JP4211129B2 - 高速溶接性に優れた缶用鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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【発明が属する技術分野】
本発明は、缶用鋼板およびその製造方法に関し、特に缶胴部をシーム溶接により製造する3ピース缶に用いて好適なものである。なお、板厚は特に限定しないが、特に板厚0.2mm以下の極薄素材に適用して好適なものである。
【0002】
【従来の技術】
缶用鋼板は、Sn[Sn付着量が2.8g/m2 以上のぶりき及びSn付着量が2.8g/m2 未満の薄錫目付鋼板LTS(Lightly Tin Coated Steel)を含む]、Ni、Cr等の各種メッキを施した後、飲料缶、食缶等に使用される。
【0003】
特に、薄錫目付鋼板(LTS)と呼ばれる鋼板は、一般に下記の製造方法で製造される。すなわち、冷間圧延鋼板(未焼鈍素材鋼板)を製造し、再結晶焼鈍を施す前にNiメッキを施し、次いでNi拡散処理を兼ねた再結晶焼鈍を連続焼鈍サイクルにより行い、その後薄錫メッキを施し、リフロー処理を行なう。このリフロー処理により、錫の多くは鉄と合金化し耐食層となるが、NiがSnをはじいて凸状化するため、錫メッキ層の凸部に、島状に金属錫が残存する。前記の工程により、比較的少量の錫メッキで金属錫をある程度の量確保することができ、金属錫の低融点を利用して良好な溶接性が得られる。なお、多くの場合、島状錫層の上層に金属Cr及び酸化Crからなるクロメート層を付与して耐食性を向上させ、またさらにフィルムラミネートなどの樹脂皮膜を施すこともある。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
ところで、最近における、飲料缶の大量消費に伴って、3ピース缶や2ピース缶の製缶技術の進歩により、板厚の薄い缶用鋼板を使用した軽量缶化による合理化が進んでいる。
このような缶を製缶する際の問題点は、板厚が薄くなることにより、溶接缶体が持ち去る熱量が少なくなり、溶接機周辺の温度増加により、溶接時の板温度が上昇して電気抵抗が大きくなり、接触抵抗の増加に伴って溶融金属が飛散する散り(スプラッシュ)の発生が多くなるので、LTSと言えども適正溶接電流範囲は小さくなって、高速溶接が困難になることである。
【0005】
散りが発生する原因は基本的には、溶接に必要な電流を越える過電流が流れるためであり、その逆に、十分に必要な電流が流れない場合は、その後の拡缶工程等で溶接部が剥がれる現象(剥がれ)が発生する。
また、缶胴板への塗装・印刷法は従来のシートコート・加熱オーブンによる焼き付け法(塗装・印刷・焼き付けの総熱量:210℃×20分の高温度長時間焼き付け相当)に代わって、事前にグラビア印刷を施したフィルムを缶外面にラミネート(160〜230℃×数秒の中温度超短時間焼き付け)して美粧性を付与し、缶内面には無地の透明フィルムを同時にラミネートして、内容物のフレーバー性を確保できる特性を活かしたフィルムラミネート法が開発された。この方式は、加熱オーブンを使わないので環境に優しい方式でもあり、拡大している。
【0006】
しかし、この新方式で仕上げたコイルを使用して高速溶接を行うと、散り(スプラッシュ)の多発、溶接部の拡缶試験で溶接部が剥がれるものの多発現象が見られ、溶接速度を小さくして作業せざるを得なかった。
一方で、溶接速度の高速化が進んでいる。例えば、340g飲料缶の溶接速度は、700缶/分(缶高さ108mm×700缶/分=76m/分)程度であったものが、1100缶/分(缶高さ108mm×1100缶/分=119m/分)程度の超高速溶接機も開発されだした。また、素材歩留りの向上を目的に溶接幅は狭くなり、従来は0.8mm程度であったものが、0.6mm以下になってきた。いずれも溶接の条件としては厳しいものであり、こられの溶接条件に耐え得る品質を有した胴板が必要になってきた。
【0007】
そこで、本発明は、上記従来例における上記問題点に鑑み、高強度・極薄缶用鋼板に適用可能で、且つ、塗装・印刷・焼き付けに替わる印刷済みフィルムラミネート鋼帯を使用して、鋼帯の幅方向に巻いて円筒を作った後、直ちに超高速溶接法で製缶できる表面処理鋼板とその製造方法を提供することを目的としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】
上記目的を達成するために、請求項1に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板は、鋼板表面側のNi拡散層上に、Fe−Ni合金部である底部と金属錫部である島状錫山頂部とFe−Ni−Sn合金部である遷移部とを有する凸状の島状錫メッキ層を有する缶用鋼板であって、全Sn付着量が2.8g/m2 以下で、且つ鋼板表面を電子線で走査して得られた反射電子を組成信号に変換し、これをもとに横軸が画像情報の輝度値、縦軸が当該輝度を示す領域の面積を表すヒストグラムを作成し、該ヒストグラムを、ガウス近似を用いて、夫々ピーク位置の輝度値が異なる、前記島状メッキ層の島状錫山頂部に対応する島状錫山頂部ピーク、前記島状メッキ層の底部に対応する底部ピーク及び前記島状メッキ層の遷移部に対応する遷移部ピークに分離して、夫々の面積S1、S2及びS3を求めた際の、全面積に対する島状錫山頂部ピークの面積S1の比率を表す島状錫山頂部ピークの面積率が15%以上である島状錫メッキ層を有する鋼板で構成されたことを特徴としている。
【0009】
また、請求項2に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板は、請求項1に係る発明において、鋼板がAI:30MPa以上の時効性鋼板であることを特徴としている。
さらに、請求項3に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板は、請求項1又は2に係る発明において、C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有することを特徴としている。
【0010】
さらにまた、請求項4に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板は、請求項1又は2に係る発明において、C:0.02〜0.06wt%、Si:0.03wt%以下、Mn:0.05〜0.5wt%、P:0.02wt%以下、S:0.02wt%以下、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%、O:0.01wt%以下を含有し,残部はFeおよび不可避的不純物であることを特徴としている。
【0011】
なおさらに、請求項5に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板の製造方法は、C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有する缶用鋼板用未焼鈍材鋼板に、Niメッキを施し、再結晶温度以上で焼鈍およびNi拡散処理を行った後、Snメッキを、5V/40+20≧I>3V/40(I:メッキ電流密度A/dm3 、V:メッキ通板速度m/分)を満たす条件で施し、リフロー処理を行った後、クロメート被覆を施すことを特徴としている。
【0012】
また、請求項6に係る高速溶接性に優れた缶用鋼板の製造方法は、請求項5に係る発明において、上記缶用鋼板用未焼鈍素材鋼板を製造するに当たり、終了温度をAr3変態点以上で仕上熱間圧延し、650℃以下で巻取り、その後直ちに水冷し、その後冷間圧延することを特徴としている。
【0013】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施の形態を図面を伴って説明する。
請求項1に対応する実施形態は、高速溶接性に優れた缶用鋼板が、全Sn付着量が2.8g/m2 以下で、且つ鋼板表面を電子線で走査して得られた反射電子を組成信号に変換し、これをもとに横軸が画像情報の輝度値、縦軸が当該輝度を示す領域の面積を表すヒストグラムを作成し、該ヒストグラムを、島状錫山頂部ピーク、底部ピーク及び遷移部ピークに分離して、夫々の面積S1、S2及びS3を求めた際の、全面積に対する島状錫山頂部ピークの面積S1の比率を表す島状錫山頂部ピークの面積率が15%以上である島状錫メッキ層を有する鋼板で構成されている。
【0014】
本発明者等は、既に、高速シーム溶接缶用LTSの溶接性について検討を行った結果、溶接直前の残存金属錫量が溶接性を向上させることを見いだした。
すなわち、金属錫は軟質で低融点(232℃)金属であることから、溶接電極輪との接触部及び鋼板同士の接触部において、溶接加圧力により容易に変形あるいは、さらに溶融して接触面積を広げて、溶接電流の過電流あるいは、局部集中により生ずる「散り」を発生せず、強固な溶接ナゲットを形成し易くなる。この結果、適正な溶接電流範囲が大きくなる。
【0015】
そして、このような効果を得るには、溶接直前に残存している金属錫量としては、0.05g/m2 以上が好ましいことを見いだすと共に、凸部の面積百分率を10〜70%にすることが好適であることを確認している。
また、金属錫層を凸状(島状)に形成する手段として、錫メッキ用の鋼板として、表面に溶融錫の濡れに対する不活性化処理としてのNi拡散処理した鋼板を用い、付着量0.02〜0.5g/m2 のNiメッキを行い、拡散処理焼鈍を施すことにより、Ni/(Fe+Ni)の重量比が0.01〜0.3、厚さが10〜4000ÅのFe+Ni合金層を形成することが好適であることを確認している。
【0016】
このNi拡散処理鋼板を用いた、凸状の錫メッキ層の形成は、拡散処理後の母板表面に、平坦な電気錫メッキを施し、次いでリフロー処理を行い、錫を凝集、凝固させることにより達成できる。さらに、電気錫メッキを施した後、フラックス(ZnCl2 、NH4 Cl等の水溶液)を表面に塗布した後、リフロー処理を行うことにより、より効果的な凸状を形成できる。
【0017】
そして、凸部の大きさの制御は、リフロー処理工程の通電ロール間の電圧、通電時間、溶融後水冷するまでの冷却速度及び錫メッキ量などによって概ね可能である。ただし、凸部は島状錫と呼ばれるものの、その基部付近はFe−NiとSnの合金状態となっており、金属錫として残存するのは山頂付近の一部である。上記Ni拡散処理を最も効果的に行うためには、Niメッキ設備を連続焼鈍の前に設け、焼鈍ラインの出側に調質圧延設備を設けるのがよい。
【0018】
本発明者等は、LTSを用いて、超高速溶接での適正溶接電流範囲を大きくできると考えられる各要因との関係について調査を行った。
図1に適正溶接電流範囲に及ぼす製缶速度と鋼板板厚の影響を示すが、製缶速度が大きくなるに従って適正溶接電流範囲は小さくなり、さらに板厚が小さくなると同じく小さくなった。しかし、従来のように板厚が厚ければ超高速溶接は下限ではあるが可能であるが、高強度・極薄缶用鋼板では不可能であった。
【0019】
また、80m/分程度の高速溶接であれば経済性を無視して多量の錫メッキを施し、金属錫を残存させれば可能であった。しかし、120m/分程度の高速溶接では下限の必要と共に、上限規制も必要になった。120m/分程度の高速溶接でメッキ錫量が多いと溶接ができない理由は、電流が低融点のメッキ錫の溶解に食われ、溶接部の鋼の昇温に寄与する度合いが小さくなり、フランジ加工で剥離することが分かった。したがって、メッキ錫量を過剰とする対策も有効ではない。
【0020】
しかし、鋭意、研究を重ねた結果、島状錫中の金属錫量について、新規に組成信号ヒストグラム解析法を開発し、その解析法に基づきより厳密に金属錫の分布を規定することにより超高速溶接が可能であることを見いだし、またその金属錫量を満足するメッキ法を見いだし、超高速溶接が可能になる薄錫メッキ鋼板の発明に至った。
【0021】
すなわち、島状錫中の凸状金属錫の存在状態の確認は、従来は、図2に示すような反射電子検出器を備えた電子顕微鏡による二次元情報即ち組成像写真により実施され、2値化による白色部の面積率から求められている。しかし、組成像写真は、金属錫と合金錫の境界と推定される輝度値を閾値として表したものであり、輝度調整のずれなどの輝度変動要因により、金属錫の存在量や分布の誤差を含むものである。しかも、凸部中に金属錫の占める割合は、凸部の山高さにより変化するが、2値化の際には山高さの情報が不足するためこの変化量を推し量ることができないという根本的な精度上の問題点を有していた。そのため、従来のような80m/分程度の高速溶接用の検査・判定では2値化により求められた凸部の面積率と十分な相関が得られたが、120m/分程度の超高速溶接性との対応は取れないものであった。
【0022】
組成信号ヒストグラム法は、この問題を解決する方法として開発した手法であり、錫メッキの3次元情報を捕らえる手段として、電子線で走査して得られた反射電子を半導体検出器等を介して、組成信号に変換し、これを基に画像情報の輝度値に変換した上、全輝度範囲における輝度値を横軸に、この輝度値を占める領域の面積を高さとするヒストグラムで表示したことが特徴の一つである。さらに、このヒストグラムを島状錫の形態に対応させてピーク分離することにより、島状金属錫の凸状金属錫の存在状態を山高さに影響されずに解析することを考案したことが2点目の特徴である。
【0023】
本原理は、図3に示すように、Al板上にCuメッシュを張り合わせたサンプルより得られた2種類の元素からなるヒストグラムで説明する。横軸は輝度を示し、縦軸は分析領域における当該輝度を示す領域の面積を高さで示す。本試料の場合、輝度が200付近ではCu、50付近ではAlを示すピークが現れる。本解析法は元素あるいは合金組成によって異なる輝度位置にピークが現れる現象を利用したものであり、分析領域における夫々の組成の量に関する情報が得られる。組成像では、ある輝度値を閾値として“1”か“0”に2分、つまり、CuとAlとの2元素に区別するのみであるが、本解析法で評価すると、その遷移域の情報を含めて連続的に検出できる。そして、このピーク部の面積が、そのピークを示す元素等の分析領域で占める量に対応する。
【0024】
なお、このような解析法の原理自体はたとえば特開平3−54441号公報等に試料における微小な所定範囲内に対して電子線を走査照射し、それに伴って該所定範囲内におけるマトリクス状検出点領域から夫々放射される各含有元素に関する特性X線を測定することが開示されているが、この手法では特性X線を検出する特殊な装置を必要とすると共に、例えばSnがあるか“1”、ないか“0”しか分析できず、1成分をヒストグラム化しているにすぎないので、表層のFe−Sn合金層の上層に残存している金属Snを高精度で分析することはできない。
【0025】
これに対して、本発明では、特性X線ではなく、反射電子を検出し、これを組成信号に変換することにより島状錫の解析を行うようにしているので、Sn成分の濃度差は分析場所によって異なるが、その異なりを全部捕らえて、ヒストグラム化する全成分ヒストグラム化を行うことができ、Fe−Sn合金層の上層に残存している金属Snを高精度で分析した表層(2000Å)の情報を得ることができ、その結果、120m/分程度の高速溶接性との対応の良い評価指標を得ることができるという重要な特徴を有する。また、反射電子によれば、ごく表層の情報のみを得ることができ、特性X線のように内層の情報が混入することもない。
【0026】
図4は、島状錫の金属錫の存在状態の異なる薄錫メッキ鋼帯の島状錫の組成信号ヒストグラムとその組成像を例として対比して示したものである。金属錫の存在を反映して、ヒストグラムの形状が大きく変化することが分かり、Snのはじき性が良好になるにつれ、輝度値80付近の強度の増加が対応していることが確認できる。このヒストグラムは、分析領域における錫メッキ全体の情報を捕らえているので、島状錫山頂部(金属錫部)、底部(Fe,Ni合金部)及び遷移部(Fe,Ni,Sn合金部)の組成信号が合成されたものと考えてよく、島状錫の3次元的形態が評価できることを意味する。そこで、これらを分離することにより、島状錫中の金属錫の存在状態を評価することを鋭意・研究を重ねた。
【0027】
ここでは、その皮膜構造から、得られたスペクトルを3つに分離して解析したが、島状錫山頂部及び底部を反映するピークの識別ができれば、2つに分離してもよい。ここでは3つにのスペクトルに分離する考え方を図5を用いて示す。
ピーク1:c(島状錫山頂部ピーク)
このピークは島状錫中の金属錫からなる領域を反映したものである。後述のピーク2を先ず分離して差し引いた後、ピーク1を求めることにより得ることかできるが、ピーク2ほど明瞭なピークにならないので、同一条件であれば、ピーク2からの一定輝度位置(図5では輝度値90程度)の高輝度側をピーク2の頂部と仮定してピーク分離をしてもよい。
【0028】
ピーク2:a(底部ピーク)
低輝度側(図5の測定条件では輝度80付近)に表れるピークで、下地のFe及びNi拡散層の露出部分(Fe−Ni合金)を反映したものであることが分かる。最も明瞭に表れることが多いので、最初にピーク近似して分離する。
ピーク3:b
ピーク2とピーク1を全体を示す特性線LAからから差し引いたものである。このbのピークは島状錫の傾斜部の合金錫層に対応するものである。これもピーク2からの一定位置をピーク頂部と仮定してもよい。
【0029】
以上により、島状錫の3次元形態を、島状錫山頂部、底部及び遷移部に分離し、各種解析要因子の内、金属錫の面積率で120m/分程度の高速溶接性を評価するものである。ピーク解析は、ガウス近似を用いるとよい。なお、面積率という総合的因子以外に、ピーク輝度、ピーク高さ、半値幅、非対称非数など様々な因子がピーク分離の結果得られ、ある限られた範囲、例えば同一付着量等、においては、これらの内1つあるいは複数の因子で高速溶接性を評価することは可能である。ここでは応用範囲の広いピーク1の面積率を採用した。
【0030】
図6に模式的に示すが、組成信号ヒストグラムを皮膜構造との対比から3つのピークに分離し、数値化することにより、それらの面積率で皮膜構造を数値化でき、その評価に基づき適正溶接電流範囲が十分広く、超高速溶接が可能になる高強度・極薄缶用鋼板を見いだした。右図が超高速溶接可能材で、左図が不良材で、下段にピーク分離後を示すが、良好材では高輝度部の金属錫山頂ピークがはっきりと識別できる。
【0031】
この新規に開発した評価法を用いて、種々の調査を進めた。その結果を図7に示す。この図7には、適正溶接電流範囲に及ぼす錫主体部(ピーク1)の占める面積率、島状錫と平坦錫形状の違い、時効性鋼板と、非時効性鋼板との違いの影響を示す。
溶接性は、錫主体部の占める面積率が大きくなるに従って改善され、錫主体部の面積率が15%以上で超高速溶接性に優れていることが確認された。なお、より好ましくは25%以上である。
【0032】
なお、単に錫付着量を設定値として多くすれば金属錫主体になるが、低融点の金属を多くメッキすると、溶接電流による発熱が錫の融解に食われるので、鋼板への熱供給が少なくなり、結局、溶接強度が小さくなると共に、経済的にも好ましくない。そこで、錫付着量については、全Sn付着量で2.8g/m2 以下に限定した。
【0033】
一方、単なる平坦錫形状では、Fe−Sn合金化が急激的に進むため、錫主体部の占める面積率が小さく高速溶接も難しかった。
また、請求項2に対応する実施形態は、上記請求項1に対応する高速溶接性に優れた缶用鋼板において、鋼板がAI:30MPa以上の時効性鋼板であることを特徴としている。ここで、AIは時効指数であって、余歪みが7.5%で、時効時間100℃×30分の測定条件で測定した。
【0034】
時効性鋼板の方がメッキ法が同じでも、適正溶接電流範囲が大きくなることが分かった。この理由は、時効性鋼板は溶接直前のフレキサー通板により、鋼板の降伏強度が大きく低下し、真円度の高い円筒が精度良く得られ、溶接幅も精度良く安定して得られるためである。一方、非時効性鋼板は同じようにフレキサーを通しても、そのような加工軟化は見られず、逆に加工硬化が加算されスプリングバックが大きく、特に溶接幅が0.6mm以下程度と極狭い場合には溶接幅が安定して得られないため溶接電流が局部的に流れ、鋼板の溶融が大きくなり、散り(スプラッシュ)になったと考えられる。
【0035】
したがって、時効性鋼板を用いて、フレキサーで加工軟化させ、スプリングバックを小さくして、真円度の高い缶胴にして、溶接幅を設定通りに精度良く確保し、設定電流で溶接すれば、従来は難しかった高強度・極薄缶用鋼板を使っての極狭溶接幅(0.6mm以下)における超高速溶接を行っても散りの発生も無く、溶接が可能となった。
【0036】
このような設定で溶接を行った後に、ネックイン加工を施すと皺が発生し、蓋の巻き締めが難しくなるものが発生する場合があった。溶接部は板を重ねるものの、加圧下で行うので、溶接後の厚みは板厚の2倍より薄くなり、通常は1.4倍程度である。それでも、他の部分に比べれば板厚は厚いので、その部分だけ強度は大きくなり、ネックイン加工で、溶接部との境界の板厚の薄い部分で屈折が発生し、皺になり易くなる。この状況下において、時効性鋼板は皺の発生は見られないが、非時効性鋼板は発生した。この理由は、フレキサーで加工軟化するものと、加工効硬化するものとの違いであると考えられる。
【0037】
したがって、鋼板材質は時効性鋼板が好ましく、その表面処理としては、島状錫を基本にその構成において、金属錫主体になるメッキ法を組み合わせることにより、達成できることが分かった。
さらに、請求項3に対応する実施形態は、請求項1又は2に対応する上記缶用鋼板において、C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有することを特徴としている。
【0038】
ここで、C:0.02〜0.06wt%の限定は、下記の理由による。C量は、0.02wt%より少なくなると、熱間圧延におけるAr3 変態点温度が上昇するため、圧延中に低温になりやすい熱間圧延鋼帯の幅方向端部や長さ方向端部がAr3 変態点温度未満になり、結晶粒径の粗大化、繊維状組織の残留率により強度がばらつき、冷間圧延を行う際に、複雑な耳波形状が発生するためである。また、C量が0.06wt%よりも多くなると、全体の結晶粒径が小さくなり、冷間圧延性が悪くなると共に、溶接部の強度上昇も大きくなり、フランジ加工で割れの起因になる。
【0039】
したがって、C量は0.02wt%以上を含有していることが望ましく、圧延性の改善という観点では0.06wt%以下が好適である。
Mn:0.05〜0.5wt%の限定は、下記の理由による。Mnは、Sによる熱間圧延鋼帯の耳割れを防止するために必要な元素であるが、Mnが0.05wt%未満であるとSによる熱間圧延割れを防止できなくなるため、下限を0.05wt%とした。また、Mnは結晶粒径を微細化して、降伏強度を大きくするので、過剰な添加は好ましくなく、本発明においてMn添加量を極端に多くしないことが好適である。また、過度に添加すると、経済的にも不利になるので、0.5wt%を上限とすることが好適である。
【0040】
Al:0.10wt%以下という限定は、次の理由による。Alは、製鋼の精錬過程において、脱酸剤の機能を有し、清浄度を高くするために好適な元素である。しかし、Alは熱処理によってNと反応してAlNとなり、固溶N量を低減させて時効性を減らすので、過剰な添加は好ましくない。また経済的理由もあり、Alの含有量は0.10wt%以下とするのが好適である。なお、脱酸剤としては、Alに限定する必要はなくTi等を用いるようにしてもよい。
【0041】
N:0.005〜0.015wt%の限定は、次の理由による。Nは製鋼の精錬過程において、空気中のNが混入する結果含有されるが、時効性を促進する元素であり、本発明の降伏強度を調整する重要な役目をする元素なので、積極的に添加することが望ましい。しかし、余りにも多く添加すると降伏強度が大きくなり過ぎるので、上限は0.015wt%が好適である。下限は缶強度を確保できるように、0.005wt%以上が必要となる。
【0042】
さらにまた、請求項4に対応する高速溶接性に優れた缶用鋼板は、請求項1又は2に係る発明において、C:0.02〜0.06wt%、Si:0.03wt%以下、Mn:0.05〜0.5wt%、P:0.02wt%以下、S:0.02wt%以下、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%、O:0.01wt%以下を含有し,残部はFeおよび不可避的不純物であることを特徴としている。
【0043】
ここで、C,Mn,Al,Nの限定については請求項3と同一であるため、説明を省略する。Si:0.03%以下の限定は次の理由による。Siは、食缶としての耐蝕性を劣化させるほか、材質を極端に硬質化する元素なので、形状凍結性を確保するためにも過剰に含有させることは避けるべきである。特に、Si量が0.03wt%を超えると、硬質化して軟質な調質度T2.5級の素材を製造することができなくなる。したがって、Siは0.03wt%以下に制限する必要がある。なお、特に優れた耐蝕性が要求される場合は、0.02wt%以下がより好適である。
【0044】
S:0.02wt%以下の限定は次の理由による。Sは、過剰に含有すると、熱間圧延において高温γ域で固溶していたSが温度低下に伴い過飽和になって(Fe,Mn)Sとしてγ粒界に析出し、これが赤熱脆性による熱間圧延鋼帯の耳割れを引き起こす。また、非金属介在部としても残存するので、鋼板の延性を低下させ、さらに耐蝕性の劣化をもたらす元素なので、その上限を0.02wt%とした。
【0045】
P:0.02wt%以下の限定は次の理由による。Pが多量に含有されると鋼が硬質化し、圧延性を劣化させると同時に、耐蝕性が劣化するので、その上限は0.02wt%とするのが好ましい。
O:0.01wt%以下の限定は次の理由による。Oは、鋼中のAl,Mn,耐火物中のSi,フラックス中のCa,Na,F等と反応して酸化物を形成し、製缶加工時の割れ、あるいは耐蝕性の劣化の原因をもたらすので、できるだけ少なくする必要がある。よってO量の上限は0.01wt%とする。
【0046】
なお、不可避的不純物としてはCu,Cr,Ni,Mo,Ti,Nb,V,Zr,B,Ca,Sb,Pb,Zn等が考えられるが、Cu,Cr,Ni,Moは各0.5%以下、その他の元素は合計で0.2%以下とするのが好ましい。
なおさらに、請求項5に対応する実施形態を表す高速溶融性に優れた缶用鋼板の製造方法は、C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有する缶用鋼板用未焼鈍材鋼板に、Niメッキを施し、再結晶温度以上で焼鈍およびNi拡散処理を行った後、Snメッキを、5V/40+20≧I>3V/40(I:メッキ電流密度A/dm3 、V:メッキ通板速度m/分)を満たす条件で施し、リフロー処理を行った後、クロメート被覆を施すことを特徴としている。
【0047】
この実施形態においては、錫主体部を多くするメッキ法を追求した結果、図8に示す新規な結果が得られた。すなわち、錫メッキ法の主流であるハロゲンメッキ液法とフェロスタンメッキ液法において、通板速度V(m/min)と電流密度I(A/dm2 )において、上記条件に設定すると錫主体部の面積率が15%以上になり、超高速溶接が可能になることが分かった。従来は島状錫の形成には金属錫のはじきをより大きくするためにリフロー処理や、フラックスの選定で十分可能であると考えられていた。しかし、超高速溶接が可能なLTSにするためには、それでは不十分であり、鋭意研究を重ねた結果、本発明に至ったものである。
【0048】
この理由は、通板速度が大きくなるに従って、電流密度を一定以上に大きくすると効果があることから、電流密度Iが大きくなるに従って、錫の電着核が微細になり、電着錫の表面積が大きくなり、これにリフロー処理を施すと、錫酸化物がより大きく生成され、錫の溶融後の水急冷時に平滑になるのを防ぎ、錫主体部の占める面積率が大きくなった島状錫になったと考えられる。また、通板速度Vが大きくなると、電流密度Iが大きい領域で良くなる理由は、鋼板表層部のSnイオンの供給速度も大きくせざるを得ず、電流密度Iを大きくするが、その結果、微細な電着核が形成されて前述のような効果が現れたものと考えられる。
【0049】
また、その効果はメッキ液や方法とは余り関係が無く、どのような錫メッキ液及び方法で行う場合においてもこの関係を守れば、超高速溶接が可能になる缶用鋼板が製造できることが分かった。
ここで、電流密度Iは5V/40+20(A/dm2 )以下に規制する必要があり、電流密度Iが5V/40+20(A/dm2 )より大きくなると電着錫が樹脂状に大きくなると共に、斑に分散するので、前述したような島状錫が得られにくくなる。なお、好ましくは3.6V/40+15(A/dm2 )以下、3.6V/40(A/dm2 )以上とする。このとき、錫主体部の面積率25%以上が得られる。
【0050】
なお、未焼鈍素材鋼板とは、素材熱間圧延鋼板を冷間圧延したものを指し、この後Niメッキ−再結晶焼鈍−Snメッキ処理等を経て缶用の錫メッキ鋼板となる。
ここで、焼鈍方法は、材質の均一性が優れることと、生産性が高いなどの点から、連続焼鈍が好ましい。連続焼鈍における焼鈍温度は、再結晶終了温度(通常600℃程度)以上が必要であるが、高過ぎると、結晶粒が異常に粗大化市、加工後の肌荒れが大きくなるほか、缶用鋼板などの薄物材では、炉内破断やバックリング発生の危険が大きくなる。このため焼鈍温度の上限は、800℃とすることが望ましい。
【0051】
なお、焼鈍に先立ちNiメッキを施し、焼鈍により同時にNiの鋼板表面に分散させる。Niメッキ条件は常法で良く、Snメッキ後の耐食性・溶接性の観点からNiメッキ付着量は0.02〜0.5g/m2 の範囲とすることが好ましい。
固溶Nによる時効性は、過時効処理を施しても低下しにくいが、生産性の観点からは、焼鈍のヒートサイクルは単純なサイクルとし、過時効処理を伴わないものとするのが好ましい。
【0052】
また、焼鈍後は通常、表面品質の制御と硬質度の制御を目的として調質圧延を施すが、この調質圧延では、時効性を得るために、伸び率を3%以下として圧延するのが好ましい。
焼鈍後のSnメッキ、リフロー処理及びクロメート処理は、いずれも常法により行なってよい。Snメッキの目付け量は既に述べた理由により2.8g/m2 未満とする。
【0053】
また、請求項6に対応する実施形態は、請求項5に係る発明において、上記缶用鋼板用未焼鈍素材鋼板を製造するに当たり、終了温度をAr3変態点以上で仕上熱間圧延し、650℃以下で巻取り、その後直ちに水冷し、その後冷間圧延することを特徴としている。
この実施形態においては、熱間圧延のためのスラブは1120℃以上に加熱するのが望ましい。1120℃に満たない温度では、AlNとして存在していた析出物を十分に分解させることができず、時効性を得るために必要な固溶Nを確保することができない場合がある。仕上熱間圧延の終了温度(FDT)はAr3 変態点以上とする。Ar3 変態点未満になると、結晶粒が部分的に粗大化し、軟質化するために均一な材質が得られない。
【0054】
さらに、巻取り温度は650℃以下とするという限定は、巻取り温度CTが650℃を超えると、一旦分解したAlNが再び析出し、時効性を確保することが困難になると共に、巻取り温度CTが650℃を超えた高温にして熱間圧延鋼板を巻取り自己焼鈍に入ると、炭化物が凝集して粗大化し、且つ結晶粒径も粗大化し、全体として不均一な結晶粒分布となり、材質も不均一になる。
【0055】
また、従来法では、巻取る温度は制御しても巻き取ったコイルは床に並べて空冷してきた。しかし、空冷の仕方によっては自己焼鈍の熱温度も異なり、その結果として結晶粒径やAlN析出も異なることが分かった。例えば、夏場と冬場とあるいは回りに、高温のコイルが並べられていた場合と、冷却コイルがあったりした場合とでは異なることが分かった。
【0056】
その改善策としては、巻き取った後、直ちに水冷して室温近くまでを一定短時間で到達させることを前提に巻取り温度CTを選定することで、結晶粒径が細粒で均一に安定して仕上げることができることが新規に知見した。
その後、冷間圧延を常法により施し、未焼鈍素材鋼板とする。この冷間圧延では、圧下率は生産性の観点から85%以上とすることが望ましい。ここで、圧下率の上限は特にないが、過剰な高圧下圧延を行なうと、圧延荷重が大きくなり過ぎてチャタリング不良等の発生により安定操業ができないので、圧下率の上限は95%とするのが望ましい。特に、好まい範囲は88〜92%である。
【0057】
なお、必要に応じて、冷間圧延に先立ち、熱間圧延鋼板表面に付着した酸化スケールを酸洗等によって除去する。
【0058】
【実施例】
以下、本発明の実施例を表等に基づいて説明する。
下記表1〜表3に示すNo.1〜No.14 の成分組成を有する鋼を底吹き転炉により溶製し、Alを添加しながら出鋼し、低炭素Alキルド鋼を製造した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
【表3】
【0062】
その後、各Alキルド鋼を、高清浄度鋼を鋳造するのに有利な75トン大型容量のタンディシュを経て、3mの垂直部を有して介在物の浮上分離を促進できる工夫を凝らした設備を備えた垂直ベンディング型連続鋳造機で鋳込んで清浄度に優れた鋼片を得た。
なお、No.1〜No.12 には本発明の請求項3以降を満足する高速溶接性に優れた缶用鋼板に適合する成分系であり、No.13 については、N量を低減して非時効性鋼板とし、No.14 については、C量を低減した。
【0063】
これらの鋳片を熱間仕上圧延機で、各熱間圧延温度で加熱、圧延し、熱間圧延鋼帯として巻き取った。その後、直ちに塩酸酸洗して脱スケールした。次に、6スタンドタンデム連続冷間圧延機にて各種の極薄板厚に圧延を行った。
次いで、ニッケルメッキを施した後、連続焼鈍を施し、Ni拡散処理を施した。熱サイクルは680℃×10秒の単純サイクルで行った。続いて、調質圧延を行った後、薄錫メッキ後にCrメッキを施した。
【0064】
メッキは、ハロゲン錫メッキ液の電気錫メッキ工程とフェロスタン錫メッキ液の2種類で行い、リフロー処理(溶錫化処理)、クロメート処理を連続して行い、各々、ぶりきと薄錫メッキ鋼板(LTS)に仕上げた。これらの表面処理鋼板から、サンプルを採取し、硬さ(HR30T)を測定して、調質度T3〜T5であることを確認した。
【0065】
メッキ工程においては、アルカリ水溶液で浸漬もしくは電解で脱脂を行った。続いて、H2 SO4 :1g/l〜50g/l、温度:30℃〜80℃の酸洗液で酸洗を行った。なお、HCl等の上記と同等の酸洗能力の液を用いてもよい。
錫メッキは、通板速度V(m/min)、電解電流密度I(A/dm2 )を変化させ、No.7〜No.9以外は下記(1)式を満足するようにした。
【0066】
5V/40+20≧I>3V/40 …………(1)
次いで、鋼帯を洗浄し、乾燥後、鋼帯の昇温速度を60℃/秒以下に制御して、錫を溶融させた後、急冷して凝固させた。
アルカリ性液中で、錫層を陰極還元処理し、表層に形成された錫酸化物層を還元した後、CrO3 に助剤を添加した液中で電解処理を施し、金属Cr層と酸化Cr層を析出させて仕上げた。
【0067】
使用したNiメッキ浴及び焼鈍条件は下記の通りである。
焼鈍条件
雰囲気:NHXガス雰囲気(10%H2 +90%N2 )
焼鈍温度:680℃×10秒
使用した錫メッキ浴及びリフロー及びクロメート条件は下記の通りである。
錫メッキ浴(ハロゲン錫メッキ液) 錫メッキ浴(フェロスタン液)
組成: 組成:
Sn2+ 15〜30g/l Sn2+ 20〜30g/l
F 15〜40g/l 遊離酸 15〜30g/l
添加剤 1〜 3g/l 添加剤 ≦10 g/l
pH 2.5〜4.0 pH 1以下
浴温度 40℃〜70℃ 浴温度 40〜50℃
得られた鋼板について、錫形状が島状錫分布か否かを電子顕微鏡観察にて確認すると共に、残存金属錫量等の測定及び組成信号ヒストグラム解析法による錫主体部(ピーク1)の面積率を求めた。
【0068】
組成信号ヒストグラム解析法における電子顕微鏡の測定条件として、加速電圧20Kvとした。これは反射電子の発生する領域深さが、入射電子の最大浸入深さの1/2以下であるという知見に基づくと、加速20Kvで、0.6(μm)であり、皮膜全体の情報を得るのに最適であるからである。もちろん、加速電圧は皮膜の厚みに応じて調節する必要がある。
【0069】
また、フィルムラミネート処理後、フレキサー通過後及び溶接部の補修塗装・焼き付けライン通過後の夫々の時点で、幅方向の引張試験片を採取し、降伏強度を求めた。
一方、溶接性評価を下記の条件で行った。
銅ワイヤー型・電気抵抗加熱シーム溶接機(商用機)
缶型:190g缶胴
銅ワイヤー径:1.3mmΦ
通板速度:120m/min
溶接圧力:40kg
周波数:900Hz
溶接幅:0.6mm
この時、設定条件で溶接を行い、散り(スプラッシュ)の発生評価を、溶接後の円筒に円錐型のポンチを使って、円筒の各端部を拡大して、溶接部での剥離発生評価を行った。また、散りの発生しない上限電流値とピール溶接強度(溶接部の一端に切り込みを入れ、溶接部を缶胴から引き剥がすピールテストにより、溶接部の全長が引きちぎれるものが、強度が十分と判定)が得られる下限電流値の差を適正溶接電流範囲として評価し、5A以上あれば超高速溶接の工程化が可能(○)と判断した。なお、散り発生及び剥離発生の指数は、サンプル数100個あたりの不良数とした。
【0070】
本発明のNo.1〜6 及びNo.11 〜14の鋼板は、錫主体部の面積率が15%以上となり、高速・狭幅・極薄の溶接条件下での溶接性が著しく改善された。特に成分範囲及び製造条件を好適範囲で製造し、時効指数AIが30MPa(≒3kgf/mm2 )以上の時効性鋼板としたNo.1〜6 は散り及び剥離の発生がほとんど見られず、さらに錫主体部面積率を25%以上としたNo.1〜4 及びNo.6はこれらのトラブルがほぼ皆無であった。なお、No.11 〜13は非時効性鋼板のため、缶成形に際して成形不良が他の発明例より若干多かった。またNo.14 は時効指数AIが30MPa以上の時効性鋼板であるが、炭素量が低いため、やや溶接の安定性に欠ける他、実際の缶成形においては形状不良による歩留り低下が他の発明例に比べてやや多かった。
【0071】
一方、比較例のNo.7〜9 は錫メッキ条件が不敵で錫主体部の面積率が15%未満となったため、またNo.10 は錫メッキ量を過剰としたため、いずれも良好な溶接性は得られなかった。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように、請求項1に係る発明によれば、全Sn付着量が2.8g/m2 以下で且つ組成信号ヒストグラム解析における金属錫山頂部ピークの面積率が15%以上である島状錫めっき層を有する缶用鋼板としたので、島状錫の3次元形態を正確に評価された超高速溶接性に優れた缶用鋼材を得ることができるというという効果が得られる。
【0073】
また、請求項2に係る発明によれば、AI:30MPa以上の時効性鋼板を採用するようにしたので、溶接直前で行なわれるフレキサーで加工軟化させ、高強度・極薄缶用鋼板にもかかわらず、真円度を高め、狭い幅の溶接幅を設定通りに設け、120m/分の超高速溶接に適応できる缶用鋼板を提供することができる。
【0074】
さらに、請求項3及び4に係る発明においては、鋼板の成分組成を特定したので、高速溶接性の優れた缶用鋼板を得ることができるという効果が得られる。
さらにまた、請求項5に係る発明によれば、C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有する缶用鋼板用未焼鈍材鋼板に、Niメッキを施し、再結晶温度以下で焼鈍およびNi拡散処理を行った後、Snメッキを、5V/40+20≧I>3V/40(I:メッキ電流密度A/dm3 、V:メッキ通板速度m/分)を満たす条件で施し、リフロー処理を行った後、クロメート被覆を施すようにしたので、請求項1〜3に係る超高速溶接性に優れた鋼板を確実に製造することができるという効果が得られる。
【0075】
なおさらに、請求項6に係る発明によれば、上記缶用鋼板用未焼鈍素材鋼板を製造するに当たり、終了温度をAr3変態点以上で仕上熱間圧延し、650℃以下で巻取り、その後直ちに水冷し、冷間圧延するので、時効性を得るに必要な固溶Nを確保し、時効性を確実に確保することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【図1】適正溶接電流範囲に及ぼす製缶速度と鋼板板厚の影響を示す説明図である。
【図2】反射電子検出器を示す概略構成図である。
【図3】Al板上にCuメッシュを張り合わせた2元素のヒストグラムで説明した説明図である。
【図4】島状金属錫の凸状金属錫の存在状態の異なる試料の組成像と組成信号ヒストグラムを示す説明図である。
【図5】ヒストグラムのピーク分離後の各ピークの定義を示す説明図である。
【図6】超高速溶接可能材及び不良材のヒストグラムとそのピーク分離結果を示す説明図である。
【図7】適正溶接電流範囲に及ぼす、錫主体部の占める面積率及び鋼板の時効性の影響を示す説明図である。
【図8】錫主体部の占める面積率に及ぼす、メッキ液、通板速度、電流密度の影響を示す特性線図である。
Claims (6)
- 鋼板表面側のNi拡散層上に、Fe−Ni合金部である底部と金属錫部である島状錫山頂部とFe−Ni−Sn合金部である遷移部とを有する凸状の島状錫メッキ層を有する缶用鋼板であって、全Sn付着量が2.8g/m2 以下で、且つ鋼板表面を電子線で走査して得られた反射電子を組成信号に変換し、これをもとに横軸が画像情報の輝度値、縦軸が当該輝度を示す領域の面積を表すヒストグラムを作成し、該ヒストグラムを、ガウス近似を用いて、夫々ピーク位置の輝度値が異なる、前記島状メッキ層の島状錫山頂部に対応する島状錫山頂部ピーク、前記島状メッキ層の底部に対応する底部ピーク及び前記島状メッキ層の遷移部に対応する遷移部ピークに分離して、夫々の面積S1、S2及びS3を求めた際の、全面積に対する島状錫山頂部ピークの面積S1の比率を表す島状錫山頂部ピークの面積率が15%以上である島状錫メッキ層を有する鋼板で構成されたことを特徴とする高速溶接性に優れた缶用鋼板。
- 鋼板がAI:30MPa以上の時効性鋼板であることを特徴とする請求項1に記載の高速溶接性に優れた缶用鋼板。
- C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有することを特徴とする請求項1又は2に記載の高速溶接性に優れた缶用鋼板。
- C:0.02〜0.06wt%、Si:0.03wt%以下、Mn:0.05〜0.5wt%、P:0.02wt%以下、S:0.02wt%以下、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%、O:0.01wt%以下を含有し,残部はFeおよび不可避的不純物であることを特徴とする請求項1又は2に記載の高速溶接性に優れた缶用鋼板。
- C:0.02〜0.06wt%、Mn:0.05〜0.5wt%、Al:0.10wt%以下、N:0.005〜0.015wt%を含有する缶用鋼板用未焼鈍材鋼板に、Niメッキを施し、再結晶温度以上で焼鈍およびNi拡散処理を行った後、Snメッキを、5V/40+20≧I>3V/40(I:メッキ電流密度A/dm3 、V:メッキ通板速度m/分)を満たす条件で施し、リフロー処理を行った後、クロメート被覆を施すことを特徴とする缶用鋼板の製造方法。
- 上記缶用鋼板用未焼鈍素材鋼板を製造するに当たり、終了温度をAr3変態点以上で仕上熱間圧延し、650℃以下で巻取り、その後直ちに水冷し、その後冷間圧延することを特徴とする請求項5に記載の缶用鋼板の製造方法。
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