JP4635936B2 - 誘電体素子およびその製造方法 - Google Patents

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Description

この発明は、誘電体素子およびその製造方法に関する。
金属箔上に誘電体が設けられた構造を有する誘電体素子が一般に知られている。このような誘電体素子の典型的な例は、薄膜コンデンサである。下記の特許文献1および2は、金属箔上に誘電体を設けて薄膜コンデンサを製造する方法を開示している。しかし、これらの方法では、金属箔と誘電体との密着性が脆弱になりがちである。
下記の特許文献3には、絶縁性テープ上に接着剤層を介して導電体層を保持する方法が開示されている。この導電体層は、Cuを主成分として含んでおり、更にCr、ZrまたはTi元素のいずれか一つ以上の元素を含んでいる。
特開2000−164460号公報 特開2001−203455号公報 特開平5−326647号公報
しかしながら、金属箔と誘電体との間に接着剤層を設けると、誘電体素子の電気的特性が低下すると共に、製造コストが高騰しがちである。
そこで、本発明は、密着性の高い誘電体を有する新規な誘電体素子を提供することを課題とする。
本発明の一つの側面は、誘電体素子に関する。この誘電体素子は、金属箔と、この金属箔の表面上に設けられた誘電体結晶と、この誘電体結晶から金属箔の内部へ突出し、この誘電体結晶と同一の結晶構造を有する結晶粒子とを備えている。
結晶粒子は誘電体結晶と同一の結晶構造を有するため、誘電体結晶と強く結合する。このような結晶粒子が金属箔の内部に食い込んでいるので、結晶粒子は誘電体結晶の剥離を妨げるスパイクとして機能する。その結果、誘電体結晶の金属箔に対する密着性が高まる。金属箔と誘電体結晶との間に接着材層を設ける必要がないので、誘電体素子の電気的特性の低下を防止すると共に、製造コストを抑えることができる。
結晶粒子の平均粒径は10nm〜500nmであることが好ましい。平均粒径が10nmを下回ると、誘電体の密着性を十分に高めることが難しくなる。また、平均粒径が500nmを超えると、誘電体上に電極を設けてコンデンサを製造したときに、そのコンデンサのリーク電流が大きくなってしまう。
誘電体結晶および結晶粒子は、少なくとも同一の元素を一つ以上含んでいてもよく、また、共にペロブスカイト構造を有していてもよい。この誘電体結晶と結晶粒子は、それぞれBa、Sr、Ca、Pb、Ti、ZrおよびHfのうち一つ以上の元素を含んでいてもよい。特に、誘電体および結晶粒子が、それぞれ同一組成の化合物を含んでいることが好ましい。ここで、同一組成の化合物としては、例えば、BaTiO(チタン酸バリウム)等の誘電体である化合物を挙げることができる。これらの特徴により、金属箔表面への誘電体の密着性をさらに高めることができる。
本発明の別の側面は、誘電体素子の製造方法に関する。この方法は、結晶粒子を含有する金属ペーストを成形してグリーンシートを作製する工程と、このグリーンシートを焼成して、結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、金属箔の当該表面上に誘電体を設ける工程と、この誘電体を、結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程とを備えている。この方法によれば、金属箔と誘電体との間に接着材層を設けることなく、密着性の高い誘電体を有する誘電体素子を製造することができる。
金属箔を形成する工程は、グリーンシートを焼成して金属箔を形成した後、金属箔の表面を加工して結晶粒子を露出させる工程を含んでいてもよい。この加工は、例えば研磨である。グリーンシートの焼成後に金属箔の表面に少数の結晶粒子しか露出しない場合でも、その表面を加工することにより、十分な数の結晶粒子を露出させることができる。その結果、誘電体の金属箔に対する密着性を確実に高めることができる。
本発明は、誘電体素子の別の製造方法も提供する。この方法は、結晶粒子を含有する金属ペーストを金属シート上に塗布する工程と、この金属ペーストを焼成して、結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、金属箔の当該表面上に誘電体を設ける工程と、この誘電体を、結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程とを備えている。この方法によれば、金属箔と誘電体との間に接着材層を設けることなく、密着性の高い誘電体を有する誘電体素子を製造することができる。
金属箔を形成する工程は、金属ペーストを焼成して金属箔を形成した後、金属箔の表面を加工して結晶粒子を露出させる工程を含んでいてもよい。この加工は、例えば研磨である。金属ペーストの焼成後に金属箔の表面に少数の結晶粒子しか露出しない場合でも、その表面を加工することにより、十分な数の結晶粒子を露出させることができる。その結果、誘電体の金属箔に対する密着性を確実に高めることができる。
本発明は、誘電体素子の更に別の製造方法も提供する。この方法は、結晶粒子を含有する金属ペーストを焼成して、第1の金属シートを作製する工程と、第1の金属シートを第2の金属シート上に貼り付けて、結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、金属箔の当該表面上に誘電体を設ける工程と、この誘電体を、結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程とを備えている。この方法によれば、金属箔と誘電体との間に接着材層を設けることなく、密着性の高い誘電体を有する誘電体素子を製造することができる。
金属箔を形成する工程は、第1の金属シートの表面を加工して結晶粒子を露出させる工程を含んでいてもよい。この加工は、例えば研磨である。グリーンシートの焼成後に金属箔の表面に少数の結晶粒子しか露出しない場合でも、その表面を加工することにより、十分な数の結晶粒子を露出させることができる。その結果、誘電体の金属箔に対する密着性を確実に高めることができる。
上記の各方法において、誘電体の結晶への転換は、誘電体にエネルギーを加えることにより行うことができる。例えば、誘電体を加熱すること、あるいは、誘電体にレーザ光を照射することによって、誘電体を結晶に転換してもよい。
上記の各方法は、誘電体を結晶に転換する工程の後、誘電体上に電極を形成する工程を更に備えていてもよい。この工程を追加することにより、当該電極と金属箔とを一対の対向電極として有するコンデンサを製造することができる。
本発明によれば、密着性の高い誘電体を有する新規な誘電体素子を提供することができる。
以下、添付図面を参照しながら本発明の実施形態を詳細に説明する。なお、図面の説明において同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
第1実施形態
図1は、本実施形態に係る誘電体素子の構造を示す概略断面図である。誘電体素子10は、金属箔12と、金属箔12の上面に設けられた誘電体層14を有している。更に、本実施形態では、誘電体層14の上に上部電極18を更に設けて、薄膜コンデンサ20を製造する。薄膜コンデンサ20も誘電体素子の一つである。薄膜コンデンサ20は、上部電極18と金属箔12を一対の対向電極として使用する。金属箔12は自立可能であり、したがって、誘電体層14および上部電極18を支持するための基材として機能する。誘電体層14は、誘電体の結晶から構成されており、金属箔12の上面に密着している。
図1に示されるように、金属箔12中には結晶粒子16が散在しており、その一部は金属箔12の上面に露出している。これらの結晶粒子16は、誘電体層14と同じ結晶構造を有している。本実施形態では、誘電体層14と同じ組成を有する誘電体の粉末を結晶粒子16として使用する。金属箔12の上面に露出した結晶粒子16は、誘電体層14から金属箔12の内部へ突出している。なお、図1では、結晶粒子16が相互に離間しているように描かれているが、実際には、金属箔12の表面上において複数の結晶粒子16が相互に隣接して密集することもある。
以下では、誘電体素子10および薄膜コンデンサ20の利点を説明する。結晶粒子16は、誘電体層14と同一の結晶構造を有しているため、誘電体層14と強く結合する。このような結晶粒子16が金属箔12の内部に食い込んでいるので、結晶粒子16が誘電体結晶14の剥離を妨げるスパイクとして機能する。したがって、誘電体層14の金属箔12に対する密着性が高い。
また、金属箔12の全体に結晶粒子16が散在しているので、金属箔12の一部に結晶粒子16が集中している場合に比べて、金属箔12中の線膨張係数の分布を均一にすることができる。その結果、環境温度の変化による金属箔12の変形を防止し、それによって誘電体層14の剥離を防止することができる。
更に、適切な熱膨張係数を有する材料を結晶粒子16に使用すれば、金属箔12の熱膨張係数を誘電体層14の熱膨張係数に近づけることができる。この結果、これらの熱膨張係数の差に起因する誘電体素子10の変形を防止し、それによって誘電体層14の剥離を防止することができる。
本発明者らの検討によれば、誘電体層14および結晶粒子16が共に同一組成の化合物であり、特に、ペロブスカイト構造を有していると、金属箔12に対する誘電体層14の密着性を十分に高めることができる。ペロブスカイト構造を有する誘電体は、一般式ABOで表される組成を有する、ペロブスカイト構造を有する酸化物の例としては、後述するBSTの他に、BT、すなわちチタン酸バリウムBaTiOや、チタン酸ストロンチウムSrTiO、(BaSr)(TiZr)O、BaTiZrOを挙げることができる。誘電体層14は、これらの酸化物のうち一つ以上を含んでいてもよい。また、金属箔12には、これらの酸化物の一つ以上が結晶粒子16として添加されていてもよい。より一般的に述べると、ペロブスカイト構造を有する誘電体層14および結晶粒子16は、それぞれBa、Sr、Ca、Pb、Ti、ZrおよびHfのうち一つ以上の元素を含んでいてもよい。
金属箔12の上面に露出する結晶粒子16の平均粒径は10nm〜500nmであることが好ましい。平均粒径が10nm未満だと、誘電体層14の剥離を妨げるという結晶粒子16の機能が十分に発揮されない。また、平均粒径が500nmを超えると、薄膜コンデンサ20のリーク電流が大きくなる。更に、平均粒径が500nmを超えると、金属箔12の上面に露出する結晶粒子16のために当該上面の凹凸が大きくなり、その結果、後述する誘電体素子10の製法において当該上面の研磨が難しくなる。
なお、金属箔12の上面に露出する結晶粒子16の平均粒径は、例えば次の方法によって計測することができる。すなわち、電子顕微鏡などを用いて金属箔12の上面の写真を撮影し、その写真上において、ある直線に沿って並ぶ複数の結晶粒子の数と、それらの結晶粒子の当該直線に沿った全長を計測する。そして、その全長を結晶粒子の数で除算して得られる値を平均粒径とする。
以下では、図2を参照しながら、誘電体素子10および薄膜コンデンサ20の製造方法を説明する。図2は、この製造方法を示すフローチャートである。この方法では、まず、結晶粒子16が混入された金属ペーストを用いてグリーンシートを作製する(ステップS202)。グリーンシートは、ドクターブレード法、押し出し成形法、ロール成形法など、任意の公知方法によって作製することができる。具体的には、金属箔12の原料となる金属の粉末に結晶粒子16を混合してペースト化し、得られた金属ペーストをシート状に成形してグリーンシートを作製する。
次に、グリーンシートを焼成して、金属箔12を形成する(ステップS204)。続いて、図3に示されるように、金属箔12の上面を研磨して、より多数の結晶粒子16を露出させ、その後、金属箔12を洗浄する(ステップS206)。図3は、金属箔12の研磨による結晶粒子16の露出を示す概略断面図であり、ここで、(a)は研磨前の金属箔12、(b)は研磨後の金属箔12を示している。
図3(a)に示されるように、グリーンシートを焼成しただけでは、金属箔12の上面に少数の結晶粒子16しか露出しない場合がある。その場合でも、金属箔12の上面を研磨すれば、図3(b)に示されるように、より多数の結晶粒子16を露出させることができる。なお、グリーンシートを焼成後に金属箔の表面に十分な数の結晶粒子が露出している場合は、研磨および洗浄を省略してもよい。
次に、金属箔12の上面に誘電体層14を設け(ステップS208)、その後、金属箔12および誘電体層14をアニールして、誘電体層14を、結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する(ステップS210)。これにより、金属箔12と誘電体層14からなる誘電体素子10が得られる。
この後、誘電体層14上に上部電極18を形成して、薄膜コンデンサ20を製造する(ステップS212)。上部電極18の形成は、誘電体層14上に電極材料を堆積させた後、その電極材料をアニールする工程を含んでいてもよい。
この方法によれば、ステップS210でのアニールによって誘電体層14と結晶粒子16とが同一の結晶構造に有するようになるので、結晶粒子16は誘電体層14と強く結合する。図1に示されるように、このような結晶粒子16が金属箔12の内部に食い込んでいるので、金属箔12と誘電体層14の間に接着材層を設けなくても、誘電体層14の金属箔12に対する密着性を高めることができる。
また、結晶粒子16を含有する金属ペーストを焼成することにより金属箔12を形成するので、金属箔12の全体に結晶粒子16を散在させることができる。これにより、金属箔12中の線膨張係数の分布が均一になる。その結果、環境温度の変化による金属箔12の変形を防止し、それによって誘電体層14の剥離を防止することができる。
本発明者らは、金属箔12への結晶粒子16の添加による誘電体層14の密着性の向上を確認するために、様々な量の結晶粒子16を含有する金属箔12を用いて、上述の方法により誘電体素子10を製造した。具体的には、Ni粉末を用いて金属ペーストを作製し、その金属ペーストを用いてドクターブレード法によりグリーンシートを作製した。金属ペーストには、結晶粒子16を様々な濃度で添加した。このグリーンシートを1200℃〜1300℃の温度で焼成して、厚さ100μmのNi箔を金属箔12として作製した。結晶粒子16としては、BST、すなわちチタン酸バリウムストロンチウム(BaSr)TiOの結晶粉末を使用した。この例では、BaとSrの組成比Ba:Srが0.7:0.3である。
このNi箔の表面を研磨および洗浄した後、その表面上にスパッタ法によって、厚さ500nmのBST層を誘電体層14として形成した。このBST層の組成は、結晶粒子16として使用されるBST粉末の組成と同じである。次に、Ni箔およびBST層からなる積層構造を800℃の減圧雰囲気下でアニールし、誘電体素子10を得た。この減圧雰囲気は、真空ポンプを使って大気を減圧することにより得ることができる。この後、BST層上に、銅からなる上部電極18をスパッタ法によって形成し、薄膜コンデンサ20を得た。
本発明者らは、このようにして、Ni箔中のBST粉末の含有量が異なる複数の誘電体素子10および薄膜コンデンサ20を製造し、その各々について、BST層(すなわち、誘電体層14)の密着性と、薄膜コンデンサ20の電気的な特性、すなわち容量密度(C/A)およびリーク特性を計測した。なお、容量密度は、(薄膜コンデンサ20の静電容量)/(電極18の面積)で定義される。
誘電体層14の密着性は、薄膜コンデンサ20ではなく誘電体素子10を用いて計測した。この計測は、RHESCA社の超薄膜スクラッチ試験機CSR−02を用いてスクラッチ法により行った。公知のように、スクラッチ法は、一定の曲率半径を有する硬い圧子を、計測すべき膜の表面に押し付け、圧子に加える荷重を増加させつつ膜の表面をひっかき、膜の破壊(例えば、下地材からの膜の剥離)が発生する荷重値を測定する。この荷重値は「臨界剥離荷重値」と呼ばれる。
なお、膜の密着強度は、この臨界剥離荷重値を用いて算出することができる。すなわち、膜の密着強度Fは、圧子によって形成された圧痕の周縁部に作用する最大応力として、次の式
Figure 0004635936

のように表される。ここで、Rは圧子の曲率半径であり、Hは下地材のブリネル硬度である。
下記の表1は、誘電体層14の臨界剥離荷重値および薄膜コンデンサ20の電気的特性の計測結果を示している。
Figure 0004635936

この表において「リーク特性」は、室温の下で薄膜コンデンサ20の下部電極(すなわち、Ni金属箔12)および上部電極18間に3Vの電圧を印加したときに発生するリーク電流の電流密度を示している。
表1に示されるように、Ni箔におけるBST粉末の含有量が0のとき、BST層の臨界剥離荷重値は10mNであった。これに対し、BST粉末の含有量が0.001質量%のときは、臨界剥離荷重値が15mNであり、含有量が0のときの臨界剥離荷重値に比べて1.5倍に上昇した。BST粉末の含有量が高まるにつれて臨界剥離荷重値も上昇し、含有量が1、10、50および75質量%のときに、25mNの臨界剥離荷重値が得られた。このように、Ni箔中にBST結晶粉末を添加することで、Ni箔上に設けられたBST層の臨界剥離荷重値の1.5倍以上の向上を容易に実現することができる
本発明者の検討によれば、金属箔12中の結晶粒子16の含有量は、0.001質量%〜50質量%であることが好ましい。含有量が0.001質量%未満だと、金属箔12における結晶粒子16の密度が低く、金属箔12の表面に露出する結晶粒子16が少なくなってしまい、誘電体層14の密着性を十分に高めることが難しい。また、含有量が50質量%を超えると、金属箔12の電気抵抗が過度に高くなり、薄膜コンデンサ20のリーク特性が大きく劣化してしまう。
第2実施形態
図4は、第2の実施形態に係る誘電体素子および薄膜コンデンサの構造を示す概略斜視図である。この誘電体素子10aは、上述した誘電体素子10において金属箔12を金属箔30で置き換えた構造を有している。金属箔12と同様に、金属箔30は自立可能であり、したがって、誘電体層14および上部電極18を支持するための基材として機能する。
金属箔30は、下部金属シート31と、その上に積層された上部金属シート32から構成されている。上部金属シート32は、互いに対向する二つの主面、すなわち上面32aと下面32bを有している。上部金属シート32の下面32bは、下部金属シート31の上面に接合している。誘電体層14は、誘電体の結晶から構成されており、上部金属シート32の上面32aに密着している。
図4に示されるように、上部金属シート32中には結晶粒子16が散在しており、その一部は上面32aに露出している。これらの結晶粒子16は、誘電体層14から上部金属シート32の内部へ突出している。一方、下部金属シート31は結晶粒子16を含有していない。
第1実施形態と同様に、誘電体層14と同一の結晶構造を有する結晶粒子16が金属箔30の内部に食い込んでいるので、誘電体層14の金属箔30に対する密着性が高い。また、適切な熱膨張係数を有する材料を結晶粒子16に使用すれば、金属箔30の熱膨張係数が誘電体層14の熱膨張係数に近づくので、誘電体素子10の変形と誘電体層14の剥離を防止することができる。
更に、金属箔30の表層部にだけ結晶粒子16が存在するので、金属箔30の導電性の低下を抑えることができ、それにより、誘電体素子10aおよび薄膜コンデンサ20aの電気的特性を改善することができる。また、必要な結晶粒子16の量が少ないので、製造コストを抑えることも可能である。
以下では、図5を参照しながら、誘電体素子10aおよび薄膜コンデンサ20aの製造方法を説明する。図5は、この製造方法を示すフローチャートである。
この方法では、まず、結晶粒子16を含有する金属ペーストと、下部金属シート31を用意し、金属ペーストを下部金属シート31の上面に塗布する(ステップS502)。下部金属シート31は、グリーンシートの焼成に限らず、金属の圧延など、任意の方法で作製することができる。次に、下部金属シート31上の金属ペーストを焼成して上部金属シート32を形成し、それによって金属箔30を得る(ステップS504)。
続いて、上部金属シート32の上面32aを研磨して、より多数の結晶粒子16を露出させ、その後、金属箔30を洗浄する(ステップS506)。金属ペーストを焼成しただけでは、上部金属シート32の上面32aに少数の結晶粒子16しか露出しない場合でも、上面32aを研磨すれば、より多数の結晶粒子16を露出させることができる。なお、金属ペーストを焼成後に十分な数の結晶粒子が露出している場合は、研磨および洗浄を省略してもよい。
次に、上部金属シート32の上面32a上に誘電体層14を設け(ステップS508)、その後、金属箔30および誘電体層14をアニールして、誘電体層14を、結晶粒子16と同一の結晶構造を有する結晶に転換する(ステップS510)。これにより、金属箔30と誘電体層14からなる誘電体素子10aが得られる。
続いて、誘電体層14上に上部電極18を形成して、薄膜コンデンサ20aを得る(ステップS512)。上部電極18の形成は、誘電体層14上に電極材料を堆積させた後、その電極材料をアニールする工程を含んでいてもよい。
第3実施形態
本実施形態は、図4に示される誘電体素子10aおよび薄膜コンデンサ20aの別の製造方法に関する。図6は、この製造方法を示すフローチャートである。
この方法では、まず、下部金属シート31および上部金属シート32を作製する(ステップS602)。上部金属シート32は、第1実施形態で説明した金属箔12と同じように作製することができる。すなわち、結晶粒子16を含有する金属ペーストを用いてグリーンシートを作製し、そのグリーンシートを焼成する。一方、下部金属シート31は、グリーンシートの焼成に限らず、金属の圧延など、任意の方法で作製することができる。
次に、上部金属シート32を下部金属シート31の上面に貼り付けて金属箔30を形成する(ステップS604)。この貼り付けは、導電性接着材などを用いて行うことができる。
続いて、上部金属シート32の上面32aを研磨して、より多数の結晶粒子16を露出させ、その後、金属箔30を洗浄する(ステップS606)。グリーンシートを焼成しただけでは、上部金属シート32の上面32aに少数の結晶粒子16しか露出しない場合でも、上面32aを研磨すれば、より多数の結晶粒子16を露出させることができる。なお、グリーンシートを焼成しただけで十分な数の結晶粒子が露出している場合は、研磨および洗浄を省略してもよい。
次に、上部金属シート32の上面32a上に誘電体層14を設け(ステップS608)、その後、金属箔30および誘電体層14をアニールして、誘電体層14を、結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する(ステップS610)。これにより、金属箔30と誘電体層14からなる誘電体素子10aが得られる。
この後、誘電体層14上に上部電極18を形成して、薄膜コンデンサ20aを得る(ステップS612)。上部電極18の形成は、誘電体層14上に電極材料を堆積させた後、その電極材料をアニールする工程を含んでいてもよい。
以上、本発明をその実施形態に基づいて詳細に説明した。しかし、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。本発明は、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。
上記の実施形態では、誘電体層14および結晶粒子16の双方が同じ組成を有しているが、これらは同じ組成を有していなくてもよい。誘電体の金属箔に対する密着性を高めるためには、結晶に転換された誘電体が結晶粒子と同じ結晶構造を有することが重要であって、組成まで同じである必要はない。例えば、結晶粒子16が誘電体である必要は必ずしもない。ただし、誘電体層14と結晶粒子16が同じ組成を有していれば、両者の結合がより強固になり、誘電体層14の密着性をより高めることができる。
金属箔の原料はNiに限られず、他の金属、例えば、CuやAlであってもよいし、あるいはNi、CuまたはAlのいずれかを主成分とする合金であってもよい。これらの金属は低い電気抵抗値を有しているので、金属箔の原料として好適である。
上記の実施形態では、アニール、すなわち加熱によって誘電体層14を結晶粒子16と同一の結晶構造を有する結晶に転換する。しかしながら、誘電体の結晶転換は、他の手法、例えば、レーザ照射によるアニール処理等によって誘電体にエネルギーを加えることにより実現することもできる。
第3実施形態では、上部金属シート32を下部金属シート31に貼り付けた後に上部金属シート32の上面32aを研磨する。しかし、貼り付けの前に上面32aをあらかじめ研磨しておいてもよい。
上記実施形態では、金属箔12の表面を研磨することにより、より多数の結晶粒子16を露出させる。しかしながら、研磨以外の加工、例えば、試薬によるエッチング加工等を金属箔12の表面に施すことにより結晶粒子16を露出させてもよい。さらに、加工以外にも、非酸化性雰囲気中の熱処理による結晶成長等の手法によって、結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成してもよい。
第2および第3実施形態では、結晶粒子16を含有する金属層を金属シート上に追加することにより金属箔30を形成する。しかしながら、この代わりに、結晶粒子16を含有する第1のグリーンシートと、結晶粒子16を含有しない第2のグリーンシートを用意し、第1グリーンシートを第2グリーンシート上に積層してから一括して焼成することにより、金属箔30を形成してもよい。この焼成によって、第1グリーンシートは上部金属シート32となり、第2グリーンシートは下部金属シート31となる。
第1実施形態に係る誘電体素子の構造を示す概略断面図である。 第1実施形態に係る誘電体素子の製造方法を示すフローチャートである。 金属箔の研磨による結晶粒子の露出を示す概略断面図である。 第2実施形態に係る誘電体素子の構造を示す概略断面図である。 第2実施形態に係る誘電体素子の製造方法を示すフローチャートである。 第3実施形態に係る誘電体素子の製造方法を示すフローチャートである。
符号の説明
10、10a…誘電体素子、12、30…金属箔、14…誘電体層、16…結晶粒子、18…上部電極、20、20a…薄膜コンデンサ、31…下部金属シート、32…上部金属シート

Claims (14)

  1. 金属箔と、
    前記金属箔の表面上に設けられた誘電体結晶と、
    前記誘電体結晶から前記金属箔の内部へ突出し、前記誘電体結晶と同一の結晶構造を有する結晶粒子と、
    を備える誘電体素子。
  2. 前記結晶粒子の平均粒径が10nm〜500nmである、請求項1に記載の誘電体素子。
  3. 前記誘電体および前記結晶粒子が、少なくとも同一の元素を一つ以上含んでいる、請求項1または2に記載の誘電体素子。
  4. 前記誘電体結晶および前記結晶粒子が共にペロブスカイト構造を有している、請求項1〜3に記載の誘電体素子。
  5. 前記誘電体結晶および前記結晶粒子が、それぞれBa、Sr、Ca、Pb、Ti、ZrおよびHfのうち一つ以上の元素を含んでいる、請求項4に記載の誘電体素子。
  6. 前記誘電体および前記結晶粒子が、それぞれ同一組成の化合物を含んでいる、請求項4または5に記載の誘電体素子。
  7. 結晶粒子を含有する金属ペーストを成形してグリーンシートを作製する工程と、
    前記グリーンシートを焼成して、前記結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、
    前記金属箔の前記表面上に誘電体を設ける工程と、
    前記誘電体を、前記結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程と、
    を備える誘電体素子の製造方法。
  8. 前記金属箔を形成する前記工程は、前記グリーンシートを焼成して前記金属箔を形成した後、この金属箔の表面を加工して前記結晶粒子を露出させる工程を含んでいる、請求項7に記載の誘電体素子の製造方法。
  9. 結晶粒子を含有する金属ペーストを金属シート上に塗布する工程と、
    前記金属ペーストを焼成して、前記結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、
    前記金属箔の前記表面上に誘電体を設ける工程と、
    前記誘電体を前記結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程と、
    を備える誘電体素子の製造方法。
  10. 前記金属箔を形成する前記工程は、前記金属ペーストを焼成して前記金属箔を形成した後、この金属箔の表面を加工して前記結晶粒子を露出させる工程を含んでいる、請求項9に記載の誘電体素子の製造方法。
  11. 結晶粒子を含有する金属ペーストを焼成して、第1の金属シートを作製する工程と、
    前記第1の金属シートを第2の金属シート上に貼り付けて、前記結晶粒子が露出した表面を有する金属箔を形成する工程と、
    前記金属箔の前記表面上に誘電体を設ける工程と、
    前記誘電体を前記結晶粒子と同一の結晶構造を有する結晶に転換する工程と、
    を備える誘電体素子の製造方法。
  12. 前記金属箔を形成する前記工程は、前記第1の金属シートの表面を加工して前記結晶粒子を露出させる工程を含んでいる、請求項11に記載の誘電体素子の製造方法。
  13. 前記誘電体を前記結晶に転換する工程は、前記誘電体にエネルギーを加えることにより前記誘電体を前記結晶に転換する、請求項7〜12のいずれかに記載の誘電体素子の製造方法。
  14. 前記誘電体を前記結晶に転換する工程の後、前記誘電体上に電極を形成する工程を更に備える請求項7〜13のいずれかに記載の誘電体素子の製造方法。
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