以下では、本発明の作用・効果をより明確に説明するために、本発明の実施の形態を、次のような順序に従って説明する。
A.実施例の概要:
B−1.印刷装置のハードウェア構成:
B−2.ハードウェア構成に起因する双方向印刷におけるドット形成位置ズレ:
C.画像印刷処理の概要:
D.ドットの位置ずれによる画質の悪化を抑制する原理:
E.ディザマトリックスの生成方法:
F.変形例:
A.実施例の概要 :
実施例の詳細な説明に入る前に、図1を参照しながら、実施例の概要について説明しておく。図1は、本実施例の印刷装置としての印刷システムの概要を示した説明図である。図示されているように、印刷システムは、画像処理装置としてのコンピュータ10と、コンピュータ10の制御の下で実際に画像を印刷するプリンタ20などから構成されており、全体が一体となって印刷装置として機能する。
コンピュータ10には、ドット形成有無決定モジュールとディザマトリックスとが設けられており、ドット形成有無決定モジュールは、印刷しようとする画像の画像データを受け取ると、ディザマトリックスを参照しながら、画素毎にドット形成の有無を表したデータ(ドットデータ)を生成し、得られたドットデータをプリンタ20に向かって出力する。
プリンタ20には、印刷媒体上を往復動しながらドットを形成するドット形成ヘッド21と、該ドット形成ヘッド21におけるドットの形成を制御するドット形成モジュールとが設けられている。ドット形成モジュールは、コンピュータ10から出力されたドットデータを受け取ると、ドット形成ヘッド21が往復動する動きに合わせてドットデータをヘッドに供給する。その結果、印刷媒体上で往復動するドット形成ヘッド21が適切なタイミングで駆動され、印刷媒体上の適切な位置にドットが形成されて、画像が印刷されることになる。
また、本実施例の印刷装置では、ドット形成ヘッド21の往動時だけでなく、復動時にもドットを形成する、いわゆる双方向印刷を行うことによって、画像の迅速な印刷を可能としている。もっとも、双方向印刷を行う場合、往動時に形成されるドットと、復動時に形成されるドットとで、ドットの形成位置にずれると画質が悪化してしまう。そこで、このようなプリンタには、往復動の一方のドット形成タイミングを他方のタイミングに対して高い精度で調整するための、特別な機構あるいは制御が搭載されていることが通常であり、このことが、プリンタの大型化あるいは複雑化を招く要因の一つとなっている。
こうした点に鑑みて、図1に示した本実施例の印刷装置では、画像データからドットデータを生成する際に参照するディザマトリックスとして、少なくとも次の2つの特性を有するマトリックスを使用する。すなわち、第1の特性としては、ディザマトリックスの画素位置を、第1の画素位置のグループと、第2の画素位置のグループとに分類することが可能なマトリックスである。ここで、第1の画素位置および第2の画素位置とは、一方が、往動時または復動時の何れかでドットが形成されるとき、他方では、それ以外でドットが形成されるような関係にある画素位置をいう。そして、第2の特性としては、ディザマトリックスと、該ディザマトリックスから第1の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス(第1の画素位置のマトリックス)と、第2の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス(第2の画素位置のマトリックス)とが、何れもブルーノイズ特性を有するマトリックスである。なお、本実施例では、第1の画素位置のグループと第2の画素位置のグループとは、それぞれ特許請求の範囲における「第1の画素グループ」と「第2の画素グループ」とに相当する。
ここで、詳細には後述するが、本願の発明者によって、次のような新たな知見が見出された。すなわち、往動時と復動時とでドットの形成位置がずれた画像の画質は、往動時に形成されるドットのみによる画像(元の画像から復動時に形成したドットのみを削除して得られる画像。以下では、「往動時の画像」と呼ぶ。)の画質、あるいは復動時に形成されるドットのみによる画像(元の画像から往動時に形成したドットのみを削除して得られる画像。以下では「復動時の画像」と呼ぶ。)の画質と、極めて強い相関がある。そして、往動時の画像の画質、あるいは復動時の画像の画質を改善しておけば、双方向印刷の往動時と復動時とでドットの形成位置がずれた場合でも、画質の悪化を抑制することが可能である。従って、ディザマトリックスが上記の特性、すなわち、第1の画素位置のマトリックスと第2の画素位置のマトリックスとに分類することが可能であり、かつ、これら3つのマトリックスが何れもブルーノイズ特性を有するようなディザマトリックスを用いてドットデータを生成しておけば、往動時の画像も復動時の画像も良好な画質の画像とすることができるので、双方向印刷時にドットの形成位置がずれた場合でも画質の悪化を最小限に抑制することが可能となる。その結果、往復動の一方のドット形成タイミングを他方のタイミングに対して調整するに際して、高い精度が要求されることがないので、調整のための機構や制御を簡素なものとすることができ、延いては、プリンタが大型化あるいは複雑化することを回避することが可能となる。以下では、このような実施例について詳しく説明する。
B−1.印刷装置のハードウェア構成:
図2は、本実施例の画像処理装置としてのコンピュータ100の構成を示す説明図である。コンピュータ100は、CPU102を中心に、ROM104やRAM106などを、バス116で互いに接続することによって構成された周知のコンピュータである。
コンピュータ100には、フレキシブルディスク124やコンパクトディスク126等のデータを読み込むためのディスクコントローラDDC109や、周辺機器とデータの授受を行うための周辺機器インターフェースPIF108、CRT114を駆動するためのビデオインターフェースVIF112等が接続されている。PIF108には、後述するカラープリンタ200や、ハードディスク118等が接続されている。また、デジタルカメラ120やカラースキャナ122等をPIF108に接続すれば、デジタルカメラ120やカラースキャナ122で取り込んだ画像に対して画像処理を施すことも可能である。また、ネットワークインターフェースカードNIC110を装着すれば、コンピュータ100を通信回線300に接続して、通信回線に接続された記憶装置310に記憶されているデータを取得することもできる。コンピュータ100は、印刷しようとする画像の画像データを取得すると、後述する所定の画像処理を行うことにより、画像データを、画素毎にドット形成の有無を表したデータ(ドットデータ)に変換して、カラープリンタ200に出力する。
図3は、本実施例のカラープリンタ200の概略構成を示す説明図である。カラープリンタ200はシアン,マゼンタ,イエロ,ブラックの4色インクのドットを形成可能なインクジェットプリンタである。もちろん、これら4色のインクに加えて、染料または顔料濃度の低いシアン(淡シアン)インクと、染料または顔料濃度の低いマゼンタ(淡マゼンタ)インクとを含めた合計6色のインクドットを形成可能なインクジェットプリンタを用いることもできる。尚、以下では場合によって、シアンインク,マゼンタインク,イエロインク,ブラックインク,淡シアンインク,淡マゼンタインクのそれぞれを、Cインク,Mインク,Yインク,Kインク,LCインク,LMインクと略称することがあるものとする。
カラープリンタ200は、図示するように、キャリッジ240に搭載された印字ヘッド241を駆動してインクの吐出およびドット形成を行う機構と、このキャリッジ240をキャリッジモータ230によってプラテン236の軸方向に往復動させる機構と、紙送りモータ235によって印刷用紙Pを搬送する機構と、ドットの形成やキャリッジ240の移動および印刷用紙の搬送を制御する制御回路260などから構成されている。
キャリッジ240には、Kインクを収納するインクカートリッジ242と、Cインク,Mインク,Yインクの各種インクを収納するインクカートリッジ243とが装着されている。インクカートリッジ242,243をキャリッジ240に装着すると、カートリッジ内の各インクは図示しない導入管を通じて、印字ヘッド241の下面に設けられた各色のインク吐出用ヘッドK、C、LC、M、LM、Y(後述)に供給される。
図4は、印字ヘッド241の内部の概略構成を示す説明図である。インク用カートリッジ242,243がキャリッジ240に装着されると、インク用カートリッジ内のインクが導入管67を介して吸い出され、キャリッジ240下部に設けられた印字ヘッド241の各ノズルNzに導かれる。
図5は、ピエゾ素子PEによるノズルNzの駆動原理を示す説明図である。ピエゾ素子PEは、ノズルNzまでインクを導くインク通路68に接する位置に設置されている。本実施例では、ピエゾ素子PEの両端に設けられた電極間に所定時間幅の電圧を印加することにより、ピエゾ素子PEが急速に伸張し、インク通路68の一側壁を変形させる。この結果、インク通路68の体積は、ピエゾ素子PEの伸張に応じて収縮し、この収縮分に相当するインクが、粒子Ipとなって、ノズルNzの先端から高速に吐出される。このインク粒子Ipがプラテン236に装着された用紙Pに染み込むことにより、印刷が行なわれることになる。
図6は、印字ヘッド241に設けられた複数列のノズルと複数のアクチュエータチップとの対応関係を示す説明図である。このプリンタ20は、ブラック(K)、濃シアン(C)、淡シアン(LC)、濃マゼンタ(M)、淡マゼンタ(LC)、イエロー(Y)の6色のインクを用いて印刷を行う印刷装置であり、各インク用のノズル列をそれぞれ備えている。なお、濃シアンと淡シアンとは、ほぼ同じ色相を有し、濃度が異なるシアンインクである。濃マゼンタインクと淡マゼンタインクも同様である。
アクチュエータ回路90には、ブラックノズル列Kと濃シアンノズル列Cを駆動する第1のアクチュエータチップ91と、淡シアンノズル列LCと濃マゼンタノズル列Mを駆動する第2のアクチュエータチップ92と、淡マゼンタノズル列LMとイエローノズル列Yを駆動する第3のアクチュエータチップ93とが設けられている。
図7は、アクチュエータ回路90の分解斜視図である。3つのアクチュエータチップ91〜93は、ノズルプレート110とリザーバプレート112の積層体の上に接着剤で接着されている。また、アクチュエータチップ91〜93の上には、接続端子プレート120が固定される。接続端子プレート120の一端には、外部回路(具体的には図2のI/F専用回路50)との電気的接続のための外部接続端子124が形成されている。また、接続端子プレート120の下面には、アクチュエータチップ91〜93との電気的接続のための内部接続端子122が設けられている。さらに、接続端子プレート120の上には、ドライバIC126が設けられている。ドライバIC126内には、コンピュータ88から与えられた印刷信号をラッチする回路や、その印刷信号に応じて駆動信号をオン/オフするアナログスイッチなどが設けられている。なお、ドライバIC126と接続端子122,124との間の配線は図示が省略されている。
図8は、アクチュエータ回路90の部分断面図である。ここでは、第1のアクチュエータチップ91と、その上部の接続端子プレート120の断面のみを示しているが、他のアクチュエータチップ92,93も第1のアクチュエータチップ91と同じ構造を有している。
ノズルプレート110には、各インク用のノズル口が形成されている。リザーバプレート112は、インクの貯蔵部(リザーバ)を形成するための板状体である。アクチュエータチップ91は、インク通路68(図5)を形成するセラミック焼結体130と、その上方に壁面を介して配置されたピエゾ素子PEと、端子電極132とを有している。接続端子プレート120がアクチュエータチップ91の上に固定されると、接続端子プレート120の下面に設けられた接続端子122と、アクチュエータチップ91の上面に設けられている端子電極132とが電気的に接続される。なお、端子電極132とピエゾ素子PEとの間の配線は図示が省略されている。
B−2.ハードウェア構成に起因する双方向印刷におけるドット形成位置ズレ:
上述のハードウェア構成に代表される印刷装置は、双方向印刷時においてドット形成位置のズレが発生する。このようなドット形成位置のズレは、以下に説明するように第1にノズル列間で、第2に相互にサイズが相違するドット間で発生する。
図9は、異なるノズル列(インク色)に関する双方向印刷時の位置ズレを示す説明図である。ノズルNzは、印刷用紙Pの上方において双方向に水平に移動しており、往路と復路においてそれぞれインクを吐出することによって印刷用紙P上にドットを形成する。ここでは、ブラックインクKが吐出される場合と、シアンインクCが吐出される場合とを重ねて図示している。ブラックインクKは、鉛直下方に向けて吐出速度VK で吐出されるものと仮定し、一方、シアンインクCはブラックインクよりも低い吐出速度VC で吐出されるものと仮定している。各インクの合成速度ベクトルCVK ,CVC は、下方への吐出速度ベクトルと、ノズルNzの主走査速度ベクトルVsとを合成したものとなる。ブラックインクKとシアンインクCでは、下方への吐出速度VK ,VC が異なるので、その合成速度CVK ,CVC の大きさや方向が互いに異なる。
この例では、説明を分かりやすくするために、ブラックドットに関して双方向印刷の位置ズレがゼロになるように補正されている。しかし、シアンインクCの合成速度ベクトルCVC はブラックインクKの合成速度ベクトルCVK とは異なるので、ブラックインクKと同じタイミングでシアンインクCを吐出すると、シアンドットの記録位置に関しては印刷用紙P上で大きなズレが生じてしまう。また、往路におけるブラックドットとシアンドットの相対的な位置関係(左右の関係)は、復路における位置関係とは逆転していることが解る。このような差は、位置ズレ補正の最適値に反映されることになるため、位置ズレ補正の最適値がモノクロ印刷とカラー印刷とで相違することになる。すなわち、モノクロ印刷では、ブラックインクについてのみ最適化を行い、カラー印刷では、LC、LM、C、M、Y、Kについて最適化された補正値が位置ズレ補正の最適値となる。
図10は、図9に示されている記録位置のズレを平面的に示す説明図である。ここでは、ブラックインクKとシアンインクCとを用いて、副走査方向に沿った縦罫線が往路と復路でそれぞれ記録された場合が示されている。ブラックインクを用いて往路で記録された縦罫線は、主走査方向の位置が復路で記録された縦罫線と一致している。一方、シアンインクを用いて往路で記録された縦罫線はブラックの縦罫線よりも右側に記録され、復路で記録された縦罫線はブラックの縦罫線よりも左側に記録されている。
このように、ブラックノズル列に関してのみ往路と復路の記録位置のズレを補正したときには、他のノズル列に関しては記録位置のズレが生じることになる。
各ノズル列から吐出されるインク滴の吐出速度は、以下のような種々の要因に依存して変化する。
(1)アクチュエータチップの製造誤差。
(2)インクの物理的性質(例えば粘度)。
(3)インク滴の重量。
インク滴の吐出速度の主要な要因がアクチュエータチップの製造誤差である場合には、同じアクチュエータチップから吐出されるインク滴の吐出速度はほぼ同じである。従って、この場合には、異なるアクチュエータチップで駆動されるノズル列のグループ毎に、主走査方向における記録位置のズレを補正することが必要とされていた。一方、インクの物理的性質やインク滴の重量もその吐出速度に大きな影響がある場合には、インク毎に、あるいは、ノズル列毎に、主走査方向におけるドットの記録位置のズレを補正することが必要とされていた。
第2に、相互にサイズが相違するドット間におけるドット形成位置のズレは、以下の要因で発生する。本実施例のプリンタ200は、図6に示した通り一定の径からなるノズルNzを備えているが、このようなノズルNzを用いて径の異なる3種類のドットを形成することができる。
図11は、インクが吐出される際のノズルNzの駆動波形と吐出されるインクIpとの関係を示した説明図である。図11において破線で示した駆動波形が通常のドットを吐出する際の波形である。区間d2において一旦、マイナスの電圧をピエゾ素子PEに印加すると、先に図5を用いて説明したのとは逆にインク通路68の断面積を増大する方向にピエゾ素子PEが変形する。導入管67(図4)からのインクの供給速度には限界があるため、インク通路68の拡大に対してインクの供給量が不足する。この結果、図11の状態Aに示した通り、メニスカスと呼ばれるインク界面Meは、ノズルNzの内側にへこんだ状態となる。一方、図11の実線で示す駆動波形を用い、区間d2に示すようにマイナス電圧を急激に印加すると、インクの供給量はさらに不足した状態となる。従って、状態aで示す通りメニスカスは状態Aに比べて大きく内側にへこんだ状態となる。次に、ピエゾ素子PEへの印加電圧を正にすると(区間d3)、先に図5を用いて説明した原理に基づいてインクが吐出される。このとき、メニスカスがあまり内側にへこんでいない状態(状態A)からは状態Bおよび状態Cに示すごとく大きなインク滴が吐出され、メニスカスが大きく内側にへこんだ状態(状態a)からは状態bおよび状態cに示すごとく小さなインク滴が吐出される。
以上に示した通り、駆動電圧を負にする際(区間d1,d2)の変化率に応じて、ドット径を変化させることができる。本実施例では、駆動波形とドット径との間のこのような関係に基づいて、ドット径の小さい小ドットIP1を形成するための駆動波形と、2番目のドット径の中ドットIP2を形成するための駆動波形の2種類を用意している。図12に本実施例において用いている駆動波形を示す。駆動波形W1が小ドットIP1を形成するための波形であり、駆動波形W2が中ドットIP2を形成するための波形である。これらの駆動波形を使い分けることにより、一定のノズル径からなるノズルNzからドット径が小中の2種類のドットを形成することができる。本実施例のプリンタ200では、これらの駆動波形をキャリッジ240の移動とともにW1,W2の順で連続的かつ周期的に出力している。
また、図12の駆動波形W1、W2の双方を使ってドットを形成することにより、大ドットを形成することができる。この様子を図12の下段に示した。図12下段の図は、ノズルから吐出された小ドットおよび中ドットのインク滴IPs、IPmが吐出されてから用紙Pに至るまでの様子を示している。小中2種類のドットを形成する場合、図11で示したメニスカスの様子から明らかな通り、小ドットを形成する時よりも中ドットを形成する時の方がインク通路68に供給されているインク量が多い。従って、小ドットのインク滴IPsよりも中ドットのインク滴IPmの方が勢いよく吐出される。このようなインクの飛翔速度差があるため、キャリッジ240が主走査方向に移動しながら、小ドットと中ドットを連続してする場合、キャリッジ240の走査速度および両ドットの吐出タイミングをキャリッジ240と用紙Pの間の距離に応じて調整すれば、両インク滴をほぼ同じタイミングで用紙Pに到達させることができる。本実施例では、このようにして図12上段の2種類の駆動波形から最もドット径が最も大きい大ドットを形成しているのである。
図13は、双方向印刷における大中小の各ドットの形成位置のズレを示す説明図である。図13の例は、説明を分かりやすくするために大ドットを標定ドット(調整の対象となるドット)としてドット形成位置が調整された例である。この図から解るように、双方向印刷では、インク滴の主走査方向の着弾位置は、往路と復路とでそれぞれ異なってしまう。すなわち、小ドットを記録するための比較的少量のインク滴は、往路では画素領域の左半分に着弾し、復路では画素領域の右半分に着弾する。これと反対に、中ドットを記録するための比較的多量のインク滴は、往路では画素領域の右半分に着弾し、復路では画素領域の左半分に着弾する。
このように、印刷装置においては、ハードウェアの構成上の理由によって、ドットのサイズやノズル列といったドット種毎にドットの形成位置のズレが発生することが分かる。このため、ドット種毎にドットの形成位置を調整することが従来から望まれている。ところが、ドット種毎に調整するためには、たとえばノズル列間毎の吐出タイミングの調整や駆動波形W1、W2の各々のタイミングの調整といった過度に多くのパラメータに基づく細かな調整が必要となるので、現実的ではない。このため、従来は、特に画質劣化に影響の大きなドットのみを標定ドット(調整の対象となるドット)として調整する技術や印刷モード毎に標定ドットを変更する技術が提案されている。
図14は、各印刷モードにおける双方向印刷時の位置ズレ補正の標定ドットを示す説明図である。この表では、従来の方法として比較例の標定ドットと本発明の実施例の標定ドットとについて示されている。この図では、印刷モードを表すパラメータとして、モノクロ印刷/カラー印刷および印刷媒体といった印刷パラメータが例示されている。たとえば比較例については、モノクロ印刷/カラー印刷においては、モノクロ印刷では、ブラックインクのみが標定ドットとなる。一方、カラー印刷では、ブラックインクと特定のカラーインクの双方が標定ドットとなる。さらに、印刷媒体においては、普通紙では、大ドットが標定となっているのに対して、写真専用紙では、中ドットが標定となっている。なお、標定ドットは、特許請求の範囲における「特定ドット」に相当する。
印刷媒体に関する標定ドットの選択は、以下のような理由によるものである。すなわち、印刷媒体が普通紙の場合には、一般にテキスト中心の文書の印刷が行われるため、テキストや罫線の輪郭がきれいに印刷されるように、テキストや罫線を形成する大ドットを標定としたものである。一方、すなわち、印刷媒体が写真専用紙の場合には、一般に写真が印刷されるため、写真を形成する中ドットや小ドットのうちズレが画質の劣化を招きやすい中ドットを標定としたものである。さらに、シアンインクやマゼンタインクよりも淡シアンインクや淡マゼンタインクの方がドットの形成位置のズレによって画質が劣化しやすいことを考慮して、淡シアンインクと淡マゼンタインクとを標定インクとしたものである。なお、イエローインクは、ドットが目立たないため標定とはなっていない。
しかしながら、このような技術では、たとえば同一主走査の位置に写真とテキストが混在するような場合には、双方をきれいに印刷することができなかった。本実施例は、このような課題に対して、後述するような主走査に起因するドットの形成位置のズレに対してロバスト性の高いハーフトーン技術とドット形成位置の調整技術とを有機的に組み合わせることによって、テキストや線画といった2値画像と写真その他の中間調画像の双方をトレードオフの対象とすることなく、高画質を実現させている。
図14の実施例の標定ドットを見ると、モノクロ印刷では、普通紙においても写真専用紙においても、ブラックインクの大ドットのみが標定となっている。この理由は、写真印刷では、ドットの形成位置のズレに対してロバスト性の高いハーフトーンによってドットの形成位置が決定されるので、写真印刷画像を形成する小ドットのドットについてのドットの形成位置のズレは問題とならないからである。一方、テキストや線画のような2値画像については、このようなハーフトーン処理が実質的には行われないが、テキストや線画を形成する大ドットについてドット形成位置が最適化されているので、最高画質を実現することができるからである。ハーフトーン処理が実質的には行われないとは、テキストや線画といった2値画像(後述のカラー画像を含む)については、階調値の最大値の画素では必ずドットが形成され、階調値の最小値の画素では必ずドットが形成されないので、実質的にハーフトーン処理が行われないことになるからである。
一方、カラー印刷では、普通紙においても写真専用紙においても、シアンインク、マゼンタインク、ブラックインクの大ドットのみが標定となっている。この理由は、写真印刷については、上述のモノクロ印刷の場合と同様に、ドットの形成位置のズレに対してロバスト性の高いハーフトーンによってドットの形成位置が決定されるからである。一方、テキストや線画のようなカラーの2値画像については、テキストや線画を形成するシアンインク、マゼンタインク、ブラックインクの大ドットについてドット形成位置が最適化されているので、カラーの最高画質を実現することができるからである。
図15および図16は、モノクロ印刷用の調整値が決定される様子を示す説明図である。図15の上部には、調整前のブラックインクの大ドットのみで形成された縦罫線が複数形成されている。図15の下部には、調整後のブラックインクの大ドットのみで形成された縦罫線が複数形成されている。図16は、このような調整を実現する一例を示している。図16に示される複数の縦罫線は、相互に相違する駆動信号のタイミングの補正値(タイミング補正値)が入れてある。この縦罫線の中から、最もズレの小さな番号を選択することによってタイミング補正値が決定され、印刷装置(図3)の図示しない不揮発メモリに格納される。
このようにして格納されたタイミング補正値は、ドットの形成やキャリッジ240の移動および印刷用紙の搬送を制御する制御回路260によって駆動信号のタイミングの決定に利用される。このように、制御回路260は、特許請求の範囲における「主走査方向のドット形成位置の相互のズレを小さくするための調整部」としても機能している。
図17は、カラー印刷用の調整値が決定される様子を示す説明図である。図19に示される縦罫線は、シアンインク、マゼンタインク、ブラックインクの大ドットによって形成されている。この場合も同様に、この縦罫線の中から、最もズレの小さな番号を選択することによってタイミング補正値が決定され、印刷装置の図示しない不揮発メモリに格納される。
このように、本発明の実施例では、テキストや線画といった2値画像を構成する特定ドットについて往動時に形成されるドットと復動時に形成されるドットとの間の主走査方向のドット形成位置のズレを小さくするように構成されているとともに、印刷ヘッドの往動時に形成される往動時ドットと印刷ヘッドの復動時に形成される復動時ドットの形成位置のズレに起因する粒状性の劣化を抑制するようにハーフトーン処理の条件が設定されているので、ハーフトーン技術と双方向印刷におけるドット形成位置の高精度化技術の有機的な組合せによって画質を向上させることができる。このような技術の基となるハーフトーン技術は、以下のようにして実現することができる。
なお、本願発明者は、実験に基づく粒状性の定量分析をも行った。この分析の結果、ハーフトーン処理は、往動時に形成されるドット群と復動時に形成されるドット群のいずれもが印刷媒体上において、人間の視覚感度が最も高い空間周波数の領域である1サイクル毎ミリメートルを中心周波数とした0.5サイクル毎ミリメートルから2サイクル毎ミリメートルまでの所定の低周波の範囲内の成分の平均値が、少なくとも前記主走査の方向において、人間の視覚感度がほぼゼロとなる10サイクル毎ミリメートルの周波数を中心周波数とした5サイクル毎ミリメートルから20サイクル毎ミリメートルまでの範囲の成分の平均値よりも小さくなるような周波数特性を有しているように条件を設定することが好ましいことを見いだした。この条件に従えば、人間の視覚感度の高い領域において粒状性を抑制することができるので、人間の視覚感度に着目した効果的な画質の改善を行うことができるからである。
C.画像印刷処理の概要 :
図18は、印刷しようとする画像にコンピュータ100が所定の画像処理を加えることにより、画像データをドット形成の有無によって表現されたドットデータに変換し、得られたドットデータを制御データとしてカラープリンタ200に供給して、画像を印刷する処理の流れを示すフローチャートである。以下では、フローチャートに従って、本実施例の画像処理について説明する。
コンピュータ100は、画像処理を開始すると、先ず初めに、変換すべき画像データの読み込みを開始する(ステップS100)。ここでは、画像データはRGBカラー画像データであるものとして説明するが、カラー画像データに限らず、モノクロ画像データについても同様に適用することができる。
画像データの読み込みに続いて、解像度変換処理を開始する(ステップS102)。解像度変換処理とは、読み込んだ画像データの解像度を、カラープリンタ200が画像を印刷しようとする解像度(印刷解像度)に変換する処理である。画像データの解像度よりも印刷解像度の方が高い場合は、補間演算を行って画素間に新たな画像データを生成することにより解像度を増加させる。逆に、画像データの解像度の方が印刷解像度よりも高い場合は、読み込んだ画像データを一定の比率で間引くことによって解像度を低下させる。解像度変換処理では、読み込んだ画像データに対して、このような操作を行うことにより、画像データの解像度を印刷解像度に変換する。
こうして画像データの解像度を印刷解像度に変換したら、今度は、色変換処理を行う(ステップS104)。色変換処理とは、R,G,Bの階調値の組合せによって表現されているRGBカラー画像データを、印刷のために使用される各色の階調値の組合せによって表現された画像データに変換する処理である。前述したように、カラープリンタ200はC,M,Y,Kの4色のインクを用いて画像を印刷している。そこで、本実施例の色変換処理ではRGB各色によって表現された画像データを、C,M,Y,Kの各色の階調値によって表現されたデータに変換する処理を行うのである。
色変換処理は、色変換テーブル(LUT)を参照することで、迅速に行うことができる。図19は、色変換処理のために参照されるLUTを概念的に示した説明図である。LUTは、次のように考えれば3次元の数表と考えることができる。先ず、図19に示されているように、直交する3つの軸にR軸、G軸、B軸を取って色空間を考える。すると、全てのRGB画像データは、必ず色空間内の座標点に対応付けて表示することができる。このことから、R軸、G軸、B軸のそれぞれを細分して色空間内に多数の格子点を設定してやれば、それぞれの格子点はRGB画像データを表していると考えることができ、各RGB画像データに対応するC,M,Y,K各色の階調値を、各格子点に対応付けてやることができる。LUTは、こうして色空間内に設けた格子点に、C,M,Y,K各色の階調値を対応付けて記憶した3次元の数表と考えることができる。このような、LUTに記憶されているRGBカラー画像データとC,M,Y,K各色の階調データとの対応関係に基づいて色変換処理を行えば、RGBカラー画像データを、C,M,Y,K各色の階調データに迅速に変換することが可能となる。
こうしてC,M,Y,K各色毎に階調データが得られると、コンピュータ100は、階調数変換処理を開始する(ステップS106)。階調数変換処理とは、次のような処理である。色変換処理によって得られた画像データは、データ長を1バイトとすると、画素毎に、階調値0から階調値255までの値を取り得る階調データである。これに対してプリンタはドットを形成することによって画像を表示しているから、それぞれの画素については「ドットを形成する」か「ドットを形成しない」かのいずれかの状態しか取り得ない。そこで、画素毎の階調値を変化させる代わりに、こうしたプリンタでは、所定領域内で形成されるドットの密度を変化させることによって画像を表現している。階調数変換処理とは、階調データの階調値に応じて適切な密度でドットを発生させるべく、画素毎にドット形成の有無を判断する処理である。
階調値に応じた適切な密度でドットを発生させる手法としては、誤差拡散法やディザ法などの種々の手法が知られているが、本実施例の階調数変換処理では、ディザ法と呼ばれる手法を使用する。本実施例のディザ法は、ディザマトリックスに設定されている閾値と画像データの階調値とを画素毎に比較することによって、画素毎にドット形成の有無を判断する手法である。以下、ディザ法を用いてドット形成の有無を判断する原理について簡単に説明する。
図20は、ディザマトリックスの一部を概念的に例示した説明図である。図示したマトリックスには、横方向(主走査方向)に128画素、縦方向(副走査方向)に64画素、合計8192個の画素に、階調値1〜255の範囲から万遍なく選択された閾値がランダムに記憶されている。ここで、閾値の階調値が1〜255の範囲から選択されているのは、本実施例では、画像データが階調値0〜255の値を取り得る1バイトデータとしていることに加えて、画像データの階調値と閾値とが等しい場合には、その画素にはドットを形成するものと判断していることによるものである。
すなわち、ドットが形成されるのは画像データの階調値が閾値よりも大きい画素に限る(すなわち階調値と閾値が等しい画素にはドットは形成しない)とした場合、画像データの取り得る最大階調値と同じ値の閾値を有する画素には、決してドットが形成されることはない。こうしたことを避けるため、閾値の取り得る範囲は、画像データの取り得る範囲から最大階調値を除いた範囲とする。逆に、画像データの階調値と閾値が等しい画素にもドットを形成するとした場合、画像データの取り得る最小階調値と同じ値の閾値を有する画素には、常にドットが形成されてしまうことになる。こうしたことを避けるため、閾値の取り得る範囲は、画像データの取り得る範囲から最小階調値を除いた範囲とする。本実施例では、画像データの取り得る階調値が0〜255であり、画像データと閾値が等しい画素にはドットを形成するとしていることから、閾値の取り得る範囲を1〜255としておくのである。尚、ディザマトリックスの大きさは、図20に例示したような大きさに限られるものではなく、縦と横の画素数が同じマトリックスも含めて種々の大きさとすることができる。
図21は、ディザマトリックスを参照しながら、各画素についてのドット形成の有無を判断している様子を概念的に示した説明図である。ドット形成の有無を判断するに際しては、先ず、判断しようとする画素を選択し、この画素についての画像データの階調値と、ディザマトリックス中で対応する位置に記憶されている閾値と比較する。図21中に示した細い破線の矢印は、画像データの階調値と、ディザマトリックスに記憶されている閾値とを、画素毎に比較していることを模式的に表したものである。例えば、画像データの左上隅の画素については、画像データの階調値は97であり、ディザマトリックスの閾値は1であるから、この画素にはドットを形成すると判断する。図21中に実線で示した矢印は、この画素にはドットを形成すると判断して、判断結果をメモリに書き込んでいる様子を模式的に表したものである。一方、この画素の右隣の画素については、画像データの階調値は97、ディザマトリックスの閾値は177であり、閾値の方が大きいので、この画素についてはドットを形成しないと判断する。ディザ法では、こうしてディザマトリックスを参照しながら、画素毎にドットを形成するか否かを判断することで、画像データを画素毎にドット形成の有無を表すデータに変換する。このように、ディザ法を用いれば、画像データの階調値とディザマトリックスに設定されている閾値とを比較するという単純な処理で、画素毎のドットの形成有無を判断することができるので、階調数変換処理を迅速に実施することが可能となる。
また、画像データの階調値が決まると、各画素にドットが形成されるか否かは、もっぱらディザマトリックスに設定される閾値によって決まることからも明らかなように、ディザ法では、ディザマトリックスに設定する閾値によって、ドットの発生状況を積極的に制御することが可能である。本実施例の階調数変換処理では、ディザ法のこうした特長を利用して、後述する特別な特性を有するディザマトリックスを用いて画素毎のドット形成の有無を判断することにより、双方向印刷時の往動時に形成されるドットと、復動時に形成されるドットとでドットの形成位置がずれた場合でも、そのことによる画質の悪化を最小限に抑制することを可能としている。画質の悪化を最小限に抑制可能な原理、および、こうしたことを可能とするディザマトリックスが備える特性については、後ほど詳しく説明する。
階調数変換処理を終了して、C,M,Y,K各色の階調データから画素毎にドット形成の有無を表すデータが得られたら、今度は、インターレース処理を開始する(ステップS108)。インターレース処理とは、ドットの形成有無による表現形式に変換された画像データを、ドットが実際に印刷用紙上に形成される順序を考慮しながら、カラープリンタ200に転送する順序に並べ替える処理である。コンピュータ100は、インターレース処理を行って画像データを並べ替えた後、最終的に得られたデータを、制御データとしてカラープリンタ200に出力する(ステップS110)。
カラープリンタ200は、このようにしてコンピュータ100から供給された制御データに従って、印刷用紙上にドットを形成することにより画像を印刷する。すなわち、図3を用いて前述したように、キャリッジモータ230および紙送りモータ235を駆動することによってキャリッジ240の主走査および副走査を行い、これらの動きに合わせて、ドットデータに基づいてヘッド241を駆動してインク滴を吐出する。その結果、適切な位置に適切な色のインクドットが形成されて画像が印刷されることになる。
以上に説明したカラープリンタ200は、キャリッジ240を往復動させながらドットを形成して画像を印刷していることから、キャリッジ240の往動時だけでなく復動時にもドットを形成することとすれば、画像を迅速に印刷することが可能である。もっとも、こうした双方向印刷を行う場合、キャリッジ240の往動時に形成したドットと、復動時に形成したドットとで、ドットの形成位置にずれが生じると画質が悪化してしまう。そこで、こうしたことを回避するために、通常のカラープリンタは、往動時あるいは復動時の少なくとも一方について、ドットを形成するタイミングを精度良く調整することができるようになっている。このため、往動時にドットが形成される位置と復動時にドットが形成される位置とを一致させることができ、双方向印刷を行った場合でも画質を悪化させること無く、高画質な画像を迅速に印刷することが可能となっている。しかし、その一方で、ドットを形成するタイミングを精度良く調整可能とするためには、専用の調整機構や調整用のプログラムが必要となり、カラープリンタが複雑化および大型化してしまう傾向がある。
こうした問題の発生を回避するために、本実施例のコンピュータ100では、往動時と復動時とでドットの形成位置が多少ずれた場合でも、画質への影響を最小限に抑制可能なディザマトリックスを用いてドットの形成有無を判断している。このようなディザマトリックスを参照して画素毎のドット形成有無を判断しておけば、往動時と復動時とでドットの形成位置が多少ずれても画質に大きな影響を与えることがない。このため、ドットの形成位置を高い精度で調整する必要が無く、調整のための機構や制御内容を簡素なものとすることができるので、カラープリンタをいたずらに大型化や複雑化させることを回避することが可能となっている。以下では、こうしたことが可能となる原理について説明し、その後、このようなディザマトリックスを生成するための一つの方法について簡単に説明する。
D.ドットの位置ずれによる画質の悪化を抑制する原理 :
本願発明は、ディザ法を用いて形成した画像について、新たな知見を見出したことが端緒となって完成されたものである。そこで、先ず初めに、本願発明の端緒となった新たに見出された知見について説明する。
図22は、本願発明の端緒となった知見について示した説明図である。図22(a)は、ある階調値の画像を形成するために、所定の密度でドットが形成されている様子を拡大して示している。良好な画質の画像を得るためには、図22(a)に示されているように、ドットが出来るだけ満遍なく分散された状態で形成されている必要がある。
このようにドットを、満遍なく分散された状態で形成するためには、いわゆるブルーノイズ特性を有するディザマトリックスを参照して、ドット形成の有無を判断すればよいことが知られている。ここで、ブルーノイズ特性を有するディザマトリックスとは、次のようなマトリックスを言う。すなわち、ドットを不規則に発生させるとともに、設定されている閾値の空間周波数成分は、1周期が2画素以下の高周波数領域に最も大きな成分を有するディザマトリックスを言う。尚、明るい(明度の高い)画像など、特定の明度付近では規則的なパターンでドットが形成される場合があっても良い。
図23は、ブルーノイズ特性を有するディザマトリックス(以下では、ブルーノイズマトリックスと呼ぶことがあるものとする)の各画素に設定されている閾値の空間周波数特性を概念的に例示した説明図である。尚、図23では、ブルーノイズマトリックスの空間周波数特性に加えて、いわゆるグリーンノイズ特性を有するディザマトリックス(以下では、グリーンノイズマトリックスと呼ぶことがあるものとする)に設定された閾値の空間周波数特性についても併せて表示している。グリーンノイズマトリックスの空間周波数特性については後述することとして、先ずブルーノイズマトリックスの空間周波数特性について説明する。
図23では、表示の都合から、横軸には空間周波数の代わりに周期を取って表示している。言うまでもなく、周期が短くなるほど、空間周波数は高くなる。また、図23の縦軸は、それぞれの周期での空間周波数成分を示している。尚、図示されている周波数成分は、ある程度変化が滑らかとなるように平滑化された状態で示されている。
ブルーノイズマトリックスに設定された閾値の空間周波数成分は、図中では実線によって例示されている。図示されているように、ブルーノイズマトリックスの空間周波数特性は、1周期の長さが2画素以下の高い周波数領域に最も大きな周波数成分を有する特性となっている。ブルーノイズマトリックスの閾値は、このような空間周波数特性を有するように設定されていることから、このような特性を有するマトリックスに基づいてドット形成の有無を判断してやれば、ドットが互いに離れた状態で形成されることになる。
以上のような理由から、ブルーノイズ特性を有するディザマトリックスを参照しながら、各画素についてのドット形成の有無を判断してやれば、図22(a)に例示したように、ドットが万遍なく分散した画像を得ることが可能となる。逆に言えば、図22(a)に示すようにドットを万遍なく分散して発生させるために、ディザマトリックスには、ブルーノイズ特性を有するように調整された閾値が設定されているのである。
尚、ここで、図23に示されたグリーンノイズマトリックスに設定された閾値の空間周波数特性について説明しておく。図23に示された破線の曲線は、グリーンノイズマトリックスの空間周波数特性を例示したものである。図示されているように、グリーンノイズマトリックスの空間周波数特性は、1周期の長さが2画素から十数画素の中間周波数領域に最も大きな周波数成分を有する特性となっている。グリーンノイズマトリックスの閾値は、このような空間周波数特性を有するように設定されていることから、グリーンノイズ特性を有するディザマトリックスを参照しながら各画素のドット形成の有無を判断すると、数ドット単位で隣接してドットが形成されながら、全体としてはドットの固まりが分散した状態で形成されることになる。いわゆるレーザープリンタなどのように、1画素程度の微細なドットを安定して形成することが苦手なプリンタでは、こうしたグリーンノイズマトリックスを参照してドット形成の有無を判断することで、孤立したドットの発生を抑制することができる。その結果、安定した画質の画像を迅速に出力することが可能となる。逆に言えば、レーザープリンタなどでドットの形成有無を判断する際に参照されるディザマトリックスには、グリーンノイズ特性を有するように調整された閾値が設定されている。
以上に説明したように、カラープリンタ200のようなインクジェットプリンタでは、ブルーノイズ特性を有するディザマトリックスが用いられており、従って、得られる画像は図22(a)に示すように、ドットが万遍なく分散した画像となっている。しかし、この画像を、ヘッドの往動時に形成されたドットと、復動時に形成されたドットとに分解してみたところ、往動時に形成されたドットのみによる画像(往動時の画像)、および、復動時に形成されたドットのみによる画像(復動時の画像)は、必ずしもドットが万遍なく分散しているわけではないことが見出された。図22(b)は、図22(a)に示した画像から、往動時に形成されたドットのみを抜き出して得られた画像である。また、図22(c)は、図22(a)に示した画像から、復動時に形成されたドットのみを抜き出して得られた画像である。
図示されているように、往復動のいずれで形成されるドットも合わせれば、図22(a)に示されているように、ドットが万遍なく形成されているにも拘わらず、図22(b)に示した往動時に形成されるドットのみの画像、あるいは、図22(c)に示した復動時に形成されるドットのみの画像は、いずれもドットが偏った状態で発生している。
このように、大きく傾向が異なることは意外ではあるが、次のように考えれば、半ば必然的に生じる現象でもあると思われる。すなわち、前述したようにドットの分布状態は、ディザマトリックスの閾値の設定に依存しており、ディザマトリックスの閾値は、ドットを良好に分散させるために、ブルーノイズ特性を有するような閾値の分布が特別に生成されて設定されている。ここで、ディザマトリックスの閾値の中で、往動時にドットが形成される画素の閾値、あるいは、復動時にドットが形成される画素の閾値を取り出して、それぞれの閾値の分布がブルーノイズ特性を有するような配慮はされていない以上、これら閾値の分布は、ブルーノイズ特性とは異なり、長周期領域で大きな周波数成分を有する特性となってしまうのは、半ば必然的であると考えられる(図23参照)。また、グリーンノイズ特性を有するディザマトリックスも、閾値の分布がグリーンノイズ特性を有するように、特に設定されたマトリックスであることを考えると、往動時あるいは復動時にドットが形成される画素の閾値は、グリーンノイズマトリックスが大きな周波数成分を有する周期よりも、長周期側で大きな周波数成分を有するものと考えられる(図23参照)。結局、ブルーノイズ特性を有するディザマトリックスから、往動時にドットが形成される画素の閾値、あるいは、復動時にドットが形成される画素の閾値を取り出すと、それら閾値の分布は、視覚の感度範囲に大きな周波数成分を有することとなる。このため、たとえ、ドットが万遍なく分散している画像でも、往動時に形成したドットのみ、あるいは復動時に形成したドットのみを抜き出すと、得られる画像はそれぞれ、図22(b)および図22(c)に示したようなドットが偏って発生した画像となってしまうものと考えられる。すなわち、図22に示した現象は、特定のディザマトリックスで生じる特異な現象ではなく、大部分のディザマトリックスで同様な現象が生じるものと考えられるのである。
以上のような、新たな知見と、この知見に対する考察とを踏まえて、他のディザマトリックスについても調査を行った。調査では、結果を定量的に評価するために、粒状性指数と呼ばれる指標を使用している。そこで、調査結果について説明する前に、粒状性指数について簡単に説明しておく。
図24は、人間が有する視覚の空間周波数に対する感度特性VTF(Visual Transfer Function)を概念的に示した説明図である。図示されているように、人間の視覚には高い感度を示す空間周波数が存在しており、空間周波数が高くなると次第に感度が低下する特性がある。また、空間周波数が極端に低い領域においても視覚の感度が低下する特性を有することが知られている。図24(a)には、こうした人間の視覚の感度特性の一例が示されている。こうした感度特性を与える実験式には、種々の実験式が提案されているが、図24(b)に代表的な実験式が示されている。尚、図24(b)中の変数Lは観察距離を表しており、変数uは空間周波数を表している。
こうした視覚の感度特性VTFに基づいて、粒状性指数(すなわち、ドットの目立ち易さを表す指標)を考えることができる。今、ある画像をフーリエ変換してパワースペクトルを求めたものとする。仮に、そのパワースペクトルに大きな周波数成分が含まれていたからといって、直ちに、その画像がドットの目立つ画像となるわけではない。何故なら、図24(a)を用いて前述したように、その周波数が人間の視覚感度の低い領域にあれば、たとえ大きな周波数成分を有していても、ドットがそれほど目立たないからである。逆に、人間の視覚感度が高い周波数では、たとえ、比較的小さな周波数成分しか存在しない場合でも、見る者にとってはドットが目立って感じられる場合もある。このことから、画像をフーリエ変換してパワースペクトルFSを求め、得られたパワースペクトルFSを、人間の視覚感度特性VTFに相当する重みを付けて、各空間周波数で積分してやれば、人間がドットを目立つと感じるか否かを示す指標が得られることになる。粒状性指数とは、このようにして得られた指標であり、図24(c)に示した計算式によって算出することができる。尚、図24(c)中の係数Kは、得られた値を人間の感覚と合わせるための係数である。
図22を用いて前述した現象が、特定のディザマトリックスで生じる特異な現象ではなく、大部分のディザマトリックスでも生じることを確かめるために、ブルーノイズ特性を有する種々のディザマトリックスについて、次のような調査を行った。先ず、双方向印刷によって形成された形成されたドットの中から、図22(b)に示したような往動時に形成されたドットのみによる画像(往動時の画像)を取得する。次いで、得られた画像の粒状性指数を算出する。こうした操作を、画像の階調値を変更しながら種々のディザマトリックスについて行った。
図25は、ブルーノイズ特性を有する種々のディザマトリックスについて、往動時の画像の粒状性指数を調査した結果を示した説明図である。図25には、解像度の異なる3つのディザマトリックスについて得られた結果のみが示されている。図25(a)に示したディザマトリックスAは、主走査方向の解像度1440dpi、副走査方向の解像度720dpiで印刷するためのディザマトリックスであり、図25(b)に示したディザマトリックスBは、主走査方向および副走査方向何れの解像度も1440dpiで印刷するために用いられるディザマトリックスである。また、図25(c)に示したディザマトリックスCは、主走査方向の解像度720dpi、副走査方向の解像度1440dpiで印刷するためのディザマトリックスである。尚、図25では、横軸に小ドットの形成密度を取って表示しており、表示された小ドットの形成密度40%以下の領域は、ドットが比較的目立ち易いとされるハイライト領域から中間階調領域の手前までの領域に相当している。
図25に示された3つの往動時の画像は、それぞれ異なる解像度で印刷するために別個に作成されたディザマトリックスから生成されたものであるにも拘わらず、何れも粒状性指数が悪化する領域(すなわち、ドットが目立ち易くなっている領域)が存在している。このような領域では、往動時の画像は、図22(b)に示したようにドットが偏って発生しているものと考えられる。結局、図25に示した3つのディザマトリクスは何れもブルーノイズ特性を有しており、従って、双方向印刷によって形成される画像はドットが偏らずに形成されたものであるにも拘わらず、少なくとも一部の階調領域では、往動時の画像あるいは復動時の画像はドットが偏って発生したものとなっている。このことから、図22を用いて前述した現象は、特定のディザマトリックスで生じる特異な現象ではなく、大部分のディザマトリックスで生じる一般的な現象であると考えられる。そして、このように往動時の画像あるいは復動時の画像ではドットが偏って発生することを踏まえると、このことが、双方向印刷時のドットの位置ずれによる画質の悪化に影響を与えている可能性が考えられる。そこで、双方向印刷時のドット形成位置を意図的にずらして形成した画像(位置ずれ画像)の粒状性指数と、往動時の画像の粒状性指数との間に、何らかの相関が見られるか否かを調査してみた。
図26は、位置ずれ画像の粒状性指数と、往動時の画像の粒状性指数との相関関係を調査した結果を示す説明図である。図26(a)は、図25(a)に示したディザマトリックスAについて調査した結果を示しており、図中の黒丸は位置ずれ画像の粒状性指数を、図中の白丸は往動時の画像についての粒状性指数をそれぞれ表している。また、図26(b)は、図25(b)に示したディザマトリックスBについて調査した結果を示しており、黒四角は位置ずれ画像の粒状性指数を、白四角は往動時画像の粒状性指数を表している。図26から明らかなように、何れのディザマトリックスについても、位置ずれ画像の粒状性指数と、往動時の画像についての粒状性指数との間には、驚くほど強い相関が見られる。このことから、双方向印刷時のドットの位置ずれによって画質が悪化する現象は、往動時の画像と復動時の画像との相対位置がずれることによって双方の画像のドットの偏りが顕在化することが、大きな要因の一つになっているものと考えられる。逆には、往動時の画像および復動時の画像のドットの偏りを低減しておけば、たとえ双方向印刷時にドットの位置ずれが生じた場合でも、画質の悪化を抑制することができるものと考えられる。
図27は、往動時の画像および復動時の画像のドットの偏りを低減しておけば、双方向印刷時にドットの位置ずれが生じた場合の画質悪化を抑制可能なことを示す説明図である。図27(a)には、ドットの位置ずれが無い状態で双方向印刷を行った画像と、ドットの形成位置を意図的に所定量だけずらした状態で印刷した画像とが、比較して示されている。また、図27(b)および図27(c)には、図27(a)に示した画像を、ヘッドの往動時に形成したドットのみによる画像(往動時の画像)と、復動時に形成したドットのみによる画像(復動時の画像)とに分解して得られた画像が、それぞれ示されている。
図27(b)および図27(c)に示されているように、往動時の画像も復動時の画像も、何れもドットが万遍なく分散した画像となっている。また、図27(a)の左側に示したように、ドットの位置ずれの無い状態では、往動時の画像と復動時の画像とを合成して得られる画像(すなわち、双方向印刷で得られる画像)も、ドットが万遍なく分散した画像となっている。このように、双方向印刷を行って得られた画像だけでなく、往動時の画像と復動時の画像とに分解した場合でも、それぞれの画像でドットが万遍なく分散するような画像は、図18の階調数変換処理において、後述するような特性を有するディザマトリックスを参照してドット形成の有無を判断することで得ることができる。そして、図27(a)の右側に示された画像は、このような往動時の画像と復動時の画像とを、所定量だけずらした状態で重ね合わせた画像に相当している。
図27(a)に示された位置ずれ無しの画像(左側の画像)と、位置ずれ有りの画像(右側の画像)とを比較すれば、右側の画像は、ドットの位置がずれることで、ずれのない左側の画像よりも若干ドットが目立ち易くなっているが、画質を大きく悪化させる程ではないことが了解される。このことは、往動時の画像および復動時の画像に分解した場合でも、でドットが万遍なく分散しているようにドットを発生させておけば、たとえ双方向印刷時にドットの位置ずれが生じても、これによる画質の悪化を大幅に抑制可能であることを示していると考えられる。
参考として、一般的なディザマトリックスを用いて形成した画像では、図27に示した場合と同じだけドットの位置ずれが生じたとしたときに、どの程度、画質が悪化するかを調べてみた。図28は、一般的なディザマトリックスで形成した画像で、ドットの位置ずれの有無による画質の悪化を示した説明図である。図28(a)に示した位置ずれ無しの画像(左側の画像)は、図22に示した往動時の画像と復動時の画像とを、位置ずれさせずに重ね合わせた画像である。また、図28(a)に示した位置ずれ有りの画像(右側の画像)は、往動時の画像と復動時の画像とを、図27に示した場合と同じだけ位置をずらした状態で重ね合わせた画像である。尚、図28(b)および図28(c)には、それぞれの往動時の画像および復動時の画像が示されている。
図28から明らかなように、往動時の画像および復動時の画像でドットが偏って発生していると、双方向印刷時にドットの形成位置がずれると、往動時および復動時の画像の画質が大きく悪化して、完成した画像の画質が大きく悪化してしまうことが確認できる。また、図27と図28とを比較すれば、往動時の画像および復動時の画像でドットを万遍なく分散させておくことで、ドットの位置ずれによる画質の悪化を、劇的に改善可能であることが了解できる。
本実施例のカラープリンタ200では、このような原理に基づいて、双方向印刷時のドットの位置ずれによる画質の悪化を、最小限に抑制することが可能となっているのである。このため、双方向印刷時に、往動時に形成されるドットと、復動時に形成されるドットとの形成位置を高い精度で一致させずとも、画質が悪化することが無い。その結果、ドットの位置ずれを精度良く調整するための機構や制御プログラムが不要となるので、プリンタの構成を簡素なものとすることが可能となる。更には、ヘッドを往復動させるための機構についても要求される精度を下げることが可能となり、この点でも、プリンタの構成の簡素化を図ることが可能となるのである。
E.ディザマトリックスの生成方法 :
次に、本実施例の階調数変換処理で参照されるディザマトリックスの生成方法について、その一例を簡単に説明しておく。すなわち、本実施例の階調数変換処理では、往動時に形成するドットについても、復動時に形成するドットについても、更には、これらを合わせたドットについても、万遍なく分散した状態でドットを発生させるために、次のような2つの特性を有するディザマトリックスを参照して階調変換処理を行っている。
[第1の特性]:ディザマトリックスの画素位置を、第1の画素位置のグループと、第2の画素位置のグループとに分類することが可能である。ここで、第1の画素位置および第2の画素位置とは、互いに、往動時または復動時の何れかでドットが形成されるとき、他方がそれ以外でドットが形成されるような関係にある画素位置をいう。
[第2の特性]:ディザマトリックスと、該ディザマトリックスから第1の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス(第1の画素位置のマトリックス)と、第2の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス(第2の画素位置のマトリックス)とが、何れもブルーノイズ特性あるいはグリーンノイズ特性を有している。なお、これらディザマトリックスは、特定の明度付近であれば、規則的なパターンでドットが形成される場合があっても良い。
前述したように、このような特性を有するディザマトリックスは、決して偶然に生成可能なわけではないので、こうしたディザマトリックスを生成する方法について、一例を簡単に説明しておく。
図29は、本実施例の階調数変換処理で参照されるディザマトリックスを生成する処理の流れを示すフローチャートである。尚、ここでは、ブルーノイズ特性を有する既存のディザマトリックスを元にして、上述した[第1の特性]および[第2の特性]が得られるように、修正を加える方法について説明する。もっとも、元になるマトリックスを修正するのではなく、[第1の特性]および[第2の特性]を有するディザマトリックスを初めから生成することも可能である。また、ここでは、ブルーノイズ特性を有するマトリックスを元にした場合について説明するが、グリーンノイズ特性を有するディザマトリックスを元にする場合も、ほぼ同様にすれば、上記の特性を有するディザマトリックスを得ることができる。
ディザマトリックス生成処理を開始すると、先ず初めに元になるディザマトリックスを読み込む(ステップS200)。かかるマトリックスは、全体としてはブルーノイズ特性を有しているものの、第1の画素位置のマトリックス(ディザマトリックスから第1の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス)、および、第2の画素位置のマトリックス(ディザマトリックスから前述した第2の画素位置に設定されている閾値を抜き出したマトリックス)は、何れもブルーノイズ特性を有していないマトリックスである。尚、前述したように、第1の画素位置および第2の画素位置とは、互いに、往動時または復動時の何れかでドットが形成されるとき、他方がそれ以外でドットが形成されるような関係にある画素位置をいう。
次いで、読み込んだマトリックスをマトリックスAとして設定する(ステップS202)。そして、ディザマトリックスAから、2つの画素位置(画素位置Pおよび画素位置Q)をランダムに選択し(ステップS204)、選択した画素位置Pに設定されている閾値と、選択した画素位置Qに設定されている閾値とを入れ換えて、得られたマトリックスをマトリックスBとする(ステップS206)。
次いで、マトリックスAについての粒状性評価値Evaを算出する(ステップS208)。ここで、粒状性評価値とは次のようにして求めた評価値である。先ず、階調値0〜255の256通りの画像にディザ法を適用して、ドットの形成有無によって表現された256通りの画像を得る。次いで、各画像を往動時の画像と、復動時の画像とに分解する。この結果、「0」〜「255」までの各階調値について、往動時の画像と、復動時の画像と、これらを重ね合わせた画像(合計の画像)とが得られることになる。こうして得られた768個(=256×3)の画像について、図24を用いて前述した粒状性指数を算出した後、これらの平均値を求めて得られた値を粒状性評価値とする。尚、粒状性評価値の算出に際しては、768個の粒状性指数を単純に算術平均するのではなく、往動時の画像、復動時の画像、合計の画像毎にそれぞれの重みを付けて平均しても良い。あるいは、特定の階調値(例えば、ドットが比較的目立ち易いと言われる低階調領域)については、大きな重み係数をかけて、平均することとしても良い。図29のステップS208では、マトリックスAについてこのような粒状性評価値を求めて、得られた値を粒状性評価値Evaとするのである。
マトリックスAについての粒状性評価値Evaが得られたら、マトリックスBについても同様にして粒状性評価値Evbを算出する(ステップS210)。次いで、マトリックスAについての粒状性評価値Evaと、マトリックスBについての粒状性評価値Evbとを比較する(ステップS212)。そして、粒状性評価値Evaの方が大きいと判断された場合は(ステップS212:yes)、元になったマトリックスAよりも、2つの画素位置に設定された閾値を入れ換えたマトリックスBの方が、より好ましい特性を有するものと考えられる。そこで、この場合は、マトリックスBをマトリックスAと読み替える(ステップS214)。一方、マトリックスAの粒状性評価値Evaよりも、マトリックスBの粒状性評価値Evbの方が大きいと判断された場合は(ステップS212:no)、マトリックスの読み替えは行わない。
こうして、マトリックスAの粒状性評価値EvaがマトリックスBの粒状性評価値Evbよりも大きいと判断された場合にだけ、マトリックスBをマトリックスAと読み替える操作を行ったら、粒状性評価値が収束したか否かを判断する(ステップS216)。すなわち、元にしたディザマトリックスは、往動時に形成したドット、および復動時に形成したドットが偏って発生しているため、以上のような操作を開始した直後では、粒状性評価値は大きな値を取る。しかし、2箇所の画素位置に設定されている閾値を入れ換えることで、より小さな粒状性評価値が得られた場合には、閾値を入れ換えたマトリックスを採用し、このマトリックスについて更に上述した操作を繰り返していけば、得られる粒状性評価値は小さくなっていき、やがてある値で安定するものと考えられる。ステップS216では、粒状性評価値が安定したか否か、換言すれば、下げ止まったものと考えられるか否かを判断するのである。粒状性評価値が収束したか否かは、例えば、マトリックスAの粒状性評価値EvaよりもマトリックスBの粒状性評価値Evbの方が小さくなった場合について、粒状性評価値の減少量を求めておき、この減少量が複数回の操作に亘って安定して一定値以下となっていれば、粒状性評価値が収束したものと判断することができる。
そして、粒状性評価値が収束していないと判断された場合は(ステップS216:no)、ステップS204に戻って、新たに2つの画素位置を選択した後、続く一連の操作を繰り返す。こうして操作を繰り返していく間に、やがて粒状性評価値が収束していき、粒状性評価値が収束したと判断されたら(ステップS216:yes)、そのときのマトリックスAは、前述した[第1の特性]および[第2の特性]を有するディザマトリックスとなっている。そこで、このマトリックスAを記憶して(ステップS218)、図29に示したディザマトリックス生成処理を終了する。
このようにして得られたディザマトリックスを参照して、階調数変換処理を行い、画素毎にドット形成の有無を判断してやれば、全体の画像は言うに及ばず、往動時の画像や復動時の画像についても、ドットが良好に分散した画像を得ることができる。このため、たとえ双方向印刷時にドットの形成位置が多少ずれたとしても、そのことが画質に与える影響を最小限に抑制することが可能となる。
なお、本実施例では、ディザマトリックスの評価に使用される粒状性評価値Evaは、視覚の感度特性VTFを用いた主観的な評価値である粒状性指数に基づいて算出されているが、たとえば濃度分布の標準偏差であるRMS粒状度に基づいて算出するようにしても良い。
粒状性指数は、周知な方法であって、従来から広く使用されている評価指数である。しかし、粒状性指数の計算は、前述のように、画像をフーリエ変換してパワースペクトルFSを求め、得られたパワースペクトルFSを、人間の視覚感度特性VTFに相当する重みを付けて各空間周波数で積分する必要があるため、計算量が非常に多くなるという問題を有する。一方、RMS粒状度は、ドットの疎密のバラツキを表す客観的な尺度であって、解像度に応じて設定された平滑化フィルタによる平滑化処理と、ドット形成密度の標準偏差の計算だけで簡単に算出することができるので、繰り返し計算の多い最適化処理に好適である。加えて、RMS粒状度の利用は、人間の視覚感度特性VTFを利用した固定的な処理に対して、平滑化フィルタの設計次第で人間の視覚感度や視覚環境を考慮した柔軟な処理が可能となるという利点をも有する。
また、上述の実施例では、第1の画素位置および第2の画素位置とは、互いに、往動時または復動時の何れかでドットが形成されるとき、他方がそれ以外でドットが形成されるような関係にある画素位置であるものとして説明した。すなわち、主走査方向に並んだ一列の画素(このような画素の並びは「ラスタ」と呼ばれる)の中にも、第1の画素位置と第2の画素位置とが含まれる場合があることになる。しかし、ドットの位置ずれ発生時の画質を確保する観点からは、同じラスタ内には第1の画素位置と第2の画素位置とが混在しないようにしておくことが望ましい。以下、この理由について説明する。
図30は、同じラスタ内では第1の画素位置と第2の画素位置とを混在させないことで、ドットの位置ずれ発生時の画質を確保可能な理由を示した説明図である。図中に示した黒丸は、往動時に形成されるドットを示しており、黒四角は復動時に形成されるドットを示している。すなわち、黒丸または黒四角の一方を第1の画素位置とすれば、他方が第2の画素位置となる。図30(a)は、同じラスタに第1の画素位置と第2の画素位置とが混在している状態を表しており、図30(b)は、同じラスタには第1の画素位置と第2の画素位置とが混在していない状態を表している。また、それぞれの図で、左側に示した図は、ドットの位置ずれが無い状態の画像を示しており、右側の図は、ドットが位置ずれしている状態の画像を示している。図30(a)から明らかなように、同じラスタに第1の画素位置と第2の画素位置とが混在している場合は、ドットの位置ずれが生じると、ラスタ内でドット間距離が接近する箇所と遠ざかる箇所とが生じることになり、これが画質を悪化させる。これに対して、図30(b)に示されているように、同じラスタで第1の画素位置と第2の画素位置とが混在していなければ、たとえ、ドットの位置ずれが生じた場合でも、ラスタ内ではドット間が接近する箇所と遠ざかる箇所とが生じることがなく、画質の悪化を抑制することが可能である。
加えて、図30(b)に示すように、第1の画素位置のラスタと第2の画素位置のラスタとが交互に配置されていれば、たとえ、ドットの位置ずれが発生しても、連続するラスタに亘ってドットが一方向にずれてしまい、これが視認されて画質を悪化させることを回避することも可能となる。
以上に説明したように、第1の画素位置のディザマトリックスおよび第2の画素位置のディザマトリックスを、ブルーノイズ特性(あるいはグリーンノイズ特性)を有するディザマトリックスとすることに加えて、同じラスタ内では第1の画素位置と第2の画素位置とが混在しないようにしておけば、たとえ、双方向印刷時にドットの形成位置がずれたとしても、そのことによって画質が悪化することを、より一層、効果的に抑制することが可能になるのである。
F.変形例 :
以上、本発明のいくつかの実施の形態について説明したが、本発明はこのような実施の形態になんら限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲内において種々なる態様での実施が可能である。例えば、以下のような変形例が可能である。
F−1.第1変形例 :
図31は、本発明の第1変形例における複数の印刷ヘッド251、252を有するラインプリンタ200Lによる印刷状態を示す説明図である。印刷ヘッド251と印刷ヘッド252とは、それぞれ上流側と下流側とに複数個配置されている。ラインプリンタ200Lは、主走査を行うことなく副走査送りのみを行って高速に出力するプリンタである。
図31の右側には、ラインプリンタ200Lによって形成されるドットパターン500が示されている。丸の中の数字1、2は、ドットの形成を担当するのが印刷ヘッド251、252のいずれかであるか示している。具体的には、丸の中の数字が「1」と「2」のドットは、それぞれ印刷ヘッド251と印刷ヘッド252とで形成される。
ドットパターン500の太線の内部は、印刷ヘッド251と印刷ヘッド252の双方でドットが形成されるオーバーラップ領域である。オーバーラップ領域は、印刷ヘッド251と印刷ヘッド252との間のつなぎ目を滑らかにするとともに、印刷ヘッド251、252の両端部で生ずるドット形成位置の誤差を目立たなくするために設けられているものである。印刷ヘッド251、252の両端部では、印刷ヘッド251、252の製造個体差が大きくなってドット形成位置の誤差も大きくなるので、これを目立たなくすることが要請されるからである。
このような場合にも、印刷ヘッド251、252の相互の位置関係の誤差によって、上述の往動時と復動時とでドットの形成位置がずれた場合と同様の現象が生ずることになるので、印刷ヘッド251で形成される画素位置のグループと、印刷ヘッド252で形成される画素位置のグループとして上述の実施例と同様の処理を行うことによって画質の向上を図ることができる。
F−2.第2変形例 :
図32は、本発明の第2変形例におけるインターレース記録方式による印刷状態を示す説明図である。インターレース記録方式とは、印刷ヘッドの副走査方向に沿って測ったノズルピッチk[ドット]が2以上であるときに採用される記録方式を言う。インターレース記録方式では、1回の主走査では隣接するノズルの間に記録できないラスタラインが残り、このラスタライン上の画素は他の主走査時に記録される。本変形例では、主走査はパスとも呼ばれる。
図32(A)は、4個のノズルを用いた場合の副走査送りの一例を示しており、図32(B)はそのドット記録方式のパラメータを示している。図32(A)において、数字を含む実線の丸は、各パスにおける4個のノズルの副走査方向の位置を示している。ここで、「パス」とは1回分の主走査を意味している。丸の中の数字0〜3は、ノズル番号を意味している。4個のノズルの位置は、1回の主走査が終了する度に副走査方向に送られる。
図32(A)の左端に示すように、この例では副走査送り量Lは4ドットの一定値である。従って、副走査送りが行われる度に、4個のノズルの位置が4ドットずつ副走査方向にずれてゆく。各ノズルは、1回の主走査中にそれぞれのラスタライン上のすべてのドット位置(「画素位置」とも呼ぶ)を記録対象としている。図32(A)の右端には、各ラスタライン上のドットを記録するノズルの番号が示されている。
図32(B)には、このドット記録方式に関する種々のパラメータが示されている。ドット記録方式のパラメータには、ノズルピッチk[ドット]と、使用ノズル個数N[個]と、副走査送り量L[ドット]とが含まれている。図32の例では、ノズルピッチkは3ドットである。使用ノズル個数Nは4個である。
図32(B)の表には、各パスにおける副走査送り量Lと、その累計値ΣLと、ノズルのオフセットFとが示されている。ここで、オフセットFとは、最初のパス1におけるノズルの周期的な位置(図32では4ドットおきの位置)をオフセットが0である基準位置と仮定した時に、その後の各パスにおけるノズルの位置が基準位置から副走査方向に何ドット離れているかを示す値である。例えば、図32(A)に示すように、パス1の後には、ノズルの位置は副走査送り量L(4ドット)だけ副走査方向に移動する。一方、ノズルピッチkは3ドットである。従って、パス2におけるノズルのオフセットFは1である(図32(A)参照)。同様にして、パス3におけるノズルの位置は、初期位置からΣL=8ドット移動しており、そのオフセットFは2である。パス4におけるノズルの位置は、初期位置からΣL=12ドット移動しており、そのオフセットFは0である。3回の副走査送り後のパス4ではノズルのオフセットFは0に戻るので、3回の副走査を1サイクルとして、このサイクルを繰り返すことによって、有効記録範囲のラスタライン上のすべてのドットを記録することができる。
このように、第2変形例は、上述の往動時と復動時とでドットが埋められていくのに対して、1サイクル3回のパスでドットが埋められていくので、副走査送りの誤差に起因して1サイクル中の各パス間の相互位置がずれることが考えられる。このため、上述の往動時と復動時とでドットの形成位置がずれた場合と同様の現象が生ずる可能性があるので、各サイクルの1番目のパスで形成される画素位置のグループと、2番目のパスで形成される画素位置のグループと、3番目のパスで形成される画素位置のグループとして上述の実施例と同様の処理によって画質の向上を図ることができる。
なお、インターレース記録方式では、各サイクルは必ずしも3回のパスでドットが埋められるとは限らず、2回でも良く、4回以上で1サイクルを構成するようにしても良い。この場合には、各サイクルを構成するパス毎にグループ分けをすることができる。
また、グループ分けは、必ずしも各サイクルを構成する全部のパスについて行う必要はなく、たとえば副走査送り誤差の累積が予測される各サイクルの最後のパスで形成される画素位置のグループと、各サイクルの最初のパスで形成される画素位置のグループとに分けるように構成しても良い。
F−3.第3変形例 :
図33は、本発明の第3変形例におけるオーバーラップ記録方式による印刷状態を示す説明図である。図33において、数字を含む実線の丸は、各パスにおける6個のノズルの副走査方向の位置を示している。実線の丸の中の数字1〜8は、パス番号を8で割った余りの数である。画素位置番号は、各ラスタライン上の画素の配列の順番を示している。
オーバーラップ記録方式とは、各ラスタラインを複数のパスで形成する記録方式である。第3変形例では、各ラスタラインが2回のパスで形成されている。具体的には、たとえばラスタ番号が1番のラスタラインは、パス1およびパス5で形成され、また、2番と3番のラスタラインは、それぞれパス8およびパス4と、パス3およびパス7とで形成されている。
図33から分かるように、ラスタ番号が1〜4のラスタラインで構成されるドットパターンは、パス1〜パス8の8回のパスで形成され、ラスタ番号が5〜8のラスタラインで構成されるドットパターンは、パス3〜パス10の8回のパスで形成される。さらに、パス番号を8で割った余りの数に着目すると、ラスタ番号と画素位置番号が1〜4の画素に形成されるドットで構成されるドットパターンの繰り返しによって、ドットパターンの全てが形成されていることが分かる。
図34は、パス番号を8で割った余りの数に応じて分割された8個の画素位置のグループを示す説明図である。図34では、各正方形は、ラスタ番号が1〜4のラスタラインのうちの画素位置番号が1〜4の画素で構成された画像領域を示している。この画像領域は、特許請求の範囲における「共通の印刷領域」に相当し、8個の画素位置のグループの各々に属する印刷画素を組み合わせることによって構成されている。
このような場合にも、各パスで形成されるドットの位置が相互にずれた場合と同様の現象が生ずることになるので、8個の画素位置のグループの各々に形成されるドットが所定の特性を有するように上述の実施例と同様の処理を行うことによって画質の向上を図ることができる。
F−4.第4変形例 :
図35は、本発明の第3変形例の双方向印刷方式における現実の印刷状態の例を示す説明図である。丸の中の文字は、往復のいずれの主走査でドットが形成されているかを示している。図35(a)は、主走査方向にズレが生じていない場合のドットパターンを示している。図35(b)および図35(c)は、主走査方向にズレが生じている場合のドットパターンを示している。
図35(b)では、印刷ヘッドの往動時にドットが形成される画素位置のグループに属する印刷画素に形成されるドットの位置に対して、印刷ヘッドの復動時にドットが形成される画素位置のグループに属する印刷画素に形成されるドットの位置が右方向に1ドットピッチだけシフトしている。一方、図35(c)では、印刷ヘッドの往動時にドットが形成される画素位置のグループに属する印刷画素に形成されるドットの位置に対して、印刷ヘッドの復動時にドットが形成される画素位置のグループに属する印刷画素に形成されるドットの位置が左方向に1ドットピッチだけシフトしている。
上述の実施例では、往動時にドットが形成される画素グループのドットパターンと、復動時にドットが形成される画素グループのドットパターンの双方に、ブルーノイズあるいはグリーンノイズの空間周波数分布を与えることによって、このようなズレに起因する画質劣化を抑制している。
これに対して、第3変形例は、往動時に形成される画素グループに形成されるドットパターンと、復動時に形成される画素グループに形成されるドットパターンとが主走査方向に1ドットピッチだけシフトして合成されたドットパターンがブルーノイズあるいはグリーンノイズの空間周波数分布を持つように、あるいは小さな粒状性指数を有するように構成されている。
粒状性指数に着目したディザマトリックスの構成は、たとえば主走査方向のズレが一方に1ドットピッチだけシフトした場合、他方に1ドットピッチだけシフトした場合、シフトなしの場合の粒状性指数の平均値が最小となるように構成しても良いし、あるいは、これらの場合の空間周波数分布が相互に高い相関係数を有するように構成しても良い。
なお、本変形例は、往動時と復動時とにおけるドットの形成位置のズレに対する画質のロバスト性を高くすることができるので、往動時と復動時とにおけるドットの形成位置が一括してシフトする場合に限られず、往動時にドットが形成される画素グループと復動時にドットが形成される画素グループの一部に不特定のズレが生ずる場合にも、画質の劣化を抑制することができる。たとえば印刷ヘッドの主走査機構の主走査に起因する周期的な変形によって、印刷ヘッドと印刷用紙のギャップが往動時と復動時とで部分的に変動するような場合にも画質の劣化を抑制することができる。
F−5.本発明は、複数の印刷ヘッドを用いて印刷を行う印刷にも適用することができる。具体的には、複数の印刷ヘッドの各々がドットの形成を担当する複数の画素位置のグループに形成されるドットの空間周波数分布が相互に高い相関係数を有するように構成しても良い。
こうすれば、複数の印刷ヘッドを用いた印刷において、たとえば印刷ヘッドの相互間のドット形成位置のズレに対するロバスト性の高いハーフトーン処理を構成することができる。
F−6.本発明は、ドット形成位置のズレに対するロバスト性だけでなく、ドット形成の時間的な順序(あるいはドット形成のタイミングのズレ)に起因する画質の劣化をも抑制することが発明者によって見いだされた。
図36は、従来のハーフトーン処理が行われた場合において、4個の画素グループが共通の印刷領域で相互に組み合わせられることによって印刷画像が形成される様子を示す説明図である。図36(a)〜(d)は、それぞれ4個〜1個の画素グループが組み合わせられたドットパターンを示している。
従来のハーフトーン処理では、全ての画素グループで形成される印刷画像のドットの分散性に着目して処理が行われているので、図36から分かるように、各画素グループのドットの分散性にムラが存在する。すなわち、低周波領域におけるドットの疎密状態が発生している。このようなドットの疎密状態は、ドット密度が高い位置においてインク滴の凝集や過度の光沢、ブロンズ現象といった状態を生じさせ、ドット密度が低い位置との間に画像の相違を生じさせる。この画像の相違は、人間の視覚に対して画像ムラとして認識されやすいという問題を生じさせる。
本発明は、ドットの過度の高密度を抑制してインク滴の凝集や過度の光沢、ブロンズ現象といった状態を減少させるとともに、印刷画像の全体において均一に生じさせるので、画像ムラを抑制することができる。このように、本発明は、複数の画素グループの各々に属する印刷画素が、共通の印刷領域で相互に組み合わせられることによって印刷画像を形成する印刷に広く適用することができ、複数の画素グループに形成されるドットが相互にズレることを想定していなくても、複数の画素グループに形成されるドットの形成タイミングに相違がある場合にも適用することができる。本発明は、一般に、ドットの形成において、時間的あるいは形成位置のズレといった物理的な相違が想定された複数の画素グループの各々に属する印刷画素が、共通の印刷領域で相互に組み合わせられることによって印刷画像が形成される場合に適用可能である。
F−7.上述の実施例では、ディザマトリックスを用いてハーフトーン処理が行われているが、たとえば誤差拡散を利用してハーフトーン処理を行う場合にも本発明は適用することができる。誤差拡散の利用は、たとえば複数の画素位置のグループ毎に誤差拡散処理を行うようにして実現することができる。
具体的には、通常の誤差拡散に加えて複数の画素位置のグループ毎にも別途誤差を拡散する処理を行っても良いし、あるいは複数の画素位置のグループに属する画素に対して拡散される誤差の重み付けを大きくするようにしても良い。このように構成しても、誤差拡散法の本来的な特性によって、各階調値において、複数の画素グループの各々に属する印刷画素に形成されるドットパターンのいずれもが所定の特性を有するようにすることができるからである。
なお、上記実施例のディザ法では、ディザマトリックスに設定されている閾値と画像データの階調値とを画素毎に比較することによって、画素毎にドット形成の有無を判断しているが、たとえば閾値と階調値の和を固定値と比較してドット形成の有無を判断するようにしても良い。さらに、閾値を直接使用することなく閾値に基づいて予め生成されたデータと、階調値とに応じてドット形成の有無を判断するようにしても良い。本発明のディザ法は、一般に、各画素の階調値と、ディザマトリックスの対応する画素位置に設定された閾値とに応じてドットの形成の有無を判断するものであれば良い。