JP4788952B2 - 耐食性磁石 - Google Patents

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Description

本発明は、希土類磁石に被膜を形成させて腐食を防止する耐食性磁石に関する。
希土類磁石は、一般にRe-B-Fe系またはRe-Tm-B系(Reは希土類元素から選ばれた1種であり、Tmは遷移元素から選ばれた1種であることを示す)で表され、従来の合金磁石やフェライト磁石を上回る磁気特性を有することが知られている。
このような希土類磁石は活性な金属材料から形成されるため錆びやすく、特に磁気特性を向上させるためには、主相だけでなく粒界相に多くの希土類元素や遷移元素が必要となる。このため希土類磁石において、腐食は避けられない問題であった。
例えば、Re-B-Fe系の希土類磁石の一種である主相がNd2Fe14Bからなる所謂ネオジウム磁石では、ネオジウムが多く存在するNd-Feの相が粒界相として形成されている。そして、この相が酸化されたり水蒸気と反応することにより、酸化物(Nd2O3)や水酸化物(Nd(OH)3)が形成され、粒界相の体積が膨張するため、焼結体の粒界破壊が起こる。
また、一方で主相の表面においては、酸素及水蒸気の存在によりFe2O3・H2Oの水和物が形成され、希土類磁石の磁気特性が低下するという問題がある。
このような問題は希土類磁石に共通する問題であり、Re-Tm-B系の熱間加工希土類磁石のPr2Fe14Bにおいてもネオジウム磁石と同様な腐食現象は起こる。
上記の問題に対しては、希土類磁石の腐食を防止する方法として、希土類磁石の表面に、射出成形、押出し成形、トランスファー成形等によって樹脂の膜を形成させる方法や、希土類磁石の表面に樹脂の溶液を塗布して膜を形成させる方法が知られている。
また、希土類磁石の表面に燐酸塩処理やクロム酸塩処理等の化成処理を施して耐酸化性化成被膜を形成する方法(例えば、特許文献1参照)や、Zn、Alを蒸着させたり、無電解Niメッキを施す方法(例えば、特許文献2参照)、希土類磁石と防錆を行う添加物とをバインダー樹脂で結合させる方法(例えば、特許文献3参照)についても検討されている。
さらには、希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法として、保護膜の上に樹脂の被膜を形成させる技術(例えば、特許文献4参照)や希土類磁石と保護膜とを樹脂バインダーで結合させる技術(例えば、特許文献5参照)が提案されている。
特開昭64−14902号公報 特開昭64−15301号公報 特開平1−147806号公報 特開昭62−152107号公報 特開平8−111306号公報
しかし、前記従来の射出成形等により希土類磁石の表面に樹脂の膜を形成させる方法では、通常形成される膜は0.5mm以上の厚みとなってしまうため、希土類磁石の表面から漏れ磁束量が大きく低減し、磁気エネルギーの損失が大きくなるという問題があった。一方、膜の厚みを0.5mm未満にした場合には、膜の内部にあるボイド等の欠陥部が温度衝撃等の熱応力を受けることによって破壊され易くなるため、希土類磁石が腐食される虞があった。また、希土類磁石の表面に樹脂の溶液を塗布する場合には、複数回塗布することによって厚みが30〜40μmの膜を形成するが、このような膜は内部にボイド等の欠陥を有するため、温度衝撃等の熱応力によって膜が破壊され易く、使用環境条件が限定されていた。
特許文献1〜3に記載されたような希土類磁石を表面処理する方法では、被膜の欠陥をなくすために、被膜の膜厚を厚くしたり、被膜を複数回繰り返して多層状に形成させる必要があった。しかも、被膜の欠陥を完全に無くすることは難しく、希土類磁石の表面を外界の酸素及び水蒸気から完全に遮断することは困難であるため、希土類磁石は腐食されていた。
また、希土類磁石の表面に二酸化ケイ素保護膜やケイ酸塩保護膜を形成させる方法では、希土類磁石は様々な大きさや形状を有し、希土類磁石の表面は平坦でない場合も多いため、表面に均一、緻密で強固な保護膜を形成することは困難であった。
特に特許文献4に記載された技術では、反応活性なシリルイソシアネートを用いているが、この技術では均一な膜成長をさせることが困難であり、凹凸を有する膜が形成され易かった。また、珪酸塩を希土類磁石表面の凹凸に物理吸着させるだけでは結合力が弱く、強固な膜を形成させることができなかった。特許文献5に記載された技術では、エチルシリケートを用いたゾル−ゲル反応またはプラズマ粒子化学蒸着法により、保護膜を形成する技術が開示されているが、均一、緻密で強固な保護膜を形成することはできなかった。
したがって、膜によって酸素や水蒸気等を完全に遮断することは難しく、膜自体も剥がれやすいため、結果として希土類磁石は腐食されていた。
また、希土類磁石は焼結によって作製されるものであるが、焼結時には磁石の体積が収縮するため、希土類磁石を製造する際には機械加工によって寸法精度を確保している。しかし、このような機械加工による加工面では、多くの物理的欠陥層を有しており、この欠陥層が脱落し易い状態にある。よって、従来の希土類磁石に膜を形成させる方法では、膜自体の結合力や膜と希土類磁石との結合力が弱いため、膜を形成させる前に希土類磁石の表面の物理的欠陥層をバレル研磨等により脱落させる必要が生じ、余計な費用がかかっていた。
本発明は上記問題に鑑み案出されたものであり、希土類磁石の腐食を防止することができる耐食性磁石を提供することを目的とするものである。
上記目的を達成するための本発明に係る耐食性磁石の第1特徴構成は、希土類磁石を、熱可塑性樹脂と平均粒径が5μm以下の強磁性粒子とを有する複合膜で被覆してあり、当該複合膜の厚みが10μm以下であり、
前記複合膜は、フッ素系樹脂で形成した層とビニルアルコール系樹脂で形成した層とを含む複数の層を有する点にある。
つまり、この構成によれば、希土類磁石の表面を外界から遮断することができ、希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。
さらに、この構成によれば、複合膜は、フッ素系樹脂で形成した層とビニルアルコール系樹脂で形成した層とを含む複数の層を有するため、複合膜に、少なくともフッ素系樹脂の特性とビニルアルコール系樹脂の特性とを付与することができる。
希土類磁石を被覆する複合膜には、強磁性粒子を有しているため、耐食性磁石に外部から大きな応力が加えられた場合でも、比較的硬い強磁性粒子によって強度を保ちつつ、強磁性粒子より柔らかい熱可塑性樹脂が弾性変形して応力を緩和させることができる。このため、機械的応力に対して脆い金属焼結体である希土類磁石の強度を高めることができる。
また、複合膜は、強磁性粒子と希土類磁石との磁気的な結合力と、熱可塑性樹脂の高分子構造に基づく共有結合力とによって、希土類磁石の表面に形成されているため剥離し難く、希土類磁石の物理的欠陥層も脱落し難くなるため、複合膜を形成させる前に物理的欠陥層を脱落させる研磨処理等を省略することができる。
さらに、平均粒径が5μm以下の強磁性粒子を用い、複合膜の厚みを10μm以下としているため、表面に形成した複合膜によって希土類磁石の磁気特性が低下することもない。
強磁性粒子としては、Ni−Znフェライト、Ni−Zn−Cuフェライト、Mn−Znフェライト、Mn−Mg−Znフェライト、Mg−Znフェライト、マグネタイト、鉄等が例示され、希土類磁石の用途に応じて任意に選択することができる。また、強磁性粒子は、略球状であることが好ましい。これによれば、希土類磁石の表面全体に亘って、強磁性粒子を規則的に配列させることができるため、耐食性磁石の表面の機械的性質を強磁性粒子の機械的性質に近似させることができる。
熱可塑性樹脂は、合成樹脂等を用いることができ、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂や、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコールコポリマー等のビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン等が例示される。
尚、フッ素系樹脂としては、ポリクロロトリフルオロエチレン用いることが好ましく、ビニルアルコール系樹脂としては、エチレン−ビニルアルコールコポリマーを用いることが好ましい。これによれば、ポリクロロトリフルオロエチレンが有する耐水蒸気透過性と、エチレン−ビニルアルコールコポリマーが有する耐ガス透過性とを併せ持つ複合膜とすることができる。
本発明に係る耐食性磁石では、前記熱可塑性樹脂と前記強磁性粒子とが、カップリング剤を介して結合していることが好ましい。これによれば、カップリング剤は強磁性粒子及び熱可塑性樹脂と結合することができるため、強磁性粒子と熱可塑性樹脂との結合強度を高めることができ、強磁性粒子と熱可塑性樹脂とが分離し難くすることができる。
〔第一の実施形態〕
以下、本発明に係る耐食性磁石の第一の実施形態について図面を参照して説明する。
本実施形態に係る耐食性磁石は、図1に示すように、希土類磁石を、熱可塑性樹脂と平均粒径が5μm以下の強磁性粒子とを有する複合膜で被覆してあり、当該複合膜の厚みが10μm以下である点にあるものである。これにより、希土類磁石の表面を外界から遮断することができ、希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。
希土類磁石を被覆する複合膜には、強磁性粒子を有しているため、耐食性磁石に外部から大きな応力が加えられた場合でも、比較的硬い強磁性粒子によって強度を保ちつつ、強磁性粒子より柔らかい熱可塑性樹脂が弾性変形して応力を緩和させることができる。このため、機械的応力に対して脆い金属焼結体である希土類磁石の強度を高めることができる。
また、本実施形態に係る耐食性磁石の複合膜は、強磁性粒子と希土類磁石との磁気的な結合力によって、希土類磁石の表面に形成されているため剥離し難い。さらには、強磁性粒子と希土類磁石との磁気的な結合力と熱可塑性樹脂の高分子構造に基づく共有結合力によって、希土類磁石の物理的欠陥層も脱落し難くなるため、複合膜を形成させる前に物理的欠陥層を脱落させる研磨処理等を省略することができる。
さらに、平均粒径が5μm以下の強磁性粒子を用い、複合膜の厚みを10μm以下としているため、表面に形成した複合膜によって希土類磁石の磁気特性が低下することもない。
本実施形態に係る耐食性磁石の複合膜を構成する熱可塑性樹脂は、合成樹脂等を用いることができ、特に限定されないが、例えば、パーフルオロアルコキシアルカン、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロエチレン−プロペンコポリマー、ポリビニリデンフルオライド、エチレン−クロロトリフルオロエチレンコポリマー、ポリクロロトリフルオロエチレン等のフッ素系樹脂や、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコールコポリマー等のビニルアルコール系樹脂、ポリフェニレンサルファイド、ポリアミド、ポリオキシメチレン、ポリブチレンテレフタレート、ポリエーテルエーテルケトン、ポリテトラフロロエチレン等が好ましく適用することができ、希土類磁石が使用される環境に応じて、適切な熱可塑性樹脂を選択すればよい。例えば、希土類磁石の使用環境から、耐熱性や耐薬品性が要求される場合には、複合膜を構成する熱可塑性樹脂として、フッ素系樹脂やポリフェニレンサルファイド等を使用する。
また、本実施形態に係る耐食性磁石の複合膜は、異なる熱可塑性樹脂で形成した複数の層を有することもできる。これは、耐食性磁石に二つ以上の性質が要求される場合に好適である。特に、フッ素系樹脂で形成した層とビニルアルコール系樹脂で形成した層とを含む複数の層を有することが好ましく、これにより、複合膜に、少なくともフッ素系樹脂の特性とビニルアルコール系樹脂の特性とを付与することができる。すなわち、例えば、希土類磁石に、耐水蒸気透過性と耐ガス透過性とを要求される場合には、図2に示すように、複合膜に、耐ガス透過性に優れたエチレン−ビニルアルコールコポリマー(EVOH)で形成した層と、耐水蒸気透過性に優れたポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)で形成した層を設けることにより、両方の性質を併せ持つ耐食性磁石とすることができる。EVOHとPCTFEとの層の順序は、特に制限はないが、通常の希土類磁石の使用環境を考慮すれば、外側にPCTFEを配置して水蒸気を遮断しつつ、内側にEVOHを配置してガスを遮断するという構成が好ましい。なお、EVOH、PCTFEは、いずれも耐薬品性に優れる熱可塑性樹脂である。
本実施形態に係る耐食性磁石に用いる複合膜の厚みは、10μm以下であれば、任意に設定可能であるが、膜が厚くなると希土類磁石の表面からの漏れ磁束量が減少する傾向があり、薄くなり過ぎると希土類磁石の表面を外界から遮断することが困難になるため、1〜10μmが好ましく、3〜8μmがより好ましい。本実施形態に係る耐食性磁石では、複合膜に強磁性粒子を有しているため、膜が薄くても、十分な強度を保ち、剥離し難くすることができる。なお、本実施形態において、強磁性粒子の粒径が複合膜の厚みより大きくなる場合も想定されるが、強磁性粒子の一部が膜の表面から露出していても何ら問題はない。
本実施形態に係る耐食性磁石に使用する強磁性粒子の粒径は、平均粒径が5μm以下のものであれば、特に限定されないが、強磁性粒子の粒径が大きくなり過ぎると、希土類磁石と希土類磁石が磁気吸着する対象物との距離が大きくなり、希土類磁石の対象物に対する磁気特性が低下する傾向がある。一方、強磁性粒子の粒径が小さくなり過ぎると、複合膜の機械的強度が低下する傾向がある。このため、強磁性粒子の平均粒径は、0.3〜5μmが好ましく、1〜4μmがより好ましい。なお、強磁性粒子は、強磁性粒子が単一の粒子であるか、凝集した粒子であるかを問わない。凝集した粒子を用いる場合には、凝集した粒子を一つの粒子として、粒径を設定すればよい。
また、強磁性粒子は、球状、粒状、針状等、特に制限はないが、希土類磁石の表面全体に亘って、規則的に配列しやすいという観点からは、略球状であることが好ましい。すなわち、希土類磁石の表面に満遍なく強磁性粒子を規則的に配列させることができれば、耐食性磁石の表面の機械的性質を強磁性粒子の機械的性質に近似させることができる。
強磁性粒子の種類としては、Ni−Znフェライト、Ni−Zn−Cuフェライト、Mn−Znフェライト、Mn−Mg−Znフェライト、Mg−Znフェライト、マグネタイト、鉄等が例示され、希土類磁石の用途に応じて任意に選択すればよい。本実施形態に係る耐食性磁石によれば、複合膜の膜厚が薄く、複合膜中の強磁性粒子に対する希土類磁石の磁気特性が低下することはほとんどないため、強磁性粒子自体が磁石としての特性を有する必要はない。
また、強磁性粒子は、熱可塑性樹脂とカップリング剤を介して結合していることが好ましい。これにより、カップリング剤は強磁性粒子及び熱可塑性樹脂と結合することができるため、強磁性粒子と熱可塑性樹脂との結合強度を高めることができ、強磁性粒子と熱可塑性樹脂とが分離し難くすることができる。本実施形態に係る耐食性磁石に使用するカップリング剤は、使用する熱可塑性樹脂、強磁性粒子の種類に応じて選択でき、特に限定されるものではないが、例えばチタネート系カップリング剤を好ましく適用することができる。チタネート系カップリング剤は、加水分解性を有する親水性の官能基と疎水性の官能基とを有しており、親水性の官能基が強磁性粒子に吸着している水酸基と加水分解反応して結合することができる。
本実施形態に係る耐食性磁石は、希土類磁石に対して適用でき、その種類は限定されないが、希土類元素としてネオジウムを含む希土類磁石に対して適用することが好ましい。希土類元素としてネオジウムを含む希土類磁石は、希土類磁石の中でも特に腐食され易く、このような希土類磁石に対しても腐食されるのを防止することができる。
このような耐食性磁石の製造方法は、例えば、熱可塑性樹脂と平均粒径5μm以下の強磁性粒子とを有する複合粒子を、希土類磁石の表面に分散させて付着させる付着工程と、前記複合粒子の熱可塑性樹脂の少なくとも一部同士を溶融接着させて、前記希土類磁石を被覆する複合膜を形成させる膜形成工程とを備えるものである。この方法によれば、複合粒子の熱可塑性樹脂を溶融接着させて複合膜を形成しているため、緻密な膜を形成することができ、希土類磁石の表面を外界から完全に遮断して希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。また、平均粒径5μm以下の強磁性粒子を使用するため、強磁性粒子を希土類磁石の表面全体に亘って緻密に分散させることもできる。
この方法によれば、複合膜の厚みを複合粒子の大きさに応じて設計することができる。例えば、強磁性粒子の粒径を例えば、0.3〜3μm程度に小さくし、複合粒子が有する熱可塑性樹脂の量を少なくすることにより、複合膜の厚みを極力薄くすることができる。もちろん、複合膜の厚みを厚くすることもでき、その場合には、強磁性粒子の粒径を例えば、4〜5μm程度に大きくし、熱可塑性樹脂の量を多くした複合粒子を用いればよく、さらに厚みを厚くする場合には、上記の方法を繰り返し、同種の熱可塑性樹脂の層を積層して複合膜を形成させることもできる。さらに、この方法によれば、複合粒子の熱可塑性樹脂を溶融接着させて複合膜を形成する際に、溶融樹脂は希土類磁石表面の物理的欠陥層(例えば、5μm程度)にまで入り込むため、物理的欠陥層が脱落し難くすることができる。
本実施形態に係る耐食性磁石に使用する希土類磁石は、従来公知の方法、例えば、インゴット作製した後、水素を吸着させて数ミクロンオーダの粒子に粉砕し、磁界を印加させながら成形して焼結させ、さらに時効処理して焼結に伴う歪みを除去することにより製造することができる。
このような希土類磁石を構成する粒子は、その粒子内に偶数個の磁区を有しており、一つの粒子内では180度の磁壁が、互いに磁気モーメントを打ち消しあうように形成されている。このため、希土類磁石全体としては、磁力を有しない場合であっても、希土類磁石の極表面層では、磁区から隣接する磁区に漏れる磁束が存在している。したがって、強磁性粒子は、自発磁化に基づく漏れ磁束を有し、希土類磁石の漏れ磁束によって希土類磁石に磁気吸着させることができるため、前記付着工程において、複合粒子は希土類磁石の表面に磁気吸着させることが好ましい。
また、例えば、ネオジウム磁石の場合、主相であるNd2Fe14Bの相の大きさは5μm程度であり、この主相に4つの磁区が存在しているとすれば、一つの磁区は1μm程度の幅になるため、この1μmの間に漏れ磁束が存在していることになる。このような場合、強磁性粒子の粒径がミクロンオーダであれば、強磁性粒子の自発磁化はあまり大きくならず、強磁性粒子と希土類磁石との磁気吸着力は強磁性粒子同士の磁気吸着力より大きくなるため、強磁性粒子は希土類磁石表面に吸着する。一方、強磁性粒子の粒径がそれ以上になると、強磁性粒子同士の磁気吸着力が強磁性粒子と希土類磁石との磁気吸着力より大きくなるため、強磁性粒子は希土類磁石表面に吸着し難くなる。また、強磁性粒子の粒径がサブミクロンオーダになると、強磁性粒子は希土類磁石に磁気吸着するが、強磁性粒子同士が磁気凝集し易くなる。このため、強磁性粒子の粒径は、1〜5μm程度のものを使用することが好ましい。
以下、本実施形態に係る耐食性磁石の製造方法の一例について、熱可塑性樹脂としてPCTFEを用い、強磁性粒子としてマグネタイトを用いる場合を例にとって、具体的に説明する。
(複合粒子の作製)
PCTFE(比重2.1)のペレットと、例えば、単一粒子の平均粒径が0.3μm(実際には磁気凝集している)のマグネタイト粒子(比重5.2)とを、重量割合で2:5の比率(体積割合では約1:1)でヘンシェルミキサやボールミル等の混合機に充填して1時間程度混合する。この後、略均質に混合したものを混練機に充填し、混練機をPCTFEの融点(220℃)より高い温度、例えば230℃に昇温することによりPCTFEを溶融させて、マグネタイト粒子と3時間程度混練し、マグネタイト粒子の粒径が3μm程度になるまで磁気凝集度を低下させる。この際、混練機の回転速度は高速回転から低速回転へ連続的に変化させることが好ましい。すなわち、まず、高速回転によって溶融PCTFE中のマグネタイト粒子に作用する応力を大きくして磁気凝集を解除する。そして、マグネタイト粒子の磁気凝集度が低下すると、溶融PCTFEの粘度が低下し、混練機に作用する応力が低下する。このため、混練機の回転速度を下げて、マグネタイト粒子の凝集度をさらに低下させる。
混練後は、混練機の温度を下げて熱可塑性樹脂を冷却、固化し、得られたPCTFEとマグネタイト粒子との複合材料を複数の粉砕機によって段階的に粉砕する。粉砕は、図3に示すように、まず、複合材料を、粗粉砕機により1mm程度の大きさになるまで粗粉砕した後、中粉砕機により30μm程度の大きさに中粉砕し、さらに中粉砕した粒子を微粉砕機により4μm程度の大きさに微粉砕する。マグネタイト粒子は熱可塑性樹脂に比べて、硬くて機械強度が高いため、粉砕機にかけて粉砕する場合には、熱可塑性樹脂が優先的に破壊され、3μm程度に磁気凝集しているマグネタイト粒子は破壊されない。このため、この方法によれば、微粉砕した粒子は4μm程度の大きさに揃い、分級する必要がないため、複合粒子作製コストを安くすることができる。なお、マグネタイト粒子は、酸化開始温度が320℃付近であり、溶融樹脂と混練する場合にも表面が酸化する虞はない。
また、マグネタイト粒子と熱可塑性樹脂との結合力を高めるために、混練の際、チタン系カップリング剤を加えることができる。チタン系カップリング剤は、従来公知のチタン原子が親水性の官能基と疎水性の側鎖有機官能基とを有するものであり、混練時の温度において熱分解しにくいものを選択すればよい。この場合、チタン系カップリング剤は、マグネタイト粒子に対し、例えば、2vol.%の割合で加える。
(複合膜の作製)
上記の通り作製した複合粒子は、希土類磁石に吹き付けることにより表面に付着させる。すなわち、例えば、容器に希土類磁石を吊り下げ、この希土類磁石に複合粒子を複数の吹き付け装置により1分間程度吹き付けて磁気吸着させる。この後、希土類磁石を所定の回転速度で30分間程度回転させて、希土類磁石の表面に余分に磁気吸着している複合粒子を脱落させる。この際、回転速度は、希土類磁石の表面に残存させる複合粒子の量に応じて設定する。希土類磁石の表面から離れるに従って、希土類磁石から複合粒子に作用する磁気吸着力は低下するため、一定の速度で回転させることにより、希土類磁石の表面に一定の厚みとなるように複合粒子を残存させることができる。そして、さらに希土類磁石の回転軸を変えて複合粒子を吹き付け、同様に回転させることにより、希土類磁石の表面全体に一定の厚みで複合粒子を磁気吸着させることができる。
表面に複合粒子を磁気吸着させた希土類磁石は、例えば、セラミックス等の耐熱性が高く、非磁性の容器に入れて、熱処理室で230℃、30分間程度処理し、複合粒子が有するPCTFEを溶融させて希土類磁石に被覆させる。この際、PCTFEの溶融粘度は高いため、溶融したPCTFEが希土類磁石表面から脱落することはない。そして、希土類磁石を熱処理室から取り出し、大気中で放冷して熱可塑性樹脂を固化させることにより、図1に示すような複合膜を形成させることができる。なお、熱処理室の雰囲気は、大気雰囲気であっても酸化現象は僅かであるため何ら問題はないが、減圧下で処理することもできる。この場合、溶融したPCTFEと希土類磁石表面との間に大気が介在しないため、形成した複合膜が希土類磁石表面から剥がれ難くすることができる。このようにして複合膜を被覆させた希土類磁石は、新たな表面構造を備える耐食性磁石とすることができる。
また、複合膜に異なる熱可塑性樹脂で形成した複数の層を設ける場合には、上記の方法により複合膜を形成させた後、この複合膜を構成する熱可塑性樹脂とは異なる第2の熱可塑性樹脂と強磁性粒子とを有する第2の複合粒子を用いて、同様の方法により複合膜の上に第2の複合膜を形成させる。以下、この方法の一例について、図2に示すような、内側の複合膜を構成する熱可塑性樹脂として、耐ガス透過性に優れるEVOHを用い、外側の複合膜を構成する第2の熱可塑性樹脂として、耐水蒸気透過性に優れるPCTFEを用いる場合を例にとって、具体的に説明する。なお、強磁性粒子にはマグネタイト粒子を用いる。
EVOHとマグネタイト粒子とを有する複合粒子は、エチレン共重合度が26%のEVOH(比重1.2)のペレットと、例えば、単一粒子の平均粒径が0.3μmのマグネタイト粒子とを、重量割合で1:4の比率(体積割合では約1:1)で、混合機に充填し、1時間程度混合する。この後、混合したものを混練機に充填して、混練機をEVOHの融点(195℃)より高い温度、例えば205℃まで昇温し、EVOHを溶融させ、3時間程度混練し、マグネタイト粒子の粒径が3μm程度になるまで磁気凝集度を低下させる。混練後、EVOHを冷却、固化させ、得られたEVOHとマグネタイト粒子との複合材料を複数の粉砕機によって4μm程度の大きさになるまで、段階的に粉砕する。
一方、PCTFEとマグネタイト粒子とを有する複合粒子は、上記のPCTFEを有する複合粒子の作製方法によって作製することができるが、作製する耐食性磁石の機械的強度を高くするためには、外側の層に用いる複合粒子は、粒径を小さくして磁気吸着密度を高くすることが好ましい。例えば、複合粒子は、上記の方法における混練時間を4時間程度にすることにより、マグネタイト粒子の粒径が2.5μm程度になるまで磁気凝集度を低下させ、粉砕によって3μm程度の大きさの粒子にすることができる。
そして、まず、上記の通り作製したEVOHとマグネタイト粒子とを有する複合粒子を用いて、上記の複合膜の作製方法と同様の方法により、希土類磁石に複合膜を被覆させる。この場合の熱処理は、EVOHの融点より高い温度、例えば、215℃で30分間程度処理する。このEVOHについても、溶融粘度は、215℃で4000Pa・sと高いため、溶融したEVOHが希土類磁石表面から脱落することはない。続いて、EVOHとマグネタイト粒子とを有する複合膜を被覆した希土類磁石に、PCTFEとマグネタイト粒子とを有する複合粒子を第2の複合粒子として、同様の方法により、複合膜を被覆させる。この場合の熱処理は、上記の通り、PCTFEの融点より高い温度、例えば、230℃で30分間程度処理する。このようにして、希土類磁石に、内側に耐ガス透過性に優れるEVOHの層を有し、外側に耐水蒸気透過性に優れるPCTFEの層を有する複合膜を形成させることができる。
なお、外側の層を構成する熱可塑性樹脂であるPCTFEの融点は、内側の層を構成する熱可塑性樹脂であるEVOHの融点より高い。この場合、外側の複合膜を形成させる際の熱処理によってEVOHが再び溶融するが、溶融したEVOHとPCTFEとは界面において融合するため、層間の接着強度を高めることができる。
〔第二の実施形態〕
次に本発明に係る第二の実施形態について説明する。本実施形態に係る耐食性磁石は、図4に示すように、希土類磁石を磁性イオン液体の膜で被覆してあるものである。これにより、希土類磁石の表面を外界から遮断することができ、希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。
磁性イオン液体は、吸湿性がなく、各種ガスも溶解することがないため、水蒸気や水素ガスのような分子の小さいガスが透過することもない。
また、磁性イオン液体は、強酸性、強アルカリ性以外の液体に対して反応しないため腐食され難く、高温時でも蒸気圧がほとんどないため蒸発し難く、耐熱性も300℃に近い。このため、磁性イオン液体は、幅広い環境下で使用することができる。
さらに、磁性イオン液体は常磁性体であるため、磁性イオン液体の膜は、希土類磁石に磁気吸着させることができ、希土類磁石から剥離し難くすることができる。
このような磁性イオン液体は、特に限定はされないが、[FeXMYNZCl4]n-(但し、M,Nはそれぞれ遷移金属原子であり、x+y+z=1,nはx,y,zにより定まる数値である。)で表される陰イオンから選ばれる少なくとも1種の陰イオンを備えるものを使用することができる。具体的には、陰イオンとして、x=1,y=z=0,n=1である[FeCl4]-を有し、陽イオンとして1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、1−デシル−3−メチルイミダゾリウムを有する塩化鉄(III)酸1−エチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化鉄(III)酸1−ブチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化鉄(III)酸1−オクチル−3−メチルイミダゾリウム、塩化鉄(III)酸1−デシル−3−メチルイミダゾリウムが例示される。なお、1位のアルキル基は、特に限定されないが、炭素数が多い方が、疎水性度が高まるため好ましく、1位のアルキル基は、炭素数が6〜20であることが好ましい。
また、磁性イオン液体の膜の厚みは、特に制限はないが、ミクロンオーダであることが好ましい。すなわち、厚みがミクロンオーダの膜であれば、磁性イオン液体にかかる重力よりも希土類磁石の磁性イオン液体に対する磁気吸着力がより大きくなるため、磁性イオン液体の膜が希土類磁石からさらに剥がれ難くなる。
希土類磁石を磁性イオン液体で被覆した耐食性磁石は、例えば、以下の方法により作製することができる。すなわち、まず、希土類磁石を磁性イオン液体に浸漬する。上記の例示した磁性イオン液体の場合、30℃において14〜15mPa・sの粘度を有するが、希土類磁石を浸漬した場合には、液体としての粘度に加えて磁気的な吸引力が加わるため、低粘度の液体でありながら、10μmを越える厚みで磁性イオン液体を吸着させることができる。そして、磁性イオン液体が磁気吸着した希土類磁石を、回転装置に固定して回転させ、その遠心力により磁性イオン液体の一部を飛散させて、例えば5μm程度の厚みの膜とする。この場合、磁性イオン液体の厚みは、磁性イオン液体に働く遠心力と希土類磁石と磁性イオン液体との磁気吸引力の大きさとの関係を考慮することにより設定することができる。また、磁性イオン液体は、アルコール等の溶剤で希釈させることができる。これにより、磁性イオン液体の粘度を低下させると、より薄い厚みの膜を系形成することができる。なお、この方法の場合、特に限定されないが、希土類磁石を磁性イオン液体で被覆したとしても、希土類磁石の物理的欠陥層が脱落する虞があるため、事前に物理的欠陥を脱落させた後、磁性イオン液体を被覆させることが好ましい。
〔第三の実施形態〕
次に本発明に係る第三の実施形態について説明する。本実施形態に係る耐食性磁石は、極性基を有する油の膜で被覆してあり、前記極性基がカップリング剤を介して前記希土類磁石と結合しているものである。これにより、希土類磁石の表面を外界から遮断することができ、希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。特に、希土類磁石の表面全体を油の膜によって被覆しているため、水蒸気や各種ガスが透過することを防止することができる。また、油の極性基が、希土類磁石とカップリング剤を介して結合することができるため、油と希土類磁石との結合力が高まり、油の膜が希土類磁石から剥がれ難くすることができる。
極性基を有する油は、表1に示す特性を有するものが好ましく、例えば、ポリオールエステル等を適用することができる。
極性基としては、上記ポリオールエステルが有する水酸基、エステル基の他、アミド基、カルボニル基、シアノ基、ウレタン基等が例示され、特に限定されない。
Figure 0004788952
ポリオールエステルは、ネオペンチル構造をもつ多価アルコールと脂肪酸とが結合するエステル化反応によって生成される。ポリオールエステルの耐加水分解性は、脂肪酸の種類によって決まり、特に限定はされないが、例えば、脂肪酸として、吉草酸、イソ吉草酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、イソオクタン酸、2−エチルへキシル酸、ペラルゴン酸、イソノナン酸、デカン酸等が適用することができる。中でも、2−エチルヘキシル酸が耐加水分解性に優れているため、特に好ましい。一方、ポリオールエステルの粘度は、多価アルコールの種類によって決まり、特に限定はされないが、粘性が低くなる多価アルコールとして、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール等が例示できる。このような多価アルコールを用いれば、常温におけるポリオールエステルの粘度を、40〜50cStにすることができる。このため、ディッピング法によって、希土類磁石をミクロンオーダの膜で被覆することができる。
上記の油と希土類磁石を結合させるカップリング剤としては、チタン系、アルミニウム系、シラン系等のカップリング剤を使用することができるが、特に、沸点が高く、疎水性であるものが好ましく、このようなカップリング剤として、例えば、下記式(I)に示すように、一方の端にイミダゾール基を有し、他方の端にメトキシシリル基を有するイミダゾールシラン化合物を適用することができる。なお、下記式(I)では、メトキシシリル基を例として示したが、もちろん、メトキシシリル基に限定されるものではなく、エトキシシリル基、プロポキシシリル基、ブトキシシリル基等、様々なアルコキシシリル基を有するものを適用することができる。
Figure 0004788952
この化合物は、希土類磁石とは、アルコキシシリル基の加水分解で生成したシラノール基が希土類磁石の表面に水素結合するか、もしくはイミダゾール基の窒素が、希土類磁石の活性相を形成する合金に配位し、共有結合して錯体を形成することにより結合する。また、膜を形成する油とは、油の極性基とアルコキシシリル基の加水分解で生成したシラノール基との相互作用により結合する。なお、イミダゾール基は、自らが希土類磁石と結合する他、アルコキシル基がシラノール基に加水分解する際の触媒としても作用することができる。
また、カップリング剤として使用するイミダゾールシラン化合物は、下記式(II)に示すように、水酸基を含有することが好ましい。特に、極性基を有する油としてポリオールエステルを使用する場合、イミダゾール基、シラノール基に加え、水酸基も、ポリオールエステルの極性基と相互作用するため、油と希土類磁石との結合力を大きくすることができる。なお、下記式(II)でも、上記式(I)の場合と同様にアルコキシシリル基の一例として、メトキシシリル基を示したもので、これに限定されるものではない。
Figure 0004788952
ポリオールエステルとイミダゾールシラン化合物を用いた耐食性磁石は、例えば、以下の方法により作製することができる。すなわち、まず、イミダゾールシラン化合物を0.5wt%程度の濃度になるように混合したメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール溶液中に希土類磁石を30分間程度浸漬し、イミダゾールシラン化合物を磁石表面に吸着させる。この後、この磁石を、80〜100℃に昇温したポリオールエステルに1時間程度浸漬し、溶媒であるアルコールを蒸発させると共に、ポリオールエステルとイミダゾールシランとを化学反応させて、希土類磁石の表面にイミダゾールシラン化合物を介してポリオールエステルを結合させる。このようにして、希土類磁石を厚みが10μm程度の油の膜で被覆することができる。
また、上記のようなアルコキシシリル基を有するカップリング剤を用いることにより、カップリング剤を希土類磁石の表面に結合させると共に、カップリング剤同士を結合させて膜を形成し、希土類磁石を被覆することもできる。これにより、希土類磁石の表面を外界から遮断することができ、希土類磁石が腐食されるのを防止することができる。カップリング剤同士が結合することにより、希土類磁石の表面に緻密な膜を形成することができ、水蒸気や各種ガスが透過するのを防止することができる。また、膜は希土類磁石の表面と結合することができるため、希土類磁石から剥がれ難くすることができる。特に、カップリング剤として、上記式(I)及び(II)に示すようなイミダゾールシラン化合物を用いる場合には、シラノール基の縮重合反応によってシロキサンのネットワークを有する分子膜を形成する。
このような耐食性磁石は、例えば、以下の方法により作製することができる。カップリング剤として、上記式(II)に示すイミダゾールシラン化合物を用いる場合を例にとると、分子膜は、水蒸気や各種ガスが浸透しない程度の膜厚であればよく、数十〜100nm程度の膜を形成するだけでよい。このため、イミダゾールシラン化合物を0.5wt%程度の濃度になるように混合したアルコール溶液に希土類磁石を浸漬し、その後、加熱してアルコールを蒸発させる。これにより、イミダゾールシラン化合物が希土類磁石の表面に付着し、その後、アルコールが蒸発すると共に、シラノール基の縮重合反応が進み、シロキサンのネットワークによってイミダゾールシラン化合物の膜が形成される。
〔第四の実施形態〕
次に本発明に係る第四の実施形態について説明する。本実施形態に係る耐食性磁石は、図5に示すように、希土類磁石を被覆する磁性イオン液体の膜と、熱可塑性樹脂及び強磁性粒子を有する複合膜とを備えるものである。これにより、磁性イオン液体の膜が有する耐水蒸気透過性及び耐ガス透過性と、複合膜が有する機械的強度とを併せ持つ耐食性磁石とすることができる。このような耐食性磁石は、上記の方法により、希土類磁石を磁性イオン液体の膜で被覆した後、磁性イオン液体の膜の上に複合膜を被覆することにより作製することができる。
また、磁性イオン液体の膜に代えて、極性基を有する油の膜やアルコキシシリル基を有するカップリング剤同士が結合して形成した膜を適用してもよい。この場合には、希土類磁石をこれらの膜で被覆した後、その上に複合膜を被覆することにより、油やカップリング剤で形成した膜の特性と複合膜の特性とを併せ持つ耐食性磁石を作製することができる。
以下、希土類磁石として、希土類元素にネオジウムを含む所謂ネオジウム磁石を用いた実施例について説明する。
(実施例1)
熱可塑性樹脂としてPCTFEを用い、強磁性粒子としてマグネタイト粒子を用いて、上記の方法により図1に示すような耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
(実施例2)
熱可塑性樹脂としてEVOHとPCTFEとを用い、強磁性粒子としてマグネタイト粒子を用いて、上記の方法により図2に示すような、内側にEVOHの層を有し、外側にPCTFEの層を有する耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
(実施例3)
磁性イオン液体として、塩化鉄(III)酸1−オクチル−3−メチルイミダゾリウムを用いて、上記方法により図4示すような耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
(実施例4)
極性基を有する油としてポリオールエステルを用い、カップリング剤として、上記式(II)に示したイミダゾールシラン化合物を用いて、上記方法により耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
(実施例5)
アルコキシシリル基を有するカップリング剤として、上記式(II)に示したイミダゾールシラン化合物を用いて、上記方法により耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
(実施例6)
実施例3で作製した耐食性磁石に、実施例1と同様の複合膜を被覆して、図5示すような耐食性磁石を作製し、表2に示す試験を行った。
表面強度の試験は、希土類磁石の取り扱い易さを示す指標になるものである。落下衝撃試験後の評価は、目視確認の他、表2に示す過飽和水蒸気試験1により、落下衝撃の損傷度合いを調べる。
緻密性の試験は、希土類磁石を使用する環境下での遮断性能を示す指標になるものである。温湿度サイクル試験では、結露状態で希土類磁石を使用する場合を想定し、希土類磁石を、湿度85%R.H.の条件下で、25℃から85℃に0.25時間で昇温し、85℃で6時間保持した後、−30℃まで0.5時間で冷却して、−30℃で3時間保持し、さらに25℃まで0.25時間で昇温して、25℃で2時間保持するという温湿度サイクルの環境下に曝した時の遮断性能を評価するものである。沸騰試験では、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されているような場合を想定し、水蒸気の透過性を評価するものである。また、過飽和水蒸気試験では、高圧水蒸気の透過性を評価するものであり、水素ガス透過試験では、燃料電池に用いられるモータを想定し、高圧の水素ガスの耐透過性を評価するものである。なお、水素ガスは最も小さい分子であるため、被膜の耐透過性能は水素ガスの透過性を調べることで足りる。
反応性は、希土類磁石が反応して表面が破壊されるか否かを調べるものである。塩水浸漬試験では、塩水に対する耐腐食性を評価するものである。加圧酸素LLC溶液浸漬試験では、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて使用され、冷却水中の不凍液(LLC溶液)が酸化されている場合を想定し、LLC溶液に2気圧の酸素ガスを強制的に送り込み、100℃以上で一定時間処理することにより、強制的に酸化させたLLC溶液に対する反応性を評価するものである。イオン性液体浸漬試験は、希土類磁石が自動車のラジエータの冷却水中に浸漬されて使用され、ラジエータ自体が腐食されてLLC溶液中に金属イオンや酸性イオンが混入している場合を想定し、金属イオンとしてCu2+イオンを用い、酸性イオンとしてClイオンとSO 2−イオンとを用いて、それぞれのイオンを所定濃度で溶解させた水溶液に対する反応性の評価をするものである。
Figure 0004788952
その結果、表3に示す通りであった。
落下衝撃試験では、実施例3〜5の磁性イオン液体または油の膜を被覆した耐食性磁石に損傷が見られた。実施例1,2,6のように複合膜を被覆することにより、機械的強度が向上することが分かった。なお、実施例3〜5の耐食性磁石についても、30cmの高さから落下させた場合には、特に問題はなかった。
煮沸試験2、過飽和水蒸気試験2、水素ガス透過性試験、塩水浸漬試験2、加圧酸素LLC溶液浸漬試験2、イオン性液体浸漬試験2では、実施例1の耐食性磁石の表面に変化が見られた。また、煮沸試験2では、実施例5の耐食性磁石の表面にも変化が見られ、水素ガス透過性試験2では、実施例2の耐食性磁石にも表面の変化が見られた。加圧酸素LLC溶液浸漬試験2、イオン性液体浸漬試験2では、実施例2,4,5にも表面の変化が見られた。その他の試験については、いずれの実施例の耐食性磁石も特に変化はなかった。
Figure 0004788952
このように、本発明に係る耐食性磁石は、いずれの場合も従来の希土類磁石に比べて、耐食性が向上していることが分かった。そして、本発明に係る耐食性磁石のうち、いずれの耐食性磁石を使用するかは、用途に応じて適宜選択することができる。例えば、耐食性磁石に機械的強度を必要としない場合は、実施例3〜5の耐食性磁石を用いることができ、また、耐水素ガス透過性や酸性溶液、イオン性液体に対する高い耐食性が求められない環境下で使用する場合には、実施例1の耐食性磁石を用いることができる。
本発明に係る耐食性磁石は、優れた耐食性を有するため、従来の希土類磁石が用いられる用途だけでなく、これまで腐食しやすいために適応できなかった用途など、様々な用途に適応できる。
本発明の第一の実施形態に係る耐食性磁石の断面の模式図 本発明の第一の実施形態に係る耐食性磁石の断面の模式図 本発明の第一の実施形態に係る耐食性磁石の製造方法における粉砕方法を説明する図 本発明の第二の実施形態に係る耐食性磁石の断面の模式図 本発明の第三の実施形態に係る耐食性磁石の断面の模式図

Claims (2)

  1. 希土類磁石を、熱可塑性樹脂と平均粒径が5μm以下の強磁性粒子とを有する複合膜で被覆してあり、当該複合膜の厚みが10μm以下であり、
    前記複合膜は、フッ素系樹脂で形成した層とビニルアルコール系樹脂で形成した層とを含む複数の層を有する耐食性磁石。
  2. 前記熱可塑性樹脂と前記強磁性粒子とが、カップリング剤を介して結合している請求項1に記載の耐食性磁石。
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