JP4655349B2 - 経口医薬用ポリエチレングリコールおよびその製造方法 - Google Patents
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Description
【発明の属する分野】
本発明は空気中で長期保管しても臭気および味に優れた経口医薬用ポリエチレングリコールおよびその製造方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】
ポリエチレングリコールはその毒性が低いことから、日本薬局方医薬品「マクロゴール」として種々の薬物の添加剤として利用されている。経口医薬用としては、主として分子量2,500から20,000のポリエチレングリコールが賦形剤などとして利用されている。
その中でも、腸管洗浄剤のように等張化剤として大量に服用されるケースの場合、ポリエチレングリコールの臭気および味は服用の際に嘔吐などの症状を引き起こす可能性があるため問題となる。また、香粧品の分野において臭気は重要な品質チェック項目の一つであり、口紅等に使用した場合など味が問題となる場合もある。
しかしながら、日本薬局方の性状の項目には「においはないか、わずかに特異臭がある」程度の記載しかなく、味に至っては全く規定されていない。
【0003】
通常、ポリエチレングリコールは水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ触媒の存在下、エチレングリコールやジエチレングリコールにエチレンオキシドを付加重合して工業的に製造されている。アルカリ触媒と重合開始剤であるエチレングリコールあるいはジエチレングリコールを仕込んだ反応基にエチレンオキシドを連続的に装入しながら、所定の分子量が得られるまで反応させ、粗製ポリエチレングリコールを得る。次いで無機酸等の酸で中和後、脱水、乾燥し、析出したカリウム塩のろ過による後処理精製工程を経て製造されている。しかしながら、このようにして製造されたポリエチレングリコールは臭気、味ともに優れたものではなかった。
また、高分子量のポリエチレングリコールはこれまで多くの場合、フレーク形状をとっており、経時的には比較的安定であった。しかしながら、近年、溶解性が優れている粉体のポリエチレングリコールの用途が増えてきている。粉体の場合、フレーク形状と比較して表面積が大きくなるため酸化劣化が起こりやすいことが問題となっている。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】
本発明の目的は、空気中で長期保管しても臭気および味に優れた経口医薬用ポリエチレングリコールおよびその製造方法を提供することである。
【0005】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは鋭意検討した結果、ポリエチレングリコール中のカリウム、ナトリウム、リンなどの無機塩の濃度を特定の範囲にすると酸化劣化による過酸化物やホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどのアルデヒド類が発生しにくく、臭気および味の優れた経口医薬用ポリエチレングリコールが得られることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0006】
すなわち、本発明は、
(1)ポリエチレングリコール中のカリウムまたはナトリウムの含有量が20〜2000ppmであり、かつリンの含有量が10〜1000ppmである粒径500μm以下の粉体を70重量%以上有する経口医薬用ポリエチレングリコール。
(2)ポリエチレングリコールの過酸化物価が2.0meq/kg以下であり、かつホルムアルデヒドの含有量が2.0ppm以下である前記の経口医薬用ポリエチレングリコール。
(3)前記のポリエチレングリコールの製造方法であって、
(a)エチレングリコールまたはジエチレングリコール1molに対して、1〜100mmolのカリウムまたはナトリウムを含むアルカリ金属を触媒とし、エチレンオキシドを反応させる工程、および
(b)リン酸を用いて、5%水溶液のpHが5〜7.5になるように中和する工程からなる
経口医薬用ポリエチレングリコールの製造方法である。
【0007】
【発明の実施の形態】
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは、含有するカリウムまたはナトリウムの量が20〜2000ppm、好ましくは30〜2000ppmである。
20ppmより少ないとポリエチレングリコールの安定性がよくなく、経時的に臭気、味が悪くなる。2000ppmより多いと安定性に影響はないが、塩が析出し、沈降するため好ましくない。また、リンの含有量は10〜1000ppm、好ましくは15〜1000ppmである。10ppmより少ないとポリエチレングリコールの安定性がよくなく、経時的に臭気、味が悪くなる。1000ppmより多いと安定性に影響はないが、塩が析出し、沈降するため好ましくない。
また、経口医薬用ポリエチレングリコールは、過酸化物価が2.0meq/kg以下であり、かつホルムアルデヒドの含有量が2.0ppm以下が好ましく、過酸化物価が1.5meq/kg以下であり、かつホルムアルデヒドの含有量が1.5ppm以下がより好ましい。
【0008】
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは、平均粒径500μm以下の粉体を70重量%以上含むものであり、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上含む粉体の経口医薬用ポリエチレングリコールである。
粒径の測定はJISに従ったふるい振とう機を用いた方法が好ましいが、市販されている粒度分布測定機を用いてもよい。
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは粉体であれば特に制限はないが、好ましくは分子量が2,500〜20,000、より好ましくは2,500〜10,000である。
【0009】
本発明のポリエチレングリコールは、通常以下の方法で製造することができる。
エチレングリコールまたはジエチレングリコールの反応原料にアルカリ金属化合物を触媒としてエチレンオキシドの付加反応を行う。アルカリ金属化合物は、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、ナトリウムメチラートなどのカリウムまたはナトリウムを含むものを用いる。触媒量は、反応原料1molに対して1〜100mmol、好ましくは1〜10mmol用いる。1mmolより少ないと中和後のリン酸塩の量が少なくなり製品の安定性が良くない。100mmolより多いと中和のため多量のリン酸が必要であり好ましくない。
【0010】
エチレンオキシドの反応温度は90〜170℃、好ましくは110〜140℃である。所定の分子量が得られるまでエチレンオキシドを反応した後、未反応のエチレンオキシドを取り除くため、0.027MPa以下の真空条件で1時間以上、脱エチレンオキシド工程を行う。
ついで、10〜85%のリン酸で中和を行う。リン酸は中和後の5%水溶液のpHが5〜7.5、好ましくは6.5〜7.5になるように添加する。中和後の脱水は行っても、行わなくてもよい。
中和後のアルカリ金属塩を取り除くためのろ過工程は、リン酸塩の減少を招くため行わないことが好ましい。ただし、ろ過後においても規定量のナトリウムまたはカリウム、リンを含有していればろ過を行なってもよい。
【0011】
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは、空気中で保管しても酸化劣化が少なく臭気および味に優れたものであるが、下記の状態で保管を行なうと更に酸化劣化が少なくなる。
本発明のポリエチレングリコールの保存は、密封性の高いガラス容器、ステンレス製缶、アルミニウムパウチなどの容器が好ましく、更に窒素ガス、アルゴンガスなどの不活性ガスで空間部分の置換を行い保存することが好ましい。アルミニウムパウチの場合は脱気してシールを行なってもよい。
経口医薬用、特に腸管洗浄剤用に使用する場合、アルミニウムパウチを用いると扱いやすいため好ましい。
【0012】
不活性ガスの置換方法はあらかじめ容器に不活性ガスを導入した後、ポリエチレングリコールを容器内に入れてもよいし、ポリエチレングリコールを容器内に入れた後に不活性ガスを置換してもよい。また、容器を真空にしても良く、その後不活性ガスで置換してもよい。また常圧のまま不活性ガスを導入してもよい。
また、保存温度は常温であってもよいが30℃以下が好ましく、より好ましくは10℃以下、さらに好ましくは0℃以下である。
【0013】
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは経口医薬の添加剤として用いられ、好ましくは腸管洗浄剤の添加剤として用いられる。
腸管洗浄剤は通常、ポリエチレングリコールを84〜88重量%、塩化ナトリウム、塩化カリウム、炭酸水素ナトリウム、無水硫酸ナトリウム等の塩を12〜16重量%を混合して得ることができる。服用する際に、通常は腸管洗浄剤130〜145gを水2Lに希釈して服用する。
【0014】
【発明の効果】
本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールは、空気中で長期保管しても臭気がなく、味も良好である。このため経口医薬用ポリエチレングリコールに好適に使用できる。また本発明の製造方法は経口医薬用ポリエチレングリコールを効率よく製造できる。
【0015】
【実施例】
製造例1
5Lのオートクレーブに63g(0.59mol)のジエチレングリコールを仕込み、水酸化カリウム0.10g(1.8mmol)を加えて溶解させた。窒素置換を行った後、135±5℃でエチレンオキシド1,790gを圧入し、付加反応を行った。反応終了後、更に1時間熟成を行った後、100℃まで冷却し、0.027MPa以下の条件で90分間、脱エチレンオキシド工程を行った。次いで、30%リン酸を0.3g加え、80±5℃で60分間攪拌して中和を行った。固化させた後、ミキサー粉砕を行い840μmの篩で分級し、分子量3,000の粒状のポリエチレングリコールを得た(収量:1650g)。
得られたポリエチレングリコールの5%水溶液のpHは6.8、カリウムの含有量は39ppm、リンの含有量は19ppmであった。
【0016】
製造例2
製造例1と同様に付加反応を行い、脱エチレンオキシド工程を行い、中和を行った。中和後、80±5℃、0.027MPa以下の条件で60分間脱水を行い、加圧ろ過を行った。固化させた後、ミキサー粉砕を行い840μmの篩で分級し、分子量3,000の粒状のポリエチレングリコールを得た(収量:1644g)。
得られたポリエチレングリコールの5%水溶液のpHは6.7、カリウムの含有量は13ppm、リンの含有量は6ppmであった。
【0017】
製造例3
製造例1と同様に付加反応を行い、脱エチレンオキシド工程を行った。次いで、36%塩酸を0.2g加え、80±5℃で60分間攪拌して中和を行った。固化させた後、ミキサー粉砕を行い840μmの篩で分級し、分子量3,000の粒状のポリエチレングリコールを得た(収量:1659g)。
得られたポリエチレングリコールの5%水溶液のpHは7.0、カリウムの含有量は35ppm、リンの含有量は0ppmであった。
【0018】
実施例1
製造例1で得た、粒度500μm以下が90重量%である粉体のポリエチレングリコール(分子量3,000)100gをアルミニウムパウチ(株式会社生産日本製、ラミジップAL−14)に入れて開口部をヒートシールした。製造直後(保存開始時)および40℃恒温室で3ヶ月および6ヶ月保管後それぞれ、臭気および味について下記の試験を行った。
なお、サンプルは人数分について、3ヶ月および6ヶ月保管用をそれぞれ1個ずつ作製して試験を行った。
臭気および味の評価は、10人について下記の方法で行った。また、その時のホルムアルデヒド、過酸化物価も併せて測定を行った。試験結果を表1に示す。
【0019】
(a)臭気
アルミパウチを振り、ポリエチレングリコールを攪拌後、開封し、直ちに臭いをチェックし、下記の基準の最も多い印のものを総合的な評価とした。
○:殆ど気にならない
△:やや気になる
×:かなり気になる
【0020】
(b)味
試験サンプルを適量なめて、臭気と同様の評価を行った。
過酸化物価の測定は試料をクロロホルムに溶解させた後、酢酸、ヨウ化カリウムのメタノール飽和溶液を加え暗所で30分放置した後、イオン交換水を加え、クロロホルム層に遊離ヨウ素を移行させ、チオ硫酸ナトリウム標準液で滴定を行い算出した。
ホルムアルデヒドの含有量の測定は試料を精製水、アセチルアセトン試液、イソプロピルアルコールの混合液に溶解させ、60℃で、1時間放置後、吸光度測定を行なった(410〜415nmにおける吸収最大波長)。別にホルムアルデヒド標準液の測定結果から得られた検量線を用いて試料中のホルムアルデヒド量を算出した。
【0021】
比較例1
製造例2で得た、粒度500μm以下が90重量%である粉体のポリエチレングリコール(分子量3,000)100gをアルミニウムパウチ(株式会社生産日本製、ラミジップAL−14)に入れて開口部をヒートシールした。製造直後および40℃恒温室で3ヶ月および6ヶ月保管後、臭気および味について試験を行った。評価は実施例1と同様に行った。
【0022】
比較例2
製造例3で得た、粒度500μm以下が90重量%であるポリエチレングリコール(分子量3,000)100gをアルミニウムパウチ(株式会社生産日本製、ラミジップAL−14)に入れて開口部をヒートシールした。製造直後および40℃恒温室で3ヶ月および6ヶ月保管後、臭気および味について試験を行った。評価は実施例1と同様に行った。
【0023】
【表1】
【0024】
表1から、本発明の経口医薬用ポリエチレングリコールである実施例1は、6ヶ月経過しても臭気、味ともに問題ないことがわかる。
一方、カリウムの含有量およびリンの含有量が本発明の範囲外である比較例1およびリンの含有量が0である比較例2は、3ヶ月経過後において、臭気、味ともに劣っていることがわかる。
Claims (3)
- ポリエチレングリコール中のカリウムまたはナトリウムの含有量が20〜2000ppmであり、かつリンの含有量が10〜1000ppmである粒径500μm以下の粉体を70重量%以上有する経口医薬用ポリエチレングリコール。
- ポリエチレングリコールの過酸化物価が2.0meq/kg以下であり、かつホルムアルデヒドの含有量が2.0ppm以下である請求項1記載の経口医薬用ポリエチレングリコール。
- 請求項1または請求項2記載のポリエチレングリコールの製造方法であって、
(a)エチレングリコールまたはジエチレングリコール1molに対して、1〜100mmolのカリウムまたはナトリウムを含むアルカリ金属を触媒とし、エチレンオキシドを反応させる工程、および
(b)リン酸を用いて、5%水溶液のpHが5〜7.5になるように中和する工程からなる
経口医薬用ポリエチレングリコールの製造方法。
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