JP4422863B2 - 光学用ポリカーボネート樹脂成形材料および該材料よりなる光ディスク基板 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、長期間にわたって高い信頼性を維持でき、かつ、基板生産性を向上できる光学用ポリカーボネート樹脂成形材料および光ディスク基板に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
レーザ光の照射により情報の記録・再生をおこなう光ディスクとしては、デジタルオーディオディスク(いわゆるコンパクトディスク)、光学式ビデオディスク(いわゆるレーザディスク)、各種追記型ディスク、光磁気ディスク、相変化ディスク等が実用化されている。
このうち、コンパクトディスクやレーザディスクは、再生専用(Read Only Memory:ROM)型の光ディスクである。これらの光ディスクは、透明基板上に、情報信号に対応したピットが凹凸形状で形成され、この上にAl反射層が40nm以上の厚さで製膜されている。このような光ディスクでは、ピットで生じる光干渉による反射率変化を検出することにより情報信号が再生される。
【0003】
一方、追記型光ディスクは、ユーザによって任意情報の書き込みが可能なR(Recordable)型の光ディスクであり、光磁気ディスクおよび相変化型ディスクは、繰り返し任意情報の書き込みが可能なRAM(Random Acceess Memory)型の光ディスクである。
すなわち、R型光ディスクは、透明基板上に、レーザ光の照射によって不可逆的に光学特性が変化したり凹凸形状が形成される追記型の記録層にて構成される。この記録層としては、例えばレーザ光の照射による加熱で分解し、その光学定数が変化するとともに、体積変化によって基板の変形を生じさせるシアニン系、フタロシアニン系、アゾ系の有機色素等が用いられる。
【0004】
光磁気ディスクは、ユーザによって情報の書き込みおよび消去を繰り返しおこなうことができる、書き換え可能型の光ディスクであり、透明基板上に、Tb−Fe−Co非晶質合金薄膜などの磁気光学効果(例えばカー効果)を有する垂直磁化膜が形成されて構成される。この光磁気ディスクでは、情報信号に対応して垂直磁化膜の微小領域を上向きあるいは下向きに磁化することにより記録ピットが形成される。そして、反射光での直線偏光の回転角θk(カー回転角)が垂直磁化膜の磁化の向きによって異なることを利用して情報信号が再生される。
【0005】
相変化ディスクは、光磁気ディスク同様に書き換え可能型のディスクであり、例えば初期状態で結晶状態を呈し、レーザ光が照射されることでアモルファス状態に相変化する、Ge−Sb−Te相変化材料等が用いられる。この記録層では、情報信号に対応して微小領域を相変化させることにより記録ピットが形成され、ピットに相当するアモルファス部分とそれ以外の結晶領域との反射率変化を検出することで情報信号が再生される。
このような光磁気ディスクや相変化ディスクでは、記録層の酸化防止や多重干渉による信号変調度の増大を目的として、記録層の両側を透明な誘電体層で挟み込み、さらにその上にAl反射層を積層した4層構造がとられる場合が多い。なお、誘電体層としては、窒化シリコン膜、Zn−SiO2混成膜などが用いられる。
【0006】
ところで、最近、このような光ディスクをデジタル映像記録用として用いるための検討が盛んにおこなわれており、そのような光ディスクとしてデジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)が開発されるに至っている。
このDVDは、CDと同じ120mm径としながら、映画一本分に相当する映像情報を記録し、現行テレビ並みの画質で再生できるようになされたものである。
ここで、このような映像情報を光ディスクに記録するには、例えばCDの6〜8倍の記録容量が必要になる。このため、DVDでは、レーザ波長をCDでの780nmに対して635〜650nmと短波長化するとともに対物レンズの開口数NAをCDでの0.45に対して、0.52または0.6に増大させることによりトラックピッチやピットの最短記録マーク長を縮め、記録密度を上げるようにしている。
【0007】
このうち対物レンズの開口数NAの増大は、ディスク基板のそりに対する許容量を小さくすることになる。このため、DVDでは、基板の厚さをCDの1.2mmに対して、0.6mmと薄くすることにより、レーザ光がディスク基板を通過する距離を短くし、反りに対する許容量を補償する様にしている(日経エレクトロニクス 1995年2月27日号 No.630)。そして、さらに基板を薄くすることによるディスク強度の低下を補うため、特開平6−274940号公報で記載されるように、基板上に形成された記録層の上に、さらに基板を貼り合わせる、いわゆる貼り合わせ構造が採られている。なお、貼り合わせ光ディスクの記録層としては、上述の単板構成で用いられるROM型の記録層、R型の記録層、RAM型の記録層のいずれもが採用できる。
【0008】
さらに、貼り合わせ光ディスクには、その片側の面のみを利用する片面貼り合わせ光ディスクと、両側の面を利用する両面型貼り合わせ光ディスクとがある。
以上のような光学用ディスク基板には、成形性、強度、光線透過率および耐湿性等に優れているポリカーボネート樹脂が多く使用されている。
しかしながらこのように優れた性質を有するポリカーボネート樹脂も、高温、高湿下において加水分解しやすく、分子量の低下、衝撃強度の低下などをきたしやすいという欠点がある。また、長期間にわたり高温、高湿下に放置すると基板に微小な白点が発生し、長期信頼性が損なわれるという欠点があった。
【0009】
一方で、近年光学式ディスク基板の普及に伴い、基板生産性向上に対する要求も高まっている。樹脂は種々の揮発成分を含有しており、成形を長期間おこなうと金型やスタンパーなどに種々の成分が堆積し、光学および機械特性などの基板特性の悪化へとつながる。また長時間の成形により、前記種々の基板特性の悪化するという問題も発生する。このため、金型やスタンパーの洗浄を行うために連続成形を一旦停止しなければならず、生産性向上に悪影響を及ぼしていた。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、該問題点について鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂内の単官能フェノール類の含有量を特定範囲以下に低減することにより、ポリカーボネート樹脂よりなる基板の劣化を極めて有効に制御し、長期に渡って高い信頼性を維持できる光学用ディスクが得られることを見出した。また、単官能フェノール類の低減は、同時に揮発成分の低減にもつながり、基板生産性を向上できる光学用ポリカーボネート樹脂成形材料および光ディスク基板が得られることも見出した。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明は、ポリカーボネート樹脂を射出成形して光ディスク基板を製造する際に、ポリカーボネート樹脂として、単官能フェノール類の含有量が50ppm以下であるポリカーボネート樹脂を用い、光ディスク基板の白点発生数を1個以下にする方法(但し、白点発生数は、光ディスク基板(直径120mm、厚さ1.2mm)を、温度80℃、相対湿度85%で1000時間放置した後に発生する大きさ20μm以上の白点数を25枚の光ディスク基板について求めた平均値である。)によって達成される。
【0012】
本発明においては、CD−R、CD−RW、MO、デジタルビデオディスク、DVD−ROM、DVD−audio、DVD−R、DVD−RAM等で代表されるデジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)の光ディスクの基板、特にDVDの基板等の高密度光ディスクに用いるディスク基板として十分な信頼性を得、かつ、基板生産性を向上できるには、該基板を成形するために供する成形材料(芳香族ポリカーボネート樹脂)の中の置換基を有する単官能フェノール類の含有量が50ppm以下であることが必要である。ここで、置換基を有する単官能フェノール類の含有量とは、ポリカーボネート樹脂の重合反応時に末端停止剤として添加され単体として樹脂内に残存しているもの、および、重合反応時に遊離されて単体として樹脂内に残存しているものの含有量を示す。
【0013】
この単官能フェノール類の含有量を50ppm以下に押さえた場合、基板の微小な白点の発生および金型やスタンパーの洗浄の回数を最小限に押さえられる。また、この単官能フェノール類含有量が50ppmを超える材料を用いた場合、これらの十分な信頼性と基板生産性が得られない。
なお、置換基を有する単官能フェノール類の含有量は50ppm以下、好ましくは40ppm以下、さらに好ましくは30ppm以下であることが確実な効果を得ることが出来る。最も好ましいのは15ppm以下である。
【0014】
本発明で使用されるポリカーボネート樹脂は、通常二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融法で反応させて得られるものである。ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等があげられ、これらは単独または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
なかでもビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少なくとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体または共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパンまたはα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンとの共重合体が好ましく使用される。
【0016】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0017】
界面重合法による反応は、通常二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは9以上に保つのが好ましい。
【0018】
溶融法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するモノヒドロキシ化合物(例えばフェノール)を留出させる方法により行われる。反応温度は生成するモノヒドロキシ化合物の沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には系を10〜0.1Torr程度に減圧して生成するモノヒドロキシ化合物の留出を容易にさせる。反応中に発生するモノヒドロキシ化合物は、ポリカーボネート樹脂中に残留するので、十分な反応時間が必要になり、反応時間は1〜4時間程度である。
【0019】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m―クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0020】
また、重合速度を速めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物、水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物、アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類、アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類、亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-4当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0021】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少させるために、重縮合反応の後期あるいは終了後に、単官能フェノール類以外の末端停止剤、例えばビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ブロモフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ビス(フェニルフェニル)カーボネート、クロロフェニルフェニルカーボネート、ブロモフェニルフェニルカーボネート、ニトロフェニルフェニルカーボネート、フェニルフェニルカーボネート、メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよびエトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートなどの化合物を加えることが好ましい。なかでも2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルが好ましく使用される。
【0022】
界面重合法によるポリカーボネート樹脂の重合反応においては、単官能フェノール類を末端停止剤として使用する。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。
【0023】
かかる単官能フェノール類としては、下記一般式(1)〜(3)で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0024】
【化1】
[式中、Aは炭素数1〜9のアルキル基もしくはフェニルアルキル基(アルキル部分の炭素数1〜9)であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である]。
【0025】
【化2】
【0026】
【化3】
[式中、Xは−R−O−、−R−CO−O−または−R−O−CO−である、ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10〜50の整数を示す。]
【0027】
上記一般式(1)で表される単官能フェノール類の具体例としては、例えばイソプロピルフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クレゾール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールなどが挙げられる。
また、上記一般式(2)〜(3)で表される単官能フェノール類は、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族ポリエステル基を置換基として有するフェノール類であり、これらを用いてポリカーボネート樹脂の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、基板としての物性、特に樹脂の吸水率を低くする効果があり、また、基板の複屈折が低減される効果もあり好ましく使用される。
【0028】
上記一般式(2)の置換フェノール類としてはnが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
また、上記一般式(3)の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0029】
これら単官能フェノール類の内、上記一般式(1)で表される単官能フェノール類が好ましく、より好ましくはアルキル置換もしくはフェニルアルキル置換のフェノール類であり、特に好ましくはp−tert−ブチルフェノールまたはp−クミルフェノールである。
これらの単官能フェノール類の末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少くとも5モル%、好ましくは少くとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0030】
ポリカーボネート樹脂の分子量は、粘度平均分子量(M)で10,000〜22,000が好ましく、12,000〜20,000がより好ましく、13,000〜18,000が特に好ましい。かかる粘度平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。本発明でいう粘度平均分子量は塩化メチレン100mLにポリカーボネート樹脂0.7gを20℃で溶解した溶液から求めた比粘度(ηsp)を次式に挿入して求めたものである。
【0031】
原料ポリカーボネート樹脂は、従来公知の常法(界面重合法、溶融重合法など)により製造した後、溶液状態においてアルカリ抽出や濾過処理をしたり、造粒(脱溶媒)後の粒状原料を例えばアセトンなどのケトン類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、キシレンなどの芳香族炭化水素などのポリカーボネート貧溶媒および非溶媒で洗浄して低分子量成分や未反応成分等の不純物や異物を除去することが好ましい。更に射出成形に供するためのペレット状ポリカーボネート樹脂を得る押出工程(ペレット化工程)では溶融状態の時に濾過精度10μmの焼結金属フィルターを通すなどして異物を除去したりすることが好ましい。必要により、例えば多価アルコール脂肪酸エステル等の離型剤、リン系等の酸化防止剤などの添加剤を加えることも好ましい。いずれにしても射出成形前の原料樹脂は異物、不純物、溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。
【0032】
置換基を有する単官能フェノール類の含有量を低減する方法として、例えば、その単官能フェノール類の添加後、触媒を加えて十分に反応を行ったり、従来公知の常法(溶液重合法、溶融重合法など)により製造した後、溶液状態においてアルカリ抽出をしたり、造粒(脱溶媒)後の粒状原料を例えばアセトンなどのケトン類、ヘキサンなどの脂肪族炭化水素、キシレンなどの芳香族炭化水素などのポリカーボネート貧溶媒および非溶媒で洗浄したりして除去することが好ましい。これらの方法および手段は、置換基を有する単官能フェノール類の含有量が、目標とする値に低減されるまで、適当に組合せたり、また繰返して実施することが望ましい。その一例を示すと、アセトン抽出において、その使用量をポリカーボネート樹脂に対して従来より多量、例えば約10重量倍またはそれ以上使用したり、抽出温度を従来より上げたり、また抽出時に攪拌を従来より強力に行うなどの方法が挙げられる。
【0033】
上記ポリカーボネート樹脂より光ディスク基板を製造する場合には射出成形機(射出圧縮成形機を含む)を用いる。この射出成形機としては一般的に使用されているものでよいが、炭化物の発生を抑制しディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューとして樹脂との付着性が低く、かつ耐食性、耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いるのが好ましい。射出成形の条件としてはシリンダー温度300〜400℃、金型温度50〜140℃が好ましく、これらにより光学的に優れた光ディスク基板を得ることができる。成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。さらに、複屈折、機械特性などに異常が発生した基板は、製品あるいは試験用基板として採用しないように配慮することも重要である。
【0034】
本発明による光学用ポリカーボネート樹脂成形材料よりなる光ディスク基板は、高温・高湿条件下長時間保持しても微小な白点の発生は極めて少なく、CD−R、CD−RW、MO、デジタルビデオディスク、DVD−ROM、DVD−audio、DVD−R、DVD−RAM等で代表されるデジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)の光ディスクの基板、特にDVDの基板として優れている。この高温・高湿条件下の特性は、ディスクを温度80℃、相対湿度85%に制御した恒温恒湿槽に1000時間放置した後の大きさ20μm以上の白点発生数を調べることによって確認される。本発明によるポリカーボネート樹脂成形材料から得られたディスクの白点発生数は直径120mmの基板あたり2個以下であり、好適なものは1個以下である。
【0035】
【実施例】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお、評価は下記の方法に従った。
(1)単官能フェノール類量分析
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて定量をおこなった。
(2)長期信頼性試験
ディスク用成形機[住友重機(株)製DISK 3M III]により成形された光ディスク用基板(直径120mm、厚さ1.2mm)を、温度80℃、相対湿度85%に制御した恒温恒湿槽に1000時間放置した後、基板中の大きさ20μm以上の白点発生数を数えた。これを25枚の光学式ディスク基板についておこない、その平均値を求め、これを白点個数とした。
(3)CD生産性試験
射出成形機、住友重機械工業製DISK3 M III にCD専用の金型を取り付け、この金型にピットの入ったニッケル製のCD用スタンパーを装着し、成形材料を自動搬送にて成形機のホッパに投入し、シリンダー温度340℃、金型温度70℃にて連続的に成形をおこなった。連続成形開始後、複屈折、機械特性に異常が生じることにより、不良基板生産枚数が増加し、100枚単位あたりの不良基板枚数が10%を超えるまでの成形枚数を求めた。生産基板の良品判定基準は、複屈折がダブルパスで±100nm以下、機械特性が半径方向反り角で±1.6度以内とした。
(4)DVD生産性試験
射出成形機、住友重機械工業製DISK3 M III にDVD専用の金型を取り付け、この金型にピットの入ったニッケル製のDVD用スタンパーを装着し、成形材料を自動搬送にて成形機のホッパに投入し、シリンダー温度380℃、金型温度115℃にて連続的に成形をおこない、CD生産性試験と同様の方法にて、成形枚数を求めた。生産基板の良品判定基準は、複屈折がダブルパスで±100nm以下、機械特性が半径方向反り角で±0.8度以内、周方向反り角で±0.3度以内とした。
【0036】
実施例1
単官能フェノール類としてp−tert−ブチルフェノールを35ppm含有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン骨格ポリカーボネートパウダーに、リン系酸化防止剤[トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト]50ppmおよび脂肪族エステル(グリセリンモノステアレート)300ppmを添加した後に、押出機でペレット化した。得られたペレットを使用して、長期信頼性試験、CD生産性試験、DVD生産性試験をおこなった結果を表1に示す。
【0037】
実施例2
実施例1において、単官能フェノール類としてp−tert−ブチルフェノールを24ppm含有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン骨格ポリカーボネートパウダーを使用した以外は、実施例1と同様の操作をおこなった。結果を表1に示す。
【0038】
実施例3
実施例1において、単官能フェノール類としてp−tert−ブチルフェノールを8ppm含有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン骨格ポリカーボネートパウダーを使用した以外は、実施例1と同様の操作をおこなった。結果を表1に示す。
【0039】
比較例1
実施例1において、単官能フェノール類としてp−tert−ブチルフェノールを84ppm含有する、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン骨格ポリカーボネートパウダーを使用した以外は、実施例1と同様の操作をおこなった。結果を表1に示す。
【0040】
この結果から、信頼性の高い高密度光ディスク基板を得るには基板成形に供する光学用ポリカーボネート樹脂成形材料に関して、その中に含まれる置換基を有する単官能フェノール類含有量が50ppm以下まで低減しなければならないことは明白である。
【0041】
【表1】
【0042】
【発明の効果】
本発明の成形材料によれば該材料中の含有する置換基を有する単官能フェノール類含有量が50ppm以下と少なく、長期間にわたって高い信頼性を維持でき、かつ、基板生産性を向上できる光学用ポリカーボネート樹脂成形材料および光ディスク基板を得ることが出来る。CD−R、CD−RW、MO、デジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)等の光ディスク、特にDVDにおいても、その奏する効果は格別のものである。
Claims (3)
- ポリカーボネート樹脂を射出成形して光ディスク基板を製造する際に、ポリカーボネート樹脂として、単官能フェノール類の含有量が50ppm以下であるポリカーボネート樹脂を用い、光ディスク基板の白点発生数を1個以下にする方法(但し、白点発生数は、光ディスク基板(直径120mm、厚さ1.2mm)を、温度80℃、相対湿度85%で1000時間放置した後に発生する大きさ20μm以上の白点数を25枚の光ディスク基板について求めたものの平均値である。)
- ポリカーボネート樹脂は粘度平均分子量が10000〜22000である請求項1記載の方法。
- 光ディスク基板が、デジタル・バーサタイル・ディスク(DVD)用である請求項1記載の方法。
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