JP4643000B2 - エステル基を有する化合物及びエポキシ樹脂組成物 - Google Patents
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Description
【発明の属する技術分野】
本発明は、エポキシ樹脂により半導体集積回路を封止してなる半導体装置に関するものであり、その目的に供するに充分な諸物性、特に低吸湿性や樹脂組成物の溶融流れ性等に優れ、トータルとして耐クラック性、低反り性に優れるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関するものである。より具体的には、硬化剤として多官能エステル化合物を用い、エステル基をエポキシ基と速やかに反応させる硬化促進剤を組み合わせてなるエポキシ樹脂組成物及びその硬化物に関する。
【0002】
【従来の技術】
従来、集積回路(IC)や大規模集積回路(LSI)はそれを保護する封止材により外部雰囲気のゴミや埃、熱、水分、あるいは光による誤作動等から守られ、実用化されている。
この封止材としては、金属やセラミックスによるものから、近年では樹脂封止へと変遷しており、現在ではエポキシ樹脂封止が主流となっている。
特にコスト面と物性面のバランスからフェノール樹脂を硬化剤としたエポキシ樹脂組成物が多く使われている。これらエポキシ樹脂組成物を用いた封止材は、機械的物性の向上はもとより、例えば、以下の▲1▼〜▲3▼に示すような課題の解決が求められている。
【0003】
[課題▲1▼] 外気中の水分を吸湿するため、半田処理条件下に晒される際、高温下におかれるため水分の爆発的な気化によりクラックを生じる。
[課題▲2▼] 硬化の際の副反応として、エポキシ単独重合が部分的に起こることにより、フェノール樹脂の水酸基が過剰となり、耐湿性、電気特性に劣ったり、本来のエポキシ−フェノール樹脂ネットワーク以外に、エポキシ単独重合部分や、過剰となったフェノール樹脂部分が存在することにより機械特性が低下したりする。
[課題▲3▼] フリーイオン、特にハロゲンイオンの混入により、半導体の金属部分の腐食や電気漏洩等がおこる。
これらのうち、[課題▲3▼]に示した課題については、イオン不純物は、特にエポキシ樹脂の精製、純度の問題であり[課題▲1▼]や[課題▲2▼]に示した課題とは、次元を異にする。
[課題▲1▼]に示した課題については、樹脂の改質、[課題▲2▼]に示した課題については、副反応の抑制により本来のエポキシ樹脂組成物の物性を充分に引き出すことが可能となる。
【0004】
しかしながら、[課題▲1▼]に示した課題の樹脂の吸湿に関しては、エポキシ基と水酸基の反応による硬化反応であるので、必然的に、下記反応式(1)で表されるように、水酸基を必ず生成する反応であり、水酸基を要因として親水性が大きくなり、基本骨格を疎水化しても全体としての吸湿率の低減には限界がある。
【化7】
これらの問題を解決する一つの手法として、特開昭62−53327号公報(発明者;西久保氏ら)に示される様なエポキシ基とエステル基の反応が提案されている。
当該公報中には、触媒の好ましいものとして、4級オニウム塩やクラウンエーテル錯体が示され、さらに、同氏らの論文〔有機合成化学第49巻第218〜233頁(1991)、エポキシ化合物とエステル類との付加反応とその高分子合成への応用〕中において、具体的に単位反応としての各触媒を用いたときの収率が示されている。
それによれば、最高ではテトラブチルアンモニウムクロライドの91%があるものの、収率は総じて低い。
また、これら4級オニウム塩やクラウンエーテル錯体は、半導体集積回路の封止材として用いられた樹脂中に含まれたままであると、電気的な短絡等の好ましくない結果をもたらすのみでなく、それが接触する金属部分の腐食等も引き起こし、製品として重大な欠陥の原因となることはいうまでもない。
【0005】
一方、一般的なエポキシ樹脂とフェノール樹脂との付加反応においては、触媒としてトリアルキルホスフィン、トリアリールホスフィンの様なホスフィン類、イミダゾール類、三級アミン類等が用いられ、特に半導体封止用としてはイミダゾール類、ホスフィン類が多く用いられる。
これらのうち、イミダゾール類は反応活性はあるが、先に述べた副反応であるエポキシ単独重合を起こしやすく、上記の[課題▲2▼]に示した問題が大きい。
一方、ホスフィン類はこれらの問題はないものの、硬化速度が遅い。
イミダゾール類を触媒としてエポキシ/エステル硬化反応に応用した場合、先の西久保氏らの文献によるとエポキシ基に対するエステル基の付加反応の反応収率は約50%程度であり、その他はエポキシ樹脂の単独重合等の副反応であることもふまえると、充分な硬化物が得られる触媒ではない。
【0006】
さらに、本発明者らの追試においては、これらイミダゾール類やホスフィン類を硬化触媒としたときに、本発明におけるアシル基によるエステルは実質的にエポキシ樹脂の硬化反応を起こさないことが判る。
具体的には、通常、硬化の際に用いられる温度である150〜200℃の範囲では10分以上ゲル化せず、現実には硬化物が得られる前に樹脂組成物が流れ出してしまう状況である(後述する比較例を参照のこと。)。
【0007】
また、エポキシ樹脂をエステル硬化させ、半導体集積回路の封止材として利用するために、フェノール樹脂の10〜90%をエステル化し、硬化剤とする方法が提案されている(特開平9−235451号公報)。
この方法は、エステル樹脂を製造するに当たり、原料であるフェノール樹脂のフェノール性水酸基を一部残存させることにより、硬化初期において反応し易いフェノール部分により一次的に架橋部分を形成させ、後のアフターキュアーによりエステル基をエポキシ基に作用させるという発想に基づくものである。
【0008】
しかしながら、当該公報に示されている硬化触媒は、ホスフィン類、イミダゾール類及びジアザビシクロ類であり、ホスフィン類、イミダゾール類は本願比較例(後述比較例参照)で示されるように、エポキシ基とエステル基に対する充分な硬化触媒能を示さず、さらにイミダゾール、ジアザビシクロ類は、先の西久保氏らの論文から明らかなように、エポキシ単独重合が多く起こり、エポキシ基と硬化剤官能基のモル比の調節が難しく、また物性的にも好ましくない。
【0009】
また、近年半導体の高密度化・小型化に伴い、ボールグリッドアレイ等のパッケージにおいて半導体チップを保持する基板として従来の金属ではなく、樹脂が用いられることが多くなっている。
しかし、この際、樹脂封止は図1に示したように基板の片面だけに施されることから、成形後の冷却・収縮に伴なってパッケージの反りが発生することが多い。
そこで、この反りを低減するため、多官能エポキシ等が多く用いられる。これらは、エポキシ基−フェノール性−OH基の反応点の数を多くすることにより、硬化物のガラス転移点を成形温度以上に上げ、その結果として成形後の冷却に伴う収縮をガラス転移点以下の低線膨張率領域(α1)で行わせることで、パッケージの反りを低減させることを目的とするものである。
【0010】
しかしながら、このような樹脂を用いた場合でも、結果的には反応点の数が増えるために成形物の強度が増し、可撓性が失われるために反りの抑制は十分でないことが多い。また同時により多くのOH基が生成することから、外気中の水分の吸湿が多くなり、半田処理条件下に晒される際、クラックを生じ易くなってしまう。
【0011】
さらに、未変性の多官能フェノール化合物を硬化剤として用いた場合、軟化点・溶融粘度が高いばかりでなくスパイラルフローが短いために薄ものや微細成形の必要な半導体封止には不向きである。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】
本発明は、ボールグリッドアレイ等半導体チップを樹脂基板で保持するタイプのパッケージ封止用に低反り性、耐クラック性及び電気特性に優れた半導体封止材用エポキシ樹脂組成物、その硬化物及び半導体装置を提供することにある。
【0013】
【課題を解決するための手段】
本発明者らは、鋭意検討した結果、多官能のエポキシに対し硬化剤として分岐構造を有する3〜8官能フェノール化合物の水酸基をアシル基により10〜100モル%エステル化した化合物を配合し、さらに硬化促進剤として一般式(V)で表されるホスフィンオキシド化合物を必須の成分として用いることにより上記の課題を解決し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【化8】
(但し、化学式(V)中、R14は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基、炭素数6〜10のアリール基又はアラルキル基を示し、全て同一でもそれぞれ異なっていてもよい。)
【0014】
すなわち、本出願に係る発明は、少なくとも、以下の▲1▼〜▲4▼に示す事項に関する。
▲1▼ 成分(C)の硬化促進剤として、前記一般式(V)で表されるホスフィンオキシド化合物を必須の成分とし、成分(A)のエポキシ樹脂として、2官能以上のエポキシ樹脂、及び、成分(B)の硬化剤として、水酸基のうち10モル%〜100モル%の水酸基がアシル基によりエステル化された3〜8官能以上の分岐構造を有するエステル化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物。
▲2▼ 有機及び/又は無機充填剤を(A+B)100重量部に対して100重量部以上、1900重量部以下の範囲で含有する▲1▼に記載したエポキシ樹脂組成物。
▲3▼ 前記の▲1▼又は▲2▼に記載のエポキシ樹脂組成物を熱硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。
▲4▼ 前記の▲1▼又は▲2▼に記載のエポキシ樹脂組成物を用いて半導体集積回路を封止して得られる半導体装置。
【0015】
すなわち、本出願に係る発明は、以下の[1]〜[7]に記載した事項により特定される。
【0018】
[1] 成分(A)として、分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、成分(B)として、化学式I〜IIIで表される多官能フェノールの水酸基のうち10〜100モル%の水酸基をアシル化したエステル基(『水酸基をアシル化したエステル基』は、『AO−』で表され、『A』は、水素原子又は炭素数2〜9脂肪族又は芳香族アシル基群から選択された少なくとも一つである。)を有する化合物を含んでなる硬化剤、成分(C)として、化学式Vで表されるホスフィンオキシド化合物を含んでなる硬化促進剤、を含んで構成されるエポキシ樹脂組成物(化学式Iにおいて、mは、1又は2を表し、R1は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよく、R2は、水素原子あるいはメチル基を表す。化学式IIにおいて、n及びoは、それぞれ、1又は2を表し、R3及びR4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい、R5は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。化学式IIにおける連結基Xは、式II−1又は式II−2で表され、式II−1又は式II−2におけるR6〜R9は、それぞれが同一であっても異なってもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。化学式IIIにおいて、p及びqは、それぞれ1又は2を表し、R10及びR11は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよく、R12は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。化学式Vにおいて、R14は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)。
【化7】
【化8】
【0019】
[2] 成分(C)として、化学式(VI)で表されるホスフィンオキシド化合物を含んでなる硬化促進剤を含んで構成される[1]に記載したエポキシ樹脂組成物。
【化9】
【0020】
[3] 成分(D)として、有機及び/又は無機フィラーを、成分(A)と成分(B)の合計100重量部を基準として、100〜1900重量部含有することを特徴とする[1]又は[2]に記載したエポキシ樹脂組成物。
【0022】
[4] 成分(B)が、化学式VIII〜Xで表される多官能フェノール化合物のアシル化合物を含んでなるものである、[1]乃至[3]の何れかに記載したエポキシ樹脂組成物(化学式VIII〜Xにおいて、『AO−』は、『水酸基をアシル化したエステル基』である。化学式VIII〜Xにおいて、『A』は、水素原子又は炭素数2〜9脂肪族又は芳香族アシル基であって、それぞれのアシル基は同一でも異なっていてもよく、アシル化されている割合は水酸基の10〜100mol%である。)。
【化10】
【0023】
[5] アシル基が、アセチル基又はベンゾイル基である[1]乃至[4]の何れかに記載したエポキシ樹脂組成物。
【0024】
[6] [1]乃至[5]の何れかに記載したエポキシ樹脂を熱硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。
【0025】
[7] [1]乃至[5]の何れかに記載したエポキシ樹脂組成物により半導体集積回路を封止して得られる半導体装置。
【0026】
【発明の実施の形態】
本発明の実施の形態について、以下に詳細に説明する。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、
成分(C)の硬化促進剤として、一般式(V)で表されるホスフィンオキシド化合物(化学式Vにおいて、R14は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基又はアラルキル基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)、
【化15】
成分(A)のエポキシ樹脂として、2官能以上のエポキシ樹脂、
成分(B)の硬化剤として、3〜8官能以上の分岐構造を有するエステル化合物を含有してなるエポキシ樹脂組成物である。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物は、硬化促進剤(成分(C))として、前記ホスフィンオキシド化合物を用いることで、エポキシ基とエステルを速やかに、選択的に反応させることを可能にするものであり、これにより、上記した[課題▲1▼]と[課題▲2▼]に示した課題を解決し、3〜8官能以上の分岐構造を有するフェノール化合物の水酸基の10〜100モル%がアシル基によってエステル化された化合物でボールグリッドアレイ等半導体チップを樹脂基板で保持するタイプのパッケージに用いた場合においても、成形後の冷却に伴う反りを発生させず、さらに高い機械的物性、特に可撓性に優れ、耐クラック性及び電気特性に優れる硬化物を与えることを可能にするものである。
【0027】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、必須の成分として用いられる硬化促進剤(成分(C))である前記一般式(V)で表されるホスフィンオキシド化合物について説明する。
【化16】
【0028】
一般式(V)において、置換基R14は、全て同一であっても、それぞれ異なっていてもよく、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐又は環状のアルキル基あるいは炭素数6〜10のアリール基又はアラルキル基である。
【0029】
一般式(V)における置換基R14のより詳細な具体例は、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、1−ペンチル基、2−ペンチル基、3−ペンチル基、2−メチル−1−ブチル基、イソペンチル基、tert−ペンチル基、3−メチル−2−ブチル基、ネオペンチル基、n−ヘキシル基、4−メチル−2−ペンチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、1−ヘプチル基、3−ヘプチル基、1−オクチル基、2−オクチル基、2−エチル−1−ヘキシル基、ノニル基又はデシル基等の直鎖、分岐又は環状のアルキル基;フェニル基等のアリール基;トルイル基、ベンジル基、1−フェニルエチル又は2−フェニルエチル基等のアラルキル基等を挙げることができる。
【0030】
これらのうち、好ましいものは、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基又はシクロヘキシル基の様な炭素数1〜6の脂肪族炭化水素基であり、より好ましくはメチル基、エチル基である。
【0031】
このようなホスフィンオキシド化合物は、G.N.Koian etal.Journal of Generral Chemistry of The USSR, 55巻, 1453〜頁 (1985年)に記載されているように、オキシ三塩化リンに3分子のイミノトリスアミノ(無置換、一置換、二置換)ホスホランを反応させて合成することができる。
さらに、精製が必要であれば、カラムクロマトグラフィー、蒸留、再結晶等の汎用される方法により精製することができる。
このようにして得られるホスフィンオキシド化合物は、通常固体である。
【0032】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、硬化促進剤であるホスフィンオキシド化合物の使用量は、全エポキシ樹脂組成物(樹脂成分:エポキシ樹脂と硬化剤の合計)に対して、重量で0.001〜25%(0.001〜25g/100g)の範囲、好ましくは0.01〜15%、さらに好ましくは0.1〜5%の範囲で用いられる。モル当量に換算すれば、1.5×10-6〜4.5×10-2モル/100g、好ましくは1.5×10-5〜2.5×10-2モル/100g、さらに好ましくは1.5×10-4〜1.0×10-2モル/100gの範囲である。
【0033】
また、本発明に係るエポキシ樹脂組成物においては、このホスフィンオキシド化合物以外の一般の用いられる公知の硬化促進剤、例えば、2−メチルイミダゾール等のイミダゾール類、トリフェニルホスフィン等のホスフィン類等をホスフィンオキシド化合物の0.5重量%〜500重量%の範囲で併用してもよい。その量が500重量%(5倍当量)を超えると本発明の特徴が失われる。
【0034】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、1分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂であって、このエポキシ樹脂は後述するような各種硬化剤で硬化させられることが可能な限り分子構造、分子量等に特に制限はなく、従来から知られている種々のものを使用することができる。
例えば、エピクロルヒドリンとビスフェノールをはじめとする各種ノボラック樹脂から合成されるエポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、塩素や臭素等のハロゲン原子を導入したエポキシ樹脂などを用いることができる。
これらの中では、置換及び非置換型のノボラック型エポキシ樹脂、ナフトール型エポキシ樹脂等が好ましく用いられる。上記エポキシ樹脂は単独で用いてもよいし、2種類以上を混合して用いてもかまわない。
【0035】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物において、成分(B)の硬化剤としては、3〜8官能以上の分岐構造を有するフェノール化合物の水酸基の10〜100モル%がアシル基によりエステル化されたエステル化合物である。エステル化され得るフェノール化合物を具体的に例示すれば次のようになる。
【化17】
化学式Iにおいて、mは、1又は2を表し、R1は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよく、R2は、水素原子あるいはメチル基を表す。化学式IIにおいて、n及びoは、それぞれ、1又は2を表し、R3及びR4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。R5は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。化学式IIにおける連結基Xは、式II−1又は式II−2で表され、式II−1又は式II−2におけるR6〜R9は、それぞれが同一であっても異なってもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。化学式IIIにおいて、p及びqは、それぞれ1又は2を表し、R10及びR11は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい。R12は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。
【0036】
さらに、具体的な構造を、化学式(VIII)〜化学式(XI)に示す。
【化18】
【0037】
化学式VIII〜XIにおいて、『AO−』は、『水酸基をアシル化したエステル基』である。
化学式VIII〜XIにおいて、『A』は、水素原子又は炭素数2〜9脂肪族又は芳香族アシル基であって、それぞれのアシル基は同一でも異なっていてもよく、アシル化されている割合は水酸基の10〜100mol%であるエポキシ基を有する化合物である。
【0038】
これらのフェノール樹脂のエステル化方法には、通常、公知の方法が採用され得る。その具体例を以下に挙げる。
すなわち、上述のような水酸基をエステル化する際に用いるエステル化剤としては、有機カルボン酸無水物、有機カルボン酸ハライド、有機カルボン酸の何れでもよい。誘導したいエステルの炭素数によるエステル化剤の特徴により適宜選択すればよい。
【0039】
このエステル化剤を具体的に例示すれば無水酢酸、アセチルクロライド、アセチルブロマイド、酢酸、無水プロピオン酸、プロピオン酸クロライド、プロピオン酸ブロマイド、プロピオン酸、無水酪酸、酪酸クロライド、酪酸、無水吉草酸、吉草酸クロライド、吉草酸ブロマイド、吉草酸、ピバリン酸クロライド、ピバリン酸、フェニル酢酸、フェニル酢酸クロライド、2−フェニルプロピオン酸、3−フェニルプロピオン酸、o−トリル酢酸、m−トリル酢酸、p−トリル酢酸、クメン酸、無水安息香酸、安息香酸クロライド、安息香酸ブロマイド、安息香酸、o−メチル安息香酸クロライド、m−メチル安息香酸クロライド、p−メチル安息香酸クロライド、o−メチル安息香酸、m−メチル安息香酸、p−メチル安息香酸、2,3−ジメチル安息香酸、2,4−ジメチル安息香酸、2,5−ジメチル安息香酸、2,6−ジメチル安息香酸、3,4−ジメチル安息香酸、3,5−ジメチル安息香酸、等を挙げることができる。
【0040】
これらの中で好ましいものとしては、無水酢酸、アセチルクロライド、安息香酸無水物、安息香酸クロライドが挙げられる。
これらのエステル化剤は単独あるいは任意の2種類以上を併用して用いることも可能である。また、複素環を有するカルボン酸については電気的特性が劣るため好ましくない。
【0041】
その使用量は、水酸基に対して10モル%以上で用いればよく、上限は特に限定されず、過剰に用いて充分にエステル化を進行させた場合は、過剰のエステル化剤は反応終了後除去すればよいが、現実的には反応容積効率、コスト等の観点から、水酸基に対し10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、さらに好ましくは3倍モル以下がよい。
【0042】
具体的な反応は、エステル化剤の種類によって異なるが、それぞれについて述べれば有機カルボン酸無水物については、一般に用いられる反応でよい。
すなわち、水酸基に対しエステル化するべき任意の量の有機カルボン酸無水物を反応させたのち、副成する有機カルボン酸、過剰の有機カルボン酸無水物を常圧蒸留、減圧蒸留、水洗、炭酸塩等の弱塩基水洗浄等任意の方法もしくはそれらの組み合わせによって除去することにより、目的とするエステル化合物を得るものである。部分エステル化を行う際は、水酸基に対して任意の量、すなわち、本発明の樹脂組成物においては10モル%以上がエステル化されたエステル化物を用いるので、10モル%以上の有機カルボン酸無水物を用い、完全にエステル化する際には、水酸基に対して等モル以上、溶剤を兼ねればその上限は特に制限されるものではないが、経済効率、反応の容積効率を考慮すれば10倍モル%以下で用いればよい。
なお、この使用量は後述の有機カルボン酸を用いた反応の際にも同様である。
【0043】
一般にエステル反応においては、ピリジン、ピペリジン、トリエチルアミン等の反応に対しては不活性な有機塩基の存在下において行うことが多いが、本発明に係るエポキシ樹脂組成物を半導体集積回路の封止材等の電気・電子分野に用いる場合、これらの含窒素有機塩基が残存することを避けなければならない。このため、最終的には水洗行程を導入することが望ましい。
しかしながら、これら有機塩基を用いなくとも充分反応は進行するので、有機塩基を用いないことが最も望ましい。
【0044】
反応温度は60℃〜200℃の範囲、望ましくは80℃〜180℃の範囲、特に望ましくは100℃〜160℃の範囲が望ましい。
【0045】
反応時間は反応物の種類や反応温度に大きく左右されるが、およそ1時間〜25時間の範囲であり、現実的には高速液体クロマトグラフィーやガスクロマトグラフィー等でエステル化剤の消失や水酸基の消失などを追跡しつつ終点を決定することが望ましい。
【0046】
反応における溶媒は用いても用いなくてもよい。原料とする水酸基を有する物質が反応温度において充分溶融し、且つ、エステル化剤が液体である場合、また反応温度において溶融、あるいは、樹脂に溶解し反応に支障がない場合には無溶媒で反応を行えばよい。
【0047】
溶媒を必要とするならば、反応に不活性な溶媒であれば全て使用することができる。
それらを例示すれば、ベンゼン、トルエン、キシレン、クロロベンゼン、o−ジクロロベンゼン、ジフェニルエーテル等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、N,N−ジメチル−2−イミダゾリジノン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の非プロトン性極性溶媒類、テトラヒドロフラン、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン類、等を単独で、あるいは任意の組み合わせで用いることができる。
【0048】
反応は常圧(1気圧、大気圧)、加圧(オートクレーブ中)、減圧の何れでもよく、また反応系の雰囲気は空気中、窒素、アルゴン、ヘリウム等の不活性ガス中の何れでもよいが好ましくは窒素雰囲気下がよい。
【0049】
次に、エステル化剤として有機カルボン酸ハライドを用いる場合における反応について説明する。この場合も一般に用いられる手法を用いることができる。
すなわち、水酸基に対してエステル化するべき任意の量の有機カルボン酸ハライドを反応させればよい。この場合、副生するハロゲン化水素は、ピリジン、ピペラジン、トリエチルアミン等の反応に不活性な塩基を必要量存在させて系内においてトラップする方法と、ガスとして反応中に順次速やかに系外に放出し、反応系外に設置された水又はアルカリトラップを用いて捕捉する場合が考えられるが、先に示した理由により、含窒素化合物、イオン性化合物の混入を避けるためハロゲン化水素ガスは反応中速やかに系外に放出する方法が好ましい。
このとき、やはり反応に不活性なガスの気流下において反応を行うとより好ましい。
【0050】
有機カルボン酸ハライドの使用量は、部分エステル化を行う際は、水酸基に対して任意の量、すなわち、本発明の樹脂組成物においては10モル%以上がエステル化されたエステル化物を用いるので、10モル%以上の有機カルボン酸ハライドを用い、完全にエステル化する際には水酸基に対して等モルもしくは小過剰を用いればよく、大過剰用いることは特に制限されるものではないが、経済効率、反応の容積効率、さらに反応後の処理工程の煩雑さを考慮すれば水酸基に対して10倍モル以下、好ましくは5倍モル以下、さらに好ましくは3倍モル以下の範囲で用いればよい。
反応温度、反応における溶媒の使用、反応の形態に関しては先の有機カルボン酸無水物の場合に準じればよい。
【0051】
また、エステル化剤として有機カルボン酸を用いる場合は、ほぼ有機カルボン酸無水物に準じればよいが、反応に際して酸触媒を必要とする。それを例示すれば、塩酸、硫酸、リン酸、ポリリン酸等の鉱酸類;p−トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、エタンスルホン酸、ジメチルスルホン酸、ジエチルスルホン酸等の有機スルホン酸類;トリフルオロメタンスルホン酸に代表される超強酸、アルカンスルホン酸型に代表される酸性イオン交換樹脂;パーフルオロアルカンスルホン酸型に代表される超強酸型イオン交換樹脂等である。
【0052】
その使用量は、原料の重量に対して超強酸の場合が0.00001〜5重量%、好ましくは0.0001〜1重量%、より好ましくは0.001〜0.1重量%の範囲、イオン交換樹脂類の場合が1〜100重量%、好ましくは10〜50重量%の範囲、その他の場合は0.01〜10重量%、好ましくは0.1〜5重量%の範囲である。
この範囲を下まわると反応速度が低下し、現実的な反応時間では完結しない。
また、この範囲より大きくなると、副反応が無視できなくなり、あるいは触媒の除去の行程の煩雑さ等を含めてコストの増大に繋がる。
以上、3種類のエステル化剤についてその反応を説明してきたが、何れの場合もより精製度の高いエステル化物を得る必要のある場合には、反応終了後、水洗行程を導入すればよい。
その場合は、トルエン、キシレン、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン、酢酸エチル等の水洗可能な溶媒を用いて、洗浄廃水に酸性成分、イオン性不純物が混入しなくなるまで洗浄すればよい。
また、本発明においては、そのエステル化率は10モル%〜100モル%の範囲であるが、好ましくは50モル%〜100モル%、より好ましくは80モル%〜100モル%、さらに好ましくは90モル%〜100モル%の範囲である。
【0053】
以上のようにして得られた、エステル化率10〜100モル%のエステル化物は、従来のフェノール樹脂と同様にしてエポキシ樹脂に対する硬化剤として用いることが可能である。
すなわち、2官能以上のエポキシ樹脂に対して硬化剤として用いることにより、従来のエポキシ−フェノール硬化物と同様に熱硬化性樹脂として同一の分野へ利用することができる。
【0054】
エポキシ樹脂と硬化剤との配合比は、エポキシ基1モル当量に対してエステル基もしくはエステル基及び水酸基の合計、すなわちエポキシ基に対する活性基が、0.5〜1.5モル当量、好ましくは0.7〜1.3モル当量の範囲であり、硬化物の最適物性が得られるモル比を調整して用いることがより好ましい。
本発明に係るエポキシ樹脂組成物においては、必要に応じて、エポキシ樹脂組成物に成分(C)として有機及び/又は無機充填剤やその他の添加剤を添加してもよい。
【0055】
特に半導体集積回路の封止材に用いるときにはその機械的特性の向上や全体のコストダウンのために、有機及び/又は無機充填剤を、また、光による誤動作を防ぐためにカーボンブラック等の着色剤を、さらには離型剤、カップリング剤、難燃剤等を用いることが望ましい。
【0056】
有機及び/又は無機充填剤の使用量としては、『成分(A)+成分(B)』100重量部に対し、100重量%以上、1900重量部以下の範囲であり、耐湿性、機械的強度の観点から好ましくは250重量部以上、より好ましくは550重量部以上である。
使用される有機及び/又は無機充填剤の具体例としては、例えば、シリカ、アルミナ、窒化珪素、炭化珪素、タルク、ケイ酸カルシウム、炭酸カルシウム、マイカ、クレー、チタンホワイト等の粉体、ガラス繊維、カーボン繊維、アラミド繊維等の繊維体等が挙げられる。
これらの中で、封止材用途において好ましいものは、結晶性シリカ及び/又は溶融シリカであり、さらにその樹脂組成物の成型時の流動性を考慮すると、その形状は球形又は球型と不定型の混合物が望ましい。
【0057】
また、本発明に係るエポキシ樹脂組成物においては、機械的強度や耐熱性の面を考慮した各種添加剤を配合することが好ましい。
例えば、樹脂と無機充填材との接着性向上のためにはカップリング剤を用いることが望ましく、かかるカップリング剤としてはシラン系、チタネート系、アルミネート系、及びジルコアルミネート系等を挙げることができる。
中でも好ましいものとしてはシランカップリング剤であり、特にエポキシ基と反応する官能基を持つシランカップリング剤が最も好ましい。
【0058】
そのようなカップリング剤の具体例としては、例えば、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、N−(2−アミノメチル)−3−アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N−(2−アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アニリノプロピルトリエトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルメチルジメトキシシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン等を挙げることができ、これらを単独で、あるいは2種類以上組み合わせて使用することができる。
これらのカップリング剤は、予め無機充填材の表面に吸着あるいは、反応により固定化されていることが望ましい。
【0059】
本発明に係るエポキシ樹脂組成物を用いて半導体集積回路を封止し、半導体装置を作成する方法としては、低圧トランスファー成型が最も一般的であるといえるが、その他の方法、例えばインジェクション成型、圧縮成型、注型等の方法も可能であり、また溶剤を用いるような特殊な手法も可能である。
【0060】
【実施例】
以下に、合成例、実施例、比較例等により本発明の内容を詳細に説明するが、これらの合成例、実施例、比較例等は、本発明の内容の理解を支援するためのものであって、これらは、本発明の技術的範囲を狭く限定解釈するための根拠となる性格のものではない。
【0061】
【合成例1】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(商品名:トリスPPA、水酸基当量141g/eq:本州化学(株)製)141g(0.33mol)トルエン300gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。
内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら安息香酸クロライド154.7g(1.1mol)を2時間で滴下した。
その後、125℃を保ちながら8時間反応を行った。反応により副生する塩酸は、窒素気流により速やかに系外へ放出し、アルカリトラップにより中和した。
反応液にトルエン300gを追加し、70℃にて1重量%炭酸ナトリウム水溶液1000gで洗浄した。その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が完全にベンゾイル化された化合物を232.8g得た。
この化合物の水酸基当量は3000g/eq以上(検出できず)であった。
【0062】
【合成例2】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(商品名:トリスPPA、水酸基当量141g/eq:本州化学(株)製)141g(0.33mol)トルエン300gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。
内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら無水酢酸112.3g(1.1mol)を2時間で滴下した。その後、125℃を保ちながら8時間反応を行った。減圧下にて生成した酢酸と過剰の無水酢酸を除去後、反応液にトルエン200gを追加し、70℃にて1%炭酸ナトリウム水溶液500mlで洗浄した。
その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が完全にアセチル化された化合物を177.8g得た。
この化合物の水酸基当量は3000g/eq以上(検出できず)であった。
【0063】
【合成例3】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、4,4‘,4“−メチリデントリスフェノール(水酸基当量102g/eq)102g(0.33mol)とトルエン200gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。
内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら無水酢酸112.3g(1.1mol)を2時間で滴下した。
その後、125℃を保ちながら16時間反応を行った。減圧下にて生成した酢酸と過剰の無水酢酸を除去後、反応液にトルエン100gを追加し、70℃にて1%炭酸ナトリウム水溶液250mlで洗浄した。その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が完全にアセチル化された化合物を140g得た。
この化合物の水酸基当量は3000g/eq以上(検出できず)であった。
【0064】
【合成例4】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、1,3,5,−トリス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼン(水酸基当量160g/eq)160g(0.33mol)とトルエン200gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら無水酢酸112.3g(1.1mol)を2時間で滴下した。その後、125℃を保ちながら8時間反応を行った。
減圧下にて生成した酢酸と過剰の無水酢酸を除去後、反応液にトルエン200gを追加し、70℃にて1%炭酸ナトリウム水溶液250mlで洗浄した。
その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が完全にアセチル化された化合物を198g得た。
この化合物の水酸基当量は3000g/eq以上(検出できず)であった。
【0065】
【合成例5】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(商品名:トリスPPA、平均分子量(MW)424(ポリスチレン換算)、水酸基当量141g/eq:本州化学(株)製)141g(0.33mol)トルエン300gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。
内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら無水酢酸91.9g(0.9mol)を2時間で滴下した。
その後、125℃を保ちながら8時間反応を行った。
減圧下にて生成した酢酸を除去後、反応液にトルエン200gを追加し、70℃にて1%炭酸ナトリウム水溶液500mlで洗浄した。その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が90%アセチル化された化合物を173.2g得た。
この化合物の水酸基当量は1760g/eqであった。
【0066】
【合成例6】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼン(商品名:トリスPPA、水酸基当量141g/eq:本州化学(株)製)141g(0.33mol)トルエン300gを装入し、内温を120℃まで昇温しスラリー状で撹拌した。
内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら無水酢酸71.4g(0.7mol)を2時間で滴下した。
その後、125℃を保ちながら8時間反応を行った。減圧下にて生成した酢酸を除去後、反応液にトルエン200gを追加し、70℃にて1%炭酸ナトリウム水溶液500mlで洗浄した。その後、廃水が中性になるまで60〜70℃において水洗を行った後、トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が70%アセチル化された化合物を167.8g得た。
この化合物の水酸基当量は605g/eqであった。
【0067】
【合成例7】
温度計、攪拌器、滴下ロート及び還流冷却器を備えたガラス製容器に、ビスフェノールF(水酸基当量100g/eq:三井化学(株)製)100g(0.50mol)トルエン500g、ピリジン79.1g(1.00mol)を装入し、内温を30℃で撹拌した。内温を同温度に保ち、攪拌を行いながら塩化ベンゾイル140.5g(1.00mol)を2時間で滴下した。
その後、60℃を保ちながら2時間反応を行った。水洗し、生成するピリジン塩を完全に除去した。トルエンを最高150℃/5mmHgの条件で留去して水酸基が完全にベンゾイル化された化合物を199.5g得た。
この化合物の水酸基当量は3000g/eq以上(検出できず)であった。
【0068】
【実施例中で表記するする記号の意味】
実施例中で表記する記号の凡例を以下に示す。
▲1▼ PZO:ホスフィンオキシド
▲2▼ TPP:トリフェニルホスフィン
▲3▼ EOCN:オルソクレゾールノボラック(商品名:EOCN102S−65、日本化薬社製、エポキシ当量210g/eq)
▲4▼ NOVO:ノボラック(商品名:PSM−4324群栄化学工業社製、OH基当量105g/eq)
【0069】
【試験方法】
実施例・比較例における各種物性等の試験方法は以下のとおりである。
▲1▼ Tg(ガラス転移温度)
TMA針進入法(島津 TMA−DRW DT−30により測定した。
▲2▼ 曲げ強度、弾性率
日本工業規格 JIS K−6911によった。
▲3▼ 煮沸吸水率
100℃の沸騰水中で2時間煮沸後の重量増加を測定した。
▲4▼ V.P.Sテスト
図2に示す試験用の半導体装置を成形し、85℃、85%の恒温恒湿槽に168時間放置した後、直ちに240℃のフロリナート液(住友スリーエム(株)社製、FC−70)に投入し、パッケージ樹脂にクラックが発生した半導体の数を数えた。
試験値を分数で示し、分子はクラックの発生した半導体の数、分母は被験体数である。
▲5▼ パッケージ反り
図2に示したパッケージを成形し、図3に示すような方法で反りを測定した。
▲6▼ GT
ロール混練前の樹脂組成物を150℃において測定した。
【0070】
【実施例1】
エポキシ樹脂としてオルソクレゾールノボラック(商品名:EOCN102S−65、日本化薬社製、エポキシ当量210g/eq)、硬化剤として合成例1の1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンのベンゾイル化合物(エステル当量273g/eq=計算値)1グラム当量づつを100℃において充分溶融混練し、均一な樹脂混合物とした。
この樹脂混合物に、硬化促進剤として一般式IのR1 〜R6 が、全てメチル基であるホスフィンオキシド化合物(PZO)を0.0055モル加え、50℃で1分間混練して樹脂組成物とした。
【化19】
【0071】
この樹脂組成物200gに対し、充填材及びその他の添加剤を下記の割合で配合し、ロールによる加熱混練を行って封止材用成形材料を得た。
無機充填剤 :720重量部
〔球形溶融シリカ(YXK−35R(株)龍森製)
シランカップリング剤: 62重量部
(SZ−6083、東レダウコーニングシリコーン社製)
カルナバワックス : 45重量部
カーボンブラック : 3重量部
酸化アンチモン : 10重量部
この成形材料の一部を用い、150℃→185℃/5min、185℃/5min、150kg/cm2 の条件下で硬化物を得た後、185℃/8Hr(窒素雰囲気)の条件でアフターキュアーをかけて、十分に硬化を進行させた。
【0072】
この硬化物を用いて各物性を測定した。
結果を表−1に示す。
また、同じ成形材料を用いて、低圧トランスファー成形により図に示すようなテスト用半導体装置を作成し、半田浴によるクラック発生テストをおこなった。
さらに、同じ成形材料を用いて、低圧トランスファー成形により図に示すようなテスト用半導体装置を作成し、図に示すような方法で反りを測定した。
結果を表−1に示す。
尚、ロール混練前の樹脂組成物のゲルタイム(GT)は150℃において測定した。以下の実施例・比較例においても同様に測定した。
【0073】
【実施例2】
実施例1における硬化剤として合成例2の1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンのアセチル化合物に代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−1に示す。
【0074】
【実施例3】
実施例1における硬化剤として合成例3の4,4‘,4“−メチリデントリスフェノールアセチル化合物に代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−1に示す。
【0075】
【実施例4】
実施例1におけるエポキシ化合物を1,6−ナフタレンジグリシジルエーテルに、硬化剤として合成例4の1,3,5,−トリス[2−(4−ヒドロキシフェニル)−2−プロピル]ベンゼンのアセチル化合物に代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−1に示す。
【0076】
【実施例5】
実施例1における硬化剤として合成例5の1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンの90%アセチル化合物に代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−1に示す。
【0077】
【実施例6】
実施例1における硬化剤として合成例5の1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンの70%アセチル化合物に代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−1に示す。
【0078】
【比較例1】
実施例1における硬化促進剤をトリフェニルホスフィン0.015モルに代えた他は、同様にして行ったが、硬化物が得られなかった。
また、ゲルタイムも150℃及び200℃で20分間測定したが、ゲル化の傾向が見られなかったため、テストを中止した。
【0079】
【比較例2】
実施例1における硬化促進剤を2−エチル−4−メチルイミダゾール0.015モルに代えた他は、同様にして行ったが、硬化物が得られなかった。またゲルタイムも150℃及び200℃で20分間測定したが、ゲル化の傾向が見られなかったため、テストを中止した。
【0080】
【比較例3】
実施例1におけるエポキシ樹脂をビフェニルエポキシ(商品名YX−4000,三菱化学製)に、硬化剤を1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンに、硬化促進剤をトリフェニルホスフィンに、それぞれ、代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−2に示す。
【0081】
【比較例4】
実施例1における硬化剤を1−[α−メチル−α−(4−ヒドロキシフェニル)エチル]−4−[α、α−ビス(4−ヒドロキシフェニル)エチル]ベンゼンに、硬化促進剤をトリフェニルホスフィンに、それぞれ、代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−2に示す。
【0082】
【比較例5】
実施例1における硬化剤をノボラック(商品名:PSM−4324群栄化学工業社製、OH基当量105g/eq)に、硬化促進剤をトリフェニルホスフィンに、それぞれ、代えた以外は、実施例1と同様に各テストを行った。
結果を表−2に示す。
【0083】
【比較例6】
実施例1における硬化剤をビスフェノールFのベンゾイル化物に代えた以外は、実施例1と同様にして各テストを行った。
結果を表−2に示す。
【表1】
【0084】
【考察】
以上、実施例・比較例等により、本願発明に係るエポキシ樹脂組成物の優位性を詳細に説明してきた。
(C)の硬化促進剤として、本発明に係るるホスフィンオキシド化合物を必須の成分とし、成分(B)の硬化剤として、水酸基の10モル%〜100モル%がアシル基によりエステル化された3〜8官能以上の分岐構造を有する化合物を含有することを特徴とするエポキシ樹脂組成物は、従来のエポキシ樹脂−フェノール樹脂硬化物に比較して、顕著に耐吸湿性に優れ、且つ、可撓性に優れており、耐クラック性及び低反り性にも優れる。
このため、特に、優れた耐クラック性及び低反り性を要求されるボールグリッドアレイ等半導体チップを樹脂基板で保持するタイプのパッケージの封止材用途に極めて有用である。
【0085】
また、従来の硬化促進剤であるトリフェニルホスフィンやイミダゾール系を用いた場合、比較例1及び比較例2で示されているように、アシル基によりエステルされた部分の硬化反応を起こさないことがわかる。このことは、本発明における封止材として高い物性を得るためにはエステル化された硬化剤及びホスフィンオキシド化合物が必須の要因であることがわかる。
【0086】
【発明の効果】
本発明により得られるエポキシ樹脂組成物は、エポキシ樹脂組成物が従来用いられてきた産業分野において用いることが可能であるが、特にボールグリッドアレイ等半導体チップを樹脂基板で保持するタイプのパッケージの封止材として用いることにより、従来のエポキシ樹脂−フェノール樹脂硬化物と比較して、耐クラック性及び低反り性に顕著に優れたパッケージを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】BGAパッケージ断面図の例を示す。
【符号の説明】
(イ) 封止材
(ロ) チップ
(ハ) 基板
【図2】パッケージ成形体を示す。
【符号の説明】
基板;BT(2層) 0.36mmt
ダイボンディング材 銀ペースト
プラズマ 酸素プラズマ、200w×2分
成形条件 175℃ 90秒
ポストキュア条件 175℃ 2時間
【図3】パッケージの反りの測定方法を示す。
【符号の説明】
点線間の距離は、反りを示す。
Claims (7)
- 成分(A)として、分子中に2個以上のエポキシ基を有するエポキシ樹脂、成分(B)として、化学式I〜IIIで表される多官能フェノールの水酸基のうち10〜100モル%の水酸基をアシル化したエステル基(『水酸基をアシル化したエステル基』は、『AO−』で表され、『A』は、水素原子又は炭素数2〜9脂肪族又は芳香族アシル基群から選択された少なくとも一つである。)を有する化合物を含んでなる硬化剤、成分(C)として、化学式Vで表されるホスフィンオキシド化合物を含んでなる硬化促進剤、を含んで構成されるエポキシ樹脂組成物(化学式Iにおいて、mは、1又は2を表し、R1は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよく、R2は、水素原子あるいはメチル基を表す。化学式IIにおいて、n及びoは、それぞれ、1又は2を表し、R3及びR4は、それぞれ、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよい、R5は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。化学式IIにおける連結基Xは、式II−1又は式II−2で表され、式II−1又は式II−2におけるR6〜R9は、それぞれが同一であっても異なってもよく、水素原子又は炭素数1〜4のアルキル基を表す。化学式IIIにおいて、p及びqは、それぞれ1又は2を表し、R10及びR11は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表し、それぞれが同一であっても異なっていてもよく、R12は、水素原子、炭素数1〜8の脂肪族又は芳香族炭化水素基を表す。化学式Vにおいて、R14は、水素原子、炭素数1〜10の直鎖、分岐、環状のアルキル基又は炭素数6〜10のアリール基を示し、それぞれ同一でも異なっていてもよい。)。
- 成分(C)として、化学式(VI)で表されるホスフィンオキシド化合物を含んでなる硬化促進剤を含んで構成される請求項1に記載したエポキシ樹脂組成物。
- 成分(D)として、有機及び/又は無機フィラーを、成分(A)と成分(B)の合計100重量部を基準として、100〜1900重量部含有することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載したエポキシ樹脂組成物。
- 成分(B)が、化学式VIII〜Xで表される多官能フェノール化合物のアシル化合物を含んでなるものである、請求項1乃至請求項3の何れか1項に記載したエポキシ樹脂組成物(化学式VIII〜Xにおいて、『AO−』は、『水酸基をアシル化したエステル基』である。化学式VIII〜Xにおいて、『A』は、水素原子又は炭素数2〜9脂肪族又は芳香族アシル基であって、それぞれのアシル基は同一でも異なっていてもよく、アシル化されている割合は水酸基の10〜100mol%である。)。
- アシル基が、アセチル基及び/又はベンゾイル基である、請求項1乃至請求項4の何れか1項に記載したエポキシ樹脂組成物。
- 請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載したエポキシ樹脂組成物を熱硬化させて得られるエポキシ樹脂硬化物。
- 請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載したエポキシ樹脂組成物により半導体集積回路を封止して得られる半導体装置。
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