上記のような従来のセラミック多層配線基板(以下、基板ともいう)においては、多機能、高機能化に伴い基板は小型化、薄層化される傾向にある。更には、基板に形成される配線パターンおよびビアホールは微細化が進んでおり、積層精度の向上が望まれている。特に、薄層化の進むセラミック多層配線基板においては、内部配線を形成した際に生じる内部配線の厚みによる高低差によって生じる空隙を、積層時において厚みが薄いグリーンシートの塑性変形のみで完全に無くすことは困難である。その結果、焼成後の製品に層間密着不良、いわゆるデラミネーションや反り変形が発生するという問題があった。
この問題を解決する手段として、内部配線を挟んで積層されるセラミック層間の内部配線が形成されない領域にセラミック層と同じセラミック成分を含むセラミック充填層をスクリーン印刷法で形成することが行なわれている。
しかしながら、スクリーン印刷法で得られたセラミック充填層を有するグリーンシートは、スクリーンが離れる際に表面張力等によってパターンエッジ部分に盛り上がりが生じる問題や、パターンが微細ライン化および厚膜化されたときに略半円ないし半楕円状に盛り上がる現象などが生じるため、完全に表面の凹凸を無くすことは困難であり、平面プレス等で加圧平坦化する工程を付加する必要がある。
スクリーン印刷法に使用されるセラミックペーストのバインダーとしては、一般的に印刷性に優れているセルロース系バインダーが用いられることが多い。しかし、セルロース系バインダーを用いたセラミックペーストは流動性に劣るため、上記の加圧平坦化の工程で十分に平坦化することは困難である。そこで、セラミックペーストのセルロース系バインダーに柔軟性を持たせる目的でアクリル系バインダーを添加する試みや、フタル酸エステル等の可塑剤や高沸点の溶剤を多めに添加して流動性を向上させることが一般的に行なわれている。
しかしながら、セラミックペーストの粘弾性のバランスを適切に制御していない場合には、セラミックペーストに添加されるアクリル系バインダーのガラス転移温度以上の温度条件下で加圧平坦化を行なうと、セラミックペーストに隣接する内部配線パターンを変形させること無く平坦化することは困難である。つまり、加圧平坦化工程の加熱温度付近でのセラミックペーストの乾燥状態でのtanδ=(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)が、内部配線となる導体ペースト層の乾燥状態でのtanδよりも小さい場合、加圧時に、弾性的挙動がより支配的であるセラミックペースト側から、粘性的挙動がより支配的である内部配線層側に応力が加わることによって内部配線が大きく変形を受ける不具合が生じやすくなる。
従って、内部配線に対してセラミックペーストの弾性率のみを単純に上げること、換言すれば内部配線に対してセラミックペーストの乾燥状態でのtanδを低くすることによって、弾性的挙動が支配的であるような強固なセラミックペースト層を形成する手段を講じることで、加圧時に隣接する内部配線を変形から守ることは困難である。
一方、適切に分子量を調整していないアクリル系バインダーを用いた場合、スクリーン印刷時におけるアクリル系バインダーの欠点である曳糸性が問題となることが多い。
また、可塑剤や溶剤を過剰に用いた場合、スクリーン印刷後に乾燥工程を行なっても乾燥不良のためにセラミックペーストの粘性が強くなる傾向があり、印刷物に粘着性が残っている場合や、印刷物の強度が低い場合があり、上記の加圧平坦化工程時に印刷物が凝集破壊ないし界面破壊されることでプレス面に転写される問題がある。
従って、本発明は、上記の問題点に鑑みて完成されたものであり、その目的は、スクリーン印刷性が良好であり、かつ、内部配線に対し適切な粘弾性バランスを有するセラミックペーストを用いて内部配線が形成されない領域に充填し、その後の加圧平坦化工程をセラミックペースト中のアクリル系バインダーのガラス転移温度以上の加熱条件下で行うことによって可塑剤や溶剤を増量することなく十分な流動性を発現させるとともに、内部配線を変形させることも無いため、セラミック多層配線基板の層間密着不良および反り変形をより効果的に防ぐことができる、セラミックペーストおよびそれを用いたセラミック多層配線基板の製造方法を提供することである。
本発明のセラミックグリーンシート積層体は、セラミック成分を含有するセラミックグリーンシートと、該セラミックグリーンシート上に配設された導体ペースト層と、セラミックグリーンシート上であって導体ペースト層が配設された部分以外に配設され、セラミック成分、アクリル樹脂及びセルロース樹脂を含有するセラミックペースト層と、を備え、導体ペースト層及びセラミックペーストが配設されたセラミックグリーンシートを含む複数のセラミックグリーンシートを積層してなる。そして、セラミックペースト層は、印刷後の乾燥状態での(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で表されるtanδが、内部配線となる導体ペースト層の乾燥状態でのtanδ以上であることを特徴とする。
本発明のセラミックグリーンシート積層体は、好ましくは、アクリル樹脂は、ガラス転移温度が20〜50℃であることを特徴とする。
また本発明のセラミックグリーンシート積層体は、好ましくは、セルロース樹脂は、ニトロセルロースおよびエチルセルロースの少なくとも一種を含むことを特徴とする。
本発明のセラミック多層配線基板は、上記のセラミックグリーンシート積層体を焼成してなることを特徴とする。
本発明のセラミック多層配線基板の製造方法は、複数のセラミック層が積層されて成るとともに内部配線を有するセラミック多層配線基板を製造するに際して、前記内部配線を挟んで積層される前記セラミック層間の前記内部配線が形成されない領域に前記セラミック層と同じセラミック成分を含むセラミック充填層を形成するセラミック多層配線基板の製造方法であって、前記内部配線が形成される前記セラミック層となるセラミックグリーンシートの前記内部配線となる導体ペースト層以外の部位に、前記セラミック成分、アクリル樹脂およびセルロース樹脂を含んでおり、スクリーン印刷された後の乾燥状態での(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で表されるtanδが前記導体ペースト層の乾燥状態でのtanδ以上であるセラミックペーストをスクリーン印刷法によって印刷してセラミックペースト層を形成し、次に該セラミックペースト層を乾燥させた後に前記アクリル樹脂のガラス転移温度以上の温度で前記セラミックペースト層を加圧して塑性変形させて表面を平坦化し、次に前記セラミックペースト層が形成された前記セラミックグリーンシートと他のセラミックグリーンシートとを積層してセラミックグリーンシート積層体を作製し、次に該セラミックグリーンシート積層体を焼成することを特徴とする。
本発明のセラミック多層配線基板の製造方法は、好ましくは、前記セラミックペースト層を加圧する際に50〜80℃の温度で加圧することを特徴とする。
本発明のセラミックグリーンシート積層体におけるセラミックペーストは、セラミック成分、アクリル樹脂およびセルロース樹脂を含んでいることから、アクリル樹脂の柔軟性を生かすと共に、セルロース樹脂を用いることで、セラミックペースト中のバインダー量を増量することなくセラミックペーストの高粘度化および高チクソ化を行なうことができ、スクリーン印刷性を向上させることができる。
また、セラミックペーストは、印刷後の乾燥状態での(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で表されるtanδが、内部配線となる導体ペースト層の乾燥状態でのtanδ以上であることから、加圧時に粘性的挙動がより支配的であるセラミックペースト層側が流動することで、隣接する弾性的挙動がより支配的である内部配線側の変形を防ぐことができる。また、セラミックペースト層側から内部配線側に余計な弾性的応力が加わらないため、内部配線にクラック等の破損が生じることを防ぐことができる。その結果、平坦化工程時にプレス面に破損した導体ペースト層が付着して剥がれることを防ぐことができる。即ち、本発明のセラミックペーストを用いることで、内部配線の変形および破損を防ぐことが可能であり、結果的に欠陥のない平坦なセラミック層を形成することができるので、これらを積層したセラミック多層配線基板では層間密着不良および反り変形をより効果的に防ぐことができる。
また本発明のセラミックグリーンシート積層体におけるセラミックペーストは、好ましくは、アクリル樹脂はガラス転移温度が20〜50℃であることから、ガラス転移温度以上でかつセラミック多層配線基板全体が変形を受けない温度領域である50〜80℃で加圧平坦化を行うことで、可塑剤や溶剤を増量することなく、セラミックペースト側に流動性を発現させることで、内部配線側の変形を防ぐことができる。
また本発明のセラミックグリーンシート積層体におけるセラミックペーストは、好ましくは、セルロース樹脂はニトロセルロースおよびエチルセルロースの少なくとも一種を含むことで、印刷性等を向上させている。即ち、アクリル樹脂の欠点である、ペーストの粘度およびチクソ性の不足、印刷時の曳糸性の問題および印刷物の膜強度不足等の諸問題を補う作用効果がある。
本発明のセラミック多層配線基板の製造方法は、複数のセラミック層が積層されて成るとともに内部配線を有するセラミック多層配線基板を製造するに際して、内部配線を挟んで積層されるセラミック層間の内部配線が形成されない領域にセラミック層と同じセラミック成分を含むセラミック充填層を形成するセラミック多層配線基板の製造方法であって、内部配線が形成されるセラミック層となるセラミックグリーンシートの内部配線となる導体ペースト層以外の部位に、セラミック成分、アクリル樹脂およびセルロース樹脂を含んでおり、スクリーン印刷された後の乾燥状態での(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で表されるtanδが導体ペースト層の乾燥状態でのtanδ以上であるセラミックペーストをスクリーン印刷法によって印刷してセラミックペースト層を形成し、次にセラミックペースト層を乾燥させた後にアクリル樹脂のガラス転移温度以上の温度でセラミックペースト層を加圧して塑性変形させて表面を平坦化し、次にセラミックペースト層が形成されたセラミックグリーンシートと他のセラミックグリーンシートとを積層してセラミックグリーンシート積層体を作製し、次にセラミックグリーンシート積層体を焼成することにより、加圧平坦化工程時に、より粘性的挙動が支配的であるセラミックペースト層側が流動することで、隣接する内部配線側の変形を防ぐことができる。また、セラミックペースト層側から内部配線側に余計な弾性的応力が加わらないため、内部配線にクラック等の破損が生じることを防ぐことができる。その結果、平坦化工程時にプレス面に破損した導体ペースト層が付着して剥がれることを防ぐことができる。即ち、本発明のセラミック多層配線基板の製造方法は、内部配線の変形および破損を防ぐことが可能であり、結果的に欠陥のない平坦なセラミック層を得ることができるので、これらを積層したセラミック多層配線基板では層間密着不良および反り変形をより効果的に防ぐことができる。
本発明のセラミックペーストおよびそれを用いたセラミック多層配線基板の製造方法について以下に詳細に説明する。
先ず、セラミック多層配線基板を作製するためのグリーンシートを以下のようにして作製する。グリーンシートの原料粉末、例えば、セラミック粉末およびガラス粉末の少なくとも一方に対し、所望により焼結助剤となるセラミック粉末を添加、混合した混合物に、バインダー、可塑剤等の添加剤、有機溶剤等を加えてスラリーを調製する。その後、このスラリーを用いてドクターブレード法、圧延法、プレス法等の成形法により所定の厚みのグリーンシートを成形する。
次に、上記のグリーンシートに打ち抜き加工を施すことにより、上下の配線導体層を接続するビアホールとなる貫通穴を形成し、この貫通穴内に導体ペーストを充填する。
なお、セラミック粉末としては、SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、ZnO、MgO、MgAl2O4、ZnAl2O4、MgSiO3、Mg2SiO4、Zn2SiO4、Zn2TiO4、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaTiO3、CaMgSi2O6、SrAl2Si2O8、BaAl2Si2O8、CaAl2Si2O8、Mg2Al4Si5O18、Zn2Al4Si5O18、AlN、Si3N4、SiC、更には、Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル、ムライト、コージェライト)等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
また、ガラス粉末としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnである)、SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は同じかまたは異なるものであり、Ca、Sr、Mg、BaまたはZnである)、SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は上記と同じ)、SiO2−B2O3−M3O系(但し、M3はLi、NaまたはKである)、SiO2−B2O3−Al2O3−M3O系(但し、M3は上記と同じ)、Pb系ガラス、Bi系ガラス、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を含有するガラスが好ましい。これらのガラスは焼成処理することによっても非晶質ガラスであるもの、また焼成処理によって、リチウムシリケート、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライトやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種を析出する結晶化ガラスが用いられる。
セラミック粉末とガラス粉末の混合割合は通常のガラスセラミック基板材料に用いられる割合であり、重量比で60:40〜1:99であるのが好ましい。
また、助剤成分としては、B2O3、ZnO、MnO2、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類金属酸化物等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
さらに、バインダーとしては、一般にグリーンシートに使用されているものが使用可能であり、例えば、アクリル系(アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル
酸エステル共重合体等)、ポリビニルブチラール系、ポリビニルアルコール系、アクリル−スチレン系、ポリプロピレンカーボネート系、セルロース系等の単独重合体または共重合体が挙げられる。
次に、メタライズ配線層を形成する場合の導体ペーストとしては特に限定されないが、例えばAu、Cu、Ag、Pd、WおよびPt等の金属粉末の1種または2種以上が挙げられ、2種以上の場合は混合、合金、若しくは個別に層形成された複数層のコーティング等のいずれの形態であってもよい。これら金属粉末をアクリル樹脂等から成るバインダーと、トルエン、イソプロピルアルコール、アセトン、テルピネオール等の有機溶剤と、可塑剤等とを混合したものが好適に使用できる。バインダーは金属粉末100重量部に対して0.5〜15.0重量部、有機溶剤は固形成分およびバインダー100重量部に対して5〜100重量部の割合で混合されることが好ましい。なお、この導体ペースト中には若干のガラス粉末や酸化物粉末等の無機成分を添加してもよい。この導体ペーストを、上記グリーンシートにスクリーン印刷法やグラビア印刷法等の公知の印刷手法を用いて、所定のパターンに印刷塗布する。
複数のセラミック層が積層されて成るとともに内部配線を有するセラミック多層配線基板を製造するに際して、内部配線を挟んで積層されるセラミック層間の内部配線が形成されない領域にセラミック層と同じセラミック成分を含むセラミック充填層をスクリーン印刷法で形成し、続いて温風乾燥炉若しくは遠赤外線乾燥炉等で印刷面を乾燥させる。得られたセラミックグリーンシートを50〜80℃の加熱条件下で加圧平坦化工程を行なうことによって、セラミック充填層を塑性変形させて平坦化し、実質的に凹凸のないセラミックグリーンシートを得る。
そして、そのグリーンシートに、バインダー、溶剤、可塑剤より成る適当な接着剤を塗布もしくは転写し、他のグリーンシートと加圧積層することにより一体化し、グリーンシート積層体を作製する。得られたグリーンシート積層体を所定の条件で焼成することにより、セラミック多層配線基板が得られる。
次に、本発明のセラミック多層配線基板に用いられるセラミックペースト、およびそれを用いたセラミック多層配線基板の製造方法について詳細に説明する。
セラミックペーストに含まれるセラミックス材料は、基本的にはセラミック多層配線基板と実質的に同じセラミックスである。従って、セラミック粉末としては、SiO2、Al2O3、ZrO2、TiO2とアルカリ土類金属酸化物との複合酸化物、ZnO、MgO、MgAl2O4、ZnAl2O4、MgSiO3、Mg2SiO4、Zn2SiO4、Zn2TiO4、SrTiO3、CaTiO3、MgTiO3、BaTiO3、CaMgSi2O6、SrAl2Si2O8、BaAl2Si2O8、CaAl2Si2O8、Mg2Al4Si5O18、Zn2Al4Si5O18、AlN、Si3N4、SiC、更には、Al2O3およびSiO2から選ばれる少なくとも1種を含む複合酸化物(例えばスピネル、ムライト、コージェライト)等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
また、ガラス粉末としては、例えばSiO2−B2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3系、SiO2−B2O3−Al2O3−MO系(但し、MはCa、Sr、Mg、BaまたはZnである)、SiO2−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は同じかまたは異なるものであり、Ca、Sr、Mg、BaまたはZnである)、SiO2−B2O3−Al2O3−M1O−M2O系(但し、M1,M2は上記と同じ)、SiO2−B2O3−M3O系(但し、M3はLi、NaまたはKである)、SiO2−B2O3−Al2O3−M3O系(但し、M3は上記と同じ)、Pb系ガラス、Bi系ガラス、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類酸化物の群から選ばれる少なくとも1種を含有するガラスが好ましい。これらのガラスは焼成処理することによっても非晶質ガラスであるもの、また焼成処理によって、リチウムシリケート、クォーツ、クリストバライト、コージェライト、ムライト、アノーサイト、セルジアン、スピネル、ガーナイト、ウイレマイト、ドロマイト、ペタライトやその置換誘導体の結晶を少なくとも1種を析出する結晶化ガラスが用いられる。
セラミック粉末とガラス粉末の混合割合は通常のガラスセラミック基板材料に用いられる割合であり、重量比で60:40〜1:99であるのが好ましい。
また、助剤成分としては、B2O3、ZnO、MnO2、アルカリ金属酸化物、アルカリ土類金属酸化物、希土類金属酸化物等が挙げられ、用途に合わせて選択することができる。
さらに、本発明のセラミックペーストのバインダーは、アクリル樹脂およびセルロース樹脂を必須成分として含み、これらの配合バランス、アクリル樹脂のガラス転移温度および分子量の制御等を行なうことで内部配線に対する粘弾性のバランスを制御している。
ここで、バインダーとしてアクリル樹脂のみを使用する場合、セラミックペーストの高粘度化や高チクソ化が困難であるため、バインダーの増量や溶剤の減量で粘度やチクソ性を向上させる必要がある。しかしながら、この場合、スクリーン印刷時に曳糸性が大きくなることや版(スクリーン刷版)離れ性が悪化する問題がある。また、バインダーを増量した場合、焼成後の焼結体の密度が低下することから空隙が生じる原因となる。また、溶剤を減量した場合、セラミックペーストの流動性が低下する問題がある。
一方、バインダーとしてセルロース樹脂のみを使用した場合、セラミックペーストの流動性が劣るため、加圧平坦化工程で十分に平坦化することが困難となる。さらには、セルロース樹脂単体では、乾燥状態でのtanδが低い、換言すれば粘性的挙動よりも弾性的挙動が支配的な傾向にあり、内部配線に対して乾燥状態でのtanδを高く制御することが困難となる。
これらの観点から、本発明では、アクリル樹脂およびセルロース樹脂を必須成分として含み、これらの組成およびアクリル樹脂の特性を制御しながらセラミックペーストを調製することによって、上記の問題を解決することができる。
アクリル樹脂としては、アクリル酸、メタクリル酸またはそれらのエステルの単独重合体または共重合体、具体的にはアクリル酸エステル共重合体、メタクリル酸エステル共重合体、アクリル酸エステル−メタクリル酸エステル共重合体等が挙げられる。これらの共重合体には、水酸基、カルボン酸基、アルキレンオキサイド基、グリシジル基、アミノ基、アミド基等を適宜導入しても良い。これらを導入することで、セラミックスとの分散性を向上させる効果や、粘性やチクソ性を向上させる効果が期待できる。また、熱分解性や各種溶剤への溶解性等の性能を損なわない範囲内であれば、アクリル樹脂と共重合が可能である、スチレン、α−メチルスチレン、アクリロニトリル、エチレン、酢酸ビニル、ポリビニルアルコール、n−ビニルピロリドン等を適宜導入しても良い。これらのアクリル樹脂のうち、必要に応じて単独または2種以上を適宜選択して使用することができる。
本発明のセラミックペーストのアクリル樹脂のガラス転移温度は、20〜50℃に調整する必要があり、より好ましくは20〜30℃に調整すると良い。アクリル樹脂を含有し、内部配線に対して乾燥状態でのtanδを高めたセラミックペーストをスクリーン印刷後、温風乾燥炉若しくは遠赤外線乾燥炉等で乾燥させた印刷物を含有するアクリル樹脂のガラス転移温度以上の加熱条件下で加圧することで、可塑剤や溶剤を増量することなく平坦化工程時にセラミックペースト層に流動性を持たせると共に、優れた平坦性を実現することができる。
アクリル樹脂のガラス転移温度が20℃未満の場合、スクリーン印刷後、乾燥工程を行なっても印刷物に粘着性が残る場合があり、続いて行う加熱条件下での加圧平坦化工程時に印刷物が凝集破壊ないし界面破壊されることでプレス面に転写(付着)される傾向にある。
なお、加熱条件下での加圧平坦化工程において、印刷物のプレス面への転写(付着)を防ぐために、プレス面にフッ素処理やシリコーン処理等の剥離処理を行うことや、印刷物とプレス面との間にシリコーンやワックス等の剥離処理を行ったPET等の樹脂シートを介在させる手段を施すことが望ましい。
アクリル樹脂のガラス転移温度が50℃を超える場合、セラミック多層配線基板全体が変形を受けない温度領域である80℃以下で加圧平坦化工程を行なった場合に、印刷物の流動性が乏しくなる傾向にある。
以上の観点から、セラミックペーストに使用するアクリル樹脂のガラス転移温度を20〜50℃に設定すると共に、セルロース樹脂を併用することで、スクリーン印刷性に優れるとともに、その後の乾燥工程に続く加圧平坦化工程では、セラミック多層配線基板全体が変形を受けない温度領域でのセラミックペーストの乾燥状態でのtanδを、隣接する内部配線の同条件下でのtanδ以上にすることで、より粘性的挙動が支配的であるセラミックペースト層が選択的に変形、平坦化されるとともに、隣接する内部配線に大きな応力を与えないことから内部配線の変形や破損を防止できることを見出した。
具体的には、例えば60℃でのセラミックペーストの乾燥状態でのtanδを、隣接する内部配線の同条件下でのtanδ以上に制御した場合、続いて行う加圧平坦化工程の温度条件を50〜80℃とすることで、可塑剤や溶剤を増量することなく印刷後のセラミックペーストに十分な流動性を持たせるとともに、内部配線の変形や破損を防ぐことができる。
ここで、加圧平坦化工程の温度条件を50℃未満の温度とした場合、セラミック層の平坦化が不十分な場合があり、一方、80℃を超える温度で行った場合、セラミック層が変形を受ける傾向があるため好ましくない。
また、セラミックペーストに使用されるアクリル樹脂の分子量は40000〜60000に調整する必要があり、この範囲に限定することでセラミックペーストの曳糸性を低減することが可能となる。分子量が40000未満の場合、セラミックペーストの高粘度化が困難となりスクリーン印刷性が悪化すると共に、印刷後の充填物の強度が不足する傾向にある。一方、分子量が60000を超える場合、セラミックペーストの曳糸性が顕著となるとともに、印刷時の版離れ性が悪化するなどスクリーン印刷性が悪化する傾向にある。
セルロース樹脂としては、スクリーン印刷に適したニトロセルロース(硝化綿)およびエチルセルロースの少なくとも一方を使用することができる。
これらのアクリル樹脂およびセルロース樹脂は、溶剤に溶解し、相溶するような条件であれば任意の割合で混合して用いられるが、アクリル樹脂およびセルロース樹脂の混合された合計量100重量%に対し、アクリル樹脂が20〜90重量%程度が好ましく、より好ましくはアクリル樹脂が50〜90重量%がよい。アクリル樹脂が20重量%未満では、内部配線に対して乾燥状態でのtanδを上げる、換言すれば弾性的挙動よりも粘性的挙動をより支配的にして加熱条件下での加圧平坦化工程時に内部配線を変形させること無く十分な流動性を得ることが困難となる。90重量%を超える場合、スクリーン印刷時のセラミックペーストのチクソ性が不足気味となる傾向がある。
本発明のセラミックペーストに用いられる溶剤としては、一般的にスクリーン印刷に使用される高沸点溶剤群から選ぶことができる。具体的には、沸点が150℃以上のものが好ましく、より好ましくは沸点が200〜250℃程度のものがよい。150℃未満では、スクリーン印刷中等に溶剤が揮発することによってスクリーンのメッシュの目詰り等の不具合を生じやすい。一方、250℃以上では、印刷物を十分に乾燥することが困難となり、加熱条件下での加圧平坦化工程においてプレス面に乾燥が不十分な印刷物が転写される傾向にある。
さらに、本発明のバインダーであるアクリル樹脂およびセルロース樹脂の双方を溶解する溶剤を選ぶことが好ましい。これらの条件を満たすものとして、テルピネオールおよびブチルカルビトールアセテートの混合溶剤等が挙げられる。
一般的にスクリーン印刷用のペーストは、各種セラミック粉末100重量部に対して、バインダーとしての樹脂分が1〜30重量部程度が一般的であるが、セラミック粉末の比重によって最適混合比が異なるため、この範囲に限定されるものではない。
本発明のセラミックペーストは、各種セラミック粉末と、アクリル樹脂およびセルロース樹脂から成るバインダー類と、溶剤と、可塑剤、滑剤や分散剤等とから構成される。さらに、必要に応じて各種チクソ剤、増粘剤等を添加しても良い。
可塑剤としては特に限定されないが、例えば、ジメチルフタレート、ジブチルフタレート、ジ−2−エチルヘキシルフタレート、ジヘプチルフタレート、ジ−n−オクチルフタレート、ジイソノニルフタレート、ジイソデシルフタレート、ブチルベンジルフタレート、エチルフタリルエチルグリコレート、ブチルフタリルブチルグリコレート等のフタル酸エステル系や、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジブチルジグリコールアジペート等の脂肪族エステル系や、トリメリット酸トリ−2−エチルヘキシル等のトリメリット酸系等があり、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有する。中でもジブチルフタレート(DBP)、ジ−2−エチルヘキシルフタレート(DOP)等のフタル酸系エステル等の可塑剤が好ましい。
滑剤としては特に限定されないが、例えば、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコールメチルエーテル、トリエチレングリコールメチルエーテル、ジエチレングリコールエチルエーテル、ジエチレングリコール−n−ブチルエーテル、トリエチレングリコール−n−ブチルエーテル、エチレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコール−n−アセテート、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル等のエチレングリコール系、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ジプロピレングリコールメチルエーテル、トリプロピレングリコールメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、トリプロピレングリコール−n−ブチルエーテル、プロピレングリコールフェニルエーテル、エチレングリコールベンジルエーテル、エチレングリコールイソアミルエーテル等のプロピレングリコール系、グリセリン、ジグリセリン、ポリグリセリン等のグリセリン系、みつろう、木ろうなどの天然ワックス系、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、低分子量ポリエチレンおよびその誘導体などの合成ワックス系、ステアリン酸、ラウリン酸などの脂肪酸系、マレイン酸イミド、ステアリン酸アミドなどの脂肪酸アミド系、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム等の脂肪酸金属塩系等が挙げられ、これらの中から選ばれる少なくとも1種を含有する。中でもポリエチレングリコール(PEG)、グリセリンが好ましい。
本発明のセラミックペーストおよびセラミック多層配線基板の製造方法の実施例を以下に説明する。
〔tanδの測定〕
本実施例に示す(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)で表されるtanδの測定には、レオロジー測定装置(型式:MCR300、PHYSICA社製)を用いた。セラミックペースト、内部配線となる導体ペーストを、それぞれ厚み100μmのシート状になるようにスクリーン印刷機で印刷し、続いて温風乾燥炉を用いて80℃で1時間乾燥させた。乾燥後のシート状物を剥がしたものをプレス成形機の金型にセットして、4.9×106Paの圧力で加圧することによって、厚み0.5mm、直径20mmの円板状のサンプルを作製し、測定サンプルとした。
そして、60℃の一定温度条件下、周波数100Hzで0〜100%まで掃引によって変化させた歪みを測定サンプルに与え、貯蔵弾性率と損失弾性率をそれぞれ測定した。弾性体にこのような正弦波歪みを与えた場合、同一相で歪むのに対して、粘性体は90度位相がずれることから、その中間の粘弾性体であるセラミックペースト、導体ペーストは、与える歪みに対して位相が0〜90度ずれる。このことを利用してtanδ=(損失弾性率)/(貯蔵弾性率)を求めた。後述する導体ペーストの組成でtanδを測定すると0.5であった。
(実施例1〜10)
アルミナを主成分とするアルミナ系セラミックス混合粉体と、バインダー、可塑剤等の添加剤、有機溶剤等を加えてスラリーを調製し、このスラリーを用いてドクターブレード法により成形、乾燥して縦50mm×横50mm×厚さ0.3mmの大きさのグリーンシートを作製した。
次に、アルミナを主成分とするアルミナ系セラミックス混合粉体100重量部に対して、下記の表1に示す組成比のバインダー5重量部とテルピネオールおよびブチルカルビトールアセテートの混合溶剤を20重量部、フタル酸エステル系の可塑剤(DOP,DBPの混合物)を20重量部添加し、これらを攪拌して混合した。その後、セラミックス粉体およびバインダー類の凝集体がなくなるまで3本ロールミルで混合してセラミックペーストを調製した。
一方、タングステン粉体100重量部に対して、アクリル樹脂とニトロセルロースの組成比が3:2のバインダー1.5重量部と、テルピネオールおよびブチルカルビトールアセテートの混合溶剤5重量部と、フタル酸エステル系の可塑剤(DOP,DBPの混合物)を5重量部とを添加混合し、これらを攪拌して十分に混合した。また、このアクリル樹脂は、ガラス転移温度が50℃、分子量50000のものを用いた。その後、タングステン粉体および樹脂の凝集体がなくなるまで3本ロールミルで混合して、メタライズ配線用の導体ペーストを調製した。
さらに、この導体ペーストを用いて、上記グリーンシートの主面にスクリーン印刷法で高さ(厚み)15μmの配線パターンを印刷塗布し、続いて温風乾燥炉を用いて80℃で1時間乾燥させてメタライズ配線を形成し、メタライズ配線が形成されない領域に上記のセラミックペーストを用いてスクリーン印刷によってセラミック充填層を形成し、続いて温風乾燥炉を用いて80℃で1時間乾燥させ、グリーンシートを作製した。
この各種セラミックペーストを用いた場合のスクリーン印刷特性である曳糸性の有無および版離れ性を○(良好)、△(やや良好)、×(悪い)で表1に示した。さらに、別途レオロジー測定装置で測定した乾燥状態でのtanδの値を表1に示した。
続いて、シリコーン剥離処理を行ったPET(ポリエチレンテレフタレート)フィルムを介在させながら平面プレス機を用いて、得られた2枚のセラミックグリーンシートの印刷面を、表1に示す加熱温度条件下で4.9×106Paの圧力で加圧することによって、セラミック充填層を塑性変形させて平坦化を行った。この際、印刷物が凝集破壊等でPET剥離面に転写されるかどうかを目視で確認した。
続いて、アクリル樹脂、溶剤、フタル酸エステル系の可塑剤より成る接着剤を塗布したグリーンシートを加圧積層することにより、5枚のグリーンシートを一体化し、内部配線を有するグリーンシート積層体を作製した。
最後に、グリーンシート積層体を1600℃付近で焼成することにより、セラミック多層配線基板を得た。得られたセラミック多層配線基板を高速三次元形状測定システム(型式:EMS98AD−3D100XY、コムス社製)で測定し、その最大高低差を最大反り値として表1に記載した。また、層間密着不良の有無を拡大して観察し、表1に示した。
(比較例1〜9)
実施例1〜10におけるセラミックペーストのバインダー成分および加熱温度条件を、表1の比較例1〜9のものとした以外は、実施例1〜10と同様にしてセラミック多層配線基板を作製した。
表1より、実施例1〜10のセラミックペーストを用い、本発明の製造方法で製造されたセラミック多層配線基板では、スクリーン印刷特性である曳糸性および版離れ性が良好であるとともに印刷物の乾燥状態でのそれぞれのtanδが内部配線のtanδ=0.5よりも高いため、内部配線を変形および破損させることなく優れた平坦性を実現できるため、焼成後の製品に層間密着不良および反り変形が発生するのをより効果的に防ぐことができた。
さらに、50℃〜80℃の加熱温度条件で平坦化するので、反りおよび層間密着不良も防止することができた。
また、更には、印刷物が凝集破壊等でPETフィルム剥離面に転写されるといった不良も防止することができた。
それに対して、比較例1では、セラミック充填層に用いたアクリル樹脂のガラス転移温度が10℃と低いため、粘着性が強くスクリーン印刷時に曳糸性が顕著となると共に版離れ性が若干低下した。また、乾燥後の印刷物にも粘着性があるために、加圧平坦化工程時にPETフィルムのシリコーン剥離処理面に印刷物の一部が転写される不良が見られた。
比較例2では、セラミック充填層に用いたアクリル樹脂のガラス転移温度が60℃と高いため、加圧時にセラミック多層配線基板全体が変形を受けない温度領域での乾燥状態のtanδが内部配線よりも低く、流動性に乏しいため、完全に平坦化できず製品の反り値も大きいと共に層間密着不良も見られた。
比較例3では、加圧平坦化工程での加熱温度が40℃と低いため、完全に平坦化できず製品の反り値も大きいと共に層間密着不良も見られた。
比較例4では、加圧平坦化工程での加熱温度が90℃と高いため、加圧時に印刷物が軟化することで強度が落ちたため、PETフィルムのシリコーン剥離処理面に印刷物の一部が転写される不良が見られた。また、セラミック多層配線基板全体が加圧変形を受けたため、製品の反りも大きくなった。
比較例5では、セラミック充填層にアクリル樹脂のみを用いたため、印刷ペーストの粘度やチクソ性が低くスクリーン印刷性が悪化した。さらには、印刷物の膜強度が低いため、加圧平坦化工程時にPETフィルムのシリコーン剥離処理面に印刷物の一部が転写される不良が見られた。
比較例6,7では、セラミック充填層にニトロセルロースもしくはエチルセルロースのみを用いたため、乾燥状態である印刷物のtanδが低く弾性的挙動が支配的であるため、完全に平坦化することが困難であるうえ、内部配線に対してもtanδが低いため、加圧平坦化工程時に内部配線に応力がかかり変形したため、製品の反り値も大きいと共に層間密着不良も見られた。
比較例8では、セラミック充填層に用いたアクリル樹脂の分子量が30000と低いため、印刷ペーストの粘度が低くなった。さらには、印刷物の膜強度が低いため、加圧平坦化工程時にPETフィルムのシリコーン剥離処理面に印刷物の一部が転写される不良が見られた。
比較例9では、セラミック充填層に用いたアクリル樹脂の分子量が70000と高いため、スクリーン印刷時に曳糸性が顕著となると共に版離れ性が低下した。