図1は本発明の第1の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の外観を示す斜視図である。インクジェットプリンタ1は、例えば、プラスチックにて形成される板状またはフィルム状の透明な基材9上にインクジェット方式にて画像を記録することにより、シースルー印刷物を作成する装置である。
インクジェットプリンタ1は本体11および制御部4を備え、本体11は基材9を図1中の(+Z)側の面上に保持するステージ21、および、基台20上に設けられるステージ移動機構22を備える。ステージ21の基材9とは反対側の面には、ステージ移動機構22が有するボールネジ機構のナットが固定され、ボールネジ機構に接続されたモータが回転することにより、ステージ21が図1中のY方向(以下、「副走査方向」とも呼ぶ。)に滑らかに移動する。基台20上には、基台20に対するステージ21の位置を検出する位置検出モジュール23がさらに設けられる。
ステージ21の上方には基材9の(+Z)側の主面(以下、「記録面」という。)に向けてインクの微小液滴を吐出するヘッドユニット3が配置され、ヘッドユニット3は、ボールネジ機構およびモータを有するヘッド移動機構24により副走査方向に垂直かつ基材9の記録面に平行な主走査方向(図1中のX方向)に移動可能に支持される。また、基台20には、ステージ21を跨ぐようにしてフレーム25が設けられ、ヘッド移動機構24はフレーム25に固定される。フレーム25上には紫外線を出射する光源39が設けられ、複数の光ファイバ(実際には、複数の光ファイバは束状となっており、図1では符号391を付して1本の太線にて示している。)を介して光源39からの光がヘッドユニット3の内部へと導入される。
図2はヘッドユニット3の底面図である。図2に示すように、ヘッドユニット3はそれぞれが互いに異なる色のインクを吐出する複数の(図2では、4個の)ヘッド31を備え、複数のヘッド31はX方向に配列されてヘッドユニット3の本体30に固定される。図2中の最も(−X)側のヘッド31はC(シアン)の色のインクを吐出し、Cのヘッド31の(+X)側のヘッド31はM(マゼンタ)の色のインクを吐出し、Mのヘッド31の(+X)側のヘッド31はK(ブラック)の色のインクを吐出し、Kのヘッド31の(+X)側のヘッド31はY(イエロー)の色のインクを吐出する。ヘッドユニット3は、ホワイトインクを吐出する1つのヘッド32、および、ブラックのインクを吐出する1つのヘッド33(Kのヘッド31とは別のヘッド)をさらに備え、ヘッド32,33はYのヘッド31の(+X)側に配置される。このように、ヘッドユニット3では、複数のヘッド31〜33が主走査方向に並んでいる。
以下の説明では、ヘッド33から吐出されるインクを、Kのヘッド31から吐出されるインクと区別して、「ブラックインク」と呼ぶ。また、複数のヘッド31から吐出されるインク(本実施の形態では、C、M、K、Yのインク)を、ヘッド32から吐出されるホワイトインク、および、ヘッド33から吐出されるブラックインクと区別して「カラーインク」と呼ぶ。後述するように、インクジェットプリンタ1では、ヘッド33から吐出されるブラックインクによる画像の層(以下、「ブラックインク層」という。)、ヘッド32から吐出されるホワイトインクによる画像の層(以下、「ホワイトインク層」という。)、および、ヘッド31から吐出されるカラーインクによる画像の層(以下、「カラーインク層」という。)が基材9上に順に重ねて形成される。なお、ヘッドユニット3には、ライトシアン等の他のカラーインクを吐出するヘッドが追加されてもよい。また、ヘッド33は31のK色ヘッドと共用するようにしてもよい。
ヘッド31〜33のそれぞれでは、複数の吐出口(一部のヘッド31の吐出口にのみ符号311を付している。)がY方向に等しいピッチにて配列され、各吐出口311から基材9の記録面に向けてインクが吐出される。各色のカラーインク、ホワイトインクおよびブラックインクは紫外線硬化剤を含んでおり、紫外線硬化性を有している。図2では、各ヘッド31〜33において15個の吐出口311を図示しているが、実際には、各ヘッド31〜33は多数の吐出口311を有している。
また、ヘッドユニット3には、それぞれが光源39に接続される2つの光照射部38が設けられ、2つの光照射部38はX方向に関してヘッド31〜33を挟んで配置される。各光照射部38では、複数の光ファイバがY方向に沿って配列されており、基材9上においてY方向に伸びる線状の領域に各光照射部38により紫外線が照射される。したがって、ヘッドユニット3が(+X)方向に移動する際には、記録面上に吐出された直後のインクに対して(−X)側の光照射部38からの紫外線が照射され、ヘッドユニット3が(−X)方向に移動する際には、記録面上に吐出された直後のインクに対して(+X)側の光照射部38からの紫外線が照射される。これにより、記録面上に吐出されたインクは、短時間にて硬化する。
図3は、インクジェットプリンタ1の機能構成を示すブロック図である。制御部4は、ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層のそれぞれに形成される多階調画像を示す画像データ(以下、「元画像データ」という。)を記憶する画像メモリ41、複数の閾値マトリクスをそれぞれ記憶するメモリである複数のマトリクス記憶部42(SPM(Screen Pattern Memory)とも呼ばれる。)、各インク層の元画像データと、対応する閾値マトリクスとを比較する比較器43、および、ヘッドユニット3の相対移動に同期してヘッド31〜33(図3では、1つのヘッド31のみを図示している。)からのインクの吐出を制御する吐出制御部44を備える。また、制御部4には、コンピュータ5が接続されており、図3では、コンピュータ5が所定のプログラムを実行することにより実現される機能であるマトリクス修正部51を示している。
次に、インクジェットプリンタ1がシースルー印刷物を作成する動作について図4を参照しつつ説明する。シースルー印刷物を作成する際には、まず、実際の印刷に用いられる閾値マトリクスがコンピュータ5から制御部4に出力され(予め出力されていてもよい。元画像データにおいて同様。)、マトリクス記憶部42に記憶されて準備される(ステップS11)。また、コンピュータ5から制御部4に各インク層の元画像データも出力されて画像メモリ41にて記憶される。以下の説明では、元画像データの各画素値は0〜255までのいずれかの階調レベルにて表現されるものとする。本実施の形態では、ブラックインク層の元画像データ、および、ホワイトインク層の元画像データの全ての画素値が「255」であり、カラーインク層の元画像データは、広告や装飾等を目的とする所定の画像(以下、「対象画像」という。)を示すものである。
図5は、閾値マトリクス81の一部を示す図である。閾値マトリクス81は、主走査方向に対応する行方向(図5中にてx方向として示す。)、および、副走査方向に対応する列方向(図5中にてy方向として示す。)に複数の要素が配列されたものであり、各要素には閾値が割り当てられている。本実施の形態では、カラーインク層を形成するための4色のインクにそれぞれ対応する4個の閾値マトリクス81、ホワイトインク層を形成するためのホワイトインクに対応する1個の閾値マトリクス81、並びに、ブラックインク層を形成するためのブラックインクに対応する1個の閾値マトリクス81が準備される。
図5中にて太線の矩形811にて囲む複数の要素には、元画像データの最大階調レベルと同じ閾値「255」が割り当てられている。後述するように、閾値「255」はインクの吐出の休止を示すものであるため、以下、矩形811内に含まれる複数の要素を休止要素群811と呼ぶ。実際には、閾値マトリクス81では、行方向および列方向に多数の要素が配列されており、複数の休止要素群811が両方向に均一に分布している。カラーインク層、ホワイトインク層およびブラックインク層に対応する複数の閾値マトリクス81では、複数の休止要素群811が同じ大きさにて同じ位置に配置されるが、他の要素における閾値の配列は互いに相違している。複数の休止要素群811を含む閾値マトリクス81の生成手法については後述する。
複数の閾値マトリクス81が準備されると、画像メモリ41にて記憶される各インク層の元画像データと、マトリクス記憶部42にて記憶される対応する閾値マトリクス81とを比較することにより、ヘッド31〜33に対するインクの吐出制御に用いられるハーフトーン画像データが生成される(ステップS12)。図6は、閾値マトリクス81および元画像データ70を抽象的に示す図である。閾値マトリクス81と同様に、元画像データ70では、行方向および列方向(x方向およびy方向)に複数の画素が配列されている(ハーフトーン画像データにおいて同様)。
ここで、元画像データ70のハーフトーン化について説明する。以下の説明では、1つの元画像データ70、および、対応する閾値マトリクス81にのみ着目しており、他の元画像データ70においても同様の処理が行われる。元画像データ70のハーフトーン化の際には、図6に示すように元画像データ70を同一の大きさの多数の領域に分割してハーフトーン化の単位となる繰り返し領域71が設定される。各マトリクス記憶部42は1つの繰り返し領域71に相当する記憶領域を有し、この記憶領域の各アドレス(座標)に閾値が設定されることにより、複数の閾値の2次元配列である閾値マトリクス81を記憶している。そして、概念的には元画像データ70の各繰り返し領域71と閾値マトリクス81とを重ね合わせ、繰り返し領域71の各画素の画素値と閾値マトリクス81の対応する閾値とが比較されることにより、基材9上のその画素の位置に、対応するヘッド31〜33によるドットの形成を行うか否かが決定される。
実際の動作では、図3の比較器43が有するアドレス発生器からのアドレス信号に基づいて画像メモリ41から元画像データ70の1つの画素の画素値が読み出される。一方、アドレス発生器では元画像データ70中の当該画素に相当する繰り返し領域71中の位置を示すアドレス信号も生成され、閾値マトリクス81における1つの閾値が特定されてマトリクス記憶部42から読み出される。そして、画像メモリ41からの画素値とマトリクス記憶部42からの閾値とが比較器43にて比較されることにより、2値のハーフトーン画像データにおけるその画素の位置(アドレス)の画素値が決定される。
本実施の形態では、図6に示す元画像データ70において、画素値が閾値マトリクス81の対応する閾値よりも大きい位置には、例えば、ドットの形成を指示する画素値「1」が付与され、残りの画素にはドットの非形成を指示する画素値「0」が付与される。したがって、休止要素群811に対応する画素群(以下、「休止画素群」という。)には、必ず画素値「0」が付与される。このようにして、ハーフトーン画像生成部である比較器43では、閾値マトリクス81を用いて元画像データ70がハーフトーン化され、ハーフトーン画像データが生成される。
図1のインクジェットプリンタ1では、元画像データ70において最初に印刷される部分(例えば、最も(+y)側の繰り返し領域71)のハーフトーン画像データが生成されると、ヘッドユニット3が所定の記録開始位置に配置され、ヘッドユニット3の主走査方向への連続的な移動(すなわち、主走査)、および、副走査方向への間欠的な相対移動(すなわち、副走査)が開始される(ステップS13)。また、ヘッドユニット3の主走査に並行して、図2のヘッド31〜33に含まれる複数の吐出口からのインクの吐出が吐出制御部44により制御される。なお、図4中にて破線の矩形にて囲むステップS12aの処理は、本動作例では実行されない。
ヘッドユニット3の最初の主走査の際には、ブラックインクを吐出するヘッド33のみが制御され、他のヘッド31,32からはインクは吐出されない。また、ヘッド33からのインクの吐出は、対応するハーフトーン画像データに従って制御される。ここで、ハーフトーン画像データは基材9上に印刷される画像を示すため、ハーフトーン画像データの複数の画素は基材9上に配列して設定されていると捉えることができる。吐出制御部44ではヘッドユニット3の主走査に並行して、ヘッド33の各吐出口の基材9上の吐出位置に対応するハーフトーン画像データの画素値が「1」である場合には当該吐出位置にブラックインクが吐出され、ハーフトーン画像データの画素値が「0」である場合には当該吐出位置にはブラックインクは吐出されない(後述のホワイトインクおよびカラーインクの画像の形成において同様)。このようにして、ヘッド33が通過する基材9の記録面上の領域(主走査方向に伸びる帯状の領域であり、以下、「スワス」という。)にブラックインクが付与され、スワス上にブラックインクによる画像(ブラックインク層の一部)が形成される。
既述のように、ブラックインク層の元画像データ70では、全ての画素値が「255」であるため、ハーフトーン画像データでは、休止要素群811に対応する休止画素群の画素値のみが「0」となり、他の全ての画素値は「1」となる。したがって、図7に示すように、ブラックインク層91は、複数の休止要素群811に対応する複数の孔部911を有するものとなり、ブラックインク層91は複数の孔部911を除き、一様な濃度となっている。図7では、ブラックインクが存在する領域910(後述の非透過領域)に平行斜線を付している。
ヘッドユニット3の2回目の主走査では、ホワイトインクを吐出するヘッド32のみが制御される。このとき、ホワイトインク層の元画像データ70では、全ての画素値が「255」であるため、ハーフトーン画像データでは、休止要素群811に対応する休止画素群の画素値のみが「0」となり、他の全ての画素値は「1」となっている。また、ホワイトインク層用の閾値マトリクス81では、休止要素群811の中心位置および大きさがブラックインク層91用の閾値マトリクス81と同じである。したがって、スワス上のブラックインク層91のブラックインクが存在する領域910(すなわち、孔部911以外の領域)の全体にのみホワイトインクが付与されて、ホワイトインクによる画像(ホワイトインク層の一部)が形成される。ブラックインク層91上のホワイトインク層も、ブラックインク層91と同様の複数の孔部を有し、孔部以外が一様な濃度となっている。
ヘッドユニット3の3回目の主走査では、カラーインクを吐出するヘッド31(C、M、K、Yのヘッド31)のみが制御される。カラーインク層用の閾値マトリクス81(C、M、K、Y用の閾値マトリクス81)では、休止要素群811の中心位置および大きさがホワイトインク層用の閾値マトリクス81と同じとされており、スワス上のホワイトインク層のホワイトインクが存在する領域のみにカラーインクが付与され、カラーインクによる画像(カラーインク層の一部)が形成される。ホワイトインク層上のカラーインク層も、ブラックインク層91と同様の複数の孔部を有し、孔部以外が対象画像を表す。
本実施の形態では、ヘッドユニット3の主走査方向への移動の往路および復路のそれぞれにて、ヘッド31〜33のいずれかに対するインクの吐出制御が行われるが、ヘッドユニット3において、1つの光照射部38のみがヘッド31〜33の(−X)側のみに配置される場合等には、ヘッドユニット3の(+X)方向への主走査においてのみインクの吐出制御が行われ、ヘッドユニット3が基材9の(−X)側に戻された後、次の主走査が行われてもよい。
ヘッドユニット3の連続する3回の主走査により、一のスワス上にブラックインクの画像、ホワイトインクの画像およびカラーインクの画像が順に形成されると、基材9がスワスの幅だけ副走査方向に移動し、ヘッドユニット3が副走査する。そして、次の連続する3回の主走査により、当該スワスに隣接するスワス上にブラックインクの画像、ホワイトインクの画像およびカラーインクの画像が順に形成される。このように、ヘッドユニット3の連続する3回の主走査においてブラックインク、ホワイトインクおよびカラーインクをそれぞれ吐出しつつ、ヘッドユニット3の3回の主走査が完了する毎に、ヘッドユニット3を副走査方向にスワスの幅だけ副走査することにより、基材9の各スワスにブラックインクの画像、ホワイトインクの画像およびカラーインクの画像が積層される。これにより、ブラックインク層、ホワイトインク層、および、カラーインク層が基材9の全体に並行して形成される(ステップS14,S15,S16)。
ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層の形成が完了すると、ヘッドユニット3の主走査および副走査が停止され、インクジェットプリンタ1における動作が完了する(ステップS17)。これにより、シースルー印刷物が完成する。
次に、複数の休止要素群811を含む閾値マトリクス81の生成手法について説明する。閾値マトリクス81を生成する際には、図3のコンピュータ5において、閾値マトリクス81の基礎となる図8の基礎マトリクス80が準備される(図8では、基礎マトリクス80の一部を示している。後述の図9のマスク行列89において同様。)。また、マトリクス修正部51では、閾値マトリクス81と同様に複数の要素が行方向および列方向に配列された図9のマスク行列89が準備される。マスク行列89は基礎マトリクス80および閾値マトリクス81と同じサイズ(要素数)であり、マスク行列89では、閾値マトリクス81における複数の休止要素群811に対応する要素に値「1」が付与され、他の要素に値「0」が付与されている。そして、マスク行列89において値「1」の要素に対応する基礎マトリクス80の閾値が「255」に変更され、値「0」の要素に対応する基礎マトリクス80の閾値はそのまま維持される。これにより、図5に示す閾値マトリクス81が生成される。なお、図8の基礎マトリクス80では、マスク行列89の値「1」の要素に対応する閾値が比較的低い値となっているが、実際には、比較的高い値を含む様々な閾値の要素が休止要素群811に含められる。
実際には、ブラックインク層用の基礎マトリクス、ホワイトインク層用の基礎マトリクス、および、カラーインク層用の基礎マトリクス(C、M、K、Y用の基礎マトリクス)が準備される。そして、これらの基礎マトリクスに同じマスク行列89を作用させることにより、複数の休止要素群811が同じ大きさにて同じ位置に配置される複数の閾値マトリクス81が生成され、複数のマトリクス記憶部42にそれぞれ記憶されてシースルー印刷物の作成に用いられる。
図10は、インクジェットプリンタ1にて作成されるシースルー印刷物90の断面図である。既述のように、シースルー印刷物90は、基材9の記録面上にブラックインク層91、ホワイトインク層92およびカラーインク層93を順に形成したものであり、これらのインク層91〜93は同じ位置に同じ大きさの孔部(ブラックインク層91の孔部のみに符号911を付している。)を有している。図10では、ホワイトインク層92に対する平行斜線の図示を省略している(後述の図11において同様)。
シースルー印刷物90を建物や乗用車の窓ガラスに設ける際には、例えば基材9の記録面とは異なる主面が当該窓ガラスの外側の面に貼着される(いわゆる、外貼り)。そして、暗い内部からシースルー印刷物90を見た場合、すなわち、記録面とは異なる主面側から見た場合、ブラックインク層91はあまり認識されずに、複数の孔部911を介して明るい外部の風景が視認される。また、明るい外部からシースルー印刷物90を見た場合、すなわち、記録面側から見た場合には、カラーインク層93における反射光の影響が大きくなり、複数の孔部911を透過する内部からの光はあまり認識されずに、カラーインク層93が表す対象画像が記録面上に視認される。
このように、シースルー印刷物90では、基材9上において複数の孔部911と重なる領域(図7および図10の例では、孤立した微小な領域の集合)が透過領域として設定され、透過領域以外の領域が非透過領域として設定される。そして、ブラックインク層91側から見た場合に均一に分布する透過領域により透視性が確保され、カラーインク層93側から見た場合に非透過領域上の対象画像が視認される。
以上に説明したように、インクジェットプリンタ1では、基材9上において透過領域以外の領域である非透過領域にブラックインクを付与し、透過領域にブラックインクを付与しないことによりブラックインク層が形成される。また、基材9上においてブラックインク層のブラックインクが存在する領域のみにホワイトインクを付与することによりホワイトインク層が形成され、ホワイトインク層のホワイトインクが存在する領域のみにカラーインクを付与することにより対象画像を表すカラーインク層が形成される。このようにして、透過領域に対応する複数の孔部を有するブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層を積層することにより、高価なシースルーフィルムを用いることなく、シースルー印刷物を容易に、かつ、低コストにて作成することができる。
ところで、シースルーフィルムの作製では、透視用の孔部を形成する際にフィルムを穿孔するため、不要物が発生するとともに、仮に、穿孔処理に不具合が生じた場合、フィルムを再利用することが困難となる。また、シースルーフィルムへの一般的な印刷では、孔部にもインクが付与されるため、インクを無駄に消費してしまう。
これに対し、シースルー印刷物の上記作成手法では、基材9を穿孔することなく、透視用の孔部が形成されるため、不要物が発生せず、また、インク層の形成処理に不具合が生じた場合でも、基材9上のインクを除去するのみで、基材9を再利用することができる。さらに、孔部にインクが付与されないため、インクを無駄に消費することが防止される。その結果、本手法では、環境負荷を低減することができる。
また、インクジェットプリンタ1では、透過領域に含まれる位置に対応する閾値がインクの吐出の休止を示す複数の閾値マトリクス81が準備され、ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層のそれぞれの元画像データと、対応する閾値マトリクス81とを比較することにより、各インク層用のハーフトーン画像データが生成される。そして、ハーフトーン画像データに従ってヘッド31〜33からのインクの吐出が制御されることにより、複数の孔部を有するブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層を容易に形成することができる。
上記動作例では、ブラックインク層およびホワイトインク層の元画像データにおける全ての画素値が「255」とされるが(濃度が100%とされるが)、当該元画像データの画素値は、例えば60〜80%の濃度に相当する値とされてもよい。この場合でも、基材9上に吐出されたインクはある程度広がるため、基材9の非透過領域の全体にブラックインク層およびホワイトインク層が一様に形成され、シースルー印刷物を適切に作成することができる。
インクジェットプリンタ1では、図11に示すように、基材9上において記録面から離れる方向(図11の上側)に向かって順にカラーインク層93、ホワイトインク層92およびブラックインク層91が形成されてもよい。この場合も、上記と同じハーフトーン画像データが用いられるため、基材9上においてカラーインク層93のカラーインクは、ホワイトインク層92のホワイトインクの存在領域のみに存在し、ホワイトインク層92のホワイトインクの存在領域と、ブラックインク層91のブラックインクの存在領域とが一致する。したがって、基材9上においてホワイトインク層のホワイトインクが存在する予定の領域(ホワイトインクが塗布される予定の領域)のみにカラーインクが付与されてカラーインク層93が形成され、ブラックインク層のブラックインクが存在する予定の領域のみにホワイトインクが付与されてホワイトインク層92が形成され、均一に分布する複数の孔部911を有するブラックインク層91がホワイトインク層92上に形成される。
図11のシースルー印刷物90aでは、基材9の記録面とは異なる主面が建物や乗用車の窓ガラスの内側の面に貼着され(いわゆる、内貼り)、記録面側(ブラックインク層91側)から見た場合には透視性が確保され、他方の主面側(インク層が形成されていない主面側)から見た場合には基材9上に対象画像が視認される。内貼りを行う場合、足場を設けたり特別な設備は必要がないため、設置費用を安くすることができる。
次に、インクジェットプリンタの他の例について述べる。図12は、インクジェットプリンタ1の他の例の機能構成を示すブロック図であり、制御部4aの機能構成のみを示している。図12の制御部4aでは、比較器43と吐出制御部44との間に画像修正部45が設けられ、画像修正部45には図9のマスク行列89が記憶される。他の構成は、図3と同様であり、同符号を付している。以下、図12の制御部4aを有するインクジェットプリンタ1がシースルー印刷物を作成する動作について図4を参照しつつ説明する。本動作例では、図4中にて破線の矩形にて囲むステップS12aの処理が実行される。
インクジェットプリンタ1では、まず、閾値マトリクスがマトリクス記憶部42に記憶されて準備される(ステップS11)。ここでは、既述のブラックインク層用の基礎マトリクス、ホワイトインク層用の基礎マトリクス、および、カラーインク層用の基礎マトリクス(図8参照)が閾値マトリクスとして複数のマトリクス記憶部42にそれぞれ記憶されて準備される。基礎マトリクスは、図9のマスク行列89を作用させる前のものであり、休止要素群811は設定されていない。
続いて、画像メモリ41にて記憶される各インク層の元画像データと、マトリクス記憶部42にて記憶される対応する基礎マトリクスとを比較することにより、ハーフトーン画像データが生成される(ステップS12)。実際の動作では、ハーフトーン画像データの各画素値は、比較器43から画像修正部45に順次出力され、当該画素値に対応するマスク行列89の要素の値が読み出される。そして、マスク行列89の当該要素の値が「1」である場合には、ハーフトーン画像データの画素値がインクの吐出の休止を示す「0」に変更され、当該要素の値が「0」である場合には、ハーフトーン画像データの画素値がそのまま維持される。このようにして、マスク行列89の値「1」の要素に対応する画素が、インクの吐出の休止を示す休止画素群に含められ、修正済みのハーフトーン画像データが取得される(ステップS12a)。
インクジェットプリンタ1では、上記動作例と同様に、ヘッドユニット3の主走査および間欠的な副走査が開始され(ステップS13)、ヘッドユニット3の主走査に並行して、ヘッド31〜33に含まれる複数の吐出口からのインクの吐出が吐出制御部44により制御される。このとき、各スワスへのブラックインク層の形成では、ブラックインク層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド33からのインクの吐出が制御され、ホワイトインク層の形成では、ホワイトインク層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド32からのインクの吐出が制御される。また、カラーインク層の形成では、カラーインク層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド31からのインクの吐出が制御される。これにより、複数の孔部を有するブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層が、各スワス上に順に形成される(ステップS14〜S16)。基材9の全体へのブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層の形成が完了すると、ヘッドユニット3の相対移動が停止され、インクジェットプリンタ1における動作が完了する(ステップS17)。
以上のように、図12の制御部4aを有するインクジェットプリンタ1では、ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層のそれぞれのハーフトーン画像データにおいて、透過領域に含まれる位置に対応する画素の値をインクの吐出の休止を示す値に変更することによりハーフトーン画像データが修正される。そして、ヘッド31〜33からのインクの吐出が修正済みのハーフトーン画像データに従って制御されることにより、複数の孔部を有するブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層を容易に形成することが実現される。なお、画像修正部45にて修正されるハーフトーン画像データは、必ずしも基礎マトリクス(閾値マトリクス)を用いて生成される必要はなく、例えば、誤差拡散法にて生成されるハーフトーン画像データがマスク行列89を用いて修正されてもよい。
ところで、上記動作例では、ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層において孔部の大きさ(直径)が等しくされるが、ヘッド31〜33におけるインクの吐出位置精度によっては、インク層毎に孔部の形成位置が僅かにずれてしまうことがある。この場合、ブラックインク層側から見たときに、孔部の近傍においてホワイトインク層の一部が視認される、あるいは、カラーインク層側から見たときに、孔部の近傍において意図しないホワイトの領域(ホワイトインク層の一部)が視認される可能性があり、シースルー印刷物の品質が低下してしまう。
次に、インク層毎に孔部の形成位置が僅かにずれる場合でも、意図しないホワイトの領域が視認されない好ましいシースルー印刷物の作成手法について説明する。ここでは、ホワイトインク層に対して、ブラックインク層およびカラーインク層とは異なるマスク行列が準備され、ホワイトインク層用のマスク行列では、休止画素群に対応する領域(すなわち、値「1」の要素の集合)が、ブラックインク層およびカラーインク層用のマスク行列よりも大きくなっている。休止画素群に対応する領域の中心位置は全てのマスク行列にて同じである。
上記マスク行列を用いて基礎マトリクスから閾値マトリクスを生成し、当該閾値マトリクスを用いてハーフトーン画像データを生成すると、ホワイトインク層用のハーフトーン画像データでは、休止画素群の中心位置は他のインク層用のハーフトーン画像データと同じであるが、休止画素群の大きさ(画素数)は他のインク層用のハーフトーン画像データよりも僅かに大きくなる。よって、ハーフトーン画像データに従って形成されるホワイトインク層では、各孔部のエッジが、他のインク層の対応する孔部のエッジから外側に僅かに離れた位置に形成される。これにより、インク層毎に孔部の形成位置が僅かにずれる場合であっても、シースルー印刷物をブラックインク層側から見たときに、孔部の近傍においてホワイトインク層の一部が視認されることが防止されるとともに、カラーインク層側から見たときに、孔部の近傍において意図しないホワイトの領域が視認されることが防止され、シースルー印刷物の品質の低下が防止される。もちろん、基礎マトリクスから生成されるハーフトーン画像データ(休止画素群を含まないハーフトーン画像データ)を上記マスク行列を用いて修正し、修正済みのハーフトーン画像データに従ってインク層が形成されてもよい。
なお、ホワイトインク層とカラーインク層との間における孔部の大きさの相違は僅かであるため、この場合も、実質的に、ホワイトインク層のホワイトインクが存在する領域のみに、カラーインクが付与されてカラーインク層が形成されていると捉えることができる。また、カラーインク層側から観察した際に、孔部の近傍において意図しないホワイトの領域が存在していても問題がない場合には、カラーインク層およびホワイトインク層に対して同じマスク行列が用いられてもよい。
以上の動作例では、ヘッドユニット3の主走査毎にインクを吐出するヘッド31〜33を切り替えることにより、ブラック、ホワイトおよびカラーのインク画像が積層されるが、各主走査において全てのヘッド31〜33からインクが吐出されてもよい。例えば、図13に示すように、副走査方向(Y方向)に関して等しい幅の3つの範囲A1,A2,A3が連続して設定され、カラーインク層用のヘッド31にて範囲A1に含まれる吐出口、ホワイトインク層用のヘッド32にて範囲A2に含まれる吐出口、および、ブラックインク層用のヘッド33にて範囲A3に含まれる吐出口が、インクの吐出が能動化される動作吐出口として決定される。残りの吐出口は、インクの吐出を行わない休止吐出口とされる。そして、各主走査においてヘッド31〜33の動作吐出口のみに対してインクの吐出制御を行いつつ、主走査が完了する毎にヘッドユニット3が(+Y)方向に1つの範囲A1〜A3の幅だけ相対移動(副走査)する。これにより、ブラックインク、ホワイトインクおよびカラーインクが硬化前に混ざり合うことを防止しつつ、ブラックインク層、ホワイトインク層およびカラーインク層が順に形成された図10のシースルー印刷物90を適切に作成することが可能となる。
なお、カラーインク層用のヘッド31にて範囲A3に含まれる吐出口、ホワイトインク層用のヘッド32にて範囲A2に含まれる吐出口、および、ブラックインク層用のヘッド33にて範囲A1に含まれる吐出口を動作吐出口として決定することにより、または、図13のヘッドユニット3を(−Y)方向に副走査することにより、カラーインク層、ホワイトインク層およびブラックインク層が順に形成された図11のシースルー印刷物90aが作成されてもよい(後述の図14のヘッドユニット3aにおいて同様)。
また、図14に示すように、上記の動作吐出口とされる吐出口のみが形成されたヘッド31a,32a,33aがヘッドユニット3aに設けられてもよい。図14のヘッドユニット3aにおいても、図13のヘッドユニット3と同様に、基材9上に吐出されるブラックインク、ホワイトインクおよびカラーインクが硬化前に混ざり合うことが防止される。
さらに、一回の主走査にてブラックインクとホワイトインクとを重ねて塗布しても、シースルー印刷物の品質に問題がない(または、品質の低下が許容される)場合には、図15に示すように、ホワイトインクを吐出するヘッド32bの主走査方向の両側に、ブラックインクを吐出するヘッド33bが配置されてもよい。この場合、ヘッドユニット3bが(+X)方向に向かう主走査では(+X)側のヘッド33bからブラックインクが吐出され、基材9に付着したブラックインク上に、ヘッド32bから吐出されるホワイトインクが付着する。また、ヘッドユニット3bが(−X)方向に向かう主走査では(−X)側のヘッド33bおよびヘッド32bからブラックインクおよびホワイトインクがそれぞれ吐出される。これにより、図10のシースルー印刷物90を作成することが可能となる。
ヘッドユニットにおいて、ブラックインクを吐出するヘッドの主走査方向の両側にホワイトインクを吐出するヘッドを設け、これらのヘッドを副走査の後続側に配置し、カラーインクを吐出するヘッドを先行側に配置することにより、図11のシースルー印刷物90aが作成されてもよい。
また、インクジェットプリンタ1では、ヘッドユニットの複数回の主走査により、各スワス上に1つのインク層が形成されてもよい。例えば、ヘッドユニットの2回の主走査により1つのインク層を形成する場合、1回目の主走査にて形成される複数のドットにおいて、副走査方向に隣接する2つのドット間が、2回目の主走査にて形成されるいずれかのドットにて補間されるように(すなわち、インターレース印刷が行われるように)、2回目の主走査の直前にヘッドユニットが副走査方向に僅かに相対移動する。
さらに、ヘッドユニットの複数回の主走査において、ヘッドユニットを副走査方向に相対移動せず、各ヘッドの複数の吐出口が同位置を複数回通過することにより、いわゆる重ね印刷が行われて、各インク層の濃度が高められてもよい。この場合に、インク層毎に重ね塗り回数が相違してもよい。
実際には、カラーインク層の形成において重ね塗りを行っても、複数の孔部の存在により濃度の増大に一定の限界があるため、カラーインク層に表される画像(特に、罫線や文字等)の視認性(表現力と捉えることもできる。)が、通常の印刷に比べて弱くなることがある。例えば、商標等の表示では、視認性の低下が許容できないことがあり、このような場合には、基材9の記録面上の一部の対象領域においてのみ透視性が確保され、他の領域において透視性をなくして、当該他の領域に孔部が形成されない画像が各インクにより形成されてもよい。
具体的には、インクジェットプリンタ1において、領域毎にスクリーニングの種類を個別に設定する、いわゆるマルチスクリーニング機能が設けられ、元画像データのハーフトーン化の際に、対象領域に対応する元画像データの画素に対してのみ休止要素群811を有する閾値マトリクス81が用いられ、他の領域に対応する元画像データの画素には、休止要素群811を有していない閾値マトリクス(基礎マトリクス)が用いられる。これにより、商標等を表示する部分は透視性をなくし(すなわち、孔部を形成せず)、対象領域は透視性を確保した印刷物を容易に作成することが実現される。もちろん、図12の制御部4aにおいて、マスク行列を適用するハーフトーン画像データの部分を制限して、対象領域においてのみ透視性を確保した印刷物が作成されてもよい。
以上のように、シースルー印刷物では、基材9上の透視性を確保すべき対象領域内において、透視用の透過領域が均一に分布するように設定されればよく、これにより、基材9上の対象領域において、透過領域を除く領域(非透過領域)のみにインクが吐出され、対象領域における透視性が確保される。
図16は、本発明の第2の実施の形態に係る印刷システム10の構成を示す図である。図16の印刷システム10では、刷版を用いてブラックインク層を形成する第1印刷部61、刷版を用いてホワイトインク層を形成する第2印刷部62、および、カラーインクを吐出する複数のヘッドを有する第3印刷部63が所定の配列方向に並べられる。また、配列方向に長いフィルム状の基材9aがモータ641およびローラ642を有する移動機構64により図16中にて符号B1を付す矢印の方向に移動し、基材9aの各部位が第1印刷部61、第2印刷部62および第3印刷部63を順に通過する。第3印刷部63の各ヘッドでは、複数の吐出口が基材9aの幅全体に亘って配列されている。印刷システム10における第3印刷部63および移動機構64の組合せはインクジェットプリンタと捉えることができる。
第1印刷部61および第2印刷部62にて用いられる刷版は、複数の休止画素群を含むハーフトーン画像データに従って作製されている。このようなハーフトーン画像データの作成手法は、上記インクジェットプリンタ1と同様である。当該刷版を用いることにより、第1印刷部61では、基材9a上において透過領域以外の領域である非透過領域にブラックインクが付与されて、複数の孔部が均一に分布するブラックインク層が形成される。また、第2印刷部62では、版胴上の刷版が基材9a上のブラックインクの画像と正確に重なるように調整されており、基材9a上においてブラックインクが存在する領域のみにホワイトインクが付与されて、ホワイトインク層が形成される。第3印刷部63では、基材9a上のブラックインクおよびホワイトインクの画像に合わせつつ、カラーインク層用のハーフトーン画像データに従って複数のヘッドからカラーインクが吐出され、基材9a上においてホワイトインクが存在する領域のみにカラーインクが付与されて、カラーインク層が形成される。
以上のように、印刷システム10では、有版印刷を行う第1印刷部61および第2印刷部62により一定の画像を示すブラックインク層およびホワイトインク層が形成され、無版印刷(可変印刷)を行う第3印刷部63により、ホワイトインク層上にカラーインク層が形成される。これにより、対象画像を自在に変更しつつ、シースルー印刷物を容易に、かつ、低コストにて作成することが可能となる。
図16の印刷システム10では、第3印刷部63によりカラーインク層が形成される(予定の)主面上に、第1印刷部61および第2印刷部62により、ブラックインク層およびホワイトインク層が形成されるが、例えば、第1印刷部61によりブラックインク層が当該主面とは異なる主面上に形成されてもよく、この場合、基材9aがブラックインク層とホワイトインク層との間に位置する。また、第1印刷部61と第2印刷部62との配置を入れ替えた上で、ホワイトインク層およびブラックインク層が、カラーインク層とは異なる主面上に形成されてもよく、この場合、基材9aがホワイトインク層とカラーインク層との間に位置する。さらに、図16の印刷システム10において、第1印刷部61と第3印刷部63との配置を入れ替えることにより、基材9aから離れる方向(図16の上側)に向かって順にカラーインク層、ホワイトインク層およびブラックインク層が形成されたシースルー印刷物が作成されてもよい。
以上のように、上記手法により作成されるシースルー印刷物では、ホワイトインク層がブラックインク層とカラーインク層との間に位置するのであるならば、基材9aは、ブラックインク層およびカラーインク層のいずれの外側に位置してもよく、また、ホワイトインク層と、ブラックインク層またはカラーインク層との間に位置してもよい。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
上記第2の実施の形態では、インクジェット方式の第3印刷部63によりカラーインク層が形成されるため、複数のシースルー印刷物を作成する際に、異なる対象画像を表すカラーインク層を容易に形成することが可能となるが、同じ対象画像を表す複数のシースルー印刷物を作成する際には、カラーインク層も有版印刷にて形成されてよい。ただし、有版印刷では、複数のインク層を同じ位置に配置する位置合わせ精度に一定の限界があるため、インク層において微小な孔部を設ける場合には、全てのインク層がインクジェット方式により形成されることが好ましい。
インクジェットプリンタ1および印刷システム10では、ブラックインク層の形成、ホワイトインク層の形成およびカラーインク層の形成が並行して行われることにより、シースルー印刷物を短時間にて作成することが可能となるが、これらのインク層の全て、または、一部が個別に形成されてもよい。例えば、印刷システム10において、第1印刷部61および第2印刷部62のみが設けられてブラックインク層およびホワイトインク層が基材上に形成され、当該基材がインクジェットプリンタ1に搬送されてカラーインク層が形成されてもよい。また、インクジェットプリンタ1において、基材9上にブラックインク層の全体が形成された後、ホワイトインク層の全体が形成され、その後、カラーインク層の全体が形成されてもよい。
元画像データにおいて、基材9,9a上の透過領域に対応する画素の値を、インクの吐出の休止を示す値(例えば、最小階調レベルである0)に変更することにより、休止画素群を有するハーフトーン画像データが生成されてもよい。
ハーフトーン画像データの生成では、規則的に配列されたドットセンタを中心として階調レベルの変化に従ってハーフトーンドットの大きさを変更するAM(Amplitude Modulated)スクリーニングや、不規則に配置される一定の大きさのハーフトーンドットの個数を階調レベルの変化に従って変更するFM(Frequency Modulated)スクリーニング、あるいは、不規則に配置されたドットセンタを中心として階調レベルの変化に従ってハーフトーンドットの大きさを変更するスクリーニング手法等、様々な手法を用いることが可能である。なお、上記第1の実施の形態のように、紫外線硬化性のインクを用いるとともに、光照射部38からの紫外線の照射によりインクを吐出直後に硬化させる場合に、高精細なFMスクリーニングを用いて100%よりも低い所定の濃度のブラックの元画像データをハーフトーン化すると、インク層表面の凹凸の密度が高くなり、ブラックインク層の表面にて光が乱反射し、内部から外部の透視性が低下することがある。このような場合は解像度の低いFMスクリーニングを使えばよいので、多様なスクリーニングを採用できる。
インクジェットプリンタ1および印刷システム10では多値のハーフトーン画像データが生成されてもよい。例えば、ヘッド31〜33の各吐出口が異なる量の微小液滴を吐出して基材9上に複数サイズのドットの形成が可能とされる場合には、閾値マトリクスの各要素の閾値が、ドットのサイズの決定に利用される複数のサブ閾値の集合とされる。そして、元画像データの各画素の画素値が複数のサブ閾値と比較されることにより、各画素に0またはドットのサイズに対応付けられた値が付与された多値のハーフトーン画像データが生成される。
透過領域の要素(すなわち、1つの孔部に対応する領域)のサイズや要素の密度は、想定される観察距離や、シースルー印刷物が設置される場所の明るさ等、各種条件に従って適宜決定されてよいが、一般的な条件では、透過領域の面積率(インク層における孔部の面積率)は30%以上90%以下(より好ましくは、45%以上75%以下)であることが好ましい。基材9,9aを穿孔することなく作成される本シースルー印刷物では、透過領域の面積率が高くなっても、シースルー印刷物の一定の強度が確保される。
透過領域の各要素の形状(基材9,9aの法線に沿って見た場合のインク層における孔部の形状)は、必ずしも円形である必要はなく、例えば、カラーインク層側から近距離にて観察される場合を考慮して、星形やハート形等であってもよい。また、透過領域において、異なる形状の要素が混在していてもよい。さらに、透過領域は、複数の要素が互いに接続したパターンや、一定の幅の平行線による万線パターン等であってもよい。このようなシースルー印刷物であっても、インクジェットプリンタ1では、元画像データ、閾値マトリクス、または、ハーフトーン画像データを修正することにより、容易に作成可能である。
一方の主面側から見た場合に透視性があり、他方の主面側から見た場合に画像が視認されるシースルー印刷物の最低限の機能を確保するという観点では、ホワイトインクに代えて、他の明色(すなわち、クリーム色や薄い水色等の明るい色)のインクが用いられてもよく、ブラックインクに代えて、他の暗色(すなわち、グレーや茶色等の暗い色)のインクが用いられてもよい。また、基材9,9aも必ずしも無色透明である必要はなく、一定の光透過性を有するのであるならば、基材9,9a自体が薄い色を有していてもよい。
また、シースルー印刷物が建物や乗用車の窓ガラスに設けられる際に、外部からの内部の視認性を低下させる(または、内部における遮光性を高める)場合には、内部から外部の透視性が確保される一定の濃度にてブラックインクが基材9,9a上の透過領域に付与されてよい。この場合、シースルー印刷物を透過する光の量が低下するため、カラーインク層側から観察した際に、観察者において対象画像が濃く感じられる。したがって、カラーインク層の形成の際に、使用するカラーインクを削減することが可能となる。
以上のように、シースルー印刷物の作成では、明色インク層が、暗色インク層とカラーインク層との間に位置するように、暗色インク層、明色インク層およびカラーインク層が光透過性を有する基材上に積層され、さらに、これらのインク層の同位置に複数の透視用の孔部(既述のように、低濃度にてインクが存在していてもよい。)が均一に分布するように設けられることが重要となる。
図10および図11のシースルー印刷物90,90aでは、インク層同士が直接接しており、最も基材9側に設けられるインク層と基材9も直接接しているが、インク層とインク層との間、または、基材とインク層との間に、付着力を向上するための材料の層等が必要に応じて設けられてもよい。
また、ブラックインク層とホワイトインク層との間に、例えばシルバー色のインクによるインク層が形成されてもよく、この場合、当該インク層によりホワイトインク層における不透過性が補助され、カラーインク層側から見た場合に、ホワイトインク層を透けてブラックインク層が認識されることを防止することができる。
インクジェットプリンタ1では、ヘッドユニット3を主走査方向に移動するヘッド移動機構24、および、ステージ21を副走査方向に移動するステージ移動機構22により、ヘッドユニット3がステージ21に対して主走査方向および副走査方向に相対的に移動するが、ステージ21を主走査方向に移動する機構やヘッドユニット3を副走査方向に移動する機構が設けられてもよい。すなわち、ヘッド31〜33を基材9の主面に沿って基材9に対して相対的に移動する移動機構はいかなる構成にて実現されてもよい。
図2、並びに、図13ないし図15のヘッドユニット3,3a,3bの各ヘッドでは、副走査方向に関して、複数の吐出口がおよそ一定のピッチにて設けられるのであるならば、例えば、副走査方向に対して傾斜した水平線上に複数の吐出口が配列されてもよい。また、各ヘッドにおける複数の吐出口の配列は千鳥状であってもよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。