム化合物は、通常金属触媒として用いられる。
パラジウム化合物としては、特に制限はないが、例えば、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸ナトリウム四水和物、ヘキサクロルパラジウム(IV)酸カリウム四水和物等の四価パラジウム化合物類;塩化パラジウム(II)、臭化パラジウム(II)、酢酸パラジウム(II)、パラジウムアセチルアセトナート(II)、ジクロロビス(ベンゾニトリル)パラジウム(II)、ジクロルビス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(II)、ジクロロテトラミンパラジウム(II)、ジクロロ(シクロオクタ−1,5−ジエン)パラジウム(II)等の二価パラジウム化合物類;トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウム(0)、トリス(ジベンジリデンアセトン)二パラジウムクロロホルム錯体(0)、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)等のパラジウム化合物類等が挙げられる。これらの中でも、酢酸パラジウム(II)、塩化パラジウム(II)が好ましく、電気特性を鑑みた場合、酢酸パラジウム(II)が特に好ましい
金属触媒としてのパラジウム化合物は、反応促進のため、リガンドを有することが好ましい。本発明においては、リガンドとして上記説明したリン化合物を用いる。こうしたリン化合物を用いる利点については上述のとおりであるので、説明の重複を避けるためここでの説明は省略する。
パラジウム化合物の使用量は、上述のリン化合物をリガンドとして用いる場合には、原料アミン化合物1モル当量に対する値で、通常0.000001モル当量以上、好ましくは0.0001モル当量以上、また、通常50モル当量以下、好ましくは10モル当量以下、さらに好ましくは5モル当量以下の範囲である。上限を上記範囲内とすれば、反応の進行を良好に確保しやすくなる上に、反応が完結しやすくなる。また、下限を上記範囲とすれば、経済的に有利なものとなる。
(塩基)
本発明の製造方法においては、反応系に塩基を共存させることが好ましい。塩基の種類は特に限定されないが、通常は各種の金属塩が用いられる。
金属塩は、無機塩と有機塩とに分けられる。無機塩としては、アルカリ金属の無機塩と、その他一般金属の無機塩とが挙げられるが、アルカリ金属の無機塩が好ましい。アルカリ金属の無機塩としては、炭酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸セシウム、リン酸三カリウム、リン酸三ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
有機塩は、反応速度の向上という観点から用いることが好ましい。こうした有機塩として、金属アルコキシドをさらに好ましく挙げることができる。金属アルコキシドとしては、アルカリ金属を含むものと、その他一般金属を含むものとが挙げられるが、アルカリ金属を含むものが特に好ましい。その例としては、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシド、リチウムメトキシド、リチウムエトキシド、リチウムtert−ブトキシド、リチウムn−ブトキシド、ナトリウムフェノキシド、カリウムフェノキシド、リチウムフェノキシド等が挙げられる。これらの中でも、ナトリウムメトキシド、ナトリウムエトキシド、ナトリウムtert−ブトキシド、カリウムメトキシド、カリウムエトキシド、カリウムtert−ブトキシドが好ましい。中でも、反応速度の向上という観点からは、ナトリウムtert−ブトキシド又はカリウムtert−ブトキシドがより好ましく、コスト面及び反応制御性の面からは、ナトリウムメトキシドが特に好ましい。
塩基の使用量は、原料アミン化合物1モル当量に対する値で、通常0.5モル当量以上、好ましくは1.0モル当量以上、また、通常2モル当量以下、好ましくは1.5モル当量以下、さらに好ましくは1.3モル当量以下の範囲である。上限を上記範囲内とすれば、反応の進行を良好に確保しやすくなる上に、反応が完結しやすくなる。また、下限を上記範囲内とすれば、経済的に有利で、かつ副生物の生成も抑制され、電気特性の観点からも好ましいものとなる。
(水素化物)
本発明の製造方法においては、反応系に水素化物を共存させることが好ましい。用いることができる水素化物は任意であるが、通常、共有結合性の水素化物以外の水素化物を用いる。例としては塩型水素化物、金属水素化物等が挙げられる。これらのうち、安定性においては塩型水素化物が好ましく、反応性においては金属水素化物が好ましい。中でも、アルカリ金属の水素化物、アルカリ土類金属の水素化物が好ましく、アルカリ金属の水素化物が特に好ましい。
アルカリ金属の水素化物としては、例えば、水素化リチウム、水素化アルミニウムリチウム、水素化ナトリウム、水素化ホウ素ナトリウム、水素化カリウム、水素化セシウム等が挙げられる。アルカリ土類金属の水素化物としては、例えば、水素化マグネシウム、水素化カルシウム等が挙げられる。これらの中でも、水素化ナトリウム、水素化カリウムが好ましく、水素化ナトリウムが特に好ましい。
水素化物の使用量は、反応に使用する原料(原料アミン化合物、脱離基を有する有機化合物)や併用する金属触媒等の成分によっても異なり、特に制限するものではないが、一般的には、原料アミン化合物1モルに対し、通常0.1モル当量以上、好ましくは0.5モル当量以上、さらに好ましくは0.8モル当量以上、特に好ましくは1モル当量以上、また、通常2モル当量以下、好ましくは1.6モル当量以下、さらに好ましくは1.3モル当量以下、含有させる。下限を上記範囲とすれば、反応が良好に進行しやすくなる上に、副生成物の生成も抑制しやすくなり、得られるアミン化合物の着色も抑制しやすくなる。また、上限を上記範囲とすれば、生産性を確保しやすい上に、副生成物の生成も抑制しやすくなり、得られるアミン化合物の着色も抑制しやすくなる。
(溶媒)
原料アミン化合物と脱離基を有する有機化合物との反応は、通常は溶媒の存在下に実施される。反応用の溶媒としては、原料(原料アミン化合物、脱離基を有する有機化合物)を好適に溶解又は分散でき、かつこれらの原料、パラジウム化合物、及びリン化合物等の反応成分に対して不活性な有機溶媒であれば、任意の有機溶媒を使用することができる。
中でも、原料に対する溶解性の点からは、反応用溶媒として、芳香族系有機溶媒又はエーテル系有機溶媒を用いることが好ましく、芳香族系有機溶媒を用いるのがより好ましい。芳香族系有機溶媒の中では、トルエン、キシレン、トリメチルベンゼン等のアルキル置換ベンゼン化合物や、テトラリン等の縮合環系芳香族化合物が好ましい。一方、エーテル系有機溶媒としては、ジメチルエーテル(DME)、テトラヒドロフラン(THF)、モノグライム、ジグライム、トリグライム、ジオキサン等が好ましい。その他、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジクロロメタン、N−メチルピロリドン等を用いることも好ましい。
反応用溶媒を用いる場合、その使用量は特に制限されないが、全原料(原料アミン化合物及び脱離基を有する有機化合物)に対する重量比の値で、通常30重量%以上、好ましくは50重量%以上、また、通常1000重量%以下、好ましくは500重量%以下の範囲である。上記下限の範囲とすれば、原料等の分散性が良好になりやすく、反応が進行しやすくなる。また、上記上限の範囲とすれば、反応速度を確保しやすく、製造コストの上昇も抑えることができ産業上有利となる。
(合成反応)
反応を行なう手順は特に制限されないが、通常は反応容器中で、パラジウム化合物、リン化合物、及び必要に応じて塩基や水素化物、溶媒の存在下で、脱離基を有する有機化合物と、原料アミン化合物とを反応させればよい。
個々の成分を加える順序は特に制限されない。例えば、原料アミン化合物と脱離基を有する有機化合物とを溶媒の存在下で混合して反応系溶液を作製し、この反応系溶液にパラジウム化合物、リン化合物、及び必要に応じて用いられる塩基や水素化物を加えて反応を開始させればよい。また、例えば、パラジウム化合物とリン化合物とを溶媒の存在下で混合させた後、これに原料アミン化合物、脱離基を有する有機化合物、及び必要に応じて用いられる塩基や水素化物を加えて反応を開始させてもよい。
また、合成反応時に塩基として金属アルコキシドを用いる場合には、反応を効率的に進める観点から、系中に発生する塩基由来の低沸点成分を系外に早期に、強制的に排出することも有効である。排出を行なうには窒素フローを用いると有効である。合成反応を窒素フロー(窒素流通)下で行なう場合、その窒素流通量は、反応容器の体積に対して、1分当たり通常0.0001%以上、好ましくは0.001%以上、また、通常5%以下、好ましくは3%以下の範囲である。利用する窒素は高純度のものが好ましいが、安価製造の為には、液体窒素から発生する窒素を利用しても構わない。
反応時の温度は特に制限されないが、通常100℃以上、好ましくは140℃以上、また、通常250℃以下、好ましくは200℃以下の範囲である。反応時の温度の下限を上記範囲とすることにより、反応速度を確保しやすく、原料を完全に反応させやすくなる。また、反応時の温度の上限を上記範囲とすることにより、副生成物の生成を抑制しやすくなり、得られるアミン化合物の純度も高く、精製が容易となりやすい。
反応時間は特に制限されないが、反応が終点に達するまで(即ち、ほぼ全ての原料が反応して、残存する原料が実質的に無くなるまで)行えばよい。反応が終点に達したか否かは、高速液体クロマトグラフィー等の手法により確認することができる。
反応終了後、反応系溶液から過剰の塩基等を除去するために、濾過等の方法により分離することが好ましい。また、精製水を用いて溶媒分画することによって、無機成分を除去することもできる。
反応系溶液から粗生成物を得るには、例えば、反応系溶媒を冷却する方法、或いは反応系溶媒とは混和するが粗生成物の溶解度は低い溶媒を加えて粗生成物を固体化し、これを濾過して分離する方法等が挙げられる。
[アミン化合物]
本発明のアミン化合物は、上記説明した製造方法により製造される。こうして得られたアミン化合物は、電気特性に優れ、電子材料用途に好ましく用いられる。電子材料用途としては、特に制限はないが、例えば、有機EL(Organic Electro−Luminescence)用の材料や、電子写真感光体用の材料を挙げることができる。特に、本発明のアミン化合物を電子写真感光体用の材料に用いたときに、その効力を顕著に発揮しやすくなる。
本発明の効果が顕著に現れるアミン化合物としては、トリアリールアミン系化合物を例示することができる。こうしたトリアリールアミン系化合物の具体例としては例えば、一般式(1)ないし(2)で表される構造が挙げられる。
一般式(1)及び一般式(2)中、A〜Iで表わされる環は、それぞれ独立して、置換基を有してもよい芳香族環を表わす。該芳香族環としては、芳香族環を含むものであればナフタレン環、ピレン環のような、縮合環であっても、アズレン環、フルオレン環のような芳香族環以外の環を含むものであっても構わない。好ましい芳香族環としては、ベンゼン環が挙げられる。個々の芳香族環が有していてもよい置換基の種類は特に制限されない。こうした置換基の種類としては、例えば、原料アミン化合物の説明において例示した各種の置換基も挙げられるが、炭化水素基、アルコキシ基、アリールオキシ基が好ましい。炭化水素基の例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アルキルアリール基等が挙げられる。炭化水素基の炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは10以下の範囲である。炭化水素基として、アルキル基を用いることが好ましい。アルキル基の例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基等の直鎖状アルキル基、イソプロピル基等の分岐アルキル基、シクロヘキシル基等の環状アルキル基が挙げられ、炭素数は通常1以上、また、通常20以下、好ましくは10以下の範囲である。アルコキシ基の例としては、メトキシ基、エトキシ基等が挙げられ、炭素数は、通常1以上、また、通常20以下、好ましくは10以下の範囲である。アリールオキシ基の例としては、フェノキシ基、ナフトキシ基等が挙げられ、炭素数は、通常6以上、また、通常25以下、好ましくは20以下の範囲である。これらの置換基の中でも電子写真感光体の特性を考慮すると、炭化水素基、アルコキシ基が好ましい。より好ましくは、炭素数3以下のアルキル基、炭素数3以下のアルコキシ基であり、アリールアミン化合物の電荷輸送能の面から、メチル基、エチル基、メトキシ基がより好ましく、メチル基、メトキシ基がさらに好ましい。
これらの置換基は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、更に他の有機基により置換されていても構わない。この有機基の例としては、原料アミン化合物の説明において例示した各種の置換基が挙げられる。
個々のベンゼン環が有する置換基の数は、通常0〜4、中でも0〜2の範囲が好ましい。複数の置換基を有する場合は、これらが互いに連結基を介して、又は直接結合して環構造を形成しても構わない。
以下に、本発明の製造方法によって製造され、電子材料用途に用いられるアミン化合物の具体例(より具体的には、トリアリールアミン系化合物の例示)を示すが、本発明の製造方法によって製造されるアミン化合物は、これらの例に限定されるものではない。
これらの中でも、本発明の効果が特に顕著に現れる例としては、テトラフェニルベンジジン構造を有するもの、トリフェニルアミン構造を有するもの等が挙げられる。
また、上に例示したトリアリールアミン系化合物や、その他の各種のアミン化合物の合成過程における中間体を製造するために、本発明の製造方法を用いてもよい。
本発明の製造方法により得られたアミン化合物は、各種の電気特性に優れている。これは、アミン化合物の電気特性に影響を及ぼす不純物の含有率が低いためであると考えられる。よって、煩雑な分離・精製の作業を行なわなくとも、そのまま或いは簡単な精製操作を加えただけで、各種の電子材料として使用することができる。こうした電子材料の具体的な用途としては、前述のとおり、有機EL素子等の表示素子に用いられる材料、電子写真感光体の感光層に用いられる材料等、有機材料に所望の電気特性が必要とされる用途を挙げることができる。
中でも、上に例示したものに代表されるトリアリールアミン系化合物(以下、適宜「本発明のトリアリールアミン化合物」と略称する。)は、電荷輸送物質として、電子写真感光体の感光層等に好適に用いることが可能である。そこで、以下、本発明のアミン化合物の適用例として、本発明のアミン化合物を用いた、電子写真感光体及び画像形成装置の詳細について説明する。
[電子写真感光体]
本発明の電子写真感光体は、上記説明した製造方法で製造されたアミン化合物を含有する感光層を有する。より具体的には、本発明の電子写真感光体は、導電性支持体上に感光層が設けられたものであって、本発明のアミン化合物を、感光層中に含有するものである。特に、上に説明したトリアリールアミン系化合物(本発明のトリアリールアミン化合物)を、電荷輸送物質として感光層中に含有することが好ましい。
導電性支持体としてアルミニウム合金等の金属材料を用いた場合、陽極酸化処理を施してから用いてもよい。陽極酸化処理を施す場合、公知の方法により封孔処理を施すのが望ましい。例えば、クロム酸、硫酸、シュウ酸、ホウ酸、スルファミン酸等の酸性浴中で、陽極酸化処理することにより陽極酸化被膜が形成されるが、硫酸中での陽極酸化処理がより良好な結果を与える。硫酸中での陽極酸化の場合、硫酸濃度は100〜300g/l、溶存アルミニウム濃度は2〜15g/l、液温は15〜30℃、電解電圧は10〜20V、電流密度は0.5〜2A/dm2の範囲内に設定されるのが好ましいが、前記条件に限定されるものではない。
このようにして形成された陽極酸化被膜に対して、封孔処理を行うことが好ましい。封孔処理は、公知の方法で行なえばよいが、例えば、主成分としてフッ化ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる低温封孔処理、あるいは主成分として酢酸ニッケルを含有する水溶液中に浸漬させる高温封孔処理を施すのが好ましい。
上記低温封孔処理の場合に使用されるフッ化ニッケル水溶液濃度は、適宜選べるが、3〜6g/lの範囲で使用された場合、より好ましい結果が得られる。また、封孔処理をスムーズに進めるために、処理温度としては、通常25℃以上、好ましくは30℃以上、また、通常40℃以下、好ましくは35℃以下の範囲で、また、フッ化ニッケル水溶液pHは、通常4.5以上、好ましくは5.5以上、また、通常6.5以下、好ましくは6.0以下の範囲で処理するのがよい。pH調節剤としては、シュウ酸、ホウ酸、ギ酸、酢酸、水酸化ナトリウム、酢酸ナトリウム、アンモニア水等を用いることができる。処理時間は、被膜の膜厚1μmあたり1〜3分の範囲で処理することが好ましい。なお、被膜物性を更に改良するためにフッ化コバルト、酢酸コバルト、硫酸ニッケル、界面活性剤等をフッ化ニッケル水溶液に添加しておいてもよい。次いで水洗、乾燥して低温封孔処理を終える。前記高温封孔処理の場合の封孔剤としては、酢酸ニッケル、酢酸コバルト、酢酸鉛、酢酸ニッケル−コバルト、硝酸バリウム等の金属塩水溶液を用いることができるが、特に酢酸ニッケルを用いるのが好ましい。酢酸ニッケル水溶液を用いる場合の濃度は5〜20g/lの範囲内で使用するのが好ましい。処理温度は通常80℃以上、好ましくは90℃以上、また、通常100℃以下、好ましくは98℃以下の範囲で、また、酢酸ニッケル水溶液のpHは5.0〜6.0の範囲で処理するのが好ましい。ここでpH調節剤としてはアンモニア水、酢酸ナトリウム等を用いることができる。処理時間は10分以上、好ましくは15分以上処理するのが好ましい。なお、この場合も被膜物性を改良するために酢酸ナトリウム、有機カルボン酸、アニオン系、ノニオン系界面活性剤等を酢酸ニッケル水溶液に添加してもよい。更に、塩類を含まない高温水や高温水蒸気等により処理してもよい。次いで水洗、乾燥して高温封孔処理を終える。平均膜厚が厚い場合には、封孔液の高濃度化、高温・長時間処理により強い封孔条件を必要とする。従って生産性が悪くなると共に、被膜表面にシミ、汚れ、粉ふきといった表面欠陥を生じ易くなる。このような点から、陽極酸化被膜の平均膜厚は通常20μm以下、特に7μm以下で形成されることが好ましい。
支持体表面は、平滑であってもよいし、特別な切削方法を用いたり、研磨処理したりすることにより、粗面化されていてもよい。また、支持体を構成する材料に適当な粒径の粒子を混合することによって、粗面化されたものであってもよい。また、安価化のためには切削処理を施さず、引き抜き管をそのまま使用することも可能である。特に引き抜き加工、インパクト加工、しごき加工等の非切削アルミニウム支持体を用いる場合、処理により、表面に存在した汚れや異物等の付着物、小さな傷等が無くなり、均一で清浄な支持体が得られるので好ましい。
導電性支持体と感光層との間には、接着性・ブロッキング性等の改善のため、下引き層を設けてもよい。下引き層としては、樹脂、樹脂に金属酸化物等の粒子を分散したもの等が用いられる。
下引き層に用いる金属酸化物粒子の例としては、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛、酸化鉄等の1種の金属元素を含む金属酸化物粒子、チタン酸カルシウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸バリウム等の複数の金属元素を含む金属酸化物粒子が挙げられる。一種類の粒子のみを用いてもよいし複数の種類の粒子を混合して用いてもよい。これらの金属酸化物粒子の中で、酸化チタン及び酸化アルミニウムが好ましく、特に酸化チタンが好ましい。酸化チタン粒子は、その表面に、酸化錫、酸化アルミニウム、酸化アンチモン、酸化ジルコニウム、酸化珪素等の無機物、又はステアリン酸、ポリオール、シリコーン等の有機物による処理を施されていてもよい。酸化チタン粒子の結晶型としては、ルチル、アナターゼ、ブルッカイト、アモルファスの何れも用いることができる。複数の結晶状態のものが含まれていてもよい。
また、金属酸化物粒子の粒径としては、種々のものが利用できるが、中でも特性及び液の安定性の面から、平均一次粒径として通常1nm以上、特に10nm以上、また、通常100nm以下、特に50nm以下の範囲が好ましい。
下引き層は、金属酸化物粒子をバインダー樹脂に分散した形で形成するのが望ましい。下引き層に用いられるバインダー樹脂としては、例えば、フェノキシ、エポキシ、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアルコール、カゼイン、ポリアクリル酸、セルロース類、ゼラチン、デンプン、ポリウレタン、ポリイミド、ポリアミド等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、二以上を任意の組み合わせで用いてもよい。また、硬化剤と共に硬化した形で使用してもよい。中でも、アルコール可溶性の共重合ポリアミド、変性ポリアミド等は、良好な分散性・塗布性を示すので好ましい。
下引き層に用いられるバインダー樹脂に対する無機粒子の添加比は任意に選択すればよいが、通常は10重量%以上、500重量%以下の範囲で使用することが、分散液の安定性、塗布性の面で好ましい。
下引き層の膜厚は任意に選ぶことができるが、感光体特性及び塗布性を向上させる観点 から、通常は0.1μm以上、20μm以下の範囲が好ましい。また、下引き層には、公知の酸化防止剤等を添加してもよい。
導電性支持体上に形成される感光層の型式としては、電荷発生物質と電荷輸送物質とが同一層に存在し、バインダー樹脂中に分散された単層型と、電荷発生物質がバインダー樹脂中に分散された電荷発生層及び電荷輸送物質がバインダー樹脂中に分散された電荷輸送層の二層からなる積層型とが挙げられるが、何れであってもよい。一般に電荷輸送物質は、単層型でも積層型でも、電荷移動機能としては同等の性能を示すことが知られている。
電荷発生物質としては、例えばセレン及びその合金、硫化カドミウム、その他の無機系光導電材料や、フタロシアニン顔料、アゾ顔料、ジチオケトピロロピロール顔料、スクアレン(スクアリリウム)顔料、キナクリドン顔料、インジゴ顔料、ペリレン顔料、多環キノン顔料、アントアントロン顔料、ベンズイミダゾール顔料等の有機顔料等、各種の光導電材料が使用できる。中でも有機顔料が好ましい。
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、これらの微粒子を、例えばポリビニルアセテート、ポリアクリル酸エステル、ポリメタクリル酸エステル、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリビニルアセトアセタール、ポリビニルプロピオナール、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、セルロースエステル、セルロースエーテル等の各種バインダー樹脂で結着した形で使用する。有機顔料の使用比率は、積層型感光体の場合、バインダー樹脂100重量部に対して通常30重量部以上、500重量部以下の範囲で使用され、その膜厚は通常0.1μm以上、好ましくは0.15μm以上、また、通常1μm以下、好ましくは0.6μm以下の範囲が好適である。また、単層型感光体の場合は、バインダー樹脂100重量部に対して通常0.1重量部以上、好ましくは1重量部以上、また、通常30重量部以下、好ましくは10重量部以下の範囲で使用される。
電荷発生物質として有機顔料を使用する場合、特にフタロシアニン顔料又はアゾ顔料が好ましい。フタロシアニン顔料は、比較的長波長のレーザー光に対して高感度の感光体が得られる点で、また、アゾ顔料は、白色光及び比較的短波長のレーザー光に対し十分な感度を持つ点で、それぞれ優れている。
電荷発生物質としてフタロシアニン化合物を用いる場合、具体的には、無金属フタロシアニン、銅、インジウム、ガリウム、錫、チタン、亜鉛、バナジウム、シリコン、ゲルマニウム等の金属、又はその酸化物、ハロゲン化物、水酸化物、アルコキシド等の配位したフタロシアニン類の各種結晶型が使用される。特に、感度の高い結晶型であるX型、τ型無金属フタロシアニン、A型(別称β型)、B型(別称α型)、D型(別称Y型)等のチタニルフタロシアニン(別称:オキシチタニウムフタロシアニン)、バナジルフタロシアニン、クロロインジウムフタロシアニン、II型等のクロロガリウムフタロシアニン、V型等のヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型,I型等のμ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体、II型等のμ−オキソ−アルミニウムフタロシアニン二量体が好適である。なお、これらのフタロシアニンの中でも、A型(β型)、B型(α型)及びD型(Y型)チタニルフタロシアニン、II型クロロガリウムフタロシアニン、V型ヒドロキシガリウムフタロシアニン、G型μ−オキソ−ガリウムフタロシアニン二量体等が特に好ましい。
また、フタロシアニン類の中でも、CuKα特性X線に対するX線回折スペクトルのブラッグ角(2θ±0.2°)が、27.2°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニン、9.3°,13.2°,26.2°及び27.1°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニン、9.2,14.1,15.3,19.7,27.1°に主たる回折ピークを有するジヒドロキシシリコンフタロシアニン、8.5°,12.2°,13.8°,16.9°,22.4°,28.4°及び30.1°に主たる回折ピークを示すジクロロスズフタロシアニン、7.5°,9.9°,12.5°,16.3°,18.6°,25.1°及び28.3°に主たる回折ピークを示すヒドロキシカリウムフタロシアニン、並びに、7.4°,16.6°,25.5°及び28.3°に回折ピークを示すクロロガリウムフタロシアニンが好ましい。これらの中でも、27.2°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニンが特に好ましく、この場合、9.5°、24.1°及び27.2°に主たる回折ピークを示すオキシチタニウムフタロシアニンがとりわけ好ましい。
フタロシアニン化合物は単一の化合物のもののみを用いてもよいし、いくつかの混合あるいは混晶状態でもよい。ここでのフタロシアニン化合物ないしは結晶状態に置ける混合状態として、それぞれの構成要素を後から混合して用いてもよいし、合成、顔料化、結晶化等のフタロシアニン化合物の製造・処理工程において混合状態を生じさせたものでもよい。このような処理としては、酸ペースト処理・磨砕処理・溶剤処理等が知られている。混晶状態を生じさせるためには、特開平10−48859号公報記載のように、2種類の結晶を混合後に機械的に摩砕、不定形化した後に、溶剤処理によって特定の結晶状態に変換する方法が挙げられる。
電荷発生物質としてアゾ顔料を使用する場合、具体例としては、モノアゾ、ビスアゾ、トリスアゾ、ポリアゾ類等が挙げられるが、中でも、従来公知の各種のビスアゾ顔料、トリスアゾ顔料が好適に用いられる。好ましいアゾ顔料の例を以下に示す。
電荷輸送物質としては、上述した本発明のアミン化合物を用いる。より好ましくは、本発明のトリアリールアミン化合物を用いる。こうしたアミン化合物は、何れか1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で用いてもよい。
また、本発明のアミン化合物に加えて、公知の他の電荷輸送物質を併用してもよい。他の電荷輸送物質を併用する場合、その種類は特に制限されないが、例えばカルバゾール誘導体、ヒドラゾン化合物、芳香族アミン誘導体、スチルベン誘導体、ブタジエン誘導体及びこれらの誘導体が複数結合されたものが好ましい。更に具体的には、特開平2−230255号、特開昭63−225660号、特開昭58−198043号、特公昭58−32372号、及び特公平7−21646号の各公報に記載の化合物が好ましく使用される。
感光層の形成に際しては、膜強度確保のために、バインダー樹脂が使用される。この場合、感光層は上記電荷輸送物質等とバインダーポリマーを溶剤に溶解あるいは分散して得られる塗布液を塗布、乾燥して得ることができる。バインダー樹脂としては、例えばブタジエン、スチレン、酢酸ビニル、塩化ビニル、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルアルコール、エチルビニルエーテル等のビニル化合物の重合体及び共重合体、ポリビニルブチラール、ポリビニルホルマール、部分変性ポリビニルアセタール、ポリカーボネート、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリウレタン、セルロースエーテル、フェノキシ樹脂、ケイ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリ−N−ビニルカルバゾール樹脂等が挙げられる。このうちポリカーボネート、ポリアリレートが特に好ましい。なお、これらは適当な硬化剤等を用いて熱、光等により架橋させて用いることもできる。これらのバインダーは2種類以上をブレンドして用いることもできる。
バインダー樹脂と電荷輸送物質との割合は、単層型・積層型ともに、バインダー樹脂100重量部に対して通常20重量部以上、更に残留電位低減の観点から30部以上が好ましく、更に繰り返し使用した際の安定性、電荷移動度の観点から、40部以上がより好ましい。また、一方で感光層の熱安定性の観点から、通常は150重量部以下、更に電荷輸送物質とバインダー樹脂の相溶性の観点から好ましくは110重量部以下、更に耐刷性の観点から80重量部以下がより好ましく、耐傷性の観点からは70重量部以下が最も好ましい。また、電荷輸送層の膜厚は通常5μm以上、通常50μm以下の範囲、長寿命化、画像安定性の観点からは10μm以上、45μm以下の範囲が好ましく、高解像度化の観点からは10μm以上、30μm以下の範囲がより好ましい。
なお、感光層には成膜性、可撓性、塗布性、耐汚染性、耐ガス性、耐光性等を向上させるために周知の酸化防止剤、可塑剤、紫外線吸収剤、電子吸引性化合物、レベリング剤等の添加物を含有させてもよい。
単層型感光体の場合には、上記のような配合比の電荷輸送媒体中に、更に前出の電荷発生物質が分散される。その場合の電荷発生物質の粒子径は充分小さいことが必要であり、好ましくは1μm以下、より好ましくは0.5μm以下で使用される。感光層内に分散される電荷発生物質の量は、少な過ぎると充分な感度が得られない一方で、多過ぎると帯電性の低下・感度の低下等の弊害があることから、通常0.5重量%以上、好ましくは1重量%以上、また、通常50重量%以下、好ましくは20重量%以下の範囲で使用される。単層型感光層の膜厚は、通常5μm以上、好ましくは10μm以上、また、通常100μm以下、好ましくは50μm以下の範囲である。
積層型又は単層型の感光層の上に、感光層の損耗を防止したり、帯電器等から発生する放電生成物等による感光層の劣化を防止・軽減する目的で、保護層を設けてもよい。
なお、感光体の表面に当たる層には、感光体表面の摩擦抵抗や摩耗を軽減する目的で、フッ素系樹脂、シリコーン樹脂等を含有させてもよい。また、これらの樹脂からなる粒子や無機化合物の粒子を含有させてもよい。
塗布液の作製に用いられる溶媒又は分散媒としては、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、ジメトキシエタン等のエーテル類、ギ酸メチル、酢酸エチル、等のエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、4−メチル−4−メトキシ−2−ペンタノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2−トリクロロエタン、1,1,1−トリクロロエタン、テトラクロロエタン、1,2−ジクロロプロパン、トリクロロエチレン等の塩素化炭化水素類、n−ブチルアミン、イソプロパノールアミン、ジエチルアミン、トリエタノールアミン、エチレンジアミン、トリエチレンジアミン等の含窒素化合物類、アセトニトリル、N−メチルピロリドン、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド等の非プロトン性極性溶剤類等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせで併用してもよい。
なお、塗布液又は分散液の作製において、単層型感光層、及び、積層型感光層の電荷輸送層の場合には、固形分濃度を好ましくは10重量%以上、また、好ましくは40重量%以下、更に好ましくは35重量%以下の範囲とすると共に、粘度を好ましくは50cps以上、また、好ましくは400cps以下の範囲とし、積層型感光層の電荷発生層の場合には、固形分濃度を好ましくは1重量%以上、また、好ましくは15重量%以下、更に好ましくは10重量%以下の範囲とし、粘度を好ましくは0.1cps以上、また、好ましくは10cps以下の範囲とする。
なお、以上の説明では、本発明のアミン化合物を電荷輸送物質として用いた場合について説明したが、本発明のアミン化合物の含有形態はこれに制限されるものではなく、様々な目的で感光層に含有させることが可能である。例えば、上記の例示化合物(T−28)等は、感光層の酸化防止剤として用いることができる。
[画像形成装置]
本発明の画像形成層値は、上記説明した電子写真感光体を使用するものである。次に、本発明の電子写真感光体を用いた画像形成装置の実施の形態について、装置の要部構成を示す図1を用いて説明する。但し、実施の形態は以下の説明に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り任意に変形して実施することができる。
図1に示すように、画像形成装置は、電子写真感光体1、帯電装置2、露光装置3及び現像装置4を備えて構成され、更に、必要に応じて転写装置5、クリーニング装置6及び定着装置7が設けられる。
電子写真感光体1は、上述した本発明の電子写真感光体であれば特に制限はないが、図1ではその一例として、円筒状の導電性支持体の表面に上述した感光層を形成したドラム状の感光体を示している。この電子写真感光体1の外周面に沿って、帯電装置2、露光装置3、現像装置4、転写装置5及びクリーニング装置6がそれぞれ配置されている。
帯電装置2は、電子写真感光体1を帯電させるもので、電子写真感光体1の表面を所定電位に均一帯電させる。図1では帯電装置2の一例としてローラ型の帯電装置(帯電ローラ)を示しているが、他にもコロトロンやスコロトロン等のコロナ帯電装置、帯電ブラシ等の接触型帯電装置等がよく用いられる。
なお、電子写真感光体1及び帯電装置2は、多くの場合、この両方を備えたカートリッジ(以下適宜、感光体カートリッジという)として、画像形成装置の本体から取り外し可能に設計されている。ここで、感光体カートリッジの電子写真感光体1として本発明の電子写真感光体を使用している。そして、例えば電子写真感光体1や帯電装置2が劣化した場合に、この感光体カートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しい感光体カートリッジを画像形成装置本体に装着することができるようになっている。また、後述するトナーについても、多くの場合、トナーカートリッジ中に蓄えられて、画像形成装置本体から取り外し可能に設計され、使用しているトナーカートリッジ中のトナーが無くなった場合に、このトナーカートリッジを画像形成装置本体から取り外し、別の新しいトナーカートリッジを装着することができるようになっている。更に、電子写真感光体1、帯電装置2、トナーが全て備えられたカートリッジを用いることもある。
露光装置3は、電子写真感光体1に露光を行なって電子写真感光体1の感光面に静電潜像を形成することができるものであれば、その種類に特に制限はない。具体例としては、ハロゲンランプ、蛍光灯、半導体レーザーやHe−Neレーザー等のレーザー、LED等が挙げられる。また、感光体内部露光方式によって露光を行なうようにしてもよい。露光を行なう際の光は任意であるが、例えば波長が780nmの単色光、波長600nm〜700nmのやや短波長寄りの単色光、波長380nm〜500nmの短波長の単色光等で露光を行なえばよい。
現像装置4は、その種類に特に制限はなく、カスケード現像、一成分導電トナー現像、二成分磁気ブラシ現像等の乾式現像方式や、湿式現像方式等の任意の装置を用いることができる。図1では、現像装置4は、現像槽41、アジテータ42、供給ローラ43、現像ローラ44、及び、規制部材45からなり、現像槽41の内部にトナーTを貯留している構成となっている。また、必要に応じ、トナーTを補給する補給装置(図示せず)を現像装置4に付帯させてもよい。この補給装置は、ボトル、カートリッジ等の容器からトナーTを補給することが可能に構成される。
供給ローラ43は、導電性スポンジ等から形成される。現像ローラ44は、鉄、ステンレス鋼、アルミニウム、ニッケル等の金属ロール、又はこうした金属ロールにシリコーン樹脂、ウレタン樹脂、フッ素樹脂等を被覆した樹脂ロール等からなる。この現像ローラ44の表面には、必要に応じて、平滑加工や粗面加工を加えてもよい。
現像ローラ44は、電子写真感光体1と供給ローラ43との間に配置され、電子写真感光体1及び供給ローラ43に各々当接している。供給ローラ43及び現像ローラ44は、回転駆動機構(図示せず)によって回転される。供給ローラ43は、貯留されているトナーTを担持して、現像ローラ44に供給する。現像ローラ44は、供給ローラ43によって供給されるトナーTを担持して、電子写真感光体1の表面に接触させる。
規制部材45は、シリコーン樹脂やウレタン樹脂等の樹脂ブレード、ステンレス鋼、アルミニウム、銅、真鍮、リン青銅等の金属ブレード、又はこうした金属ブレードに樹脂を被覆したブレード等により形成されている。この規制部材45は、現像ローラ44に当接し、ばね等によって現像ローラ44側に所定の力で押圧(一般的なブレード線圧は5〜500g/cm)される。必要に応じて、この規制部材45に、トナーTとの摩擦帯電によりトナーTに帯電を付与する機能を具備させてもよい。
アジテータ42は、回転駆動機構によってそれぞれ回転されており、トナーTを攪拌すると共に、トナーTを供給ローラ43側に搬送する。アジテータ42は、羽根形状、大きさ等を違えて複数設けてもよい。
トナーTの種類は任意であり、粉状トナーのほか、懸濁重合法や乳化重合法等を用いた重合トナー等を用いることができる。特に、重合トナーを用いる場合には径が4〜8μm程度の小粒径のものが好ましく、また、トナーの粒子の形状も球形に近いものからポテト状の球形から外れたものまで様々に使用することができる。重合トナーは、帯電均一性、転写性に優れ、高画質化に好適に用いられる。
転写装置5は、その種類に特に制限はなく、コロナ転写、ローラ転写、ベルト転写等の静電転写法、圧力転写法、粘着転写法等、任意の方式を用いた装置を使用することができる。ここでは、転写装置5が電子写真感光体1に対向して配置された転写チャージャー、転写ローラ、転写ベルト等から構成されるものとする。この転写装置5は、トナーTの帯電電位とは逆極性で所定電圧値(転写電圧)を印加し、電子写真感光体1に形成されたトナー像を記録紙(用紙、媒体)Pに転写するものである。
クリーニング装置6について特に制限はなく、ブラシクリーナー、磁気ブラシクリーナー、静電ブラシクリーナー、磁気ローラクリーナー、ブレードクリーナー等、任意のクリーニング装置を用いることができる。クリーニング装置6は、感光体1に付着している残留トナーをクリーニング部材で掻き落とし、残留トナーを回収するものである。但し、感光体表面に残留するトナーが少ないか、ほとんど無い場合には、クリーニング装置6は無くても構わない。
定着装置7は、上部定着部材(加圧ローラ)71及び下部定着部材(定着ローラ)72から構成され、定着部材71又は72の内部には加熱装置73がそなえられている。なお、図1では、上部定着部材71の内部に加熱装置73がそなえられた例を示す。上部及び下部の各定着部材71,72は、ステンレス、アルミニウム等の金属素管にシリコンゴムを被覆した定着ロール、更にテフロン(登録商標)樹脂で被覆した定着ロール、定着シート等が公知の熱定着部材を使用することができる。更に、各定着部材71,72は、離型性を向上させるためにシリコーンオイル等の離型剤を供給する構成としてもよく、バネ等により互いに強制的に圧力を加える構成としてもよい。
記録紙P上に転写されたトナーは、所定温度に加熱された上部定着部材71と下部定着部材72との間を通過する際、トナーが溶融状態まで熱加熱され、通過後冷却されて記録紙P上にトナーが定着される。
なお、定着装置についてもその種類に特に限定はなく、ここで用いたものをはじめ、熱ローラ定着、フラッシュ定着、オーブン定着、圧力定着等、任意の方式による定着装置を設けることができる。
以上のように構成された電子写真装置では、次のようにして画像の記録が行なわれる。即ち、まず感光体1の表面(感光面)が、帯電装置2によって所定の電位(例えば−600V)に帯電される。この際、直流電圧により帯電させてもよく、直流電圧に交流電圧を重畳させて帯電させてもよい。
続いて、帯電された感光体1の感光面を、記録すべき画像に応じて露光装置3により露光し、感光面に静電潜像を形成する。そして、その感光体1の感光面に形成された静電潜像の現像を、現像装置4で行なう。
現像装置4は、供給ローラ43により供給されるトナーTを、規制部材(現像ブレード)45により薄層化すると共に、所定の極性(ここでは感光体1の帯電電位と同極性であり、負極性)に摩擦帯電させ、現像ローラ44に担持しながら搬送して、感光体1の表面に接触させる。
現像ローラ44に担持された帯電トナーTが感光体1の表面に接触すると、静電潜像に対応するトナー像が感光体1の感光面に形成される。そしてこのトナー像は、転写装置5によって記録紙Pに転写される。この後、転写されずに感光体1の感光面に残留しているトナーが、クリーニング装置6で除去される。
トナー像の記録紙P上への転写後、定着装置7を通過させてトナー像を記録紙P上へ熱定着することで、最終的な画像が得られる。
なお、画像形成装置は、上述した構成に加え、例えば除電工程を行なうことができる構成としてもよい。除電工程は、電子写真感光体に露光を行なうことで電子写真感光体の除電を行なう工程であり、除電装置としては、蛍光灯、LED等が使用される。また除電工程で用いる光は、強度としては露光光の3倍以上の露光エネルギーを有する光である場合が多い。
また、画像形成装置は更に変形して構成してもよく、例えば、前露光工程、補助帯電工程等の工程を行なうことができる構成としたり、オフセット印刷を行なう構成としたり、更には複数種のトナーを用いたフルカラータンデム方式の構成としてもよい。
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳細に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しない限り、以下の実施例に制約されるものではない。なお、下記実施例で「部」とは「重量部」のことを示す。
(実施例1:例示化合物T−20の製造)
上記例示されたアミン化合物のうちの例示化合物T−20(トリフェニルアミン)を合成した。具体的には、20mlシュレンク管に、室温、窒素下で、パラジウム化合物として酢酸パラジウム0.1mmol(0.02g)、リン化合物として例示化合物(L−1)0.2mmol(0.22g)、及びトルエン7mlを仕込み、バス40℃で10分加熱攪拌した。これに、脱離基を有する有機化合物(臭化ベンゼン類)としてブロモベンゼン6mmol(0.79g)、塩基としてナトリウムtert−ブトキシド(tert−ブトキシナトリウム)を6mmol(0.61g)、原料アミン化合物としてジフェニルアミン5mmol(0.85g)を加え、110℃で5時間トルエン還流させた。反応式を以下に示す。
反応液をGC検量した結果、ジフェニルアミン転化率は96%、トリフェニルアミンは収率91%であった。したがって、選択率(収率/転化率)は95%となる。以上の結果を表−1に示す。
(実施例2〜5:例示化合物T−20の製造)
ブロモベンゼンを5mmol(0.79g)にしたこと、さらに、リン化合物の種類・使用量、溶媒の種類、反応温度、及び反応時間を表−1に示すようにしたこと、以外は実施例1と同様にして合成を行った。ジフェニルアミン転化率、トリフェニルアミン収率、及び選択率を表−1に示す。
(実施例6〜15、比較例1:例示化合物T−24の製造)
上記例示されたアミン化合物のうちの例示化合物T−24(N,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン)を合成した。具体的には、原料アミン化合物を4,4’−ジメチルジフェニルアミンとし、ブロモベンゼンの使用量を6mmolとしたこと、さらに、パラジウム化合物の種類・使用量、リン化合物の種類・使用量、塩基・水素化物の種類、溶媒の種類、反応温度、及び反応時間を表−1に示すようにしたこと、以外は実施例1と同様にして合成を行った。
4,4’−ジメチルジフェニルアミンの転化率、N,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン収率、選択率を表−1に示す。
(実施例16:例示化合物T−24の製造)
脱離基を有する有機化合物(ヨウ化ベンゼン類)をヨードベンゼン6mmolとしたこと、以外は実施例13と同様にして合成を行った。4,4’−ジメチルジフェニルアミンの転化率、N,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン収率、選択率を表−1に示す。
(比較例2:例示化合物T−24の製造)
脱離基を有する有機化合物(ヨウ化ベンゼン類)をヨードベンゼン6mmol、リン化合物をトリフェニルホスフィン0.8mmolとし、反応時間を5時間としたこと、以外は実施例13と同様にして合成を行った。4,4’−ジメチルジフェニルアミンの転化率、N,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン収率、選択率を表−1に示す。
(比較例3:例示化合物T−24の製造)
脱離基を有する有機化合物(臭化ベンゼン類)をブロモベンゼン6mmol、リン化合物をトリフェニルホスフィン0.8mmolとし、反応時間を5時間としたこと、以外は実施例13と同様にして合成を行った。4,4’−ジメチルジフェニルアミンの転化率、N,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン収率、選択率を表−1に示す。
(実施例17:例示化合物T−15の製造)
実施例16(ホスホロアミダイト*ヨードベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン35.0部、イソブチルアルデヒド11.4部、酢酸130部、メタンスルホン酸0.9部を混合し、55℃で8時間反応させた。反応終了後、析出固体を分離し、メタノール30部で洗浄し、減圧下乾燥させることにより、下記構造式(X)で表わされるアミン化合物(例示化合物T−15)の粗製物34.8部を得た。得られたアミン化合物の粗製物10部をトルエン60部に溶解させ、25℃で活性白土を2部添加し、30分間60℃で撹拌した後、保温下濾別した。その後、得られた濾液をメタノールにて再沈し、減圧下乾燥させることにより、白色粉末で下記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例18:例示化合物T−15の製造)
実施例13(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.7部を得た。
(比較例4:例示化合物T−15の製造)
比較例2(トリフェニルフォスフィン*ヨードベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(比較例5:例示化合物T−15の製造)
比較例3(トリフェニルフォスフィン*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例19:例示化合物T−29の製造)
実施例16(ホスホロアミダイト*ヨードベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリン39.8部、シクロヘキサノン25.0部、酢酸130部、メタンスルホン酸1.0部、トルエン7.0部を混合し、80℃で15時間反応させた。反応終了後、析出固体を分離し、メタノール30部で洗浄し、減圧下乾燥させることにより、下記構造式(Y)で表わされるアミン化合物(例示化合物T−29)の粗製物43.3部を得た。得られたアミン化合物の粗製物10部をトルエン80部に溶解させ、25℃で活性白土を2部添加し、30分間60℃で撹拌した後、保温下濾別した。その後、得られた濾液をメタノールにて再沈し、減圧下乾燥させることにより、白色粉末で下記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.7部を得た。
(実施例20:例示化合物T−29の製造)
実施例13(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(比較例6:例示化合物T−29の製造)
比較例2(トリフェニルフォスフィン*ヨードベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(比較例7:例示化合物T−29の製造)
比較例3(トリフェニルフォスフィン*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.7部を得た。
(実施例21〜24、比較例8〜11:電子写真感光体の評価)
(1)電子写真感光体の製造
(下引き層の形成)
平均一次粒子径40nmのルチル型酸化チタン(石原産業株式会社製「TTO55N」)と、該酸化チタンに対して3重量%のメチルジメトキシシラン(東芝シリコーン社製「TSL8117」)とを、ヘンシェルミキサーにて混合して得られた表面処理酸化チタン50部と、メタノール120部を混合してなる原料スラリー1kgを、直径約100μmのジルコニアビーズ(株式会社ニッカトー製 YTZ)を分散メディアとして、ミル容積約0.15Lの寿工業株式会社製ウルトラアペックスミル(UAM−015型)を用い、ロータ周速10m/秒、液流量10kg/時間の液循環状態で1時間分散処理し、酸化チタン分散液T1を作製した。
この酸化チタン分散液T1と、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒と、ε−カプロラクタム[下記式(A)で表わされる化合物]/ビス(4−アミノ−3−メチルシクロヘキシル)メタン[下記式(B)で表わされる化合物]/ヘキサメチレンジアミン[下記式(C)で表わされる化合物]/デカメチレンジカルボン酸[下記式(D)で表わされる化合物]/オクタデカメチレンジカルボン酸[下記式(E)で表わされる化合物]の組成モル比率が、60%/15%/5%/15%/5%からなる共重合ポリアミドのペレットと、を加熱しながら撹拌、混合してポリアミドペレットを溶解させた。次いで、このポリアミドペレットの溶解液に対して、出力1200Wの超音波発信器による超音波分散処理を1時間行った。最後に、ポリアミドペレットの溶解液を、孔径5μmのPTFE製メンブレンフィルター(アドバンテック製 マイテックス LC)により濾過し、表面処理酸化チタン/共重合ポリアミドを重量比が3/1であり、メタノール/1−プロパノール/トルエンの混合溶媒の重量比が7/1/2であって、含有する固形分の濃度が18.0重量%の下引き層形成用分散液A1を得た。
この下引き層形成用分散液A1に、陽極酸化されていないアルミニウムシリンダー(外径30mm、厚さ1.0mm、長さ351mm、表面粗さRa=0.02μm)を浸漬して、同アルミニウムシリンダーの表面に下引き層形成用分散液A1の塗布膜を浸積塗布により形成した。その後、この塗布膜を加熱乾燥して、乾燥後の膜厚が1.5μmとなるようにして、下引き層を形成した。
(電荷発生層の形成)
電荷発生物質として、オキシチタニウムフタロシアニン結晶(図2に示すようにCuKα特性X線に対するX線回折スペクトルにおいてブラック角(2θ±0.2°)に27.2°に主たる回折ピークを示す。)を用いた。このオキシチタニウムフタロシアニン結晶を20重量部を用い、これを1,2−ジメトキシエタン280重量部と混合し、サンドグラインドミルで2時間粉砕して微粒化分散処理を行って微細化処理液を得た。また、1,2−ジメトキシエタン253重量部及び4−メトキシ−4−メチル−2−ペンタノン85重量部の混合液に、ポリビニルブチラール(電気化学工業(株)社製、商品名「デンカブチラール」#6000C)10重量部を溶解させて、バインダー液を調製した。
上述の微粒化分散処理により得られた微細化処理液、上述のバインダー液、及び1,2−ジメトキシエタン230重量部を混合して、電荷発生層用塗布液を調製した。この電荷発生層用塗布液を、前記アルミニウムシリンダー(導電性支持体)上に形成された下引き層上に、浸漬塗布することにより、乾燥後の膜厚が0.4μmとなるように塗布し、乾燥させて電荷発生層を形成した。
(電荷輸送層の形成)
電荷輸送物質として、実施例17,18,19,20、比較例4,5,6,7で製造した電荷輸送物質(例示化合物T−15,T−29)をそれぞれ用いた。また、バインダー樹脂としては、以下に示す2,2−ビス(4―ヒドロキシ−3―メチルフェニル)プロパンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位(下記式(PA)で表わされる単位)51モル%と、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタンを芳香族ジオール成分とする繰り返し単位(下記式(PB)で表わされる単位)49モル%と、からなり、p−t−ブチルフェノールに由来する末端構造を有するポリカーボネート樹脂を用いた。そして、電荷輸送物質50重量部、バインダー樹脂100重量部、及びレベリング剤としてシリコーンオイル0.03重量部を、テトラヒドロフラン/トルエン(重量比8/2)混合溶媒640重量部に溶解させて電荷輸送層用塗布液を調整した。
この電荷輸送層用塗布液を、上記電荷発生層上に浸漬塗布して、乾燥後の膜厚が25μmとなるように塗布膜を形成し、乾燥させて電荷輸送層を形成した。
以上の工程を得て、積層型感光層を有する電子写真感光体(感光体番号:感光体A〜D、感光体RA〜RD)をそれぞれ製造した。各電子写真感光体の内訳は以下のとおりである。
感光体A(実施例21:実施例17の電荷輸送物質使用)
感光体B(実施例22:実施例18の電荷輸送物質使用)
感光体C(実施例23:実施例19の電荷輸送物質使用)
感光体D(実施例24:実施例20の電荷輸送物質使用)
感光体RA(比較例8:比較例4の電荷輸送物質使用)
感光体RB(比較例9:比較例5の電荷輸送物質使用)
感光体RC(比較例10:比較例6の電荷輸送物質使用)
感光体RD(比較例11:比較例7の電荷輸送物質使用)
(2)電気特性の評価
得られた電子写真感光体を、電子写真学会標準に従って作製された電子写真特性評価装置(続電子写真技術の基礎と応用、電子写真学会編、コロナ社、404〜405頁記載)に装着し、以下の手順に従って、帯電、露光、電位測定、除電のサイクルによる電気特性の評価を行なった。
感光体の初期表面電位が−700Vになるように帯電させ、ハロゲンランプの光を干渉フィルターで780nmの単色光としたものを照射して、表面電位が−350Vとなる時の照射エネルギー(半減露光エネルギー:E1/2)を測定した(μJ/cm2)。更に、除電光として660nmのLED光を照射し、その後の残留電位(Vr)を測定した。また、初期表面電位を−700Vにした後、暗所で5秒間放置した後の表面電位を測定し、その差を暗減衰(DD)とした。
感光体A〜D,RA〜RDの電気特性の評価結果を表−2に示す。また、対応する電荷輸送物質の製造条件として、電荷輸送物質の合成に使用したN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを合成する際に使用した脱離基を有する有機化合物、リン化合物の種類、及び電荷輸送物質の種類を併せて示す。
(実施例25〜28、比較例12〜15:電子写真感光体の評価)
(1)電子写真感光体の製造
電荷輸送層に用いるバインダー樹脂を、下記構造式を有する芳香族ジオール成分とする繰り返し単位(下記式(PC)で表わされる単位)を有するポリカーボネート樹脂100重量部に変更したこと、以外は、実施例21〜24、比較例8〜11と同様にして電子写真感光体(感光体番号:感光体E〜H、感光体RE〜RH)を製造した。各感光体の内訳は以下のとおりである。
感光体E(実施例25:実施例17の電荷輸送物質使用)
感光体F(実施例26:実施例18の電荷輸送物質使用)
感光体G(実施例27:実施例19の電荷輸送物質使用)
感光体H(実施例28:実施例20の電荷輸送物質使用)
感光体RE(比較例12:比較例4の電荷輸送物質使用)
感光体RF(比較例13:比較例5の電荷輸送物質使用)
感光体RG(比較例14:比較例6の電荷輸送物質使用)
感光体RH(比較例15:比較例7の電荷輸送物質使用)
(2)電気特性の評価
得られた電子写真感光体の電気特性の評価を実施例21〜24、比較例8〜11と同様にして行った。電子写真感光体E〜H,RE〜RHの電気特性の評価結果を表−2に示す。また、対応する電荷輸送物質の製造条件として、電荷輸送物質の合成に使用したN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを合成する際に使用した脱離基を有する有機化合物、リン化合物の種類、及び電荷輸送物質の種類を併せて示す。
(実施例29,30、比較例16,17:電子写真感光体の評価)
(1)電子写真感光体の製造
アルミニウムシリンダーを陽極酸化処理したアルミニウムシリンダー(直径30mm、長さ351mm、肉厚1mm)にしたこと、下引き層を設けなかったこと、電荷輸送層の膜厚を18μmに変更したこと、以外は、実施例21,22、比較例8,9と同様にして電子写真感光体(感光体番号:感光体I,J、感光体RI,RJ)を製造した。各感光体の内訳は以下のとおりであり、用いた電荷輸送物質と電子写真感光体の感光体番号の対応を表−3に示す。
感光体I(実施例29:実施例17の電荷輸送物質使用)
感光体J(実施例30:実施例18の電荷輸送物質使用)
感光体RI(比較例16:比較例4の電荷輸送物質使用)
感光体RJ(比較例17:比較例5の電荷輸送物質使用)
(2)画像特性(画像メモリ)の評価
感光体I,J、感光体RI,RJをA3印刷対応の市販のタンデム型カラープリンター(沖データ社製 Microline3050c)のシアンドラムカートリッジに装着し、上記プリンターに装着した。
印刷の入力として、A3領域の上部には白地に線太の文字を持ち、中央部から下部にかけてはハーフトーン部を持ったパターンをパソコンからプリンターに送り、その結果得られる出力画像を目視評価した。
実験に使用したA3印刷対応の市販のタンデム型カラープリンタープリンター(沖データ社製 Microline3050c)においては、光除電プロセスを使用していない。このため、感光体の性能によっては、上部の文字パターンが感光体にメモリとして記憶され、次回転の画像形成に影響を及ぼす、つまり、ハーフトーン部にメモリ画像として顕れるケースがある。本来まったく均一でなければならない部分に、メモリ画像が見えている程度を、メモリ画像が最も見えにくいものをランク1、メモリ画像が最も明確に観察されるものをランク5とした、5段階の目視結果で評価した。そして、このメモリ画像の評価を、通常環境(25℃/50%RH)での「通常メモリ」と、低温低湿環境(5℃/10%RH)での「低温低湿メモリ」と、の両方の環境で実施した。結果を表−3に示す。
(実施例31:例示化合物T−15の製造)
実施例6(トリアミノホスフィン*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.7部を得た。
(実施例32:例示化合物T−15の製造)
実施例8(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例33:例示化合物T−15の製造)
実施例13(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例17と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(X)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例34:例示化合物T−29の製造)
実施例6(トリアミノホスフィン*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例35:例示化合物T−29の製造)
実施例8(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.7部を得た。
(実施例36:例示化合物T−29の製造)
実施例13(ホスホロアミダイト*ブロモベンゼン)で得られたN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを用いたこと、以外は実施例19と同様の操作を行うことにより白色粉末で上記構造式(Y)を有する電荷輸送物質9.8部を得た。
(実施例37〜42:電子写真感光体の評価)
(1)電子写真感光体の製造
電荷輸送物質として実施例31〜36で得られたものを用いたこと、以外は、実施例21と同様にして電子写真感光体(感光体番号:感光体K〜P)を製造した。各感光体の内訳は以下のとおりである。
感光体K(実施例37:実施例31の電荷輸送物質使用)
感光体L(実施例38:実施例32の電荷輸送物質使用)
感光体M(実施例39:実施例33の電荷輸送物質使用)
感光体N(実施例40:実施例34の電荷輸送物質使用)
感光体O(実施例41:実施例35の電荷輸送物質使用)
感光体P(実施例42:実施例36の電荷輸送物質使用)
(2)電気特性の評価
得られた電子写真感光体の電気特性の評価を実施例21と同様にして行った。電子写真感光体K〜Pの電気特性の評価結果を表−4に示す。また、対応する電荷輸送物質の製造条件として、電荷輸送物質の合成に使用したN,N−ビス(p−メチルフェニル)アニリンを合成する際に使用した脱離基を有する有機化合物、リン化合物の種類、及び電荷輸送物質の種類を、表−4に併せて示す。
(実施例43〜45:電子写真感光体の評価)
(1)電子写真感光体の製造
感光層として実施例37〜39のものを用いたこと、以外は、実施例29と同様にして電子写真感光体(感光体番号:感光体Q〜S)を製造した。各感光体の内訳は以下のとおりである。
感光体Q(実施例43:実施例31の電荷輸送物質使用)
感光体R(実施例44:実施例32の電荷輸送物質使用)
感光体S(実施例45:実施例33の電荷輸送物質使用)
(2)画像特性(画像メモリ)の評価
感光体Q〜Sの画像メモリを実施例29と同様にして行った。結果を表−5に示す。
以上の結果から、本発明の製造法を用いたアミン化合物を電荷輸送物質に用いた場合に限って、使用原料に依存することなく、電子写真感光体特性が優れ、かつ使用環境に依らずメモリの発現し難い感光体を得ることができることがわかる。