JP4061434B2 - マルチピースソリッドゴルフボール - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、4層以上の構造を有するマルチピースソリッドゴルフボールに関し、更に詳述すると、飛び性能、打感及びコントロール性が向上すると共に、グリーン上での直進性に優れたマルチピースソリッドゴルフボールに関する。
【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】
現在、種々の構造のゴルフボールが市場に提供されており、中でも競技用ゴルフボールとして一般に用いられているのは、ゴム基材を主材とするソリッドコアをアイオノマー樹脂等からなるカバーで被覆したツーピースソリッドゴルフボールとソリッド又はリキッドセンターに糸ゴムを巻きつけ、これを上記カバーで被覆した糸巻きゴルフボールである。
【0003】
ここで、ツーピースソリッドゴルフボールは、優れた飛び性能及び耐久性を有することから、多くの一般ゴルファーに使用されているが、打感が非常に硬く感じられ、また打撃時の球離れの速さからコントロール性に劣るという欠点を有する。
【0004】
そこで、ソリッドゴルフボールの硬い打感を改良するべく、軟らかいタイプのツーピースソリッドゴルフボールが種々提案されている。このような軟らかいソリッドゴルフボールの傾向として、一般的に軟らかいコアを用いるものが多いが、コアが軟らかいと、反発性が低下して飛び性能が低下すると共に、耐久性が著しく低下するため、ツーピースソリッドゴルフボール本来のもつ優れた飛び性能及び耐久性を維持することができないばかりでなく、実際の使用に耐え難くなるという問題が生じることがある。
【0005】
従って、飛距離、耐久性を劣化させることなくフィーリングやコントロール性の向上を図ることができるソリッドゴルフボールが求められており、このような提案として、内芯球とカバーとの間に中間層を介在させた3層構造からなるスリーピースソリッドゴルフボールを挙げることができる。
【0006】
このようなスリーピースソリッドゴルフボールとして、例えば、
(1)比較的軟らかく直径の小さい内芯球に、この内芯球より硬い中間層を被覆形成してなるソリッドコアを有すると共に、打撃時におけるクラブフェイス面の接触面積率が規定されたスリーピースソリッドゴルフボール(特公平4−55077号公報、特開昭64−80377号公報等)、
(2)ソリッドコア(内芯球)に中間層として内側カバーを被覆し、更にその表面に外側カバーが被覆形成されたスリーピースソリッドゴルフボールであって、上記ソリッドコアの直径及び比重、内側カバーの厚さ、比重及びJIS−C硬度、外側カバーの厚さが規定され、特に内側カバーのJIS−C硬度が比較的高く規定されたスリーピースソリッドゴルフボール(特開平7−24084号公報など)、及び
(3)ソリッドコアの直径及び比重、中間層(内側カバー)の厚さ、比重及びJIS−C硬度、外側カバーの厚さが規定され、特に中間層のJIS−C硬度が比較的高く規定されたスリーピースソリッドゴルフボール(特開平7−24085号公報など)などが提案されている。
【0007】
しかしながら、(1)のスリーピースソリッドゴルフボールに関する提案は、カバーの硬度を明確に規定していないが、比較的軟らかい硬度のカバーを有するゴルフボールを形成すると、反発性が不十分であったり、一方、硬い硬度のカバーを有するゴルフボールを形成すると、該カバーに被覆される中間層がソリッドコアより硬いことに起因して、小変形のアプローチショットなどで打感が硬くなってしまう。
【0008】
また、(2)のスリーピースソリッドゴルフボールは、ソフトな打感を得るこはできるが、外側カバーが硬いためコントロール性に劣る。
【0009】
更に、(3)のスリーピースソリッドゴルフボールも、打感、反発に最も影響あるコアが比較的軟らかく形成されているが、打感が十分に軟らかい範囲では反発が不十分であり、飛距離がでない。逆に反発が十分な範囲のコア硬度だと中間層も硬いため打感が硬くなり、更に、特に低ヘッドスピードのプレーヤーではボールに十分な変形を与えられず、飛距離が十分に得られない。
【0010】
ところで、近年、ソリッドゴルフボールの上述した問題に関し、慣性モーメントを向上させることにより改善を図る提案がある。例えば特公平4−48473号公報は、カバー材やコア材に充填剤を加えることにより、慣性モーメントをコントロールして、飛距離の増大、カバー表面の耐久性や見た目を低下させないソリッドゴルフボールを提案している。
【0011】
しかしながら、この提案はコアの硬度が明確に規定されていないが、硬いコアを使用すると打感が硬くなり、また、軟らかいコアを使用すると、ソフトな打感を得ることはできるが、反発性が低下して飛び性能に劣る上、外側カバーが硬く、コントロール性に劣るという問題を有している。
【0012】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、内芯球、包囲層、内側カバー、外側カバー、ボール重量及び慣性モーメントを適正化することにより、飛び性能、打感、コントロール性、グリーン上での直進性のいずれにも優れているマルチピースソリッドゴルフボールを提供することを目的とする。
【0013】
【課題を解決するための手段及び発明の実施の形態】
本発明者は、上記目的を達成するため鋭意検討を行った結果、内芯球と、該内芯球とを被覆する少なくとも1層以上の包囲層とからなるマルチプルソリッドコアと、該コアを被覆する内側と、該内側を被覆する外側とからなるカバーを有するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記内芯球の硬度を100kg荷重時の変形量(たわみ量)で3〜8mmとし、上記包囲層の表面硬度をショアD硬度で内芯球の表面硬度よりも高く、上記内側カバーのショアD硬度を55以上、外側カバーを熱可塑性ポリウレタンエラストマーにて形成し、ショアD硬度を40〜53とすると共に、ボール重量を44.5〜45.93g、慣性モーメントを81.69〜83.18g・cm2(但し、〔1.52×(ボール重量(g))+12.79〕(g・cm2)以上を満足する)としたマルチピースソリッドゴルフボールを形成することにより、ゴルフボールの各層とボール全体の重量及び慣性モーメントとがそれぞれ適正化され、ドライバーやロングアイアンなどの打撃時には、高反発性を示す上、慣性モーメントが大きく、スピン性能、飛び性能が向上すると共に、非常にソフトな打感が得られ、サンドウェッジやショートアイアン打撃のアプローチショット時には、スピン量が多くランを少なくすることができ、打感が良好で、更にパッティング時には、グリーン上での微妙なアンジュレーションに影響されない優れた直進性を有するものであることを知見した。しかもこの場合、内芯球をゴム基材を主材として形成すると共に、直径を20〜37mmとし、かつコアの直径を32〜41mmとすること、上記内側カバーの厚さを0.5〜3mm、外側カバーの厚さを0.3〜3mmとし、かつ内側カバーと外側カバーとのショアD硬度差を5以上とすること、外側カバー、内側カバー及び包囲層のいずれか1以上に高比重無機充填剤を配合すること、及び外側カバーを熱可塑性ポリウレタンエラストマーで形成することにより、上述した優れた特性をより顕著に発揮できることを知見し、本発明をなすに至ったものである。
【0014】
従って、本発明は、
(1)内芯球とこの内芯球を被覆する少なくとも1層の包囲層とからなるコアと、このコアを被覆する内側カバーとこの内側カバーを被覆する外側カバーとからなるカバーとを具備するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記内芯球の直径が20〜37mmであり、内芯球の硬度が100kg荷重時の変形量で3〜8mmであり、上記包囲層の表面硬度がショアD硬度で内芯球の表面硬度よりも高く、上記内側カバーのショアD硬度が55以上で、外側カバーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーから形成されたショアD硬度が40〜53のものであると共に、ボール重量が44.5〜45.93gで、慣性モーメントが81.69〜83.18g・cm2(但し、〔1.52×(ボール重量(g))+12.79〕(g・cm2)以上を満足する)であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール、
(2)コアの直径が32〜41mmである(1)記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(3)内芯球がゴム基材を主材とし、直径が33.7〜35mmであり、コアの直径が36.7〜41mmである(1)記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(4)内側カバーの厚さが0.5〜3mmで、外側カバーの厚さが0.3〜3mmであり、かつ内側カバーと外側カバーとのショアD硬度差が5以上である(1),(2)又は(3)記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(5)内側カバーと外側カバーとのショアD硬度差が13〜30である(1)〜(4)のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(6)外側カバー、内側カバー及び包囲層のいずれか1以上が高比重無機充填剤を配合してなる(1)〜(5)のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(7)包囲層が熱可塑性樹脂からなる(1)〜(6)のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール、
(8)内層カバーがアイオノマー樹脂又は熱可塑性ポリエステルエラストマーからなる(1)〜(7)のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール
を提供する。
【0015】
以下、本発明を更に詳しく説明すると、本発明のマルチピースソリッドゴルフボール1は、図1に示したように、内芯球3とそれを被覆する包囲層4とからなるソリッドコア2と、内側カバー6と外側カバー7とからなるカバー5とから形成されているもので、上述したように、内芯球の硬度、内芯球と包囲層との表面硬度のショアD硬度差、内側及び外側カバーのショアD硬度、ボール重量及びその慣性モーメントをそれぞれ適正化したものである。なお、本発明において、上記包囲層4は単層に形成しても(この場合、ゴルフボールは4層構造となる)、複数層に形成してもよく、特に制限されるものではない。
【0016】
ここで、ソリッドコア2を構成する内芯球3は、その硬度が100kgの荷重を加えた時の変形量(たわみ量)で3〜8mmであり、特に3.5〜7.5mmであることが好ましい。ここで、100kg荷重負荷時の変形量が8mmより大きいと、反発力が低下し、飛距離が低下する傾向があり、変形量が3mmより小さいとフィーリングが低下する。なお内芯球3の好適な表面硬度は、後述する包囲層よりも低く、ショアD硬度で、通常15〜55、特に20〜50であることが好ましい。
【0017】
また、内芯球3の比重は特に制限されるものではないが、通常、比重1.0〜1.7、特に1.0〜1.5に調整することが好ましい。
【0018】
本発明において、上述した内芯球3は、従来のツーピースソリッドゴルフボールのコアと同様に、公知の材料、製法によって形成することができ、例えば使用し得る材料として、ゴム基材、架橋剤、共架橋剤、不活性充填剤等を挙げることができる。
【0019】
ここで、ゴム基材としては、天然ゴム及び/又は合成ゴムを好適に使用することができ、特に、シス構造を少なくとも40%以上有する1,4−ポリブタジエンが好適に使用し得る。この場合、所望により該ポリブタジエンに、天然ゴム、ポリイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム等を適宜配合してもよい。
【0020】
架橋剤としては、ジクミルパーオキサイドやジ−t−ブチルパーオキサイドのような有機過酸化物が例示されるが、特に好ましくはジクミルパーオキサイドである。架橋剤の配合量はゴム基材100重量部に対して、通常0.5〜2.0重量部が好ましい。
【0021】
共架橋剤としては、不飽和脂肪酸の金属塩、特に、炭素原子数3〜8の不飽和脂肪酸(例えばアクリル酸、メタアクリル酸)の亜鉛塩やマグネシウム塩が例示されるが、アクリル酸亜鉛が特に好適である。この共架橋剤の配合量はゴム基材100重量部に対して5〜50重量部の範囲内で適宜調整することができる。
【0022】
不活性充填剤としては、酸化亜鉛、硫酸バリウム、シリカ、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛等が例示されるが、酸化亜鉛、硫酸バリウムが一般的で、その配合量はコアとカバーの比重、ボールの重量規格等に左右され、特に限定されないが、通常は、ゴム基材100重量部に対して5〜100重量部である。なお、本発明においては上記架橋剤、共架橋剤や、不活性充填剤の配合割合を適宜調整することで最適な重量や内芯球の100kg荷重負荷時の変形量を得ることができる。
【0023】
上記成分を配合して得られる内芯球用組成物は、通常の混練機、例えばバンバリーミキサーやロール等を用いて混練し、内芯球用金型に圧縮又は射出成形し、成形体を架橋剤及び共架橋剤が作用するのに十分な温度(例えば架橋剤としてジクミルパーオキサイドを用い、共架橋剤としてアクリル酸亜鉛を用いた場合には約130〜170℃)で加熱硬化することにより、内芯球を調製することができる。
【0024】
以上のようにして得られる内芯球は、後述する包囲層、内側カバー及び外側カバーの厚さに応じてその直径が適宜調整されるが、本発明においては、直径が20〜37mm、特に22〜35mmになるように形成されることが好ましい。
【0025】
次に、内芯球3を被覆する包囲層4は、その表面硬度がショアD硬度で上記内芯球の表面硬度より高く形成するもので、このように比較的軟らかい内芯球3に対して比較的硬く、反発性の良好な包囲層を被覆することにより、反発を保ちながら非常に軟らかい打感を得ることができる。また、内芯球が軟らかいので低ヘッドスピードのプレイヤーでも十分にボールに変形を与えることができ、十分な飛距離が得られる。この場合、包囲層の表面硬度はショアD硬度で40〜70、特に45〜68であることが好ましく、内芯球の表面硬度より5〜55、特に5〜45高いことが好ましい。
【0026】
また、上記包囲層4は、上記内芯球3と同様にゴム基材を主成分として形成することができるが、アイオノマー樹脂等の熱可塑性樹脂から形成することもでき、この場合、使用し得る熱可塑性アイオノマー樹脂として具体的には、ハイミラン1605、同1856、同1557、同AM7317、同AM7318(三井・デュポンポリケミカル(株)製)等の市販されているものを例示することができ、これらは1種を単独あるいは2種以上を混合して用いることができる。
【0027】
本発明においては、包囲層を形成するのに際し、材料中に高比重無機充填剤を配合して比重を調整することができ、その比重はベースになる材料や内芯球、カバーなどの比重により左右されるが、通常1.0〜1.7、特に1.0〜1.5に調整することができる。この場合、使用し得る高比重無機充填剤として具体的には、タングステン、酸化亜鉛、硫酸バリウムなどを挙げることができる。
【0028】
なお、包囲層4に高比重無機充填剤を配合しない場合、その比重はベースになる材料や内芯球、カバーなどの比重により左右されるが、0.9〜1.3、特に0.9〜1.2であることが好ましい。
【0029】
上記包囲層4を使用してソリッドコア2を得るには、上記内芯球3を金型内に設置した後、上記材料のゴム組成物又は樹脂材料に応じて圧縮成形又は射出成形により内芯球3上に被覆形成する公知の方法に従って行えばよい。なお、包囲層4が2層以上の場合にも同様の方法でソリッドコアを形成することができる。
【0030】
本発明において、上記内芯球3と包囲層4とからなるソリッドコア2は、上述したショアD硬度による表面硬度範囲を満たすものであればよく、特に制限されるものではないが、コアとしての直径が32〜41mm、特に34〜40mmに形成し得る。
【0031】
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、上述した内芯球3と包囲層4とからなるソリッドコア2にカバー5を被覆してなるもので、このカバー5は、ソリッドコア2の表面を被覆する内側カバー6と、この内側カバー6の表面を被覆する外側カバー7とからなるものである。
【0032】
ここで、内側カバー6はショアD硬度で55以上、特に55〜70であり、また外側カバー7は、上記内側カバー6よりもショアD硬度が低く、ショアD硬度40〜53である。また、その硬度差は5以上、好ましくは5〜30であることが望ましい。
【0033】
このように外側カバーを軟らかくすることにより、アプローチショット時におけるスピン性能、アプローチショット、パッティング時の打感をソフトにすることができる。また、内側カバーに硬く、反発のよい樹脂を用いることにより、飛び性能を良好に保つことができる。
【0034】
また、上記内側カバー6の厚さは、0.5〜3mm、特に0.7〜2.8mmで、外側カバー7の厚さは0.3〜3mm、特に0.5〜2.5mmであることが好ましい。内側カバーが厚すぎるとフィーリングが悪くなり、逆に薄すぎるとボールの反発性が低下し、良好な飛び性能が得られない場合がある。また、外側カバーが薄すぎると、ボールの耐久性が劣化し、厚すぎると反発性が低下する。
【0035】
更に、内側カバー6を構成する材料は特に制限されるものではなく、公知のカバー材を使用し得、アイオノマー樹脂や非アイオノマー樹脂の熱可塑性樹脂を用い、上述した硬度に形成することができる。この場合、内側カバーとしては、ハイミラン1605、同1706、同1557、同1856、同1601、同AM7317、同AM7318、(三井・デュポンポリケミカル(株)製)等の熱可塑性アイオノマー樹脂、ハイトレル5557(東レ・デュポン(株)製)等の熱可塑性ポリエステルエラストマーなどの市販品を例示することができ、これらは単独或いは2種以上を混合して用いることができる。
【0036】
一方、外側カバー材としては、具体的には、熱可塑性ポリウレタンエラストマーを挙げることができ、1種又は2種以上使用することができる。具体的には、パンデックスT7890,同T7298(商品名:大日本インキ化学工業(株)製)等の熱可塑性ポリウレタンエラストマーなどの市販されているものを挙げることができ、本発明においては、特に、上述した熱可塑性ポリウレタンエラストマーを用いることが好ましい。
【0037】
本発明においては、外側カバー7及び内側カバー6の比重を調整するため、高比重無機充填剤を添加することができ、この充填剤としては、上述した包囲層4と同様のもの挙げることができ、その使用量も同様とすることができ、これによってその比重を、ベースになる樹脂やコアの比重などによって左右されるが、通常1.0〜1.5とすることができる。なお、高比重無機充填剤を配合しない場合の比重は、使用する樹脂によって左右されるが、0.9〜1.2とすることができる。
【0038】
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、ボール重量が44.5〜45.93gに形成され、下記式(1)にて決定される値以上の慣性モーメント(MI)を有するものである。
【0039】
MI(g・cm2)=1.52×(ボール重量(g))+12.79…(1)
【0040】
即ち、本発明者の検討によると、慣性モーメントは、カバー硬度との相関で適性範囲を有している。つまり、カバーが硬いと大きい必要があり、軟らかいと硬いカバーほど大きい必要がない。それは、カバーが軟らかいとインパクト時の摩擦力が大きくスピンが掛かりやすく、逆にカバーが硬いと摩擦力が小さいためスピンが掛かりにくくなるためで、硬いカバーを用い、低いスピン量で打ち出されたボールは、慣性モーメントが小さいと早く減衰してしまい、落ちる際失速してしまう。逆に、軟らかいカバーを用い、高いスピン量で打ち出されたボールは、慣性モーメントが大きすぎると、スピン減衰が小さいために、飛翔中必要以上のスピンにより吹き上がり気味になり、いずれも飛距離が低下する傾向になる。
【0041】
本発明のゴルフボールにおいては、カバー5は硬い内側カバーと軟らかい外側カバーとからなっており、上述した単層カバーの硬度の硬軟による慣性モーメントの規定をそのまま適用できない上、軟らかい内芯球と硬い包囲層とからなるソリッドコアを被覆形成されるものであるゆえ、この硬軟構造に適した慣性モーメントの規定を上述した範囲に適正化したものである。従って、慣性モーメントが上述した値より低いと、スピン保持力が十分でなく、伸びのある弾道が得られずに飛距離の低下を招くこととなる。
【0042】
また、このように慣性モーメントを大きくすることにより、パッティング時におけるグリーン上での転がり性が向上し、グリーン上の微妙なアンジュレーションに左右されることのない優れた直進性を得ることができる。
【0043】
なお、慣性モーメントは、各層の径(厚さ)及び比重から求めた計算値であり、ボールを球形とみなすことにより下記式(2)により求めることができる。この場合、計算上ボールを球形にしているが、実際にはディンプルが存在するため、外側カバー層の比重は実際の外側カバー樹脂よりも小さくなる。ここではそれを外側カバー仮想比重と呼び、これを用いて慣性モーメントを計算する。
【0044】
MI=A×{(a−b)×m5+(b−c)×n5+(c−d)×p5+d×q5} …(2)
MI:慣性モーメント(g・cm2)
A:定数、π/5880000
a:内芯球比重
b:包囲層比重
c:内側カバー比重
d:外側カバー仮想比重
m:内芯球直径
n:コア直径
p:コアに内側カバーを被覆した後の球体の直径
q:ボール直径
*各層の直径及び厚さの単位はmm
【0045】
従って、内芯球、包囲層、内側カバー、外側カバーの比重、直径等を適宜選定して、式(2)から求めた慣性モーメントを式(1)で定まるボール重量にて算出する慣性モーメント以上の値とするものである。
【0046】
また、上記式(2)は包囲層が単層の場合であるが、包囲層が多層の場合も同様の式で計算することができる。
【0047】
以上のように、本発明のゴルフボールは、上記内芯球3、包囲層4、内側カバー6、及び外側カバー7の各層と、これらが積層されたゴルフボールのボール重量及び慣性モーメントとが適正化されているので、ドライバーやロングアイアンで打撃した際には、良好な反発性及び適度に抑えられたスピン量になり、吹き上がりがなく良好なスピン保持力による伸びのある弾道によって飛距離の増大を図ることができ、ショートアイアンやピッチングウェッジで打撃した場合には、スピン特性によってよく止まり、ランの少ないコントロール性に優れた打球を得ることができるので、ピンをデッドに狙うことができ、更に、グリーン上でパッティングを行う場合には、優れた転がり性によって、微妙なアンジュレーションに左右されにくい良好な直進性が得られ、いずれのショット及びパッティングにおいても非常に軟らかく良好な打感が得られ、ラウンド中のあらゆる場面において、優れた性能を発揮し得るものである。
【0048】
本発明のゴルフボールには、通常のゴルフボールと同様にして多数のディンプルを表面に形成することができる。この場合、ディンプル個数は特に制限されるものではないが、通常300〜550個、特に330〜500個とすることができる。また、ディンプルは直径、深さなどが相違する2種又はそれ以上の多種類のものとすることができる。なお、ディンプルの配列態様は、特に制限されるものではなく、正8面体配列、正12面体配列、正20面体配列等の公知のの配列を採用することができる。更に、ディンプルの配列によりボール表面に描かれる模様もスクウェアー形、ヘキサゴン形、ペンタゴン形、トライアングル形などの種々の模様とすることができる。
【0049】
なお、本発明のゴルフボールは、ボール性状については、上記範囲を逸脱しない限り、ゴルフ規則に従い適宜設定することができる。
【0050】
【発明の効果】
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールは、内芯球、包囲層、内側カバー、及び外側カバーと、ボール重量及び慣性モーメントとが最適化されているので、飛び性能、打感、コントロール性に優れ、特に、グリーン上での微妙なアンジュレーションに影響されない優れた直進性を有するもので、ラウンド中のあらゆる場面において、優れた性能を発揮し得る。
【0051】
【実施例】
以下、実施例と比較例とを示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
【0052】
[実施例、比較例]
表1に示した配合組成(単位は全て重量部)のゴム組成物及び熱可塑性樹脂を使用して公知の方法で表2に示した性状のソリッドゴルフボールをそれぞれ得た。この場合、得られたゴルフボールの外側カバーの表面にはそれぞれディンプルを正20面体配列で420個形成した。
【0053】
なお、比較例1〜4のゴルフボールは、下記公報等に基づいて形成したもので、以下の特徴を有する。
【0054】
比較例1:特開平7−24084号公報に従って形成したスリーピースソリッドゴルフボールで、外側カバー硬度がショアD硬度で、コア(内芯球のみ)及び内側カバーのショアD硬度よりも大きい。
【0055】
比較例2:特開平7−24085号公報に従って形成したスリーピースソリッドゴルフボールで、コア(内芯球のみ)のショアD硬度が内側カバーのショアD硬度よりも軟らかい。
【0056】
比較例3:特公平4−48473号公報に従って形成したスリーピースソリッドゴルフボールで、内側カバーの比重が大きく、またコア硬度(内芯球のみの硬度)が外側カバー及び内側カバーの硬度よりもショアD硬度で軟らかい。
【0057】
比較例4:一般的なツーピースソリッドゴルフボールで、コア硬度(内芯球のみの硬度)がカバー硬度よりもショアD硬度で硬い。
【0058】
得られた各ゴルフボールについて、下記方法により、慣性モーメント、飛び性能、スピン性能、打感、及び転がり性を評価した。結果を表2に併記する。
【0059】
慣性モーメント
各構成部分の直径及び厚さは任意の5点を計測して得た値の平均値をとった。重量についてはボールを作る途中で内芯球、コア、内側カバーを被覆したもの、ボールのそれぞれの重量を測定した。また、この測定値から付着重量、体積を算出し、比重を算出した。この場合、外側カバーについては、上述の仮想比重とした。これらの値を下記式(2)に当てはめ、慣性モーメントを算出した。
MI=A×{(a−b)×m5+(b−c)×n5+(c−d)×p5+d×q5} …(2)
MI:慣性モーメント(g・cm2)
A:定数、π/5880000
a:内芯球比重
b:包囲層比重
c:内側カバー比重
d:外側カバー仮想比重
m:内芯球直径
n:コア直径
p:コアに内側カバーを被覆した後の球体の直径
q:ボール直径
*各層の直径及び厚さの単位はmm
【0060】
飛び性能
ツルー・テンパー(True Temper)社製のスウィングロボットを用い、ドライバー(PRO 230 Titan,ロフト10度(ブリヂストンスポーツ(株)製)(#W1))を用いてヘッドスピード50m/sec(HS50)35m/sec(HS35)でそれぞれショットしたときのスピン、キャリー、トータル飛距離を測定した。
【0061】
スピン性能
上記と同様のスウィングロボットにて、サンドウェッジ(#SW)を用いて、ヘッドスピード25m/sec(HS25)で実打した時のスピン量、ラン(トータルとキャリーの差)を測定した。
【0062】
打感
ヘッドスピード約50、約35m/secのプロゴルファー及び女子トップアマ各5名によりドライバー(#W1)、グリーン上でパター(#PT)打撃したときの感触をそれぞれ以下の基準により評価した。
(#W1)
○:軟らかい
△:普通
×:硬い
(#PT)
○:軟らかい
△:普通
×:硬い
【0063】
転がり性
上記打感評価のパッティング時におけるボールの転がり具合を下記基準により評価した。
○:直進性があり転がりに伸びがある。
×:直進性に欠け伸びがない。
【0064】
【表1】
ハイミラン:三井・デュポンポリケミカル社製のアイオノマー樹脂
サーリン:デュポン社製のアイオノマー樹脂
ハイトレル:東レ・デュポン社製のポリエステル系熱可塑性エラストマー
パンデックス:大日本インキ化学工業社製の熱可塑性ポリウレタンエラストマー
【0065】
【表2】
*100kg荷重負荷時のボール変形量(mm)
**上記式(1)から求めたボール重量45.3gの時の慣性モーメント:81.65g・cm2
【0066】
本発明のマルチピースソリッドゴルフボールによれば、内芯球、包囲層、内側カバー、及び外側カバーと、ボール重量及び慣性モーメントとが最適化されているので、飛距離が増大し、優れたスピン性能、非常にソフトな打感が得られる上、ランが少ないためコントロール性がよく、グリーン上での微妙なアンジュレーションに影響されない直進性に優れたゴルフボールであることが認められた。これに対して、比較例1のゴルフボールは、ドライバーで打撃した時の打感は軟らかいが、慣性モーメントが小さいので、スピンの持続力に欠け、飛び性能やコントロール性(ランの大きさ)が劣る上、パッティング時には、外側カバーの硬度が硬いため打感が硬く、転がり具合に劣り、比較例2のゴルフボールは、打感は軟らかいが、コアとカバーが軟らかいので、反発性、飛び性能に劣る上、慣性モーメントが小さいため、スピンの持続力に欠け、飛び性能、コントロール性やパター打撃時の転がり具合に劣る。更に、比較例3のゴルフボールは、内側カバーの比重が大きく、慣性モーメントが大きいため、スピンは持続性があり、飛距離を出すことはできるが、コアが硬いため打感が硬く、カバーが硬いためコントロール性に欠けるもので、更に、比較例4のゴルフボールは、コアが硬いので、打感が硬く感じられる上、カバーが軟らかいので、スピン量が多くなり、飛距離に劣り、しかも慣性モーメントが小さいため、スピンの持続力に欠け、飛び性能、コントロール性、及びパターの転がり具合がいずれも劣る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のマルチピースソリッドゴルフボールの一実施例を示す断面図である。
【符号の説明】
1 マルチピースソリッドゴルフボール
2 ソリッドコア
3 内芯球
4 包囲層
5 カバー
6 内側カバー
7 外側カバー
Claims (8)
- 内芯球とこの内芯球を被覆する少なくとも1層の包囲層とからなるコアと、このコアを被覆する内側カバーとこの内側カバーを被覆する外側カバーとからなるカバーとを具備するマルチピースソリッドゴルフボールにおいて、上記内芯球の直径が20〜37mmであり、内芯球の硬度が100kg荷重時の変形量で3〜8mmであり、上記包囲層の表面硬度がショアD硬度で内芯球の表面硬度よりも高く、上記内側カバーのショアD硬度が55以上で、外側カバーが熱可塑性ポリウレタンエラストマーから形成されたショアD硬度が40〜53のものであると共に、ボール重量が44.5〜45.93gで、慣性モーメントが81.69〜83.18g・cm2(但し、〔1.52×(ボール重量(g))+12.79〕(g・cm2)以上を満足する)であることを特徴とするマルチピースソリッドゴルフボール。
- コアの直径が32〜41mmである請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 内芯球がゴム基材を主材とし、直径が33.7〜35mmであり、コアの直径が36.7〜41mmである請求項1記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 内側カバーの厚さが0.5〜3mmで、外側カバーの厚さが0.3〜3mmであり、かつ内側カバーと外側カバーとのショアD硬度差が5以上である請求項1,2又は3記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 内側カバーと外側カバーとのショアD硬度差が13〜30である請求項1〜4のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 外側カバー、内側カバー及び包囲層のいずれか1以上が高比重無機充填剤を配合してなる請求項1〜5のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 包囲層が熱可塑性樹脂からなる請求項1〜6のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
- 内層カバーがアイオノマー樹脂又は熱可塑性ポリエステルエラストマーからなる請求項1〜7のいずれか1項記載のマルチピースソリッドゴルフボール。
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