JP3646685B2 - スポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車用などに用いられる溶融亜鉛めっき鋼板に関し、特に、スポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】
亜鉛系めっき鋼板は、その優れた犠牲防食性のため自動車用防錆鋼板として国内外を問わず実用化されている。
なかでも、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板は製造コストが低廉で高耐食性を有することから、現在自動車用防錆鋼板の主流となっている。
【0003】
自動車製造工程で問題となる亜鉛系めっき鋼板の性能の一つとして、スポット溶接性が挙げられる。
周知のとおり、溶接性はめっき付着量と密接な関係があり、付着量低減により溶接性は改善される。
しかしながら、自動車用鋼板として十分な耐食性を確保するために必要なめっき付着量を付与しようと思えば、亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性はめっきのない冷延鋼板などとの比較で劣っている。
【0004】
亜鉛系めっき鋼板のスポット溶接性改善に関しては、従来から以下に示すようないくつかの提案がなされている。
例えば、特開昭63−230861号公報などには、亜鉛めっき鋼板の表面にZnO を主体とする酸化皮膜を付与することで、スポット溶接性を改善するという技術が開示されており、この他にも亜鉛系めっきの表層に酸化被膜を付与することでスポット溶接性を改善しようとする提案が多数開示されている。
【0005】
また、最近ではめっき最表層の金属Zn量、Al2O3 量を規定した特開平10−330902号公報などや、酸化膜量および酸化膜中のZn酸化膜量とAl酸化膜量との比を規定した特開2000− 73183号公報などが開示されている。
しかしながら、上記技術は主に合金化溶融亜鉛めっき鋼板を対象にした技術である。
【0006】
すなわち、同じ溶融系亜鉛めっき鋼板であっても、めっき層が主に純亜鉛層からなる溶融亜鉛めっき鋼板と、めっき層がZn-Fe 金属間化合物からなる合金化溶融亜鉛めっき鋼板とでは、そのスポット溶接時の溶接挙動が根本的に異なり、溶融亜鉛めっき鋼板の溶接性は、合金化溶融亜鉛めっき鋼板のそれに比べて著しく劣るという問題がある。
【0007】
一方、近年、従来問題であったドロスなどの外観品質上の問題が解決されつつあるため、従来自動車用防錆鋼板の主流であった合金化溶融亜鉛めっき鋼板に代わって、溶融亜鉛めっき鋼板が自動車用防錆鋼板として採用される機運が高まってきた。
溶融亜鉛めっき鋼板は、合金化処理を施さないため製造コスト的にも有利であり、今後の自動車用防錆鋼板としての需要の伸びが予想される。
【0008】
したがって、性能上の問題として溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性の改善が切望されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、前記した従来技術の問題点を解決し、スポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板およびその製造方法を提供することを目的とする。
【0010】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは前記した溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性改善に関して鋭意検討した結果、下記の知見(1) 、(2) 、(3)を得、本発明に至った。
(1) スポット溶接性の改善にはめっき層の性状の規定および鋼板の降伏応力の規定が非常に重要であり、▲1▼鋼板の降伏応力:YSと▲2▼めっき付着単位面積当たりのめっき付着量:Wおよび▲3▼めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:Xもしくはめっき/鋼板界面に存在するFe−Al金属間化合物中のAl量を除いためっき付着単位面積当たりのめっき層中のAl量:Yとの関係を規定することによって、スポット溶接性が著しく改善される。
【0011】
(2) 上記した規定に加えて、めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量(合計濃度)を規定することによって、さらにスポット溶接性が向上する。
(3) 上記(1),(2) に加えて、溶融亜鉛めっきの場合、 鋼板に1〜20ppm (:質量ppm )のBを添加するか、または0.010 〜0.050 %(:質量%)のPを添加することにより、著しく連続打点性を向上させることができる。
【0012】
すなわち、第1の発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) 、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)およびめっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:X(g/m2)が下記式(1) および(2) を満足することを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板である。
0.15≦〔YS/(5×W)〕−〔X/2〕………(1)
0.10≦X≦0.50 …………………………………(2)
第2の発明は、溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) 、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)、めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:X(g/m2)、および、めっき/鋼板界面に存在するFe−Al金属間化合物中のAl量を除いためっき付着単位面積当たりのめっき層中のAl量:Y(g/m2)が下記式(3) および(4) を満足することを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板である。
【0013】
0.30≦〔YS/(5×W)〕−〔Y/2〕………(3)
0.10≦X≦0.50 …………………………………(4)
前記した第1の発明、第2の発明においては、めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量が、0.02質量%以下(以下、本発明においては質量%をmass%と記す)であることが好ましい(第1の発明の好適態様、第2の発明の好適態様)。
【0014】
また、前記した第1の発明、第1の発明の好適態様、第2の発明、第2の発明の好適態様においては、めっき層中のFe含有量が、好ましくは5mass%以下、より好ましくは2mass%以下、さらに好ましくは1mass%以下であることが好ましい。
また、前記第1〜第2の発明(それぞれ好適態様も含む)においては、鋼板は、B:1〜20massppm および/またはP:0.010 〜0.050 mass%を含有するものであることが好ましい。
【0015】
第3の発明は、鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬後、引き上げてめっき付着量制御のためのガスワイピングを行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度:NAl(mass%)およびガスワイピング後のめっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)が下記式(5) を満足する条件下で鋼板に溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法である。
【0016】
0.12≦NAl≦YS/(10×W)……………………(5)
上記式(5) 中、
YS:得られる溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力(MPa)
を示す。
前記した第3の発明においては、溶融亜鉛めっき浴中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの濃度の合計量が、0.02mass%以下であることが好ましい(第3の発明の好適態様)。
【0017】
また、前記した第3の発明、第3の発明の好適態様においては、得られる溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層中のFe含有量が、好ましくは5mass%以下、より好ましくは2mass%以下、さらに好ましくは1mass%以下であることが好ましい。
また、前記第3の発明においては、鋼板は、B:1〜20massppm および/またはP:0.010 〜0.050 mass%を含有するものであることが好ましい。
【0018】
【発明の実施の形態】
以下、本発明をさらに詳細に説明する。
本発明者らは、前記課題を解決するために、溶融亜鉛めっき鋼板(:GI、非合金化溶融亜鉛めっき鋼板)のスポット溶接時の溶接点におけるめっき層の溶融状態および素地鋼板の機械的性質に着目して鋭意検討した結果、下記知見を見出し、本発明に至った。
【0019】
溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性を合金化溶融亜鉛めっき鋼板や電気Zn-Ni 合金めっき鋼板、電気Zn-Fe 合金めっき鋼板などの亜鉛系合金めっき鋼板と比較した場合、以下に示すような溶融亜鉛めっき鋼板特有のスポット溶接挙動が明らかになった。
すなわち、ウェルドローブを調査した結果、溶融亜鉛めっき鋼板の場合、合金化めっき、合金めっきに比べて、同一ナゲットを得るために必要な電流値が高く、適性溶接電流範囲が高電流側にシフトするという問題が生じる。
【0020】
このことはすなわち、高い電流値でスポット溶接しなければならないことを意味する。
したがって、連続打点溶接において、高電流での溶接が原因となって電極の損耗が早くなり、合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比べて連続打点性が劣るという問題を招く。
【0021】
この溶接電流値が高電流値側にシフトする原因は、下記の機構によるものと推定される。
図1(a) に、本発明者らが着目したスポット溶接時の溶接点におけるめっき層の溶融状態および素地鋼板同士の当接状態を、縦断面図によって示す。
また、図1(b) に溶融亜鉛めっき層の層構造を、縦断面図によって示す。
【0022】
なお、図1(a) において、1は素地鋼板(素材鋼板)、2は溶融亜鉛めっき層(以下、めっき層とも記す)、3は溶融した亜鉛、4は電極(溶接電極)、5は隙間、d1はスポット溶接時の両素地鋼板当接部の直径、d2はスポット溶接時の通電部の直径、Lは溶接点近傍の両素地鋼板間の距離を示す。
また、図1(b) において、1は素地鋼板、2は溶融亜鉛めっき層(:めっき層)、10はFe−Al金属間化合物であるFe−Al合金層、11はFe−Zn金属間化合物であるFe−Zn合金層、12はη相であるZn層を示す。
【0023】
なお、図1(b) におけるFe−Zn合金層11、Zn層12にはAlが含まれている。
すなわち、溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層2は純亜鉛が主体で融点が 420℃程度と低いため、スポット溶接性時には通電後ただちに融解する。
この時、加圧された電極4で挟まれた鋼板間の密着部周辺の隙間5は溶融した亜鉛3で埋まることになる。
【0024】
電極4による加圧部周辺の隙間5の間隔、すなわち溶接点近傍の両素地鋼板間の距離Lが大きい場合には、溶融亜鉛の周囲への広がりはさほど大きくないが、隙間5が狭い場合には毛細管現象で溶融亜鉛は周囲に広がることになる。
この場合、結果的に通電面積が広がり、めっき層が高融点なため隙間5に溶融亜鉛が広がりにくい合金化溶融亜鉛めっきに比べ溶接電流密度が低下する。
【0025】
したがって、溶融亜鉛めっき鋼板の場合、同じナゲット径を得るのに必要な電流値は、合金化溶融亜鉛めっきに比べて高くなる。
さらに、上記した理由で、連続打点性も合金化溶融亜鉛めっき鋼板に比べ劣るようになる。
本発明者らは、上記した溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性の劣化機構に基づき、溶接性を改善するための方針として下記(1) 、(2) に想到した。
【0026】
(1) 電極加圧部周囲の鋼板間の隙間5をできるだけ大きくする。
(2) 隙間5に入り込んだ溶融亜鉛の周囲への拡散を防ぐ。
上記方針に基づき、めっき層性状、鋼板性状と溶接性との関係について鋭意検討した結果、上記(1) の観点から、溶融亜鉛めっき鋼板の機械的特性、特に溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YSを規定し、さらに上記(2) の観点から、周囲に流れ出る亜鉛の絶対量および亜鉛の濡れ性を制御することによって、またさらに鋼板にBおよび/またはPを添加することによって、溶融亜鉛めっき鋼板であっても良好なスポット溶接性を確保することが可能であることが明らかになった。
【0027】
また、溶融亜鉛の電極加圧部から周囲への拡散を抑制する場合、亜鉛の濡れ性が悪い方が有利であり、このためには、めっき層中のAl量、特に溶融亜鉛中に固溶しているAl量を少なくする必要があることを見出した。
この理由は、溶融亜鉛に固溶しているAlが、めっき表面に存在している酸化物を還元し、濡れ性を向上させるためであると考えられる。
【0028】
しかし、一方では、めっき層の密着性を確保するために、一定量以上のAl添加が必要である。
さらに、同様の考え方で、通常、溶融亜鉛めっき時にめっき浴に含有されることの多いPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnに関して、めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を0.02mass%以下と規制することが極めて有効であることが分かった。
【0029】
すなわち、本発明は、溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性を改善するために、溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力をできるだけ上げ、めっき付着量を所定必要量まで低減させ、かつ、めっき層中のAl量も可能な限り下げ、さらに好ましくは、溶融亜鉛の濡れ性を良好にするめっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を規制するものである。
【0030】
さらに、上記した溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力、めっき付着量およびめっき層中Al量の規定は独立でなく、下記式(1) または(3) かつ式(2)[式(4)]で与えられる関係を満足することが必要であることが明らかとなった。
0.15≦〔YS/(5×W)〕−〔X/2〕………(1)
0.10≦X≦0.50……………………………………(2)[(4)]
0.30≦〔YS/(5×W)〕−〔Y/2〕………(3)
なお、上記式(1) 〜(4) 中、
YS:溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力(MPa)
W:めっき付着単位面積当たりのめっき付着量(g/m2)
X:めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量(g/m2)
Y:めっき/鋼板界面に存在するFe−Al金属間化合物中のAl量を除いためっき付着単位面積当たりのめっき層中のAl量(g/m2)
を示す。
【0031】
上記した式(1) 中の{〔YS/(5×W)〕−〔X/2〕}が0.15未満の場合、または式(3) 中の{〔YS/(5×W)〕−〔Y/2〕}が0.30未満の場合、スポット溶接性が低下する。
なお、式(1) および式(3) の右辺に対して特に上限は定めない。
何故ならば、素地鋼板(素材鋼板)により様々にYSは変化するからである。
【0032】
また、式(2)[(4)]中のXが0.10以上かつ0.50以下の範囲に、めっき密着性とスポット溶接性の両方が良好となる領域がある。
さらに、本発明によれば、溶融亜鉛の濡れ性を向上させるめっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を0.02mass%以下に規制することによって、スポット溶接性向上効果がより効果的に発現することが明らかとなった。
【0033】
すなわち、本発明によれば、めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を0.02mass%以下に規制することによって、スポット溶接性向上効果を安定して得ることができる。
なお、本発明においては溶融亜鉛めっき鋼板の溶融亜鉛めっき層中のFe含有量が好ましくは5mass%以下、より好ましくは2mass%以下、さらに好ましくは1mass%以下であることが好ましい。
【0034】
これは、前記した合金化溶融亜鉛めっき鋼板のように、めっき層中のFe含有量が5mass%を超える場合、めっき密着性を低下させるFe−Zn合金層の成長によって、プレス成形時のめっき密着性が低下するためである。
本発明の溶融亜鉛めっき鋼板のめっき付着量は、要求される耐食性に従って定めることができ、特に制限を受けるものではないが、めっき付着量が、鋼板片面当たり、すなわち、めっき付着単位面積当たり20〜300g/m2 であることが好ましく、さらには20〜100g/m2 であることがより好ましい。
【0035】
これは、めっき付着量が20g/m2未満の場合、耐食性が低下し、300g/m2 を超える場合、耐食性向上効果が実用上飽和し経済的でないためである。
前記した本発明の溶融亜鉛めっき鋼板を得るための製造方法としては、通常の連続溶融亜鉛めっきラインにおいて、溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度:NAl(mass%)を、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量(ガスワイピングによるめっき付着量制御後のめっき付着量):W(g/m2)および溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) との関係において、下記式(5) なる関係を満足することが必要になる。
【0036】
0.12≦NAl≦YS/(10×W)………(5)
めっき浴に溶解しているAlの濃度:NAlの上限値は、前記したように、良好なスポット溶接性を確保するために、めっき付着量:W(g/m2)および溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) との関係において制約されるめっき層中のAl量を制御するために規定されるものである。
【0037】
また、その下限値は、めっき密着性の観点から規定され、溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度:NAl(mass%)がこの値より小さくなると、めっき密着性が著しく低下する。
なお、上記した本発明の溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法においては、素材鋼板の降伏応力、ガスワイピングによるめっき付着量制御および溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度などに基づいて、溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度:NAl(mass%)、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量(ガスワイピングによるめっき付着量制御後のめっき付着量):W(g/m2)および溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) が前記式(5) なる関係を満足するように制御することができる。
【0038】
さらに、本発明においては、溶融亜鉛の濡れ性を向上させるめっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を0.02mass%以下に規制することによって、スポット溶接性向上効果がより効果的に発現するため、溶融亜鉛めっき浴中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの濃度の合計量を、0.02mass%以下に規制することが好ましい。
【0039】
なお、上記した本発明においては、前記したと同様の理由で、得られる溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層中のFe含有量が、好ましくは5mass%以下、より好ましくは2mass%以下、さらに好ましくは1mass%以下であることが好ましい。
以上、本発明について述べたが、前記したように本発明においては溶融亜鉛めっきの濡れ性の観点から、めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量を規制し、そのために製造時の溶融亜鉛めっき浴中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの濃度の合計量を規制することが好ましいが、その他の元素、例えば溶融亜鉛めっき鋼板の耐食性向上を目的として添加されるMg、Cr、Mn、CoおよびNiなどの元素はこれを制限するものでなく、めっき層中にこれらの元素を1種または2種以上含有した溶融亜鉛めっき鋼板も本発明の溶融亜鉛めっき鋼板に包含される。
【0040】
なお、前記した式(1) および(3) における考察では、めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:X(g/m2)には制限を設けていない。
しかし、Xが0.10g/m2未満では、めっき密着性が著しく劣り、また、Xが0.50g/m2を超えると固溶しているAl量が過大となり溶接は不可能である。
したがって、Xは前記式(2) 〔(4) 〕を満たす必要がある。
【0041】
また、本発明においては素材鋼板の鋼種も特に制限を受けるものではなく、溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YSが前記した式(1) または式(3) を満足していれば、それ以外の機械的特性、鋼中成分、製造方法などは特に制限を受けるものではないが、好ましいのは、鋼板に、B:1〜20massppm および/またはP:0.010 〜0.050 mass%を含有させることである。
【0042】
本発明で好ましい鋼中成分としてBおよびPを規定した理由は、 以下による。上述のように、スポット溶接時に溶接電流密度を確保して溶接できるようにするためには、 鋼板間での溶融亜鉛の広がりを極力抑制する必要があり、そのために加圧部周囲の鋼板間の隙間をできるだけ広くする必要がある。この場合、特に重要となる鋼板側の特性として、溶接時に鋼板がさらされる温度での強度、いわゆる高温強度が挙げられる。すなわち、この高温強度が高ければ溶接時の溶融亜鉛の広がりは抑制され、良好な溶接性が確保できる。本発明では、素材のもともとの機械的性質を損なわずに高温強度を確保するためには、鋼中に所定量のBおよび/またはPを添加することが極めて有効であることが判明した。すなわち、鋼中へ1〜20massppm のBおよび/または0.010 〜0.050mass %のPを含有させることにより溶融亜鉛めっき鋼板の連続打点性が著しく向上することが明らかになった。含有させるBが1massppm 未満では連続打点性改善効果が不十分であるからであり、また20massppm 超では該効果が飽和するためコスト的に不利になるからである。また、含有させるPが0.010mass %未満では連続打点性改善効果が不十分であるからであり、また0.050mass %超では該効果が飽和するのみならず素材の十分な加工性を確保するのが困難となるからである。
【0043】
なお、素材鋼板としては、上記Bおよび/またはPに加え、C:0.0010〜0.0050mass%、Si:0.005 〜0.050mass %、Mn:0.01〜1.0mass %、Al:0.02〜0.05mass%、Ti:0.0001〜0.10mass%、Nb:0.0001〜0.05mass%を含有し、残部鉄および不可避的不純物からなるものが好ましい。その理由は以下のとおりである。
C:0.0010〜0.0050mass%
本発明品は主に自動車のパネル類を対象としたものである。周知のとおり、近年自動車のパネルには良好な加工性、特に複雑な形状にも加工できるような深絞り性が要求されている。このような加工性を確保するためには、C量は0.0050mass%以下にすることが好ましい。また、下限は該効果とコストとの関係で決定されるが、0.0010mass%以上とすることが好ましい。
【0044】
Si:0.005 〜0.050mass %
Siは、0.050mass %を超えるとめっき性が劣化する傾向があり、0.050mass %以下とすることが好ましい。また、下限は該効果とコストとの関係で決定されるが、0.005 mass%以上とすることが好ましい。
Mn:0.01〜1.0mass %
Mnは、r値の低下と耐食性の観点から1.0 mass%以下とすることが好ましい。また、下限は該効果とコストとの関係で決定されるが、0.01mass%以上とすることが好ましい。
【0045】
Al:0.02〜0.05mass%
Alは脱酸剤として0.02mass%以上の添加が好ましい。また、多すぎると介在物が増加するため0.05mass%以下とすることが好ましい。
Ti:0.0001〜0.10mass%
Tiは鋼中の有害物であるNをTiN として固定させるために0.0001mass%以上添加することが好ましい。また、多すぎるとTiC が増え加工性を劣化させるので、0.10mass%以下とすることが好ましい。
【0046】
Nb:0.0001〜0.05mass%
NbはNbC として熱延中に熱延結晶粒を制御するためとCを固定させるために0.0001mass%以上添加することが好ましい。また、添加しすぎると微細析出物としてr値を低下させるため、0.05mass%以下とすることが好ましい。
【0047】
【実施例】
以下、本発明を実施例に基づいてさらに具体的に説明する。
(実施例1〜15、比較例1〜6)
表1に示す組成になる極低炭素冷延鋼板を素材とし、表2に示すめっき条件で連続溶融亜鉛めっきラインで溶融亜鉛めっきを施した。
【0048】
次に、得られた溶融亜鉛めっき鋼板のめっき層に関して、めっき層を5mass%塩酸に溶解し、溶解液を誘導結合プラズマ発光分光分析装置(ICP )を用いて分析し、めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量並びにめっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量(合計濃度)およびFe含有量(Fe濃度)を求めた。
【0049】
また、めっき鋼板を発煙硝酸に浸漬させ、純亜鉛層およびZn−Fe合金層を溶解し、めっき/鋼板界面に存在するFe−Al金属間化合物のみを残存させた状態とした後、Fe−Al金属間化合物を上記と同様に5mass%塩酸に溶解し、溶解液を ICPで分析し、Fe−Al金属間化合物中のめっき付着単位面積当たりのAl量を定量した。
【0050】
表1に、上記で得られためっき層性状および溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YSの測定結果を示す。
また、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、下記に示す溶接条件でスポット溶接性の調査を行い、板厚:t(mm)に対して 4.5×(t1/2 )で示されるナゲット径が得られる電流値:I0(kA) および連続打点数の調査を行った。
【0051】
なお、連続打点性調査における溶接電流値は、4×(t1/2 )で示されるナゲット径が得られる電流値:I1(kA) および最小の溶着電流値:I2(kA) の平均値を用いた。
(スポット溶接条件:)
電極;DR型、先端径: 6.0mmφ、先端曲率半径:40mm、外径:16mmφ、材質:Cu−Cr
溶接条件;通電時間:10サイクル、加圧力:1960N(200kgf)
加圧条件;通電前:30サイクル、通電後:7サイクル
アップスロープ、ダウンスロープ無し
連続打点溶接速度:1点/2秒
表2に、上記で得られたスポット溶接性の調査結果を示す。
【0052】
さらに、得られた溶融亜鉛めっき鋼板に対して、下記に示す条件でデュポン衝撃試験を行い、めっき密着性を評価した。
(めっき密着性評価方法:)
デュポン衝撃試験の条件;
荷重: 9.8N(1kgf)、落重高さ:100cm 、ポンチ径:6.35mm(1/4 inch)
溶融亜鉛めっき鋼板のデュポン衝撃試験後、凸部に対してセロハンテープ剥離を行いめっき剥離量に応じて評点を1〜5とした。
【0053】
評価方法は、テープにより剥離しためっき層について、面積100mm2あたりの亜鉛の蛍光X線カウントを測定してカウント数(cps )が 100未満を評点5、 100以上、 200未満を評点4、200 以上、 300未満を評点3、300 以上、 400未満を評点2、400 以上を評点1とした。
すなわち、めっき剥離の無いものが評点5で、評点1になるに従いめっき剥離量が多くなる。
【0054】
表2に、上記で得られめっき密着性の評価結果を示す。
(比較例7〜9)
表1に示す組成になる極低炭素冷延鋼板を素材とした合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板および電気Zn−Fe合金めっき鋼板に関して前記した方法と同様の方法でスポット溶接性、めっき密着性を評価した。
【0055】
表3に、得られた評価結果を示す。
表2および表3に示すように、溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量およびめっき付着単位面積当たりのめっき層中Al量の3者を規定し、またはさらにBおよび/またはP所定量含有する鋼板を用いた本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、従来の溶融亜鉛めっき鋼板に比べて優れたスポット溶接性を有する。
【0056】
また、本発明の溶融亜鉛めっき鋼板は、優れたスポット溶接性を有すると共に、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、電気Zn−Ni合金めっき鋼板および電気Zn−Fe合金めっき鋼板に対して、優れためっき密着性を有する。
【0057】
【表1】
【0058】
【表2】
【0059】
【表3】
【0060】
【表4】
【0061】
【発明の効果】
本発明によれば、従来問題となっていた溶融亜鉛めっき鋼板のスポット溶接性の問題を解決し、スポット溶接性およびめっき密着性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板を提供することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【図1】スポット溶接時の溶接点におけるめっき層の溶融状態および素地鋼板同士の当接状態を示す縦断面図(a) 並びに溶融亜鉛めっき層の層構造を示す縦断面図(b) である。
【符号の説明】
1 素地鋼板(素材鋼板)
2 溶融亜鉛めっき層(:めっき層)
3 溶融した亜鉛
4 電極(溶接電極)
5 隙間
10 Fe−Al金属間化合物(:Fe−Al合金層)
11 Fe−Zn金属間化合物(:Fe−Zn合金層)
12 η相(:Zn層)
d1 スポット溶接時の両素地鋼板当接部の直径
d2 スポット溶接時の通電部の直径
Claims (7)
- 溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) 、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)およびめっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:X(g/m2)が下記式(1) および(2) を満足することを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板。
記
0.15≦〔YS/(5×W)〕−〔X/2〕………(1)
0.10≦X≦0.50 …………………………………(2) - 溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力:YS(MPa) 、めっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)、めっき付着単位面積当たりのめっき層中の総Al量:X(g/m2)、および、めっき/鋼板界面に存在するFe−Al金属間化合物中のAl量を除いためっき付着単位面積当たりのめっき層中のAl量:Y(g/m2)が下記式(3) および(4) を満足することを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板。
記
0.30 ≦〔YS/(5×W)〕−〔Y/2〕……(3)
0.10 ≦X≦0.50 ………………………………(4) - めっき層中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの合計量が、0.02mass%以下であることを特徴とする請求項1または2記載のスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板。
- 前記鋼板は、B:1〜20massppm および/またはP:0.010 〜0.050 mass%を含有する請求項1〜3のいずれかに記載のスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板。
- 鋼板を溶融亜鉛めっき浴に浸漬後、引き上げてめっき付着量制御のためのガスワイピングを行う溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法において、溶融亜鉛めっき浴中の溶解Al濃度:NAl(mass%)およびガスワイピング後のめっき付着単位面積当たりのめっき付着量:W(g/m2)が下記式(5) を満足する条件下で鋼板に溶融亜鉛めっきを施すことを特徴とするスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
記
0.12≦NAl≦YS/(10×W)……………………(5)
上記式(5) 中、
YS:得られる溶融亜鉛めっき鋼板の降伏応力(MPa)
を示す。 - 溶融亜鉛めっき浴中のPb、Sb、Bi、As、CdおよびSnの濃度の合計量が、0.02mass%以下であることを特徴とする請求項5記載のスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
- 前記鋼板は、B:1〜20massppm および/またはP:0.010 〜0.050 mass%を含有する請求項5または6に記載のスポット溶接性に優れた溶融亜鉛めっき鋼板の製造方法。
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