JP4657542B2 - 一液湿気硬化型可撓性樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、優れた硬化物物性、接着性、耐水性、耐久性を損なうことなく、優れた硬化性と貯蔵安定性を備えた一液湿気硬化型液状組成物に関する。本発明の液状組成物は湿気硬化により可撓性を備えた樹脂となる。本発明の液状組成物は、一液常温硬化型接着剤、一液常温硬化型シーリング材、一液常温硬化型ポッティング材、一液常温硬化型塗装材に好適である。
【0002】
【従来の技術】
変成シリコーン樹脂組成物は、貯蔵安定性と硬化性が共に優れ、硬化物が弾性を有し、接着する被着体の違いにより生じる応力を吸収するために耐久性にも優れており、一液湿気硬化型接着剤や一液湿気硬化型シーリング材として幅広く利用されてきた。しかし、その接着性は乏しく、プライマーを必要とすることや、耐水性に劣るため、水周りや屋外といった、硬化後に水に曝されるような場所への施工には使用できないなどの問題も抱えていた。
【0003】
このため、接着性や耐水性に優れたポリグリシジルエーテルからなる高分子量のエポキシ樹脂とその潜在性硬化剤となるケチミン化合物とを配合するハイブリッド化の検討は種々なされている。ハイブリッド化した一液湿気硬化型エポキシ樹脂組成物についての技術は、特公平7−78111号公報や特開平3−263421号公報、特開平4−1220号公報で開示されており、それらの技術は、接着性、硬化物物性、耐水性、耐久性に優れている。しかし、ハイブリッド化した一液湿気硬化型エポキシ樹脂組成物は、変成シリコーン樹脂組成物に比べて硬化性が劣るにもかかわらず、貯蔵安定性が悪く、長期保存されたものの粘度は上昇している。そのために、保存容器から取り出しにくく、塗布性能も低下しているなどの問題を抱えている。その悪い貯蔵安定性は、変成シリコーン樹脂用硬化触媒との共存下での、変成シリコーン樹脂の安定性よりも、エポキシ樹脂とケチミン化合物との共存下での安定性に大きな影響を受けている。従って、貯蔵安定性を向上するためには、エポキシ樹脂とケチミン化合物とを安定に共存させることが重要であり、その検討も多数なされている。
【0004】
ケチミン化合物について説明する。ケチミン化合物は、エポキシ樹脂、イソシアネート末端のウレタンプレポリマーの潜在性硬化剤として古くから知られている。ケチミン化合物とエポキシ樹脂との反応機構は、まずケチミン化合物は空気中の湿気と反応し、分解して活性水素を有するアミン化合物を生成する。この生成された活性水素を有するアミン化合物は、エポキシ樹脂と反応する。これらの機構によりエポキシ樹脂は硬化する。すなわち、ハイブリッド化した一液湿気硬化型エポキシ樹脂組成物の貯蔵安定性を考えるには、保存容器中でケチミン化合物を安定に存在させることが重要である。
【0005】
そのため、特開平5−271389号公報では、反応性の低い活性水素を有するアミン化合物から得られるケチミン化合物を用いることで貯蔵安定性を上げる技術が開示されている。ここでの組成物は、ケチミン化合物から加水分解生成されたアミン化合物の反応性が低く、たとえ保存中に加水分解してしまっても、エポキシ樹脂と反応するのが遅いために粘度上昇が抑えられ、貯蔵安定性が向上していた。しかし、そのため、使用時にもアミン化合物とエポキシ化合物の反応は遅く、硬化性は、従来技術よりも更に劣るという問題を抱えていた。
【0006】
また、特開平11−349663号公報では、オキサゾリジン化合物を用いることで貯蔵安定性を上げる技術が開示されている。オキサゾリジン化合物は、ケチミン化合物に比べて安定性に優れているが、湿潤面接着性や硬化性に劣っているために、各々を併せて用いることで各性能のバランスを取ろうとする技術である。しかし、それらのバランスは微妙なレベルで変化し、貯蔵安定性を上げれば、硬化性が簡単に低下し、硬化性を上げれば、貯蔵安定性が簡単に低下するというジレンマが、ここでの技術においても存在した。
【0007】
最近では、特開2000−17051号公報で、立体障害のあるカルボニル化合物から得られる特定のケチミン化合物を用いることで貯蔵安定性を上げる技術が開示されている。ここでのケチミン化合物は、その立体構造から加水分解性を示す部位に水分が接触しにくくなり、その結果、加水分解性は遅いものであった。そのため、貯蔵安定性は良いが、硬化性が従来技術よりも更に劣るという従来からのジレンマを抱えていた。
【0008】
従って、これらのいずれの貯蔵安定性を向上しようとする技術とも、硬化性の犠牲の上に成り立っており、貯蔵安定性を向上しようとすると、硬化性の低下が避けられなかった。すなわち、従来からのジレンマを抱えたままの、従来技術の延長線上の技術手段であった。
【0009】
かくして、変成シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とのハイブリッド組成物において、硬化性と貯蔵安定性を共に向上させる組成物が見出せれば、これらを利用した接着剤、シーリング材、ポッティング材などの基本技術となるため、産業上の有用性ははるかに向上する。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、貯蔵安定性と硬化性という、相反する性能を共に向上させ、常温硬化することが可能で、硬化後は可撓性を有する一液湿気硬化型組成物を提供することにある。
【0011】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、前記目的を達成するために鋭意研究を重ねた結果、エポキシ基を有するシリル化合物が、ケチミン化合物の安定化剤として働くことを見いだし、さらに研究を重ねたところ、前記シリル化合物が1分子中に1個のオキシラン環しか持たない、モノグリシジルエーテル化合物であるにもかかわらず、1分子中に2個以上のオキシラン環を持ち、エポキシ樹脂と総称されるポリグリシジルエーテル化合物のように、ケチミン化合物との組成物において、空気中の湿気によって硬化が惹起されて樹脂化することを見いだした。その樹脂化する特性に着眼し、加水分解性シリル基を有する化合物中にそれら2成分を配合したところ、優れた硬化物物性、接着性、耐水性、耐久性を損なうことなく、特異的に貯蔵安定性と硬化性が共に一層向上することが分かった。従来技術においては、貯蔵安定性を向上しようとすると、硬化性が犠牲になるというジレンマが存在していたが、ここでの技術が、このジレンマを解消する技術であることを確認した。
【0012】
すなわち、この出願の発明は、変成シリコーン樹脂とエポキシ樹脂とのハイブリッド組成物において、エポキシ樹脂の代わりに、エポキシ基を有するシリル化合物を使用することである。従来技術においては、1分子中に2個以上のオキシラン環を有するエポキシ樹脂を使用しなければならないところ、本発明の技術においては、エポキシ樹脂に比べてはるかに低分子であって、その官能基も1分子中に1個のオキシラン環だけを有する化合物であるにもかかわらず、所期の目的である、硬化物物性や接着性、耐水性、耐久性を損なうことなく、硬化性と貯蔵安定性とを共に向上させることを特徴とする技術である。
【0013】
本発明者らは、これらの発見に基づいて、さらにこれらのような特性を有する化合物の範囲、それらの配合量、合成技術を広く研究した。その結果、硬化性、硬化物物性、接着性、耐水性、耐久性に優れ、長期保管しても問題なく使用できる一液湿気硬化型可撓性樹脂組成物を開発することに成功し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
すなわち、上記の課題を解決するための本発明の手段は、請求項1の発明では、下記化学式(1)に示される加水分解性シリル基を有するシリル化合物と加水分解性シリル基に対する硬化触媒と、化学式(1)の加水分解性シリル基を有するシリル化合物100質量部に対して5質量部以上配合されている下記化学式(2)で示されるエポキシ基を有するシリル化合物と、下記化学式(3)に示されるケチミン化合物を含有し、かつ、エポキシ樹脂を含有しないことを特徴とする一液湿気硬化型組成物である。
【0015】
【化6】
ただし、R1はシリル化合物の加水分解性シリル基を除く残基であり、R2、R3はアルキル基であり、R2、R3は同じであっても異なっていてもよく、nは1〜3の整数であり、mは2以上の整数である。
【0016】
【化7】
ただし、R4はエポキシ基を一つのみ含有する有機基であり、R5、R6はアルキル基であり、R5、R6は同じであっても異なっていてもよく、nは1〜3の整数である。
【0017】
【化8】
ただし、R7はアミン化合物の1級アミノ基を除く残基で、かつ、該残基は加水分解性シリル基を含まない残基であり、R8、R9はアルキル基であり、R8、R9は同じであっても異なっていてもよく、nは1以上の整数である。
【0018】
請求項2の発明では、前記化学式(1)の加水分解性シリル基を含有する化合物が、アルコキシシリル基を有することおよび主鎖がポリオキシアルキレン骨格および/またはアクリル骨格であることを特徴とする請求項1の手段の一液湿気硬化型組成物である。
【0019】
請求項3の発明では、前記ケチミン化合物が、下記化学式(5)で示されるカルボニル化合物と1級アミノ基を有するアミン化合物とを反応させて得られる、下記化学式(6)に示されるケチミン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2の手段の一液湿気硬化型組成物である。
【0020】
【化9】
ただし、R15、R16は炭素数2〜6のアルキル基から選ばれるいずれかのアルキル基であり、R15、R16は同じであっても異なっていてもよい。
【0021】
【化10】
ただし、R7はアミン化合物の1級アミノ基を除く残基で、かつ、該残基は加水分解性シリル基を含まない残基であり、R15、R16は炭素数2〜6のアルキル基から選ばれるいずれかのアルキル基であり、R15、R16は同じであっても異なっていてもよく、nは1以上の整数である。
【0022】
請求項4の発明では、前記カルボニル化合物が、2個のエチル基を有する請求項3の手段の一液湿気硬化型組成物である。
【0023】
請求項5の発明では、前記ケチミン化合物が、α位に置換基を持つ1級アミン構造またはアミノシクロヘキサン構造のいずれかを1つ以上持つアミン化合物とカルボニル化合物とを反応させて得られるケチミン化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項の手段の一液湿気硬化型組成物である。
【0024】
【発明の実施の形態】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明する。
本発明に用いる加水分解性シリル基を有するシリル化合物とは、下記化学式(1)で示される、2個以上のアルコキシシリル基を有する化合物であれば、どのようなものでもよい。具体例としては、主鎖がポリオキシアルキレン骨格および/またはアクリル骨格である変成シリコーン樹脂、主鎖がポリイソブチレン骨格であるPIB樹脂などが挙げられる。より具体的に説明すると、末端にメチルジメトキシシリル基を有し、ポリオキシアルキレン骨格および/またはアクリル骨格である主鎖とメチレン基でつながっている特開昭52−73998号公報または特開昭63−112642号公報などに示される変成シリコーン樹脂、末端にメチルジメトキシシリル基を有しポリオキシアルキレン骨格および/またはアクリル骨格である主鎖と尿素基でつながっている特許第3030020号公報などに示される変成シリコーン樹脂、末端にメチルジメトキシシリル基を有しポリイソブチレン骨格である主鎖とメチレン基でつながっている特開平8−41356号公報などに示されるPIB樹脂などが例示される。市販品としては、MSポリマー203、MSポリマー303、サイリルSAT30、サイリルSAT200、サイリルSAT350、サイリルMA430、サイリルMA440、サイリルMA447、サイリルMA450、EPION505S(以上、鐘淵化学工業製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。なお、2種類以上を組み合わせてもよいことはいうまでもない。
【0025】
【化11】
ただし、R1はシリル化合物の加水分解性シリル基を除く残基であり、R2、R3はアルキル基であり、R2、R3は同じであっても異なっていてもよく、nは1〜3の整数であり、mは2以上の整数である。
【0026】
また、本発明において用いる加水分解性シリル基に対する硬化触媒とは、従来公知のものを使用でき、具体例としては、オクチル酸錫、ステアリン酸錫、ナフテン酸鉄、オクチル酸鉛などの金属有機カルボン酸塩、ジ−n−ブチル錫−ジラウレート、ジ−n−ブチル錫−ジフタレートなどの有機錫、アルキルチタン酸塩などを単独若しくは混合して使用できる。
【0027】
本発明における有機基中にエポキシ基を有するシリル化合物とは、下記化学式(2)で示され、エポキシ基とアルコキシリル基とを1分子中に有する化合物であれば、どのような物でもよい。具体例としては、下記化学式(7)で示されるγ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、下記化学式(8)で示されるγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシランなどが挙げられ、市販品としては、それぞれKBM403、KBE403(以上、信越化学社製)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。2種類以上を組み合わせて使用してもよいことはいうまでもない。
【0028】
【化12】
ただし、R4はエポキシ基を一つのみ含有する有機基であり、R5、R6はアルキル基であり、R5、R6は同じであっても異なっていてもよく、nは1〜3の整数である。
【0029】
【化13】
【0030】
【化14】
【0031】
本発明におけるケチミン化合物とは、下記化学式(3)で示される加水分解性の、C原子とN原子間の二重結合を有する化合物であれば、どのようなものでもよい。例えば、下記化学式(9)で示されるN,N’−ジ(1,3−ジメチルブチリデン)−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、下記化学式(10)で示されるN,N’−ジ(1,3−ジメチルブチリデン)−メタキシリレンジアミンなどが挙げられる。それらは、各々1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとメチルイソブチルケトンとの脱水縮合物、メタキシリレンジアミンとメチルイソブチルケトンとの脱水縮合物である。また、特開平4−1220号公報に開示されているケチミン化合物なども使用することができる。
【0032】
【化15】
ただし、R7はアミン化合物の1級アミノ基を除く残基で、かつ、該残基は加水分解性シリル基を含まない残基であり、R8、R9はアルキル基であり、R8、R9は同じであっても異なっていてもよく、nは1以上の整数である。
【0033】
【化16】
【0034】
【化17】
【0035】
本発明において用いるケチミン化合物の原料となるカルボニル化合物は、下記化学式(11)で示される、カルボニル基のC原子に、同一のまたは異なるアルキル基を有するカルボニル化合物であればどのようなものでもよい。具体例としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどが挙げられる。
【0036】
【化18】
ただし、R17、R18はアルキル基であり、R17、R18は同じであっても異なっていてもよい。
【0037】
本発明に用いるケチミン化合物の原料となるアミン化合物としては、1級のアミノ基を有する化合物であればどのようなものでもよく、具体例としてはエチレンジアミン、ジエチレントリアミン、1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサン、ノルボルナンジアミン、メタキシレンジアミン、イソフォロンジアミン、ビス(パラアミノシクロヘキシル)メタン、ポリオキシレン骨格を有するポリアミン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β(アミノエチル)γ−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシランなどが挙げられるが、これに限定されない。1分子中に1級アミノ基を2個以上持つものが、優れた機械的強度が得られるため、好ましい。
【0038】
ケチミン化合物の製造は、どのような製造方法であってもよく、例えば、前記カルボニル化合物と前記アミン化合物とを無溶剤下で、または非極性溶剤(ヘキサン、シクロヘキサン、トルエン、ベンゼンなど)存在下で混合し、加熱環流し、生成する水を共沸により除去し得られる。使用されるカルボニル化合物および/またはアミン化合物は、2種類以上の化合物を原料として使用してもよい。
【0039】
また、前記ケチミン化合物は2種類以上使用してもよいことはいうまでもなく、硬化性と貯蔵安定性を損なわない範囲であれば、他の潜在硬化剤を併用してもよい。
【0040】
請求項3、4に係る発明に用いる特定のケチミン化合物とは、下記化学式(6)で示される加水分解性の、C原子とN原子間の二重結合を有する化合物をいう。このケチミン化合物は、カルボニル基のC原子に炭素数2〜6のアルキル基から選ばれる、同一のまたは異なるアルキル基を有するカルボニル化合物と1級アミノ基を有するアミン化合物を反応させて得られる化合物である。下記化学式(6)で示される加水分解性の、C原子とN原子間の二重結合を有し、そのC原子に、炭素数2〜6にアルキル基からなる群から選ばれる、同一のまたは異なるアルキル基を有するケチミン化合物であれば、どのようなものでもよいが、例えば、下記化学式(12)の構造のN,N’−ジ(1−エチルプロピリデン)−1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンや、例えば、下記化学式(13)で示されるN,N’−ジ(1−エチルプロピリデン)−メタキシリレンジアミンなどが挙げられる。それらは、各々1,3−ビスアミノメチルシクロヘキサンとジエチルケトンとの脱水縮合物、メタキシリレンジアミンとジエチルケトンとの脱水縮合物である。
【0041】
【化19】
ただし、R7はアミン化合物の1級アミノ基を除く残基で、かつ、該残基は加水分解性シリル基を含まない残基であり、R15、R16は炭素数2〜6のアルキル基からなる群から選ばれるいずれか1つであり、R15、R16は同じであっても異なっていてもよく、nは1以上の整数である。
【0042】
【化20】
【0043】
【化21】
【0044】
請求項3、4に係る発明に用いる特定のケチミン化合物の原料となるカルボニル化合物は、下記化学式(5)で示される、カルボニル基のC原子に、炭素数2〜6のアルキル基からなる群から選ばれる、同一のまたは異なるアルキル基を有するカルボニル化合物であればどのようなものでもよい。具体例としては、ジエチルケトン、ジプロピルケトン、ジブチルケトン、エチルプロピルケトン、エチルブチルケトンなどが挙げられる。
【0045】
【化22】
ただし、R15、R16は炭素数2〜6のアルキル基から選ばれるいずれかのアルキル基であり、R15、R16は同じであっても異なっていてもよい。
【0046】
水分子との接触を妨げる立体障害を近隣に持つ、C原子とN原子間の二重結合の場合、加水分解性を低下させる。前記カルボニル化合物のα位の炭素原子はメチレン構造であることが、C原子とN原子間の二重結合の近隣に立体障害となる構造を持たないために加水分解性が阻害されないので、好ましい。炭素数2または3の、同一のまたは異なるアルキル基を有するカルボニル化合物が、これらのカルボニル化合物の中でも高い加水分解性を有するため、さらに好ましい。この中でも請求項4に係る発明では、炭素数2の同一のアルキル基を有するジエチルケトンが、最も高い加水分解性を示すため、エポキシ基を有する化合物を含有する組成物に配合した場合、最も速硬化性を与えるので、特に好ましい。
【0047】
本願の請求項5の発明に係る特定のケチミン化合物とは、α位に置換基を持つ1級アミン構造またはアミノシクロヘキサン構造のいずれかを1つ以上持つアミン化合物とカルボニル化合物とを反応させて得られるケチミン化合物をいい、そのような構造のケチミン化合物であれば、どのようなものでもよい。このケチミン化合物は水分のない状態では安定に存在するが、水分により第1級アミンになるので、エポキシ樹脂の硬化剤として機能する。また、ここでのケチミン化合物は、原料となるアミン化合物が置換基を持った2級炭素原子に結合した1級アミン構造を有しており、この置換基が立体障害となるために加水分解が進行しにくく、貯蔵安定性が向上する。また、この1級アミンの活性水素は反応性が低く、ここでの組成物は、たとえ保存中にケチミン化合物が加水分解してしまっても、エポキシ基との反応が遅いために粘度上昇が抑えられ、貯蔵安定性がさらに向上する。このことが本発明の一液湿気硬化型組成物の貯蔵安定性をさらに高めている。具体例としては、イソフォロンジアミン、ビス(パラアミノヘキシル)メタン、ポリオキシレン骨格を有するポリアミンなどが挙げられ、市販品としては、ジェファーミンD−230、ジェファーミンD−400、ジェファーミンT−403(以上、Huntsman社製)、アミキュアPACM(エアープロダクツ社製)などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。2種類以上を組み合わせて使用してもよいことはいうまでもない。
【0048】
本発明の前記化学式(2)のエポキシ基を有するシリル化合物と前記化学式(1)の加水分解性シリル基を有するシリル化合物との配合割合は、エポキシ基を有するシリル化合物が、加水分解性シリル基を有するシリル化合物100質量部に対して5質量部以上配合されていることが、接着剤組成物として優れた接着性を示すので好ましい。また、この配合割合が、5〜100質量部配合されていることが、接着剤組成物として優れた可撓性を有するのでさらに好ましい。
【0049】
本発明のケチミン化合物とエポキシ基を有するシリル化合物との配合割合は、ケチミン化合物が加水分解して発生するアミン化合物の活性水素の当量と、エポキシ基を有するシリル化合物のエポキシ基の当量とで決定されるが、ケチミン化合物が加水分解して発生するアミン化合物の活性水素の当量が、エポキシ基の当量に比べて0.4〜2.0倍であることが好ましいが、この配合割合の範囲に限定されるものではない。すなわち、実用的な機械強度の範囲でも、より軟らかい硬化物を得たい場合には、前記化学式(1)の加水分解性シリル基を有するシリル化合物に対してエポキシ基を有するシリル化合物の配合割合が一定であっても、この配合割合より低くすることやより高くすることで解決することができる。つまり、この配合割合が、より低い場合には、エポキシ基が過剰となり、硬化物において架橋があまり進まず、機械的強度が比較的低く、軟らかい硬化物を得ることができる。より高い場合には、加水分解して発生するアミン化合物が過剰となり、つまり、活性水素が過剰となり、この場合にも同様の理由で、軟らかい硬化物を得ることができる。さらに、硬く、強靱な硬化物を得たい場合には、配合割合が0.8〜1.2倍であることが、理想的な架橋構造となり、機械的強度が高く、硬い硬化物を得ることができるので、好ましい。
【0050】
本発明における加水分解性シリル基に対する硬化触媒の配合割合は、通常変成シリコーン樹脂100質量部に対して0.1〜10質量部であるが、好ましくは6質量部以下である。
【0051】
本発明の一液湿気硬化型組成物は、前記化合物の他に、本発明の効果を損なわない範囲で、炭酸カルシウム、酸化チタンなどの充填剤、ビニルシランやエチルシリケートなどの脱水剤、可塑剤、チクソトロピー付与剤、顔料、染料、老化防止剤、酸化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、接着付与剤、分散剤、溶剤などを配合してもよい。この場合、上記配合成分の水分の影響を可能な限り除去することが、貯蔵安定性に好結果を与える。
【0052】
本発明の組成物の製造方法は特に限定されないが、好ましくは窒素雰囲気下でまたは減圧下で混合ミキサーなどの攪拌機を用いて充分混練させて組成物とするのがよい。一例を挙げれば、以下のとおりである。攪拌機、コンデンサー、加熱装置、減圧脱水装置、窒素気流装置を備えた密閉式加工釜を用い、釜中に変成シリコーン樹脂を仕込む。窒素気流装置を用い、窒素還流下で、所望により改質剤あるいは添加剤を配合し均質混合する。この後、エポキシシランカップリング剤を配合し、さらに硬化触媒として錫触媒を配合し、最終的にケチミン化合物を配合し、均質混合して、一液湿気硬化型組成物を得る。そして、窒素置換を施した密閉容器にこの一液湿気硬化型組成物を収納すれば、最終製品となる。なお、改質剤あるいは添加剤に水分が含まれている場合には、貯蔵中に硬化しやすくなり貯蔵安定性が低下するので、改質剤あるいは添加剤の水分を脱水除去しておくのが好ましい。水分の脱水は、改質剤あるいは添加剤を配合する前に行ってもよいし、変成シリコーン樹脂にこれらを配合したあとに、加熱や減圧などの手段で脱水してもよい。
【0053】
【実施例】
以下、実施例に基づいて本発明を説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
(実施例1)
変成シリコーン樹脂としてMS203(商品名、鐘淵化学工業製)50質量部とMS303(商品名、鐘淵化学工業製)50質量部、重質炭酸カルシウムとしてNS400(商品名、日東粉化製)100質量部、表面処理炭酸カルシウムとして白艶華CC(商品名、白石カルシウム社製)50質量部を配合し、100℃で15トールおよび2時間の条件で減圧・加熱し、均一になるまで撹拌混合する。均一になれば室温まで冷却し、そこへエポキシシランカップリング剤としてKBM403(商品名、信越化学工業製)10質量部、変成シリコーン樹脂用硬化触媒であるジブチル錫化合物としてスタン918(商品名、三共有機合成社製)2質量部およびエポキシシランカップリング剤用硬化剤としてジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物(表において、「DETA/MIBK」と記載。)4質量部を加え、減圧撹拌して一液湿気硬化型組成物を得た。
【0054】
(実施例2)
エポキシシランカップリング剤を30質量部に増量し、その硬化剤としてのジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物を12質量部に増量して用いること以外は、実施例1と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得た。
【0055】
(実施例3)
さらにエポキシシランカップリング剤を50質量部に増量し、その硬化剤としてのジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物を20質量部に増量して用いること以外は、実施例1と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得た。
【0056】
(実施例4)
ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物に代えて、ジエチレントリアミンとジエチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物(表において、「DETA/DEK」と記載。)12質量部を用いること以外は、実施例2と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得た。
【0057】
(実施例5)
さらにジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物に代えて、ポリオキシアルキレンジアミンとしてジェファーミンD−230(商品名、Huntsman社製)とメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物(表において、「D230/MIBK」と記載。)13質量部を用いること以外は、実施例2と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得た。
【0058】
(実施例6)
さらにジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物に代えて、ポリオキシアルキレンジアミンとしてジェファーミンD−230(商品名、Huntsman社製)とジエチルケトンからなるケチミン化合物(表において、「D230/DEK」と記載。)12質量部を用いること以外は、実施例2と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得た。
【0059】
比較例1、2は、エポキシシランカップリング剤を減量してその分をエポキシ樹脂に置き換え、ケチミン化合物を加えた例である。比較例3は、本発明の実施例からケチミン化合物を除いた例である。
【0060】
(比較例1)
エポキシシランカップリング剤を減量する代わりにエポキシ樹脂としてエピコート828(商品名、ジャパンエポキシレジン社製)35質量部を加え、ジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物を10質量部に増やす以外は、実施例1と同様にして、一液湿気硬化型組成物を得たものであり、エポキシシランカップリング剤が少ないので貯蔵安定性が悪く、硬化も遅い。
【0061】
(比較例2)
比較例1にさらに安定化剤としてエポキシ基を持たないシリル化合物であるであるビニルシランカップリング剤を加えて、一液湿気硬化型組成物を得たもので、硬化が一層遅くなっている。
【0062】
(比較例3)
実施例2からジエチレントリアミンとメチルイソブチルケトンからなるケチミン化合物を1molにスチレンオキサイド1molを反応させて得られたケチミン化合物を除く以外は、実施例2と同様にして一液湿気硬化型組成物を得たものであるので、貯蔵安定性はよいが、硬化に時間がかかり、接着性は評価できなかった。
【0063】
実施例1〜6、比較例1〜3に係る一液湿気硬化型組成物を用いて、以下の試験を行った。そして、その結果を表1に示した。
【0064】
【表1】
【0065】
(貯蔵安定性)
貯蔵安定性について、密栓したビンにサンプルを入れて、各温度条件で保存した際の粘度を測定した。すなわち、一液湿気硬化型組成物を、カートリッジに充填密封して、50℃で1ヶ月間および2ヶ月間放置した後、粘度の測定を行った。そして、安定性を配合直後の粘度と比較し、以下の4段階で評価した。粘度測定は、23℃で、BH型粘度計の10r/min.で行った。
◎……………(各条件で放置後の粘度)/(配合直後の粘度)<1.2
○…1.2≦(各条件で放置後の粘度)/(配合直後の粘度)<1.5
△…1.5≦(各条件で放置後の粘度)/(配合直後の粘度)<2
×………2≦(各条件で放置後の粘度)/(配合直後の粘度)
【0066】
(硬化性)
硬化性は、タックフリータイムで評価。タックフリータイムの測定は、JIS A1439(タックフリー試験参照)に準拠して行った。
【0067】
(硬化物物性)
硬化物物性は、JIS K6251に準拠し、23℃で7日養生および23℃で7日養生+23℃水中で7日養生して引張強さおよび伸び率で評価。2号ダンベルによる。
【0068】
(接着性)
接着性について、各養生条件でモルタル曲げ接着試験のJIS A6024(接着性参照)に準拠し標準条件にて測定した。単位は、N/mm2であり、そのときの破壊状態を示した。
【0069】
実施例1〜6と比較例1〜3とを対比すれば明らかなとおり、実施例に係る一液湿気硬化型組成物は、比較例1〜2に係る一液湿気硬化型組成物に比べて、優れた貯蔵安定性を示していることがわかる。比較例3は、エポキシ樹脂を使用していないので、貯蔵安定性に優れている。
【0070】
さらに、実施例1〜6と比較例1〜3を対比すれば明らかなとおり、実施例1〜6に係る一液湿気硬化型組成物は、比較例1〜3に係る一液湿気硬化型組成物に比べて、優れた速硬化性を示しており、特に実施例4が速硬化性において優れていることがわかる。
【0071】
実施例1〜6と比較例1〜2とを対比すれば明らかなとおり、実施例1〜6の一液湿気硬化型組成物は、それぞれ比較例1〜2のエポキシ樹脂を有する一液湿気硬化型組成物に比べて、各養生条件での硬化物特性の引張強さにおいて劣ることなく、かつ伸び率において優れた可撓性を有し、耐水性においても優れていることがわかる。さらに接着性においても、モルタル曲げ接着試験の接着強さ、破壊状態がともに劣ることなく、優れた接着性を有することがわかる。なお、比較例3は上記したとおりエポキシ樹脂を用いておらず、エポキシシランを用いているが、ケチミン化合物を用いていないので、貯蔵安定性は良いが、硬化に長時間を要し、接着性は評価できなかった。
【0072】
【発明の効果】
以上説明したように、本発明に係る接着剤組成物は、エポキシ基を有するシリル化合物を用い、ケチミン化合物の貯蔵安定性を向上させたので、硬化物物性や接着性、耐水性、耐久性を損なうことなく、貯蔵安定性に優れており、硬化性と貯蔵安定性とを共に両立させ、常温硬化でき、硬化後は可撓性を有する一液湿気硬化型組成物である。従って、本発明に係る一液湿気硬化型組成物は、これらを利用して接着剤、パテ材、塗料、コーティング材、ポッティング材などに有効に使用され得るものである。
Claims (5)
- 下記化学式(1)に示される加水分解性シリル基を有するシリル化合物と加水分解性シリル基に対する硬化触媒と、化学式(1)の加水分解性シリル基を有するシリル化合物100質量部に対して5質量部以上配合されている下記化学式(2)で示されるエポキシ基を有するシリル化合物と、下記化学式(3)に示されるケチミン化合物を含有し、かつ、エポキシ樹脂を含有しないことを特徴とする一液湿気硬化型組成物。
- 前記化学式(1)の加水分解性シリル基を含有する化合物が、アルコキシシリル基を有することおよび主鎖がポリオキシアルキレン骨格および/またはアクリル骨格であることを特徴とする請求項1に記載の一液湿気硬化型組成物。
- 前記ケチミン化合物が、下記化学式(5)で示されるカルボニル化合物と1級アミノ基を有するアミン化合物とを反応させて得られる、下記化学式(6)に示されるケチミン化合物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の一液湿気硬化型組成物。
- 前記カルボニル化合物が、2個のエチル基を有する請求項3に記載の一液湿気硬化型組成物。
- 前記ケチミン化合物が、α位に置換基を持つ1級アミン構造またはアミノシクロヘキサン構造のいずれかを1つ以上持つアミン化合物とカルボニル化合物とを反応させて得られるケチミン化合物であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の一液湿気硬化型組成物。
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