JP3932658B2 - 均一変形性および表面美麗性に優れた缶用鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、2ピース缶あるいは3ピース缶用素材として使用される缶用鋼板に係り、とくに製缶加工において均一変形性に優れ表面美麗性に優れた缶用鋼板に関する。
本発明における鋼板は、切板状のほかに鋼帯、コイル状の状態のものを含むものとする。
【0002】
【従来の技術】
缶用鋼板は、錫、ニッケル、クロム等の各種めっきを施されたのち、飲料缶、食缶等に加工される。錫めっきされた缶用鋼板には、Sn付着量が2.8g/m2 以上のぶりき、およびSn付着量が2.8g/m2 未満の薄目付鋼板LTS(Lightly Tin Coated Steel)が含まれる。
【0003】
ところで、最近は、飲料缶の大量消費に伴い合理化の一環として、板厚を減少した薄鋼板を使用した軽量の飲料缶が製造されるようになっている。しかし、板厚を薄くすると、当然、缶体強度の低下は避けられなくなる。そこで、例えば缶頭部あるいは缶底部においては、ネックイン加工、多段ネックイン加工、スムース大幅ネックイン加工等の加工を施し、胴部においては樽形状とする張出し加工、凹凸加工等の加工を施して、缶形状を従来の円筒形状から各種形状に変更して缶体強度の向上を図っている。またさらに、深絞り加工、しごき加工、ストレッチ加工、缶底のドーム加工等を強化して缶体強度の増加が図られている。この状況は、例えば、雑誌「THE CANMAKER」Feb. 1996, P32〜37に紹介されている。
【0004】
これらの缶は、鋼板を円筒状に成形し接合したのち、円筒状の接合胴部に精巧な割型、静圧プレス等の技術を適用して円周方向に伸び歪を付与して製造される。この製造に際し生ずる問題は、割れ、表面荒れの発生、缶寸法の変化等がある。上記した問題を考慮して、缶用鋼板に要求される特性を列挙すれば、
▲1▼肌荒れ、ストレッチャーストレインなどの外観不良を生じないこと。
【0005】
▲2▼十分な形状凍結性を有し、目標とする缶形状を忠実に再現できること。
▲3▼3ピース缶においては缶高さ方向に寸法の減少がないこと。
▲4▼2ピース缶においては缶円周方向に寸法の減少がないこと。
のようになる。
ストレッチャーストレインは、加熱を伴う処理により時効が進行した鋼板に、加工を加えた際に発生する交差した縞状の模様である。近年、生産能率の観点から、缶用鋼板への印刷として、従来の210 ℃程度の塗装焼付に代わり、より高温の250 〜270 ℃でコート処理されるフィルムラミネートが導入され、このストレッチャーストレインの問題がとくに3ピース缶において深刻化している。また、従来は缶成形後に塗装していた2ピース缶においても成形補助のため予めフィルムミネートコートが施されるようになり、ストレッチャーストレインが2ピース缶の新たな問題となりつつある。
【0006】
また、成形時の形状不良は、溶接性をはじめ、後続の工程の作業性を著しく損なうため、高速・大量生産の缶製造ラインにおいては形状凍結性が重要となる。3ピース缶では、缶円周方向に樽形状に張出す張出し加工、ペール(pail)缶におけるように缶胴上部を下部より大きく拡缶する拡缶加工、さらにはビード加工、凹凸加工が施されるが、これら加工を行っても缶高さ方向の収縮が均一で小さいことが重要である。缶高さ方向の収縮が小さければ、蓋の二重巻締めを行っても均等に巻き締めができ、所定の真空度が確保できる。しかし、例えば溶接缶の場合、溶接部は板厚が母材部に比べ1.4 倍以上も厚く、しかも硬化しており、変形能が母材部にくらべ小さい。そのため溶接後の変形により、缶高さ方向の母材部の収縮が大きくなると、溶接部が周りより突き出た形状となりやすく、缶高さが円周方向で不均一となる。このため軟質なAl蓋を巻いても突き出た溶接部が邪魔になり、均一に巻きにくくなる。
【0007】
2ピース缶では、缶底部をドーム加工するが、缶底部の形状を安定させるために円周方向の収縮が小さいことが重要となる。
近年、缶用鋼板は、コイル内の材質均一性の確保のため、連続焼鈍法で製造されることが多く、この方法で製造された缶用鋼板は旧来の箱焼鈍法にくらべ細粒となりやすく、肌荒れが発生しにくく、均一変形性には有利な点を有している。しかしながら、短時間で冷却されるため固溶Cや固溶Nが析出せずに残存し、フィルムラミネートコート処理を施してもストレッチャーストレインを生じない程度の非時効性を得るのは困難であった。また、硬質化等により形状凍結性が劣化しやすい欠点を有していた。
【0008】
さらに、▲3▼、▲4▼に示した、複雑なデザインの缶を成形するときの均一成形性の問題は、従来十分に検討されておらず、適正な材質特性およびその製造方法について知られていない。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、上記したような複雑な缶デザインの要求に対し十分に応えることができる優れた成形性を有し高い歩留りを発揮できる極薄缶用鋼板を提供することを目的とし、具体的には、形状凍結性を維持しつつ、製缶加工において高い成形性を有しかつ均一変形性に優れ、さらに肌荒れ、ストレチャーストレインが発生しない表面美麗性に優れた高強度極薄缶用鋼板の製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、2ピース缶、3ピース缶の製缶加工において、鋼板がそれぞれ所望の均一変形性を有するためにはr値をそれぞれ特定範囲に限定することが有効であるとの知見を得、さらに両者を満足するr値を有し、かつ形状凍結性を維持しつつ、肌荒れやストレッチャーストレインの発生を防止しうる鋼板を製造するためには、連続焼鈍法を採用し、とくにC、Mn、Al、N、B量を制御し、炭化物・窒化物を熱延条件により制御することが重要であることを見いだした。
【0011】
本発明は、上記した知見をもとに完成されたものである。
【0015】
すなわち、本発明は、重量%で、C:0.04〜0.08%、Mn:0.3 〜0.6 %、Al:0.02〜0.20%、Ntotal :0.003 %以下、B:0.005 %以下を含有する鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板としたのち、巻取温度:650 ℃以下で巻取り、10〜60min 間空冷保持したのち水冷し、ついで冷間圧延を施し、再結晶温度以上800 ℃以下の温度で連続焼鈍を行ったのち、圧下率:1.0 〜10%の二次圧延を施すことを特徴とする均一変形性および表面美麗性に優れた缶用鋼板の製造方法である。また、本発明では、二次圧延を施したのち、表面処理を施すのが好ましい。表面処理は、錫めっき処理あるいはクロムめっき処理、あるいはこれらの上にラミネートフィルムによるコーティングを施すのが好ましい。
【0017】
【発明の実施の形態】
まず、本発明者らは、3ピース缶および2ピース缶について、製缶加工において均一変形性におよぼす要因について検討した。
機械的特性の異なる高強度極薄缶用鋼板を製造し、3ピース缶においては胴部を真円の円筒形に加工したのち、樽加工を行い、2ピース缶においては底付円筒への凹凸加工、多段ネックイン加工と、底部のドーム加工を行い加工後の均一性を調査した。
【0018】
図1には、3ピース缶胴部の樽加工に相当する張出し加工(変形量:約5〜20%)を全周に行ったのち、15度間隔で全周にわたり測定した缶高さ方向収縮率の平均収縮率と缶高さ方向のr値との関係を示す。なお、鋼板の板厚は0.13mmであり、缶高さ方向収縮率(%)は、(張出加工前缶高さ−張出加工後缶高さ)/(張出加工前缶高さ)×100 (%)で定義される。
【0019】
缶高さ方向の鋼板r値は、缶胴板を圧延方向に巻く従来のシートコート法では圧延方向と直角方向のr値であり、缶胴板を圧延方向と直角方向に巻くフィルムラミネート法では圧延方向のr値をいう。缶高さ方向の平均収縮率が4%以下であれば、蓋との2重巻締め性が良好で均一に巻締められるが、4%を超えると巻締めが不均一となる。したがって、図1から、缶高さ方向の鋼板r値が1.3 以下であれば、缶の全周にわたり変形が均一となり、均一変形性が達成できるという知見を得た。
【0020】
次に、2ピース缶成形時の均一変形性におよぼすr値の影響を検討した。2ピース缶はまず円筒に絞り加工されるため、より正確な情報を得るため板面上全方向のr値との関係を調査した。
r値の異なる鋼板(板厚0.16mm)を用い、プレスで190g飲用缶サイズの円筒状に絞り加工したのち、ドーム加工を加え、ドーム部の均一性を評価した。ドーム部の均一性は、底部を定盤に当て、定盤上で軽く振り、「がたがた」音の発生の有無で評価した。「がたがた」音の発生がないものを○、「がたがた」音の発生のあるものは缶底全周が定盤に当たっていないため×とした。このドーム部の均一性を、板面内全方向の平均r値と、最大r値と最小r値の差との関係で整理し図2に示す。ここで、板面内全方向のr値とは、圧延方向を基点として、板面上で15度毎にサンプルを採取しおのおののr値を測定した。板面内全方向の平均値を「板面内全方向の平均r値」とした。また、全方向のr値のうちの最大値と最小値の差を、「板面内全方向の最大r値と最小r値の差」とした。
【0021】
図2から、全方向の平均r値が1.3 以下で、全方向の最大r値と最小r値の差が0.4 以下、好ましくは0.3 以下であれば、均一なドーム部が得られることがわかる。全方向の最大r値と最小r値の差が0.4 を超えると、方向によるr値の差により不均一変形が生じ、一方、全方向の平均r値が1.3 を超えると、円筒絞り成形時の板厚減少が大きいため、わずかなr値差でもその後の加工に際し不均一変形をもたらすものと推察される。
【0022】
また、全方向の平均r値が0.5 未満では、円筒絞り成形が困難となる。
つぎに、上記した範囲のr値を得る方法について検討した。
Mn量の異なる0.05wt%C−0.01wt%Si−0.01wt%P−0.01wt%S−0.04wt%Al−0.0O20wt%N−0.002wt %B鋼を用い、製造条件を変え、r値を変化させた鋼板を得た。これら鋼板について、全方向の平均r値と、全方向の最大r値と最小r値の差をもとめ、全方向の平均r値と最大r値と最小r値の差との関係を図2に示す。
【0023】
図2から、Mn量により、全方向の平均r値と最大r値と最小r値の差との関係が変化し、Mn=0.5wt %の場合が、目標とする全方向の平均r値(1.3 以下)と最大r値と最小r値の差(0.4 以下)との関係を安定して得ることができることがわかる。
本発明者らが、さらに検討した結果、0.04〜0.08wt%の低炭素鋼では、Mn:0.3 〜0.6 wt%の範囲とすることにより、全方向の平均r値を1.3 以下、最大r値と最小r値の差を0.5 以下とすることができることがわかった。詳細な理由は不明であるが、Mnは比較的平均r値を大きく変化させる元素であり、そのため、平均r値と、最大r値と最小r値の差とのバランスを変化させ最適化したものと考えられる。
【0024】
なお、全方向のr値が、全周方向の平均r値1.3 以下で、最大r値と最小r値の差0.5 以下(望ましくは0.4 以下)の関係にある鋼板は、圧延方向および圧延方向に直角方向のr値が1.3 以下となり、3ピース缶用としても好適となることを確認した。
しかし、図3に示すように、Mn量が0.3 〜0.6wt %の範囲であっても、炭化物の平均間隔が30μm を超えると、最大r値と最小r値の差はあまり小さくならない。これは、熱延板ですでに炭化物の平均間隔が大きかったため、焼鈍に際し結晶粒がやや混粒気味に粗大化し不均一性をもたらしたものと推察される。
【0025】
なお、箱焼鈍法を用いた場合には、本発明の範囲に組成を限定しても、全方向の平均r値を1.3 以下とし、かつ最大r値と最小r値の差を0.5 以下(望ましくは0.4 以下)とすることは困難である。
つぎに、本発明者らは、肌荒れ、ストレッチャーストレインの発生防止について検討した。
【0026】
肌荒れの発生を防止するには、結晶粒径を小さくすることが有効であるが、一方ストレチャーストレインの発生を防止するためには、結晶粒径を大きくする方策が取られていた。結晶粒径が大きいほど、降伏遅れ時間が短く、リューダース前線速度が大きくなるため、降伏点伸びは減少し、ストレッチャーストレインは発生しにくくなる。
【0027】
本発明者らは、この相反する特性を同時に満足させる方策について鋭意検討した結果、結晶粒度と炭化物の平均間隔を適正範囲に調整することにより、肌荒れの発生防止とストレチャーストレインの発生防止を同時に満足させることができることを新規に見いだした。
結晶粒度および炭化物の平均間隔と、肌荒れおよび形状凍結性との関係を図4に示す。なお、肌荒れの評価は、3ピース缶の製造法に基づき飲料缶(250g)の寸法の円筒形状に溶接成形したのち、張出加工(円周方向伸び15%)を行い、表面粗度Raが1.0 μm 以上となった場合を「肌荒れあり」とした。また、形状凍結性については、上記条件で、張出加工後の形状を外観観察し、樽型の折れ線が全体的に不鮮明となったものを「形状凍結性不良」とした。これは、加えた加工量にもよるが、概ねスプリングバック1%程度以上に相当する。
【0028】
炭化物の平均間隔が30μm を超えるか、結晶粒度が10番より小さくなり、すなわち結晶粒径が大きくなると、肌荒れが発生する。一方、炭化物の平均間隔が5μm 未満となるか、結晶粒度が13番超えとなると、材質が硬質化し形状凍結性が劣化し張出し加工を行っても加工後の形状が不均一となる。すなわち、結晶粒度を10〜13番の範囲内とし、かつ炭化物の平均間隔を5〜30μm とすることにより肌荒れの発生防止と形状凍結性を同時に満足させることができるという知見を得た。なお、結晶粒径および炭化物分布を上記範囲とするには、C量、Mn量、コイル巻き取り条件等の制御により可能である。
【0029】
一方、ストレッチャーストレインが、結晶粒径が10番以上と小さい場合でも発生しないように、連続焼鈍法を適用した缶用鋼板の時効性改善について検討した。時効性を低減するには、固溶N量および固溶C量を少なくすることが有効である。本発明者らは、固溶N量の低減には、Ntotal を低減し、かつAlの添加に加えMn、Bを複合添加し、〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}を0.002wt %以下とすることにより固溶Nによるストレッチャーストレインを抑えるのに有効であることを見いだした。また、固溶Cについては、Mnを適量添加し、さらに炭化物の平均間隔を30μm 以下とすることにより著しく時効性を改善できることを見いだした。
【0030】
図5には、炭化物の平均間隔が10μm の場合における、時効硬化指数AI値におよぼす〔N〕値の影響を示す。〔N〕値が0.0020wt%を超えるとAI値が急激に増加するが、これは固溶N量が増加したためである。なお、AI値が5kgf/mm2 を超えるとストレッチャーストレインが発生することを確認している。また、Mn量の増加にともない、時効性が改善されている。
【0031】
図6には、Mn:0.5 wt%含有する鋼板における時効硬化指数AI値におよぼす炭化物の平均間隔の影響を示す。
〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}が0.002wt %以下であっても、炭化物の平均間隔が30μm を超えると、AI値が5kgf/mm2 を超えてストレッチャーストレインが発生するようになる。これは、固溶Cの増加によるものと考えられる。
【0032】
まず、本発明で得られる鋼板の化学組成の限定理由について説明する。
C:0.04〜0.08%
Cは、鋼板の強度と時効性の観点から、重要な元素であるが、C量が0.04%未満では、結晶粒径が大きくなり、張出し成形後に肌荒れを発生しやすくする。また、C量が0.04%未満では、炭化物の分布が粗くなり固溶Cの析出サイトが減少し固溶Cが残存しやすくなり、時効硬化が増大し、ストレッチャーストレインの発生頻度が増加する。一方、C量が0.08%を超えると、結晶粒径が極端に小さくなり(図4参照)、材質が過度に硬質化し、成形性が劣化するとともに形状凍結性が低下し、さらに缶接合部が硬質化して割れが発生しやすくなる。また、C量が高くなると、冷間圧延性が低下し、本発明が目標とする0.20mm以下の極薄鋼板の経済的な製造が難しくなる。このようなことから、C含有量は0.04〜0.08%の範囲に限定した。
【0033】
Mn:0.3 〜0.6 %
Mnは、鋼の固溶強化に効果があり、薄肉化に対応するために有効である。また、MnはMnS を形成し熱延板の耳割れを防止するのに有効な元素である。微細に析出したMnS は、固溶Cの析出サイトとして作用し、固溶Cを低減し耐時効性を改善する効果を有する。さらに、Mnはセメンタイト中に濃化し、セメンタイト−フェライト界面の移動速度を遅くするため、熱間圧延の巻取り工程でセメンタイトの粗大化を抑制し、セメンタイトの微細分散を促進し結晶粒の粗大化を防ぐとともに、セメンタイトの再固溶を遅らせ固溶Cの増加を抑制し耐時効性を改善する効果が期待できる。また、Mnはr値の増加を適度に抑制し、全周方向の平均r値と、最大r値と最小r値の差をバランスよく制御する作用もある。このような効果を得るためには、Mnは少なくとも0.3 %以上含有させる必要があるが、0.6 %を超えると、r値の適正化が困難となり、細粒化等(図4参照)により硬質化が著しくなるとともに経済的に高価となる。このため、Mnは0.3 〜0.6 %の範囲に限定した。なお、さらに好ましい範囲は0.45〜0.60%である。
【0034】
Al:0.02〜0.20%
Alは、精錬過程で脱酸剤として作用し、鋼の清浄度を高める作用を有し、さらにAlN として鋼中の固溶Nを低減し時効性を低減する効果を示す。この結果を得るためには、Alは0.02%以上の添加が必要となる。一方、Al添加量が0.20%を超えると、アルミナクラスターなどに起因する表面欠陥の発生頻度が急増する。このため、Alは0.02〜0.20%の範囲に限定した。なお、より好ましい範囲は0.03〜0.08%である。
【0035】
Ntotal :0.003 %以下
Nは、時効性を促進する元素であり、ストレッチャーストレインの発生頻度を増加させるため、できるだけ低減する。全N量Ntotal を0.0030%以下の範囲に制限すれば、{Ntotal −(NasALN +NasBN)}を 0.002wt%以下とすることが比較的容易であり、上記した悪影響を抑制でき実用上の不具合発生を防止できる。また、Al、B量を低減でき、コスト低減となる。Ntotal の下限はとくに限定しないが、0.0010%程度であれば、経済的、工業的に達成できる範囲といえる。なお、材質の安定性確保という観点からは、0.0025%以下とするのが好ましい。
【0036】
B:0.005 %以下
Bは、炭化物や窒化物を形成し、固溶Cや固溶Nを低減する効果を有する本発明では重要な元素である。さらに、Bはとくに溶接缶の溶接熱影響部結晶粒の粗大化を抑制する効果を有している。しかし、0.005 %を超えて添加しても効果が飽和する傾向にあり、表面欠陥の発生などの不具合を生じる。このため、Bは0.005 %以下に限定した。なお、このような効果が著しく発揮されるにのは、0.0002%以上の添加からであり、望ましくはBは0.0002%以上0.005 %以下である。材質の安定確保という観点からは、0.0005〜0.005 %が好ましい。
【0037】
その他、Si:0.03%以下、P:0.02%以下、S:0.02%以下、O:0.01%以下、残部Feおよび不可避的不純物とするのが望ましい。
Si:0.03%以下
Siは、耐食性を劣化させる元素であるとともに、さらに材質を極端に硬質化させる元素であるため、形状凍結性を確保する意味からも過剰な含有は避けるべきである。軟質なT2.5 材用素材とするためには、Siは0.03%以下に限定するのが望ましい。なお、耐食性をとくに要求される用途に用いる場合には、Siは0.02%以下とするのが望ましい。
【0038】
P:0.02%以下
Pは、鋼を硬質化させ、圧延性を劣化させるとともに、耐食性を劣化させる元素である。とくに、P量が0.02%を超えると、その影響が顕著となるため、0.02%以下とするのが望ましい。
S:0.02%以下
Sは、鋼中では非金属介在物として存在し鋼板の延性を低下させ、さらに耐食性を劣化させる元素であり、Mn量との関係で過剰に含有すると、高温γ域で固溶していたSが温度の低下とともに過飽和となり(Fe,Mn)Sとしてγ粒界に析出し、赤熱脆性による熱延鋼板の耳割れを起こす。このようなことから、Sは0.02%以下とするのが望ましい。
【0039】
O:0.01%以下
Oは、溶鋼中のAl、Mn、耐火物のSi、フラックスのCa、Na、F等とで形成された酸化物として鋼中に存在し、製缶加工時の割れ、あるいは耐食性劣化の原因となるため、できるだけ低減するのが望ましい。0.01%以下に低減すれば、上記した悪影響は少なくなるため、Oは0.01%以下に低減するのが望ましい。
【0040】
O低減の方法として、転炉精錬においては底吹き転炉を用いるのが好ましい。さらに、精錬過程において適量のAl添加が清浄度改善に効果がある。
残部はFeおよび不可避的不純物からなるが、不純物として、Sn、Ti、Nb、Cu、Cr、V、Mo、Ni等のトランプエレメントが混入しても、Cu、Cr、Niについては、各々0.10wt%以下、その他の元素についても各々0.02wt%以下であれば許容でき、缶としての使用特性におよぼす影響は無視できる。
【0041】
{Ntotal −(NasALN +NasBN)}: 0.002wt%以下
本発明では、AlおよびBを添加しAlN 、BNとして固溶Nを固定する。固溶Nは、上記したように時効性を増加させる元素であり、耐時効性を改善するために固溶N量を低減する必要があり、本発明では、全N量Ntotal と、ALN となっているN量NasALN 、BNとなっているN量NasBNとの関係、〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}を0.002wt %以下に限定する。〔N〕が、0.002wt %を超えると、耐時効性が劣化して、ストレッチャーストレインが発生する。このため、〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}を0.002wt %以下となるようにN、Al、B量および製造条件(主として巻取温度)を調整する。なお、NasALN 量およびNasBN量は、焼鈍後の鋼板(錫めっき、溶錫処理後でもよい)から採取した試料から、ブロムエステル法で抽出し吸光光度法でAl、Bをそれぞれ定量分析し得た値を用いるものとする。
【0042】
本発明で得られる鋼板では、上記した成分組成の限定に加え、結晶粒度を10〜13番、炭化物の平均間隔を5〜30μm に限定することが好ましい。
炭化物の平均間隔:5〜30μm
炭化物の平均間隔が30μm を超えると、結晶粒が粗大化する傾向と相まって肌荒れが発生し表面美麗性が劣化する。また、図6に示すAI値におよぼす炭化物の平均間隔の影響からわかるように、炭化物の平均間隔が30μm を超えると、上記した〔N〕量が0.002wt %以下の場合でもAI値が5kgf/mm2 を超えストレッチャーストレインが発生する。炭化物の平均間隔が30μm 以下と狭くなることにより、連続焼鈍処理の冷却過程で析出するセメンタイトの析出サイトが増加し、セメンタイトの析出が促進され、その結果固溶C量が減少し耐時効性が改善できるものと考えられる。さらに、炭化物の平均間隔を30μm 以下とすることで、均一変形性が向上する。さらに、炭化物の平均間隔が5μm 未満では、過度の細粒化と相まって形状凍結性を劣化させる。なお、炭化物の分布の影響の中に焼鈍過程での材質形成に関係するものもあるが、熱延時に形成された炭化物は冷間圧延によってもほとんど砕かれることなくほぼ同じ大きさ、分布を有している。連続焼鈍により、炭化物の凝集が起こるが、連続焼鈍温度が800 ℃以下の低温であれば熱延板と同じ炭化物の大きさ、分布となっている。このようなことから、本発明では、熱延板の炭化物の分布を調整することにより、製品板における分布も制御することとした。
【0043】
なお、炭化物の平均間隔は、光学顕微鏡または電子顕微鏡を用いて、最終製品の鋼板圧延方向断面の面積100 μm ×100 μm 以上について平均間隔を測定した平均値を用いるものとする。
結晶粒度:10〜13番
結晶粒が粒度番号10番を超えて粗大化すると、肌荒れが発生し表面美麗性が劣化する。一方、粒度番号13番を超えて細粒化すると、材質が硬質化し形状凍結性が劣化する。このため、結晶粒度を10〜13番の範囲に限定することが好ましい。なお、結晶粒度は、再結晶フェライト粒を対象として、JIS G 0552の規定に準じて測定した値を用いものとする。結晶粒度は鋼板断面の表層5μm を除く全厚について測定した。
【0044】
本発明で得られる缶用鋼板は、3ピース缶用鋼板については円筒成形時の缶胴部円周方向、すなわち圧延方向もしくは圧延直角方向のr値を1.3 以下とすることが好ましい。また、2ピース缶用鋼板については全方向の平均r値が1.3 以下で、全方向の最大r値と最小r値の差が0.4 以下、好ましくは0.3 以下とする。もちろん、両方の特性を兼ね備えてよいことはいうまでもない。
【0045】
つぎに、本発明の缶用鋼板の製造方法について説明する。
上記した組成の溶鋼を通常公知の溶製方法で溶製し、連続鋳造法等により凝固させた鋼素材とする。溶製方法は、とくにO低減のため、転炉精錬においては底吹き転炉を用いるのが好ましく、また真空脱ガス処理による脱酸強化、鋳込速度の調整等が重要になる。さらに、精錬過程において適量のAl添加が清浄度改善に効果がある。
【0046】
ついで鋼素材に熱間圧延を施す。
鋼素材は、凝固後いったん室温まで冷却したのち再加熱するか、あるいは冷却することなく加熱炉に装入されて加熱されてもよい。
熱間圧延のための鋼素材の加熱温度は、とくに限定されないが1100〜1250℃で保持されるのが望ましい。加熱温度が1100℃未満では、全幅全長にわたってAr3以上の仕上げ圧延温度(FDT)を確保することが困難となるうえ、その後の圧延時にシートバー端部割れを発生する危険がある。一方、加熱温度が1250℃を超えると、結晶粒が異常に成長し組織が不均一となるうえ、加熱炉のエネルギーコストが増大する。
【0047】
鋼素材は、粗熱間圧延によりシートバーとされたのち、仕上圧延を施される。仕上圧延は、仕上圧延温度を 850〜920 ℃とする圧延とするのが好ましい。仕上げ圧延温度が 850℃未満では、最終製品の結晶粒を微細化することが難しく、製缶後の表面美麗性が損なわれる。一方、920 ℃を超えるとスケールロスが増加する。このようなことから仕上げ圧延温度は 850〜 920℃とするのが好ましい。
【0048】
なお、仕上げ圧延終了後、30℃/s以上の強制冷却を行うのが好ましい。強制冷却により、結晶粒径の粗大化が抑制され、炭化物の平均間隔が小さくなり、脱スケール性も改善される。
巻取り温度は650 ℃未満とする。
巻取り温度が650 ℃以上では、結晶粒の粗大化が進み、肌荒れが発生しやすくなる。(図4参照)巻取り温度の下限はとくに限定しないが、500 ℃未満では鋼板形状、幅方向の材質均一性が低下するため巻取り温度は500 ℃以上とするのが好ましい。なお、より好ましくは550 以上600 ℃以下である。
【0049】
巻取り後、10〜60min 間空冷保持したのち水冷する。巻取り後の冷却中に60min を超えて空冷すると、炭化物の凝集が進み、炭化物の平均間隔が大きくなり、時効性が劣化する。(図4参照)一方、10min 未満の空冷保持で水冷を開始すると、AlN 、BNの析出が不十分となるほか、コイル内の温度不均一による材質のばらつきが大きくなる。このため、水冷に先立つ空冷保持は10〜60min 間とする。なお、炭化物の平均間隔を30μm 以下とするためには、巻取り温度の調整のほか連続焼鈍温度を800 ℃以下とする連続焼鈍条件の調整、Cを0.04%以上とするC含有量の調整を合わせて行う必要がある。(図4参照)なお、巻取温度の調整および巻取り後の空冷時間は、AlN 、BNの析出を促進し、〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}を0.002wt %以下とするにも好適である。
【0050】
熱延板は熱延後、酸洗を行うのが好ましい。
酸洗は、通常の塩酸、硫酸による酸洗とするのが好ましい。
酸洗に続いて、熱延板は冷間圧延を施され冷延板とされる。
酸洗後の冷間圧延は、焼鈍後の冷間圧延と区別するため1次冷間圧延と呼ぶ。1次冷間圧延の条件はとくに限定されない。本発明の極薄鋼板では、通常、圧下率85%以上、好ましくは88%以上の圧延が施される。
【0051】
1次冷間圧延後、冷延板には焼鈍が施される。
焼鈍は、再結晶温度以上800 ℃以下の温度で連続焼鈍を行う。優れた成形性を得るため、鋼板は再結晶温度以上で焼鈍され、再結晶組織とされる。しかし、焼鈍温度が800 ℃を超える高温では、炭化物の平均間隔が30μm を超え、耐時効性が劣化し、r値を1.3 以下とするのが困難となる。このため、連続焼鈍の焼鈍温度は再結晶温度以上800 ℃以下とした。なお、材質の均一性の観点から好ましくは再結晶温度以上720 ℃以下である。
【0052】
連続焼鈍の均熱時間は、1〜6sec とするのが望ましい。均熱時間が1sec 未満では、セメンタイトの析出が十分でなくストレッチャーストレインを発生する可能性がある。一方、6sec を超えると生産性が低下する。本発明では、過時効処理を行うことなく低時効性の鋼板を製造できるが、時効性が過大にならないように、過時効処理を施すのが望ましい。過時効処理は、400 〜450 ℃間を5 sec 以上保持するか10℃/s以下の冷却速度で徐冷するのが望ましい。なお、連続焼鈍後に箱焼鈍サイクルで過時効処理を施してもよい。
【0053】
焼鈍後、冷間圧延(2次圧延)を施す。
2次圧延の圧下率は1.0 〜10%とする。2次圧延は、缶体強度を確保するのに必要な圧下率で行う必要がある。焼鈍板の材質の均一化、可動転位の導入による時効性の低減のためには、少なくとも 1.0%以上の圧下率とするのが好ましい。一方、圧下率が10%を超えると、成形時のスプリングバック量が大きく、また延性が低下する、あるいは延性の異方性が増加するなどの問題が生じる。このため、2次圧延の圧下率は1.0 〜10%の範囲に限定した。
【0054】
2次圧延後、鋼板の少なくとも片面に表面処理を施し、表面処理層を形成させすのが望ましい。
表面処理としては、錫めっき処理、またはクロムめっき処理を施すのが望ましく、また、錫めっき後クロムめっき処理、あるいは金属クロム層のうえに酸化クロム層を有するクロムめっき処理が望ましい。これら表面処理により、缶用のぶりき、薄錫めっき鋼板(LTS)、あるいはティンフリー鋼板(TFS)となる。なお、薄錫めっき鋼板は、冷間圧延後鋼板表面にニッケルめっきを施したのち、連続焼鈍を行いニッケルを拡散させ、調質圧延後錫めっきを施したものである。
【0055】
錫めっきは、ハロゲンタイプの電気錫めっきとするのが好ましく、めっき後溶錫処理(リフロー処理)、クロメート処理を連続して施すのが良い。
クロムめっきは、電気めっきラインでクロメート液中で金属クロムをめっきしたのち引き続いてクロメート液中でクロム水和酸化物をめっきするのが好適である。
【0056】
本発明は、細粒強化を効果的に用いているため、とくに0.20mm以下の極薄鋼板に適用して好適である。
また、上記した条件で製造すれば、均一変形性に優れ表面美麗性に優れた缶用鋼板となる。それらの缶用鋼板は、時効性が低く、さらに圧延方向r値、圧延直角方向r値、全方向の平均r値がいずれも1.3 以下であり、しかも最大r値と最小r値の差が0.4 以下であり、2ピース缶、3ピース缶に加工しても均一変形し、2ピース缶底部でのドーム部の周方向、3ピース缶の缶高さ方向の収縮が少なく、鋼材の歩留りを改善できる。
【0057】
【実施例】
表1に示す組成の鋼を270ton底吹き転炉で溶製し、Alを添加しながら出鋼し、高清浄度鋼を鋳造するのに有利な75ton の大容量のタンディッシュを経て3m の垂直部を有する垂直ベンディング型連続鋳造機で低炭素および中炭素Alキルド鋼鋳片(スラブ)とし、鋼素材とした。
【0058】
【表1】
【0059】
これら鋼素材を、表2に示す条件で加熱、熱間圧延して熱延鋼板(鋼帯)とし、一部は強制冷却を施したのちコイルに巻き取った。その後酸洗により脱スケールして、ついで6スタンドのタンデム連続冷間圧延機により極薄冷延鋼板(鋼帯)とした。
これら冷延鋼板に、一部にはニッケルめっきを施し、表2に示す条件で連続焼鈍を施した。連続焼鈍条件は下記に示す3条件とした。
【0060】
▲1▼低温単純処理サイクル(低温単純)
雰囲気:NHXガス(10%H2+90%N2)
焼鈍温度:680 ℃×10sec
▲2▼中温単純処理サイクル(中温単純)
雰囲気:NHXガス(10%H2+90%N2)
焼鈍温度:700 ℃×10sec
▲3▼中温過時効処理サイクル(中温OA)
雰囲気:NHXガス(10%H2+90%N2)
焼鈍温度:700 ℃×10sec +450 ℃×60sec
▲4▼高温過時効処理サイクル(高温OA)
雰囲気:NHXガス(10%H2+90%N2)
焼鈍温度:830 ℃×10sec +450 ℃×60sec
ニッケルめっきは、硫酸ニッケル250g/l+ 塩化ニッケル45g/l+ほう酸30g/l 組成のニッケルめっき浴(浴温度:65℃) 中で電流密度:5A/dm2 で行った。
【0061】
ついで、焼鈍板に表2に示す圧下率で2次圧延(調質圧延)を施し0.13〜0.22mm厚の極薄鋼板としたのち、表2に示す表面処理を施し該鋼板の両面に表面処理層を形成した。表面処理層としては、錫めっき層、薄錫めっき層およびクロムめっき層とし、それぞれ、ぶりき、薄錫めっき鋼板およびティンフリー鋼板とした。
(1)ぶりき
錫めっきは、ハロゲンタイプの電気錫めっきラインで下記に示す錫めっき条件で目標全錫付着量2.8g/m2 の錫めっき処理を行った後、リフロー処理(溶錫処理)およびクロメート処理を連続して行い、ぶりきとした。
【0062】
錫めっき条件
錫めっき浴:塩化第一スズ75g/l +フッ化第一スズ25g/l +フッ化水素カリウム50g/l +塩化ナトリウム45g/l +Sn2+36g/l +Sn4+ 1g/l 組成、pH2.7
浴温:65℃
電流密度:48A/dm2
なお、リフロー処理は、通電加熱により280 ℃に加熱とする処理とした。
【0063】
また、クロメート処理は、無水クロム酸15g/l 、硫酸0.13g/l のクロメート液中で電流密度10A/dm2 の陰極電解処理とした。
(2)薄錫めっき鋼板(LTS)
冷間圧延後ニッケルめっきを施し、連続焼鈍を施した鋼板について、上記錫めっき条件で薄錫めっき処理(目標全錫付着量0.85g/m2)を施したのち、ぶりきの場合と同じ条件のリフロー処理(溶錫処理)およびクロメート処理を行い、薄錫めっき鋼板(LTS)とした。
(3)ティンフリー鋼板(TFS)
鋼板に電気めっきラインで、無水クロム酸180g/l+硫酸0.8g/l組成のクロメート液を用いて金属クロム量30〜120mg/m2のめっきを施し、ついで無水クロム酸60g/l +硫酸0.2g/l組成のクロメート液を用いてクロム水和酸化物量、クロム換算量で1〜30mg/m2 のめっきを施して、ティンフリー鋼板(TFS)とした。
【0064】
なお、錫めっき層の錫形状を電子顕微鏡を用いて観察し、めっき付着量とともに表2に併記した。
【0065】
【表2】
【0066】
これらめっき鋼板から試験片を採取し、降伏強さ、硬さ(HR30T )、r値を求めた。なお、各鋼板の〔N〕値、炭化物の平均間隔、フェライト結晶粒度についても測定した。それらの結果を表3に示す。
降伏強さは、圧延方向の降伏強さとし、焼付け相当の時効処理(210 ℃×20min )後の降伏強さを測定した。引張試験片はJIS 5号試験を使用した。
【0067】
r値は、圧延方向、圧延直角方向(圧延方向と90度方向)、全方向(15度間隔)について求め、全方向r値については、平均値と最小値、最大値を表示した。
なお、AlN となっているN量NasALN 量およびBNとなっているN量NasBN量は、鋼板から採取した試料を、ブロムエステル法で抽出し、吸光光度法でAl、Bをそれぞれ定量分析して得た値を用いた。
【0068】
炭化物の平均間隔は、鋼板の圧延方向断面組織を光学顕微鏡あるいは電子顕微鏡を用いて観察し、400 倍で100 μm ×100 μm 視野について炭化物の間隔を測定しその平均値を求めた。フェライト結晶粒度はJIS G 0522の規定に準拠して測定し、表面5μm を除く全厚についての平均値を用いた。
【0069】
【表3】
【0070】
つぎにこれらめっき鋼板について、シートで塗装印刷焼付け処理、あるいはコイルでフィルムラミネート処理を行ったのち、あるいは無地のままで2ピース缶あるいは3ピース缶に製缶加工した。
2ピース缶は、鋼板をプレス加工により絞り缶としたのち、ドーム加工、ネックイン加工を行った。加工後、ドーム部の均一性、表面美麗性の評価およびネックイン皺の発生の有無を調査した。その結果を表4に示す
ドーム部の均一性は、底部を定盤に当て、定盤上で軽く振り「がたがた」音が発生するか否かで評価した。「がたがた音がするもの」を、缶底全周が定盤に当たっていないためとし×、「音が発生しないもの」を○とした。
【0071】
ドーム部の表面美麗性は、ドーム部表面外観を肉眼で観察し、肌荒れ、ストレッチャーストレインの発生の有無を確認し、発生有りを×、発生無しを○とした。
肌荒れの判定が微妙なものは、表面処理層を除去し表面粗さRa が1.0 μm 以上のものを肌荒れありとして×、それ以外を肌荒れなしとして○とした。
【0072】
3ピース缶は、鋼板を円筒状に加工し接合部を溶接したのち、18リットル缶サイズのペール缶および250gサイズの樽形状缶に製缶した。製缶加工後、張出し加工部の形状の均一性、表面美麗性の評価、缶高さ方向の収縮率の測定と、蓋との巻締め性および形状凍結性について調査した。その結果を表4に示す。
張出し加工部の均一性は肉眼で観察し、形状が均一なものを○、形状が不均一(樽形の折れ線が部分的に不鮮明である、あるいは折れ線が部分的に曲がっている、張出しが部分的に少ないなど)なものを×とした。
【0073】
張出し加工部の表面美麗性は、表面外観を肉眼で観察し、肌荒れ、ストレッチャーストレインの発生の有無を確認し、発生有りを×、発生無しを○とした。なお、肌荒れの評価は2ピース缶の場合と同様とした。
蓋との2重巻締め性は、巻締めが完全にできたものを○、巻締めが不十分で空気洩れが発生するものを×とした。
【0074】
形状凍結性は、250g缶サイズの円筒について図4と同様の方法で評価した。いずれも圧延方向、圧延直角方向の2通りの板取りで調査し、悪い方の結果を採用した。
【0075】
【表4】
【0076】
本発明の範囲の缶用鋼板(鋼板No.1〜No.6、No.10 、No.12 〜No.14 、No.18 )は、2ピース缶、3ピース缶に加工しても均一に変形し、形状の均一性に優れ、また肌荒れ、ストレッチャーストレインのような表面外観欠陥の発生もなく、表面美麗性にすぐれた鋼板である。また、形状凍結性も問題ない。
また、本発明の鋼板は錫めっき、クロムめっき等の表面処理を施したのち、塗装印刷焼付け処理、フィルムラミネート処理を行っても2ピース缶、3ピース缶に製缶できる。
【0077】
これに対し、本発明の範囲から、Mn量、Ntotal 、もしくは〔N〕量、炭化物の平均間隔、結晶粒度、r値のいずれかが外れる鋼板No.7〜No.9、No.11 、No.15 〜17は、形状の均一性および肌荒れ等の表面美麗性に劣る。なお、仕上げ熱間圧延後の強制冷却や、Mn量、B量の好適範囲を外れた本発明例の鋼板No.10 、No.12 、No.14 は目標とする材質特性を達成できるが、結晶粒度あるいは〔N〕量が好適範囲ぎりぎりのため安定して材質を確保したい場合には好適条件を採用することが望ましい。
【0078】
【発明の効果】
本発明によれば、形状凍結性を維持しつつ、時効性が低く製缶後の形状均一性、表面美麗性に優れ高強度極薄缶用鋼板が安価に提供でき、産業上格段の効果を奏する。本発明の缶用鋼板であれば、表面処理法によらず塗装・印刷・焼付け処理は勿論フィルムラミネーテ処理を行っても良好な2ピース缶、3ピース缶を製缶できる。
【図面の簡単な説明】
【図1】3ピース缶における缶高さ方向の収縮率におよぼす缶高さ方向のr値の影響を示すグラフである。
【図2】2ピース缶成形における均一変形性におよぼす全方向の平均r値と、最大r値と最小r値の差の関係を示すグラフである。
【図3】全方向の平均r値と最大r値と最小r値の差の関係におよぼすMn量、炭化物平均間隔の影響を示すグラフである。
【図4】結晶粒度および炭化物の平均間隔と、製造条件、肌荒れ性および形状凍結性との関係を示すグラフである。
【図5】時効硬化指数AI値におよぼす〔N〕={Ntotal −(NasALN +NasBN)}、Mn量の影響を示すグラフである。
【図6】時効硬化指数AI値と炭化物の平均間隔との関係におよぼす〔N〕量の影響を示すグラフである。
Claims (1)
- 重量%で、C:0.04〜0.08%、Mn:0.3 〜0.6 %、Al:0.02〜0.20%、Ntotal :0.003 %以下、B:0.005 %以下を含有する鋼素材に、熱間圧延を施し熱延板としたのち、巻取温度:650 ℃以下で巻取り、10〜60min 間空冷保持したのち水冷し、ついで冷間圧延を施し、再結晶温度以上800 ℃以下の温度で連続焼鈍を行ったのち、圧下率:1.0 〜10%の二次圧延を施すことを特徴とする均一変形性および表面美麗性に優れた缶用鋼板の製造方法。
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