実施の形態を示す前に、本願発明者らが本願発明を完成させるに至った経緯を示す。
まず、窒化物系化合物半導体素子の従来の作製方法における課題を以下に列挙する。
結晶成長後、特別な雰囲気で冷却することにより、結晶に与えられるダメージを最小限に抑えた低抵抗のp型窒化物系半導体を得ることができる。この場合、ポストアニーリング処理を施す必要はないが、p型窒化物系半導体を十分に活性化させるためには、数時間の冷却工程が必要であり、そのために、素子プロセス工程に要する時間は、ポストアニーリング処理を施した場合よりもむしろ長くなる。
また、上述の冷却工程を施す場合には、結晶中から水素を解離させるために長時間を要する。そのため、表面近傍における窒素抜けが顕著になり、その結果、面内の均一性が低下し、接触抵抗が増加する領域が不均一に発生するという問題が起こった。接触抵抗が増加してしまうと、窒化物系半導体発光素子の電気特性の悪化を招来し、さらにその増加が面内で不均一に発生してしまうと、レーザ素子の生産性を低下させることがある。以上より、特殊な冷却工程を施した場合には、素子特性及び生産性の悪化を招来してしまう。
なお、素子特性は、光学特性や電気特性等等の光学素子の特性である。光学特性は、受発光された光の波長や、その光の強度等に関する特性である。電気特性は、各半導体層における抵抗値や正孔濃度等に関する特性である。そして、これらの物理量を所望の値にしたり、これらの物理量のばらつきを小さくすれば、素子特性を向上させることができる。
また、生産性は、半導体素子の生産歩留まりである。
一方、ポストアニーリング処理は水素の脱離にとって非常に効果的な手法であるが、ポストアニーリング処理を施して窒化物系化合物半導体発光素子として十分な素子特性を引き出すためには、高温処理と長時間の処理とが必要となる。その結果、活性層には熱劣化が加わるため、素子特性の低下が懸念される。
また、ポストアニーリング処理を行う際に、適当な表面処理を施すことなくポストアニーリング処理を行えば、表面モフォロジーの悪化を招き、その結果、電気特性の劣化を招く。良好な表面モフォロジーを維持しながら低抵抗なp型窒化物半導体層を実現させる方法があるが、最適なプロセス条件の範囲は非常に狭い。以上より、ポストアニーリング処理を施す場合であっても、素子特性及び生産性の悪化を招来してしまう。そのため、素子特性や生産性を悪化させることなく、再現性及び均一性良く窒化物系化合物半導体素子を製造することが要求されていた。
なお、再現性が良いとは、例えば、同一の作製条件で複数個の半導体素子を作製した場合に、全ての半導体素子の素子特性が実用可能な程度に優れていることを意味する。
また、均一性が良いとは、例えば、各半導体層の面内における組成比等の物性が略均一であることを意味する。
本願発明者らは、窒化物系化合物半導体素子の量産化に向けて鋭意開発を進め、その素子構造や素子特性、特に電気特性及び信頼性特性に関して詳細に検討した。その結果、p型クラッド層におけるMg濃度及び水素濃度とp型キャップ層におけるMg濃度及び水素濃度とによって、窒化物系半導体発光素子の素子特性が大きく左右されることを明らかとした。
具体的には、p型クラッド層におけるMg濃度及び水素濃度とp型キャップ層におけるMg濃度及び水素濃度とは、結晶成長条件や結晶成長後の冷却条件に加え、その後の素子プロセス工程(ポストアニーリング処理やプラズマ処理など)によっても変動する量であり、容易に不均一性を引き起こしやすく、その結果、素子特性の再現性、均一性の低さに影響を与えていることが判明した。そして、種々の検討の結果、これらのMg濃度及び水素濃度のばらつきを抑制低減し、かつ優れた素子特性を有する窒化物系半導体発光素子を再現性、均一性良く作製するためには、上述の特殊な冷却工程や上述のポストアニーリング処理を実施しない方が望ましいことがわかった。
以下に、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されない。
(実施の形態1)
以下、図面を参照しながら、本発明による窒化物系半導体レーザ素子(窒化物系化合物半導体素子)の第1の実施形態を説明する。本発明の説明において、その製造方法として、窒化物系半導体の成長方法で最も良く用いられるMOVPE法(MOCVD法と同義で取り扱う)を取り上げるが、MOVPE法に限定するものではなく、ハイドライド気相成長法(HVPE法)や分子線エピタキシー法(MBE法)等の化合物半導体結晶を成長させるためにこれまで提案されている全ての方法を適用できる。
なお、以下において、「基板」は、n−GaN等の窒化物系化合物半導体からなる基板であり、表面(上面)に別の窒化物系化合物半導体層(半導体層)を結晶成長させるための基板である。「積層体」は、基板に複数の窒化物系化合物半導体層が積層されてなる。「ウェハー」は、「積層体」に対して後述の冷却工程及び放冷工程が施されたものであり、ストライプ状に加工する前の積層体である。「窒化物系半導体レーザ素子」は、ストライプ状に加工された「ウェハー」にn電極及びp電極が設けられたものであり、所定値以上の電圧を印加することにより所定の波長値の光を発振させるものである。
また、基板の表面は、別の窒化物系化合物半導体層を結晶成長させるための面であり、例えば、図1では基板の上面である。一方、基板の裏面は、基板の表面とは反対側の面であり、例えば、図1では基板の下面である。ウェハーの表面は、電極を形成するための面であり、例えば、図1ではウェハーの上面である。一方、ウェハーの表面は、ウェハーの表面とは反対側の面であり、例えば、図1ではウェハーの下面である。
本発明では、HVPE法やMOVPE法などの気相成長法、液相成長法(LPE法)または昇華法によって形成された低貫通転位密度(貫通転位密度が3×106cm-2程度)のn−GaN基板101を使用する。n−GaN基板101には、シリコン(Si)、酸素(O)、ゲルマニウム(Ge)及びセレン(Se)などドナー性不純物が少なくとも1種類以上含まれており、かつ、それらのうちで導電性に寄与する主要な不純物の濃度が5×1017cm-3〜1×1019cm-3である。これにより、n−GaN基板101は、低抵抗なn型導電性を示している。また、得られた自立基板(n−GaN基板)は、表面がある程度平坦であり、膜厚がほぼ均一であればエピ直後の状態で使用しても良い。もちろん研磨、ウェットエッチング、ドライエッチング及び熱処理などの加工を施して平坦化や膜厚の均一化の処理を施しても良い。好ましくは、自立基板は、表面の面粗さ(Ra)が5nm以下であり、膜厚が平均膜厚に対して±10μm以下となるように形成されている。また、基板の膜厚は、厚くなりすぎると作製にコストがかかり、薄すぎるとハンドリングが困難となるため、350μm〜450μmが好ましく、基板の膜厚の違いによる活性層のバンドギャップエネルギーの変化を抑制するためには素子作製においてはできるだけそろった膜厚の基板を使用することがより好ましい。
次に、作製した窒化物系半導体レーザ素子について説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る窒化物系半導体レーザ素子の断面構造を示している。ここでは、窒化物系半導体レーザ素子の作製方法を説明することにより、その窒化物系半導体レーザ素子の構成を示すこととする。結晶成長にはMOVPE法を用いている。成長圧力は、大気圧以下の減圧、大気圧(1atm)及び大気圧以上の加圧のいずれでも良く、各層において最適な圧力に切りかえても良い。また、原料を基板に供給するためのキャリアガスは、少なくとも窒素(N2)または水素(H2)などの不活性ガスを含むガスで供給される。以下に結晶成長プロセスを示す。
まず、n−GaN基板101の表面を有機溶剤及び酸によって清浄化した後、そのn−GaN基板101をサセプター上に設置し、キャリアガスとしてN2を用い、充分にN2で置換する。N2置換が終了した後、N2雰囲気中、10℃/10秒の昇温レートで1000℃まで昇温した後、キャリアガスをH2とN2との混合ガスに切り替え、同時にアンモニア(NH3)を供給し、例えば15分間、基板表面のクリーニングを行う。
次に、トリメチルガリウム(TMG)とモノシラン(SiH4)とを結晶成長用装置に供給し、(V族)/(III族)=6000の条件下で、n−GaN基板101の表面上に1.0μm厚のn−GaN層102を成長させる。
引き続いて、トリメチルアルミニウム(TMA)を結晶成長用装置に加え、n−GaN層102の表面上に1.2μm厚のn−Al0.05Ga0.95Nクラッド層(n型クラッド層)103を成長させる(第1積層工程)。
続いて、TMAの供給を停止して、n−Al0.05Ga0.95Nクラッド層103の表面上にn−GaN光ガイド層104を0.1μm成長させる。
n−GaN光ガイド層104成長後、キャリアガスをN2のみに変えNH3の供給を停止し、成長温度を800℃まで降温する。成長温度が800℃で安定すると、まず、NH3を供給し、次に、TMGとトリメチルインジウム(TMI)とを供給して、(V族)/(III族)=30000の条件下で、n−GaN光ガイド層104の表面上にGa0.90In0.10N/Ga0.98In0.02N−量子井戸活性層(以下、単に、「活性層」と記す)105を成長させる(第2積層工程)。Ga0.90In0.10N井戸層の層厚は5nmであり、Ga0.98In0.02N障壁層の層厚は6nmであり、井戸層数は2である。なお、活性層105には、意図的なドーピングはしていない。
引き続いて、活性層105の表面上に25nm厚のノンドープGa0.98In0.02N第1光ガイド層106を成長させ、ノンドープGa0.98In0.02N第1光ガイド層106の表面上に50nm厚のノンドープGaN第2光ガイド層107を成長させ、いったんTMGの供給を停止する。
その後、N2とNH3とを供給した状態ですばやく1000℃まで昇温し、成長温度が1000℃に到達後、キャリアガスを再びN2とH2との混合ガスに変更して、N2とH2とNH3とを供給した状態にする。そして直ちにTMGとTMAとを供給して、(V族)/(III族)比=8000の条件下で、ノンドープGaN第2光ガイド層107の表面上に10nm厚のノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層108を成長させる。
その後、ビスシクロペンタジエニルマグネシウム(Cp2Mg)をMg原料として、ノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層108の表面上にp−Al0.20Ga0.80N電子ブロック層109を10nm成長させる。その後、p−Al0.20Ga0.80N電子ブロック層109の表面上に、0.5μm厚のp−Al0.05Ga0.95Nクラッド層(p型クラッド層)110及び60nm厚のp−GaNキャップ層(p型キャップ層)111を順次積層し、TMGとCp2Mgとの供給を停止する(第3積層工程)。これにより、積層体を作製することができる。
p−GaNキャップ層111の形成終了後、5秒間、N2とH2とNH3とが供給された状態で、成長温度の1000℃を維持する。1000℃での維持は、次に示す理由から、行っている。すなわち、p−GaNキャップ層111には、p電極112とのキャップ抵抗低減のために、Mgが1.5×1020以上cm-32.5×1020cm-3以下含まれるが、結晶成長終了後、直ちに降温、冷却すると、リアクター中に残存した未反応のCp2MgからMgが供給され、p−GaNキャップ層111表面に金属Mgが析出して電気特性を低下させてしまう。これを防止するために上記の維持時間を設けている。
その後、H2とNH3との供給を停止する一方N2の供給を継続させて、キャリアガスとしての総流量が減少しないようにN2の供給量を増加して、積層体をすばやく500℃以下まで冷却、降温する(冷却工程)。冷却に要する時間は7分以下とする。この理由については後述する。
そして、温度が500℃以下に到達したら、引き続き室温程度まで自然冷却する(放冷工程)。室温付近まで冷却するときのN2の供給量は、500℃以下にまで冷却するときのN2供給量と同じでも増減しても構わず、効率良く無駄なく冷却できる条件であれば何でも良い。なお、このレーザ構造において、p−Al0.20Ga0.80N電子ブロック層109は、活性層105に注入された電子のオーバーフローの抑制を目的に形成されている。これにより、ウェハーを作製することができる。
ウェハーの作製後は、p−Al0.20Ga0.80N電子ブロック層109、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110及びp−GaNキャップ層111をストライプ状にそれぞれ加工する。このとき、ストライプ幅は、1.5以上1.8μm以下程度であることが好ましい。その後、絶縁膜であるSiO2絶縁膜114をストライプの側端及びノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層108の上面に被覆させて、電流注入領域を形成する。
その後、p−GaNキャップ層111の上面とストライプの側端に被覆されたSiO2絶縁膜114の表面とには、p電極112を設ける。また、n−GaN基板101を研磨して厚みを80μm程度とし、研磨後、n−GaN基板101の裏面にn電極113を設ける。これにより、図1に示す窒化物系半導体レーザ素子100を製造することができ、その共振器長は600μmである。
このような窒化物系半導体レーザ素子100では、p電極112とn電極113との間に電圧を印加すると、正孔がp電極112から活性層105へ注入され電子がn電極113活性層105へ注入される。これにより、活性層105で利得を生じて、406nmの波長でレーザ発振を起こす。
なお、上述の窒化物系半導体レーザ素子100では、GaN第2光ガイド層107を成長した後、Al0.01Ga0.99N第3光ガイド層108を成長するまでの間に、いったんTMGの供給を停止して、N2とNH3とを供給した状態ですばやく昇温し、かつ途中でキャリアガスをN2とH2との混合ガスに変更しているが、もちろんTMGの供給を停止せず、TMGを供給したままGaN第2光ガイド層107の結晶成長を続けながら昇温しても良い。また、TMGとTMAとを供給してAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層108の結晶成長をしながら昇温しても良く、結晶中に非発光再結合中心の原因となるような欠陥が生成されない方法であればどのような昇温方法でも構わない。
また、ノンドープAl0.01Ga0.99N第3光ガイド層108、p−Al0.20Ga0.80N電子ブロック層109、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110及び60nm厚のp−GaNキャップ層111を積層する際の温度は、1000℃に限定されることはなく、900℃以上1100℃以下の温度であればよい。
また、冷却工程では、積層体を500℃にまで冷却させるとしたが、積層体を450℃以上550℃以下の温度にまで冷却させればよい。
続いて、p−GaNキャップ層111形成後の冷却工程に関して説明する。図2は、上述の窒化物系半導体レーザ素子100と同じ結晶成長用装置を用いて作製したp型層評価用試料200の断面模式図である。このp型層評価用試料200は、n−GaN基板201上に、(V族)/(III族)=6000の条件下で2.0μm厚のノンドープGaN層202を成長させ、ノンドープGaN層202上に、(V族)/(III族)=8000の条件下で0.8μm厚のp−GaN層(p型クラッド層)203及び60nm厚のp−GaNキャップ層(p型キャップ層)204をこの順に成長させてなる積層体である。ここで、ノンドープGaN層202は、抵抗率が1×105Ωcm以上の高抵抗層であり、ホール測定による電気特性評価時にn−GaN基板201の影響を抑制するために形成されている。Mg濃度は、p−GaN層203では1.5×1019cm-3であり、p−GaNキャップ層204では2.0×1020cm-3である。
このようなp型層評価用試料200を作製する従来方法は、p−GaNキャップ層204を形成後、p−GaNキャップ層204の形成温度で一定時間(5秒程度)維持させ、その後、H2とNH3との供給を停止して、室温付近に至るまで自然冷却で降温させるというものであった。この場合、p−GaNキャップ層204の形成温度(約1000℃)から500℃まで冷却させるために要する時間は約15分である。この従来方法を用いてp型層評価用試料200を作製すると、結晶成長直後のp−GaN層203における水素濃度は、約2.5×1019cm-3であり、同層におけるMg濃度よりも若干多かった。また、p型層評価用試料200の電気特性を調べたところ、抵抗率が約6Ωcmであり、正孔濃度が約1.2×1017cm-3である抵抗の高いp型層であった。
本願発明者らは、p−GaNキャップ層204の形成後の冷却工程を検討した。なお、検討した冷却工程では、H2とNH3との供給を停止しているだけであり、真空排気や配管のN2パージなどの処理を実施していない。そのため、冷却工程中のリアクター内には若干量のH2とNH3とが若干残存する。よって、冷却工程中のリアクター内では、完全なN2雰囲気を実現しているわけではないが、このような状況下であっても結晶成長直後にp型層を実現できた。
また、p型層(p−GaN層203及びp−GaNキャップ層204)を形成する場合には、N2及びH2のキャリアガスとNH3との混合ガス雰囲気中で行った。具体的には、キャリアガスにおけるN2とH2との混合比率を約1:1とした。このとき、キャリアガスをH2のみとすると、(この場合には冷却時にH2キャリアガスとN2キャリアガスの切り替えを行っている)結晶成長後の状態では再現性良くp型化することができず、高抵抗のn型伝導性を示す場合もあった。一方、キャリアガスをN2のみとすると、結晶成長直後の状態でp型化されていたが、ポストアニーリング処理を実施しても抵抗率が約2Ωcmであり、正孔濃度が約5.0×1017cm-3である比較的抵抗の高いp型伝導性を示した。これは、キャリアガスとしてN2ガスのみを用いることにより、窒化物系化合物半導体の結晶性が低下してしまっているためであると考えられる。以上の結果から、低抵抗のp型窒化物半導体を形成する場合には、キャリアガスとしてN2とH2との混合キャリアガスを用いる方が望ましい。
さらに、p−GaN層に関しては、従来より、ポストアニーリング処理の検討を含め、数多くの検討を行っており、p−GaN層203のMg濃度を1.0×1019cm-3から3.0×1019cm-3として、最適と考えられる条件で活性化のためのポストアニーリング処理を施すことで、正孔濃度を1.0×1018cm-3から2.2×1018cm-3とできることがわかっている。このときのMg濃度に対する正孔濃度をアクセプター不純物であるMgの活性化率として定義すると約7%から10%であり、最も活性化率が高くなり、低い抵抗率も得られる。このため、窒化物系半導体レーザ素子のp型クラッド層には、Mg濃度を1.0×1019cm-3から3.0×1019cm-3とすることが好ましい。
このように作製したp型層評価用試料200に対してp−GaN層203中の水素濃度が変化するように、異なる条件で活性化のためのポストアニーリング処理を行った場合の、水素濃度に対する抵抗率と正孔濃度の関係を図3に示す。なお、p−GaNキャップ層204の表面を保護するために、その表面にSiO2保護膜を形成した状態で、N2雰囲気中でポストアニーリング処理を行った。そして、SiO2保護膜の膜厚とアニーリング温度とを変化させることにより、p−GaN層203中の水素濃度を変化させている。図3から明らかなように、p−GaN層203中の水素濃度が8×1018cm-3以下であれば、窒化物系半導体レーザ素子への適用に十分な抵抗率(約0.8Ωcm)と正孔濃度(1×1018cm-3以上)とを実現可能であった。
次に、p型層評価用試料200作製後の冷却工程を検討した。冷却1として、従来の冷却工程を挙げた。すなわち、冷却1では、N2とH2とNH3とを供給しながら、p−GaN層203及びp−GaNキャップ層204を結晶成長させ、その後、H2とNH3との供給を停止しN2の供給量を調整することなく室温程度になるまで自然冷却、降温した。更に、今回は、冷却2から冷却6までの方法でも冷却を行い、p−GaN層203における水素濃度、抵抗率及び正孔濃度を測定した。
ここで、冷却2乃至冷却6では、いずれも、p−GaNキャップ層204の結晶成長後、H2とNH3との供給を停止する一方N2の供給を継続させるが、N2の供給量が異なる。具体的には、N2の供給量は、冷却2ではp型層を形成する際のN2の供給量とH2の供給量との合計量の約1/2倍であり、冷却3では同合計量と略同量であり、冷却4では同合計量の約2倍である。また、冷却5では、5%(体積百分率)のヘリウム(He)を含むN2ガスを供給し、全体として上記合計量と略同量である。冷却6では、2.5%(体積百分率)のHeを含むN2ガスを供給し、全体として上記合計量の約2倍である。
表1には、冷却1乃至冷却6において、冷却に要する時間、p−GaN層203中の水素濃度、同層における抵抗率及び同層中の正孔濃度を示す。抵抗率は、ホール測定により評価され、ホール測定の評価においては、塩素を用いて、電極直下のp−GaNキャップ層204以外の領域をドライエッチングしている。
表1に示すように、冷却工程において供給されるガスの総供給量を増加させ、できるだけ急速に冷却させることにより、結晶成長後の特別な処理を行わなくても、窒化物系半導体レーザ素子への適用可能な低抵抗のp型層を実現できることがわかった。
また、いずれの試料においてもp−GaNキャップ層204の表面にはピットなどは形成されておらず、これらの接触抵抗を評価したところ、冷却3から冷却6ではいずれも9×10-4Ωcm2以下の接触抵抗を実現できており、実用上問題ないことがわかった。
以上の検討から、冷却時間を短縮することによりp−GaN層203中の水素濃度を低減でき、低抵抗化を達成することができる。逆に、冷却時間が長くなれば水素濃度が増加してしまう。というのは、前述のように冷却工程中は完全なN2雰囲気ではなくH2及びNH3が若干残留しているため、冷却時間が長くなると、水素ガスがp型層中に侵入してしまうためである。その結果、アクセプター不純物であるMgが不活性化される。よって、p型層中への水素の侵入を抑制するためには、できるだけ短時間で冷却することが望ましい。
ただし、冷却時間を過剰に短縮した場合、基板の内側と外周部とにおいて応力分布が発生し、外周部に多数のクラックが発生することがあった。クラックの発生を抑制するためには、冷却時間を4分以上、望ましくは5分以上に設定することが好ましく、平均冷却速度として70℃/分(冷却時間が約7分に対応)から100℃/分(冷却時間が約5分に対応)にすることが好ましい。
また、冷却速度は、結晶成長直後の冷却工程では(冷却工程の初期では)平均冷却速度よりも速く、500℃に近づくほど(冷却工程の後期となるほど)遅くなる。結晶成長終了後、H2とNH3との供給を停止し、N2キャリアガスの供給量を増加(場合によってはHeの導入)するが、約1000℃から約770℃まで温度が低下するのに要する時間は30秒程度であり、約770℃まで温度が低下した時点でH2とNH3との供給が完全に停止され且つ、N2キャリアガスの供給量が所望の供給量まで完全に増加していない場合には、低抵抗のp型窒化物系化合物レーザ素子を再現性良く得ることが難しい。望ましくは800℃以上、さらに望ましくは850℃以上で、H2とNH3との供給を完全に停止させ且つ、N2キャリアガスの供給量を所望の供給量まで完全に増加させることが好ましい。約1000℃から800℃まで降温させるために要する時間は約25秒であり、約1000℃から850℃まで降温させるために要する時間は約20秒であるため、結晶成長終了後20秒未満で上述のキャリアガスの切り替えを行うことが好ましい。
冷却5及び6では、冷却工程においてHeを導入したが、He導入による電気特性への大きな効果は無かった。Heの代わりにアルゴン(Ar)を導入して検討したが、冷却に要する時間、p−GaN層203中の水素濃度、抵抗率及び正孔濃度は、N2雰囲気で冷却した場合及びHeを導入した場合とほとんど差は無かった。以上より、キャリアガスの総供給量を増加することが冷却時間を短縮するのに最も効果が高いと考えられ、希ガスの導入はN2の置換ではなく総供給量の増加及び調整のために用いることにより、さらに効果を上げることが期待できる。
別の検討として、p型層評価用試料200の結晶成長の後、p型層の成長雰囲気のままで冷却したところ、500℃までの冷却に要する時間は、6.5分であり、N2雰囲気の場合と顕著な差は無かった。しかしながら、冷却工程後のp−GaN層203の水素濃度は、約3.0×1019cm-3であり、電気特性を評価したところ、抵抗率が約1×106Ωcmの高抵抗なn型伝導性を示し、p型層は実現できなかった。ただし、この試料においてもポストアニーリング処理を施すことにより、抵抗率が約0.8Ωcmであり正孔濃度が1.2×1018cm-3である低抵抗p型層を実現することができた。
N2雰囲気、もしくはN2と希ガスとの混合ガス雰囲気で自然冷却した場合、500℃から室温付近(少なくとも50℃以下)にまで冷却するのに40分から50分の時間を要するが、p型層の成長雰囲気、もしくはそこからNH3の供給を停止した雰囲気(つまりN2とH2の混合ガス雰囲気)のままで冷却した場合、500℃から室温付近への冷却に要する時間は約20分であった。プロセス時間の短縮のためにはp型層中に水素が侵入しない温度域以下で、適当量のH2キャリアガスを導入して自然放冷に要する時間を短縮することがより好ましい。
本実施の形態で示したように、窒化物系半導体レーザ素子を作製後、N2雰囲気、もしくは、N2と希ガスとの混合雰囲気で、短時間で冷却することによって、p型層中への水素の侵入による不活性化を防止し、結晶成長直後の状態でのp型化を再現性良く実現できる。したがって、結晶成長後のポストアニーリング処理を必要としないため、素子プロセスに要する時間も大幅に短縮でき、高い信頼性を有する窒化物系半導体素子を再現性良く簡便に作製することが可能となり、生産性を改善させることができた。本実施の形態では、n−GaN基板101として貫通転位密度が3×106cm-2以下である基板を用いたが、望ましくは、貫通転位密度が1×106cm-2以下である基板を用いることであり、貫通転位密度が1×106cm-2以下である基板を用いれば、特に120mW以上の高出力動作時においても、飛躍的に高い歩留まりで、高い信頼性を有するレーザ素子を実現することが可能である。
本実施の形態ではGaN基板上のレーザ素子について説明したが、上記条件の原理を生かす結晶成長であれば基板はGaN基板に限るものではなく、AlGaN基板でも、AlGaInN基板でも良い。
また、本実施の形態では、導電性のn−GaN基板を用いているため、n電極を基板裏面に形成したが、基板表面側の一部をn−GaN層までエッチングした後にn電極を作製し、表面側にn電極及びp電極の両方を形成しても良い。
本実施の形態では、n型のクラッド層及びp型のクラッド層の両方にバルク結晶のAlGaNを用いたが、n型クラッド層及びp型クラッド層の両方にAlGaNとGaNとから構成される超格子構造を用いても、n型クラッド層及びp型クラッド層のどちらか一方の層にバルク結晶のAlGaNを用い、残りの層にAlGaNとGaNとから構成される超格子構造を用いてもよい。また、n型クラッド層及びp型クラッド層には、各々、In、ホウ素(B)、砒素(As)、リン(P)及びアンチモン(Sb)の少なくとも一つを含有していてもよく、光とキャリアの閉じ込めが効果的に実現できる構成であれば何でも良い。
本実施の形態では、活性層として井戸層数2のGa0.90In0.10N/Ga0.98In0.02N−量子井戸活性層を用いたが、その井戸層数は3以上でも良く、また、GaInN井戸層とGaN障壁層とからなる組み合わせであっても良く、GaInN井戸層とAlGaInN障壁層とからなる組み合わせであっても良く、低い消費電力で高い発光効率が実現できる構成であれば何でも良い。
また、本実施の形態ではn型ドナー不純物としてSiを用いたが、これに限るものではなく、n型ドナー不純物としてGeやSeを用いても良い。また、p型アクセプター不純物としてMgを用いたが、亜鉛(Zn)、ベリリウム(Be)、カドミウム(Cd)及び炭素(C)の少なくとも一つを同時に用いてもよい。
また、本実施の形態ではレーザ素子について説明したが、発光素子の具体例としては、紫色〜青色〜緑色波長領域の半導体レーザ、紫色〜青色〜緑色波長領域の発光ダイオード、蛍光体と組み合わされた白色発光ダイオードなどの窒化物系半導体発光素子、近紫外領域〜可視光全域にわたる窒化物系半導体発光素子、紫外線検出器及び太陽電池や可視光域のフォトディテクターなどの窒化物系半導体受光素子等が挙げられる。また、本実施の形態は、レーザ素子等の受発光素子に限定されることはなく、V族の窒素の一部を砒素、リン及びアンチモンなどに置き換えた混晶からなるIII−V族化合物半導体素子全般にあてはまるものである。
(実施の形態2)
本発明による窒化物系半導体レーザ素子の第2の実施形態を説明する。図4は、上記実施の形態1で説明した窒化物系半導体レーザ素子100及びp型層評価用試料200と同じ結晶成長用装置で作製したp型層評価用試料400の断面模式図である。
本実施の形態では、ノンドープGaN層403の層厚を変えることにより同層における貫通転位密度を変え、その貫通転位密度の違いが水素濃度、抵抗率及び正孔濃度に与える影響を検討した。
p型層評価用試料400は、サファイア基板401上に、(V族)/(III族)=6000の条件下で20m厚の低温GaNバッファ層402と、同じく(V族)/(III族)=6000の条件下で異なる膜厚のノンドープGaN層403と、(V族)/(III族)=8000の条件下で0.8μm厚のp−GaN層(p型クラッド層)404と、60nm厚のp−GaNキャップ層(p型キャップ層)405とがこの順に積層されて形成されている。ノンドープGaN層403は、抵抗率が1×105Ωcm以上の高抵抗層であり、膜厚としては1.0μm厚、5.0μm厚、20.0μm厚を作製した。ノンドープGaN層403の膜厚を厚くすることで、隣り合う貫通転位同士が合体し、結果的に貫通転位密度を低減することが可能である。具体的には、ノンドープGaN層403の膜厚が1.0μm厚の場合には、貫通転位密度が2×109cm-2であったが、同層の膜厚が5.0μm厚の場合には、同密度が5×108cm-2であり、同層の膜厚が20.0μm厚の場合には、同密度が8×107cm-2となった。このノンドープGaN層403の上に、それぞれ、p−GaN層404及びp−GaNキャップ層405を積層させ、上記実施の形態1で示した冷却4(H2とNH3の供給を停止して、総供給量がp型層成長時の約2倍になる供給量となるようにN2を追加供給)を用いて冷却した。また、図2と同様の構造で貫通転位密度が更に低い(8×105cm-2)n−GaN基板201上に作製したp型層評価用試料200についても合わせて比較した。表2に500℃までの冷却に要する時間、p−GaN層203,404中の水素濃度、ホール測定により評価した同層における抵抗率及び同層中の正孔濃度を示す。ホール測定の評価においては、電極直下のp−GaNキャップ層204,405以外の領域を、塩素を用いたドライエッチング処理によって除去している。
表2に示すように、冷却時間については、同一の冷却工程を実施しているため、誤差程度の違いのみでほとんど同一であった。
n−GaN基板201を使用して、その貫通転位密度の違いによる影響を比較すると、水素濃度、抵抗率及び正孔濃度には、いずれも、それほど大きな違いは無かった。また、接触抵抗もほぼ同程度であった。
一方、サファイア基板401を使用して、ノンドープGaN層403の層厚の違いによる影響を比較すると、水素濃度及び抵抗率は、各々、膜厚の増加に伴って減少し、正孔濃度は、膜厚の増加に伴って増加した。膜厚に対して変化する理由を以下に考察する。いずれの試料においても、表面にピットの形成は確認されなかった。そのため、表面モフォロジーは問題なく、表面状態が表2に記載の結果に影響を与えているわけではないと考えられる。従って、表2に示す結果からは、基板の貫通転位密度が高いほど結晶成長終了後の水素濃度が高くなり、アクセプター不純物であるMgが不活性化され、電気特性を悪化させている傾向が存在していると考えられる。というのは、p型層を不活性化する原子状の水素は原子半径も小さく容易にGaN結晶中に拡散するが、貫通転位が存在することにより、その原子状の水素はさらに効率良くGaN結晶中を拡散するためである。
次に、上記実施の形態1で説明した、図2に示されるのと同等の窒化物系半導体レーザ素子を、サファイア基板上に形成した1.0μm厚のノンドープGaN層上に形成した(図示せず)。サファイア基板は導電性を持たないため、サファイア基板の表面側の一部をn−GaN層までエッチングした後にn電極を作製し、その表面側にn電極及びp電極の両方を形成している。この窒化物系半導体レーザ素子では、抵抗率は高いもののp型層は不活性化されていないため、電流注入によってレーザ発振を起こす。しかしながら、室温における30mW出力動作時の動作電圧は、上記実施の形態1で説明したGaN基板上の窒化物系半導体レーザ素子での動作電圧に比べて約1.2V高かった。また、雰囲気温度70℃、連続発振30mW出力の条件で素子寿命の評価を行ったところ、通電後20時間から60時間経過後、急速に動作電流が増加し、素子破壊を引き起こしたため、高信頼性の窒化物系半導体レーザ素子を実現できなかった。
本実施の形態で示したように、GaN層の貫通転位密度が低い場合には高信頼性の窒化物系半導体レーザ素子を簡便に実現できた方法においても、GaN層の貫通転位密度が高くなると、低抵抗なp型化を実現することが不可能なため、長寿命の窒化物系半導体レーザ素子を得ることができない。本実施の形態では、サファイア基板上のGaN層を用いて検討したが、貫通転位密度の高いGaN基板を用いても同等の結果が得られると考えられる。このため、GaN基板としては貫通転位密度が3×106cm-2以下である基板を、より望ましくは、貫通転位密度が1×106cm-2以下である基板を用いることにより、高い歩留まりで、高い信頼性を有する窒化物系半導体レーザ素子を実現することが可能である。
(実施の形態3)
本発明による窒化物系半導体レーザ素子の第3の実施形態を説明する。本実施形態では、図2に示すp型層評価用試料200を用いて、p−GaNキャップ層204の層厚をそれぞれ変更して、水素濃度、抵抗率及び正孔濃度を測定した。具体的には、本実施形態のp型層評価用試料は、図2に示すように、n−GaN基板201上に、(V族)/(III族)=6000の条件下で2.0μm厚のノンドープGaN層202と、(V族)/(III族)=8000の条件下で0.8μm厚のp−GaN層203とを積層し、その後、表3に示す膜厚のp−GaNキャップ層204を積層してなる試料である。n−GaN基板201の貫通転位密度は3×106cm-2である。p−GaN層203のMg濃度は1.5×1019cm-3であり、p−GaNキャップ層204のMg濃度は2.0×1020cm-3である。p−GaNキャップ層204の形成後は、5秒間N2とH2とNH3とが供給された状態で成長温度を維持し、上記実施の形態1で示した冷却4(H2とNH3の供給を停止して、総供給量がp型層成長時の約2倍になる供給量となるようにN2を追加供給)を用いて冷却した。p−GaNキャップ層204の膜厚としては、20nm厚、40nm厚、60nm厚(実施の形態1と同等)、80nm厚、100nm厚及び150nm厚である試料を作製した。表3には、表1と同様、500℃以下までの冷却に要する時間、p−GaN層203の水素濃度、ホール測定により評価した抵抗率及び正孔濃度を示す。ホール測定の評価においては、電極直下のp−GaNキャップ層204以外の領域を、塩素を用いたドライエッチング処理によって除去している。
表3に示すように、冷却時間については、同一の冷却工程を実施しているため、誤差程度の違いのみでほとんど同一であった。
水素濃度、抵抗率及び正孔濃度については、各々、p−GaNキャップ層204の膜厚による違いが現れた。水素濃度については、p−GaNキャップ層204が薄いほど水素濃度が高くなった。前述のように、冷却工程に要する時間を可能な限り短縮した場合であっても、冷却工程中は完全なN2雰囲気ではなくH2及びNH3が若干残留しているため、冷却工程中にp型層中に水素が侵入し、アクセプター不純物であるMgを不活性化する。この侵入してくる水素はMgと結合するが、Mg濃度が高いp−GaNキャップ層204がp−GaN層203よりも上に形成されているために、p−GaN層203へ水素が侵入することを防止していると考えられる。そのため、p−GaNキャップ層204の層厚は、少なくとも60nm以上あることが望ましい。
そして、p−GaNキャップ層204の膜厚が60nm以上であるp型層評価用試料に対して接触抵抗を評価したところ、いずれも9×10-4Ωcm2以下の接触抵抗を実現できており、接触抵抗には問題が無かった。しかしながら、Mg濃度が2.0×1020cm-3であるp型窒化物半導体の抵抗率は5Ωcmであることから、p−GaN層203に対してp−GaNキャップ層204では抵抗率が5倍以上高いことになり、窒化物系半導体レーザ素子作製の場合には直列抵抗低減のため膜厚をできる限り薄くすることが望ましく、好ましくは100nm以下にする方が良い。
冷却工程中にp−GaN層203への水素侵入を防止する方法としては、上述の実施の形態1や2に記載のように、冷却方法やp−GaN層203のMg濃度を最適化してもよいが、p−GaNキャップ層204の膜厚や同層におけるMg濃度を最適化してもよく、例えば、p−GaNキャップ層204の膜厚が60nmの場合、Mg濃度が5.0×1019cm-3以上であれば効果が現れる。また、接触抵抗については、p−GaNキャップ層204のMg濃度が3.0×1020cm-3以上になると、急激に増加する。これは、過剰なMgが多くの欠陥を形成し、p−GaNキャップ層204の結晶性を大幅に低下させているためである。このため、p−GaNキャップ層204のMg濃度は、5.0×1019cm-3以上3.0×1020cm-3以下にすることが好ましく、p−GaN層203のMg濃度との関係を考えれば、p−GaN層203のMg濃度の3倍以上20倍以下とすることが望ましい。
ポストアニーリング処理を用いて更に検討すると、p−GaNキャップ層204の膜厚が20nmである場合でも、p−GaN層203の水素濃度を4.0×1018cm-3程度にすることが可能で、かつ、接触抵抗も9×10-4Ωcm2以下であり、窒化物系半導体レーザ素子作製には問題のない値となった。しかしながら、ポストアニーリング処理を行わなければならないため、素子プロセスに要する時間が増加し、また、追加の熱処理が加わることでレーザ素子の信頼性に関してのリスクも増加する。そのため、ポストアニーリング処理を行わない方法、すなわち、本実施の形態では、膜厚が60nm以上であるp−GaNキャップ層204を積層する方法の方が、窒化物系半導体レーザ素子作製にはより好ましい。
(実施の形態4)
本発明による窒化物系半導体レーザ素子の第4の実施形態を説明する。まず、上記実施の形態1で説明した方法を用いて、図1に示す窒化物系半導体レーザ素子を作製する。冷却工程としては、上記実施の形態1で示した冷却4(H2とNH3の供給を停止して、総供給量がp型層成長時の約2倍になる供給量となるようにN2を追加供給)を用いた。p−GaNキャップ層111の成長温度から500℃までの冷却に要する時間は約5.1分であり、成長後のp−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110の水素濃度は4.2×1018cm-3であった。その後、p−GaNキャップ層111の表面保護のためにSiO2保護膜を形成した状態で、N2雰囲気中で活性化のためのポストアニーリング処理を実施した。SiO2保護膜の膜厚は10nmから200nmであり、アニーリング温度を500℃から900℃まで変化させ、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度が異なる窒化物系半導体レーザ素子を作製した。表4に、ポストアニーリング処理条件とポストアニーリング処理後の水素濃度とを示す。比較のためにポストアニーリング処理を実施しないもの(実施の形態4−0)についても工程に加えている。活性化のためのポストアニーリング処理を工程に追加した以外の処理は、上記実施の形態1乃至3で記載したレーザ素子作製用プロセスと同一工程である。
表4に示すように、比較的低温でポストアニーリング処理を施した場合(実施の形態4−1及び実施の形態4−2)や比較的厚いSiO2保護膜を形成してポストアニーリング処理を施した場合(実施の形態4−6)では、アニーリング処理の前後において水素濃度の明確な変化はなく、水素はp型窒化物系化合物半導体層から脱離していないと考えられる。一方、高温でアニーリング処理を行った場合やSiO2保護膜が薄い場合には、水素はp型窒化物系化合物半導体層から脱離しており、更なる活性化処理が実現されているといえる。
これら本実施の形態で作製された窒化物系半導体レーザ素子について、雰囲気温度70℃、100mWパルス発振の条件で素子寿命の評価を行った。実施の形態4−0の通常工程での処理を実施したものでは、再現性良く2000時間以上の素子寿命を実現できている。また、実施の形態4−1及び4−2で示した低温でポストアニーリング処理を施したレーザ素子においても、通常工程での処理(実施の形態4−0)を実施したものと同様の発光特性を有していた。p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度は、ポストアニーリング処理を行っていない場合と同一であり、p型層がさらに活性化されたわけではないが、100mWパルス発振の条件下での動作電圧は0.1V程度減少しており、電気特性の改善が見られた。これは、熱処理によるp型層の結晶性向上に起因すると考えられ、電気特性の改善にポストアニーリング処理とは異なる機構で熱処理が寄与しているためと考えられる。雰囲気温度70℃、100mWパルス発振の条件のおける素子寿命は、通常工程での処理(実施の形態4−0)を実施したものと同等の特性を有しており、実施の形態4−0を実施したものと大差なかったが、さらに高出力動作を実施する場合には、一層の改善が期待できる。
実施の形態4−3で示した工程を行うことにより、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度が減少しており、より高い信頼性を有することが期待された。通電初期の電気特性は通常工程での処理(実施の形態4−0)を実施したものと同等であり、発振しきい値電流は低く、初期の発光特性に関しては優れたものが得られた。しかしながら、通電後から動作電流は徐々に増加し、200時間から500時間経過した後、急速に動作電流が増加し、素子破壊を引き起こした。破壊した素子の解析を行ったところ、活性層中での欠陥発生及び欠陥増殖が確認された。p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度が1.0×1018cm-3以上のレーザ素子では、このような欠陥の発生及び増殖は観測されておらず、低水素濃度とすることにより欠陥が発生しやすくなる。言い換えれば、ある程度の水素の存在が元来存在する点欠陥などを終端させることにより欠陥の増殖を抑制していることが考えられ、水素濃度を1.0×1018cm-3以上とすることが、特に高出力の窒化物系半導体レーザ素子に対しては望ましい。
実施の形態4−4で示した工程を実施した場合、素子の直列抵抗の増加が見られ、電気特性が通常工程での処理(実施の形態4−0)を実施したものに対して悪化していた。p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度の増加も観測されず、また、抵抗率の増加(活性化率の低下)も無かったが、p−GaNキャップ層111の接触抵抗の増加が確認できた。SiO2保護膜とp−GaNキャップ層111とがポストアニーリング処理中に反応して、p−GaNキャップ層111表面に欠陥を生成したことが原因と考えられる。このレーザ素子においては発光特性に関しては良好であり、信頼性評価を行ったところ再現性良く2000時間以上の素子寿命を実現できており、大きな問題は無かった。しかしながら、さらに高出力のレーザ素子を実現する場合においては、高い動作電圧は問題になることが懸念され、あまり好ましくない。
実施の形態4−5で示した工程を実施した場合、実施の形態4−4で示した工程を実施した場合に比べて接触抵抗が更に増加しており、レーザ発振はするものの、70℃における100mWパルス発振は実現できなかった。
実施の形態4−6で示した工程を実施した場合、ポストアニール処理による水素濃度の増加は無かったが、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110の抵抗率が2倍以上に増加しており、レーザ発振も実現できなかった。
実施の形態4−3で示した工程と類似の工程として、SiO2保護膜厚を50nm以上とすれば、p−Al0.05Ga0.95Nクラッド層110中の水素濃度は4.0×1018cm-3で、ポストアニーリング処理前と変化なく、また、SiO2保護膜とp−GaNキャップ層111の反応も生じないことから、ポストアニーリング処理を実施する場合の温度は高くとも600℃以下にしておくことが望ましい。
本実施の形態で示したように、窒化物系半導体レーザ素子の作製工程に対して低温(450℃以上550℃以下の温度)での熱処理を更に加えることにより、プロセス工程に要する時間は追加されるものの、熱処理による結晶性改善効果によってポストアニーリング処理とは別機構の動作電圧の低減が実現され、高い信頼性を有するレーザ素子を効果的に実現することが可能となった。今後のレーザ素子の高出力においてはさらに重要な技術であると考えられる。