図1は本発明の一の実施の形態に係るインクジェットプリンタ1の外観を示す斜視図である。インクジェットプリンタ1は、例えば、ポリカーボネート等のプラスチックにて形成される板状の透明な基材9上にインクジェット方式にて画像を印刷することにより、偽造防止用のパターン(セキュリティパターンとも呼ばれ、以下、「偽造防止パターン」という。)を形成する印刷装置である。
インクジェットプリンタ1は本体11および制御部4を備え、本体11は基材9を図1中の(+Z)側の面上に保持するステージ21、および、基台20上に設けられるステージ移動機構22を備える。ステージ21の基材9とは反対側の面には、ステージ移動機構22が有するボールネジ機構のナットが固定され、ボールネジ機構に接続されたモータが回転することにより、ステージ21が図1中のY方向に滑らかに移動する。基台20上には、基台20に対するステージ21の位置を検出する位置検出モジュール23がさらに設けられる。
ステージ21の上方には基材9の(+Z)側の主面(以下、「記録面」という。)に向けてインクの微小液滴を吐出するヘッドユニット3が配置され、ヘッドユニット3は、ボールネジ機構およびモータを有するヘッド移動機構24によりY方向に垂直かつ基材9の記録面に平行な走査方向(図1中のX方向)に移動可能に支持される。また、基台20には、ステージ21を跨ぐようにしてフレーム25が設けられ、ヘッド移動機構24はフレーム25に固定される。フレーム25上には紫外線を出射する光源39が設けられ、複数の光ファイバ(実際には、複数の光ファイバは束状となっており、図1では符号391を付して1本の太線にて示している。)を介して光源39からの光がヘッドユニット3の内部へと導入される。
図2はヘッドユニット3の底面図である。図2に示すように、ヘッドユニット3はそれぞれが互いに異なる色のインクを吐出する複数のヘッド31〜35を備え、複数のヘッド31〜35はX方向に配列されてヘッドユニット3の本体30に固定される。図2中の最も(−X)側のヘッド31はC(シアン)の色のインクを吐出し、ヘッド31の(+X)側のヘッド32はM(マゼンタ)の色のインクを吐出し、ヘッド32の(+X)側のヘッド33はK(ブラック)の色のインクを吐出し、ヘッド33の(+X)側のヘッド34はY(イエロー)の色のインクを吐出する。最も(+X)側のヘッド35は、ホワイトのインクを吐出する。
以下の説明では、ヘッド31〜34から吐出されるインク(すなわち、C、M、K、Yのインク)を、ヘッド35から吐出されるホワイトのインクと区別して「カラーインク」と呼ぶ。後述するように、インクジェットプリンタ1において偽造防止パターンを基材9上に形成する際には、一の色のカラーインクによる画像の層(本実施の形態では、透光性のマゼンタのインクによる画像の層であり、以下、「第1画像層」という。)、ホワイトのインクによる画像の層(以下、「第2画像層」という。)、および、他の一の色のカラーインクによる画像の層(本実施の形態では、透光性のシアンのインクによる画像の層であり、以下、「第3画像層」という。)が基材9上に順に重ねて形成される。なお、ヘッドユニット3には、ライトシアン等の他のカラーインクを吐出するヘッドが追加されてもよい。
ヘッド31〜35のそれぞれでは、複数の吐出口(一部のヘッド31の吐出口にのみ符号311を付している。)がY方向に等しいピッチにて配列され、各吐出口311から基材9の記録面に向けてインクが吐出される。各色のカラーインクおよびホワイトのインクは紫外線硬化剤を含んでおり、紫外線硬化性を有している。図2では、各ヘッド31〜35において15個の吐出口311を図示しているが、実際には、各ヘッド31〜35は多数の吐出口311を有している。
また、ヘッドユニット3には、それぞれが光源39に接続される2つの光照射部38が設けられ、2つの光照射部38はX方向に関してヘッド31〜35を挟んで配置される。各光照射部38では、複数の光ファイバがY方向に沿って配列されており、基材9上においてY方向に伸びる線状の領域に各光照射部38により紫外線が照射される。したがって、ヘッドユニット3が(+X)方向に移動する際には、記録面上に吐出された直後のインクに対して(−X)側の光照射部38からの紫外線が照射され、ヘッドユニット3が(−X)方向に移動する際には、記録面上に吐出された直後のインクに対して(+X)側の光照射部38からの紫外線が照射される。これにより、記録面上に吐出されたインクは、短時間にて硬化する。
図3は、インクジェットプリンタ1の機能構成を示すブロック図である。制御部4は、第1画像層、第2画像層および第3画像層のそれぞれに形成される多階調画像を示す画像データ(以下、「元画像データ」という。)を記憶する画像メモリ41、複数の閾値マトリクスをそれぞれ記憶するメモリである複数のマトリクス記憶部42(SPM(Screen Pattern Memory)とも呼ばれる。)、各画像層の元画像データと、対応する閾値マトリクスとを比較する比較器43、および、ヘッドユニット3の相対移動に同期してヘッド31〜35(図3では、1つのヘッド31のみを図示している。)からのインクの吐出を制御する吐出制御部44を備える。また、制御部4には、コンピュータ5が接続されており、図3では、コンピュータ5が所定のプログラムを実行することにより実現される機能であるマトリクス修正部51を示している。
図4は、インクジェットプリンタ1にて作成される印刷物91の表面を示す図であり、図5は、印刷物91の裏面を示す図である。本実施の形態では、インクジェットプリンタ1が基材9上に印刷を行うことにより、カードである印刷物91が作成される。図4および図5に示すように、印刷物91には各種情報を示す画像が形成されており、符号8を付す対象領域には偽造防止パターンが形成される。なお、印刷物91には、別途作製されたICチップ99が設けられている。
図6は、表面上の対象領域8を拡大して示す図であり、図7は、裏面上の対象領域8を拡大して示す図である。図6に示すように、表面上の対象領域8には、シアンのインクにて「SS」という文字の画像が形成される。また、対象領域8では、後述するようにマゼンタの第1画像層、ホワイトの第2画像層、および、シアンの第3画像層が透明な基材9上に順に重ねて形成されるため、裏面(画像層が形成されない主面)上の対象領域8では、図7に示すように、表面と同様の文字を示すマゼンタの画像が視認可能となっている。図6および図7では、平行斜線の間隔の幅にて画像の各部位の濃度を示しており、表面および裏面のそれぞれにおいて文字以外の領域(ただし、後述の透過パターン領域84を除く。)は、ほぼ100%の濃度であり、文字の領域は僅かに低い濃度である。なお、第1画像層と第3画像層とが異なる画像を示していてもよい。また、対象領域8では、様々な形状の複数の微小領域841(例えば、直径0.1ミリメートル(mm)以上1mm以下の円や、同程度の面積の三角形)の集合である透過パターン領域84が設定されており、透過パターン領域84上には、いずれのインクも存在していない。
図8は、印刷物91の対象領域8の断面図である。図8に示すように、印刷物91の対象領域8では、透明な基材9の記録面上にマゼンタのインクによる第1画像層81、ホワイトのインクによる第2画像層82、および、シアンのインクによる第3画像層83が順に形成される。これらの画像層81〜83では、透過パターン領域84の各微小領域841(図6または図7参照)上の部位が同じ大きさの孔部(第1画像層81の孔部のみに符号811を付している。)となっている。図8では、第2画像層82に対する平行斜線の図示を省略している(後述の図16および図17において同様)。
印刷物91の対象領域8をブラックの暗い背景にて表面側(第3画像層83側)から見た場合には、第3画像層83における反射光により、透過パターン領域84以外の領域(すなわち、図6および図7にて、いずれかの平行斜線が付された領域であり、以下、「非パターン領域85」という。)においてシアンの画像が認識され、透過パターン領域84では反射光は生じないため、ブラックの透過パターン領域84が認識される(または、透過パターン領域84は明確には認識されない)。一方で、印刷物91の対象領域8をホワイトの明るい背景にて表面側から見た場合には、非パターン領域85においてシアンの画像が認識されるとともに、ホワイトの透過パターン領域84が認識される。
また、対象領域8をブラックの背景にて裏面側(第1画像層81側)から見た場合には、第1画像層81における反射光により非パターン領域85においてマゼンタの画像が認識され、透過パターン領域84がブラックにて認識される。対象領域8をホワイトの背景にて裏面側から見た場合には、非パターン領域85においてマゼンタの画像が認識されるとともに、ホワイトの透過パターン領域84が認識される。このように、印刷物91では、ブラックの背景の場合とホワイトの背景の場合とで透過パターン領域84において認識される色が相違する。
ここで、仮に、反射光により画像を読み取るイメージスキャナにより印刷物91の対象領域8の画像データを取得する場合、イメージスキャナにおいて光源から孔部に対して傾斜して入射する光は撮像素子へと戻らないため、画像データでは、透過パターン領域84に対応する領域がブラックになる。したがって、当該画像データに従ってホワイトの基材に印刷を行って対象領域8を複製する場合、ホワイトの背景にて観察されるホワイトの透過パターン領域84が再現されない。また、透過光により画像を読み取るイメージスキャナにより印刷物91の対象領域8の画像データを取得する場合、画像データでは、透過パターン領域84に対応する領域が白くなる。したがって、当該画像データに従ってホワイトの基材に印刷を行っても、ブラックの背景にて観察されるブラックの透過パターン領域84(または、透過パターン領域84が認識されない状態)が再現されない。このように、反射光および透過光のいずれを用いて対象領域8の画像データを取得しても、ホワイトの背景とブラックの背景とで(すなわち、透過光と反射光とで)透過パターン領域84の見え方が相違するという状態が再現されず、印刷物91では、透過パターン領域84上において第1ないし第3画像層81〜83が存在しない部位により偽造防止パターンとしての機能が実現され、印刷物91の偽造が防止される。
次に、インクジェットプリンタ1が偽造防止パターンを形成する動作の流れについて図9を参照しつつ説明する。以下の説明では、基材9上に予め定められた対象領域8における偽造防止パターンの形成のみに着目するが、印刷物91における対象領域8以外の領域の画像もインクジェットプリンタ1により、同時にまたは別途印刷されてよい。また、実際には、インクジェットプリンタ1による印刷後、基材9が複数の部位に切断されて、各部位が1つの印刷物91(カード)となるが、以下の説明では、印刷物91となる1つの部位のみに着目している。なお、図9中にて破線の矩形にて囲むステップS12aの処理は、本動作例では実行されない。
まず、インクジェットプリンタ1では、図3のコンピュータ5から制御部4に各画像層81〜83の元画像データが出力されて画像メモリ41にて記憶される。以下の説明では、元画像データの各画素値は0〜255までのいずれかの階調レベルにて表現されるものとする。第3画像層83の元画像データは図6の対象領域8全体の画像(ただし、透過パターン領域84に対応する画素にも周囲と同じ画素値が付与されている。)を示すものとなっており、第1画像層81の元画像データも同様である。第2画像層82の元画像データの全ての画素値は「255」である。
また、閾値マトリクスがコンピュータ5から制御部4に出力され(予め出力されていてもよい。)、マトリクス記憶部42に記憶されて準備される(ステップS11)。図10は、閾値マトリクス61の一部を示す図である。閾値マトリクス61は、図1中のX方向に対応する行方向(図10中にてx方向として示す。)、および、図1中のY方向に対応する列方向(図10中にてy方向として示す。)に複数の要素が配列されたものであり、各要素には閾値が割り当てられている。本実施の形態では、第1画像層81を形成するためのマゼンタのインクに対応する閾値マトリクス61、第2画像層82を形成するためのホワイトのインクに対応する閾値マトリクス61、および、第3画像層83を形成するためのシアンのインクに対応する閾値マトリクス61が準備される。
図10中にて太線の矩形611にて囲む複数の要素には、元画像データの最大階調レベルと同じ閾値「255」が割り当てられている。後述するように、閾値「255」はインクの吐出の休止を示すものであるため、以下、矩形611内に含まれる複数の要素を休止要素群611と呼ぶ。実際には、閾値マトリクス61では、行方向および列方向に多数の要素が配列されており、本実施の形態では、閾値マトリクス61は各画像層81〜83の元画像データと同じサイズとなっている。また、閾値マトリクス61の全体に対する複数の休止要素群611の相対的な位置および大きさは、対象領域8の全体に対する複数の微小領域841の相対的な位置および大きさと一致する。第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83に対応する複数の閾値マトリクス61では、複数の休止要素群611が同じ大きさにて同じ位置に配置されるが、他の要素における閾値の配列は互いに相違している。複数の休止要素群611を含む閾値マトリクス61の生成手法については後述する。
複数の閾値マトリクス61が準備されると、画像メモリ41にて記憶される各画像層81〜83の元画像データと、マトリクス記憶部42にて記憶される対応する閾値マトリクス61とを比較することにより、ヘッド31〜35に対するインクの吐出制御に用いられるハーフトーン画像データが生成される(ステップS12)。
ここで、元画像データのハーフトーン化について説明する。以下の説明では、1つの元画像データ、および、対応する閾値マトリクス61にのみ着目しており、他の元画像データにおいても同様の処理が行われる。
既述のように、複数の閾値の2次元配列である閾値マトリクス61と、複数の画素の2次元配列である元画像データとは同じサイズとなっており、概念的には閾値マトリクス61と元画像データとを重ね合わせ、元画像データの各画素の画素値と閾値マトリクス61の対応する閾値とを比較することにより、基材9上のその画素の位置に、対応するヘッド31〜35によるドットの形成を行うか否かが決定される。
実際の動作では、図3の比較器43が有するアドレス発生器からのアドレス信号に基づいて画像メモリ41から元画像データの1つの画素の画素値が読み出される。また、当該アドレス信号に基づいて、当該画素に対応する閾値マトリクス61の閾値がマトリクス記憶部42から読み出される。そして、画像メモリ41からの画素値とマトリクス記憶部42からの閾値とが比較器43にて比較されることにより、2値のハーフトーン画像データにおけるその画素の位置(アドレス)の画素値が決定される。
本実施の形態では、元画像データにおいて、画素値が閾値マトリクス61の対応する閾値よりも大きい位置には、例えば、ドットの形成を指示する画素値「1」が付与され、残りの画素にはドットの非形成を指示する画素値「0」が付与される。したがって、休止要素群611に対応する画素群(以下、「休止画素群」という。)には、必ず画素値「0」が付与される。このようにして、ハーフトーン画像生成部である比較器43では、閾値マトリクス61を用いて元画像データがハーフトーン化され、ハーフトーン画像データが生成される。
図1のインクジェットプリンタ1では、ハーフトーン画像データが生成されると、ヘッドユニット3が基材9上の対象領域8の(−X)側に配置され、続いて、ヘッドユニット3が(+X)方向に連続的に移動してヘッドユニット3の走査が行われる。ヘッドユニット3の最初の走査の際には、吐出制御部44により、マゼンタのインクを吐出するヘッド32のみが制御され、他のヘッド31,33〜35からはインクは吐出されない。また、ヘッド32からのインクの吐出は、対応するハーフトーン画像データに従って制御される。
ここで、ハーフトーン画像データは基材9上に印刷される画像を示すため、ハーフトーン画像データの複数の画素は基材9上に配列して設定されていると捉えることができる。吐出制御部44ではヘッドユニット3の走査に並行して、ヘッド32の各吐出口の基材9上の吐出位置に対応するハーフトーン画像データの画素値が「1」である場合には当該吐出位置にインクが吐出され、ハーフトーン画像データの画素値が「0」である場合には当該吐出位置にはインクは吐出されない(後述のホワイトのインクおよびシアンのインクによる画像の形成において同様)。このようにして、対象領域8上にマゼンタのインクが付与され、第1画像層81が形成される(ステップS13)。
なお、Y方向に関して対象領域8の幅は、ヘッド32の幅よりも狭いため、ヘッドユニット3の1回の走査にて第1画像層81の全体が形成可能である。対象領域8の幅が、ヘッド32の幅よりも広い場合には、ヘッドユニット3の走査が完了する毎に、ヘッドユニット3をY方向に相対移動することにより、第1画像層81の全体が形成される。
既述のように、ハーフトーン画像データでは、休止要素群611に対応する休止画素群の画素値が必ず「0」となるため、図8に示すように、第1画像層81は、透過パターン領域84に対応する複数の孔部811を有するものとなる。対象領域8において透過パターン領域84以外の非パターン領域85(図7参照)は、元画像データに従った画像を示す。
ヘッドユニット3の2回目の走査では、ホワイトのインクを吐出するヘッド35のみが制御される。このとき、第2画像層82の元画像データでは、全ての画素値が「255」であるため、ハーフトーン画像データでは、休止要素群611に対応する休止画素群の画素値のみが「0」となり、他の全ての画素値は「1」となっている。また、第2画像層用の閾値マトリクス61では、休止要素群611の中心位置および大きさが第1画像層用の閾値マトリクス61と同じである。したがって、対象領域8において透過パターン領域84を除く領域の全体にホワイトのインクが付与されて、第2画像層82が形成される(ステップS14)。第2画像層82は、第1画像層81と同様の複数の孔部を有し、孔部以外が一様な濃度となる。
ヘッドユニット3の3回目の走査では、シアンのインクを吐出するヘッド31のみが制御される。第3画像層用の閾値マトリクス61では、休止要素群611の中心位置および大きさが他の閾値マトリクス61と同じであり、対象領域8上のホワイトのインクが存在する領域(すなわち、第2画像層82)上のみにシアンのインクが付与され、第3画像層83が形成される(ステップS15)。第2画像層82上の第3画像層83も、第1画像層81と同様の複数の孔部を有し、孔部以外の部位(非パターン領域85)が元画像データに従った画像を示す。
以上のようにして、第1ないし第3画像層81〜83が形成されると、インクジェットプリンタ1の動作が完了する。インクジェットプリンタ1では、マゼンタのインクを吐出するヘッド32が第1画像層81を形成する第1印刷部の構成要素となり、ホワイトのインクを吐出するヘッド35が第2画像層82を形成する第2印刷部の構成要素となり、シアンのインクを吐出するヘッド31が第3画像層83を形成する第3印刷部の構成要素となる。第1印刷部、第2印刷部および第3印刷部では、ヘッド32,35,31を基材9の記録面に沿って基材9に対して相対的に移動するヘッド移動機構24およびステージ移動機構22が共用されている。
次に、複数の休止要素群611を含む閾値マトリクス61の生成手法について説明する。閾値マトリクス61を生成する際には、図3のコンピュータ5において、閾値マトリクス61の基礎となる図11の基礎マトリクス60が準備される(図11では、基礎マトリクス60の一部を示している。後述の図12のマスク行列69において同様。)。また、マトリクス修正部51では、閾値マトリクス61と同様に複数の要素が行方向および列方向に配列された図12のマスク行列69が準備される。マスク行列69は基礎マトリクス60および閾値マトリクス61と同じサイズ(要素数)であり、マスク行列69では、閾値マトリクス61における複数の休止要素群611に対応する要素に値「1」が付与され、他の要素に値「0」が付与されている。そして、マスク行列69において値「1」の要素に対応する基礎マトリクス60の閾値が「255」に変更され、値「0」の要素に対応する基礎マトリクス60の閾値はそのまま維持される。これにより、図10に示す閾値マトリクス61が生成される。なお、図11の基礎マトリクス60では、マスク行列69の値「1」の要素に対応する閾値が比較的低い値となっているが、実際には、比較的高い値を含む様々な閾値の要素が休止要素群611に含められる。
実際の動作では、第1画像層用の基礎マトリクス、第2画像層用の基礎マトリクス、および、第3画像層用の基礎マトリクスが準備される。そして、これらの基礎マトリクスに同じマスク行列69を作用させることにより、複数の休止要素群611が同じ大きさにて同じ位置に配置される複数の閾値マトリクス61が生成され、複数のマトリクス記憶部42にそれぞれ記憶されて画像層81〜83の形成に用いられる。
既述のように、印刷物91における対象領域8以外の領域の画像もインクジェットプリンタ1により印刷されてよい(他の動作例において同様)。この場合、インクジェットプリンタ1において、領域毎にスクリーニングの種類を個別に設定する、いわゆるマルチスクリーニング機能が設けられ、元画像データのハーフトーン化の際に、対象領域8に対応する元画像データの画素に対してのみ休止要素群611を有する閾値マトリクス61が用いられ、対象領域8以外の領域に対応する元画像データの画素には、休止要素群611を有していない閾値マトリクス(例えば、基礎マトリクス)が用いられる。実際には、対象領域8以外の領域は大きいため、当該領域の元画像データのハーフトーン化では、元画像データを閾値マトリクスと同じ大きさの多数の領域に分割してハーフトーン化の単位となる繰り返し領域が設定される。そして、概念的には元画像データの各繰り返し領域と閾値マトリクスとを重ね合わせ、繰り返し領域の各画素の画素値と閾値マトリクスの対応する閾値とを比較することにより、ハーフトーン画像データが生成される。
ところで、特開2008−44341号公報(特許文献1)の手法を用いることにより、カードの偽造防止を実現する場合、第1画像および第2画像を両主面にそれぞれ形成する必要があるとともに、これらの画像に包含されない区域に第3画像をさらに形成する必要があるため、煩雑な作業が必要となる。
これに対し、インクジェットプリンタ1では、対象領域8において透過パターン領域84を除く非パターン領域85に、マゼンタのインク、ホワイトのインク、および、シアンのインクを順に付与して、マゼンタの第1画像層81、ホワイトの第2画像層82、および、シアンの第3画像層83が基材9の記録面上に積層される。このように、画像層81〜83の形成においてインクが付与されない透過パターン領域84を対象領域8内に設定することにより、表面側および裏面側から画像が視認される両面の印刷物91において偽造防止用のパターンを容易に形成することができる。また、印刷物91では、基材9に孔をあけることがないため、基材9の強度も維持することが可能となる。
また、インクジェットプリンタ1では、各閾値マトリクス61において、透過パターン領域84に含まれる位置に対応する閾値に、画像層の形成単位であるドットを形成しない値が設定され、第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83のそれぞれの元画像データと、対応する閾値マトリクス61とを比較することにより、各画像層用のハーフトーン画像データが生成される。そして、ハーフトーン画像データに従ってヘッド31,32,35からのインクの吐出が制御されることにより、透過パターン領域84上にドットが形成されない(すなわち、インクが付与されない)第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83を容易に形成することが実現される。
なお、対象領域8が大きい場合には、対象領域8以外の領域の元画像データのハーフトーン化と同様に、元画像データにおいて繰り返し領域が設定されて、元画像データの各繰り返し領域と閾値マトリクスとが比較される。この場合、例えば、休止要素群611を有していない閾値マトリクスがマトリクス記憶部42に記憶されるとともに、比較器43にて対象領域8の全体に対応するマスク行列が記憶される。そして、対象領域8の元画像データにおける各画素の画素値、および、当該画素に対応する閾値マトリクスの閾値を読み出す際に、当該画素に対応するマスク行列の要素の値も参照され、当該要素の値が「1」である場合には、閾値マトリクスの閾値が「255」に変更された後、元画像データの画素値と比較され、「0」である場合には、閾値マトリクスの閾値は変更されず、読み出された閾値と元画像データの画素値とが比較される。これにより、元画像データと閾値マトリクスとの比較時に、閾値マトリクスにおいて休止要素群が実質的に設定されることとなり、透過パターン領域84にインクが付与されない第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83を容易に形成することができる。
上記動作例では、第2画像層82の元画像データにおける全ての画素値が「255」とされるが(濃度が100%とされるが)、当該元画像データの画素値は、例えば60〜80%の濃度に相当する値とされてもよい。この場合でも、基材9上に吐出されたインクはある程度広がるため、基材9の非パターン領域85の全体にホワイトのインク画像が一様に形成され、第1画像層81および第3画像層83に対する下地層となる第2画像層82を適切に形成することができる。
次に、インクジェットプリンタの他の例について述べる。図13は、インクジェットプリンタ1の他の例の機能構成を示すブロック図であり、制御部4aの機能構成のみを示している。図13の制御部4aでは、比較器43と吐出制御部44との間に画像修正部45が設けられ、画像修正部45には対象領域8の全体に対応する図12のマスク行列69が記憶される。他の構成は、図3と同様であり、同符号を付している。以下、図13の制御部4aを有するインクジェットプリンタ1が偽造防止パターンを形成する動作について図9を参照しつつ説明する。本動作例では、図9中にて破線の矩形にて囲むステップS12aの処理が実行される。
インクジェットプリンタ1では、まず、閾値マトリクスがマトリクス記憶部42に記憶されて準備される(ステップS11)。ここでは、既述の第1画像層用の基礎マトリクス、第2画像層用の基礎マトリクス、および、第3画像層用の基礎マトリクス(図11参照)が閾値マトリクスとして複数のマトリクス記憶部42にそれぞれ記憶されて準備される。基礎マトリクスは、図12のマスク行列69を作用させる前のものであり、休止要素群611は設定されていない。
続いて、画像メモリ41にて記憶される各画像層81〜83の元画像データと、マトリクス記憶部42にて記憶される対応する基礎マトリクスとを比較することにより、比較器43にてハーフトーン画像データが生成される(ステップS12)。実際の動作では、ハーフトーン画像データの各画素値は、比較器43から画像修正部45に順次出力され、当該画素値に対応するマスク行列69の要素の値が読み出される。そして、マスク行列69の当該要素の値が「1」である場合には、ハーフトーン画像データの画素値がインクの吐出の休止を示す「0」に変更され、当該要素の値が「0」である場合には、ハーフトーン画像データの画素値がそのまま維持される。このようにして、マスク行列69の値「1」の要素に対応する画素が、インクの吐出の休止を示す休止画素群に含められ、修正済みのハーフトーン画像データが取得される(ステップS12a)。
インクジェットプリンタ1では、上記動作例と同様に、ヘッドユニット3の走査に並行して、ヘッド31,32,35に含まれる複数の吐出口からのインクの吐出が吐出制御部44により制御される。このとき、第1画像層81の形成では、第1画像層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド32からのインクの吐出が制御され(ステップS13)、第2画像層82の形成では、第2画像層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド35からのインクの吐出が制御される(ステップS14)。また、第3画像層83の形成では、第3画像層用の修正済みのハーフトーン画像データに従ってヘッド31からのインクの吐出が制御される(ステップS15)。このようにして、複数の孔部を有する第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83が、対象領域8上に順に形成され、インクジェットプリンタ1における動作が完了する。
以上のように、図13の制御部4aを有するインクジェットプリンタ1では、第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83のそれぞれのハーフトーン画像データにおいて、透過パターン領域84に含まれる位置に対応する画素の値をドットを形成しない値に変更することによりハーフトーン画像データが修正される。そして、ヘッド31,32,35により修正済みのハーフトーン画像データに従って印刷が行われることにより、透過パターン領域84上にドットが形成されない第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83(すなわち、複数の孔部を有する第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83)を容易に形成することが実現される。なお、画像修正部45にて修正されるハーフトーン画像データは、必ずしも基礎マトリクス(閾値マトリクス)を用いて生成される必要はなく、例えば、誤差拡散法にて生成されるハーフトーン画像データがマスク行列69を用いて修正されてもよい。また、対象領域8以外の領域も示すハーフトーン画像データが生成されてもよく、この場合、マスク行列を適用するハーフトーン画像データの部分が対象領域8に対応する領域に制限される。
以上の動作例では、ヘッドユニット3の走査毎にインクを吐出するヘッド31,32,35を切り替えることにより、マゼンタ、ホワイトおよびシアンのインク画像が積層されるが、ヘッドユニット3の走査においてヘッド31,32,35から並行してインクが吐出されてもよい。例えば、図14に示すように、Y方向に関して等しい幅の3つの範囲A1,A2,A3が連続して設定され、第1画像層用のヘッド32にて範囲A1に含まれる吐出口、第2画像層用のヘッド35にて範囲A2に含まれる吐出口、および、第3画像層用のヘッド31にて範囲A3に含まれる吐出口が、インクの吐出が能動化される動作吐出口として決定される。残りの吐出口は、インクの吐出を行わない休止吐出口とされる。そして、各走査においてヘッド31,32,35の動作吐出口のみに対してインクの吐出制御を行いつつ、走査が完了する毎にヘッドユニット3が(+Y)方向に1つの範囲A1〜A3の幅だけ相対移動する。これにより、マゼンタ、ホワイトおよびシアンのインクが硬化前に混ざり合うことを防止しつつ、記録面上に第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83が順に形成された図8の偽造防止パターンを適切に形成することが可能となる。
インクジェットプリンタ1が偽造防止パターンを形成する専用の装置である場合には、図15に示すように、上記の動作吐出口とされる吐出口のみが形成されたヘッド31a,35a,32aがヘッドユニット3aに設けられてもよい。図15のヘッドユニット3aにおいても、図14のヘッドユニット3と同様に、基材9上に吐出されるマゼンタ、ホワイトおよびシアンのインクが硬化前に混ざり合うことが防止される。
また、インクジェットプリンタ1では、ヘッドユニットの一の走査と、次の走査との間に、ヘッドユニットがY方向に僅かに相対移動することにより、当該一の走査にて形成される複数のドットにおいて、Y方向に隣接する2つのドット間が、当該次の走査にて形成されるいずれかのドットにて補間されてもよい(いわゆる、インターレース印刷)。
さらに、ヘッドユニットの複数回の走査において、ヘッドユニットをY方向に相対移動せず、各ヘッドの複数の吐出口が同位置を複数回通過することにより、いわゆる重ね印刷が行われて、各画像層81〜83の濃度が高められてもよい。この場合に、画像層81〜83毎に重ね塗り回数が相違してもよい。
図8の印刷物91の対象領域8では、全ての画像層81〜83に孔部が設けられるが、図16に示すように、第2および第3画像層82,83のみに孔部(第3画像層83の孔部のみに符号831を付している。)が設けられてもよい。
図16の印刷物91の対象領域8をブラックの背景にて表面側(第3画像層83側)から見た場合には、シアンの非パターン領域85(孔部831以外の領域)と共にほぼブラックの透過パターン領域84(孔部831の領域)が認識される。一方で、対象領域8をホワイトの背景にて表面側から見た場合には、シアンの非パターン領域85と共に、透光性のマゼンタのインクによりマゼンタの透過パターン領域84が認識される。また、対象領域8をブラックの背景にて裏面側(第1画像層81側)から見た場合には、透過パターン領域84も非パターン領域85と同様にマゼンタとなるため、透過パターン領域84は非パターン領域85と異なる領域としては認識されない。対象領域8をホワイトの背景にて裏面側から見た場合には、マゼンタの非パターン領域85と共に明るいマゼンタの透過パターン領域84が認識される。したがって、イメージスキャナを用いて対象領域8を複製しても、ホワイトの背景とブラックの背景とで(すなわち、透過光と反射光とで)透過パターン領域84の見え方が相違するという状態が再現されない。なお、第1および第2画像層81,82のみに孔部が設けられてもよい。
また、第1画像層81および第3画像層83が、対象領域8において透過パターン領域84を含む領域に形成され(すなわち、第1画像層81および第3画像層83に孔部が形成されず)、図17に示すように、第2画像層82のみに孔部821が設けられてもよい。なお、図17では印刷物91の断面を抽象的に示しており、実際には、第3画像層83の形成時にシアンのインクが孔部821内に入り込むため、図17のような明確な孔部821は形成されない。
図17の印刷物91の対象領域8をブラックの背景にて表面側から見た場合には、透過パターン領域84も非パターン領域85と同様にシアンとなるため、透過パターン領域84は非パターン領域85と異なる領域としては認識されない。一方で、対象領域8をホワイトの背景にて表面側から見た場合には、シアンの非パターン領域85と共に、透光性のシアンおよびマゼンタのインクにより、シアンとマゼンタとの混色の透過パターン領域84が認識される。また、対象領域8をブラックの背景にて裏面側から見た場合、透過パターン領域84と非パターン領域85とが同色(マゼンタ)となり、ホワイトの背景にて裏面側から見た場合には、マゼンタの非パターン領域85と共にシアンとマゼンタとの混色の透過パターン領域84が認識される。このように、図17の印刷物91においても、ホワイトの背景とブラックの背景とで透過パターン領域84の見え方が相違する。
なお、図16および図17の偽造防止パターンの形成において、孔部が設けられない画像層を形成する際には、対象領域8以外の領域に対するハーフトーン画像データの生成と同様にして、休止画素群を含まないハーフトーン画像データが生成され、当該ハーフトーン画像データに従ってインクの吐出が制御される。
以上のように、インクジェットプリンタ1では、基材9上に第1画像層81、第2画像層82および第3画像層83が順に形成される際に、少なくともホワイトの第2画像層82が、対象領域8において透過パターン領域84を除く非パターン領域85のみに形成される(すなわち、少なくとも第2画像層82に孔部が形成される)ことにより、基材9に孔をあけることなく、偽造防止用のパターンを容易に形成することが可能となる。なお、第1画像層81および第3画像層83が同じ色のインクで形成されてもよい。
また、図18および図19に示すように印刷物91の対象領域8において、例えば、マゼンタの第1画像層81、および、シアンの第2画像層82のみが形成されてもよい。
図18の偽造防止パターンでは、第1および第2画像層81,82の双方に孔部(第1画像層81の孔部のみに符号811を付している。)が設けられる。図18の印刷物91の対象領域8をブラックの背景にて表面側(第2画像層82側)から見た場合には、シアン(または、僅かにマゼンタが混じった色)の非パターン領域85と共にブラックの透過パターン領域84が認識される。一方で、対象領域8をホワイトの背景にて表面側から見た場合には、シアンとマゼンタとの混色の非パターン領域85と共に、ホワイトの透過パターン領域84が認識される。また、対象領域8をブラックの背景にて裏面側(第1画像層81側)から見た場合には、マゼンタ(または、僅かにシアンが混じった色)の非パターン領域85と共にブラックの透過パターン領域84が認識され、対象領域8をホワイトの背景にて裏面側から見た場合には、シアンとマゼンタとの混色の非パターン領域85と共に、ホワイトの透過パターン領域84が認識される。このように、図18の印刷物91では、ホワイトの背景とブラックの背景とで、非パターン領域85および透過パターン領域84の双方の見え方が相違するため、イメージスキャナを用いて対象領域8を複製しても、対象領域8を再現することができない。
図19の偽造防止パターンでは、第2画像層82のみに孔部821が設けられる。図19の印刷物91の対象領域8をブラックの背景にて表面側から見た場合には、シアンの非パターン領域85と共に暗いマゼンタまたはブラックの透過パターン領域84が認識される。一方で、対象領域8をホワイトの背景にて表面側から見た場合には、シアンとマゼンタとの混色の非パターン領域85と共に、明るいマゼンタの透過パターン領域84が認識される。また、対象領域8をブラックの背景にて裏面側から見た場合には、透過パターン領域84も非パターン領域85と同様にマゼンタとなるため、透過パターン領域84は非パターン領域85と異なる領域としては認識されず、対象領域8をホワイトの背景にて裏面側から見た場合には、シアンとマゼンタとの混色の非パターン領域85と共に、明るいマゼンタの透過パターン領域84が認識される。このように、図19の印刷物91においても、ホワイトの背景とブラックの背景とで、非パターン領域85および透過パターン領域84の双方の見え方が相違する。もちろん、第1画像層81のみに孔部が設けられてもよい。
以上のように、インクジェットプリンタ1では、基材9上に第1画像層81および第2画像層82が順に形成される際に、少なくとも一方のインク画層像が、対象領域8において透過パターン領域84を除く非パターン領域85のみに形成される。このように、少なくとも1つの画像層にてインクが付与されない透過パターン領域84を設定することにより、偽造防止用のパターンを容易に形成することが可能となる。なお、第1画像層81または第2画像層82はホワイトのインクにて形成されてもよく、この場合、ホワイトの画像層側から観察した際に、透過パターン領域84が認識されるように、少なくともホワイトの画像層に孔部が設けられることが好ましい。第1画像層81および第2画像層82の形成手法は、第1ないし第3画像層81〜83を形成する上記手法と同様である。
以上の説明では、インクジェットプリンタ1により偽造防止パターンを形成する手法について述べたが、偽造防止パターンは他の無版印刷装置にて形成されてもよい。例えば、図20の電子写真方式の印刷装置1aでは、第1印刷部101、第2印刷部102および第3印刷部103が一列に配列され、第1ないし第3印刷部101〜103には、配列方向に垂直、かつ、互いに平行な回転軸を有する感光体ドラム105がそれぞれ設けられる。各感光体ドラム105の周囲には、帯電器、潜像形成部、現像部等を有するプロセスユニット104が設けられ、基材9が3個の感光体ドラム105を順に通過する。このとき、第1印刷部101の感光体ドラム105において、ハーフトーン画像データに従って外周面上に形成された第1の色のトナー画像が基材9上に転写されて、対象領域において第1の色の第1画像層が形成される。また、第2印刷部102の感光体ドラム105において、ハーフトーン画像データに従って形成された第2の色のホワイトのトナー画像が基材9上に転写されて、対象領域においてホワイトの第2画像層が第1画像層上に形成される。さらに、第3印刷部103の感光体ドラム105において、ハーフトーン画像データに従って形成された第3の色のトナー画像が基材9上に転写されて、対象領域において第3の色の第3画像層が第2画像層上に形成される。なお、ハーフトーン画像データの生成手法は、上記インクジェットプリンタ1と同様である。
このように、印刷装置1aでは、第1ないし第3印刷部101〜103により第1ないし第3画像層が形成され、少なくともホワイトの第2画像層が、対象領域において透過パターン領域を除く非パターン領域に形成される。これにより、偽造防止パターンが容易に形成される。
また、図20の印刷装置1aにおいて、図18または図19の偽造防止パターンが形成されてもよく、この場合、基材9上に第1画像層および第2画像層が順に形成される際に、少なくとも一方の画層像が、対象領域において透過パターン領域を除く非パターン領域のみに形成される。
以上のように、第1および第2画像層により偽造防止パターンを形成する場合には、基材上に無版にて印刷を行って対象領域において第1の色の第1画像層を形成する第1印刷部、および、第1画像層上に無版にて印刷を行って、対象領域において第1の色とは異なる第2の色の第2画像層を形成する第2印刷部が、印刷装置に少なくとも設けられ、第1画像層および第2画像層の少なくとも一方の画像層が、対象領域において透過パターン領域を除く非パターン領域に形成される。また、第1ないし第3画像層により偽造防止パターンを形成する場合には、第2画像層上に無版にて印刷を行って、対象領域において第2の色とは異なる第3の色の第3画像層を形成する第3印刷部がさらに設けられ、少なくともホワイトの第2画像層が、対象領域において透過パターン領域を除く非パターン領域に形成される。その結果、偽造防止パターンを容易に、かつ、無版印刷により自在に形成することが実現される。
以上、本発明の実施の形態について説明してきたが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、様々な変形が可能である。
元画像データにおいて、基材9上の透過パターン領域に対応する画素の値を、ドットを形成しない値(例えば、最小階調レベルである0)に変更することにより、休止画素群を有するハーフトーン画像データが生成されてもよい。
ハーフトーン画像データの生成では、規則的に配列されたドットセンタを中心として階調レベルの変化に従ってハーフトーンドットの大きさを変更するAM(Amplitude Modulated)スクリーニングや、不規則に配置される一定の大きさのハーフトーンドットの個数を階調レベルの変化に従って変更するFM(Frequency Modulated)スクリーニング、あるいは、不規則に配置されたドットセンタを中心として階調レベルの変化に従ってハーフトーンドットの大きさを変更するスクリーニング手法等、様々な手法を用いることが可能である。
インクジェットプリンタ1では多値のハーフトーン画像データが生成されてもよい。例えば、ヘッド31〜35の各吐出口が異なる量の微小液滴を吐出して基材9上に複数サイズのドットの形成が可能とされる場合には、閾値マトリクスの各要素の閾値が、ドットのサイズの決定に利用される複数のサブ閾値の集合とされる。そして、元画像データの各画素の画素値が複数のサブ閾値と比較されることにより、各画素に0またはドットのサイズに対応付けられた値が付与された多値のハーフトーン画像データが生成される。
複数の微小領域841の配列により偽造防止パターンを示す透過パターン領域84では、各微小領域841の形状(基材9の法線に沿って見た場合の画像層における孔部の形状)は、必ずしも円形や三角形である必要はなく、例えば、星形やハート形等であってもよい。また、偽造防止パターンの偽造防止性能を高めるために、各微小領域841の大きさや複数の微小領域841の配置パターン等も適宜変更されてよい。このように、偽造防止パターンを様々に変更する場合であっても、無版印刷装置では、元画像データ、閾値マトリクス、または、ハーフトーン画像データを修正するのみにより、容易に形成可能である。
インクジェットプリンタ1では、第1ないし第3画像層により偽造防止パターンを形成する場合に、ホワイトのインクに代えて、他の明色(すなわち、クリーム色や薄い水色等の明るい色)のインクにより第2画像層が形成されてもよい。また、基材9も必ずしも無色透明である必要はなく、一定の光透過性を有するのであるならば、基材9自体が薄い色を有していてもよい。
図8、並びに、図16ないし図19の印刷物91では、画像層同士が直接接しており、最も基材9側に設けられる第1画像層81と基材9も直接接しているが、画像層と画像層との間、または、基材と第1画像層81との間に、付着力を向上するための透明な材料の層等が必要に応じて設けられてもよい。
偽造防止パターンが形成される対象領域8は、印刷物91の全体であってもよい。インクジェットプリンタ1および印刷装置1aでは、基材9上にて任意に定められた対象領域に偽造防止パターンを形成することが可能である。
インクジェットプリンタ1では、ヘッドユニット3を走査方向に移動するヘッド移動機構24、および、ステージ21を走査方向に垂直な方向に移動するステージ移動機構22により、ヘッドユニット3が記録面に沿う方向に基材9に対して相対的に移動するが、ステージ21を走査方向に移動する機構やヘッドユニット3を走査方向に垂直な方向に移動する機構が設けられてもよい。すなわち、ヘッド31〜35を基材9の主面に沿って基材9に対して相対的に移動する移動機構はいかなる構成にて実現されてもよい。
図2、図14および図15のヘッドユニット3,3aの各ヘッドでは、基材9に平行、かつ、走査方向に垂直な方向に関して、複数の吐出口がおよそ一定のピッチにて設けられるのであるならば、例えば、Y方向に対して傾斜した水平線上に複数の吐出口が配列されてもよい。また、各ヘッドにおける複数の吐出口の配列は千鳥状であってもよい。
インクジェットプリンタ1および印刷装置1aにて印刷が行われる基材は、板状の基材9以外に、フィルム状の部材や印刷用紙等であってもよい。
上記実施の形態および各変形例における構成は、相互に矛盾しない限り適宜組み合わせられてよい。