JP4685595B2 - 車両のカウルダクト - Google Patents

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Description

本発明は、車両のカウルダクトに関する。
車両、特に乗用車のカウル内には、カウル内を経由して外気を車室内に直接、又は空調装置を介して間接的に導入するための外気採り入れ口が、配置されている。更に、カウル内にて外気採り入れ口周辺を区画するカウルダクトを形成して、カウル内に導入された外気をエンジン等の熱の影響を抑制した状態で車室内に導入することができる構造のものが提案されている(例えば、非特許文献1参照)。このカウルダクト51は樹脂製で上方が開放されたボックス状を成し、図7に示すように、カウルロア52上に固定されている。カウルダクト51はカウルロア52に形成された孔52aと対応する箇所に孔51aが形成され、孔51aの周囲に孔51aへの水の侵入を防止する環状のリブ51bが形成されている。
カウルダクト51の開放側はカウルルーバ53に覆われている。カウルルーバ53の外気導入孔53aから導入される外気は、カウルルーバ53に設けられたリブ53bに案内されて水が分離された後、カウルダクト51の孔51aへと導かれる。図7において、破線の矢印は水の経路を示し、実線の矢印は水が分離された空気の経路を示す。エンジンルームから空気がカウルダクト51内に侵入しないように、カウルダクト51の開口部周縁とカウルルーバ53との間にはシール部材54が設けられている。
また、車両のカウルとして、衝突物がフロントガラスの下部やカウルルーバ(カウルトップガーニッシュ)に当たって衝撃荷重が作用すると、ガラスサポート部やフロントカウル(フロントバルクヘッド)が変形して下方へ変位し、その間に衝撃エネルギーを吸収するようにしているものがある(例えば、特許文献1参照。)。
特開2002−46649号公報 発明協会公開技報2004−503694号
ところで、特許文献1のカウルでは、衝撃エネルギーの吸収のために、変形量を確保する必要がある。一方、非特許文献のカウルダクトでは、カウル内にてカウルダクト内外を区画するために、上下方向にもほとんど隙間を設けていない。このため、特許文献1のカウル内に前記非特許文献1のカウルダクトを使用すると、衝突物がフロントガラスの下部やカウルルーバに当たって衝撃荷重が作用した際、ガラスサポート部が変形して衝撃エネルギーを吸収しようとしても、ボックス状のカウルダクト51が変形し切らず、カウルダクト51がない場合に比較してエネルギー吸収が悪くなる虞があり、両者を併用する設計には困難が伴った。
本発明は、前記の問題に鑑みてなされたものであって、その目的は、外気をエンジン等の熱の影響を抑制した状態で車室内に導入することができるとともに、衝突物がカウル周辺に上から当たった際、その衝撃エネルギーを吸収するためのカウルの変形に悪影響を及ぼすことを抑制することができる車両のカウルダクトを提供することにある。
前記の目的を達成するため、各請求項に記載の発明は、エンジンルームと車室の間に設けられ、上方を通気孔を有するカウルルーバで覆われるカウルに対し、車室内に外気を供給するための外気採り入れ口が開口されており、前記外気採り入れ口の周辺をカウル内にて区画する車両のカウルダクトにおいて、樹脂製で前壁部、側壁部、後壁部及び底壁部を備えた有底箱状に形成されるとともに、車両のカウル内に車幅方向に延びる状態でかつ開放側が上側になるように配置されるカウルダクトである。そして、前記カウルダクトに上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されている。
各請求項に記載の発明では、車両のカウル内に配置されたカウルダクトは有底箱状で、カウル内を区画し、外気採り入れ口とカウルルーバの通気孔がカウルダクト内のみを介して連通されるため、外気はエンジン等の熱の影響が抑制された状態で車室内に導入される。また、カウルダクトは、上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されているため、カウル周辺に衝撃荷重が上方から作用した際に容易に変形し、カウルルーバ又はカウル構造の変形に悪影響を及ぼさない。従って、衝撃エネルギーが良好に吸収され、衝突物が上から当たったときの衝撃が緩和される。
とくに、請求項1に記載の発明は、後壁部が下縁を残し、上方が切り欠かれた形状に形成されている。従って、この発明では、特にフロントガラス下端に位置するフロントガラス支持部に上方から衝撃荷重が作用し、フロントガラス支持部及び周辺のカウル構造が変形したときに、カウルダクトの後部も容易に追従して変形するため、フロントガラス支持部の変形に悪影響を及ぼすことがない。また、側壁上部が相互に連結されていないため、側壁各々の上部が左右に容易に屈曲し、変形に追従できる。
とくに、請求項2に記載の発明は、後壁部は、一部が除去された形状に形成されており、前記側壁部には前記後壁部より後方に位置する前記カウルの構成部と当接して、前記後壁部側からカウルダクト内への外気の侵入を防止する側面シール部が設けられている。後壁部の一部が除去されたままだと、エンジンルーム内の空気(外気)が後壁部側からカウルダクト内に侵入する場合がある。しかし、この発明では側面シール部が設けられているため、後壁部の除去された(切り欠かれた)部分からエンジンルーム内の空気(外気)がカウルダクト内に侵入するのを防止することができる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記側壁部には線状に延びる易屈曲部が形成されている。従って、この発明では、側壁部が変形し易くなり、フロントガラス支持部に物が上から当たったときの衝撃の緩和がより良好になる。
とくに、請求項3に記載の発明は、前記前壁部と前記側壁部とのコーナ部の上端には切り欠き部が形成されている。従って、この発明では、カウルダクトに上方から衝撃荷重が作用したときに、カウルダクトがより破壊し易くなる。
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の発明において、前記側壁部には線状に延びる易屈曲部が形成されている。従って、この発明では、側壁部が変形し易くなり、フロントガラス支持部に物が上から当たったときの衝撃の緩和がより良好になる。
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の発明において、前記カウルは、前記後壁部と対向する部分に、車両のエンジンルームと車室とを仕切る縦壁状のダッシュパネルの上縁に支持された底壁部の後縁から上方に延びる縦壁部と、前記縦壁部の上縁から車両前側に棚状に張り出す上壁部とを備えている。この発明では、カウルダクトの後壁部と対向するカウルの部分が開いている状態のため、カウルの当該部分及びカウルダクトの後壁部が互いに干渉せずに変形され、衝撃エネルギーの吸収が良好に行われる。
本発明によれば、外気をエンジン等の熱の影響を抑制した状態で車室内に導入することができるとともに、衝突物がカウル周辺に上から当たった際、その衝撃エネルギーを吸収するためのカウルの変形に悪影響を及ぼすことを抑制することができる。
(第1の実施形態)
以下、本発明を左ハンドル用の車両のカウルダクトに具体化した一実施形態を図1〜図5にしたがって説明する。図1は車両のカウル部分の構造を示すとともに図2のA−A線に対応する模式端面図であり、図2はカウル11、カウルダクト12及びカウルルーバ13の模式斜視図である。
図1に示すように、カウル11は、車体のエンジンルームと車室とを仕切る縦壁状のダッシュパネル14の上縁に沿って車幅方向(図1の紙面と垂直方向)に延設されている。なお、図1において、左側が車両の前側である。カウル11は、ダッシュパネル14の上縁に支持された底壁部をなすカウルロア15と、カウルロア15の後縁から起立して上方に延びる状態で設けられた縦壁部としてのカウルインナ16と、カウルインナ16の上縁から車両前側に棚状に張り出す上壁部としてのカウルアウタ17とで構成されたフロントガラス支持部18を備えている。カウルロア15とカウルインナ16とは一つのパネル部材で形成されている。フロントガラス支持部18は、カウルロア15とカウルアウタ17の前縁との間が前方に向かって開放された開断面構造となっている。カウルアウタ17は、フロントガラス19の前縁(下縁)を支持する。フロントガラス19は、カウルアウタ17の上面に前縁が接着された状態で支持されている。
カウルインナ16は、フロントガラス支持部18に上方から衝撃荷重が作用したときに上下方向において屈曲変形容易となるように、上下方向の中間位置に車幅方向全幅にわたって屈曲部16aが形成されている。
カウルロア15には、カウルフロント20が、その後縁とカウルロア15の上面との間にシール材20aが介装された状態で固定されている。カウルロア15には外気採り入れ口としての孔15aが形成されている。図2に示すように、孔15aは、カウルロア15が車両に装備された状態においてカウルロア15の長手方向中央より右寄り(図2では左寄り)に設けられるとともに、略長方形状に形成されている。また、カウルロア15にはカウルダクト12が配置される側の隅部に水抜き孔15bが形成されている。
カウル11内には、樹脂製のカウルダクト12が固定されている。図2及び図3に示すように、カウルダクト12は、前壁部21、側壁部22,23、後壁部24及び底壁部25を備えた有底箱状に形成されている。カウルダクト12は、カウル11の全長の半分より短く形成されるとともに、カウルロア15内の中央より右寄りに車幅方向に延びる状態で、かつ開放側が上側になるように配置されている。カウルダクト12の底壁部25には、カウルロア15の孔15aと対応する箇所に孔25aが形成されるとともに、孔25aの周囲に孔25aへの水の侵入を防止する環状のリブ25bが形成されている。カウルダクト12は、外気採り入れ口の周辺をカウル11内にて区画する。図1及び図2に示すように、リブ25bは基端からの長さ(高さ)が、前側の部分が後側の部分より長く(高く)形成されている。また、カウルダクト12の底壁部25には、カウルダクト12内に進入した水を外部に排出するための水抜き孔25cが、カウルロア15の水抜き孔15bと対向する位置に形成されている。
図2に示すように、カウルロア15には孔15aの長手方向両端部の近くに一対の取付部26が形成されるとともに、取付部26には掛止孔26aが形成されている。カウルダクト12の底壁部25裏面には、前記取付部26の掛止孔26aに掛止される爪部(図示せず)が形成されている。そして、カウルダクト12はその爪部が掛止孔26aに掛け止めされた状態でカウルロア15に固定されている。なお、図1に示すように、カウルダクト12の底壁部25周縁とカウルロア15との間にはシール材27が介在されている。
図2に示すように、カウル11及びカウルルーバ13は、中央部の幅(前後方向の長さ)が端部の幅より広く形成されている。カウル11の底部であるカウルロア15は平坦ではなく、中央部寄りの孔15aが形成された部分から水抜き孔15bが形成された側の端部に向かって下降傾斜するように形成されている。また、カウルダクト12の底壁部25も孔25aが形成された部分から水抜き孔25c側の端部に向かって下降傾斜するように形成されている。
カウルダクト12は、後壁部24に上方から衝撃荷重が作用したときにカウルダクト12が潰れ易く形成されている。この実施形態では、後壁部24は、一部が除去された形状、具体的には後壁部24の全長にわたって上側が除去された形状、即ち、下縁を残し、上方が切り欠かれた形状に形成されている。即ち、後壁部24には除去部24aが設けられている。
図2及び図3に示すように、前壁部21及び側壁部22,23は、それぞれ上端がカウルルーバ13の対向する部分の形状に対応した形状に形成されるとともに、上端にフランジ部21a,22a,23aを備えている。図2に示すように、フランジ部21a,22a,23a上にはシール部材28が設けられている。即ち、カウルダクト12は、上部開口の周縁にシール部材28が設けられるとともに、シール部材28が上部開口を覆うカウルルーバ13とフランジ部21a,22a,23aとで挟持されるようになっている。
図2及び図3に示すように、カウル11の中央寄りに位置する一方の側壁部22には、後壁部24より後方に位置するカウル11の構成部と当接して、後壁部24側からカウルダクト12内への外気の侵入を防止する側面シール部29が設けられている。側面シール部29はゴム製の板材で形成され、先端部がカウルインナ16に当接可能な形状に形成されている。側面シール部29は、側壁部22に熱かしめにより固定されている。具体的には側壁部23に突設された図示しない凸部が側面シール部29に形成された孔から突出する状態に側面シール部29を配置した状態で、凸部の突出端を加圧加熱してリベット状として側面シール部29を固定する。
また、後壁部24の外面には除去部24aの全長に沿った位置と、カウル11の端部寄りに位置する他方の側壁部23に沿った位置とに、フランジ部21a,22a,23aに設けられたシール部材28と同じシール部材28が設けられている。
図3に示すように、両側壁部22,23には、線状に延びる易屈曲部30が形成されている。易屈曲部30は、カウルダクト12に上方から衝撃荷重が作用したときに側壁部22,23が変形容易なように、側壁部22,23の易屈曲部30より上側が外側へ向かって斜め上方に延びるよう形成されている。また、前壁部21と両側壁部22,23とのコーナ部31の上端には切り欠き部32が形成されている。切り欠き部32は前壁部21側及び側壁部22,23側のいずれに設けられてもよいが、この実施形態では切り欠き部32は側壁部22,23側に設けられている。切り欠き部32は、フランジ部22a,23aだけでなく側壁部22,23の上端にかかるように形成されている。そして、易屈曲部30は、その前端が切り欠き部32近くまで延びるように形成されている。
図1に示すように、カウルルーバ13は、上ルーバ部33と下ルーバ部34とを備えている。上ルーバ部33及び下ルーバ部34は、樹脂の射出成形により形成されている。上ルーバ部33はカウル11の全長にわたって延びるように形成されるとともに、前寄りの部分がカウルフロント20によって、後端部がフロントガラス19の前縁(下端)によってそれぞれ支持されるようになっている。図1及び図2に示すように、上ルーバ部33は、カウルダクト12と対応する部分においては、車体に取り付けられた状態で後端からほぼ水平に延びる部分33aと、部分33aの前端から下方に向かって延びる部分33bとを備えるとともに、両部分33a,33bにそれぞれ複数の通気孔としての外気導入孔35(図2に図示)が形成されている。そして、部分33bの下端が前壁部21上のシール部材28に圧接されるようになっている。
図1に示すように、下ルーバ部34は、上ルーバ部33の部分33aの下方と対応する位置に、即ちカウルダクト12と対応する部分に設けられている。下ルーバ部34は、ほぼ水平に延びる部分34aと、部分34aの前端から下方に向かって延びる部分34bとを備えるとともに、部分34bは下端がカウルダクト12のリブ25bの前側部分より前方で、リブ25bの前側部分上端とほぼ同じ高さに位置するように形成されている。
上ルーバ部33の前端には、フードシール取付け部36が車幅方向に沿って、上ルーバ部33全長に亘って延びるように設けられている。フードシール取付け部36には、車体に組み付けられた状態において、フード37と上ルーバ部33の上面との間のシールを確保するためのフードシール38が固定されている。フードシール38は、例えばゴム製でチューブ状に形成されている。
なお、カウルフロント20の外面にはカウルインシュレータ39が固定されている。また、ダッシュパネル14の前面にはダッシュサイレンサー40が固定されている。カウルインシュレータ39は断熱及び遮音作用を備えたものであり、ダッシュサイレンサー40も同様に断熱及び遮音作用を備えたものである。カウルインシュレータ39及びダッシュサイレンサー40は、グラスウールあるいはフェルトで構成されている。
次に前記のように構成されたカウルダクト12等の作用を説明する。
図1に示すように、フード37が鎖線で示す閉鎖位置に配置されると、フード37は先端が上ルーバ部33の部分33bの後端上方に位置する状態で下面がフードシール38に当接する。そして、フード37とカウルルーバ13との間のシールがカウルルーバ13の車幅方向全長に亘って確保される。この状態で車両の走行あるいは空調用のブロアの作用により外気が車室内に導入される際、外気は上ルーバ部33に形成された外気導入孔35から図1に実線の矢印で示すような経路でカウルダクト12の孔25aを経て導入される。即ち、外気導入孔35から進入する外気は、孔25aに向かって直線的に進むことはできず、上ルーバ部33の内側に配置された下ルーバ部34の部分34bと、カウルダクト12のリブ25bの前側部分との作用で進行方向を変更して孔25aへ向かって進む。その結果、雨天時あるいは洗車時に外気を導入する際、外気中に含まれる雨水あるいは洗車水が分離された後の外気(空気)が孔25aから導入される。分離された雨水等は、リブ25bの外側を通って水抜き孔25cから外部へ排出される。
また、カウルダクト12は、後壁部24の上側が除去されているため、シール部材28が前壁部21及び側壁部22,23の上端にのみ設けられた状態では、エンジンの駆動により熱せられたエンジンルーム内の熱い空気が後壁部24側(除去部24a)からカウルダクト内に侵入する場合がある。しかし、カウルダクト12の一方の側壁部22の後端とカウルインナ16との隙間が側面シール部29で塞がれるとともに、他方の側壁部23の後端とカウルインナ16との隙間がシール部材28で塞がれている。さらに、後壁部24の下部とカウルインナ16との隙間はシール部材28によって塞がれている。従って、後壁部24の除去された(切り欠かれた)部分である除去部24aからエンジンルーム内の空気がカウルダクト12内に侵入するのを防止することができる。
図4に示すように、衝突により衝突物Mが上方からフロントガラス19の下部に当たると、フロントガラス支持部18にはフロントガラス19の下端部を介して衝撃荷重Fが作用する。フロントガラス支持部18に衝撃荷重Fが上方から作用すると、衝撃の作用点付近のカウルアウタ17が変形して衝突時のエネルギーが吸収される。また、カウルインナ16が屈曲部16aより上側において下方に押しつぶされるように変形して衝突時のエネルギーが吸収される。その際、カウルダクト12が非特許文献1のように後壁部の一部が除去されておらず、かつ後壁部が変形し易いように形成されていないボックス状の場合は、フロントガラス支持部18が変形して衝撃エネルギーを吸収しようとしても、ボックス状のカウルダクトが変形し切らない。その結果、カウルダクトがない場合に比較してエネルギー吸収が悪くなる。
しかし、この実施形態では、カウルダクト12は、後壁部24の上側が除去された構造のため、後壁部24がフロントガラス支持部18の変形に支障を来すことが無く、互いに連結されることの無い両側壁部22,23の上部も、容易に左右に屈曲するため、図4に鎖線で示すように、フロントガラス支持部18が十分変形して衝突時のエネルギーが吸収される。従って、衝突物Mに強い衝撃を与えることを回避することができる。
実施形態のカウルダクト12をカウル11に取り付けた場合について、EuroNCAP歩行者保護試験を行い、インパクタが受けた衝撃を計測し、傷害値(HIC)を割り出した。また、非特許文献1に記載された従来品のように後部壁は除去されていないが、図5に示すように、カウルダクト12の両側壁部22,23及び後壁部24に易屈曲部30を形成した改良品をカウル11に取り付けた場合についても、EuroNCAP歩行者保護試験を行い、インパクタが受けた衝撃を計測し、傷害値(HIC)を割り出した。その結果、後壁部の上側の有無の影響について、両者の傷害値(HIC)を相対的に比較すると、改良品を1とした場合に、実施形態の製品は0.84であり、16%程の差異が認められた。
(1)カウルダクト12は、エンジンルームと車室の間に設けられ、上方を外気導入孔35を有するカウルルーバ13で覆われるカウル11に対し、車室内に外気を供給するための外気採り入れ口(孔15a)が開口されており、孔15aの周辺をカウル11内にて区画する。そして、カウルダクト12は、樹脂製で前壁部21、側壁部22,23、後壁部24及び底壁部25を備えた有底箱状に形成されるとともに、車両のカウル11内に車幅方向に延びる状態でかつ開放側が上側になるように配置され、カウルダクト12に上方から衝撃荷重Fが作用したときに潰れ易く形成されている。従って、外気採り入れ口とカウルルーバ13の外気導入孔35がカウルダクト12内のみを介して連通されるため、外気はエンジン等の熱の影響が抑制された状態で車室内に導入される。また、カウル11周辺に衝撃荷重Fが上方から作用した際に容易に変形して、衝撃エネルギーが良好に吸収され、衝突物が上から当たったときの衝撃が緩和される。
(2)カウルダクト12の後壁部24は、一部が除去された形状に形成されているため、フロントガラス19を介してカウル11のフロントガラス支持部18に衝撃荷重が上方から作用した際に、フロントガラス支持部18の変形に悪影響を及ぼさずに変形する。従って、衝撃エネルギーがフロントガラス支持部18及びカウルダクト12の変形により吸収されるため、物が上から当たったときの衝撃の緩和が良好になる。
(3)カウルダクト12の後壁部24は、ほぼ全長にわたって上側が除去された形状に形成されているため、フロントガラス支持部18に衝撃荷重が上方から作用した際に、カウルダクト12がフロントガラス支持部18の変形に悪影響を及ぼさずに変形する構成が簡単になる。
(4)一方の側壁部22には後壁部24より後方に位置するカウル11の構成部(フロントガラス支持部18)と当接して、後壁部24側からカウルダクト12内への空気の侵入を防止する側面シール部29が設けられている。従って、一方の側壁部22側の後壁部24とフロントガラス支持部18との距離が離れていても、エンジンルーム内の空気がカウルダクト12内に侵入するのを防止することができる。
(5)側壁部22,23には線状に延びる易屈曲部30が形成されている。従って、フロントガラス支持部18の変形に伴って側壁部22,23が変形し易くなり、フロントガラス支持部18に物が上から当たったときの衝撃の緩和がより良好になる。
(6)前壁部21と側壁部22,23とのコーナ部31の上端には切り欠き部32が形成されているため、カウルダクト12がより破壊し易くなる。切り欠き部32がコーナ部31の側壁部22,23側に形成されているため、前壁部21側に形成された場合に比較して、側壁部22,23が変形し易くなる。
(7)切り欠き部32は側壁部22,23の上端に形成されたフランジ部22a,23aから側壁部22,23の上端にかかるように形成され、易屈曲部30は、その前端が切り欠き部32の近くまで延びるように形成されている。従って、側壁部22,23がより変形破壊され易くなる。
(8)カウル11は、後壁部24と対向する部分に、車両のエンジンルームと車室とを仕切る縦壁状のダッシュパネル14の上縁に支持された底壁部(カウルロア15)の後縁から上方に延びる縦壁部(カウルインナ16)と、カウルインナ16の上縁から車両前側に棚状に張り出す上壁部(カウルアウタ17)とを備えている。従って、カウルダクト12の後壁部24と対向するカウル11の部分が開いている構造のため、カウル11の当該部分及びカウルダクト12の後壁部24が互いに干渉せずに変形され、衝撃エネルギーの吸収が良好に行われる。
(9)カウルフロント20の外面にカウルインシュレータ39が固定されるとともに、ダッシュパネル14の前面にはダッシュサイレンサー40が固定されている。従って、エンジンルーム内の音が車室内に伝達されるのが抑制される。
実施形態は前記に限定されるものではなく、例えば、次のように構成してもよい。
○ カウルダクト12は、上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されていればよく、特に後壁部24はフロントガラス19を介してカウル11のフロントガラス支持部18に衝撃荷重が上方から作用した際に、フロントガラス支持部18の変形に悪影響を及ぼさないように形成されていればよい。従って、後壁部24の上側全長にわたって除去部24aが設けられている構成に限らない。例えば、図6に示すように、後壁部24に除去部として孔41を設けてもよい。孔41は複数個(この実施形態では3個)であっても、1個であってもよい。
孔41を設けることにより、後壁部24を潰れ易くすること、即ちカウルダクト12を潰れ易くすることはできる。しかし、後壁部24側からエンジンルーム内の熱を帯びた空気がカウルダクト12内に侵入するのを防止する構成が必要である。エンジンルーム内の熱を帯びた空気の侵入を防止する構成として、前記実施形態のように、一方の側壁部22に側面シール部29を設けたり、後壁部24の孔41より下側の外面ほぼ全長に沿った位置と、他方の側壁部23に沿った位置とにシール部材28を設けたりしてもよい。しかし、図6に示すように、孔41を樹脂フィルム又はゴム等の軟質材で形成された遮蔽部材42で覆うとともに、後壁部24の上端に形成されたフランジ部24b上にもシール部材28(図示せず)を設けるようにしてもよい。
○ 後壁部24を潰れ易くする構成として、孔41を形成して後壁部24の全長にわたるフランジ部24bを残したり、図5に示すように除去部24aや孔41を形成せずに、後壁部24に易屈曲部30を設けたりした構成の場合は、側壁部22,23と後壁部24とのコーナ部に切り欠き部32を設けてもよい。この場合、側壁部22,23及び後壁部24の上端にフランジ部22a,23a,24bが存在しても、上方から衝撃荷重により側壁部22,23及び後壁部24が変形し易くなる。
○ カウルダクト12におけるカウル11の端部と対応する部分の幅をカウル11の幅に対応して広くせずに、カウル11の中央部と対応する部分の幅とほぼ同様にしてもよい。この場合、後壁部24側からの熱気の侵入を防止するのに側面シール部29を設ける方法を採用する際は、他方の側壁部23にも側面シール部29を設ける必要がある。
○ 物がフロントガラス19の下端に当たって衝撃荷重がフロントガラス支持部18に作用すると、フロントガラス支持部18が変形して衝撃エネルギーを吸収する構成は、カウルインナ16及びカウルアウタ17を前側が開放された形状に接続した構成に限らない。例えば、カウルアウタ17とカウルインナ16の下部との間に、カウル11に上方から衝撃荷重が作用したときに変形して衝撃を吸収する衝撃吸収部材を複数設けてもよい。しかし、カウルインナ16及びカウルアウタ17を前側が開放された形状に接続した構成の方が、フロントガラス支持部18が変形する際に、カウルダクト12特に後壁部24と干渉し難くなり、変形が円滑に行われる。
○ 前壁部21と側壁部22,23とのコーナ部31あるいは後壁部24と側壁部22,23とのコーナ部に設けられる切り欠き部32は、側壁部22,23側に設けられる構成に限らず、前壁部21側又は後壁部24側に設けられたり、前壁部21側、側壁部22,23及び後壁部24側全部に設けられたりしてもよい。
○ カウルダクト12は左右非対称で一方の側壁部22と他方の側壁部23とは形状が大きく異なっていたが、カウルルーバ13の形状によっては両側壁部22,23をほぼ同様な形状にしてもよい。
○ 前記実施形態では左ハンドル用の車両に適用する場合について説明したが、右ハンドル用の車両に適用してもよい。その場合、カウルダクト12はカウル11の左側、図2においては右側に配置されるとともに、カウル11の中央を挟んでほぼ対称に形成される。また、カウルロア15の孔15a及び水抜き孔15bの位置も対応して変更される。これは、一般にカウルダクト12が助手席側に設けられるためである。しかし、カウルダクト12を運転席側に設けるようにしてもよい。
○ 前記実施形態ではカウルルーバ13はカウル11と同様に一つの部品で車幅方向全長にわたるように形成されていたが、カウルルーバ13を右側用の部品と左側用の部品とを連結して構成してもよい。
○ 前記実施形態では、外気採り入れ口としての孔15aが孔25aを介してカウルダクト12の底壁部25に開口しているが、外気採り入れ口の配置は、特に上記の構造に限定されない。例えば本発明は、外気採り入れ口がカウル縦壁部であるカウルインナ16に開口するものに対しても適用できる。
以下の技術的思想(発明)は前記実施形態から把握できる。
(1)前記後壁部には孔が形成されるとともに、前記孔が樹脂フィルム又は軟質材で覆われている。
(2)前記前壁部及び前記後壁部と前記両側壁部とのコーナ部の上端には切り欠き部が形成されている。
(3)前記切り欠き部は前記側壁部の上端に形成されたフランジ部から該側壁部の上端にかかるように形成され、前記易屈曲部は、その前端が前記切り欠き部近くまで延びるように形成されている。
一実施形態におけるカウル構造を示す図2のA−A線に対応する模式端面図。 カウル、カウルダクト及びカウルルーバの模式斜視図。 シール部材を省略したカウルダクトの模式斜視図。 作用を示す模式図。 側壁部及び後壁部に易屈曲部を形成したカウルダクトの模式斜視図。 別の実施形態におけるカウルダクトの模式斜視図。 従来技術におけるカウルダクトの模式断面図。
符号の説明
F…衝撃荷重、11…カウル、12…カウルダクト、13…カウルルーバ、14…ダッシュパネル、15…カウルの底壁部としてのカウルロア、15a…外気採り入れ口としての孔、16…カウルの縦壁部としてのカウルインナ、17…カウルの上壁部としてのカウルアウタ、18…後壁部と対向する部分としてのフロントガラス支持部、21…前壁部、22,23…側壁部、24…後壁部、25…底壁部、28…シール部材、29…側面シール部、30…易屈曲部、31…コーナ部、32…切り欠き部、35…通気孔としての外気導入孔。

Claims (5)

  1. エンジンルームと車室の間に設けられ、上方を通気孔を有するカウルルーバで覆われるカウルに対し、車室内に外気を供給するための外気採り入れ口が開口されており、前記外気採り入れ口の周辺をカウル内にて区画する車両のカウルダクトにおいて、
    樹脂製で前壁部、側壁部、後壁部及び底壁部を備えた有底箱状に形成されるとともに、車両のカウル内に車幅方向に延びる状態でかつ開放側が上側になるように配置され、前記カウルダクトに上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されており、前記後壁部は、下縁を残し、上方が切り欠かれた形状に形成されている車両のカウルダクト。
  2. エンジンルームと車室の間に設けられ、上方を通気孔を有するカウルルーバで覆われるカウルに対し、車室内に外気を供給するための外気採り入れ口が開口されており、前記外気採り入れ口の周辺をカウル内にて区画する車両のカウルダクトにおいて、
    樹脂製で前壁部、側壁部、後壁部及び底壁部を備えた有底箱状に形成されるとともに、車両のカウル内に車幅方向に延びる状態でかつ開放側が上側になるように配置され、前記カウルダクトに上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されており、
    前記後壁部は、一部が除去された形状に形成されており、前記側壁部には前記後壁部より後方に位置する前記カウルの構成部と当接して、前記後壁部側からカウルダクト内への外気の侵入を防止する側面シール部が設けられている車両のカウルダクト。
  3. エンジンルームと車室の間に設けられ、上方を通気孔を有するカウルルーバで覆われるカウルに対し、車室内に外気を供給するための外気採り入れ口が開口されており、前記外気採り入れ口の周辺をカウル内にて区画する車両のカウルダクトにおいて、
    樹脂製で前壁部、側壁部、後壁部及び底壁部を備えた有底箱状に形成されるとともに、車両のカウル内に車幅方向に延びる状態でかつ開放側が上側になるように配置され、前記カウルダクトに上方から衝撃荷重が作用したときに潰れ易く形成されており、
    前記前壁部と前記側壁部とのコーナ部の上端には切り欠き部が形成されている車両のカウルダクト。
  4. 前記側壁部には線状に延びる易屈曲部が形成されている請求項1〜請求項3のいずれか一項に記載の車両のカウルダクト。
  5. 前記カウルは、前記後壁部と対向する部分に、車両のエンジンルームと車室とを仕切る縦壁状のダッシュパネルの上縁に支持された底壁部の後縁から上方に延びる縦壁部と、前記縦壁部の上縁から車両前側に棚状に張り出す上壁部とを備えている請求項1〜請求項4のいずれか一項に記載の車両のカウルダクト。
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