JP3727890B2 - 芳香族ポリカーボネート樹脂および該樹脂よりなる光ディスク基板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた加工性と低吸水性を併せもつ芳香族ポリカーボネート樹脂、および該樹脂よりなる光ディスク基板に関する。さらに詳しくは、CD(コンパクトディスク)やMO(光磁気ディスク)、DVD(Digital Versatile Disk)などの光ディスクの分野において、高転写率で、且つ、反りの少ない光ディスク基板に関する。特に本発明は、記録容量の極めて大きな高密度光ディスク用の基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
近年、光ディスクの記録密度は向上の一途を辿り、再生専用のDVD−ROMをはじめ、最近では記録再生可能なDVD−R、DVD−RW、DVD−RAMにおいても4.7GBの容量が実現されてきた。また、MOディスクにおいても、両面で5.2GBの容量を有する直径5.25”のものや片面で1.3GBの容量を有する直径3.5”のものなどが既に上市されている。しかしながら、情報技術の進展に伴って、光ディスク分野の市場発展は目覚しく、今後はより膨大な情報を記録できる高密度光ディスクの登場が期待されている。例えば、デジタル高画質放送などに対応できる10Gbit/inch2以上の記録密度を有する光ディスクも要望されている。
【0003】
光ディスクの高密度化は、通常、該ディスクの基板上に形成されるピットやグルーブの間隔を狭めるなどして溝を高密度化することで達成される。例えば、CDからDVDへの高密度化にあたっては、トラックピッチを1.6μmから0.74μmへと狭めることによりトラック方向の記録密度を高める措置がとられている。
【0004】
光ディスク基板は熱可塑性樹脂を射出成形(射出圧縮成形を含む)して製造され、その際、スタンパー上に予め刻印された記録再生信号のもとになる微細な凹凸形状が、スタンパーから基板表面に転写される。したがって、基板の成形時には該凹凸形状をいかに精度よく転写できるか、すなわち、精密転写性が重要となる。とりわけ高密度光ディスクの基板成形において、かかる重要性は顕著となる。高密度光ディスクにおいては、高転写率の基板よりなることに加え、環境変化(例えば吸湿)による基板の反り変形が小さいことも、実用上極めて重要となる。基板の反りが大きいと、レーザー光線の反射角が大きくなり、信号の読取りエラーなどの好ましくない問題を引き起こすからである。特にドライブ運転中は機内温度が高く、湿度も低いため、急激な変化が起こり易く、ディスクの変形により信号が読み出せない等のフォーカスエラーを起こし易い。
【0005】
ところで、CD(コンパクトディスク)やMO(光磁気ディスク)、DVD(Digital Versatile Disk)などの基板材料としては、透明性、耐熱性、耐衝撃性など、多くの優れた性質を有することから、2,2−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称:ビスフェノールA)にホスゲンやジフェニルカーボネートを反応させて得られるポリカーボネート樹脂(以後、BisP−A系樹脂と称する)が、従来より広く使用されてきた。
しかしながら、最近では前記の如く高密度化が進み、優れた物性バランスを有するBisP−A系樹脂から形成された光ディスク基板も精密転写性と反りの点からは十分満足のいくものではなくなってきている。将来登場する記録容量の極めて大きな高密度光ディスクにおいては、溝幅や溝と溝とのピッチ間隔がさらに狭くなり、溝の勾配もさらに急峻になり、さらには基板の薄肉化が進むことも明白である。それ故に、前記BisP−A系樹脂を用いて、高転写率で、且つ、低反りの基板を得ることが極めて困難になることもまた明白であり、その改善が必要となっている。
【0006】
一方、特開平2−99521号公報、特開平2−99561号公報、特開平2−128336号公報および特開平2−208840号公報には、特定構造のビスフェノールをカーボネート結合して得られる光学式ディスク基板用芳香族ポリカーボネート共重合体が一般式の表現形式で広範に開示されている。しかしながら、該共重合体は基板の複屈折を改善すべく、樹脂自身の光弾性定数を低減することを目的としたものであり、これらの公報には転写性に関して何ら教示されていない。また、本発明者らの実験結果によると、該公報において例示された代表的な共重合体は、BisP−A系樹脂に比べて、光弾性定数は低減されているものの転写性については逆に劣っており、高密度光ディスク用基板材料としては決して満足のいくものではないことが判明した。
【0007】
転写性改善の要求に対しては、これまでも成形技術および材料改質の両側面から種々検討がなされてきた。前者については、例えば、基板成形時のシリンダー温度や金型温度を高く設定する方法が有効であることが確認されている。しかしながら、この方法は高温成形であるがゆえに、金型内での冷却時間を長くしなければならず、成形サイクルが伸びて生産性に劣るという問題が発生する。無理に、ハイサイクル化して成形を行うと、金型から基板を取り出す際に離型不良が生じ、ピットやグルーブが変形するため、逆に、転写精度が低下するという問題が発生する。後者については、例えば、ポリカーボネート樹脂中に低分子量体を多く含有させる方法(特開平9−208684号公報、特開平11−1551号公報)や、特定の長鎖アルキルフェノールを末端停止剤として使用する方法(特開平11−269260号公報)が提案されている。しかしながら、上記方法は、一般に樹脂の熱安定性低下を招き、成形時に樹脂が熱分解するため、得られた基板の機械的強度が著しく低下し、金型からの基板突き出し時に基板が割れたり、また最終製品である光ディスクを取り扱う場合にも破損が起こるなどの欠点がある。
【0008】
この様に従来の技術は、いずれも樹脂の流動性を向上させることによる転写性の改善効果を狙ったものであるが、実用に耐え得る基板を高能率で得られるものではなかった。さらには、光ディスク基板を成形する際、転写がどの様な機構で起こるかを解明した訳ではなく、本質的な点で十分に再考の余地を残していた。一方、吸水変形を抑えるために、特開2000−11449号公報では、“基板と、この基板に配置されて情報信号を記録するための記録層とその記録層に積層される透明保護層を有し、透明保護層側から光を入射することで情報信号の記録/再生を行うディスク状の情報記録媒体であり、この基板は、樹脂製のコア層と、コア層に一体になっており、一方の面に記録層側の情報信号の凸凹が存在し、コア層に比べて流動性を有する樹脂製の表層とから構成されていることを特徴とする情報記録媒体”であって基板表層の吸水率を0.3%以下の樹脂を用いる基板が提案されており、2色成形やサンドイッチ成形など複雑な基板構成で問題を解決する方向が示されている。
【0009】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、かかる状況に鑑みてなされたものであり、スタンパー形状に対する高精密転写性と低吸水性を併せ持つ芳香族ポリカーボネート樹脂、および該樹脂よりなる高転写率で、且つ、反りにくい光ディスク基板、とりわけ高密度光ディスク用基板を提供することを目的とするものである。
本発明者らは、上記目的を達成せんと鋭意研究を重ねた結果、特定構造の芳香族ポリカーボネート樹脂が基板成形プロセスの中で転写が起こる時点の樹脂表面状態と考えられる転移域〜ガラス域の弾性率が低く、且つ、吸水率も低いこと、および該樹脂を成形用樹脂として用いることによって高転写率で、且つ、単純な構成でも反り難い光ディスク基板が得られることを見出した。本発明は、この知見に基づき完成したものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明によれば、2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位a,下記式[I])と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位b,下記式[II])から実質的に構成され、全カーボネート結合繰返し単位における単位aと単位bの割合が99:1〜1:99(モル%)である共重合型の芳香族ポリカーボネート樹脂、および該樹脂よりなる光ディスク基板が提供される。
【0011】
【化3】
【0012】
【化4】
【0013】
本発明において、「精密転写性」とは、熱可塑性樹脂成形材料を用いて射出成形法(射出圧縮成形法を含む)などによって光ディスク基板を製造する場合に、スタンパーに刻印された微細な凹凸形状を忠実に転写することができる性質のことである。
そもそも、射出成形法(射出圧縮成形法を含む)などによって光ディスク基板を製造する場合に、基板表面に形成される微細な凹凸形状は、金型キャビティ内に充填された樹脂が加圧されることで、該凹凸形状を反転したパターンが予め刻印されているスタンパーの溝に入り込み、次いで一定時間保持された後に冷却固化して形成される。このスキームの中でキャビティに充填される樹脂は金型壁面(スタンパー面)と接触した直後から熱を奪われる。その結果、基板表面には時間経過と共に発達する冷却固化層が形成される。また、基板内部においても冷却が進行して樹脂温度が低下することによる粘度上昇が起こる。
【0014】
本発明者らは実験によって、▲1▼転写精度は金型キャビティ内への樹脂の充填が完了した直後に基板表面付近に形成される冷却固化層の変形性と該固化層を変形させる圧力の伝達性によって左右されること、▲2▼成形プロセスの中で転写が起こる時点の樹脂表面状態と考えられる転移域〜ガラス域の弾性率が低い材料を用いると高転写率の光ディスク基板が提供されること、などを見出した。そして、2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位a)と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位b)から実質的に構成され、全カーボネート結合繰返し単位における単位aと単位bの割合が99:1〜1:99(モル%)である芳香族ポリカーボネート樹脂(以後、BisP−MIPK/IOTD系樹脂と称する)が上記▲2▼を満足し、かつ、実用に耐え得る光ディスク基板を高能率で得られる材料であることが判明した。さらに、本発明によれば、BisP−MIPK/IOTD系樹脂における単位aと単位bの割合を80:20〜10:90(モル%)とした場合、さらに、60:40〜20:80(モル%)とした場合、記録容量の極めて大きな高密度光ディスク基板が得られる。
【0015】
また本発明によれば、BisP−MIPK/IOTD系樹脂は吸水率が極めて低く、該樹脂より成形された光ディスク基板は吸湿による反り変化が小さいことも判明した。
本発明で提供されるBisP−MIPK/IOTD系樹脂は、2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンや1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンと、カーボネート前駆体とを溶液重合法または溶融重合法によって反応させることによって製造することができる。
また本発明によれば、2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位a)と1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンから誘導されるカーボネート結合繰返し単位(単位b)に、他の二価フェノールから誘導されるカーボネート結合繰返し単位を、本発明の目的および特性を損なわない限り、10モル%以下の割合、好ましくは5モル%以下の割合で共重合させてもよい。
【0016】
かかる他の二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(ビスフェノール−A)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−オルト−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−メタ−ジイソプロピルベンゼン、1,1’−ビス−(4−ヒドロキシフェニル)−パラ−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられる。
【0017】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられるが、ホスゲンまたはジフェニルカーボネートが好ましい。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を例えば溶液重合法または溶融重合法等によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。
溶液重合法による反応は、二価フェノールとホスゲンとの反応であり、通常、酸結合剤および有機溶媒の存在下に行われる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また反応促進のために、例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は0〜40℃程度、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0018】
重合反応においては、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤としては単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は、末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、かくして得られたポリカーボネート樹脂は末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているため、未封鎖のものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、一般にはフェノールまたは低級アルキル置換フェノールであって、下記式[III]
【0019】
【化5】
【0020】
[式中、Aは水素原子または炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはフェニル置換アルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
で表される単官能フェノール類を示すことができる。
上記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0021】
また、他の単官能フェノール類として、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族エステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができる。これらはポリカーボネート樹脂の末端を封鎖し分子量調節剤として機能するのみならず、該樹脂の溶融流動性を向上せしめ、成形加工性を向上せしめる他、基板としての物性、とりわけ樹脂の吸水率を低くする効果があり、また基板の複屈折率も低減し得る効果もあり、好ましく使用される。なかでも、下記式[IV]および[V]
【0022】
【化6】
【0023】
【化7】
【0024】
[式中、Xは−R−O−、−R−CO−O−または−R−O−CO−である。ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10〜50の整数を示す。]
で表される長鎖のアルキル基を置換基として有するフェノール類が好ましく使用される。
前記式[IV]の置換フェノール類としては、nが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては、例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等が挙げられる。
また、前記式[V]の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては、例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0025】
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して、少くとも5モル%、好ましくは少くとも10モル%導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
溶融重合法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を10〜0.1Torr(1.3〜0.13×103Pa)程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0026】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m―クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0027】
また、重合速度を高めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物;アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類;アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類;その他に亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類、マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせて使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0028】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重合反応の後期あるいは終了後に、例えばビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ブロモフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ビス(フェニルフェニル)カーボネート、クロロフェニルフェニルカーボネート、ブロモフェニルフェニルカーボネート、ニトロフェニルフェニルカーボネート、フェニルフェニルカーボネート、メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよびエトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることが好ましい。なかでも2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく使用される。
【0029】
本発明で提供されるBisP−MIPK/IOTD系樹脂は、23℃の純水に浸漬した場合の飽和吸水率が0.25重量%以下であることが好ましく、0.20重量%以下であることがより好ましい。飽和吸水率が0.25重量%を超えると、吸湿および脱湿過程において光ディスクの反り変形が生じ易くなり、フォーカスエラーやトラッキングエラーなどを起こし易くなるので好ましくない。光ディスクの吸湿および脱湿過程における反り変形に関しては以下の測定法を用いた。すなわち、ディスクを温度30℃、湿度90%RHの環境(A環境)下で飽和吸水率に達するまで暴露した後、温度23℃、湿度50%RHの環境(B環境)下に移した時に生じる中心から58mm部のチルト(Tilt)変化を経時的に測定し、チルト(Tilt)変化の最大値と定常に達したときの値の差(△Tilt)を比較したものである。このときのディスクの△Tiltは0.9度以内、好ましくは0.75度以内、さらに好ましくは0.5度以内である。
【0030】
光ディスクは、その使用環境下(光ディスク駆動装置内,放置環境下)において、変形しないことが必要となる。その意味から、本発明のBisP−MIPK/IOTD系樹脂のガラス転移温度は110℃以上であることが好ましく、115℃以上であることがより好ましい。ガラス転移温度が110℃未満であると、過酷な使用環境下、例えば自動車内に長時間放置されていた場合において、基板が熱変形を起こし易くなり、フォーカスエラーやトラッキングエラーなどを起こし易くなるので好ましくない。本発明におけるガラス転移温度とは、示差走査熱量分析装置(DSC)を使用し、速度20℃/minの昇温過程で測定し得られるものである。
【0031】
BisP−MIPK/IOTD系樹脂の分子量は、粘度平均分子量として10,000〜20,000の範囲内に制御されることが好ましく、12,000〜18,000の範囲内にあることがより好ましい。過剰に低い分子量では成形基板の強度に問題が生じ、また逆に過剰に高い分子量では成形時の溶融流動性が悪く、基板に好ましくない光学歪みが増大する。なお、本発明における粘度平均分子量とは、測定に供する樹脂(0.7g)を塩化メチレン100mlに溶解した溶液の20℃における比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
【0032】
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c (但し、[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
本発明のBisP−MIPK/IOTD系樹脂は、その使用目的が光ディスク基板の製造であることを考えると、従来公知の方法(溶液重合法、溶融重合法等)により製造した後、溶液状態において濾過処理を行ない、不純物や異物を徹底的に除去することが好ましい。さらに、射出成形(射出圧縮成形を含む)に供するためのペレット状ポリカーボネート樹脂を得る押出工程(ペレット化工程)においても、溶融状態の時に、焼結金属フィルターを通すなどして異物を除去することが好ましい。該フィルターとしては濾過精度10μmのものが好ましく使用される。また必要により、例えば、リン原子を含む酸化防止剤などの添加剤を加えることも好ましい。いずれにしても射出成形(射出圧縮成形を含む)前の原料樹脂は異物、不純物、溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。
【0033】
前記BisP−MIPK/IOTD系樹脂より光ディスク基板を製造する場合には、通常、射出成形機(射出圧縮成形機を含む)を用いる。該成形機は一般的に使用されているものでよいが、炭化物の発生を抑制し、ディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューと樹脂との付着性が低く、且つ、耐食性・耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いることが好ましい。成形工程の環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
かくして成形された光ディスク基板はコンパクトディスク(CD)や光磁気ディスク(MO)、DVD(Digital Versatile Disk)など現行の光ディスクはもちろん、DVR−BlueやHD−DVD−RAM等で代表される高密度光ディスク用基板としても好適に使用される。
【0034】
本発明のBisP−MIPK/IOTD系樹脂は、精密転写性が極めて優れているので、ピット列もしくはグルーブ列の間隔が0.1〜0.8μm、好ましくは0.1〜0.5μm、さらに好ましくは0.1〜0.35μmである光ディスク基板を、従来の成形法によって、容易に得ることが可能となる。またグルーブもしくはピットの光学的深さが、記録再生に使用されるレーザー光の波長λと基板の屈折率nに対してλ/8n〜λ/2n、好ましくはλ/6n〜λ/2n、さらに好ましくはλ/4n〜λ/2nの範囲にある光ディスク基板を得ることができる。かくして、10Gbit/inch2以上の記録密度を有する光ディスクの基板も容易に提供することができる。
【0035】
【実施例】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明はその趣旨を超えない限り、何らこれに限定されるものではない。実施例または比較例において「部」は重量部を示す。なお、各種樹脂の物性測定、該樹脂を用いた光ディスク基板の成形・評価は以下の方法に従った。
(1)粘度平均分子量Mv
塩化メチレン100mlにポリカーボネート樹脂0.7gを溶解し、この溶液の20℃における比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めた。
【0036】
ηsp/c=[η]+0.45×[η]2c (但し、[η]は極限粘度)
[η]=1.23×10-4M0.83
c=0.7
(2)ガラス転移温度
TAインスツルメント社製の熱分析システム DSC−2910を使用して、窒素雰囲気下(窒素流量:40ml/min)・昇温速度:20℃/minの条件下で測定した。
(3)貯蔵弾性率
レオメトリック社製の動的粘弾性測定装置 RDAIIを使用して、周波数89.7rad/sec・降温速度2℃/minの条件下で、ゴム域〜ガラス域におけるずり貯蔵弾性率の温度依存性を測定した。表1に記載の値は、該温度依存性曲線からTg’−5℃における値を読み取ったものである。ここで、「Tg’−5℃」の「Tg’」はずり貯蔵弾性率(G’)と同時に測定されるずり損失弾性率(G”)の温度依存性曲線から得た力学的ガラス転移温度を示す。
(4)吸水率
ASTM D−570に従い、φ45mm成形プレートを水中浸漬し重量変化率(重量%)により求めた。
(5)転写性
日精樹脂工業製の射出成形機 MO40D−3H、深さ200nm・間隔0.5μm・幅0.2μmの溝が刻まれたスタンパーを用いて、直径120mm・厚み0.6mmの光ディスク基板を成形した。なお、シリンダー温度は360℃の一定とし、金型温度を表1に記載の通り各樹脂ごとに設定した。
上記基板にスタンパーから転写された溝の深さを、原子間力顕微鏡(セイコー電子工業 SPI−3700)を用いて、該基板の半径40mmの位置にて5ヶ所を測定した。各樹脂の転写性は次式で示される転写率として表した。この値が大きいほど転写性が優れている。
【0037】
転写率(%)= 100 × 基板の溝深さ/スタンパーの溝深さ
(6)ΔTilt
日精樹脂工業製の射出成形機 MO40D−3Hを用いて、各ペレットから直径120mm・厚み1.2mmの光ディスク基板を射出成形した。次いで、該基板に反射膜、誘電体層1、相変化記録膜、誘電体層2を順にスパッタ蒸着させ、その上にポリカーボネート製薄膜カバー層を貼り合わせ光ディスクを得た。
上記光ディスクを温度30℃、湿度90%RHの環境(A環境)下で飽和吸水率に達するまで暴露した後、温度23℃、湿度50%RHの環境(B環境)下に移した。その後、環境変化によって生じる中心から58mm部のTilt変化をジャパン・イー・エム製の3次元形状測定器DLD−3000Uにより経時的に測定し、Tilt変化が最大に達した値および定常に達した値の差を△Tiltとした。
【0038】
実施例1
温度計、撹拌機および還流冷却器の付いた反応器に、48%水酸化ナトリウム水溶液62.8部およびイオン交換水313.3部を仕込み、これに2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン50.1部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサン6.5部およびハイドロサルファイト0.12部を溶解した後、塩化メチレン184.9部を加え、撹拌下、15〜25℃でホスゲン28.0部を約60分かけて吹き込んだ。ホスゲンの吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液9.0部およびp−tert−ブチルフェノール1.79部を加え、撹拌を再開、乳化後トリエチルアミン0.15部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後、塩酸酸性にして水洗し、さらに水相の導電率がイオン交換水とほぼ同じになるまで水洗を繰り返し、ポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。次いで、この溶液を目開き0.3μmのフィルターに通過させ、さらに軸受け部に異物取出口を有する隔離室付きニーダー中の温水に滴下、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化し、引続き該含液フレークを粉砕・乾燥してパウダーを得た。その後、該パウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%添加し、均一に混合した後、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]により脱気しながら溶融混練し、ポリカーボネート樹脂のペレットを得た。該ペレットの粘度平均分子量、ガラス転移温度、貯蔵弾性率を表1に掲載した。
該ペレットから、射出成形機(日精樹脂工業 MO40D−3H)、キャビティ厚0.6mmt・直径120mmの金型、深さ200nm・間隔0.5μm・幅0.2μmの溝が刻まれたスタンパーを用い、シリンダー設定温度360℃、金型温度119℃、充填時間0.2秒、冷却時間15秒、型締力40トンの条件で光ディスク基板を成形した。この時の転写性評価結果も表1に併記した。
【0039】
実施例2
2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンを39.0部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンを19.4部とした以外は、全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を105℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板の転写性を評価した。この時の転写性評価結果も表1に併記した。
【0040】
実施例3
2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンを27.8部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンを32.4部とした以外は、全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を95℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板の転写性を評価した。この時の転写性評価結果も表1に併記した。
【0041】
実施例4
2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンを16.7部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンを45.4部とした以外は、全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を87℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板の転写性を評価した。この時の転写性評価結果も表1に併記した。
【0042】
実施例5
2−メチル−3,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタンを5.6部、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−エチルヘキサンを58.3部とした以外は、全て実施例1と同様にし、表1に記載の特性を有するポリカーボネート樹脂のペレットを得た。さらに、金型温度を80℃とした以外は実施例1と同様にして光ディスク基板の成形を行い、該基板の転写性を評価した。この時の転写性評価結果も表1に併記した。
【0043】
比較例1
2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンより得られたポリカーボネート樹脂(帝人化成製パンライト AD−5503)を用い、金型温度を112℃とした以外は実施例1と同様にして基板成形を行い、該基板の転写性を評価した。この時の転写性評価結果を樹脂物性とともに表1に記載した。
【0044】
【発明の効果】
本発明によれば、光ディスク、とりわけ高密度光ディスクの基板を射出成形法(射出圧縮成形法を含む)などにより製造する場合に、スタンパー上に予め刻印された凹凸形状が正確に転写されており(高転写率)、且つ、吸水による反りの少ない光ディスク基板を提供することが可能となり、その奏する効果は格別なものである。
【0045】
【表1】
Claims (9)
- 全カーボネート結合繰返し単位における単位aと単位bの割合が80:20〜10:90(モル%)である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
- 全カーボネート結合繰返し単位における単位aと単位bの割合が60:40〜20:80(モル%)である請求項1に記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
- 20℃の塩化メチレン溶液で測定された粘度平均分子量が10,000〜20,000の範囲内にある請求項1〜請求項3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
- 吸水率が0.2%以下である請求項1〜3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
- ガラス転移温度が115℃以上である請求項1〜請求項3のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂。
- 請求項1〜請求項6のいずれかに記載の芳香族ポリカーボネート樹脂よりなる光学用成形材料。
- 請求項7に記載の光学用成形材料を用いて成形された光ディスク基板。
- ピット列またはグルーブ列の間隔が0.1〜0.8μmで、ピットまたはグルーブの光学的深さが記録再生に使われるレーザー光の波長λと基板の屈折率nに対してλ/8n〜λ/2nの範囲内にあることを特徴とする請求項8に記載の光ディスク基板。
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