JP3985378B2 - フィルムラミネート溶接缶用鋼板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、シーム溶接工程を経て得られる3ピース溶接缶(以下、単に「溶接缶」と略記する)に用いられる、フィルムラミネート鋼板に関し、とくに溶接可能範囲が広く、缶胴への疵付きがないフィルムラミネート溶接缶用鋼板に関するものである。なお、本発明は、とくに鋼帯の長手方向を軸方向とする円筒に成形して溶接缶に仕上げる場合に適用して好適な鋼板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
缶用鋼板には、鋼板の表面にSn、Cr、Ni等の各種めっきを施したものがあり、これらは3ピース缶や2ピース缶に加工されて、飲料缶、食缶等として供給されている。なかでも、3ピース缶は、上蓋、底蓋およびシーム溶接した缶胴の3部品からなり、製造工程が2ピース缶に比べて単純で、合理的化しやすく、小ロット多品種の生産に適しているという利点を有している。
【0003】
かかる3ピース缶、特にすずめっき素材を用いた3ピース缶の製造において、最近の大量消費に伴って生まれた大きな技術的進歩として、使用鋼板の高張力化、板厚減少による軽量化、シーム溶接の高速化ならびにフィルムラミネート鋼板(鋼板にポリエチレンテレフタレート系フィルム(PET)などの有機樹脂フィルムを焼付けた状態のもの)の採用による製缶の合理化と生産性向上などが挙げられる。
【0004】
さて、3ピース缶の製造工程において、缶胴板のシーム溶接工程は、缶体の品質や生産性などを左右する重要な役割を担っている。そしてシーム溶接作業で、一般的に問題になるのが、散り(スプラッシュ)の発生や、拡缶試験における溶接部の剥がれである。
散りは、基本的には、過電流が流れるために発生し、剥がれは必要な電流が鋼板同士の接合面に十分に流れないために発生するものである。シーム溶接で、これら両欠陥をともに生じさせないための適正電流範囲(溶接可能範囲、以下単に「ACR」と略記する)が存在し、その範囲が大きい方がよい。ACRが小さいと、散り発生を防ぐために電流値を小さくすれば、剥がれが発生しやすく、逆に剥がれが発生しないように電流値を大きくすれば、散りが発生することになる。このため、溶接缶用鋼板には基本的にACRが大きい素材が要求される。
【0005】
シーム溶接において、3ピース缶体の素材として、高強度で極薄(板厚0.2 mm以下)の鋼板を用いる場合には、次のような点で溶接作業が一層困難になる。すなわち、極薄の鋼板では接合面の空気抵抗が相対的に大きくなり、接触抵抗が大きくなる。また、板厚が薄いと、シーム溶接で発生した熱を、溶接缶体が持ち去る熱量が少ないために、鋼板の温度が上昇して、電気抵抗が大きくなる。このような接触抵抗と電気抵抗の増加は、シーム溶接時の散りの多発を起こしやすくなる。
このように、極薄鋼板ではACRが狭くなり、散りと剥がれの両方とも安定的に回避することがますます困難になるので、高速溶接は通常板厚のものよりもますます困難となる。
【0006】
前述したように、缶体素材の極薄化と並ぶ最近の技術進歩に、缶胴板への塗装・印刷焼き付け法の変更がある。すなわち、従来は、シート塗装(広幅シートによる4〜6条×5〜6列取り)ののち、加熱オーブンにより焼き付ける( 190〜 210℃で10〜20分の高温長時間処理)工程によるものであった。
これに代わって開発されたのがフィルムラミネート法である。この方法は、予めグラビア印刷したフィルムを缶外面側に、同時に無地の透明フィルムを缶内面側に、それぞれラミネート( 160〜220 ℃で1分程度の短時間処理)するもので、美粧性を付与するとともに、内容物のフレーバー性をも確保できるという利点がある。鋼板へのラミネートは、シーム溶接の予定部を残して行われるので、溶接予定部(スリット材の幅端縁)では金属が露出した状態になっている。
この方法については、例えば、特開平5-31868 号公報に、缶胴ブランク材料を巻き付けたコイルから、連続して供給される長尺の缶胴ブランク材料(1缶の円周長さに相当する幅狭コイル)の両面に、溶接部に相当する両端縁に金属Crの露出部を残して、フィルムを熱圧着する方式が開示されている。
【0007】
このフィルムラミネート法は、加熱オーブンを使わないので環境に優しいのみでなく、高速通板が可能であり、多色の場合でも1回の通板で仕上がり、版替えはフィルムの取り替えだけでよく、しかも短時間加熱で缶胴板への印刷ができるので、溶接機とフィルムラミネートラインを直結でき、より生産性の向上が期待される技術である。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
しかし、これら最近の技術を採用して高効率で生産性の高い生産方式を採用した場合でも、何らかの欠陥をもつ不良缶が発生したときには、操業中での素材の入れ替えや、ラインの修理等による操業停止を招き、期待される効果が十分に発揮されなくなる。したがって、新しい生産方式では、とりわけ不良品発生のトラブルを避けることが一層重要になってくる。
【0009】
ところが、現実には、上述した最近の技術を採用して、板厚0.20mm以下の高強度極薄鋼板の表面にフィルムをラミネートして高速溶接を行った場合に、操業開始後数時間程度経過すると、溶接部強度が不足する、いわゆる溶接不良が発生しやすくなる。また、缶胴の外面や内面にすり疵等の外観不良缶が発生するという問題もおこる。このような不良缶は、溶接速度の増加に伴って頻発するという傾向もみられた。
なお、ラミネート缶の中でも鋼帯長手方向を円筒体の軸方向として円筒成形する方法は、溶接のための非ラミネート部がスリットコイルの板幅端部に位置するため、ラミネート処理が容易で生産性が高い。しかし、素材鋼板の幅方向の降伏強度が一般に高いため、円筒成形に際してのスプリングバックが大きい。このため、溶接部の重ね代の幅が安定せず、より溶接不良が発生し易く、問題となっている。
【0010】
そこで、本発明の主たる目的は、従来技術が抱えていたこのような問題を解決することにあり、フィルムをラミネートした溶接缶用鋼板をシーム溶接して缶胴とする場合に、ACR(溶接時に散りや拡缶試験での溶接剥がれが生じない健全なナゲットが形成される溶接可能範囲)が大きく、高速で溶接を行っても溶接不良の発生がなく、かつすり疵などによる外観不良缶を発生することがないフィルムラミネート溶接缶用鋼板を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
発明者らは、上記の課題を実現するため鋭意研究した結果、従来着目されていなかった溶接時のスパーク挙動が溶接不良およびすり疵の発生に影響しており、このスパーク挙動を適正化するためには金属すずおよび合金化すずの量、さらには鋼板の表面粗さを適正に制御する必要があることを突き止めた。また、フィルムラミネート法におけるラミネート処理条件が従来の印刷塗装焼付条件と異なるために、金属すずおよび合金化すずの量がスパーク発生に不利な領域内になり易いことを見出した。
すなわち、本発明は、鋼板の少なくとも一方の表面にすずめっき層が形成され、その上層に有機樹脂フィルムからなるフィルムラミネート層を有する溶接缶用鋼板であって、前記鋼板の平均表面粗さRaが0.2〜0.4μmであり、フィルムラミネート後のすずめっき層には、金属すずが200〜600mg/m2、かつ合金すずが400〜1500mg/m2の範囲で含まれることを特徴とするフィルムラミネート溶接缶用鋼板である。
【0012】
なお、上記発明において、平均表面粗さは0.28〜0.38μm、金属すず量は250 超〜500 mg/m2 未満、また、合金すず量は 550超〜1100 mg/m2がとくに好ましい範囲である。また、上記発明においては、とりわけ、鋼板の表面に、Niの下地めっき層があり、その上層にリフロー処理したすずめっき層、さらにその上層にクロメート層が形成された層構成が好適である。なお、本発明における鋼板の平均表面粗さは、すずめっき直前における素材表面の値をさす。したがって、Niめっきを行った場合には、Niめっき後の状態(Niめっき後に拡散処理を行った場合には拡散処理後の状態)での値である。
【0013】
【発明の実施の形態】
はじめに、本発明を開発する端緒となった研究結果について説明する。
板厚0.150 mmの冷間圧延鋼板に、▲1▼Ni量80±20mg/m2 でNiめっき後、680 ℃の連続焼鈍によりNi拡散処理するか、▲2▼Ni量200 mg/m2 でNiめっき後、拡散処理することなく、調質圧延機で表面粗さRaを約0.3 μm、調質度をT5に調整した。
次いで、すず目付量1340mg/m2 で平坦に電析させた後、直ちに溶すず合金化熱処理(リフロー処理; 230〜280 ℃に昇温後1秒以内に50〜80℃の水槽に投入)を施した。さらにその上層に、金属Cr量8mg/m2 、酸化Cr量6mg/m2 のめっきを行い、薄すず目付鋼板とした。このリフロー処理工程で、昇温から水冷までの時間と到達温度を制御することにより、すずの合金化量と、金属すず量を種々の範囲に調整した。
このめっき鋼板に、 (1)従来のシートコート法( 210℃×20分)で、また (2)缶内面には無地のPETフィルムを、缶外面には事前に印刷を施したPETフィルムをそれぞれラミネートし、加熱炉( 220℃×1分)で焼き付けたフィルムラミネート法で、それぞれ溶接缶用鋼板に仕上げた。
【0014】
これらの溶接缶用鋼板を、缶単位の大きさにスリット加工後、溶接速度(銅線送り速度)を 120m/分とする超高速で連続製缶操業を行い、缶胴めっき面への疵付性、溶接不良缶の発生状況を詳細に調べた。なお、缶成形の方向は、鋼帯長手方向を円筒体の軸方向とした (以下同じ) 。
その結果、従来のシートコート法で仕上げた缶用鋼板では、時間が経過しても溶接不良缶は発生しなかった。一方、疵は印刷面が硬質のため目立ちにくいが、よく観察すると、時間の経過とともに発生が見られた。
これに対し、フィルムラミネート法で仕上げたものの中には、連続操業時間の経過に従って、検査選別器で溶接不良缶として自動的に除去されるものが発生した。また、缶胴めっき面に疵が現れ、早いものでは数時間で発生するものもあった。
【0015】
発明者らは、疵付の発生原因を追求するために、疵付缶の表面、溶接機とその周辺の状況を詳細に観察した。その結果以下の事実を確認した。
・フィルムラミネートラインをめっき無地面(めっき・溶すず処理後ラミネート前の鋼板)で搬送される鋼板端部に、すずの塊が付着していて、これが疵の原因と関係があるらしいこと。
・溶接不良缶として除去された缶を観察、分析・断面顕微鏡観察等で詳細に調べると、大部分の場合、溶接の接合ラップ部にすずの塊が挟まれていること。 (なお、少数ながらすずに代わり鉄主体の塊が挟まれているものもあった)
・溶接機の電極輪周辺を詳細に観察すると、Zバーやシリンダーの周辺に白い粉末が見られ、その中には除去缶で確認されたものと同じ大きさの白い塊 (錫の塊) が付着しており、この塊が何らかの理由で落下して、溶接接合部に付着したときに溶接不良缶になること。
なお、Zバーとは、溶接する両端部を電極輪の位置まで誘導するための、断面が略Z字型のガイド棒で、その先端は電極輪付近まで伸びている。
【0016】
そこで、すず目付量とリフロー処理条件を種々の範囲で変化させ、上記と同様のフィルムラミネート法で製造した缶用鋼板について、溶接前の鋼板の金属すず量と不良缶発生傾向との関係を調査した。その結果を図1に示す。
図1から、不良缶を発生させないためには、金属すず量を 200〜600 mg/m2 、好ましくは 250超〜500 未満mg/m2 の範囲にすることが必要であることがわかる。200 mg/m2 以下の範囲ではACRの範囲外(強溶接)となり十分な溶接部が得られなくなるとともに、ちりが多発した。一方、600 mg/m2 を超えると溶接不良缶が多発する。以下に述べる調査により、溶接不良缶発生の原因は、600 mg/m2 を超えるすず量になるとスパーク発生が著しくなり、スパークにより飛散した主にすずからなる粒子がZバー等に積もって塊まりとなり、自重に耐えられなくなり、操業中の振動によって溶接接合部に落下して付着する結果、溶接が不十分となることによることを知見した。
【0017】
缶用鋼板の抵抗溶接においては、スパーク、すなわち放電(短絡電流)による(溶けた)金属粒子の飛散は従来から観測されているが、このように飛散した粒子は赤い火の玉状をなしており、とくに溶接不良やすり疵等の缶品質への影響はほとんど問題視されていない(なお、スパークは、溶融した溶接金属が圧力により飛散する散りとは異なる現象である)。
しかし、本発明者らは、上述したすずの白い塊も、スパークに起因するものではないかと推定し、高速度ビデオカメラで溶接状況を撮影した。その結果、肉眼で観察できる赤い火の玉状の粒子の他に、白い粉末状の粒子もスパークにより飛散していることを突き止めた。
これらの粒子を採取して分析した結果、赤い火の玉状の粒子は50〜300 μmφの中空球状で、鉄を主体としたものであり、一方白い粉末状の粒子は、大きさが30μmφ以下の球状で、すずを主体としたものであることが分かった。
鉄主体の火の玉状のスパーク粒子は飛散距離も大きく、多くは溶接機の床に散在するため、電極輪周辺にはあまり付着せず、そのため従来あまり問題とされなかったのである。ただし、今回の調査では溶接不良の原因となっているものが若干例見られ、必ずしも問題がないわけではないことが分かった。これは、鉄スパーク中にも多少すずが混在しており、この付着性の高いすずのために鉄スパークも部分的に電極輪周辺に付着するためと思われる。
一方、すず主体の白い粉末状のスパーク粒子はZバー等、電極輪周辺に多く付着しており、その結果、堆積して塊状にまで成長しているものもあった。このような塊が振動や自重により落下し、その落下位置が溶接予定部である場合に溶接を阻害し、溶接不良をもたらすものであると考えられた。
【0018】
無地面(めっき後ラミネート前の鋼板)への疵つきが金属すず量が多くなると増加した理由も、これらのスパークによるものと考えられた。すなわち、従来もスパーク粒子の一部が缶体にも付着していたと推測されるが、塗装印刷後の鋼板(表面は比較的硬質)であるため、目立つような疵が発生しなかったものと考えられる。一方、ラミネート缶の場合は表面に軟質な金属すずが相当量存在するため、疵が深く、かつ太くなり、概観上問題となるレベルのすり疵等となったものと思われる。なお、ラミネート缶の製造工程においては、フィルムラミネーター入側にて素材鋼板であるスリット板を板送りするに際して超硬プレート上を搬送されることが多く、これもラミネート缶において疵発生が顕著となる一因と思われる。
【0019】
このような原因による不良缶を発生させないためには、スパークの発生、とくにすず主体の白いスパーク粒子の発生を少なくする必要がある。このためには、既に述べたように金属すずの量の適正化が重要であるが、発明者らの調査により、さらに合金化すずの量および表面粗さの適正化も必要であることがわかった。まず、金属すずの量については、既に図1を示して述べたように、上限を600 mg/m2以下とすることが必要である。600 mg/m2以下では溶接不良・すり疵ともあまり発生しないが、600 mg/m2を超えると、すず主体の白いスパークが多量に発生し、溶接不良およびすり疵の発生が増加する。また、表面の金属すず量の増加に伴う表面軟質化によっても、すり疵が増加する。なお、図1に示す如く、金属すずの量を500 mg/m2未満とすることにより、溶接不良およびすり疵の発生をほぼ零とすることができる。
なお、金属すずの量は200 mg/m2以上は必要である。金属すず量が200 mg/m2以上では溶接不良の発生はかなり少ないが、200 mg/m2未満になると、電極輪との接触面積が小さく、溶接電流が局部集中するため、ACRが小さくなり、溶接不良が多発する。とくに溶接発熱での軟質化の程度が小さい場合には、電極輪とのなじみが悪くなり、接触面積が一層小さくなるので悪影響が大きい。また、金属すず量が少なすぎると、溶接発熱のうち缶体自体が持ち去る熱量が少なくなり、溶接機が高温となり、電気抵抗(固有抵抗)が大きくなるため、この点からも溶接性は低下する。なお、金属すず量を250 mg/m2超えとすることにより、溶接不良の発生はほぼ零となる。
よって、金属すずの量は200 mg/m2〜600 mg/m2の範囲とし、好ましい上限は500 mg/m2未満、また好ましい下限は250 mg/m2超えとする。
【0020】
なお、図1において、ACR要因の溶接不良の「多い」は10%程度、「少ない」は1%程度、「かなり少ない」は 0.2%程度の発生を指し、「無し」は発生率が 0.1%を下回ることを指す。また、スパーク要因の溶接不良はほぼ同等の経時効果評価で代用し、Zバー等の手入れ(スパーク粒子除去)作業を必要とするまでの操業時間について、「多い」は30分程度、「少ない」は120 分程度、「かなり少ない」は240 分程度を指すものとし、「無し」は300 分を超える操業でも手入れを必要としない程度とした。
また、すり疵については、目視で一見して疵が分かる程度に多いものを「多い」、多少探すことで発見できる程度を「少ない」、肉眼では容易に分からない程度以下のものを「無し」とした。
【0021】
次に、合金すずの溶接性への影響について、金属すずとの関係をまとめて図2に示す。◎、○、△、×の評価基準は図1の場合と同様である。
合金すずは、金属すずほど敏感に影響しないものの、やはり多量に存在するとすず含有スパークの発生が増加し、溶接不良を発生させ易くする。このため、合金すずの量の上限を1500mg/m2とする。1500mg/m2を超えて合金すずが存在すると、スパーク起因の溶接不良が多発し、またすり疵も発生し易くなる。なお、合金すずの量を1500mg/m2以下とすると溶接不良はあまり発生しなくなり、1300mg/m2以下でははとんど発生せず、1100mg/m2以下でほぼ発生が零となる。一方、合金すず量が少なすぎる場合は、ACR領域不足による溶接不良とスパークによる溶接不良の間の金属すず量の好適範囲が狭まる傾向に有り、やはり溶接不良が増加傾向にある。このため、合金すず量の下限は400 mg/m2とする。なお、550 mg/m2超えとすると、溶接不良の発生がほぼ零となり、とくに好適である。なお、合金すず量が少ない場合に溶接不良が発生し易くなる理由は、金属すずの場合と同様に溶接機が高温となり電気抵抗が増大することが関係するものと推測される。
【0022】
めっき中の金属すずの量と合金すずの量を上記の適性範囲に制御するには、すずめつき後のリフロー処理の条件を主として調整すればよい。とくに、印刷塗装処理に比べてラミネート処理は低温あるいは短時間となることが多く、すずの合金化が進行しにくいことを考慮し、塗装処理材に比べて金属すずを少なめに調整し、ラミネート処理後に適正量が残るようにすることが好ましい。
よって、合金すずの量は400 〜1500mg/m2の範囲とし、好ましい上限は1300mg/m2、より好ましくは1100mg/m2、また好ましい下限は550 mg/m2超えとする。
【0023】
次に、表面粗さのスパーク発生への影響を、図3に示す。スパークの「大」は30分程度、「中」は180 分程度での手入れを要するレベルを指し、「小」は300 分を超える操業でも手入れを必要としない程度とした。
表面粗さ(板面粗度)が0.2 μm未満の場合、すず主体の白いスパークが多発している。これは、低粗度では鋼板表面積が小さくなるために相対的に金属すずの被覆面積が増大し、すずのスパークが発生し易くなるものと考えられる。また、表面粗さが小さくなると、相対的に疵が目立つため、すり疵の発生も増加する。このため、表面粗さは0.2 μm以上とする必要がある。なお、表面粗さを0.2 μm以上とすることによりスパークの発生はかなり低減されるが、0.28μm以上とすると溶接不良及びすり疵への影響がほとんど観測されないレベルまで低減することができる。
一方、表面粗さが0.4 μmを超えると、より影響の少ない鉄スパークが主体ではあるものの、スパークの発生が増大する。これは、接触面積の低減により電気抵抗が増大するためと思われるが、鋼板表面積が大きくなるために鉄の露出が生じている可能性もある。いずれにせよ、表面粗さを 0.4μm以下とすることにより、スパークの発生はかなり低減される。なお、0.38μm以下とすると溶接不良及びすり疵への影響がほとんど観測されないレベルまで低減することができる。よって、表面粗さは 0.2〜0.4 μmの範囲とし、より好ましい範囲は 2.8〜3.8 μmとする。
【0024】
次に、この発明の缶用鋼板の製造方法の具体例を説明する。
缶用鋼板の素材としては、従来から缶用鋼板の素材として使用されているC:0.1wt%以下の低炭素アルミキルド連鋳鋼あるいは、C:0.004wt%以下の極低炭素アルミキルド連鋳鋼を用いるのが好ましい。この素材を常法により熱間圧延し、酸洗し、冷間圧延して製造した冷延鋼帯を、連続焼鈍した後、潤滑油を使用しないドライ調質圧延(全圧下率は3%以下)を2基のスタンドで行う。調質圧延機の前段スタンドと後段スタンドの圧延ロールの表面粗さを適宜調整して調質圧延する。ドライ調質圧延は2基のスタンドのほか、1基のスタンドで行うことも、場合によっては3基以上のスタンドで行うこともできる。圧延ロールの表面粗さの形成法は、砥石で研磨する方法、ロール表面を研磨した後に微細な超硬質な鋼粉を高速でロールに噴射する方法、放電ダル加工による方法、レーザーダル加工による方法等、いずれの方式でもよい。
【0025】
本発明の缶用鋼板を製造するに当たり、より一層良好な溶接性を具備させるためには、すずめっき層のすずが島状に分布したものとすることが望ましい。このような分布を達成するためには、すずめっきの前におけるめっき素材の下地処理として、Niめっきを行い、続いてNi拡散処理を施し、さらにすずめっき後にリフロー処理することが必要となる。また、耐食性の一層改善をはかるため、上記リフロー処理を行ったすずめっき層の上層にクロメート処理を施すことも望ましい。
すなわち、本発明の層構成は、鋼板の表面に、Niの下地めっきCAL拡散層があり、その上層にリフロー処理したすずめっき層、さらにその上層に金属Crと酸化Crからなるクロメート層が形成されたものがとくに好適である。
上述したように、すずめっき工程の前に、Niめっきによる下地処理を行った場合、本発明でいう鋼板の平均表面粗さは、すずめっき直前の状態、すなわちNiめっき後(Niめっき後に拡散処理を行った場合には拡散処理後)に測定される平均表面粗さの値をさす。
【0026】
【実施例】
次に、この本発明を実施例に基づいて、具体的に説明する。
缶用鋼板として一般的に使用されている低炭素アルミキルド連鋳鋼または極低炭素アルミキルド連鋳鋼を素材とし、この素材を、熱間圧延(仕上げ温度 900±30℃)し、塩酸酸洗後、冷間圧延して各種板厚の冷延鋼帯とし、
一部は連続焼鈍ライン入側でNiめっき量が片面当たり20〜500 mg/m2 、Ni/(Ni+Fe)の重量比が0.01〜0.30、Ni+Fe合金層の厚みが10〜4000Åの範囲のNiめっきを施し、連続焼鈍加熱炉および均熱炉で拡散処理を行った。焼鈍の熱サイクルは680 〜760 ℃×10秒、雰囲気はHNXガス雰囲気(10%H2 +90%N2 )とした。他の一部は、すずめっきライン入側でNiめっきを施し、拡散処理を施さなかった。
【0027】
これらの下地処理鋼板を、表面粗さをRa:0.2 〜0.6 μmのワークロールによる調質圧延(圧延油なし)によって、Ra:0.1 〜0.6 μmの表面粗さに調整した。これらの鋼板に、全すず量が770 〜2100mg/m2 の範囲でめっきし、リフロー処理の温度と時間を操作して、合金すず量を変化させた。その際、フラックスを使って、金属すずの形状を凸状のものも作った。引き続き、金属Cr量が1〜30mg/m2 の範囲、酸化Cr量が1〜30mg/m2 の範囲でクロメート処理を行った。
次に、ラミネート処理をした。ラミネートの処理条件は、PETフィルムをラミネート後、すずの融点より低温(190 〜230 ℃)で1分以下の加熱とした。なお、缶外面用のフィルムには事前に印刷を施し、内面用には無地のままラミネートを行った。
【0028】
Niめっき、すずめっきに用いた各めっき浴、リフローおよびクロメート処理の各条件は以下のとおりである。
【0029】
得られた供試材から、分析サンプルを採取し、全すず量;蛍光X線法、金属すず量;電解剥離法、合金すず量=全すず量−金属すず量、Ni量;蛍光X線法、金属Cr量;電解剥離法、全Cr量;蛍光X線法、酸化Cr量=全Cr量−金属Cr量の各方法により求めた。また、ラミネートラインでの無地素材表面への疵付を調査し評価した。
さらに、銅ワイヤー型・電気抵抗加熱シーム溶接機(商用機)を用いて下記条件でn数1000個の溶接を行い、溶接部へのスパーク粒子の落下、付着による溶接不良缶の発生状況を調査するとともに、溶接後に190 g飲料缶胴について2段ネックイン加工→フランジ加工後の割れ発生状況を調査し、高速溶接性を評価した。
また、散りが発生しない上限電流値とピール溶接強度(溶接部の一端に切り込みを入れ、溶接部を缶胴から引き剥がすピールテストにより、溶接部の全長が引きちぎれるものが強度が十分と判定、引き剥がしの途中で接合面が剥離する場合を強度不十分と判定する)が得られる下限電流値の差を溶接可能範囲ACRとして求めた。この値が5A以上、好ましくは6A以上あれば高速溶接の工程化が可能であるとして判断し、溶接性を評価した。なお、ピールテストにおいて、切り込みを入れる前に、缶の内外面を肉眼観察してスパーク塊の付着による溶接不良缶の評価および、疵付性も確認した。
【0030】
これらの調査結果を総合的に評価して、疵付性および溶接不良缶発生について評価した。庇付性は、図1と同様の基準で無地面および缶内外面を評価し、いずれかで「多い」判定となったものを×、「多い」はないがいずれかで「少ない」判定となったものを○、全て「無し」判定となったものを◎とした。また、溶接不良缶については、明らかな溶接不良を有するもの、フランジ加工に際し溶接部に割れ(剥離)が見られるもの、ピールテストにおいて溶接部のスパークによる塊によると思われるピール不良が発生するもののいずれも×と評価した。また、品質上の問題は示さなかったが、溶接部にスパークによる粒子の付着が明らかに認められるものは長時間使用を考慮し○とした。これらのいずれにも該当しないものは◎と評価した。
【0031】
溶接条件
・缶型; 190g飲料缶胴、 350g飲料缶胴
・銅ワイヤー径;1.3 mmφ
・通板速度;120 m/分
・溶接圧力;40kg
・周波数 ;700 Hz
・溶接ラップ代;0.5 mm
【0032】
得られた研究結果を表1にまとめて示す。この表から分かるように、発明例は板幅方向に巻いて円筒にしたにもかかわらず、すべて疵付きが無く、スパーク塊などの付着等による溶接不良缶も無く、適正溶接電流範囲も5A以上、好ましくは6A以上と大きく、板厚が0.150 mmの高強度、極薄鋼板であるにもかかわらず高速溶接を安定して行うことができる。これらの効果は、めっき前の板面粗さと、溶接直前の金属すず量および合金すず量を適切に設定したことにより得られたものである。
これに対して、比較例のNo. 2、3では、残存金属すず量が多いため溶接不良缶が発生し、すり疵も多発した。No. 4、5は、逆に金属すず量が少な過ぎるため、散りの発生によるACRの狭域化が生じた。また、No. 8、10では、板面粗さが小さいため、また、No. 6、9では逆に板面粗さが大きいため、疵付き性が悪く、溶接不良缶およびすり疵の発生が見られた。
また、No. 1、7では、合金すずの量が過剰または不足し、いずれも溶接不良缶が発生した。
【0033】
【表1】
【0034】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明によれば、高速で溶接を行っても、すり疵、スパーク塊による不良缶が発生せず、しかも、広い溶接可能範囲を有するフィルムラミネート溶接缶用鋼板を提供できる。このような効果は、より条件的に厳しい高強度、極薄鋼板の場合に発揮され、3ピース缶の高品質、高生産性に大きく寄与する。
【図面の簡単な説明】
【図1】残存金属すず量が不良缶発生に及ぼす影響を示すグラフである。
【図2】残存金属すず量と合金すず量と溶接性、耐錆性などの特性との関係を示すグラフである。
【図3】鋼板の表面粗さが耐錆性および缶胴表面への疵付に及ぼす影響を示すグラフである。
Claims (1)
- 鋼板の少なくとも一方の表面にすずめっき層が形成され、その上層に有機樹脂フィルムからなるフィルムラミネート層を有する溶接缶用鋼板であって、前記鋼板の平均表面粗さRaが0.2〜0.4μmであり、フィルムラミネート後のすずめっき層には、金属すずが200〜600mg/m2、かつ合金すずが400〜1500mg/m2の範囲で含まれることを特徴とするフィルムラミネート溶接缶用鋼板。
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