JP4753502B2 - 錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、自動車及び電子部品等に用いられる銅又は銅合金製嵌合型端子において、特に接合時の挿入力が低く、接触抵抗が安定しており、耐食性や曲げ加工性に優れる銅又は銅合金製嵌合型端子に関する。
【0002】
【従来の技術】
自動車の電装化の進展と居住性の向上に伴い、電子制御装置に要求される機能が増加し、端子の小型化とともにピン数の増加が進んでいる。現在、電子制御端子は増加して20ピンを超え、50ピンに到る数となっており、挿入力の増加が作業性を悪くさせる原因となっている。このような嵌合型端子には、従来、銅合金に直接、又は下地に銅めっきを施した後に錫めっきを施したものが用いられているが、錫は柔らかく、そのため挿入力が高くなっている。
【0003】
特開昭56−15569号公報には、りん青銅に錫めっきを施した後、加熱溶融処理を行った端子が記載されている。しかし、加熱溶融させた錫層は電気めっき直後の錫層より柔らかく、挿入力は電気錫めっきより高くなる傾向があった。
一方、錫めっき層の厚さを薄くして挿入力を低くすることが考えられるが、錫めっきを薄くすると耐食性が低下する。この耐食性の低下を防止するため、錫めっきの下地としてニッケルめっきを施したものが提案されている。そのほか、錫めっきの下地としてニッケルめっきを施すものとして、特公平1−48355号公報や特開平8−7960号公報が提案されているが、いずれも、錫めっき層の厚さが薄いとニッケルめっき成分が錫めっき層の表層に拡散し、接触抵抗が増加する問題がある。
【0004】
また、錫合金めっきとして鉛やビスマス、カドミウム、アンチモン、インジウム、アルミニウム、銀、亜鉛などを含むものをめっきすることも提案されているが、錫合金めっきのみでは挿入力が高く、高温で使用される場合(エンジンルーム等)に接触抵抗が高くなるという問題がある。
そのほか、厚い錫めっき層を形成した後、加熱処理により該錫めっき層をすべて錫−銅金属間化合物にして、耐食性と低挿入力を確保する方法も提案されているが、全部を合金化させるには加熱時間が長くなり、生産性が悪いとともに、加工性が悪く、Cu6Sn5(η相)だけでなくCu3Snが成長するため、めっき剥離が発生しやすいという問題がある。
さらに最近、錫と鉛のはんだ合金めっき代替として錫と銅の合金めっき浴が開発されているが、錫と銅の合金めっきを施した材料でも、めっき厚さが厚いと挿入力が高くなるという問題がある。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
自動車の電装化が進展し、電子制御端子が増加すると、多数の嵌合型端子を同時に接続する必要があり、挿入力の増加による作業性の低下が問題となっている。さらに、耐食性や安定した接触抵抗、加工性などの特性も当然要求されている。
従って、本発明は、挿入力が低く、耐食性に優れ、経時後の接触抵抗が低く、加工性のよい端子材を提供することを目的とする。
【0006】
【課題を解決するための手段】
先にも述べたように、挿入力を下げるためには錫めっき厚を薄くすることが有効であるが、錫めっき層の厚さを薄くすると、耐食性が低下する。しかし、本発明者らは、錫めっき層の全部又は一部を錫−銅金属間化合物(η相)が分散した錫めっき層とすることにより、錫めっき層全体の厚さを厚くしても、錫めっき層を薄くしたと同じく挿入力を低下させることができることを見い出した。また、同時に、錫−銅金属間化合物が分散した上記錫めっき層は生産性が高く、加工性に優れ、かつめっき剥離もおきにくいことを見い出した。
【0007】
本発明は上記知見に基づいてなされたもので、本発明に係る錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子は、銅又は銅合金からなる母材の表面に錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層が形成されていることを特徴とする。この場合、錫−銅金属間化合物が分散した前記錫めっき層の下地に、ニッケル又はニッケル合金めっき層、錫又は錫合金めっき層あるいは銅又は銅合金層のいずれかが形成され、若しくは、錫−銅金属間化合物が分散した前記錫めっき層の下地に、錫又は錫合金めっき層と、その下にニッケル又はニッケル合金めっき層が形成されていてもよい。また、下地めっき層の構成は上記の例に限定されるものではなく、前記下地錫又は錫合金のさらに下地として例えば銅又は銅合金層が形成されていてもよく、さらに、前記錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の下地としてあるいは前記下地錫又は錫合金めっき層のさらに下地として、例えばニッケル又はニッケル合金めっき層と銅又は銅合金層が多層に形成されていてもよい。
上記錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子において、錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層と下地錫めっき層(下地錫めっき層が形成されている場合)が合計で0.5μm以上の厚さ施されていることが望ましい。
【0008】
【発明の実施の形態】
錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層は、錫と銅を同時にめっき(錫−銅合金めっき)した後、熱処理することにより製造できる。下地めっきを形成する場合は、下地めっきを行い、その上に錫−銅合金めっきを行った後、熱処理を行う。
錫−銅合金めっきのめっき浴として、硫酸と硫酸第一錫、硫酸銅5水和物をベースとする硫酸系錫−銅合金めっき浴を挙げることができる。加熱するとめっき皮膜中の不純物成分が表面に拡散・濃縮し、接触抵抗などの特性を低下させるため、めっき皮膜中の不純物や有機成分は0.1質量%以下にすることが望ましい。めっき添加剤として、ポリオキシエチレンクミルフェニルエーテル、ポリオキシエチレンラウリルエーテルなどの分散剤、クレゾールスルホン酸、アセトアルデヒド、アセチルアセトンなどの光沢剤、ホルマリン、カテコール、ヒドロキノンなどの酸化防止剤を少量添加する。めっき温度は液の劣化、錫と銅の置換・酸化を少なくするため30℃以下、例えば15〜20℃が好適である。また電流密度が変化すると錫−銅合金の組成が変化するため、めっき液中の金属濃度比と電流密度(例えば1〜10A/dm2)を調整し、所望の錫−銅合金組成のめっき皮膜を得る。
熱処理としては、加熱溶融しない範囲の100〜300℃で、5〜30秒程度加熱することにより、いずれも表層に形成された錫−銅合金めっき層の錫と銅が金属間化合物を形成し、前記のような錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層が形成される。
【0009】
なお、従来方法のように、銅又は銅合金からなる母材に錫めっきを行い、その後に熱処理を行い、下地銅の拡散により錫−銅金属間化合物層を形成させるとCu6Sn5だけでなく、Cu3Snが成長するため、めっき剥離が発生しやすくなる。実際には、めっき剥離を起こさせないために、錫−銅金属間化合物層を0.5μm以上にすることは難しかった。そして、この場合、耐食性及び加工性に問題があった。
【0010】
錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の下地として必要に応じて形成される錫又は錫合金めっきは、耐食性及びはんだ付け性を向上させる作用がある。また、下地として形成されるニッケル又はニッケル合金めっき層などのバリア層は、めっき皮膜の耐熱信頼性を高める。例えば自動車のエンジンルーム内などの高温雰囲気中で長期間使用される場合に、母材の銅が錫めっき層(錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき、下地錫又は錫合金めっき)へ拡散するのを阻み、接触抵抗が増加したり、錫−銅金属間化合物の成長によるめっき剥離が発生するのを防止する。なお、ニッケル合金としては、母材元素の拡散防止効果が得られる組成であれば、鉄、錫、亜鉛、銅、コバルト、リン、銀、ボロンなどの1、2種類を含むものが使用でき、これは長期加熱後にニッケルと錫又はニッケルと銅の2元合金層が層状に成長して合金層界面を形成するのを防ぎ、めっき剥離を防止する効果がある。
錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層及び下地錫又は錫合金めっき層は、要求される耐食性にあわせて厚みを選定でき、例えば、前者は0.1〜1.5μm、後者は0.1〜10μmの間で選択すればよい。両者の合計厚みは、0.5μm以上が望ましい。これが0.5μmより薄いと下地金属の拡散を抑える効果が弱く、耐食性の低下、接触抵抗の増加など、長期使用時の信頼性が低下するためである。なお、この合計厚みが0.5μm以上になると、はんだ付け性が向上するので、特に良好なはんだ付け性が必要とされるメス端子等に好適である。
ニッケル又はニッケル合金めっき層などのバリア層を形成する場合、その厚みは0.1〜3μm程度が望ましい。
また、耐食性を得るためトータルめっき厚みは0.8μm以上あることが望ましい。
【0011】
錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の銅含有量は50原子%以下とする。これは、銅の含有量が50原子%を越えると、層全体が金属間化合物自体の特性を示し、変色しやすくなり、耐食性が低下するとともにはんだ濡れ性が悪くなるためである。加熱による変色を防止するため、銅含有量は10原子%以下が望ましく、銅含有量3.5原子%以下でも挿入力を低くする効果が得られる。一方、銅含有量が1原子%より少ないと挿入力を低くする効果がなくなる。従って、挿入力を低くする度合及び上記の点を考慮して、この錫めっき層に含まれる銅含有量を1〜50%原子の間で選定すればよい。特に1〜10原子%の範囲で選択することが望ましい。
なお、本発明のめっきは、板・条を端子に成形加工した後に施してもかまわない。その場合、熱処理により錫−銅金属間化合物が形成されると同時に端子加工時の応力が緩和される。
【0012】
【実施例】
下記実施例1〜4及び比較例1〜5に示す錫めっき銅又は銅合金板(厚さ0.30mm)を作成し、これを供試材として、下記に示す各種試験を行った。その結果を表1に示す。
・実施例1;Cu−0.1質量%Fe−0.03質量%P−2.0質量%Sn−2.25質量%Znで強度540N/mm2の銅合金板の表面に銅を3.5原子%含む錫−銅合金めっきを1.2μm厚施し、その後200℃で10秒間加熱した。
・実施例2;Cu−0.1質量%Fe−0.03質量%P−2.0質量%Snで強度400N/mm2の銅合金板の表面にコバルトを1質量%含むニッケル合金めっきを0.3μm厚施し、その上に銅を3.5原子%含む錫−銅合金めっきを0.8μm厚施し、その後200℃で10秒間加熱した。
【0013】
・実施例3;Cu−30.0質量%Znで強度410N/mm2の銅合金板の表面に錫めっきを0.8μm厚施し、その上に銅を3.5原子%含む錫−銅合金めっきを0.3μm厚施し、その後200℃で10秒間加熱した。
・実施例4;Cu−1.8質量%Ni−0.4質量%Si−0.1質量%Sn−1.1質量%Znで強度650N/mm2の銅合金板の表面にコバルトを1質量%含むニッケル合金めっきを0.5μm厚施し、その上に錫めっきを0.8μm厚施し、その上に銅を3.5原子%含む錫−銅合金めっきを0.3μm厚施し、その後200℃で10秒間加熱した。
【0014】
・比較例1;Cu−0.1質量%Fe−0.03質量%Pで強度350N/mm2の銅合金板の表面に1.2μm厚の錫−銅合金をめっきし、加熱処理はしなかった。
・比較例2;Cu−0.1質量%Fe−0.03質量%P−2.0質量%Snで強度400N/mm2の銅合金板の表面に0.3μm厚の錫をめっきし、加熱処理はしなかった。
・比較例3;Cu−0.1質量%Fe−0.03質量%Pで強度350N/mm2の銅合金板の表面に錫をめっきした後、加熱処理を行い、錫層すべてをSn−Cu金属間化合物層とした。
・比較例4;Cu−4.0質量%Sn−0.1質量%Pで強度450N/mm2の銅合金板の表面に1.0μm厚の錫をめっきした後、加熱処理を行い、めっき皮膜の一部(下層域)を錫−銅金属間化合物層とした。
・比較例5;Cu−40.0質量%Znで強度410N/mm2の銅合金板の表面にコバルトを1%含むニッケル合金めっきを0.3μm厚施し、その上に0.2μm厚の銅めっきを施し、さらにその上に0.2μm厚のSnめっきを施した後、加熱処理350℃により錫層と銅層すべてを金属間化合物層とした。
【0015】
<摩擦係数の評価>
嵌合型端子の接点部の形状を模擬し、図1に示すように、各供試材から切り出した板状のオス試験片1を水平な台2に固定し、その上に供試材を内径1.5mmで半球加工したメス試験片3を置いてめっき面同士を接触させ、メス試験片3に2.94N(300gf)の荷重(錘4)をかけてオス試験片を押え、横型荷重測定機(アイコーエンジニアリング株式会社製)を用いてオス試験片1を水平方向に引っ張り(摺動速度80mm/min)、摺動距離5mmまでの最大摩擦力Fを測定した。摩擦係数を下記式(1)により求めた。なお、5はロードセル、矢印は摺動方向である。
摩擦係数=F/2.94・・・・(1)
摩擦係数0.50以下を○(良好)とし、0.50を超えるものは×(不良)と評価した。
【0016】
<接触抵抗の評価>
供試材に対し大気中において160℃で120時間の加熱を行った後、接触抵抗を四端子法により、解放電圧20mV、電流10mA、摺動ありの条件にて測定した。
接触抵抗が3mΩ以下のものを○(良好)とし、3mΩを超えたものは×(不良)と評価した。
【0017】
<亜硫酸ガス耐食性試験>
160℃で120時間加熱した供試材について、亜硫酸ガス濃度25ppm、温度35℃、湿度75%RHの雰囲気に96時間保管後、外観と腐食孔断面を評価した。
素材が腐食していなものを○(良好)とし、素材にまで腐食が達したものものは×(不良)と評価した。
<曲げ加工性の評価>
試験片を圧延方向が長手となるように切り出し、180°の曲げ試験を行い、外観と曲げ断面を評価した。
めっき皮膜の剥離がないものを○(良好)とし、めっき皮膜の剥離や金属間化合物の形成によるボイドが発生したものは×(不良)と評価した。
【0018】
【表1】
【0019】
表1に示すように、実施例1〜4は、摩擦係数が低く、接触抵抗の信頼性に優れ、加熱後にも良好な耐食性を有し、かつ加工性にも優れている。なお、実施例1〜4の断面模式図を図2(a)〜(d)に示す。
一方、比較例1は、加熱処理されていないため錫−銅合金めっき層のままであり、摩擦係数が大きかった。そのため多ピン嵌合型端子に使用すると挿入力が高く、作業性・生産性が悪くなる。比較例2は、錫めっき層が薄いため、摩擦係数は小さいが、耐食性が劣る。比較例3は、加熱処理により母材の銅が拡散して錫−銅金属間化合物層が形成されている。錫−銅金属間化合物層の厚さが薄いため耐食性が悪く、錫層すべてが金属間化合物となっているため加工性も悪い。なお、このタイプでSn−Cu金属間化合物層をさらに厚くしたものは、加熱処理後に錫めっきの剥離が発生した。比較例4は、加熱処理により母材の銅が拡散して錫めっき層の下層部分に錫−銅金属間化合物層が形成されている。錫めっき層が厚いため摩擦係数が大きい。そのため多ピン嵌合型端子に使用すると挿入力が高く、作業性・生産性が悪くなる。比較例5は、加熱処理により銅めっき層と錫めっき層から錫−銅金属間化合物層が形成されている。この加熱処理には時間がかかるため、下地ニッケルが表面に拡散して接触抵抗が大きくなっている。耐食性や加工性も悪い。なお、比較例1〜5の断面模式図を図3(a)〜(e)に示す。
【0020】
【発明の効果】
本発明によれば、挿入力が低く、接触抵抗が安定しており、耐食性や曲げ加工性に優れ、特に多ピン嵌合型端子として作業性、生産性、信頼性に優れた嵌合型端子を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 摩擦係数測定機の概念図である。
【図2】 実施例のめっき層の断面模式図である。
【図3】 比較例のめっき層の断面模式図である。
【符号の説明】
1 オス試験片
2 台
3 メス試験片
4 錘
5 ロードセル
Claims (5)
- 銅又は銅合金からなる母材の表面に錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層が形成されていることを特徴とする錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子。
- 錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の下地に、ニッケル又はニッケル合金めっき層、錫又は錫合金めっき層あるいは銅又は銅合金めっき層のいずれかが形成されていることを特徴とする請求項1に記載された錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子。
- 錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の下地に、錫又は錫合金めっき層と、その下にニッケル又はニッケル合金めっき層が形成されていることを特徴とする請求項1に記載された錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子。
- 錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層の下地に、錫又は錫合金めっき層が形成され、前記錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層及び下地の錫又は錫合金めっき層の厚さが合計で0.5μm以上であることを特徴とする請求項1に記載された錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子。
- 前記錫−銅金属間化合物が分散した錫めっき層及び下地の錫又は錫合金めっき層の合計厚さが0.5μm以上であることを特徴とする請求項3に記載された錫−銅金属間化合物分散錫めっき端子。
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