JP4757431B2 - スクロール圧縮機 - Google Patents
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Description
図7において、1は固定スクロールで、外周部はガイドフレーム15にボルト(図示せず)によって締結されている。台板部1aの一方の面(図7における下側)には板状渦巻歯1bが形成されると共に、外周部にはオルダム案内溝1cがほぼ一直線上に2ヶ形成されている。このオルダム案内溝1cにはオルダムリング9の爪9cが往復摺動自在に係合されている。さらに固定スクロール1の側面からは、吸入管10aが密閉容器10を貫通して圧入されている。
コンプライアントフレーム3には調整弁収納空間3pも形成されており、この調整弁収納空間3pの一端(図7における下端)はコンプライアントフレーム3の内周と揺動スクロール2のスラスト面2dにより構成されるボス部外側空間2hに連通するとともに他端(図7において上端)は吸入圧力雰囲気空間1gに開放されている。この調整弁収納空間3pには、その下部に往復運動自在に中間圧調整弁3iが、その上部には中間圧調整スプリング押さえ3tがコンプライアントフレーム3に固着されて収納されており、これら中間圧調整弁3iと中間圧調整スプリング押さえ3tの間には中間圧調整スプリング3mが自然長より縮められて収納されている。
ロータ8の上端面には上バランサ8aが、下端面には下バランサ8bが固定されており、前述した主軸バランサ4eとあわせて合計3ヶのバランサにより、静バランスおよび動バランスがとられている。さらに主軸4の下端にはオイルパイプ4fが圧入されており、密閉容器10底部にたまった冷凍機油10eを吸い上げる構造となっている。
密閉容器10の側面にはガラス端子10fが設置されており、モータ7からのリード線が接合されている。
低圧の吸入冷媒は吸入管10aから固定スクロール1および揺動スクロール2の板状渦巻歯で形成される圧縮室1dにはいる。モータ7により駆動される揺動スクロール2は偏芯旋回運動とともに圧縮室1dの容積を減少させる。この圧縮行程により吸入冷媒は高圧となり、固定スクロール1の吐出ポート1fより密閉容器10内に吐き出される。
なお上記圧縮行程において圧縮途中の中間圧力の冷媒ガスは揺動スクロール2の抽出孔2jよりコンプライアントフレーム3の連絡通路3sを経て、フレーム空間15fに導かれ、この空間の中間圧力雰囲気を維持する。
高圧となった吐出ガスは密閉容器10内を高圧雰囲気で満たし、やがて吐出パイプ10bから圧縮機外に放出される。
以上説明したように、ボス部外側空間2hの中間圧力Pm1(MPa)は、中間圧調整スプリング3mのバネ力と中間圧調整弁3iの中間圧露出面積とによってほぼ決定されるので、所定の値αによって制御されている。
Pm1=Ps+α …(1)式
ただし、Ps:吸入圧力すなわち低圧(MPa)
で制御されている。
ここで密閉容器内の圧力Pd(MPa)(すなわち吐出圧力)とボス部外側空間圧力Pm1の差は主軸受け3c、揺動軸受け2gに冷凍機油10eを供給するために必要な給油差圧ΔPであり、常に正値を確保する必要がある。
ΔP=Pd−Pm1>0 …(2)式
圧縮行程により冷凍機油10eは高圧の冷媒ガスとともに吐出ポート1fから密閉容器10内に開放され、ここで冷媒ガスと分離されて再び密閉容器底部に戻る。
以上説明したようにフレーム空間15fの中間圧力Pm2(MPa)は、抽出孔2jの臨む圧縮室1dの位置で決定される所定の倍率値βによって
Pm2=Ps×β …(3)式
ただし、Ps:吸入圧力すなわち低圧(MPa)
で制御される。
一方、圧縮途中の冷媒ガスを導いて中間圧Pm2となったフレーム空間15fがコンプライアントフレーム3とガイドフレーム15を引き離そうとする力Fpm2と、下部の高圧雰囲気に露出している部分に作用する差圧力Fpd2の合計が、コンプライアントフレーム3を圧縮室の方向に移動させる力として作用する。
定常運転時においては前記圧縮室の方向に移動させる力が上回るように設定されており、このためコンプライアントフレーム3は上下2つの嵌合された円筒面3d、3eにガイドされて圧縮室方向に移動する。揺動スクロール2はコンプライアントフレーム3と密着摺動して同方向に移動し、その板状渦巻歯2bを固定スクロール1に接触させて摺動する。
リリーフ量はコンプライアントフレーム3とガイドフレーム15が衝突するまでの距離により管理される。
図8は従来のスクロール圧縮機において、揺動スクロール2、コンプライアントフレーム3に作用する軸方向の力関係について説明したものである。
揺動スクロール2には冷媒ガスを圧縮することによる反力Fgthと、固定スクロール1と歯先を接触摺動することによる歯先接触力Ftipが図中下向きの方向に作用する。また前記ボス部外側空間2h内の圧力Pm1が揺動スクロール2とコンプライアントフレーム3を引き離そうとする力Fpm1、揺動スクロールのボス部内側の高圧雰囲気に露出した部分に差圧により作用する力Fpd1、さらにスラスト面の接触摺動によるスラスト接触力Fthが図中上向きの力として作用する。ここで、
Fpm1=Spm1×(Pm1−Ps) …(4)式
Fpd1=Spd1×(Pd−Ps) …(5)式
ただし、Spm1:ボス部外側空間における中間圧力Pm1の作用面積 (m2)
Spd1:ボス部内側空間における吐出圧力Pdの作用面積 (m2)
Pd:吐出圧力(MPa)
Ps:吸入圧力(MPa)
これらより揺動スクロール2に作用する力は次式で示される。
Fgth+Ftip=Fth+Fpm1+Fpd1 …(6)式
Fpm2=Spm2×(Pm2−Ps) …(7)式
Fpd2=Spd2×(Pd−Ps) …(8)式
ただし、Spm2:フレーム空間における中間圧力Pm2の作用面積 (m2)
Spd2:コンプライアントフレーム下端の吐出圧力雰囲気に 露出している面積(m2)
Pd:吐出圧力(MPa)
Ps:吸入圧力(MPa)
これらによりコンプライアントフレーム3に作用する力は次式で示される。
Fpm1+Fth=Fpm2+Fpd2 …(9)式
Ftip=Fpd1+Fpd2+Fpm2−Fgth …(10)式
Fth=Fpm2+Fpd2−Fpm1 …(11)式
(10)式はFpm2(フレーム空間15fの圧力Pm2がコンプライアントフレーム3とガイドフレーム15を引き離そうとする力)を大きく設定するほど歯先接触力Ftipは増大することを示している。つまりフレーム空間15fの中間圧力Pm2を大きく(β値を大きく)設定するほど歯先接触力Ftipは増大する。
一方(11)式ではFpm1(ボス部外周空間2hの圧力Pm1がコンプライアントフレーム3と揺動スクロール2を引き離そうとする力)が大きく設定するとスラスト接触力Fthは減少することを示している。つまりボス部外側空間2hの中間圧力Pm1を大きく(α値を大きく)設定するほどスラスト接触力Fthは減少する。すなわちスラスト摺動損失を低減でき、圧縮機の電気入力を節約するのに役立つ構造となっている。
上述したようにボス部外側空間の圧力Pm1やフレーム空間の圧力Pm2の調整により、歯先接触力Ftipやスラスト接触力Fthは自由に調整できるが、圧縮機が正常な圧縮動作を行うためにこの2つの力は常に正値を確保しなければならない。
Ftip>0 …(12)式
Fth>0 …(13)式
フレーム空間15fには圧縮途上の冷媒ガスを抽出して導いているので、通常運転時の圧力レベルは、一般に下式となる
Ps<Pm2<Pd …(14)式
したがってシール材の構成は、フレーム空間15fへの吐出圧力ガスの侵入を防止するUリングと、フレーム空間15fから吸入圧力雰囲気への漏れを防止するUリングを図9に示す方向で設置するのが通例である。またこれらUリングの材料はテフロン(登録商標)などが用いられることが多い。
また同様にPm1を過大に設定すると、(2)式のΔP=Pd−Pm1<0となり、揺動軸受け2cと主軸受け3cへの給油差圧が確保できず、軸受けを損傷するなどの問題があった。
この発明はかかる問題を解消するためになされたもので、(1)式におけるα値に上限を設けることでボス部外側空間2hの圧力Pm1を設定し、スラスト接触力Fthを適正に保つことにより、スラスト摺動損失を低減しつつも、揺動スクロール2とコンプライアントフレーム3の離反が起こらずに圧縮動作を正常に行い、また揺動軸受けの異常摩耗や損傷が発生しない、さらに給油差圧を確保して揺動軸と主軸を損傷しない、つまり高性能で信頼性の高いスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
この発明はまたかかる問題を解消するためになされたもので、(3)式においてβ値の設定に適正な範囲を設けることで、コンプライアントフレーム3を圧縮室方向に確実に移動させて固定スクロールと揺動スクロールを軸方向に適正な押しつけ力で密着させ、歯先接触力Ftipを適正に保つことで正常な圧縮動作を確保する、また軸受け損傷等のない、さらに摺動損失が増大せず歯先の異常摩耗や焼き付きを発生しない、高性能で信頼性の高いスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
この発明はまたかかる問題を解消するためになされたもので、シール部材自体の数とやシール部材設置のための溝加工数を減らすことができ、さらに抽気孔2jや連絡通路3sなどの加工を省略でき、部品コストや加工コストを低減できて生産性に優れたスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
また、圧縮機の起動前など密閉容器内がバランス圧となっている場合では、圧縮機起動直後に圧縮室1dで行われる圧縮途上の中間圧力の冷媒ガスを抽出しているフレーム空間15fは比較的圧力の上昇が早いのに対して、密閉容器内はフレーム空間15fに比較してその体積が非常に大きいので、圧力の上昇がフレーム空間15fに対して遅くなる。
このような場合、フレーム空間15fの圧力Pm2と密閉容器内の圧力(すなわち吐出圧力)Pdの圧力レベルがある時間、次式で示す状態となる。
Pm2>Pd …(15)式
シール部材は定常運転を想定してフレーム空間15fへの吐出圧力ガスの侵入を防止する構造としているが、その逆方向の流れを防止することができない。(15)式で示す状態ではフレーム空間15fの冷媒ガスが密閉空間に漏れだしてフレーム空間内圧力Pm2が上昇せず、コンプライアントフレーム3を圧縮室側に移動させる力が不充分となる。つまり正常な圧縮動作を開始するのに時間がかかる、またこの間コンプライアントフレーム3とこれに接触して軸方向に移動する揺動スクロール2は、軸方向リリーフ量の隙間内でふらついて軸受けの片当たりなどによる損傷、焼き付きを起こすなどの問題があった。
この発明はまたかかる問題を解消するためになされたもので、テフロン(登録商標)のかわりにOリングを用いることで材料にかかるコストを低減できる。
また圧縮機の起動時にも圧縮室1dからフレーム空間15fに供給される中間圧力の冷媒ガスをリークさせることなくフレーム空間15fの圧力Pm2を速やかに上昇させて、確実にコンプライアントフレーム3および揺動スクロール2を圧縮室側方向に移動させる力を発生し、すばやく正常な圧縮動作を開始できる。すなわち安価で、起動性に優れた、また軸受け損傷のない、信頼性の高いスクロール圧縮機を供給することを目的とする。
この発明はまたかかる問題を解消するためになされたもので、HFC系の冷媒にはHNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム分子の一部に水素原子を結合させたもの)製のOリングを用いることで、劣化がなく、シール特性を失わない、信頼性の高いスクロール圧縮機を提供することを目的とする。
0<α<min(Pd−Ps)、
ただし、Ps:圧縮機の吸入圧力(MPa)、
Pd:圧縮機の吐出圧力(MPa)。
これにより、圧縮機の全ての運転圧力範囲において揺動軸受けと主軸受けへの給油差圧を確保しつつも、コンプライアントフレームと揺動スクロールの離反の起こらない信頼性の高いスクロール圧縮機を得られる。
これにより、圧縮機の全ての運転圧力範囲において固定スクロールと揺動スクロールを適正な押し付け力で接触摺動させて離反の起こらない、また過剰な押しつけによる摺動損失の増大や焼き付きの起こらない、高効率かつ信頼性の高いスクロール圧縮機を得られる。
これにより、部品点数と加工時間とコストを小さくでき、低コストで生産性の高いスクロール圧縮機を得られる。
図1は実施の形態1におけるスクロール圧縮機を示した縦断面図である。各部品の名称とその機能は従来例と同様であり、同符号を記してその説明を省略する。
フレーム空間15fを形成する2つのシール部材はOリング16c、16dであり、ガイドフレーム15内周とコンプライアントフレーム3外周で構成された円筒面15d、15dに設置されている。Oリングの材料はHNBR製のOリングを使用しており、HFC系の冷媒を用いる場合でもOリングが膨潤して劣化する恐れはない。Oリングは圧縮機内を満たす冷媒の種類や雰囲気温度等により、適切な材料を選定すればよい。
圧縮機の起動時は、圧縮室1dでの圧縮途上の冷媒ガスを抽出して導くフレーム空間15f内の圧力Pm2が、密閉容器内の圧力(すなわち吐出圧力)Pdよりも早く上昇するが、フレーム空間15fを構成するOリングにより、フレーム空間15fから密閉容器内への圧力リークは防止できる構造となっているので、フレーム空間内圧力Pm2の速やかな上昇によりコンプライアントフレーム3は圧縮室1dの方向に移動する力を与えられ、速やかに正常な圧縮動作を開始できる構造となっている。
ボス部外側空間2hは密閉容器内にある冷凍機油10eの給油経路の途中に配置されている。差圧給油経路は高圧の密閉容器底部の冷凍機油10eが主軸中空部4gを通り、主軸受け3cおよび揺動軸受け2cを経てボス部外側空間に達し、コンプライアントフレーム3に設けた中間圧力の調整弁収納空間3pを通って低圧空間1gに導かれる通路である。ボス部外側空間2hの圧力Pm1は主軸受け3cおよび揺動軸受け2cの絞り作用と調整弁収納空間に設けた中間圧調整スプリング3mのバネ定数を調整することで、(1)式で示すα=0.3程度になるよう設定されている。これにより圧縮機の全ての運転圧力範囲においてスラスト接触力Fthを軽減してスラスト摺動損失を軽減しつつも、揺動スクロール2とコンプライアントフレーム3の離反が起こらずに正常な圧縮動作を確保できるとともに、冷凍機油の給油差圧ΔPは正値を確保し、揺動軸受け2cおよび主軸受け3cへの給油は中断されることは無い。
フレーム空間15fは、抽出孔2jおよび連絡通路3sを介して連続または間欠的に供給される中間圧力の冷媒ガスを封入するが、この空間の圧力Pm2は抽出孔2jが臨む圧縮室1dの位置により、(3)式で示すβ=1.6程度になるよう設定されている。これにより圧縮機の全ての運転圧力範囲において歯先接触力Ftipは負値とならずに、揺動スクロール2と固定スクロール1の離反が起こらずに正常な圧縮動作を確保できるとともに、歯先押しつけ過剰となって摺動損失を増大させることはない。
なお、ボス部外側空間やフレーム空間の中間圧作用面積や高圧作用面積は、上記したα値やβ値との兼ね合いで決定されており、これら面積の調整で最適なα、β値も変化する。一般的にボス部外側空間2hの中間圧作用面積Spm1はオルダムリングやスラスト軸受など幾何学的な形状により決定され、設定の自由度はあまりない。一方フレーム空間15fの中間圧作用面積Spm2の調整は比較的自由度は大きく、中間圧作用面積Spm2をできるだけ大きく設定してβ値を小さめ、すなわちフレーム空間の中間圧力Pm2を小さめに設定したほうが圧縮機の運転圧力広範囲において安定した歯先接触力Ftipが得られる。また小さい中間圧力Pm2でコンプライアントフレーム3および揺動スクロール2を圧縮室方向に移動させることができるので、圧縮機の起動特性が向上するなどの計算、実験結果が得られている。
α値を大きく設定することでスラスト接触力Fthすなわちスラスト摺動損失を軽減できることは従来例に述べた通りである。しかしα値を過大に設定する、すなわちボス部外側空間2hの圧力Pm1を過大に設定するとスラスト接触力Fthが負値となって揺動スクロール2とコンプライアントフレーム3の離反が発生したり、揺動軸受け2cや主軸受け3cへの給油差圧ΔPが確保できない問題がある。
揺動軸受け2cおよび主軸受け3cに給油を行う差圧ヘッドは(2)式で示したように、密閉容器内圧力(すなわち吐出圧力)Pdとボス部外側空間内圧力Pm1の差圧ΔPとなるが、例えば使用冷媒をR407Cとした場合、α値が0.6以上となると、図10に示した運転ポイント(Pd/Ps=1.27/0.71MPa)において
Pm1=Ps+α=0.71+0.6=1.31(MPa)
ΔP=Pd−Pm1=1.27−1.31=−0.04(MPa)<0
となりこの運転圧力条件において給油ができないことを示している。つまりR407Cを作動冷媒として使用する場合、α値は低圧縮比運転圧力(Pd/Ps=1.27/0.71MPa)における高低圧力差min(Pd−Ps)値以下、すなわち0.56以下に設定する必要がある。
同様にR22を作動冷媒とする場合はα<0.51、R410Aを作動冷媒とする場合はα<0.8に設定しなければ、圧縮機の運転圧力範囲において無給油領域が発生する事態となる。したがってα値は上記した値以下になるよう設定しなければならない。
圧縮機の使用する冷媒や運転圧力範囲が上記と異なる場合も、α値はその圧縮機の運転圧力範囲における高低圧の最も小さくなる差圧値min(Pd−Ps)以下に設定する必要がある。
高圧作動冷媒(例えばR401AやR32)は、他の冷媒(例えばR22やR407C)に比べてその作動運転圧力が高いので、揺動軸受け2cや主軸受け3cなどのラジアル負荷とスラスト軸受け3aの負荷が大きくなる。
一般的に高圧作動冷媒ではその冷媒自体の熱物性から圧縮機のストローク体積Vstが小さくなるが、スクロール圧縮機では高圧冷媒による渦巻歯の発生応力を緩和するの目的により、渦巻歯の高さを小さくする、または歯厚を大きくするなどでこのストローク体積Vstの調整を行うのが一般的である。この方法により揺動軸受け2cや主軸受け3cのラジアル負荷は従来レベルまで小さくすることが可能である。しかしこの方法ではスラスト軸受け負荷を軽減することはできず、このスラスト摺動損失の増大が圧縮機の性能ダウンの要因となる。
この問題に対し、本発明のスクロール圧縮機ではボス部外側空間2hの圧力Pm1を大きく(α値を大きく)設定すれば、スラスト軸負荷を軽減できる構造となっている。しかも図10に示すようにR410Aのケースでは給油差圧を確保するα値の上限が0.8程度で、他の冷媒(R22やR407C)の場合のそれに比べて大きくなっており、α値を大きく設定できる自由度が大きいことからスラスト軸負荷を軽減できる効果も大きい。すなわち高圧作動冷媒であるほど、本実施例に示すスクロール圧縮機の優位性が発揮できる。
図4は高圧作動冷媒であるR410Aを用いた場合のα値と定格性能割合の相関を示している。図には先に述べたR407Cのケースも併記してある。
α値が小さい領域ではスラスト軸負荷が大きい上に、この負荷をキャンセルする本実施例の効果が十分に発揮されず、R407Cの場合よりも性能割合が小さい値となっている。α値を徐々に大きくしていくと、本実施例のスラスト軸負荷をキャンセルする効果が現れ、R407Cの場合と比較してα値の大きいレベルで性能最高点となる。本例ではα=0.5で性能最高点となった。上述したように高圧作動冷媒(R410A)では、R407CやR22よりもスラスト軸負荷が大きいので、より高いボス部外側空間2hの中間圧力Pm1すなわち大きなα値を設定することにより良好な性能を得ることができる。さらにα値を大きくしていくと、スラスト接触力Fthが不足して再び性能が低下する理由は図3における説明と同様である。
図4では性能割合が95%以上を維持するのに必要なα値は0.2<α<0.7程度であった。
α値はその中間圧力の作用面積Spm1によっても多少変化するが、本実施例において実験的に求めた最適なα値は、概ね図10にしめしたmin(Pd−Ps)の半分付近すなわちα≒{min(Pd−Ps)}/2に近い値となった。
β値を過小に設定すると、ある運転圧力において歯先押しつけ力Ftipが正値を確保するのが困難となり正常な圧縮動作を保証できない、一方β値を過大に設定すると(10)式における歯先押しつけ力Ftipが必要以上に大きくなり、摺動損失の増大による圧縮機の性能低下や歯先焼き付きなどの不具合を発生する原因となる。
β値が小さい範囲では歯先接触力Ftipが完全に不足してコンプライアントフレーム3および揺動スクロール2が圧縮室方向に移動することができず、正常な圧縮動作ができないことから性能は著しく低い。βを徐々に大きくすると歯先接触力Ftipは正値となるが、揺動スクロール2に発生する転覆モーメントを支持することができずに歯先に微小隙間が発生し、体積効率悪化や内部漏れ損失の増大から性能はまだ十分とはいえない。しかしβ=1.2あたりから徐々にこの漏れ現象も低下し、十分な歯先接触力Ftipとなることから性能は上昇し、β=1.6程度でピーク(100%)となる。その後は歯先接触力Ftipの増大から歯先摺動損失も増大して、性能は再び低下傾向となる。
本図では性能比95%以上を確保するのに必要なβ値の範囲は1.2<β<2.0であった。
図6は実施の形態2を示した縦断面である。各部品の名称とその機能は実施の形態1と同様であり、同符号を記してその説明を省略する。
コンプライアントフレーム3とガイドフレーム15により形成された円筒嵌合面15hにHNBR製の1本のOリング16eが配設されており、Oリング16eより圧縮室側は吸入圧力雰囲気空間1gに開放しており、Oリング16eよりモータ側は吐出圧力雰囲気に開放されている。さらに図1に示す実施例と比較してフレーム空間15fと抽出孔2j、連絡通路3sさらに2つあるOリングとOリング溝のセットのうち、どちらか1つ省略した構成となっている。
図1に示す実施例ではフレーム空間15fの圧力Pm2によるガイドフレーム15とコンプライアントフレーム3を引き離そうとする力Fpm2がコンプライアントフレーム3および揺動スクロール2を圧縮室側に移動させる力として作用し、歯先接触力Ftipを正値にするのに関与していたのに対し、図6ではフレーム空間15f自体が存在しないので、このガイドフレーム15とコンプライアントフレーム3を引き離そうとする力Fpm2も発生しない。この歯先接触力Ftipの不足分は、コンプライアントフレーム下端の高圧雰囲気に露出している面積(Spd2´)を大きく設定し、この部分に作用する差圧による力(Fpd2´)を大きくすることで、実施の形態1と同等の機能を有している。即ち、実施の形態1では歯先接触力Ftipおよびスラスト接触力Fthが(10)(11)式になるのに対して、
Ftip=Fpd1+Fpd2+Fpm2−Fgth …(10)式
Fth=Fpm2+Fpd2−Fpm1 …(11)式
実施の形態2では
Ftip=Fpd1+Fpd2´−Fgth …(16)式
Fth=Fpd2´−Fpm1 …(17)式
となるので、実施の形態2において形態1と同様の歯先接触力Ftipおよびスラスト接触力Fthを確保するには上式を連立して、
Fpd2´=Fpd2+Pm2 …(18)式
が必要であり、(力=圧力×面積)より
(Pd×Spd2´)=(Pd×Spd2)+(Pm2×Spm2)
…(19)式
Spd2´=Spd2+(Pm2/Pd)×Spm2 …(20)式
となる。つまり実施の形態2では高圧雰囲気に露出する面積(Spd2´)を、実施の形態1で示した値を用いて(20)式のように設定すれば、実施の形態1と同様の効果を得ることができる。すなわち構成部品点数を少なくして、低コストで生産性に優れたスクロール圧縮機を実現している。
Claims (6)
- 密閉容器内に設けられ、それぞれの板状渦巻歯が相互間に圧縮室を形成するように噛み合わされた固定スクロールおよび揺動スクロールと、この揺動スクロールを軸線方向に支持するとともに、この揺動スクロールを駆動する主軸を半径方向に支持し、軸線方向に変位可能なコンプライアントフレームと、このコンプライアントフレームを半径方向に支持するガイドフレームとを備え、前記コンプライアントフレームの前記ガイドフレームに対する軸線方向の移動により、前記揺動スクロールを軸線方向に移動可能としたスクロール圧縮機において、
前記揺動スクロールは板状渦巻歯と反対側の面にスラスト面を有し、これと圧接摺動する前記コンプライアントフレームのスラスト軸受けの内側に形成されるボス部外側空間を、圧縮機の運転高低圧力差を利用して潤滑油を供給する差圧給油経路の途中に配置するとともに、前記給油経路途中に設けた絞りや圧力調整装置によって決定される前記ボス部外側空間の圧力Pm1(MPa)をPm1=Ps+αで表し、スクロール圧縮機の運転圧力範囲の中で高低圧差の最も小さくなる差圧値をmin(Pd−Ps)で表した場合に、上式におけるα値を、下記の範囲に設定したことを特徴とするスクロール圧縮機、
0<α<min(Pd−Ps)
ただし、Ps:圧縮機の吸入圧力(MPa)
Pd:圧縮機の吐出圧力(MPa)。 - 前記コンプライアントフレームと前記ガイドフレームにて形成される円筒面または平坦面に2つのシール部材を配置することにより構成される密閉されたフレーム空間に、前記圧縮室から圧縮途上の冷媒ガスを抽出して導くとともに、このフレーム空間内の圧力Pm2(MPa)を、圧縮機の吸入圧力Ps(MPa)の1.2倍以上2倍以下の範囲に設定したことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 前記コンプライアントフレームと前記ガイドフレームにて形成される円筒面または平坦面に、高圧空間より低圧空間への流体の移動を遮断する1つのシール部材を配設したことを特徴とする請求項1記載のスクロール圧縮機。
- 密閉容器内に設けられ、それぞれの板状渦巻歯が相互間に圧縮室を形成するように噛み合わされた固定スクロールおよび揺動スクロールと、この揺動スクロールを軸線方向に支持するとともに、この揺動スクロールを駆動する主軸を半径方向に支持し、軸線方向に変位可能なコンプライアントフレームと、このコンプライアントフレームを半径方向に支持するガイドフレームを備え、前記コンプライアントフレームの前記ガイドフレームに対する軸線方向の移動により、前記揺動スクロールを軸線方向に移動可能としたスクロール圧縮機において、
前記コンプライアントフレームと前記ガイドフレームにて形成される円筒面または平坦面に2つのシール部材を配置することにより構成される密閉されたフレーム空間に、前記圧縮室から圧縮途上の冷媒ガスを抽出して導くとともに、このフレーム空間内の圧力Pm2(MPa)を、圧縮機の吸入圧力Ps(MPa)の1.2倍以上2倍以下の範囲に設定したことを特徴とするスクロール圧縮機。 - 前記シール部材がOリングであることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
- HFC系冷媒を作動流体として用いる場合、前記シール部材はHNBR(アクリロニトリル・ブタジエンゴム分子の一部に水素原子を結合させたもの)からなるOリングを用いることを特徴とする請求項2から4のいずれか一項に記載のスクロール圧縮機。
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