このように冷房時に熱媒を過冷却する方法は冷房能力向上を目的としているので,暖房運転時や低負荷冷房運転時には,熱媒の過冷却における熱交換量を減少させるか,あるいは過冷却を中止する必要がある。そのためには,いわゆるビルマルチ型の空調装置において,空調装置の運転状況を正しく把握し,暖房運転時や低負荷冷房運転時に正しいタイミングで過冷却の熱交換量を減少させなければならない。例えば過冷却に用いる冷却水として,空調装置以外の熱源で製造した水や上水・井水等を使用する場合,過冷却の熱交換量を自動制御するためには,冷房/暖房モード情報および圧縮機発停(あるいは運転周波数)情報を室外機の外部に出力させ,この情報を用いて制御する必要がある。
ここで,このような冷房/暖房モード情報や圧縮機発停(あるいは運転周波数)といった空調装置の運転状況を,室外機基板に有している制御基板から出力させた信号で把握し,例えば,暖房運転時や,あるいは冷房運転時でも圧縮機が停止しているか一定以下の周波数で運転しているような場合は,熱媒を過冷却する熱交換量を減少もしくは0にすることも可能である。
しかしながら,市販のビルマルチ型の空調装置は,冷房/暖房モード情報や圧縮機発停(あるいは運転周波数)情報を外部に出力する設計になっていない。これらの空調装置において運転情報を外部出力させるには,別にオプション部品を付けるか室外機基板を改造する必要があり,空調装置の設備費の増大や納期の延長を招く。また,空調装置メーカ毎に外部出力の方法も異なるので,全メーカ品に対して適用できるビルマルチ用過冷却システムの水側制御系の構築は困難である。
また,圧縮膨張方式の空調装置では,室外機内の圧縮機にガス状の熱媒を吸込む運転を行う。その際,圧縮機に液状の熱媒が一部混入(以下「液バック」)すると,液状の熱媒が圧縮機内部のシリンダ壁面の油を洗い落とし,ミスト状になってガス熱媒と共に圧縮機から吐き出される。その結果圧縮機内部の油が減少し,シリンダ摺動部の磨耗や軸受けシ−ル切れ等の不具合を発生する。そのため圧縮膨張方式の空調装置では,冷房運転時に例えば室内機熱交換器出入口の熱媒温度差を計測し,これを一定以上にするように,室内機熱交換器入口に設置した膨張弁の開度を制御する。室内機熱交換器入口の熱媒は液とガスの混合した状態(以下「気液2相流」)となるため,室内機熱交換器内で完全にガス化するまでは,熱媒温度が飽和温度で一定となる。室内機熱交換器出口の熱媒温度が入口よりも例えば1℃以上高い場合は,室内機熱交換器内で熱媒が完全にガス化していると判断できる。よって,この温度差(室内機熱交換器出口の熱媒温度−入口の熱媒温度)をプラスに制御すれば,液バックを防止できる。しかし熱媒を,膨張弁で減圧した後の状態が液相になるほど大幅に過冷却すると,室内機熱交換器入口の熱媒温度が飽和温度より低くなり,室内機熱交換器出入口の熱媒温度差をプラスに制御しているにも関わらず,出口の熱媒が完全にガス化しなくなる恐れが生じる。
このため,例えば室外機や過冷却用の熱交換器,氷蓄熱槽などが一体になったいわゆる氷蓄熱ビルマルチでは,過冷却後の熱媒のエンタルピが一定以下にならないように,過冷却する熱交換量を制御している。この制御では,膨張弁で減圧した後の熱媒の状態が液相にならないエンタルピ下限値を求め,過冷却後と膨張弁で減圧した後の熱媒のエンタルピが等しいと仮定し,過冷却後の熱媒のエンタルピ下限値を決めている。しかしこの制御では,過冷却後に室外機と室内機間の配管で生じる,圧損や外部からの熱侵入によるエンタルピ上昇を無視している。そのため過冷却する熱交換量を必要以上に少なめに制御し,冷房能力の向上効果を減少させる結果となる。
さらにこの制御では,熱媒のエンタルピを熱媒の温度および圧力から算出するため,圧力センサおよび特別な演算機構を必要とする。これらの機器は,氷蓄熱ビルマルチのような液バック防止を想定した機器ではメーカーによる搭載が可能である。しかし一般のビルマルチで過冷却する場合に,これらの機器を後から搭載するのは,設備費や納期の観点から現実的では無い。このため,一般のピルマルチで熱媒を水やプラインで過冷却して冷房能力を向上させるためには,大掛かりな改造等を伴わずにその運転状態を外部から正しく把握できる方法の出現が望まれている。
本発明は以上の如き問題に鑑みてなされたものであり,圧縮膨張方式の空調装置の運転状態を容易に判断でき,しかも,特に冷房運転時において室外機から各室内機に送られる熱媒を適切に過冷却して冷却能力の向上をはかることができる運転方法を提供することにある。
本発明によれば,室外機に設けた圧縮機で圧縮した熱媒を,室外機側の合流配管と室内機側の分岐配管を経て複数の室内機にそれぞれ循環供給し,各室内機に設けた熱交換器において熱媒を蒸発させる冷凍サイクルを行うことにより,建築物の空調空間を冷房する圧縮膨張方式の空調装置の運転方法であって,前記各室内機から前記室外機に熱媒を戻す前記合流配管の表面温度Hを測定し,前記空調装置の運転状態を,前記表面温度Hが設定室温から5〜15℃低い範囲で設定される冷房基準温度よりも低い場合は冷房運転と判断し,更に,前記圧縮機に熱媒を入れる,前記合流配管と前記圧縮機の間に設けられた入側配管の表面温度Iを測定し,冷房運転と判断した場合において,前記表面温度Iと前記表面温度Hとの温度差I−Hが0〜1℃の範囲で設定される過冷却基準温度差以上の時は,前記室外機から前記各室内機に送られる熱媒を過冷却し,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差未満の時は,前記室外機から前記各室内機に送られる熱媒を,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差以上の時に比べて小さい熱交換量で過冷却するか,もしくは,過冷却しないことを特徴とする,空調装置の運転方法が提供される。
また,このように冷房運転と判断した場合において,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差以上の時は,前記室外機から前記各室内機に送られる熱媒を冷却水で過冷却し,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差未満の時は,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差以上の時に比べて冷却水の流量を減らす,または,冷却水の温度を上昇させることにより小さい熱交換量で過冷却するか,もしくは,冷却水を流さないようにしても良い。
表面温度Hと設定室温との差から運転馬力数を判断する方法は,圧縮機の運転馬力数(インバータ機ならば運転周波数,ステップ制御機ならば吐出/吸込バイパス管の制御弁開閉)で判断する方法に比べて,間接的で精度が悪い。しかし,表面温度Hと設定室温との温度差と運転馬力数とは相関があり,運転馬力数が増加するほどこの温度差も増加する。表面温度Hと設定室温との温度差は後付けのセンサで自由に計測できるので,いわゆるビルマルチ型の空調装置の改造を伴わずに,室外機の圧縮機の運転馬力数を推測できるようになる。なお,運転馬力数を知りたい理由は,外部で過冷却する場合,あまり運転馬力数が小さいと省エネ効果に比べて冷却水系統の動力(ポンプ,冷却塔ファンなど)が大きくなり,不経済になる恐れがあるからである。よって一定以上の省エネ効果を得られるように,過冷却を行う温度差の下限値を調節する。
本発明によれば,冷房時に前記各室内機から室外機に熱媒を戻し,暖房時に室外機から各室内機に熱媒を送る合流配管の表面温度Hを測定することにより,空調装置の運転状態が冷暖房運転であるか,停止であるかを判断できるようになる。2管式(冷暖切替型)のいわゆるビルマルチ型の空調装置では,冷房運転時は,室内機での蒸発温度が室内空気温度より5℃以上低くなっており,蒸発した熱媒(ガス)の温度(表面温度H)も2〜3℃以上低くなる。室外機の圧縮機の運転馬力が増加するにつれてこの温度差は更に拡大する。一方,室内空気温度は,直接これを計測するのはセンサの設置等が面倒であるので,設定室温で代用している。実際の室内空気温度は,設定室温±2℃程度の誤差がある。以上を考慮し,本発明では,表面温度Hが設定室温から5〜15℃低い範囲で設定される冷房基準温度よりも低い場合は冷房運転していると判断する。
暖房運転時は,冷房運転とは熱媒の流れる向きが逆転し,室外機から高温の熱媒(ガス)が室内機に送られる。この場合,熱媒の温度(表面温度H)は,一般的に室内空気温度より20℃以上高くなる。そのため本発明では,表面温度Hが設定室温から20〜50℃高い範囲で設定される暖房基準温度よりも高い場合は,暖房運転していると判断する。
なお,3管式(冷暖フリー型)のビルマルチ型の空調装置では,熱媒配管が吐出管と吸込管の2本に分かれており,上記のような判定はできない。仮に両方の配管にセンサを設置したとしても,全冷房運転と冷暖混在時,あるいは全暖房運転と冷暖混在時の区別ができない。冷暖混在時に外部で過冷却してしまうと,ビル用マルチ内部の熱回収のバランスを崩すので,得策ではない。
前記合流配管の表面温度Hは,例えば合流配管に温度センサを取り付けるだけで容易に検出することができ,オプション部品の取付けや室外機基板の改造を要さない。そして,当該温度センサ等で検出した表面温度Hが冷房基準温度よりも低い場合は冷房運転,表面温度Hが暖房基準温度よりも20〜50℃高い場合は暖房運転,それ以外の場合は停止と判断することによって,空調装置の運転状態を正確に把握できるようになる。
また本発明にあっては,更に,室外機の圧縮機に熱媒を入れる入側配管の表面温度Iを測定して,前記表面温度Hとこの表面温度Iを比較することにより,冷房運転において,液バックを確実に防止できるようになる。即ち,前述のように表面温度Hに基いて冷房運転と判断した場合,前記表面温度Iと前記表面温度Hとの温度差I−Hが0〜1℃の範囲で設定される過冷却基準温度差以上の時は,室内機熱交換器内で熱媒が完全にガス化していると判断し,室外機から各室内機に送られる熱媒を過冷却することによって高い能力の冷房を行うことができる。一方,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差未満の時は,室内機熱交換器内で熱媒が完全にガス化していると判断した場合の冷房能力に比べて小さい熱交換量で室外機から各室内機に送られる熱媒を過冷却するか,もしくは,過冷却を停止することによって,液バックを防止できるようになる。
この場合,室外機から各室内機に送られる熱媒を冷却水で過冷却しているのであれば,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差未満の時は,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差以上の時に比べて冷却水の流量を減らす,または,冷却水の温度を上昇させることにより小さい熱交換量で過冷却するか,もしくは,冷却水を流さないようにすれば良い。
液バック防止のためには,圧縮機吸込熱媒が完全に気化していれば良いので,合流配管内部に多少の液相の熱媒があっても支障はない。しかし,表面温度Hと表面温度Iの温度差I−Hが過冷却基準温度差未満になると,運転条件(圧縮機の運転馬力,凝縮温度,蒸発温度)によっては液バック防止のための保護制御が作動することを,実験的に確認している。これら表面温度Hと表面温度Iの温度差はセンサ設備場所によって上下する。液バック防止を最小限に行うには,Hをなるべく室外機に近い場所に設置した方が良い。なぜなら合流配管内部に液相の熱媒がある場合,室外機に近づくほど熱媒温度が低下し,表面温度Hと表面温度Iの温度差が大きくなり,過冷却熱交換量の制限を少なくできるからである。
表面温度Hを室外機直近に設置した場合,表面温度Iは表面温度Hより0〜1℃以上高い状態ならば問題ないが,合流配管内部の液相の熱媒量が増加してくると表面温度Iの方が低くなる状態もあり得る。大抵のビルマルチ型空調装置のメーカーでは,圧縮機吸込側に液相の冷媒を分離するアキュムレータを設けているが,圧縮機のオイルレベル等のモニタにより,早めに保護制御が作動する可能性があり,いわば危険運転状態と言える。
以下,本発明の実施の形態を,図面を参照にして説明する。図1,2は,本発明の実施の形態にかかる運転方法を実施するための空調装置の説明図であり,図1は冷房運転状態を示し,図2は暖房運転状態を示している。図中,一点鎖線で示した境界線Lの右側が建築物等の室内Aであり,境界線Lの左側が建築物等の室外Bである。
この実施の形態では,室内Aには,複数の室内機10a,10b,10c,・・・が任意の台数ずつ配置されている。図示では,複数の室内機10a,10b,10c,・・・をそれぞれ2台ずつ記載している。なお室内Aとは,例えば室,階,あるいは室の一部の区域などであり,室内機10a,10b,10c,・・・が負荷を受け持つ空間を指す。
室外Bには,任意の台数の室外機11が配置されている。図示では,2台の室外機11を記載している。そして,各室外機11に対してそれぞれ複数の室内機10a,10b,10c,・・・を合流配管12,13で接続することにより,共通の室外機11から複数の室内機10a,10b,10c,・・・に熱媒を循環供給するいわゆるビルマルチ型の空調装置を構成している。
なお,図1に示すように,冷房時には,一方の合流配管12を通じて各室内機10a,10b,10c,・・・から室外機11に熱媒を戻し,他方の合流配管13を通じて室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に熱媒を送るようになっている。また,図2に示すように,暖房時には,一方の合流配管12を通じて室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に熱媒を送り,他方の合流配管13を通じて各室内機10a,10b,10c,・・・から室外機11に熱媒を戻すようになっている。そして,室外機11で圧縮した熱媒を合流配管12,13を通じて各室内機10a,10b,10c,・・・にそれぞれ循環供給し,冷房時には熱媒を蒸発させ,暖房時には熱媒を凝縮させる冷凍サイクルを行って室内を冷暖房する圧縮膨張方式の空調装置を構成している。
各室内機10a,10b,10c,・・・は,建築物等の内部に配置され,冷房運転時は室内空気を冷却し,暖房運転時は室内空気を加熱する。各室内機10a,10b,10c,・・・には,膨張弁などの制御弁20,熱交換器21,ファン22等が設けられている。各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21に対しては,合流配管12,13を流れる熱媒が分岐配管25,26を経てそれぞれ循環供給される。
室外機11は,建築物等の屋上,ベランダ,隣接地などに設置され,冷房運転時は外気によって熱媒を冷却し,暖房運転時は外気によって熱媒を加熱する。室外機11には,圧縮機30が設けられており,圧縮機30に熱媒を入れる入側配管31と,圧縮機30から熱媒を出す出側配管32が接続されている。入側配管31にはアキュームレータ33が介在している。
これら入側配管31と出側配管32は,四方弁35を介して,前述の合流配管12,13に接続されている。この四方弁35の切替え操作により,図1に示すように,入側配管31と一方の合流配管12が接続され,出側配管32と他方の合流配管13が接続された状態(冷房運転時)と,図2に示すように,入側配管31と他方の合流配管13が接続され,出側配管32と一方の合流配管12が接続された状態(暖房運転時)とに切り替わるようになっている。
四方弁35と他方の合流配管13の間には,熱交換器40,膨張弁などの制御弁41,過冷却用の熱交換器42,逆止弁43が介在している。この合流配管13に介在している逆止弁43は,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送る方向のみへ熱媒を流し,各室内機10a,10b,10c,・・・から室外機11に戻る方向へは熱媒を流さない。
また,合流配管13を流れる熱媒を,合流配管13に介在している逆止弁43と過冷却用の熱交換器42を迂回するように流すバイパス配管45が設けられている,バイパス配管45には,逆止弁46が介在している。このバイパス配管45に介在している逆止弁46は,前述の合流配管13に介在している逆止弁43とは逆向きであり,各室内機10a,10b,10c,・・・から室外機11に戻る方向のみへ熱媒を流し,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送る方向へは熱媒を流さない。
室外機11には,内部に外気を取り入れて熱交換器40に外気を熱的に接触させるファン50が設けられている。
また,建築物の屋上などの外部には,冷却塔55が設置されている。この冷却塔55と,室外機11内において他方の合流配管13に取り付けられた過冷却用の熱交換器42との間には,冷却水循環用の配管56,57が接続してある。この冷却塔55において外気で冷却された冷却水は,ポンプ58の稼動によって,これら配管56,57を介して過冷却用の熱交換器42に循環供給されるようになっている。このように過冷却用の熱交換器42に冷却水を循環供給させるポンプ58の稼動は制御部60からの命令で,インバータ61を介して制御されている。
一方,室外機11内において,一方の合流配管12(冷房時には各室内機10a,10b,10c,・・・から室外機11に熱媒を戻し,暖房時には室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に熱媒を送る合流配管12)の表面には温度センサ65が装着してある。また,圧縮機30に熱媒を入れる入側配管31の表面には温度センサ66が装着してある。こうして,温度センサ65によって測定された一方の合流配管12の表面温度Hと,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iがポンプ58の稼動を司る制御部60に入力されている。また,制御部60には,各室内機10a,10b,10c,・・・によって冷暖房運転を行う室内の設定温度も入力されている。この場合,室内の設定温度は,一年を通して例えば27℃といったような一定温度に固定されている場合もある。なお,ビルマルチの空調装置の場合は,設定温度は27℃よりも低い温度に設定される場合もある。制御部60は,これら表面温度H,Iと設定室温に基いて,後述するようにポンプ58の稼動を制御するようになっている。
さて,以上のように構成された空調装置において主として夏季に行われる冷房運転時には,四方弁35の切替え操作により,図1に示すように,入側配管31と一方の合流配管12が接続され,出側配管32と他方の合流配管13が接続された状態とする。そして,室外機11の圧縮機30および熱交換器40(凝縮器)で圧縮・凝縮させた熱媒を,他方の合流配管13を通して,各室内機10a,10b,10c,・・・に供給する。
このように他方の合流配管13を通して各室内機10a,10b,10c,・・・に供給される熱媒は,逆止弁43が介在している他方の合流配管13を流れる途中で,過冷却用の熱交換器42を通り,冷却塔55から配管56を経て供給された冷却水と熱交換され,過冷却の状態となる。なお,熱媒を過冷却した冷却水は,過冷却用の熱交換器42から配管57を経て冷却塔55に戻され,再び外気によって冷却される。
こうして,過冷却状態の熱媒が,他方の合流配管13から分岐配管26を経て各室内機10a,10b,10c,・・・に供給される。そして,各室内機10a,10b,10c,・・・において,制御弁20,熱交換器21(蒸発器)の順に熱媒が循環されて冷凍サイクルにより室内の冷房が行われる。この場合,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送られる熱媒は,減圧膨張前に過冷却用の熱交換器42で冷却されて過冷却の状態となっているので,各室内機10a,10b,10c,・・・の冷房能力が向上することになる。
そして,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21(蒸発器)において蒸発した熱媒が,分岐配管25から一方の合流配管12を経て室外機11に戻される。その後,四方弁35,入側配管31を介して室外機11の圧縮機30に戻る。
この空調装置においては,温度センサ65によって測定された一方の合流配管12の表面温度Hと,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iと,各室内機10a,10b,10c,・・・によって冷暖房運転を行う室内の設定温度が冷却水用制御弁67を制御する制御部68に入力されている。冷房運転時には,一方の合流配管12の表面温度Hが設定室温よりも5〜15℃低くなるので,制御部68は,こうして入力された一方の合流配管12の表面温度Hと設定室温を比較し,一方の合流配管12の表面温度Hが設定室温から5〜15℃低い範囲で設定される冷房基準温度よりも低くなっている場合に,空調装置が冷房運転していると判断することができる。
そして冷房運転と判断した場合は,制御部68は,更に,温度センサ65によって測定された一方の合流配管12の表面温度Hと,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iとを比較する。そして,これら表面温度Hが表面温度Iの温度差I−Hが0〜1℃の範囲で設定される過冷却基準温度差以上の時は,液バックが生じないと判断する。このように液バックが生じないと判断した場合は,制御部68は冷却水用制御弁67の開度を増加させ,冷却塔55から配管56を経て過冷却用の熱交換器42に冷却水を供給する。これにより,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送られる熱媒を過冷却の状態とし,各室内機10a,10b,10c,・・・において高い能力で冷房を行う。
一方,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iとを比較した結果,前記温度差I−Hが過冷却基準温度差未満の時は,制御部68は,液バックを生じる可能性があると判断する。そして制御部68は,冷却水用制御弁67の開度を減少させるか,冷却水用制御弁67を閉じさせるように出力する。これにより,冷却塔55から過冷却用の熱交換器42に供給される冷却水の流量が減少し,もしくは,過冷却用の熱交換器42に冷却水が供給されない状態となる。こうして,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送られる熱媒は,前述のように温度差I−Hが過冷却基準温度差以上の時に比べて小さい熱交換量で冷却されるか,もしくは,全く冷却されないことなる。このように,液バックを生じる可能性があると判断された場合は,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送られる熱媒の過冷却を減少もしくは停止し,液バックの発生を防止する。
また冷却水ポンプ制御部60は,冷却水ポンプの吐出側配管圧力を計測する圧力計69から入力され,冷却水ポンプ用インバータ61に出力する。そして圧力計69で計測される圧力を一定に保つように却水ポンプ用インバータ61の回転数を制御する。冷却水配管系には多数の圧力計69が設置されており,これらの開度の合計が大きい場合は冷却水ポンプの流量は増加し,圧力計69の圧力を一定に保つのに必要な冷却水ポンプ用インバータ61の回転数が増加する。一方これらの開度の合計が小さい場合は冷却水ポンプの流量は減少し,圧力計69の圧力を一定に保つのに必要な冷却水ポンプ用インバータ61の回転数が減少する。冷却水ポンプ用インバータ61の回転数を下限値まで落としても圧力計69の圧力が設定値を上回る場合は,全ての室外機で冷却水を必要としていないと判断して冷却水ポンプを停止する。
ここで,図3,4は,以上のように冷房運転を行った場合における,熱媒の熱力学特性を示すモリエル線図であり,図3は過冷却ありの状態を示し,図4は過冷却なしの状態を示している。図5は,温度センサ65によって測定された一方の合流配管12の表面温度Hと,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iとの温度差(表面温度I−表面温度H)と入側配管31の表面(I点)の過熱度の関係を示すグラフである。
過冷却ありの場合(図3)は,室外機11の圧縮機30から出た熱媒(A)は,室外機11の熱交換器40に入って(B),凝縮され(C),過冷却用の熱交換器42で過冷却されて(D),その後,他方の合流配管13を経て各室内機10a,10b,10c,・・・の分岐配管26に送られる(E)。そして,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21の入側(F)から出側(G)に至る間に熱媒は蒸発し,分岐配管25を経て一方の合流配管12に流れ込む(H)。更に,室外機11に戻された熱媒は,圧縮機30の入側配管31を経て(I),圧縮機30に戻って圧縮される(A)。こうして,室外機11の圧縮機30および熱交換器40(凝縮器)で圧縮・凝縮させた熱媒を循環供給して,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21で熱媒を蒸発させる冷凍サイクルを行うことにより,圧縮膨張方式の冷房運転を行う。その際,室外機11から各室内機10a,10b,10c,・・・に送られる熱媒が,過冷却用の熱交換器42で冷却されて過冷却の状態となることにより,各室内機10a,10b,10c,・・・で高い能力の冷房運転が行われる。なお,いわゆるビルマルチ型の空調装置では,室外機11と各室内機10a,10b,10c,・・・は,最大100〜200m程度の合流配管12,13で結ばれており,断熱をしても合流配管12,13と周辺空気との熱交換が行われる。そのため各室内機10a,10b,10c,・・・の分岐配管26に送られた際の熱媒のエンタルピ(E)は,過冷却用の熱交換器42で過冷却された際の熱媒のエンタルピ(D)よりもやや大きくなる。なお,エンタルピ(E),(F),(G)は,室外機11と各室内機10a,10b,10c間の圧損と侵入熱量の大きさの違いによりばらつく。
過冷却なしの場合(図4)は,室外機11の圧縮機30から出た熱媒(A)は,室外機11の熱交換器40に入って(B),凝縮され(C),その後,他方の合流配管13を経て各室内機10a,10b,10c,・・・の分岐配管26に送られる(E)。そして,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21の入側(F)から出側(G)に至る間に熱媒は蒸発し,分岐配管25を経て一方の合流配管12に流れ込む(H)。更に,室外機11に戻された熱媒は,圧縮機30の入側配管31を経て(I),圧縮機30に戻って圧縮される(A)。こうして,室外機11の圧縮機30および熱交換器40(凝縮器)で圧縮・凝縮させた熱媒を循環供給して,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21で熱媒を蒸発させる冷凍サイクルを行うことにより,圧縮膨張方式の冷房運転を行う。なお,エンタルピ(E),(F),(G)は,室外機11と各室内機10a,10b,10c間の圧損と侵入熱量の大きさの違いによりばらつく。
図5において,縦軸の「入側配管31(I点)の熱媒の過熱度」は,圧縮機30の吸込側熱媒の乾き具合を直接的に示す指標である。この値が0ならば圧縮機30の吸込側熱媒が飽和状態,プラスなら過熱蒸気,マイナスなら気液2相流,ということになる。通常運転では7℃以上であるが,液バックしやすい運転条件(低負荷,低外気温度,高室内温度)で過冷却熱交換量を増加させていくと,−1℃程度まで下がる。実際には1℃以下で液バックによる保護制御作動があるので,「I点の過熱度」が1℃以上の時を「液バックなし」と判断する。しかしながら「I点の過熱度」を求めるには,圧縮機30の吸込側の熱媒温度と熱媒圧力情報が必要で,更にこれらを演算させるシーケンサ等も必要なため,実際に用いるのは不便である。そこで「I点の過熱度」に準じるデータとして,温度差(表面温度I−表面温度H)を用いる。図5に示すように両者には良い相関があり,温度差(表面温度I−表面温度H)を0〜1℃以上にすれば,「I点の過熱度」を1℃以上にすることができる。
以上に説明したように,冷房運転時においては,温度センサ65によって測定された一方の合流配管12の表面温度Hと,温度センサ66によって測定された入側配管31の表面温度Iとを比較して,液バックの発生を防止しながら,各室内機10a,10b,10c,・・・において必要に応じて高い能力で冷房を行うことができる。この場合,冷却塔55の冷却水を利用することにより,電力などのエネルギ−を大量に要さずに熱媒を冷却でき,空調装置全体の省エネルギ−性を高めることができる。また,屋外への排熱は,室外機11の排熱の他,冷却塔55による水の蒸発潜熱でなされるため,屋外への排熱が顕熱のみである空冷のビル用マルチなどに比べ,都市のヒ−トアイランド現象も抑制できる。更に,室外機へ散水するシステムと違って,室外機廻りの水仕舞いの問題を発生させずに冷房能力を向上できる。
なお,表面温度Hと表面温度Iを比較する場合,この実施の形態では,一方の合流配管12と入側配管31との間に介在している四方弁35によって一定の圧損があるため,一方の合流配管12中で熱媒の状態がガスになっていれば,入側配管31では熱媒(ガス)は合流配管12中よりやや低圧・高温になる。一方,一方の合流配管12中で熱媒の状態が気液2相流であれば,熱媒(液)の蒸発に伴って熱媒温度が低下するため,入側配管31での熱媒(ガスまたは気液2相)の温度が合流配管12中での熱媒(気液2相)の温度より高温になるとは限らない。そのため両者の温度差から,圧縮機30吸込熱媒の過熱度を間接的に計測することができる。すなわち(表面温度I−表面温度H)から圧縮機30吸込熱媒の過熱度を推測できる。なお,温度差(表面温度I−表面温度H)と一方の合流配管12の表面の過熱度の相関を図5に示す。表面温度I−表面温度H>0〜1℃(過冷却基準温度差)とすることで圧縮機30吸込熱媒を完全にガス化させ,液バックを防止できる。
また,以上のように構成された空調装置において主として冬季に行われる暖房運転時には,四方弁35の切替え操作により,図2に示すように,入側配管31と他方の合流配管13が接続され,出側配管32と一方の合流配管12が接続された状態とする。そして,室外機11の圧縮機30で圧縮した熱媒を,他方の合流配管13を通して,各室内機10a,10b,10c,・・・に供給する。
こうして,圧縮された熱媒が,一方の合流配管12から分岐配管25を経て各室内機10a,10b,10c,・・・に供給される。そして,各室内機10a,10b,10c,・・・において,熱交換器21(凝縮器)に熱媒が循環されて冷凍サイクルにより室内の暖房が行われる。
そして,各室内機10a,10b,10c,・・・の熱交換器21(凝縮器)において液化した熱媒が,分岐配管26から他方の合流配管13を経て室外機11に戻される。このように他方の合流配管13を通して室外機11に戻される熱媒は,逆止弁46が介在しているバイパス配管45を流れることにより,過冷却用の熱交換器42を迂回し,室外機11の制御弁41,熱交換器40(蒸発器)の順に循環された後,四方弁35,入側配管31を介して室外機11の圧縮機30に戻る。
かかる暖房運転時には,一方の合流配管12の表面温度Hが設定室温から20〜50℃高い範囲で設定される暖房基準温度よりも高くなるので,制御部60は,こうして入力された一方の合流配管12の表面温度Hと設定室温を比較し,一方の合流配管12の表面温度Hが暖房基準温度よりも高くなっている場合に,空調装置が暖房運転していると判断することができる。
そして暖房運転と判断した場合は,冷却水用制御弁67の制御部68は,冷却水用制御弁67の開度を0にするように出力する。これにより,過冷却用の熱交換器42に冷却水が供給されない状態となる。
また,以上のように構成された空調装置の運転が停止している場合は,一方の合流配管12の表面温度Hは,設定室温から5〜15℃低い範囲で設定される冷房基準温度よりも低い状態にならず,また,設定室温から20〜50℃高い範囲で設定される暖房基準温度よりも高い状態にもならない。そこで,温度センサ65によって測定された表面温度Hが,冷房基準温度よりも低い状態ではなく,また,暖房基準温度よりも高い状態でもない場合は,制御部60は,空調装置の運転が停止していると判断することができる。
このように運転停止と判断した場合も,冷却水用制御弁67の制御部68は,冷却水用制御弁67の開度を0にするように出力する。これにより,過冷却用の熱交換器42に冷却水が供給されない状態となる。
なお,先に図3,4で説明したように,各室内機10a,10b,10c,・・・中での熱媒のエンタルピ(E),(F),(G)は,圧損と侵入熱量の影響でばらつく。しかしながら,各室内機10a,10b,10c,・・・中では熱媒の温度を測定することなく,一方の合流配管12の表面温度Hに基いて,空調装置の運転状態を判断しているので,圧損と侵入熱量の影響を受けずに,空調装置の運転状態を正確に把握することができる。また,冷房運転時には,合流配管12の表面温度Hと入側配管31の表面温度Iとを比較することによって,液バックの発生を確実に回避できるようになる。
その結果,高い冷房能力が要求されているときにのみ過冷却用の熱交換器42に冷却水を供給して過冷却を行うことにより,暖房運転時や低負荷冷房運転時は,過冷却用の熱交換器42への冷却水の供給を停止,減少させ,冷却水搬送動力や冷熱源動力を削減することで,空調装置全体を高効率化できる。
なお,合流配管12の表面温度Hや入側配管31の表面温度Iは,外部から温度センサ65,66を後付けすることで容易に計測が可能である。そのため,センサ取付けに伴って空調装置の改造等が発生しない。センサの後付けが可能で,ビル用マルチ自体をいじる必要が無い。従って,高価なオプション部品等が不要であり,どのメーカの空調装置にも適用でき,配線の手間やコストも削減できる。また,温度センサ65,66の設置個数は,室外機1台(複数の室外機を集合して使う場合は1セット)につき1箇所で済む。そして,空気温度と比較して表面温度H,Iは,圧縮機の発停に対する応答が早いので,得られた情報の時間遅れが少ない。例えば1〜数秒刻みで圧縮機発停情報を得ることも可能である。従って,ビルマルチ方式の空調装置の運転状態把握を安価に速やかに行うことができる。
なお,この実施の形態に示したように,表面温度Hと設定温度の温度差を適当に調整することで,過冷却を行う運転馬力数下限値を上下させることができる。