JP4673310B2 - 歯科用重合性組成物 - Google Patents

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Description

本発明は、歯科用重合性組成物に関する。さらに詳しくは、歯科材料分野における各種充填材料、補修材料、義歯床用材料、歯冠用材料、合着用材料、接着剤、コーティング剤、歯垢形成抑制剤、知覚過敏抑制剤などとして好適に使用しうる歯科用重合性組成物に関する。
重合性単量体と重合開始剤とからなる歯科用重合性組成物は、現在広く臨床に用いられている。歯科用重合性組成物は、例えば、歯牙の破折やう蝕窩洞の充填修復に用いられるコンポジットレジンと称される歯科修復材料、コンポジットレジンやインレー/クラウンなどの歯冠補綴物を歯牙に接着させるための歯科用接着剤やセメント、さらには人工歯や義歯床用材料、コーティング剤などに用いられている。
しかし、これらのレジン系の修復材料が口腔内で長期間存在していると、その表面に変色や着色が生じたり、プラークが付着しやすいことが指摘されている。また、修復材料に限らず、天然歯牙の表面にプラークが付着すると、う蝕や歯周疾患などの種々の口腔疾患の原因となるといわれている。
近年、歯や修復材料の表面に耐汚染性を付与することにより、プラーク(歯垢)の付着を抑制しようとする試みが行われており、リン酸基を含有する単量体単位およびオキシエチレン基を含有する単量体単位を主鎖中に含むポリマーからなる歯垢形成抑制剤が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
また、レジン系の歯科用修復材料の表面への変着色やプラークの蓄積を抑制するために、主鎖両末端にフルオロアルキル基を含有するシリコンオリゴマーを有効成分とするコーティング剤(例えば、特許文献2参照)、モノマーの一部として含フッ素(メタ)アクリレートを含有する義歯床用裏装材やコーティング組成物(例えば、特許文献3〜4参照)、アクリル酸などの極性基を有するモノマーとフッ素原子を含有するモノマーを共重合させることによって得られた含フッ素ポリマーを含有するコーティング組成物(例えば、特許文献5参照)などのフッ素系材料を応用した歯科材料が提案されている。
さらに、フッ素化合物を耐汚染性以外の目的で歯科材料用途に応用する試みとして、主鎖両末端にフルオロアルキル基を有するポリ(メタ)アクリル酸を含有するグラスアイオノマーセメント硬化液が提案されている(例えば、特許文献6参照)。また、歯科材料以外の用途に視野を広げると、基材に防汚性を付与する技術として、主鎖両末端にフルオロアルキル基を有し、かつ主鎖がリン酸基またはN,N−ジ置換アミノカルボニル基を有する単量体単位から構成されるポリマーを、繊維、金属、プラスチック、紙などへの表面処理剤として応用する技術(例えば、特許文献7〜9参照)、主鎖両末端にフルオロアルキル基を有するポリマーを光重合性モノマーやプレポリマーに配合してなる光重合性のコーティング剤組成物をプラスチック、木材、繊維、金属などの表面改質に応用する技術(例えば、特許文献10参照)などが提案されている。
特開2003−48842号公報 特開平5−155730号公報 特開2000−312689号公報 特開2003−95838号公報 特表平10−510531号公報 特開平5−255032号公報 特開平10−7731号公報公報 特開平10−251348号公報 特開2003−253022号公報 特開平10−245419号公報
しかし、特許文献1に記載の歯垢形成抑制剤は、口腔内で歯や修復材料の表面上に長く留まることができないので、効果の持続性に劣り、実用性に乏しいという欠点がある。
特許文献2に記載のコーティング剤には、歯ブラシなどで摩耗を受けるとフッ素化合物(シリコンオリゴマー)が基材表面から容易に剥がれ落ちるので、防汚性の持続性に劣るという欠点や、一般にフッ素化合物の疎水性が強すぎるため、油やヤニなどの汚れが付着すると非常に剥がれ難いという欠点がある。
特許文献3および4に記載の義歯床用裏装材やコーティング組成物には、フッ素化合物(含フッ素(メタ)アクリレート)として、アルコール残基がフルオロアルキル基である(メタ)アクリレートが用いられているが、このような構造の(メタ)アクリレートは、義歯床用裏装材またはコーティング組成物中に一定割合以上(通常は50%以上)配合しなければ顕著な効果が得られないので、コスト的に不利となるという欠点がある。
また、特許文献5には、含フッ素ポリマーとモノマーとからなる重合性組成物がプラークの付着を抑制することが記載されているが、具体的に記載されている含フッ素ポリマーは、含フッ素モノマーと極性基含有モノマーとのランダム共重合体のみであり、本発明者らが検討した限りでは、高い防汚効果が認められなかった。
特許文献6に記載の歯科用組成物は、イオン架橋によるセメント組成物であり、重合性の組成物とは異なるため、歯牙や修復材料の表面に露出するような用途には用いることができないという欠点がある。
特許文献7〜9に記載の技術は、防汚性に優れるフッ素化合物(ポリマー)を、繊維、紙、プラスチック、金属などの基材へ吸着させることにより、基材の防汚性を高める技術であるが、特許文献2と同様に、フッ素化合物が基材表面から容易に剥がれ落ちるので、防汚性が持続しないという欠点があり、また、これらの文献は、フッ素化合物と重合性単量体とを併用することを示唆していない。
特許文献10に記載の光重合性のコーティング剤は、一般的な工業製品の表面改質を目的としたものであり、これらの工業製品とは、適用時および適用後の環境が全く相違する天然歯牙や歯科用修復材のコーティング剤として用いることに関して示唆を与えるものではない。すなわち、歯科用途では、単なる汚染防止にとどまるのではなく、他の物性も要求される。例えば、歯面コーティング剤や歯科用コンポジットでは、口腔内での変着色性や耐摩耗性、硬化物自体の耐変色性、プラークやバイオフィルムの蓄積の防止性能、歯面との接着耐久性を発現することも基本性能として、当然のごとく要求されるためである。
したがって、簡便な方法で表面に防汚性およびプラーク付着抑止性を付与することができ、かつ、硬化物の耐摩耗性、耐変色および歯面との接着性に優れ、コーティング剤や歯科用コンポジットレジンとして有用な歯科用重合性組成物が望まれている。
本発明の目的は、口腔内において硬化物の表面の耐汚染性、プラーク付着抑止性、耐摩耗性、硬化物自体の耐変色性、審美性、および歯面との接着性に優れた歯科用重合性組成物を提供することにある。
本発明は、
(1)(a)水酸基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ポリオキシアルキレン基、モルホリル基、シアノ基、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、四級アンモニウム塩基、アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基、環状エーテル基、アセチル基、及びアセトカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する鎖状重合体からなるフッ素化合物〔以下、フッ素化合物(a)という〕、
(b)重合性単量体〔以下、重合性単量体(b)という〕、および
(c)重合開始剤〔以下、重合開始剤(c)という〕
を含有する歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物、
(2)さらに、(d)溶剤を含有する前記歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物、
(3)前記歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物が1つの包装にまとまった一液型の歯科用コーティング剤、および
(4)前記歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物を歯科用修復材料の表面に塗布し、該重合性組成物に含まれている溶剤を蒸発させた後、硬化させることにより、歯科用修復材料の表面にフッ素化合物の層を形成させることを特徴とする歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物の硬化方法
に関する。
本発明の重合性組成物を重合させて得られた硬化物の表面は、フッ素の撥水撥油性に由来した汚れのつきにくさに加えて、親水性基を有することで油系の汚れが付着し難いという、優れた防汚性を発現する。また、この硬化物の表面には、プラークが付着し難いため、本発明の重合性組成物は、根面う蝕予防や歯周病予防に貢献するものである。また、本発明の重合性組成物の硬化物は、耐摩耗性に優れ、光沢が長期間にわたって維持され、さらに硬化物自体の変色が少ないので、審美性にも優れるという効果を奏する。
フッ素化合物(a)は、親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する鎖状重合体からなる。
フッ素化合物(a)において、親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する鎖状重合体が有する親水性基の具体例としては、例えば、水酸基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ポリオキシアルキレン基、モルホリル基、シアノ基;カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはそれらの塩;トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基;アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基などの両性イオン基;エポキシ基、オキセタニル基、テトラヒドロフルフリル基などの環状エーテル基;アセチル基、アセトカルボニル基などが挙げられる。これらの中では、プラーク付着を抑制する効果が高いという観点から、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはそれらの塩;トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基;アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基などの両性イオン基が好ましい。
親水性基を有する単量体単位を構成し得る重合性単量体の代表例としては、水酸基を有する重合性単量体、アミド基を有する重合性単量体、アミノ基やアミノアルキル基を有する重合性単量体、ポリオキシアルキレン基を有する重合性単量体、モルホリル基を有する重合性単量体、両性イオンを有する重合性単量体、環状エーテル基を有する重合性単量体、四級アンモニウム塩基を有する重合性単量体、リン酸基またはその塩を有する重合性単量体、ホスホン酸基またはその塩を有する重合性単量体、カルボン酸基またはその塩を有する重合性単量体、スルホン酸基またはその塩を有する重合性単量体などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
水酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリレート」とは、「アクリレート」および「メタクリレート」の双方を意味する。
アミド基を有する重合性単量体としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリルアミド」とは、「アクリルアミド」および「メタクリルアミド」の双方を意味する。
アミノ基やアミノアルキル基を有する重合性単量体としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ〉アクリレートなどが挙げられる。
ポリオキシアルキレン基を有する重合性単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
モルホリル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイルモルホリン」とは、「アクリロイルモルホリン」および「メタクリロイルモルホリン」の双方を意味する。
両性イオンを有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
環状エーテル基を有する重合性単量体としては、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
四級アンモニウム塩基を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリロイル」とは、「アクリロイル」および「メタクリロイル」の双方を意味する。
リン酸基またはその塩を有する重合性単量体、およびホスホン酸基またはその塩を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、ビニルホスホン酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
カルボン酸基またはその塩を有する重合性単量体としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、およびこれらの酸無水物;10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
スルホン酸基またはその塩を有する重合性単量体としては、例えば、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレート、これらのアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
親水性基を有する重合性単量体の中では、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸などのカルボン酸基を有する単量体;2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェートなどのリン酸基を有する重合性単量体;ビニルホスホン酸などのホスホン酸基を有する重合性単量体;およびスチレンスルホン酸などのスルホン酸基を有する重合性単量体、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などの両性イオンを有する重合性単量体、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライドなどの四級アンモニウム塩基を有する重合性単量体が好ましい。
親水性基を有する単量体単位を有する鎖状重合体としては、前記親水性基を有する重合性単量体の1種または2種以上を重合させることによって得られた鎖状重合体が挙げられる。
親水性基を有する単量体単位を有する鎖状重合体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルモルホリン、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェ−ト、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸、ビニルホスホン酸、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸およびこれらの酸無水物、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレート、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライドなどから選ばれた少なくとも1種の重合性単量体を重合させることによって得られた鎖状重合体が挙げられる。なお、本明細書において、「(メタ)アクリル酸」とは、「アクリル酸」および「メタクリル酸」の双方を意味する。
親水性基を有する単量体単位を有する鎖状重合体の中では、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、ビニルホスホン酸、スチレンスルホン酸、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイドおよび2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライドからなる群より選ばれた少なくとも1種の重合性単量体を重合させることによって得られた鎖状重合体が好ましい。共重合体の場合、鎖状重合体は、ランダム共重合体およびブロック共重合体のいずれであってもよい。
なお、親水性基を有する重合性単量体は、本発明の目的が阻害されない範囲内であれば、親水性基を有しない重合性単量体と共重合させてもよい。
親水性基を有しない重合性単量体としては、例えば、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、スチレンなどが挙げられる。親水性基を有しない重合性単量体の量は、フッ素化合物(a)全体の親水性が大きく損なわれないようにする観点から、通常、重合に供される親水性基を有する重合性単量体および親水性基を有しない重合性単量体の全重合性単量体の50モル%以内、好ましくは20モル%以内、さらに好ましくは10モル%以内であることが望ましい。
親水性基を有する重合性単量体の重合単位を有する鎖状重合体の両末端は、例えば、フルオロアルキル基を側鎖に有する重合性単量体を用い、親水性基を有する重合性単量体とアニオン重合などの方法でブロック共重合させることにより、フルオロアルキル基を有する重合性単量体のポリマーセグメントで両末端が封鎖されたブロック共重合体を調製する方法、ケミカル・レビューズ(Chemical Reviews)第96巻(1996年)、第5号、1779〜1808ページに記載されているように、フルオロアルキル基を有する過酸化物を重合開始剤として用い、親水性基を有する重合性単量体を重合させる方法などにより、フルオロアルキル基を含む末端基で保護することができる。
フルオロアルキル基としては、例えば、直鎖状、分岐状または環状の炭素数1〜12のフルオロアルキル基が挙げられる。
好適なフルオロアルキル基の例としては、式:−(CFF(mは1〜12の整数を示す)で表されるフルオロアルキル基、パーフルオロシクロアルキル基などが挙げられる。これらの中では、−CF基、−C基、−C基、−C13基およびパーフルオロシクロヘキシル基が好ましい。
フッ素化合物(a)の数平均分子量は、重合性単量体(b)や溶剤(d)への溶解性および防汚性の観点から、好ましくは1000〜100000、より好ましくは2000〜50000、さらに好ましくは4000〜20000、より一層好ましくは3000〜20000である。
フッ素化合物(a)の好適な例としては、親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する数平均分子量1000〜100000の鎖状重合体であり、かつ該主鎖が、親水性基を有する単量体単位以外の単位を全単量体単位の50モル%以下の割合で含有していてもよいフッ素化合物が挙げられる。
フッ素化合物(a)の好適な代表例としては、式(I):
Rf−(CH−CXR)x−(CH−CZR)y−Rf (I)
〔式中、各Rfは、それぞれ独立して、フルオロアルキル基またはフルオロアルキル基を末端に有する有機基、RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1〜6の炭化水素基、Xは親水性基または親水性基を有する1価の有機基、Zは水素原子またはX以外の1価の有機基を示す。xおよびyは、それぞれ独立して、数平均分子量に基づいて定められる重合度を示し、y/(x+y)は0〜0.5である。x個の−(CH−CXR)−基およびy個の−(CH−CZR)−基は、それぞれランダム状に配列していてもよく、ブロック状に配列していてもよい〕
で表される数平均分子量1000〜100000のフッ素化合物が挙げられる。式(I)で表されるフッ素化合物は、その合成の容易さおよび優れた防汚性の付与の観点から好ましい。
Rfの代表例としては、炭素数1〜12のフルオロアルキルオキシ基が末端に位置しており、全炭素数が2〜30である有機基および炭素数1〜12のフルオロアルキルオキシ基が挙げられる。フルオロアルキルオキシ基およびフルオロアルキル基は、直鎖状であってもよく、分岐鎖状であってもよい。
好適なRfの例としては、式:−(CFF(pは1〜12の整数を示す)で表されるフルオロアルキル基、および式:−CF(CF)O(CFCF(CF)O)(qは0〜6の整数を示す)で表されるフルオロアルキル基を含む有機基が挙げられる。これらの中では、式:−CF(CF)OCで表される基、式:−CF(CF)OCFCF(CF)OCで表される基および式:−CF(CF)OCFCF(CF)OCFCF(CF)OCで表される基は、原料である過酸化物の入手のしやすさや、溶剤および重合性単量体への溶解度などの点から好ましい。
また、式:−COO−(CH−(CF−B(pは1〜8の整数、rは0〜2の整数、Bは水素原子またはフッ素原子を示す)で表されるRf基も好ましい。なかでも、式:−COO−CHCFで表される基、式:−COO−CH(CF−Hで表される基、式:−COO−CH(CF−Hで表される基、式:−COO−CH(CF−Fで表される基、式:−COO−CH(CF−Hで表される基、式:−COO−(CH(CF−Hで表される基および式:−COO−(CH(CF−Fで表される基は、より好ましい。
およびRは、それぞれ独立して、水素原子またはハロゲン原子を有していてもよい炭素数1〜6の炭化水素基を示す。ハロゲン原子を有していてもよい炭素数1〜6の炭化水素基としては、例えば、ハロゲン原子を有していてもよいメチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基およびフェニル基などが挙げられる。RおよびRは、水素原子、メチル基、フェニル基またはトリフルオロメチル基であることが好ましい。
Xは、親水性基または親水性基を有する1価の有機基を示す。親水性基としては、例えば、水酸基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ポリオキシアルキレン基、モルホリル基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはこれらの塩、トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ピリリウム塩基、ホスホニウム塩基、ヨードニウム塩基、アルキルベタイン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン基などの両性イオン基、エポキシ基、オキセタニル基、テトラヒドロフルフリル基などの環状エーテル基、アセチル基、アセトカルボニル基などが挙げられる。
これらの中では、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはそれらの塩;トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基;アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基などの両性イオン基が好ましい。
親水性基を有する1価の有機基は、親水性基を有する重合性単量体を重合させることによって得られた鎖状重合体が有する側鎖構造のうち、親水性基を有する側鎖構造に相当する部分を意味する。例えば、親水性基を有する重合性単量体として2−ヒドロキシエチルメタクリレートを例にとると、ビニル結合以外の構造のうち、メチル基ではない方の構造、すなわち−COO−CHCH−OH基がXに該当する。
Xの具体例としては、−(CH−Y(Yは親水性基を示す(以下同じ)、aは1〜16の整数を示す)、−COO−(CH−Y(bは2〜16の整数を示す)、−COO−(CHCHO)−CHCH−Y(cは1〜20の整数を示す)、−CONH−(CH−Y(aは前記と同じ)、−COO−CHYCH−Y、−COO−CH−C(CH−Y)、−O−(CH−Y(dは2〜12の整数を示す)、−OCO−(CH−Y(dは前記と同じ)、
Figure 0004673310
などが挙げられる。これらの中では、−COO−(CH−Y(bは前記と同じ)および−CONH−(CH−Y(aは1〜6の整数を示す)が好ましい。
なお、Yは、親水性基を示すが、その例としては、水酸基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ポリオキシアルキレン基、モルホリル基、シアノ基、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはその塩、トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基、スルホニウム塩基、ピリリウム塩基、ホスホニウム塩基、ヨードニウム塩基、アルキルベタイン、カルボキシベタイン、スルホベタイン、ホスホベタイン基などの両性イオン基、エポキシ基、オキセタニル基、テトラヒドロフルフリル基などの環状エーテル基、アセチル基、アセトカルボニル基などが挙げられる。これらの中では、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはそれらの塩;トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基;アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基などの両性イオン基が好ましい。
式(I)で表されるフッ素化合物は、例えば、式:
Rf−COO−OCO−Rf
(式中、Rfは前記と同じ)
で表される過酸化物(e)を重合開始剤として用いて、式:
CH=CR
(式中、RおよびXは、前記と同じ)
で表される親水性基を有する重合性単量体(f)および、必要に応じて、式:
CH=CR
(式中、RおよびZは、前記と同じ)
で表される親水性基を有しない重合性単量体を重合させることによって容易に合成することできる。
親水性基を有する重合性単量体(f)の15℃の水に対する溶解度は、10重量%以上、好ましくは20重量%以上であることが、防汚性やプラークの付着抑制効果および硬化物の強度や耐摩耗性などの向上の観点から好ましい。
親水性基を有する重合性単量体(f)の代表例としては、水酸基を有する重合性単量体、アミド基を有する重合性単量体、アミノ基やアミノアルキル基を有する重合性単量体、ポリオキシアルキレン基を有する重合性単量体、モルホリル基を有する重合性単量体、環状エーテル基を有する重合性単量体、カルボン酸基、リン酸基、ホスホン酸基、スルホン酸基などの酸性基を有する重合性単量体、四級アンモニウム塩基を有する重合性単量体、両性イオンを有する重合性単量体などが挙げられる。
水酸基を有する重合性単量体としては、例えば、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
アミド基を有する重合性単量体としては、例えば、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ビニル−2−ピロリドン、N−ビニル−2−ピペリドン、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミドなどが挙げられる。
アミノ基やアミノアルキル基を有する重合性単量体としては、例えば、2−アミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
ポリオキシアルキレン基を有する重合性単量体としては、例えば、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
モルホリル基を有する重合性単量体としては、例えば、(メタ)アクリロイルモルホリンなどが挙げられる。
環状エーテル基を有する重合性単量体としては、例えば、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレートなどが挙げられる。
カルボン酸基を有する重合性単量体の代表例としては、分子内にカルボン酸基〔−C(=O)OH〕または酸無水物基〔−C(=O)O−C(=O)−〕を有する重合性単量体などが挙げられる。
カルボン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、マレイン酸、イタコン酸、フマル酸、(メタ)アクリル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシオクチルオキシカルボニルフタル酸、4−(メタ)アクリロイルオキシデシルオキシカルボニルフタル酸、5−(メタ)アクリロイルアミノペンチルカルボン酸、6−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ヘキサンジカルボン酸、8−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−オクタンジカルボン酸、10−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−デカンジカルボン酸、11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
リン酸基を有する重合性単量体の代表例としては、ホスフィニコ基〔=P(=O)OH基〕、ホスホノ基〔−P(=O)(OH)基〕などのリン酸基、ピロリン酸基〔−P(=O)(OH)−O−P(=O)(OH)−基〕を有する重合性単量体などが挙げられる。
リン酸基を有する重合性単量体およびホスホン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、3−(メタ)アクリロイルオキシプロピルジハイドロジェンホスフェート、4−(メタ)アクリロイルオキシブチルジハイドロジェンホスフェート、6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシルジハイドロジェンホスフェート、8−(メタ)アクリロイルオキシオクチルジハイドロジェンホスフェート、9−(メタ)アクリロイルオキシノニルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、11−(メタ)アクリロイルオキシウンデシルジハイドロジェンホスフェート、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルジハイドロジェンホスフェート、16−(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルジハイドロジェンホスフェート、20−(メタ)アクリロイルオキシエイコシルジハイドロジェンホスフェート、ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕ハイドロジェンホスフェート、ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕ハイドロジェンホスフェート、1,3−ジ(メタ)アクリロイルオキシプロピル−2−ジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチル2−ブロモエチルハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルホスホネート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルホスホン酸など;
特開平3−294286号公報に記載されている「(5−メタクリロキシ)ペンチル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノプロピオネート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノプロピオネート、(6−メタクリロキシ)ヘキシル−3−ホスホノアセテート、(10−メタクリロキシ)デシル−3−ホスホノアセテート」など;特開昭62−281885号公報に記載されている「2−メタクリロイルオキシエチル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、2−メタクリロイルオキシプロピル(4−メトキシフェニル)ハイドロジェンホスフェート、ピロリン酸ジ〔2−(メタ)アクリロイルオキシエチル〕、ピロリン酸ジ〔4−(メタ)アクリロイルオキシブチル〕、ピロリン酸ジ〔6−(メタ)アクリロイルオキシヘキシル〕、ピロリン酸ジ〔8−(メタ)アクリロイルオキシオクチル〕、ピロリン酸ジ〔10−(メタ)アクリロイルオキシデシル〕」など;特開昭52−113089号公報、特開昭53−67740号公報、特開昭53−69494号公報、特開昭53−144939号公報、特開昭58−128393号公報、特開昭58−192891号公報に例示されているリン酸基含有重合性単量体;これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
スルホン酸基を有する重合性単量体の代表例としては、スルホ基(−SOH基または−OSOH基)を有する重合性単量体が挙げられる。
スルホン酸基を有する重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、スチレンスルホン酸、2−スルホエチル(メタ)アクリレート、10−スルホデシル(メタ)アクリレート、6−スルホヘキシル(メタ)アクリレートなど、これらの酸塩化物、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩およびアンモニウム塩などが挙げられる。
四級アンモニウム塩基を有する重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジメチルオクチルアンモニウムクロライドなどが挙げられる。
両性イオン基を有する重合性単量体の具体例としては、2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸などが挙げられる。
フッ素化合物(a)は、硬化物の表面に、より高い防汚性とプラークの付着抑制効果をもたらす観点から、重合性単量体(f)の親水性基として、カルボン酸基、スルホン酸基、ホスホン酸基、リン酸基などの酸性基またはそれらの塩;トリメチルクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基などの四級アンモニウム塩基;アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基などの両性イオン基を有することが好ましい。前記親水性基を有するフッ素化合物(a)は、前記親水性基を有する重合性単量体を用いることによって容易に得ることができる。
親水性基を有する重合性単量体(f)は、いずれも、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。特に、親水性基を有する重合性単量体として2種以上の酸性基を有する重合性単量体を混合して用いる場合、少なくとも1種はカルボン酸基を有する重合性単量体を用いることが望ましい。さらにこの場合、カルボン酸基を有する重合性単量体としては(メタ)アクリル酸が特に好ましい。このような組み合わせにおいて、(メタ)アクリル酸とその他の酸性基を有する重合性単量体とのモル比〔(メタ)アクリル酸/その他の重合性単量体〕の値は、0.5〜100、好ましくは1〜50、さらに好ましくは、2〜10の範囲内にある。
なお、重合性単量体(f)は、防汚性が損なわれない範囲内で、親水性基を有しない重合性単量体、例えば、メチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシランなどの疎水性単量体と用いてもよい。疎水性単量体を用いる場合、疎水性単量体の量は、通常、重合に供される重合性単量体全量に対して50モル%以下であることが好ましく、20モル%以下であることがより好ましい。
過酸化物(e)は、重合開始剤として用いられるものである。過酸化物(e)の好適な例としては、式:Rf−COO−OCO−Rf(Rfは前記と同じ)で表される過酸化物が挙げられる。
過酸化物(e)として過酸化フルオロアルカノイルを用いて重合性単量体(f)を重合させることによって式(I)で表されるフッ素化合物を製造する方法としては、過酸化物を重合開始剤として用いる通常の重合方法を適用することができる。より具体的には、例えば、過酸化フルオロアルカノイルの存在下、ハロゲン化脂肪族炭化水素などの不活性溶中で、常圧で0〜150℃の温度で重合性単量体(f)および、必要に応じて、疎水性単量体を重合させることによって式(I)で表されるフッ素化合物を製造することができる。
また、フッ素化合物(a)の他の製造方法としては、例えば、パーフルオロアルキル基を側鎖に有するフッ素モノマーを用い、前記重合性単量体(f)または該重合性単量体(f)と疎水性単量体との混合単量体とブロック共重合させる方法などが挙げられる。
前記フッ素モノマーの好適な例としては、1H,1H,2H,2H−ノニルフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−トリデカフルオロオクチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,3H,3H−2−ヒドロキシ−トリデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H−ウンデカフルオロ−5−メチルヘキシル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H−オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,6H−デカフルオロヘキシル(メタ)アクリレート、1H,1H,7H−ドデカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロノニル(メタ)アクリレート、1H,1H,3H−ヘキサフルオロブチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H,7H−デカフルオロヘプチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,4H,7H−デカフルオロヘプチルメタクリレートなどのフルオロ(メタ)アクリレートなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合してもよい。
フッ素化合物(a)の量は、防汚性、プラークの付着抑制効果、硬化物の強度および耐摩耗性の観点から、重合性単量体(b)100重量部に対して、0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部であることが望ましい。
本発明で用いられる重合性単量体(b)と重合開始剤(c)の種類には特に限定がなく、一般に用いられているものを用いることができるが、一般には、ラジカル重合性単量体とラジカル重合開始剤との組合せ(ラジカル重合性組成物)、およびカチオン重合性単量体とカチオン重合開始剤との組合せ(カチオン重合性組成物)などが挙げられる。
重合性単量体(b)におけるラジカル重合性単量体の具体例としては、α−シアノアクリル酸、(メタ)アクリル酸、α−ハロゲン化アクリル酸、クロトン酸、桂皮酸、ソルビン酸、マレイン酸、イタコン酸などの不飽和カルボン酸から誘導されるエステル類、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド誘導体、ビニルエステル類、ビニルエーテル類、モノ−N−ビニル誘導体、スチレン誘導体などが挙げられる。これらの中では、(メタ)アクリル酸エステルが好ましい。
(メタ)アクリル酸エステル系の重合性単量体の例を以下に示す。
(1)一官能性(メタ)アクリレート
メチル(メタ)アクリレート、イソブチル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、2−(N,N−ジメチルアミノ)エチル(メタ)アクリレート、2,3−ジブロモプロピル(メタ)アクリレート、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アクリレート、10−ヒドロキシデシル(メタ)アクリレート、プロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、エリスリトールモノ(メタ)アクリレート、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムクロライド、(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイド、(メタ)アクリロイルオキシヘキサデシルピリジニウムクロライドなどが挙げられる。
(2)二官能性(メタ)アクリレート
エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,10−デカンジオールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジル(メタ)アクリレート(通称BisGMA)、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス〔4−(メタ)アクリロイルオキシポリエトキシフェニル〕プロパン、2,2−ビス[4−〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕フェニル]プロパン、1,2−ビス〔3−(メタ)アクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ〕エタン、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、1,2−ビス(3−メタクリロイルオキシ−2−ヒドロキシプロポキシ)エタン、[N,N´−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス(2−カルバモイルオキシエチル)]ジメタクリレートなどが挙げられる。
(3)三官能性以上の(メタ)アクリレート
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、[N,N’−(2,2,4−トリメチルヘキサメチレン)ビス〔2−(アミノカルボニルオキシ)プロパン−1,3−ジオール〕]テトラメタクリレート、1,7−ジアクリロイルオキシ−2,2,6,6−テトラアクリロイルオキシメチル−4−オキサヘプタンなどが挙げられる。
前記重合性単量体(b)は、いずれも、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
なお、歯質、金属、セラミックなどの基材に対する接着性を向上させる場合、本発明の重合性組成物には、これらの基材に対する接着性を付与する機能性モノマーを重合性単量体(b)の一部として含有させることが好ましい場合がある。
機能性モノマーとして、例えば、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルジハイドロジェンホスフェート、10−(メタ)アクリロイルオキシデシルジハイドロジェンホスフェート、2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフェニルハイドロジェンホスフェートなどのリン酸基を有するモノマー、および11−(メタ)アクリロイルオキシ−1,1−ウンデカンジカルボン酸、4−(メタ)アクリロイルオキシエトキシカルボニルフタル酸などのカルボン酸基を有するモノマーは、歯質や卑金属に対して優れた接着性を呈するので、好ましい。
機能性モノマーとして、例えば、10−メルカプトデシル(メタ)アクリレート、6−[3−(4−ビニルベンジル)プロピルアミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジチオン、特開平10−1473号公報に記載のチオウラシル誘導体や特開平11−92461号公報に記載の硫黄元素を有する化合物は、貴金属に対して優れた接着性を呈するので、好ましい。
さらに、機能性モノマーとして、例えば、3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシランなどのシランカップリング剤は、セラミックス、陶材、歯科用コンポジットレジンへの接着に効果的である。
機能性モノマーの量は、基材に対する接着力や接着耐久性の観点から、全重合性単量体(b)100重量部に対して、0.1〜80重量部であることが好ましい。
本発明の重合性組成物には、重合開始剤(c)をあらかじめ添加し、重合硬化を容易にさせておくことが好ましい。
上記のラジカル重合性単量体と組合せて使用される重合開始剤(c)としては、加熱重合開始剤、常温重合開始剤、光重合開始剤などの公知のラジカル重合開始剤を用いることができる。
加熱重合型開始剤としては、40〜100℃に使用温度範囲を有する過酸化物、アゾ化合物などの重合開始剤が挙げられる。加熱重合型開始剤の具体例としては、ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物が挙げられる。
ジアシルパーオキサイド類としては、例えば、ベンゾイルパーオキサイド、2,4−ジクロロベンゾイルパーオキサイド、m−トルオイルパーオキサイドなどが挙げられる。
パーオキシエステル類としては、例えば、t−ブチルパーオキシベンゾエート、ビス−t−ブチルパーオキシイソフタレート、2,5−ジメチル−2,5−ビス(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシイソプロピルカーボネートなどが挙げられる。
ジアルキルパーオキサイド類としては、例えば、ジクミルパーオキサイド、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイドなどが挙げられる。
パーオキシケタール類としては、例えば、1,1−ビス(t−ブチルパーオキシ)3,3,5−トリメチルシクロヘキサンなどが挙げられる。
ケトンパーオキサイド類としては、例えば、メチルエチルケトンパーオキサイドなどが挙げられる。
ハイドロパーオキサイド類としては、例えば、t−ブチルハイドロパーオキサイドなどが挙げられる。
常温重合開始剤としては、例えば、酸化剤(重合開始剤)と還元剤(促進剤)とからなるレドックス系の重合開始剤系を好適に用いることができる。この場合、例えば、重合開始剤としてベンゾイルパーオキサイド、促進剤としてジエタノールトルイジンなどの芳香族第3級アミンや芳香族スルフィン酸塩などを用いることができる。
レドックス系の重合開始剤を用いる場合、本発明の重合性組成物は、2分割以上の包装形態をとることが好ましい。レドックス系の重合開始剤系における酸化剤としては、例えば、前記ジアシルパーオキサイド類、パーオキシエステル類、ジアルキルパーオキサイド類、パーオキシケタール類、ケトンパーオキサイド類、ハイドロパーオキサイド類などの有機過酸化物が好ましい。
還元剤としては、例えば、芳香族第3級アミン、脂肪族第3級アミンおよびスルフィン酸またはその塩などが好ましい。
芳香族第3級アミンとしては、例えば、N,N−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−m−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジメチル−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ジメチル−4−エチルアニリン、N,N−ジメチル−4−イソプロピルアニリン、N,N−ジメチル−4−t−ブチルアニリン、N,N−ジメチル−3,5−ジt−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジメチルアニリン、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,4−ジメチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−エチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−イソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−4−t−ブチルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジイソプロピルアニリン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−3,5−ジt−ブチルアニリン、4−ジメチルアミノ安息香酸2−ブトキシエチル、4−ジメチルアミノ安息香酸2−メタクリロイルオキシエチルなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
脂肪族第3級アミンとしては、例えば、トリメチルアミン、トリエチルアミン、N−メチルジエタノールアミン、N−エチルジエタノールアミン、N−n−ブチルジエタノールアミン、N−ラウリルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、2−(ジメチルアミノ)エチルメタクリレート、N−メチルジエタノールアミンジメタクリレート、N−エチルジエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミンモノメタクリレート、トリエタノールアミンジメタクリレート、トリエタノールアミントリメタクリレートなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
スルフィン酸またはその塩としては、例えば、ベンゼンスルフィン酸、ベンゼンスルフィン酸ナトリウム、ベンゼンスルフィン酸カリウム、ベンゼンスルフィン酸カルシウム、ベンゼンスルフィン酸リチウム、トルエンスルフィン酸、トルエンスルフィン酸ナトリウム、トルエンスルフィン酸カリウム、トルエンスルフィン酸カルシウム、トルエンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−トリメチルベンゼンスルフィン酸リチウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリエチルベンゼンスルフィン酸カルシウム、2,4,6−イソプロピルベンゼンスルフィン酸、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸ナトリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カリウム、2,4,6−トリイソプロピルベンゼンスルフィン酸カルシウムなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
光重合開始剤としては、特殊な光照射装置(例えば、紫外線照射装置)を必要としないで、従来から広範に使用されている可視光領域の光照射装置を使用することができることから、波長350〜700nmの光で励起される光重合開始剤が好ましい。
波長350〜700nmの光で励起される光重合開始剤としては、例えば、α−ジケトン類、ケタール類、チオキサントン類、アシルホスフィンオキサイド類、クマリン類、ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体などが挙げられる。
上記α−ジケトン類の例としては、カンファーキノン、ベンジル、2,3−ペンタンジオンなどが挙げられる。
上記ケタール類の例としては、ベンジルジメチルケタール、ベンジルジエチルケタールなどが挙げられる。
上記チオキサントン類の例としては、2−クロロチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントンなどが挙げられる。
上記アシルホスフィンオキサイド類の例としては、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジメトキシベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,6−ジクロロベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、2,3,5,6−テトラメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ベンゾイルビス(2,6−ジメチルフェニル)ホスホネート、2,4,6−トリメチルベンゾイルエトキシフェニルホスフィンオキサイドおよび特公平3−57916号公報に開示されている水溶性のアシルホスフィンオキサイド化合物などが挙げられる。
上記クマリン類の例としては、3,3’−カルボニルビス(7−ジエチルアミノ)クマリン、3−(4−メトキシベンゾイル)クマリン、3−チエノイルクマリンなどの特開平10−245525号公報に記載されている化合物が挙げられる。
上記ハロメチル基置換−s−トリアジン誘導体の例としては、2,4,6−トリス(トリクロロメチル)−s−トリアジン、2,4,6−トリス(トリブロモメチル)−s−トリアジン、2−メチル−4,6−ビス(トリクロロメチル)−s−トリアジンなどの特開平10−245525号公報に記載されている化合物などが挙げられる。
光重合開始剤は、いずれも、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
上記のラジカル重合開始剤の量は、重合性単量体(b)100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、さらに好ましくは0.1〜3重量部であることが望ましい。
なお、光重合開始剤を用いる場合、光硬化性を促進させるために、光重合開始剤と還元剤とを併用することが好ましい。
還元剤としては、主として、第3級アミン類、アルデヒド類、チオール基を有する化合物などが挙げられ、これらは、それぞれ単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
第3級アミン類の例としては、2−ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、N,N−ビス〔(メタ)アクリロイルオキシエチル〕−N−メチルアミン、4−ジメチルアミノ安息香酸エチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4−ジメチルアミノ安息香酸ブトキシエチル、N−メチルジエタノールアミン、4−ジメチルアミノベンゾフェノンなどが挙げられる。
アルデヒド類の例としては、ジメチルアミノベンズアルデヒド、テレフタルアルデヒドなどが挙げられる。
チオール基を有する化合物の例としては、2−メルカプトベンゾオキサゾール、デカンチオール、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、チオ安息香酸などが挙げられる。
還元剤の量は、重合性単量体(b)100重量部に対して、通常、0.01〜10重量部、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜3重量部であることが望ましい。
本発明の重合性組成物として、上述のようなラジカル重合性単量体とラジカル重合開始剤を含むラジカル重合性組成物の他、重合性単量体(b)としてカチオン重合性単量体、重合開始剤(c)としてカチオン重合開始剤を含むカチオン重合性組成物を用いることもできる。かかるカチオン重合性単量体としては、例えば、カチオン重合性ビニル化合物、ラクトン類、環状エーテル類などが挙げられる。
カチオン重合性ビニル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、グリセロールトリビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル、4−ビニルエーテルスチレン、アリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類やスチレン誘導体が挙げられる。
ラクトン類としては、γ−プロピオラクトン、ε−カプロラクトンなどの環状ラクトンが挙げられる。
環状エーテル類としては、例えば、脂環式エポキシ化合物、オキセタン化合物、スピロオルソエステル類、ビシクロオルソエステル類、環状カーボナート類などが挙げられる。これらの中では、脂環式エポキシ化合物およびオキセタン化合物が好ましい。
脂環式エポキシ化合物の例としては、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔ユニオンカーバイト社製、商品名:UVR6105(低粘度品)およびUVR6110(低粘度品)、ダイセル化学(株)製、商品名:CELLOXIDE2021など〕、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート〔ユニオンカーバイト社製、商品名:UVR6128〕、ビニルシクロヘキセンモノエポキサイド〔ダイセル化学(株)製、商品名:CELOXIDE2000〕、ε−カプロラクトン変性3,4−エポキシシクロヘキシルメチル3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート〔ダイセル化学(株)製、商品名:CELOXIDE2081〕、1−メチル−4−(2−メチルオキシラニル)−7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン〔ダイセル化学(株)製、商品名:CELOXIDE3000〕などが挙げられる。
オキセタン化合物の例としては、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−(2−エチルヘキシルオキシメチル)オキセタンおよびジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテルなどのオキセタン類が挙げられる。これらの化合物は、例えば、東亞合成化学(株)から容易に入手することができる。なお、オキセタン化合物は、前記脂環式エポキシ化合物と併用した場合には、さらに硬化性を向上させることができる場合がある。
カチオン重合開始剤としては、光カチオン重合開始剤が好適である。光カチオン重合開始剤の例としては、公知のスルホニウム塩、アンモニウム塩などの他、ジアリールヨードニウム塩、トリアリールスルホニウム塩などが挙げられ、特開平6−298912号公報、特開平8−143806号公報および特開平8−283320号公報などに記載のものから適宜選択して使用することができる。
また、光カチオン重合開始剤は、市販品をそのまま使用することができる。市販品の代表例としては、日本曹達(株)製、商品名:CI−1370、CI−2064、CI−2397、CI−2624、CI−2639、CI−2734、CI−2758、CI−2823、CI−2855、CI−5102など、ローディア社製、商品名:PHOTOINITIATOR2047など、ユニオンカーバイト社製、商品名:UVI−6974、UVI−6990などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
カチオン重合開始剤の使用量は、その種類、使用されるカチオン重合性化合物の種類および量比、使用条件などによって異なるが、硬化性を向上させる観点および保存安定性を高める観点から、カチオン重合性化合物100重量部に対して、通常、0.1〜20重量部、好ましくは1〜10重量部、さらに好ましくは1〜5重量部であることが望ましい。
また、特表平10−508067号公報、特表2001−520758号公報、特表2001−520759号公報などに記載のエポキシ化合物と水酸基含有化合物とからなる組成物を本発明における重合性単量体として、ヨードニウム塩(重合開始剤)と可視光線増感剤(促進剤)からなる光重合触媒で硬化させる系にも適用することができる。
本発明において、より好ましい重合性組成物の態様としては、フッ素化合物(a)、重合性単量体(b)および重合開始剤(c)に、さらに溶剤(d)が添加された組成物である。
本明細書にいう溶剤(d)とは、常圧での沸点が40〜180℃の範囲内にある液体で、例えば、水や、メタノール、エタノール、イソプロパノール、n−プロパノール、ブタノール、シクロヘキサノールなどのアルコール系、クロロホルム、塩化メチレン、クロロベンゼンなどのハロゲン系、ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、キシレンなどの炭化水素系、アセトン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン系、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系、エーテル系などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
本発明の重合性組成物において、このように溶剤を用いることの利点は、フッ素化合物を容易に溶解させることができるようになること、そしてさらには、重合性組成物を基材に塗布した後、溶剤が蒸発する過程でフッ素化合物を重合性組成物の表面(気液界面)に局在化させることができるようになり、硬化後の表面にフッ素化合物の層が密に形成され、該表面がより高い防汚性などを示すようになることにある。これらの観点から、フッ素化合物との相溶性がよく、塗布後に比較的容易に蒸発させることができる溶剤、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、アセトンなどが好ましい。
溶剤(d)の量は、重合性単量体(b)100重量部に対して、通常、30〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部、より好ましくは100〜300重量部であることが好ましい。
また、本発明の重合性組成物における各成分(a)〜(d)の組成割合について一括して示すと、重合性単量体(b)100重量部に対する、フッ素化合物(a)の量は0.001〜30重量部、好ましくは0.01〜10重量部、重合開始剤(c)の量は0.05〜10重量部、好ましくは0.1〜5重量部、溶剤(d)の量は30〜1000重量部、好ましくは50〜500重量部であることが望ましい。
本発明の重合性組成物は、溶解した状態で互いに相互作用を及ぼす構成成分が使用されている場合には、常温付近での保存安定性を高めるために、あらかじめ互いに相互作用を及ぼす構成成分をそれぞれ分割して包装しておき、使用前に、両者を混合して重合させるという方法を採ることができる。特に、重合開始剤系として、過酸化物と還元剤とからなるレドックス重合触媒を用いる場合は、過酸化物と還元剤とを別々に包装し、使用前に両者を計量し、混合することにより、重合、硬化させることができる。
一方、重合開始剤として、光重合開始剤を用いる場合には、これを含む本発明の重合性組成物を十分に遮光された容器内に保存することにより、保存安定性を高めることができることから、すべての構成成分が溶解した一液の状態でユーザーに供給することができる。そして、ユーザーは、容器内の組成物を直接、歯や修復材料に適用することができるので、その操作が簡便であるという利点がある。この利点を生かした使用形態としては、例えば、歯科用重合性組成物が1つの包装にまとまった一液型の歯科用コーティング剤が挙げられる。
上述のように、本発明の重合性組成物に溶剤を用いる場合、フッ素化合物(a)をより硬化物の表面に局在化させる観点から、重合性単量体(b)として、フッ素化合物(a)が溶解しない重合性単量体を選び、溶剤が配合された状態ではフッ素化合物(a)が均一に溶解するように、重合性単量体(b)と溶剤(d)のそれぞれの種類および量を調整することが好ましい。このような組み合わせを選ぶことにより、コーティング剤を塗布後に溶剤が蒸散するに従って、フッ素化合物(a)が重合性組成物の表面上に析出してくる作用も加わることで、硬化物の表面により緻密なフッ素化合物(a)の層を形成することができる。
このように硬化物の表面により緻密なフッ素化合物の層を形成させる方法としては、例えば、本発明の重合性組成物を歯または歯科用修復材料の表面に塗布し、該重合性組成物に含まれている溶剤を蒸発させた後、重合性組成物を硬化させる方法が挙げられ、操作の簡便性の観点から、光照射により重合性組成物を硬化させる方法が好ましい。
本発明の重合性組成物には、その目的に応じて、フィラー、紫外線吸収剤、酸化防止剤、重合禁止剤、着色剤、抗菌剤、X線造影剤、増粘剤、蛍光剤などをさらに添加することもできる。
例えば、硬化後の表面からフッ素イオン徐放性を期待する場合、フルオロアルミノシリケートガラスフィラー、フッ化カルシウム、フッ化ナトリウム、モノフルオロリン酸ナトリウムなどのフッ素イオン徐放性フィラーを添加することができる。
抗菌性を期待する場合は、例えば、セチルピリジニウムクロライド、12−(メタ)アクリロイルオキシドデシルピリジニウムブロマイドなどの抗菌活性を有する界面活性剤や光触媒性酸化チタンを添加することができる。
X線造影性を付与する場合は、バリウム、イッテルビウム、ストロンチウム、ランタンなどの重金属元素を含むガラスフィラー(例えば、バリウムボロアルミノシリケートガラスなど)、フッ化イッテルビウム、硫酸バリウムなどの微粉を添加することができる。
粘性や塗布性を調整する場合には、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、アラビアゴムなどの増粘剤や、平均粒径が0.1μm以下のミクロフィラーシリカ〔例えば、日本アエロジル(株)製、商品名:アエロジル〕を添加することができる。
本発明の重合性組成物を用いて歯科用コンポジットレジンを調製する場合、さらにフィラーが配合される。
フィラーとしては、有機フィラーと無機フィラーに大別される。
有機フィラーの例としては、ポリメタクリル酸メチル、ポリメタクリル酸エチル、メタクリル酸メチル−メタクリル酸エチル共重合体、架橋型ポリメタクリル酸メチル、架橋型ポリメタクリル酸エチル、エチレン−酢酸ビニル共重合体、スチレン−ブタジエン共重合体などの重合体;ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリトリフルオロ塩化エチレン(PCTFE)などのフッ素樹脂などが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
無機フィラーの例としては、各種ガラス類〔二酸化珪素(石英、石英ガラス、シリカゲルなど)、アルミナ、珪素を主成分とし、各種重金属とともにホウ素および/またはアルミニウムを含有する〕、各種セラミック類、珪藻土、カオリン、粘土鉱物(モンモリロナイトなど)、活性白土、合成ゼオライト、マイカ、フッ化カルシウム、フッ化イッテルビウム、リン酸カルシウム、硫酸バリウム、二酸化ジルコニウム、二酸化チタン、ヒドロキシアパタイトなどが挙げられ、これらは、それぞれ単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。
また、これらの無機フィラーに重合性単量体をあらかじめ添加し、ペースト状にした後、重合硬化させ、粉砕して得られる有機無機複合フィラーを用いても差し支えない。
フィラーの量は、ペーストの操作性(粘稠度)や機械的強度を考慮して適宜決定される。通常、フィラーの量は、前記フッ素化合物(a)、前記重合性単量体(b)および重合開始剤(c)の合計100重量部に対して、10〜1800重量部、好ましくは50〜1500重量部であることが望ましい。
本発明の歯科用重合性組成物の用途の具体例としては、歯科用複合充填材料、歯冠用材料、合着用材料などの歯科用コンポジットレジン、歯列矯正用接着剤、窩洞塗布用接着剤および歯牙裂溝封鎖材などの歯科用接着剤、義歯床用材料、義歯床用粘膜調整材、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物へのコーティング剤、表面滑沢剤などが挙げられるが、上述のように溶剤を含む場合には、硬化後に硬質の薄い被膜を生成させることができるので、各種のコーティング用途、例えば、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物への歯科用コーティング剤や表面ステインや表面滑沢剤、知覚過敏抑制剤、歯科用マニキュアなどとして好適に用いることができる。
本発明の歯科用重合性組成物を、歯面や歯科用修復材へのコーティング剤として用いる場合、表面との密着性を増強するために、種々の前処理を施すことができる。例えば、口腔内で天然歯牙に塗布する場合には、リン酸水溶液によりエッチング処理を施したり、歯質に接着性を有する機能性モノマーが配合された接着性のプライマーやボンディング剤をあらかじめ塗布することもできる。
また、基材がセラミックス、コンポジットレジン、金属などの場合には、サンドブラスト処理や、シランカップリング剤やリン酸モノマーを含むプライマー処理を施すこともできる。また、義歯床レジンのように、基材がポリメチルメタクリレート(PMMA)やポリカーボネートなどのようなレジンの場合には、塩化メチレンなどの浸潤性の強い溶剤を塗布して基材を膨潤させる処理を施すこともできる。
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はかかる実施例に限定されるものではない。
〔耐汚染性試験〕
基材として牛歯エナメルを用い、ターメリック色素による着色試験を行った。口腔内での歯科材料の着色性を模擬的に簡便に評価する手段として、ターメリックを用いた耐汚染性評価は、鷹股などにより日本補綴歯科学会雑誌第35巻(1991年)542−555ページに記載された評価方法を参考にしたものである。
牛の前歯を#1000シリコンカーバイド紙で平滑に湿潤研磨してエナメル質平滑面を調製した。該表面に、35%リン酸水溶液を塗布し、30秒間静置後、流水で洗浄し、エッチング処理を行った。エアーシリンジを用いて表面を乾燥した面に、重合性組成物を一層塗布し、揮発成分をゆっくりと蒸散させた後、歯科用光照射器〔モリタ社製、商品名:JETLITE3000〕を用いて、表面の未重合層がなくなるまで光照射を行い、重合硬化させた。
このコーティング層の防汚性を評価するため、食用色素のターメリックを用いた着色性試験を行った。すなわち、ターメリック色素を1重量%含む水懸濁液中に、作製した試験片を、コーティング面を上にして静置し、37℃の暗所に保管した。24時間後に試験片を取り出し、水洗後、試験片の色度を色差計(日本電色(株)製、品番:Σ90型、C光源、測色視野2度)で測定した。変色の程度は、浸漬前の試験片の色度と浸漬後の色度を比較し、それぞれの色度の差をΔE*で表した。ΔE*の数値が大きいほど、着色が大きく、耐汚染性が劣ることを意味する。
〔硬化物の変色試験〕
硬化したコーティング剤そのものの変色性を評価するため、以下の試験を行った。コーティング剤を塗布する基材として、20mm×15mmで厚さ1mmのガラス板を選び、該ガラス板の片面にアルミナサンドブラスト処理を行い、さらに、0.2%のシランカップリング剤(3−メタクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン)のエタノール溶液をプライマーとして塗布した。
光重合性コーティング液を該ガラス面に筆で塗布し、室温で10分間静置した後、さらに緩やかにエアーブローを行って溶剤のエタノールを蒸発させた。歯科用光照射器(クルツアー社製、商品名:ユニックス)で90秒間光照射を行って重合硬化を行い、表面に未重合層が残っていない防汚性コーティング皮膜を形成した。なお、光照射前にスペーサーと離型フィルム(エバール)を用いて、コーティング剤層の厚さが200μmとなるように調整した。
得られた試験板を、70℃水中に7日間保管し、浸漬前後の色度を比較することにより、変色の度合いを評価した。先と同様に、浸漬前の試験片の色度と浸漬後の色度を比較し、それぞれの色度の差をΔE*で表した。ΔE*の数値が大きいほど、硬化物の変色が大きいことを意味する。
〔耐摩耗性試験〕
上述の牛歯エナメル上でコーティング剤を塗布硬化させたものを試験片として用いて、歯ブラシ摩耗試験を行った。
市販の歯磨き粉ペースト〔(株)ライオン製、商品名:デンターT〕と水とを、歯磨き粉ペースト/水(重量比)が60/40となるように混合し、得られた懸濁液中に試験片を入れ、コーティング層の上を200gの荷重がかかった歯ブラシで1万回往復して擦って摩耗させた。摩耗した表面を表面粗さ測定器〔(株)小坂製作所製、品番:SE−3C型〕で測定し、摩耗前後の状態を比較することにより、歯ブラシによって摩耗を受けた深さ(摩耗深さ)を算出した。
合成例1(フッ素化合物の合成)
アクリル酸(49mmol、3.6g)およびCFCFCHClとCHFClCFCFClの混合溶剤〔(株)旭硝子製、品番:AK−225〕(CFCFCHClとCHFClCFCFClの容量比が1:1の混合溶媒〕からなる溶液(50g)中に、過酸化ペルフルオロ−2,5−ジメチル−3,6−ジオキサノナノイル(5mmol、4.9g)を添加した溶液70gを加え、窒素気流下で45℃で5時間反応させた。
反応終了後、得られた白色粉末を吸引濾過し、さらに生成物をヘキサンで充分に洗浄し、精製を行った。さらに得られた生成物を50℃にて真空下にて2日間乾燥を行ったところ、両末端がフルオロアルキル基でブロックされたポリアクリル酸である目的物が4.7gの収量で得られた。得られた生成物のスペクトルは以下のとおりである。
[Rf−(CHCHCOOH)−Rf](gは重合度を示す)
[Rf−CF(CF)OCFCF(CF)OC
数平均分子量(ゲルパーミエーションクロマトグラフィーで測定、溶出液:テトラヒドロフラン):4250
赤外吸収スペクトルν(cm−1):3200(OH),20(C=O),335(CF),240(CF
H−NMR(CDOD)δ:1.35〜2.19(CH),2.21〜2.72(CH)
実施例1
以下の組成を有する光硬化性のコーティング組成物を調製した。即ち、重合性モノマーとしてジペンタエリスリトールヘキサアクリレート〔共栄化学(株)製、商品名:DPE−6A、以下DPA6という〕35重量部、メチルメタクリレート(以下、MMAという)15重量部、および光重合開始剤として2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド(以下、TMDPOという)1重量部を均一に溶解した。
フッ素化合物(a)として、合成例1で得られたポリアクリル酸の両末端にパーフルオロアルキル基を有する化合物(以下、ACAという)0.5重量部を、溶剤であるエタノール(99%)50重量部に混合して均一に溶解した。
上記の重合性単量体溶液50重量部と、フッ素化合物が溶解したエタノール溶液50重量部とを混合して均一な溶液とし、本発明の重合性組成物を得た。この重合性組成物に関して、耐汚染性試験、変色試験、耐摩耗性試験を行った。その結果を表1に示す。
実施例2〜13および比較例1〜6
実施例1において、ACAの代わりに、表1に記載のフッ素化合物やポリマーを用いて実施例1と同様に光重合性コーティング剤を調製し、その物性を評価した。その結 果を表1〜2に示す。
Figure 0004673310
Figure 0004673310
表1〜2に示された結果から、実施例1を比較例1および2と比較すると、ポリアクリル酸の主鎖両末端にフルオロアルキル基を含む基が導入された化合物を用いることにより、耐汚染性が飛躍的に向上することがわかる。また、比較例4は、フルオロアルキル基がポリアクリル酸の主鎖中にランダムに導入された構造を有するが、歯科用途では耐汚染性に殆ど効果がなく、フルオロアルキル基が両末端に有るポリマーを用いることの重要性がわかる。
比較例3は、親水性基を含有する単量体単位を含まないポリマーでは、歯科用途において、耐汚染性の効果を示さないことがわかる。また、比較例3と比較すると、各実施例で得られた重合性組成物は、硬化物の変色や耐摩耗性に優れていることがわかる。
実施例14〜18
実施例1のコーティング剤において、ACAの添加量を表3に示すように変えた以外は、実施例1と同様にして重合性組成物を調製し、着色度(耐汚染性)を測定した。その結果を表3に示す。
Figure 0004673310
表3に示された結果から、フッ素化合物の含有量が重合性単量体100重量部に対して、0.1重量部以上である場合には着色が低く抑えられ、0.2重量部以上である場合には着色がさらに低く抑えられることがわかる。
参考例1
実施例1の重合性組成物を用いて、実施例1と同様の方法でコーティングした耐汚染性試験用試験片を作製した。該耐汚染性試験用試験片を70%エタノールに浸漬して30分間攪拌し、コーティングした表面を洗浄した。
洗浄後に、同様にターメリックにより着色試験(耐汚染性試験)を実施したところ、ΔE*の値は11.5であり、洗浄により防汚性が実質的に損なわれることはなかった。
参考例2
実施例1の重合性組成物を用いて、実施例1と同様の方法でコーティングし、耐汚染性試験用試験片を作製した。該汚染性試験用試験片を37℃水中に10日間浸漬した後、同様にターメリックにより着色試験(耐汚染性試験)を実施したところ、ΔE*の値は10.6であり、長期間の水中浸漬により表面の防汚性が実質的に損なわれることはなかった。
参考例3
実施例1の重合性組成物を用いて、実施例1と同様の方法でコーティングすることによって作製した耐汚染性試験用試験片を、飽和水酸化カルシウム水溶液に25℃で5分間浸漬した。同様にターメリックにより着色試験(耐汚染性試験)を実施したところ、ΔE*の値は8.5であり、優れた防汚性を示した。
参考例4〔プラークの付着性試験〕
人工口腔装置内に、コーティングされた試験片を置き、表面に付着したバイオフィルム(プラーク)の量を定量することにより、プラークの付着性を評価した。
ここで用いた人工口腔装置の詳細と試験条件は、ジャーナル・オブ・デンタル・リサーチ(Journal of Dental Resarch)第83巻(2004年)特別号A、Abstract No.209、および日本歯科技工学会雑誌 第25巻第2号(2004年)、242頁の記載に準じた。
具体的には、歯冠用硬質レジン硬化板の上に、実施例1で用いたコーティング剤を塗布し、光硬化させることによって形成されたコーティング面について、プラーク付着性を試験した。すなわち、市販の歯冠用硬質レジン〔クラレメディカル(株)製、商品名:エステニアC&B(E1シェード)〕のペーストを、4mm×4mm×1.5mmの穴の開いたモールド内に填入し、ガラス板で圧接して歯科用光照射器(モリタ製、商品名:αライトII)にて光重合(3分間)を行った後、歯科用加熱器〔クラレメディカル(株)製、品番:KL100〕にて加熱処理(110℃、15分間)を行い、4mm×4mm×1.5mmの大きさの試料板を作製した。
次に、試料板の表面をシリコンカーバイドペーパー(#800)で研削し、研削した試料板の表面に、実施例1で得られた光重合性コーティング剤をマイクロピペットで0.5μ/Lを採取して塗布し、溶剤をゆっくりと蒸散させた後、光照射器(モリタ製、商品名:αライトII)にて光重合(3分間)を行い、コーティング表面を調製して試験面とした。
前記試料を人工口腔装置内のフッ素樹脂製ホルダー内にユーティリティーワックスを用いて固定した。本装置は、37℃に保温した状態で、口腔内細菌を含む液と培養液を試験面に長時間滴下しつづけて、口腔内に類似した環境を試験表面に与え、バイオフィルム(プラーク)を人工的に試料表面に形成させることができる試験装置である。具体的な試験手順は、以下のとおりである。
事前に集めておいた唾液を遠心分離し(回転数:15000rpm)、フィルター(0.22μmCA)を用いて上澄み液を濾過した。試料の試験面の上にこの濾液をかけ、30分間安置して試験面上にペリクルを生成させた。
この試験表面上に滴下する液としては、細菌としてStreptococcus mutans MT8148を用い、同菌をBHI液体培地で培養後、集菌し、PBS(リン酸緩衝生理食塩水)で洗菌した後、同緩衝液にてOD500=2(約2×10CFU/mL)に再縣濁して得られた細菌懸濁液、培地としてHI(Heart Infusion Broth、糖質として1%スクロ−スを含む)、およびPBSの3つの液を各チュ−ブより連続的に滴下した。
なお、フッ素樹脂製のホルダー内部にある平面pH電極にて、pHを連続的に記録しながら、20時間滴下を続けた。人工プラークの形成に伴って、pHが4.0付近まで低下した時に滴下を終了した。
滴下後、試料体を取り出してPBSの入った試験管内に入れ、バイブレーター(Vortex−2Genine/Level5,Scientific Industry Inc.製,NY,USA)にて15秒間振動を加えた。試料の試験面から剥離せずに表面に残存したプラークを定量した。すなわち、0.5N水酸化ナトリウム溶液でプラークの付着した試料板を処理後、遠心分離し(回転数:3000rpm)、沈殿物と上澄み液に分離した。この沈殿物をPBSに再分散させ、沈殿物の濁度(Turbidity、OD500)を分光光度計にて測定し、菌体量とした。また、その上澄み液をフェノール硫酸分析法によって定量化し、分光光度計で測定して、非水溶性グルカンを定量した。濁度および非水溶性グルカン量が大きいほどプラークの付着量が多いことを示す。その結果を表4に示すが、表4に記載の数値は、試料板3個から得られた値の平均値である。
比較参考例1
参考例4において、コーティング剤として、フッ素オリゴマーを含まない比較例1のコーティング剤を用いた以外は、参考例4と同じ方法でプラークの付着性試験を行い、表面に残存したプラークを定量した。その結果を表4に示す。
Figure 0004673310
表4に示された結果から、参考例4で使用した実施例1の重合性組成物では、比較参考例1で使用した比較例1の重合性組成物と対比して、表面に残存したプラーク量が少ないことがわかる。なお、この結果から、上記のターメリック色素を用いた耐汚染性試験において、優れた評価を与える重合性組成物では、プラークの付着防止の点においても優れていることが示唆される。
参考例5
牛歯の代わりに参考例4と同様の基材〔歯冠用硬質レジン(エステニアC&B)硬化物〕を用いたことおよびエッチング処理をしないことを除き、前記の耐汚染性試験と同様にして実施例1のコーティング剤を用いて、以下の耐汚染性評価を行った。
前記基材を実施例1のコーティング剤でコーティングした試験片を用い、実施例1と同様に、ターメリック懸濁液によってコーティング表面の耐汚染性を評価したところ、ΔE*は9.5であり、耐汚染性に優れていた。
比較参考例2
実施例1のコーティング剤から、重合性単量体及び重合触媒を取り除いた組成物(エタノール50重量部と、実施例1で用いたフッ素化合物(ACA)0.5重量部を混合し、均一に溶解したもの)を調製した。これをコーティング剤として、前記基材(歯冠用硬質レジン)の硬化面に筆で塗布し、室温で2時間放置して溶剤を除去し、基材の表面をフッ素化合物でコーティングした。この試験片を参考例5と同様にターメリック懸濁液に浸漬し、耐汚染性を評価したところ、ΔE*は30.8であった。
比較参考例2では、フッ素化合物が基材から剥離したために、耐汚染性の効果が得られなかったと推察される。一方、参考例5では、重合性単量体を含んでおり、これが重合硬化したコーティング被膜によってフッ素化合物が固定化されることにより、高い耐汚染性の効果が得られたと考えられる。
本発明の歯科用重合性組成物は、例えば、歯科用複合充填材料、歯冠用材料、合着用材料などの歯科用コンポジットレジン、また歯列矯正用接着剤、窩洞塗布用接着剤および歯牙裂溝封鎖材などの歯科用接着剤、義歯床用材料、義歯床用粘膜調整材、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物へのコーティング剤、表面滑沢材など、特に、各種のコーティング用途、例えば、フィッシャーシーラント、歯面や歯科用補綴物へのコーティング剤や表面ステインや表面滑沢材、知覚過敏抑制材、歯科用マニキュアなどに好適に使用しうるものである。

Claims (10)

  1. (a)水酸基、アミド基、アミノ基、アルキルアミノ基、ポリオキシアルキレン基、モルホリル基、シアノ基、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、四級アンモニウム塩基、アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、ホスホベタイン基、環状エーテル基、アセチル基、及びアセトカルボニル基からなる群より選ばれる少なくとも1種の親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する鎖状重合体からなるフッ素化合物、
    (b)重合性単量体、および
    (c)重合開始剤
    を含有する歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  2. 重合性単量体100重量部に対するフッ素化合物の量が0.001〜30重量部である請求項1記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  3. フッ素化合物の親水性基が、カルボン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、四級アンモニウム塩基、アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基、及びホスホベタイン基からなる群から選ばれた少なくとも1種の親水性基である請求項1または2記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  4. フッ素化合物の親水性基が、カルボン酸基またはその塩、リン酸基またはその塩、ホスホン酸基またはその塩、スルホン酸基またはその塩、トリメチルアンモニウムクロライド基、ピリジニウムクロライド基、ピリジニウムブロマイド基、アルキルベタイン基、カルボキシベタイン基、スルホベタイン基およびホスホベタイン基からなる群より選ばれた少なくとも1種の親水性基である請求項1または2記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  5. フッ素化合物が、親水性基を有する単量体単位を含む主鎖を有し、該主鎖の両末端にそれぞれフルオロアルキル基を含む末端基を有する数平均分子量1000〜100000の鎖状重合体であり、かつ該主鎖が、親水性基を有する単量体単位以外の単位を全単量体単位の50モル%以下の割合で含有していてもよい請求項1〜4いずれか記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  6. 重合開始剤が、波長350〜700nmの光で励起される光重合開始剤である請求項1〜5いずれか記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  7. さらに、(d)溶剤を含有する請求項1〜6いずれか記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  8. 重合性単量体100重量部に対する、フッ素化合物の量が0.001〜30重量部、重合開始剤の量が0.05〜10重量部、溶剤の量が30〜1000重量部である請求項7記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物。
  9. 請求項1〜8いずれか記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物が1つの包装にまとまった一液型の歯科用コーティング剤。
  10. 請求項7または8記載の歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物を歯科用修復材料の表面に塗布し、該重合性組成物に含まれている溶剤を蒸発させた後、硬化させることにより、歯科用修復材料の表面にフッ素化合物の層を形成させることを特徴とする歯面又は歯科用補綴物へのコーティング用重合性組成物の硬化方法。
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