JP4585643B2 - 高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板 - Google Patents

高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料、およびそれより形成された光ディスク基板 Download PDF

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Description

【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、成形性を改善したポリカーボネート樹脂光学用成形材料に関する。さらに詳しくは、高密度記録媒体の製造に関して、スタンパー形状に対する精密転写性、高速サイクル成形性に好適であり、且つ、スタンパーへの付着物を極めて抑制した高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料およびそれより形成された光ディスク基板に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、ポリカーボネート樹脂は、透明性、耐熱性、機械的特性、寸法安定性が優れていることから、エンジニアリングプラスチックとして多くの分野に広く使用されている。特に透明性に優れることから光学材料、なかでも光ディスク基板の材料として好適に使用されている。しかし、近年、光ディスクは、高記録密度、薄肉化が急激に進行しており、またその成形においても高速サイクル化されておりそのため成形性、なかでも転写精度は充分とは云えなかった。そこで、転写精度を向上させるため、成形機のシリンダー温度を380℃程度、金型温度を120℃程度まで高くする必要があった。
【0003】
しかしながら、成形温度を高くし、かつ成形サイクルを高速化すると金型から取り出す際、離型不良が生じ、ピットやグルーブの形状が変形し、転写精度が低下するという問題が発生する。
【0004】
また、高流動性を付与するために低分子量体を多く含有させる方法が提案されている(特開平9−208684号公報、特開平11−1551号公報)。しかし、この低分子量体は一般に熱安定性が非常に低く、したがって、成形時に熱分解を促進する結果、ディスク基板の機械的強度が著しく低下するのみならず、スタンパーへの付着量が増大する可能性があった。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、光記録媒体、とりわけ高密度記録媒体の製造に関して、スタンパー形状に対する精密転写性、高速サイクル成形性に好適であり、且つ、スタンパーへの付着物を極めて抑制したポリカーボネート樹脂よりなる成形材料を提供することにある。
【0006】
ここで本発明における「高精密転写性」とは、透明熱可塑性樹脂成形材料を用いて射出成形により光ディスク基板を製造する場合に、スタンパーに刻印された微細な凹凸形状を通常の成形条件で忠実に転写することができる性質のことである。
【0007】
本発明者らは、上記目的を達成せんと鋭意研究を重ねた結果、ポリカーボネート樹脂において、流動特性、粘弾性特性、機械特性を支配している高分子量体の含有量を特定量に規定することにより、スタンパー形状に対する精密転写性、ハイサイクル成形性に好適であり、且つ、スタンパーへの付着物を極めて抑制したポリカーボネート樹脂が得られることを見出した。本発明はこの知見に基づき完成したものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】
かくして本発明によれば、下記の高精密転写性を有するポリカーボネート樹脂よりなる光学用成形材料が提供される。
ルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量が、27,50033,000のポリカーボネート樹脂であって、該ポリカーボネート樹脂中に含まれる分子量が40,000〜60,000の高分子量ポリカーボネート樹脂が1017重量%であり、かつ分子量が60,000を超える超高分子量ポリカーボネート樹脂が10重量%以下であるポリカーボネート樹脂よりなることを特徴とする高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料。
【0009】
本発明のポリカーボネート樹脂は、GPC法によって測定された重量平均分子量(Mw)が27,500〜33,000の範囲のものである。本発明において、重量平均分子量および重量分子量の測定は、ポリスチレン換算によるゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によって行った値を意味する。その説明は後述する。
【0010】
本発明は、前記重量平均分子量(Mw)を有するポリカーボネート樹脂において、流動特性、粘弾性特性および機械特性を主として支配している高分子量体について、GPC法による重量分子量が60,000を超える超高分子量の樹脂と、40,000〜60,000の範囲の高分子量の樹脂の2つのクラスに分け、それぞれのクラスにおいて、その含有量を一定量以下とすることを特徴としている。これら高分子量の樹脂および超高分子量の樹脂を特定量以下とすることにより、高密度記録媒体のディスクに対して、高精密な転写性をスタンパーへの付着物の低減を可能とし、ディスクの強度を損ねることなく高速サイクルの成形を可能とすることができた。
【0011】
本発明のポリカーボネート樹脂において、GPC法による重量分子量(Mw)が60,000を超える超高分子量の樹脂は、ポリカーボネート樹脂全体当たり、10重量%以下、好ましくは8重量%以下である。
【0012】
本発明のポリカーボネート樹脂の別の態様は、GPC法による重量分子量(Mw)が40,000〜60,000の高分子量の樹脂は、ポリカーボネート樹脂全体当たり、10〜17重量%、好ましくは11〜16重量%である。
【0013】
本発明のポリカーボネート樹脂の他の態様は、GPC法による重量分子量(Mw)が、60,000を超える超高分子量の樹脂および40,000〜60,000の高分子量の樹脂の含有量がポリカーボネート樹脂全体当たり、共に前記範囲を満足することである。この他の態様は本発明においてより一層望ましい。
【0014】
以下、本発明のポリカーボネート樹脂を構成する二価フェノールおよびその製造法について説明する。すなわち、ポリカーボネート樹脂は、芳香族二価フェノールとカーボネート前駆体とを界面重合法または溶融重合法で反応させて得られるものである。ここで使用される二価フェノールの代表的な例としては、ハイドロキノン、レゾルシノール、4,4’−ジヒドロキシジフェニル、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}メタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3,5−ジメチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(3−イソプロピル−4−ヒドロキシ)フェニル}プロパン、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−フェニル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,4−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−2−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ペンタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、9,9−ビス(4−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}フルオレン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−o−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼン、α,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−p−ジイソプロピルベンゼン、1,3−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−5,7−ジメチルアダマンタン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルホキシド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルスルフィド、4,4’−ジヒドロキシジフェニルケトン、4,4’−ジヒドロキシジフェニルエーテルおよび4,4’−ジヒドロキシジフェニルエステル等が挙げられ、これらは単独または2種以上を混合して使用できる。
【0015】
なかでもビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3−メチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3−ジメチルブタン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−4−メチルペンタン、1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンおよびα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンからなる群より選ばれた少くとも1種のビスフェノールより得られる単独重合体または共重合体が好ましく、特に、ビスフェノールAの単独重合体および1,1−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサンとビスフェノールA、2,2−ビス{(4−ヒドロキシ−3−メチル)フェニル}プロパンまたはα,α’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)−m−ジイソプロピルベンゼンとの共重合体が好ましく使用される。
【0016】
カーボネート前駆体としてはカルボニルハライド、カーボネートエステルまたはハロホルメート等が使用され、具体的にはホスゲン、ジフェニルカーボネートまたは二価フェノールのジハロホルメート等が挙げられる。
【0017】
上記二価フェノールとカーボネート前駆体を界面重合法または溶融重合法によって反応させてポリカーボネート樹脂を製造するに当っては、必要に応じて触媒、末端停止剤、二価フェノールの酸化防止剤等を使用してもよい。またポリカーボネート樹脂は三官能以上の多官能性芳香族化合物を共重合した分岐ポリカーボネート樹脂であっても、芳香族または脂肪族の二官能性カルボン酸を共重合したポリエステルカーボネート樹脂であってもよく、また、得られたポリカーボネート樹脂の2種以上を混合した混合物であってもよい。
【0018】
界面重合法による反応は、二価フェノールとホスゲンとの反応であり、酸結合剤および有機溶媒の存在下に反応させる。酸結合剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物またはピリジン等のアミン化合物が用いられる。有機溶媒としては、例えば塩化メチレン、クロロベンゼン等のハロゲン化炭化水素が用いられる。また、反応促進のために例えばトリエチルアミン、テトラ−n−ブチルアンモニウムブロマイド、テトラ−n−ブチルホスホニウムブロマイド等の第三級アミン、第四級アンモニウム化合物、第四級ホスホニウム化合物等の触媒を用いることもできる。その際、反応温度は通常0〜40℃、反応時間は10分〜5時間程度、反応中のpHは8以上好ましくは9以上に保つのが望ましい。
【0019】
また、かかる重合反応において、通常末端停止剤が使用される。かかる末端停止剤として単官能フェノール類を使用することができる。単官能フェノール類は末端停止剤として分子量調節のために一般的に使用され、また得られたポリカーボネート樹脂は、末端が単官能フェノール類に基づく基によって封鎖されているので、そうでないものと比べて熱安定性に優れている。かかる単官能フェノール類としては、一般にはフェノールまたは低級アルキル置換フェノールであって、下記一般式(1)で表される単官能フェノール類を示すことができる。
【0020】
【化1】
Figure 0004585643
【0021】
[式中、Aは水素原子または炭素数1〜9の直鎖または分岐のアルキル基あるいはフェニル置換アルキル基であり、rは1〜5、好ましくは1〜3の整数である。]
上記単官能フェノール類の具体例としては、例えばフェノール、p−tert−ブチルフェノール、p−クミルフェノールおよびイソオクチルフェノールが挙げられる。
【0022】
また、他の単官能フェノール類としては、長鎖のアルキル基あるいは脂肪族ポリエステル基を置換基として有するフェノール類または安息香酸クロライド類、もしくは長鎖のアルキルカルボン酸クロライド類を使用することができ、これらを用いてポリカーボネート樹脂の末端を封鎖すると、これらは末端停止剤または分子量調節剤として機能するのみならず、樹脂の溶融流動性が改良され、成形加工が容易になるばかりでなく、基板としての物性、特に樹脂の吸水率を低くする効果があり、また基板の複屈折率が低減される効果もあり、好ましく使用される。なかでも、下記一般式(2)および(3)で表される長鎖のアルキル基を置換基として有するフェノール類が好ましく使用される。
【0023】
【化2】
Figure 0004585643
【0024】
【化3】
Figure 0004585643
【0025】
[式中、Xは−R−O−、−R−CO−O−または−R−O−CO−である、ここでRは単結合または炭素数1〜10、好ましくは1〜5の二価の脂肪族炭化水素基を示し、nは10〜50の整数を示す。]
前記式(2)の置換フェノール類としてはnが10〜30、特に10〜26のものが好ましく、その具体例としては例えばデシルフェノール、ドデシルフェノール、テトラデシルフェノール、ヘキサデシルフェノール、オクタデシルフェノール、エイコシルフェノール、ドコシルフェノールおよびトリアコンチルフェノール等を挙げることができる。
【0026】
また、前記式(3)の置換フェノール類としてはXが−R−CO−O−であり、Rが単結合である化合物が適当であり、nが10〜30、特に10〜26のものが好適であって、その具体例としては例えばヒドロキシ安息香酸デシル、ヒドロキシ安息香酸ドデシル、ヒドロキシ安息香酸テトラデシル、ヒドロキシ安息香酸ヘキサデシル、ヒドロキシ安息香酸エイコシル、ヒドロキシ安息香酸ドコシルおよびヒドロキシ安息香酸トリアコンチルが挙げられる。
【0027】
これらの末端停止剤は、得られたポリカーボネート樹脂の全末端に対して少くとも5モル%、好ましくは少くとも10モル%末端に導入されることが望ましく、また、末端停止剤は単独でまたは2種以上混合して使用してもよい。
【0028】
溶融重合法による反応は、通常二価フェノールとカーボネートエステルとのエステル交換反応であり、不活性ガスの存在下に二価フェノールとカーボネートエステルとを加熱しながら混合して、生成するアルコールまたはフェノールを留出させる方法により行われる。反応温度は生成するアルコールまたはフェノールの沸点等により異なるが、通常120〜350℃の範囲である。反応後期には反応系を10〜0.1Torr(13330Pa〜133Pa)程度に減圧して生成するアルコールまたはフェノールの留出を容易にさせる。反応時間は通常1〜4時間程度である。
【0029】
カーボネートエステルとしては、置換されていてもよい炭素数6〜10のアリール基、アラルキル基あるいは炭素数1〜4のアルキル基などのエステルが挙げられる。具体的にはジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート、ビス(クロロフェニル)カーボネート、m―クレジルカーボネート、ジナフチルカーボネート、ビス(ジフェニル)カーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジブチルカーボネートなどが挙げられ、なかでもジフェニルカーボネートが好ましい。
【0030】
また、重合速度を高めるために重合触媒を用いることができ、かかる重合触媒としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、二価フェノールのナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属化合物;水酸化カルシウム、水酸化バリウム、水酸化マグネシウム等のアルカリ土類金属化合物;テトラメチルアンモニウムヒドロキシド、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド、トリメチルアミン、トリエチルアミン等の含窒素塩基性化合物;アルカリ金属やアルカリ土類金属のアルコキシド類;アルカリ金属やアルカリ土類金属の有機酸塩類;その他に亜鉛化合物類、ホウ素化合物類、アルミニウム化合物類、珪素化合物類、ゲルマニウム化合物類、有機スズ化合物類、鉛化合物類、オスミウム化合物類、アンチモン化合物類マンガン化合物類、チタン化合物類、ジルコニウム化合物類などの通常エステル化反応、エステル交換反応に使用される触媒を用いることができる。触媒は単独で使用してもよいし、2種以上組み合わせ使用してもよい。これらの重合触媒の使用量は、原料の二価フェノール1モルに対し、好ましくは1×10-8〜1×10-3当量、より好ましくは1×10-7〜5×10-4当量の範囲で選ばれる。
【0031】
また、かかる重合反応において、フェノール性の末端基を減少するために、重縮反応の後期あるいは終了後に、例えばビス(クロロフェニル)カーボネート、ビス(ブロモフェニル)カーボネート、ビス(ニトロフェニル)カーボネート、ビス(フェニルフェニル)カーボネート、クロロフェニルフェニルカーボネート、ブロモフェニルフェニルカーボネート、ニトロフェニルフェニルカーボネート、フェニルフェニルカーボネート、メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよびエトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート等の化合物を加えることが好ましい。なかでも2−クロロフェニルフェニルカーボネート、2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートおよび2−エトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく、特に2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネートが好ましく使用される。
【0032】
本発明では、かくして得られたポリカーボネート樹脂の分子量が、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)により測定される重量平均分子量(Mw)が27,50033,000の範囲に制御される。かかる重量平均分子量を有するポリカーボネート樹脂は、光学用材料として十分な強度が得られ、また、成形時の溶融流動性も良好であり成形歪みが発生せず好ましい。
【0033】
本発明の1つの実施態様では、ポリカーボネート樹脂は、その重量平均分子量(Mw)が、上記範囲内にあるのと同時に、該樹脂中に含まれる重量分子量が、60,000を超える超高分子量成分の含有量が10重量%以下であることが要件である。
【0034】
また本発明の他の実施態様では、ポリカーボネート樹脂は、その重量平均分子量(Mw)が、上記範囲内であるのと同時に該樹脂中に含まれる重量分子量が40,000〜60,000の高分子量成分の含有量が1017重量%であることが要件である。
【0035】
上述した要件を満足すべく、(超)高分子量成分の含有量を制御する方法としては、例えば(a)ポリカーボネート樹脂溶液(界面重合法において、重合が終了した後のポリカーボネート樹脂溶液が好ましい)にn−ヘプタン、アセトン、MEKなどの高分子量ポリカーボネート樹脂に対する貧溶媒を添加せしめ、高分子量ポリカーボネート樹脂を多く含む析出物を濾過し、残りの溶液を乾燥・固化して高分子量成分を除去する方法、(b)適度な良溶媒性を示す溶媒、例えば塩化メチレン/アセトン、塩化メチレン/n−ヘプタン、ジオキソラン/MEK、ジオキサン/アセトンの混合溶媒等を用いて、ポリカーボネート樹脂の大部分(60〜98重量%、好ましくは70〜95重量%)を溶解し、この溶液を乾燥・固化して中分子量成分を多く含ませる方法、(c)ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)を使用して、分画分取をおこなう方法、(d)ポリカーボネートの重縮合反応において、重量平均分子量を例えば24,000程度の低領域に設定して、あらかじめ高分子量成分の生成量を抑制した後にアセトンなどの低分子量ポリカーボネートに対しては、比較的溶解力のある溶媒を使用して低分子量成分を抽出除去する方法によって、高分子量のポリカーボネート樹脂を除去する方法などが挙げられるが、特に限定されるものではない。
【0036】
ポリカーボネート樹脂は、従来公知の常法(界面重合法、溶融重合法など)により製造した後、溶液状態において濾過処理を行ない未反応成分等の不純物や異物を除去することが好ましい。さらにアセトンなどが、高分子量ポリカーボネート樹脂に対する貧溶媒と同時に比較的低分子量のポリカーボネート樹脂に対しては、溶解力があるという特性を有することを利用して、加熱条件下で、造粒(脱溶媒)後の粒状原料をアセトンなどで洗浄して低分子量成分や未反応成分等の不純物や異物を抽出除去することが好ましい。さらに射出成形に供するためのペレット状ポリカーボネート樹脂を得る押出工程(ペレット化工程)では溶融状態の時に濾過精度10μmの焼結金属フィルターを通すなどして異物を除去することが好ましい。必要により、例えばリン系等の酸化防止剤などの添加剤を加えることも好ましい。いずれにしても射出成形前の原料樹脂は異物、不純物、溶媒などの含有量を極力低くしておくことが必要である。
【0037】
上記ポリカーボネート樹脂より光ディスク基板を製造する場合には射出成形機(射出圧縮成形機を含む)を用いる。この射出成形機としては一般的に使用されているものでよいが、炭化物の発生を抑制しディスク基板の信頼性を高める観点からシリンダーやスクリューとして樹脂との付着性が低く、かつ耐食性、耐摩耗性を示す材料を使用してなるものを用いるのが好ましい。射出成形の条件としてはシリンダー温度300〜400℃、金型温度50〜140℃が好ましく、これらにより光学的に優れた光ディスク基板を得ることができる。成形工程での環境は、本発明の目的から考えて、可能な限りクリーンであることが好ましい。また、成形に供する材料を十分乾燥して水分を除去することや、溶融樹脂の分解を招くような滞留を起こさないように配慮することも重要となる。
【0038】
このように成形された光ディスク基板は、コンパクトディスク(以下、CDと称することがある)、CD−R、MO、MD−MO等や、さらにはデジタルビデオディスク(以下、DVDと称することがある)、DVD−ROM、DVD−video、DVD−R、DVD−RAM等で代表される高密度光ディスク用基板として使用される。特に高密度光ディスク用基板に好適に用いられる。
【0039】
【実施例】
以下、実施例を挙げて詳細に説明するが、本発明は何らこれに限定されるものではない。なお評価は下記の方法に従った。
【0040】
(1)重量平均分子量および、分子量分布
ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)によるポリスチレン換算測定を実施した。すなわち、GPC充填剤としては、Shodex GPCA−804を充填した内径1.5cm、長さ46cmのカラムを使用する。まず、以下の標準ポリスチレンを使用して、検量線を作成した。
(使用ポリスチレン)
・東ソー株式会社製 標準ポリスチレン (詳細表1掲載)
【0041】
【表1】
Figure 0004585643
【0042】
すなわち、カラム温度を約20℃に保持した状態で、表1の標準ポリスチレン試料30mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解した溶液45μlを注入し、1.0ml/分の速度でテトラヒドロフランを流して、ウォーターズ社製486型ディテクターを使用して254nmの紫外線によって検出する。
【0043】
次に、製造したポリカーボネート樹脂についても同様の操作にて測定し、その結果を先程のポリスチレン検量線と対応させることにより、分子量分布を決定した。
【0044】
(2)転写性
射出成形機(名機製作所 M35B−D−DM)とキャビティ厚0.6mm直径120mmの金型および深さ145nm幅0.74μmの溝が刻まれたスタンパーを用いて、金型温度125℃、充填時間0.2秒、冷却時間15秒、型締力35トンでディスク基板を成形した。次に原子間力顕微鏡(セイコー電子工業 SPI3700)にてr=55mmにおけるディスク基板の溝部の深さを測定し、溝形状の再現率(=100×ディスクの溝深さ/スタンパーの溝深さ(%))を求めた。また成形した基板を1000枚目視観察し、割れの有無を確認した。
【0045】
実施例1
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水263部、48%水酸化ナトリウム水溶液48.2部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン69.0部およびハイドロサルファイト0.14部を溶解した後、塩化メチレン217部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン34.0部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液8.64部およびp−tert−ブチルフェノール2.68部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.07部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水と殆ど同じになったところで、アセトン185部を加えて、析出分である高分子量ポリカーボネート樹脂を濾過により、除去した。その後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレン、アセトンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。このパウダーにトリス(2,4−di−tert−ブチルフェニル)ホスファイトを0.0025重量%、ステアリン酸モノグリセリドを0.05重量%加えた。次に、かかるパウダーをベント式二軸押出機[神戸製鋼(株)製KTX−46]によりシリンダー温度240℃で脱気しながら溶融混練し、重量平均分子量30,100のペレットを得た。この時の重量平均分子量および各分子量水準の構成比ならびに成形評価結果について、表2に掲載した。
【0046】
実施例2
イオン交換水176部、48%水酸化ナトリウム水溶液32.2部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン46.0部およびハイドロサルファイト0.10部を溶解した後、塩化メチレン124部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン22.6部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液5.7部およびp−tert−ブチルフェノール1.78部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.05部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した。反応終了後生成物を塩化メチレンで希釈して水洗した後塩酸酸性にして水洗し、水相の導電率がイオン交換水とほとんど同じになったところで、アセトン185部を加えて、析出分である高分子量ポリカーボネート樹脂を濾過により除去した。その後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレン、アセトンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥してパウダーを得た。かくして重量平均分子量27,500のパウダーを得た以外は実施例1と同様におこなった。この時の重量平均分子量および各分子量水準の構成比ならびに成形評価結果について、表2に掲載した。
【0047】
実施例3
撹拌機および蒸留塔を備えた反応器に2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン50.2部、ジフェニルカーボネート(バイエル社製)49.2部および触媒として水酸化ナトリウム0.000005部とテトラメチルアンモニウムヒドロキシド0.0016部を仕込み、窒素置換した。この混合物を200℃まで加熱して撹拌しながら溶解させた。次いで、減圧度を4.0kPaとして加熱しながら1時間で大半のフェノールを留去し、さらに270℃まで温度を上げ、減圧度を133Paとして2時間重合反応を行ったところで、末端停止剤2−メトキシカルボニルフェニルフェニルカーボネート0.5部を添加した。その後270℃、133Pa以下で5分間末端封鎖反応を行った。次に溶融状態のままで、触媒中和剤としてドデシルベンゼンスルホン酸テトラブチルホスホニウム塩を0.0023部(4×10-5モル/ビスフェノール1モル)添加して270℃、1.33kPa以下で10分間反応を継続し、重量平均分子量30,200のポリマーを得た。このポリマー100部を塩化メチレン840部で溶解し、次いでアセトン716部を加えて、析出分である高分子量ポリカーボネート樹脂を濾過により、除去した重量平均分子量29,900のパウダーを得た。以下、実施例1と同様に光ディスク基板を成形し、これを評価した。この時の重量平均分子量および各分子量水準の構成比ならびに成形評価結果について、表2に掲載した。
【0048】
比較例1
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水164.6部、48%水酸化ナトリウム水溶液30.2部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン43.1部およびハイドロサルファイト0.09部を溶解した後、塩化メチレン136部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン21.2部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液5.4部およびp−tert−ブチルフェノール1.34部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.05部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了し、重量平均分子量39,000のポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液を得た。この溶液と実施例1と同様の方法で得た重量平均分子量30,500のポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液について、ポリカーボネート樹脂重量比が、50/50(wt%)になるように混合した後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥して、重量平均分子34,400のパウダーを得た以外は実施例1と同様におこなった。この時の重量平均分子量および各分子量水準の構成比ならびに成形評価結果について、表2に掲載した。
【0049】
比較例2
温度計、撹拌機および還流冷却器付き反応器にイオン交換水219.4部、48%水酸化ナトリウム水溶液40.2部を仕込み、これに2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン57.5部およびハイドロサルファイト0.12部を溶解した後、塩化メチレン181部を加え、撹拌下15〜25℃でホスゲン28.3部を40分要して吹込んだ。ホスゲン吹き込み終了後、48%水酸化ナトリウム水溶液7.2部およびp−tert−ブチルフェノール0.56部を加え、撹拌を始め、乳化後トリエチルアミン0.06部を加え、さらに28〜33℃で1時間撹拌して反応を終了した、重量平均分子量62,300のポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液▲1▼を得た。これとは別にp−tert−ブチルフェノール3.17部を加えた以外は上記と同様におこなって、重量平均分子量12,600のポリカーボネート樹脂の塩化メチレン溶液▲2▼を得た。この2種のポリカーボネート樹脂塩化メチレン溶液▲1▼、▲2▼について、ポリカーボネート樹脂の重量比が、▲1▼/▲2▼=20/80(wt%)になるように混合した後、軸受け部に異物取出口を有する隔離室を設けたニーダー中の温水にポリカーボネート樹脂溶液を滴下し、塩化メチレンを留去しながらポリカーボネート樹脂をフレーク化した。次にこの含液ポリカーボネート樹脂を粉砕、乾燥して、重量平均分子量23,100のパウダーを得た以外は実施例1と同様におこなった。この時の重量平均分子量および各分子量水準の構成比ならびに成形評価結果について、表2に掲載した。
【0050】
【表2】
Figure 0004585643
【0051】
【発明の効果】
本発明の高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料は、ポリカーボネート樹脂を成形してなる光記録媒体、とりわけ高密度記録媒体の製造に関して、スタンパー形状に対する精密転写性、高速サイクル成形性に好適であり、且つ、スタンパーへの付着物を極めて抑制した高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料として好適に用いられる。

Claims (3)

  1. ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法(GPC法)により測定される重量平均分子量が、27,50033,000のポリカーボネート樹脂であって、該ポリカーボネート樹脂中に含まれる分子量が40,000〜60,000の高分子量ポリカーボネート樹脂が1017重量%であり、かつ分子量が60,000を超える超高分子量ポリカーボネート樹脂が10重量%以下であるポリカーボネート樹脂よりなることを特徴とする高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料。
  2. 前記ポリカーボネート樹脂が、2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンを二価フェノール成分として得られた重縮合化合物である請求項1記載の高精密転写性ポリカーボネート樹脂光学用成形材料。
  3. 請求項1または2記載の成形材料により形成された光ディスク基板。
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