JP3917749B2 - 高加工性極薄軟質容器用鋼板の製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は飲料缶などの金属容器に利用される高加工性極薄軟質鋼板の製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
飲料缶、食品缶などについては、素材の使用量を減らすことで缶コストを低減するため、素材の薄手化が求められている。この背景で製造される極薄材料の製造時に必要とされるのは、焼鈍工程においてヒートバックルと呼ばれる鋼板の腰折れを抑制し、生産効率を高めることである。
【0003】
ヒートバックル対策としては鋼板の焼鈍温度を低く抑えることが有効であるが、再結晶の観点から焼鈍温度を高く設定せざるを得ない状況下、焼鈍時には目的の板厚より厚い鋼板を通板し、その後再冷延(2CR)を施し目的とする板厚を得る方法が実用化されている。この方法は缶強度を確保する観点で、極薄材の適用による強度低下分を加工硬化により補うため都合のよい製造法である。
【0004】
しかし、鋼板の薄手化が進行する中で、2CR率の上昇は必然となり、材料の硬質化が新たな問題となりつつある。一般にしわの発生程度は板厚の低下および硬質化で悪化するため、例えば2ピース缶と呼ばれる、絞り成形工程の後、しごきまたは引き延ばしなどにより缶壁高さを高くしたDI缶やDTR缶に代表されるような、底と胴部を一体成形した容器の製造工程において缶底部にしわが発生する。
【0005】
また製造された缶胴の開口部に缶蓋を捲き締める目的で缶開口部の径を縮める加工(ネック加工)において、しわの発生が著しくなる(耐ネックしわ性の劣化)という問題は2ピース缶ばかりでなく、缶胴を溶接により形成したいわゆる3ピース缶においても問題となっている。2CR率の上昇による硬質化は3ピース缶製造工程において缶胴の溶接前に平板を丸めるカール成形を困難にするという問題も引き起こしている。
【0006】
2CRの圧下量により硬度を調整するには2CR前の素材をできるだけ軟質としておくことが好ましく、特開昭50−121118号公報、特公昭56−3413号公報のように、熱延条件やN量を限定し、固溶C、Nを低減することで軟質化を図った鋼板や、特公平1−52452号公報、特開平2−118024号公報などのような含有C量を数10ppmまで低減した極低炭素鋼を母材とした技術が開示されている。
【0007】
しかしCを数10ppm含有する低炭素鋼では、析出物を制御したとしても軟質化は十分でなく、極低炭素鋼では再結晶温度が上昇してしまうため、近年要求される0.2mm以下での極薄材料においては、耐ヒートバックル性、すなわち高2CR率での軟質化要求を満足しきれていない。
【0008】
【発明が解決しようとする課題点】
本発明は1)焼鈍工程での腰折れによる生産性の低下、および2)缶胴部の成形工程におけるしわ、カール不良などの加工性劣化を回避した、高い2CRを施した場合にも軟質である鋼板を提供するものである。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは特に2CR率が10%以上で製造される板厚0.2mm以下の鋼板の成分および熱延条件と材質との関係を検討する内、成分、特にC量を特定範囲に限定し、熱延仕上げ温度を通常適用されるオーステナイト単相域以下にし、さらに仕上げ圧延での圧下配分を制御した鋼板では2CR率が上昇しても従来鋼ほど硬質化しないことを知見した。さらに、熱延時の潤滑、仕上げ圧延後の水冷開始時間、冷却速度などについても、さらなる検討を加え本発明を達成したものである。
【0010】
すなわち、本発明の要旨とするところは、8%以上の高2CR率で容器用鋼板を製造するにあたり、熱間圧延の仕上げ温度を通常の圧延温度域より低い温度とし、必要に応じて熱延時の潤滑条件、仕上げ熱延後の冷却条件を制御することにより最終製品の軟質化を図るものであって、以下の構成からなっている。
【0011】
(1)質量%で、
C :0.010〜0.060%、 S :0.005〜0.05%、
P :0.005〜0.08%、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延する際に、最終仕上げ圧延がフェライト単相またはフェライト、オーステナイトの混相となる温度域で行い、最終1パスの圧下率が20%以上、仕上げ熱延終了後、水冷開始までの時間が2秒未満、捲取までの冷却を30℃/秒以上の速さで行い、熱延仕上げ後の捲取温度を650℃以下とし、冷間圧延前の組織において圧延組織を残存させ、酸洗した後、冷延圧下率70〜98%で冷間圧延し、再結晶温度以上800℃以下で3分以下の焼鈍を行い、その後さらに、冷延圧下率8〜70%で再冷延を行うことを特徴とする高加工性極薄軟質容器用鋼板の製造方法。
【0017】
(2)フェライト単相またはフェライト、オーステナイトの混相域での熱延において潤滑を施しつつ圧延を行うことを特徴とする前項(1)に記載の高加工性極薄軟質容器用鋼板の製造方法。
【0020】
【発明の実施の形態】
以下、本発明を詳細に説明する。
まず、成分について説明する。成分はすべて質量%である。
Cは、本発明での熱延条件の制限によって軟質化効果を得られる0.010%から0.060%とする。C量がこの範囲にない場合には熱延条件の制限による軟質化という本発明の効果が得られない。Cが0.010%に近い場合には、固溶Cが残存しやすく、本発明のような高い2CRを施していても時効伸びにより加工時に表面品位が劣化する場合があるため、時効条件が厳しい場合や表面品位が重要な場合には0.020%以上とすることが好ましい。
【0021】
Sは含有量が低すぎる場合には、熱延条件によっては熱延条件の制限による軟質化という本発明の効果が小さくなるため0.005%以上に制限する。Sの上限については特に制限しないが、あまり多過ぎると熱間脆性の点で好ましくなく、従って0.05%以下とするのが望ましい。
【0022】
PについてもSと同様の傾向がみられるため0.005%以上に制限する。一方あまり多過ぎると硬くなるため、0.08%以下に抑えるのが好ましい。
【0023】
他の成分として、Si:0.001〜0.5%、Mn:0.02〜1.0%、Al:0.010〜0.100%、N:0.0005〜0.0060%を含有してもよい。
【0024】
本発明では熱間圧延時の温度条件が重要な要件である。熱延に供するスラブはインゴット法、連続鋳造法など製造法は限定されず、また熱延に至るまでの熱履歴にもよらないためスラブ再加熱法、鋳造したスラブを再加熱することなく直接熱延するCC−DR法、さらには粗圧延などを省略した薄スラブ鋳造によっても本発明の効果を得ることができる。
【0025】
本発明の効果を得るには熱延仕上げ圧延の出側温度が通常の圧延であるオーステナイト単相温度域より低温であるフェライト単相またはフェライト・オーステナイト複相であることが必要である。通常は熱延中に板温は連続的に低下していると考えられるためAr3 変態点以下の温度ということになる。特に明確な効果を得るには変態温度の30℃以上低温域とすることが望ましい。効果は低温域とするほど大きくなる傾向があるが、熱延作業性との兼ね合いで決定される。
【0026】
また、本発明温度域内での圧下量も効果に影響を及ぼし、発明の効果を十分に得るにはこの温度域での最終1パスの圧下率を20%以上とすることが好ましく、より好ましくは30%以上とする。
【0027】
また、熱延板の組織に圧延組織が残存した場合には軟質化効果が大きくなるため捲取温度を650℃以下とすることも好ましい。圧延組織が多く残存すると最終製品で肌荒れが起きる場合もあるが、これを回避するには熱延でのオーステナイト域での圧下量を多めに設定することが有効である。
【0028】
仕上げ熱延終了後、水冷開始までの時間を2秒未満、好ましくは1秒以下とすることで、さらに捲取までの冷却を30℃/秒以上の速さで行うことにより発明の効果が顕著になる。また熱延時に潤滑を施すことでも本発明の効果はより顕著となる。
【0029】
熱延、酸洗後の冷間圧延工程における冷延圧下率は酸洗後、焼鈍前に行う一次冷延を70〜98%、焼鈍後に行う二次冷延を8〜70%とする。これら冷延率配分は冷延能力、一次冷延後の焼鈍工程での通板性確保などとの兼ね合いで決定される。特に最終製品厚が薄い場合に焼鈍時の板厚を厚く設定し焼鈍通板性を確保する目的で20%以上の高い二次冷延を施した鋼板において、顕著な効果が得られる。
【0030】
一次冷延の後、焼鈍するがこの温度は再結晶温度以上、800℃以下とし、時間は3分以下とする。材料特性の均一性、加工性を確保するためには圧延組織を十分再結晶させることが必要であり、また800℃を超えると熱延条件を制限した効果が消失するためである。
【0031】
これらの熱延条件の制御により2CR後の最終製品の硬質化が抑制される理由は熱延板時点での集合組織および結晶粒径の変化が寄与しているものと推測される。詳細は明確ではないが熱延により加工されたフェライト相において、加えられた歪量との関連で熱延板時点で特別な集合組織の集積を助長し、これが特に高い圧下率で冷延された場合、焼鈍後の2CR工程において加工硬化を抑制するような集合組織を形成させるようである。
【0032】
また、熱延板結晶粒径については例えば熱延仕上温度等を調整して加工されたフェライト粒を残存させ、さらに粒成長を抑制し25μm未満の微細粒を生成させることが製品板でのイヤリング低減に有利に働くようである。潤滑や仕上げ圧延後の水冷開始時間、冷却速度なども熱延での圧延による結晶回転および熱延での加工終了後の再結晶、粒成長を介して熱延板時点での好ましい組織の発達に寄与するものと予想される。
【0033】
通常、本発明鋼板は表面処理鋼板用の原板として使用されるが、表面処理により本発明の効果はなんら損なわれるものではない。缶用表面処理としては通常、錫、クロム(ティンフリー)などが施される。また、近年使用されるようになっている有機皮膜を貼ったラミネート鋼板用の原板としても発明の効果を損なうことなく使用できる。
【0034】
(実施例)
本発明の評価においては硬質化の程度を示す指標として、表面硬度HR30Tを使用する。
2CRを20%とした場合の硬度に及ぼすC量および熱延仕上げ温度の影響を図1に示す。C:0.01〜0.06%の範囲でFT<Ar3 とした本発明鋼(●印)が従来鋼(○印)と同じC量でも軟質であることがわかる。また、C量が本発明範囲内(●印)、以上(○印)、以下(△印)の3鋼種について2CRを20%とした場合の硬度への熱延仕上げ温度の影響を図2に示す。本発明範囲鋼が従来鋼に見られない特徴を示し軟質であることがわかる。また、硬度への2CR圧下率の影響を図3に示すが、2CRが8%以上の範囲(●印)で本発明の効果が得られることがわかる。
【0035】
さらに表1に示す各成分の鋼について熱間圧延、冷間圧延、焼鈍後、20%の2CRを施して鋼板を製造し、硬度を測定した。熱延は連続的に7パスで行いパス毎に温度を測定しAr3 変態温度以上または以下の温度域での圧下量を求めた。仕上げ温度は最終パスの出側温度とした。
【0036】
これらの鋼についての製造条件および材質を表2に示す。S,Pにも最適範囲があり、また仕上げ温度がAr3 変態温度以下の場合で、最終パス圧下量や潤滑圧延、仕上げ圧延後の冷却条件を制御することで2CRによる硬化が抑制されていることが確認できる。表2から明らかなように本発明の範囲内で製造することで従来例と同じ2CR率でも軟質な鋼板が得られている。尚粒径はASTM Designation E 112-82 で定義される公称粒径を用いた。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【発明の効果】
以上述べたごとく本発明によれば、焼鈍時の生産性を改善できる高2CR率によっても成形性が良好な軟質極薄容器用鋼板を製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】含有C量と硬度の関係を示す図である。
【図2】熱延仕上温度と高度の関係を示す図である。
【図3】2CR圧下率と高度の関係を示す図である。
Claims (2)
- 質量%で、
C :0.010〜0.060%、 S :0.005〜0.05%、
P :0.005〜0.08%、
を含有し、残部Feおよび不可避的不純物からなる鋼を熱間圧延する際に、最終仕上げ圧延がフェライト単相またはフェライト、オーステナイトの混相となる温度域で行い、最終1パスの圧下率が20%以上、仕上げ熱延終了後、水冷開始までの時間が2秒未満、捲取までの冷却を30℃/秒以上の速さで行い、熱延仕上げ後の捲取温度を650℃以下とし、冷間圧延前の組織において圧延組織を残存させ、酸洗した後、冷延圧下率70〜98%で冷間圧延し、再結晶温度以上800℃以下で3分以下の焼鈍を行い、その後さらに、冷延圧下率8〜70%で再冷延を行うことを特徴とする高加工性極薄軟質容器用鋼板の製造方法。 - フェライト単相またはフェライト、オーステナイトの混相域での熱延において潤滑を施しつつ圧延を行うことを特徴とする請求項1に記載の高加工性極薄軟質容器用鋼板の製造方法。
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