JP4701571B2 - 呈色マットおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、ミストや液滴状の薬品を識別できる呈色マットに関するものである。特に、性状の異なる有機溶剤である薬品の種別を分析機器や特殊な技術を用いずに瞬時に同定できる呈色試験紙、呈色マットに関する。
【0002】
【従来の技術】
液状の薬品を簡便に識別するものとして例えば水溶液の酸性やアルカリ性の度合いを測定できるPH試験紙などが知られている。また、水溶液中の特定のイオン種を半定量的に測定する試験紙なども市販されている。しかしながら、有機溶剤に関して、その溶剤の種類を瞬時に同定できる呈色紙、呈色マットはない。
【0003】
有機溶剤種の同定には、経験的にはその色、粘性、臭い、他の化合物との溶解性などによって見当を付け、化学分析や機器分析等により同定を行っているのが実状である。
【0004】
たとえば、化学分析による方法では塩素含有有機物をフラスコ燃焼法で得たCl2を捕集後、酸化還元反応を利用する方法がある。アミンに対してはキンヒドロンによる呈色が挙げられ、またアルコールに対しては硝酸セリウムアンモニウムとHNO3酸性で配位化合物形成による呈色が利用される。機器分析ではクロマトグラフ法や吸光法などによって同定される。しかしながら、係る方法の分析によると試験機器や設備が必要となり、容易にかつ速やかに同定することは困難である。
【0005】
上記に示したような化学分析や機器分析による方法では、緊急時、例えば研究室や実験室等において液状の薬品(有機溶剤など)を流出した際、その物質が何であるか不明の場合には適切な対策を速やかに判断できない。酸やアルカリを流出した場合には、PH試験紙等でPHを測定することでその対策として中和する事により適切な対策を打つことが可能となる。しかしながら、有機溶剤などが流出した場合には、PH試験紙では呈色しないため、物質の特定ができずに適切な対策を打つことが困難である。
【0006】
近年地球環境保全意識の高まりから、事故時などに薬品類の事業設備外への流出を防ぐために、誤って流出した薬品の迅速な同定、被害の拡大防止が望まれている。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は塩素系溶剤やアルコール、アミンなどの溶剤に対して、特に排水に流出した場合を想定して水の存在下においても、簡易に瞬時に呈色識別(同定)できる呈色マットを提供するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
前記課題を解決するために本発明者らは鋭意検討の結果、本発明に至った。即ち、少なくとも3種の呈色剤、及び紙力増強剤を含み、マンセル表色系において、紙の色相がマンセルHueで10.0Rから10.0Yの範囲であって、かつ明度がマンセルValueで5.0以上、10.0以下の範囲でかつ、彩度がマンセルChromaで0.5以上、5.0以下の範囲であることを特徴とする呈色試験紙であり、さらには紙のかさ密度が0.1g/cc以上、1.0g/cc以下、厚さが0.1mm以上、0.3mm以下で、紙のステキヒト・サイズ度が100秒以上でかつ、塩素系溶剤と接触した際には赤色に、アルコール類と接触した際には黄色を及びアミン類と接触した際には暗緑青色を呈することを特徴とする耐水性の呈色紙を、吸収するマットが不織布またはパルプを基材としたもの及びフィルムに積層したことを特徴とする呈色マットである。
【0009】
さらに、呈色する呈色剤として、粒径100μm以下でかつ1μm以下の比率が1%未満である粉体状の呈色剤を用いることを特徴とする呈色試験紙を用いる。
【0010】
また、内面サイズ法により抄紙するに際して、パルプと紙力増強剤に定着剤とサイズ剤を混合し、次に沈殿剤と呈色剤粉体とを混合スラリーとした後、凝集剤を添加して抄紙した呈色紙が得られる。
【0011】
紙力増強剤であるPVAは1.0重量%以上、10.0重量%以下、含有していることが望ましい。含有量が少ないと紙の強度が弱く、含有量が多いと対象とする有機溶剤の浸透性が悪く発色性が悪くなるといった問題がある。
【0012】
耐水剤は、抄紙用サイズ剤が用いられ、特にロジン系サイズ剤が好ましい。使用量は、1.0〜10%で、好ましくは3.0〜7.0%である。1.0%以下であればサイジング効果が不十分であり、10%以上添加してもサイジング効果はそれ以上あがらない。
定着剤は、試験紙にサイジング効果を付与させる役目で、硫酸バンドが用いられる。好ましくは、硫酸アルミニウムがよい。使用量は、1.0〜20%で、好ましくは5.0〜10%である。1.0%以下であればサイジング効果が不十分であり、20%以上であれば呈色剤の凝集性に悪影響を及ぼす。
【0013】
沈殿剤としては、顔料の分散剤が使用され、使用量は呈色剤に対して3倍〜20倍、好ましくは5倍〜10倍である。3倍以下であれば、呈色剤の分散が不十分であり、20倍以上であれば呈色剤の試験紙への凝集性が悪くなる。
【0014】
凝集剤としては、抄紙用の合成粘剤があり、特にポリアクリルアミド系が好ましい。また使用量は対パルプで0.1〜1.0%、好ましくは0.2〜0.5%である。0.1%以下であれば、呈色剤の凝集が不十分であり、1.0%以上であれば過凝集となりペーパーの地合が悪くなる。
【0015】
以上のようにして得られた呈色紙を、例えば不織布、パルプなどを基材とした吸収マット及びフィルムと積層して、呈色マット得られる。この積層物は、棚、床などに敷いて用いることができる。これらのマットに有機溶剤が接触した場合、呈色することにより、呈色したものどんな溶剤かが判定でき、かつそれらを吸収することによって、他への流出を防ぐことが可能となる。
【0016】
【発明の実施の形態】
呈色紙はマンセル表色系において、色相が10.0Rから10.0Y、好ましくは、5.0YRから5.0Y以下の範囲であって、かつ明度が5.0以上、10.0以下、好ましくは、6.5以上、8.5以下の範囲でかつ、彩度が0.5以上、5.0以下、好ましくは1.0以上、3.0以下の範囲である。それ以外の場合には呈色した際の識別性が悪くなるといった問題がある。
【0017】
呈色紙は紙のかさ密度が0.1g/cc以上、1.0g/cc以下、好ましくは、0.3g/cc以上、0.6g/cc以下の範囲であって、厚さが0.1mm以上、0.3mm以下、好ましくは、0.15mm以上、0.20mm以下である。かさ密度が0.1g/cc未満の場合、紙強度が不足すると共に、同定すべき薬剤の微少液滴が付着した場合に、液滴が広がらず結果として液滴を識別することができなくなる。又、1.0g/ccを越える紙は製造が困難であるといった問題点がある。同様に、紙の厚さが0.1mm未満の紙は製造が困難であり、0.3mmを越える場合は液滴が広がりにくいといった問題がある。
【0018】
又、呈色試験紙は紙のステキヒト・サイズ度が100秒以上、好ましくは、200秒以上であることが望ましい。100秒未満の場合は試験紙が水に濡れた際に極微量の溶剤で呈色する事が困難な傾向になる。
【0019】
本発明の中で用いる呈色剤は、次に示す組み合わせが最適であるが、本発明において必ずしも制限されるものではない。呈色試験紙が異なる溶剤に異なる呈色を示すことは、呈色剤として2,5,2',5'TetraMethyltriphenylmethane-4,4'-Diazo-bis-β-hydroxynaphthoicanilid(以下TMDと略す)、4-(4'-Phenylazoyl)Phenylazo-Phenol(以下PPPと略す)並びに、Ethyl-bis-(2,4-Dinitrophenyl)Acetate(以下EDAと略す)を含有することで得られる。
【0020】
同定識別すべき溶剤の組み合わせを塩素系溶剤、アルコール類及びアミン系溶剤とした場合は液体が呈色紙に付着した際にTMDは塩素系溶剤にのみ溶解し赤変して、付着した液滴が塩素系溶剤であることを知らしめる。また、付着した液体がアルコール類の場合は電子の振動によりPPPを深色化し、呈色紙が黄色の発色をして付着した液滴がアルコール類であることを知らしめる。同様に、付着した液体がアミン系溶剤の場合は電荷がベンゼン環に遷移することにより、呈色紙が緑色の発色をして付着した液滴がアミン系溶剤であることを知らしめる。
【0021】
本発明においては、色相調整染料として、R.B.Y.7GL(bayer japan製)を0.005〜0.02%添加することにより、より一層鮮明に呈色することができる。
【0022】
この呈色試験紙に接触する有機溶剤の量は、少なくとも0.01μLt以上であれば十分である。これ以下では判定が困難になる傾向があるが、逆に多くつきすぎても効果は同じとなる。この有機溶剤が水とともに呈色紙に付着するだけで十分である。
【0023】
呈色紙は、呈色剤の粒径が1μm以上、100μm以下でかつ、好ましくは、5μm以上75μm以下のものが望ましい。呈色剤の粒径が100μmを越えると、極微量溶剤の呈色が識別困難となり、また1μm以下を越えると紙の地色が濃くかつ明度が暗くなるために極微量有機溶剤の呈色を識別困難となるので本発明の目的とする呈色紙を得ることができない。
【0024】
さらに、呈色剤の粒径が1μm以下の占める割合が、1%未満、好ましくは、0%である。1%以上の場合、紙の地色が濃くかつ明度が暗くなり極微量の有機溶剤の呈色の識別が困難となる。
【0025】
呈色紙は、呈色剤であるTMDを0.2重量%以上、2.0重量%以下、PPPを1.0重量%以上、10.0重量%以下、EDAを1.0重量%以上、10.0重量%以下含有していることが望ましい。呈色剤の含有量が少ないと呈色した際の呈色が薄いために識別が困難となり、含有量が多いと紙の地色が濃くかつ明度が暗くなるために極微量の溶剤の呈色を識別困難となるので本発明の目的とする呈色紙を得ることができない。
【0026】
このようにしてできた耐水性の呈色試験紙を不織布またはパルプ等を基材とした吸収マット及びフィルムと積層して呈色マットができる。吸収マットの基材は、シート状物であれば、特に限定することはなく、用途に応じて選択される。積層した吸収マットの吸収量は100cc/m2、望ましくは500cc/m2以上が望ましい。マットの吸収量が少ないと多量の有機溶剤を漏洩した際に他への流出を防ぐことが困難となり、本発明の目的とする呈色マットを得ることができない。又、マットの下にフィルムを積層する事により溶剤を吸収したマットを通過して、有機溶剤がこぼれ落ちることによる二次汚染を防ぐことが可能となる。
【0027】
【実施例】
以下に実施例を示す。
【0028】
紙のステキヒト・サイズ度はJIS P8122で定められた『紙のステキヒト・サイズ度試験法』に基づき測定した。この値が大きい程、紙の耐水性が高いことを示す。
【0029】
色相、明度、彩度については、JIS Z8721で定められた『三属性による色の表示方法』に基づき測定した。
【0030】
呈色性能の試験方法として、サンプルが標準状態(20℃、RH60%に放置)と水に濡れた状態(20℃の水に30分間浸漬させておく)で、テトラクロロエチレン(薬品A)、イソプロピルアルコール(薬品B)、ジメチルアミン(薬品C)をそれぞれ0.1及び0.01μLt滴下して、発色性能は滴下後5秒以内に発色したものを合格として○×で判定し、識別性能は滴下5秒後に赤色、黄色、緑色に識別できたものを合格として○×で判定した。
【0031】
実施例 1
叩解度SR−15のNBKPパルプとLBKPパルプを各50部、繊度1.1デシテックス、繊維長3mmの繊維状バインダー(PVA)3部、色相調整用の黄色染料(bayer japan製のR.B.Y.7GL)0.01部を混合した後、硫酸アルミニウム5部と白色ロジン(荒川化学製のサイズパインN−771)5部を順に混合する。次に、ここに消泡剤(明成化学製のホームレスP0)5部を混合させた後、あらかじめ呈色剤の5倍の分散剤(明成化学製のディスパーTL)を用いて水中に分散させた平均粒径25μmでかつ1μm以下の比率が0.8%であるTMD0.7部、PPP5部、EDA5部を混合し、最後にアニオン系高分子凝集剤(PAM)0.2部を混合して湿式抄紙を行い、坪量75g/m2の呈色紙とし、これにアクリル繊維を基材とした吸収マット及びPPフィルムと積層して呈色マットを作成した。
【0032】
比較例 1
実施例1で使用したのと同じ叩解度SR−15のNBKPパルプとLBKPパルプを各50部、繊維状バインダー3部、黄色染料0.01部を混合した後、硫酸アルミニウム5部と白色ロジン5部を順に混合する。次に、ここに消泡剤5部を混合させた後、あらかじめ呈色剤の5倍の分散剤を用いて水に分散させた平均粒径14μmでかつ、1μm以下の比率が15%であるTMD0.7部、PPP5部、EDA5部を混合し、最後にアニオン系高分子凝集剤0.2部を混合して湿式抄紙を行い、坪量75g/m2の呈色紙を作成し、これにアクリル繊維を基材とした吸収マット及びPPフィルムと積層して呈色マットを作成した。
【0033】
比較例 2
実施例1で使用したのと同じ叩解度SR−15のNBKPパルプとLBKPパルプを各50部、繊維状バインダー3部、黄色染料0.01部を混合した後、硫酸アルミニウム5部と白色ロジン5部を順に混合する。次に、ここに消泡剤5部を混合させた後、あらかじめ呈色剤の5倍の分散剤を用いて水に分散させた平均粒径150μmでかつ100μm以上の比率が30%であるTMD0.7部、PPP5部、EDA5部を混合し、最後にアニオン系高分子凝集剤0.2部を混合して湿式抄紙を行い、坪量75g/m2の呈色紙を作成し、これを綿を基材とした吸収マット及びPPフィルムに積層して呈色マットとした。
【0034】
比較例 3
叩解度SR−15のNBKPパルプとLBKPパルプを各50部、繊度1.1デシテックス、繊維長3mmの繊維状バインダー3部、色相調整用の黄色染料0.01部を混合した後、あらかじめ呈色剤の5倍の分散剤を用いて水中に分散させた平均粒径25μmでかつ1μm以下の比率が0.8%であるTMD0.7部、PPP5部、EDA5部を混合し、最後にアニオン系高分子凝集剤(PAM)0.2部を混合して湿式抄紙を行い、坪量75g/m2の呈色試験紙を作成し、これにアクリル繊維を基材とした吸収マット及びPPフィルムと積層して呈色マットを作成した。
【0035】
上記実施例1及び比較例1〜3の呈色紙の性量を表1に、呈色性能を比較した結果を表2に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
【表2】
【0038】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明の呈色試験紙と不織布等を基材とした吸収マット及びフィルムと積層した呈色マットは3種類の呈色剤を使用し、その粒径制御や色相調整により塩素系溶剤、アルコール、アミンなどの有機溶剤の呈色識別性に非常に優れている。又、高い吸収性能を有しているために有機溶剤などが漏洩した場合も他への流出を防ぐことが可能となる。
Claims (7)
- 呈色剤として2,5,2',5'TetraMethyltriphenylmethane-4,4'-Diazo-bis-β-hydroxynaphthoic anilid(以下TMDと略す)、4-(4'-Phenylazoyl)Phenylazo-Phenol(以下PPPと略す)並びに、Ethyl-bis-(2,4-Dinitrophenyl)Acetate(以下EDAと略す)の少なくとも1種であって、嵩密度が0.1g/cc以上1.0g/cc以下、厚さが0.1mm以上0.3mm以下であって、ステキヒト・サイズ度が100秒以上の耐水性を有し、かつ少なくとも0.01μLt以上の有機溶剤に接触した際に少なくとも1色の呈色を示し、かつマンセル表色系において紙の色相がマンセルHueで10.0R〜10.0Yの範囲で、かつ明度がマンセルValueで5.0以上10.0以下、彩度がマンセルChromaで0.5以上5.0以下である呈色紙と、有機溶剤を吸収できるマット及びフィルムを積層したことを特徴とする呈色マット。
- 塩素系溶剤、アルコール類、及びアミン類と接触した際に各々異なる色を示す呈色剤を含有することを特徴とする請求項1に記載の呈色マット。
- 呈色紙の呈色剤として粒径が100μm以下でかつ1μm以下の比率が1重量%未満である粉体状の呈色剤を用いた請求項1または2に記載の呈色マット。
- 呈色紙に呈色剤の他に色相調整用染料を添加することを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の呈色マット。
- パルプ、紙力増強剤に定着剤とサイズ剤を順に混合し、次いで沈殿剤及び呈色剤を添加した混合スラリーに凝集剤を添加して抄紙することを特徴とする呈色紙を使用した請求項1乃至3のいずれかに記載の呈色マット。
- 紙力増強剤として繊維状ポリビニルアルコールを用いることを特徴とする請求項5に記載の呈色マット。
- 有機溶剤を吸収できるマットが不織布又はパルプを基材とし、吸収量が100cc/m2以上であることを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の呈色マット。
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