図1は本発明の一の実施の形態に係るインクジェット方式の印刷装置1の構成を示す図である。印刷装置1は、インクの微小液滴を印刷用紙9に向けて吐出する吐出部2、吐出部2の下方にて図1中のY方向へと印刷用紙9を移動させる紙送り機構3、吐出部2および紙送り機構3に接続される制御部4、並びに、各種演算処理を行うCPUや各種情報を記憶するメモリ等を有するコンピュータ11を備える。
紙送り機構3は、図示省略のモータに接続された2つのベルトローラ31、および、2つのベルトローラ31の間に掛けられたベルト32を有する。印刷用紙9は所定の幅の連続紙であるロール紙とされ、(−Y)側のベルトローラ31の上方に設けられたローラ33を介してベルト32上へと導かれて保持され、ベルト32と共に吐出部2の下方を通過して(+Y)側へと移動する。また、紙送り機構3のベルトローラ31にはエンコーダ(図示省略)が設けられる。なお、紙送り機構3では、環状のベルト32の内側において吐出部2に対向する位置に吸引部を設け、ベルト32に微小な吸引孔を形成することにより、ベルト32上において印刷用紙9が吸引吸着により保持されてもよい。
吐出部2には、複数のモジュールを有するヘッド21が設けられ、後述するように各モジュールには、それぞれがインクの微小液滴を印刷用紙9に向けて吐出する複数の吐出口が形成される。ヘッド21の(+Y)側には、ヘッド21により印刷された印刷用紙9上のパターンの濃度を測定する濃度測定部24が取り付けられ、濃度測定部24は複数の受光素子(例えば、CCD(Charge Coupled Devices))をY方向に配列して有する。また、吐出部2は、ヘッド21の走査方向に垂直かつ印刷用紙9に沿う方向(図1中のX方向であり、印刷用紙9の幅に対応する方向であるため、以下、「幅方向」という。)にヘッド21を移動させるヘッド移動機構22を備える。ヘッド移動機構22にはX方向に細長い環状に設けられたタイミングベルト222が設けられ、モータ221がタイミングベルト222を循環移動することにより、ヘッド21が幅方向に滑らかに移動する。印刷装置1における非印刷時には、ヘッド移動機構22はヘッド21を所定の退避位置へと配置し、退避位置においてヘッド21の複数の吐出口が蓋部材にて閉塞され、吐出口近傍のインクが乾燥して吐出口が詰まることが防止される。
図2はヘッド21の構成を示す底面図であり、吐出部2の印刷用紙9に対する走査方向(すなわち、Y方向)を縦向きに図示している。ヘッド21は複数のモジュール231を配列して有し、複数のモジュール231はヘッド本体210に着脱可能に取り付けられる。詳細には、X方向に千鳥状に2列に並ぶ複数のモジュール231を1つのモジュール群23として、4個のモジュール群23が走査方向に配列される。各モジュール群23では幅方向(X方向)に印刷用紙9の印刷領域(すなわち、実際に印刷が行われる領域)の幅とほぼ同じだけ複数のモジュール231が並んでいる。
各モジュール231は、幅方向に配列形成された複数の吐出口の集合である吐出口群6(図2では、1つの吐出口群6を二重線にて図示している。)を有する。(−Y)側のモジュール群23に含まれる各モジュール231の吐出口群6はK(ブラック)のインクを吐出し、Kのモジュール群23の(+Y)側のモジュール群23に含まれる各モジュール231の吐出口群6はC(シアン)のインクを吐出し、Cのモジュール群23の(+Y)側のモジュール群23に含まれる各モジュール231の吐出口群6はM(マゼンタ)のインクを吐出し、Mのモジュール群23の(+Y)側のモジュール群23(すなわち、最も(+Y)側のモジュール群23)に含まれる各モジュール231の吐出口群6はY(イエロー)のインクを吐出する。また、各吐出口は、異なる量の微小液滴を吐出して複数サイズのドットの形成が可能とされ、本実施の形態では、最も小さなSサイズのドット、Sサイズよりも大きなMサイズのドット、および、Mサイズよりも大きなLサイズのドットのいずれかが形成可能となっている。
図3は1つのモジュール231の吐出口群6を示す図である。以下の説明では、CMYKの4色のうち一の色のインクを吐出するモジュール群23のみに着目して説明を行うが、他の色のインクを吐出するモジュール群23も同様の構成となる。
図3に示すように、吐出口群6は、X方向(幅方向)に並ぶ複数の吐出口611を吐出口列61として、2つの吐出口列61をY方向(走査方向)に並べて有する。各吐出口列61では、印刷用紙9に平行な面(XY平面に平行な面)内において、幅方向に向かって複数の吐出口611が一定のピッチにて並ぶ。吐出口群6では、幅方向に関して一方の吐出口列61の互いに隣接する2つの吐出口611の間の中央に他方の吐出口列61のいずれか1つの吐出口611が位置するように、複数の吐出口611が千鳥状に配列される。したがって、1つのモジュール231では、幅方向に関して一定のピッチP1(例えば、720dpi(dot per inch)に相当する35マイクロメートル(μm)のピッチであり、以下、「吐出ピッチP1」ともいう。)にて複数の吐出口611が配列される。なお、ヘッド21において各モジュール231をZ軸に平行な軸を中心に僅かに回転させて配置することにより、幅方向に関する複数の吐出口611のピッチが微調整されてもよい。
また、モジュール群23において、各モジュール231(ただし、最も(−X)側のモジュール231を除く。)の最も(−X)側の吐出口611と、このモジュール231の(−X)側に位置するモジュール231(Y方向の位置が異なるモジュール231)の最も(+X)側の吐出口611(以下、これらの吐出口のそれぞれを「隣接吐出口」とも呼ぶ。)との間の幅方向の中心間距離は、吐出ピッチP1未満とされる(後述の図11参照)。具体的には、ヘッド21を組み立てる際に、幅方向に関して互いに隣接する2つのモジュール231の間において、互いに隣接する2つの隣接吐出口611の間の幅方向の中心間距離が、吐出ピッチP1よりも小さい距離(例えば、35μmの吐出ピッチP1に対して20μm)に設定され、一定の精度にて複数のモジュール231がヘッド本体210に取り付けられる。これにより、モジュール231の取付に誤差が生じたとしても、2つの隣接吐出口611の間の幅方向の中心間距離が0以上、かつ、吐出ピッチP1未満とされ、吐出ピッチP1よりも大きくなることが防止される。実際には、各モジュール群23に含まれる複数の吐出口611のうち隣接吐出口611の割合は極僅かであり、巨視的にはモジュール群23において、幅方向に関して印刷用紙9上の印刷領域の全体に亘って(すなわち、印刷用紙9の有効印刷領域以上の範囲にて)複数の吐出口611が一定のピッチP1にて配列されている。
本実施の形態では、印刷用紙9の幅は20インチ(508ミリメートル(mm))とされ、ヘッド21の各モジュール群23は、それぞれが1インチの幅に亘って吐出口611が配列形成された20個のモジュール231を含み、各モジュール231には720dpiに相当する吐出ピッチにて720個の吐出口611が配列されている。すなわち、ヘッド21ではCMYKの各色について、幅方向に関して14400個((20×720)にて求められる。)の吐出口611が20インチ幅の印刷用紙9に対向して設けられている。
図1のコンピュータ11では、所定のプログラムを実行することにより、印刷時における多階調の元画像(描画対象の画像であり、本実施の形態では、濃度レベルが0ないし255の256段階であるものとする。)のハーフトーン化の際に元画像と比較されるディザマトリクスを生成する演算部111の機能が実現される。また、コンピュータ11の記憶部112には元画像データ701が記憶されている。制御部4は、演算部111にて生成されるディザマトリクスを記憶するメモリであるマトリクス記憶部42、元画像とディザマトリクスとを比較する比較回路41(ハーフトーン化回路)、および、印刷用紙9のヘッド21に対する移動に同期してヘッド21の複数の吐出口611からのインクの吐出を制御する吐出制御部43を備える。
次に、印刷装置1が印刷を行う動作について説明する。印刷装置1にて印刷が行われる際には、まず、実際の印刷に用いられるディザマトリクス(後述するように、基礎となるディザマトリクスを修正したものであり、両者を区別するため、以下、「修正ディザマトリクス」と呼ぶ。)が準備されてマトリクス記憶部42に記憶される。なお、以下の説明ではCMYKの4つの色に対してそれぞれ準備される4つの修正ディザマトリクスのうち一の色用の修正ディザマトリクスのみについて着目しているが、他の色用の修正ディザマトリクスについても同様のデータ構造となり、同様に取り扱われる。
図4は修正ディザマトリクス81および元画像70を抽象的に示す図である。修正ディザマトリクス81は、走査方向に対応する列方向(図4中にてy方向として示す。)、および、幅方向に対応する行方向(図4中にてx方向として示す。)に複数の要素値が配列された2次元配列であり、行方向の位置の数(すなわち、行方向に並ぶ要素数)はヘッド21の各モジュール群23における複数の吐出口611と同数とされ、行方向の複数の位置は複数の吐出口611にそれぞれ対応付けられる。また、修正ディザマトリクス81の列方向の位置の数(すなわち、列方向に並ぶ要素数)は、本実施の形態では256個とされ、修正ディザマトリクス81は行方向に長い256行14400列の要素値配列となっている。なお、修正ディザマトリクスを生成する処理については後述する。
続いて、図1の比較回路41では、コンピュータ11から入力される元画像70が修正ディザマトリクス81を用いてハーフトーン化される。以下、最初に、印刷装置1における元画像70のハーフトーン化の基本的な処理について説明し、その後、印刷装置1にて実際に行われるハーフトーン化の処理の内容について述べる。
元画像70では、幅方向に対応する方向(以下、修正ディザマトリクス81と同様に行方向と呼ぶ。)に関して画素数が修正ディザマトリクス81の行方向の位置の数と同数とされており(または、同数となるように元画像70が変換されており)、元画像70は走査方向に対応する方向(以下、修正ディザマトリクス81と同様に列方向と呼ぶ。)に分割されて、ハーフトーン化の単位となる繰り返し領域71(図4中において太線にて示す。)が設定される。このとき、繰り返し領域71の列方向の長さは、修正ディザマトリクス81の列方向の長さと同じであるため、1つの繰り返し領域71に含まれる複数の画素が、修正ディザマトリクス81の複数の要素にそれぞれ対応することとなる。
元画像のハーフトーン化の際には、元画像の繰り返し領域71内の各画素の画素値(画素の濃度レベル)と修正ディザマトリクス81の対応する要素値とが比較されることにより、2値の出力画像におけるその画素の位置(アドレス)の画素値が決定される。したがって、図5に示す元画像70(の一部)において、画素値が修正ディザマトリクス81の対応する要素値よりも大きい位置には、例えば、画素値「1」が付与され(すなわち、ドットが置かれ)、残りの画素には画素値「0」が付与され(すなわち、ドットは置かれず)、ハーフトーン化後の2値の出力画像90が生成される。なお、図5中の出力画像90では、ドットが置かれる画素を平行斜線を付して示している。
次に、印刷装置1にて実際に行われるハーフトーン化の処理内容について述べる。既述のように、ヘッド21の複数の吐出口611のそれぞれでは、異なる量の微小液滴を吐出して複数サイズ(Sサイズ、MサイズおよびLサイズ)のドットの形成が可能であり、実際には修正ディザマトリクス81の各要素値は、ドットのサイズの決定に利用されるサブ要素値の集合となっている。具体的には、修正ディザマトリクス81の各要素値は、Sサイズのドット形成の要否を決定するためのサブ要素値、Mサイズのドット形成の要否を決定するためのサブ要素値、および、Lサイズのドット形成の要否を決定するためのサブ要素値を有する。したがって、図6に示すように、修正ディザマトリクス81は、Sサイズ用のサブ要素値の2次元配列であるサブ修正マトリクス81S、Mサイズ用のサブ要素値の2次元配列であるサブ修正マトリクス81M、および、Lサイズ用のサブ要素値の2次元配列であるサブ修正マトリクス81Lの集合であると捉えることができる。各サブ修正マトリクス81S,81M,81Lは修正ディザマトリクス81と同じ配列数となり、サブ修正マトリクス81S,81M,81Lにおいて互いに対応するサブ要素値はSサイズ用のサブ修正マトリクス81Sにて最も小さく、Lサイズ用のサブ修正マトリクス81Lにて最も大きくなっている。なお、サブ修正マトリクス81S,81M,81Lの特徴については、後述の修正ディザマトリクス生成処理の説明にて詳述する。
印刷装置1にて実際に行われるハーフトーン化の際には、各サブ修正マトリクス81S,81M,81Lに対して既述のハーフトーン化の基本処理が行われる。具体的には、まず、元画像70の繰り返し領域71の各画素の画素値とSサイズ用のサブ修正マトリクス81Sの対応するサブ要素値とが比較される。そして、元画像70において、画素値がサブ修正マトリクス81Sの対応するサブ要素値よりも大きい位置の画素には、例えば、画素値「1」が付与され、残りの画素には画素値「0」が付与されて仮の出力画像が生成される。続いて、元画像70の繰り返し領域71の各画素の画素値とMサイズ用のサブ修正マトリクス81Mの対応するサブ要素値とが比較され、画素値がサブ修正マトリクス81Mの対応するサブ要素値よりも大きい位置の出力画像中の画素は、画素値が「2」に変更され、残りの画素の画素値はそのままとされて、仮の出力画像が更新される。そして、元画像70の繰り返し領域71の各画素の画素値とLサイズ用のサブ修正マトリクス81Lの対応するサブ要素値とが比較され、画素値がサブ修正マトリクス81Lの対応するサブ要素値よりも大きい位置の出力画像中の画素は、画素値が「3」に変更され、残りの画素の画素値はそのままとされて、元画像70の繰り返し領域71の画素値と修正ディザマトリクス81の対応する要素値との比較結果である4値の出力画像が取得される。後述するように、出力画像における画素値「1」、「2」、「3」は、対応する吐出口611により形成される印刷用紙9上のドットのサイズを示すものであるため、実質的には、当該出力画像もドットの有無(および、ドットの大きさ)により表現されるハーフトーン画像となっている。
なお、既述のように、本実施の形態では互いに対応するサブ要素値はSサイズ用のサブ修正マトリクス81Sにて最も小さく、Lサイズ用のサブ修正マトリクス81Lにて最も大きくなっている。したがって、元画像70とSサイズ用のサブ修正マトリクス81Sとの比較において、画素値がサブ修正マトリクス81Sの対応するサブ要素値以下となる元画像70の画素は、Mサイズ用のサブ修正マトリクス81MおよびLサイズ用のサブ修正マトリクス81Lのそれぞれの対応するサブ要素値との比較においても必ず当該サブ要素値以下となり、画素値がサブ修正マトリクス81Mの対応するサブ要素値以下となる元画像70の画素は、Lサイズ用のサブ修正マトリクス81Lの対応するサブ要素値との比較においても必ず当該サブ要素値以下となるため、このような元画像70中の画素については、他のサブ修正マトリクス81M,81Lとの比較が省略されてもよい。
図1の印刷装置1では、上記ハーフトーン化処理に並行してヘッド移動機構22を駆動することによりヘッド21が退避位置からX方向の所定の印刷位置へと移動する。そして、元画像70において最初に印刷される部分(例えば、最も(+y)側の繰り返し領域71)の出力画像がCMYKの各色に対して生成されると、制御部4が紙送り機構3を駆動することにより印刷用紙9の走査方向への連続的な移動が開始され、上記ハーフトーン化処理(出力画像の生成処理)に並行して、印刷用紙9のヘッド21に対する移動に同期しつつ各モジュール群23に含まれる複数の吐出口611からのインクの吐出が吐出制御部43により制御される。
ここで、出力画像は印刷用紙9上に印刷される画像であるため、出力画像の複数の画素は印刷用紙9上に配列して設定されていると捉えられる。また、既述のように修正ディザマトリクス81の行方向の複数の位置は、ヘッド21の複数の吐出口611に1対1に対応付けられているため、出力画像においても同様に、行方向の複数の位置が複数の吐出口611にそれぞれ対応付けられることとなる。
したがって、吐出制御部43では印刷用紙9のヘッド21に対する移動に同期して、各吐出口611の印刷用紙9上の吐出位置に対応する出力画像の画素値が「1」である場合には当該吐出位置にSサイズのドットが形成され、出力画像の画素値が「2」である場合には当該吐出位置にMサイズのドットが形成され、出力画像の画素値が「3」である場合には当該吐出位置にLサイズのドットが形成され、出力画像の画素値が「0」である場合には当該吐出位置にはドットは形成されない。このようにして、印刷用紙9のヘッド21に対する移動(すなわち、複数の吐出口611にそれぞれ対応する印刷用紙9上の複数の吐出位置の走査)に同期して、複数の吐出口611の印刷用紙9に対する吐出位置における元画像70の画素値と修正ディザマトリクス81の対応する要素値との比較結果に従って、複数の吐出口611からのインクの吐出が制御され、印刷用紙9上にハーフトーン化された元画像70が、走査方向および幅方向のそれぞれにおよそ720dpiの解像度にて印刷される。
このとき、ヘッド21では、幅方向に互いに隣接する2つのモジュール231の間において、2つの隣接吐出口611の間の幅方向の距離が吐出ピッチP1よりも大きくなることが防止されていることにより、隣接吐出口611の間の幅方向の距離が吐出ピッチP1よりも大きくなって印刷画像中に走査方向に伸びる空白部分(白い筋ムラ)が発生することが確実に防止される。
上記処理が連続して行われ、印刷用紙9上に元画像70の全体が印刷されると、印刷用紙9の走査方向への移動が停止されるとともに、ヘッド移動機構22がヘッド21を退避位置へと移動し、印刷装置1における印刷処理が終了する。
次に、修正ディザマトリクス81を生成する処理について、図7に沿って説明する。なお、修正ディザマトリクス81の生成は、通常、以下に説明するように印刷装置1の製造時に行われるが、後述するように、印刷装置1の製造時以外に、例えば印刷装置1の使用現場への設置時の調整作業、あるいは、印刷装置1の使用における定期的なキャリブレーション等として、図7中の一部の処理(ステップS5〜S8)が行われてもよい。
修正ディザマトリクス81を生成する際には、まず、複数の閾値が例えば256行256列にて配列された2次元配列であるディザマトリクス(実際の印刷時に用いられる修正ディザマトリクス81とは異なるサイズであるため、以下、「閾値マトリクス」と呼んで区別する。)が準備される(ステップS1)。閾値マトリクスは、印刷装置1における印刷時に用いられる修正ディザマトリクス81の部分的な基礎となる正方行列であり、本実施の形態では、閾値マトリクスの各要素の値(閾値)は0ないし255のいずれかとなり、閾値マトリクスにおいて同じ値の要素はほぼ均一に分布している。このような閾値マトリクスは、様々な手法にて生成されてよいが、本実施の形態の説明、および、後述する要素値の修正に係る他の例の説明後に、好ましい閾値マトリクスを生成する一例について説明する。
演算部111では、閾値マトリクスからCMYKの各色用の閾値マトリクスが生成される(ステップS2)。ここで、図8.Aに示すように2行2列の閾値マトリクス821Cが準備されたものとすると(実際には、閾値マトリクスには多数の値が配列される。)、この閾値マトリクス821Cの全体をその中央を中心として時計回りに90度だけ回転するようにして各要素の位置を変更することにより、図8.Bに示す閾値マトリクス821Mが求められる。同様に、図8.Aの閾値マトリクス821Cの全体をその中央を中心として時計回りに180度だけ回転するようにして各要素の位置を変更することにより、図8.Cに示す閾値マトリクス821Yが求められ、図8.Aの閾値マトリクス821Cの全体をその中央を中心として時計回りに270度だけ回転するようにして各要素の位置を変更することにより、図8.Dに示す閾値マトリクス821Kが求められる。そして、これらの閾値マトリクス821C,821M,821Y,821KがそれぞれC用、M用、Y用、K用のものとされる。実際には、閾値マトリクス821Cは256行256列とされるため、他の閾値マトリクス821M,821Y,821Kも256行256列の2次元配列となる。なお、以下の説明では、閾値マトリクスに符号821を付して、CMYKのうち一の色のみに着目するが、他の色の閾値マトリクスに対しても同様の処理が行われる。なお、上記では閾値マトリクスを90度毎に回転させることで各色用のマトリクスを得ているが、反転したパターンや、行または列をずらした(シフトした)パターンを用いてもよい。
続いて、図9に示すように、256行256列の閾値マトリクス821が行方向(図9中のx方向)に繰り返し並べられる(タイリングされる)ことにより、256行14400列に拡張したマトリクス82が生成される(ステップS3)。マトリクス82においても同様に、各要素の値(閾値)は0ないし255のいずれかとなっている。なお、繰り返し並べられる閾値マトリクス821のうち行方向の一端部に配置される閾値マトリクス821は、一部の要素のみが部分的に用いられる。
256行14400列のマトリクス82が生成されると、マトリクス82の各要素の値を2で除した商をこの要素の新たな値とするマトリクスがSサイズのドット形成用のマトリクスとして生成される。Sサイズのドット形成用のマトリクスでは、各要素の値は0ないし127のいずれかの値となる。続いて、Sサイズのドット形成用のマトリクスの各要素の値に元画像70の256段階の濃度レベルの25%の値64が加算されることにより、Mサイズのドット形成用のマトリクスが生成され、Sサイズのドット形成用のマトリクスの各要素の値に元画像70の256段階の濃度レベルの50%の値128が加算されることにより、Lサイズのドット形成用のマトリクスが生成される。Mサイズのドット形成用のマトリクスでは、各要素の値は64ないし191のいずれかとなり、Lサイズのドット形成用のマトリクスでは、各要素の値は128ないし255のいずれかとなる。このようにしてマトリクス82を変換することにより、Sサイズのドット形成用のマトリクス、Mサイズのドット形成用のマトリクス、および、Lサイズのドット形成用のマトリクスが生成される(ステップS4)。
Sサイズのドット形成用のマトリクス、Mサイズのドット形成用のマトリクス、および、Lサイズのドット形成用のマトリクスのそれぞれでは、複数の値が256行14400列にて配列されており、上記ステップS4の処理により、これらのマトリクスの間で互いに同じ位置に配置された3つの値の集合を当該位置の要素値とするディザマトリクス(生成される修正ディザマトリクス81の基礎となるマトリクスであるため、以下、「基礎ディザマトリクス」と呼ぶ。)が準備されたこととなる。すなわち、各サイズのドット形成用のマトリクスの各値は、基礎ディザマトリクスの対応する要素値に対するサブ要素値となる。以下の説明では、各サイズのドット形成用のマトリクスをサブ基礎マトリクスと呼ぶ。
基礎ディザマトリクスが準備されると、図1のヘッド21を印刷位置へと移動し、基礎ディザマトリクスを用いて印刷用紙9上に所定のチェックパターンが印刷される(ステップS5)。図10は印刷用紙9上に印刷されるチェックパターン5を示す図である。チェックパターン5は、修正ディザマトリクス81の生成において用いられる補正係数を取得するためのものであり、各色に対して形成され、図10に示すように、CMYKの4個のチェックパターン5がY方向に並んでいる。各チェックパターン5は、幅方向に関して印刷用紙9上の印刷領域のほぼ全体に亘って伸びる線状の部位であって濃度測定に利用されるパターン要素51、および、パターン要素51の(+Y)側に離れて設けられるとともにY方向に僅かに伸びる複数の位置特定部52を有する。パターン要素51は、対応するモジュール群23に含まれる全ての吐出口611を用いて一様な濃度にて形成され、各位置特定部52は、幅方向に関して互いに隣接する2つのモジュール231の間にて互いに隣接する2つの隣接吐出口611a(後述する図11を参照)により形成される。なお、図10では、図示の都合上、位置特定部52が実際に印刷用紙9上に形成される個数よりも少なくされている(後述の図14において同様)。
印刷用紙9上のチェックパターン5は、濃度測定部24の下方へと移動し、その後、ヘッド移動機構22によりヘッド21を(+X)方向に移動することにより、幅方向に関して複数の吐出口611から(−X)側に僅かに離れて走査方向に並べられた濃度測定部24の複数の受光素子により各チェックパターン5のパターン要素51の濃度が幅方向の全体に亘って測定される(ステップS6)。このとき、各チェックパターン5における複数の位置特定部52も濃度測定部24により検出されることにより、パターン要素51において隣接吐出口611aに対応する領域の位置を精度よく特定することが可能となる。その結果、隣接吐出口611aにより形成されるパターン要素51中の領域の濃度が極めて精度よく取得されるとともに、他の吐出口611により形成される領域の濃度も一定の精度にて取得される。実際には、1つのパターン要素51におけるY方向の複数の位置に濃度測定部24の複数の受光素子がそれぞれ対応し、これらの受光素子のそれぞれによりパターン要素51における各吐出口611に対応する領域の濃度が取得される。以下の説明では、一の色のチェックパターン5(および吐出口611)のみに注目するが、他の色のチェックパターン5についても同様の処理が行われる。
濃度測定部24によりパターン要素51の濃度が測定されると、図1の演算部111では、パターン要素51の幅方向の各位置(すなわち、各吐出口611に対応する位置)において、対応する複数の受光素子により取得された濃度の測定値の平均値が濃度値として算出される。これにより、(各色の)モジュール群23に含まれる複数の吐出口611に対してそれぞれ複数の濃度値が取得される。そして、各モジュール231に含まれる複数の吐出口611(ただし、隣接吐出口611aおよび隣接吐出口611aの近傍の吐出口611を除く。)において、幅方向に連続して並ぶ所定個数(例えば、10個)の吐出口611毎に濃度値の平均値が求められ、これらの吐出口611に対する印刷濃度とされる。このように、濃度の測定値が平滑化されることにより、濃度測定時のノイズの影響が低減される。また、隣接吐出口611aおよび隣接吐出口611aの近傍の吐出口611(例えば、隣接吐出口611aから幅方向に連続する5個の吐出口611)については、濃度値(対応する複数の受光素子により取得された濃度の測定値の平均値)がそのまま印刷濃度とされる。したがって、各チェックパターン5のパターン要素51において隣接吐出口611aに対応する部位近傍の濃度測定については、測定結果の平滑化の程度が他の吐出口611に対応する部位よりも低減されている。
図11は、一のモジュール群23に含まれる複数の吐出口611と印刷濃度との関係を示す図である。図11の上段は、モジュール群23の各モジュール231に含まれる吐出口611を示し、図11の下段は、各吐出口611に対する印刷濃度を示している。既述のように、印刷装置1のヘッド21では、幅方向(X方向)に関して互いに隣接する2つのモジュール231の間において、互いに隣接する2つの隣接吐出口(図11中の上段にて符号611aを付す吐出口)の間の幅方向の距離が、吐出ピッチP1(図3参照)よりも小さくなっているため(すなわち、2つの隣接吐出口611aが幅方向に関して実質的にオーバーラップしている。)、これらの隣接吐出口611aにより印刷用紙9上に形成されるドットが互いに重なる領域が大きくなり、図11に示すように、パターン要素51中の隣接吐出口611aに対応する領域の濃度は他の領域に比べて局所的に高くなる。具体的には、X方向に並ぶ14400個の吐出口611のうち、(+X)側から(−X)方向に向かって720番目の吐出口および721番目の吐出口がそれぞれ互いに対応する隣接吐出口611aとなり、これ以降では、720の整数倍および721の整数倍の吐出口が隣接吐出口611aとなる。
演算部111では、モジュール群23に含まれる各吐出口611の印刷濃度をパターン要素51の濃度レベルに対する所定の基準濃度値にて除した値の逆数を算出することにより、各吐出口611に対する補正係数が求められる(ステップS7)。なお、この補正係数はさらに所定倍、所定べき乗されて、より補正効果がかかるようにしてもよい。
図12は、図11の下段中に示す印刷濃度に基づいて求められる各吐出口611の補正係数を示す図である。上記演算では、印刷濃度が基準濃度値よりも大きい場合には補正係数は1よりも小さくなり、印刷濃度が基準濃度値以下である場合には補正係数は1以上となる。
各吐出口611に対する補正係数が求められると、基礎ディザマトリクスの各要素値が対応する補正係数にて除され、修正ディザマトリクス81が生成される(ステップS8)。例えば、図13に示す基礎ディザマトリクス83において、最も(−x)側にてy方向(列方向)に並ぶ複数の要素値(図13中にて符号831を付す破線の矩形にて囲む複数の要素値であり、以下、列方向に1列に並ぶ複数の要素値を「要素値列」という。)に着目すると、要素値列831はモジュール群23に含まれる複数の吐出口611のうち最も(−X)側の吐出口611に対応付けられており、この吐出口611に対する補正係数が仮に0.98とされる場合(すなわち、濃度を2%低減する必要がある場合)には、要素値列831に含まれる各要素値が0.98にて除される。実際には、各要素値はドットのサイズの決定に利用されるサブ要素値の集合であるため、この要素値を構成する各サブ要素値が0.98にて除され、元のサブ要素値よりも大きな値となる。
ここで、ある吐出口611に対する補正係数が1よりも小さい場合は、チェックパターン5の印刷濃度が基準濃度値よりも大きくなっているため、元画像70を印刷する際に、この吐出口611にて描画される領域の濃度を下げる必要があるが、修正ディザマトリクス81ではこの吐出口611に対応する要素値列に含まれる各要素値が基礎ディザマトリクス83の対応する要素値よりも大きくされるため、元画像70の印刷時においてこの吐出口611に対応する印刷用紙9上の幅方向の位置にドットが形成される確率(または、大きなドットが形成される確率)が小さくなる。したがって、元画像70の印刷時に印刷用紙9上に実際に印刷される画像(印刷画像)では、この吐出口611に対応する領域(走査方向に伸びる領域)の濃度が実質的に低減される。反対に、ある吐出口611に対する補正係数が1よりも大きい場合には、チェックパターン5の印刷濃度が基準濃度値よりも小さくなっているため、修正ディザマトリクス81ではこの吐出口611に対応する要素値列に含まれる各要素値が基礎ディザマトリクス83の対応する要素値よりも小さくされ、元画像70の印刷時に印刷用紙9上の印刷画像においてこの吐出口611に対応する領域(走査方向に伸びる領域)の濃度が実質的に増大される。
このように、演算部111では、基礎ディザマトリクス83の各要素値を対応する補正係数にて除することにより、複数の吐出口611からの吐出による幅方向の印刷濃度のばらつきに基づいて基礎ディザマトリクス83の複数の要素値が修正され、シェーディング補正を実質的に作用させた修正ディザマトリクス81が求められる。上記処理では、各要素値列の要素値の修正において、複数の要素値列の間で互いに異なる吐出口611に対して求められた補正係数が用いられることにより、修正ディザマトリクス81の複数の要素値が列方向の方向性を有する(異方性を有する)こととなり、修正ディザマトリクス81において各要素値列に含まれる要素値の平均値の複数の要素値列間におけるばらつきが、基礎ディザマトリクス83において各要素値列に含まれる要素値の平均値の複数の要素値列間におけるばらつきよりも大きくなる。
生成された修正ディザマトリクス81は、マトリクス記憶部42へと出力されて記憶され、印刷時における元画像70のハーフトーン化の際に用いられる。
以上に説明したように、図1の印刷装置1では、ヘッド21の複数の吐出口611からの吐出による幅方向の印刷濃度のばらつきに基づいて基礎ディザマトリクス83の複数の要素値が修正されて修正ディザマトリクス81が生成される。そして、修正ディザマトリクス81を用いて印刷が行われることにより、印刷時にシェーディング補正のための演算を行ったり、シェーディング補正のための特別な電気的回路を設けることなく、複数の吐出口からの微小液滴の吐出量のばらつき等に起因するムラが抑制された画像を高速かつ容易に印刷することが実現される。
印刷装置1では、幅方向に関して互いに隣接する2つのモジュール231の各組合せの間において、互いに隣接する2つの隣接吐出口611aの間の幅方向の中心間距離が、モジュール231の取付誤差を考慮した上で、0以上、かつ、吐出ピッチP1未満とされ、修正ディザマトリクス81では、このような隣接吐出口611aを含む複数の吐出口611からの吐出による幅方向の印刷濃度のばらつきに基づいて各要素値が修正されている。これにより、モジュール231の取付誤差により2つの隣接吐出口611aの中心間距離が吐出ピッチP1よりも大きくなって印刷画像中に走査方向に伸びる空白部分が発生することを確実に防止しつつ、2つの隣接吐出口611aの中心間距離に起因する印刷画像中のムラを抑制することができる。
また、修正前のディザマトリクス(基礎ディザマトリクス83)において隣接吐出口611aに対応する要素値については補正の程度が大きくなるが(図12参照)、印刷装置1では各チェックパターン5において位置特定部52が形成されることにより、隣接吐出口611aにより描画されるパターン要素51中の位置を正確に特定し、2つの隣接吐出口611aの中心間距離に起因する印刷画像中のムラを抑制することが可能な修正ディザマトリクス81を精度よく求めることができる。
既述のように、印刷装置1では、図7の修正ディザマトリクス生成処理の一部が、印刷装置1の使用現場への設置時の調整、あるいは、印刷装置1の使用における定期的なキャリブレーション等として行われ、修正ディザマトリクス81が更新されてもよい。この場合、既にマトリクス記憶部42にて記憶されている修正ディザマトリクスが基礎ディザマトリクスとして取り扱われる(ステップS4)。そして、印刷用紙9上にチェックパターンが形成されて(ステップS5)、各パターン要素の濃度が取得され(ステップS6)、各吐出口611に対する補正係数が求められた後に(ステップS7)、基礎ディザマトリクスおよび濃度の測定結果に基づいて新たな修正ディザマトリクスが求められる(ステップS8)。これにより、ヘッド21の複数の吐出口611の状態や、複数のモジュール231の相互的な位置関係が、装置の設置時に、あるいは、使用時間の経過に従って万一、変化した場合等であっても、複数の吐出口611からの吐出による幅方向の印刷濃度のばらつきに基づいて複数の要素値が適切に修正されている新たな修正ディザマトリクスを用いて、ムラが抑制された画像を安定して印刷することが可能となる。
また、この場合において、印刷装置1では、閾値マトリクス821から直接導かれる最初の基礎ディザマトリクス83がコンピュータ11の記憶部112に記憶され、修正ディザマトリクスを更新する際に、この基礎ディザマトリクス83を用いてチェックパターンが印刷用紙9上に形成され、最初の基礎ディザマトリクス83の各要素値に対する新たな補正係数が取得されることにより、新たな修正ディザマトリクスが取得されてもよい。すなわち、新たな修正ディザマトリクスの生成は、最初の基礎ディザマトリクス83に対する補正係数の更新として行われてもよい。
印刷装置1では、演算部111が濃度測定部24の測定結果に基づいて基礎ディザマトリクス83の各要素値を修正することにより、印刷装置1において修正ディザマトリクス81が容易に求められるが、印刷装置1の外部のコンピュータが所定のプログラムを実行することにより、演算部111と同様の機能を実現し、濃度測定部24からのチェックパターンの測定結果の入力に基づいて基礎ディザマトリクスの各要素値を修正して、修正ディザマトリクスが生成されてもよい。この場合、生成された修正ディザマトリクスは、例えば、コンピュータネットワークを経由して、あるいは、光ディスク、磁気ディスク、光磁気ディスク等のコンピュータ読み取り/書き込み可能な記録媒体に記録され、この記録媒体が印刷装置1のコンピュータ11の読取装置(図示省略)にて読み取られることにより、修正ディザマトリクスが制御部4へと入力されてマトリクス記憶部42に記憶されてもよい。
次に、基礎ディザマトリクス83の各要素値を修正する他の好ましい処理例について説明する。本処理例においても、基礎ディザマトリクス83が生成されると(図7:ステップS4)、基礎ディザマトリクス83を用いて印刷用紙9上にチェックパターンが印刷される(ステップS5)。
図14は印刷用紙9上に印刷されるチェックパターン5aを示す図である。図14に示すように、印刷用紙9上には4個のチェックパターン5aがY方向に並んでおり、各チェックパターン5aはCMYKのいずれかに対応する。チェックパターン5aには、印刷用紙9上の印刷領域のほぼ全体に亘って伸びる線状であり、複数の濃度レベル(例えば、30%、50%および80%の濃度レベル)にそれぞれ対応する複数の(図14では、3個の)パターン要素51、および、複数の位置特定部52が含まれている。図14では、各チェックパターン5aのパターン要素51において平行斜線の間隔を変更することにより、濃度レベルの違いを表しており、各パターン要素51の走査方向の幅は例えば10mmとされる。
印刷用紙9上のチェックパターン5aは濃度測定部24の下方へと移動し、ヘッド移動機構22がヘッド21を幅方向に移動することにより、チェックパターン5aの各パターン要素51の濃度が濃度測定部24により幅方向の全体に亘って測定される(ステップS6)。このとき、各チェックパターン5aにおける複数の位置特定部52も濃度測定部24により検出され、各パターン要素51において複数の吐出口611(特に、隣接吐出口611a)にそれぞれ対応する複数の領域の各受光素子による濃度の測定値が精度よく取得される。
チェックパターン5aの各パターン要素51において、幅方向の各位置(すなわち、各吐出口611に対応する位置)に対して、この位置に対応する複数の受光素子により取得された濃度の測定値の平均値(濃度値)が算出されることにより、モジュール群23に含まれる各吐出口611に対して、複数の濃度レベルのそれぞれにおける濃度値が取得される。続いて、幅方向に連続して並ぶ所定個数(例えば、10個)の吐出口611(ただし、隣接吐出口611aおよび隣接吐出口611aの近傍の吐出口611を除く。)毎に濃度値の平均値が求められ、各濃度レベルの印刷濃度とされる。また、隣接吐出口611aおよび隣接吐出口611aの近傍の吐出口611については、各濃度レベルの濃度値がそのまま印刷濃度とされる。そして、吐出口611の各濃度レベルの印刷濃度を当該濃度レベルの基準濃度値にて除した値の逆数を算出することにより、各吐出口611に対する当該濃度レベルにおける補正係数が求められる(ステップS7)。
図15は、一の吐出口611における補正係数と濃度レベルとの関係を示す図である。本実施の形態では、各吐出口611に対して3種類の濃度レベルにおける補正係数が取得されるのみであるが、他の濃度レベルにおける補正係数は、スプライン補間等の補間処理を行うことにより求められる。図15に示すように、この吐出口611では、全ての濃度レベルにおいて補正係数が1未満となっているが、濃度レベルが比較的低い範囲(濃度レベルが128未満の範囲)に比べて、濃度レベルが比較的高い範囲(濃度レベルが128以上の範囲)では、補正係数がさらに小さくなっている。なお、実際には、各吐出口611における濃度レベルと補正係数との関係は、ルックアップテーブルとして記憶される。
各吐出口611に対して濃度レベル毎の補正係数が求められると、基礎ディザマトリクス83の各要素値が、対応する吐出口611に関して求められたルックアップテーブルにおいて、この要素値の値を濃度レベルとして特定される補正係数にて除され、修正ディザマトリクス81が生成される(ステップS8)。
以上のように、本処理例では、濃度測定部24による複数のパターン要素51の測定により複数の濃度レベルにそれぞれ対応する複数のパターン要素の濃度の測定値が取得され、演算部111により修正前のディザマトリクスである基礎ディザマトリクス83、および、濃度測定部24の測定結果に基づいて修正ディザマトリクス81が求められる。これにより、複数の吐出口611からの微小液滴の吐出量のばらつき等に起因する印刷画像中のムラの発生をさらに抑制しつつ、画像を高速に印刷することが可能となる。ここで、本処理例では、基礎ディザマトリクス83の各要素値列に含まれる要素値の修正に用いられる補正係数の値が、要素値の大きさに従って要素毎に異なるが、通常、各吐出口611の複数の濃度レベル間における補正係数のばらつきは、複数の吐出口611間における補正係数のばらつきよりも小さいため、修正ディザマトリクス81の複数の要素値は列方向の方向性を有することとなる。
次に、図7のステップS1にて行われる一の好ましい閾値マトリクスを生成する手法について説明する。図16は閾値マトリクスを生成する処理の概要を説明するための図であり、閾値マトリクス821と各濃度レベルにおけるドットの配置を示す2値のドットプロファイルとの関係を示す図である。閾値マトリクス821を生成する際には、元画像の濃度範囲に含まれる複数の濃度レベルのそれぞれに対応するとともに、生成される閾値マトリクスと同じ大きさのドットプロファイルが取得され、これらのドットプロファイルから1つの閾値マトリクスが生成される。例えば、元画像の濃度レベルが0ないし3である場合には、図16に示すように、これらの濃度レベルにそれぞれ対応する4個のドットプロファイル851〜854が取得される。
ここで、閾値マトリクス821と同じ大きさの一定の濃度レベルの画像を閾値マトリクス821を用いてハーフトーン化すると、その濃度レベルのドットプロファイルとなるため、閾値マトリクス821においてドットプロファイル中のドットの位置と同じ位置は、その濃度レベルよりも低い値とされる。また、ドットプロファイルは濃度レベルが高いほどドット(図16中において平行斜線を付して示す画素)の数が増加し、濃度レベルが異なる2つのドットプロファイルの間では、濃度レベルが低いドットプロファイルにおいて存在するドットは、濃度レベルが高いドットプロファイルにおいても必ず存在するという特徴を有する。したがって、閾値マトリクスに対応する2次元領域において、一の濃度レベルのドットプロファイルと次の濃度レベルのドットプロファイルとの間でドットが追加される位置と同じ位置に一の濃度レベルの値を付与し、一の濃度レベルを次の濃度レベルへと更新しつつ上記処理を繰り返すことにより閾値マトリクス821が生成される。以下、元画像の複数の濃度レベルにそれぞれ対応する複数のドットプロファイルを取得して、閾値マトリクスを生成する処理について詳述する。
図17.Aはコンピュータ11が閾値マトリクスを生成する処理の流れを示す図であり、図17.Bは、図17.A中の各工程に関係する濃度範囲(または、濃度レベル)を説明するための図である。図17.Aおよび図17.Bに示すように、コンピュータ11では、初期ドットプロファイル生成処理により濃度レベル1のドットプロファイルが取得され(ステップS11)、第1ドットプロファイル生成処理により濃度レベル2からg1までの低濃度範囲の各濃度レベルのドットプロファイルが取得され(ステップS12)、第2ドットプロファイル生成処理により濃度レベルg1より大きい中濃度範囲および高濃度範囲(ただし、最も高い濃度レベルを除く。)の各濃度レベルのドットプロファイルが取得される(ステップS13)。
本実施の形態では、低濃度レベルから高濃度レベルに向かって順にドットプロファイルが生成されるため、一の濃度レベルのドットプロファイルにドットを追加して、より高い次の濃度レベルのドットプロファイルが取得される。また、濃度レベルgのドットプロファイルに含まれるドット数を累積分布関数n(g)にて表すものとする。累積分布関数n(g)は(広義の)単調増加関数とされ、通常、(n(g+1)>n(g))、かつ、(n(0)=0)、および、(n(255)=Lx×Ly)(ドットプロファイルの行方向および列方向の大きさは、それぞれLx,Lyとなるものとする。)とされる。なお、累積分布関数の一例としては、濃度レベルとドット数とが線形に増加する線形関数が考えられるが、他の単調増加関数を用いることも可能である。以下、図17.A中のステップS11〜S13の各処理の詳細について説明する。
図18は初期ドットプロファイル生成処理の流れを示す図であり、図17.AのステップS11にて行われる処理を示している。初期ドットプロファイル生成処理ではボロノイ領域分割が利用される。ここで、ボロノイ領域分割とは距離が定義された空間を、空間に散らばった複数の母点をそれぞれ核とする複数の細胞領域に分割することをいい、各細胞領域に含まれる点において、全ての母点のうち当該細胞領域の核である母点が最寄りのものとなる。
まず、閾値マトリクスに対応する離散的な2次元領域(すなわち、行方向および列方向の大きさがそれぞれLx,Lyとされる2次元領域であり、以下、「マトリクス領域」という。)において、初期の濃度レベル1に合わせたドットの個数分だけ位置(すなわち、行方向および列方向にて規定される整数値座標)がランダムに選択され、選択された複数の位置のそれぞれに母点が配置されて異なるラベルが付与される(ステップS21)。ここで、濃度レベル1に合わせたドットの個数は、累積分布関数n(1)として求められる。
続いて、マトリクス領域中の各位置(座標(x,y)にて特定される位置)に対して最寄りの母点が特定され、特定された母点のラベルをこの位置に対応する値とする行列V(x,y)が求められることにより、ラベルが等しい(すなわち、最寄りの母点が同じとなる)位置の集合が細胞領域として取得される(すなわち、離散ボロノイ領域分割が行われる)(ステップS22)。ここで、マトリクス領域に生成される閾値マトリクスは、既述のように修正ディザマトリクスの生成において行方向に繰り返され、かつ、修正ディザマトリクスは、図4に示す繰り返し領域71に対応することから、n(1)個だけ配置された複数の母点も上下左右に繰り返し存在するものとして扱われる。したがって、ボロノイ領域分割が行われる際には、マトリクス領域の繰り返しを想定した場合の複数の母点のうち、距離算出基準となる各位置に最も近いものが特定される。
図19は、ボロノイ領域分割が行われたマトリクス領域を示す図である。図19に示すように、複数の母点861の位置に基づいてボロノイ領域分割が行われ、複数の細胞領域862(図19中にて太線にて囲む領域)がマトリクス領域中にて取得される。複数の細胞領域862が取得されると、各細胞領域862において重心863が求められ、母点861から重心863までのベクトルが求められる(ステップS23)。なお、この段階では、母点861の位置と細胞領域862の重心863の位置とは通常一致せず、母点861は細胞領域862内のある方向に偏っており、ステップS23では細胞領域862内における母点861の偏りが実質的に求められる。そして、母点861から重心863までのベクトルがC倍(定数倍)され、C倍後の移動ベクトルに従って母点861を移動して細胞領域862内における母点861の偏りが改善される(ステップS24)。
細胞領域内における母点の偏りを計算し、偏りを改善する上記ステップS22〜S24の処理は繰り返し行われ(ステップS25)、母点がほぼ移動しなくなると(すなわち、母点の位置が収束して、母点から細胞領域の重心までのベクトルの大きさがほぼ0となると)、各母点の位置の値が「1」とされてドットが付与される(ステップS26)。これにより、n(1)個のドットがマトリクス領域におよそ均一に分布された濃度レベル1のドットプロファイルP(x,y;1)が取得される。なお、ステップS24において用いられる定数Cは、母点の位置の収束を加速させるためのパラメータであり、操作者により予め設定される。経験的には、定数Cを2とした場合に定数Cが1の場合よりも母点の位置の収束が速くなり、母点の分布も好ましいものとなる。
このように、コンピュータ11では、低濃度範囲の最初の濃度レベルに合わせた個数だけドットがマトリクス領域に配置され、ドットの分布の均一性がボロノイ領域分割を利用して高められることにより、低濃度範囲の最初の濃度レベルのドットプロファイルがドットの分布の均一性を確保しつつ適切かつ容易に生成される。
次に、コンピュータ11では、低濃度範囲に含まれる複数の濃度レベルg(ただし、2≦g≦g1)のそれぞれに対してドットプロファイルが取得される。図20は、第1ドットプロファイル生成処理の流れを示す図であり、図17.AのステップS12にて行われる処理を示している。
まず、マトリクス領域に濃度レベル(g−1)のドットプロファイルP(x,y;g−1)がコピーされ、ドットプロファイルQ(x,y)が生成される(ステップS31)。ここで、ドットプロファイルP(x,y;g−1)は求められるドットプロファイルの濃度レベルg(以下、「対象濃度レベルg」という。)の前の濃度レベルのものであり、第1ドットプロファイル生成処理における最初の処理では、通常、上述の処理により生成された濃度レベル1のドットプロファイルP(x,y;1)とされる。そして、対象濃度レベルgのドットプロファイルにおけるドット数n(g)と濃度レベル(g−1)のドットプロファイルにおけるドット数n(g−1)との差dn(dn=n(g)−n(g−1))を求めることにより追加されるドットの個数が取得される(ステップS32)。また、所定のパラメータKが0に初期化される(ステップS33)。
続いて、ドットプロファイルQ(x,y)において、マトリクス領域の繰り返しを考慮しつつ各位置と最寄りのドットとの間の距離が算出され、算出された距離をこの位置に対応する値とする最短距離行列W(x,y)が求められ(ステップS34,S35)、距離が最大となる位置の座標(xa,ya)が求められる(ステップS36)。なお、最寄りのドットとの距離が等しい複数の位置が存在する場合には、1つの位置がランダムに選択される。そして、ドットプロファイルQ(x,y)中の座標(xa,ya)の位置の値が「1」とされてドットが追加される(ステップS37)。このとき、距離が最大となる位置は、上述のボロノイ領域分割により生成される細胞領域の境界を示すいずれかの多角形の頂点の位置と同じであり、この位置では隣接する全てのドットとの間の距離が等しくなる。したがって、このような位置に新たなドットを追加することにより、ドットの分布の均一性がおよそ保たれる。その後、パラメータKに1が加算される(ステップS38)。
上記ステップS34〜S38はKの値を更新しつつ繰り返され、マトリクス領域において全てのドットから最も離れた位置にドットが順次追加される。更新後のKの値が対象濃度レベルgと濃度レベル(g−1)とのドット数の差dnとなると(すなわち、dn個のドットが追加されると)(ステップS34)、ドットプロファイルQ(x,y)はドットプロファイルP(x,y;g)とされ(ステップS39)、n(g)個のドットを含む対象濃度レベルgのドットプロファイルが生成される。
コンピュータ11では、生成されたドットプロファイルの濃度レベルgがg1となるまで、濃度レベルgのドットプロファイルP(x,y;g)をマトリクス領域への次のコピー対象として濃度レベルを更新しつつ、上記ステップS31〜S39が繰り返される(ステップS40,S41)。これにより、低濃度範囲(2≦g≦g1)に含まれる複数の濃度レベルのそれぞれのドットプロファイルが生成される。実際には、低濃度範囲の各濃度レベルgに対するステップS35〜S38の繰り返し処理において、ステップS37にて追加されるドットの位置の組合せが閾値マトリクスにおいて値(g−1)が付与される位置とされる。
以上のように、コンピュータ11では、低濃度範囲の最初の濃度レベル以降の各濃度レベルにおけるドットの配置を示す2値のドットプロファイルが、マトリクス領域において既存のドットから最も離れた位置にドットを順次追加することにより生成され、中濃度範囲および高濃度範囲の各濃度レベルのドットプロファイルが、上記図20の処理とは異なる後述の手法を利用して生成される。これにより、低濃度範囲において複雑な演算を行うことなく均一性の高いドットプロファイルが生成され、適切な閾値マトリクスを容易かつ短時間に生成することが実現される。なお、図20の処理では、ドット数が(Lx×Ly)の半数に近づくとドット同士が接続して既存のドットから最も離れた位置を求める技術的意義が失われるため、第1ドットプロファイル生成処理はドット数n(g)が(Lx×Ly)の半数より少なく、ドット同士が接続しない程度の濃度レベルgの範囲内にて利用されることが好ましい。
次に、中濃度範囲(g1<g≦g2)および高濃度範囲(g2<g≦254)に含まれる複数の濃度レベルgのそれぞれに対して、コンピュータ11が、ドットの配置状態を数値化する所定のエネルギー関数を用いてドットプロファイルを生成する手法について述べる。
まず、本手法にて利用されるエネルギー関数について説明する。本実施の形態では、2値画像を統計物理学の分野で用いられる2次元のスピンモデルと対応させるものとし、スピンとは1または0の値をとる物理変数である。エネルギー値Eは、マトリクス領域において閾値マトリクスと同じ大きさの2値画像を表現するスピン行列をS(x,y)、スピン行列に含まれる2つのスピンの位置の座標をそれぞれ(xm,ym),(xn,yn)、2つのスピンの相対位置により決定される相互作用エネルギーを示す関数をJとして数1により示される。
数1では、スピン行列S(x,y)に含まれる2つのスピンの各組合せについて相互作用エネルギーを求め、2つのスピンの値の積と相互作用エネルギーとを乗じた値の総和がエネルギー値とされる。ここで、2つのスピン間の相互作用エネルギーは、a)スピン行列S(x,y)の繰り返しを考慮して求められるとともに相互作用エネルギーの大きさは2つのスピン間の相対位置にのみ依存し、b)相互作用エネルギーの大きさは両スピンに対して対称性を有し、c)同一のスピン同士の組合せには相互作用エネルギーは生じない、という条件を満たす。条件a)は、数1において((xn−xm) mod Lx)、および、((yn−ym) mod Ly)をパラメータとして2つのスピン間の相互作用エネルギーJが求められることを意味する(ただし、(A mod B)はAをBで除したときの剰余を示し、Bより小さい0以上の整数となる。)。また、条件b)は、(−a mod Lx)、および、(−b mod Ly)により求められる相互作用エネルギーJと、(a mod Lx)、および、(b mod Ly)により求められる相互作用エネルギーJとが等しくなることを意味し、条件c)は2つのパラメータの値が共に0である場合の相互作用エネルギーJが0となることを意味する。コンピュータ11では、数1により求められるエネルギー値Eを最小化するようにしてスピン行列S(x,y)が求められ、ドットプロファイルが生成される(いわゆる、最適化アルゴリズムが利用される。)。
本実施の形態では、相互作用エネルギーJはマトリクス領域の繰り返しを考慮した2つのスピンが近接している場合に、大きな値をとるものとされる。具体的には、相互作用エネルギーJ(r)はマトリクス領域の繰り返しを考慮した2つのスピン間の最短距離をrとして数2により求められる。ただし、数2において、w1、w2、σ1、σ2は0以上の実数の定数であり、σ1>σ2かつw1>w2とされ、距離rが0の場合を除く。
数2は、分散パラメータが互いに異なる2つの2次元正規分布をそれぞれ示す2つの関数を組み合わせたものであり、数2により求められる相互作用エネルギーJは、2つのスピン間の距離rが0となる近傍において大きな値をとり、σ1、σ2に比べて距離rが十分に大きい場合には相互作用エネルギーJは0と近似できる。また、数2をフーリエ変換した場合、右辺の第1項は低周波成分において値が大きくなるため、エネルギー値Eにおいて低周波成分に対するペナルティとして機能し、右辺の第2項は高周波成分にて値が大きくなるため、高周波成分に対するペナルティとして機能するといえ、w1、w2はそれぞれ第1項および第2項の重み付けを与える。以下、スピンモデルおよび相互作用エネルギーを利用した処理について詳述する。
図21および図22は、第2ドットプロファイル生成処理の流れを示す図であり、図17.AのステップS13にて行われる処理を示している。第2ドットプロファイル生成処理についても、中濃度および高濃度範囲内において低濃度レベルから高濃度レベルに向かって順にドットプロファイルが生成される。
コンピュータ11では、まず、一の濃度レベル(g−1)のドットプロファイルP(x,y;g−1)がスピン行列S(x,y)にコピーされる(ステップS51)。ここで、ドットプロファイルP(x,y;g−1)は求められるドットプロファイルの濃度レベルg(対象濃度レベルg)の前の濃度レベルのものであり、第2ドットプロファイル生成処理における最初の処理では、通常、図20の処理により最後に取得された濃度レベルg1のドットプロファイルP(x,y;g1)とされる。
続いて、スピン行列S(x,y)において、値が0であるスピンの座標の集合H(すなわち、ドットプロファイルP(x,y;g−1)においてドットが追加可能である位置の集合であり、(H={(xj,yj);S(xj,yj)=0})で表される。)が求められる(ステップS52)。また、対象濃度レベルgのドットプロファイルにおけるドット数n(g)と濃度レベル(g−1)のドットプロファイルにおけるドット数n(g−1)との差dn(dn=n(g)−n(g−1))が求められ、対象濃度レベルgに合わせてドットプロファイルP(x,y;g−1)に追加されるドットの個数が取得される(ステップS53)。
その後、座標集合Hからdn個の座標がランダムに選択され、選択された座標の集合がU、残りの座標の集合がDとされる(ステップS54)。そして、スピン行列S(x,y)において、座標集合Uに含まれる全ての座標(x,y)のスピンの値が1とされる(ステップS55)。なお、座標集合Uおよび座標集合D(すなわち、座標集合H)に含まれる座標は、以下の処理において操作対象となるスピン(以下、「対象スピン」という。)の位置を示すものであり、座標集合Uは対象スピンのうち値が1とされたものの座標の集合を示し、座標集合Dは対象スピンのうち値が0のままであるものの座標の集合を示す。
続いて、対象濃度レベルgに対応する所定のパラメータ(すなわち、w1、w2、σ1、σ2)が数2に示す相互作用エネルギーJを求める式に設定される(ステップS56)。このとき、数2に設定されるパラメータは、例えば、対象濃度レベルgが中濃度範囲に含まれる場合(g1<g≦g2)と、高濃度範囲に含まれる場合(g2<g≦254)とで異なる値とされ、これらのパラメータは操作者により予め入力される。なお、対象濃度レベルgに対応するパラメータが既に設定されている場合には、ステップS56の処理はスキップされる。
ここで、本処理例ではエネルギー値Eが小さいスピン行列S(x,y)を求めるために焼きなまし法が利用される。焼きなまし法はエネルギーの定義された統計物理的なモデルをシミュレーションし、その平衡状態を高温から低温へと徐々にシフトさせることにより、エネルギーをより小さくする状態を見つけだす手法である。具体的には、まず、焼きなまし法にて利用される温度パラメータT(ただし、T>0)が初期値T0にセットされる(ステップS57)。
続いて、座標集合Dから1つの座標(x1,y1)((x1,y1)∈D))がランダムに選択され、座標集合Uからも1つの座標(x2,y2)((x2,y2)∈U)がランダムに選択され、スピン行列Sにおいて座標(x1,y1)の対象スピンの値0と座標(x2,y2)の対象スピンの値1とが交換される(ステップS58)。そして、値を交換する前後におけるスピン行列Sのエネルギー値Eの変化量dEが求められる(ステップS59)。
ここで、数1において、ある1つの座標(xb,yb)のスピンの値のみを反転する場合におけるエネルギー値Eの変化量dE1は、当該スピンの値の変化量((+1)または(−1)となる。)をdSとして数3により求められる。
したがって、ステップS59では数3を用いて、座標(x1,y1)の対象スピンの値のみを反転させた場合のエネルギー値Eの変化量と、座標(x1,y1)の対象スピンの値を反転した後に、座標(x2,y2)の対象スピンの値を反転させた場合のエネルギー値Eの変化量とを求め、これらの値の和がエネルギー値の変化量dEとされる。このように、値が交換される前のスピン行列S(x,y)のエネルギー値と、値が交換された後のスピン行列S(x,y)のエネルギー値との差が、値を1とする対象スピンの位置の変更に基づいて求められる。これにより、位置の変更前後において数1を計算してエネルギー値の差を求めるよりも、演算量を大幅に減少させることができる。また、上述のように、数2においてσ1、σ2に比べて距離rが十分に大きい場合には相互作用エネルギーJが0と近似できるため、マトリクス領域の繰り返しを考慮しつつ値を反転するスピンの近傍のスピンに対してのみ数3の演算を行えばよく、エネルギー値Eの変化量dEを容易に求めることができる。
続いて、擬似一様乱数p(ただし、0≦p<1)が取得され(ステップS60)、擬似一様乱数pがmin{1,exp(−dE/T)}(ただし、min{A,B}はAおよびBのうち小さい方を示す。)よりも小さい場合に、ステップS58における交換が許可され(ステップS61)、座標(x1,y1)が座標集合Dから座標集合Uへと移動し、座標(x2,y2)が座標集合Uから座標集合Dへと移動する(ステップS62)。一方、擬似一様乱数pがmin{1,exp(−dE/T)}以上である場合には(ステップS61)、ステップS58における対象スピンの値の交換が元に戻される(ステップS63)。このように、エネルギー値の変化量dEが0より大きい場合には交換が確率的に許可され、変化量dEが0以下である場合には交換が必ず許可される。
そして、温度パラメータTを小さくするか確認した上で、小さくする場合には(ステップS64)、温度パラメータTがβ倍(ただし、0<β<1)されて小さくされ(ステップS65)、変更後の温度パラメータTを用いてステップS58〜S65の処理が繰り返される(ステップS66)。このとき、ステップS61において、エネルギー値が増加する場合にも確率的に交換を許可することにより、エネルギー値が局所最適解にとどまることが抑制される。なお、ステップS65の処理は所定の繰り返し回数毎に行われる。
ここで、温度パラメータTは、どの程度エネルギー値が増加する交換を許可するかを決定するためのものである。仮に、温度パラメータTがおよそ0である場合には、エネルギー値の変化量dEが0より大きくなる交換は全て拒絶され、エネルギー値が増加しない交換のみが許可される。一方、Tが無限大である場合には、変化量dEが0より大きくなる交換も全て許可され、スピン行列Sをランダムに状態変化させることと同じになる。したがって、ステップS65においてTをβ倍して小さくしていくことにより、繰り返し回数が少ない間は広く探索を行ってスピン行列Sがおよそ適切な解の近傍に到達し、繰り返し回数が多くなるにしたがって探索の範囲を狭めて、エネルギー値が極小となる解(スピン行列S)を求めることが可能となる。なお、温度パラメータTは、不適切な局所最適解に陥った場合等、必要に応じて大きくされてもよく、一定の値としてステップS64,S65の処理を省略することも可能である。
コンピュータ11では、例えば、エネルギー値の変化量dEがしきい値以下となることが所定回数だけ連続して繰り返され、エネルギー値の著しい変化がほとんどなくなると、ステップS58〜S65の処理の繰り返しが終了され(ステップS66)、エネルギー値が極小となるスピン行列S(x,y)が取得される。このとき、スピン行列S(x,y)について、数1に示す演算によるエネルギー値Eは実際には求められないが、ステップS59において、値を交換する前後のスピン行列Sにおけるエネルギー値Eの変化量dEを求めつつ、変化量dEの変化がモニターされるため、実質的には、上記処理は、値を交換する前後のスピン行列Sのエネルギー値Eを求めて、エネルギー値Eが極小となるスピン行列S(x,y)を特定することと等価の処理となる。なお、ステップS65における処理が所定回数だけ行われることにより、ステップS58〜S65の処理の繰り返しが終了されてもよく(ステップS66)、この場合でも、エネルギー値がおよそ極小となるスピン行列S(x,y)が取得される。
ステップS58〜S65の処理の繰り返しが終了すると、スピン行列S(x,y)が対象濃度レベルgのドットプロファイルP(x,y;g)として取得される(ステップS67)。このとき、ドットプロファイルP(x,y;g)において、濃度レベル(g−1)のドットプロファイルP(x,y;g−1)から追加されたドットの位置の組合せが閾値マトリクスにおいて値(g−1)が付与される位置とされる。
コンピュータ11では、取得されたドットプロファイルP(x,y;g)をスピン行列S(x,y)への次のコピー対象として濃度レベルを更新しつつ、ステップS51〜S67が繰り返される(ステップS68,S69)。そして、取得されたドットプロファイルの濃度レベルgが濃度レベル254となると第2ドットプロファイル生成処理が終了する(ステップS68)。これにより、中濃度範囲および高濃度範囲の各濃度レベルに対してドットプロファイルが求められつつ閾値マトリクス821が生成される。
以上のように、コンピュータ11では、一の濃度レベルのドットプロファイルに対応するスピン行列S(x,y)から、次の濃度レベルに合わせた個数だけ対象スピンの値が1に変更される。そして、スピン行列S(x,y)に含まれる2つのスピンの各組合せについて、2つのスピン間の距離が0となる近傍で値が大きくなる相互作用エネルギーと2つのスピンの値の積とを乗じた値を実質的に求め、これらの値の総和であるエネルギー値が小さくなるように、値が1に変更された対象スピンと値が0の他の対象スピンとの値をさらに交換して、中濃度範囲および高濃度範囲の各濃度レベルのドットプロファイルが取得される(スピンモデルのエネルギー最小化法)。これにより、中濃度範囲および高濃度範囲において相互作用エネルギーを利用してドットが均一に分布したドットプロファイルを取得し、適切な閾値マトリクスを生成することができる。既述のように、閾値マトリクスは基礎ディザマトリクスの生成に用いられる。
ところで、上記手法にて生成される閾値マトリクスや、他の一般的な閾値マトリクスから一の濃度レベルにおけるドットプロファイルを導くと、通常、ドットプロファイル中にてドットはランダムに配置されているが(すなわち、ドットプロファイルが等方性を有している)、仮に、図7の処理にて生成された修正ディザマトリクス81から一の濃度レベルにおけるドットプロファイルを導くと、修正ディザマトリクス81の複数の要素値が各要素値列に対応する吐出口611に対する補正係数を用いて修正されているため、ドットプロファイル中にてドットが列方向に並ぶ可能性が高くなる(すなわち、ドットプロファイルが列方向の方向性を有している)。また、モジュール231のピッチに合わせて(隣接吐出口611aの位置に対応して)ドットプロファイル自体には強い周期性パターンが生じる。このように、印刷装置1にて印刷時に用いられる修正ディザマトリクス81では、一般的な閾値マトリクス(ディザマトリクス)とは異なる特徴を有することとなる。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
上記実施の形態では、実際にチェックパターン5,5aを印刷することにより、各吐出口611に対する補正係数が取得されるが、各吐出口611(隣接吐出口611aを除く。)の補正係数は、例えば、複数の吐出口611からのインクの吐出量を直接測定する等して、図23に示すように吐出口611毎に準備することも可能である。ただし、この場合であっても、幅方向に互いに隣接する2つのモジュール231の間における2つの隣接吐出口611aの幅方向の中心間距離の印刷濃度に対する影響を抑制するには、チェックパターンにおいて隣接吐出口611aに対応する領域の濃度が測定されて、修正前のディザマトリクスの対応する要素値が修正されることが好ましい。
以上のように、幅方向に関して互いに隣接する2つのモジュール231の間において、互いに隣接する2つの隣接吐出口611aの中心間距離に起因する印刷画像中のムラを抑制することが可能な修正ディザマトリクス81を容易に求めるという観点では、修正前のディザマトリクスを用いて印刷された印刷用紙9上のチェックパターンにおける、2つの隣接吐出口611aに対応する領域の濃度が少なくとも測定され、演算部111にて修正前のディザマトリクスおよび濃度測定部24により得られた測定結果に基づいて修正ディザマトリクス81が求められることが重要となる。
上記実施の形態では、基礎ディザマトリクス83の各要素値が、チェックパターン5,5aにおける対応する濃度の測定値(の平均値)と基準濃度値との比に基づいて修正されるが、基礎ディザマトリクス83の要素値の修正は、他の手法により行われてもよく、例えば、濃度の測定値と基準濃度値との差に基づく値が各要素値に加算(または各要素値から減算)されてもよい。
また、印刷装置1では、行方向の位置の数が各モジュール群23に含まれる複数の吐出口611よりも多い修正ディザマトリクス81が準備されてもよいが、この場合、修正ディザマトリクス81において使用されない要素値が含まれていることとなるため、このような修正ディザマトリクス81においても行方向の位置の数は各モジュール群23に含まれる複数の吐出口611と実質的に同数であるといえる。
印刷装置の要求精度によっては、ヘッドを組み立てる際に、幅方向に関して互いに隣接する2つのモジュール231の間において、互いに隣接する2つの隣接吐出口の間の幅方向の中心間距離を0に設定して、一定の精度にて複数のモジュール231がヘッド本体210に取り付けられてもよい。この場合、印刷装置1では、これらの2つの隣接吐出口が1つの吐出口611として取り扱われ、元画像70の印刷時にはこれらの隣接吐出口に対して出力画像中の行方向の同じ位置の画素値に基づく吐出制御が行われる。したがって、修正ディザマトリクスの生成時には、これらの隣接吐出口の双方が一の要素値列に対応するものとされ、当該要素値列に含まれる修正後の各要素値の値が2倍されることにより、これらの隣接吐出口に対応する印刷画像中の領域の濃度の低減が図られる。なお、このような場合でも、2つの隣接吐出口が1つの吐出口611とみなすと、修正ディザマトリクスの行方向の位置の数は各モジュール群23に含まれる複数の吐出口611と同数となる。
また、チェックパターン5に含まれる位置特定部52は、必ずしも隣接吐出口611aにより形成される必要はなく、隣接吐出口611aにより描画されるパターン要素中の領域の位置が正確に特定可能であるならば、他の吐出口611により形成されてもよい。換言すれば、チェックパターンが、隣接吐出口611aの位置に関連付けられた位置特定部を含むことにより、隣接吐出口611aにより描画されるチェックパターン中の位置が正確に特定可能となる。
上記実施の形態では、ヘッド21において複数の吐出口611が幅方向に関して印刷用紙9上の印刷領域の全体に亘って配列されていることにより、印刷用紙9がヘッド21の下方を1回通過するのみで(すなわち、ワンパスにて)印刷用紙9に画像をより高速に印刷することが実現されるが、幅方向に関して複数の吐出口611が配列される幅が印刷用紙9の印刷領域よりも狭い場合には、図24に示すように、ヘッド21を印刷用紙9に対して幅方向(図24中のX方向)に相対的に移動させる機構が設けられてもよい。
さらに、図24に示すヘッド21の幅方向の間欠的な移動量が、ヘッド21の走査方向(図24中のY方向)への1度の走査により描画可能な印刷用紙9上の領域91(図24中にて破線の矩形にて示す領域)の幅方向の長さ(図24中にて符号α1を付す長さ)の1/2や1/4とされて、ヘッド21の次の走査方向への走査により直前に描画された領域中の幅方向に並ぶドット間が補間されてもよい。
印刷装置1では、ヘッド21を印刷用紙9に対して走査方向に移動させる機構が設けられてもよく、印刷用紙9はヘッド21に対して走査方向に相対的に移動すればよい。また、図25に示すように、複数の吐出口611を有するモジュールが傾斜して配列されたヘッドを有する印刷装置において、修正ディザマトリクスを用いて印刷を行う本手法が用いられてもよい。さらに、印刷装置1による印刷対象は、印刷用紙9に限定されず、例えば、フィルムやディスク等の他の印刷媒体であってもよい。
修正ディザマトリクスを用いて印刷を行う本手法は、印刷用紙9上において走査方向に垂直な幅方向に配列される複数の吐出位置にそれぞれドットを記録する多数の(印刷動作の一定の高速性を確保するには、好ましくは、180以上の)吐出口を有するヘッドと、印刷用紙9上の複数の吐出位置を走査方向に印刷用紙9に対して相対的に移動させる走査機構とを備えるインクジェット方式の印刷装置に特に適している。しかしながら、複数の発光素子(例えば、半導体レーザや発光ダイオード(LED))が配列されたヘッドや、光源およびGLV等の光変調素子が設けられたヘッドを有し、ヘッドからの複数の光ビームがそれぞれ照射される対象物上の複数の光照射領域を所定の走査方向に走査して対象物上にドットの集合による画像を記録する画像記録装置においても、シェーディング補正が反映された同様の修正ディザマトリクスが生成され、対象物上における複数の光ビームの強度のばらつき等に起因するムラが抑制された画像が高速に記録されてもよい。
以上のように、上記実施の形態における修正ディザマトリクスを生成する手法は、対象物上において、所定の走査方向に垂直な幅方向に配列される複数の描画要素領域にそれぞれドットを記録する複数のドット出力要素を有するヘッドと、対象物上の複数の描画要素領域を走査方向に対象物に対して相対的に移動させる走査機構とを備える様々なドット記録装置に対して用いることが可能である。ドット記録装置では、走査方向に対応する列方向および幅方向に対応する行方向に複数の要素値が配列された2次元配列であり、複数のドット出力要素と同数(実質的に同数)だけ設けられた行方向の複数の位置が複数のドット出力要素にそれぞれ対応付けられている基礎ディザマトリクスにおいて、複数のドット出力要素の出力のばらつきに基づいて複数の要素値が修正される。これにより、複数の要素値が列方向に関して方向性を有する修正ディザマトリクスが生成される。そして、ドット記録時における多階調の元画像のハーフトーン化の際に、この修正ディザマトリクスが元画像と比較され、比較結果に従ってヘッドの複数のドット出力要素が制御されることにより、複数のドット出力要素の出力のばらつき等に起因するムラが抑制された画像を高速に記録することが実現される。