本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、ポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤を含む樹脂層が積層され、ポリエステル樹脂を構成する全ジオール成分の75モル%〜99モル%がジエチレングリコールであり、樹脂層を構成するポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤の比率が質量比で20/80〜70/30である必要がある。
上述のように、ポリエステル樹脂として特定のポリエステル樹脂を用い、かつ該ポリエステル樹脂とオキサゾリン架橋剤の比率を特定の割合で混合した樹脂層が積層されることによって、はじめて、本発明の目的とする接着性が得られる。ここで、「ポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤を含む樹脂層」とは、ポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤の混合物が含まれて構成されている樹脂層のことをいう。したがって、それらが別々に層を分けて積層されているものは含まないものである。
このようなポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤を、質量比で20/80〜70/30の比率で組み合わせることによって、各種被覆物の積層に際して高温、長時間の熱処理にさらされた場合、特に金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温、長時間かけて積層した場合において、優れた接着性が得られることを見いだしたものである。
上述の本発明にかかる樹脂層を積層した構成とすることによって、目的とする接着性が発現するメカニズムについては明らかではないが、ポリエステル樹脂を構成する全ジオール成分の40モル%以上、より具体的には、75モル%〜99モル%をジエチレングリコールとすることで、樹脂層が柔軟化され、金属などを高温、長時間かけて積層した場合の応力緩和に寄与し、さらにオキサゾリン系架橋剤を上記の比率で組み合わせることで、ポリエステルフィルムと樹脂層との結合力が強められ、金属などを高温、長時間かけて積層した場合の層間接着力向上に寄与し、これらの相乗効果によって目的とする接着性が得られるものと推定される。
すなわち、本発明にかかる樹脂層の構成とすることによって、応力緩和効果があり、かつポリエステルフィルムと界面接着力を発揮する樹脂層が得られるため、これらの特性の相乗効果により、金属などのポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温、長時間かけて積層した場合でも、優れた接着力を発揮するものと推定される。
また、樹脂層を本発明にかかる構成とすることで、耐溶剤性に優れた樹脂層が得られるため、樹脂溶解性の高い溶媒、例えば双極性非プロトン溶媒などからなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性を向上させることができる。
すなわち、樹脂層を本発明にかかる構成とすることにより、高温、長時間熱処理を行った際の接着性と、耐溶剤性を両立させることができる。
樹脂層を構成するポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤の比率は、質量比で20/80〜70/30とすることが肝要である。この範囲とすることにより、上記相乗効果が発現し、金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温、長時間かけて積層した場合において優れた接着性が得られ、また、優れた耐溶剤性が得られる。比率が上記範囲を外れた場合には、ポリエステルフィルムと樹脂層間で剥離が生じるなど、目的とする接着力を得ることが一般に難しくなる。ポリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤の好ましい比率は、質量比でポリエステル樹脂/オキサゾリン系架橋剤=30/70〜60/40である。
本発明のポリエステル樹脂の比率が上記範囲より少なくなると、金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温、長時間かけて積層した場合に、ポリエステルフィルムと樹脂層界面での剥離が生じやすくなる。この現象が発現するメカニズムは明らかではないが、本発明のポリエステル樹脂比率の低下により、樹脂層内の応力緩和効果が不十分となるものと推定される。
また、オキサゾリン系架橋剤の比率が上記範囲より少なくなった場合にも、ポリエステルフィルムと樹脂層界面での剥離が生じやすくなる。この現象が発現するメカニズムは明らかではないが、オキサゾリン系架橋剤比率の低下により、ポリエステルフィルムと樹脂層との界面の界面接着力効果が不十分となるものと推定される。
本発明において用いられるオキサゾリン系架橋剤は、架橋剤として作用し得るオキサゾリンを官能基として有する化合物であればよく、特に限定されるものではないが、オキサゾリンを有するモノマーを少なくとも1種含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーと共重合させて得られるオキサゾリン含有共重合体が好ましい。
ここで、オキサゾリンを有するモノマーとしては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどを用いることができる。これらは、単独でも、または2種以上を併用して使用することもできる。中でも、2-イソプロペニル-2-オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
また、オキサゾリンを有するモノマーと共重合させる他のモノマーとしては、オキサゾリンを有するモノマーと共重合可能なモノマーであればよく、特に限定されない。具体的には、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸-2-エチルヘキシル、メタクリル酸-2-エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N-メチロールアクリルアミド、N-メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン-α,β-不飽和モノマー類、スチレン、α-メチルスチレンなどのα,β-不飽和芳香族モノマー類などを用いることができる。これらは単独でも、または2種以上を併用して使用することもできる。
樹脂層にオキサゾリン系架橋剤が含まれていると、高温高湿下におかれた場合でも積層ポリエステルフィルムと被覆物との接着性が低下することがない点でも、好ましい。さらには、樹脂層にオキサゾリン系架橋剤およびポリエステル樹脂を含むことが、湿熱処理を行った後の、積層ポリエステルフィルムと被覆物との接着性の点で、より好ましい。湿熱処理後の接着性が高いと、被覆物を設けたフィルムを加工して、電気絶縁材料などとして使用する際に、耐環境性が高くなるので好ましい。
樹脂層に含有されるオキサゾリン系架橋剤は、水系液にして塗液として用いるのが好ましい。水系液にして塗液として用いると、本発明のポリエステルや、その他の成分との混合が容易となり、その結果、樹脂層の接着性の効果が向上する。
本発明におけるポリエステル樹脂は、ポリエステル樹脂を構成する全ジオール成分の75モル%以上がジエチレングリコールである必要があり、ちなみに、この範囲を大きく外れる場合、たとえばジエチレングリコールが全ジオール成分の40モル%未満であると、本発明の所期の目的とする接着性を発現させることは難しい。また、ジエチレングリコール量の上限は特に規定されないが、全ジオール成分の99モル%よりも多くしたとしても、本発明の接着性の効果が著しく向上するものではなく、99モル%以下で十分である。
すなわち、上述した範囲を大きく外れる場合、たとえば、ジエチレングリコールが全ジオール成分の40モル%未満であると、金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温、長時間かけて積層した場合に、ポリエステルフィルムと樹脂層界面での剥離が生じやすくなる。この現象が発現するメカニズムは明らかではないが、ジエチレングリコールの量が不足すると、樹脂層内の応力緩和効果が不十分となるものと推定される。
ポリエステル樹脂は、水系液にして塗液として用いるのが好ましく、この場合には、ポリエステル樹脂の水溶化あるいは水分散化を容易にするため、酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物や、酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物を共重合する必要がある。水系液にして塗液として用いると、本発明のオキサゾリン系架橋剤や、その他の成分との混合が容易となり、その結果、樹脂層の接着性の効果が向上する。ここで用いられるポリエステル樹脂とは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するものである。
スルホン酸塩基を含有する化合物や、3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物の共重合率は、全酸成分の0.5モル%〜40モル%であることが好ましい。共重合率が0.5モル%よりも小さいと、ポリエステル樹脂の水溶化あるいは水分散化が困難になるため、他の水溶性、水分散化物との混合が困難になるなど使用時に不都合が生じる場合がある。40モル%よりも多い場合には、被覆物を設けた後、高温高湿下におくと、接着性が低下することがある。
酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物を共重合されてなるポリエステル樹脂とは、酸成分として、例えば、スルホテレフタル酸、5-スルホイソフタル酸、4-スルホイソフタル酸、4-スルホナフタレン-2,7-ジカルボン酸、スルホ-p-キシリレングリコール、2-スルホ-1,4-ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどあるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を共重合させたポリエステル樹脂である。
酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物を共重合されてなるポリエステル樹脂とは、酸成分として、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4-メチルシクロヘキセン-1,2,3-トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフルフリル)-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’-ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン-2,3,4,5-テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸など、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を共重合させたポリエステル樹脂である。
水分散化を容易にするための成分としては、酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物を共重合することが、本発明の優れた接着性の効果が得られやすいため好ましい。酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物を共重合した場合には、樹脂層の応力緩和効果、およびポリエステルフィルムとの界面接着力効果が十分に発現し、これらの特性の相乗効果が得られ、本発明の接着性の効果が得られやすくなる。
一方、酸成分として、スルホン酸塩基を含有する化合物の共重合量が少なく、3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物の共重合量が多い場合には、本発明の接着性の効果が低下する場合がある。この現象が発現するメカニズムは明らかではないが、ポリエステル樹脂鎖にカルボン酸が多く存在した場合には、このカルボン酸とオキサゾリンとの反応が発生し、樹脂層内での架橋点が多くなる場合があり、その結果、応力緩和効果、およびポリエステルフィルムとの界面接着力効果が低下する場合が生じ、本発明の接着性の効果が低下する場合があるものと推定される。従って、本発明における樹脂層においては、オキサゾリンと架橋反応が起こりにくい、すなわち、カルボン酸の含有量が少ないポリエステル樹脂を選択することが好ましい。
ポリエステル樹脂中における3価以上の多価カルボン酸塩基の共重合量は好ましくは全酸成分の50モル%以下、より好ましくは15モル%以下、さらに好ましくは5モル%以下である。
ポリエステル樹脂を構成するその他の酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸等を使用することができる。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5-ジメチルテレフタル酸、1,4-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、1,2-ビスフェノキシエタン-p,p’-ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。樹脂層の強度や耐熱性の点から、これらの芳香族ジカルボン酸が、好ましくは全酸成分の30モル%以上、より好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上を占めるポリエステルを用いることが好ましい。
また、脂肪族および脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3-シクロペンタンジカルボン酸、1,2-シクロヘキサンジカルボン酸、1,4-シクロヘキサンジカルボン酸など、およびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
ポリエステル樹脂のジエチレングリコール以外のジオール成分としては、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、2,4-ジメチル-2-エチルヘキサン-1,3-ジオール、ネオペンチルグリコール、2-エチル-2-ブチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-イソブチル-1,3-プロパンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2,4-トリメチル-1,6-ヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジメタノール、1,3-シクロヘキサンジメタノール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4-テトラメチル-1,3-シクロブタンジオール、4,4’-チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’-メチレンジフェノール、4,4’-(2-ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’-ジヒドロキシビフェノール、o-,m-,およびp-ジヒドロキシベンゼン、4,4’-イソプロピリデンフェノール、4,4’-イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,2-ジオール、シクロヘキサン-1,4-ジオールなどを用いることができる。
ポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は5〜55℃であることが好ましい。Tgが5℃未満では、樹脂層同士が固着するブロッキング現象が発生することがある。Tgが55℃を超える場合、接着性の効果が発現しなかったり、樹脂の安定性や水分散性が劣る場合がある。Tgは好ましくは10〜50℃であり、より好ましくは15〜40℃である。
Tgの異なるポリエステル樹脂を数種類組み合わせて用いてもよいが、Tgが55℃以下のポリエステル樹脂を1種または2種以上用いることが好ましい。Tgが55℃より大きいポリエステル樹脂が含まれていると、目的とする接着力が十分得られない場合がある。
また、本発明においては、樹脂層に用いられるポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体なども使用可能である。
樹脂層に用いられる好ましいポリエステル樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコールから選ばれる共重合体などが挙げられる。
本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層に用いられるポリエステル樹脂の製造方法は、特に限定されないが、たとえば、以下の製造法によって製造することができる。
すなわち、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸、ジオール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコールからなるポリエステル樹脂について説明すると、テレフタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸とエチレングリコール、ジエチレングリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸、イソフタル酸、5-ナトリウムスルホイソフタル酸及びエチレングリコール、ジエチレングリコールとをエステル交換反応させる第一段階と、この第一段階の反応生成物を重縮合反応させる第二段階とによって製造する方法などにより製造することができる。
この際、反応触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物などを用いることができる。
本発明におけるボリエステル樹脂とオキサゾリン系架橋剤とを含む樹脂層の厚みは、片面あたり0.001〜1μmであることが好ましい。厚みが0.001μmよりも薄い場合、接着性が十分に得られない場合がある。厚みが1μmよりも厚い場合には、ポリエステルフィルム本来の特性を損ねたり、被覆物を設けた後のフィルムの物性に悪影響を及ぼしたりするという問題を生じる場合がある。樹脂層の厚みは好ましくは0.05〜0.6μm、より好ましくは0.1〜0.4μmである。
本発明において、ポリエステルフィルムに使用するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどがあり、これらの2種以上が混合されたものであってもよい。また、本発明の効果が損なわれない範囲で、これらに他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであってもよい。ポリエステルの極限粘度(25℃のo-クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.5〜0.8dl/gであることがより好ましい。
また、本発明におけるポリエステルフィルムは、二軸配向されたものであることが、機械的特性や寸法安定性の点で望ましい。二軸配向しているとは、例えば、未延伸すなわち結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ2.5〜5.0倍程度延伸し、その後、熱処理により結晶配向を完了させたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。
本発明に使用するポリエステルフィルムは、単膜フィルムである必要はなく、本発明の効果が損なわれない範囲内ならば、内層と表層の2層以上の複合体フィルムとしてもよい。例えば、内層は実質的に粒子を含有せず、表層に粒子を含有する層を設けた複合体フィルム、あるいは、内層は粗大粒子を含有し、表層に微細粒子を含有する層を設けた複合体フィルム、あるいは内層が微細な気泡を含有した層であって、表層は実質的に気泡を含有しない層である複合体フィルムなどが挙げられる。また、上記複合体フィルムは内層と表層が異種のポリエステルであってもよく、あるいは同種のポリエステルであってもよい。
本発明にかかる上述した積層ポリエステルフィルムの両面に、ポリイミドを含む層を積層することによって、本発明の特許請求の範囲第4項にかかる難燃性ポリエステルフィルムを得ることができる。本発明におけるポリイミドを含む層にはハロゲン基を含有しないことが好ましい。
本発明の積層ポリエステルフィルムは、本発明にかかる樹脂層を積層されていることにより、ポリイミドを含む層との接着性に優れているものである。従って、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、各層の接着性に優れたものとなる。
以下、この本発明にかかる難燃性ポリエステルフィルムについて説明をする。
本発明に用いられるポリイミドは、特に限定されないが、環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであることが好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミド以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていてもよい。
このポリイミドとしては、例えば、下記一般式で示されるような構造単位を含有するものが好ましい。
上記式中のArは6〜42個の炭素原子を有する芳香族基であり、Rは6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、2〜30個の炭素原子を有する脂肪族基および4〜30個の炭素原子を有する脂環族基からなる群より選択された2価の有機基である。
上記一般式において、Arとしては、例えば、
を挙げることができる。Rとしては、例えば、
を挙げることができる。(式中nは、2〜30の整数である。)
これらは、本発明の効果が損なわれない範囲内で、1種あるいは2種以上一緒にポリマー鎖中に存在してもよい。
このポリイミドは、従来から知られている方法によって製造することができる。例えば、上記Arを誘導することができる原料であるテトラカルボン酸および/またはその酸無水物と、上記Rを誘導することができる原料である脂肪族一級ジアミンおよび/または芳香族一級ジアミンよりなる群から選ばれる一種もしくは二種以上の化合物とを脱水縮合することにより、ポリアミド酸を得る。次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いてポリアミド酸を脱水閉環する。または、テトラカルボン酸無水物とジイソシアネートとを加熱して脱炭酸を行って重合する方法などを例示することができる。
上記方法で用いられるテトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸、1,2,3,4-ベンゼンテトラカルボン酸、3,3',4,4'-ビフェニルテトラカルボン酸、2,2',3,3'-ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2',3,3'-ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン、1,1'-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン、2,2'-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2'-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)スルホン、2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8-ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6-ナフタレンテトラカルボン酸、2,2'-ビス[(2,3-ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン等および/またはその酸無水物等が挙げられる。
また、ジアミンとしては、例えば、ベンジジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、ジアミノジフェニルプロパン、ジアミノジフェニルブタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルベンゾフェノン、o,m,p-フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等の芳香族一級ジアミン等や、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジアミン、1,6-ヘキサメチレンジアミン、1,8-オクタメチレンジアミン、1,9-ノナメチレンジアミン、1,10-デカメチレンジアミン、1,11-ウンデカメチレンジアミン、1,12-ドデカメチレンジアミン、2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジアミン、1,4-シクロヘキサンジメチルアミン、2-メチル-1,3-シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂肪族または脂環族一級ジアミン等を例示することができる。
上記ポリイミドの製造方法において、ポリアミド酸を得て、次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いて脱水閉環する方法を用いる場合には、以下の脱水剤や触媒が好適に用いられる。
脱水剤としては、例えば、無水酢酸などの脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが挙げられる。また、触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類などが挙げられる。
本発明においては、これらの中でも、特に下記式(I)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、下記式(II)で示されるイミダゾール系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を触媒として用いることが好ましい。
(式中、R
1 、R
2 、R
3 、R
4 およびR
5 のうち少なくとも1つは水酸基である。水酸基以外の場合は、それぞれ水素原子、1〜30個の炭素原子を有する脂肪族基、6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、4〜30個の炭素原子を有するシクロアルキル基、7〜30個の炭素原子を有するアラルキル基およびホルミル基のいずれかを示す。)
(式中、R
6 、R
7 、R
8 およびR
9 は、それぞれ、水素原子、1〜30個の炭素原子を有する脂肪族基、6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、4〜30個の炭素原子を有するシクロアルキル基、7〜30個の炭素原子を有するアラルキル基およびホルミル基のいずれかを示す)。
式(I)のヒドロキシピリジン系化合物の具体例としては、2-ヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシピリジン、4-ヒドロキシピリジン、2,6-ジヒドロキシピリジン、3-ヒドロキシ-6-メチルピリジン、3-ヒドロキシ-2-メチルピリジンなどが挙げられる。
式(II)中のR1 、R2 、R3 およびR4 としては、例えば、脂肪族基の場合は炭素数1〜17のアルキル基、ビニル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基が好ましく、芳香族基の場合はフェニル基が好ましく、アラルキル基の場合はベンジル基が好ましい。
式(II)のイミダゾール系化合物の具体例としては、1-メチルイミダゾール、1-エチルイミダゾール、1-プロピルイミダゾール、1-フェニルイミダゾール、1-ベンジルイミダゾール、1-ビニルイミダゾール、1-ヒドロキシエチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-プロピルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、2-ブチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、2-ヘプタデシルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-ベンジルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、4-フェニルイミダゾール、4-ベンジルイミダゾール、1,2-ジメチルイミダゾール、1,4-ジメチルイミダゾール、1,5-ジメチルイミダゾール、1-エチル-2-メチルイミダゾール、1-ビニル-2-メチルイミダゾール、2,4-ジメチルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-フェニル-4-メチルイミダゾール、2-ブチル-4-ヒドロキシメチルイミダゾール、2-ブチル-4-ホルミルイミダゾール、2,4-ジフェニルイミダゾール、4,5-ジメチルイミダゾール、4,5-ジフェニルイミダゾール、1-ベンジル-2-メチルイミダゾール、1-ベンジル-2-フェニルイミダゾール、1,2,5-トリメチルイミダゾール、1,4,5-トリメチルイミダゾール、1-メチル-4,5-ジフェニルイミダゾール、2-メチル-4,5-ジフェニルイミダゾール、2,4,5-トリメチルイミダゾール、2,4,5-トリフェニルイミダゾール、1-シアノエチル-2-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾール、1-シアノエチル-2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
式(I)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、式(II)のイミダゾール系化合物には脱水閉環反応を促進する効果があることから、これらの化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより低温、かつ、短時間の熱処理で脱水閉環できるので、生産効率が良くなるため好ましい。その使用量は、より好ましくはポリアミド酸の繰り返し単位に対して10モル%以上であり、さらに好ましくは40モル%以上である。添加量がポリアミド酸の繰り返し単位に対してかかる好ましい範囲であると、低温、かつ、短時間においても脱水閉環させる効果を十分に維持できる。脱水閉環しないポリアミド酸繰り返し単位が残存していても良いが、ポリアミド酸が十分に脱水閉環して、ポリイミドになった割合が高くなると、ポリイミドを含む層の耐溶剤性および耐湿熱性が向上するため、より好ましい。添加量の上限はも特に限定されないが、原料価格を低く抑える観点から一般にポリアミド酸の繰り返し単位に対して300モル%以下であることが好ましい。
本発明においては、ポリイミドの全構造単位の70%以上100%以下が下記式(III)で表される構造単位であることが特に好ましい。
(式(III)中のR’は下記式(IV)の中から選ばれる少なくとも1種の基である。)
(式(IV)中のX、Yは下記式(V)の中から選ばれる少なくとも1種の基である。)
-O-,-CH
2 -,-CO-,-SO
2 -,-S-,-C(CH
3 )
2 - (V)
ポリイミドの全構造単位の70%以上が上記式(III)で表される構造単位でない場合には、難燃性の効果が低下したり、積層厚みを厚くしなければ難燃性の効果が得られず生産性やコスト面での優位性のないものとなることがある。また、上記式(III)以外の構造単位を30%より多く有するポリイミドは、これを合成するときの原料コストが高価となる傾向があり、難燃性ポリエステルフィルムのコストが高くなるなどの問題が生じる場合がある。
本発明におけるポリイミドは、より好ましくは下記式(VI)で表される構造単位を70%以上有するポリイミドであり、特に好ましくは下記式(VI)で表される構造単位を90%以上有するポリイミドである。
本発明におけるポリイミドを含む層は、樹脂成分以外に前記の非可燃性ガスを発生する化合物を含有することが好ましい。非可燃性ガスを発生する化合物を含有させることによって、難燃性の効果が発現しやすくなる。
非可燃性ガスを発生する化合物としては、特に限定されないが、無機炭酸化物、無機水酸化物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、グアニル尿素系化合物、含ハロゲン化合物等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、難燃性の点から、無機水酸化物および/またはトリアジン系化合物が好ましく、無機水酸化物が特に好ましい。
無機水酸化物としては、種々のものが使用できるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム等が好適に用いられる。これらの中でも、水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムが好ましい。難燃性の点で特に好ましいのは、水酸化マグネシウムである。また、水酸化アルミニウムは、ポリイミドを含む層を高温高湿下においた場合でも、ポリイミドを含む層の劣化を促進することが少ないため好ましい。これらの無機水酸化物の平均粒子径は1.5μm以下であることが難燃性の点で好ましく、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましいのは0.5μm以下である。また、これらの無機水酸化物を亜鉛化合物および/またはホウ素化合物からなる被覆層で被覆したり、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、脂肪酸等により表面処理した場合には、難燃性の効果が発現しやすくなるため好ましい。
トリアジン系化合物としては、例えば、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、メラミンフォスフェート、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、トリス(β-シアノエチル)イソシアヌレート、アセトグアナミン、硫酸メレム、硫酸メラム等が挙げられる。
ここで、非可燃性ガスを発生する化合物の添加量は、ポリイミドを含む層の1〜65質量%であることが好ましい。1質量%未満であると難燃性の効果が十分に発現しない場合がある。65質量%より多いとポリイミドを含む層が脆くなったり、難燃性の効果が発現しない場合がある。添加量は、好ましくは5〜60%であり、より好ましくは10〜50%である。また、非可燃性ガスを発生する化合物の添加量は、難燃性ポリエステルフィルム全体の0.01〜20質量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜10質量%であり、さらに好ましくは0.01〜3質量%である。
本発明において、難燃性ポリエステルフィルム全体厚みに対するポリイミドを含む層の厚みの割合は、0.5〜30%であることが好ましい。ポリイミドを含む層の厚みの割合は、より好ましくは1.0〜10%、さらに好ましくは1.0〜5.0%である。ここで、ポリイミドを含む層の厚みは、両面のポリイミドを含む層の合計厚みである。難燃性ポリエステルフィルム全体厚みに対するポリイミドを含む層の厚みの割合が、かかる範囲であると、難燃性の効果が十分に発揮され、また、生産性が良好である。このとき、ポリイミドを含む層の厚みは、片面当たり0.05〜10μm程度が好ましく、より好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜2.5μm程度である。ポリイミドを含む層の厚みの割合が大きい、および/または、ポリイミドを含む層の厚みが厚い場合には、ポリエステルフィルム本来の機械強度が低下する場合がある。
本発明に使用するポリイミドを含む層の形成方法は、例えば、ポリイミドを含む層と積層ポリエステルフィルムを共押出により積層してもよく、ポリイミドを含む層を積層ポリエステルフィルムに貼り合わせてもよく、ポリイミドを含む層の形成溶液を積層ポリエステルフィルムに塗布し乾燥する方法により形成してもよい。これらの中で、塗布によりポリイミドを含む層を形成する方法が、積層ポリエステルフィルムの接着性の効果を十分に発現させることができるため好ましい。
また、ポリイミドを含む層に非可燃性ガスを発生する化合物を含有させる場合には、塗布によりポリイミドを含む層を形成する方法が、比較的穏やかな条件でポリイミドを含む層を形成でき、非可燃性ガスを発生する化合物の変質を防ぎやすいため、好ましい。塗布によりポリイミドを含む層を形成する方法としては、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、ナイフコート法などを用いることができる。また、効率よく溶剤を乾燥するために赤外線による加熱を用いてもよい。
塗布によりポリイミドを含む層を形成する場合、ポリイミドを含む層形成用塗布液の溶媒としては、特に限定されないが、N-メチル-2-ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドなどの双極性非プロトン溶媒、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n-ブタノール、イソブタノール、3-メトキシ-3-メチル-1-ブタノール、1,3ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、トルエン、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコール、エチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、クロロホルム等、およびこれらの混合溶媒を使用できる。これらの中でも、溶媒中にアルコール類、ケトン類、エステル類、トルエンが含まれていると積層ポリエステルフィルムへの塗工性が良好となるため好ましい。より好ましくは、溶媒中にアルコール類が含まれていることが好ましい。
本発明において、ポリエステルフィルム、ポリイミドを含む層および樹脂層には、本発明の効果が損なわれない範囲内で、各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、あるいは各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。
これらの中でも無機の粒子、例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末などを添加した場合には、易滑性、耐傷性などが向上するので好ましい。無機粒子の平均粒子径は0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜1μm程度である。また、その添加量は、0.05〜20質量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10質量%である。
次に、本発明の積層ポリエステルフィルムを得る好ましい製造方法について以下に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの両面に、樹脂層形成塗液を塗布した後、少なくとも一方向に延伸し、かつ熱処理することにより製造することが好ましい。中でも、生産性を考慮すると、製膜工程中に、塗布方法で樹脂層を設ける方法が特に好ましく用いられる。
具体的には、溶融押し出しされた結晶配向前のポリエステルフィルムを長手方向に2.5〜5倍程度延伸し、一軸延伸されたフィルムに連続的に樹脂層形成塗液を塗布する。塗液が塗布されたポリエステルフィルムは、段階的に加熱されたゾーンを通過しつつ乾燥し、幅方向に2.5〜5倍程度延伸される。更に、連続的に150〜250℃の加熱ゾーンに導かれ結晶配向を完了させる方法(インラインコート法)等によって樹脂層を積層させることができる。
本発明においては、接着性の点でも、インラインコート法により樹脂層を積層させることが好ましい。結晶配向完了前のポリエステルフィルムに樹脂層を積層した場合には、ポリエステルフィルムと樹脂層の界面接着力効果が発揮されやすくなり、その結果、金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性が異なる素材を、高温、長時間かけて接着させた場合において優れた接着力が発現しやすくなる。結晶配向完了後のポリエステルフィルムに樹脂層を設けた場合には、優れた接着力が得られない場合がある。
本発明においては、樹脂層を積層する前に、ポリエステルフィルムの表面(上記例の場合では、一軸延伸熱可塑性樹脂フィルム)にコロナ放電処理などを施し、ポリエステルフィルム表面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とすることが、樹脂層とポリエステルフィルムとの接着性を向上させることができるので好ましいものである。
本発明においては、積層された樹脂層の表面に、コロナ放電処理、窒素雰囲気下および/または二酸化炭素雰囲気下での放電加工処理等を施すと、樹脂層とポリイミドを含む層との接着性をさらに向上できるため好ましい。
次に、本発明の難燃性ポリエステルフィルムを得る好ましい製造方法について、以下に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の積層ポリエステルフィルム両面の樹脂層上に、N-メチル-2-ピロリドンに溶解したポリアミド酸溶液に、水酸化アルミニウムを添加した溶液をバーコート法で塗布して、乾燥し、150〜250℃で脱水閉環を行って難燃性ポリエステルフィルムとする。
積層ポリエステルフィルム、難燃性ポリエステルフィルムの厚みは、通常、5〜500μm程度であり、用途に応じて適宜選択することができる。
このようにして得られた本発明の積層ポリエステルフィルムは、被覆物の積層に際して高温、長時間の熱処理にさらされた場合、特に金属などポリエステルフィルムと熱寸法安定性の異なる積層物を高温で、長時間をかけて積層した場合において優れた接着性を有し、耐溶剤性にも優れた積層ポリエステルフィルムであるため、磁気記録材料、電気絶縁材料、コンデンサ用材料、装材料、建築材料や、写真用途、グラフィック用途、感熱転写用途などの各種工業材料として好適に使用できる。また、高温、長時間の熱処理を行った場合でも接着性に優れる特性を生かして、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、絶縁モーター、電子部品などの電気絶縁材料の基板フィルムとして好適に使用できる。
また、このようにして得られた本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃性に優れるものである。また、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム中に難燃剤を添加したり、ポリエステルにハロゲン含有成分、リン含有成分を共重合したりしなくても、十分な難燃性を有するため、ポリエステルフィルム本来の機械的特性を低下させずに難燃性を持たせることができる。また、ダイオキシンや加工工程を汚染するようなガスの発生も抑制することができる。さらに、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、各層間の接着力に優れるものである。そのため本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、絶縁モーター、電子部品などの電気絶縁材料をはじめとして、磁気記録材料、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料、各種工業材料として好適に使用できる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いた加工品、すなわち、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブルなどは、難燃性に優れるとともに、難燃剤のしみ出し等がないので、加工性に優れる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いた銅張り積層板は、難燃性に優れ、難燃剤のしみ出し等がないため加工性に優れるのに加えて、層間の接着力に優れた銅張り積層板である。
本発明の銅張り積層板は、一例を挙げれば、上記難燃性ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、銅からなる層を積層した構成からなるものである。
難燃性ポリエステルフィルムと銅からなる層の間にはアンカーコート層、接着剤層、粘着剤層等が設けられてもよい。銅からなる層は、銅箔を張り合わせる、銅を蒸着する、銅をスパッタするなどの公知の方法で形成できる。本発明の銅張り積層板は、銅からなる層をエッチングして回路を形成させてフレキシブルプリント基板として使用するなどの用途に用いることができる。
本発明の銅張り積層板を用いた回路基板は、可撓性に優れ、層間の接着力に優れた回路基板である。
本発明の回路基板は、一例を挙げれば、上記銅張り積層板の少なくとも片面の銅からなる層を、回路パターン状にした構成からなるものである。
回路パターンは、銅からなる層をエッチングするなど公知の方法で形成できる。本発明の回路基板は、各種電気、電子機器用の回路基板として使用するなどの用途に用いることができる。
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明において説明に使用した特性値の測定方法および効果の評価方法は、次のとおりである。
(1)接着強度
本発明の銅張り積層板を作成後、ポリエステルフィルムの長手方向が長さ方向になるようにして、長さ230mm、幅10mmに切り出した後、切り出した銅張り積層板の銅箔表面を幅2mmの銅箔が残るようにエッチングした。このとき、エッチング液としては、塩化第2鉄の40%水溶液を使用した。エッチング終了後、銅張り積層板を水で洗浄してから、室温で24時間乾燥を行うことで、接着性測定用サンプルを得た。
次に、得られた接着性測定用サンプルの接着強度を測定した。測定装置として、(株)東洋ボールドウィン製の万能型引張試験機UTM-4-100を用いて、引っ張り速度50mm/分、90°剥離にて、引き剥がし荷重を測定した。下記式(a)を用いて、引き剥がし荷重をエッチングした銅箔幅の2mmで除することによって、接着強度を求めた。接着強度が80g/mm以上のものを合格とした。
接着強度(g/mm)=引き剥がし荷重(g)/2(mm) ……式(a)
(2)剥離界面の観察
上記の(1)により接着強度を測定した後のポリエステルフィルムから断面を切り出し、その断面を電界放射走査電子顕微鏡(JSM-6700F型、日本電子(株)製)を用いて観察することで、接着強度測定後の剥離界面の観察を行った。
(3)難燃性
難燃性ポリエステルフィルムと銅張り積層板を50mm×200mmの短冊状に切り出した試料を、直径が12.7mm、長さが200mmの筒状になるように丸めた。この筒状にした試料を長手方向が地面と垂直方向になるようにして、長手方向の上端を把持し、下端を、約20mmの火炎に3秒間さらした後、離炎した。このとき、離炎後の試料の燃焼時間を測定した(1回目接炎時の燃焼時間)。次に、試料が燃え尽きずに消火された場合、消火後に1回目と同様にして2回目の接炎・離炎を行い、離炎後のフィルムの燃焼時間を測定した(2回目接炎時の燃焼時間)。この試験を5つの試料に対して繰り返し行った。難燃性は、5つの試料の1回目、2回目接炎時の燃焼時間の合計を2段階(○:50秒未満で自己消火し、優れている、×:50秒以内に自己消火しないまたは燃え尽き、劣っている)で評価した。この評価ランクの中でランク「○」を良好とした。
(4)ガラス転移温度(Tg)
ロボットDSC(示差走査熱量計)RDC220(セイコー電子工業(株)製)にSSC5200ディスクステーション(セイコー電子工業(株)製)を接続して測定した。試料10mgをアルミニウムパンに調整後、DSC装置にセットし(リファレンス:試料を入れていない同タイプのアルミニウムパン)、300℃の温度で5分間加熱した後、液体窒素中を用いて急冷処理した。この試料を10℃/分で昇温し、そのDSCチャートからガラス転移温度(Tg)を測定した。