本発明において、製造対象となるフッ化金属とは、特に制限されるものではないが、その具体例としては、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウム、フッ化バリウム、フッ化リチウム、フッ化アルミニウム、フッ化セリウム、およびBaLiF3、KMgF3、LiCaALF6等の2種類以上のカチオン元素を含むフッ化金属、上記フッ化金属に特定の金属元素、具体的には、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム、バリウムなどのアルカリ土類金属元素やランタン、セリウム、ガドニウム、イッテリビウムなどの希土類元素などをドープしたもの等が挙げられる。このうち特に、フッ化カルシウム、フッ化マグネシウム、フッ化ストロンチウムおよびフッ化バリウム等のフッ化アルカリ土類金属において最も顕著に効果が発揮され、また、目的物の工業的価値も高い。
本発明の引上げ装置は、こうしたフッ化金属の単結晶体を成長させる(引上げる)ための引上げ装置である。その構造は、後述する坩堝の部分以外は、従来のフッ化金属単結晶体の製造用に使用されている公知の引上げ装置の構造が制限無く採用できる。こうした引上げ装置における単結晶成長炉部分の代表的な態様を、図1及び図2の概略図に示す。
すなわち、図1の単結晶体製造用引上げ装置では、チャンバー(1)内において、回転可能な支持軸(2)に支えられた受け台(3)上には、後述するような機能を備えた外坩堝(4)と内坩堝(5)とからなる二重構造坩堝(6)が載置されており、その各々の坩堝の内部には、フッ化金属原料の溶融液(7)が収容される。そして、該外坩堝(4)の周囲には、加熱ヒーター(8)が設けられ、さらに、加熱ヒーター(8)を環囲して断熱材壁(9)が設けられている。断熱材壁は、二重構造坩堝(6)の下方にも設けられている(23)。
ここで、通常、加熱ヒーター(8)の上端の高さは、外坩堝(4)の上端の高さとほぼ同程度か、これを少し上回る程度の高さであるのが好ましい。また、断熱材壁(9)は、外坩堝(4)の下端から上端までを環囲していればよい。引上げられた単結晶体をゆっくり冷却する観点からは、該外坩堝(4)の上方における、フッ化金属単結晶体(10)が引上げられる空間までも環囲しているのが好ましい。
さらに、加熱ヒーター(8)と外坩堝(4)の外面との間には、ヒーターからの輻射熱を均一化する目的で、隔離壁(18)を周設しても良い。そして、該加熱ヒーター(8)の熱が上方に逃失するのが防止するために、隔離壁(18)の上端を、加熱ヒーター(8)の上端よりも高くし、該上端と断熱材壁(9)との間に、隔離壁(18)と断熱材壁(9)との間隙を閉塞するリッド材(19)を横架し、この間隙を閉塞させるのが好ましい。
一方、内坩堝(5)の中心軸上には、先端に種結晶体(11)の保持具(12)が取り付けられた回転可能な単結晶引上げ棒(13)が吊設されている。この種結晶体(11)は、内坩堝(5)内のフッ化金属原料の溶融液(7)に下端面が接触された後に徐々に引上げられ、下方に単結晶体(10)が成長する。また、上記支持軸(2)の下端は、チャンバー(1)の底壁を貫通してチャンバー外へ伸びており、図示はしていないが冷却器と接した後、坩堝を回転させるための機構に接続されている。こうした基本構造を備えた単結晶体製造用引上げ装置の中でも、坩堝部分以外の構造は、例えば、特開2004−182587号に記載される装置が、単結晶引上げ域における温度分布の均一性が良く、フッ化金属の単結晶体をクラックの発生なく良好に製造できるため好ましい。
本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置は、前記したように坩堝が、外坩堝(4)と内坩堝(5)とからなる二重構造(6)であり、しかも、該二重構造坩堝(6)
は、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを連続的に変化させることができる。
この二重構造坩堝(6)は、その代表的態様における、この部分の拡大図である図2(図1の単結晶体引上げ用装置とは、該二重構造坩堝の内坩堝が別の態様のもの)に示すように、内坩堝(5)の壁部に少なくとも一個の連通孔(14)が設けられる等して、外坩堝(4)内面と内坩堝(5)外面により形成される間隙空間(以下、外坩堝内空部と称する場合もある)と、内坩堝(5)の内空部とは一部連通させてある。このため、上記構造の坩堝では、単結晶体の成長に伴って内坩堝(5)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)が減少すると、その減少量に応じて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くして、該外坩堝(4)から内坩堝(5)内に溶融液(7)を補給することができる。その結果、この引上げ装置では、引上げの開始から終了までを、フッ化金属原料の溶融液(7)の深さを内坩堝(5)内において、一定に保ちながら単結晶の成長を行うことができ、該引上げの全期間を、溶融液(7)の深さを、前記散乱体の形成を高度に抑制可能な浅い状態に保てる。
ここで、二重構造坩堝(6)において、内坩堝(5)内に収容するフッ化金属原料の溶融液(7)の深さは、引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さにするのが好ましい。そして、引上げの開始から終了までの可能な限りの多くの期間、好適には全期間中、上記深さが保たれるように、外坩堝(4)から内坩堝(5)への溶融液(7)の補給を行えばよい。
従来のフッ化金属単結晶体製造用に使用されている引上げ装置の坩堝の深さは、通常、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の3〜5倍程度であり、該坩堝に十分な量のフッ化金属原料の溶融液(7)を収容させると、溶融液の深さは該直胴部直径に対して浅くても2倍程度の値になり、この値は引上げの終了時においても該直胴部直径の0.75倍は越える液量が残存しているのが普通である。しかして、このように溶融液の深さが深い状態で単結晶の引上げを行うと、溶融液の流動における自然対流の影響が大きくなり、単結晶体や坩堝の回転による強制対流と相まって流動も複雑化し、単結晶の成長界面近傍における温度分布が不安定になる。成長界面近傍における温度分布が不安定な状態では単結晶体の成長の際に散乱体の原因になる空孔が単結晶体中に多数形成される。これに対して、上記の如くに、溶融液の深さを、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍以下の深さに浅くすると、このような空孔の原因になる自然対流は大きく弱まり、引上げられた単結晶体中に存在する散乱体の数を著しく減少させることが可能になる。
なお、本発明における上記散乱体とは、集光照明下で観察を行うと、光を散乱して光っている粒として目視により観測される内部欠陥であり、その粒の最大直径は一般的には100μm以下であり、通常は、10〜100μmのものが観察される。また、その実態は、ほとんどが空孔であり、例えばフッ化カルシウムの場合には、これらは八面体等の角張った形状をしているのが一般的である。これら散乱体は、通常は、単結晶の特定の方位に面がほぼ揃っており、レーザ光を照射すると入射光と単結晶の方位によって決定される特定の方向にのみ散乱光が観察される。これらの結果から、該空孔は負結晶であると推測される。
前記した内坩堝(5)内に収容するフッ化金属原料の溶融液(7)の深さ(以下、単に溶融液の深さともいう)は、単結晶体内部への散乱体の形成を抑制する効果をより顕著に発揮させる観点からは、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.55倍以下、さらに好ましくは0.50倍以下の深さにするのがより好ましい。一般には、このフッ化金属原料の溶融液の深さは、15cm以下、より好適には12cm以下であるのが好ましい。また、結晶引上げ工程における、単結晶体と坩堝、あるいは単結晶体と坩堝の底で固化した原料の一部との接触の防止の観点からは、内坩堝中に収容されるフッ化金属原料の溶融液の深さは、アズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.1倍以上の深さ、一般には3cm以上の深さに保持するのがより好ましい。
この溶融液(7)の深さが、引上げ期間中において上記特定した範囲になるように、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを連続的に変化させ、その液面の高さの変化に応じて、単結晶引上げ棒(13)の高さも制御すればよい。引上げの開始当初において、坩堝中への原料フッ化物の溶融液の収容量を若干多めに収容した場合等は、フッ化金属原料の溶融液(7)の深さが前記特定値を超えてしまう場合も起こり得るが、このような場合も、少なくとも、光学部材を切り出す上で最も有用な部位である直胴部の引上げが行われている期間は、前記特定した範囲内の溶融液の深さにするのが好ましい。
また、上記した引上げ時の溶融液の深さの範囲内にあっても、引上げ界面をより安定させる観点からは、できるだけ溶融液の深さの変動幅は小さくするのが好ましく、実質的に所定の値に固定して引上げを実施するのが望ましい。少なくとも前記有用性の高い直胴部の引上げ期間は、溶融液の深さは所定値に実質的に固定して実施するのが、特に好ましい。
上記二重構造坩堝(6)において、内坩堝(5)の大きさは製造するフッ化金属単結晶体の大きさに応じて決定すればよい。即ち、内坩堝(5)の内直径は、製造されるフッ化金属単結晶体の直径の最大値よりも大きければよい。しかし、内坩堝(5)の内直径があまりに大き過ぎると、後述する遮蔽部材を設けた際のフッ化金属の揮発抑制効果が低減し、一方、単結晶体の直径の最大値に近すぎると溶融液(7)の乱れなどが生じ易く安定して結晶引上げを行うことが困難になる場合がある。そのため、製造される単結晶体の直径の最大値の1.1〜4倍であることが好ましく、より好ましくは1.1〜2.5倍、特に好ましくは1.2〜2倍である。なお通常は、製造する単結晶体の直胴部直径が、該単結晶体の直径の最大値となる。
また、内坩堝(5)の深さは、前述した、内坩堝(5)内に収容する原料フッ化金属の溶融液(7)の深さの好適な範囲の下限値を超える深さとすることが好ましい。即ち、引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.1倍より深くすることが好ましく、3cmより深くすることがより好ましい。
一方、内坩堝(5)の深さは、あまり深すぎると引上げの操作性が低下することがある。その観点からは、内坩堝(5)の深さは最大でも、前述した、内坩堝(5)内に収容する原料フッ化金属の溶融液(7)の深さの好適な範囲の上限値(引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.65倍)を若干上回る程度の深さであることが好ましい。
しかしながら、内坩堝(5)の上端部は熱の輻射の状態に大きな影響を与える。そのため該上端部は結晶成長界面となる融液表面から離れていることが好ましく、即ち、内坩堝(5)の深さはより深い方が好ましい。
上述した要素を勘案すると、内坩堝の深さは、引上げるアズグロウン単結晶体の直胴部直径の0.5〜3倍であることが好ましく、0.65〜2倍であることがより好ましい。なお、内坩堝(5)を分割可能とする等の手段により、操作性に関して特に問題を生じないようにすることができる。従ってこのような場合には、上記した値の上限値よりさらに深くすることも、熱の輻射の観点から好適である。
外坩堝(4)は、引上げる単結晶体の大きさに応じた口径と、引上げに必要な原料フッ化金属の溶融液(7)を収容するのに十分な深さを有するものが使用される。外坩堝(4)の深さは、内坩堝(5)内への溶融液(7)の補給の円滑性を考慮すると、内坩堝(5)の深さの1.3〜3倍が好ましい。
外坩堝(4)の口径は、原料フッ化金属の溶融液(7)に含有される固体不純物の除去効果(後述)を考慮すると、開口部(20)において、外坩堝(4)の側壁内面と内坩堝(5)の側壁外面との間隔が、好ましくは外坩堝(4)の内直径の1/10〜1/3、より好ましくは1/8〜1/4となる大きさとされる。外坩堝(4)の側壁内面と内坩堝(5)の側壁外面は、少なくとも溶融液(7)の液面から開口部(20)の位置までの範囲において、通常は、垂直方向へ互いに略平行に延びている。
なお上記内坩堝(5)又は外坩堝(4)の内直径とは、該坩堝における内径の最も大きな部分の直径であり、深さとは坩堝の上端から最も深い位置までの長さである。通常、内坩堝(5)又は外坩堝(4)のいずれにおいても、上端部の直径(口径)が内直径に等しいことが好ましい。
内坩堝(5)において、底壁(15)面の形状は特に制限されるものではなく、図1の単結晶体製造用引上げ装置に設けられている内坩堝のように水平面であっても良いが、縦断面の形状がV字状、U字状等をしたすり鉢状や逆円錐台状等の下凸形状であることがより好ましい。代表的な実施態様を示す図2に記載した二重構造坩堝(6)の拡大図は、底壁(15)面が、縦断面の形状がV字状をしたものである。
底壁(15)面の、水平面に対する下方向への傾斜角度が5〜55度、好適には8〜45度、特に15〜45度である下に凸形状が、散乱体の抑制効果のより優れたものになるために好ましい。逆円錐台状をしている場合、央部の水平面の直径は、内坩堝(5)の内直径の1/5以下であるのが好ましい。なお、このように内坩堝(5)の底壁(15)面の形状が下凸形状である場合、該坩堝に収容したフッ化金属原料の溶融液(7)の深さとは、溶融液の液面から、該坩堝内空部の底壁(15)面における最も深い部分までの深さをいう。
内坩堝(5)の壁部に設ける連通孔(14)は、底壁部(15)および側壁部(16)の如何なる箇所に設けても良い。好適には、連通孔(14)は、内坩堝(5)のできるたけ下方の壁部に設けることが、内坩堝(5)に収容される溶融液の液面の安定性の点から効果的である。図1に示す内坩堝(5)のように、該内坩堝(5)の形状が底壁が水平である場合には、連通孔(14)は、側壁の最下端又は底壁に設けることが好ましい。
一方、図2に示す内坩堝(5)のように、底壁(15)面が下凸形状である場合には、連通孔(14)は、該底壁部の径が、内坩堝(5)の内直径の1/4以下となる位置よりも下方に設けることが好ましく、1/7以下となる位置よりも下方に設けることがより好ましい(図3参照)。さらに、後述する固体不純物の除去を効率的に行う点からは、内坩堝(5)の最深部に少なくとも1つの連通孔が設けられていることが好ましい。
また、連通孔(14)の開口面積は、あまりに小さいと外坩堝(4)からの溶融液(7)の内坩堝(5)への補充が円滑に行えなくなり、他方、あまりに大きいと内坩堝(5)に収容される溶融液面の安定性が低下する虞があるため、内坩堝(5)の上端開口面積に対して0.05〜0.8%であるのが好ましい。さらに、この開口面積は、一個の大口径の孔として設けるよりも、複数の小孔、好適には直径2〜8mmの小孔を4〜100個の数で設けるのが、前記内坩堝(5)に収容される溶融液面の安定性から好ましい。このように複数の小孔として連通孔(14)を設ける場合は、それぞれの孔はできるだけ偏在しないように設けるのが好ましく、内坩堝(5)の中心から対称的に設けるのが特に好ましい。
なお、連通孔(14)の穴形状は特に制限されるものではないが、通常は、円筒状であるのが一般的である。その孔の軸方向は、形成される壁部が、水平な底壁である場合は垂直方向であり、側壁である場合は水平方向であるのが一般的であるが、それぞれ多少傾斜させて設けても良い。形成する壁部が、下に凸形状の底壁部における傾斜壁である場合には、該孔の軸方向は、垂直方向から水平方向まで適宜の角度から採択すればよい。
上記二重構造坩堝(6)において、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを連続的に変化させる方法は、内坩堝(5)をチャンバー(1)に対して位置固定し、外坩堝を連続的に上下動させることが可能な構造とする。外坩堝(4)をチャンバーに対して位置固定し、内坩堝(5)をチャンバー内を連続的に上下動させることが可能な構造とした場合、前記したフッ化金属原料の溶融液(7)の深さを一定範囲に保ちながら単結晶の成長を行おうとすると、その溶融液からの単結晶の引上げ界面が経時的に低下していくことになり、加熱ヒーター(8)からの加熱環境が微妙に変化する虞がある。したがって、安定的な単結晶の成長を行うという観点からは、内坩堝(5)をチャンバー(1)に対して位置固定し、外坩堝(4)をチャンバー内を連続的に上下動させる構造とする。
具体的には、支持軸(2)を連続的に上下動可能にすることにより、その上に載置される外坩堝(4)も従動して上下動可能にし、さらに、該内坩堝(5)は、一端がチャンバー(1)またはその内部部材に固定された連結部材(17)に接合して、該チャンバー内において位置固定する構造が好ましい。この時、連結部材(17)は、チャンバー(1)内の上方部材から懸架させても良いし、チャンバー(1)内の側方部材から横架させても良い。後者の場合、連結部材(17)は、外坩堝(4)の上下動の妨げにならないように、その上方では十分な高さで設けることが求められる。図1の引上げ装置の場合、連結部材(17)は、リッド材(19)に接合して固定されている。
支持軸(2)の上下動の機構は、公知の方法により行われ、単結晶体の成長に伴う内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)の減少に対応して、同量の溶融液(7)が外坩堝(4)から該内坩堝(5)内に補充されるように、精密な上昇が行われる。
以上のように、本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置における坩堝は、外坩堝に対する内坩堝の収納深さを連続的に変化させることが可能な二重構造坩堝(6)を有する。そして、これら外坩堝の内面と内坩堝の外面とにより形成される間隙空間の開口部(20)に、開口部遮蔽部材(21)が設けられる。
代表的な実施形態を示す図2においては、開口部遮蔽部材(21)は、内坩堝(5)の側壁外面に固定され、外坩堝(4)側へ伸びた板状部材で構成されている。なお図示しないが、この態様においては、該開口部遮蔽部材(21)は上方からみるとドーナツ状の形状を有している。該開口部遮蔽部材(21)の先端(ドーナツ板の外縁)は、外坩堝(4)の側壁内面近傍まで延ばされ、外坩堝内面と内坩堝外面とにより形成される間隙空間の開口部(20)からのフッ化金属の揮発を防止している。該構造を採用した場合、開口部遮蔽部材(21)の先端は、外坩堝側壁内面に固定せずに、外坩堝(又は内坩堝)の上下動を可能にしておく。さらに坩堝の上下動や、種々の要因による振動に伴って開口部遮蔽部材(21)の先端が外坩堝側壁内面と擦れることを防止するため、該先端と外坩堝側壁内面との間には、ある程度の間隙が存在することが好ましい。一方で、フッ化金属の揮発をできるだけ抑制するという観点からは該間隔は狭い方が好ましい。外坩堝及び内坩堝の大きさや、これらの坩堝を上下動させる位置精度等にもよるが、該先端と外坩堝側壁内面との間隔は、0.05mm以上、さらには0.1mm以上、特に0.5mm以上であることが好ましく、また30mm以下、さらには10mm以下、特に5mm以下であることが好ましい。該間隔の好ましい範囲としては、開口部遮蔽部材(21)を外坩堝(4)に固定した場合など、他の態様においても同様である。
本発明の引上げ装置を用いて単結晶体を引上げるに際し、外坩堝に対する内坩堝の収納深さを変化させる間、上記間隔範囲を保つという観点から、前記二重構造坩堝においては内坩堝、外坩堝共に、側壁が垂直方向へ互いに略平行に延びていることが好ましい。
図2においては、開口部遮蔽部材(21)は内坩堝(5)の側壁外面に固定してあるが、図1に示したように外坩堝(4)の側壁内面に固定したり、あるいは図4aに示したように外坩堝(4)の上端に固定したりしてもよい。開口部遮蔽部材(21)を坩堝に固定する場合には、上下動させない方の坩堝に固定することがより好ましい。前述のように本発明においては、外坩堝を上下動させる態様が安定的な結晶成長という点から好ましいため、該観点から、図2に示したように、開口部遮蔽部材(21)は内坩堝(5)に固定するのが特に好ましい態様である。開口部遮蔽部材(21)を坩堝に固定する場合、より効率的に揮発を抑えられるという点で、溶融液(7)と開口部遮蔽部材(21)との間の空隙をできる限り小さくできる位置(高さ)に固定することがより好ましい。上記のように開口部遮蔽部材(21)を上下動させない方の坩堝に固定することにより、結晶の引上げ開始から終了までの間、常に該空隙を小さくしたままにすることができる。
また溶融液(7)と開口部遮蔽部材(21)との間の空隙を小さくできるという点で、図4bに示すように、外坩堝(4)、内坩堝(5)のいずれにも固定せずに、溶融液(7)上に浮遊させておく、いわゆる落し蓋のような態様も可能である。落し蓋とすることにより、溶融液(7)と開口部遮蔽部材(21)との間に空隙が生ぜず、特に効率よくフッ化金属の揮発を防止することができる。この場合にもやはり、上下動させる方の坩堝には接触せずに、ある程度の隙間が存在するように、開口部遮蔽部材(21)の大きさを設定することが好ましい。
該開口部遮蔽部材(21)により遮蔽される開口部の面積の割合は、80%以上となることが好ましく、90%以上となることがより好ましく、95%以上がさらに好ましく、98%以上100%未満が特に好ましい。
本発明者等の検討によれば、このような開口部遮蔽部材(21)を設けることにより、本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置は、前記二重構造坩堝を採用した効果に加えて、さらに単結晶体の成長(引上げ)をより安定的に行えるという効果をも有することになる。具体的には、結晶引上げ中に、所定の引上げ長さに到達する前に結晶が切れてしまったり、あるいは、切れるほどではないが、結晶がその内部に気泡を有するものになってしまったりすることを効果的に防止することが可能である。
本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置により上記のような効果が得られる理由は以下のようであると推測される。即ち、本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置を用いてフッ化金属単結晶体を成長させる際には、当然のことながら坩堝内にフッ化金属原料の溶融液(7)が存在した状態で行う。このようなフッ化金属は他の金属化合物(例えば、酸化物)に比べて遥かに揮発性が高く、溶融液の表面から比較的多量に揮発する。そして揮発した該フッ化金属は、フッ化金属単結晶体引上げ用装置内の様々な場所に拡散・移動するが、該装置内の低温の部材に接触すると凝結、固化する。そしてなんらかの原因によりこの固化したフッ化金属が落下し、場合によっては、坩堝内の溶融液にも落下、混入してしまうものもあると思われる。このような固化物が溶融液中に混入すると、溶融液が部分的に温度低下を起こし、また坩堝外から不純物を持ち込むことも少なくないと推測される。さらに固化物が落下した衝撃により溶融液表面の物理的な乱れ(波)も生じると思われる。このような影響により、単結晶体の成長に悪影響を与え、結晶が途中で切れたり、気泡が生じたりして、安定した結晶成長が困難となる。
溶融液表面からの揮発を少なくするためには、外坩堝側壁内面と内坩堝側壁外面との間隔を狭くすることによって、溶融液の表面積を小さくすればよい。ところが前述のように、溶融液に含有される固体不純物の除去効果を考慮すると、外坩堝側壁内面と内坩堝側壁外面との間隔距離、即ち開口部の幅はある程度存在する方がよい。よって上記のような構造を採用すると二重構造坩堝を採用した効果が低減されてしまう。本発明は、該間隙空間の開口部(20)に開口部遮蔽部材(21)を設けることにより、この開口部(20)から揮発するフッ化金属の量を大幅に低減することができる。さらにもし落下物があっても、この開口部(20)から溶融液(7)中へ落ちることを防ぐこともできる。このように本発明は、二重構造坩堝を採用した際の利点を最大限に得つつ、さらにフッ化金属の揮発、凝結、固化及び落下による結晶成長への悪影響という問題を解決できる優れた発明である。
さらにフッ化金属の揮発が抑制されるため、溶融液(7)の温度状況の変化を抑制しやすく、これによって、結晶切れや石筍の発生を抑制できるという効果もあると推定される。
さらにまた、このような開口部遮蔽部材(21)を有する本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置を用いれば、製造した単結晶体の真空紫外光透過率(以下、VUV透過率)を向上させやすいという効果も得ることができる。該効果は、固体スカベンジャーを用いる場合に特に顕著である。
多くの場合、フッ化金属単結晶においては不純物として酸化物が混入すると、VUV透過率が低下する。そのため通常は、このような酸化物はフッ化金属原料の段階で可能な限り除去され、また該酸化物生成の原因となる水分を除去するために、フッ化金属原料の炉内への投入前に、該炉自体を数百〜千数百度で空焼きすることなども行われる。
しかしながら、なおフッ化金属を保管・輸送している間に吸着したり、炉内へフッ化金属原料を投入する際に外気に接触するなどして、完全に炉内の酸化物や水分を除去することは困難である。このため、通常は、坩堝内にフッ化金属原料と共にスカベンジャーと呼ばれる酸素除去剤を入れ、結晶引上げ開始に先立ち、減圧排気しつつ該フッ化金属原料とスカベンジャーを加熱し、酸化物を揮発性物質に変換して除去する方法が用いられる。該スカベンジャーとしては、例えば製造対称となるフッ化金属がフッ化カルシウムである場合には、フッ化亜鉛、フッ化鉛、フッ化銀、フッ化銅などのフッ化金属や、CF4、CHF3等のフッ素化炭化水素が知られている。なおスカベンジャーは上記フッ化金属原料の精製の際にも用いられている。
該スカベンジャーの作用機構を、フッ化金属がフッ化カルシウム、スカベンジャーがフッ化亜鉛である場合を例にとって説明すると以下に記すようであると言われている。まず、フッ化亜鉛が、フッ化カルシウム原料中などの酸化カルシウムと反応して、酸化亜鉛とフッ化カルシウムとを生じる。これにより、系内から酸化カルシウムが除去される。さらに坩堝等がグラファイト等の炭素系材料で形成されている場合には、生じた酸化亜鉛はさらに金属亜鉛へと還元される。生じた金属亜鉛、及び未反応のフッ化亜鉛はフッ化カルシウムよりも揮発させやすいため、高温、低圧にすることにより除去することができる。ここではフッ化カルシウムに対するスカベンジャーとしてフッ化亜鉛を用いる例で説明したが、他のスカベンジャーも同様の機構で酸化物を除去するといわれている。
上記のようなスカベンジ反応自体は、より高温であるほど反応速度が速く、確実に進行させることができる。ところが、スカベンジャーは揮発性のフッ化物であるから、高温にするとスカベンジ反応に関与する前に揮発してしまう割合も多くなり、実質的な反応効率の点で問題があった。スカベンジャーの使用量を増やす手法も考えられるが、今度は該スカベンジャー中の不純物の影響が出やすくなるという問題などが新たに生じる。
それに対し、本発明のフッ化金属単結晶体引上げ用装置においては、前記二重構造坩堝における外坩堝内面と内坩堝外面とにより形成される間隙空間の開口部(20)に開口部遮蔽部材(21)が設けられて半密閉状態にされているため、スカベンジャーの揮発が抑制され、より少量のスカベンジャーでもその効果を高くすることができる。同時にまた、より高温でもスカベンジャーが揮発消散しにくくなるため、前記スカベンジ反応を効率的に行うこともできる。
即ち、図5aに示すように該間隙空間にフッ化金属原料とスカベンジャーとを収容して加熱すると、スカベンジャーは連通孔(14)、及び開口部遮蔽部材(21)先端と坩堝壁との間の僅かの空隙から揮発するのみであるから、その揮発は大幅に抑制され、より高温の状態でもスカベンジャーが長時間該空間内に滞留することになり、その効率が高くなるため、VUV透過率が向上するものと推測される。それに対して、図5bに示すように開口部遮蔽部材(21)がない、又は外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の深さを浅い状態とし、開口部遮蔽部材(21)で間隙空間の開口部(20)を遮蔽して半密閉状態を作り出していないと、該開口部(20)からガス化したスカベンジャーが速やかに揮発してしまい、その効果が限定的なものとなってしまう。
また固体スカベンジャーを用いない場合でも、フッ化金属原料の揮発が抑制され、該フッ化金属を坩堝内に入れた状態でより高温、高真空に長時間維持することが容易となるため、チャンバー(1)や断熱材(9)等に吸着した水分を高度に除去することができ、それによって、やはりVUV透過率を向上させることができる。
その他、本発明の引上げ装置の細部を説明すると、加熱ヒーター(8)は、抵抗加熱ヒーターであるのが好ましい。誘導加熱ヒーターの場合、炉内の温度分布が急峻になり易く、高品質の結晶を得る上では、上記抵抗加熱炉が有利である。
単結晶引上げ棒(13)、支持軸(2)及び覗き窓(22)等は、Oリングや磁性流体シールなどで気密化することが好ましい。フッ化金属原料の溶融工程や結晶の成長工程において、これらの部分からリークが発生すると、単結晶の着色や透明度の低下などの品質の著しい低下をもたらすおそれがある。
また後述するように、本発明の引上げ装置を用いてフッ化金属単結晶体の成長を行う際には、単結晶成長炉内の圧力や雰囲気を各工程において変更することが好ましく、そのため本発明の引上げ装置は、真空ポンプ等の排気装置及び該排気装置と炉とを接続する配管等のガスの導入・排出系を備えるのが一般的である。チャンバー(1)内を真空引きするための真空ポンプは、公知のものを用いることができるが、ロータリーポンプと油拡散ポンプ、あるいはロータリーポンプと分子ポンプの組み合わせが好ましい。
また、単結晶引上げ棒(13)または支持軸(2)に、結晶成長速度測定用のロードセルを設置し、測定値を、ヒーター出力または結晶引上げ速度にフィードバックすることにより安定した品質の単結晶を得ることができる。
二重構造坩堝(6)、支持軸(2)、受け台(3)及び開口部遮蔽部材(21)等の部材は、通常、黒鉛、硝子状黒鉛、炭化珪素蒸着黒鉛等の炭素系材料や金、白金−ロジウム合金、イリジウム等の高融点金属で製作される。特に炭素系材料で作製することが好ましい。他方、加熱ヒータ(8)や断熱材壁(9)は、通常、黒鉛、硝子状黒鉛、炭化珪素蒸着黒鉛等の炭素系材料で製作される。
以上の構造をした本発明の引上げ装置を用いて、フッ化金属単結晶体を製造する代表的な方法を述べると以下のようである。即ち、前記したように、まず二重構造坩堝における外坩堝内面と内坩堝外面とにより形成される間隙空間にフッ化金属原料と、必要に応じて固体スカベンジャーとを入れて加熱する。加熱により吸着水分の脱離が生じ、またスカベンジャーを用いた場合には、さらにフッ化金属中の酸化物や坩堝等に吸着している水と、スカベンジャーとが反応する。該加熱は排気しつつ行うことが好ましく、より好ましくは、炉内圧力が10−3〜10−5Pa程度となる真空排気下に行う。
昇温を続けると、上記したような雰囲気圧力下でフッ化金属が昇華しはじめる温度(例えば、フッ化カルシウムであれば1200℃程度)に達する。従来のような上部が開放された構造の坩堝を用いた場合には、多量のフッ化金属原料が揮発し、炉内を汚染することを防止するために、この昇華温度に達する前に排気を中止し、アルゴンなどの不活性ガスを導入して復圧する必要があった。しかしながら本発明によれば該揮発(昇華)を効率的に抑制できるため、該復圧の温度を昇華開始温度よりも高い温度とすることが可能であり、上記昇華開始温度よりも高い温度で行うことができる。昇華開始温度より高い温度での真空状態を維持することにより、断熱材等に吸着している水分をより高度に除去することができる。なお該復圧は、フッ化金属原料が溶融する温度よりも低い温度で行うことが好ましい。
この復圧の際の圧力は、常圧でもよいし、前述したように、0.5〜70kPa程度の減圧状態でもよい。減圧状態で行うことにより、得られたアズグロウン単結晶体及び/又は該アズグロウン単結晶体をアニールしたものにおいて、曇りや濁りといった状態で観察される単結晶体中の微小ボイドの発生を抑制することができる。該微小ボイドの発生抑制効果を良好に発揮させ、かつ単結晶の成長をより安定させやすいという点で、好ましくは5〜50kPaであり、特に好ましくは10〜30kPaである。
その後さらに昇温を続け、フッ化金属原料が完全に溶融したならば、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の深さを深くすることにより、該間隙空間に収容されている溶融液の一部を内坩堝の内空部に流入させる。該溶融液の流入は、前記連通孔(14)を通して行われる。引き続いて結晶引上げを開始してもよいが、溶融液表面に固体不純物が浮遊しているのが観測されている場合などには、結晶体の多結晶化を防止するために、引上げの開始前に次の前操作を行うのが好ましい。即ち、上記のようにして内坩堝(5)の内空部にフッ化金属原料の溶融液(7)を流入、収容させた後、今度は外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを浅くして、内坩堝(5)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)を外坩堝(4)内に流出させ、その後再度、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くして、上記外坩堝(4)内のフッ化金属原料の溶融液(7)を該内坩堝(5)内に送給する操作を、少なくとも一度実施するのが好ましい。
このようにすれば、内坩堝(5)に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)に浮遊性の固体不純物が含有されている場合にも、この固体不純物は、上記の操作により、該内坩堝(5)内の溶融液(7)を一旦、外坩堝(4)内に流出させた際に、その液流に同伴して、該外坩堝(4)側に排出される。そして、この固定不純物は、外坩堝内に収容される溶融液(7)面に浮上するため、再度、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くして、該内坩堝(5)内に送給しても、該内坩堝(5)内に再進入することはない。よって、単結晶体の引上げに際して、係る前操作を少なくとも一回、その固体不純物の除去効果に応じて複数回繰り返して行うことにより、内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)に固体不純物が浮遊しない状態で、該単結晶の引上げを実施できる。その結果、製造されるアズグロウン単結晶体は、固体不純物が単結晶体に取り込まれておらず、該固体不純物に起因した部分的な多結晶化も発生しないものとなる。
この単結晶体引上げ前の固体不純物の除去操作に際しては、上下動させない側の坩堝に対する溶融液面の位置(高さ)が変化する。前記のように開口遮蔽部材(21)は上下動させない側の坩堝に固定することが好ましいが、この場合、溶融液面の位置が最も高くなった場合でも、該液面位置が、開口部遮蔽部材(21)よりも高くならないようにすることが好ましい。
この前操作において、固体不純物の除去効果を良好に発揮させる観点からは、一操作ごとの、内坩堝(5)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)の外坩堝(4)側への流出は、できるだけ多い量が効果的であり、できれば全量を流出させるのが好ましい。そのためには、内坩堝(5)に形成される連通孔(14)は、内坩堝のできるだけ下方に設けたものが好ましく、この意味からも、底壁部の径が、内坩堝(5)の内直径の1/4以下となる位置よりも下方に設けることが好ましく、1/7以下となる位置よりも下方に設けることがより好ましい。特に、内坩堝(5)内の溶融液(7)の全量を流出させるためには、連通孔(14)の少なくとも一個はその下端部(最深部)に設けるのが好ましい。
このようにして前操作を行った後、種結晶を溶融液面に接触させてフッ化金属の単結晶体の引上げを開始する。該引上げに際しては、該単結晶体(10)の成長に伴う内坩堝(5)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)の減少に応じて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くしていき、内坩堝(5)内のフッ化金属原料の溶融液(7)の液量が一定範囲、好適には、内坩堝(5)内のフッ化金属原料の溶融液の液量が、その深さが、3cm以上で且つ単結晶体(10)の直胴部直径の0.65倍以下の範囲に維持されるように、外坩堝(4)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)を内坩堝(5)内に補給する方法により実施するのが好ましい。
前記した通り、上記のようにして外坩堝(4)を上下動させる場合には、開口部遮蔽部材(21)は内坩堝(5)の側壁外面に、該開口部遮蔽部材(21)の下面が溶融液(7)にできるだけ近い位置になるよう固定しておくことが好ましい。単結晶体引上げの進行に伴い外坩堝(4)を上昇させて該外坩堝(4)内に収容されたフッ化金属原料の溶融液(7)を内坩堝(5)内に補給する際、内坩堝に対する溶融液(7)の液面(=結晶成長界面)位置は実質的に変化しない。よって、内坩堝に固定された開口部遮蔽部材(21)の溶融液面に対する相対位置の変化も少ない。従って、開口部遮蔽部材(21)と溶融液(7)により形成される空隙を常に小さく保つことができ、フッ化金属原料の揮発をさらに少なく抑えることが容易であり、また揮発量の変化などに伴う溶融液の温度変化も制御しやすい。
上記方法によれば、引上げ途中で切れてしまった気泡が混入したりすることが少なく安定的に、VUV透過率が良好で単結晶体内部に存在する散乱体の数が著しく少ないフッ化金属のアズグロウン単結晶体が製造される。特にこのような効果は、直胴部の直径が大きく、また該直胴部の長さの長い大型の単結晶を製造する場合に顕著であり、具体的には、直胴部の直径が100mm以上、直胴部の長さが40mm以上の大型単結晶体でも安定的に製造することができ、直胴部の直径が150〜300mmで、直胴部の長さが100〜300mmにも及ぶ超大型単結晶体でも安定的な製造が可能となる。
その他、本発明の引上げ装置を用いた上記方法によりフッ化金属単結晶体を製造する場合の製造条件は以下のものが好ましい。
フッ化金属原料は、フッ化カルシウムにおける蛍石等の天然鉱物を使用しても良いが、純度の面から化学合成品を使用するのが好ましい。坩堝降下法により得られた単結晶体の破砕物を用いるのも好適な態様である。上記フッ化金属原料は、粉末を使用しても良いが、溶融したときの体積減少が激しいため、粒状物、好適には60μm以上、好適には60〜1000μmの粒径の粒状物として用いるのが好ましい。
また、引上げ法によるフッ化金属単結晶体の成長においては、水分が存在すると、単結晶体中に酸化物が取り込まれて着色等が発生する原因になるため、上記フッ化金属原料は、含有水分を可能な限り除去して用いるのが望ましい。水分を除去する前処理は、フッ化金属原料を真空ポンプによる減圧下で加熱処理することにより行われるが、単に焼成するだけでは原料内部の水分までを十分に除去することは困難であるため、該加熱処理に引き続いて気体スカベンジャーとしての四フッ化炭素、三フッ化炭素、六フッ化エタン等を含有する雰囲気中でフッ化金属原料を溶融させるのがより好ましい。気体スカベンジャーとしては、四フッ化炭素を用いるのが最も好ましい。
こうした前処理を施したフッ化金属原料は、溶融状態からそのまま引上げ法による単結晶の成長を行っても良いが、好ましくは、一旦冷却固化して、その表面に存在している固体不純物を可能な限り切削除去してから用いるのが、多結晶化の低減の観点から好ましい。
また単結晶引上げ装置も、フッ化金属原料の投入に先立って、フッ化亜鉛、フッ化鉛などのフッ化物の存在下に、結晶成長を行う際の温度よりも高い温度に加熱して清浄化しておくことが好ましい。該フッ化物としては、前記スカベンジャーと同じものを用いればよい。
上記フッ化金属原料を坩堝に収容した後、溶融させるに先立っては、減圧下での加熱処理を施し、前処理後の吸着水等を除去するのが好ましい。フッ化金属原料の溶融および単結晶の成長は、不活性ガスの雰囲気下で行うのが好ましく、該不活性ガスは、継続的に装置内に供給していき、それに伴ってスカベンャーと残存水分とが反応して生じた二酸化炭素を装置外に排出させるのが好ましい。
単結晶の引上げは、フッ化金属の結晶成長界面の温度がほぼ該フッ化金属の融点となる温度で行われる。しかしながら該界面の温度を直接測定することは困難であるため、坩堝底の温度で制御する手法が好適に用いられる。この場合、フッ化金属原料を坩堝底の測定温度において融点〜融点+150℃に加熱した条件、例えばフッ化金属がフッ化カルシウムであれば1420℃〜1570℃程度の温度で実施するのが好ましく、該温度への昇温速度は50〜500℃/Hrであるのが好ましい。なお、単結晶の引上げを開始する前に溶融液に浮遊する固体不純物を除去するに際しては、上記単結晶引上げを行う温度よりもさらに20〜150℃高めの温度で30〜180分程度保持し、その間に行うことも効果的である。
結晶引上げ中の雰囲気はアルゴンなどの不活性ガスであることが好ましいが、必要に応じて、CF4、HFなどのフッ素系ガス雰囲気下に行ってもよい。結晶引上げ中は、新たなガスの供給をできるだけ行わない方が好ましく、常圧下で結晶引上げを行う場合には、温度変化に伴う圧力変化を補う程度のガスの導入・排出をさせる程度でよい。減圧下で行う場合には、単結晶成長炉を密閉、気密化した状態で行うことが好ましい。
種結晶および成長中の結晶は、引上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は5〜30回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて、坩堝も反対方向に同様の回転速度で回転させても良い。好適な結晶の引上げ速度は、1〜10mm/時間である。
結晶引上げの終了後、単結晶体を炉から取り出すまでの冷却は通常、10℃/min以下の降温速度で行われるが、得られたアズグロウン単結晶体を加工する際にクラックが入ったり欠けたりすることを防止しやすい点で、0.5℃/min以下、好ましくは0.1〜0.3℃/min程度の降温速度で冷却するとよい。また、微細ボイドの発生を抑制しやすい点で、降温中は炉内圧が10−3〜10−5Pa程度となる真空排気下で行うことがより好ましい。
単結晶引上げに用いる種結晶は、成長するフッ化金属と同材質の単結晶体を用いるのが好ましい。種結晶の成長面は任意に選択することができるが、フッ化カルシウムの種結晶を用いる場合は、{111}面、{100}面、または{110}面及びこれらの等価面を好適に用いることができる。
以下、本発明を、実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1
二重構造坩堝(6)が図2に示したものであり、特開2004-182587号公報に記載されているように、フッ化金属単結晶体(10)が引上げられる空間までも環囲した断熱材壁(9)と天井板を有するものである以外は、図1に示された構造である単結晶体製造用引上げ装置を用いて、フッ化カルシウム単結晶体の製造を行った。
二重構造坩堝(6)は、外坩堝(4)が深さ30cm、内径50cmであり、内坩堝(5)が深さ150cm、内径36cm、坩堝底は中心に向かって、水平面に対して下方向への傾斜角度が30度で傾斜するV字状(すり鉢状)であった(内角120°)。この内坩堝の外壁には上端から2cmの位置に、厚さ6mmで、外坩堝内壁との間隙が1.5mmとなる円環リング状の開口部遮蔽部材が取り付けられている。その下端部(中心部)に1個と、中心部から底壁面に沿って上方へ25mm離れた位置の円周上に均等間隔で8個、計9個の口径が4mmである円筒状の連通孔(14)を有している。
また断熱材壁(6)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m2・Kのものであり、他方、天井板(14)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m2・Kのものであった。
空焼きすることによりチャンバー内の水分を充分に除去した後、外坩堝位置を低下させ、外坩堝中にフッ化カルシウム原料70kgとフッ化亜鉛(スカベンジャー)7gをセットし、該間隙空間の開口部が、開口部遮蔽部材で閉塞される位置まで外坩堝位置を上昇させた。
チャンバー内を真空引きし、5×10−3Pa以下に達した時点で、真空引きを継続しながらヒーターに通電し原料の加熱を開始した。約50℃/Hrで坩堝底部の温度が250℃になるまで昇温し、この温度に12時間保持した。24時間後のチャンバー内の真空度は1×10−3Paであった。上記保持後、約50℃/Hrで再び昇温を開始し、坩堝底部の温度が1450℃に達した後、さらに3時間保持し、その後に真空排気ラインを遮断して高純度アルゴンをチャンバー内に供給し、内圧(炉内雰囲気圧力)を19kPaとした。この後、引上げが終了し、さらに室温付近に降温するまで排気およびガス導入は行わなかった。また覗き窓(22)から確認したが、上記坩堝底温度1450℃では、原料フッ化カルシウムは溶融していなかった。
19kPaへの復圧後、坩堝底部の温度が1600℃となるまでヒーター出力を上昇させて昇温した。60分保持した後、チャンバー上部に設けた覗き窓(22)から観察し、原料が完全に溶融していることを確認した。この状態で外坩堝の位置を上昇させてフッ化金属原料の溶融液の一部を内坩堝の内空部に流入させ、外坩堝(4)および内坩堝(5)内にフッ化カルシウム原料の溶融液(7)が収容された状態とした。ヒーター出力を低下させて坩堝底部の温度1580℃で40分間保持した後、さらにヒーター出力を低下させて1540℃で120分間保持した。
覗き窓(22)より、内坩堝(5)内に収容された溶融液(7)の表面状態を観察したところ、固体不純物の浮遊が確認されたので、支持軸(2)を下降させて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを浅くして、内坩堝(5)内に収容された単結晶原料の溶融液(7)の全量を外坩堝(4)内に流出させ、その後再度、支持軸(2)を上昇させて、外坩堝(4)に対する内坩堝(5)の収納深さを深くして、上記外坩堝(4)内のフッ化カルシウム原料の溶融液(7)を該内坩堝(5)内に供給する操作を、内坩堝中の溶融液表面に固体不純物が確認できなくなるまで繰り返した。上記操作の後、内坩堝(5)に対する外坩堝(4)の位置を、該内坩堝(5)内におけるフッ化カルシウム原料の溶融液(7)の深さが10cmになる位置とした。
次に、〔111〕の種結晶を溶融液表面に接触させ、育成(結晶成長)を開始した。種結晶は8rpmにて回転させ、4mm/Hrにて引き上げを行った。育成開始後は、引き上げ軸に設けたロードセルによって結晶成長速度を測定し、これをヒーター出力にフィードバックすることにより、予め設定した結晶形状に近づけるように自動制御を行った。なお上記条件で目的とする結晶の大きさは、直胴部の直径250mm、長さが150mmの単結晶体である。また、内坩堝(5)中の溶融液(7)の深さが10cmに維持されるように、結晶成長に伴って外坩堝(4)を徐々に上昇させた。引上げ終了後、冷却速度15℃/Hrにて300℃まで降温し、その後ヒーターを切って常温まで降温した。
上記の条件で単結晶体の引上げを9回繰り返したところ、単結晶体が目的の大きさとなるまで全くトラブルを生じなかったのが4回、結晶切れや石筍の発生というトラブルを起こしたのが5回であった。さらに、このトラブルを生じた5回のうち2回は、一回の引上げ中に2度以上トラブルを生じた(うち一回は3度トラブルを生じた)。
また1回は、結晶を繋ぎなおすことができず、単結晶体が目的の大きさとなる前に引上げを中止せざるを得なかった。
比較例1
二重構造坩堝(6)に開口部遮蔽部材(21)が取り付けられていない以外は、実施例1と同じ単結晶体引上げ装置を用い、実施例1と同じ条件でフッ化カルシウム単結晶体の製造を試みた。しかしながら、真空排気下に坩堝底部の温度1450℃で3時間保持した後、覗き窓から結晶成長炉内を観察しようとしたところ、多量の固形物が付着しており内部の観察ができなかった。そこでその後の操作を中止し、炉を開放して内部を観察したところ、坩堝中のフッ化カルシウム原料(固化した溶融液)が著しく減少しており、他方、炉内のいたるところにフッ化カルシウム結晶と思われる物質が多量に付着していた。
比較例2
二重構造坩堝に開口部遮蔽部材が取り付けられていない以外は、実施例1と同じ単結晶体引上げ装置を用いて単結晶体の引上げを行った。なお、昇温過程における250℃での保持時間を倍の24時間とし、また高純度アルゴンをチャンバー内に供給する際の温度を、フッ化金属原料の揮発をさけるために600℃とした以外は、実施例1と同じ条件で行った。
上記の条件で単結晶体の引上げを6回繰り返したところ、単結晶体が目的の大きさとなるまで全くトラブルを生じなかったのは1回のみであり、5回は結晶切れや石筍の発生を起こした。さらに、このトラブルを生じた5回のうち3回は、一回の引上げ中に2度以上トラブルを生じた(うち1回は3度トラブルを生じた)。また2回は、結晶を繋ぎなおすことができず、単結晶体が目的の大きさとなる前に引上げを中止せざるを得なかった(うち1回は2度目のトラブル後)。
実施例2
実施例1で製造したフッ化カルシウム単結晶体から、表面粗さがRMSで0.5nm以下になるまで表面研磨された厚さ10mmの試料を作製した(9個、引上げ中にトラブルを起こしたものを含む)。これをVUV透過率測定装置(日本分光製 KV−201;酸素含有量0.2ppm以下の窒素雰囲気中で測定)を用い、その透過率を120〜300nmの範囲で測定した。その結果、いずれの試料も、193nmで90〜92%、157nmで87〜88%、130nmで83〜84%の光透過率を示した。
比較例3
実施例2と同様にして、比較例2で製造したフッ化カルシウム単結晶体(6個)の光透過率を測定したところ、193nmでの透過率90〜92%、157nmでの透過率87〜88%といずれの試料も実施例と同等であったが、130nmでの透過率は26〜81%であった。