JP4673997B2 - 高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板 - Google Patents
高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板 Download PDFInfo
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた成形性と高い長期信頼性を併せもつ芳香族ポリカーボネート樹脂光学用成形材料に関する。さらに詳しくは、高密度光記録媒体の製造において、スタンパー形状に対する精密転写性に優れ、かつ低分子量体を低減させた高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
ポリカーボネート樹脂は耐熱性や低吸水性に優れ、特に透明性に優れているがゆえに光学用途、とりわけコンパクトディスク(CD)や光磁気ディスク(MO)等の基板材料として広く使用されている。一方、近年における光ディスクの技術進展は目覚しく、基板の高密度化が急速に進んでいる。高密度化の手法としては、主に、グルーブもしくはピットの間隔、すなわちトラックピッチを狭める方法が挙げられる。例えば、CDからDVDへの高密度化にあたってはトラックピッチを1.6μmから0.74μmへと狭めることによりトラック方向の記録密度を約2倍に高める措置がとられている。
【0003】
一般に、光ディスク基板を成形する際に重要となるのは、スタンパー上に予め刻印された凹凸形状をいかに精度よく転写できるか(転写性)である。とりわけ、高密度光ディスク基板の成形には該転写性が極めて重要となる。一方、実用的な立場からは転写性の他に、基板の長期信頼性も勘案しなければならない。その為、上記要求に対して、これまでに様々な検討がなされてきた。
【0004】
前者については、転写精度を向上させるため、高温成形する方法、低分子量体を多く含有させて樹脂に高流動性を付与する方法(特開平9−208684号公報)等が提案されているが、成形時に樹脂が熱分解するなどの問題があった。また2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンと後述する式〔I−(1)〕で表される1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタ−ジイソプロピルベンゼン(以下ビスフェノールM’という)とから形成された共重合ポリカーボネートを得る方法(特許第2552121号公報)も提案されているが、適当な流動性を付与する為には非常に多くの割合のビスフェノールM’単位が必要となり、結果的にガラス転移温度が著しく低下し、光学用成形材料としては実用に耐えないものとなる。
【0005】
一方、後者については、ポリカーボネート樹脂の精製強化に関する研究が種々なされており、例えば重合鎖の繰返し単位数nが1〜3の低分子量体を0.2重量%以下、未反応ビスフェノールが10ppm以下としたポリカーボネート樹脂成形材料(特開平1−146926号公報)や、低分子量成分3重量%以下、未反応ビスフェノール類20ppm以下、および塩化メチレン20ppm以下としたポリカーボネート樹脂(特開昭63−316313号公報)などの材料が提案されている。しかしながら、上記従来のものは、ポリカーボネート樹脂の最終的な製品である光ディスク(またはその基板)の高温・高湿条件下で発生する白点について何ら述べられておらず、光ディスク基板として実用上要求される特性について何ら触れられていない。
【0006】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、高密度光記録媒体の製造において、スタンパー形状に対する精密転写性が優れたポリカーボネート樹脂光学用成形材料で、かつ該樹脂からなる光ディスク(またはその基板)を高温・高湿条件下に長時間保持した場合、該ディスク(またはその基板)内部に存在し、信頼性に影響を及ぼす微小な白点の発生を最小限に抑制した信頼性の高いポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板を提供することにある。
この微小白点の発生に伴う影響は、通常のCDよりも、情報記録密度の高いDVD−ROM、DVD−video、DVD−R、DVD−RAM等のデジタルバーサタイルディスク(DVD)の方が一層顕著である。
【0007】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、熱安定性を損なう事なく成形時の転写性を向上させ、同時に最終製品である光ディスク(またはその基板)の信頼性を長期間にわたって維持できる特定のポリカーボネート樹脂光学用成形材料を見出した。
【0008】
すなわち、本発明によれば、従来から基板材料として一般的に用いられてきた2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノールA)を二価フェノール成分として得られた芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−A)および下記式[I]
【0009】
【化2】
【0010】
(但し、式中R1〜R4は、それぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜4の炭化水素基を示す)
で表される化合物(以下ビスフェノールMと略称することがある)を二価フェノール成分として得られた芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−M)を特定割合で混合し、しかも該混合物の中に含まれる低分子量体を特定量以下まで低減することにより、スタンパー形状に対する精密転写性に優れ、且つ高温成形においても熱分解が起こらず、さらには長期信頼性にも優れたポリカーボネート樹脂光学用成形材料が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成したものである。
【0011】
本発明によれば、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを二価フェノール成分として得られた芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−A)60〜99重量%と下記式[I]
【0012】
【化3】
【0013】
(但し、式中R1〜R4は、それぞれ独立して水素原子または炭素原子数1〜4の炭化水素基を示す)
で表される化合物を二価フェノール成分として得られた芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−M)1〜40重量%とを含有してなる混合樹脂組成物からなり、かつ該樹脂組成物はGPCで測定された低分子量体の総含有量が2面積%以下であることを特徴とする高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料が提供される。
【0014】
本発明において、「高精密転写性」とは透明熱可塑性樹脂成形材料を用いて射出成形により光ディスク基板を製造する場合、スタンパーに刻印された微細な凹凸形状を通常の成形条件で忠実に転写することができる性質のことを示す。また、本発明において、「低分子量体」とは、Waters製HPLCと東ソー製カラム(TSK gel G2000HXL+G3000HXL)を用いてゲルパーミュエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)で測定され、クロマトグラム上、リテンションタイムが19分以降にピークが検知される全ての成分の総称として示す。また、該低分子量体の総含有量はクロマトグラムにおけるピークの面積%で示す。
【0015】
本発明におけるPC−AとPC−Mとの混合樹脂組成物において、全樹脂組成物中のPC−Aは60〜99重量%、好ましくは70〜98重量%の範囲であり、さらに好ましくは75〜97重量%である。一方、PC−Mは1〜40重量%であり、好ましくは2〜30重量%、さらに好ましくは3〜25重量%の範囲である。かかる樹脂組成物よりなる光学用成形材料を提供することによって、ディスク成形に際して、高記録密度ディスクに対応する、より精密な転写性が、ディスク強度を損ねることなく、達成可能となる。
【0016】
本発明の混合樹脂組成物を構成するPC−AおよびPC−Mは、いずれも通常の二価フェノール成分とカーボネート前駆体とを溶液重合法または溶融重合法によって反応させることによって製造することができる。本発明において、PC−AおよびPC−Mは、それぞれ二価フェノール成分としてビスフェノールAおよびビスフェノールMの他に他の二価フェノールを目的および特性を損なわない割合で、例えば10モル%以下、好ましくは5モル%以下の割合で共重合させてもよい。
【0017】
ここで、他の二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−オルト−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタ−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−パラ−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられる。
【0018】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を溶液法または溶融法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。
【0019】
溶液法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0020】
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、一般にはフェノールまたは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式(2)で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0021】
【化4】
【0022】
[式中、Aは水素原子または炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはフェニル置換アルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
上記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0023】
また、他の単官能フェノール類としては、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族ポリエステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができ、これらを用いてポリカーボネート重合体の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、基板としての物性、特に樹脂の吸水率を低くする効果があり、また基板の複屈折率が低減される効果もあり、好ましく使用される。なかでも、下記一般式(3)および(4)で表される長鎖のアルキル基を置換基として有するフェノール類が好ましく使用される。
【0024】
【化5】
【0025】
【化6】
【0026】
[式中、Xは、−R−CO−O−または−R−O−CO−である、ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10〜50の整数を示す。]
前記式(3)の置換フェノール類としてはnが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0027】
また、前記式(4)の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少くとも5モル%、好ましくは少くとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を10〜0.1Torr(1.3〜0.13×103Pa)程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0029】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m−クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0030】
また、重合速度を高めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物;アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類;アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類;その他に亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0031】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えばビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ブロモフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ビス(フェニルフェニル)カーボネート、クロロフェニルフェニルカーボネート、ブロモフェニルフェニルカーボネート、ニトロフェニルフェニルカーボネート、フェニルフェニルカーボネート、メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよびエトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることが好ましい。なかでも2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく使用される。
【0032】
本発明では、PC−AおよびPC−Mとを混合して得られるポリカーボネート樹脂組成物は、低分子量体の総含有量が2面積%以下であることが要件となる。低分子量体の含有量が2面積%を超えると、該組成物を成形して得られた光ディスク基板を高温・高湿条件下に長期間放置した場合に発生する白点が急激に増大し、基板の長期信頼性にも悪影響を及ぼし、ディスクの信号エラーの原因にもなる。かくして上記低分子量体の含有量は1.5面積%以下であることが好ましく、さらに1.0面積%以下であることがより好ましい。上記低分子量体の含有量を低減させる方法としては、PC−AやPC−Mあるいは前記2樹脂の混合物の塩化メチレン溶液から該低分子量体をアセトンなどの貧溶媒で抽出除去するなどの方法があるが、何らこれに限定されるものではない。
【0033】
本発明では、得られた芳香族ポリカーボネート樹脂光学用成形材料の粘度平均分子量に関しては、特に規定しないが、過剰に低い分子量では、成形基板の強度に問題が生じ、また逆に過剰に高いと成形時の溶融流動性が悪く、基板に好ましくない光学歪みが増大する。このことを考え合わせると樹脂組成物の粘度平均分子量は12,000〜20,000の範囲に制御される事が好ましく、13,000〜18,000が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂光学用成形材料は、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。また、上述のポリカーボネート樹脂光学用成形材料としての好ましい粘度平均分子量の範囲内に制御され、かつ熱安定性を維持するために、各ポリカーボネート樹脂成分の好ましい粘度平均分子量の範囲が存在する。すなわちPC−Aは粘度平均分子量が12,000〜20,000の範囲に制御される事が好ましく、13,000〜18,000が特に好ましい。一方、PC−Mにおいては、5,000〜25,000の範囲に制御される事が好ましく、10,000〜20,000がさらに好ましく、13,000〜18,000が特に好ましい。
【0034】
本発明で提供される材料は、PC−A60〜99重量%とPC−M1〜40重量%とを混合して得られるポリカーボネート樹脂光学用成形材料である。かかる本発明の材料にはその特性を損なわない範囲で少量の他の樹脂を混合しても良い。
上記の2種類のポリカーボネート樹脂を混合する方法としては、各樹脂を塩化メチレンなどのポリカーボネート樹脂の良溶媒へ溶解させた溶液を作成し、これらをあらかじめ混合した後に造粒、ペレット化してかかる樹脂組成物を得る方法が、均一性の保持の観点から特に望ましい方法としてあげられるが特に限定されるものではない。
【0035】
原料ポリカーボネート樹脂は、従来公知の常法(溶液重合法、溶融重合法など)により製造した後、溶液状態において濾過処理を行ない未反応成分等の不純物や異物を除去することが好ましい。さらに射出成形に供するためのペレット状ポリカーボネート樹脂を得る押出工程(ペレット化工程)では溶融状態の時に濾過精度10μmの焼結金属フィルターを通すなどして異物を除去したりすることが好ましい。必要により、例えばリン系等の酸化防止剤などの添加剤を加えることも好ましい。いずれにしても射出成形前の原料樹脂は異物、不純物、溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。
【0036】
上記ポリカーボネート樹脂光学用成形材料より光ディスク基板を製造する場合には射出成形機(射出圧縮成形機を含む)を用いる。この射出成形機としては一般的に使用されているものでよいが、炭化物の発生を抑制しディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューと樹脂との付着性が低く、かつ耐食性、耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いるのが好ましい。射出成形の条件としてはシリンダー温度300〜400℃、金型温度50〜140℃が好ましく、これらにより光学的に優れた光ディスク基板を得ることができる。成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
【0037】
このように成形された光ディスク基板は、コンパクトディスク(以下、CDと称する)、CD−R、MO、MD−MO等や、さらにはデジタルビデオディスク(以下、DVDと称する)、DVD−ROM、DVD−video、DVD−R、DVD−RAM等で代表される高密度光ディスク用基板として、使用される。特に記録密度が10Gbit/inch2以上の高密度ディスクに好適に用いられる。
【0038】
本発明のポリカーボネート樹脂光学用成形材料は、高精密転写性に優れているので、グルーブ列もしくはビット列の間隔が0.1μm〜0.8μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.35μmである光ディスク基板を成形によって容易に得ることが可能となる。またグルーブもしくはビットの光学的深さが、記録再生に使用されるレーザ光の波長λと基板の屈折率nに対してλ/8n〜λ/2n、好ましくはλ/6n〜λ/2n、さらに好ましくはλ/4n〜λ/2nの範囲にある光ディスク基板を得ることができる。かくして記録密度が10Gbit/inch2以上である高密度光学ディスク記録媒体の基材を容易に提供することができる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。実施例中「部」は重量部である。なお評価は下記の方法に従った。
(1)粘度平均分子量
塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解した20℃の溶液を用いて測定した比粘度(ηsp)を次式に挿入して算出した。
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c(但し[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
(2)熱安定性
TAインスツルメント社製の熱分析システムTGA2950を使用して5%重量減少温度を測定した(昇温速度;20℃/min.、窒素雰囲気下(窒素流量;40ml/min.))。
【0040】
(3)転写性
射出成形機(名機製作所 M35B−D−DM)とキャビティ厚0.6mmt直径120mmの金型および深さ145nm、間隔0.5μm、幅0.2μmの溝が刻まれたスタンパーを用いて、シリンダー設定温度360℃、金型温度128℃、充填時間0.2秒、冷却時間15秒、型締力35トンでディスク基板を成形した。次に原子間力顕微鏡(セイコー電子工業 SPI3700)にてr=55mmにおけるディスク基板の溝部の深さを測定し、溝形状の再現率(=100×ディスクの溝深さ/スタンパーの溝深さ(%))を求めた。また成形した基板を1000枚目視観察し、割れの有無を確認した。
【0041】
(4)光線透過率
射出成形機(名機製作所 M35B−D−DM)とキャビティ厚0.6mmt直径120mmの金型および平坦な表面を持つ鏡面スタンパーを用いて、シリンダー設定温度360℃、金型温度128℃、充填時間0.2秒、冷却時間15秒、型締力35トンで溝なしのディスク基板を成形した。このディスク基板について、日立製作所(株)製分光光度計U−3400を用いて、波長650nmにおける光線透過率を測定した。
(5)低分子量体
Waters製のHPLC(Detector486,Pump510)、東ソー製のカラム(TSK gel G2000HXL+G3000HXL)を用いてゲルパーミュエーション・クロマトグラフィー法(GPC法)によって測定し、クロマトグラム上、リテンションタイムが19分以降にピークが検知される全ての成分の総和とした。
【0042】
(6)長期信頼性試験
ディスク用成形機[住友重機(株)製DISK 3M III]により成形された光ディスク用基板(直径120mm、厚さ1.2mm)を、温度80℃、相対湿度85%に制御した恒温恒湿槽に1000時間放置した後、基板中の大きさ20μm以上の白点発生数を数えた。これを25枚の光学式ディスク基板についておこない、その平均値を求め、これを白点個数とした。
【0043】
また、ディスク用成形機[住友重機(株)製DISK 3M III]により成形された光ディスク用基板(直径120mm、厚さ1.2mm)に厚み80nmのAl膜およびその上に光硬化型アクリル系樹脂をそれぞれ膜付けした基板を、温度80℃、相対湿度85%に制御した恒温恒湿槽に1000時間放置した後、Al膜に発生したピンホールの数を数えた。これを25枚の光学式ディスク基板についておこない、その平均値を求め、これを記録膜欠陥数とした。
【0044】
製造例
(A) PC−Aの製造
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水636.3部、48%水酸化ナトリウム水溶液116.6部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン166.8部およびハイドロサルファイト0.35部を溶解した後、塩化メチレン524.9部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン82.1部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液24.9部およびp−tert−ブチルフェノール6.76部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.17部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈・水洗した後、塩酸酸性にして、さらに水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じにるまで水洗を繰り返して、粘度平均分子量15,200、低分子量体含有量1.3面積%であるポリカーボネート樹脂(PC−A)の塩化メチレン溶液を得た。
(B) PC−M’の製造
このPC−M’の製造の製造においては、二価フェノールとして下記式〔I−(1)〕で表される化合物(ビスフェノールM’という)が使用された。
【0045】
【化7】
【0046】
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水1590.0部、48%水酸化ナトリウム水溶液102.1部を仕込み、これにビスフェノールM’203.9部およびハイドロサルファイト0.42部を溶解した後、塩化メチレン876.5部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン70.0部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液58.3部およびp−tert−ブチルフェノール3.85部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.15部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈・水洗した後、塩酸酸性にして、さらに水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで水洗を繰り返して、粘度平均分子量15,300、低分子量体含有量2.8面積%であるポリカーボネート(PC−M’)の塩化メチレン溶液を得た。
【0047】
実施例1
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液と(B)で製造したPC−M’の塩化メチレン溶液とを溶液中のポリマー重量比(PC−A:PC−M’)が80:20となるようにそれぞれ攪拌機付容器に投入した後、攪拌混合した。混合後、目開き0.3μmのフィルターを通過させた後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%加えた。次に、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、粘度平均分子量15,100、低分子量体含有量1.7面積%のペレットを得た。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0048】
実施例2
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液と(B)で製造したPC−M’の塩化メチレン溶液とを溶液中のポリマー重量比(PC−A:PC−M’)が90:10となるようにそれぞれ攪拌機付容器に投入した以外は、実施例1と同様におこない度平均分子量15,200、低分子量体含有量1.6面積%のペレットを得た。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0049】
実施例3
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液と(B)で製造したPC−M’の塩化メチレン溶液とを溶液中のポリマー重量比(PC−A:PC−M’)が70:30となるようにそれぞれ攪拌機付容器に投入した以外は、実施例1と同様におこない粘度平均分子量15,200、低分子量体含有量1.9面積%のペレットを得た。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0050】
実施例4
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液と(B)で製造したPC−M’の塩化メチレン溶液とを溶液中のポリマー重量比(PC−A:PC−M’)が80:20となるようにそれぞれ攪拌機付容器に投入した後、アセトンを加えて攪拌混合した。混合後、目開き0.3μmのフィルターを通過させた後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンとアセトンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%加えた。次に、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、粘度平均分子量15,100、低分子量体含有量1.3面積%のペレットを得た。
この時の成形評価結果を表1に示す。
【0051】
実施例5
アセトンによる洗浄を強化した以外は全て実施例4と同様にし原料ペレットを得た後、光ディスク基板を成形し、これを評価した。この時の成形評価結果を表1に示す。なお、この時の原料ペレットの低分子量体含有量は0.9面積%であった。
【0052】
比較例1(ビスフェノールA/ビスフェノールM’の共重合)
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水1454.5部、48%水酸化ナトリウム水溶液216.6部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン198.1部、ビスフェノールM’48.9部およびハイドロサルファイト0.52部を溶解した後、塩化メチレン901.5部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン130.0部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液129.9部およびp−tert−ブチルフェノール9.1部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.35部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになるまで水洗を繰り返して、この共重合体ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで目開き0.3μmのフィルターを通過させた後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%加えた。次に、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、粘度平均分子量14,700、低分子量体含有量1.8面積%のペレットを得た。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0053】
比較例2
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液について、目開き0.3μmのフィルターを通過させた後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%加えた。次に、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、粘度平均分子量15,200、低分子量体含有量1.4面積%のペレットを得た。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0054】
比較例3
製造例(A)で製造したPC−Aの塩化メチレン溶液と(B)で製造したPC−M’の塩化メチレン溶液とを溶液中のポリマー重量比(PC−A:PC−M’)が50:50となるようにそれぞれ攪拌機付容器に投入した以外は、実施例1と同様におこない粘度平均分子量15,200、低分子量体含有量2.2面積%のペレットを得た。しかし、ガラス転移温度が低い為、ディスク成形する事ができなかった。
【0055】
比較例4
実施例1で作製したポリカーボネート樹脂を塩化メチレンに溶解し、これに予め作製しておいた同じ組成の低分子量体を加え均一に混合した。その後、全て実施例1と同様の操作を行い、原料ペレットとして低分子量体含有量が2.4面積%であるポリカーボネート樹脂を得、光ディスク基板を成形し、これを評価した。この時の成形評価結果を表1に示す。
【0056】
【表1】
【0057】
【発明の効果】
本発明の高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料は、スタンパー形状に対する精密転写性に優れ、且つ高温成形においても熱分解が起こらず、さらには長期信頼性にも優れているため、光記録媒体、とりわけ高密度記録媒体の製造において好適に用いられる。
Claims (8)
- 前記芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−A)はその粘度平均分子量が12,000〜20,000の範囲である請求項1記載の高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料。
- 前記系芳香族ポリカーボネート樹脂(PC−M)はその粘度平均分子量が、5,000〜25,000の範囲である請求項1または2記載のいずれかの高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料。
- 請求項1〜3記載のいずれかのポリカーボネート樹脂光学用成形材料により成形された光ディスク基板。
- 請求項1〜3記載のいずれかのポリカーボネート樹脂光学用成形材料により成形されたグルーブ列もしくはピット列の間隔が0.1μm〜0.8μmである光ディスク基板。
- 請求項5記載の光ディスク基板であって、グルーブもしくはピットの光学的深さが、記録再生に使われるレーザー光の波長λと基板の屈折率nに対してλ/8n〜λ/2nの範囲にある光ディスク基板。
- 請求項4〜6記載のいずれかの光ディスク基板を用いた光記録媒体。
- 加速劣化試験(80℃×85%RH×1000時間)後の大きさ20μm以上の白点発生数が2個以下である請求項7記載の光記録媒体。
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