JP4184529B2 - 熱可塑性液晶ポリマーフィルムとその改質方法 - Google Patents

熱可塑性液晶ポリマーフィルムとその改質方法 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、光学的異方性の溶融相を形成し得る熱可塑性ポリマー(以下、これを、熱可塑性液晶ポリマーと称することがある)からなるフィルム(以下、これを、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと称することがある)とその改質方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
エレクトロニクス分野における回路基板等には、導電性の金属箔と電気絶縁性のフィルム状材料(フィルムまたはシート、あるいはフィルム状やシート状に金属箔上にコートされたもの)とを直接接着した形態や、接着剤を用いて接着した形態の金属箔積層体が用いられる。かかる積層体には、2つの金属箔層の間に電気絶縁層が挟み込まれた形態の両面金属箔積層体と、1つの金属箔層と電気絶縁層が合わされた形態の片面金属箔積層体の2形態がある。
【0003】
そして、金属箔積層体の金属箔をエッチングするなどして回路パターンを形成し、その上を覆うように保護層が設けられる。この保護層としては、光硬化性樹脂をコートしたもの、電気絶縁フィルムを接着剤で接着したもの、電気絶縁フィルムを熱接着したものなどが知られている。
【0004】
近年、熱可塑性液晶ポリマーは、回路基板における電気絶縁層や保護層の材料として注目されている。その理由は、熱可塑性液晶ポリマーは、(1)金属箔と直接熱接着できる、(2)高い耐熱性をもつ、(3)低吸湿性である、(4)熱寸法安定性に優れている、(5)湿度寸法安定性に優れている、(6)高周波数特性に優れている、(7)有毒なハロゲン、燐、アンチモン等の難燃剤を含有しなくても難燃性である、(8)耐放射線性に優れている、(9)熱膨張係数が制御できる、(10)低温でもしなやかであるなどの優れた特長を有しているためである。したがって、かかる優れた特長を有する熱可塑性液晶ポリマーを、回路基板の電気絶縁層や保護層として利用することへの要求は高く、特に精密回路基板材料としての期待が高い。
【0005】
しかし、熱可塑性液晶ポリマーフィルムには、熱可塑性液晶ポリマーの分子物性に起因する下記のような致命的な弱点があるので、上記のような接着剤を用いる金属箔積層体や保護層の電気絶縁材料として用いることはできなかった。つまり、液晶ポリマーの分子は、棒状の剛直な分子であり、このため溶融した液晶ポリマーにずり応力を発生させると、分子の向きが溶融液晶ポリマーの流れの方向にほぼ一致して配向する。したがって、液晶ポリマーよりフィルムを製造するとき、直線状であれ曲線状であれ幅の狭いスリット状の孔(ダイ)から溶融液晶ポリマーを押し出すと、このスリットによって発生するずり応力のために、液晶ポリマー分子は容易に配向して、この分子の長手方向がフィルムの長手方向(MD方向)の向きに揃ってしまう。このため、液晶ポリマーの分子の向きが広い範囲で一方向に揃った熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、MD方向に引き裂け易い。また、液晶ポリマー分子は、フィルムの厚さ方向に層が積み重なった状態で配向するので、このフィルム内部での剥離(層内剥離)が発生し易い。
【0006】
したがって、溶融液晶ポリマーを例えば直線状スリットより押し出して成形するいわゆるTダイ製膜法により製造された熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、MD方向に引き裂け易く、また層内剥離が起り易いという2つの弱点を有する。
【0007】
そこで、MD方向の引き裂け易さを解消するため、従来より種々の方法が知られている。例えば、液晶ポリマーフィルムの製造過程において、または一旦冷却して得られた液晶ポリマーフィルムを再度加熱して、その液晶ポリマーにMD方向と直角の幅方向(TD方向)の応力をかけることにより、液晶ポリマー分子をTD方向にも配向させて、MD方向の引き裂け易さを解消させている。
【0008】
また、同じ目的のために、ラミネート体延伸法が知られている(特開平7ー323506号公報)。この方法は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる原材料フィルムと、合成樹脂フィルムからなる支持フィルムとを重ね合わせてラミネート体とし、このラミネート体をTD方向に延伸させた後に、原材料フィルム層を支持フィルム層から分離させて、製品フィルムとする。これによれば、MD方向に配向した液晶ポリマー分子がTD方向に延伸されて、一部の液晶ポリマー分子がTD方向にも配向するため、MD方向のみの配向が解消されて、この方向の引き裂き易さが効果的に解消される。
【0009】
しかし、以上のような各方法により引き裂き易さを解消できたとしても、液晶ポリマーフィルム特有の層内剥離の問題が残る。つまり、層内剥離の問題が解消されないと、接着剤を用いて熱可塑性液晶ポリマーフィルムを接着した場合、接着剤と熱可塑性液晶ポリマーフィルムとの界面で剥離が起る以前に、このフィルムの内部で剥離が発生するので、実用には耐えられない。
【0010】
このような層内剥離の問題を解決する手段として、液晶ポリマーフィルムを融点以上に加熱して溶融させ、これにより液晶ポリマーフィルムの厚さ方向の配向を一部解消して層内剥離を防止することが知られている(特開平8ー90570号公報)。
【0011】
また、このことから、ラミネート体延伸法によるラミネート体の場合、その全体を原材料フィルムである熱可塑性ポリマーフィルムの融点以上に加熱して、得られる製品フィルムの層内剥離をなくすことが考えられる。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
ところが、以上のように、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを融点以上に加熱して溶融させる場合、フィルム単独で融点以上に加熱すると、溶融したフィルムの形態が崩れるので、その形態保持のために、金属箔や樹脂フィルムからなる支持体を用い、これらの間に前記フィルムを密着保持させて加熱する必要がある。このことは、支持体の材料費だけでなく、これを除去するための工程が別途必要となるので、製造コストが高くなる。
【0013】
また、ラミネート体延伸法によるラミネート体の場合、溶融時に原材料フィルムが支持フィルムにより形態保持されるので、別途形態保持用の支持体を用いることなく、ラミネート体の全体をそのまま加熱すればよいが、良好な結果が得られ難い。つまり、前記のラミネート体延伸法では、延伸処理をした後、物性を安定化させるため、240℃、3分間のアニール処理を行なうことが望ましいことが報告されている(特開平7−323506号公報)。しかし、これによれば多少の層内剥離解消の傾向は見られるものの、実用化する上で十分な程度にまで層内剥離を解消することはできない。
【0014】
本発明者らは、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの層内剥離を解決するために研究を行ったところ、層内剥離の解消は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを融点以上に加熱することが必ずしも必須条件ではなく、融点未満であっても熱可塑性液晶ポリマーフィルムを特定の条件下で熱収縮させれば、層内剥離を解消できることを見出した。つまり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱収縮は、従来代表的なフィルム物性の一つである熱収縮率の測定において行われることはあっても、フィルム製造においては行われてはいない。特に、熱収縮は熱可塑性液晶ポリマーフィルムの平坦性を損なうため、好ましくない物性であるとして、むしろ逆に如何に熱収縮を起こさなくするかという工程上あるいは物性上の努力がなされているのが実情である。そこで、本発明の目的は、以上のような融点未満での熱収縮を利用して、低廉なコストで層内剥離を確実に防止できる熱可塑性液晶ポリマーフィルムとその改質方法を提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、本発明では、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと支持フィルムとで構成されるラミネート体を延伸させて得られる延伸ラミネート体を、無応力下で10%以上熱収縮させるものであって、前記熱収縮は、熱可塑性液晶ポリマーの融点よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で行う。
【0016】
このような条件で延伸ラミネート体の処理を行うことにより、層内剥離が確実に防止される。このとき、熱収縮率10%が層内剥離解消効果の現れる最低の条件となるため、熱収縮率は、これ以上、望ましくは15%以上とする。そして、熱収縮を行った後に支持フィルムから熱可塑性液晶ポリマーフィルムを分離させて製品フィルムとする。これにより、実用し得る程度にまで層内剥離が解消された製品フィルムが得られる。また、延伸ラミネート体の熱収縮を行うとき、応力をかけると、フィルムの歪みや変形などを招くことがあるので、熱収縮は無応力下で行う。このとき無応力で熱収縮を行うためには、例えば熱風乾燥炉中に延伸ラミネート体を吊り下げて移動させ、または駆動ロールや駆動ベルトを用いて移動させる。これによれば、簡単に無応力下での延伸ラミネート体の熱収縮を行える。また、熱収縮により、フィルムは波打ちや歪みなどが多少発生するが、これは梨地メッキされた金属ロール(260℃)に接触させることにより、簡単に平坦にできる。しかも、熱収縮を、熱可塑性液晶ポリマーの融点よりも15℃低い温度以上で融点未満の温度範囲で行うことにより、優れた層内剥離解消の効果が得られる。
【0020】
本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルムの原料は、特に限定されるものではないが、その具体例として、以下に例示する(1)から(4)に分類される化合物およびその誘導体から導かれる公知のサーモトロピック液晶ポリエステルおよびサーモトロピック液晶ポリエステルアミドを挙げることができる。但し、光学的に異方性の溶融相を形成し得るポリマーを得るためには、各々の原料化合物の組み合わせには適当な範囲があることは言うまでもない。
【0021】
(1)芳香族または脂肪族ジヒドロキシ化合物(代表例は表1参照)
【0022】
【表1】
Figure 0004184529
【0023】
(2)芳香族または脂肪族ジカルボン酸(代表例は表2参照)
【0024】
【表2】
Figure 0004184529
【0025】
(3)芳香族ヒドロキシカルボン酸(代表例は表3参照)
【0026】
【表3】
Figure 0004184529
【0027】
(4)芳香族ジアミン、芳香族ヒドロキシアミンまたは芳香族アミノカルボン酸(代表例は表4参照)
【0028】
【表4】
Figure 0004184529
【0029】
これらの原料化合物から得られる熱可塑性液晶ポリマーの代表例として表5に示す構造単位を有する共重合体(a)〜(e)を挙げることができる。
【0030】
【表5】
Figure 0004184529
【0031】
また、本発明に使用される熱可塑性液晶ポリマーとしては、フィルムの所望の耐熱性および加工性を得る目的においては、約200〜約400℃の範囲内、とりわけ約250〜約350℃の範囲内に融点を有するものが好ましいが、フィルム製造の観点からは、比較的低い融点のものが好ましい。したがって、より高い耐熱性や融点が必要な場合には、一旦得られたフィルムを加熱処理することによって、所望の耐熱性や融点にまで高めることが有利である。加熱処理の条件の一例を説明すれば、一旦得られたフィルムの融点が283℃の場合でも、260℃で5時間加熱すれば、融点は320℃になる。
【0032】
本発明で使用される熱可塑性液晶ポリマーフィルム(以下これを原材料フィルムということがある)は、熱可塑性液晶ポリマーを押出成形して得られる。このとき、任意の押出成形法が適用できるが、周知のTダイ法やインフレーション法あるいはこれらを組み合わせた方法が工業的に有利である。また、本発明では、ラミネート延伸法により得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを用いることもできる。特に、インフレーション法やラミネート延伸法では、フィルムのMD方向だけでなく、TD方向にも応力が加えられるため、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスのとれたフィルムが得られるので、より好適に用いられる。
【0033】
また、原材料フィルムは、分子配向度SORを0.8〜1.4とすることが好ましい。より好ましくは、0.9〜1.2である。この原材料フィルムは、MD方向とTD方向における機械的性質および熱的性質のバランスが良好である。特に、この範囲にある原材料フィルムを用いてラミネート延伸法を行う場合、ラミネート延伸時の延伸倍率を小さくできるので、ラミネート延伸工程が容易になり、製造コストが低下するばかりでなく、延伸むらが少なく、均一性においてより良好な熱可塑性液晶ポリマーフィルムが得られる。
【0034】
ここで、分子配向度SOR(Segment Orientation Ratio)とは、分子を構成するセグメントについての分子配向の度合いを与える指標をいい、従来のMOR(Molecular Orientation Ratio)とは異なり、物体の厚さを考慮した値である。この分子配向度SORは、以下のように算出される。
【0035】
先ず、周知のマイクロ波分子配向度測定機において、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、マイクロ波の進行方向にフィルム面が垂直になるように、マイクロ波共振導波管中に挿入して、該フィルムを透過したマイクロ波の電場強度(マイクロ波透過強度)を測定する。そして、この測定値に基づいて、次式により、m値(屈折率と称する)が算出される。
m=(Zo/△z)X[1−νmax /νo]
ただし、Zoは装置定数、△zは物体の平均厚、νmax はマイクロ波の振動数を変化させたとき、最大のマイクロ波透過強度を与える振動数、νoは平均厚ゼロのとき(すなわち物体がないとき)の最大マイクロ波透過強度を与える振動数である。
【0036】
次に、マイクロ波の振動方向に対する物体の回転角が0°のとき、つまり、マイクロ波の振動方向と、物体の分子が最もよく配向されている方向であって、最小マイクロ波透過強度を与える方向とが合致しているときのm値をm0 、回転角が90°のときのm値をm90として、分子配向度SORはm0 /m90により算出される。
【0037】
上記原材料フィルムは、その適用分野によって、必要とされる分子配向度SORは当然異なるが、SOR≧1.5の場合は液晶ポリマー分子の配向の偏りが著しいためにフィルムが硬くなり、またMD方向に裂け易い。加熱時の反りが殆どないなどの形態安定性が必要とされる用途分野の場合には、SOR≦1.3であることが望ましい。特に加熱時の反りを無くす必要がある用途分野の場合には、SOR≦1.03であることが望ましい。
【0038】
さらに、原材料フィルムは、任意の厚みであってもよく、また複数枚重ね合わせて用いてもよく、5mm以下の板状またはシート状のものをも包含する。
【0039】
また、原材料フィルムとして、熱可塑性液晶ポリマーフィルムと他の電気絶縁性材料、例えば酸化アルミニウムやセラミックス粉体との複合体や、複数種類の熱可塑性液晶ポリマーや、ポリアリレート、ポリエーテルケトン、ポリアミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体、ポリフッ化ビニル、ポリフッ化ビニリデン、ポリ三フッ化塩化エチレン等との複合体あるいはポリマーアロイを使用することもできる。なお、原材料フィルムには、滑剤、酸化防止剤などの添加剤が配合されていてもよい。
【0040】
以上のように、原材料フィルムを溶融させるのではなく、これを融点未満で特定の熱収縮率で熱収縮させることにより、低コストで層内剥離の問題が解消される。よって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる電気絶縁層に金属箔などを接着剤により接着して構成される回路基板が安価に提供される。
【0041】
【発明の実施の形態】
まず、第1の発明を実施例を挙げて詳細に説明する。
【実施例1】
6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸単位25モル%、p−ヒドロキシ安息香酸単位75モル%からなる熱可塑性液晶ポリエステルを単軸押出機を用いて285〜300℃で加熱混練し、直径40mm、スリット間隔0.6mmのインフレーションダイより押し出し、厚さ50μmのフィルムを得た。得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムのDSC測定による融点は285℃で、その分子配向度SORは1.02であった。
【0042】
そして、この熱可塑性液晶ポリマーフィルムの無応力下での熱収縮処理を次のようにして行った。つまり、熱風乾燥炉の代わりに、実験用として溶融ハンダ浴槽を用い、所定温度のハンダ浴面上に液晶ポリマーフィルム試料を浮かべ、5分間放置し、この後試料を取出した。このようにして得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの試験結果を、表6に示す。
【0043】
同表に示すハンダ浴の温度は、温度計を浴中の約7cmの深さにまで浸漬して測定したものである。
【0044】
また、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの溶融状態(溶融ハンダ浴上にあるフィルム試料が溶融しているかいないか)は、もとの熱可塑性液晶ポリマーフィルムが乳白色不透明であるので、フィルム試料が茶黄色で透明になっておれば溶融しており、不透明であれば溶融していないとして容易に判定することができる。そこで、肉眼判定をさらに容易にするために、厚さ18μmの電解銅箔上に熱可塑性液晶ポリマーフィルムを載せ、これをハンダ浴上に浮かべて、このフィルムの透明、不透明を観察することにより行った。
【0045】
比較例1
実施例1と比較するため、同実施例で用いた熱可塑性液晶ポリマーフィルムを2枚のポリイミドフィルムの間に挟み込み、これを真空平板熱プレス機に入れ、その熱盤の温度を上記ハンダ浴と同じ温度に調整しながら、圧力30Kg/cm2でプレスし、5分間保持した後に圧力解除して取出した。このようにして得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの試験結果を、表6に示す。なお、同表に示す温度は、真空平板熱プレス機の熱平板温度を予め熱電対を用いて測定した温度である。
【0046】
また、同表に示す層内剥離の試験は、次のようにして行った。つまり、実施例1と比較例1で得られた熱可塑性液晶ポリマーフィルムの両面に、アルミニウムシートで補強された粘着テープを貼付けて、幅1cm、長さ10cmに切り出した。そして、引っ張り強度測定機を用いて粘着テープを引き剥がす方向に力をかけることにより、各フィルムに層内剥離を発生させて、そのときの層内剥離強度を測定した。
【0047】
この結果、熱処理前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度は0.14Kg/cmであるのに対し、実施例1の場合は、260℃加熱で得られた液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度が0.20Kg/cm、265℃加熱で得られた液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度が0.61Kg/cmとなる。また、270℃または280℃の加熱により得られた液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度は、上記粘着テープと液晶ポリマーフィルムとの粘着界面が剥離し、そのときの剥離強度は1.2Kg/cmである。一方、比較例1の場合、最も有利な280℃で加熱したときでも、層内剥離強度が0.20Kg/cmであり、上記熱処理前の液晶ポリマーフィルムの場合と殆ど変わらず、層内剥離強度は小さいままである。同表中の層内剥離解消欄において○印は、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを実用化し得る程度にまで層内剥離強度が高められて層内剥離が解消されたことを、×は層内剥離が解消されていないことを示す。つまり、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを実用可能とするためには、0.6Kg/cm以上の層内剥離強度を必要とするので、この値を基準に層内剥離が解消されたか否かの判定を行っている。
【0048】
また、熱収縮率は、前記の熱収縮前後の試験片の寸法をノギスで測定し、次式により算出した。
Figure 0004184529
【0049】
【表6】
Figure 0004184529
【0050】
上記表6から明らかなように、実施例1によれば、温度265〜280℃の範囲内において実用可能な程度にまで層内剥離が改善されている。また、260℃の場合は、層内剥離の改善が充分でない。このため、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱収縮は、その融点(実施例1の場合は285℃)よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で行うのが望ましい。また、260℃の場合の熱収縮率は1.5%、265℃の場合の熱収縮率は2%、270℃の場合の熱収縮率は12%、280℃の場合の熱収縮率は23%である。よって、層内剥離強度を高めるためには、熱収縮率を2%以上とする必要がある。
【0051】
一方、比較例1では、温度265〜280℃に加熱しても、層内剥離強度は低いままで層内剥離は全く解消されない。このとき熱可塑性液晶ポリマーフィルムは、平板熱プレスにより上下から圧力が付与されて、平面方向に押し伸ばされるので、収縮率はゼロまたはマイナス値となる。
【0052】
以上のことから、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを、好ましくはその融点よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で、しかも無応力下で2%以上熱収縮させることにより、層内剥離強度を実用可能な程度にまで高め得ることが理解できる。
【0053】
次に、第2の発明を実施例を挙げて説明する。
【実施例2】
p−ヒドロキシ安息香酸と6−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸の共重合物で、融点が285℃である熱可塑性液晶ポリマーを溶融押し出し、Tダイ製膜法により膜厚が100μm、分子配向度SORが1.6のフィルムを得、このフィルムをラミネート体延伸法の原材料フィルムとした。そして、膜厚25μmのポリエーテルスルホンフィルムを支持フィルムとし、これら2枚の支持フィルムの間に前記原材料フィルムを挿み込んだ構成で、2段ラミネート加工を施した。つまり、先ずラミネート温度265℃、圧力20Kg/cm2でラミネートし、次にラミネート温度340℃、圧力0.5Kg/cm2でラミネートした。この結果、厚さ150μmのラミネート体を得た。
【0054】
そして、このラミネート体を二軸延伸機を用いて、延伸温度297℃、幅方向延伸倍率4倍、長手方向延伸倍率1.5倍、延伸速度50%/分で延伸し、厚さ25μmの延伸ラミネート体を得た。
【0055】
次に、実施例1の場合と同様に、溶融ハンダ浴槽を用い、所定温度のハンダ浴面上に上記で得られた延伸ラミネート体を浮かべ、5分間放置し、その後取出した。そして、このラミネート体の熱収縮率を求めた。次いで、延伸ラミネート体の支持フィルム層と原材料フィルム層とを手で引き剥がして分離させることにより、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。
【0056】
そして、得られたフィルムについての熱収縮率と層内剥離強度を調べた。それらの結果を、表7に示す。同表に示す層内剥離試験および熱収縮率の測定は、実施例1の場合と同様にして行った。
【0057】
【表7】
Figure 0004184529
【0058】
熱処理前の熱可塑性液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度は0.14Kg/cmであるのに対し、上記表7から明らかなように、260℃加熱で得られた液晶ポリマーフィルムは層内剥離強度が0.2Kg/cm、265℃加熱で得られた液晶ポリマーフィルムは層内剥離強度が0.8Kg/cmとなる。また、270℃以上の加熱により得られた液晶ポリマーフィルムの層内剥離強度は、上記粘着テープと液晶ポリマーフィルムとの粘着界面が剥離し、そのときの剥離強度は1.2Kg/cmである。
【0059】
以上のように、実施例2によれば、温度265〜280℃の範囲において、同表中に○印で示すように、熱可塑性液晶ポリマーフィルムを実用化し得る程度にまで層内剥離強度が高められ、層内剥離が改善されている。一方、260℃の場合は、層内剥離の改善が十分ではない。このことから、熱可塑性液晶ポリマーフィルムの熱収縮は、第1発明の場合と同様に、フィルム融点よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で行うのが好ましい。また、260℃の場合の収縮率は5%、265℃の場合の収縮率は10%、270℃の場合の収縮率は16%、280℃の場合の収縮率は32%であった。よって、層内剥離強度を高めるためには、延伸ラミネート体の熱収縮率を10%以上とする必要がある。
【0060】
以上のことから、延伸ラミネート体を、好ましくは、その原材料フィルムの融点よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で、しかも無応力下で10%以上熱収縮させることにより、得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルムの層内剥離を効果的に解消できることが理解される。
【0061】
比較例2
上記の実施例2と比較するため、ハンダ浴に載せる前の延伸ラミネート体を、引き剥がし速度0.3m/分で支持フィルム層と原材料フィルム層を引き剥がして分離し、この原材料フィルム層からなる熱可塑性液晶ポリマーフィルムを得た。
【0062】
こうして得られたフィルムは、膜厚17μm、分子配向度SORが1.03、フィルムの表面粗度Raは0.09μmであった。また、同フィルムの層内剥離強度は0.14Kg/cmと極めて低く、実用に耐え得るものではない。
【0063】
【発明の効果】
以上のように本発明によれば、低廉なコストで層内剥離を確実に防止することができる。よって、熱可塑性液晶ポリマーフィルムからなる電気絶縁層に金属箔などを接着剤により接着して構成される回路基板を安価に提供できる。

Claims (3)

  1. 熱可塑性液晶ポリマーフィルムと支持フィルムとで構成されるラミネート体を延伸させて得られる延伸ラミネート体を、無応力下で10%以上熱収縮させるものであって、
    前記熱収縮は、熱可塑性液晶ポリマーの融点よりも15℃低い温度以上、融点未満の温度範囲で行うことを特徴とする熱可塑性液晶ポリマーフィルムの改質方法。
  2. 請求項1において、熱収縮は、熱風乾燥炉中において行う熱可塑性液晶ポリマーフィルムの改質方法。
  3. 請求項1または2により得られる熱可塑性液晶ポリマーフィルム。
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