以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
図1は、本発明の一実施形態に係るゴルフボール2が示された一部切り欠き断面図である。このゴルフボール2は、球状のコア4と、このコア4の外側に位置する補強層6と、この補強層6の外側に位置するカバー8とを備えている。コア4は、球状のセンター10と、このセンター10の外側に位置する中間層12とを備えている。センター10は、内球14と、この内球14の外側に位置する外層16とを備えている。カバー8の表面には、多数のディンプル18が形成されている。カバー8の表面のうちディンプル18以外の部分は、ランド20である。このゴルフボール2は、カバー8の外側にペイント層及びマーク層を備えているが、これらの層の図示は省略されている。
このゴルフボール2の直径は、40mmから45mmである。米国ゴルフ協会(USGA)の規格が満たされるとの観点から、直径は42.67mm以上が好ましい。空気抵抗抑制の観点から、直径は44mm以下が好ましく、42.80mm以下がより好ましい。このゴルフボール2の質量は、40g以上50g以下である。大きな慣性が得られるとの観点から、質量は44g以上が好ましく、45.00g以上がより好ましい。USGAの規格が満たされるとの観点から、質量は45.93g以下が好ましい。
内球14は、熱硬化性ポリマーを基材とする組成物からなる。具体的には、内球14は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。好ましい基材ゴムとして、ポリブタジエン、ポリイソプレン、スチレン−ブタジエン共重合体、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体及び天然ゴムが挙げられる。反発性能の観点から、ポリブタジエンが好ましい。ポリブタジエンと他のゴムとが併用される場合は、ポリブタジエンが主成分とされるのが好ましい。具体的には、全基材ゴムに占めるポリブタジエンの比率が50質量%以上、特には80質量%以上とされるのが好ましい。シス−1,4結合の比率が40%以上、特には80%以上であるポリブタジエンが特に好ましい。
内球14の架橋には、共架橋剤が用いられる。反発性能の観点から好ましい共架橋剤は、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸の、1価又は2価の金属塩である。好ましい共架橋剤の具体例としては、アクリル酸亜鉛、アクリル酸マグネシウム、メタクリル酸亜鉛及びメタクリル酸マグネシウムが挙げられる。高い反発性能が得られるという理由から、アクリル酸亜鉛及びメタクリル酸亜鉛が特に好ましい。
共架橋剤として、炭素数が2から8であるα,β−不飽和カルボン酸と酸化金属とが配合されてもよい。両者はゴム組成物中で反応し、塩が得られる。この塩が、架橋反応に寄与する。好ましいα,β−不飽和カルボン酸としては、アクリル酸及びメタクリル酸が挙げられる。好ましい酸化金属としては、酸化亜鉛及び酸化マグネシウムが挙げられる。
共架橋剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して10質量部以上40質量部以下が好ましい。配合量が10質量部以上に設定されることにより、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、配合量は15質量部以上がより好ましい。配合量が40質量部以下に設定されることにより、優れた打球感が達成されうる。この観点から、配合量は35質量部以下がより好ましい。
好ましくは、内球14のゴム組成物は、共架橋剤と共に有機過酸化物を含む。有機過酸化物は、架橋開始剤として機能する。有機過酸化物は、反発性能に寄与する。好適な有機過酸化物としては、ジクミルパーオキサイド、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン及びジ−t−ブチルパーオキサイドが挙げられる。特に汎用性の高い有機過酸化物は、ジクミルパーオキサイドである。
有機過酸化物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上3.0質量部以下が好ましい。配合量が0.1質量部以上に設定されることにより、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、配合量は0.3質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。配合量が3.0質量部以下に設定されることにより、優れた打球感が達成されうる。この観点から、配合量は2.5質量部以下がより好ましい。
好ましくは、内球14のゴム組成物は、有機硫黄化合物を含む。好ましい有機硫黄化合物としては、ジフェニルジスルフィド、ビス(4−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3−クロロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(4−フルオロフェニル)ジスルフィド、ビス(4−ヨードフェニル)ジスルフィド、ビス(4−シアノフェニル)ジスルフィド等のモノ置換体;ビス(2,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,6−ジクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(3,5−ジブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−クロロ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−5−ブロモフェニル)ジスルフィド等のジ置換体;ビス(2,4,6−トリクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2−シアノ−4−クロロ−6−ブロモフェニル)ジスルフィド等のトリ置換体;ビス(2,3,5,6−テトラクロロフェニル)ジスルフィド等のテトラ置換体;及びビス(2,3,4,5,6−ペンタクロロフェニル)ジスルフィド、ビス(2,3,4,5,6−ペンタブロモフェニル)ジスルフィド等のペンタ置換体が例示される。有機硫黄化合物は、反発性能に寄与する。特に好ましい有機硫黄化合物は、ジフェニルジスルフィド及びビス(ペンタブロモフェニル)ジスルフィドである。
ゴルフボール2の反発性能の観点から、有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して0.1質量部以上が好ましく、0.2質量部以上がより好ましい。ソフトな打球感の観点から、有機硫黄化合物の配合量は、基材ゴム100質量部に対して1.5質量部以下が好ましく、1.0質量部以下がより好ましく、0.8質量部以下が特に好ましい。
内球14に、比重調整等の目的で充填剤が配合されてもよい。好適な充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤として、高比重金属からなる粉末が配合されてもよい。高比重金属の具体例としては、タングステン及びモリブデンが挙げられる。充填剤の配合量は、内球14の意図した比重が達成されるように適宜決定される。特に好ましい充填剤は、酸化亜鉛である。酸化亜鉛は、単なる比重調整のみならず架橋助剤としても機能する。内球14には、硫黄、老化防止剤、着色剤、可塑剤、分散剤等の各種添加剤が、必要に応じて適量配合される。内球14に、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末が配合されてもよい。
内球14の中心硬度Hiは、20以上45以下が好ましい。中心硬度Hiが20以上である内球14により、優れた反発性能及び軽い打球感が達成されうる。この観点から、中心硬度Hiは24以上がより好ましく、27以上が特に好ましい。中心硬度Hiが45以下である内球14により、ドライバーでのショットにおける過剰のスピンが抑制される。この観点から、中心硬度Hiは41以下がより好ましく、38以下が特に好ましい。内球14が切断されて得られる半球の中心点に、ショアD型硬度計が押しつけられることにより、中心硬度Hiが測定される。測定には、この硬度計が装着された自動ゴム硬度測定機(高分子計器社の商品名「LA1」)が用いられる。
内球14の表面硬度Hsiは、30以上70以下が好ましい。表面硬度Hsiが30以上である内球14により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、表面硬度Hsiは40以上がより好ましく、45以上が特に好ましい。表面硬度Hsiが70以下である内球14により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、表面硬度Hsiは60以下がより好ましく、55以下が特に好ましい。球体(内球14、センター10、コア4又はゴルフボール2)の表面にショアD型硬度計が押しつけられることにより、表面硬度が測定される。測定には、この硬度計が装着された自動ゴム硬度測定機(高分子計器社の商品名「LA1」)が用いられる。
打球感及び反発性能の両立の観点から、表面硬度Hsiと中心硬度Hiとの差(Hsi−Hi)は10以上が好ましく、15以上がより好ましい。差(Hsi−Hi)は、30以下が好ましい。
内球14の圧縮変形量Diは、2.5mm以上6.0mm以下が好ましい。圧縮変形量Diが2.5mm以上である内球14により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、圧縮変形量Diは2.8mm以上がより好ましく、3.0mm以上が特に好ましい。後述されるように、このゴルフボール2のカバー8は薄い。このゴルフボール2が打撃されると、カバー8が薄いことに起因して、内球14が大きく変形する。圧縮変形量Diが6.0mm以下である内球14により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、圧縮変形量Diは5.5mm以下がより好ましく、5.0mm以下が特に好ましい。
圧縮変形量の測定では、まず球体(内球14、センター10、コア4又はゴルフボール2)が金属製の剛板の上に置かれる。次に、球体に向かって金属製の円柱が徐々に降下する。この円柱の底面と剛板との間に挟まれた球体は、変形する。球体に98Nの初荷重がかかった状態から1274Nの終荷重がかかった状態までの円柱の移動距離が、圧縮変形量である。
内球14の直径は20mm以上、さらには24mm以上、特には25mm以上が好ましい。内球14の直径は36mm以下、さらには35mm以下、特には34mm以下が好ましい。内球14の質量は、25g以上40g以下が好ましい。内球14の架橋温度は、通常は130℃以上180℃以下である。内球14の架橋時間は、通常は10分以上50分以下である。
外層16は、熱硬化性ポリマーを基材とする組成物からなる。具体的には、外層16は、ゴム組成物が架橋されることで得られる。好ましい基材ゴムは、内球14の基材ゴムと同等である。
外層16には、内球14と同等の共架橋剤が用いられる。共架橋剤の配合量は、基材ゴム100質量部に対して20質量部以上50質量部以下が好ましい。配合量が20質量部以上に設定されることにより、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、配合量は35質量部以上がより好ましい。配合量が50質量部以下に設定されることにより、優れた打球感が達成されうる。この観点から、配合量は45質量部以下がより好ましい。
外層16のゴム組成物には、内球14のゴム組成物と同様、有機過酸化物及び有機硫黄化合物が配合されうる。有機過酸化物の種類及び配合量並びに有機硫黄化合物の種類及び配合量は、内球14のそれらと同等である。ゴム組成物に、内球14のゴム組成物と同等の充填材及び添加剤が配合されてもよい。
外層16の厚みToは、2.3mm以上4.3mm以下が好ましい。厚みToが2.3mm以上である外層16は、反発性能に寄与する。この観点から、厚みToは2.7mm以上がより好ましく、3.0mm以上が特に好ましい。厚みToが4.3mm以下である外層16は、打球感を阻害しない。この観点から、厚みToは3.9mm以下がより好ましく、3.6mm以下が特に好ましい。
内球14及び外層16からなるセンター10の表面硬度Hs1は、40以上80以下が好ましい。表面硬度Hs1が40以上であるセンター10により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、表面硬度Hs1は50以上がより好ましく、55以上が特に好ましい。表面硬度Hs1が80以下であるセンター10により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、表面硬度Hs1は70以下がより好ましく、65以下が特に好ましい。
打球感及び反発性能の両立の観点から、表面硬度Hs1と中心硬度Hiとの差(Hs1−Hi)は20以上が好ましく、25以上がより好ましい。差(Hs1−Hi)は、40以下が好ましい。
センター10の表面硬度Hs1と内球14の表面硬度Hsiとの差(Hs1−Hsi)は、3以上が好ましい。このセンター10では、主として内球14が打球感に寄与し、主として外層16が反発性能に寄与する。この観点から、差(Hs1−Hsi)は5以上がより好ましく、8以上が特に好ましい。差(Hs1−Hsi)は20以下が好ましい。
センター10の圧縮変形量D1は、2.7mm以上5.0mm以下が好ましい。圧縮変形量D1が2.7mm以上であるセンター10により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、圧縮変形量D1は2.8mm以上がより好ましく、2.9mm以上が特に好ましい。後述されるように、このゴルフボール2のカバー8は薄い。このゴルフボール2が打撃されると、カバー8が薄いことに起因して、センター10が大きく変形する。圧縮変形量D1が5.0mm以下であるセンター10により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、圧縮変形量D1は4.5mm以下がより好ましく、4.0mm以下が特に好ましい。
センター10の直径は、27mm以上、さらには28mm以上、特には30mm以上が好ましい。センター10の直径は、42mm以下、さらには39mm以下が好ましい。センター10の質量は、30g以上45g以下が好ましい。
センター10の製作では、外層用のゴム組成物からハーフシェルが成形される。このハーフシェル2枚で、半架橋状態の内球14が覆われる。内球14及びハーフシェルが金型内で加圧及び加熱されて、センター10が得られる。
中間層12には、熱可塑性樹脂組成物が好適に用いられる。この樹脂組成物の基材ポリマーとしては、アイオノマー樹脂、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー及び熱可塑性ポリスチレンエラストマーが挙げられる。特に、アイオノマー樹脂が好ましい。アイオノマー樹脂は、高弾性である。後述されるように、このゴルフボール2のカバー8は薄い。このゴルフボール2が打撃されると、カバー8が薄いことに起因して、中間層12が大きく変形する。アイオノマー樹脂を含む中間層12は、反発性能に寄与する。
アイオノマー樹脂と他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、反発性能の観点から、アイオノマー樹脂が基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに占めるアイオノマー樹脂の比率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85%以上が特に好ましい。
好ましいアイオノマー樹脂としては、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸との二元共重合体が挙げられる。好ましい二元共重合体は、80質量%以上90質量%以下のα−オレフィンと、10質量%以上20質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸とを含む。この二元共重合体は、反発性能に優れる。好ましい他のアイオノマー樹脂としては、α−オレフィンと炭素数が3以上8以下のα,β−不飽和カルボン酸と炭素数が2以上22以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとの三元共重合体が挙げられる。好ましい三元共重合体は、70質量%以上85質量%以下のα−オレフィンと、5質量%以上30質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸と、1質量%以上25質量%以下のα,β−不飽和カルボン酸エステルとを含む。この三元共重合体は、反発性能に優れる。二元共重合体及び三元共重合体において、好ましいα−オレフィンはエチレン及びプロピレンであり、好ましいα,β−不飽和カルボン酸はアクリル酸及びメタクリル酸である。特に好ましいアイオノマー樹脂は、エチレンと、アクリル酸又はメタクリル酸との共重合体である。
二元共重合体及び三元共重合体において、カルボキシル基の一部は金属イオンで中和されている。中和のための金属イオンとしては、ナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオン、亜鉛イオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、アルミニウムイオン及びネオジムイオンが例示される。中和が、2種以上の金属イオンでなされてもよい。ゴルフボール2の反発性能及び耐久性の観点から特に好適な金属イオンは、ナトリウムイオン、亜鉛イオン、リチウムイオン及びマグネシウムイオンである。
アイオノマー樹脂の具体例としては、三井デュポンポリケミカル社の商品名「ハイミラン1555」、「ハイミラン1557」、「ハイミラン1605」、「ハイミラン1706」、「ハイミラン1707」、「ハイミラン1856」、「ハイミラン1855」、「ハイミランAM7311」、「ハイミランAM7315」、「ハイミランAM7317」、「ハイミランAM7318」、「ハイミランAM7329」及び「ハイミランMK7320」;デュポン社の商品名「サーリン6120」、「サーリン6910」、「サーリン7930」、「サーリン7940」、「サーリン8140」、「サーリン8150」、「サーリン8940」、「サーリン8945」、「サーリン9120」、「サーリン9150」、「サーリン9910」、「サーリン9945」及び「サーリンAD8546」;並びにエクソンモービル化学社の商品名「IOTEK7010」、「IOTEK7030」、「IOTEK7510」、「IOTEK7520」、「IOTEK8000」及び「IOTEK8030」が挙げられる。2種以上のアイオノマー樹脂が併用されてもよい。1価の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂と2価の金属イオンで中和されたアイオノマー樹脂とが併用されてもよい。
中間層12の樹脂組成物に、比重調整等の目的で充填剤が配合されてもよい。好適な充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム及び炭酸マグネシウムが例示される。充填剤として、高比重金属からなる粉末が配合されてもよい。高比重金属の具体例としては、タングステン及びモリブデンが挙げられる。充填剤の配合量は、中間層12の意図した比重が達成されるように適宜決定される。中間層12に、着色剤、架橋ゴム粉末又は合成樹脂粉末が配合されてもよい。
中間層12の硬度Hmは、55以上72以下が好ましい。硬度Hmが55以上である中間層12により、優れた反発性能が達成されうる。しかも、硬度Hmが55以上である中間層12により、外剛内柔のコア4が達成される。このコア4は、ドライバーでのショットにおけるスピンの抑制に寄与する。これらの観点から、硬度Hmは58以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。硬度Hmが72以下である中間層12により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、硬度Hmは70以下がより好ましく、68以下が特に好ましい。好ましくは、内球14の中心点からカバー8の表面までの硬度曲線におけるピークは、中間層12において達成される。
本発明では、「ASTM−D 2240−68」の規定に準拠して、中間層12の硬度Hm及びカバー8の硬度Hcが測定される。測定には、ショアD型硬度計が取り付けられた自動ゴム硬度計(高分子計器社の商品名「LA1」)が用いられる。測定には、熱プレスで成形された、中間層12(又はカバー8)と同一の材料からなる、厚みが約2mmであるシートが用いられる。測定に先立ち、シートは23℃の温度下に2週間保管される。測定時には、3枚のシートが重ね合わされる。
中間層12の厚みTmは、0.3mm以上2.5mm以下が好ましい。厚みTmが0.3mm以上である中間層12により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、厚みTmは0.5mm以上がより好ましく、0.7mm以上が特に好ましい。厚みTmが2.5mm以下である中間層12は、打球感を阻害しない。この観点から、厚みTmは2.0mm以下がより好ましい。
センター10及び中間層12からなるコア4の表面硬度Hs2は、50以上85以下が好ましい。表面硬度Hs2が50以上であるコア4により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、表面硬度Hs2は55以上がより好ましく、60以上が特に好ましい。表面硬度Hs2が85以下であるコア4は、打球感を阻害しない。この観点から、表面硬度Hs2は80以下がより好ましく、75以下が特に好ましい。
コア4の圧縮変形量D2は、1.8mm以上4.0mm以下が好ましい。圧縮変形量D2が1.8mm以上であるコア4により、優れた打球感が達成されうる。この観点から、圧縮変形量D2は2.0mm以上がより好ましく、2.2mm以上が特に好ましい。後述されるように、このゴルフボール2のカバー8は薄い。このゴルフボール2が打撃されると、カバー8が薄いことに起因して、コア4が大きく変形する。圧縮変形量D2が4.0mm以下であるコア4により、優れた反発性能が達成されうる。この観点から、圧縮変形量D2は3.7mm以下がより好ましく、3.4mm以下が特に好ましい。
コア4と、補強層6又はカバー8との密着の観点から、コア4の表面に処理が施され、その粗度が高められることが好ましい。処理の具体例としては、ブラッシング、研磨等が挙げられる。
補強層6は中間層12とカバー8との間に介在し、両者の密着を高める。後述されるように、このゴルフボール2のカバー8は極めて薄い。薄いカバー8がクラブフェースのエッジで打撃されると、シワが生じやすい。補強層6により、シワが抑制される。
補強層6の基材ポリマーには、二液硬化型熱硬化性樹脂が好適に用いられる。二液硬化型熱硬化性樹脂の具体例としては、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、ポリエステル系樹脂及びセルロース系樹脂が挙げられる。補強層6の特性(例えば破断強度)及び耐久性の観点から、二液硬化型エポキシ樹脂及び二液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
二液硬化型エポキシ樹脂は、エポキシ樹脂がポリアミド系硬化剤で硬化されることで得られる。二液硬化型エポキシ樹脂に用いられるエポキシ樹脂としては、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂及びビスフェノールAD型エポキシ樹脂が例示される。ビスフェノールA型エポキシ樹脂は、ビスフェノールAとエピクロルヒドリン等のエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。ビスフェノールF型エポキシ樹脂は、ビスフェノールFとエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。ビスフェノールAD型エポキシ樹脂は、ビスフェノールADとエポキシ基含有化合物との反応によって得られる。柔軟性、耐薬品性、耐熱性及び強靭性のバランスの観点から、ビスフェノールA型エポキシ樹脂が好ましい。
ポリアミド系硬化剤は、複数のアミノ基と、1個以上のアミド基を有する。このアミノ基が、エポキシ基と反応し得る。ポリアミド系硬化剤の具体例としては、ポリアミドアミン硬化剤及びその変性物が挙げられる。ポリアミドアミン硬化剤は、重合脂肪酸とポリアミンとの縮合反応によって得られる。典型的な重合脂肪酸は、リノール酸、リノレイン酸等の不飽和脂肪酸を多く含む天然脂肪酸類が触媒存在下で加熱されて合成されることで得られる。不飽和脂肪酸の具体例としては、トール油、大豆油、亜麻仁油及び魚油が挙げられる。ダイマー分が90質量%以上であり、トリマー分が10質量%以下であり、且つ水素添加された重合脂肪酸が好ましい。好ましいポリアミンとしては、ポリエチレンジアミン、ポリオキシアルキレンジアミン及びこれらの誘導体が例示される。
エポキシ樹脂とポリアミド系硬化剤との混合において、エポキシ樹脂のエポキシ等量とポリアミド系硬化剤のアミン活性水素等量との比は、1.0/1.4以上1.0/1.0以下が好ましい。
二液硬化型ウレタン樹脂は、主剤と硬化剤との反応によって得られる。ポリオール成分を含有する主剤とポリイソシアネート又はその誘導体を含有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂や、イソシアネート基末端ウレタンプレポリマーを含有する主剤と活性水素を有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂が用いられうる。特に、ポリオール成分を含有する主剤とポリイソシアネート又はその誘導体を含有する硬化剤との反応によって得られる二液硬化型ウレタン樹脂が好ましい。
主剤のポリオール成分としてウレタンポリオールが用いられることが、好ましい。ウレタンポリオールは、ウレタン結合と、少なくとも2以上のヒドロキシル基を有する。好ましくは、ウレタンポリオールは、その末端にヒドロキシル基を有する。ウレタンポリオールは、ポリオール成分のヒドロキシル基がポリイソシアネートのイソシアネート基に対してモル比で過剰になるような割合で、ポリオールとポリイソシアネートとが反応させられることによって得られうる。
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリオールは、複数のヒドロキシル基を有する。重量平均分子量が50以上2000以下、特には100以上1000以下のポリオールが好ましい。低分子量のポリオールとして、ジオール及びトリオールが挙げられる。ジオールの具体例としては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール及び1,6−ヘキサンジオールが挙げられる。トリオールの具体例としては、トリメチロールプロパン及びヘキサントリオールが挙げられる。高分子量のポリオールとして、ポリオキシエチレングリコール(PEG)、ポリオキシプロピレングリコール(PPG)及びポリオキシテトラメチレングリコール(PTMG)のようなポリエーテルポリオール;ポリエチレンアジぺート(PEA)、ポリブチレンアジペート(PBA)及びポリヘキサメチレンアジペート(PHMA)のような縮合系ポリエステルポリオール;ポリ−ε−カプロラクトン(PCL)のようなラクトン系ポリエステルポリオール;ポリヘキサメチレンカーボネートのようなポリカーボネートポリオール;並びにアクリルポリオールが挙げられる。2種以上のポリオールが併用されてもよい。
ウレタンポリオールの製造に使用されるポリイソシアネートは、複数のイソシアネート基を有する。ポリイソシアネートの具体例としては、2,4−トルエンジイソシアネート、2,6−トルエンジイソシアネート、2,4−トルエンジイソシアネートと2,6−トルエンジイソシアネートの混合物(TDI)、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、1,5−ナフチレンジイソシアネート(NDI)、3,3’−ビトリレン−4,4’−ジイソシアネート(TODI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、テトラメチルキシリレンジイソシアネート(TMXDI)及びパラフェニレンジイソシアネート(PPDI)のような芳香族ポリイソシアネート;4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、水素添加キシリレンジイソシアネート(H6XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)及びイソホロンジイソシアネート(IPDI)のような脂環式ポリイソシアネート;並びに脂肪族ポリイソシアネートが挙げられる。2以上のポリイソシアネートが併用されてもよい。耐候性の観点から、TMXDI、XDI、HDI、H6XDI、IPDI及びH12MDIが好ましい。
ウレタンポリオール生成のためのポリオールとポリイソシアネートとの反応では、既知の触媒が用いられうる。典型的な触媒は、ジブチル錫ジラウリレートである。
補強層6の強度の観点から、ウレタンポリオールに含まれるウレタン結合の比率は0.1mmol/g以上が好ましい。補強層6のカバー8への追従性の観点から、ウレタンポリオールに含まれるウレタン結合の比率は5mmol/g以下が好ましい。ウレタン結合の比率は、原料となるポリオールの分子量の調整及びポリオールとポリイソシアネートとの配合比率の調整により調整されうる。
主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、ウレタンポリオールの重量平均分子量は4000以上が好ましく、4500以上がより好ましい。補強層6の密着性の観点から、ウレタンポリオールの重量平均分子量は10000以下が好ましく、9000以下がより好ましい。
補強層6の密着性の観点から、ウレタンポリオールの水酸基価(mgKOH/g)は15以上が好ましく、73以上がより好ましい。主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、ウレタンポリオールの水酸基価は130以下が好ましく、120以下がより好ましい。
主剤が、ウレタンポリオールとともに、ウレタン結合を有さないポリオールを含有してもよい。ウレタンポリオールの原料である前述のポリオールが、主剤に用いられうる。ウレタンポリオールと相溶可能なポリオールが好ましい。主剤と硬化剤との反応に要する時間が短いとの観点から、主剤におけるウレタンポリオールの比率は、固形分換算で、50質量%以上が好ましく、80質量%以上がより好ましい。理想的には、この比率は100質量%である。
硬化剤は、ポリイソシアネート又はその誘導体を含有する。ウレタンポリオールの原料である前述のポリイソシアネートが、硬化剤に用いられうる。
補強層6が、着色剤(典型的には二酸化チタン)、リン酸系安定剤、酸化防止剤、光安定剤、蛍光増白剤、紫外線吸収剤、ブロッキング防止剤等の添加剤を含んでもよい。添加剤は、二液硬化型熱硬化性樹脂の主剤に添加されてもよく、硬化剤に添加されてもよい。
補強層6は、主剤及び硬化剤が溶剤に溶解又は分散した液が、中間層12の表面に塗布されることで得られる。作業性の観点から、スプレーガンによる塗布が好ましい。塗布後に溶剤が揮発し、主剤と硬化剤とが反応して、補強層6が形成される。好ましい溶剤としては、トルエン、イソプロピルアルコール、キシレン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチルベンゼン、プロピレングリコールモノメチルエーテル、イソブチルアルコール及び酢酸エチルが例示される。
シワの抑制の観点から、補強層6の厚みTrは3μm以上が好ましく、5μm以上がより好ましい。補強層6が容易に形成されるとの観点から、厚みTrは300μm以下、さらには100μm以下、さらには50μm以下、さらには20μm以下が好ましい。厚みTrは、ゴルフボール2の断面がマイクロスコープで観察されることで測定される。粗面処理により中間層12の表面が凹凸を備える場合は、凸部の直上で厚みが測定される。
シワの抑制の観点から、補強層6の鉛筆硬度は4B以上が好ましく、B以上がより好ましい。ゴルフボール2が打撃されたときの、カバー8から中間層12までの力の伝達ロスが小さいとの観点から、補強層6の鉛筆硬度は3H以下が好ましい。鉛筆硬度は、「JIS K5400」規格に準拠して測定される。
中間層12とカバー8とが十分に密着しており、シワが生じにくい場合は、補強層6が設けられなくてもよい。
カバー8には、熱可塑性樹脂組成物が好適に用いられる。この樹脂組成物の基材ポリマーとしては、熱可塑性ポリウレタンエラストマー、熱可塑性ポリエステルエラストマー、熱可塑性ポリアミドエラストマー、熱可塑性ポリオレフィンエラストマー、熱可塑性ポリスチレンエラストマー及びアイオノマー樹脂が挙げられる。特に、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、軟質である。熱可塑性ポリウレタンエラストマーからなるカバー8を備えたゴルフボール2がショートアイアンで打撃されたときのスピン速度は、大きい。熱可塑性ポリウレタンエラストマーからなるカバー8は、ショートアイアンでのショットにおけるコントロール性能に寄与する。熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、カバー8の耐擦傷性能にも寄与する。さらに、熱可塑性ポリウレタンエラストマーにより、パター又はショートアイアンで打撃されたときの優れた打球感が達成されうる。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーと他の樹脂とが併用されてもよい。併用される場合は、コントロール性能の観点から、熱可塑性ポリウレタンエラストマーが基材ポリマーの主成分とされる。全基材ポリマーに占める熱可塑性ポリウレタンエラストマーの比率は50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、85質量%以上が特に好ましい。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーは、ハードセグメントとしてのポリウレタン成分と、ソフトセグメントとしてのポリエステル成分又はポリエーテル成分とを含む。ポリウレタン成分の硬化剤としては、脂環式ジイソシアネート、芳香族ジイソシアネート及び脂肪族ジイソシアネートが例示される。特に、脂環式ジイソシアネートが好ましい。脂環式ジイソシアネートは主鎖に二重結合を有さないので、カバー8の黄変が抑制される。しかも、脂環式ジイソシアネートは強度に優れるので、カバー8の傷つきが抑制される。2種以上のジイソシアネートが併用されてもよい。
脂環式ジイソシアネートとしては、4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(H12MDI)、1,3−ビス(イソシアナトメチル)シクロヘキサン(H6XDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)及びトランス−1,4−シクロヘキサンジイソシアネート(CHDI)が例示される。汎用性及び加工性の観点から、H12MDIが好ましい。
芳香族ジイソシアネートとしては、4,4’−ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)及びトルエンジイソシアネート(TDI)が例示される。脂肪族ジイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート(HDI)が例示される。
材料硬度が50以下、さらには45以下、さらには38以下、さらには34以下である熱可塑性ポリウレタンエラストマーが好ましい。このエラストマーにより、カバー8の小さな硬度Hcが達成されうる。過剰なスピンが防止されるとの観点から、材料硬度は20以上、さらには26以上が好ましい。材料硬度の測定には、ポリマー単体からなるシートが用いられる。測定方法は、中間層12の硬度Hmの測定方法と同等である。
熱可塑性ポリウレタンエラストマーの具体例としては、BASFジャパン社の商品名「エラストランXNY80A」、「エラストランXNY85A」、「エラストランXNY90A」、商品名「エラストランXNY97A」、商品名「エラストランXNY585」及び商品名「エラストランXKP016N」;並びに大日精化工業社の商品名「レザミンP4585LS」及び商品名「レザミンPS62490」が挙げられる。小さな硬度Hcが達成されうるとの観点から、「エラストランXNY80A」、「エラストランXNY85A」及び「エラストランXNY90A」が特に好ましい。
カバー8には、必要に応じ、二酸化チタンのような着色剤、硫酸バリウムのような充填剤、分散剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、蛍光剤、蛍光増白剤等が、適量配合される。比重調整の目的で、カバー8にタングステン、モリブデン等の高比重金属の粉末が配合されてもよい。
カバー8の硬度Hcは、50以下である。このカバー8は、軟質である。ゴルフボール2がショートアイアンで打撃されたとき、厚みTcが小さいにもかかわらずカバー8が十分に変形する。この変形により、ショートアイアンのフェースとゴルフボール2との長い接触時間が達成される。長い接触時間により、大きなスピン速度が得られる。長い接触時間はまた、スピン速度のばらつきを抑制しうる。しかも、このカバー8により、優れた耐擦傷性能も達成されうる。さらに、このカバー8により、パター又はショートアイアンで打撃されたときの優れた打球感が達成されうる。カバー8は薄いので、このゴルフボール2がドライバーで打撃されたとき、硬度Hcが小さいにもかかわらず、カバー8が反発性能を阻害しない。このゴルフボール2は、スピン性能、スピン安定性、耐擦傷性能、打球感及び反発性能に優れる。反発性能と、後述されるディンプル効果とにより、大きな飛距離が得られる。これらの観点から、硬度Hcは45以下がより好ましく、40以下が特に好ましい。ドライバーでのショットにおけるスピン抑制の観点から、硬度は20以上が好ましく、23以上がより好ましく、26以上が特に好ましい。
カバー8の厚みTcは、1.0mm以下である。前述のように、カバー8は軟質である。軟質なカバー8は、ゴルフボール2の反発係数の面では不利である。ドライバーでのショットでは、ゴルフボール2のコア4も大きく変形する。厚みTcが1.0mm以下に設定されることにより、カバー8が軟質であっても、ドライバーでのショットにおける反発係数にカバー8が大幅な悪影響を与えることがない。中間層12にアイオノマー樹脂が用いられることで、ドライバーでのショットにおける優れた飛行性能が達成されうる。
飛行性能の観点から、厚みTcは0.8mm以下がより好ましく、0.5mm以下が特に好ましい。過小なスピン速度の抑制の観点から、厚みTcは0.1mm以上が好ましく、0.2mm以上がより好ましい。
ゴルフボール2の圧縮変形量D3は、2.20mm以上2.90mm以下が好ましい。圧縮変形量D3が2.20mm以上であるゴルフボール2は、打球感に優れる。この観点から、圧縮変形量D3は2.25mm以上がより好ましく、2.30mm以上が特に好ましい。圧縮変形量D3が2.90mm以下であるゴルフボール2は、反発性能に優れる。この観点から、圧縮変形量D3は2.85mm以下がより好ましく、2.80mm以下が特に好ましい。
本発明に係るゴルフボール2では、圧縮変形量D3と圧縮変形量D2との差が小さい。換言すれば、比(D2/D3)が1.00に近い。比(D2/D3)は、カバー8の厚み及び硬度Hcに依存する指標である。比(D2/D3)が1.00に近いゴルフボール2では、圧縮変形量D3にカバー8が与える影響が小さい。比(D2/D3)が1.00に近いゴルフボール2では、カバー8が薄く、かつカバー8の硬度Hcが低い。このカバー8は、スピン性能、スピン安定性及び耐擦傷性能に寄与する。
比(D2/D3)は、0.98以上1.10以下が好ましい。比(D2/D3)が0.98以上であるゴルフボール2がドライバーで打撃されたとき、過剰なスピンが生じない。この観点から、比(D2/D3)は0.99以上がより好ましく、1.00以上が特に好ましい。比(D2/D3)が1.10以下であるゴルフボール2は、ショートアイアンでのショットにおけるスピン性能及びスピン安定性に優れる。この観点から、比(D2/D3)は1.08以下がより好ましく、1.07以下がさらに好ましく、1.05以下が特に好ましい。
図2は、図1のゴルフボール2が示された拡大正面図である。この図2には、2つの極点P、2つの第一緯線22、2つの第二緯線24及び赤道26が画かれている。極点Pの緯度は90°であり、赤道26の緯度は0°である。第一緯線22の緯度は、第二緯線24の緯度よりも大きい。
このゴルフボール2は、赤道26よりも上の北半球Nと、赤道26よりも下の南半球Sとからなる。北半球N及び南半球Sのそれぞれは、極近傍領域28、赤道近傍領域30及び調整領域32を備えている。第一緯線22は、極近傍領域28と調整領域32との境界線である。第二緯線24は、赤道近傍領域30と調整領域32との境界線である。極近傍領域28は、極点Pと第一緯線22との間に位置する。赤道近傍領域30は、第二緯線24と赤道26との間に位置する。調整領域32は、第一緯線22と第二緯線24との間に位置する。換言すれば、調整領域32は、極近傍領域28と赤道近傍領域30との間に位置する。
極近傍領域28、赤道近傍領域30及び調整領域32は、それぞれ多数のディンプル18を備えている。図2から明らかなように、全てのディンプル18の平面形状は円である。第一緯線22又は第二緯線24と交差するディンプル18では、このディンプル18の中心位置に基づき、所属する領域が決定される。第一緯線22と交差するディンプル18であって、その中心が極近傍領域28に位置するディンプル18は、極近傍領域28に所属する。第一緯線22と交差するディンプル18であって、その中心が調整領域32に位置するディンプル18は、調整領域32に所属する。第二緯線24と交差するディンプル18であって、その中心が赤道近傍領域30に位置するディンプル18は、赤道近傍領域30に所属する。第二緯線24と交差するディンプル18であって、その中心が調整領域32に位置するディンプル18は、調整領域32に所属する。ディンプル18の中心とは、ディンプル18の最深部とゴルフボール2の中心とを結ぶ直線が仮想球と交差する点である。仮想球は、ディンプル18が存在しないと仮定されたときのゴルフボール2の表面である。
図3、4及び5は、図2のゴルフボール2が示された平面図である。図3には、第一緯線22及び第二緯線24と共に、5つの第一経線34が示されている。この図3において第一緯線22に囲まれているのが、極近傍領域28である。極近傍領域28は、5つのユニットUpに区画されうる。ユニットUpは、球面三角形である。ユニットUpの輪郭は、第一緯線22の一部と2つの第一経線34とからなる。図3では、1つのユニットUpに関し、符号A、B、E及びFによりディンプル18の種類が示されている。極近傍領域28は、直径が4.55mmであるディンプルAと、直径が4.45mmであるディンプルBと、直径が3.85mであるディンプルEと、直径が3.00mmであるディンプルFとを備えている。
5つのユニットUpのディンプルパターンは、72°回転対称である。換言すれば、あるユニットUpのディンプルパターンが極点Pを中心として経度方向に72°回転すると、隣のユニットUpのディンプルパターンと実質的に重なる。ここで「実質的に重なる」状態には、一方のディンプル18が他方のディンプル18と完全に一致する状態のみならず、一方のディンプル18が他方のディンプル18と多少ずれる状態も含まれる。ここで「多少ずれる状態」には、一方のディンプル18の中心が他方のディンプル18の中心から多少離れた状態が含まれる。一方のディンプル18の中心と他方のディンプル18の中心との距離は、1.0mm以下が好ましく、0.5mm以下がより好ましい。ここで「多少ずれる状態」には、一方のディンプル18の寸法が他方のディンプル18の寸法とは多少異なる状態が含まれる。寸法差は0.5mm以下が好ましく、0.3mm以下がより好ましい。寸法とは、ディンプル18の輪郭に画かれうる最長線分の長さを意味する。円形ディンプル18の場合は、その寸法は直径と一致する。
図4には、第一緯線22及び第二緯線24と共に、6つの第二経線36が示されている。この図4において第二緯線24の外側が、赤道近傍領域30である。赤道近傍領域30は、6つのユニットUeに区画されうる。ユニットUeは、球面台形である。ユニットUeの輪郭は、第二緯線24の一部、2つの第二経線36及び赤道26(図2参照)の一部からなる。図4では、1つのユニットUeに関し、符号AからFによりディンプル18の種類が示されている。極近傍領域28は、直径が4.55mmであるディンプルAと、直径が4.45mmであるディンプルBと、直径が4.25mmであるディンプルCと、直径が4.10mmであるディンプルDと、直径が3.85mであるディンプルEと、直径が3.00mmであるディンプルFとを備えている。
6つのユニットUeのディンプルパターンは、60°回転対称である。換言すれば、あるユニットUeのディンプルパターンが極点Pを中心として経度方向に60°回転すると、隣のユニットUeのディンプルパターンと実質的に重なる。赤道近傍領域30のディンプルパターンは、3つのユニットにも区画されうる。この場合、各ユニットのディンプルパターンは、120°回転対称である。赤道近傍領域30のディンプルパターンは、2つのユニットにも区画されうる。この場合、各ユニットのディンプルパターンは、180°回転対称である。赤道近傍領域30のディンプルパターンは、3つの回転対称角度(すなわち60°、120°及び180°)を有する。回転対称角度を複数有する領域では、最も小さい回転対称角度(この例では60°)に基づき、ユニットUeが区画される。
図5には、第一緯線22及び第二緯線24が示されている。この図5において第一緯線22と第二緯線24とに囲まれているのが、調整領域32である。図5には、調整領域32が備えるディンプル18に関し、符号A、D及びEによりその種類が示されている。調整領域32は、直径が4.55mmであるディンプルAと、直径が4.10mmであるディンプルDと、直径が3.85mであるディンプルEとを備えている。
調整領域32のディンプルパターンは、平面視において、X−X線に対して線対称である。このディンプルパターンは、X−X線以外に対称線を有さない。極点Pを中心とした0°超360°未満の回転では、ディンプルパターン同士の重なりは生じない。換言すれば、調整領域32のディンプルパターンは、互いに回転対称である複数のユニットに区画されえない。
調整領域32のディンプルパターンが、回転対称である複数のユニットに区画されうるものでもよい。この場合、調整領域32のユニットの数は、極近傍領域28のユニットUpの数と異なる必要があり、さらに、赤道近傍領域30のユニットUeの数とも異なる必要がある。
このゴルフボール2では、極近傍領域28のユニットUpの数Npが5であり、赤道近傍領域30のユニットUeの数Neが6である。両者は、異なっている。数Npと数Neとが異なっているディンプルパターンは、変化に富んでいる。このゴルフボール2では、飛行中の空気の流れがよく乱される。このゴルフボール2は、飛行性能に優れる。数Npと数Neとの組み合わせ(Np,Ne)は、(5,6)には限られない。他の組み合わせとしては、(2,3)、(2,4)、(2,5)、(2,6)、(3,2)、(3,4)、(3,5)、(3,6)、(4,2)、(4,3)、(4,5)、(4,6)、(5,2)、(5,3)、(5,4)、(6,2)、(6,3)、(6,4)及び(6,5)が例示される。
理由の詳細は不明であるが、本発明者の得た知見によれば、数Np及び数Neの一方が奇数であり、他方が偶数である場合に、大きなディンプル効果が得られる。さらに、数Npと数Neとの差が1であるとき、特に大きなディンプル効果が得られる。この差が1である組み合わせとしては、(2,3)、(3,2)、(3,4)、(4,3)、(4,5)、(5,4)、(5,6)及び(6,5)が例示される。
ディンプル効果の観点から、極近傍領域28が十分な面積を有し、かつ赤道近傍領域30が十分な面積を有することが好ましい。赤道近傍領域30の面積の観点から、第一緯線22及び第二緯線24の緯度は20°以上が好ましく、25°以上がより好ましい。極近傍領域28の面積の観点から、第一緯線22及び第二緯線24の緯度は40°以下が好ましく、35°以下がより好ましい。第一緯線22は、無数の緯線から任意に選択されうる。第二緯線24も、無数の緯線から任意に選択されうる。
ディンプル効果への極近傍領域28の寄与の観点から、ディンプル18の総数に対する極近傍領域28に存在するディンプル18の数の比率は20%以上が好ましく、25%以上がより好ましい。この比率は、40%以下が好ましい。
ディンプル効果への赤道近傍領域30の寄与の観点から、ディンプル18の総数に対する赤道近傍領域30に存在するディンプル18の数の比率は40%以上が好ましく、45%以上がより好ましい。この比率は、65%以下が好ましい。
もし極近傍領域28が境界線を挟んで赤道近傍領域30と隣接すると、ユニットの数の相違に起因して、この境界線の近傍においてディンプル18が密に配置され得ない。この場合、境界線の近傍に広いランドが存在する。広いランドは、ディンプル効果を阻害する。本発明に係るゴルフボール2では、極近傍領域28と赤道近傍領域30との間に調整領域32が存在する。この調整領域32では、ユニットの数に拘泥されることなくディンプル18が配置されうるので、ランドの面積が抑制されうる。この調整領域32により、高い占有率(後に詳説)が達成される。
占有率の観点から、調整領域32が十分な面積を有することが好ましい。この観点から、第一緯線22の緯度と第二緯線24の緯度との差は、5°以上が好ましい 。調整領域32が広すぎると、数Npと数Neとの差によるディンプル効果が損なわれる。ディンプル効果の観点から、第一緯線22の緯度と第二緯線24の緯度との差は、15°以下が好ましく、10°以下がより好ましい。
占有率の観点から、ディンプル18の総数に対する調整領域32に存在するディンプル18の数の比率は5%以上が好ましく、8%以上がより好ましい。数Npと数Neとの差によるディンプル効果の観点から、この比率は20%以下が好ましく、18%以下がより好ましく、16%以下が特に好ましい。
極近傍領域28がユニットUpに区画され、さらに赤道近傍領域30がユニットUeに区画されたゴルフボール2では、回転によりパターンの周期が生じる。ユニットUpの数Np及びユニットUeの数Neが多いほど、周期は短い。数Np及び数Neが少ないほど、周期は長い。適切な周期は、ディンプル効果を高める。適切な周期の観点から、数Np及び数Neは4以上6以下が好ましく、5以上6以下が特に好ましい。数Np及び数Neの最も好ましい組み合わせ(NP,Ne)は、(5,6)及び(6,5)である。図2から図5に示されたゴルフボール2では、(Np,Ne)は(5,6)である。
空力的対称性の観点から、北半球Nのディンプルパターンと南半球Sのディンプルパターンとが等価であることが好ましい。赤道26を含む平面に対して北半球Nのディンプルパターンと鏡面対称であるパターンが、南半球Sのディンプルパターンと実質的に重なるとき、両パターンは等価である。赤道26を含む平面に対して北半球Nのディンプルパターンと鏡面対称であるパターンが、極点Pを中心として回転させられたときに南半球Sのディンプルパターンと実質的に重なるときも、両パターンは等価である。
十分なディンプル効果が得られるとの観点から、ディンプル18の総数は200個以上が好ましく、260個以上が特に好ましい。個々のディンプル18が十分な直径を備えうるとの観点から、総数は500個以下が好ましく、360個以下がより好ましく、350個以下が特に好ましい。
図6は、図1のゴルフボール2の一部が示された拡大断面図である。この図6には、ディンプル18の最深部及びゴルフボール2の中心を通過する平面に沿った断面が示されている。図6における上下方向は、ディンプル18の深さ方向である。図4において二点鎖線38で示されているのは、仮想球である。ディンプル18は、仮想球38から凹陥している。ランド20は、仮想球38と一致している。
図6において両矢印diで示されているのは、ディンプル18の直径である。この直径diは、ディンプル18の両側に共通の接線Tが画かれたときの、一方の接点Edと他方の接点Edとの距離である。接点Edは、ディンプル18のエッジでもある。エッジEdは、ディンプル18の輪郭を画定する。直径diは、2.00mm以上6.00mm以下が好ましい。直径diが2.00mm以上に設定されることにより、大きなディンプル効果が得られる。この観点から、直径diは2.20mm以上がより好ましく、2.40mm以上が特に好ましい。直径diが6.00mm以下に設定されることにより、実質的に球であるというゴルフボール2の本質的特徴が維持される。この観点から、直径diは5.80mm以下がより好ましく、5.60mm以下が特に好ましい。
ディンプル18の面積sは、無限遠からゴルフボール2の中心を見た場合の、輪郭線に囲まれた領域の面積である。円形ディンプル18の場合、面積sは下記数式によって算出される。
s = (di / 2)2 ・ π
図1から図6に示されたゴルフボール2では、ディンプルAの面積は16.26mm2であり、ディンプルBの面積は15.55mm2であり、ディンプルCの面積は14.19mm2であり、ディンプルDの面積は13.20mm2であり、ディンプルEの面積は11.64mm2であり、ディンプルFの面積は7.07mm2である。
本発明では、全てのディンプル18の面積sの合計の、仮想球38の表面積に対する比率は、占有率と称される。十分なディンプル効果が得られるとの観点から、占有率は75%以上が好ましく、78%以上がより好ましく、81%以上が特に好ましい。占有率は、90%以下が好ましい。図2から図6に示されたゴルフボール2では、ディンプル18の合計面積は4675.2mm2である。このゴルフボール2の仮想球38の表面積は5754.9mm2なので、占有率は81.2%である。
本発明において「ディンプルの容積」とは、ディンプル18の輪郭を含む平面とディンプル18の表面とに囲まれた部分の容積を意味する。ゴルフボール2のホップが抑制されるとの観点から、ディンプル18の総容積は250mm3以上が好ましく、260mm3以上がより好ましく、270mm3以上が特に好ましい。ゴルフボール2のドロップが抑制されるとの観点から、総容積は400mm3以下が好ましく、390mm3以下がより好ましく、380mm3以下が特に好ましい。
ゴルフボール2のホップが抑制されるとの観点から、ディンプル18の深さは0.05mm以上が好ましく、0.08mm以上がより好ましく、0.10mm以上が特に好ましい。ゴルフボール2のドロップが抑制されるとの観点から、深さは0.60mm以下が好ましく、0.45mm以下がより好ましく、0.40mm以下が特に好ましい。深さは、接線Tとディンプル18の最深部との距離である。
本発明では、ディンプル18の各部位のサイズは、塗料が塗布されていないゴルフボール2において測定される。塗装層が除去された後のゴルフボール2において、サイズが測定されてもよい。