JP4774629B2 - ポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、食缶、飲料缶、一般缶などに使用される缶用表面処理鋼板に関するものであって、特に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートのようなポリエステル樹脂のフィルムを熱硬化性接着剤でラミネート被覆したポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
従来、食缶、飲料缶、一般缶などを製缶するには、錫めっき鋼板や薄クロムめっき鋼板に塗装を施した表面処理鋼板が用いられていた。塗装は複数回行われることが多く、塗料の焼き付け工程が煩雑であるばかりでなく、塗装に使用する塗料のほとんどが大気への放出によって公害問題を引き起こしかねない有機溶剤であるため、廃棄溶剤を処理する設備が必要となって、設備コスト負担が大きくなるという問題がある。また、有機溶剤の塗料を使用しないようにするため、水性の塗料も開発されているが、塗膜性能が劣るため、実用化レベルにまでは達していないのが現状である。
【0003】
これらの問題点を解決するため、熱可塑性の樹脂フィルムをラミネートする試みが多数なされており、ポリエチレン樹脂やポリプロピレン樹脂などのポリオレフィン樹脂フィルムやポリエチレンテレフタレート樹脂などのポリエステル樹脂フィルムをラミネートする検討が行われた。これらの中で、ポリエステル樹脂フィルム、特に、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、錫めっき鋼板や薄クロムめっき鋼板に熱硬化性接着剤を用いてラミネートした樹脂被覆表面処理鋼板が、フィルムの密着性に優れることからいち早く実用化されている。
【0004】
熱硬化性接着剤を用いてポリエステル樹脂フィルムをラミネートした鋼板としては、例えば特公昭63−13829号公報、特公平4−74176号公報、特公平5−71035号公報等が知られているが、これらに開示されている樹脂被覆鋼板はいずれも、従来の塗装缶に使われていたのと同じ公知の缶用表面処理鋼板である。
【0005】
代表的な缶用表面処理鋼板としては、従来からぶりきと称される錫めっき鋼板と薄クロムめっき鋼板があり、錫めっき鋼板では、通常、ぶりき原板に錫めっきを施した後に、重クロム酸、クロム酸などの6価のクロム化合物を使った水溶液中に浸漬もしくはこの溶液中で電解することによってクロム酸化物あるいは金属クロムとクロム酸化物からなるクロメート皮膜を形成するのが一般的であり、また、薄クロムめっき鋼板は、同様の原板をクロム酸の水溶液中での電解処理によって金属クロムとクロム酸化物からなる層を形成させる。これら缶用表面処理鋼板の最表層にはクロム酸化物があり、このクロム酸化物は、ポリエステル樹脂フィルム、特に二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの密着性を向上させる作用を有することが知られている。
【0006】
しかし、重クロム酸、クロム酸などの6価のクロム化合物を使った水溶液で浸漬処理または電解処理を行う場合、作業環境上の安全性確保及び廃水処理に多大な費用を要するだけでなく、万が一、事故等でクロメート処理液が漏洩した場合には環境に大きな被害を及ぼす危険性が大きい。昨今の環境問題から、クロムを規制する動きが各分野で進行しており、缶用表面処理鋼板においてもクロムを使わずに、ポリエステル樹脂フィルムとの密着性を向上させる化成処理の必要性が増大している。
【0007】
缶用表面処理鋼板のクロメート処理に代わる化成処理に関する技術としては、例えば、特公昭55-24516号公報に、リン酸系溶液中で錫めっき鋼板を陰極として直流電解することにより、錫めっき鋼板上にCrを含有しない化成皮膜を形成した錫めっき鋼板の表面処理法が開示されており、また、特公平1-32308号公報には、化成皮膜中にPもしくはPとAlを含有させて、Crを含有しない化成皮膜を錫めっき層表面に施したシームレス缶用電気めっきぶりきが開示されている。
【0008】
しかしながら、ポリエステル樹脂フィルムとのラミネートにおいて、上掲公報に記載された化成皮膜はいずれも、従来の重クロム酸やクロム酸溶液によって形成したクロメート皮膜に比べると密着性が十分に得られているとはいえない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
この発明の目的は、錫合金層の上層に形成される化成皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、ポリエステル樹脂フィルム、特に二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの密着性に優れたポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板を提供することにある。
【0010】
【課題を解決しようとするための手段】
以下にこの発明をさらに詳細に説明する。
錫合金層の上層に、上記従来技術を用いてCrを含有しない化成皮膜を形成した場合には、ポリエステル樹脂フィルムとの密着性を満足させることは困難であった。
【0011】
このため、発明者らは、表面処理鋼板における上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねた結果、錫合金層の上層にPとSiを含有する化成皮膜を形成させた場合には、ポリエステル樹脂フィルムとの十分な密着性を満足させることができることを見出した。
【0012】
より具体的には、錫合金層の上層に、好ましくはPとシランカップリング剤を含有する化成処理液により、適正量のPとSiを含有する化成皮膜を形成すれば、このシランカップリング剤に存在する反応基が配向して密着性に大きく寄与することがわかった。
【0013】
この発明の表面処理鋼板は、鋼板表面上に、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種を含有する錫合金層を有し、その上層に0.5〜100mg/m2のPと0.1〜250m g/m2のSiを含有する化成皮膜を有し、前記化成皮膜の表面に熱硬化性接着剤を介してラミネートされたポリエステル樹脂被覆を有することにある。尚、化成皮膜中のSi/P比(質量比)は0.05〜100の範囲にすることが好ましい。
【0014】
また、前記化成皮膜は、Pとシランカップリング剤を含有する化成処理液により形成することが好ましい。
さらに、前記錫合金層中のSnの付着量は0.1〜3.0 g/m2であることが好ましい。
さらにまた、前記シランカップリング剤がエポキシ基を有することがより好適である。
加えて、ポリエステル樹脂被覆が二軸延伸ポリエチレンテレフタレート被覆であることが好ましい。
【0015】
【発明の実施の形態】
以下にこの発明の実施形態を詳細に説明する。
この発明の表面処理鋼板は、通常のぶりき原板に錫合金層を形成したものであり、この発明における「錫合金層」とは、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種を含有する錫合金層を意味する。
【0016】
通常のぶりきは、ぶりき原板にSnめっきした後、そのままか、あるいはSnを加熱溶融するための一般的な加熱処理(リフロー処理)を施すが(この場合、ぶりき原板とSnめっき層との間にFe-Sn合金層が形成されることになる。)、表面の大部分は金属Snであるため、使用されるまでの保管期間が長いと、金属Snの表面でSn酸化物が成長する。このSn酸化物は脆いため、ラミネート後にこのSn酸化物を起点としてフィルム剥離が生じやすくフィルム密着性を著しく悪化させる。
【0017】
この欠点を解決するため、従来はクロメート処理を施すことによって対処していたが、クロメート処理を施したとしても、金属Snの表面で生じがちなSn酸化物の成長を完全には抑制することができない。
【0018】
そこで、この発明では、金属Snのない前記錫合金層の上層に化成皮膜を形成することとし、これによって、優れた密着性を得ることができる。
【0019】
錫合金層を形成する手段としては、錫めっき後の加熱処理でSnを地鉄と完全に合金化させてFe-Sn合金層とする方法がよく用いられる。また、地鉄表面にNi系の前処理を施して置けば、より緻密なFe-Sn-Ni合金層を形成することができる。
【0020】
Ni系前処理としては、Niフラッシュめっき処理や、Niめっき後に熱処理するNi拡散処理がよく用いられている。
Niフラッシュめっき処理では、その上層に施したSnめっきと常温でも合金化が進み、NiとSnの比が1:3のときに合金化するので、Ni量とSn量の比を1:3にしておけば、熱処理なしでNi−Sn合金層が得られる。
また、Ni拡散処理では、錫合金層の下層にNi拡散層であるFe−Ni合金層が存在する。
【0021】
さらに、錫合金層の他の形成方法として、めっき後の拡散合金化反応によらず、Feイオンおよび/またはNiイオンを含有させたSnめっき液を用いてSn合金めっきを施すことによって錫合金層を形成してもよい。
【0022】
尚、この発明は、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種を含有する錫合金層を有する表面処理鋼板に限定しているが、これは上述したように、優れた密着性を得るのに適しているからである。
【0023】
また、この発明では、錫合金層中のSnの付着量が0.1〜3.0 g/m2の範囲であることが好ましい。錫合金層中のSn付着量が0.1 g/m2未満だと十分な密着性が得られなくなるおそれがあるからであり、また、3.0 g/m2超えだと、性能は十分であるがコスト高になるので好ましくなく、特に熱処理による合金化の場合には、合金化を高温かつ長時間で行う必要があり、生産性の点からも好ましくないからである。尚、Sn付着量は、電量法又は蛍光X線による表面分析により測定できる。
【0024】
尚、この発明における錫合金層は、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種を含有する錫合金層であればよく、特に限定はしないが、Sn-Fe合金層の場合には、FeSn2合金層またはFeSn合金層であることが好ましく、Sn-Ni合金層の場合には、Sn3Ni合金層またはSnNi合金層であることが好ましく、Sn-Fe-Ni合金層の場合には、(Fe・Ni)Sn2合金層または(Fe・Ni)Sn合金層であることが好ましい。
【0025】
そして、この発明の構成上の主な特徴は、錫合金層の上層に、0.5〜100mg/m2のPと0.1〜250mg/m2のSiを含有する化成皮膜を有し、前記化成皮膜の表面に熱硬化性接着剤を介してラミネートされたポリエステル樹脂被覆を有することにある。
【0026】
(1)化成皮膜中のP含有量をその付着量にして0.5〜100mg/m2の範囲とすること
化成皮膜中のP含有量は、その付着量にして0.5〜100mg/m2の範囲とすることが必要である。0.5mg/m2未満では、密着性が十分に得られず、また、100mg/m2超えでは化成皮膜に欠陥が生じやすくなり、密着性が劣化するからである。
尚、P付着量の測定は、蛍光X線による表面分析により行った。
【0027】
また、Pを含有させた化成皮膜の形成方法としては、例えば、リン酸系化成処理によって行なうことが好ましく、この場合、化成処理液中のPの供給源としてはリン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、リン酸ナトリウム、リン酸アルミニウム、リン酸カリウム等の金属塩、及び/又は、1水素リン酸塩など使用することがより好適である。
【0028】
尚、化成処理液には、Sn、Fe、Niの金属塩、例えば、SnCl2、FeCl2、NiCl2、SnSO4、FeSO4、NiSO4などの金属塩を適宜添加することができる。この場合には、促進剤として塩素酸ナトリウム、亜硝酸塩などの酸化剤、フッ素イオンなどのエッチング剤を適宜添加してもよい。
【0029】
上記錫合金層を形成した鋼板を上記リン酸系化成処理液に浸漬または電解処理することによりPを含有させた化成皮膜を形成することができる。
【0030】
(2)化成皮膜中のSi含有量をその付着量にして0.1〜250mg/m2の範囲とすること
化成皮膜中に含有するSiは、好ましくは処理液中に含有させたシランカップリング剤によって含有させたものである。シランカップリング剤の一般化学式は、X-Si-OR2or3(OR:アルコキシ基)である。
【0031】
シランカップリング剤は、アルコキシシリル基(Si-OR)が水により加水分解されてシラノール基を生成し、金属表面のOH基との脱水縮合反応により密着する。また、鋼板の上層には、一般化学式のXにあたる反応基が配向し樹脂と相溶もしくは結合する。
【0032】
尚、シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3‐メルカプトプロピルメトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2-メトキシエトキシ)シラン、アミノ基の存在する、N-2(アミノエチル)3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3‐アミノプロピルトリエトキシシランなどが使用できるが、特にシランカップリング剤の一般化学式におけるX-Si-OR2or3のXにエポキシ基が存在する2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランや3−グリシドキシプロピルトリメトキシシランが好適である。これは、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとのラミネートに使用する熱硬化性接着剤との相溶性と反応性に優れるためである。
【0033】
この発明では、化成皮膜中に含有するSiの付着量は、密着性向上効果が顕著に現われる0.1〜250 mg/m2の範囲とする。0.1 mg/m2未満だと、密着性向上効果が十分に得られないからであり、また、250 mg/m2超えでは、未反応のSi成分が残存する(シランカップリング剤が自己縮合する)ため、密着性向上効果が低減するからである。尚、Si付着量の測定は蛍光X線による表面分析により行った。
【0034】
PとSiを含有する化成皮膜の形成方法としては、前述のリン酸系化成処理液を用いてPを含有させた化成皮膜を形成させ、さらにシランカップリング剤を水に希釈した溶液で処理することによって行うことができる。尚、シランカップリング剤を水に希釈した溶液で処理した場合に、表面の濡れ性が悪いためはじきが発生するときは、アルコールで希釈した溶液を使用することができる。例えば、エタノールを50mass%以上、シランカップリング剤を0.5〜20mass%、残りを水とした溶液にて均一に処理することができる。シランカップリング剤を含有する溶液を用いた処理は、溶液の塗布、乾燥あるいは浸漬処理によって行えばよい。
【0035】
また、Pを含有する化成皮膜の形成方法であるリン酸系化成処理溶液にシランカップリング剤を含有させることで、1液でPとSiを含有する化成皮膜を形成することもできる。この場合、pHを1.5〜5.5の範囲にすることが好ましい。即ち、化成処理液のpHを1.5〜5.5の範囲に調整すれば、シランカップリング剤を化成処理液中に均一に溶解することができ、優れた密着性が得られる。pHが上記範囲外であるとシランカップリング剤を化成処理液に均一に溶解させることが難しくなり、密着性向上効果が十分に得られなくなる傾向があるからである。
【0036】
また、この発明では、上記化成処理錫合金めっき鋼板に、熱硬化性接着剤を介してラミネートされたポリエステル樹脂の被覆を有することが必要である。
前記ポリエステル樹脂としては、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートを用いることが好ましい。尚、ここでいう「二軸延伸ポリエチレンテレフタレート」とは、エチレングリコールとテレフタル酸の重縮合物からなる薄膜を縦・横二軸方向に延伸したものをいう。前記薄膜としては、例えば前記重縮合物をTダイから押出成形することによって得られたフィルム等が挙げられる。薄膜の厚みは、特に制限するものではないが、5〜50μmであることが好ましい。薄膜厚みが5μm未満と薄すぎると、ラミネート作業に手間がかかるようになるため好ましくないからであり、また、50μmよりも厚くしても、さほどの効果は得られず、コストの上昇を招くことになるからである。
【0037】
また、この発明では、化成処理した錫合金めっき鋼板とポリエステル樹脂フィルムとのラミネートに熱硬化性接着剤を用いる。尚、ここでいう「熱硬化性接着剤」とは、熱による低分子のモノマーと硬化剤との架橋反応により3次元的網状構造を持つ高分子となるものであれば特に規定するものではないが、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、エポキシ・フェノール樹脂、メラミン樹脂、エポキシ・メラミン樹脂、ユリア樹脂、エポキシ・ユリア樹脂、アルキド樹脂、ポリエステル樹脂等で、接着機能のために水酸基、カルボキシル基、ウレタン基、エポキシ基、アミド基、エステル基のうちの1種以上を有するものであればよい。
【0038】
熱硬化性接着剤は、化成処理した錫めっき鋼板上あるいはポリエステル樹脂フィルムの片面、もしくは化成処理した錫めっき鋼板とポリエステル樹脂フィルムの接着面同士に設ければよく、化成処理した錫めっき鋼板とポリエステル樹脂フィルムの間で両者を接着するように構成すればよい。
【0039】
熱硬化性接着剤は、適当な有機溶媒か水で溶液状態にしたものを、ロールコートやスプレーコートによって、化成処理した錫めっき鋼板および/またはポリエステル樹脂フィルムに塗布し、適当な温度、好ましくは50〜180℃で乾燥させることで化成処理した錫めっき鋼板および/またはポリエステル樹脂フィルム上に設けることができる。乾燥後の熱硬化性接着剤の重量は、0.2〜10.0 g/m2であることがラミネートに必要な接着を行う上で好ましく、より好ましくは0.5〜5.0 g/m2である。
【0040】
化成処理した錫めっき鋼板とポリエステル樹脂フィルムを熱硬化性接着剤でラミネートするには、鋼板を190〜280℃に加熱し、熱硬化性接着剤が接着界面となるようにポリエステル樹脂をロール等で押しつけて圧着することによってラミネートすればよい。
【0041】
次にこの発明に従うポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板の具体的な製造方法の一例を説明する。
通常のぶりき原板あるいはNiフラッシュめっき処理を施した原板若しくはNi拡散処理を施した原板にSnめっきを施した後、錫の融点(231.9℃)以上の温度で加熱溶融(リフロー)処理を行ってSnを地鉄と合金化し、引き続き、浸漬処理によって化成処理を行うことによって、化成皮膜を形成した錫合金めっき鋼板を製造する。尚、リフロー処理後に、化成処理の反応性を向上させるため、15g/lの炭酸ナトリウム水溶液中で1C/dm2の陰極処理を行ってもよい。
【0042】
化成処理液としては、リン酸イオン換算で1〜80g/lのリン酸、錫イオン換算で0.001〜10g/lの塩化第一錫、及び0.1〜1.0 g/lの塩素酸ナトリウムを含有し、さらにシランカップリング剤を0.5〜20.0mass%添加した水溶液を用いる。
【0043】
化成処理の条件は、温度を40〜60℃、処理(浸漬)時間を1〜5秒とすることが好ましい。化成処理後の表面処理鋼板は、35〜150℃の温風で乾燥する。
【0044】
また、化成皮膜を形成する別の方法としては、シランカップリング剤を含まない上記化成処理液で処理した後、シランカップリング層を形成するためのシランカップリング処理液、例えば、エタノールを50mass%以上、シランカップリング剤を0.5〜20mass%、残りを水とした溶液を均一に塗布し、鋼板表面温度が50〜150℃に到達するように乾燥する方法がある。
【0045】
その後、化成皮膜を形成した錫合金めっき鋼板に、厚さ25μmの二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムを、有機溶剤で溶液化したエポキシ・フェノール系熱硬化性樹脂を介して熱圧着することによって、ポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板を製造する。
尚、前記熱圧着は、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムの前記鋼板との接着面に相当する面に、前記熱硬化性樹脂をロールコーターで乾燥後重量が2g/m2となるように塗布し、170℃で乾燥させた後、熱硬化性樹脂が前記鋼板と前記フィルムの界面になるように、200℃に加熱した前記鋼板にロールで圧着することによって行う。
【0046】
上述したところは、この発明の実施形態の一例を示したにすぎず、請求の範囲において種々の変更を加えることができる。
【0047】
【実施例】
次に、この発明の実施例について以下で詳細に説明する。
・実施例1〜11
板厚0.1〜1.0mmの低炭素鋼または極低炭素鋼からなるぶりき原板に、片面当り0.08〜2.80g/m2の付着量の錫合金層を形成させた表1に示す表面処理鋼板に、4種類の化成処理条件(A〜D)のいずれかを適用して化成皮膜を形成させた。その後、3種類の熱硬化性接着剤(イ、ロ、ハ)のいずれかを用いてポリエステル樹脂フィルムをラミネートし、ポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板を製造した。化成皮膜の組成については表1に示し、また、4種類の化成処理条件(A〜D)については表2に示し、さらに、熱硬化性接着剤(イ〜ロ)については表3に示す。
【0048】
・比較例1〜4
尚、比較のため、化成皮膜中のP及びSi付着量のうちの少なくとも一方がこの発明の適正範囲外である表面処理鋼板についても製造した。
【0049】
【表1】
【0050】
【表2】
【0051】
【表3】
【0052】
(性能評価)
実施例1〜11及び比較例1〜4の各表面処理鋼板について、ポリエステル樹脂フィルムの密着性についての評価を行った。
【0053】
・フィルム密着性試験
ポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板にクロスカットを入れた後、エリクセン試験機を用いてポリエステル樹脂フィルム面が5mmだけ凸側になるように張出し成形を行い、その後、沸騰水中に5時間浸漬した後、クロスカット部からピンセットでポリエステル樹脂フィルムを引き剥がし、剥離状況によってフィルムの密着性(フィルムが剥離するかどうか)を下記に示す3段階で評価した。その評価結果を表1に示す。
【0054】
表1の結果から明らかなように、実施例1〜11はいずれも、ポリエステル樹脂フィルムの密着性に優れていた。一方、比較例1〜4は、ポリエステル樹脂フィルムの密着性が悪く、実用レベルにないことがわかる。
【0055】
【発明の効果】
この発明によれば、錫合金層の上層に形成される化成皮膜中に、その皮膜特性を向上させる作用を有するものの環境上の問題から望ましくないとされるCrを含有させることなく、ポリエステル樹脂フィルム、特に二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルムとの密着性に優れたポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板の提供を可能にした。
Claims (4)
- 鋼板表面上に、FeおよびNiのうちから選んだ1種または2種とSn とからなり、Snの付着量が0.1〜3.0g/m 2 である錫合金層を有し、その上層に0.5〜100mg/m2 のPと0.1〜250mg/m2 のSiを含有する化成皮膜を有し、前記化成皮膜の表面に熱硬化性接着剤を介してラミネートされたポリエステル樹脂被覆を有することを特徴とするポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板。
- 前記化成皮膜は、Pとシランカップリング剤を含有する化成処理液により形成することを特徴とする請求項1に記載のポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板。
- 前記シランカップリング剤がエポキシ基を有することを特徴とする請求項2に記載のポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板。
- ポリエステル樹脂被覆が二軸延伸ポリエチレンテレフタレート被覆である請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリエステル樹脂被覆錫合金めっき鋼板。
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