JP4856830B2 - 延伸された積層体の製造方法とその装置 - Google Patents

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーと略称することがある)からなるフィルム(以下、これを熱可塑性液晶ポリマーフィルムと略称することがある)の製造方法およびその装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、機械的強度、電気特性、耐熱性、耐薬品性、寸法安定性などに優れた性能を示し、特に電子分野においては、絶縁材料、プリント基板材料、積層材料などとして注目され、また,その他の分野でも、耐熱性が要求される用途、例えば耐熱積層材料用途などの種々の用途が期待されている。
【0003】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムを構成する熱可塑性液晶ポリマーは、製膜装置に備えたダイのスリットから吐出させると、その分子が吐出方向に配向し、そのままでは液晶ポリマー分子の大部分がほとんど同一方向(フィルムの長手方向、すなわちMD方向)に配向して、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムはMD方向に裂け易くなる。しかも、MD方向とこれと直角方向のTD方向とで、熱膨張係数や熱寸法変化率が異なるなどの物性の差異があるフィルムとなる。言い換えれば、MD方向とTD方向とで物性が異なることを異方性、逆にほとんど等しいことを等方性と称すれば、前記熱可塑性液晶ポリマーフィルムは異方性となる。特にTダイを用いて成形された熱可塑性液晶ポリマーフィルムは著しい異方性を示す。
【0004】
この異方性フィルムは、MD方向とTD方向とで例えば熱寸法変化率や熱膨張係数が異なるので、回路基板特に精密回路基板の絶縁材料として用いる場合、この回路基板の製造途中で、回路基板に反りや歪みを生じたり、回路基板上の回路配線の位置ずれを生じたりするために実用に供し得ない。
【0005】
この異方性を緩和するために、従来より種々の製造方法が提案されている。例えばTダイなどを用いて得られる異方性液晶ポリマーフィルムを、合成樹脂フィルムと積層し、この積層体を横延伸(MD方向よりも大きい延伸倍率でTD方向に延伸)する後加工方法(特開平7−323506号、特開平7−251438号、特開平9−131789号各公報など)がある。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、上記の方法は、異方性緩和という目的においては有効で、ほぼ等方性のフィルムを得ることができるが、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと合成樹脂フィルムとの積層体を延伸する際に管理される項目が延伸温度、延伸倍率および延伸速度のみであるため、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いである分子配向度の精度と安定性に問題がある。
【0007】
本発明は、上記分子配向度の精度と安定性に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法とその装置を提供することを目的とする。
【0008】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記分子配向度の精度と安定性に優れた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの製造方法について鋭意研究を行った結果、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと合成樹脂フィルムとの積層体を延伸する際、延伸過程にある積層体における熱可塑性液晶ポリマーフィルムの上記分子配向度に基づいて延伸条件を随時調節することにより、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの上記分子配向度を高精度で制御できることを見出し、さらに検討した結果、本発明を完成するに至った。
【0009】
本発明によれば、熱可塑性ポリマーまたは該熱可塑性ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体を延伸することによって、延伸された積層体を製造する方法において、延伸過程にある積層体における熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの厚みを考慮した値でその分子で構成されるセグメントについての分子配向の度合いである分子配向度を測定し、該測定値に基づき、予め設定された関係式に従って延伸過程の温度、倍率および速度のうちの少なくとも1つの条件を制御して、該熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度を設定された範囲内の値に保持することを特徴とする延伸された積層体の製造方法が提供される。
また、本発明によれば、熱可塑性ポリマーまたは該熱可塑性ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体を延伸手段により延伸することによって、延伸された積層体を製造する装置において、 延伸過程にある積層体における熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの厚みを考慮した値でその分子で構成されるセグメントについての分子配向の度合いである分子配向度を測定する分子配向度測定手段と、前記分子配向度測定手段で測定される前記熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度に基づき、予め設定された前記分子配向度と前記延伸手段による延伸過程の温度、倍率または速度との関係式を用いて、延伸過程における温度、倍率および速度のうちの少なくとも1つの条件を制御して、該熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度を設定された範囲内の値に保持する制御手段とを備えていることを特徴とする延伸された積層体の製造装置が提供される。
【0010】
【発明の実施の形態】
本発明において使用される熱可塑性液晶ポリマーは特に限定されるものではないが、その具体例として、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。但し、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを得るためには、各々の原料化合物の組み合わせには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0011】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【0012】
【表1】
Figure 0004856830
【0013】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【0014】
【表2】
Figure 0004856830
【0015】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【0016】
【表3】
Figure 0004856830
【0017】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0018】
【表4】
Figure 0004856830
【0019】
これらの原料化合物から得られる熱可塑性液晶ポリマーの代表例として表5に示す構造単位を有する共重合体(a)〜(e)を挙げることができる。
【0020】
【表5】
Figure 0004856830
【0021】
また、本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーとしては、所望の耐熱性および加工性を有するフィルムを得るために、約200〜約400℃の範囲内、とりわけ約250〜約350℃の範囲内に融点を有するものが好ましい。
【0022】
本発明では、熱可塑性液晶ポリマーに代えて、該ポリマーを成分とするポリマーアロイを使用してもよい。この場合、熱可塑性液晶ポリマーとともに使用するポリマーとしては、例えば、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリアリレート等が挙げられる。これらのポリマーは、熱可塑性液晶ポリマー100重量部に対し、好ましくは900重量部以下、より好ましくは250重量部以下の割合で使用される。
また、熱可塑性液晶ポリマーまたは該ポリマーを成分とするポリマーアロイは、相溶化剤、可塑剤、難燃化剤等の添加剤、または無機粒子、繊維等の充填剤を含有していてもよい。
【0023】
本発明で使用される熱可塑性樹脂フィルムを構成する熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリアリレート、ポリカーボネート、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエステル、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ三フッ化塩化エチレン等を例示することができる。熱可塑性樹脂フィルムとしては、多孔質体のものを使用してもよい。延伸前の積層体を構成する熱可塑性樹脂フィルムの厚さは、通常10〜500μm、好ましくは25〜100μmの範囲である。
【0024】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体は公知の方法に従って製造することができる。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱可塑性樹脂フィルムを熱圧着して積層体とする方法、接着剤を使用して貼り合わせる方法、熱可塑性液晶ポリマーと熱可塑性樹脂を共押出しして積層体を得る方法などが挙げられるが、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱可塑性樹脂フィルムを熱圧着する方法が好ましい。
【0025】
積層体の層構成には特に制限はなく、複数の熱可塑性液晶ポリマーフィルムと複数の熱可塑性樹脂フィルムが積層されていてもよいが、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの片面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された2層構造のものが好ましく、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に熱可塑性樹脂フィルムが積層された3層構造のものがより好ましい。
【0026】
熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体には延伸が施される。延伸方法自体は公知であり、二軸延伸、一軸延伸のいずれを採用してもよいが、分子配向度を制御することがより容易であることから、二軸延伸が好ましい。また、延伸は、公知の一軸延伸機、同時二軸延伸機、逐次二軸延伸機などが使用できる。
【0027】
なお、フィルムに二軸延伸を施す場合、延伸方向は、前記したMD方向、TD方向の2通りがあるが、MD方向、TD方向のいずれか一方向の延伸倍率を制御するように構成してもよいし、両方向の延伸倍率を同時に制御するように構成してもよい。また、延伸速度についても、延伸倍率と同様に、MD方向、TD方向のいずれか一方向の延伸速度を制御するように構成してもよいし、両方向の延伸速度を同時に制御するように構成してもよい。
延伸温度は、熱可塑性液晶ポリマーが十分に液晶状態を示す温度以上に設定することが好ましく、熱可塑性液晶ポリマーの融点より10°C以上高い温度であることがより好ましい。また、延伸倍率は、延伸前後の積層体の厚さにもよるが、通常1.5〜15倍、好ましくは4〜8倍の範囲内である。また、延伸速度は通常5〜500%/分、好ましくは20〜100%/分の範囲内である。
【0028】
図1〜図3は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体を延伸するときの延伸温度、延伸倍率、延伸速度と、熱可塑性液晶ポリマーまたは該熱可塑性液晶ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムの分子配向度SORとの定性的な関係を示すグラフである。これらの図から明らかなように、延伸温度、延伸倍率、延伸速度と分子配向度SORは、互いに反比例の関係にある。従って、延伸時における延伸温度、延伸倍率および延伸速度のうちの1つの条件または全ての条件を随時精密に制御すれば、分子配向度SORが高精度に制御された熱可塑性液晶ポリマーまたは該熱可塑性液晶ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムを含んだ延伸された積層体を製造することができる。なお、延伸後の積層体に対し、寸法安定性等の物性を安定化するために熱処理(アニーリング)を施してもよい。また、所望により、延伸後の積層体から、もう一つの成分である熱可塑性樹脂フィルムを分離することにより、分子配向度が高度に制御された熱可塑性液晶ポリマーまたは該熱可塑性液晶ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムを得ることもできる。
【0029】
ここで、分子配向度を確認する手法としては、分子の配向の度合いから判断して分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio)を測定する手法が簡便な手法である。ここで、分子配向度SORとは、分子で構成されるセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、一般的なMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。この分子配向度SORは、以下のように算出される。
【0030】
まず、周知のマイクロ波分子配向度測定機を用いて、熱可塑性液晶ポリマーフィルムをマイクロ波の進行方向にフィルム面が垂直になるようにマイクロ波共振導波管中に挿入し、該フィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)を測定する。
【0031】
そして、前記測定値に基づいて次式により、m値(屈折率)を算出する。
m=(Zo/△z)×[1−νmax/νo]……(1)
ここで、 Zoは装置定数、△z は物体の平均厚、νmaxはマイクロ波の振動数を変化させたとき、最大のマイクロ波透過強度を与える振動数、νoは平均厚ゼロのとき(すなわち物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0032】
次に、マイクロ波の振動方向に対する物体の回転角が0°のとき、つまりマイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致しているときのm値をm0とし、また回転角が90°のときのm値をm90として、これらのm0/m90により分子配向度SORを算出する。
【0033】
本発明で得られる熱可塑性液晶ポリマーまたは該ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムは、その適用分野によって必要とされる分子配向度SORは当然異なるが、SOR≧1.50の場合は分子の配向の偏りが著しいためにフィルムが硬くなり、かつMD方向に裂け易い。逆にSOR≦0.70の場合はTD方向に裂け易い。加熱時の反りがないなどの形態安定性が必要とされるプリント配線基板や多層プリント配線基板等の用途に使用される場合には、0.90≦SOR≦1.3であることが望ましい。特に加熱時の反りをほとんど無くす必要がある精密プリント配線板や多層プリント配線基板等の用途に使用される場合には、0.97≦SOR≦1.03であることが望ましい。また、本発明で得られる熱可塑性液晶ポリマーまたは該ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムの厚さは、通常、5〜250μm、好ましくは10〜150μmの範囲である。
【0034】
以下、本発明による延伸された積層体の製造装置の一実施形態を図面にしたがって説明する。
図4は、本発明にかかる製造装置の一例を示す概略図であり、延伸された積層体を製造し、次いで熱可塑性樹脂フィルムを分離して熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得るように構成されている。この装置は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面にサンドイッチ状に熱可塑性樹脂フィルムを接合した積層体11が巻回されたローラ1と、これと所定間隔をおいて配置され、延伸後の積層体11から剥離された熱可塑性樹脂フィルム12,13と熱可塑性液晶ポリマーフィルム14を巻き取る3つのローラ2、3、4が設けられている。前記積層体11は、ローラ1とローラ4との間で延伸される。前記ローラ1〜4は、それぞれサーボモータで回転速度が制御される。
【0035】
また、ローラ1とローラ2、3、4との間には、内部にヒータ51および2軸延伸機52が配置された前記積層体11を2軸延伸する延伸手段5と、この延伸手段5で延伸された積層体11の分子配向度SORを測定する測定手段6が配置されている。この測定手段6は延伸手段5の内部に配置してもよい。同図中、7,7は前記ローラ2、3、4の近くに配置された剥離ローラで、このローラ7により前記延伸手段5で延伸された積層体11を剥離して、2つの熱可塑性樹脂フィルム12,13と、1つの熱可塑性液晶ポリマーフィルム14に分離する。また、8は前記延伸手段5の前後に配置したガイドローラである。
【0036】
そして、前記測定手段6を、前記延伸手段5における延伸条件を制御する制御手段であるCPU9の入力側に接続し、同CPU9の出力側に延伸手段5のヒータ51および2軸延伸機52とローラ1,4を駆動するサーボモータを接続して、前記測定手段6で測定された分子配向度SORの測定値に基づくCPU9からの出力により、延伸手段5のヒータ51による延伸温度と、2軸延伸機52およびローラ1,4による延伸倍率ならびに延伸速度のうち、1つの条件または全ての条件を延伸時に随時制御することにより、一定範囲内の値の分子配向度SORを有する熱可塑性液晶ポリマーフィルム14を得る。このとき、CPU9においては、図1〜図3に示すような延伸温度、延伸倍率、延伸速度と分子配向度SOR値との関係が予めパターン化されて記憶されている。そして、所望範囲内の分子配向度SORと前記測定手段6で測定された分子配向度SORとを比較して、所望範囲内の分子配向度SORとなるように、延伸温度、延伸倍率、延伸速度の制御が行われる。また、CPU9には、延伸手段5に設けた延伸温度測定手段および延伸倍率測定手段(図示せず)の出力信号、ローラ1および4を駆動するサーボモータの回転速度を計測する計測手段(図示せず)の出力信号がフィードバックされ、延伸温度の実測値、および延伸倍率測定手段による測定値とサーボモータの回転速度から算出される延伸倍率(実測値)と延伸速度(実測値)がモニターされるように構成されている。
【0037】
また、前記測定手段6では、延伸手段5で延伸された積層体11の全体の分子配向度SORが測定されるが、前記CPU9においては、積層体11の熱可塑性樹脂フィルム12,13の分子配向度がキャンセルされ、熱可塑性液晶ポリマーフィルム14の分子配向度SORのみが計出されて、この計出された熱可塑性液晶ポリマーフィルムの分子配向度SORに基づき前記延伸手段5とローラ1,4の制御が行われる。
【0038】
図5は、分子配向度測定手段6の一実施形態を示す構成図である。同図の測定手段6は、マイクロ波発信器61とマイクロ波受信器62および共振器63を備え、この共振器63の内部に前記積層体11をマイクロ波の進行方向に対し垂直となるように挿入通過させて、積層体11を透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)を測定する。そして、この電場強度にもとづいて、前述した式(1)により、分子配向度SORを算出する。
【0039】
次に、以上の製造装置により延伸された積層体を製造するときの制御態様を、図6に示すフローチャートに基づいて説明する。まず、ステップS1において、熱可塑性液晶ポリマーフィルム14の目標SOR値と該目標値からの許容差△SORが設定される。次に、ステップS2で前記分子配向度測定手段6により測定された延伸後の積層体11のSOR値が読み取られ、このSOR値に基づき前記CPU9で同積層体11における熱可塑性液晶ポリマーフィルム14のSOR値が計出されて、この計出されたSOR値が前記ステップS1で設定された目標SOR値と比較され、その差が許容差△SORの範囲にあるか否かが比較判断される(ステップS3)。
【0040】
そして、計出されたSOR値と目標SOR値との差が許容差△SORの範囲よりも大きい場合には、図1〜図3に示すような延伸温度、延伸倍率、延伸速度とSOR値の関係に基づいて予め設定された関係式に従ってSOR値を所望とする範囲内に収めるために必要な延伸温度、延伸倍率、延伸速度が算出され、これらが延伸過程における温度の実測値、延伸倍率の実測値および延伸速度の実測値と比較判断される(ステップS4)。
【0041】
このとき、延伸過程における実測温度、実測倍率、実測速度が、予め設定された関係式に従って算出される延伸温度、延伸倍率、延伸速度と相違している場合には、ステップS5において、CPU9からの出力信号により前記延伸手段5のヒータ51による延伸温度、2軸延伸機52およびローラ1,4による延伸倍率と延伸速度のうち1つの条件または全ての条件が、前記ステップS4で算出される延伸温度、延伸倍率、延伸速度と同一になるように調整される。例えば、熱可塑性液晶ポリマーフィルム14の計出SOR値が目標SOR値よりも小さい場合は、延伸倍率が小さく、逆に目標SOR値よりも大きい場合は、延伸倍率が大きく調整される。なお、前記ステップS3とS4において、各比較値が同一のときには、ステップ2からの動作が繰り返して行われる。つまり延伸工程において、上記制御が常時行われる。
【0042】
【実施例】
以下、実施例により本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって何ら制限されるものではない。
参考例1
熱可塑性液晶ポリマー(ポリプラスチックス社製、ベクトラA950)を原料として、Tダイを備えた単軸押出機から溶融押出しされた、厚さ450μm、SOR1.538の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に、厚さ40μmの多孔質ポリテトラフルオロエチレンフィルムを金属ロールラミネーターで熱圧着して積層体を得た。
【0043】
実施例1
図4に示す本発明の製造装置を使用し、図6のフローチャートに示すような制御を行いながら熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造した。製造開始時点における延伸条件の設定値は、延伸温度が295℃、延伸倍率が9倍(MD方向3倍×TD方向3倍)、延伸速度が80%/minである。そして、参考例1で得た積層体を延伸手段5に導入し、分子配向度測定手段6によるSOR測定結果に基づき、延伸温度、延伸倍率、延伸速度を制御しながら、SOR測定値を予め設定した目標SOR値(1.100)と同一になるように調整した。
【0044】
比較例1
前記SOR値の制御を行うことなく、その他は実施例1と同様にして熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造した。
【0045】
表6に、上記実施例1と比較例1において、前記分子配向度測定手段6で得られたSORの測定結果を示す。なお、上記実施例1におけるSORの測定結果は、分子配向度測定手段6によるSOR測定結果に基づき、延伸温度、延伸倍率、延伸速度の制御を開始した後の結果である。
【0046】
【表6】
Figure 0004856830
【0047】
上記表6から明らかなように、上記比較例1では分子配向度SORの最大値と最小値の差が0.016で、また分子配向度SORの差の平均値に対する比率も1.4%であるのに対し、上記実施例1では分子配向度SORの最大値と最小値の差が0.006で、また分子配向度SORの差の平均値に対する比率も0.5%となって非常に小さい。以上の表6から、実施例1によれば、分子配向度が高精度に制御された安定した熱可塑性液晶ポリマーフィルムが得られる。
【0048】
【発明の効果】
以上のように、本発明によれば、分子配向度が高精度に制御された熱可塑性液晶ポリマーまたは該熱可塑性液晶ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムおよび該フィルムを有する積層体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】延伸温度と分子配向度SORとの定性的な関係を示すグラフである。
【図2】延伸倍率と分子配向度SORとの定性的な関係を示すグラフである。
【図3】延伸速度と分子配向度SORとの定性的な関係を示すグラフである。
【図4】本発明にかかる延伸された積層体の製造装置を示す概略図である。
【図5】分子配向度測定手段の一実施形態を示す構成図である。
【図6】熱可塑性液晶ポリマーフィルムを製造するときの制御態様を示すフローチャート図である。
【符号の説明】
11…積層体、12,13…熱可塑性樹脂フィルム、14…熱可塑性液晶ポリマーフィルム、5… 延伸手段、6… 分子配向度測定手段、9…制御手段。

Claims (3)

  1. 光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーまたは該熱可塑性ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体を延伸することによって、延伸された積層体を製造する方法において、
    延伸過程にある積層体における熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの厚みを考慮した値でその分子で構成されるセグメントについての分子配向の度合いである分子配向度を測定し、該測定値に基づき、予め設定された関係式に従って延伸過程の温度、倍率および速度のうちの少なくとも1つの条件を制御して、該熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度を設定された範囲内の値に保持することを特徴とする延伸された積層体の製造方法。
  2. 請求項1の方法によって製造される延伸された積層体から、前記熱可塑性樹脂フィルムを分離することからなる、光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーまたは該熱可塑性ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムの製造方法。
  3. 光学的に異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマーまたは該熱可塑性ポリマーを成分とするポリマーアロイからなるフィルムと熱可塑性樹脂フィルムの積層体を延伸手段により延伸することによって、延伸された積層体を製造する装置において、
    延伸過程にある積層体における熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの厚みを考慮した値でその分子で構成されるセグメントについての分子配向の度合いである分子配向度を測定する分子配向度測定手段と、
    前記分子配向度測定手段で測定される前記熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度に基づき、予め設定された前記分子配向度と前記延伸手段による延伸過程の温度、倍率または速度との関係式を用いて、延伸過程における温度、倍率および速度のうちの少なくとも1つの条件を制御して、該熱可塑性ポリマーまたはポリマーアロイからなるフィルムの前記分子配向度を設定された範囲内の値に保持する制御手段とを備えていることを特徴とする延伸された積層体の製造装置。
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