JP2004231502A - フッ化バリウムのアズグロウン単結晶体 - Google Patents
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Abstract
【課題】単結晶引き上げ法(チョクラルスキー法)によって製造され、直径が17cm以上のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体において、複屈折が十分に小さいものを製造すること。
【解決手段】単結晶引き上げ法(チョクラルスキー法)によって製造され、直胴部の直径が17cm以上であり、好適には直胴部の長さが5cm以上であり、且つ複屈折が3nm/cm以下、好適には0.1〜2nmであることを特徴とするフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体。
【選択図】 なし
【解決手段】単結晶引き上げ法(チョクラルスキー法)によって製造され、直胴部の直径が17cm以上であり、好適には直胴部の長さが5cm以上であり、且つ複屈折が3nm/cm以下、好適には0.1〜2nmであることを特徴とするフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体。
【選択図】 なし
Description
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶引き上げ法によって製造されたフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体に関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ化カルシウムや、フッ化バリウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきており、とりわけ、フッ化バリウム単結晶体は、光リソグラフィー技術において次世代の短波長光源として開発が進められているF2レーザ(157nm)での投影レンズとして期待が寄せられている。該投影レンズの直径としては、リソグラフィーのスループットを向上させるため15cm以上のものが採用されており、レンズ材料として直径17cmを越える大型フッ化バリウム単結晶体が必要とされている。
【0003】
従来、こうした大型フッ化バリウムの単結晶体は、坩堝降下法(ブリッジマン法)により製造されるのが一般的である。ここで、坩堝降下法とは、坩堝中の単結晶製造原料の融液を、坩堝ごと徐々に下降させながら冷却することにより、坩堝中に単結晶を育成させる方法である。
【0004】
ところが、かかる坩堝降下法により製造したフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体は、坩堝という閉じられた空間内で単結晶が形成されるため結晶体に大きな内部歪が生じ、その歪みを低減させるために、単結晶体育成後に1ヶ月を越えるアニール処理が必要になるという問題点があった。また、特に17cmを越える大型の単結晶体を育成する場合、結晶が部分的に多結晶化するためその歩留まりが著しく悪いという欠点を有していた。
【0005】
坩堝降下法の上記欠点を解消するためには、単結晶引き上げ法(チョクラルスキー法)を採用して、フッ化バリウム単結晶体を製造することが考えられる。ここで、単結晶引き上げ法とは、坩堝中の単結晶製造原料の融液に、目的とする単結晶体からなる種結晶を接触させ、次いで、その種結晶体を坩堝の加熱域から徐々に引き上げて冷却することにより、該種結晶体の下方に単結晶を育成させる方法である。単結晶引き上げ法は、単結晶育成中に坩堝からの空間的な拘束を受けない方法であるため、結晶体に歪が比較的生じ難く、また、育成中の偏析現象による不純物の低減が可能であるため、シリコンやゲルマニウム等の半導体単結晶体の製造などにおいて汎用されている。
しかしながら、単結晶引き上げ法は、一方で、装置が複雑になる他、安定的に単結晶を成長させることが難しいことなどから、上記フッ化バリウム単結晶体の製造に適用するにはかなりの困難さが予測される。そのため、単結晶引き上げ法によるフッ化バリウム単結晶体の製造は、直胴部の直径が3cm以下の小型のものを実験室レベルで製造した例が僅かに知られている程度であり(非特許文献1参照)、該直径が17cm以上の大口径のものを製造した具体例はほとんど知られていないのが実状である。
【0006】
【非特許文献1】
K.Nassau、Jounal of Applied Physics、32巻、1820−1(1961年)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかして、本発明者らが、上記単結晶引き上げ法により、直胴部の直径が17cm以上の大口径のフッ化バリウム単結晶体の製造を試みたところ、一般的な構造の単結晶引き上げ装置により製造を行ったのでは、得られたアズグロウン状態の単結晶体は、内部歪を十分に少なくすることができなかった。このため、該単結晶体は、複屈折が8nm/cmを超える値になり、リソグラフィー用途として使用するには長時間のアニール処理が必要になり今一歩満足できなかった。これは、前記の如くに実験室レベルで小型のフッ化バリウム単結晶体を製造した時には全く認められなかった現象であり、前記大口径のフッ化バリウム単結晶体を工業的に生産するに際して大きな障害になるものであった。
【0008】
したがって、本発明は、単結晶引き上げ法によって製造され、直胴部の直径が17cm以上のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体において、内部歪が少なく複屈折が十分に小さいものを製造することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を続けてきた。その結果、単結晶引き上げ法によって製造された前記大型のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体においても、複屈折が極めて小さいものを製造することに初めて成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、単結晶引き上げ法によって製造され、直胴部の直径が17cm以上であり、且つ複屈折が3nm/cm以下であることを特徴とするフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のフッ化バリウムの単結晶体は、単結晶引き上げ法によって製造されたアズグロウン状態のものである。ここで、単結晶引き上げ法とは、前記した一般にチョクラルスキー法と呼ばれる単結晶製造方法を意味する。また、アズグロウン状態とは、単結晶製造装置の中で引き上げられ、室温まで冷却されただけの状態の単結晶体であり、アニール処理等の後処理は施されていないものである。
【0012】
本発明の単結晶体は、直胴部の直径が17cm以上、好適には20〜40cmの大口径のものである。一般に単結晶引き上げ法で育成されたインゴットは、種結晶から直径が徐々に大きくなった円錐状部分からなるショルダー部、インゴットの直径がほぼ一定となり円柱状部分からなる直胴部、さらに、前記直胴部から徐々に直径が小さくなった円錐状部分からなるテール部から構成されている。ここで、上記本発明の単結晶体の直径は、直胴部の最も太い部分の直径をいう。
【0013】
本発明の最大の特徴は、上記単結晶引き上げ法によって製造された大口径のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体において、その内部歪を極めて少なくした点にある。ここで、フッ化バリウム単結晶体中の歪は、複屈折を誘起するため、上記内部歪の少なさは、複屈折の小ささとして表すことができる。しかして、本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体の複屈折は、3nm/cm以下、好ましくは0.1〜2nm/cmの小さい値にある。
【0014】
前記したように、一般的な単結晶引き上げ法にしたがって、上記大口径のフッ化バリウム単結晶体を製造する場合、アズグロウン状態で、上記ほどに複屈折の小さいものを製造することは困難である。これに対して、本発明は、このような大型のアズグロウン単結晶体におて、上記低複屈折を実現したものであり、得られた単結晶体は、長時間アニール処理を施さなくても、リソグラフィー用に使用可能である大口径の光学材料を切り出すことが可能になる。また、結晶内の歪みが著しく小さいため、単結晶体を切断、研磨等の加工する際に、クラックの発生がほんとんどなく歩留まりの高い加工が可能となる。
【0015】
本発明において、アズグロウン単結晶体の複屈折は、次のような方法により測定する。被測定体としては、アズグロウン単結晶体のショルダーとテール部を切り落とした直胴部からなる円柱体において、その上下面を各鏡面研磨したものを用いる。この被測定体の上下面において、外周縁より1cm内側に描かれる内周円に内接する正方形内を測定対象区画とし、この区画内に縦横1mmの間隔で格子状に測定点を選定し、それぞれの測定点で部分的な複屈折を各測定し、その平均を求めて上記アズグロウン単結晶体の複屈折とする。
【0016】
各測定点において複屈折の値は当該分野で公知の方法で測定可能であるが、一般に好適な方法を例示すれば、測定光を、被測定体の上下面間を垂直に透過させ、直行する2種類の偏光を用いて位相差を測定することにより求める。測定光の波長は、He−Neレーザーの波長(632.8nm)である。
【0017】
本発明の単結晶体は、直胴部の長さが5cm以上であるのが好ましい。直胴部が5cm以上あるとリソグラフィー用レンズ等に加工した際に開口数を大きくすることが可能となり、投射されるパターンの微細化が達成されるため好適である。
【0018】
上記の性状を有する本発明の単結晶体の製造方法は、特に制限されるものではないが、以下の方法により好適に製造することができる。
【0019】
すなわち、単結晶引き上げ装置として、チャンバー内において、坩堝上方の単結晶引き上げ域を断熱壁で環囲し、該断熱壁の環囲体の上端開口部を、単結晶引き上げ棒の挿入孔が少なくとも穿孔され、且つ厚み方向の放熱能力が、1000〜50000W/m2・Kである天井板で閉塞することによりなる単結晶引き上げ室を設けたものを用い、3mm/時間以下、好ましくは0.5〜2.5mm/時間の結晶引き上げ速度で、単結晶を育成する方法である。
【0020】
上記構造の単結晶引き上げ装置の概略を図1として示す。
【0021】
図1の単結晶引き上げ装置は、チャンバー(1)内において、回転可能な支持軸(2)に支えられた受け台(3)上に、内部に単結晶製造原料であるフッ化バリウムの融液(10)が収容される坩堝(4)が載置されており、該坩堝(4)の周囲には、溶融ヒーター(5)が設けられ、さらに、溶融ヒーター(5)を取り囲むように断熱壁(6)が設けられている。溶融ヒーター(5)の上端の高さは、坩堝(4)の上端の高さとほぼ同程度である。
【0022】
一方、坩堝(4)の中心軸上には、先端に種結晶体(7)の保持具(8)が取り付けられた回転可能な単結晶引き上げ棒(9)が吊設されている。この種結晶体(7)は、坩堝(4)内の原料融液(10)に下端面が接触された後に引き上げられ、下方に単結晶体(11)が育成する。また、上記支持軸(2)の下端は、チャンバー(1)の底壁を貫通してチャンバー外へ伸びており、図示はしていないが冷却器と接した後、坩堝を回転および上下動させるための機構に接続されている。
【0023】
以上の基本構造を備えた図1の単結晶引き上げ装置は、断熱壁(6)が、シリコン等の単結晶体の製造用に使用されている汎用的な単結晶引き上げ装置のものよりも、上方に長く延設されており、坩堝(4)の下端から上端までの全周だけでなく、その上方の単結晶引き上げ域(12)までも環囲している。
【0024】
ここで、本発明において単結晶引き上げ域(12)とは、チャンバー(1)内の坩堝(4)の上方における、該坩堝(4)の上端の高さから、育成されるフッ化バリウム単結晶体(11)の上端(すなわち、種結晶体の下端面)が、引き上げ終了時に到達している高さまでの領域である。しかして、かかる単結晶引き上げ域(12)の最上部は、引き上げる単結晶体(11)の長さによって異なるが、通常は、該坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の50%〜300%高い箇所、特に好適には100〜200%高い箇所に位置させるのが一般的である。
【0025】
断熱壁(6)の上端の高さは、こうしたサイズの単結晶引き上げ域(12)が、後述する単結晶引き上げ室内に十分に収まるように設定される。断熱壁(6)の上端を、単結晶引き上げ域(12)の最上部よりもあまり高くすると保温効果が効きすぎて単結晶を得ることができなくなるため、上記単結晶引き上げ域(12)の最上部と同じ範囲から選定するのが好ましい。
【0026】
本発明において、上記断熱壁(6)は、公知の断熱性素材で形成されていれば制限無く採用できるが、単結晶体(11)の内部歪をより少なくする上では、厚み方向の放熱能力が50W/m2・K以下、より好適には1〜20W/m2・K、最も好適には3〜15W/m2・Kであるのが好ましい。ここで、本発明において、厚み方向の放熱能力とは、対象物の厚み方向の、1500℃における平均熱伝導度(W/m・K)を厚さ(m)で割った値をいう。
【0027】
こうした放熱能力を有する断熱壁(6)の素材としては、1500℃における熱伝導率が0.2〜1.0W/m・K、より好適には0.3〜0.8W/m・Kのものが好ましく、具体的にはピッチ系グラファイト成型断熱材(例えば商品名「ドナカーボ」)、ファイバー系グラファイト成型断熱材、カーボンフェルト系断熱材、ポーラスカーボン系断熱材等が挙げられる。このうち、所望される放熱能力が達成でき、引き上げ時の苛酷な環境への耐性や機械的強度にも優れた材料であること等からピッチ系グラファイト成型断熱材を用いるのが特に好ましい。
【0028】
また、断熱壁(6)は、壁全体として断熱性に優れるものになるならば、上記の単一素材からなる壁材だけでなく、少なくとも一種の断熱板を含む複数の板状体を積層した構造や、さらには、これら複数の板状体を気相を介在させて積層したような構造であっても良い。なお、断熱壁(6)の厚みは、特に制限されるものではないが、3〜10cmであるのが一般的である。
【0029】
チャンバー(1)内を上方視した際において、断熱壁(6)の設置位置は、坩堝(4)の外側であれば特に制限されない。通常は、坩堝(4)の周囲には溶融ヒーター(5)が設置されるため、さらにその外側に位置させるのが一般的である。坩堝(4)の外端からあまり距離をあけても、単結晶引き上げ域(12)の保熱効果が低下するため、坩堝(4)の最大内径の20〜100%、特に好ましくは30〜60%の距離を空けて設けるのが好適である。
【0030】
本発明において、上記断熱壁(6)の環囲体の上端開口部(13)は、単結晶引き上げ棒の挿入孔(14)が少なくとも穿孔された天井板(15)により閉塞される。これにより、単結晶引き上げ域(12)は、上記断熱壁(6)と天井板(15)とにより形成される単結晶引き上げ室(16)内に収まるため、その保熱性が大きく向上する。
【0031】
本発明の単結晶体を製造する上で最も重要な点は、上記構造の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、厚み方向の放熱能力が、1000〜50000W/m2・Kのものを用いる点にある。これにより、単結晶引き上げ室(16)内では、該天井板(15)からの放熱も適度に大きくなるため、単結晶引き上げ室が半径方向にも高さ方向にもゆるやかに冷却される結果、温度分布の不均一さが著しく改善される。したがって、かような本発明によれば、単結晶引き上げ域(12)において単結晶体(11)は、緩やか且つ均一に冷却されていき、より安定的に結晶が育成されため、フッ化バリウム単結晶体は、極めて歪の発生を抑制された状態で製造される。
【0032】
こうした効果の発現性を勘案すると、本発明において、天井板(15)の厚み方向の特に好ましい放熱能力は1000〜50000W/m2・Kであり、最も好ましくは2000〜20000W/m2・Kである。
【0033】
天井板(15)の厚み方向の放熱能力が、1000W/m2・Kより小さい場合、大抵は、天井板(15)からの放熱が不足し単結晶引き上げ域(12)の高さ方向の温度勾配が十分でなくなり、単結晶が生成しなくなる。また、単結晶の生育が生じる場合においても、上記単結晶引き上げ域(12)の温度分布が不均一になり、内部歪が大きくなり、複屈折が大きくなる。他方、天井板(15)の厚み方向の放熱能力が、50000W/m2・Kより大きい場合、高さ方向の温度勾配が大きくなりすぎて、安定的に単結晶を育成するのが困難になり、複屈折が大きくなる。
【0034】
こうした放熱能力を有する天井板(15)の素材としては、1500℃における熱伝導率が15〜200W/m・K、より好適には30〜150W/m・Kのものが好ましく、具体的にはグラファイト、タングステン等が挙げられる。このうち、所望される放熱能力を達成でき、引き上げ時の苛酷な環境への耐性や機械的強度にも優れた材料であることからグラファイトを用いるのが特に好ましい。
【0035】
また、天井板(15)は、板全体として前記の放熱能力の値が満足されるならば、断熱壁(6)の場合と同様に単一素材からなる板材だけでなく、少なくとも一種の放熱板を含む複数の板状体を積層した構造や、さらには、これら複数の板状体を気相を介在させて積層したような構造であっても良い。
【0036】
また、天井板(15)は、必ずしも平板状である必要はなく、断熱壁(6)の環囲体の上端開口部(13)を、後述する穿孔部分を除いて閉塞するものであれば如何なる形状であっても良い。例えば、円錐台状、逆円錐台状、笠状、逆笠状、ドーム状、逆ドーム状等であっても良い。
【0037】
本発明において、天井板(15)の高さは、該天井板(15)が平板状である場合は、前記した断熱壁(6)の上端の高さになる。また、本発明では、天井板(15)が、前記例示したような断熱壁(6)の上端よりも上方に凸する形状である際は、その最高部を天井板の高さとする。さらに、本発明では、天井板(15)が、前記例示したような断熱壁(6)の上端よりも下方に凹む形状である際は、その最下部の高さを天井板の高さとする。これら平板状にない天井板の高さも、該平板状の天井板の高さと同様に、前記断熱壁(6)の上端の高さで説明した高さ、即ち、坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の50〜300%高い箇所に位置させるのが効果的である。
【0038】
なお、天井板(15)の厚みは、特に制限されるものではないが、0.3〜3cm、好ましくは0.5〜1.5cmであるのが一般的である。
【0039】
本発明において天井板(15)には、前記単結晶引き上げ棒(9)の挿入孔(14)の他、チャンバー上部に設けらる覗き窓からの視界を確保するための観察孔や原料融液(10)の表面に浮遊する固形不純物を掬い取るための機構を進入させるための作業用孔等を適宜に穿孔しても良い。本発明では、これらの天井板(15)に形成する穿孔の総開口面積を調整することによっても、単結晶引き上げ室(16)からの放熱性を制御することができ、単結晶引き上げ域(12)の上方に向かっての温度の低下勾配を、フッ化バリウムの単結晶体の引き上げに適度なものに制御することができる。しかしながら、天井板(15)の放熱性能を前記値に制御することなく、こうした穿孔の総開口面積の調整だけで温度勾配を制御すると、歪の発生を高度に防止することはできず好ましくない。
【0040】
これら穿孔の総開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の5〜60%、特に好ましくは8〜40%であるのが好適である。
【0041】
さらに、上記構造の単結晶引き上げ装置を用いて、本発明のアズグロウン単結晶体を製造する場合においては、溶融ヒーター(5)と坩堝(4)の外端との間に、隔離壁(17)を周設し、且つ該隔離壁(17)の上端を、溶融ヒーター(5)の上端よりも高くし、その上端と断熱壁(6)とにかけて、隔離壁(17)と断熱壁(6)との間隙を閉塞するリッド材(18)を横架させるのが、極めて効果的である。
【0042】
ここで、隔離壁(17)は、溶融ヒーター(5)よりの輻射熱を均一化して坩堝(4)を加熱するのに効果を発揮し、リッド材(18)は、溶融ヒーター(5)の熱が上方に逃失するのが防止する効果を発揮する。歪のより少ない単結晶体を製造するには、原料融液の液面付近の温度の均一性を一層に高め、且つこの原料融液の液面付近での単結晶の育成はより緩やかに冷却を行うことが有効であるが、上記構造はその実現に極めて効果的である。
【0043】
リッド材(18)の高さは、坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の2〜50%高い箇所、特に、3〜20%高い箇所であるのが好適である。
【0044】
また、隔離壁(17)及びリッド材(18)の材質は、グラファイト等が好ましい。
【0045】
溶融ヒーター(5)は、特に制限されるものではないが、抵抗加熱ヒーターであるのが好ましい。誘導加熱ヒーターの場合、炉内の温度分布が急峻になり易く、高品質の単結晶体を得る上では、上記抵抗過熱ヒーターが有利である。
【0046】
なお、単結晶引き上げ装置において、単結晶引き上げ棒(9)、支持軸(2)及び除き窓等は、Oリングや磁性流体シールなどで気密化することが好ましい。原料フッ化バリウムの溶融工程や単結晶の育成工程において、これらの部分からリークが発生すると、単結晶体の着色や透明度の低下などの品質の著しい低下をもたらすおそれがある。
【0047】
坩堝(4)に投入した原料フッ化バリウムは、溶融させるに先立って減圧下で加熱処理を施して吸着水分を除去するのが好ましく、そのための装置を真空引きするための真空ポンプは、公知のものを用いることができるが、ロータリーポンプと油拡散ポンプ、あるいはロータリーポンプと分子ポンプの組合せが好ましい。
【0048】
本発明の単結晶体を製造する上で使用する、最も好ましい単結晶引き上げ装置は、断熱壁(6)が厚み方向の放熱能力が3〜15W/m2・Kであり、天井板(15)が厚み方向の放熱能力が2000〜20000W/m2・Kであり、天井板に形成される穿孔の総開口面積が断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の8〜40%であり、天井板(15)の高さが坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の100〜200%高い位置であり、隔離壁(17)とリッド材(18)が設けられており、該リッド材(18)の高さが坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の3〜20%高い位置であり、且つ断熱壁(6)と坩堝(4)の外端との間隔が坩堝(4)の最大内径の30〜60%の距離であるものが最も好ましい。
【0049】
上記構造の単結晶引き上げ装置を用いて、本発明の単結晶体を製造するためには、3mm/時間以下、好ましくは0.5〜2.5mm/時間の結晶引き上げ速度で、単結晶を育成することが重要である。この結晶引き上げ速度が3mm/時間を超える場合、得られる単結晶体の複屈折を十分に小さくすることが困難になる。
【0050】
その他の引き上げ法の具体的操作方法は、一般的な単結晶引き上げ装置を用いて実施されている公知の方法が制限なく採用できる。坩堝に投入する原料フッ化バリウムは、十分に精製処理、特に水分除去処理を施したものを使用するのが好ましい。かかる原料フッ化物の溶融および単結晶の育成は、不活性ガスの雰囲気下又は真空下で行うことができる。
【0051】
単結晶体の引き上げは、原料フッ化バリウムの坩堝底部の測定温度において1300〜1400℃の温度で実施するのが好ましく、該温度への昇温速度は50〜500℃/Hrであるのが好ましい。
【0052】
上記引き上げ法の実施は、残留する水分の影響をなくすため、スカベンジャーの存在下で実施するのが好ましい。スカベンジャーとしては、原料フッ化バリウムと共に仕込まれる、フッ化亜鉛、フッ化鉛、ポリ四フッ化エチレン等の固体スカベンジャーや、チャンバー内に雰囲気として導入される、四フッ化炭素等の気体スカベンジャーが使用される。固体スカベンジャーを使用するのが好ましく、その使用量は、原料フッ化バリウム100重量部に対して0.005〜5重量部が好適である。
【0053】
引き上げ法に用いる種結晶は、フッ化バリウムの単結晶体であり、種結晶体の育成面は任意に選択することができるが、(111)面を好適に用いることができる。(111)面以外を用いた場合、得られた単結晶の複屈折が大きくなる場合がある。単結晶の育成中において、これら種結晶は、引き上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は2〜20回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、上記種結晶の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。単結晶引き上げ後の常温までの降温速度は、0.1〜3℃/分が好ましい。
【0054】
以上により得られたフッ化カリウムのアズグロウン単結晶体は、切断、研磨し、光学部材等として所望の形状に加工すればよい。また、この単結晶体は、前記したとおり複屈折が極めて小さいものであるが、この値をさらに低減させることが望まれる場合は、820〜1220℃下で1〜48時間程度のアニール処理してもよい。
【0055】
【実施例】
以下に本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
図1に示される単結晶引き上げ装置を用いて、フッ化バリウム単結晶体の製造を行った。
【0056】
チャンバー (1)内に設置された高純度グラファイト製の坩堝(4)は、内直径38cm(外直径40cm)であり、高さ30cmのものであった。断熱壁(6)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m2・Kのものであった。他方、天井板(15)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m2・Kのものであった。また、この天井板には、図示される単結晶引き上げ棒(9)の挿入孔(直径14cm)(14)の他、覗き窓(19)からの視界を確保するための観察孔が穿孔されており、これらの総開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の13%であった。
【0057】
さらに、上記天井板(15)の高さは、坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の160%高い(61cm)位置であり、リッド材(18)の高さは、坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の10%高い(6cm)位置であった。なお、断熱壁(6)と坩堝(4)の外端との間隔は、9cm(坩堝(4)の最大内径の25%)であった。
【0058】
チャンバー (1)内に設置した坩堝(4)内に、十分な精製処理及び水分除去処理を施した高純度の原料フッ化バリウム塊76kgと、スカベンジャーとして0.1質量%の高純度フッ化亜鉛を投入し、チャンバー内を真空引きした。次いで、溶融ヒーター(5)に通電し原料の過熱を開始し、約50℃/時間で250℃まで昇温し、この温度に2時間保持した。上記保持後、再び昇温を開始し、約100℃/時間で600℃に達した時点で、真空排気ラインを遮断し、高純度アルゴンをチャンバー(1)内に供給し、内圧を106.4KPaに保った。
【0059】
原料が完全に溶融した1400℃で40分間保持した後、ヒータ出力を低下させて1360℃で120分間保持した後、前記引き上げ棒(9)を垂下させて、種結晶体(7)の下端面を原料融液(10)の表面に接触させ、単結晶の育成を開始した。種結晶体(7)は、5回/分で回転させ、他方、坩堝(4)も、これと逆方向に1回/分で回転させた状態で、2mm/時間にて100時間引き上げを行ったところ、順調に単結晶の育成が行えた。育成終了後、常温まで0.9℃/分で降温した。
【0060】
以上により、直胴部の最大直径28cm、重量41kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは10cmであった。
【0061】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を以下の手法により測定した。まず、単結晶体のショルダー部とテール部をバンドソーにより切断し、直胴部からなる円柱体を得、その上下面を鏡面研磨し被測定体とした。この被測定体において、上下面において、外周縁より1cm内側に描かれる内周円に内接する正方形(1辺の長さ約18cm)内を測定対象区画とし、この区画内に縦横1mmの間隔で格子状に測定点を選定し、それぞれの測定点で複屈折を複屈折測定装置(溝尻光学工業所製ELP−150ART型、測定波長 632.8nm)を用いて測定した。得られた各部分の複屈折の値を平均して、上記アズグロウン単結晶体の複屈折として求めたところ1.467nm/cmであった。
【0062】
実施例2
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、タングステン製であり、厚み方向の放熱能力が20000W/m2・Kのものを用いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径25cm、重量29.5kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は8cmであった。
【0063】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様に測定したところ0.734nm/cmであった。
【0064】
実施例3
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、リッド材(18)を設けなかった以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径23cm、重量26.4kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は9cmであった。
【0065】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様にして測定したところ2.242nm/cmであった。
【0066】
実施例4
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、タングステン製であり、厚み方向の放熱能力が20000W/m2・Kのものを用いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径21cm、重量23.1kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は10cmであった。
【0067】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様に測定したところ1.199nm/cmであった。
【0068】
比較例1
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)を除いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径21cm、重量16.3kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは6cmであった。
【0069】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を測定したところ3.616nm/cmであった。
【0070】
比較例2
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力が15W/m2・Kのものを用い、該天井板に直径30cmの単結晶引き上げ棒の挿入孔のみを穿孔した(開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の30%)以外は、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径22cm、重量15.2kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは6cmであった。
【0071】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を測定したところ5.128nm/cmであった。
【0072】
比較例3
単結晶引き上げ装置として、実施例1で用いた図1の装置において、坩堝内直径を9cmとし、天井板(15)を除き、その他のサイズを比例で小さくしたものを用いた。
【0073】
かかる単結晶引き上げ装置に原料フッ化バリウム塊を1.4Kgを投入した以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径6cm、重量0.6kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は4cmであった。
【0074】
このアズグロウン単結晶体の実施例1と同様にして複屈折を測定したところ2.887nm/cmであった。
【0075】
比較例4
実施例1において、単結晶の引き上げを10mm/時間の速度にて時間行った以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、最大直径22cm、重量15.2kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶の直胴部は6cmであった。
【0076】
このアズグロウン単結晶体の実施例1と同様にして複屈折を測定したところ6.195nm/cmであった。
【0077】
【発明の効果】
本発明のフッ化バリウム単結晶体は、大口径であり、且つアズグロウン状態でありながら、内部歪が少なく複屈折が小さい。したがって、長時間のアニール処理を施さなくても、高品質かつ均一性の高い点で有利な性状を有する大型の光学材料が切り出せる。また、結晶内の歪みが著しく小さいため、単結晶体を切断、研磨等の加工する際に、クラックの発生がほんとんどなく歩留まりの高い加工が可能となる。
【0078】
したがって、本発明のフッ化バリウム単結晶体は、レンズ、プリズム、ハーフミラー、窓材などの光学部材として有用であり、特に、紫外および真空紫外で使用されるこれら光学部材、最も好適には、次世代リソグラフィー技術の光源として有望視されているF2レーザー光用の硝材として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造するのに好適な単結晶引き上げ装置の概略図である。
【符号の説明】
1;チャンバー
2;支持軸
3;受け台
4;坩堝
5;溶融ヒーター
6;断熱壁
7;種結晶体
8;保持具
9;単結晶引き上げ棒
10;原料融液
11;フッ化金属単結晶体
12;単結晶引き上げ域
13;上端開口部
14;単結晶引き上げ棒の挿入孔
15;天井板
16;単結晶引き上げ室
17;隔離壁
18;リッド材
19;覗き窓
【発明の属する技術分野】
本発明は、単結晶引き上げ法によって製造されたフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体に関する。
【0002】
【従来の技術】
フッ化カルシウムや、フッ化バリウム等のフッ化金属の単結晶体は、広範囲の波長帯にわたって高い透過率を有し、低分散で化学的安定性にも優れることから、紫外波長または真空紫外波長のレーザを用いた各種機器、カメラ、CVD装置等のレンズ、窓材等の光学材料として需要が広がってきており、とりわけ、フッ化バリウム単結晶体は、光リソグラフィー技術において次世代の短波長光源として開発が進められているF2レーザ(157nm)での投影レンズとして期待が寄せられている。該投影レンズの直径としては、リソグラフィーのスループットを向上させるため15cm以上のものが採用されており、レンズ材料として直径17cmを越える大型フッ化バリウム単結晶体が必要とされている。
【0003】
従来、こうした大型フッ化バリウムの単結晶体は、坩堝降下法(ブリッジマン法)により製造されるのが一般的である。ここで、坩堝降下法とは、坩堝中の単結晶製造原料の融液を、坩堝ごと徐々に下降させながら冷却することにより、坩堝中に単結晶を育成させる方法である。
【0004】
ところが、かかる坩堝降下法により製造したフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体は、坩堝という閉じられた空間内で単結晶が形成されるため結晶体に大きな内部歪が生じ、その歪みを低減させるために、単結晶体育成後に1ヶ月を越えるアニール処理が必要になるという問題点があった。また、特に17cmを越える大型の単結晶体を育成する場合、結晶が部分的に多結晶化するためその歩留まりが著しく悪いという欠点を有していた。
【0005】
坩堝降下法の上記欠点を解消するためには、単結晶引き上げ法(チョクラルスキー法)を採用して、フッ化バリウム単結晶体を製造することが考えられる。ここで、単結晶引き上げ法とは、坩堝中の単結晶製造原料の融液に、目的とする単結晶体からなる種結晶を接触させ、次いで、その種結晶体を坩堝の加熱域から徐々に引き上げて冷却することにより、該種結晶体の下方に単結晶を育成させる方法である。単結晶引き上げ法は、単結晶育成中に坩堝からの空間的な拘束を受けない方法であるため、結晶体に歪が比較的生じ難く、また、育成中の偏析現象による不純物の低減が可能であるため、シリコンやゲルマニウム等の半導体単結晶体の製造などにおいて汎用されている。
しかしながら、単結晶引き上げ法は、一方で、装置が複雑になる他、安定的に単結晶を成長させることが難しいことなどから、上記フッ化バリウム単結晶体の製造に適用するにはかなりの困難さが予測される。そのため、単結晶引き上げ法によるフッ化バリウム単結晶体の製造は、直胴部の直径が3cm以下の小型のものを実験室レベルで製造した例が僅かに知られている程度であり(非特許文献1参照)、該直径が17cm以上の大口径のものを製造した具体例はほとんど知られていないのが実状である。
【0006】
【非特許文献1】
K.Nassau、Jounal of Applied Physics、32巻、1820−1(1961年)
【0007】
【発明が解決しようとする課題】
しかして、本発明者らが、上記単結晶引き上げ法により、直胴部の直径が17cm以上の大口径のフッ化バリウム単結晶体の製造を試みたところ、一般的な構造の単結晶引き上げ装置により製造を行ったのでは、得られたアズグロウン状態の単結晶体は、内部歪を十分に少なくすることができなかった。このため、該単結晶体は、複屈折が8nm/cmを超える値になり、リソグラフィー用途として使用するには長時間のアニール処理が必要になり今一歩満足できなかった。これは、前記の如くに実験室レベルで小型のフッ化バリウム単結晶体を製造した時には全く認められなかった現象であり、前記大口径のフッ化バリウム単結晶体を工業的に生産するに際して大きな障害になるものであった。
【0008】
したがって、本発明は、単結晶引き上げ法によって製造され、直胴部の直径が17cm以上のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体において、内部歪が少なく複屈折が十分に小さいものを製造することを目的とする。
【0009】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、上記の課題を解決するため、鋭意研究を続けてきた。その結果、単結晶引き上げ法によって製造された前記大型のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体においても、複屈折が極めて小さいものを製造することに初めて成功し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、単結晶引き上げ法によって製造され、直胴部の直径が17cm以上であり、且つ複屈折が3nm/cm以下であることを特徴とするフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体である。
【0011】
【発明の実施の形態】
本発明のフッ化バリウムの単結晶体は、単結晶引き上げ法によって製造されたアズグロウン状態のものである。ここで、単結晶引き上げ法とは、前記した一般にチョクラルスキー法と呼ばれる単結晶製造方法を意味する。また、アズグロウン状態とは、単結晶製造装置の中で引き上げられ、室温まで冷却されただけの状態の単結晶体であり、アニール処理等の後処理は施されていないものである。
【0012】
本発明の単結晶体は、直胴部の直径が17cm以上、好適には20〜40cmの大口径のものである。一般に単結晶引き上げ法で育成されたインゴットは、種結晶から直径が徐々に大きくなった円錐状部分からなるショルダー部、インゴットの直径がほぼ一定となり円柱状部分からなる直胴部、さらに、前記直胴部から徐々に直径が小さくなった円錐状部分からなるテール部から構成されている。ここで、上記本発明の単結晶体の直径は、直胴部の最も太い部分の直径をいう。
【0013】
本発明の最大の特徴は、上記単結晶引き上げ法によって製造された大口径のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体において、その内部歪を極めて少なくした点にある。ここで、フッ化バリウム単結晶体中の歪は、複屈折を誘起するため、上記内部歪の少なさは、複屈折の小ささとして表すことができる。しかして、本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体の複屈折は、3nm/cm以下、好ましくは0.1〜2nm/cmの小さい値にある。
【0014】
前記したように、一般的な単結晶引き上げ法にしたがって、上記大口径のフッ化バリウム単結晶体を製造する場合、アズグロウン状態で、上記ほどに複屈折の小さいものを製造することは困難である。これに対して、本発明は、このような大型のアズグロウン単結晶体におて、上記低複屈折を実現したものであり、得られた単結晶体は、長時間アニール処理を施さなくても、リソグラフィー用に使用可能である大口径の光学材料を切り出すことが可能になる。また、結晶内の歪みが著しく小さいため、単結晶体を切断、研磨等の加工する際に、クラックの発生がほんとんどなく歩留まりの高い加工が可能となる。
【0015】
本発明において、アズグロウン単結晶体の複屈折は、次のような方法により測定する。被測定体としては、アズグロウン単結晶体のショルダーとテール部を切り落とした直胴部からなる円柱体において、その上下面を各鏡面研磨したものを用いる。この被測定体の上下面において、外周縁より1cm内側に描かれる内周円に内接する正方形内を測定対象区画とし、この区画内に縦横1mmの間隔で格子状に測定点を選定し、それぞれの測定点で部分的な複屈折を各測定し、その平均を求めて上記アズグロウン単結晶体の複屈折とする。
【0016】
各測定点において複屈折の値は当該分野で公知の方法で測定可能であるが、一般に好適な方法を例示すれば、測定光を、被測定体の上下面間を垂直に透過させ、直行する2種類の偏光を用いて位相差を測定することにより求める。測定光の波長は、He−Neレーザーの波長(632.8nm)である。
【0017】
本発明の単結晶体は、直胴部の長さが5cm以上であるのが好ましい。直胴部が5cm以上あるとリソグラフィー用レンズ等に加工した際に開口数を大きくすることが可能となり、投射されるパターンの微細化が達成されるため好適である。
【0018】
上記の性状を有する本発明の単結晶体の製造方法は、特に制限されるものではないが、以下の方法により好適に製造することができる。
【0019】
すなわち、単結晶引き上げ装置として、チャンバー内において、坩堝上方の単結晶引き上げ域を断熱壁で環囲し、該断熱壁の環囲体の上端開口部を、単結晶引き上げ棒の挿入孔が少なくとも穿孔され、且つ厚み方向の放熱能力が、1000〜50000W/m2・Kである天井板で閉塞することによりなる単結晶引き上げ室を設けたものを用い、3mm/時間以下、好ましくは0.5〜2.5mm/時間の結晶引き上げ速度で、単結晶を育成する方法である。
【0020】
上記構造の単結晶引き上げ装置の概略を図1として示す。
【0021】
図1の単結晶引き上げ装置は、チャンバー(1)内において、回転可能な支持軸(2)に支えられた受け台(3)上に、内部に単結晶製造原料であるフッ化バリウムの融液(10)が収容される坩堝(4)が載置されており、該坩堝(4)の周囲には、溶融ヒーター(5)が設けられ、さらに、溶融ヒーター(5)を取り囲むように断熱壁(6)が設けられている。溶融ヒーター(5)の上端の高さは、坩堝(4)の上端の高さとほぼ同程度である。
【0022】
一方、坩堝(4)の中心軸上には、先端に種結晶体(7)の保持具(8)が取り付けられた回転可能な単結晶引き上げ棒(9)が吊設されている。この種結晶体(7)は、坩堝(4)内の原料融液(10)に下端面が接触された後に引き上げられ、下方に単結晶体(11)が育成する。また、上記支持軸(2)の下端は、チャンバー(1)の底壁を貫通してチャンバー外へ伸びており、図示はしていないが冷却器と接した後、坩堝を回転および上下動させるための機構に接続されている。
【0023】
以上の基本構造を備えた図1の単結晶引き上げ装置は、断熱壁(6)が、シリコン等の単結晶体の製造用に使用されている汎用的な単結晶引き上げ装置のものよりも、上方に長く延設されており、坩堝(4)の下端から上端までの全周だけでなく、その上方の単結晶引き上げ域(12)までも環囲している。
【0024】
ここで、本発明において単結晶引き上げ域(12)とは、チャンバー(1)内の坩堝(4)の上方における、該坩堝(4)の上端の高さから、育成されるフッ化バリウム単結晶体(11)の上端(すなわち、種結晶体の下端面)が、引き上げ終了時に到達している高さまでの領域である。しかして、かかる単結晶引き上げ域(12)の最上部は、引き上げる単結晶体(11)の長さによって異なるが、通常は、該坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の50%〜300%高い箇所、特に好適には100〜200%高い箇所に位置させるのが一般的である。
【0025】
断熱壁(6)の上端の高さは、こうしたサイズの単結晶引き上げ域(12)が、後述する単結晶引き上げ室内に十分に収まるように設定される。断熱壁(6)の上端を、単結晶引き上げ域(12)の最上部よりもあまり高くすると保温効果が効きすぎて単結晶を得ることができなくなるため、上記単結晶引き上げ域(12)の最上部と同じ範囲から選定するのが好ましい。
【0026】
本発明において、上記断熱壁(6)は、公知の断熱性素材で形成されていれば制限無く採用できるが、単結晶体(11)の内部歪をより少なくする上では、厚み方向の放熱能力が50W/m2・K以下、より好適には1〜20W/m2・K、最も好適には3〜15W/m2・Kであるのが好ましい。ここで、本発明において、厚み方向の放熱能力とは、対象物の厚み方向の、1500℃における平均熱伝導度(W/m・K)を厚さ(m)で割った値をいう。
【0027】
こうした放熱能力を有する断熱壁(6)の素材としては、1500℃における熱伝導率が0.2〜1.0W/m・K、より好適には0.3〜0.8W/m・Kのものが好ましく、具体的にはピッチ系グラファイト成型断熱材(例えば商品名「ドナカーボ」)、ファイバー系グラファイト成型断熱材、カーボンフェルト系断熱材、ポーラスカーボン系断熱材等が挙げられる。このうち、所望される放熱能力が達成でき、引き上げ時の苛酷な環境への耐性や機械的強度にも優れた材料であること等からピッチ系グラファイト成型断熱材を用いるのが特に好ましい。
【0028】
また、断熱壁(6)は、壁全体として断熱性に優れるものになるならば、上記の単一素材からなる壁材だけでなく、少なくとも一種の断熱板を含む複数の板状体を積層した構造や、さらには、これら複数の板状体を気相を介在させて積層したような構造であっても良い。なお、断熱壁(6)の厚みは、特に制限されるものではないが、3〜10cmであるのが一般的である。
【0029】
チャンバー(1)内を上方視した際において、断熱壁(6)の設置位置は、坩堝(4)の外側であれば特に制限されない。通常は、坩堝(4)の周囲には溶融ヒーター(5)が設置されるため、さらにその外側に位置させるのが一般的である。坩堝(4)の外端からあまり距離をあけても、単結晶引き上げ域(12)の保熱効果が低下するため、坩堝(4)の最大内径の20〜100%、特に好ましくは30〜60%の距離を空けて設けるのが好適である。
【0030】
本発明において、上記断熱壁(6)の環囲体の上端開口部(13)は、単結晶引き上げ棒の挿入孔(14)が少なくとも穿孔された天井板(15)により閉塞される。これにより、単結晶引き上げ域(12)は、上記断熱壁(6)と天井板(15)とにより形成される単結晶引き上げ室(16)内に収まるため、その保熱性が大きく向上する。
【0031】
本発明の単結晶体を製造する上で最も重要な点は、上記構造の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、厚み方向の放熱能力が、1000〜50000W/m2・Kのものを用いる点にある。これにより、単結晶引き上げ室(16)内では、該天井板(15)からの放熱も適度に大きくなるため、単結晶引き上げ室が半径方向にも高さ方向にもゆるやかに冷却される結果、温度分布の不均一さが著しく改善される。したがって、かような本発明によれば、単結晶引き上げ域(12)において単結晶体(11)は、緩やか且つ均一に冷却されていき、より安定的に結晶が育成されため、フッ化バリウム単結晶体は、極めて歪の発生を抑制された状態で製造される。
【0032】
こうした効果の発現性を勘案すると、本発明において、天井板(15)の厚み方向の特に好ましい放熱能力は1000〜50000W/m2・Kであり、最も好ましくは2000〜20000W/m2・Kである。
【0033】
天井板(15)の厚み方向の放熱能力が、1000W/m2・Kより小さい場合、大抵は、天井板(15)からの放熱が不足し単結晶引き上げ域(12)の高さ方向の温度勾配が十分でなくなり、単結晶が生成しなくなる。また、単結晶の生育が生じる場合においても、上記単結晶引き上げ域(12)の温度分布が不均一になり、内部歪が大きくなり、複屈折が大きくなる。他方、天井板(15)の厚み方向の放熱能力が、50000W/m2・Kより大きい場合、高さ方向の温度勾配が大きくなりすぎて、安定的に単結晶を育成するのが困難になり、複屈折が大きくなる。
【0034】
こうした放熱能力を有する天井板(15)の素材としては、1500℃における熱伝導率が15〜200W/m・K、より好適には30〜150W/m・Kのものが好ましく、具体的にはグラファイト、タングステン等が挙げられる。このうち、所望される放熱能力を達成でき、引き上げ時の苛酷な環境への耐性や機械的強度にも優れた材料であることからグラファイトを用いるのが特に好ましい。
【0035】
また、天井板(15)は、板全体として前記の放熱能力の値が満足されるならば、断熱壁(6)の場合と同様に単一素材からなる板材だけでなく、少なくとも一種の放熱板を含む複数の板状体を積層した構造や、さらには、これら複数の板状体を気相を介在させて積層したような構造であっても良い。
【0036】
また、天井板(15)は、必ずしも平板状である必要はなく、断熱壁(6)の環囲体の上端開口部(13)を、後述する穿孔部分を除いて閉塞するものであれば如何なる形状であっても良い。例えば、円錐台状、逆円錐台状、笠状、逆笠状、ドーム状、逆ドーム状等であっても良い。
【0037】
本発明において、天井板(15)の高さは、該天井板(15)が平板状である場合は、前記した断熱壁(6)の上端の高さになる。また、本発明では、天井板(15)が、前記例示したような断熱壁(6)の上端よりも上方に凸する形状である際は、その最高部を天井板の高さとする。さらに、本発明では、天井板(15)が、前記例示したような断熱壁(6)の上端よりも下方に凹む形状である際は、その最下部の高さを天井板の高さとする。これら平板状にない天井板の高さも、該平板状の天井板の高さと同様に、前記断熱壁(6)の上端の高さで説明した高さ、即ち、坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の50〜300%高い箇所に位置させるのが効果的である。
【0038】
なお、天井板(15)の厚みは、特に制限されるものではないが、0.3〜3cm、好ましくは0.5〜1.5cmであるのが一般的である。
【0039】
本発明において天井板(15)には、前記単結晶引き上げ棒(9)の挿入孔(14)の他、チャンバー上部に設けらる覗き窓からの視界を確保するための観察孔や原料融液(10)の表面に浮遊する固形不純物を掬い取るための機構を進入させるための作業用孔等を適宜に穿孔しても良い。本発明では、これらの天井板(15)に形成する穿孔の総開口面積を調整することによっても、単結晶引き上げ室(16)からの放熱性を制御することができ、単結晶引き上げ域(12)の上方に向かっての温度の低下勾配を、フッ化バリウムの単結晶体の引き上げに適度なものに制御することができる。しかしながら、天井板(15)の放熱性能を前記値に制御することなく、こうした穿孔の総開口面積の調整だけで温度勾配を制御すると、歪の発生を高度に防止することはできず好ましくない。
【0040】
これら穿孔の総開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の5〜60%、特に好ましくは8〜40%であるのが好適である。
【0041】
さらに、上記構造の単結晶引き上げ装置を用いて、本発明のアズグロウン単結晶体を製造する場合においては、溶融ヒーター(5)と坩堝(4)の外端との間に、隔離壁(17)を周設し、且つ該隔離壁(17)の上端を、溶融ヒーター(5)の上端よりも高くし、その上端と断熱壁(6)とにかけて、隔離壁(17)と断熱壁(6)との間隙を閉塞するリッド材(18)を横架させるのが、極めて効果的である。
【0042】
ここで、隔離壁(17)は、溶融ヒーター(5)よりの輻射熱を均一化して坩堝(4)を加熱するのに効果を発揮し、リッド材(18)は、溶融ヒーター(5)の熱が上方に逃失するのが防止する効果を発揮する。歪のより少ない単結晶体を製造するには、原料融液の液面付近の温度の均一性を一層に高め、且つこの原料融液の液面付近での単結晶の育成はより緩やかに冷却を行うことが有効であるが、上記構造はその実現に極めて効果的である。
【0043】
リッド材(18)の高さは、坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の2〜50%高い箇所、特に、3〜20%高い箇所であるのが好適である。
【0044】
また、隔離壁(17)及びリッド材(18)の材質は、グラファイト等が好ましい。
【0045】
溶融ヒーター(5)は、特に制限されるものではないが、抵抗加熱ヒーターであるのが好ましい。誘導加熱ヒーターの場合、炉内の温度分布が急峻になり易く、高品質の単結晶体を得る上では、上記抵抗過熱ヒーターが有利である。
【0046】
なお、単結晶引き上げ装置において、単結晶引き上げ棒(9)、支持軸(2)及び除き窓等は、Oリングや磁性流体シールなどで気密化することが好ましい。原料フッ化バリウムの溶融工程や単結晶の育成工程において、これらの部分からリークが発生すると、単結晶体の着色や透明度の低下などの品質の著しい低下をもたらすおそれがある。
【0047】
坩堝(4)に投入した原料フッ化バリウムは、溶融させるに先立って減圧下で加熱処理を施して吸着水分を除去するのが好ましく、そのための装置を真空引きするための真空ポンプは、公知のものを用いることができるが、ロータリーポンプと油拡散ポンプ、あるいはロータリーポンプと分子ポンプの組合せが好ましい。
【0048】
本発明の単結晶体を製造する上で使用する、最も好ましい単結晶引き上げ装置は、断熱壁(6)が厚み方向の放熱能力が3〜15W/m2・Kであり、天井板(15)が厚み方向の放熱能力が2000〜20000W/m2・Kであり、天井板に形成される穿孔の総開口面積が断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の8〜40%であり、天井板(15)の高さが坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の100〜200%高い位置であり、隔離壁(17)とリッド材(18)が設けられており、該リッド材(18)の高さが坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の3〜20%高い位置であり、且つ断熱壁(6)と坩堝(4)の外端との間隔が坩堝(4)の最大内径の30〜60%の距離であるものが最も好ましい。
【0049】
上記構造の単結晶引き上げ装置を用いて、本発明の単結晶体を製造するためには、3mm/時間以下、好ましくは0.5〜2.5mm/時間の結晶引き上げ速度で、単結晶を育成することが重要である。この結晶引き上げ速度が3mm/時間を超える場合、得られる単結晶体の複屈折を十分に小さくすることが困難になる。
【0050】
その他の引き上げ法の具体的操作方法は、一般的な単結晶引き上げ装置を用いて実施されている公知の方法が制限なく採用できる。坩堝に投入する原料フッ化バリウムは、十分に精製処理、特に水分除去処理を施したものを使用するのが好ましい。かかる原料フッ化物の溶融および単結晶の育成は、不活性ガスの雰囲気下又は真空下で行うことができる。
【0051】
単結晶体の引き上げは、原料フッ化バリウムの坩堝底部の測定温度において1300〜1400℃の温度で実施するのが好ましく、該温度への昇温速度は50〜500℃/Hrであるのが好ましい。
【0052】
上記引き上げ法の実施は、残留する水分の影響をなくすため、スカベンジャーの存在下で実施するのが好ましい。スカベンジャーとしては、原料フッ化バリウムと共に仕込まれる、フッ化亜鉛、フッ化鉛、ポリ四フッ化エチレン等の固体スカベンジャーや、チャンバー内に雰囲気として導入される、四フッ化炭素等の気体スカベンジャーが使用される。固体スカベンジャーを使用するのが好ましく、その使用量は、原料フッ化バリウム100重量部に対して0.005〜5重量部が好適である。
【0053】
引き上げ法に用いる種結晶は、フッ化バリウムの単結晶体であり、種結晶体の育成面は任意に選択することができるが、(111)面を好適に用いることができる。(111)面以外を用いた場合、得られた単結晶の複屈折が大きくなる場合がある。単結晶の育成中において、これら種結晶は、引き上げ軸を中心として回転させることが好ましく、回転速度は2〜20回/分であることが好ましい。また、上記種結晶の回転に併せて坩堝も、上記種結晶の回転方向と反対方向に同様の回転速度で回転させてもよい。単結晶引き上げ後の常温までの降温速度は、0.1〜3℃/分が好ましい。
【0054】
以上により得られたフッ化カリウムのアズグロウン単結晶体は、切断、研磨し、光学部材等として所望の形状に加工すればよい。また、この単結晶体は、前記したとおり複屈折が極めて小さいものであるが、この値をさらに低減させることが望まれる場合は、820〜1220℃下で1〜48時間程度のアニール処理してもよい。
【0055】
【実施例】
以下に本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
実施例1
図1に示される単結晶引き上げ装置を用いて、フッ化バリウム単結晶体の製造を行った。
【0056】
チャンバー (1)内に設置された高純度グラファイト製の坩堝(4)は、内直径38cm(外直径40cm)であり、高さ30cmのものであった。断熱壁(6)は、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力は9W/m2・Kのものであった。他方、天井板(15)は、グラファイト製であり、厚み方向の放熱能力は5000W/m2・Kのものであった。また、この天井板には、図示される単結晶引き上げ棒(9)の挿入孔(直径14cm)(14)の他、覗き窓(19)からの視界を確保するための観察孔が穿孔されており、これらの総開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の13%であった。
【0057】
さらに、上記天井板(15)の高さは、坩堝(4)の上端よりも坩堝の最大内径の160%高い(61cm)位置であり、リッド材(18)の高さは、坩堝(4)の上端よりも、該坩堝(4)の上端から天井板(15)までの距離の10%高い(6cm)位置であった。なお、断熱壁(6)と坩堝(4)の外端との間隔は、9cm(坩堝(4)の最大内径の25%)であった。
【0058】
チャンバー (1)内に設置した坩堝(4)内に、十分な精製処理及び水分除去処理を施した高純度の原料フッ化バリウム塊76kgと、スカベンジャーとして0.1質量%の高純度フッ化亜鉛を投入し、チャンバー内を真空引きした。次いで、溶融ヒーター(5)に通電し原料の過熱を開始し、約50℃/時間で250℃まで昇温し、この温度に2時間保持した。上記保持後、再び昇温を開始し、約100℃/時間で600℃に達した時点で、真空排気ラインを遮断し、高純度アルゴンをチャンバー(1)内に供給し、内圧を106.4KPaに保った。
【0059】
原料が完全に溶融した1400℃で40分間保持した後、ヒータ出力を低下させて1360℃で120分間保持した後、前記引き上げ棒(9)を垂下させて、種結晶体(7)の下端面を原料融液(10)の表面に接触させ、単結晶の育成を開始した。種結晶体(7)は、5回/分で回転させ、他方、坩堝(4)も、これと逆方向に1回/分で回転させた状態で、2mm/時間にて100時間引き上げを行ったところ、順調に単結晶の育成が行えた。育成終了後、常温まで0.9℃/分で降温した。
【0060】
以上により、直胴部の最大直径28cm、重量41kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは10cmであった。
【0061】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を以下の手法により測定した。まず、単結晶体のショルダー部とテール部をバンドソーにより切断し、直胴部からなる円柱体を得、その上下面を鏡面研磨し被測定体とした。この被測定体において、上下面において、外周縁より1cm内側に描かれる内周円に内接する正方形(1辺の長さ約18cm)内を測定対象区画とし、この区画内に縦横1mmの間隔で格子状に測定点を選定し、それぞれの測定点で複屈折を複屈折測定装置(溝尻光学工業所製ELP−150ART型、測定波長 632.8nm)を用いて測定した。得られた各部分の複屈折の値を平均して、上記アズグロウン単結晶体の複屈折として求めたところ1.467nm/cmであった。
【0062】
実施例2
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、タングステン製であり、厚み方向の放熱能力が20000W/m2・Kのものを用いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径25cm、重量29.5kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は8cmであった。
【0063】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様に測定したところ0.734nm/cmであった。
【0064】
実施例3
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、リッド材(18)を設けなかった以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径23cm、重量26.4kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は9cmであった。
【0065】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様にして測定したところ2.242nm/cmであった。
【0066】
実施例4
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、タングステン製であり、厚み方向の放熱能力が20000W/m2・Kのものを用いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径21cm、重量23.1kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は10cmであった。
【0067】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を実施例1と同様に測定したところ1.199nm/cmであった。
【0068】
比較例1
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)を除いた以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径21cm、重量16.3kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは6cmであった。
【0069】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を測定したところ3.616nm/cmであった。
【0070】
比較例2
実施例1で用いた図1の単結晶引き上げ装置において、天井板(15)として、ピッチ系グラファイト成型断熱材であり、厚み方向の放熱能力が15W/m2・Kのものを用い、該天井板に直径30cmの単結晶引き上げ棒の挿入孔のみを穿孔した(開口面積は、断熱壁(6)の環囲体の上端開口面積の30%)以外は、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径22cm、重量15.2kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部の長さは6cmであった。
【0071】
このアズグロウン単結晶体の複屈折を測定したところ5.128nm/cmであった。
【0072】
比較例3
単結晶引き上げ装置として、実施例1で用いた図1の装置において、坩堝内直径を9cmとし、天井板(15)を除き、その他のサイズを比例で小さくしたものを用いた。
【0073】
かかる単結晶引き上げ装置に原料フッ化バリウム塊を1.4Kgを投入した以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、直胴部の最大直径6cm、重量0.6kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶体の直胴部は4cmであった。
【0074】
このアズグロウン単結晶体の実施例1と同様にして複屈折を測定したところ2.887nm/cmであった。
【0075】
比較例4
実施例1において、単結晶の引き上げを10mm/時間の速度にて時間行った以外、実施例1と同様に実施してフッ化バリウム単結晶体の引き上げを行い、最大直径22cm、重量15.2kgのフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造した。このアズグロウン単結晶の直胴部は6cmであった。
【0076】
このアズグロウン単結晶体の実施例1と同様にして複屈折を測定したところ6.195nm/cmであった。
【0077】
【発明の効果】
本発明のフッ化バリウム単結晶体は、大口径であり、且つアズグロウン状態でありながら、内部歪が少なく複屈折が小さい。したがって、長時間のアニール処理を施さなくても、高品質かつ均一性の高い点で有利な性状を有する大型の光学材料が切り出せる。また、結晶内の歪みが著しく小さいため、単結晶体を切断、研磨等の加工する際に、クラックの発生がほんとんどなく歩留まりの高い加工が可能となる。
【0078】
したがって、本発明のフッ化バリウム単結晶体は、レンズ、プリズム、ハーフミラー、窓材などの光学部材として有用であり、特に、紫外および真空紫外で使用されるこれら光学部材、最も好適には、次世代リソグラフィー技術の光源として有望視されているF2レーザー光用の硝材として極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【図1】図1は、本発明のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体を製造するのに好適な単結晶引き上げ装置の概略図である。
【符号の説明】
1;チャンバー
2;支持軸
3;受け台
4;坩堝
5;溶融ヒーター
6;断熱壁
7;種結晶体
8;保持具
9;単結晶引き上げ棒
10;原料融液
11;フッ化金属単結晶体
12;単結晶引き上げ域
13;上端開口部
14;単結晶引き上げ棒の挿入孔
15;天井板
16;単結晶引き上げ室
17;隔離壁
18;リッド材
19;覗き窓
Claims (2)
- 単結晶引き上げ法によって製造され、直胴部の直径が17cm以上であり、且つ複屈折が3nm/cm以下であることを特徴とするフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体。
- 直胴部が5cm以上の長さを有する請求項1記載のフッ化バリウムのアズグロウン単結晶体。
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