本発明のセラミック構造体について以下に詳細に説明する。
先ず、セラミック構造体を作製するためのグリーンシートを以下のようにして作製する。グリーンシートの原料粉末、例えば、セラミック粉末およびガラス粉末の少なくとも一方に対し、所望により焼結助剤となるセラミック粉末を添加、混合した混合物に、樹脂バインダー、可塑剤等の添加剤、有機溶剤等を加えてスラリーを調製する。その後、このスラリーを用いてドクターブレード法、圧延法、プレス法等の成形法により所定の厚みのグリーンシートを成形する。
次に、電気配線等を形成する場合、上記のグリーンシートに打ち抜き加工を施すことにより、上下の配線導体層を接続するビアホールとなる貫通孔を形成し、この貫通孔内に導体ペーストを充填する。
なお、セラミック粉末としては、金属もしくは非金属の酸化物または非酸化物の粉末が挙げられる。また、これらの粉末の組成は単一組成、化合物の状態のものを単独または混合して使用してもよい。具体的には、Li,K,Mg,B,Al,Si,Cu,Ca,Br,Ba,Zn,Cd,Ga,In,ランタノイド,アクチノイド,Ti,Zr,Hf,Bi,V,Nb,Ta,W,Mn,Fe,Co,Ni等の酸化物、炭化物、窒化物、ホウ化物、硫化物等が挙げられる。
さらに具体的には、SiO2,Al2O3,ZrO2,TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、ZnO,MgO,MgAl2O4,ZnAl2O4,MgSiO3,Mg2SiO4,Zn2SiO4,Zn2TiO4,SrTiO3,CaTiO3,MgTiO3,BaTiO3,CaMgSi2O6,SrAl2Si2O8,BaAl2Si2O8,CaAl2Si2O8,Mg2Al4Si5O18,Zn2Al4Si5O18,AlN,Si3N4,SiC、更には、Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル,ムライト,コージェライト)等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
また、ガラス粉末としては、例えばSiO2−B2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3系,SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa,Sr,Mg,BaまたはZnである),SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は同じかまたは異なるものであり、Ca,Sr,Mg,BaまたはZnである),SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は上記と同じ),SiO2−B2O3−M3O系(但し、M3はLi,NaまたはKである),SiO2−B2O3−Al2O3−M3O系(但し、M3は上記と同じ),Pb系ガラス,Bi系ガラス,アルカリ金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物,希土類酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を含有するガラスが好ましい。これらのガラスは焼成処理することによって非晶質ガラスとなるもの、また焼成処理によって、リチウムシリケート,クォーツ,クリストバライト,コージェライト,ムライト,アノーサイト,セルジアン,スピネル,ガーナイト,ウイレマイト,ドロマイト,ペタライトやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種を析出する結晶化ガラスが用いられる。
セラミック粉末とガラス粉末の混合割合は通常のガラスセラミック構造体材料に用いられる割合であり、重量比で60:40〜1:99であるのが好ましい。
また、助剤成分としては、B2O3,ZnO,MnO2,アルカリ金属酸化物,アルカリ土類金属酸化物,希土類金属酸化物等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
また、本発明のセラミック構造体を圧電素子として使用する場合の材料として、チタン酸バリウムやジルコン酸鉛−チタン酸鉛系固溶体などの灰チタン石型構造の結晶などが挙げられ、具体的にはチタン酸ジルコン酸鉛(PZT)およびチタン酸ジルコン酸ランタン鉛(PLZT)などのチタン酸ジルコン酸塩、またはチタン酸鉛などが挙げられる。
一方、グリーンシートの樹脂バインダーとしては、例えば、アクリル系(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等)、ポリビニルアセタール系、セルロース系、ポリビニルアルコール系、ポリ酢酸ビニル系、ポリ塩化ビニル、ポリプロピレンカーボネート系等の単独重合体または共重合体が挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有したものを用いるのが好ましい。
アクリル系の具体例としては、メチルアクリレート,メチルメタクリレート,エチルアクリレート,エチルメタクリレート,n−プロピルアクリレート,n−プロピルメタアクリレート,イソプロピルアクリレート,イソプロピルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,n−ブチルメタクリレート,イソブチルアクリレート,イソブチルメタクリレート,tert−ブチルアクリレート,tert−ブチルメタクリレート,シクロヘキシルアクリレート,シクロヘキシルメタクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,2−エチルヘキシルメタクリレート,イソノニルアクリレート,イソノニルメタクリレート,イソデシルアクリレート,イソデシルメタクリレート等が挙げられ、これらアクリル酸エステルやメタクリル酸アルキルエステルを主鎖とする共重合体には、カルボン酸基,アルキレンオキサイド基,水酸基,グリシジル基,アミノ基またはアミド基を含有するモノマーが共重合成分として含まれているものを好適に用いることができる。
カルボン酸基を有するものとしては、例えば、アクリル酸,メタクリル酸,マレイン酸,イタコン酸,フマル酸等が挙げられ、アルキレンオキサイドを有するものとしては、メチレンオキサイド,エチレンオキサイド,プロピレンオキサイド等があり、水酸基を有するものとしては、2−ヒドロキシエチルアクリレート,2−ヒドロキシエチルメタクリレート,2−ヒドロキシブチルアクリレート,2−ヒドロキシブチルメタクリレート,ジエチレングリコールモノアクリレート,ジエチレングリコールモノメタクリレート,グリセリンモノアクリレート,グリセリンモノメタクリレート,トリメチロールプロパントリアクリレート,トリメチロールプロパントリメタクリレート等があり、グリシジル基を有するものとしては、グリシジルアクリレート,グリシジルメタクリレート等があり、アミノ基またはアミド基を有するものとしては、ジメチルアミノエチルアクリレート,ジメチルアミノエチルメタクリレート,ジエチルアミノエチルアクリレート,ジエチルアミノエチルメタクリレート,N−tert−ブチルアミノエチルアクリレート,N−tert−ブチルアミノエチルメタクリレート,アクリルアミド,シクロヘキシルアクリルアミド,シクロヘキシルメタクリルアミド,N−メチロールアクリルアミド,ジアセトンアクリルアミド等がある。
これらアクリル酸エステルやメタクリル酸アルキルエステルを主鎖とする共重合体には、他の共重合可能なアクリロニトリル,スチレン,エチレン,酢酸ビニル,n−ビニルピドリドン等を共重合させても良い。
ポリビニルアセタール系の具体例としては、ポリビニルブチラール,ポリビニルエチラール,ポリビニルプロピラール,ポリビニルオクチラール,ポリビニルフェニラール等やその誘導体等が挙げられる。
セルロース系の具体例としては、メチルセルロース,エチルセルロース,カルボキシメチルセルロース,ヒドロキシプロピルセルロース,ヒドロキシプロピルメチルセルロース,ニトロセルロース,酢酸セルロース等が挙げられる。
次に、メタライズ配線やビア導体等の導体部を形成する場合の導体ペーストとしては、例えばAu,Cu,Ag,Pd,W,Mo,Ni,AlおよびPt等の金属粉末の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金等のいずれの形態であってもよい。これらの金属粉末を樹脂バインダー,溶剤,可塑剤,分散剤等を混合したものが好適に使用できる。
導体ペーストの樹脂バインダーとしては、アクリル系,ポリビニルアセタール系,セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有する。
アクリル系の具体例としては、アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられ、これらの共重合体には、水酸基,カルボン酸基,アルキレンオキサイド基,グリシジル基,アミノ基,アミド基等を適宜導入しても良い。これらを導入することで、セラミックスとの分散性を向上させる効果や、粘性やチキソ性を向上させる効果が期待できる。また、熱分解性や各種溶剤への溶解性等の性能を損なわない範囲内であれば、アクリル樹脂と共重合が可能である、スチレン,α−メチルスチレン,アクリロニトリル,エチレン,酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,n−ビニルピロリドン等を適宜導入しても良い。これらのアクリル樹脂のうち、必要に応じて単独または2種以上を適宜選択して使用することができる。
導体ペーストの溶剤としては、テルピネオール,ジヒドロテルピネオール,エチルカルビトール,ブチルカルビトール,カルビトールアセテート,ブチルカルビトールアセテート,ジイソプロピルケトン,メチルセルソルブアセテート,セルソルブアセテート,ブチルセルソルブ,ブチルセルソルブアセテート,シクロヘキサノン,シクロヘキサノール,イソホロン,シプロピレングリコール,プロピレングリコールモノメチルエーテル,プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート,ブチルカルビトールメチル−3−ヒドロキシヘキサノエート,トリメチルペンタンジオールモノイソブチレート,パイン油,ミネラルスピリット等の高沸点溶剤が好適に使用できる。
樹脂バインダーは金属粉末100重量部に対して0.5〜15.0重量部、有機溶剤は固形成分および樹脂バインダー100重量部に対して5〜100重量部の割合で混合されることが好ましい。なお、この導体ペースト中には若干のガラス粉末や酸化物粉末等の無機成分を添加してもよい。この導体ペーストを、上記グリーンシートにスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の公知の印刷手法を用いて、所定のパターンに印刷塗布する。
このようにして得られたグリーンシートに、樹脂バインダー,溶剤,可塑剤より成る適当な接着剤を塗布もしくは転写し、他のグリーンシートと加圧し積層することにより一体化し、グリーンシート積層体を作製する。得られたグリーンシート積層体を所定条件で焼成することにより、セラミック構造体が得られる。
次に、本発明のセラミック構造体を作製するための方法について図1及び図2を用いて説明する。
本方法においては、加圧積層前に焼成過程で熱分解する樹脂シート2の貫通孔3にグリーンシートを嵌め込む。これにより、加圧し積層する段階で樹脂シート2を通じて凹部もしくは空洞の底部が加圧されるため、膨らみや変形が発生しない。また、グリーンシート積層体にデラミネーションが発生しないように高い積層圧力の加圧が可能となる。なお、本発明に適用可能な凹部もしくは空洞の大きさに関しては、樹脂シート−グリーンシート複合体を作製することができる大きさであれば、微細なものから比較的大きなものまで適用可能である。
なお、図2の凹部7もしくは空洞10を取り囲む側壁が薄くて弱い場合でも、加圧時や生加工時等に、凹部7もしくは空洞10の周囲の薄い側壁が変形する不具合を防ぐことができる。
次に、樹脂シート2の貫通孔3にグリーンシートを嵌め込む方法について述べる。まず、貫通孔3は、打ち抜き金型の駆動部である上金型4と、打ち抜き金型の固定部である下金型6により主に構成される打ち抜き装置によって形成される。図1(a)に示すように、開口5が設けられた下金型6に樹脂シート2を載置し、図1(b)に示すように、上金型4を樹脂シート2の上方から下方に向けて駆動することにより打ち抜き加工を行い、図1(c)に示すように貫通孔3を形成し、貫通孔3が形成された樹脂シート2を得る。なお、打ち抜き装置は、上金型4を固定して下金型6を駆動可能としたものでもよい。
次に、図1(d)に示すように、同じ打ち抜き装置を用いて、グリーンシート1を貫通孔3が形成された樹脂シート2に重ね、図1(e)に示すように、上金型4を駆動することにより、グリーンシート1の打ち抜きと、打ち抜かれたグリーンシート1の貫通孔3への嵌め込みを同時的に行う。続いて、余分な部分のグリーンシート1を取り除いて、図1(f)に示すように貫通孔3にグリーンシートが嵌め込まれた樹脂シート−グリーンシート複合体Aを得る。
続いて、表面に凹部7を有するセラミック構造体の製造方法について、図2の工程図で説明する。最上層部の樹脂シート2aが嵌め込まれた樹脂シート−グリーンシート複合体A1と、最下層部の樹脂シート2bが嵌め込まれた樹脂シート−グリーンシート複合体A2と、メタライズ層から成る配線導体層8およびビア導体9が形成されたグリーンシートB1,B2,B3とを一括積層し、グリーンシート積層体Cを得る。次に、グリーンシート積層体Cに嵌め込まれた最上層部の樹脂シート2aを第一の脱バインダー工程で除去した(c)の状態を経て、さらに第二の脱バインダー工程によって樹脂シート2bを取り除く。最後に、グリーンシート積層体を第三の脱バインダー工程を経てから焼成して表面に凹部7を有するセラミック構造体Dを得る。
一方、内部に空洞10を有するセラミック構造体の場合、図2の工程図(c)に示すように、樹脂シート−グリーンシート複合体に嵌め込まれた最上層部の樹脂シート2aを第一の脱バインダー工程で除去したものを、一旦室温まで降温してから、同様にして作製した他の樹脂シート−グリーンシート複合体を必要最小限の圧力で積層して内部に空洞10を有するセラミック積層体Dを形成する。さらに、第二の脱バインダー工程によって樹脂シート2bを取り除く。最後に、グリーンシート積層体を第三の脱バインダー工程を経てから焼成して、表面の凹部および内部の空洞を有するセラミック構造体Dを得る。
このような本発明の製造方法により、表面の凹部および内部の空洞の底部が加圧されて凹部および空洞の底部の膨らみが発生することがないので、高い積層圧力の加圧が可能となり、デラミネーションが生じないセラミック構造体Dが得られる。
また、本方法は、まず、樹脂シートに打ち抜き型を用いて貫通孔を形成し、引き続いて貫通孔が形成された樹脂シート上にセラミックグリーンシートを載置して打ち抜き型を用いてセラミックグリーンシート側から押圧することによりセラミックグリーンシートの一部を樹脂シートの貫通孔に嵌め込んで樹脂シート−セラミックグリーンシート複合体を作製するため、セラミック構造体の凹部もしくは空洞の側壁を形成するためのセラミックグリーンシートに加えられる、打ち抜き金型による剪断履歴は1回で済むため、凹部もしくは空洞の側壁の変形をより抑えることが可能であり、特に優れた直角度を有する凹部もしくは空洞の側壁を実現する上で、有効な手段である。従って、凹部もしくは空洞の側壁が薄くて弱い場合でも、直角度、平面度および寸法精度が高い焼結面から形成される表面の凹部もしくは内部の空洞を有するセラミック構造体を得ることができる。
なお、本方法における、樹脂シート−セラミックグリーンシート複合体の打ち抜き・嵌め込み方法を、逆転させたものを併用してもよい。即ち、図1(b)の樹脂シート2の代わりに、まず、グリーンシート1を打ち抜き型で貫通してセラミック構造体の凸部以外の部分を形成し、続いて、得られたグリーンシート1の貫通孔に焼成過程で熱分解する樹脂シート2を嵌め込んだ樹脂シート−セラミックグリーンシート複合体を併用してもよい。この場合、セラミック構造体の凹部もしくは空洞の側壁を形成するためのグリーンシート1に加えられる、打ち抜き金型による剪断履歴は、グリーンシート1を打ち抜いて貫通孔を形成する工程と形成された貫通孔に樹脂シートを嵌め込む工程の合計2回かかることになるため、セラミック構造体の凹部もしくは空洞の側壁の角部となるグリーンシート1の貫通孔の壁部の強度が弱い場合は変形する恐れがある。そこで、良好な直角度を実現するために、図1の打ち抜き金型の駆動部である上金型4と打ち抜き金型の固定部である下金型6との隙間(クリアランス)を微調整することが好ましい。
次に、本発明のセラミック構造体を製造する際に用いる、樹脂シート2(2a,2b)の製造方法について述べる。樹脂シート2(2a,2b)は、樹脂ビーズと、樹脂バインダーと、可塑剤および滑剤の少なくとも一方とを含むことが好ましい。樹脂シート2(2a,2b)に求められる特性としては、打ち抜き加工性(剪断加工性)、焼成工程での熱分解性が重要であり、良好な打ち抜き加工性を得るためには粉末状の樹脂ビーズの添加が有効である。樹脂シートの打ち抜きや切断等の剪断加工の際に、樹脂ビーズ間に存在する樹脂層を介して剪断方向にクラックが生じやすいため剪断加工が容易にできる。また、剪断方向以外に生じたクラックの伝播が樹脂ビーズの存在で抑えられるため、剪断方向以外へのクラック伝播を抑制し、所望の形状に剪断加工できることより、貫通孔と略同形状の樹脂シートの嵌め込みが可能となるので、グリーンシートを加圧し積層した際にグリーンシートの変形を防止できる。さらに、可塑剤および滑剤の少なくとも一方を含むことで、加工性をより一層向上させることが可能となる。可塑剤を含むことで、樹脂シートに柔軟性や可撓性を付与することができる。また、滑剤を含むことで、樹脂シートの剪断加工時に樹脂同士もしくは樹脂ビーズ間の滑りが良くなることから、剪断加工性が向上するとともに、樹脂シートの伸度を抑えることができるので寸法精度の高い加工が可能となる。
樹脂ビーズは、焼成時に良好な熱分解挙動を示すものであれば特に制限されないが、アクリル系,α−メチルスチレン系等が好ましい。また、樹脂ビーズの平均粒径は1〜20μmが好ましい。平均粒径が1μm未満の場合、樹脂ビーズの凝集が問題となり、平均粒径が20μmを超える場合、樹脂シート2(2a,2b)の表面に突起が生じ易い。なお、樹脂ビーズとして中空構造のものを使用しても良い。この場合、脱脂の際に、樹脂ビーズの樹脂分が少なくて済むのでグリーンシートへのシートアタックが減少するという利点がある。
また、樹脂ビーズは、耐溶剤性の観点から架橋反応が生じたものが好ましい。但し、過度に架橋反応が進行している場合、熱分解性が劣化する傾向がある。
樹脂ビーズおよび樹脂バインダーを、トルエン,ベンゼン,キシレン等の芳香族炭化水素系、酢酸エチル,酢酸ブチル,酢酸イソブチル等のエステル系、メチルイソブチルケトン,メチルエチルケトン,アセトン等のケトン系、ヘキサン,ヘプタン等の脂肪族炭化水素系、ジエチルエーテル,ジプロピルエーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル系、メタノール,エタノール,イソプロピルアルコール,ブタノール等のアルコール系、エチルセルソルブ等のセルソルブ系等から選ばれる1種若しくは2種以上の有機溶剤中に分散させる。
樹脂シート2(2a,2b)に使用する樹脂バインダーとしては、熱分解性が優れるものであればよく、アクリル系,α−メチルスチレン系等が好ましい。アクリル樹脂としては、アクリル酸,メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体,メタクリル酸エステル共重合体,アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。このようなものとして,メチルアクリレート,メチルメタクリレート,エチルアクリレート,エチルメタクリレート,n−プロピルアクリレート,n−プロピルメタアクリレート,イソプロピルアクリレート,イソプロピルメタクリレート,n−ブチルアクリレート,n−ブチルメタクリレート,イソブチルアクリレート,イソブチルメタクリレート,t−ブチルアクリレート,t−ブチルメタクリレート,シクロヘキシルアクリレート,シクロヘキシルメタクリレート,2−エチルヘキシルアクリレート,2−エチルヘキシルメタクリレート等がある。これらのアクリル樹脂のうち、必要に応じて単独または2種以上を適宜選択して使用することができる。その中でも、イソブチルメタクリレート系(IBMA)やメチルメタクリレート系(MMA)樹脂バインダーの単体若しくは共重合体が特に好ましい。また、熱分解性を損なわない範囲内であれば、アクリル樹脂と共重合が可能である、スチレン,α−メチルスチレン,アクリロニトリル,エチレン等を適宜導入しても良い。これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有するのが好ましい。
さらに、樹脂シート2(2a,2b)に柔軟性や可とう性を与えるために加えられる可塑剤としては、樹脂シートの熱分解性を損なわないものであればよく、例えば、ジメチルフタレート,ジブチルフタレート,ジ−2−エチルヘキシルフタレート,ジヘプチルフタレート,ジ−n−オクチルフタレート,ジイソノニルフタレート,ジイソデシルフタレート,ブチルベンジルフタレート,エチルフタリルエチルグリコレート,ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸エステル系や、ジ−2−エチルヘキシルアジペート,ジブチルジグリコールアジペート等の脂肪族エステル系があり、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有するのが好ましい。中でもジブチルフタレート(DBP),ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)等のフタル酸系エステル等の可塑剤が好ましい。
さらに、樹脂シート2(2a,2b)の剪断加工性を向上させるために加えられる滑剤としては、樹脂シート2(2a,2b)の熱分解性を損なわないものであればよく、例えば、ジエチレングリコール,トリエチレングリコール,ポリエチレングリコール,ジエチレングリコールメチルエーテル,トリエチレングリコールメチルエーテル,ジエチレングリコールエチルエーテル,ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル,トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル,エチレングリコールフェニルエーテル,エチレングリコール−n−アセテート,ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル,ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のエチレングリコール系、ジプロピレングリコール,トリプロピレングリコール,ポリプロピレングリコール,ジプロピレングリコールメチルエーテル,トリプロピレングリコールメチルエーテル,ジプロピレングリコールモノエチルエーテル,ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル,トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル,プロピレングリコールフェニルエーテル,エチレングリコールベンジルエーテル,エチレングリコールイソアミルエーテル等のプロピレングリコール系、グリセリン,ジグリセリン,ポリグリセリン等のグリセリン系等が挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有する。中でもポリエチレングリコール(PEG),グリセリンが好ましい。
これら可塑剤や滑剤は必要最小限の添加量に止めることが好ましい。例えば、樹脂シートが接触する部位に微細な配線導体等の導体部が形成されている製品の焼成時において、溶融した樹脂シート2(2a、2b)の組成物中に可塑剤や滑剤が多く残存している場合、それに接触する導体部中の樹脂バインダーを溶解させやすくなり、導体部の強度が低下することで導体部を変形させたり、断線させたりするなどの欠陥が生じるおそれがある。
上記有機溶剤中に、樹脂ビーズ100重量部に対し、樹脂バインダーを40〜80重量部添加し、分散させた後、可塑剤や滑剤を合計量で5〜40重量部添加して作成したスラリーを、従来周知のロールコーター,グラビアコーター,ブレードコーター等のコーティング方式により剥離剤処理を施したキャリアーシート上に塗布し、乾燥することにより樹脂シート2(2a,2b)を得る。
樹脂シート2(2a,2b)の熱分解性は、それが載置されるグリーンシートに含まれる樹脂バインダーおよび樹脂シートが接する導体部に含まれる樹脂バインダーよりも優れていることが好ましい。
具体的には、樹脂シート2(2a,2b)の熱分解性は、樹脂シート2(2a,2b)と接触するグリーンシートに含まれている樹脂バインダーよりも優れていることが好ましい。すなわち、グリーンシート中の樹脂バインダーが熱分解(脱脂)してグリーシート中の残存樹脂バインダー量が減少するに伴ってグリーンシートの強度が低下し、脆くなったグリーンシート上で遅れて樹脂シート2(2a,2b)が熱分解した場合、加熱によって液状になった高粘度の樹脂シート2(2a,2b)の溶融物が、脱脂後に脆くなったグリーンシートの表面で沸騰に伴う上下左右への振動運動を伴いながら熱分解するため、その熱分解部分に接するグリーンシートの表面が部分的にえぐり取られることでその表面が侵食破壊される現象を解消することができる。
一方、樹脂シートが接触する部位に配線導体等の導体部が形成されている場合、樹脂シート2(2a,2b)の熱分解性は、それと接する導体部に含まれる樹脂バインダーよりも優れていることが好ましい。より具体的には、樹脂シート2(2a,2b)と接する導体部に含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度を、樹脂シート2(2a,2b)が載置されるグリーンシートに含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度以上になるように設定すれば良い。これによって、焼成の際に樹脂シート2(2a,2b)の大半が熱分解した後に、導体部に含まれる導体ペースト用の樹脂バインダーの熱分解が開始されるため、大量の溶融した樹脂シート2(2a,2b)の組成物が残存している段階では、それに接触する導体部中の樹脂バインダーは熱分解を開始していないことから、導体部の強度が十分維持される。従って、溶融した樹脂シート2(2a,2b)の組成物が導体部中の樹脂バインダーを溶解させることで導体部を変形させたり、断線させたりするなどの欠陥のない信頼性の高いセラミック構造体を作製することが可能となる。
次に、樹脂シート2(2a,2b)の熱分解性について説明する。樹脂シート2(2a,2b)の熱分解は、最上層部2aから順に下層部に向けて熱分解を開始し、最終的に最下層部2bで熱分解が完了することが好ましい。即ち、樹脂シート2の最上層部2aは、最下層部2bよりも熱分解性の点で優れていることが好ましい。
樹脂シート2の最上層部2aと最下層部2bの熱分解性に差を持たせることによる効果について、(1)表面に凹部7を有するセラミック構造体の場合、(2)内部に空洞10を有するセラミック構造体の場合に分けて説明する。
(1)の場合、図2の工程図(c)に示すように、グリーンシート積層体Cに嵌め込まれた最上層部の樹脂シート2aが第一の脱バインダー工程で除去される工程では、最下層部の樹脂シート2bに隣接するグリーンシートおよび導体部は樹脂シート2bで保護されているため、樹脂シート2aの熱分解過程で生じる溶融物によるダメージを受けることなく樹脂シート2aを熱分解させることができる。続く第二の脱バインダー工程によって最下層部の樹脂シート2bを取り除くことで、樹脂シート2bに隣接するグリーンシートおよび導体部は樹脂シート2の溶融物によるダメージを最小限に抑えることが可能となる。これらの効果は、グリーンシートの凹部7に嵌め込まれる樹脂シート2の量が多い場合に特に顕著である。
一方(2)の場合も、図2の工程図(c)に示すように、グリーンシート積層体Cに嵌め込まれた最上層部の樹脂シート2aを第一の脱バインダー工程で除去することで、最下層部の樹脂シート2bに隣接するグリーンシートおよび導体部は樹脂シート2bで保護されているため、樹脂シート2aの熱分解過程で生じる溶融物によるダメージを受けることなく樹脂シート2aを熱分解させることができる。さらに、得られた樹脂シート−グリーンシート複合体を一旦室温まで降温してから、同様にして作製した他の樹脂シート−グリーンシート複合体を、空洞10に樹脂シート2bが存在した状態で必要最小限の圧力で積層することによって、変形させることなく内部に空洞10を有するセラミック積層体Dを形成することができる。
即ち、好ましくはグリーンシート積層体Cに含まれる樹脂バインダーのガラス転移温度よりも低い温度まで降温し、空洞10に樹脂シート2bが存在した状態で他の樹脂シート−グリーンシート複合体を必要最小限の圧力で積層することで、積層時の圧力変形を受けることなく内部に空洞10を有するセラミック積層体を形成することができる。続いて、第二の脱バインダー工程によって最下層部の樹脂シート2bを取り除くことで、樹脂シート2bに隣接するグリーンシートおよび導体部は樹脂シート2の溶融物によるダメージを最小限に抑えることができる。
これらの効果も、グリーンシートの空洞10に嵌め込まれる樹脂シート2の量が多い場合に特に顕著であり、前述した樹脂シート2の熱分解時の溶融物による悪影響を抑える効果に加えて、溶融物が熱分解する際に大量に発生する分解ガスによる悪影響も抑えることができる。即ち、樹脂シート2aを除去しないで他の樹脂シート−グリーンシート複合体を積層し、樹脂シート2で充填された空洞10を有するグリーンシート積層体を焼成した場合、樹脂シート2全体が同時に熱分解を開始することで大量の溶融物が一気に発生するため、空洞10の周辺部位を変形させる不具合が発生しやすくなる。また、樹脂シート2の熱分解ガスも一気に大量に発生するため、その圧力で空洞10を取り囲むグリーンシート部分がダメージを受ける不具合が生じる場合がある。例えば、空洞10を塞ぐ上部の樹脂シート−グリーンシート複合体にクラックが形成されたり、変形が起こる等といった不具合が生じる場合がある。従って、第一の脱バインダー工程で樹脂シート2の一部を除去した後に他の樹脂シート−グリーンシート複合体を積層して空洞10を有するグリーンシート積層体を形成した後、残る最下層部の樹脂シート2bを第二の脱バインダー工程で除去することによって、樹脂シート2を段階的に穏やかな条件で熱分解させることが可能となり、これらの不具合を防ぐことができる。
このように樹脂シート2の熱分解性に差を持たせる手段として、最上層部2aと最下層部2bを構成する樹脂ビーズおよび樹脂バインダーの組み合わせの種類を変えることがある。即ち、最上層部の樹脂シート2aの材料は最下層部の樹脂シート2bよりも熱分解性に優れたものを選定する。また、上述したように熱分解性に差を持たせるように樹脂シート2a,2bを個別に作製して組み合わせる方法に加えて、最下層部の樹脂シート2bの上部にテープ成形やコーティング等の手法によって最上層部の樹脂シート2aを形成することで、樹脂シート2内部において熱分解性を傾斜的に変化させた樹脂シート2を用いても構わない。
なお、樹脂シート2a,2bの厚みについては、樹脂シート2aが樹脂シート2bよりも厚いことが好ましい。つまり、最下層部の樹脂シート2bは、最上層部の樹脂シート2aが第一の脱バインダー工程で熱分解している段階では、最下層部の樹脂シート2bの直下に存在するグリーンシートおよび導体部を保護するために、ある程度シート状態を保持していることが好ましいが、より好ましくは、第一の脱バインダー工程において、シート状態を最低限維持できる最小厚みの樹脂シート2b上で、樹脂シート2aを含む樹脂シート2の大部分を熱分解除去することである。これにより、第二の脱バインダー工程の際、樹脂シート2bの溶融物量を抑えることによって、その直下にあるグリーンシートや導体部への種々の不具合を防ぐことができる。
また、樹脂シート2a,2bを合わせた樹脂シート2の厚みt2は、表面の凹部7および内部の空洞10を形成するグリーンシートの厚みt1と同程度に設定することで均圧積層することができ、好ましい。実際は、積層圧力,積層温度等の積層条件によって、樹脂シート厚みt2とグリーンシート厚みt1との厚みバランスの最適比は若干異なるが、t2が0.3t1〜1.1t1であることが好ましく、均圧積層の観点からは、より好ましくはt2が0.9t1〜1.0t1である。
さらに、樹脂シート2は、グリーンシートの凹部7となる部位および空洞10となる部位に形成された貫通孔に載置されるが、その貫通孔の少なくとも底面全面に樹脂シート2下面が接するように載置または設置されるのがよい。この場合、貫通孔の底面全面に積層圧力を加えることができ、その底面の変形を防止することができる。また、上記貫通孔の少なくとも底面全面および内側面の下側全周に、樹脂シート2の下面および側面が接するように、樹脂シート2が載置または設置するのがよい。この場合、上記貫通孔の側面側が弱い場合であっても、積層圧力による貫通孔の側面側の変形や破壊を防ぐことができる。さらには、上記貫通孔の底面全面および内側面全周に、樹脂シート2の下面および側面が接するように、樹脂シート2が載置または設置されるのがよい。この場合、上記貫通孔の内面全面の変形を防ぐことができる。
一方、内部に空洞10を有するセラミック構造体の場合、セラミック積層体C上に他の樹脂シート−グリーンシート複合体を積層する際、空洞10に樹脂シート2bを存在させることで、空洞10周辺の圧力変形抑制効果が得られるように樹脂シート2bの厚みを設定する。この際、樹脂シート2bの厚みを過大に設定し、結果的に樹脂シート2bの嵌め込み量が多くなった場合、一気に大量の熱分解ガスが発生することで空洞10周辺部の上部の樹脂シート−グリーンシート複合体等にダメージを与える場合があるため、樹脂シート2a,2bの厚みバランスを十分考慮することが好ましい。
なお、図2の実施の形態では、樹脂シート2が最上層部の樹脂シート2aと最下層部の樹脂シート2bとから成る場合について説明したが、最上層部の樹脂シート2aと最下層部の樹脂シート2bとの間に、他の樹脂シートが設けられていてもよい。その場合、他の樹脂シートは、熱分解性が樹脂シート2a,2bのいずれか一方と同じであるか、樹脂シート2a,2bの中間的な熱分解性を有するものであることが好ましい。
以上のことから、本発明において、グリーンシート積層体を形成する各材料の熱分解性は、N2雰囲気中、昇温速度10℃/分で600℃まで熱重量示差熱分析(TG/DTA)を差動型高温熱天秤(理学電機(株)製「TG8120」)で行った場合、樹脂シート2の最上層部の80%重量減少温度をTa℃、最下層部の80%重量減少温度をTb℃、樹脂シート2が載置されるグリーンシートに含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度をTc℃としたときに、Ta<Tb≦Tcの関係を満たすことが好ましい。また、樹脂シート2(2a,2b)が600℃以下において99重量%以上熱分解することが好ましい。
一方、樹脂シート2が接触する部位に配線導体等の導体部が形成されている場合、導体部に含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度をTc℃以上に設定することが好ましい。
なお、本発明のセラミック構造体の焼成時における脱バインダー工程の温度プロファイルは、大半の樹脂シート2aが熱分解する温度であるTa℃付近を所定時間、例えば1時間から6時間維持して十分に樹脂シート2aを熱分解除去する第一の脱バインダー工程と、続けてTb℃を所定時間、例えば1時間から6時間維持して十分に樹脂シート2bを熱分解除去する第二の脱バインダー工程と、続けてTc℃を超える温度を所定時間、例えば1時間から6時間維持して行う第三の脱バインダー工程に分けて行うことが好ましい。このような保持時間は、樹脂バインダーの量及び材料によって上記範囲内で変化するものである。
これにより、大部分の樹脂シート2(2a,2b)を熱分解させた後に、グリーンシートおよび導体部の樹脂バインダーが熱分解を開始することが可能となり、樹脂シート2(2a,2b)の溶融物が残存する段階では、グリーンシートおよび導体部中の樹脂バインダーは熱分解を開始していないことから、十分な強度を維持できる。そのため、樹脂シート2(2a、2b)の溶融物がそれに接触するグリーンシートおよび導体部を侵食破壊することを防ぐことができる。また、Tc℃を超える温度を所定時間維持することで、グリーンシートおよび導体部の樹脂バインダーも十分に熱分解させることができる。
このようにして得られた本発明によるセラミック構造体の表面の凹部7および内部の空洞10は、その内面が焼結されたままの焼結面から成る状態において、底面に対して略垂直な形状であり、内側面と底面とのなす角度が90°±3°、凹部および空洞の底面および内側面の平面度が30μm以下、凹部および空洞の底面と内側面との間の角部および内側面同士の間の角部の曲率半径が50μm以下である。ここで言う平面度とは、日本工業規格に定義されたものに基づいたものである(例えば、参考文献1:「JIS工業用語大辞典(第4版)」,p1747,1995年、参考文献2:「JIS B6191(工作機械―静的精度試験方法及び工作精度試験方法通則)」,p20〜26,1999年参照)。
このように本発明のセラミック構造体における凹部もしくは空洞は、高い直角度、平面度および寸法精度を有する焼結面から成るため、切削や表面処理等の特別な平坦化処理を行なう必要が無い。従って、表面の凹部もしくは内部の空洞に電子部品等を搭載する場合、ボンディング不良等の不具合を防ぐことができる。さらに、内部の空洞を流体の流路としてセラミック構造体をマイクロ化学チップ等とする場合は、流量や流速を一定にすることが可能となる。一方、曲率半径もまさに設計通りのセラミック構造体を得ることができるため、表面の凹部もしくは内部の空洞に電子部品等を搭載する場合、凹部もしくは空洞の有効体積を最大化できるため電子部品等の搭載密度を高めることができる。さらに、内部の空洞を流体の流路とする場合は、設計通りの流量や流速を実現することができる。
なお、本発明のセラミック構造体における凹部もしくは空洞は、高い直角度、平面度および寸法精度を有する焼結面から成るため、切削や表面処理等の特別な平坦化処理を行なう必要が無いものであるが、さらに凹部もしくは空洞の内面に軽く研磨処理や切削処理を施してもよい。その場合、さらに高い直角度、平面度および寸法精度が得られることとなる。
このような本発明による、表面の凹部7および内部の空洞10の少なくとも一方を有する複雑な形状のセラミック構造体の用途例としては以下のようなものが挙げられる。
例えば、
(1)凹部7や空洞10の内面に導体層を形成して成る導波管や導波管回路基板、または凹部7や空洞10に導体を充填して成る回路配線やコンデンサ,インダクタンス等を有する配線基板、
(2)(1)の導波管回路基板や配線基板を用いた、LSI等の半導体集積回路素子,水晶振動子等の圧電振動子,フォトダイオードやCCD素子等の受光素子,各種センサー素子,各種電子部品等を収納するための電子部品収納用パッケージ、
(3)(1)の導波管、導波管回路、配線基板を用いたミリ波回路、ミリ波回路を用いた自動車等用のミリ波レーダー、
(4)凹部7の底面に導体層が形成されるとともに凹部7の内側に誘電体線路が設置され、凹部7が導体板で塞がれて成る非放射性誘電体線路、それを用いた自動車等用のミリ波レーダー、
(5)内部に酸素ガス,水素ガス,アルコール,炭化水素ガス等が流通するための流路が形成された燃料電池や燃料電池用改質器、
(6)内部に薬液、血液等の体液、化学反応用溶液、遺伝子や細菌,ウィルス,たんぱく質等を含む溶液が流通するための流路、流路に繋がった反応部や処理部,加熱部等、および処理された液体を採取する採取部を有するマイクロ化学チップ、マイクロフルイディクス、
(7)圧電材料から成り、内部に形成された空洞10や流路からインクを圧電効果により外部に放出するインクジェットプリンターヘッド、
(8)圧電材料から成り、凹部7や空洞10を形成して成るアクチュエーター等の圧電素子、
(9)凹部7や空洞10の内面に電子部品等を搭載するための導体層が形成された光学用途の部品,基板、凹部7や空洞10によって光路が形成された光学用途の部品,基板、
(10)凹部7や空洞10の内面に電子部品等を搭載するための導体層が形成されたMEMS(Micro Electro Mechanical Systems;微小電子機械システム)用の基体、凹部7や空洞10によって光路もしくは流体の流路が形成されたMEMS用の基体、
(11)内部にフラクタル構造の複数の空洞10が形成された電波吸収体、
(12)DPF(Diesel Particulate Filter)等のハニカム形状の空洞10が形成されたフィルター類、
(13)PDP(Plasma Display Panel),FED(Field Emission Display)等の背面板等の多数の凹部7が形成されたディスプレイ部品、がある。
本発明のセラミック構造体の実施例を以下に説明する。
(実施例1〜4)
表面に凹部7を有するセラミック構造体
[1.グリーンシートの準備]
SiO2,Al2O3,CaO,ZnO,B2O3からなるガラスセラミック原料粉末100重量部に対して、メチルアクリレートとメチルメタクリレートの共重合組成物のバインダーを11重量部、可塑剤としてフタル酸ジブチルを5重量部添加し、トルエンを有機溶剤としてボールミルにより36時間混合しスラリーを調製した。得られたスラリーを用いてドクターブレード法により成形、乾燥して、厚さ0.2mm,0.4mmのグリーンシートを作製した。次に、このグリーンシートに直径200μmの貫通孔(スルーホール)をパンチングで形成した。
続いて、下記スルーホール充填用の導体ペーストを、グリーンシートに形成されたスルーホールにスクリーン印刷法によって充填した。次に、下記配線用の導体ペーストを用いてスクリーン印刷法によって、それぞれ膜厚15μmの配線パターンを印刷塗布し、続いて温風乾燥炉を用いて80℃で1時間乾燥させてメタライズ配線を形成した。
[2.導体ペーストの作製]
(2−1)スルーホール充填用の導体ペースト(ビア導体形成用の導体ペースト)
Cu粉体100重量部に対し、メチルアクリレートとメチルメタクリレートの共重合組成物の樹脂バインダーを(グリーンシートと共通のものを使用)2重量部、テルピネオールおよびブチルカルビトールアセテートの混合溶剤を4重量部、フタル酸エステル系の可塑剤(DOP:ジ−2−エチルヘキシルフタレート,DBP:ジブチルフタレートの混合物)を2重量部添加し、これらを攪拌して混合した。その後、Cu粉体および樹脂バインダー等の凝集体がなくなるまで3本ロールミルで混合して導体ペーストを調製した。
(2−2)配線用の導体ペースト
Cu粉体100重量部に対し、メチルアクリレートとメチルメタクリレートの共重合組成物の樹脂バインダーを(グリーンシートと共通のものを使用)3重量部、テルピネオールおよびブチルカルビトールアセテートの混合溶剤を10重量部、フタル酸エステル系の可塑剤(DOP,DBPの混合物)を10重量部添加し、これらを攪拌して混合した。その後、Cu粉体および樹脂バインダー等の凝集体がなくなるまで3本ロールミルで混合して導体ペーストを調製した。
[3.樹脂シートの作製]
架橋イソブチルメタクリレートの樹脂ビーズ100重量部に対して、樹脂バインダーとしてイソブチルメタクリレート55重量部、DOP5重量部、ポリエチレングリコール5重量部、メチルイソブチルケトン150重量部を加えた組成物を混合してスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法により成形し、乾燥して厚さ0.4mmの樹脂シート2aを作製した。
同様に、架橋n−ブチルメタクリレートの樹脂ビーズ100重量部に対して、樹脂バインダーとしてn−ブチルメタクリレート55重量部、DOP5重量部、ポリエチレングリコール5重量部、メチルイソブチルケトン150重量部を加えた組成物を混合してスラリーとした。このスラリーを用いてドクターブレード法により成形し、乾燥して厚さ0.2mmの樹脂シート2bを作製した。
[4.凹部7を有するセラミック構造体の作製]
樹脂シート2a,2bを用いて図2のグリーンシート積層体を形成した。即ち、図1の打ち抜き法によって、樹脂シート2a,2bにグリーンシートを嵌めこんで表1に示す形態の樹脂シート−グリーンシート複合体A1(厚さ0.4mm、凹部:奥行50mm×巾5mmもしくは10mm×高さ0.4mm、凹部側壁:巾:1mmもしくは3mm、各凹部を取囲むように各4面から構成される)および樹脂シート−グリーンシート複合体A2(厚さ0.2mm、凹部:奥行50mm×巾5mmもしくは10mm×高さ0.2mm、凹部側壁:巾:1mmもしくは3mm、各凹部を取囲むように各4面から構成される)を作製した。
続いて、アクリル樹脂,溶剤,フタル酸エステル系の可塑剤より成る接着剤を塗布した樹脂シート−グリーンシート複合体A1,A2および厚さ0.2mmであるグリーンシートB1,B2,B3を4.9MPaの圧力で積層することにより、5枚のグリーンシートを一体化し、内部配線を有するグリーンシート積層体を作製した。表1に得られたグリーンシート積層体の、凹部7の底面巾W1および側壁巾W2を示した。
次に、このグリーンシート積層体を、Al2O3系セッターに載置して窒素,水素,水蒸気の混合雰囲気焼成炉内にて、樹脂シート2aの80%重量減少温度Ta℃付近である310℃で3時間保持して、十分に樹脂シート2aの除去を行った後、樹脂シート2bの80%重量減少温度Tb℃付近である330℃で3時間保持して、十分に樹脂シート2bの除去を行った。
その後、さらにグリーンシートに含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度Tc℃を超える温度領域である850℃を3時間保持して、さらに脱バインダーを行い、続けて950〜1000℃で焼成することで、種々の大きさの凹部7を有するセラミック構造体を作製した。
(比較例1〜4)
樹脂シート2a,2bを用いない以外は実施例1〜4と同様にしてセラミック構造体を作製した。
得られたセラミック構造体の評価結果を表1に示す。まず、凹部7の内側面の最大反り部分(凹凸が最大となる先端部分)と凹部底面とのなす角度を測定顕微鏡(「MM−60」ニコン社製)に分度器表示目盛を装着して測定して結果を示した。また、凹部7を構成する面(底面および内側面)の平面度は、日本工業規格に定義されたものに基づき、高速三次元形状測定システム(「EMS98AD−3D100XY」コムス社製)を用いて評価した。なお、内側面の平面度は構成する4面の平面度を平均して示した。一方、凹部7を構成する面同士の間の角部(底面と内側面および内側面同士)の曲率半径を、測定顕微鏡(「MM−60」ニコン社製)で観察しながら測定した結果を平均値で示した。
表1より、実施例1〜4では、樹脂シート2を嵌め込んだ状態で加圧積層を行なったため変形が抑制されて、凹部7を形成する全ての面において、角度90°±3°以内、平面度30μm以内、曲率半径50μm以内である、優れた直角度、平面度および寸法精度のセラミック構造体を得ることができた。
一方、比較例1〜4では、樹脂シート2を充填しなかったため、加圧積層時に凹部7の側壁が押しつぶされて内側面が膨らむことで変形したため平面度が大きくなった。それに伴い、凹部7を構成する面同士の曲率半径も大きくなった。特に、凹部7の側壁巾W2が狭い場合、加圧積層時に側壁が押しつぶされて大きく変形した。
(実施例5〜8)
内部に空洞10を有するセラミック構造体
実施例1〜4と同様にして、グリーンシート、導体ペーストおよび樹脂シートを作製し、得られた樹脂シート2a,2bを用いて図2のグリーンシート積層体を形成した。即ち、図1で示した打ち抜き法によって、樹脂シート2a,2bにグリーンシートを嵌めこんで表2に示す形態の樹脂シート−グリーンシート複合体A1(厚さ0.4mm、凹部:奥行50mm×巾5mmもしくは10mm×高さ0.4mm、凹部側壁:巾:1mmもしくは3mm、各凹部を取囲むように各4面から構成される)および樹脂シート−グリーンシート複合体A2(厚さ0.2mm、凹部:奥行50mm×巾5mmもしくは10mm×高さ0.2mm、凹部側壁:巾:1mmもしくは3mm、各凹部を取囲むように各4面から構成される)を作製した。
続いて、アクリル樹脂,溶剤,フタル酸エステル系の可塑剤より成る接着剤を塗布した樹脂シート−グリーンシート複合体A1,A2および厚さ0.2mmであるグリーンシートB1,B2,B3を4.9MPaの圧力で積層することにより、5枚のグリーンシートを一体化し、内部配線を有するグリーンシート積層体を作製した。表2に得られたグリーンシート積層体の、凹部7の底面巾W1および側壁巾W2を示した。
次に、この積層体を、Al2O3系セッターに載置して窒素,水素,水蒸気の混合雰囲気焼成炉内にて、樹脂シート2aの80%重量減少温度Ta℃付近である310℃で3時間保持して、十分に樹脂シート2aの除去を行った後、一旦室温まで降温してから、別途用意したグリーンシート積層体(A1,A2,B1,B2,B3から構成され、上記と同様にして樹脂シート2aの除去を行い、降温したもの)を0.5MPaの圧力で積層した。得られた内部に空洞10を有するセラミック積層体に対し、樹脂シート2bの80%重量減少温度Tb℃付近である330℃で3時間保持して、十分に樹脂シート2bの除去を行った後、さらにグリーンシートに含まれる樹脂バインダーの20%重量減少温度Tc℃を超える温度領域である850℃を3時間保持してさらに脱バインダーを行い、続けて950〜1000℃で焼成することで、種々の大きさの空洞10を有するセラミック構造体を作製した。
(比較例5〜8)
樹脂シート2a,2bを嵌め込まない以外は実施例5〜8と同様にしてセラミック構造体を作製した。
得られたセラミック構造体の評価結果を表2に示す。まず、空洞10の内側面の最大反り部分(凹凸が最大となる先端部分)と空洞10底面とのなす角度を測定顕微鏡(「MM−60」ニコン社製)に分度器表示目盛を装着して測定して結果を示した。また、空洞10を構成する面(底面および内側面)の平面度は、日本工業規格に定義されたものに基づき、高速三次元形状測定システム(「EMS98AD−3D100XY」コムス社製)を用いて評価した。なお、内側面の平面度は構成する5面の平面度を平均して示した。一方、空洞10を構成する面同士の間の角部(底面と内側面および内側面同士)の曲率半径を、測定顕微鏡(「MM−60」ニコン社製)で観察しながら測定した結果を平均値で示した。
表2より、実施例5〜8では、樹脂シート2を嵌め込んだ状態で加圧積層を行なったため変形が抑制されて、空洞10を形成する全ての面において、角度90°±3°以内、平面度30μm以内、曲率半径50μm以内である、優れた直角度、平面度および寸法精度のセラミック構造体を得ることができた。
一方、比較例1〜4では、樹脂シート2を充填しなかったため、加圧積層時に空洞10の側壁が押しつぶされて内側面が膨らむことで変形したため平面度が大きくなった。それに伴い、空洞10を構成する面同士の曲率半径も大きくなった。特に、空洞10の側壁巾W2が狭い場合、加圧積層時に側壁が押しつぶされて大きく変形した。
以上の結果から、空洞10を流路用途に使用する場合、大きく性能が異なることとなる。即ち、変形の著しい比較例5〜8の空洞10をマイクロ化学チップの流路等に用いた場合、流速が一定しないという不具合が生じることとなる。それに対して、優れた直角度、平面度および寸法精度の実施例5〜8の空洞10をマイクロ化学チップの流路等に用いた場合、流速を一定にすることができる。