JP3707260B2 - 面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用極薄鋼板の製造方法 - Google Patents
面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用極薄鋼板の製造方法 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
この発明は、面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
鋼板の表面に錫めっき処理が施された錫めっき鋼板または鋼板の表面に電解クロム酸処理が施されたティンフリースチール(TFS)のような缶用鋼板は、食缶や飲料缶用鋼板として多用されている。これらの食缶や飲料缶は、その製缶方法の相違から、3ピース缶と2ピース缶とに分類されるが、近年飲料缶を中心として、缶体の軽量化、製缶工程の省略、素材および製造コストの低減等の観点より、3ピース缶から2ピース缶への移行、更には、缶体の薄肉化が進められている。
【0003】
食缶、飲料缶用の2ピース缶には、絞りおよび再絞り加工によって製造されるDRD缶(Drawn and redrawn can) 、缶胴部の薄肉化を伴う多段の絞り加工によって製造されるDTR缶(Drawn-thin-redrawn can)および絞り加工後にしごき加工が施されるDI缶(Drawn and wall ironed can) 等があるが、その何れの場合においても、製缶に際して円盤状のブランク板から絞り加工によってカップ状の缶体を成形するか、または、カップ状の缶体から再絞り加工によって更に径が小さく深さの深いカップ状の缶体を成形する工程が含まれている。
【0004】
このような2ピース缶製缶時の際の絞り加工時に、鋼板の加工性の面内異方性に起因して、しばしば、缶端部の高さまたはフランジ部の幅が円周方向に沿って不均一になるいわゆる耳が発生する。この耳は、缶端部のネッキング加工前にトリムして除去されるが、耳が大きい場合にはトリム代が大きくなり、材料歩留りを低下させる。
【0005】
更に、耳は、円周方向に沿った板厚分布の変動をもたらし、後工程のネッキング加工の際におけるネックしわの発生原因になるのみならず、成形時にパンチから缶体を抜き取る際のパンチ抜け不良の発生原因にもなって、材料歩留りおよび品質の低下をもたらしている。
【0006】
このようなことから、2ピース缶用鋼板に対しては、製缶時における耳発生の小さい即ち面内異方性の小さい鋼板が求められており、特に、DI缶用鋼板およびDTR缶用鋼板に対しては、近年求められている缶体の軽量化、製造コスト低減の観点から、薄ゲージであってしかも材料歩留りの向上が可能な、面内異方性が一段と小さく、且つ、面内異方性がコイルの全長および全幅にわたって均一な鋼板が強く望まれている。
【0007】
面内異方性の小さい2ピース缶用鋼板の製造方法としては、例えば、特開平9−241756号公報に、冷延前の結晶粒径を30μm以上に制御し、イヤリングを低減する方法(以下、先行技術1という)が開示されている。
【0008】
一方、板幅方向に均一な材質を有する缶用鋼板の製造方法として、特開平10−46243号公報には、粗圧延されたシートバーの両端部を加熱昇温することにより、圧延終了温度が鋼帯の全幅にわたってAr3 変態点未満、(Ar3 変態点−100℃)以上となるように熱間仕上圧延し、次いで、冷間圧延、焼鈍および調質圧延を行う方法(以下、先行技術2という)が開示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
しかしながら、先行技術1には、コイルの長手方向および幅方向の不均一性を抑制する、換言すれば、コイルの長手方向および幅方向の均一性を従来以上に向上させるという技術思想は含まれていない。従って、コイルの長手方向および幅方向端部のイヤリング性即ち面内異方性の低下を避けることはできず、コイル内のブランキング位置による面内異方性のバラツキが大になって、材料歩留りの低下をもたらすという問題は解決されていない。また、冷延前の結晶粒径が35〜100μmと極端に粗粒化されているために、冷延、焼鈍後の粒径も粗粒化し、製缶時に肌荒れが発生しやすくなる問題を有している。
【0010】
先行技術2は、熱延仕上温度をAr3 変態点未満にする技術であり、本発明の意図する技術とは本質的に異なる技術であるが、このような技術を用いたとしても、鋼板幅方向の材質均一性は向上するものの、鋼板長手方向の均一性に関しては、必ずしも十分であるとは言い難い。
【0011】
即ち、鋼板長手方向の均一性を向上させるためには、更に、シートバーを仕上圧延前に巻取り、その先端と後端とを逆転させて、先行するシートバーと接合することが必要であり、熱延工程の大幅な改造および付帯設備の設置が必要となって、製造コストの大幅な増大をもたらす。更に、このような技術を用いても、鋼板長手方向の均一性に関しては、2ピース缶用鋼板に求められている現在の厳しい要求に十分に応えることが難しく、一層の改善を図る必要がある。
【0012】
従って、この発明の目的は、上述した従来技術の問題点を解決し、現在の要求に十分に応え得る、面内異方性に優れ、且つ、コイル内の全長、全幅にわたる面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用鋼板の製造方法を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、上述した問題を解決し、面内異方性に優れ、且つ、コイル内の全長、全幅にわたる面内異方性の均一性に優れた2ピース缶用鋼板の製造方法を開発すべく鋭意研究を重ねた。
【0014】
2ピース缶用鋼板のゲージダウンが進み、最終製品の板厚が薄くなるに伴って、冷間圧延の負荷と冷間圧延率との兼ね合いから、熱延鋼板の仕上板厚も薄くなってきているが、熱延鋼板の薄手化により、熱間圧延中の放熱が大きくなり、仕上圧延出側温度(FT)をAr3 変態点以上とすることが困難になっている。特に、熱延鋼帯の先端部の温度低下が大きく、仕上圧延出側温度(FT)がAr3 変態点未満になりやすい。
【0015】
そのために、コイル長手方向中央部では、仕上圧延出側温度(FT)がAr3 変態点以上となり、比較的良好な面内異方性を維持することができる場合でも、鋼帯先端部では面内異方性が大きく劣化する問題が生ずる。
【0016】
更に、近年、ゲージダウンとともに製缶加工度も厳しくなる傾向があり、加工性の良好な極低C鋼を適用することもあるが、極低C鋼は低C鋼に比べてAr3 変態点が高温であるため、なお一層、仕上温度の確保が困難になっている。また、従来は、単に仕上圧延出側温度(FT)をAr3 変態点以上即ちオーステナイト単相域で仕上圧延を終了すればよいと考えられていたが、仕上圧延出側温度(FT)には、Ar3 変態点よりも高温の温度域に最適な温度範囲があり、この最適温度範囲にFTを制御することによって、熱延鋼板の組織が、適正な粒径の均一な整粒組織になり、面内異方性が更に改善されることを見出した。
【0017】
しかしながら、従来技術では、熱延鋼帯の仕上圧延出側温度(FT)を、部分的にはそのような温度範囲にすることができたとしても、熱延鋼帯の先端部およびエッジ部を含めた全長、全幅にわたり、FTを高温で狭い温度範囲に制御することは困難であった。
【0018】
そこで、本発明者らは、熱延鋼帯の全長、全幅にわたり、FTを最適温度範囲に制御する方法について研究を重ねた結果、仕上圧延前の粗バーの幅方向全体を誘導加熱装置により加熱して、仕上圧延入側温度を調整することにより、FTを狭い範囲で制御することが可能になり、極薄鋼板を、その全長、全幅にわたり、良好且つ均一な面内異方性となし得ることを見出した。
【0019】
図1は、0.002wt.%のCを含有する鋼板の仕上圧延出側温度(FT)とイヤリング率との関係を示した図であり、図2は、その仕上圧延出側温度(FT)と表面性状との関係を示した図である。図1から明らかなように、FTがAr3 変態点を下回るとイヤリング性は大きく劣化し、一方、FTがAr3 変態点直上よりも更に高温の895℃以上になるとイヤリング性は改善される。しかし、FTが925℃を超える高温になると、イヤリング性は逆に劣化する傾向が生ずる。
【0020】
また、図2に示すように、FTが925℃を超える高温になると、スケール性欠陥によって、鋼板の表面性状が劣化し、熱延組織の過度の粗粒化に伴って、冷間圧延し焼鈍した後の組織も粗粒化するために、絞り成形時に肌荒れが発生するようになる。
【0021】
図3は、0.002wt.%C−0.0012%B鋼板の仕上圧延出側温度(FT)に対する粗バーの全体加熱効果を調べた結果を示す図であり、図4は、イヤリング率のコイル内均一性に対する粗バー全体加熱効果を示す図である。
【0022】
即ち、転炉で溶製し連続鋳造された、0.002wt.%C−0.0012%B鋼の連続鋳造スラブを、Ar3 変態点以上の温度域において、82%の圧下率で粗圧延し、厚さ40mmの粗バーとなし、この粗バーの平坦度をレベラーによって矯正した後、エッジヒーターによるエッジ部のみの加熱と、誘導加熱装置による幅方向全体の加熱を行い、次いで、熱間仕上圧延して厚さ1.7mmの熱延鋼板とした。
【0023】
面内異方性は、熱間圧延鋼板を酸洗し89%の圧下率により冷間圧延し、次いで、連続焼鈍、調質圧延を行い、板厚0.18mmに仕上げた後、錫めっきを施した鋼板のイヤリング率を測定し評価した。イヤリング率は、図1および図3ともに、絞り比1.8で深絞り成形したときの耳高さを測定し、耳の最大値と最小値との差を耳全周の平均値で割った百分率で表した。
【0024】
図3および図4から明らかなように、粗バー加熱を行わなかった場合は、全長にわたりFT<Ar3 となり、イヤリング率が大きい。特に、熱延鋼帯の先端部(図のT部)およびエッジ部における仕上圧延出側温度(FT)の低下が大きくイヤリング率の劣化も大きい。
【0025】
エッジヒーターによって粗バーのエッジ部近傍のみを加熱した場合には、エッジ部におけるFTの低下は若干抑制され、エッジヒーター加熱を行わなかった場合に比べ、エッジ部のイヤリング率は若干改善されるが、幅中央部、エッジ部共にFTはAr3 変態点未満となり、イヤリング率の劣化を回避することができない。
【0026】
これに対して、エッジヒーターによって粗バーのエッジ部を加熱した後、その全体を加熱した場合には、長手方向先端部のエッジ部を含めた全長および全幅にわたり、仕上圧延出側温度(FT)をAr3 変態点以上で、且つ、895〜925℃の範囲内で均一な温度とすることができ、先端部またはエッジ部でのイヤリング率の劣化も認められず、面内異方性のコイル内均一性は非常に良好になる。
【0027】
このように、面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用鋼板を製造するためには、熱間圧延工程の仕上圧延出側温度(FT)を最適範囲に制御して熱延組織を適正化することが重要であり、そのためには、粗バーのエッジ部を加熱した後、その幅方向全体を加熱し、仕上圧延入側温度を調整することが有効であることがわかった。
【0028】
この発明は、上記知見に基づきなされたものであって、本願の請求項1に記載の発明は、C:0.001〜0.005wt.%、Si:0.1wt.%以下、Mn:0.1〜1.5wt.%、P:0.02wt.%以下、S:0.02wt.%以下、sol.Al:0.02〜0.15wt.%、N:0.005wt.%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学成分組成を有する連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを、Ar3 変態点以上の温度域において圧下率70%以上で粗圧延して粗バーとなし、次いで、前記粗バーの平坦度を矯正し、平坦度の矯正された前記粗バーに対し、熱間仕上圧延機の入側において、エッジヒーターによるエッジ部のみの加熱と、誘導加熱装置による幅方向全体の加熱とを行うことによって、前記粗バーの仕上圧延入側温度を調整し、次いで、仕上圧延入側温度が調整された前記粗バーを、仕上圧延出側温度が鋼帯の先端部から後端部に至るまで全長にわたり895〜925℃となり、そして、仕上板厚が2.3mm以下となるように熱間仕上圧延して熱延鋼帯を調製し、得られた熱延鋼帯を600〜700℃の温度でコイルに巻取り次いで酸洗した後、85〜95%の圧下率で冷間圧延し、得られた冷延鋼帯を焼鈍し次いで調質圧延または二次圧延を施して、板厚0.25mm以下の鋼帯となし、次いで、前記鋼帯に対し表面処理を施すことにより、面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用極薄鋼板を製造することに特徴を有するものである。
【0029】
請求項2に記載の発明は、前記連続鋳造スラブが、B:0.0003〜0.005wt.%,Nb:0.005〜0.05wt.%およびTi:0.005〜0.05wt.%のうちの少なくとも1種を更に含有していることに特徴を有するものでる。
【0030】
請求項3に記載の発明は、前記熱延鋼帯先端部の仕上圧延出側温度と、後端部の仕上圧延出側温度との差を20℃以下とすることに特徴を有するものである。請求項4に記載の発明は、前記粗バーの少なくとも長手方向先端部を、その幅方向全体にわたり加熱し、前記先端部の表面温度を45℃以上昇温させることに特徴を有するものである。
【0031】
【発明の実施の形態】
この発明の方法において、鋼の化学成分組成を、上述した範囲に限定した理由について以下に述べる。
【0032】
C:C含有量が0.001wt.%未満の場合には、熱延板組織が過度に粗粒化し且つ混粒となり、熱延段階での組織の均一性が低下すると共に、冷間圧延、焼鈍後の粒径も大きくなりやすく、製缶時に肌荒れが発生しやすくなる。一方、C含有量が0.005wt.%を超えると、フェライト粒内の固溶C量が増加し、深絞り性、耐時効性が劣化するため、製缶時における加工が厳しい場合には、製缶不良の発生が多くなり、高加工の2ピース缶用途には適さない。従って、この発明においては、C含有量を0.001〜0.005wt.%の範囲内に限定する。
【0033】
Si:Siは、これを意図的に添加しない場合でも、不純物成分として鋼中に残留し、鋼板を脆化させ耐食性を劣化させる元素である。また、TFSの下地鋼板として使用する場合には、金属Crの電析に対しても悪影響を与える。従って、Si含有量は少ないほど望ましく、上記悪影響を回避し得る0.1wt.%以下に限定する。
【0034】
Mn:Mnは、鋼中のSをMnSとして析出させることにより、スラブの熱間割れを防止すると共に、2ピース缶としての缶体強度が不足する場合に、固溶強化元素として適正量を添加することにより、鋼板を高強度化させる作用を有している。更に、極低C化に伴う熱延鋼板組織の過度の粗粒化、混粒化を抑制し、均一且つ整粒組織とする上で有効な元素である。
【0035】
本発明においては、Sを析出固定するための下限としてMnを0.1wt.%含有させる。上述した鋼板の高強度化および組織の均一化を図るためには、Mnを0.5wt.%以上含有させることが有効である。一方、多量のMnを含有させると素材強度を高め、組織の均一化を図るためには有効であるが、深絞り性、面内異方性の劣化を招く。従って、Mn含有量の上限を1.5wt.%に限定する。
【0036】
P:PもMnと同様に置換型固溶元素であり、Mn以上に大きな強化能を有し、鋼板の高強度化を図るために有効な元素であるが、同時にフェライト粒界に偏析して、粒界脆化を引き起こす。更に、Pが多量に含有されていると、粒界偏析による製缶時の破断等をもたらし、また耐食性の劣化を招く。従って、P含有量は少ないほど望ましく、上記悪影響を回避し得る0.02wt.%以下に限定する。
【0037】
S:Sは、スラブの熱間割れを防止する観点からその含有量は極力少ない方が望ましく、0.02wt.%以下に限定する。
sol.Al:sol.Alは、鋼中のNをAlNとして析出させる作用を有している。しかしながら、sol.Alが0.02wt.%未満では、上記作用を発揮させることができず、一方、sol.Al含有量が0.15wt.%を超えると、 Al2O3系介在物が残留し、製缶時に介在物に起因する割れが発生しやすくなり、加工性の劣化を招く。従って、sol.Al含有量を、0.02〜0.15wt.%の範囲内に限定する。
【0038】
N:N含有量は極力少ない方が望ましく、0.005wt.%を超えると、固溶N量が増大して、深絞り性が劣化する。従って、N含有量を0.005wt.%以下に限定する。
【0039】
上述した元素のほか、必要に応じて、下記に示すB,NbおよびTiのうちの少なくとも1つの元素を、更に付加的に含有させてもよい。
B:Bは、鋼中のNと結合してBNを形成し、固溶N量を低減させ、深絞り性を向上させる作用を有している。また、オーステナイトの過度の粗粒化を抑制することにより、板厚方向の組織の均一化を高めると共に、鋼中のNを、AlNとなる前にBNとして析出させることにより、巻取り後の熱延鋼板の幅方向、長手方向の組織の均一化性を高める作用を有している。
【0040】
しかしながら、B含有量が0.0003wt.%未満では上記作用を発揮させることができず、一方、B含有量が0.005wt.%を超えると、上記作用が飽和するのみならず逆に固溶Bが増加して深絞り性の劣化を招く。従って、Bを含有させる場合には、その含有量を0.0003〜0.005wt.%の範囲内に限定する。
【0041】
Nb,Ti:Nb,Tiは、炭窒化物を形成することにより、固溶C量を低減し、深絞り性を向上させる作用を有している。また、熱延鋼板の組織の過度の粗粒化を抑制し、均一な組織とするうえで有用な元素である。しかしながら、Nb,Tiの各含有量が0.005wt.%未満では上記作用を発揮させることができず、一方、その含有量が0.05wt.%を超えると、再結晶温度が上昇し、780℃を超える高温焼鈍が必要になる。従って、Nb,Tiを含有させる場合には、各々の含有量を0.005〜0.05wt.%の範囲内に限定する。
【0042】
次に、この発明における、鋼板の製造条件について以下に述べる。この発明においては、上述した成分組成の鋼を転炉において溶製し、溶製された鋼を連続鋳造する。得られた連続鋳造スラブを再加熱せずに粗圧延するか、または、連続鋳造スラブをいったん冷却し、加熱炉において再加熱した後、Ar3 変態点以上の温度域において70%以上の圧下率で粗圧延し、所定厚さの粗バーとする。
【0043】
連続鋳造スラブは、粗大な凝固組織を呈しており、また、再加熱されたスラブも粗大なオーステナイト粒を呈しているので、これらを直接に仕上圧延した場合には、仕上圧延後の熱延鋼板のフェライト粒も過度に粗粒化し不均一な組織になる。そこで、オーステナイトの細粒化をはかり、仕上圧延前の組織を適正化し、仕上圧延後の熱延鋼板の組織を適性な粒径の均一な整粒組織とするために、Ar3 変態点以上の温度域において70%以上の圧下率で粗圧延を行う。
【0044】
オーステナイトの動的再結晶により細粒化をはかるために、オーステナイト単相域のAr3 変態点以上の温度域において、70%以上の圧下率による粗圧延を行うことが必要である。粗圧延は、スラブから粗バーにする過程での総圧下率が70%以上であれば、連続圧延やリバース圧延等の複数パスの圧延であってもよい。
【0045】
粗圧延された粗バーの厚さは、20〜60mmであることが望ましい。粗バーの厚さが20mm未満ではその温度低下が大きくなり、後工程における粗バー全体加熱時の昇温量を大きくする必要が生ずる。一方、粗バーの厚さが60mmを超えると、均一な温度分布とするために、粗バー全体加熱の加熱時間を長くする必要が生ずる。
【0046】
上述したようにして粗圧延された粗バーに対し、その平坦度を矯正することが必要である。粗バーの平坦度が劣っていると、次工程である、前記粗バーに対するエッジ部加熱および全体加熱の際に、粗バーを、その表裏面、幅方向および長手方向に均一に加熱することができず、温度分布の不均一をもたらし、仕上圧延後における熱延鋼板の熱延組織の不均一を誘発して、最終製品の面内異方性の不均一をもたらすことになる。粗バーに対する平坦度の矯正手段は、特に限定されるものではなく、通常のレベラー等を採用することができる。
【0047】
このようにして平坦度の矯正された粗バーに対し、エッジヒータによってそのエッジ部のみを加熱し、次いで、熱間仕上圧延機の入側に配置された誘導加熱装置によって、粗バーの幅方向全体を加熱し、仕上圧延入側温度を調整する。上記粗バーの幅方向全体に対する加熱装置としては、制御応答性が良好で、非接触で且つ短時間に急速加熱を行うことが可能な誘導加熱方式の加熱装置を使用する。
【0048】
図3および図4に示したように、エッジヒーターによるエッジ部近傍のみの加熱では、本発明の目的とする極薄の缶用鋼板の母材となる、板厚2.3mm以下の薄手熱延鋼板の場合に、鋼板の全長、全幅、特に先端部における仕上圧延出側温度(FT)をAr3 変態点以上の895〜925℃とすることが困難になる。従って、エッジヒーターによる粗バーエッジ部の加熱に併せて、粗バーの幅方向全体を加熱することが必要である。
【0049】
従来は、仕上圧延出側温度(FT)をこのような高温で狭い温度範囲に制御することは事実上不可能であったが、エッジヒーターによる粗バーエッジ部の加熱に加えて、誘導加熱装置により粗バーの幅方向全体を加熱することによって、仕上圧延出側温度(FT)を鋼帯の全長、全幅にわたり、895〜925℃の範囲内に制御することが可能になり、これによって、缶用鋼板の面内異方性の均一性を良好に保つことが可能になった。
【0050】
即ち、図1に示したように、仕上圧延出側温度(FT)を895℃以上とすることによって、従来よりもイヤリング率を低減することができる。一方、仕上圧延出側温度(FT)が925℃を超えて高温になると、熱延鋼板の組織が過度に粗粒化して面内異方性が劣化する傾向が生じ、更に、冷間圧延し焼鈍した後の鋼板の結晶粒も大きくなる結果、図2に示したように、製缶時に肌荒れが発生しやすくなる上、仕上圧延中の二次スケールによる表面性状の低下も顕著になる。従って、仕上圧延出側温度(FT)は895℃〜925℃の範囲内に限定すべきである。
【0051】
特に熱延鋼帯の全長、全幅にわたりFTを上記の温度範囲制御することが必要であり、これによって、最終製品の面内異方性のコイル内均一性を良好に保つことができる。更に、熱延鋼帯の先端部と後端部との仕上圧延出側温度(FT)の差が20℃以下となるように制御することが一層望ましい。このように熱延鋼帯の先端部と後端部とのFTの差が20℃以下となるように制御するためには、粗バーの少なくとも長手方向先端部の幅方向全体を加熱し、先端部の表面温度を45℃以上昇温させることが有効である。
【0052】
熱間仕上圧延された熱延鋼帯の巻取り温度は、600〜700℃の範囲内とすることが必要である。鋼帯巻取り温度が600℃未満では、熱延鋼板の粒成長が不十分であり、細粒組織となって面内異方性が劣化しやすくなる。一方、巻取り温度が700℃を超えると、熱延鋼板の組織の一部が過度に粒成長し、粗大粒が発生して混粒になりやすくなり、面内異方性および面内異方性の均一性の劣化を引き起こす。また、酸洗性が低下して、表面性状が劣化すると共に、製缶時に肌荒れが発生するおそれも生ずる。熱延鋼帯のより好ましい巻取り温度は620〜680℃である。
【0053】
上述した条件で熱間仕上圧延が行われコイルに巻き取られた熱延鋼帯は、酸洗後、冷間圧延される。熱延鋼帯の冷間圧延時における圧下率は、85〜95%とすることが必要である。圧下率が85%未満では、0度、90度方向の耳が大きくなりやすくなり、一方、圧下率が95%を超えると、45度方向の耳が大きくなりやすくなる。これらの耳発生を抑制し、安定して面内異方性を小さくするために、上述した85〜95%の圧下率とすることが必要である。
【0054】
上述した圧下率で冷間圧延された冷延鋼帯は、次いで焼鈍される。焼鈍は、バッチ焼鈍でも連続焼鈍でもよいが、生産性の観点からは連続焼鈍の方が好ましい。焼鈍温度は、再結晶温度〜780℃の範囲内とすることが好ましい。焼鈍温度が再結晶温度未満では面内異方性が劣化し、一方、焼鈍温度が780℃を超えると、本発明のように、最終製品板厚が0.25mm以下の極薄鋼板の場合には、連続焼鈍炉の通板時における通板性が著しく劣化し、板破断、形状不良等のトラブルが発生しやすくなり、生産性が低下する。また、結晶粒が粗粒化し製缶時に肌荒れが発生するおそれが生じる。
【0055】
連続焼鈍の場合の過時効処理は、これを行ってもまた行わなくても本発明の効果に変わりはない。過時効処理を行う場合には、連続焼鈍炉内のインライン過時効処理または連続焼鈍後の箱焼鈍によるバッチ過時効処理の何れの方法で実施してもよい。
【0056】
上述のようにして焼鈍された鋼帯に対し、調質圧延または二次圧延を施して、板厚0.25mm以下の鋼帯に仕上げる。本発明においては、近年のゲージダウンニーズに合致した極薄の2ピース缶用鋼板を対象としているので、最終製品板厚を0.25mm以下に限定する。調質圧延の際の伸長率は0.5%以上とすることが望ましい。伸長率が0.5%未満では、形状制御が困難になる。また、二次圧延を行う場合の圧下率は、45%以下とすることが望ましい。二次圧延圧下率が45%を超えると、過度の硬質化および深絞り性の劣化を招き、製缶時に破断等のトラブルが誘発されるおそれが生ずる。
【0057】
調質圧延または二次圧延された鋼帯に対し、錫めっき、極薄錫めっき、錫−ニッケルめっき、ニッケルめっき、クロムめっき等の各種の表面処理が施される。特に、DI缶用鋼板の場合には、ノーリフローの錫めっき鋼板が望ましく、DTR缶用のフィルムラミネート鋼板、プレコート鋼板の下地鋼板として使用する場合には、加工密着性の観点から、電解クロム酸処理鋼板即ちティンフリースチール(TFS)が最も望ましい。これらの表面処理鋼板は、鋼板単独のまま、または、ポリエステル等の樹脂フィルムをラミネートしたフィルムラミネート鋼板、エポキシ等の塗料をコーティングしたプレコート鋼板としても使用することができる。
【0058】
【実施例】
次に、この発明を実施例により比較例と対比しながら説明する。
表1に示す、本発明の範囲内の化学成分組成を有する鋼を転炉にて溶製し、次いで、連続鋳造することによってスラブを調製した。このスラブを、Ar3 変態点以上の温度域において、粗圧延および平坦度矯正を行った後、表2に示す条件で圧延し焼鈍した。熱延鋼帯の巻取り温度は640℃とし、焼鈍は、鋼符号A,B,C,Dについては均熱温度670℃、鋼符号E,Fについては均熱温度750℃の連続焼鈍とした。次いで、調質圧延または二次圧延によって所定の板厚に仕上げた後、電解クロム酸処理を施し、表2に示す2ピース缶用電解クロム酸処理極薄鋼板の供試体No. 1〜27を調製した。
【0059】
【表1】
【0060】
【表2】
【0061】
表2において、供試体No. 1、2、5、6、10、11、15、16、20、21、24、25は、熱間圧延前に粗バーに対する幅方向全体の加熱を行わなかった比較例であり、その他の供試体は本発明例である。このような、本発明例および比較例の供試体に対し、コイル長手方向中央部の幅中央部とコイル長手方向先端部の幅中央部およびエッジ部のイヤリング率を測定し、その測定結果を表2に併せて示した。なお、イヤリング率は、絞り比1.8で深絞り成形後に耳高さを測定し、耳の最大値と最小値との差を耳全周の平均値で割った百分率で表し、これによって面内異方性を評価した。
【0062】
表2から明らかなように、本発明例の場合には比較例に比べてコイル長手方向中央部のみならず、コイル先端部の幅中央部およびエッジ部のイヤリング率も小さく、面内異方性が良好であり、且つ、コイル内均一性にも優れていた。
【0063】
【発明の効果】
以上述べたように、この発明によれば、コイルの全長、全幅の全域において、面内異方性が小さく、且つ、面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用極薄鋼板を製造することができ、DRD缶、DI缶、DTR缶のような2ピース缶を製造する際の耳発生による歩留り低下が小さくなり、その製造コストを低減することができる等、工業上有用な効果がもたらされる。
【図面の簡単な説明】
【図1】イヤリング性に対する仕上圧延出側温度(FT)の影響を示す図である。
【図2】表面性状に対する仕上圧延出側温度(FT)の影響を示す図である。
【図3】熱延鋼帯の長手方向、幅方向の仕上出側温度(FT)の変動に対する粗バー全体の加熱効果を示す図である。
【図4】イヤリング率のコイル内均一性に対する粗バー全体加熱効果を示す図である。
Claims (4)
- C:0.001〜0.005wt.%、Si:0.1wt.%以下、Mn:0.1〜1.5wt.%、P:0.02wt.%以下、S:0.02wt.%以下、sol.Al:0.02〜0.15wt.%、N:0.005wt.%以下、残部Feおよび不可避的不純物からなる化学成分組成を有する連続鋳造スラブを調製し、前記スラブを、Ar3 変態点以上の温度域において圧下率70%以上で粗圧延して粗バーとなし、次いで、前記粗バーの平坦度を矯正し、平坦度の矯正された前記粗バーに対し、熱間仕上圧延機の入側において、エッジヒーターによるエッジ部のみの加熱と、誘導加熱装置による幅方向全体の加熱とを行うことによって、前記粗バーの仕上圧延入側温度を調整し、次いで、仕上圧延入側温度が調整された前記粗バーを、仕上圧延出側温度が鋼帯の先端部から後端部に至るまで全長にわたり895〜925℃となり、そして、仕上板厚が2.3mm以下となるように熱間仕上圧延して熱延鋼帯を調製し、得られた熱延鋼帯を600〜700℃の温度でコイルに巻取り次いで酸洗した後、85〜95%の圧下率で冷間圧延し、得られた冷延鋼帯を焼鈍し次いで調質圧延または二次圧延を施して、板厚0.25mm以下の鋼帯となし、次いで、前記鋼帯に対し表面処理を施すことを特徴とする、面内異方性および面内異方性のコイル内均一性に優れた2ピース缶用極薄鋼板の製造方法。
- 前記連続鋳造スラブは、B:0.0003〜0.005wt.%,Nb:0.005〜0.05wt.%およびTi:0.005〜0.05wt.%のうちの少なくとも1種を更に含有している請求項1記載の方法。
- 前記熱延鋼帯先端部の仕上圧延出側温度と、後端部の仕上圧延出側温度との差を20℃以下とする、請求項1または2に記載の方法。
- 前記粗バーの少なくとも長手方向先端部を、その幅方向全体にわたり加熱し、前記先端部の表面温度を45℃以上昇温させる、請求項1〜3の何れか1つに記載の方法。
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