本発明においては、ポリエステルフィルムの少なくとも片面に、樹脂成分とメラミン化合物を主成分とする樹脂層Aが積層されている必要がある。樹脂層Aが積層されることによって、本発明の目的とする接着性が得られる。
該樹脂層Aにおける樹脂成分は、40重量%以上がオキサゾリン基含有ポリマーおよび/または酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物が共重合されてなるポリエステル樹脂および/または酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物が共重合され、かつガラス転移温度(Tg)が25℃以上であるポリエステル樹脂である必要がある。これらの樹脂の含有量が樹脂成分の40重量%未満である場合には、良好な接着性が発現しない。
樹脂層Aにおける樹脂成分として用いられるオキサゾリン基含有ポリマーは、オキサゾリン基を有するモノマーを少なくとも1種含み、かつ、少なくとも1種の他のモノマーと共重合させて得られるものである。
ここで、オキサゾリン基を有するモノマーとしては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−エチル−2−オキサゾリンなどを用いることができる。これらは、単独でも、または2種以上を併用して使用することもできる。中でも、2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
また、オキサゾリン基を有するモノマーと共重合させる他のモノマーとしては、オキサゾリン基を有するモノマーと共重合可能なモノマーであれば特に限定されない。具体的には、例えば、アクリル酸メチル、メタクリル酸メチル、アクリル酸エチル、メタクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、メタクリル酸ブチル、アクリル酸−2−エチルヘキシル、メタクリル酸−2−エチルヘキシルなどのアクリル酸エステルあるいはメタクリル酸エステル類、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸などの不飽和カルボン酸類、アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、アクリルアミド、メタクリルアミド、N−メチロールアクリルアミド、N−メチロールメタクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのオレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲン−α,β−不飽和モノマー類、スチレン、α−メチルスチレンなどのα,β−不飽和芳香族モノマー類などを用いることができる。これらは単独でも、または2種以上を併用して使用することもできる。
樹脂層Aにオキサゾリン基含有ポリマーが含まれていると、樹脂溶解性の高い溶媒からなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性や、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性を向上させることができる。
また、樹脂層Aにオキサゾリン基含有ポリマーが含まれていると、高温高湿下におかれた場合でも易接着ポリエステルフィルムと被覆物との接着性が低下することがないため、好ましい。さらには、樹脂層Aにオキサゾリン基含有ポリマーおよびポリエステル樹脂を含むことが、湿熱処理を行った後の、易接着ポリエステルフィルムと被覆物との接着性の点で、より好ましい。湿熱処理後の接着性が高いと、被覆物を設けたフィルムを加工して、電気絶縁材料などとして使用する際に、耐環境性が高くなるので好ましい。
樹脂層Aに含有されるオキサゾリン基含有ポリマーは、水系液にして塗液として用いるのが好ましい。水系液にして塗液として用いると、本発明のメラミン化合物や、その他の成分との混合が容易となり、その結果、樹脂層Aの接着性の効果が向上する。
樹脂層Aにおける樹脂成分として用いられるポリエステル樹脂は、酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物が共重合されてなるポリエステル樹脂および/または酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物が共重合され、ガラス転移温度(Tg)が25℃以上であるポリエステル樹脂である必要がある。
ここで用いられるポリエステル樹脂とは、主鎖あるいは側鎖にエステル結合を有するものである。本発明の易接着ポリエステルフィルムにおいて、樹脂層Aには、これらのポリエステル樹脂が含まれることが好ましい。これらのポリエステル樹脂を用いることで、樹脂溶解性の高い溶媒からなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性や、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性を向上させることができる。
樹脂層Aの構成成分として用いられるポリエステル樹脂は、水系液にして塗液として用いるのが好ましく、この場合には、ポリエステル樹脂の水溶化あるいは水分散化を容易にするため、酸成分としてスルホン酸塩基や、酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物を共重合する必要がある。水系液にして塗液として用いると、本発明のメラミン化合物や、その他の成分との混合が容易となり、その結果、樹脂層Aの接着性の効果が向上する。
スルホン酸塩基を含有する化合物や、3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物の共重合率は、全酸成分の0.5モル%〜30モル%であることが好ましい。共重合率が0.5モル%よりも小さいと、ポリエステル樹脂の水溶化あるいは水分散化が困難になるため、他の水溶性、水分散化物との混合が困難になるなど使用時に不都合が生じる場合がある。30モル%よりも多い場合には、被覆物を設けた後、高温高湿下におくと、接着性が低下することがある。
酸成分としてスルホン酸塩基を含有する化合物を共重合されてなるポリエステル樹脂とは、酸成分として、例えば、スルホテレフタル酸、5−スルホイソフタル酸、4−スルホイソフタル酸、4−スルホナフタレン−2,7−ジカルボン酸、スルホ−p−キシリレングリコール、2−スルホ−1,4−ビス(ヒドロキシエトキシ)ベンゼンなどあるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩を共重合させたポリエステル樹脂である。
酸成分として3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物を共重合されてなるポリエステル樹脂とは、酸成分として、例えば、トリメリット酸、無水トリメリット酸、ピロメリット酸、無水ピロメリット酸、4−メチルシクロヘキセン−1,2,3−トリカルボン酸、トリメシン酸、1,2,3,4−ブタンテトラカルボン酸、1,2,3,4−ペンタンテトラカルボン酸、3,3’,4,4’−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−メチル−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、5−(2,5−ジオキソテトラヒドロフルフリル)−3−シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、シクロペンタンテトラカルボン酸、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、エチレングリコールビストリメリテート、2,2’,3,3’−ジフェニルテトラカルボン酸、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸、エチレンテトラカルボン酸など、あるいはこれらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、アンモニウム塩等を共重合させたポリエステル樹脂である。
3価以上の多価カルボン酸塩基を含有する化合物を共重合されてなるポリエステル樹脂のガラス転移温度(Tg)は25℃以上である。Tgが25℃未満では、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性が低下したり、樹脂層同士が固着するブロッキング現象が発生することがある。Tgの上限は特に限定されないが、65℃を超える場合、接着性の効果が発現しなかったり、樹脂の安定性や水分散性が劣る場合があるため、好ましくは65℃未満である。Tgは好ましくは30℃以上であり、より好ましくは35℃以上である。
ポリエステル樹脂を構成するその他の酸成分としては、芳香族、脂肪族、脂環族のジカルボン酸等を使用することができる。
芳香族ジカルボン酸としては、テレフタル酸、イソフタル酸、オルソフタル酸、フタル酸、2,5−ジメチルテレフタル酸、1,4−ナフタレンジカルボン酸、ビフェニルジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、1,2−ビスフェノキシエタン−p,p’−ジカルボン酸、フェニルインダンジカルボン酸などを用いることができる。樹脂層Aの強度や耐熱性の点から、これらの芳香族ジカルボン酸が、好ましくは全酸成分の30モル%以上、より好ましくは35モル%以上、特に好ましくは40モル%以上を占めるポリエステルを用いることが好ましい。
また、脂肪族および脂環族のジカルボン酸としては、コハク酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、ダイマー酸、1,3−シクロペンタンジカルボン酸、1,2−シクロヘキサンジカルボン酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸など、およびそれらのエステル形成性誘導体を用いることができる。
ポリエステル樹脂のグリコール成分としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、2,4−ジメチル−2−エチルヘキサン−1,3−ジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−2−ブチル−1,3−プロパンジオール、2−エチル−2−イソブチル−1,3−プロパンジオール、3−メチル−1,5−ペンタンジオール、2,2,4−トリメチル−1,6−ヘキサンジオール、1,2−シクロヘキサンジメタノール、1,3−シクロヘキサンジメタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、2,2,4,4−テトラメチル−1,3−シクロブタンジオール、4,4’−チオジフェノール、ビスフェノールA、4,4’−メチレンジフェノール、4,4’−(2−ノルボルニリデン)ジフェノール、4,4’−ジヒドロキシビフェノール、o−,m−,およびp−ジヒドロキシベンゼン、4,4’−イソプロピリデンフェノール、4,4’−イソプロピリデンビンジオール、シクロペンタン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,2−ジオール、シクロヘキサン−1,4−ジオールなどを用いることができる。
また、本発明においては、樹脂層Aに用いられるポリエステル樹脂として、変性ポリエステル共重合体、例えば、アクリル、ウレタン、エポキシなどで変性したブロック共重合体、グラフト共重合体なども使用可能である。
樹脂層Aに用いられる好ましいポリエステル樹脂としては、酸成分としてテレフタル酸、イソフタル酸、セバシン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコールから選ばれる共重合体などが挙げられるが、従来から知られているポリエステル樹脂から任意に選ぶことができる。
本発明の積層フィルムにおいて、樹脂層Aに用いられるポリエステル樹脂の製造方法は特に限定されないが、たとえば以下の製造法によって製造することができる。すなわち、ジカルボン酸成分として、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、グリコール成分としてエチレングリコール、ネオペンチルグリコールからなるポリエステル樹脂について説明すると、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸とエチレングリコール、ネオペンチルグリコールとを直接エステル化反応させるか、テレフタル酸、イソフタル酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸及びエチレングリコール、ネオペンチルグリコールとをエステル交換反応させる第一段階と、この第一段階の反応生成物を重縮合反応させる第二段階とによって製造する方法などにより製造することができる。
この際、反応触媒として、例えば、アルカリ金属、アルカリ土類金属、マンガン、コバルト、亜鉛、アンチモン、ゲルマニウム、チタン化合物などを用いることができる。
また、カルボン酸を、末端および/または側鎖に多く有するポリエステル樹脂が好ましく用いられるが、これらを得る方法としては、たとえば特開昭54−46294号公報、特開昭60−209073号公報、特開昭62−240318号公報、特開昭53−26828号公報、特開昭53−26829号公報、特開昭53−98336号公報、特開昭56−116718号公報、特開昭61−124684号公報、特開昭62−240318号公報などに記載の3価以上の多価カルボン酸を共重合する方法で製造することができる。もちろん、これらの方法以外の方法を用いてもよい。
本発明にかかる樹脂層Aに用いられるポリエステル樹脂の固有粘度は、特に限定されないが、接着性の点で0.3dl/g以上であることが好ましく、より好ましくは0.35dl/g以上、特に好ましくは0.4dl/g以上である。
本発明の樹脂層Aにおけるメラミン化合物は、特に限定されないが、たとえばメラミン、メラミンとホルムアルデヒドを縮合して得られるメチロール化メラミン誘導体、メチロール化メラミンに低級アルコールを反応させて部分的あるいは完全にエーテル化した化合物、あるいはこれらの混合物などを用いることができる。また、メラミン化合物としては単量体、2量体以上の多量体からなる縮合物、あるいはこれらの混合物などを用いることができる。ここで、エーテル化に使用する低級アルコールとしては、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノールなどを用いることができる。
メラミン化合物中の官能基としては、たとえばイミノ基、メチロール基、あるいはメトキシメチル基やブトキシメチル基などのアルコキシメチル基を1分子中に有するものであり、官能基を有するメラミン樹脂としてイミノ基型メチル化メラミン樹脂、メチロール基型メラミン樹脂、メチロール基型メチル化メラミン樹脂、完全アルキル型メチル化メラミン樹脂などが好ましく用いられる。その中でも、イミノ基型メラミン樹脂、メチロール化メラミン樹脂がより好ましい。更に、メラミン化合物の熱硬化を促進するため、例えば、p−トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いてもよい。
本発明の樹脂層Aにおける樹脂成分/メラミン化合物の重量比は、1/9以上であり1/0.5より小さいものであり、樹脂成分/メラミン化合物の重量比をこの範囲にすることによって、樹脂溶解性の高い溶媒、例えば、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドなどの双極性非プロトン溶媒、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1,3ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、トルエン、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコール、エチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、クロロホルム等からなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性が良好となる。また、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性にも優れる樹脂層Aを形成できる。
樹脂層Aが双極性非プロトン溶媒などの樹脂溶解性の高い溶媒からなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性や、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性にも優れるメカニズムについて、詳細は不明であるが、以下のように推測される。すなわち、樹脂成分/メラミン化合物の重量比を本発明の範囲にすることによって、樹脂層A中に樹脂成分とメラミン化合物の架橋構造および/またはメラミン化合物の自己架橋構造が形成されることで、樹脂層Aの樹脂溶解性の高い溶媒に対する溶解性が適度になり、良好な接着が得られる。また、上記架橋構造の存在が、高温、長時間の熱処理を行った場合における樹脂層Aの劣化、変形を抑制するため、高温、長時間の熱処理を行った場合でも良好な接着性が得られる。
樹脂層Aに含有されるメラミン化合物は、水系液にして塗液として用いるのが好ましい。水系液にして塗液として用いると、本発明の樹脂成分や、その他の成分との混合が容易となり、その結果、樹脂層Aの接着性の効果が向上する。
樹脂成分の重量1に対してメラミン化合物の重量が0.5以下の場合、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行うと、接着力が低下するという問題が生じる。樹脂成分の重量1に対してメラミン化合物の重量が9よりも大きい場合、被覆物との接着性が発現しにくくなる。樹脂成分/メラミン化合物の重量比は好ましくは1/8〜1/0.6であり、より好ましくは1/7〜1/0.65である。
本発明における樹脂層Aの厚みは、片面あたり0.001〜1μmであることが好ましい。厚みが0.001μmよりも薄い場合、接着性が十分に得られない場合がある。厚みが1μmよりも厚い場合には、ポリエステルフィルム本来の特性を損ねたり、被覆物を設けた後のフィルムの物性に悪影響を及ぼしたりするという問題を生じる場合がある。樹脂層Aの厚みは好ましくは0.05〜0.8μm、より好ましくは0.1〜0.6μmである。
なお、ここで「片面あたりの厚さ」とは、フィルムの一方の面にだけ樹脂層Aが積層されている場合には該樹脂層Aの厚さのそのものをいうものであり、あるいはまた、フィルムの表裏の両面に該樹脂層Aが積層されている場合には、それぞれの樹脂層Aの厚さを単独でいうものであり、それら二つの樹脂層Aの厚さを合計して2で割り平均値をとること等によるものではない。したがって、もし表裏面で合計した樹脂層Aの厚さを平均すると0.001〜1μmの範囲に入るとしても、単独の層の厚さではいずれの層も0.001〜1μmの範囲に入らないというものの場合には、いずれもの層も「片面あたり0.001〜1μmの厚さ」には該当しないものである。これは、現実の樹脂層Aの厚みで該フィルム特性が定まるためであって、両面に積層をしているときには、少なくとも片側面の一層の厚さが該当しさえすれば、本発明で所望する易接着ポリエステルフィルムを好ましく実現することができるからである。
本発明において、ポリエステルフィルムに使用するポリエステルとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリプロピレンナフタレートなどがあり、これらの2種以上が混合されたものであってもよい。また、本発明の効果が損なわれない範囲で、これらに他のジカルボン酸成分やジオール成分が共重合されたものであってもよい。ポリエステルの極限粘度(25℃のo−クロロフェノール中で測定)は0.4〜1.2dl/gが好ましく、0.5〜0.8dl/gであることがより好ましい。
また、本発明におけるポリエステルフィルムは二軸配向されたものであることが、機械的特性や寸法安定性の点で望ましい。二軸配向しているとは、例えば、未延伸すなわち結晶配向が完了する前の熱可塑性樹脂フィルムを長手方向および幅方向にそれぞれ2.5〜5.0倍程度延伸し、その後、熱処理により結晶配向を完了させたものであり、広角X線回折で二軸配向のパターンを示すものをいう。
本発明に使用するポリエステルフィルムは単膜フィルムである必要はなく、本発明の効果が阻害されない範囲内ならば、内層と表層の2層以上の複合体フィルムとしてもよい。例えば、内層は実質的に粒子を含有せず、表層に粒子を含有する層を設けた複合体フィルム、内層は粗大粒子を含有し、表層に微細粒子を含有する層を設けた複合体フィルム、内層が微細な気泡を含有した層であって表層は実質的に気泡を含有しない層である複合体フィルムなどが挙げられる。また、上記複合体フィルムは内層と表層が異種のポリエステルであっても同種のポリエステルであってもよい。
本発明における難燃性ポリエステルフィルムは、本発明の易接着ポリエステルフィルムの両面に、下記式(1)を満足し、かつ180〜450℃における非可燃性ガス発生率が3〜40%である樹脂層Bが積層されたことが必要である。
15≦(Wc1−Wc2)/Wc0×100≦99 ……(1)
ここで、Wc0 は25℃、空気中における樹脂層Bの重量、Wc1は樹脂層Bを空気中で25℃から600℃まで昇温した後の重量、Wc2は樹脂層Bを空気中で25℃から800℃まで昇温した後の重量を表す。この構成により、ポリエステルフィルムの難燃性を達成することができる。
本発明における樹脂層Bは、易接着ポリエステルフィルムの両面に積層されている必要がある。片面のみに積層されている場合には、難燃性の効果が十分に発現されず好ましくない。
上記式(1)中のWc0 、Wc1 、Wc2 を求める方法としては、特に限定されないが、例えば熱重量測定装置を用いる方法が挙げられる。すなわち、熱重量測定装置を用いて50ml/分で空気を流した雰囲気中で樹脂層Bの重量測定を行い、熱処理前の25℃、空気中における樹脂層Bの重量をWc0、樹脂層Bを25℃から10℃/分にて昇温し、600℃に到達したときの重量をWc1 、さらに連続的に樹脂層Bを10℃/分にて昇温し、800℃に到達したときの重量をWc2とする。
上記式(1)を満足した場合に難燃性の効果が発現するメカニズムについて詳細は不明であるが、以下のように推測される。すなわち、上記(1)式を満足する樹脂層Bが積層されていると、フィルムが燃焼した場合に樹脂層Bが難燃性の炭化層として残存し、この残存した難燃性の炭化層がフィルム全体を被覆することにより、すばやく炎を消火することができると推測される。
上記式(1)の値が15未満であった場合には、難燃性の効果が十分に発現しない。99より大きい場合には、非可燃性ガスの発生量が不足し、難燃性の効果が十分に発現しない。上記式(1)の値は好ましくは20〜95であり、より好ましくは30〜90である。特に好ましいのは、20〜65である。
本発明の樹脂層Bは、180〜450℃において非可燃性ガスの発生率が3〜40%である必要がある。本発明における非可燃性ガス発生率とは、樹脂層Bの重量をWg0 、樹脂層Bを一定の昇温速度で昇温した場合に発生するガスのうち、ある温度範囲で発生した非可燃性ガスの重量をWg1とすると以下の式(2)で求めることができる。
Wg1/Wg0×100(%) ……(2)
非可燃性ガス発生率を求める方法としては、例えば熱重量−質量分析(TG−MS)を用いる方法が挙げられる。熱重量−質量分析(TG−MS)を用いて50ml/分でヘリウムガスを流した雰囲気中で試料を25℃から10℃/分の速度で昇温し、発生したガスの成分および発生量を分析することにより、ある温度範囲で発生した非可燃性ガスの発生率を求めることができる。
また、より精密な分析をするために、熱重量−質量分析(TG−MS)と、熱重量−ガスクロマトグラフ質量分析(TG−GC/MS)を併用して用いてもよい。TG−MSを用いて、30ml/分でヘリウムガスを流した雰囲気中で、試料を25℃から10℃/分の速度で昇温し、重量減少と同時に、加熱時に試料から発生したガスの質量数ごとの濃度変化を温度の関数として追跡する。同時にTG−GC/MSによる測定を行う。試料を熱重量分析(TG)装置にて、TG−MSと同一条件にて加熱し、発生したガスを吸着剤にてトラップする。次に、発生ガスがトラップされた吸着剤を熱脱離装置で280℃に加熱して、再発生させたガスをガスクロマトグラフ質量分析(GC/MS)することにより、発生したガスの種類を同定する。このような手法にて、試料の重量減少、発生したガスの質量数ごとの濃度変化および発生したガスの種類を分析することによって、ある温度範囲で発生した非可燃性ガスの発生率を求めることができる。
ここで、非可燃性ガスとは、窒素、二酸化炭素、水蒸気、塩素、臭素、塩化水素、臭化水素、一酸化窒素、二酸化窒素およびシアン酸から選ばれるガスを示す。本発明における非可燃性ガスとしては、窒素、水蒸気、一酸化窒素、二酸化窒素およびシアン酸から選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。これらのガスが発生した場合には特に難燃性が好適に発現するためである。
樹脂層Bの180〜450℃における非可燃性ガスの発生率が3〜40%である場合に難燃性の効果が発現するメカニズムについては、詳細は不明であるが、以下のように推測される。すなわち、180〜450℃の温度範囲で、ポリエステルフィルムが熱分解し、可燃性ガスを発生する。樹脂層Bの180〜450℃における非可燃性ガスの発生率が3〜40%である場合には、ポリエステルフィルムの熱分解により発生する可燃性ガスが、樹脂層Bから発生する非可燃性ガスで希釈され、燃焼が防止されるものと推測される。
非可燃性ガス発生率は、好ましくは250〜450℃において3〜40%であり、より好ましくは300〜450℃において3〜40%である。180℃未満で非可燃性ガス発生量が多い場合、本発明の難燃性フィルム製造時の熱処理や本発明の難燃性フィルムを後加工する際の熱処理によりガスが発生して工程汚染やフィルム表面の膨れ等の不具合を生じることがある。450℃より高温で非可燃性ガスが発生しても、ポリエステルフィルムの難燃性を好適に発現するものではない。上記温度範囲における非可燃性ガス発生率は好ましくは3〜30%であり、より好ましくは4〜25%であり、さらに好ましくは4〜20%である。特に好ましいのは9〜20%である。非可燃性ガスの発生率が3%未満または40%より大きい場合には、十分な難燃性が発現しない。
本発明においては、フィルムが炎にさらされた場合に、フィルム表面の樹脂層Bから発生した非可燃性ガスが、ポリエステルフィルムから発生した可燃性ガスを希釈する効果と、樹脂層Bが難燃性の炭化層として残存してフィルム全体を被覆する効果が組み合わされることにより、高度な難燃性が発現するものと推測される。
樹脂層Bを形成する樹脂成分は、高い耐熱性を有する樹脂が好ましい。例としては、ポリフェニレンスルフィド、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリスルホン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリエステル、フェノール樹脂、ポリフェニレンオキサイド、ポリアリレート、ポリカーボネートなどを挙げることができる。これらの中でも、芳香族ポリアミド、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルスルホン、ポリエーテルイミド、ポリベンゾイミダゾールおよびポリフェニレンオキサイドから選ばれた樹脂成分が好ましい。特に、ポリイミドが、難燃性の点から、最も好ましい。本発明における樹脂層Bの樹脂成分はハロゲン基を含有しないことが好ましい。
本発明に用いられるポリイミドは特に限定されないが、環状イミド基を繰り返し単位として含有するポリマーであることが好ましい。本発明の効果が損なわれない範囲であれば、ポリイミドの主鎖に環状イミド以外の構造単位、例えば、芳香族、脂肪族、脂環族、脂環族エステル単位、オキシカルボニル単位等が含有されていてもよい。
このポリイミドとしては、例えば、下記一般式で示されるような構造単位を含有するものが好ましい。
上記式中のArは6〜42個の炭素原子を有する芳香族基であり、Rは6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、2〜30個の炭素原子を有する脂肪族基および4〜30個の炭素原子を有する脂環族基からなる群より選択された2価の有機基である。
上記一般式において、Arとしては、例えば、
を挙げることができる。(式中nは2〜30の整数である。)
これらは、本発明の効果を阻害しない範囲内で、1種あるいは2種以上一緒にポリマー鎖中に存在してもよい。
このポリイミドは公知の方法によって製造することができる。例えば、上記Arを誘導することができる原料であるテトラカルボン酸および/またはその酸無水物と、上記Rを誘導することができる原料である脂肪族一級ジアミンおよび/または芳香族一級ジアミンよりなる群から選ばれる一種もしくは二種以上の化合物とを脱水縮合することにより、ポリアミド酸を得る。次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いてポリアミド酸を脱水閉環する。または、テトラカルボン酸無水物とジイソシアネートとを加熱して脱炭酸を行って重合する方法などを例示することができる。
上記方法で用いられるテトラカルボン酸としては、例えば、ピロメリット酸、1,2,3,4−ベンゼンテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸、3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、2,2',3,3'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)メタン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)メタン、1,1'−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エタン、2,2'−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)プロパン、2,2'−ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)プロパン、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル、ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)スルホン、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸、2,2'−ビス[(2,3−ジカルボキシフェノキシ)フェニル]プロパン等および/またはその酸無水物等が挙げられる。
また、ジアミンとしては、例えば、ベンジジン、ジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルエタン、ジアミノジフェニルプロパン、ジアミノジフェニルブタン、ジアミノジフェニルエーテル、ジアミノジフェニルスルホン、ジアミノジフェニルベンゾフェノン、o,m,p−フェニレンジアミン、トリレンジアミン、キシレンジアミン等の芳香族一級ジアミン等や、エチレンジアミン、1,2−プロパンジアミン、1,3−プロパンジアミン、2,2−ジメチル−1,3−プロパンジアミン、1,6−ヘキサメチレンジアミン、1,8−オクタメチレンジアミン、1,9−ノナメチレンジアミン、1,10−デカメチレンジアミン、1,11−ウンデカメチレンジアミン、1,12−ドデカメチレンジアミン、2,2,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、2,4,4−トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,3−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジアミン、1,4−シクロヘキサンジメチルアミン、2−メチル−1,3−シクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂肪族または脂環族一級ジアミン等を例示することができる。
上記ポリイミドの製造方法において、ポリアミド酸を得て、次いで、加熱および/または化学閉環剤を用いて脱水閉環する方法を用いる場合には、以下の脱水剤や触媒が好適に用いられる。
脱水剤としては、例えば無水酢酸などの脂肪族酸無水物、芳香族酸無水物などが挙げられる。また、触媒としては、例えばトリエチルアミンなどの脂肪族第3級アミン類、ジメチルアニリン等の芳香族第3級アミン類、ピリジン、ピコリン、イソキノリン等の複素環式第3級アミン類などが挙げられる。本発明においては、これらの中でも特に下記式(I)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、下記式(II)で示されるイミダゾール系化合物の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を触媒として用いることが好ましい。
(式中、R
1、R
2、R
3、R
4およびR
5のうち少なくとも1つは水酸基である。水酸基以外の場合は、それぞれ水素原子、1〜30個の炭素原子を有する脂肪族基、6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、4〜30個の炭素原子を有するシクロアルキル基、7〜30個の炭素原子を有するアラルキル基およびホルミル基のいずれかを示す。)
(式中、R
6、R
7、R
8およびR
9は、それぞれ、水素原子、1〜30個の炭素原子を有する脂肪族基、6〜30個の炭素原子を有する芳香族基、4〜30個の炭素原子を有するシクロアルキル基、7〜30個の炭素原子を有するアラルキル基およびホルミル基のいずれかを示す)。
式(I)のヒドロキシピリジン系化合物の具体例としては、2−ヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシピリジン、4−ヒドロキシピリジン、2,6−ジヒドロキシピリジン、3−ヒドロキシ−6−メチルピリジン、3−ヒドロキシ−2−メチルピリジンなどが挙げられる。
式(II)中のR1、R2、R3およびR4としては、例えば、脂肪族基の場合は炭素数1〜17のアルキル基、ビニル基、ヒドロキシアルキル基、シアノアルキル基が好ましく、芳香族基の場合はフェニル基が好ましく、アラルキル基の場合はベンジル基が好ましい。
式(II)のイミダゾール系化合物の具体例としては、1−メチルイミダゾール、1−エチルイミダゾール、1−プロピルイミダゾール、1−フェニルイミダゾール、1−ベンジルイミダゾール、1−ビニルイミダゾール、1−ヒドロキシエチルイミダゾール、2−メチルイミダゾール、2−エチルイミダゾール、2−プロピルイミダゾール、2−イソプロピルイミダゾール、2−ブチルイミダゾール、2−ウンデシルイミダゾール、2−ヘプタデシルイミダゾール、2−フェニルイミダゾール、2−ベンジルイミダゾール、4−メチルイミダゾール、4−フェニルイミダゾール、4−ベンジルイミダゾール、1,2−ジメチルイミダゾール、1,4−ジメチルイミダゾール、1,5−ジメチルイミダゾール、1−エチル−2−メチルイミダゾール、1−ビニル−2−メチルイミダゾール、2,4−ジメチルイミダゾール、2−エチル−4−メチルイミダゾール、2−フェニル−4−メチルイミダゾール、2−ブチル−4−ヒドロキシメチルイミダゾール、2−ブチル−4−ホルミルイミダゾール、2,4−ジフェニルイミダゾール、4,5−ジメチルイミダゾール、4,5−ジフェニルイミダゾール、1−ベンジル−2−メチルイミダゾール、1−ベンジル−2−フェニルイミダゾール、1,2,5−トリメチルイミダゾール、1,4,5−トリメチルイミダゾール、1−メチル−4,5−ジフェニルイミダゾール、2−メチル−4,5−ジフェニルイミダゾール、2,4,5−トリメチルイミダゾール、2,4,5−トリフェニルイミダゾール、1−シアノエチル−2−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−エチル−4−メチルイミダゾール、1−シアノエチル−2−ウンデシルイミダゾール、1−シアノエチル−2−フェニルイミダゾールなどが挙げられる。
式(I)で示されるヒドロキシピリジン系化合物、式(II)のイミダゾール系化合物には脱水閉環反応を促進する効果があることから、これらの化合物から選ばれる少なくとも1種の化合物を添加することにより低温、かつ、短時間の熱処理で脱水閉環できるので、生産効率が良くなるため好ましい。その使用量は、より好ましくはポリアミド酸の繰り返し単位に対して10モル%以上であり、さらに好ましくは50モル%以上である。添加量がポリアミド酸の繰り返し単位に対してかかる好ましい範囲であると、低温、かつ、短時間においても脱水閉環させる効果を十分に維持できる。脱水閉環しないポリアミド酸繰り返し単位が残存していても良いが、ポリアミド酸が十分に脱水閉環して、ポリイミドになった割合が高くなると、樹脂層Bの耐溶剤性および耐湿熱性が向上するため、より好ましい。添加量の上限は特に限定されないが、原料価格を低く抑える観点から一般にポリアミド酸の繰り返し単位に対して300モル%以下であることが好ましい。
本発明においては、ポリイミドの全構造単位の70%以上100%以下が下記式(III)で表される構造単位であることが特に好ましい。
(式(III)中のR’は下記式(IV)の中から選ばれる少なくとも1種の基である。)
(式(IV)中のX、Yは下記式(V)の中から選ばれる少なくとも1種の基である。)
−O−,−CH
2−,−CO−,−SO
2−,−S−,−C(CH
3)
2− (V)
ポリイミドの全構造単位の70%以上が上記式(III)で表される構造単位でない場合には、難燃性の効果が低下したり、積層厚みを厚くしなければ難燃性の効果が得られず生産性やコスト面での優位性のないものとなることがある。また、上記式(III)以外の構造単位を30%より多く有するポリイミドは、これを合成するときの原料コストが高価となる傾向があり、難燃性ポリエステルフィルムのコストが高くなるなどの問題が生じる場合がある。
本発明におけるポリイミドは、より好ましくは下記式(VI)で表される構造単位を70%以上有するポリイミドであり、特に好ましくは下記式(VI)で表される構造単位を90%以上有するポリイミドである。
本発明における樹脂層Bは、樹脂成分以外に前記の非可燃性ガスを発生する化合物を含有することが好ましい。非可燃性ガスを発生する化合物を含有させることによって、非可燃性ガスの発生率を好ましい範囲に制御しやすくなり、前記の難燃性の効果が発現しやすくなる。非可燃性ガスを発生する化合物としては、特に限定されないが、無機炭酸化物、無機水酸化物、トリアジン系化合物、グアニジン系化合物、グアニル尿素系化合物、含ハロゲン化合物等が挙げられ、これらを単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの中でも、難燃性の点から、無機水酸化物および/またはトリアジン系化合物が好ましく、無機水酸化物が特に好ましい。
無機水酸化物としては種々のものが使用できるが、例えば、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム、水酸化ジルコニウム等が好適に用いられる。これらの中でも水酸化アルミニウムおよび水酸化マグネシウムが好ましい。難燃性の点で特に好ましいのは水酸化マグネシウムである。また、水酸化アルミニウムは、樹脂層Bを高温高湿下においた場合でも、樹脂層Bの劣化を促進することが少ないため好ましい。これらの無機水酸化物の平均粒子径は1.5μm以下であることが難燃性の点で好ましく、より好ましくは1.0μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下であり、特に好ましいのは0.5μm以下である。また、これらの無機水酸化物を亜鉛化合物および/またはホウ素化合物からなる被覆層で被覆したり、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、アルミニウム系カップリング剤、脂肪酸等により表面処理した場合には、難燃性の効果が発現しやすくなるため好ましい。
トリアジン系化合物としては、例えば、硫酸メラミン、ポリリン酸メラミン、メラミン、メラム、メレム、メロン、メラミンシアヌレート、メラミンフォスフェート、サクシノグアナミン、エチレンジメラミン、トリグアナミン、トリス(β−シアノエチル)イソシアヌレート、アセトグアナミン、硫酸メレム、硫酸メラム等が挙げられる。
ここで、非可燃性ガスを発生する化合物の添加量は樹脂層Bの1〜65重量%であることが好ましい。1重量%未満であると難燃性の効果が十分に発現しない場合がある。65重量%より多いと樹脂層Bが脆くなったり、難燃性の効果が発現しない場合がある。添加量は、好ましくは5〜60%であり、より好ましくは10〜50%である。また、非可燃性ガスを発生する化合物の添加量は、難燃性ポリエステルフィルム全体の0.01〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.01〜10重量%であり、さらに好ましくは0.01〜3重量%である。
本発明において、難燃性ポリエステルフィルム全体厚みに対する樹脂層B厚みの割合は、0.5〜30%であることが好ましい。樹脂層B厚みの割合は、より好ましくは1.0〜10%、さらに好ましくは1.0〜5.0%である。ここで、樹脂層B厚みは、両面の樹脂層Bの合計厚みである。難燃性ポリエステルフィルム全体厚みに対する樹脂層B厚みの割合が、かかる範囲であると、難燃性の効果が十分に発揮され、また、生産性が良好である。このとき、樹脂層Bの厚みは、片面当たり0.05〜10μm程度が好ましく、より好ましくは0.1〜5μm、さらに好ましくは0.1〜2.5μm程度である。樹脂層B厚みの割合が大きい、および/または、樹脂層Bの厚みが厚い場合には、ポリエステルフィルムと樹脂層Bとの接着性が低下する場合がある。
本発明に使用する樹脂層Bの形成方法は、例えば、樹脂層Bと易接着ポリエステルフィルムを共押出により積層してもよく、樹脂層Bを易接着ポリエステルフィルムに貼り合わせてもよく、樹脂層B形成溶液を易接着ポリエステルフィルムに塗布し乾燥する方法により形成してもよい。これらの中で、塗布により樹脂層Bを形成する方法が、易接着ポリエステルフィルムの接着性の効果を十分に発現させることができるため好ましい。また、樹脂層Bに非可燃性ガスを発生する化合物を含有させる場合には、塗布により樹脂層Bを形成する方法が、比較的穏やかな条件で樹脂層Bを形成でき、非可燃性ガスを発生する化合物の変質を防ぎやすいため、好ましい。塗布により樹脂層Bを形成する方法としては、各種の塗布方法、例えば、リバースコート法、グラビアコート法、ロッドコート法、バーコート法、ダイコート法、ナイフコート法などを用いることができる。また、効率よく溶剤を乾燥するために赤外線による加熱を用いてもよい。
塗布により樹脂層Bを形成する場合、樹脂層B形成用塗布液の溶媒としては、特に限定されないが、N−メチル−2−ピロリドン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホオキシドなどの双極性非プロトン溶媒、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、イソブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、1,3ブタンジオール、3−メチル−1,3−ブタンジオールなどのアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル類、トルエン、エチレングリコールブチルエーテル、エチレングリコール、エチルエーテル、エチレングリコールメチルエーテル、クロロホルム等、およびこれらの混合溶媒を使用できる。これらの中でも、溶媒中にアルコール類、ケトン類、エステル類、トルエンが含まれていると易接着ポリエステルフィルムへの塗工性が良好となるため好ましい。より好ましくは、溶媒中にアルコール類が含まれていることが好ましい。
本発明において、ポリエステルフィルム、樹脂層Bおよび樹脂層Aには、本発明の効果が阻害されない範囲内で、各種の添加剤や樹脂組成物、架橋剤などが含有されていてもよい。例えば、酸化防止剤、耐熱安定剤、紫外線吸収剤、有機粒子、無機粒子、顔料、染料、帯電防止剤、核剤、難燃剤、アクリル樹脂、ポリエステル樹脂、ウレタン樹脂、ポリオレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アルキッド樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、ゴム系樹脂、ワックス組成物、メラミン化合物、オキサゾリン系架橋剤、メチロール化あるいはアルキロール化された尿素系架橋剤、アクリルアミド、ポリアミド系樹脂、エポキシ樹脂、イソシアネート化合物、アジリジン化合物、各種シランカップリング剤、各種チタネート系カップリング剤などを用いることができる。
これらの中でも無機の粒子、例えばシリカ、コロイダルシリカ、アルミナ、アルミナゾル、カオリン、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、硫酸バリウム、カーボンブラック、ゼオライト、酸化チタン、金属微粉末などを添加した場合には易滑性、耐傷性などが向上するので好ましい。無機粒子の平均粒子径は0.005〜5μmが好ましく、より好ましくは0.05〜1μm程度である。また、その添加量は、0.05〜20重量%が好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%である。
次に、本発明の易接着ポリエステルフィルムを得る好ましい製造方法について以下に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
結晶配向が完了する前のポリエステルフィルムの両面に、樹脂層A形成塗液を塗布した後、少なくとも一方向に延伸し、かつ熱処理することにより製造することが好ましい。中でも、生産性を考慮すると、製膜工程中に、塗布方法で樹脂層Aを設ける方法が特に好ましく用いられる。
具体的には、溶融押し出しされた結晶配向前のポリエステルフィルムを長手方向に2.5〜5倍程度延伸し、一軸延伸されたフィルムに連続的に樹脂層A形成塗液を塗布する。塗液が塗布されたポリエステルフィルムは、段階的に加熱されたゾーンを通過しつつ乾燥し、幅方向に2.5〜5倍程度延伸される。更に、連続的に150〜250℃の加熱ゾーンに導かれ結晶配向を完了させる方法(インラインコート法)等によって樹脂層Aを積層させることができる。
本発明においては、樹脂層Aを積層する前に、ポリエステルフィルムの表面(上記例の場合では、一軸延伸熱可塑性樹脂フィルム)にコロナ放電処理などを施し、ポリエステルフィルム表面の濡れ張力を、好ましくは47mN/m以上、より好ましくは50mN/m以上とすることが、樹脂層Aとポリエステルフィルムとの接着性を向上させることができるので好ましいものである。
本発明においては、積層された樹脂層Aの表面に、コロナ放電処理、窒素雰囲気下および/または二酸化炭素雰囲気下での放電加工処理等を施すと、樹脂層Aと樹脂層Bとの接着性をさらに向上できるため好ましい。
次に、本発明の難燃性ポリエステルフィルムを得る好ましい製造方法について以下に例示するが、本発明はこれに限定されるものではない。
本発明の易接着ポリエステルフィルム両面の樹脂層A上に、N−メチル−2−ピロリドンに溶解したポリアミド酸溶液に、水酸化アルミニウムを添加した溶液をバーコート法で塗布して、乾燥し、150〜250℃で脱水閉環を行って難燃性ポリエステルフィルムとする。
易接着ポリエステルフィルム、難燃性ポリエステルフィルムの厚みは、通常、5〜500μm程度であり、用途に応じて適宜選択することができる。
このようにして得られた本発明の易接着ポリエステルフィルムは、双極性非プロトン溶媒などの樹脂溶解性の高い溶媒からなる溶液を塗工することで得られる被覆物に対する接着性や、被覆物を設ける際および/または設けた後に高温、長時間の熱処理を行った場合の接着性にも優れる易接着ポリエステルフィルムであるため、磁気記録材料、電気絶縁材料、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料や、写真用途、グラフィック用途、感熱転写用途などの各種工業材料として好適に使用できる。また、高温や長時間の熱処理を行った場合でも接着性に優れる特性を生かして、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、絶縁モーター、電子部品などの電気絶縁材料の基板フィルムとして好適に使用できる。
また、このようにして得られた本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、難燃性に優れるものである。また、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、ポリエステルフィルム中に難燃剤を添加したり、ポリエステルにハロゲン含有成分、リン含有成分を共重合したりしなくても、十分な難燃性を有するため、ポリエステルフィルム本来の機械的特性を低下させずに難燃性を持たせることができる。また、ダイオキシンや加工工程を汚染するようなガスの発生も抑制することができる。さらに、本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、各層間の接着力に優れるものである。そのため本発明の難燃性ポリエステルフィルムは、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブル、絶縁モーター、電子部品などの電気絶縁材料をはじめとして、磁気記録材料、コンデンサ用材料、包装材料、建築材料、各種工業材料として好適に使用できる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いた加工品、すなわち、銅張り積層板、粘着テープ、フレキシブルプリント基板、メンブレンスイッチ、面状発熱体、フラットケーブルなどは、難燃性に優れるとともに、難燃剤のしみ出し等がないので、加工性に優れる。
本発明の難燃性ポリエステルフィルムを用いた銅張り積層板は、難燃性に優れ、難燃剤のしみ出し等がないため加工性に優れるのに加えて、層間の接着力に優れた銅張り積層板である。
本発明の銅張り積層板は、一例を挙げれば、上記難燃性ポリエステルフィルムの上に銅からなる層を積層した構成からなるものである。難燃性ポリエステルフィルムと銅からなる層の間にはアンカーコート層、接着剤層、粘着剤層等が設けられてもよい。銅からなる層は、銅箔を張り合わせる、銅を蒸着する、銅をスパッタするなどの公知の方法で形成できる。本発明の銅張り積層板は、銅からなる層をエッチングして回路を形成させてフレキシブルプリント基板として使用するなどの用途に用いることができる。
[特性の測定方法および効果の評価方法]
本発明における特性の測定方法および効果の評価方法は次のとおりである。
(1)ガラス転移点(Tg)
ロボットDSC(示差走査熱量計)RDC220(セイコー電子工業(株)製)にSSC5200ディスクステーション(セイコー電子工業(株)製)を接続して測定した。試料10mgをアルミニウムパンに調整後、DSC装置にセットし(リファレンス:試料を入れていない同タイプのアルミニウムパン)、300℃の温度で5分間加熱した後、液体窒素中を用いて急冷処理をする。この試料を10℃/分で昇温し、そのDSCチャートからガラス転移点(Tg)を検知した。
(2)熱重量測定
易接着ポリエステルフィルムの樹脂層B部分を採取したサンプルを用いて、(株)島津製作所製の熱重量測定装置TGA−50により50ml/分で空気を流した雰囲気中で重量測定を行った。このとき熱処理前25℃における試料の重量Wc0、試料を室温から800℃まで10℃/分にて昇温し、600℃に到達したときの重量Wc1、800℃に到達したときの重量Wc2を求め、下記式(1)の値を計算した。
(Wc1 −Wc2 )/Wc0×100(%) ……(1)
(3)非可燃性ガス発生率
易接着ポリエステルフィルムの樹脂層B部分を採取したサンプルを用いて、(株)島津製作所製の熱天秤TG−40および(株)島津製作所製のガスクロマトグラフ質量分析計GCMS−QP1000を接続管により接続した装置を用いて、熱重量−質量分析(TG−MS)を行い、発生したガスの成分および発生量を分析した。熱天秤TG−40は大気の漏れ込みを防止する改造を行って使用した。サンプルの重量Wg0と発生した非可燃性ガスの重量Wg1から以下の式により非可燃性ガス発生率を求めた。
Wg1/Wg0×100(%) ……(2)
測定は50ml/分でヘリウムガスを流した雰囲気中で行い、熱天秤の昇温速度は10℃/分、最高到達温度は500℃とした。
(4)接着強度
本発明の銅張り積層板を作成後、難燃性ポリエステルフィルムの長手方向が長さ方向になるように、長さ230mm、幅10mmに切り出した後、切り出した銅張り積層板の銅箔表面を幅2mmの銅箔が残るようにエッチングした。この時エッチング液としては、塩化第2鉄の40%水溶液を使用した。エッチング終了後、銅張り積層板を水で洗浄してからテープを剥がし、室温で24時間乾燥を行うことで、接着性測定用サンプルを得た。
次に、得られた接着性測定用サンプルの接着強度を測定した。測定装置として、(株)東洋ボールドウィン製の万能型引張試験機UTM−4−100を用いて、引っ張り速度50mm/分、90°剥離にて、引き剥がし荷重を測定した。下記式(2)を用いて、引き剥がし荷重をエッチングした銅箔幅の2mmで除することによって、接着強度を求めた。接着強度が80g/mm以上のものを合格とした。
接着強度(g/mm)=引き剥がし荷重(g)/2(mm) ……(2)
(5)難燃性
難燃性ポリエステルフィルム、銅張り積層板を50mm×200mmの短冊状に切り出した試料を、直径が12.7mm、長さが200mmの筒状になるように丸めた。この筒状にした試料を長手方向が地面と垂直方向になるようにして、長手方向の上端を把持し、下端を、約20mmの火炎に3秒間さらした後、離炎した。このとき、離炎後の試料の燃焼時間を測定した(1回目接炎時の燃焼時間)。次に、試料が燃え尽きずに消火された場合、消火後に1回目と同様にして2回目の接炎・離炎を行い、離炎後のフィルムの燃焼時間を測定した(2回目接炎時の燃焼時間)。この試験を5つの試料に対して繰り返し行った。難燃性は、5つの試料の1回目、2回目接炎時の燃焼時間の合計を2段階評価した。
評価基準は、50秒未満で自己消火するものを「良好」として「○」印で表記し、50秒以内に自己消火しないまたは燃え尽きるものを「不良」として「×」印で表記した。